説明

紡糸巻取設備

【課題】限られた工場の配置スペースにおいて多くの巻取装置を配置できる紡糸巻取設備を提供する。
【解決手段】複数の巻取装置10を配置する、紡糸巻取設備50であって、複数の第一巻取装置10Aと、複数の第二巻取装置10Bと、を含み、前記第一巻取装置10Aと前記第二巻取装置10Bとは、それぞれ、ローラ部20と、パッケージ形成部30と、を備え、前記第一巻取装置10Aと前記第二巻取装置10Bとについて、それぞれ、前記ローラ部20に対して糸掛け作業を行う側を正面側FSとし、その反対側を背面側HSとし、前記パッケージ形成部30からパッケージを払い出す作業を行う側を払い出し作業側PSとしたときに、一対の前記第一巻取装置10Aと前記第二巻取装置10Bとは、それぞれの背面側HSを対向させ、かつ、接近させて配置することで巻取装置群80を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取設備の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紡糸装置と巻取装置とを備える紡糸巻取装置からなる紡糸巻取設備は公知である。巻取装置は、紡糸装置から紡糸された糸条が掛けられて下流側に送り出すローラを備えたローラ部と、前記糸条の走行方向に対して前記ローラ部の下流側に配置され、前記糸条を巻き取ってパッケージを形成するパッケージ形成部と、を備えている。例えば、特許文献1は、紡糸巻取装置として紡糸引取装置を開示している。
【0003】
図5を用いて、特許文献1に開示されるような従来の紡糸巻取装置が配置される紡糸巻取設備150について説明する。
紡糸巻取設備150において、巻取装置110には、作業者がローラ部に対し糸を掛ける作業を行う糸掛け作業空間175をそれぞれの巻取装置110に隣接して設ける必要がある。従来では、1つの巻取装置110と、1つの巻取装置110に隣接する1つの糸掛け作業空間175と、が配置されていた。
しかし、現在、製品の生産拡大のため、工場において多くの巻取装置を配置する必要が生じており、工場において多くの巻取装置を配置できる紡糸巻取設備が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/126413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、限られた工場の配置スペースにおいて多くの巻取装置を配置できる紡糸巻取設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
第1の発明によれば、複数の巻取装置を配置する、紡糸巻取設備であって、複数の第一巻取装置と、複数の第二巻取装置とを含み、前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とは、それぞれ、紡糸装置で紡糸された糸条を案内するゴデットローラと、前記糸条を下流側に送り出す糸送りローラと、を備えたローラ部と、複数のボビンが装着されるボビンホルダを備え、前記ローラ部の下流側で前記糸条を前記ボビンに巻き取ってパッケージを形成するパッケージ形成部と、を備え、前記ゴデットローラの軸及び前記糸送りローラの軸は、前記ボビンホルダの軸と直交しており、前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とについて、それぞれ、前記ローラ部に対して糸掛け作業を行う側を正面側とし、その反対側を背面側とし、一対の前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とは、それぞれの背面側を対向させ、かつ、接近させて配置することで巻取装置群を構成し、更に、一対の前記巻取装置群は、前記正面側を対向させ、かつ、一対の前記巻取装置群の間に、前記ローラ部に対する糸掛け作業を行うための共通の糸掛け作業空間を確保して配置される、ものである。
【0008】
第2の発明によれば、第1の発明において、前記パッケージ形成部からパッケージを払い出す作業を行う側を払い出し作業側とし、その反対側をボビンホルダ根元側としたときに、
前記ゴデットローラは、前記ボビンホルダ根元側に配置される、ものである。
【0009】
