説明

紡績機

【課題】繊維屑の飛散の防止と、糸貯留ローラ上からの不要糸の除去と、を効率的に行うことができる紡績機を提供する。
【解決手段】精紡機は、紡績装置と、糸貯留ローラ21と、糸吸引装置30と、を備える。紡績装置は、繊維束に撚りを与えて紡績糸10を生成する。糸貯留ローラ21は、紡績装置の下流側に配置され、紡績装置で生成された紡績糸10を外周面に巻き付けて回転することで、紡績糸10を一時的に貯留する。糸吸引装置30は、糸貯留ローラ21の外周面近傍に配置された糸吸引口30bに吸引流を発生させることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機に関する。詳細には、前記紡績機において、繊維屑等を吸引除去するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、紡績装置と、糸貯留装置(糸弛み取り装置)と、糸吸引装置と、を備えた構成の紡績機を開示する。
【0003】
糸貯留装置は、デリベリローラの下流側に配置され、その外周に糸を巻き付けることが可能な糸貯留ローラ(糸弛み取りローラ)を備える。この糸貯留ローラは回転駆動され、紡績装置から連続的に送り出される紡績糸をその外周に巻き付けて一時的に貯留することで、糸継時に発生する糸の弛みを防止するものである。
【0004】
糸吸引装置は、紡績装置と糸貯留ローラとの間に配置され、吸引口に吸引流を発生させている。
【0005】
ところで、この糸吸引装置は、切断された糸端に付着した繊維屑を吸引除去する役割と、糸貯留装置の下流側で糸切れが発生した際に貯留ローラ上の糸を吸引除去する役割と、を有する。
【0006】
以下、切断された糸端に付着した繊維屑の吸引除去について説明する。即ち、この種の紡績機においては、巻取中の紡績糸に糸欠点が検出されると、当該糸欠点を除去すべく糸切断が行われる。そして、紡績糸の切断方法の1つに、紡績装置を停止して繊維束の撚り掛けを中止し、糸強度を意図的に低下させる方法がある。この場合、糸強度が低下した紡績糸は張力に耐えられなくなり、引きちぎるように切断されるので、糸端の繊維がほどかれた状態とすることができる。この切断方法は、糸継時のサクション手段による糸端の捕捉の際に当該糸端が風に乗り易くなり、当該糸端の捕捉が容易になるというメリットがある。
【0007】
しかし、上記のように撚りを中止することで紡績糸を切断する場合、糸端には、糸に撚り込まれていない繊維屑(平行繊維)が付着した状態となる。この繊維屑が付着した糸端が糸貯留ローラに巻き取られると、回転する糸貯留ローラによって糸端が振り回されるので、当該糸貯留ローラの周囲に繊維屑が飛散してしまう。そこで、この繊維屑の飛散を防止するために、前記糸吸引装置が糸貯留ローラの上流に配置されている。この糸吸引装置は、糸端に付着した繊維屑を吸引することで除去できるように構成されている。
【0008】
次に、糸貯留装置の下流側で糸切れが発生した際における、糸貯留ローラ上の紡績糸の吸引除去について説明する。通常の巻取時においては、糸貯留ローラ上に一時的に貯留された紡績糸は、巻取装置によって張力が加えられることで下流側に向かって解舒され、巻取装置に巻き取られる。しかし、糸貯留装置の下流側(糸貯留装置と巻取装置との間)で糸切れが発生した場合、糸貯留ローラ上の糸に巻取装置によって張力を与えることができないので、糸貯留ローラ上に紡績糸が残留することになる。
【0009】
そこで、糸貯留装置の下流で糸切れが発生した場合に、糸貯留ローラ上の紡績糸を除去するため、従来の紡績機においては以下のように構成されている。まず、糸切れが検知されると、紡績装置による紡績を継続する一方で、糸貯留ローラを停止させる。続いて、糸貯留ローラを逆回転させる。このとき、糸貯留装置と紡績装置との間の紡績糸が糸吸引装置によって吸われているので、逆回転する糸貯留ローラから上流側に向かって紡績糸が解舒される。そして、糸貯留ローラの逆回転を開始するのと前後して紡績装置を停止させることにより、紡績糸を紡績装置の位置で切断して、当該紡績装置より下流側の紡績糸を糸吸引装置に吸引させる。以上の構成で、糸貯留ローラ上に残留していた紡績糸を、糸吸引装置に吸引除去させることができる。
【0010】
なお、糸切れ検知後も紡績装置で紡績を続行しているのは、以下のような理由による。即ち、特許文献1の構成の紡績機において、仮に糸貯留ローラの回転を停止させる前に紡績を停止してしまうと、紡績装置の位置で紡績糸が切断されて糸貯留ローラに巻き取られてしまう。すると、糸吸引装置の位置に紡績糸が無くなってしまうので、当該糸吸引装置によって紡績糸を吸引することによる糸貯留ローラからの紡績糸の解舒が不可能になってしまう。そこで、糸貯留ローラの逆回転を開始させるまでは、紡績装置による紡績を続行させておくことで、糸吸引装置の位置に紡績糸が確実に存在するようにしているのである。なお、糸貯留ローラの逆回転が開始すると、糸貯留ローラから解舒された紡績糸を糸吸引装置が吸い始めるので、これ以降は紡績装置を停止させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−124333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記特許文献1に記載されている紡績機は、紡績装置と糸貯留装置との間に糸吸引装置が配置された構成であるので、以下のような問題点があった。
【0013】
まず、糸端に付着した繊維屑を吸引除去するという観点からは、当該吸引除去を行うことができる機会が、前記糸吸引装置を糸端が通過する一瞬のみであることが問題となる。この一瞬の機会で繊維屑を十分に吸引除去するために、糸吸引装置に発生させる吸引流を強力なものとせざるを得ず、エネルギーの損失が大きかった。また、前記吸引流を強力にしても、糸端が糸吸引装置を高速で通過する瞬間に繊維屑を確実に除去することは困難であるため、結局は糸貯留装置や巻取装置の周辺に繊維屑が飛散してしまっていた。
