説明

紡機の繊維束集束装置における吸引パイプ及びその製造方法

【課題】異形の吸引パイプの厚さを従来に比べて薄く形成しても必要な形状精度が確保され、同じ大きさの外形を有する吸引パイプを用いた場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】繊維束集束装置11は紡機のドラフトパートの最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリット23を備えた案内面14aを有する吸引パイプ14と、吸引パイプ14及びガイド部16に巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する通気搬送ベルト15とを備えている。吸引パイプ14は、金属製の同厚材の曲げ加工により形成された異形パイプで構成されている。金属製の同厚材として鋼板が使用されている。吸引パイプ14にはその長手方向に沿って延びるヘミング加工部25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機の繊維束集束装置における吸引パイプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトされた繊維束を撚り掛けの前に予め集束し、毛羽の低減や糸強力等の糸品質の向上を目的とした繊維束集束装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の繊維束集束装置は、図7に示すように、ドラフト装置を構成する最終ローラ対61の下流に、ニップローラ対62、吸引パイプ63及び通気エプロン64を備えている。ニップローラ対62のトップニップローラ62bはボトムニップローラ62aに通気エプロン(通気搬送ベルト)64を介して押圧される。吸引パイプ63は、ニップローラ対62のニップ点を挟んで繊維束Fの移動方向の上流側に設けられ、吸引孔(吸引スリット)63aを備えた案内面を有する。また、ニップローラ対62のニップ点を挟んで下流側には断面円弧状のガイド部材65を備えている。繊維束集束装置を通過する繊維束Fは吸引パイプ63に設けられた吸引孔63aに発生する吸引流により集束されつつニップ点へと移送される。
【0003】
吸引パイプはアルミニウムあるいはアルミニウム合金を素材とし、押出し加工あるいは引抜き加工にて成型された中空パイプに、吸引孔が加工にて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−107808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繊維束集束装置を通過する繊維束Fは、吸引パイプ63に設けられた吸引孔63aに発生する吸引流により集束されて送り出しニップ点(ニップローラ対62のニップ点)へと移送される。吸引孔63aの最下流側端部から送り出しのニップ点までの距離(図2(a)にA1で示す部分に相当)が長くなると、吸引孔63aにて集束された繊維束Fがニップ点に到達するまでに集束状態が乱れる懸念がある。また、吸引孔63aの最上流側端部から最終ローラ対61のニップ点までの距離(図2(a)にA2で示す部分に相当)が長くなると、吸引パイプ63の案内面上を移送される通気エプロン64への繊維束Fの受渡しの際にうまく受け渡されずに浮遊繊維となる繊維が発生する懸念がある。
【0006】
アルミニウムの押出し加工等により成型された吸引パイプ63の場合は通常肉厚が1〜1.5mmあり、吸引孔63aの最下流側端部から送り出しニップ点までの距離や、吸引孔63aの最上流側端部から最終ローラ対61のニップ点までの距離が長くなる。その結果、前述した繊維束の集束状態の乱れが生じたり、浮遊繊維となる繊維が発生したりする懸念がある。
【0007】
距離A1,A2を短くするため押出し加工あるいは引抜き加工により製造される異形の吸引パイプ63を薄肉化した場合は、軸方向の捩れや撓みが生じるため、形状精度の悪化が懸念され、距離A1,A2が錘毎に異なってしまうおそれがある。錘毎に距離A1,A2が異なってしまうと、錘間で糸品質にばらつきが生じてしまう。このため、異形の吸引パイプ63の薄肉化には限界が有り、距離A1,A2を所望の糸品質を得られるだけ短くすることができなかった。
【0008】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、異形の吸引パイプの厚さを従来に比べて薄く形成しても必要な形状精度が確保され、従来と同じ大きさの外形を有する吸引パイプを用いた場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質の向上を図ることができる紡機の繊維束集束装置における吸引パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束装置において、前記吸引パイプは、金属製の同厚材の曲げ加工により形成された異形パイプで構成されている。ここで、「同厚材」とは、厚さが一定の材料を意味し、平板に限らず、管も含む。また、「異形パイプ」とは断面が円形ではなく、吸引パイプの断面形状に対応した異なる曲率を有する面が連続するように形成されたパイプを意味する。
