説明

紙送り装置およびその制御方法、ならびにロール紙プリンター

【課題】長時間印刷等を行わずに放置したときに記録紙にテンションガイドの形状どおりの巻きぐせが付くのを防止すること。
【解決手段】ロール紙プリンター1が省電力状態あるいは電源オフ状態に移行するときには、制御部41は、紙送り装置1aを制御して、紙送りローラー31を逆送り方向に回転させる逆送動作又は繰り出しローラー15を順送り方向に回転させる追加繰り出し動作を行い、紙送りローラー31の紙送り位置Bと、繰り出しローラー15の紙繰り出し位置Cの間に所定長さ余分に記録紙12aを送る。これにより、記録紙12aがテンションガイド27の後方の空間において記録紙ガイド面28の湾曲形状よりも曲率の大きい湾曲形状となる。既に記録紙12aがたるんでいるか否かを繰り出したるみフラグによって確認してから逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行うので、たるみすぎによる不具合を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール紙収納部に収納されたロール紙から送り出される長尺状の記録紙に印刷を行うロール紙プリンター等に用いられる紙送り装置に関し、特に、記録紙に張力を与えながら印刷位置等に向けて送り出す紙送り装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レシートなどを発行するロール紙プリンターでは、長尺状の記録紙をロール状に巻き付けたロール紙を装填し、このロール紙から記録紙を引き出して紙送りローラーを介して印刷位置に向けて搬送して印刷を行う。ロール紙から引き出される記録紙から紙送りローラーに作用する送り負荷が変動すると、記録紙と紙送りローラーの間に滑りが生じ、印刷位置を通過する記録紙の紙送り精度が低下し、印刷品質の劣化につながるおそれがある。特に、ロール紙が巻き出しリールなどの支軸によって支持されておらず、単に、ロール紙収納部の底面に転動可能な状態で置かれる投げ込み方式とよばれるロール紙収納部の場合には、送り負荷変動が大きい。
【0003】
そこで、記録紙の送り負荷変動を抑制するために、ロール紙から引き出されて印刷位置に至る搬送路の途中に、ばね力によって記録紙を付勢した状態に保持するテンション部材が取り付けられる。ロール紙の側から記録紙に作用する張力が変動すると、それに伴ってばね力によって付勢されているテンション部材が移動し、紙送りローラーの側に作用する張力変動を緩和する。これにより、記録紙を所定の張力状態に保持して紙送り精度の低下を抑制できる。特許文献1には、このようなテンション部材を備えたプリンターが開示されている。
【0004】
一方、紙送りローラーに加わる送り負荷は、ロール紙を大型化するのに伴って増加する。また、新たなロール紙を使用開始する場合と使い終わり間際のロール紙の場合では、送り負荷に大きな差が発生する。このような場合には、紙送りローラーのみでは送りムラ等を十分に抑制できないので、テンション部材の上流側の部位に繰り出しローラーを配置して紙送りを補助している。特許文献2には、このような繰り出しローラーを備えた記録紙繰り出し機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−99458号公報
【特許文献2】特開2007−203563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
記録紙をテンション部材を経由する搬送路に引き出した状態で長時間印刷等を行わずに放置すると、テンション部材に巻きついた状態のまま放置された記録紙にテンション部材の形状どおりの巻きぐせが付いてしまう。そのため、印刷を再開したときには、このような巻きぐせがついた記録紙を搬送路に沿って安定して送り出すことができないおそれがある。一方、ラベル紙などの腰の強い紙を巻いたロール紙を記録媒体として用いた場合、ロール紙から引き出された記録紙には、ロール紙の曲率と同じ曲率の巻きぐせがついている。そこで、巻きぐせがついた紙を搬送することを想定して、印刷位置において吸引プラテンの表面に記録紙を吸引し、この吸引力によって記録紙の浮き上がりを防止して安定した紙送りを可能にしている。
【0007】