【0014】
また、糸貯留ローラ上に残留した紡績糸を吸引除去するという観点からは、当該糸貯留ローラと糸吸引装置との間の距離が長いため、弱い吸引力では糸を吸引できないということが問題となる。このため、糸吸引装置に発生させる吸引流を強力なものとせざるを得ず、エネルギーの損失が大きかった。特に、特許文献1の構成は、糸貯留装置と糸吸引装置との間にカッタ及び糸欠陥検出器が配置されているため、これらが障害物となってしまう。このため、更に強力な吸引力が必要となるとともに、少しでも吸引力が弱い場合は紡績糸の吸引除去に失敗してしまっていた。
【0015】
また、上記で説明したように、糸貯留装置の下流側で糸切れが発生した場合は、紡績装置による紡績を続行した状態で、糸貯留ローラの停止、及び逆回転を行っている。しかし、この間に紡績された紡績糸は糸継開始前に糸吸引装置で吸引除去されてしまうものであるから、無駄な糸(屑糸)が大量に発生してしまっていた。
【0016】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、繊維屑の飛散の防止と、糸貯留ローラ上からの不要糸の除去と、を効率的に行うことができる紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0017】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0018】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、この紡績機は、紡績装置と、糸貯留ローラと、糸吸引装置と、を備える。前記紡績装置は、繊維束に撚りを与えて紡績糸を生成する。前記糸貯留ローラは、前記紡績装置の下流側に配置され、前記紡績装置で生成された前記紡績糸を外周面に巻き付けて回転することで、前記紡績糸を一時的に貯留する。前記糸吸引装置は、前記糸貯留ローラの外周面近傍に配置された糸吸引口に吸引流を発生させることが可能である。
【0019】
これにより、糸貯留ローラが回転することにより、糸吸引口の位置を紡績糸が何度も通過するので、当該紡績糸に付着している繊維屑を糸吸引装置によって効率良く吸引除去することができる。従って、糸吸引装置の吸引力を抑えることができるので、エネルギー消費量を削減することができる。また、糸吸引口の位置を紡績糸が何度も通過することにより、繊維屑を吸引除去する機会が増えるので、確実に繊維屑を除去して当該繊維屑が飛散することを防止できる。また、本発明の構成によれば、糸貯留ローラを逆回転させて紡績糸を当該糸貯留ローラから解舒させ、当該解舒された紡績糸を糸吸引装置によって吸引することで、糸貯留ローラ上に残留している紡績糸を簡単に除去することができる。そして、糸貯留ローラの外周面近傍に糸吸引口が配置されているので、糸貯留ローラから解舒された糸が糸吸引口に吸引されるまでの距離が短い。従って、糸吸引装置の吸引力を低く設定しても、糸貯留ローラから紡績糸を確実に吸引除去することができる。
【0020】
前記の紡績機においては、前記糸吸引口は、前記紡績糸が前記糸貯留ローラに巻き取られる側の当該糸貯留ローラの端部近傍に配置されていることが好ましい。
【0021】
これにより、巻き取られた直後の紡績糸を糸吸引口によって吸うことができるので、当該紡績糸に付着した繊維屑が糸貯留ローラの回転によって振り回されて周囲に飛散する前に、糸吸引装置によって当該繊維屑を吸引除去することができる。また、糸貯留ローラを逆回転させると、紡績糸が巻き取られた側の糸貯留ローラの端部から紡績糸が解舒されるので、当該紡績糸が解舒される側の端部の近傍に配置された糸吸引口によって、解舒された紡績糸が直接吸引される。従って、糸貯留ローラ上に残留している紡績糸を確実に吸引して除去することができる。
【0022】
前記の紡績装置においては、前記糸吸引装置はパイプ状部材を備え、前記糸吸引口は、前記パイプ状部材の先端部に形成されていることが好ましい。
【0023】
これにより、糸貯留ローラの外周面に対して、糸吸引口を極めて短い距離に近接させることが容易となる。従って、糸吸引装置によって繊維屑を更に効率良く吸引除去できるようになるとともに、糸貯留ローラ上に残留している紡績糸を更に確実に吸引除去することができる。
【0024】
前記の紡績装置においては、以下のように構成されていることが好ましい。即ち、この紡績装置は、前記糸貯留ローラより下流側の紡績糸の糸切れを検出する糸切れ検出部を備える。そして、前記糸切れ検出部が糸切れを検出すると、前記紡績装置による紡績糸の生成を停止した後、糸貯留ローラを逆回転させる。
【0025】
即ち、糸貯留ローラよりも下流で糸切れが発生した場合は、当該糸貯留ローラ上に残留している紡績糸を除去しなければ紡績を再開することができない。この点、糸貯留ローラと紡績装置との間に糸吸引装置が配置される従来の紡績機において、当該糸吸引装置で糸を吸引除去するためには、糸貯留ローラと紡績装置との間に紡績糸が存在する状態を確保する必要があった。このため、糸貯留ローラを逆回転させることにより解舒された紡績糸が糸吸引装置によって吸引され始めるまでの間は、紡績装置による紡績を続行させておかなければならなかった。一方、本発明の構成によれば、糸吸引口が糸貯留ローラの外周面近傍に位置しているので、糸貯留ローラより下流で糸切れが発生した場合であっても、糸貯留ローラと紡績装置との間に紡績糸が存在する状態を確保する必要が無い。従って、糸切れを検出してから糸貯留ローラを逆回転させるまでの間に紡績糸を生成し続ける必要が無くなるので、紡績糸が無駄に生成されてしまうことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】精紡機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】糸貯留装置の縦断面図。