【0010】
この発明では、吸引パイプが金属製の同厚材の曲げ加工により形成された異形パイプで構成されているため、押出し加工あるいは引抜き加工にて形成されたものと比較して、厚さを薄くしても必要な形状精度を確保できる。したがって、錘間の糸品質のばらつきを抑制しつつ吸引パイプの厚さを従来に比べて薄く形成することができ、従来と同じ大きさの外形を有する吸引パイプを用いた場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記同厚材は鋼製である。吸引パイプの材料として鋼を使用した場合は、吸引パイプの厚さを薄くした場合の剛性の確保、素材価格の点で好ましい。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記異形パイプはその長手方向に沿って延びるヘミング加工部を有する。ヘミング加工部が存在するため、平板の両端面を突き合わせた状態や平板の両端部を単に重ね合わせた状態で筒状に形成された場合に比べて、吸引パイプの気密性と強度の確保をし易い。
【0013】
請求項4に記載の発明は、紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法である。そして、金属製の同厚材に前記吸引スリットを加工する吸引スリット加工工程と、前記同厚材を曲げ加工する曲げ加工工程とを備えている。
【0014】
この発明では、金属製の同厚材の曲げ加工により吸引パイプが形成される。押出し加工あるいは引抜き加工にて形成されたものと比較して、厚さを薄くしても必要な形状精度を確保できる。したがって、錘間の糸品質のばらつきを抑制しつつ吸引パイプの厚さを従来に比べて薄く形成することができ、従来と同じ大きさの外形を有する吸引パイプを用いた場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、同厚材を所定の断面形状を有する筒状に曲げ加工する前に、案内面となる部分に吸引スリットが形成される。吸引スリット加工工程で形成された吸引スリットの周囲生じたバリやカエリの除去は、同厚材の曲げ加工前に行われる。バリやカエリの位置が、同厚材が筒状に曲げ加工された際に、吸引パイプの内部側あるいは外部側となる位置のいずれであっても、吸引スリット加工工程で生じたバリやカエリ等の除去の工数を従来に比べて小さくすることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記曲げ加工工程は、前記同厚材をプレス型の往復移動により曲げ加工する。この発明では、ロールフォーミングにより曲げ加工を行う場合と異なり、曲げ加工の際に吸引スリットが変形し難い。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記曲げ加工工程は、前記同厚材をロールフォーミングにより曲げ加工する。この発明では、プレス方式で行う場合のように、継ぎ合わせ部をシール溶接する作業を全ての曲げ加工終了後に行うのではなく、先ず、平板を丸パイプの状態に成型して端面の継ぎ合わせ部全長にわたってシール溶接を行った後、ロールフォーミングで所定の異形断面形状に曲げ加工を行うことができる。この場合、端面の継ぎ合わせを、異形断面に成型する前の丸パイプ成型段階で行うため、継ぎ合せ部の内周面に生じたバリを容易に除去することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によれば、異形の吸引パイプの厚さを従来に比べて薄く形成した場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われるため、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は一実施形態の繊維束集束装置の一部破断概略側面図、(b)吸引パイプの部分斜視図。
【図2】(a)はアルミニウムの押し出し成形で形成された吸引パイプの吸引孔とニップ点との関係を示す模式図、(b)は金属製平板の曲げ加工で形成された吸引パイプの吸引孔とニップ点との関係を示す模式図。
【図3】吸引パイプの製造手順を示すフローチャート。
【図4】(a),(b)は別の実施形態の吸引パイプの断面図。
【図5】(a),(b)はそれぞれ別の実施形態の繊維束集束装置の一部破断部分側面図。
【図6】別の実施形態の繊維束集束装置の一部破断部分側面図。