テンション部材の形状がロール紙の最小曲率(すなわち、ロール紙の巻き芯の曲率)よりも大きな曲率の湾曲形状であれば、記録紙にこれと同じ形状の巻きぐせがついていても、吸引プラテンの吸引力が予めこのような形状の記録紙の浮き上がりを防止することが可能な程度に設定されているので、安定した紙送りを行うことができる。しかしながら、テンション部材をロール紙の最小曲率よりも大きな曲率の湾曲形状にするためにはテンション部材を大きくする必要があり、プリンターの小型化の観点からすると望ましくない。
【0008】
一方、吸引プラテンの吸引力を、ロール紙の最小曲率の巻きぐせを想定して設定した吸引力よりも大きくすれば、記録紙を吸引プラテン上に強く吸引して確実に浮き上がりを防止でき、安定した紙送りを行うことができる。しかしながら、吸引力を大きくすることは、騒音および消費電力が増大するため望ましくない。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、ロール紙の最小曲率(巻き芯の曲率)よりも小さな曲率の小型のテンション部材を用いることにより装置の小型化を図ることができ、且つ、ロール紙の最小曲率の巻きぐせを前提とした吸引プラテンの吸引力によって安定した紙送りを可能にし、これにより、騒音および消費電力の増大を抑制した紙送り装置およびその制御方法、ならびにロール紙プリンターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の紙送り装置の制御方法は、
ロール紙から繰り出される記録紙をテンション部材の記録紙ガイド面に架け渡し、前記記録紙を紙送りするときに発生する前記記録紙の張力変動を前記テンション部材の変位によって抑制しながら、前記記録紙を前記搬送路に沿って紙送りし、
前記記録紙の紙送りが所定時間以上にわたって行われないイベントが発生したときには、
前記テンション部材の下流側から前記テンション部材側に向かって前記記録紙を予め設定した紙送り量だけ逆送する逆送動作、あるいは、前記ロール紙側から前記テンション部材側に向かって前記記録紙を前記予め設定した紙送り量だけ順送りする追加繰り出し動作を行うことを特徴としている。
【0011】
本発明は、このように、テンション部材によって張力を調整しながら記録紙を送り出す紙送り装置、すなわち、テンション部材の記録紙ガイド面に記録紙が巻き付いた状態で記録紙を送り出す紙送り装置において、記録紙の紙送りが所定時間以上にわたって行われない可能性が高い予め設定したイベントが発生したときには、記録紙のテンション部材側への逆送動作あるいは追加繰り出し動作によってテンション部材の記録紙に予め設定した長さ以上のたるみを形成するようにしている。このようなたるみを形成すると、腰の強い記録紙は、記録紙ガイド面から浮き上がって記録紙ガイド面よりも曲率の大きい湾曲形状になる。よって、記録紙ガイド面を曲率の小さい湾曲形状にしても記録紙にこの形状どおりの巻きぐせが付くことがないため、紙送り再開後に安定した紙送りを行うことができる。よって、記録紙に記録紙ガイド面どおりの形状のくせが付くのを懸念して記録紙ガイド面の曲率を大きくする必要がないため、テンション部材を小型化でき、テンション部材を取り付けるための装置スペースを小さくできる。これにより、装置構成の自由度が高まり、装置の小型化を図ることができる。また、テンション部材を小型化しても従来よりも吸引力を強くする必要がない。よって、騒音や消費電力の増大を抑制できる。
【0012】
本発明において、前記イベントが発生したときには、前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作を行う前に、前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作が既に実行されているか否か、あるいは、既にの前記記録紙に予め設定したたるみが形成されているか否かを判定し、既に前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作が実行されているとき、あるいは、既に前記予め設定したたるみが形成されているときには、前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作を行わないようにするとよい。このようにすると、予め設定したイベントから一時的に復帰したものの記録紙の紙送りは行われないときなどに、記録紙が既に予め設定した長さ以上たるんでいるにも拘わらず、更に逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作が行われて不必要にたるみが大きくなるのを防止できる。よって、記録紙のたるみすぎによる不具合を防止できる。
【0013】
