説明

紡機における繊維束集束装置

【課題】繊維束のトラバース位置が、吸引スリットの幅広部のガイド縁側端部における糸強力の増大及び毛羽の低減を図ることができる繊維束集束装置を提供する。
【解決手段】繊維束集束装置はドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に、吸引スリット27を備えた案内面28を有する吸引パイプ15と、吸引パイプ15及びガイド部に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルト16とを備えている。吸引スリット27は、吸引スリット27の幅方向における両側縁のうちの一方の側縁が繊維束Fを集束するガイド縁29を構成している。両側縁及び吸引スリット27の上端縁31により下流側よりもスリット幅が広くなる幅広部27aが形成され、幅広部27aのガイド縁側端点J1が、ガイド縁29と反対側の側縁側端点J2よりも下流側となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における繊維束集束装置に係り、詳しくは例えば精紡機のドラフト装置(ドラフトパート)の下流に配置され、ドラフト装置でドラフトされた繊維束を集束する紡機の繊維束集束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトされた繊維束(スライバー)を撚り掛けの前に予め集束し、毛羽の低減等の糸品質の向上を目的とした繊維束集束装置が種々提案され、また実施されている。そして、基本の機能となる繊維束の集束・移送の構成は、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、その案内面に沿って移動する通気性の(多孔の)搬送ベルトとを備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
吸引スリットは、吸引スリットより上流側及び下流側における繊維束の走行方向に対して傾斜する状態に形成され、かつ吸引スリットの幅方向における両側縁のうちの一方の側縁が繊維束を集束するガイド縁を構成している。そして、吸引スリットに対する繊維束の走行位置が変わることによって集束度にバラツキが生じ、結果として紡績糸品質のバラツキが生じる。特許文献1に開示された繊維束集束装置は、吸引スリットを構成するガイド縁と反対側の側縁の形状を特定することにより、紡績糸品質のバラツキを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−37677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の繊維束集束装置では、繊維束のトラバース幅を大きくした場合で、かつ、細番手の糸を紡出する場合、吸引スリットの右端側(ガイド縁側)に繊維束が位置するときに糸強力の低下、毛羽の増加が見られる。
【0006】
この原因を検討した結果、次のことが考えられた。
繊維束集束装置では、吸引パイプより繊維束の走行方向上流にある最終送出ローラ対から繊維束集束装置に送り込まれた繊維束を確実に集束させるため、吸引スリット上端の幅広部は、異形断面である吸引パイプの先端部(繊維束の走行方向上流側端部)に近い位置に形成される。そのため、吸引スリットの幅広部の上端縁は、吸引パイプの先端部に近いために管路抵抗が高く、吸引流速が他の部位に比べ低い。そして、吸引スリットに対してガイド縁側を走行する繊維束の一部が、吸引流速が不充分なために時々吸引スリットの幅広部にうまく吸引されないことがあり、弱糸の発生原因となると推定される。
【0007】
また、上記吸引流速の低下は上端縁の吸引パイプ断面における角度αが大きくなるとより顕著になると推定される。ここで、角度αとは、吸引スリットの上端縁の側壁面が吸引パイプの案内面と垂直な面と成す角度を意味する。吸引パイプの製法において、吸引スリットをプレスあるいはレーザカットで加工した後に薄板材のプレス工程で吸引パイプを成型した場合に、吸引スリットの上端縁のガイド縁側端部で糸強力の低下、毛羽の増加が見られた。その理由は、吸引スリットをプレスあるいはレーザカットで加工した後に薄板材のプレス工程を行なうと、吸引スリットの側壁面は板材の表面と垂直(板材の厚さ方向と平行)になる。そのため、吸引スリットの上端縁が吸引パイプの先端部に近い曲面部に形成されると、側壁面と吸引パイプの案内面(上面)と垂直な面との成す角度αが大きくなり、吸引流速の低下が顕著となると推定される。
