説明

紫外線治療用照射量測定具

【課題】 被験者(患者)の検査部位の紫外線照射量の正確な測定を一回の測定操作で可能とし、併せて測定具の手動操作部を皆無として検査員の紫外線被曝をなくし、安全性を高めることを課題とする。
【解決手段】 紫外線照射治療に先立って紫外線の適正照射量を事前に知るための紫外線治療用照射量測定具であって、患者の皮膚に載置し得、紫外線の透過率が互いに異なる既知の値に設定された複数の透過領域を有する減衰フィルタ(1A,1B,1C)を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線照射治療に先立って紫外線の適正照射量を事前に知るための紫外線治療用照射量測定具に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎、かん癬、白斑などに対しては紫外線照射治療が有効とされている。
【0003】
これらの皮膚疾患の治療に用いられる紫外線としては、波長が285〜320nmのUV−B波、または320〜400nmのUV−A波のいずれかを医師による選択決定に基づいて照射が行われる。
【0004】
ところで紫外線は危険な波長域であるため、各波長の紫外線照射は薬剤投与治療と同様に高い意識と注意をはらって行わなければならないことは周知のことである。
【0005】
また患者には当然個体差があり、光に対し強い肌の人、あるは光に弱い敏感肌の人があるため、紫外線治療に先立って患者の皮膚の性質を予め的確に把握することが重要である。
【0006】
そのため紫外線照射を開始する前に患者個々のUV−A、UV−Bの各波長に対する耐光量の検査が行われる。ちなみに最少紅斑量(MED)に関してはUV−B波長で、最少光毒量(MPD)に関してはUV−A波長で検査し、その結果に基づいて投与照射量が決定される。
【0007】
従来、上記検査には紫外線照射量測定具が用いられる。
【0008】
現在用いられてる上記測定具は、図9(A)に平面図を示すように、片側5個ずつ2列に等大の窓孔a〜a、a〜a10が一定の間隔をおいて穿設された基板bと、この基板bの片側5個ずつの窓孔a〜aおよびa〜a10に対応しスライドガイドc,cにそってスライド操作自在とされたシャッタ板d,dとで構成され、一方のシャッタ板dを一定秒時ごとに窓孔1個宛矢印方向にスライドさせて閉じて行き、片側5個の窓孔a〜aを閉じ終ったのち他側のシャッタ板dを同様にスライドさせてすべての窓孔を閉じるように構成されている。
【0009】
上記窓孔a〜a10は通常1辺が10mm角の角孔とされ、紫外線を30秒照射毎にシャッタ板d,dを1窓ずつスライド操作される。
【0010】
検査時には、前記基板bを患者の比較的日光を受けていない部位、例えば背中、太もも、腕の内側などに適宜手段で貼着し、次いで基板bのすべての窓孔a〜a10に均等に紫外線の照射を行い、一定時間(通常30sec)ごとに一方のシャッタ板dをスライドさせて片側の窓孔a〜aを1個単位ずつ順次閉じて行き、片側のすべての窓孔a〜aを閉じきったのち他側のシャッタ板dを同様にスライドさせて他側の窓孔a〜a10を閉じ終ったとき紫外線の照射を停め、検査を終了する。
【0011】
次いで基板bを皮膚から除去し、その窓孔a〜a10の各位置の皮膚の色調を観察し、MED値、MPD値を決定する。
【0012】
しかるに上記従来の紫外線照射量測定具では、シャッタ板d,dをスライドさせて順次窓孔a〜a10を閉じる操作を計時しながら人手により行うので、計時ミスや操作遅れなどによって各窓孔a〜a10を通じての照射量が必ずしも正確にできず、測定が不正確となって適切な検査結果が得難いという問題があった。
【0013】
またシャッタ板d,dのスライド操作を紫外線を照射しながら人手で行うので、検査員が紫外線を被曝するという問題があった。
【0014】
なかには紫外線照射治療を電話ボックスのようなキャビン型の治療室内に患者を立たせ、または椅子に座らせて全身照射を行う治療方法があるが、このような治療室内で前記測定具を用いて照射量の測定を行うには、シャッタ板d,dを一定時間経過ごとに手で操作する必要があることからその都度治療室のドアを開閉して検査員が中に入り、上記操作を行わなければならず、そのため照射量の測定は容易ではなかった。
【0015】
上記被曝を防ぐ手段としてシャッタ板d,dを電動式とし、遠隔操作を行えるようにすることも考えられるが、これによると構造が複雑かつ大掛りとなって勢い高価になるなどの問題をもたらす。