【図7】従来技術の繊維束集束装置の一部破断部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を精紡機に装備される繊維束集束装置の吸引パイプに具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、繊維束集束装置11は、ドラフト装置の最終送出ローラ対12の下流側に設けられている。繊維束集束装置11は送出部13、吸引パイプ14、通気搬送ベルト15及びガイド部16を備えている。送出部13は、最終送出ローラ対12のフロントボトムローラ12aと平行に配設された回転軸17に形成されたボトムニップローラ17aと、ボトムニップローラ17aに通気搬送ベルト15を介して押圧されるトップニップローラ18とで構成されている。トップニップローラ18はドラフト装置のフロントトップローラ12bと同様に2錘毎に、支持部材19を介してウエイティングアーム(図示せず)に支持されている。支持部材19はフロントトップローラ12bの支持部材と一体に形成されている。吸引パイプ14は、送出部13のニップ点に対して繊維束Fの移動方向の上流側に設けられている。通気搬送ベルト15は、例えば、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。通気搬送ベルト15は、一部が吸引パイプ14に、一部がガイド部16に、一部がボトムニップローラ17aに接触するように巻き掛けられた状態で回転されて繊維束Fを搬送する。
【0021】
繊維束集束装置11は、吸引パイプ14を除いて基本的に特許文献1に記載された繊維束集束装置と同様に構成されている。そして、回転軸17には、フロントボトムローラ12aの回転が、フロントボトムローラ12aに形成されたギヤ部、中間ギヤ20及び回転軸17に形成されたギヤ部を介して伝達されるようになっている。
【0022】
吸引パイプ14、ガイド部16及び回転軸17は、複数錘(例えば、8錘)と対応する所定長さに形成され、その両端において一対のエンドプラグを介して支持部(いずれも図示せず)に支持されている。また、吸引パイプ14は接続管21を介して繊維束集束装置11用の吸引源(負圧源)としてのダクト(図示せず)に接続されている。なお、ガイド部16の下方近傍には、糸切れ時にドラフト装置から送出される繊維束Fを吸引する作用をなすシングルタイプのニューマ装置の吸引ノズル22の先端がそれぞれ配設されている。吸引ノズル22の基端は全錘共通のニューマダクト(図示せず)に接続されている。
【0023】
図1(b)に示すように、吸引パイプ14は、外側に凸となるように湾曲形成された案内面14aを有し、案内面14aには吸引パイプ14の長手方向と交差する方向に延びる吸引スリット23が所定ピッチ(紡機の錘ピッチ)で複数形成されている。吸引スリット23は、案内面14aの幅方向(吸引パイプ14の長手方向と直交する方向)のほぼ全長にわたって延びるように形成されている。吸引パイプ14は、案内面14aが繊維束Fの通過経路と対応する状態で繊維束集束装置11に組み付けられ、通気搬送ベルト15の一部が案内面14aに巻き掛けられる。
【0024】
吸引パイプ14は、案内面14aの繊維束移動方向下流端に連続する部分24aがボトムニップローラ17aの表面に沿って延びる形状に形成され、案内面14aの繊維束移動方向上流端に連続する部分24bが内側に凸となる形状に形成されている。案内面14aと部分24aとはその連続部がボトムニップローラ17aとトップニップローラ18とによる繊維束Fのニップ点に近づき易くするため、鋭角を成すように形成されている。また、案内面14aと部分24bとはその連続部が最終送出ローラ対12による繊維束Fのニップ点に近づき易くなるように、連続部の曲率半径が小さく形成されている。
【0025】
吸引パイプ14は、その長手方向に沿って延びるヘミング加工部25が、部分24aと部分24bとの連結部に形成されている。ヘミング加工部25は、吸引パイプ14が繊維束集束装置11に組み付けられた状態において、通気搬送ベルト15と干渉しない方向に延びるように形成されている。吸引パイプ14は、金属製の同厚材(この実施形態ではステンレス鋼の薄板)の曲げ加工により形成された異形パイプで構成されている。
【0026】
次に吸引パイプ14の製造方法を説明する。図3に示すように、製造方法は、吸引スリット加工工程、バリ除去工程、曲げ加工工程、ヘミング加工工程、スポット溶接工程(又はプラグ溶接工程)を備えている。
【0027】
吸引スリット加工工程では、金属製の平板に打ち抜き加工あるいはレーザー加工で平板の所定位置に吸引スリット23を形成する。このとき、吸引スリット23だけでなく接続管21が連結される孔も形成される。吸引スリット加工工程で形成された吸引スリット23や孔の周囲にはバリやカエリが生じる。この実施形態ではバリやカエリの除去は、平板の曲げ加工工程の前に行われるため、バリやカエリの除去作業を平板の状態で行うことができ、バリやカエリの除去作業を平板が筒状に曲げ加工された後に行う場合に比べて容易に行うことができる。また、吸引スリット加工工程において吸引スリット23が平板のどちらの面から形成されたのかに関わりなく、曲げ加工を行うことができる。
【0028】
ヘミング加工工程は曲げ加工工程の一部を構成し、部分24aの自由端側端部の屈曲部に部分24bの自由端側端部挟まれた状態で部分24aの自由端側端部の屈曲部のヘミング曲げ加工が行われ、吸引パイプ14の長手方向全長にわたって延びるヘミング加工部25が形成される。ヘミング曲げ加工の完了により、平板は所望の断面形状を有する吸引パイプ14と同じ断面形状の筒状になる。