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、繊維束のトラバース位置が吸引スリットの幅広部のガイド縁側端部に位置するときの、糸強力の増大及び毛羽の低減を図ることができる紡機における繊維束集束装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプ及びガイド部に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機における繊維束集束装置である。そして、前記吸引スリットは、前記吸引スリットの幅方向における両側縁のうちの一方の側縁が前記繊維束を集束するガイド縁を構成するとともに前記両側縁及び前記吸引スリットの上端縁により下流側よりもスリット幅が広くなる幅広部が形成され、前記幅広部のガイド縁側端点が、前記ガイド縁と反対側の側縁側端点よりも下流側となるように形成されている。ここで、「幅広部のガイド縁側端点」とは、上端縁のガイド縁側端部及びガイド縁の上流部が共に直線の場合は両者の接続点であり、上端縁のガイド縁側端部及びガイド縁の上流部が曲線部で連続する場合は、その曲線部の接線の傾きが繊維束走行方向と平行になる点を意味する。また、「ガイド縁と反対側の側縁側端点」とは、ガイド縁と反対側の側縁の上流部と、上端縁の反ガイド縁側端部が共に直線の場合は両者の接続点であり、ガイド縁と反対側の側縁と上端縁が曲線部で連続する場合は、その曲線部の接線の傾きが繊維束走行方向と平行になる点を意味する。
【0010】
この発明では、吸引スリットの幅広部のガイド縁側端点が、ガイド縁と反対側の側縁側端点よりも下流側となるように形成されているため、吸引スリットの幅広部のガイド縁側端位置が吸引パイプの先端部(繊維束の走行方向上流側端部)から離れる。そのため、吸引流速が増し、かつ、同部へ向かう吸引流が吸引スリットの幅広部のガイド縁より外側近傍に位置する繊維束を吸引スリット側へ移動させるように作用する力が増す。その結果、繊維束がトラバース運動のガイド縁側端にあっても、確実に吸引スリットの幅広部に吸引され、弱糸の発生や毛羽の発生が抑制される。したがって、繊維束のトラバース位置が吸引スリットの幅広部のガイド縁側端部に位置するときの、糸強力の増大及び毛羽の低減を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記幅広部の前記ガイド縁側端点は、前記吸引パイプの案内面と、前記吸引パイプの前記最終送出ローラ対のフロントボトムローラとの対向面とを繋ぐR部の前記案内面側に設定されている。
【0012】
この発明では、幅広部のガイド縁側端点での流速を従来以上に向上させつつ、幅広部のガイド縁側端点をR部終点を越えて案内面にまで下げた場合と比較して、フリーゲージ拡大による糸ムラ発生を抑制することが可能になる。フリーゲージとは最終送出ローラ対のニップ点と吸引スリットとの距離を意味する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記幅広部の前記ガイド縁側端点は、前記吸引パイプの前記繊維束の案内面と、前記吸引パイプの前記最終送出ローラ対のフロントボトムローラとの対向面とを繋ぐR部の前記案内面側の終点よりも下流側の前記案内面に設定されている。この発明では、幅広部のガイド縁側端点が吸引パイプの先端部での流速低下の影響を受けないので、より確実にトラバース右端(幅広部のガイド縁側端)の繊維束を吸引することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記吸引パイプは、板金の曲げ加工により形成され、前記吸引スリットの少なくとも上端縁の側壁は前記板金の厚さ方向に延びるように形成されている。
【0015】
吸引パイプを板金の曲げ加工により形成する場合、曲げ加工の前に吸引スリットの加工を行なうことが好ましく、吸引スリットは平板に対するプレスあるいはレーザー加工により形成される。その場合は、曲げ加工後、吸引スリットが吸引パイプの曲面部に位置する箇所でも吸引スリットの側壁面は板材の厚さ方向と平行になる。そのため、吸引スリットの上端縁全体が案内面と対向面とを繋ぐR部に形成された場合は、上端縁のガイド縁より外側近傍に位置する繊維束を吸引スリット側へ移動させるように作用する吸引気流の力がより弱くなる。しかし、この発明では、吸引パイプを板金の曲げ加工により形成した場合の利点を有するとともに、幅広部のガイド縁側端点がガイド縁と反対側の側縁側端点よりも下流側に位置すること自体で、曲げ加工により上端縁の側壁が傾斜するデメリットを軽減でき、上端縁のガイド縁側端点より外側近傍に位置する繊維束が吸引スリット側へ移動され易くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維束のトラバース位置が、吸引スリットの幅広部のガイド縁側端部における糸強力の増大及び毛羽の低減を図ることができる紡機における繊維束集束装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は一実施形態の繊維束集束装置の一部破断概略側面図、(b)は(a)の吸引パイプの拡大断面図。