【図4】糸貯留装置の外観斜視図。
【図5】紡績装置で切断された紡績糸が糸貯留ローラに巻き取られた時の様子を示す斜視図。
【図6】サクションパイプとサクションマウスによって上糸と下糸を捕捉している様子を示す縦断面図。
【図7】スプライサに上糸と下糸を案内した時の様子を示す縦断面図。
【図8】糸貯留装置の下流側で糸切れが発生し、紡績を停止した時の様子を示す縦断面図。
【図9】糸吸引装置によって糸貯留ローラ上の糸を吸引除去している様子を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は精紡機1の全体的な構成を示した正面図、図2は精紡機1の縦断面図である。
【0028】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並べて配置された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。また、この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0029】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸貯留装置12と、下糸センサ31と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1が備えるフレーム6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から送出された紡績糸10は後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸貯留装置12で送られて巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。また、糸貯留装置12の近傍には糸吸引装置30が配置されている。
【0030】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装着したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0031】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与える空気式のものを採用している。この旋回気流を紡績装置9内部に発生させることで、紡績糸10を生成することができる。また、旋回気流の発生を停止させることにより、紡績糸10の生成を停止させるとともに、当該紡績装置9の位置で紡績糸10を切断することができる。なお、この旋回気流の発生及び停止は、図略のユニットコントローラによって制御されている。
【0032】
紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継時などに紡績装置9から送出される紡績糸10を滞留させて糸の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の張力の変動が紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。図2に示すように、糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、糸貯留量センサ27と、を備えている。
【0033】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を案内できるように構成されている。
【0034】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を巻き付けて貯留できるように構成されている。また、糸貯留ローラ21は、電動モータ25によって回転駆動される。この構成で、糸掛け部材22によって糸貯留ローラ21の外周面に案内された紡績糸10は、糸貯留ローラ21が回転することにより当該糸貯留ローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸貯留装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。これにより、紡績装置9から紡績糸10を連続的に引き出すことができる。
【0035】
糸貯留量センサ27は、糸貯留ローラ21上に貯留されている紡績糸10の貯留量を非接触式で検出し、ユニットコントローラに送信するように構成されている。
【0036】
上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21のやや上流側に配置されている。この上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して糸を適切に案内する案内部材として構成されるとともに、紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0037】
下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド26は、回転する糸掛け部材22によって振り回される紡績糸10の軌道を規制し、これより下流側の糸の走行経路を安定させて紡績糸10を案内する案内部材として構成されている。