【0029】
ヘミング加工部25の存在により、吸引パイプ14が繊維束集束装置11の所定位置に組み付けられた状態において気密性は確保される。しかし、ヘミング加工部25の存在だけでは、吸引パイプ14を取り扱う際に、捩り力や曲げ力が加えられた場合に吸引パイプ14の剛性が不足する場合がある。そのため、スポット溶接工程において、ヘミング加工部25にスポット溶接が行われる。
【0030】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置でドラフトされた後、最終送出ローラ対12から繊維束集束装置11へ案内される。ボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18は最終送出ローラ対12の表面速度と略同等の速度で回転され、繊維束Fは適度な緊張状態でボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18のニップ点(送り出しニップ点)を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。
【0031】
また、ダクトの吸引作用が接続管21を介して吸引パイプ14に及び、案内面14aに形成された吸引スリット23の吸引作用が通気搬送ベルト15を介して繊維束Fに及ぶ。そして、繊維束Fが吸引スリット23と対応する位置に吸引集束された状態で移動する。したがって、繊維束集束装置11の装備されない紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される。
【0032】
繊維束集束装置11を通過する繊維束Fは、吸引パイプ14に設けられた吸引スリット23に発生する吸引流により集束されて送り出しニップ点へと移送される。吸引スリット23の最下流側端部から送り出しニップ点までの距離が長くなると、吸引スリット23にて集束された繊維束Fが送り出しニップ点に到達するまでに集束状態が乱れる懸念がある。また、吸引スリット23の最上流側端部から最終送出ローラ対12のニップ点までの距離が長くなると、吸引パイプ14の案内面14a上を移送される通気搬送ベルト15への繊維束Fの受渡しの際にうまく受け渡されずに浮遊繊維となる繊維が発生する懸念がある。
【0033】
従来技術のように吸引パイプ14がアルミニウム等の押出し加工で成型された場合は、吸引パイプ14の形状精度確保のため肉厚を厚くする必要がある。そのため、図2(a)に示すように、吸引スリット23の最下流側端部から送り出しニップ点までの距離A1及び吸引スリット23の最上流側端部から最終送出ローラ対12のニップ点までの距離A2が長くなる。
【0034】
一方、本実施形態では、吸引パイプ14が鋼の薄板を材料として曲げ加工により形成されているため、必要な形状精度を確保した状態で肉厚を従来に比べて薄くすることができる。そのため、吸引スリット23の最下流側端部を極力送り出しニップ点に近づけることができ、図2(b)に示すように、吸引スリット23の最下流側端部から送り出しニップ点までの距離B1は従来技術の対応する距離A1より短くなる。また、吸引スリット23の最上流側端部から最終送出ローラ対12のニップ点までの距離B2は、従来技術の対応する距離A2より短くなる。その結果、集束された繊維束Fの受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができる。
【0035】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束集束装置11において、吸引パイプ14は、金属製の平板(同厚材)の曲げ加工により形成されているため、従来技術のように押出し加工等にて形成されたものと比較して、曲げ加工工程に用いられる型の精度を管理することで、厚さを薄くしても必要な形状精度を確保できる。そして、案内面14aに形成された吸引スリット23の最下流側端部から繊維束送り出しニップ点までの距離や、吸引スリット23の最上流側端部からドラフト装置の最終送出ローラ対12のニップ点までの距離を従来に比べて短くすることができる。したがって、吸引パイプ14の厚さを従来に比べて薄く形成することにより、従来と同じ大きさの外形を有する吸引パイプ14を用いた場合でも、集束された繊維束の受渡し、移送がスムーズに行われて、糸品質(糸むら、糸毛羽、糸強力)の向上を図ることができる。
【0036】
(2)金属製の平板として鋼製の平板が使用されているため、吸引パイプ14の厚さを薄くした場合の剛性の確保、素材価格の点で好ましい。
(3)吸引パイプ14はその長手方向に沿って延びるヘミング加工部25を有する。ヘミング加工部25が存在するため、平板の両端面を突き合わせた状態や平板の両端部を単に重ね合わせて筒状に形成された場合に比べて、吸引パイプ14の気密性と強度の確保をし易い。
【0037】