【図2】(a)は繊維束集束装置の吸引パイプと搬送ベルトの関係を示す部分概略図、(b)は吸引スリットと繊維束の関係を示す模式図、(c)は(b)の部分拡大図、(d)は吸引パイプの部分模式断面図。
【図3】(a)は繊維束の走行位置と糸強力との関係を示すグラフ、(b)は繊維束の走行位置とヘアリネスとの関係を示すグラフ。
【図4】(a),(b)はそれぞれ別の実施形態における吸引スリットの形状を示す模式図、(c)は別の実施形態の繊維束集束装置の吸引パイプ、搬送ベルト及びガイド部の関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を精紡機に装備される繊維束集束装置に具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維束集束装置11は、ドラフト装置12の最終送出ローラ対13の下流側に設けられている。繊維束集束装置11は送出部14、吸引パイプ15、通気搬送ベルト16及びガイド部17を備えている。送出部14は、最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aと平行に配設された回転軸18に形成されたボトムニップローラ18aと、ボトムニップローラ18aに通気搬送ベルト16を介して押圧されるトップニップローラ19とで構成されている。トップニップローラ19はドラフト装置12のフロントトップローラ13bと同様に2錘毎に、支持部材20を介してウエイティングアーム(図示せず)に支持されている。支持部材20はフロントトップローラ13bの支持部材と一体に形成されている。吸引パイプ15は、送出部14のニップ点に対して繊維束Fの移動方向の上流側に設けられている。
【0019】
機台長手方向に所定間隔で配設されたローラスタンド21の中間位置には、機台長手方向に延設された支持ビームに基端側が支持された状態で支持アーム(いずれも図示せず)が配設され、ローラスタンド21と支持アームとの間に回転軸18が支持されている。回転軸18には長手方向の中間部にギヤ22が回転軸18と一体回転可能に設けられている。
【0020】
フロントボトムローラ13aにはギヤ22と対向する位置にギヤ部13cが形成されている。そして、基端側が支持ビームに固定された支持アーム24に中間ギヤ25が回転可能に支持され、中間ギヤ25はギヤ部13c及びギヤ22に噛合している。即ち、フロントボトムローラ13aの回転力は、ギヤ部13c、中間ギヤ25及びギヤ22を介して回転軸18に伝達される。
【0021】
精紡機機台にはその長手方向(図1の紙面と垂直方向)に延びるように吸引ダクト(図示せず)が配設されている。吸引パイプ15は吸引ダクトと平行に延びる状態で、接続管26を介して吸引ダクトに接続されている。吸引パイプ15は、吸引スリット27を備えた案内面28を有する。通気搬送ベルト16は、一部が吸引パイプ15に、一部がガイド部17に、一部がボトムニップローラ18aに接触するように巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する。通気搬送ベルト16は、例えば、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。
【0022】
図2(a),(b)に示すように、吸引スリット27は、吸引スリット27より上流側及び下流側における繊維束Fの走行方向X(図2(a),(b)の上下方向)に対して傾斜する状態に形成されている。この実施形態では、吸引スリット27は、繊維束移動方向上流側を上にして見た場合、右側に傾斜するように形成されている。吸引スリット27は、吸引スリット27の幅方向(吸引パイプ15の長手方向)における両側縁のうちの一方の側縁である傾斜方向外側(図2(a),(b)における右側)の側縁が繊維束Fを集束するガイド縁29を構成している。ガイド縁29は、直線状に延びる上流部29a及び下流部29bが連続するように、かつ上流部29aの傾きが下流部29bの傾きより大きくなるように形成されている。なお、上流部29aと下流部29bとの接続部は曲線で滑らかに接続されている。