第3の発明によれば、第1又は2の発明において、一対の巻取装置群は前記払い出し作業側を対向して配置され、対向して配置された一対の巻取装置群の間は台車通路とされる、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紡糸巻取設備によれば、限られた工場の配置スペースにおいて多くの巻取装置を配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る紡糸巻取装置の全体的な構成を示した斜視図。
【図2】同じく巻取装置群を示す平面図。
【図3】同じく側面図。
【図4】同じく紡糸巻取設備を示す平面図。
【図5】従来の紡糸巻取設備を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る紡糸巻取装置の全体的な構成を示した斜視図、図2は同じく巻取装置群を示す平面図、図3は同じく側面図である。図4は同じく紡糸巻取設備を示す平面図、図5は従来の紡糸巻取設備を示す平面図である。
【0013】
図1を用いて本発明の実施形態に係る紡糸巻取装置の全体構成について説明する。
紡糸巻取装置は、高温で溶解させた熱可塑性樹脂(ポリマー)を細いノズルから押しだし、冷却しながら巻き取って糸条にする装置である。紡糸巻取装置は、POY(一部延伸糸条)を巻取るPOY用紡糸装置と、FDY(延伸糸条)を巻取るFDY用紡糸装置と、の2種類の装置がある。本発明に係る紡糸巻取装置については、POY用紡糸装置又はFDY用紡糸装置のどちらの装置についても適用できるが、本実施形態は、POY用紡糸装置として説明する。
【0014】
紡糸巻取装置は、主にフィラメントFを紡出する紡糸装置5と、紡糸装置5から紡出されるフィラメントFを束ねて複数本の糸条Yとし、複数本の糸条Yを複数のボビン31で巻き取って、複数のパッケージ34とする巻取装置10と、から構成されている。
【0015】
巻取装置10は、フィラメントFを束ねて糸条Yとするガイド6と、糸条Yが掛けられて下流側に送り出す複数のローラを備えたローラ部20と、ローラ部20から送り出された糸条Yをボビン31に巻き取るパッケージ形成部30と、から構成されている。
【0016】
紡糸装置5は、複数のフィラメントFを紡出し、紡出されたフィラメントFを上方から下方に向けて供給するものである。紡糸装置5は、投入された合繊原料(フィラメントFの原料)を押出機を用いて圧送することにより、スピニングヘッド(図示略)に設けられた複数の紡出口から紡出する装置である。
【0017】
そして、スピニングヘッドの紡出口から紡出された複数のフィラメントFは、所定の本数毎に束ねられて複数本の糸条Yを構成し、ローラ部20へ導かれる。つまり、フィラメントFを束ねて成る糸条Yが複数本構成されて、この複数本の糸条Yがローラ部20へ導かれるのである。
【0018】
ローラ部20は、紡糸装置5からパッケージ形成部30へ向かう流れにおいて、上流側にゴデットローラ21と、下流側に糸送りローラ22・22と、を備えている。糸送りローラ22は、パッケージ形成部30に向けて糸条Yを送り出すローラである。
【0019】
パッケージ形成部30は、複数本の糸条Yをそれぞれのボビン31に巻き取るものである。巻取装置10は、回転することによって糸条Yを巻き取るボビン31と、複数のボビン31が装着されるボビンホルダ軸32と、ボビン31に巻き取られる糸条Yを綾振するトラバース装置33と、ボビン31ならびに該ボビン31上に形成されたパッケージ34を従動回転させる回転ローラ(図示略)と、トラバース装置33や回転ローラを駆動する駆動装置35と、から構成される。
【0020】
パッケージ形成部30に導かれたそれぞれの糸条Yは、トラバース装置33によって左右方向(ボビンホルダ軸32の軸方向)に綾振されて回転するボビン31に巻き取られる。そして、ボビン31に巻き取られた糸条Yは、該ボビン31上にパッケージ34を形成するのである。
【0021】
このように、巻取装置10は、複数のフィラメントFを紡出して束ねることで複数本の糸条Yを構成し、所望の特性の糸条を得ることを可能としている。そして、巻取装置10は、このようにして製造された糸条Yを巻き取ることでパッケージ34を作成する。
【0022】
図2を用いて、本発明の実施形態である巻取装置群80について説明する。
本発明の実施形態である巻取装置群80は、第一巻取装置10Aと、第二巻取装置10Bと、を備えている。第一巻取装置10Aおよび第二巻取装置10Bは、ローラ部20およびパッケージ形成部30の配置が異なるのみの構成であって、ローラ部20およびパッケージ形成部30自体の構成、並びにその他の機器類は同一の装置である。以下では、第一巻取装置10Aと第二巻取装置10Bとを区別することなく説明する場合は、巻取装置10として説明する。