(4)吸引パイプ14のヘミング加工部25にはスポット溶接が施されている。ヘミング加工部25が存在するだけでは、吸引パイプ14を取り扱う際に、捩り力や曲げ力が加えられた場合に吸引パイプ14の剛性が不足する場合がある。しかし、ヘミング加工部25にスポット溶接が施されていることにより、剛性を確保することができる。
【0038】
(5)吸引パイプ14の製造方法は、金属製の平板を材料として使用し、平板に吸引スリット23を加工する吸引スリット加工工程と、吸引スリット加工工程で形成された吸引スリット23の周囲のバリを除去するバリ除去工程と、平板を曲げ加工する曲げ加工工程とを備えている。そして、平板を所定の断面形状を有する筒状に曲げ加工する前に、案内面14aとなる部分に吸引スリット23が形成される。吸引スリット加工工程で形成された吸引スリット23の周囲生じたバリやカエリの除去が、平板の曲げ加工後に行われても、平板が筒状に曲げ加工された際に、バリやカエリが吸引パイプの外部側となるように曲げ加工を行うことにより、バリやカエリの除去の工数を従来に比べて小さくすることができる。
【0039】
(6)平板のプレス型往復移動による曲げ加工は、ロールフォーミングによっても可能であるが、ロールフォーミングの場合と異なり、曲げ加工の際に吸引スリット23に無理な力が作用する虞がないため、吸引スリット23が変形し難い。
【0040】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 金属製の平板を材料とする吸引パイプ14の製造方法において、バリ除去工程を曲げ加工工程より前に行う代わりに、曲げ加工工程より後に行うようにしてもよい。この場合は、バリやカエリが筒の外側になるように曲げ加工を行うことにより、バリやカエリ等の除去の工数を従来に比べて小さくすることができる。
【0041】
○ 金属製の平板を材料とする吸引パイプ14の製造方法において、曲げ加工はプレス型の往復移動により行う方法に限らない。例えば、ヘミング加工を行う前の形状までロールフォーミングにより曲げ加工を行い、最後のヘミング加工のみプレス型の往復移動により行うようにしてもよい。
【0042】
○ 吸引パイプ14は、ヘミング加工部25を有する構成に限らず、例えば、図4(a)に示すように、部分24aの案内面14a側と反対側の端面と、部分24bの案内面14a側と反対側の端面とが当接する状態に曲げ加工を行い、気密性及び強度を確保するため当接部(継ぎ合わせ部)全長にわたってシール溶接を行ってもよい。シール溶接の代わりに、当接部を全長にわたって接着で固定してもよい。また、当接部の全長にわたって延びるように別部材、例えば接着テープを貼り合わせてもよい。
【0043】
○ 自由端の端面同士を当接させる代わりに、図4(b)に示すように、自由端の端部が重なる状態に曲げ加工を行い、重なり部の全長にわってシール溶接を行ったり、接着テープを貼り合わせたりしてもよい。
【0044】
○ 図4(a),(b)に示す吸引パイプ14の製造方法においては、平板の曲げ加工をロールフォーミングのみで行うようにしてもよい。ロールフォーミングで行う場合、プレス方式で行う場合のように、継ぎ合わせ部をシール溶接する作業を全ての曲げ加工終了後に行うのではなく、先ず、平板を丸パイプの状態に成型して端面の継ぎ合わせ部全長にわたってシール溶接を行った後、ロールフォーミングで所定の異形断面形状に曲げ加工を行うようにしてもよい。この場合、端面の継ぎ合わせを、異形断面に成型する前の丸パイプ成型段階で行うため、継ぎ合せ部の内周面に生じたバリを容易に除去することが可能である。
【0045】
○ 吸引パイプ14の材料は金属製の平板に限らず、厚さが一定の金属パイプ、例えば、ステンレス鋼パイプであってもよい。金属パイプを材料とした場合は、ロールフォーミングで所定の異形断面に成型する。この場合は継ぎ合わせ部のバリ除去工程そのものが必要なくなる。また、吸引スリット23及び接続管21が連結される孔の加工は、金属パイプを異形断面に成型する前の丸パイプの状態で、吸引スリット打ち抜き用の型を金属パイプの内側に配置して、その型を丸パイプの径方向外側に向かって移動させることによりバリやカエリが案内面14aの外面側に生じるように行う。そのため、吸引スリット23及び接続管21が連結される孔の周囲に生じるバリやカエリの除去を容易に行うことができる。
【0046】
○ 吸引スリット23の加工は、打ち抜き加工あるいはレーザー加工に限らず、例えば、フライス加工や放電加工で行ってもよい。
○ 吸引スリット23の加工がレーザー加工である場合、バリやカエリの量が僅かであるので、バリ除去工程は省略してもよい。
【0047】
○ 吸引パイプ14の金属材料は、吸引パイプ14の剛性を確保した状態で肉厚を薄くできればよく、鋼に限らずアルミニウムより強度の大きな金属で曲げ加工が可能なものであればよい。
【0048】
○ 送出部13のニップ点に対して繊維束Fの移動方向の下流側に設けられるガイド部16はガイド面が円弧面状のものに限らない。また、その配置位置もガイド部16の一端が送出部13のニップ点の近傍となる位置に限らず、例えば、図5(a)に示すように、ガイド部16をボトムニップローラ17aの下方に配置し、通気搬送ベルト15がボトムニップローラ17aの繊維束案内側と反対側においてはボトムニップローラ17aから離れた位置を移動するようにしてもよい。この場合ガイド部16は、通気搬送ベルト15に対してテンション付与可能に構成されている。