【0023】
ガイド縁29と反対側の側縁30は、下流部30aが下流端からガイド縁29の下流部29bに沿って延びるように形成されている。この実施形態では、下流部30aはガイド縁29の下流部29bと平行に形成されている。図2(b)に示すように、側縁30の上流端は、側縁30の下流部30aを延長した仮想線L1が吸引スリット27の上端縁31に沿って延びる仮想線L2と交差する位置P1よりガイド縁29側にずれている。
【0024】
側縁30の上流部30bは、繊維束引き出し方向に沿う直線部30dを上流端側に有し、側縁30の下流部30aと直線部30dとを接続する中間部30cは、下流部30aより傾きが大きくなるように形成された直線で形成されている。直線部30dは、その仮想延長線(図示せず)がガイド縁29の上流部29aと交差する位置に形成されている。なお、中間部30cの直線は傾きがガイド縁29の上流部29aと同じに形成され、中間部30cの端部は下流部30aに曲線で滑らかに接続されている。直線部30d、上端縁31、ガイド縁29の上流部29aにより、下流側よりもスリット幅が広くなる吸引スリット27の幅広部27aが形成される。側縁30の構成は、特許文献1と同様である。
【0025】
吸引スリット27のガイド縁29の上流部29aと下流部29bの長さの比や、側縁30の下流部30aと上流部30bの長さの比、あるいは直線部30dの側縁30全体に対する長さの比は、ガイド縁29の傾きとの関係あるいは紡出すべき糸に対する要求品質等によって適宜設定される。
【0026】
図2(b),(c)に示すように、吸引スリット27の上端縁31即ち吸引スリット27の幅広部上端縁31は、直線状に形成されるとともに、幅広部27aのガイド縁側端点J1が、ガイド縁29と反対側の側縁側端点J2よりも下流側となるように形成されており、図2(a),(b)において右斜め下に向かって延びるように形成されている。なお、「直線状」とは、厳密に全体が直線で形成されているのではなく、例えば、端部が曲線で形成されているものも含む意味である。吸引スリット27の上端縁31は、直線部及び直線部よりガイド縁29側の部分の吸引パイプ15の先端部からの距離がガイド縁29側ほど大きくなる(先端部から離れる)ように形成されている。
【0027】
この実施形態では、上端縁31のガイド縁側端部とガイド縁29の上流部29aが曲線部32で接続されている。ガイド縁側端点J1は、曲線部32の接線の傾きが繊維束走行方向Xと平行になる点となる。また、ガイド縁29と反対側の側縁30の上流部30bと上端縁31が曲線部32で接続されている。側縁側端点J2は、曲線部32の接線の傾きが繊維束走行方向Xと平行になる点となる。即ち、この実施形態では、上端縁31は厳密に言えば全体が直線で形成されるのではなく、その両端部は曲線で形成されている。
【0028】
図2(d)に示すように、幅広部27aのガイド縁側端点J1は、吸引パイプ15の案内面28と、吸引パイプ15の最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aとの対向面33とを繋ぐR部34の案内面28側に設定されている。この実施形態では、R部34の案内面28側の終点に設定されている。
【0029】
吸引パイプ15は、板金の曲げ加工により形成され、吸引スリット27の少なくとも上端縁31の側壁31aは板金の厚さ方向に延びるように形成されている。この実施形態では、吸引スリット27は、曲げ加工の前において平板に対するプレスあるいはレーザー加工により形成される。したがって、吸引スリット27は側壁全体が板金の厚さ方向に延びるように形成されている。なお、図1(a),(b)では、模式図のため押出しで成形した図で吸引パイプ15を表している。
【0030】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置12でドラフトされた後、最終送出ローラ対13から繊維束集束装置11へ案内される。ボトムニップローラ18a及びトップニップローラ19は最終送出ローラ対13の表面速度と略同等の速度で回転され、繊維束Fは適度な緊張状態で両ローラ18a,19のニップ点を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。また、繊維束Fは図示しないトラバース装置の作用により綾振り運動を行いながら移動する。繊維束Fの綾振り運動の範囲は、吸引スリット27の上端縁31の両端部より若干外側を含むように設定されている。なお、この綾振り運動の速度は繊維束Fの進行速度に比べて十分に小さい速度に設定される。