【0038】
また、糸貯留ローラ21の近傍には、糸吸引装置30が配置されている。この糸吸引装置30には接続チューブ30aが接続されており、この接続チューブ30aはブロアボックス80が備える図略のブロアに接続されている。この構成で、糸吸引装置30に吸引流を発生させることができる。
【0039】
精紡機1のフレーム6の前面側であって前記紡績装置9と前記糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ(糸欠陥検出装置)52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図略のユニットコントローラへ送信するように構成されている。また、ヤーンクリアラ52の近傍には、パッケージ45が満管になったとき等に紡績糸10を切断するためのカッタ57が配置されている。
【0040】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、フレーム6に固定されたレール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止して糸継ぎを行うように構成されている。
【0041】
前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、紡績装置9から送出される糸端(上糸)を吸い込みつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端(下糸)を吸引しつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。スプライサ43の詳細な構成については省略するが、旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせることにより、上糸と下糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0042】
前記下糸センサ(糸切れ検出部)31は、糸貯留装置12と巻取装置13との間に配置され、当該位置において紡績糸10が存在するか否かを検出するように構成されている。この下糸センサ31が検出した下糸信号は、前記ユニットコントローラへ送信される。
【0043】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0044】
また、前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻き付けて形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0045】
次に、糸貯留装置12の詳細な構成について図3及び図4を参照して説明する。図3は、糸貯留装置12の縦断面図である。図4は、糸貯留装置12の外観斜視図である。
【0046】
糸貯留ローラ21は耐摩耗性を有する材料で構成されたローラ部材であって、電動モータ25のモータ軸25aに固定されている。この糸貯留ローラ21の外周面21aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25が配置されている側を基端とすると、基端から先端に向かって順に、基端側テーパ部21bと、円筒部21cと、先端側テーパ部21dと、を備えている。
【0047】
円筒部21cは、先端側が僅かに細まる形状に構成されるとともに、両側のテーパ部21b,21dに対し段差なく連続する形状になっている。また、前記糸貯留量センサ27がこの円筒部21cに対向するように備えられており、糸貯留ローラ21に巻き付いている糸の貯留量を検知してユニットコントローラに送信するように構成されている。
【0048】
基端側テーパ部21b及び先端側テーパ部21dは、それぞれ端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。糸貯留ローラ21の外周面21aにおいて、基端側テーパ部21bは、供給された紡績糸10を大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部21cへ到達させることにより、紡績糸10を円筒部21cの表面に整然と巻き付かせるように構成されている。また、先端側テーパ部21dは、紡績糸10を下流側に向かって解舒する際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保する機能を有している。
【0049】
前記電動モータ25には、前記ユニットコントローラからの制御信号が入力されている。これにより、電動モータ25による糸貯留ローラ21の駆動を、ユニットコントローラが制御することが可能となっている。通常の巻取時においては、ユニットコントローラは、所定方向に一定速度で糸貯留ローラ21を回転駆動する。これにより、一定速度で糸貯留ローラ21に紡績糸10が巻かれ、この巻かれた紡績糸10に引っ張られることで、紡績装置9から紡績糸10が一定速度で引き出される。また、ユニットコントローラは、電動モータ25を制御することにより、糸貯留ローラ21の回転を停止させたり、上記とは逆の方向に回転させたりすることができる。
【0050】
なお、以下の説明では、通常の巻取時の回転方向に糸貯留ローラ21を回転させることを単に正回転と呼び、通常とは逆方向に回転させることを単に逆回転と呼ぶことがある。
【0051】
糸貯留ローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3及び図4に示すように、前記糸貯留ローラ21と軸線を一致させて配置される。この糸掛け部材22は、フライヤー軸33と、その先端に固定されるフライヤー38と、を備えている。