【特許文献1】特開2004−65330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、患者の検査部位の紫外線照射量の正確な測定を可能とすること、および複雑な構造を伴うことなく検査員の被曝を生じることがないとともに、キャビン型の治療室内で測定を行う場合であっても測定途中で治療室内に出入りする必要がなく、短時間で高能率に測定作業を行うことができる紫外線治療用照射量測定具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する手段として本発明による測定具は、紫外線照射治療に先立って紫外線の適正照射量を事前に知るための紫外線治療用照射量測定具であって、患者の皮膚に載置し得、紫外線の透過率が互いに異なる既知の値に設定された複数の透過領域を有する減衰フィルタを備えることを特徴とする。
【0018】
これによって、紫外線の透過率が互いに異なる既知の値に設定された複数の透過領域を通り照射された皮膚の焼灼された程度を比較することにより、一回の測定操作を行うだけで紫外線の適正照射量を事前に知ることが可能になる。
【0019】
また、前記減率フィルタは、一端から他端にかけて紫外線の透過率が連続的に減少するように構成されていることを特徴とする。
【0020】
これによって、減率フィルタの全域に均等に紫外線を一定秒時照射すれば、減率フィルタを透過した紫外線が皮膚に到達する。このとき減率フィルタの紫外線透過率が連続的に減少していることにより皮膚はその透過量に応じて変色し、その色調を観察して適正照射量を知ることができる。この場合、減率フィルタの減少率が連続的に変化しているので、微妙な色調変化までとらえることができ、最適照射量を把握することが可能となる。
【0021】
また、上記測定具を一端から他端にかけて紫外線透過率が段階的に減少する減率フィルタで構成したことにある。
【0022】
これによれば、減率フィルタの各段階における色調変化を読みとることにより適正照射量を知ることができる。
【0023】
また、前記減率フィルタは、基板に配設された複数の窓孔の窓孔列の順に透過率が段階的に減少するように配列されていることを特徴とする。
【0024】
これによれば、各窓孔に対し一斉に紫外線を照射することにより各窓孔の減率フィルタを透過した紫外線が皮膚に到達し、皮膚はその透過量に応じて窓孔別に変色するので、皮膚の色調変化を観察しやすくすることができる。
【0025】
また、前記減率フィルタは、紫外線照射ランプと一体的に枠体に取り付けられていることを特徴とする。
【0026】
これによれば、紫外線照射ランプと減衰フィルタとが一体的に枠体に取り付けられているので、コンパクトで持ち運びが容易であり、患者の背中等に紫外線治療用照射量測定具を置くだけで測定が可能になり、狭い居室においても紫外線治療用照射量測定具を使用することができる。
【0027】
上記減率フィルタは、フィルタ素材の濃淡により透過率を異らせたもの、あるいは石英ガラス等の無反射質の素材からなる基板上に誘電体の層を積層して透過率を異らせたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、紫外線の透過率が互いに異なる既知の値に設定された複数の透過領域を通り照射された皮膚の焼灼された程度を比較することにより、一回の測定操作を行うだけで紫外線の適正照射量を事前に知ることが可能になる。
【0029】
また、シャッタ板を手動でスライドさせるような操作が全く不要であるから、計時誤りや操作遅れなどにより紫外線照射量にバラツキを生じることがなく、その結果、正確な照射量の紫外線を皮膚に与えることができ、正確な判定を期することができる。
【0030】
また測定具に手動操作部が一切存在しないので、検査員が紫外線を被曝するおそれが全くなく、安全性を確保することができるとともに構造を頗る簡単にでき、取り扱いも簡便に行うことができる。
【0031】
上記に関しては、MED、MPDのいずれも同様に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1は本発明による紫外線治療用照射量測定具の一実施形態の平面図を示すもので、一端1aから他端1bにかけて紫外線の透過率が図2に示すように連続的に減少する減率フィルタ1Aで構成されている。
【0033】
上記減率フィルタ1Aの構成としては、図3に模式的断面図を示すように、プラスチック素材に紫外線の透過を妨げる微粒状の物質2を練り込みまたは塗布等により濃淡が付けられたシート状に形成されている。
【0034】
なお、必要に応じ減率フィルタ1Aの長手方向一側に、紫外線照射後に紫外線の量を把握しやすくするため所要の目盛を付加することは任意である。
【0035】