【0031】
また、ダクトの吸引作用が接続管26を介して吸引パイプ15に及び、案内面28に形成された吸引スリット27の吸引作用が通気搬送ベルト16を介して繊維束Fに及ぶ。そして、繊維束Fが吸引スリット27と対応する位置に吸引集束された状態で移動する。したがって、繊維束集束装置11の装備されない紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される。
【0032】
最終送出ローラ対13から送り出される繊維束Fは綾振り運動により通気搬送ベルト16の搬送方向と直行する方向(吸引スリット27の幅方向)への力を受ける。繊維束Fが吸引スリット27と対応する位置では、繊維束Fは吸引スリット27の吸引作用により通気搬送ベルト16の表面に押圧されるため、繊維束Fが吸引スリット27の幅方向へ移動し難くなる。
【0033】
吸引スリット27の幅広部27aのガイド縁側端点J1が、ガイド縁29と反対側の側縁側端点J2よりも下流側となるように形成されているため、吸引スリット27の幅広部27aのガイド縁側端位置が吸引パイプ15の先端部(繊維束の走行方向上流側端部)から離れる。そのため、吸引流速が増し、同部へ向かう吸引流が、図2(b),(c)に示すように、吸引スリット27の上端縁31のガイド縁29側端部より外側近傍に位置する繊維束Fに対して、繊維束Fを吸引スリット27の幅広部27a側へ移動させるように作用する力(2点鎖線矢印で図示)を及ぼし、その力が増すと推定される。その結果、繊維束Fがトラバース運動のガイド縁29側端にあっても、確実に吸引スリット27の幅広部27aに吸引され、弱糸の発生や毛羽の発生が抑制されると考えられる。
【0034】
図2(b)に示す形状の吸引スリット27が形成された吸引パイプ15を使用した場合と、比較例として吸引スリット27の上端縁31が吸引パイプ15の先端部と平行に形成された吸引パイプ15を使用した場合において、繊維束Fの綾振り運動を行わずに紡出を行った。そして、繊維束Fの走行位置を変更したそれぞれの場合において得られた紡績糸のヘアリネスと糸強力を測定した。結果を図3(a),(b)に示す。実施例として吸引パイプ15を押出し加工で形成したものと、板金の曲げ加工で形成したものの両者について行なった。紡績糸として綿100%で太さ50番手のものについて試験を行った。なお、ヘアリネスとは毛羽に関する評価項目であり次のように定義される。ヘアリネス:1cmの糸に対する、はみ出し繊維の合計長さ。
【0035】
図3(a),(b)において走行位置を示す横軸の値「0」は、繊維束Fのトラバース幅の中心位置に対応し、繊維束Fの吸引スリット27の上流端への進入位置がガイド縁29の下流端29dpより2mm右側と対応する位置を表す。「3」は「0」の位置から右側に3mmずれた位置を表し、「−3」は「0」の位置から左側に3mmずれた位置を表す。また、図3(a)の糸強力では、縦軸において上側に行くほど特性が良くなることを表し、図3(b)のヘアリネスでは、縦軸において下側に行くほど特性が良くなることを表す。
【0036】
図3(a)から、比較例(従来品)の場合に比べて、実施例(発明品)の場合は走行位置が、吸引スリット27の上端縁31のガイド縁側端位置の場合、糸強力の平均値が大きく向上し、糸強力の変動が小さいことが確認できる。また、図3(b)から、比較例(従来品)の場合に比べて、実施例(発明品)の場合は走行位置が、吸引スリット27の上端縁31のガイド縁側端位置の場合、ヘアリネスの変動が小さく、ヘアリネスの平均値も良くなっていることが確認できる。
【0037】
なお、吸引スリット27の上端縁31を図2において右下がりではなく、上端縁31全体が吸引パイプ15の先端部から離れるように形成した場合についても同様の試験を行なったが、糸強力の増大や毛羽の低減効果は見られなかった。