【0052】
フライヤー軸33は、糸貯留ローラ21に対して相対回転可能に支持されている。一方、フライヤー軸33又は糸貯留ローラ21の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。この抵抗トルクにより、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21の回転に追従して回転し、結果として両者が一体的に回転できるように構成されている。一方、この抵抗トルクに打ち勝つような力が糸掛け部材22に加わった場合は、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21に対して相対的に回転することができる。
【0053】
また、前記フライヤー38は、前記糸貯留ローラ21の外周面21aに向かって適宜湾曲し、紡績糸10と係合する(紡績糸10を引っ掛ける)ことができる形状に構成されている。糸貯留ローラ21上に糸が巻き付けられていない状態で、フライヤー38が糸貯留ローラ21と一体的に正回転すると、このフライヤー38が紡績糸10に係合する。そして、この回転するフライヤー38に係合した紡績糸10は、当該フライヤー38によって振り回され、正回転する糸貯留ローラ21の外周面へ案内されて巻き付けられる。
【0054】
図4のように糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10が巻き付けられると、紡績糸10と糸貯留ローラ21との間に摩擦力が働く。従って、この状態で糸貯留ローラ21が一定速度で正回転すると、当該糸貯留ローラ21より上流側の紡績糸10を引っ張る力が働き、紡績装置9から一定速度で紡績糸10を引き出すことができる。
【0055】
正回転する糸貯留ローラ21に巻き付けられた紡績糸10の様子を説明すると、以下のとおりである。即ち、上流側ガイド23を通った紡績糸10は、基端側から外周面21aに案内され、円筒部21cに複数回巻き付けられる。円筒部21cに巻き付けられた紡績糸は、糸貯留ローラ21の正回転により紡績糸10が基端側に新たに巻かれることによって、基端側から徐々に先端側へ送られる。そして、外周面21aの先端側から引き出された紡績糸10は、フライヤー38を通過した後、下流側ガイド26を通って下流に送られる。
【0056】
また、図4のように糸貯留ローラ21に紡績糸10が巻き付いた状態で、フライヤー38に係合している紡績糸10を下流側に引っ張る力が与えられると、糸貯留ローラ21の先端部から紡績糸10を解舒するように糸掛け部材22を回転させようとする力が、フライヤー38に加わる。従って、糸貯留装置12の下流側の糸張力(糸貯留装置12と巻取装置13と間の糸張力)が前記抵抗トルクに打ち勝つほど強ければ、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と独立して回転することにより、糸貯留ローラ21の先端側からフライヤー38を介して紡績糸10が徐々に解舒される。
【0057】
逆に、糸貯留装置12の下流側の糸張力が前記抵抗トルクに打ち勝つほど強くない場合は、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と一体的に回転する。この場合、糸掛け部材22は、回転する糸貯留ローラ21の先端側から紡績糸10が解舒されることを阻止するように働く。
【0058】
このように、糸貯留装置12は、下流側の糸の張力が上がると糸を解舒し、糸の張力が下がる(糸が弛みそうになる)と糸の解舒を止めるように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。また、上記のように、糸貯留装置12から巻取装置13までの間における紡績糸10の張力変動を吸収するように糸掛け部材22が動作することで、その張力変動が、紡績装置9から糸貯留装置12までの間の紡績糸10に影響を及ぼすことを防止できる。以上の構成の糸貯留装置12により、紡績装置9から紡績糸10をより安定した速度で引き出すことができる。
【0059】
また、図4に示すように、糸貯留ローラ21の近傍には糸吸引装置30が配置されている。この糸吸引装置は、パイプ状に形成された吸引パイプ(パイプ状部材)30cを備える。この吸引パイプ30cの一端側は開放端となっており、吸引流を発生させる糸吸引口30bを構成している。この糸吸引口30bは、糸貯留ローラ21の外周面近傍であって、当該糸貯留ローラ21の基端側端部に寄せて配置されている。この構成で、糸貯留ローラ21の基端側に巻かれている紡績糸10は、糸吸引装置30による吸引流の作用を受ける。なお、この吸引パイプ30cは、前述の接続チューブ30aと連通している。これにより、糸吸引口30bから吸い込まれた繊維屑や屑糸は、接続チューブ30aを介して除去され、最終的に所定の場所に集めて廃棄される。
【0060】
次に、本実施形態の精紡機1において糸欠点が検出された場合の動作について、図5から図7を参照して説明する。図5は、紡績装置9で切断された紡績糸10が糸貯留ローラ21に巻き取られた時の様子を示す斜視図である。図6は、サクションパイプ44とサクションマウス46によって上糸と下糸を捕捉している様子を示す縦断面図である。図7は、スプライサ43に上糸と下糸を案内した時の様子を示す縦断面図である。
【0061】
まず、紡績糸10の巻取中にヤーンクリアラ52が糸欠点を検出すると、当該ヤーンクリアラ52は糸欠点検出信号をユニットコントローラへ送信する。前記ユニットコントローラは、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。これにより、繊維束8に撚りが与えられなくなるため、撚りがほどけて、紡績装置9の位置で紡績糸10が切断される。なお、既に説明したように、このようにして切断した紡績糸10の糸端には繊維屑が付着している。
