説明

紡績機のドラフト装置用の上側エプロンホルダ

【課題】上側エプロンの運転状態の変化時に、変向縁部の変位を僅かに変化させるだけで十分な、上側エプロンホルダを提供する。
【解決手段】紡績機のドラフト装置用の上側エプロンホルダ1であって、ばね力によって負荷されていて上側エプロンを緊張させかつ変向縁部16において変向させる少なくとも1つのエプロンガイド3が設けられており、該エプロンガイドが、上側エプロンホルダ1の中央部材2に保持されている形式のものにおいて、エプロンガイド3を案内するために働く互いに対応する少なくとも1対のガイドエレメント11,12が、中央部材2とエプロンガイド3とに、上側エプロンの走路幅の外側において配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機のドラフト装置用の上側エプロンホルダであって、ばね力によって負荷されていて上側エプロンを緊張させかつ変向縁部において変向させる少なくとも1つのエプロンガイドが設けられており、該エプロンガイドが、上側エプロンホルダの中央部材に保持されている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
独国実用新案DE9214598U1に基づいて公知の、請求項1の上位概念部に記載された形式の上側エプロンホルダは、上側エプロンを緊張させかつ変向させるエプロンガイドを有しており、このエプロンガイドは、上側エプロンホルダの中央部材に保持されている。エプロンガイドはばね力によって負荷されており、これによって上側エプロンを所定の緊張下で保持することができる。エプロンガイドを案内するためにエプロンガイドは一体成形されたピンを備えており、これらのピンはそれぞれ、中央部材に一体成形された対応する通路において案内されている。ピン及び通路はDE9214598U1によれば、上側エプロンの走路幅の内部においてエプロンホルダもしくは中央部材に配置されている。中央部材における通路の深さは、この場合当該箇所における中央部材の幅に制限されている。
【0003】
従来技術に基づいて公知の上側エプロンホルダにおける欠点としては次のことが判明している。すなわちこの場合、エプロンガイドにおける水平面に対する変向縁部の昇降運動の値は、案内のために働くピンと通路との間において、製作技術上の理由から生ぜしめられる遊びよりも大きい。その原因は、上側エプロンホルダの中央部材における通路に対してエプロンガイドが張り出して配置されていることである。変向縁部の高さ変化は、エプロンガイドによって緊張させられた上側エプロンが運動させられる場合、及び逆に、上側エプロンが停止させられる場合に、常に生じる。上側エプロンにおいて生じる引張り力は、運転状態に関連して種々異なった方向に向かって作用する。その結果、上側エプロンの運転中にエプロンガイドの変向縁部は上方に向かって引っ張られ、これに対して変向縁部は上側エプロンの停止時には下方に向かって変向される。下側エプロンブリッジもしくは下側エプロンに対するエプロンガイドの下縁部の変位の高さは、しかしながら、後続の紡績プロセスの結果に持続的に影響するプロセスパラメータであり、したがって変位の高さを認識することには大きな意味がある。変向縁部は次のように、すなわち上側エプロンと下側エプロンとが互いに平行に延びているように、位置決めされていることが望ましく、両エプロンの変化する高さは、運転中には測定もしくは規定が困難を伴ってしか又はまったく可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国実用新案DE9214598U1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゆえに本発明の課題は、特に上側エプロンの運転状態の変化時に、変向縁部の変位を僅かに変化させるだけで十分な、上側エプロンホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために本発明の構成では、請求項1の特徴部に記載のように、すなわち冒頭に述べた形式の上側エプロンホルダにおいて、エプロンガイドを案内するために働く互いに対応する少なくとも1対のガイドエレメントが、中央部材とエプロンガイドとにおいて、上側エプロンの走路幅の外側に配置されているようにした。
【0007】
本発明の別の有利な構成は、請求項2以下に記載されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のように、エプロンガイドを案内するために働く互いに対応する少なくとも1対のガイドエレメントが、中央部材とエプロンガイドとにおいて、上側エプロンの走路幅の外側に配置されていると、次のような利点が得られる。すなわち本発明による上側エプロンホルダでは、エプロンガイドを案内するために働くガイドエレメントは、ガイドエレメントが走路幅の内側においてかつエプロンガイドの下に配置されている従来技術による配置形式に比べて、長く構成することができる。これによって、従来技術に基づいて公知の上側エプロンホルダに比べて、ガイド長さを著しく延長させることができるので、変向縁部の昇降運動の値もしくは量は、ガイドとして働くガイドエレメントの、その値が公知である機能に関連した遊びに、減じられる。運転状態の変化に基づく変向縁部の旋回もしくは傾倒は、従来技術について既に上で述べたように、本発明の構成によってほぼ完全に回避される。上側エプロンの運転状態の変化に基づく、変向縁部の変位量を減じることによって、ドラフト過程及び次いで行われる紡績過程の結果にポジティブな影響が与えられる。