【0038】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束集束装置11はドラフト装置12の最終送出ローラ対13の下流側に設けられ、吸引スリット27を備えた案内面28を有する吸引パイプ15と、吸引パイプ15及びガイド部17に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する通気搬送ベルト16とを備えている。吸引スリット27の幅広部27aのガイド縁側端点J1が、ガイド縁29と反対側の側縁側端点J2よりも下流側となるように形成されている。したがって、繊維束Fのトラバース位置が吸引スリット27の幅広部27aのガイド縁側端部に位置するときの、糸強力の増大及び毛羽の低減を図ることができ、紡績糸品質のバラツキを低減することができる。
【0039】
(2)吸引スリット27の幅広部27aのガイド縁側端点J1は、吸引パイプ15の案内面28と、吸引パイプ15の最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aとの対向面33とを繋ぐR部34の案内面28側に設定されている。したがって、幅広部27aのガイド縁側端点J1での流速を従来以上に向上させつつ、幅広部27aのガイド縁側端点J1をR部34の終点を越えて案内面にまで下げた場合と比較して、フリーゲージ拡大による糸ムラ発生を抑制することが可能になる。そのため、幅広部27aのガイド縁側端点J1より外側近傍に位置する繊維束Fが、吸引気流の作用により吸引スリット27側へ移動され易くなり、繊維束Fがトラバース運動のガイド縁側端にあっても、より確実に吸引スリット27の幅広部27aに吸引される。
【0040】
(3)吸引パイプ15は、板金の曲げ加工により形成され、吸引スリット27の少なくとも上端縁31の側壁31aは板金の厚さ方向に延びるように形成されている。したがって、吸引パイプ15を板金の曲げ加工により形成した場合の利点を有するとともに、幅広部27aのガイド縁側端点J1がガイド縁29と反対側の側縁側端点J2よりも下流側に位置すること自体で、曲げ加工により上端縁の側壁が傾斜するデメリットを軽減できる。そのため、ガイド縁側端点J1より外側近傍に位置する繊維束Fが吸引スリット27側へ移動され易くなる。吸引パイプ15を板金の曲げ加工により形成した場合の利点としては、例えば、押出し加工等にて形成されたものと比較して、吸引パイプ15の厚さを薄く形成することにより、同じ大きさの外形を有する吸引パイプ15を用いた場合でも、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができることが挙げられる。
【0041】
(4)吸引スリット27は、ガイド縁29と反対側の側縁30が特許文献1と同様に構成されている。したがって、側縁30の上流端の位置が、下流部30aを延長した仮想線L1が吸引スリット27の上端縁31の直線部を延長した仮想線L2と交差する位置よりガイド縁29側にずれていない場合に比べて、紡績糸品質のバラツキをより低減することができる。
【0042】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 吸引スリット27の上端縁31の形状は直線状に限らず、曲線や段部を有する形状であってもよい。
【0043】
○ 吸引スリット27の形状は、上端縁31とガイド縁29の上流部29a及び上端縁31と側縁30の上流部30bがそれぞれ曲線部32で連続する形状に限らず、直線で形成された上端縁31とガイド縁29、直線で形成された上端縁31と側縁30がそれぞれ直接接続される構成にしてもよい。
【0044】
○ 吸引スリット27は、繊維束移動方向上流側を上にして見た場合、吸引スリット27全体が右側に傾く配置に限らず、左側に傾く配置であってもよい。例えば、図4(a)に示すように、吸引スリット27の形状を、図2(b)に示す形状を繊維束走行方向Xに対して、対称形としたものでもよい。
【0045】
○ 吸引スリット27は、ガイド縁29の上流部29a及び下流部29bの両方が曲線で形成されていてもよい。
○ 吸引スリット27は、側縁30の下流部30aがガイド縁29と厳密に平行な直線状に延びる形状に限らない。例えば、側縁30の下流部30aとガイド縁29との距離が上流側ほど多少拡がる形状や、側縁30の下流部30a及びガイド縁29の下流部29bが直線状ではなく、下流端から連続的に湾曲する曲線で構成された形状としてもよい。
【0046】
○ 幅広部27aのガイド縁側端点J1は、吸引パイプ15の繊維束Fの案内面28と、吸引パイプ15の最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aとの対向面33とを繋ぐR部34の案内面28側の終点よりも下流側の案内面28に設定してもよい。この場合、幅広部27aのガイド縁側端点J1が吸引パイプ15の先端部での流速低下の影響を受けないので、より確実にトラバース右端(幅広部27aのガイド縁側端)の繊維束Fを吸引することができる。