【0062】
この間も糸貯留ローラ21は正回転駆動されているので、切断された糸端は糸貯留ローラ21に巻き取られる。このとき、図5に示すように、糸端10aは糸貯留ローラ21の基端側から当該糸貯留ローラ21の外周面に導入される。一方、前述のように、糸吸引口30bは糸貯留ローラ21の基端側に近接して配置されている。従って、糸端10aが糸貯留ローラ21に巻き取られた直後に糸吸引口30bによる吸引流の作用を受けるので、前記糸端10aから繊維屑が飛散する前に当該繊維屑を吸引除去することができる。
【0063】
また、糸貯留ローラ21の回転により、糸端10aは糸貯留ローラ21の半径方向に広がるようにして振り回される。一方、糸吸引口30bは糸貯留ローラ21の外周面に近接して配置されるので、振り回された糸端10aが糸吸引口30bに当たる。これにより、当該糸吸引口30bに発生させる吸引流が弱い場合でも効率良く繊維屑を除去することが可能となり、繊維屑の飛散量を減少させることができる。更には、糸貯留ローラ21上から前記糸端10a部分が下流側に巻き取られるまでの間、糸貯留ローラ21の回転により、糸端10aが糸吸引口30bに何度も当たる。これにより、糸吸引口30bによって繊維屑を吸引除去する機会が増え、繊維屑の飛散量をより一層減少させることができる。
【0064】
なお、このときも巻取装置13による巻取りが継続しているので、糸貯留ローラ21上の糸は、当該糸貯留ローラ21の先端側から下流側に向かって解舒され、巻取装置13によりパッケージ45に巻き取られる。なお、ヤーンクリアラ52によって検出された糸欠点は紡績装置9よりも下流側の紡績糸10に含まれているので、前記糸欠点を含む部分も、パッケージ45にいったん巻き取られる。
【0065】
次に、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させて、糸継動作を開始させる。まず、ユニットコントローラは、サクションマウス46をパッケージ45の表面近傍まで回動させ(図6参照)、吸引流を発生させるとともに、巻取装置13によってパッケージ45を逆回転させる。これにより、パッケージ45の外周面から糸端(下糸)が引き出され、サクションマウス46によって吸引捕捉される。なお、このときパッケージ45から前記糸欠点を含む糸が引き出されてサクションマウス46に吸われることにより、前記糸欠点を含む糸をパッケージ45から除去することができる。
【0066】
続いて、パッケージ45を逆回転させつつ、下糸を吸引した状態でサクションマウス46を上方に回動させて当該下糸をスプライサ43へ案内する(図7参照)。スプライサ43に下糸が案内されると、パッケージ45の回転を停止させる。
【0067】
また、上記サクションマウス46の回動動作と前後して、ユニットコントローラは、サクションパイプ44を紡績装置9の下流側近傍まで回動させる(図6参照)。そして、ユニットコントローラは、紡績装置9等を再び駆動して紡績を再開させるとともに、サクションパイプ44に吸引流を発生させて紡績装置9側の糸端(上糸)を捕捉する。続いて、吸引を続行しながらサクションパイプ44を下方に回動させることで、紡績装置9から紡績糸10を引き出しつつ、スプライサ43へ案内する(図7参照)。
【0068】
スプライサ43に上糸及び下糸が案内されると、当該スプライサ43による糸継が行われる。なお、糸継中においても、糸貯留ローラ21は正回転駆動され続ける。即ち、糸継動作中は巻取装置13による巻取りが停止しているが、この間にも紡績糸10は紡績装置9から連続的に送り出されているから、紡績糸10をそのままにしていると糸の弛みが発生してしまう。そこで、紡績糸10を糸貯留ローラ21に巻き付かせることで、紡績糸10の弛みを防止するものである。このように、糸貯留装置12は、糸継時の糸弛み取り装置として機能する。
【0069】
そして、スプライサ43による糸継ぎが終了すると、巻取装置13による通常の巻取りを再開する。
【0070】
次に、本実施形態の精紡機1において糸貯留装置12より下流側で糸が切れた場合の動作について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、糸貯留装置12の下流側で糸切れが発生し、紡績を停止した時の様子を示す縦断面図である。図9は、糸吸引装置30によって糸貯留ローラ21上の糸を吸引除去している様子を示す斜視図である。
【0071】
まず、下糸センサ31が紡績糸10を検知しなくなると、ユニットコントローラは、糸貯留装置12と巻取装置13との間で糸切れが発生したと判断し、即座にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させ、紡績装置9の位置で紡績糸10を切断する。
【0072】
また、ユニットコントローラは紡績糸10の切断後も糸貯留ローラ21の正回転を継続させ、これにより、切断された糸端を糸貯留ローラ21に巻き取る。なお、紡績装置9を停止することで切断された糸端には繊維屑が付着しているが、上記で説明したように、本実施形態では糸吸引装置30によって繊維屑を効率良く吸引除去できるので、糸貯留ローラ21周辺に繊維屑が飛散することを防止できる。
【0073】
また、本実施形態では、従来の構成と異なり、糸貯留ローラ21の下流側での糸切れを検知すると即座に紡績装置9による紡績を停止しているので、無駄な紡績糸10の生成を抑えることができる。
【0074】