【0009】
そのために、少なくとも1つのガイドエレメントが中央部材にガイド溝として形成されていてもよいし、少なくとも1つのガイドエレメントがエプロンガイドにおいてガイドレールとして形成されていてもよい。
【0010】
このような構成においてガイド溝もしくはガイドレールは連続して形成されていることができる。
【0011】
択一的に、少なくとも1つのガイド溝として形成されたガイドエレメントが、中断部を有している構成も可能である。
【0012】
同様に、少なくとも1つのガイドレールとして形成されたガイドエレメントが、中断部を有している構成も可能である。
【0013】
ガイドレール及び/又はガイド溝の水平平面に設けられた中断部の長さは、ガイド溝及びガイドレールの中断部のない区分が少なくとも部分的にオーバラップするように、選択されている。
【0014】
少なくとも1つのガイド溝及び/又は少なくとも1つのガイドレールにおける中断部の配置が、次のように、すなわち中断されたガイドレールのすべての区分が、中間部材に対するエプロンガイドのポジションとは無関係に、中断されたガイド溝の対応する区分と常に少なくとも部分的に係合するように、選択されていると、運転状態の変化に基づく変向縁部の旋回もしくは傾倒を確実に回避することができ、有利である。
【0015】
本発明の別の有利な構成では、ガイド溝がその水平平面の内部において、エプロンガイドの長さを超えて、しかしながら所与の構造空間によって制限されて、延在している。このように構成されていると、変向縁部の昇降運動の値もしくは量をさらに減じることができる。
【0016】
特に、ガイド溝はエプロンガイドの変向縁部にまで延びていることができる。このようになっていると、ガイド溝を越えたエプロンガイドの張出しを減じることができる。相応なことは、ガイド溝がエプロンガイドの、変向縁部とは反対の側においてエプロンガイドを越えて延びている場合に、達成することができ、つまりこのような構成においても張出しを減じることができる。
【0017】
本発明の別の有利な構成では、エプロンガイドが両側にガイドレールを備えて形成され、中央部材が対応するガイド溝を備えて形成されている。このように構成されていると、エプロンガイドを両側において同一に構成することができ、このことは、有利には射出成形品として形成された部材の製造コストと、上側エプロンホルダの組立てとに関して有利な影響を与えることができる。
【0018】
両方のガイド溝の長さが互いに異なっていると、有利である。中間部材のこのような構成によって、上側エプロンの組立て及び分解が簡単になる。
【0019】
この場合、両方のガイド溝のうちの短い方のガイド溝が、中央部材の外縁部に配置されていると、上側エプロンを容易に装着及び取外しすることができ、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による上側エプロンホルダを示す斜視図である。
【図2】図1に示された上側エプロンホルダを正面から見た図である。
【図3】図2のA−A線に沿って上側エプロンホルダを断面した図である。
【図4】上側エプロンホルダの第2実施形態を上から見た平面図である。
【図5】図4に示された第2実施形態によるエプロンガイドを上から見た平面図である。
【図6】上側エプロンホルダの第3実施形態によるエプロンガイドを示す斜視図である。
【図7】第4実施形態による上側エプロンホルダを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1には、1つの中央部材2と2つのエプロンガイド3とから成る上側エプロンホルダ1が示されている。中央部材2はダブル上側ローラ6の軸5に装着される。ダブル上側ローラ6は公知の形式で、上側ローラ保持兼負荷アームのリンクに保持されている。エプロンガイド3は、回転可能に支承された両上側ドラム6に配属もしくは対応配置されている。
【0023】
図示されていない上側エプロンは、上側ローラ6とエプロンガイド3とに巻き掛けられている。上側エプロンはこの場合エプロンガイド3を介して案内され、変向縁部16において変向される。エプロンガイド3の走路幅は、上側エプロンの運動方向に対して垂直にエプロンガイド3に配置された壁4によって制限され(図1〜図3)、これによってエプロンガイド3からの上側エプロンの滑り落ちを阻止することができる。上側エプロンを緊張させるために、エプロンガイド3はばね力を負荷されており、このばね力は、中央部材2と各エプロンガイド3との間に配置されたばね7によって生ぜしめられる。図3に示されているように、ばね7は、それぞれ互いに内外に係合している、中央部材2とエプロンガイド3との円形通路8,9内に配置されており、これによってばね7をフライと呼ばれる飛散繊維から保護することができる。