したがって図4に示すような紫外線照射装置3を用い、寝台4上の被検者5(患者)の検査部位に測定具である減率フィルタ1Aを貼布し、その全域に紫外線が均等に当るよう照射装置3の照射ヘッド6の位置を定めて照射を行えば、減率フィルタ1Aの濃淡に応じて透過した紫外線が皮膚に照射される。
【0036】
その結果、減率フィルタ1Aの透過率に応じ皮膚に変色が生じる。
【0037】
所定秒時照射後、照射を停止し、次いで皮膚から減率フィルタ1Aを剥離させ、変色した皮膚の色調を観察することにより最適照射量を把握することができる。
【0038】
上記紫外線照射に関しては、被検者(患者)を寝かせず、キャビン型の治療室内に立たせた姿勢で行うようにしてもよい。また減率フィルタ1Aの周辺に紫外線が当ることが懸念される場合は、その周辺を適宜なマスクによりマスキングするようにしてもよい。
【0039】
図5は本発明による紫外線治療用照射量測定具の他の実施形態を示すもので、シート状素材7の一端から他端にかけて紫外線透過率が段階的に減少する減率フィルタ1Bで構成されている。
【0040】
図5においては、紫外線透過率を5段階1B〜1Bとした場合を示しているが、測定精度を高めるうえで10段階とするなど、その増減は任意である。
【0041】
この実施形態においても、シート状素材7を被検者の検査部位に直接貼布し、その減率フィルタ1Bの全域に紫外線を均等に照射することにより各減率フィルタ1B〜1Bの紫外線透過量に応じて皮膚が変色し、その後シート状素材7を剥ぎ取った跡の皮膚の色調を観察して最適照射量を判断することができる。
【0042】
この実施形態における減率フィルタ1Bの各部の透過率の設定に関しては、前記図1〜図3に示した濃淡によるほか、図6に説明用として一部の拡大断面図を示すように、石英ガラス等の無反射質の素材からなるベース8上に誘電体層9,9…を積層して、各誘電体層による反射量の大小により紫外線の透過量を異らせるようにしたものなどを用いることができる。
【0043】
図7は本発明による紫外線治療用照射量測定具のさらに他の実施形態を示すもので、図7(A)は平面図、同(B)は図7(A)のB−B断面図である。
【0044】
この実施形態では、複数の窓孔10〜1010が片側5個ずつ2列に穿設された基板11と、これら窓孔10〜1010に設けられる減率フィルタ1C〜1C10とで構成されている。
【0045】
前記基板11は、プラスチックシート、厚紙、その他人体の皮膚に貼付するに適する素材により形成され、窓孔10〜1010は例えば10mm×10mm(1cm)の角孔として穿設されている。
【0046】
なお上記窓孔10〜1010の設置数は測定精度を勘案して適宜増減することができる。
【0047】
前記減率フィルタ1C〜1C10は、その符号順に紫外線透過率が段階的に変化するもので、接着等により基板10に取り付けられている。
【0048】
上記減率フィルタ1C〜1C10の構成は、前記図3に示した濃淡によるもの、あるいは図6に示した反射率の違いによるもののいずれであってもよい。
【0049】
この実施形態によっても、被検者の検査部位に基板10を貼布し、そのすべての窓孔10〜1010に対し紫外線が均等に当るように照射を行えば、各窓孔10〜1010の減率フィルタ1C〜1C10を通じて被検者の皮膚に照射され、照射終了後基板11を剥離してその窓孔10〜1010に対応する部位の皮膚の変色状態を観察することにより適正照射量を把握することができる。
【0050】
なお前記基板11に設ける窓孔10〜1010は角孔に限らず、図8に5個の窓孔のみ示すように丸孔としてもよい。
【0051】
本発明による測定具を用いれば、MED、MPDのいずれについても同様にして測定することができる。
【0052】
図10は本発明による紫外線治療用照射量測定具のさらに他の実施形態を示すものである。この実施形態では、照射ヘッド6と減衰フィルタ1Aとが枠体20によって一体的に取り付けられている。照射ヘッド6は棒状の紫外線照射ランプ21と、紫外線照射ランプ21から照射される光線を均一に減衰フィルタ1Aへ照射するための円筒状のレンズ22とを有する。また、枠体20の内側上面には略円筒状の反射面23が形成されており、紫外線照射ランプ21から照射され反射面23で反射された光線も減衰フィルタ1Aへ照射されるようになっている。紫外線照射ランプ21は枠体20内に光学的に密閉されており、紫外光線は減衰フィルタ1Aを通してしか外部へ漏れないようになっている。また、紫外線照射ランプ21の照射波長は、枠体20のソケットにUV−AまたはUV−Bを付け替えることにより、選択される。なお、減衰フィルタ1Aの代わりに、減衰フィルタ1Bまたは減衰フィルタ1Cを枠体20に取り付けることも可能である。