図8には、紡績装置9を停止し、当該紡績装置9側の糸端を糸貯留ローラ21に巻き取った時の様子が示されている。紡績糸10は糸貯留装置12と巻取装置13との間で切れているので、巻取装置13によって糸貯留ローラ21上の紡績糸10に張力を与えることはできない。このため、糸貯留ローラ21上に残留した紡績糸10を下流側に向かって解舒することができないので、糸貯留ローラ21上と、糸貯留装置12から前記糸切れ発生位置までと、の間に不要な糸が残留した状態になる。従って、このままでは糸継ぎを行うことができない。
【0075】
そこで、本実施形態では、糸貯留ローラ21の下流で糸切れを検出して紡績装置9を停止させた後、糸継ぎを行う前に、以下のような制御を行っている。
【0076】
即ち、ユニットコントローラは、紡績装置9を停止させて糸端を糸貯留ローラ21に巻き取ると、次に、糸貯留ローラ21をいったん停止させ、更に当該糸貯留ローラ21の逆回転を開始する。糸貯留ローラ21を正回転させていた時は、当該糸貯留ローラ21の基端側から紡績糸10が巻き付くので、糸貯留ローラ21を逆回転させると、当該基端側から紡績糸10が解舒されることとなる。一方、前述したように、糸貯留ローラ21の外周面近傍で、かつ当該糸貯留ローラ21の基端側近傍には、糸吸引装置30の糸吸引口30bが配置され、吸引流を発生させている。
【0077】
これにより、糸貯留ローラ21の基端側から解舒された紡績糸10は、糸吸引口30bに速やかに捕捉される。そして、糸貯留ローラ21が逆回転することにより、当該糸貯留ローラ21の基端側から、当該糸貯留ローラ21上に貯留されていた紡績糸10が次々と解舒されていく。従って、糸貯留ローラ21上に貯留されていた紡績糸は、糸吸引装置30に順次吸引されていく(図9参照)。以上の構成で、糸貯留装置12より下流側で糸切れが発生した際に糸貯留ローラ21上に残留した紡績糸を、糸吸引装置30によって吸引除去することができる。
【0078】
また、特許文献1の紡績機では、糸吸引装置と糸貯留装置との間にカッタと糸欠陥検出装置が配置されていた。一方、本実施形態では、糸貯留ローラ21と糸吸引口30bの間には障害物が無く、最短距離で糸吸引口30bに紡績糸10が吸われるようになっている。また、糸吸引口30bは、パイプ状に形成された吸引パイプ30cの先端に形成されているので、可能な限り糸貯留ローラ21の外周面に近づけることができる。これにより、糸吸引口30bに発生させる吸引流が弱い場合でも、確実に糸貯留ローラ21上の紡績糸10を吸い込んで除去することができる。
【0079】
ユニットコントローラは、糸貯留ローラ21の逆回転を開始してから所定時間が経過すると、当該糸貯留ローラ21を再び正回転させる。ここで、前記所定時間としては、糸貯留ローラ21上に残留していた不要糸を当該糸貯留ローラ21上から全て除去するために必要な時間が予め設定されている。続いて、ユニットコントローラは、糸継台車3によって前述と同様に上糸と下糸の糸継ぎを行う。
【0080】
以上で説明したように、本実施形態の精紡機1は、紡績装置9と、糸貯留ローラ21と、糸吸引装置30と、を備える。紡績装置9は、繊維束8に撚りを与えて紡績糸10を生成する。糸貯留ローラ21は、紡績装置9の下流側に配置され、紡績装置9で生成された紡績糸10を外周面に巻き付けて回転することで、紡績糸10を一時的に貯留する。糸吸引装置30は、糸貯留ローラ21の外周面近傍に配置された糸吸引口30bに吸引流を発生させることが可能である。
【0081】
これにより、糸貯留ローラ21が回転することにより、糸吸引口30bの位置を紡績糸10が何度も通過するので、当該紡績糸10に付着している繊維屑を糸吸引装置30によって効率良く吸引除去することができる。従って、糸吸引装置30の吸引力を抑えることができるので、エネルギー消費量を削減することができる。また、糸吸引口30bの位置を紡績糸10が何度も通過することにより、繊維屑を吸引除去する機会が増えるので、確実に繊維屑を除去して当該繊維屑が飛散することを防止できる。また、本発明の構成によれば、糸貯留ローラ21を逆回転させて紡績糸10を当該糸貯留ローラ21から解舒させ、当該解舒された紡績糸10を糸吸引装置30によって吸引することで、糸貯留ローラ21上に残留している紡績糸10を簡単に除去することができる。そして、糸貯留ローラ21の外周面近傍に糸吸引口30bが配置されているので、糸貯留ローラ21から解舒された糸が糸吸引口30bに吸引されるまでの距離が短い。従って、糸吸引装置30の吸引力を低く設定しても、糸貯留ローラ21から紡績糸10を確実に吸引除去することができる。
【0082】
また、本実施形態の精紡機1においては、糸吸引口30bは、紡績糸10が糸貯留ローラ21に巻き取られる側の当該糸貯留ローラ21の端部(基端側の端部)近傍に配置されている。
【0083】
これにより、巻き取られた直後の紡績糸10を糸吸引口30bによって吸うことができるので、紡績糸10に付着した繊維屑が糸貯留ローラ21の回転によって振り回されて周囲に飛散する前に、糸吸引装置30によって当該繊維屑を吸引除去することができる。また、糸貯留ローラ21を逆回転させると、当該糸貯留ローラ21の基端側から紡績糸10が解舒されるので、当該基端側テーパ部21bの近傍に配置された糸吸引口30bによって、解舒された紡績糸10が直接吸引される。従って、糸貯留ローラ21上に残留している紡績糸10を確実に吸引して除去することができる。
【0084】
また、本実施形態の精紡機1においては、糸吸引装置30は吸引パイプ30cを備え、糸吸引口30bは、吸引パイプ30cの先端に形成されている。
【0085】