【0023】
まず、各巻取装置10の向きを説明するため、巻取装置10の正面側FSと背面側HSとを定義する。正面側FSとは、作業者によって、ローラ部20に対して糸掛け作業が行われる側である。糸掛け作業とは、紡糸装置5からフィラメントFの供給が開始され、糸条Yの巻き取りを開始する時に、糸条Yを紡糸装置5からローラ部20を経てパッケージ形成部30まで供給するため、作業者が正面側FSから糸条Yをローラ部20のゴデットローラ21に掛ける作業である。また、背面側HSとは、巻取装置10において、正面側FSの反対側である。
【0024】
また、巻取装置10の払い出し作業側PSとボビンホルダ根元側NSとを定義する。払い出し作業側PSとは、作業者によって、巻取装置10からパッケージ34を取り出す側とする。払い出し作業とは、パッケージ34が形成された後に、払い出し作業側PSからパッケージ34を取り出す作業である。また、作業者は、パッケージ34が取り出された後に、空のボビン31を払い出し作業側PSからボビンホルダ軸32に装着させる。
【0025】
ボビンホルダ根元側NSとは、巻取装置10において、払い出し作業側PSの反対側である。本実施形態の巻取装置10において、ローラ部20のゴデットローラ21は、ボビンホルダ根元側NSに配置されている。
【0026】
従って、第一巻取装置10Aは、図面上、正面側FSに向かって、ゴデットローラ21が右側(ボビンホルダ根元側NS)に設けられる構成の巻取装置10であり、第二巻取装置10Bは、正面側FSに向かって、ローラ部20が左側(ボビンホルダ根元側NS)に設けられる構成の巻取装置10である。そして、巻取装置群80は、第一巻取装置10Aの背面側HSと、第二巻取装置10Bの背面側HSと、を対向するように、かつ接近させて配置されている。また、巻取装置群80は、第一巻取装置10Aの払い出し作業側PSと、第二巻取装置10Bの払い出し作業側PSと、が同じ方向を向くように配置されている。
【0027】
ここで、第一巻取装置10Aと、第二巻取装置10Bを接近させて配置する幅(以下、接近幅Dとする)について説明する。接近幅Dは、巻取装置10をメンテナンスする時に必要な最小限の空間以上であることが必要であり、また、巻取装置10を背面側HSにオフセットするときのオフセット量Sによっても決定される。
【0028】
図3を用いて、オフセット量Sについて説明する。巻取装置10において、正面側FSから背面側HSに向かう方向を前後方向とすると、巻取装置10は、前後方向に向かって、前後方向の中心線を、巻取装置10に対応する紡糸装置5の前後方向の中心線に対し背面側HSに向かってオフセットして配置されている。巻取装置10の前後方向の中心線とは、糸条Yをローラ部20に導くガイド6のうち、ローラ部20の直前に配置されるガイド6の中心線とする。また、紡糸装置5の前後方向の中心線とは、本実施形態のように1台の紡糸装置5に連設される紡糸パックによって構成される紡糸幅Wの紡糸幅方向と、巻取装置10の前後方向が平行な場合は、紡糸幅Wの中心線とする。
【0029】
紡糸装置5から降りてくるフィラメントFは、多くの紡糸パック(図示略)からゴデットローラ21の直前のガイド(図示略)まで、前後方向において、逆三角形状に集められる。このとき、フィラメントFはガイドに対して所定の角度(例えば15度以下)とする必要がある。これは、フィラメントFが所定の角度より大きい角度でガイドに進入すると、ガイドとフィラメントFが擦れ、フィラメントFの品質に差が出るおそれがあるからである。よって、巻取装置10の最大のオフセット量Sは、全てのフィラメントFがガイドに対して所定の角度以下となるオフセット量となる。
【0030】
図4を用いて、紡糸巻取設備50について説明する。
巻取装置群80は、巻取装置10の背面側HSを対向して構成されているため、隣接する巻取装置群80は、巻取装置10の正面側FSを対向させることになる。また、巻取装置群80は、隣接する巻取装置群80・80の間にローラ部20に対する糸掛け作業を行うための共通の糸掛け作業空間75を確保して配置されている。
【0031】