【0049】
○ 繊維束集束装置11の送出部13は、ボトムニップローラ17a及びトップニップローラ18からなるニップローラ対を装備する構成に限らない。例えば、図5(b)に示すように、断面略卵形の吸引パイプ30を設け、吸引パイプ30の所定位置に吸引スリット30aを形成する。そして、吸引パイプ30及びテンションローラ31の外周に沿って通気搬送ベルト15を摺動可能に巻き掛ける。また、ギヤ32を介してフロントトップローラ12bの回転をトップニップローラ18に伝達し、トップニップローラ18を通気搬送ベルト15に圧接しながら駆動することで通気搬送ベルト15を駆動するようにしてもよい。この場合、吸引スリット30aの最下流側端部から繊維束送り出しニップ点までの距離及び吸引スリット30aの最下流側端部からドラフト装置の最終ローラ対のニップ点までの距離は、いずれも前記実施形態に比べて短くすることができる。
【0050】
○ 吸引パイプ14と吸引源のダクトとを接続して吸引パイプ14に負圧を作用させる接続管21は、フロントボトムローラ12aの上方に配置される構成に限らず、例えば、図6に示すように、中間ギヤ20の前側に配置され、ドラフト装置の下方に配置されたダクト(図示せず)に連結される構成としてもよい。
【0051】
○ 第1の実施形態において、ガイド部16を省略して吸引パイプ14とボトムニップローラ17aにのみ通気搬送ベルト15が巻き掛けられるようにしたり、図5(b)に示す別の実施形態において、テンションローラ31を省略して吸引パイプ30にのみ通気搬送ベルト15が巻き掛けられるようにしてもよい。
【0052】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項4に記載の発明において、前記曲げ加工工程の後にヘミング加工工程を備えている。
【0053】
(2)請求項4及び前記技術的思想(1)のいずれか1項に記載の発明において、前記曲げ加工工程は前記吸引スリット加工工程で発生したバリが吸引パイプの外側になるように行われ、前記バリ除去工程は前記曲げ加工工程の後に行われる。
【符号の説明】
【0054】
F…繊維束、11…繊維束集束装置、12…最終送出ローラ対、14,30…吸引パイプ、14a…案内面、15…通気搬送ベルト、16…ガイド部、23,30a…吸引スリット、25…ヘミング加工部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束集束装置において、
前記吸引パイプは、金属製の同厚材の曲げ加工により形成された異形パイプで構成されている紡機の繊維束集束装置における吸引パイプ。
【請求項2】
前記同厚材は鋼製である請求項1に記載の紡機の繊維束集束装置における吸引パイプ。
【請求項3】
前記異形パイプはその長手方向に沿って延びるヘミング加工部を有する請求項1又は請求項2に記載の紡機の繊維束集束装置における吸引パイプ。
【請求項4】
紡機のドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた案内面を有する吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトとを備えた紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法であって、
金属製の同厚材に前記吸引スリットを加工する吸引スリット加工工程と、前記同厚材を曲げ加工する曲げ加工工程とを備えている紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法。
【請求項5】
前記吸引スリット加工工程で形成された吸引スリット周囲のバリを除去するバリ除去工程を前記曲げ加工工程より前に有する請求項4に記載の紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法。
【請求項6】
前記曲げ加工工程は、前記同厚材をプレス型の往復移動により曲げ加工する請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法。
【請求項7】
前記曲げ加工工程は、前記同厚材をロールフォーミングにより曲げ加工する請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の紡機の繊維束集束装置における吸引パイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−122260(P2011−122260A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279480(P2009−279480)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】