これにより、糸貯留ローラ21の外周面に対して、糸吸引口30bを極めて短い距離に近接させることが容易となる。従って、糸吸引装置30によって繊維屑を更に効率良く吸引除去できるようになるとともに、糸貯留ローラ21上に残留している紡績糸10を更に確実に吸引除去することができる。
【0086】
また、本実施形態の精紡機1は、糸貯留ローラ21より下流側の紡績糸10の糸切れを検出する下糸センサ31を備える。そして、下糸センサ31が糸切れを検出すると、紡績装置9による紡績糸10の生成を停止した後、糸貯留ローラ21を逆回転させる。
【0087】
即ち、糸貯留ローラ21よりも下流で糸切れが発生した場合は、当該糸貯留ローラ21上に残留している紡績糸10を除去しなければ紡績を再開することができない。この点、糸貯留ローラと紡績装置との間に糸吸引装置が配置される従来の紡績機において、当該糸吸引装置で糸を吸引除去するためには、糸貯留ローラと紡績装置との間に紡績糸が存在する状態を確保する必要があった。このため、糸貯留ローラを逆回転させることにより解舒された紡績糸が糸吸引装置によって吸引され始めるまでの間は、紡績装置による紡績を続行させておかなければならなかった。一方、本実施形態の構成によれば、糸吸引口30bが糸貯留ローラ21の外周面近傍に位置しているので、糸貯留ローラ21より下流で糸切れが発生した場合であっても、糸貯留ローラ21と紡績装置9との間に紡績糸10が存在する状態を確保する必要が無い。従って、糸切れを検出してから糸貯留ローラ21を逆回転させるまでの間に紡績糸10を生成し続ける必要が無くなるので、紡績糸が無駄に生成されてしまうことを防ぐことができる。
【0088】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0089】
上記実施形態は糸貯留装置12によって紡績装置9から紡績糸10を引き出す構成としたが、例えば、特許文献1が開示する紡績機のように、デリベリローラとニップローラによって紡績装置から紡績糸を引き出す構成でも本発明の構成を適用することができる。
【0090】
糸吸引装置の形状は上記のものに限らない。例えば、吸引パイプ30cの先端に糸吸引口30bを形成する構成に代えて、四角筒状の部材の先端に吸引口を形成するように構成しても良い。
【0091】
糸吸引口30bの配置位置は、糸貯留ローラ21の外周面近傍であれば、効率の良い吸引を行うことができる。ただし、上記実施形態のように、糸貯留ローラ21の外周面近傍であって、かつ当該糸貯留ローラ21の基端側近傍に配置させることにより、より効率的かつ確実な吸引を行うことができる。
【0092】
上記実施形態の糸吸引装置30に加えて、従来と同様に紡績装置と糸貯留ローラとの間に配置された糸吸引装置を設けても良い。
【0093】
紡績装置9を停止して紡績糸10を切断する構成に代えて、カッタ57によって紡績糸10を切断する構成でも良い。ただし、紡績装置9を停止して紡績糸10を切断すると、糸端がほどけた状態になって吸引捕捉を行い易くなるので、糸継ぎを行う際には紡績装置9を停止することで紡績糸10を切断する構成が好ましい。
【0094】
糸継台車3によって糸継ぎを行う構成に代えて、各紡績ユニット2がそれぞれ糸継ぎのための構成を備えていても良い。
【0095】
糸掛け部材22と糸貯留ローラ21との間にトルクを加える方法は、上記のような磁気的な手段に限らず、例えば摩擦力でも良く、電磁気的な手段でも良い。
【0096】
また、糸掛け部材22と糸貯留ローラ21は相対回転可能でなくても良く、例えば特許文献1が開示する弛み取り装置のように、弛み取りローラに形成された切欠き部を糸掛け部として機能させることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 精紡機(紡績機)
2 紡績ユニット
9 紡績装置
10 紡績糸
12 糸貯留装置
21 糸貯留ローラ
30 糸吸引装置
30b 吸引口
30c 吸引パイプ(パイプ状部材)
31 下糸センサ(糸切れ検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束に撚りを与えて紡績糸を生成する紡績装置と、
前記紡績装置の下流側に配置され、前記紡績装置で生成された前記紡績糸を外周面に巻き付けて回転することで、前記紡績糸を一時的に貯留する糸貯留ローラと、
前記糸貯留ローラの外周面近傍に配置された糸吸引口に吸引流を発生させることが可能な糸吸引装置と、
を備えることを特徴とする紡績機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績機であって、
前記糸吸引口は、前記紡績糸が前記糸貯留ローラに巻き取られる側の当該糸貯留ローラの端部近傍に配置されていることを特徴とする紡績機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績機であって、
前記糸吸引装置はパイプ状部材を備え、
前記糸吸引口は、前記パイプ状部材の先端部に形成されていることを特徴とする紡績機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記糸貯留ローラより下流側の紡績糸の糸切れを検出する糸切れ検出部を備え、
前記糸切れ検出部が糸切れを検出すると、前記紡績装置による紡績糸の生成を停止した後、糸貯留ローラを逆回転させることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−174421(P2010−174421A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20620(P2009−20620)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】