糸掛け作業空間75は、1人の作業者が、糸掛け作業空間75に正面側FSを向ける巻取装置10・10のそれぞれについて糸掛け作業を行える必要な最小限の空間とする。つまり、糸掛け作業空間75は、2人の作業者が、正面側FSを対向する巻取装置10・10のそれぞれについて糸掛け作業を行うことのできる空間よりも狭い空間とされている。
【0032】
また、紡糸巻取設備50は、2つの巻取装置列70と、台車を通過させるための台車通路55と、を備えている。巻取装置列70には、4つの巻取装置群80が並列に配置されている。そして、2つの巻取装置列70において、全ての巻取装置10は、払い出し作業側PSが台車通路55を向くように配置されている。
【0033】
このような構成とすることで、以下の効果が得られる。
すなわち、隣接する巻取装置群80は、糸掛け作業空間75を共通の空間とするため、2つの巻取装置10に対して1つの糸掛け作業空間75が配置される。従来は、1つの巻取装置10に対して1つの糸掛け作業空間75が配置されていたため、本実施形態によれば、2つの巻取装置10に対して1つの糸掛け作業空間75を省くことができる。そのため、紡糸巻取設備50において多くの巻取装置10を配置できる。
【0034】
また、ゴデットローラ21をボビンホルダ根元側NSに配置するため、払い出し作業側PSの空間を広くなり、パッケージ34の払い出し作業が容易となる。
【0035】
また、隣接する巻取装置列70は、台車通路55を共通の通路とするため、2つの巻取装置10に対して1つの台車通路55が配置される。そのため、紡糸巻取設備50において多くの巻取装置10を配置できる。さらに、作業者は、例えば台車でパッケージ34およびボビン31を運搬する場合は、台車を一箇所に停止させて4つの巻取装置10に対して作業できるため、効率よくパッケージ34を回収することができ、ボビン31をボビンホルダ軸32に装着することができる。
【符号の説明】
【0036】
5 紡糸装置
10 巻取装置
10A 第一巻取装置
10B 第二巻取装置
20 ローラ部
30 パッケージ形成部
34 パッケージ
50 紡糸巻取設備
55 台車通路
75 糸掛け作業空間
80 巻取装置群
FS 正面側
HS 背面側
PS 払い出し作業側
NS ボビンホルダ根元側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻取装置を配置する、紡糸巻取設備であって、
複数の第一巻取装置と、複数の第二巻取装置と、を含み、
前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とは、それぞれ、
紡糸装置で紡糸された糸条を案内するゴデットローラと、前記糸条を下流側に送り出す糸送りローラと、を備えたローラ部と、
複数のボビンが装着されるボビンホルダを備え、前記ローラ部の下流側で前記糸条を前記ボビンに巻き取ってパッケージを形成するパッケージ形成部と、を備え、
前記ゴデットローラの軸及び前記糸送りローラの軸は、前記ボビンホルダの軸と直交しており、
前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とについて、それぞれ、前記ローラ部に対して糸掛け作業を行う側を正面側とし、その反対側を背面側とし、
一対の前記第一巻取装置と前記第二巻取装置とは、それぞれの背面側を対向させ、かつ、接近させて配置することで巻取装置群を構成し、
更に、一対の前記巻取装置群は、前記正面側を対向させ、かつ、一対の前記巻取装置群の間に、前記ローラ部に対する糸掛け作業を行うための共通の糸掛け作業空間を確保して配置される、紡糸巻取設備。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸巻取設備であって、
前記パッケージ形成部からパッケージを払い出す作業を行う側を払い出し作業側とし、その反対側をボビンホルダ根元側としたときに、
前記ゴデットローラは、前記ボビンホルダ根元側に配置される、紡糸巻取設備。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡糸巻取設備であって、
一対の巻取装置群は前記払い出し作業側を対向して配置され、対向して配置された一対の巻取装置群の間は台車通路とされる、紡糸巻取設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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