また、前記イベントは、省電力モードへの移行、あるいは、電源オフ状態への移行とすることができる。これらの状態は紙送りが行われずに長時間放置される可能性が高い状態である。よって、このような状態に移行するときに記録紙にたるみを形成しておけば、紙送り再開時に記録紙に曲率の小さい巻きぐせがついた状態になっていることがない。よって、紙送り再開時に記録紙を安定して紙送りすることができる。省電力モード(省電力状態)とは、装置が待機状態や、ヘッドやモーターなどの駆動源、またはその他の一部の部品への電力供給を一時停止した状態や、CPUがスリープモードになった状態などを含む。電源オフとは、ソフトスイッチが押されたことを制御部が検出して、電源をオフするように制御することを含む。
【0014】
ここで、前記テンション部材の前記記録紙ガイド面は、繰り出しローラーによる前記ロール紙からの紙繰り出し位置と、紙送りローラーによる紙送り位置との間に配置されており、前記逆送動作は、前記紙送りローラーを、前記ロール紙からの紙繰り出し時と逆方向に回転させて行い、前記追加繰り出し動作は、前記繰り出しローラーを、前記ロール紙からの紙繰り出し時と同方向に回転させて行うようにしてもよい。このような動作により、一旦テンション部材の下流側まで繰り出された記録紙がテンション部材側に引き戻される。あるいは、新たにロール紙から繰り出された記録紙がテンション部材側に供給される。これにより、テンション部材付近に余分な記録紙を供給することができ、テンション部材の付近でたるみを形成することができる。
【0015】
次に、本発明の紙送り装置は、
ロール紙から搬送路に繰り出された記録紙が架け渡される記録紙ガイド面を備えるテンション部材と、
前記架け渡された前記記録紙に前記記録紙ガイド面を押し付ける方向に前記テンション部材を付勢する付勢部材と、
前記テンション部材よりも上流側の紙繰り出し位置において前記搬送路に沿って前記記録紙を紙送りする繰り出しローラーと、
前記テンション部材よりも下流側の紙送り位置において前記搬送路に沿って前記記録紙を紙送りする紙送りローラーと、
前記繰り出しローラーおよび前記紙送りローラーを制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、上記の紙送り装置の制御方法による紙送り制御を行うことを特徴としている。
【0016】
また、本発明のロール紙プリンターは、
ロール紙が転動可能な状態で装填されるロール紙装填部と、
上記の紙送り装置と、
当該紙送り装置によって前記ロール紙装填部から印刷位置に向かって紙送りされる記録紙への印刷を前記印刷位置において行う印刷機構とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、記録紙の紙送りが所定時間以上にわたって行われない可能性が高い予め設定したイベントが発生したときには、記録紙のテンション部材側への逆送動作あるいは追加繰り出し動作によってテンション部材の記録紙に予め設定した長さ以上のたるみを形成するようにしているので、記録紙ガイド面を曲率の小さい湾曲形状にしても記録紙にこの形状どおりの巻きぐせが付くことがなく、紙送り再開後に安定した紙送りを行うことができる。よって、記録紙に記録紙ガイド面どおりの形状のくせが付くのを懸念して記録紙ガイド面の曲率を大きくする必要がないため、テンション部材を小型化でき、テンション部材を取り付けるための装置スペースを小さくできる。これにより、装置構成の自由度が高まり、装置の小型化を図ることができる。また、テンション部材を小型化しても従来よりも吸引力を強くする必要がない。よって、騒音や消費電力の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用したロール紙プリンターの斜視図である。
【図2】開閉蓋を全開にした状態のロール紙プリンターの斜視図である。
【図3】ロール紙プリンターの内部構造を示すための概略縦断面図である。
【図4】ロール紙プリンターの制御系を示す説明図である。
【図5】省電力状態あるいは電源オフ状態への移行時の制御を示すフローチャートである。
【図6】省電力状態あるいは電源オフ状態からの復帰時の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した紙送り装置を備えるロール紙プリンターの実施の形態を説明する。
【0020】
(全体構成)