【0024】
エプロンガイド3を案内するために、中央部材2には上側エプロンの走路幅の外側にガイドエレメントが一体成形されている。ガイドエレメントは図示の実施例では、上側エプロンの走路幅の外側に配置されたガイド溝11及びガイドレール12として形成されている。ガイド溝11は、エプロンガイド3に一体成形された対応するガイドレール12を受容するために働く。さらにエプロンガイド3には走路幅の内部にピン13が配置されており、これらのピン13はその自由端部に係止突起14を有している。ピン13は、同様に上側エプロンの走路幅の内部に位置する対応する通路15に係合している。エプロンガイド3の係止突起14は、中央部材2に取り付けられたポジションにおいて、通路15における凹設部に後ろから係合している。このようにして、上側エプロンが取り外される場合に、エプロンガイド3が上側エプロンホルダ1の中央部材2から解離することは、阻止される。
【0025】
図3に示されているように、中央部材2は、それぞれエプロンガイド3が配置されている領域において、ダブル上側ローラ6の軸5における固定のために働く中央部材2の中央領域におけるよりも、僅かな水平方向における大きさを有している。これは次のことによって、すなわち、汎用の上側エプロンホルダ1では、エプロンガイド3を案内するために働く、ピン13と対応する通路15とは、その長さを制限されていることによって、生ぜしめられている。それというのは、ピン13及び対応する通路15は上側エプロンの走路幅の内部においてエプロンガイド3もしくは中央部材2に配置されているからである。
【0026】
本発明のように、上側エプロンの走路幅の外側にガイド溝11と対応するガイドレール12とが配置されていることによって、ガイド溝11及び対応するガイドレール12は、従来技術におけるように上側エプロンの走路幅の内部における通路15及びピン13に比べて、長く形成されることができる。さらに、図3から分かるように、ガイドレール12の前端部は、エプロンガイド3の変向縁部16の直ぐ近くにまで延びているので、ガイドレール12を越えるエプロンガイド3の突出もしくは張出しは減じられる。このようになっていることによって、エプロンガイド3の変向縁部16において可能な昇降運動の値は、ガイドエレメントの機能に基づく遊びの大きさにしかならない。上側エプロンの運動開始時もしくは上側エプロンの停止時における運転状態の変化に基づいて生じる、運転状態に関連して異なった方向で作用する引張り力に起因する変向縁部16の旋回は、これによってほぼ阻止される。
【0027】
中央部材2のガイド溝11は、利用できる構造空間に関連して、変向縁部16を越えてもしくは変向縁部16とは反対の側を越えて、延長されることができる。
【0028】
図4には、上側エプロンホルダ1′の変化実施形態が上から見た平面図で示され、かつ図5には、図4に示された第2実施形態のよるエプロンガイドが上から見た平面図で示されている。
【0029】
この実施形態ではガイドエレメントは、図4及び図5に示されているように、ガイド溝11′の形で、中央部材2′及びガイドレール12′において、エプロンガイド3′の変向縁部16とは反対の側で延長されて構成されている。この実施形態における利点としては次のことが挙げられる。すなわちこの場合、上側エプロンホルダ1′の背側における構造空間を最適に利用しながら、中央部材2′の幅を超えたガイドエレメント11′,12′の延長によって、運転状態の変化時におけるエプロンガイド3′の旋回もしくは傾倒は、ガイドエレメント11′,12′の間における遊びに基づいて減じられることができる。
【0030】
さらに図6には第3実施形態によるエプロンガイド3′′が斜視図で示されている。このエプロンガイド3′′のガイドレール12′′は、少なくとも1箇所において切欠き10によって中断されている。図示のようにガイドレール12′′が中断されている構成によって、ガイド溝11には、2点支持が生ぜしめられ、このような構成は僅かな変更であるが、このような変更によって、図1〜図5に示された連続したガイドレール12,12′を備えたエプロンガイド3,3′の実施形態におけると同様な安定性が保証される。同様に、ガイド溝及び/又はガイドレールもまた、少なくとも1つの中断部もしくは切欠き10を備えていることができる。ガイド溝の中断部とは、中断されたガイド溝の水平平面における、連続したガイドレール12,12′及び切欠き10によって中断されたガイドレール12′′の摺動可能性を阻止しないような、材料切欠きである。
【0031】