【0053】
本実施の形態によれば、減衰フィルタ1Aを用いることにより、従来のようにシャッタ板を手動でスライドさせるような操作が全く不要であるので、シャッタ板等を考慮する必要がなく、照射ヘッド6と減衰フィルタ1Aとを枠体20によって容易に一体化することが可能になる。また、従来のようにシャッタ板を手動でスライドさせるような操作が全く不要であるので、照射ヘッド6と減衰フィルタ1Aとの内部に操作を加える必要がなく一体的に扱うことが可能になる。
【0054】
また、照射ヘッド6と減衰フィルタ1Aとが一体的に形成されているので、コンパクトで持ち運び容易に構成でき、また、患者の背中等に紫外線治療用照射量測定具を置くだけで測定が可能になり、狭い居室においても紫外線治療用照射量測定具を使用することができる。
【0055】
また、紫外線照射ランプ21は枠体20内に光学的に密閉されているので、測定者が不用意に紫外線に照射される恐れをなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による紫外線治療用照射量測定具の一実施形態を示す平面図。
【図2】図1の測定具の紫外線透過率の変化を示すグラフ。
【図3】図1のA−A線模式断面図。
【図4】紫外線照射装置による照射態様の一例を示す説明図。
【図5】本発明による測定具の他の実施形態を示す平面図。
【図6】減率フィルタの他の構成例を示す一部の拡大断面図。
【図7】本発明による測定具のさらに他の実施形態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のB−B断面図。
【図8】同、変形例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のC−C断面図。
【図9】従来の紫外線治療用照射量測定具を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のD−D断面図。
【図10】本発明による紫外線治療用照射量測定具のさらに他の実施形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0057】
1A,1B,1C 減率フィルタ
3 紫外線照射装置
5 被検者(患者)
6 照射ヘッド
8 ベース
9 誘電体層
10 窓孔
11 基板
20 枠体
21 紫外線照射ランプ
22 レンズ
23 反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線照射治療に先立って紫外線の適正照射量を事前に知るための紫外線治療用照射量測定具であって、
患者の皮膚に載置し得、紫外線の透過率が互いに異なる既知の値に設定された複数の透過領域を有する減衰フィルタを備える
ことを特徴とする紫外線治療用照射量測定具。
【請求項2】
前記減率フィルタは、一端から他端にかけて紫外線の透過率が連続的に減少するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療用照射量測定具。
【請求項3】
前記減率フィルタは、一端から他端にかけて紫外線透過率が段階的に減少するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療用照射量測定具。
【請求項4】
前記減率フィルタは、基板に配設された複数の窓孔の窓孔列の順に透過率が段階的に減少するように配列されている
ことを特徴とする請求項1に記載の紫外線治療用照射量測定具。
【請求項5】
前記減率フィルタは、紫外線照射ランプと一体的に枠体に取り付けられている請求項1〜4のいずれか1項記載の紫外線治療用照射量測定具。
【請求項6】
前記減率フィルタは、フィルタ素材の濃淡により透過率が可変とされている請求項1〜4のいずれか1項記載の紫外線治療用照射量測定具。
【請求項7】
前記減率フィルタは、石英ガラス等の無反射質の素材からなる基板上に誘電体の層を積層して透過率が可変とされている請求項1〜4のいずれか1項記載の紫外線治療用照射量測定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−383(P2006−383A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179786(P2004−179786)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(592067568)株式会社ヤヨイ (4)
【Fターム(参考)】