図1は本発明を適用したインクジェット式のロール紙プリンターの外観斜視図であり、図2はその開閉蓋を全開にした状態の外観斜視図である。ロール紙プリンター1は全体としてほぼ直方体形状をしたプリンター本体2と、当該プリンター本体2の前面に取り付けた開閉蓋3とを有している。プリンター本体2の外装ケースの前面下部には電源スイッチ2aが設けられている。また、プリンター本体2の外装ケースの前面には所定幅の記録紙排出口4が形成されている。記録紙排出口4の下側には排紙ガイド5が前方に突出しており、当該排紙ガイド5の側方には蓋開閉レバー6が配置されている。排紙ガイド5および蓋開閉レバー6の下側には、ロール紙出し入れ用の矩形の開口部が形成されており、この開口部が開閉蓋3によって封鎖されている。
【0021】
蓋開閉レバー6を操作すると開閉蓋3のロックが解除される。ロック解除後、排紙ガイド5を前方に引くと、開閉蓋3は、当該開閉蓋3が取り付けられているリンク機構、たとえば4節の平行リンク機構によって、その下端部を中心として前方にほぼ水平となるまで開く。開閉蓋3が開くと、図2に示すように、プリンター内部に形成されているロール紙収納部11が開放状態となり、同時に、ロール紙収納部11から記録紙排出口4に到る記録紙搬送路が開放状態となり、プリンター前方からロール紙の交換作業などを簡単に行うことができる。
【0022】
図3はロール紙プリンター1の内部構造を示す概略縦断面図である。ロール紙プリンター1の内部には、プリンター本体フレーム10における幅方向の中央部分にロール紙収納部11が形成されている。ロール紙収納部11はロール紙12がプリンター幅方向に向いた横置き状態で転動可能に収納されている。ロール紙12はラベル紙などの腰の強い記録紙12aを巻き芯に巻いてロール状にしたものである。
【0023】
ロール紙収納部11の後側の上方位置には、プリンター本体フレーム10によってプリンター幅方向に水平に架け渡された繰り出しローラー15が配置されており、この繰り出しローラー15には前側から紙押えローラー16が押しつけられている。繰り出しローラー15はプリンター本体フレーム10に取り付けられた繰り出しモーター17によって回転駆動される。紙押えローラー16は支持レバー18によって支持されており、支持レバー18は開閉蓋3の側に取り付けられており、開閉蓋3を開くと紙押えローラー16が紙送りローラー16から離れるようになっている。
【0024】
ロール紙収納部11の上方には、プリンター本体フレーム10の上端にヘッドユニットフレーム20が水平に取り付けられている。ヘッドユニットフレーム20にはプリンター幅方向にキャリッジガイド軸21が水平に架け渡されている。このキャリッジガイド軸21に沿って、インクジェットヘッド22が下向き状態で搭載されているキャリッジ23がプリンター幅方向に往復移動可能となっている。キャリッジ23は、公知のキャリッジ搬送機構、例えば、キャリッジモーターおよびタイミングベルトを備えたキャリッジ搬送機構によって、プリンター幅方向に往復移動される。
【0025】
インクジェットヘッド22の下側にはプリンター前後方向に水平に延びるプラテンフレーム24が配置されている。プラテンフレーム24には、インクジェットヘッド22に一定のギャップで対峙している吸引プラテン25がプリンター幅方向に水平に取り付けられており、この吸引プラテン25によってインクジェットヘッド22の印刷位置が規定されている。
【0026】
プラテンフレーム24の後端には、ロール紙収納部11に収納されたロール紙12から引き出される長尺状の記録紙12aが架け渡されるテンションガイド27が配置されている。テンションガイド27は記録紙搬送方向に沿って凸曲面形状をしている記録紙ガイド面28を備えている。この記録紙ガイド面28が記録紙12aに対して接近および離れる方向に移動できるように、テンションガイド27は、プラテンフレーム24の後端においてプリンター幅方向に水平に架け渡した支軸29を中心として上下に旋回可能に取り付けられている。支軸29には捩じりばねなどの付勢部材30が取り付けられており、この付勢部材30によって、テンションガイド27の記録紙ガイド面28が記録紙12aに付勢されている。
【0027】
次に、プラテンフレーム24におけるテンションガイド27よりも前側の位置には、紙送りローラー31がプリンター幅方向に水平に架け渡されている。紙送りローラー31には、記録紙12aを介して、ヘッドユニットフレーム20の側に取り付けられている紙押えローラー32が所定の押圧力で上側から押し付けられている。プラテンフレーム24における吸引プラテン25の前端側の部位には、前側紙送りローラー33がプリンター幅方向に水平に架け渡されている。この前側紙送りローラー33には、記録紙12aを介して、ヘッドユニットフレーム20の側に取り付けられている前側紙押えローラー34が上側から押し付けられている。