【0047】
○ 幅広部27aのガイド縁側端点J1は、R部34の案内面28側の終点より対向面33側に位置するように形成してもよい。
○ 吸引パイプ15は板金の曲げ加工により形成されたものに限らず、押出し加工や引き抜き加工等で形成してもよい。
【0048】
○ 繊維束Fを搬送する通気搬送ベルト16を回転させる構成として、図4(c)に示すように、ボトムニップローラ18aより下流側にガイド面35aが円弧面状のガイド部材をガイド部35として設けてもよい。
【0049】
○ 通気搬送ベルト16を織布や編み地で形成する代わりに、ゴム製や弾性を有する樹脂製のベルトに多数の孔を開けて形成してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0050】
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記上端縁は直線状に形成されている。
(2)請求項1〜請求項4及び技術的思想(発明)の(1)のいずれか一項に記載の発明において、前記ガイド縁と反対側の側縁は、下流部が下流端から前記ガイド縁に沿って延びるように形成され、上流端は、前記側縁の下流部を延長した仮想線が前記吸引スリットの上流端の幅方向に延びる仮想線と交差する位置より前記ガイド縁側にずれ、かつ吸引スリットの上流端の幅が下流部の幅より広くなる位置に設定されている。
【0051】
(3)請求項1〜請求項4及び技術的思想(発明)の(1),(2)のいずれか一項に記載の発明の吸引パイプの製造方法であって、前記吸引パイプを板金の曲げ加工により形成し、金属製の平板に対して前記案内面となる部分に吸引スリットを形成した後、前記吸引パイプの所定の断面形状を有する筒状に曲げ加工を行う。
【符号の説明】
【0052】
F…繊維束、J1…ガイド縁側端点、J2…側縁側端点、11…繊維束集束装置、12…ドラフト装置、13…最終送出ローラ対、13a…フロントボトムローラ、15…吸引パイプ、16…通気搬送ベルト、17,35…ガイド部、27…吸引スリット、27a…幅広部、28…案内面、29…ガイド縁、30…側縁、31…上端縁、31a…側壁、33…対向面、34…R部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプ及びガイド部に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機における繊維束集束装置であって、
前記吸引スリットは、前記吸引スリットの幅方向における両側縁のうちの一方の側縁が前記繊維束を集束するガイド縁を構成するとともに前記両側縁及び前記吸引スリットの上端縁により下流側よりもスリット幅が広くなる幅広部が形成され、前記幅広部のガイド縁側端点が、前記ガイド縁と反対側の側縁側端点よりも下流側となるように形成されていることを特徴とする紡機における繊維束集束装置。
【請求項2】
前記幅広部の前記ガイド縁側端点は、前記吸引パイプの前記繊維束の案内面と、前記吸引パイプの前記最終送出ローラ対のフロントボトムローラとの対向面とを繋ぐR部の前記案内面側に設定されている請求項1に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項3】
前記幅広部の前記ガイド縁側端点は、前記吸引パイプの前記繊維束の案内面と、前記吸引パイプの前記最終送出ローラ対のフロントボトムローラとの対向面とを繋ぐR部の前記案内面側の終点よりも下流側の前記案内面に設定されている請求項1に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項4】
前記吸引パイプは、板金の曲げ加工により形成され、前記吸引スリットの少なくとも上端縁の側壁は前記板金の厚さ方向に延びるように形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の紡機における繊維束集束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87419(P2012−87419A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232244(P2010−232244)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】