図7には、図1に示された上側エプロンホルダ1の第4実施形態による上側エプロンホルダ1′′が示されており、この上側エプロンホルダ1′′では中央部材2′は、水平平面において延びる切欠き18によって部分的に中断されたガイド溝11′を有している。エプロンガイド3の連続したガイドレール12は、この変化実施形態においても同様に、ガイド溝11′の中断部のない区分における2つの箇所においてしか載置されていない。
【0032】
最後に、ガイドレールとガイド溝とが切欠きの形の中断部を有している2つの変化実施形態を組み合わせることも可能である。
【0033】
運転中及び運転状態の変化時において第3実施形態又は第4実施形態によるエプロンガイドを安定化させる条件、もしくは両実施形態からのエプロンガイドと中央部材との組合せによる構成を安定化させる条件は、ガイドエレメントが常に互いに接触していて、水平平面に対するエプロンガイドの旋回もしくは傾倒が回避されるようになっていることである。
【符号の説明】
【0034】
1,1′ 上側エプロンホルダ、 2,2′ 中央部材、 3,3′,3′′ エプロンガイド、 4 壁、 5 軸、 6 ダブル上側ローラ、 7 ばね、 8,9 円形通路、 10 切欠き、 11,11′ ガイド溝、 12,12′,12′′ ガイドレール、 13 ピン、 14 係止突起、 15 通路、 16 変向縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績機のドラフト装置用の上側エプロンホルダ(1,1′,1′′)であって、ばね力によって負荷されていて上側エプロンを緊張させかつ変向縁部(16)において変向させる少なくとも1つのエプロンガイド(3,3′,3′′)が設けられており、該エプロンガイド(3,3′,3′′)が、上側エプロンホルダ(1,1′,1′′)の中央部材(2,2′′)に保持されている形式のものにおいて、
エプロンガイド(3,3′,3′′)を案内するために働く互いに対応する少なくとも1対のガイドエレメント(11,12,11′,12′,12′′)が、中央部材(2,2′)とエプロンガイド(3,3′,3′′)とに、上側エプロンの走路幅の外側において配置されていることを特徴とする、紡績機のドラフト装置用の上側エプロンホルダ。
【請求項2】
少なくとも1つのガイドエレメントが中央部材(2,2′)にガイド溝(11,11′)として形成されている、請求項1記載の上側エプロンホルダ。
【請求項3】
ガイド溝(11)が連続して形成されている、請求項2記載の上側エプロンホルダ。
【請求項4】
少なくとも1つのガイド溝(11,11′)が中断部を有している、請求項2記載の上側エプロンホルダ。
【請求項5】
少なくとも1つのガイドエレメントがエプロンガイド(2,2′)においてガイドレール(12,12′,12′′)として形成されている、請求項1記載の上側エプロンホルダ。
【請求項6】
ガイドレール(12,12′)が連続して形成されている、請求項5記載の上側エプロンホルダ。
【請求項7】
少なくとも1つのガイドレール(12′′)が中断部(10)を有している、請求項5記載の上側エプロンホルダ。
【請求項8】
ガイド溝(11′)がその水平平面の内部において、エプロンガイド(3′)の長さを超えて、しかしながら所与の構造空間によって制限されて、延在している、請求項1から7までのいずれか1項記載の上側エプロンホルダ。
【請求項9】
エプロンガイド(3,3′,3′′)が両側にガイドレール(12,12′,12′′)を備えて形成され、中央部材(2,2′)が対応するガイド溝(11,11′)を備えて形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の上側エプロンホルダ。
【請求項10】
両方のガイド溝(11,11′)の長さが互いに異なっている、請求項9記載の上側エプロンホルダ。
【請求項11】
両方のガイド溝(11,11′)のうちの短い方のガイド溝が、中央部材(2,2′)の外縁部に配置されている、請求項10記載の上側エプロンホルダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−6835(P2011−6835A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142573(P2010−142573)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(510022967)エーリコン テクスタイル コンポーネンツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (7)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile Components GmbH
【住所又は居所原語表記】Maria−Merian−Strasse 8, D−70736 Fellbach, Germany
【Fターム(参考)】