【0028】
紙送りローラー31および前側紙送りローラー33は、ロール紙収納部11の後側においてプリンター本体フレーム10に取り付けられている紙送りモーター35によって駆動される。本例では、プラテンフレーム24に不図示の減速歯車列が搭載されており、この減速歯車列を介して、紙送りモーター35の回転力が紙送りローラー31および前側紙送りローラー33に伝達され、これらのローラー31、33が同期回転する。
【0029】
記録紙排出口4の近傍には、印刷後の記録紙12aの先端部分を幅方向に切断するオートカッター36が配置されている。オートカッター36によって記録紙12aは所定の長さに切断されて、レシート、チケットなどとして発行される。
【0030】
(紙送り動作)
本実施形態のロール紙プリンター1においては、ロール紙収納部11に収納されているロール紙12から上方に引き出される記録紙12aは、図3において太い一線鎖線で示す搬送路Aに沿って搬送される。搬送路Aは、繰り出しローラー15および紙押えローラー16の間を介して上方に向かい、テンションガイド27を経由して前方に屈曲した後、紙送りローラー31および紙押えローラー32の間、インクジェットヘッド22と吸引プラテン25の間、および、前側紙送りローラー33および前側紙押えローラー34の間を通って、記録紙排出口4に至る。この搬送路Aにセットされた記録紙12aによってテンションガイド27が下方に押し込まれ、付勢部材30の付勢力によって記録紙12aは所定の張力が付与された状態になる。
【0031】
図4はロール紙プリンター1の制御系を示す説明図である。ロール紙プリンター1の制御部41は、不図示のコンピュータシステムなどの上位機器からの指令に基づき、ロール紙プリンター1の各部を制御する。ロール紙プリンター1は、上記の紙送りモーター35、紙送りローラー31および紙押えローラー32、前側紙送りローラー33および前側紙押えローラー34、繰り出しモーター17、繰り出しローラー15および紙押えローラー16、テンションガイド27および付勢部材30、ガイドセンサー37などによって構成される紙送り機構を備えており、この紙送り機構および紙送り機構の各部を制御する制御部41によって、ロール紙プリンター1の紙送り装置1aが構成されている。
【0032】
制御部41は、印刷動作においては、紙送りモーター35を駆動して紙送りローラー31および前側紙送りローラー33を回転駆動すると共に、これに同期させて繰り出しモーター17を駆動して繰り出しローラー16を回転駆動して、記録紙12aをロール紙12から繰り出して搬送路Aに沿って送り出す。また、記録紙12aの搬送に同期させてインクジェットヘッド22を駆動して印刷位置を通過する記録紙12aの表面に印刷を施す。記録紙12aの幅方向への一連の行印刷が終了した後は、繰り出しローラー15、紙送りローラー31および前側紙送りローラー33が回転駆動されて、所定ピッチだけ記録紙12aが送り出され、次の行の印刷が行われる。このように、記録紙12aは、所定ピッチで間欠的に送り出されながらインクジェットヘッド22によって印刷が施される。
【0033】
記録紙12aの送り動作が間欠的に行われると、ロール紙12の慣性力などによって記録紙12aの送り負荷が変動する。送り負荷の変動は、付勢部材30によって付勢されているテンションガイド27が上下に旋回することによって抑制あるいは緩和される。したがって、送り負荷の変動に起因して紙送り精度が低下し、印刷品質が低下してしまうという弊害が解消される。
【0034】
また、制御部41は、印刷動作においては、ガイドセンサー37からの検出信号をモニターして紙送り動作を行っている。ここで、ガイドセンサー37は、テンションガイド27の旋回位置を検出するためのものである。たとえば、記録紙12aが適切な張力状態の場合にはセンサー出力はオフとされ、記録紙12aがたるんだ状態になり、テンションガイド27が付勢力によって大きく旋回した場合にはセンサー出力がオンに切り替わる。このようなガイドセンサー37の出力に基づき、記録紙12aが、たるみが生ずることなく一定の張力状態で搬送されるように、紙送りローラー31および前側紙送りローラー33の駆動に同期させて、ロール紙収納部側の繰り出しローラー16の駆動を制御する。
【0035】
(所定期間以上紙送りが行われない可能性があるときの制御)
制御部41は、ロール紙プリンター1が印刷待機状態になってから所定時間経過したときにはロール紙プリンター1の各部を省電力状態に移行させて待機電力を削減させる。また、制御部41は、プリンター本体2に設けられた電源スイッチ2a等による電源オフ操作がなされると、シャットダウン処理を行ってロール紙プリンター1を電源オフ状態に移行させ、ロール紙プリンター1の各部への電源供給を停止する。このとき、搬送路Aに沿ってセットされている記録紙12aは、省電力状態あるいは電源オフ状態への移行に伴い、搬送路A上に停止した状態となる。
【0036】
このような省電力状態あるいは電源オフ状態への移行(予め設定したイベントの発生)がなされると、ロール紙プリンター1の電源オン状態への復帰処理が行われて記録紙12aの紙送りが再開されるまでに長時間放置される可能性がある。ここで、記録紙12aの紙送りが停止すると、ロール紙12から上方に繰り出された記録紙12aは、紙送りローラー31による紙送り位置の上流側においてテンションガイド27の記録紙ガイド面28に巻きついた状態となって張力が付与された状態のまま停止する。本実施形態では、このまま長時間放置されることにより記録紙12aの記録紙ガイド面28に巻きついた部分に記録紙ガイド面28と同一曲率の巻きぐせが付くのを回避するために、省電力状態あるいは電源オフ状態に移行するときには、記録紙12aをテンションガイド27付近でたるませて記録紙ガイド面28から浮き上がらせるように紙送り装置1aを制御している。
【0037】
図5は省電力状態あるいは電源オフ状態への移行時の制御を示すフローチャートである。制御部41は、省電力状態への移行あるいは電源オフ状態への移行を開始するときに、まず、繰り出したるみフラグのセット値を確認する(ステップS1)。繰り出したるみフラグは、例えば、紙送りモーター35および繰り出しモーター17を順送り方向に回転させることによりロール紙12側から印刷位置側に向けて記録紙12aを送る通常の順送り動作が行われたときには「ON」の値がセットされ、後述するステップS2の逆送動作あるいは追加繰り出し動作が行われたときには「OFF」の値がセットされるフラグである。なお、制御部41は、繰り出したるみフラグのセット値を、省電力状態中あるいは電源オフ状態中も保持している。
【0038】
制御部41は、省電力状態あるいは電源オフ状態への移行開始時に繰り出したるみフラグのセット値が「ON」であったとき、すなわち、記録紙12aにテンションガイド27による張力が加わっているときには(ステップS1:Yes)、ステップS2に進み、紙送りモーター35のみを順送り動作時の回転方向とは逆方向に回転させ、紙送りローラー31の下流側に送り出されていた記録紙12aを、ロール紙12側に向かって所定量だけ逆送する逆送動作を行う。この逆送動作により、紙送りローラー31による紙送り位置Bと、繰り出しローラー15による紙繰り出し位置Cとの間に、逆送した長さ分だけ余分に記録紙12aが送り込まれ、紙送り位置Bと紙繰り出し位置Cとの間の記録紙12aがたるんだ状態となる。
【0039】
たるんだ記録紙12aの部分は、記録紙12aの腰の強さによってテンションガイド27の後方の空間にふくらんだ状態となってテンションガイド27の記録紙ガイド面28から浮き上がり、記録紙ガイド面28の湾曲形状よりも曲率の大きい湾曲形状となる。逆送動作時の紙送り量は、この湾曲形状の曲率が、ロール紙12の巻き芯の曲率よりも大きくなるように設定されている。
【0040】
ステップS2では、上記の逆送動作の代わりに、繰り出しモーター17のみを順送り動作時の回転方向に回転させ、ロール紙12から新たに記録紙12aを所定量だけ繰り出す追加繰り出し動作を行ってもよい。この追加繰り出し動作により、紙送りモーター35による紙送り位置Bと、繰り出しモーター17による紙繰り出し位置Cとの間に、新たにロール紙12側から送り出した長さ分だけ余分に記録紙12aが送り込まれる。よって、逆送動作を行った場合と同様に、紙送り位置Bと紙繰り出し位置Cとの間の記録紙12aがたるんだ状態となり、テンションガイド27の記録紙ガイド面28から記録紙12aが後方に浮き上がり、ロール紙12の巻き芯の曲率よりも大きい湾曲形状となる。
【0041】
制御部41は、ステップS2の逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行った場合には、繰り出したるみフラグに「OFF」の値をセットする(ステップS3)。その後、印刷待機状態から省電力状態に移行するための所定の処理、あるいは電源オフ状態に移行するためのシャットダウン処理を行う(ステップS4)。
【0042】
一方、制御部41は、省電力状態あるいは電源オフ状態への移行開始時に繰り出したるみフラグのセット値が「OFF」であったときには、この移行処理の前に、すでに逆送動作あるいは追加繰り出し動作が行われて記録紙12aがたるんだ状態になっていると判断し、この時点では新たに逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行わずにステップS4に進む。そして、ステップS4において、省電力状態への移行処理あるいはシャットダウン処理を行う。
【0043】
このような制御により、本実施形態では、省電力状態あるいは電源オフ状態への移行時には、必ずテンションガイド27付近の記録紙12aがロール紙12の巻き芯の曲率よりも大きい曲率の湾曲形状にふくらんで、記録紙ガイド面28から記録紙12aが浮き上がった状態が形成される。よって、省電力状態あるいは電源オフ状態で長時間ロール紙プリンター1が放置されても、記録紙12aに記録紙ガイド面28の形状に沿った巻きぐせがつくことがなく、ロール紙12の巻き芯の曲率よりも小さい曲率の湾曲形状の巻きぐせがつくこともない。よって、紙送りを再開したときに、曲率の小さい巻きぐせがついてしまった部分が吸引プラテン25の上に浮き上がることがなく、安定した紙送りを行うことができる。
【0044】
また、本実施形態では、ステップS2の逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行う前に繰り出したるみフラグのセット値を確認して既に記録紙12aをたるませた状態であるか否かを確認しているので、既に記録紙12aがたるんだ状態であるにも拘らず逆送動作あるいは追加繰り出し動作が行われて、不必要にたるみが大きくなってしまうことがない。よって、記録紙12aのたるみすぎによって印刷再開時の紙送りが不安定になったり、たるみすぎた記録紙12aがテンションガイド27の後方に詰まってしまうなどの不具合を防止できる。
【0045】
図6は省電力状態あるいは電源オフ状態からの復帰時の制御を示すフローチャートである。ロール紙プリンター1は、印刷再開などのために通常の紙送り動作を行うときには、上述したようにガイドセンサー37の値をモニターしながら紙送りモーター35および繰り出しモーター17を駆動することになるので、記録紙12aのたるみを解消して一定の張力状態に戻すことができる。そこで、制御部41は、省電力状態あるいは電源オフ状態からの復帰時の紙送り動作を開始するときには、まず、繰り出したるみフラグに「ON」の値をセットし(ステップS11)、その後、通常の紙送り動作を行う(ステップS12)。これにより、再開した印刷動作の終了後、再び省電力状態あるいは電源オフ状態に移行するときには、この繰り出したるみフラグのセット値に基づいて逆送動作あるいは追加繰り出し動作が行われる。よって、記録紙12aが記録紙ガイド面28に巻きついたまま省電力状態あるいは電源オフ状態に移行してしまうことがない。
【0046】
なお、上記実施形態では、繰り出したるみフラグによって記録紙12aのたるみ状態を確認して逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行うかどうかを決定していたが、ガイドセンサー37などのテンションガイド27の旋回位置を検出可能なセンサーによって、記録紙12aのたるみ状態を確認するようにしてもよい。すなわち、テンションガイド27が付勢部材30による付勢方向に最大限旋回した位置で停止していたときには、記録紙12aがたるんでいると判断し、逆送動作あるいは追加繰り出し動作を行わないようにしてもよい。あるいは、繰り出しローラー15および紙送りローラー31の順送り方向および逆送り方向への回転量を積算しておき、この回転量に基づき、記録紙12aのたるみ量を算出してもよい。
【0047】
また、上記実施形態のロール紙プリンター1の紙送り機構1aは、ロール紙プリンターに限らず、腰の強いシート材をロール状に巻いた状態から繰り出して所定の処理を行う任意の装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…ロール紙プリンター、1a…紙送り装置、2…プリンター本体、2a…電源スイッチ、3…開閉蓋、4…記録紙排出口、5…排紙ガイド、6…蓋開閉レバー、10…プリンター本体フレーム、11…ロール紙収納部、12…ロール紙、12a…記録紙、15…繰り出しローラー、16…紙押えローラー、17…繰り出しモーター、18…支持レバー、20…ヘッドユニットフレーム、21…キャリッジガイド軸、22…インクジェットヘッド、23…キャリッジ、24…プラテンフレーム、25…吸引プラテン、27…テンションガイド(テンション部材)、28…記録紙ガイド面、29…支軸、30…付勢部材、31…紙送りローラー、32…紙押えローラー、33…前側紙送りローラー、34…前側紙押えローラー、35…紙送りモーター、36…オートカッター、37…ガイドセンサー、41…制御部、A…搬送路、B…紙送り位置、C…紙繰り出し位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール紙から繰り出される記録紙をテンション部材の記録紙ガイド面に架け渡し、前記記録紙を紙送りするときに発生する前記記録紙の張力変動を前記テンション部材の変位によって抑制しながら、前記記録紙を前記搬送路に沿って紙送りし、
前記記録紙の紙送りが所定時間以上にわたって行われないイベントが発生したときには、
前記テンション部材の下流側から前記テンション部材側に向かって前記記録紙を予め設定した紙送り量だけ逆送する逆送動作、あるいは、前記ロール紙側から前記テンション部材側に向かって前記記録紙を前記予め設定した紙送り量だけ順送りする追加繰り出し動作を行うことを特徴とする紙送り装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紙送り装置の制御方法において、
前記イベントが発生したときには、
前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作を行う前に、前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作が既に実行されているか否か、あるいは、既に前記テンション部材付近の前記記録紙に予め設定したたるみが形成されているか否かを判定し、
既に前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作が実行されているとき、あるいは、既に前記予め設定したたるみが形成されているときには、前記逆送動作あるいは前記追加繰り出し動作を行わないことを特徴とする紙送り装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の紙送り装置の制御方法において、
前記イベントは、前記紙送り装置の省電力モードへの移行、あるいは、前記紙送り装置の電源オフ状態への移行であることを特徴とする紙送り装置の制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項に記載の紙送り装置の制御方法において、
前記テンション部材の前記記録紙ガイド面は、繰り出しローラーによる前記ロール紙からの紙繰り出し位置と、紙送りローラーによる紙送り位置との間に配置されており、
前記逆送動作は、前記紙送りローラーを、前記ロール紙からの紙繰り出し時と逆方向に回転させて行い、
前記追加繰り出し動作は、前記繰り出しローラーを、前記ロール紙からの紙繰り出し時と同方向に回転させて行うことを特徴とする紙送り装置の制御方法。
【請求項5】
ロール紙から搬送路に繰り出された記録紙が架け渡される記録紙ガイド面を備えるテンション部材と、
前記架け渡された前記記録紙に前記記録紙ガイド面を押し付ける方向に前記テンション部材を付勢する付勢部材と、
前記テンション部材よりも上流側の紙繰り出し位置において前記搬送路に沿って前記記録紙を紙送りする繰り出しローラーと、
前記テンション部材よりも下流側の紙送り位置において前記搬送路に沿って前記記録紙を紙送りする紙送りローラーと、
前記繰り出しローラーおよび前記紙送りローラーを制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、請求項1ないし4のいずれかの項に記載の紙送り装置の制御方法による紙送り制御を行うことを特徴とする紙送り装置。
【請求項6】
ロール紙が転動可能な状態で装填されるロール紙装填部と、
請求項5に記載の紙送り装置と、
当該紙送り装置によって前記ロール紙装填部から印刷位置に向かって紙送りされる記録紙への印刷を前記印刷位置において行う印刷機構とを有することを特徴とするロール紙プリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−201685(P2010−201685A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47675(P2009−47675)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】