説明

紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス及び該コーティングニスを用いた印刷物

【課題】 350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより、十分な乾燥性を有し、且つ、印刷物に黄変を生じさせず、柔軟性に富む印刷物を得るための紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供する。
【解決手段】 アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを特徴とする紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線(UV)光源として発光ダイオードを用いる紫外線硬化性コーティングニスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線発光ダイオードを光源とした照射モジュールが開発され、インクジェットを始めとしたUV印刷分野への実用化が検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。紫外線発光ダイオード光源は、光源として低圧、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の紫外線ランプ等の既存のUVランプ光源と比較して光源寿命が長く、省エネルギー性において大きく優れていることから、紫外線発光ダイオード光源の実用化は印刷業界各社から強く要望されるものである。
【0003】
一方、紫外線発光ダイオード光源の短所として、ランプ光源と比較して、紫外線硬化性組成物の皮膜乾燥性が大きく劣る点が挙げられ、本方式が広まらない障害と成っている。原因として、現在のところ、試験用にはより短波長のダイオードも存在するものの、実用の紫外線発光ダイオード光源は発光波長域が365〜420nmに限られており、広域波長の紫外線を発する従来からのUVランプ光源と比較して紫外線エネルギーの総量が小さく、光重合開始剤から生成するラジカルの発生量が少ない為に、重合反応が酸素阻害の影響を受けやすいことが挙げられる。また、相対的に短波長領域の紫外線エネルギー量が不足することから、紫外線発光ダイオード光源からの紫外線照射により得られた紫外線硬化性組成物は、一般に皮膜表面の硬化性が劣る傾向が確認されている。
【0004】
しかし光源のハイパワー化と紫外線発光ダイオード光源の発光波長に適した紫外線硬化性組成物の開発が進み、2008年、紫外線発光ダイオード光源を搭載したオフセット印刷機が登場し、紫外線発光ダイオード光源対応組成のカラー印刷インキを乾燥させることが可能と成った。
【0005】
そこで、更に、高光沢等の意匠性や、印刷物表面における機械的強度の付与を目的とした紫外線発光ダイオード光源対応組成のUVコーティングニスの登場が待望されている。紫外線発光ダイオード硬化方式において無色透明のコーティングニスは特に皮膜表面の乾燥が劣る傾向があるが、カラーインキと異なり、無色透明のコーティングニスでは重合開始剤に起因する皮膜の黄変が顕著に発現することから、十分な乾燥性と無黄変性を兼ね備えたコーティングニスが得られていない。
【0006】
また皮膜表面の乾燥を改善する手法としては、カバーフィルムを用いたフィルムラミネーション方式により酸素による重合阻害を防止する紫外線発光ダイオード硬化印刷物の製造方法が挙げられるが(例えば、特許文献4参照)、空気中雰囲気下においては実印刷機速度で十分な乾燥性と無黄変性を兼ね備えたコーティングニスは得られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−511684号公報
【特許文献2】特開2006−176734号公報
【特許文献3】特開2006−206875号公報
【特許文献4】特願2008−163076号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより、十分な乾燥性を有し、且つ、印刷物に黄変を生じさせず、柔軟性に富む印刷物を得るための紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記課題の解決手段として、特定のアクリレート及び重合開始剤の組み合わせを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は第一に、アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを特徴とする紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供する。
【0011】
本発明は第二に、基材上、又は、基材上に印刷された印刷インキ層の上に、前記した紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの層を形成し、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより得られる印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより、従来からのUVランプ光源による硬化の場合と同等の、十分な乾燥性を有し、且つ、印刷物に黄変を生じさせず、柔軟性に富む印刷物を得るための紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスは、構成として、アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを特徴とする。本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスは、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより、従来からのUVランプ光源による硬化の場合と同等の、十分な乾燥性を有する。
【0014】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスに用いるアミン変性アクリレートとしては、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、市販品としては、BASF社製のLaromer PO77F,Laromer PO83F,Laromer PO84F,Laromer PO94F,Laromer LR8997,Laromer LR8889,Laromer LR8869,Laromer LR8996,Laromer LR9019,サートマー社製のCN371,CN372,CN373,CN383,CN374,CN386,ダイセル・サイテック社製のEBECRYL80,EBECRYL81,EBECRYL83,EBECRYL3708,EBECRYL7100,コグニス社製のPHOTOMER4662,4770,4771,4967等が挙げられる。紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中のアミン変性アクリレートの含有量は、15〜80質量%であり、好ましくは、20〜60質量%である。
【0015】
アミン変性アクリレートの量が少な過ぎる場合には十分な皮膜乾燥性が得られず、逆に多過ぎる場合には皮膜の黄変発現が顕著と成る可能性がある。
【0016】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスに用いる、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分は、後述の例に示されるが、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中に、15〜70質量%含有し、好ましくは、25〜60質量%である。
【0017】
他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性オリゴマー等、公知慣用であるもの、ランプ方式で実績のあるものが、本発明で述べる紫外線発光ダイオード方式においてもそのまま使用することが可能である。
【0018】
低エネルギーで紫外線硬化性組成物を好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上のモノマーを用いたほうが好ましいが、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが可能である。
【0019】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
重合性オリゴマーとしては、上述したアミン変性アクリレートの他に、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、特に、4官能以上のモノマーは乾燥性や強度の向上に大きく寄与するが、使用量が過剰となると皮膜の柔軟性が損なわれ、割れが発生する場合がある。4官能以上のモノマーの使用量は、10〜30質量%が好ましい。
【0023】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスは、アミン変性アクリレートとともに、光重合開始剤として、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを主要な特徴としている。
【0024】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2−メチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられ、特に、これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドは、紫外線発光ダイオードの発光波長領域に合致するUV吸収波長を有することで、好適な硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0025】
その他、紫外線発光ダイオードに反応し得る光重合開始剤としては、例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2−[2[オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ−]−エチルエステルとオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル等が挙げられ、黄変の発現性はある程度あるものの、前記したアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と併用することが可能である。
【0026】
また上述の光重合開始剤に加えて、光増感剤を併用することで、より好適な乾燥性を得ることが可能である。350〜420nmの紫外線発光ダイオードに反応し得る光増感剤としては、例えば、チオキサントン系化合物のうち、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等が挙げられ、黄変の発現性を考慮すると使用量は少量に限定されるが、併用することで皮膜乾燥性を好適に向上させることが可能である。
【0027】
また紫外線発光ダイオード発光波長領域に合致するUV吸収特性を有していないものであっても、上述したアミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物を水素供与体として併用することでも、好適なUV硬化を得ることが可能である。例えば、脂肪族アミン誘導体としてトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジブチルエタノールアミン等が、安息香酸誘導体のアミンとして2−ジメチルアミノエチル安息香酸、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等が、アニリン誘導体のアミンとしてN,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等が挙げられる。
【0028】
これら光増感剤の使用量は黄変への影響を考慮すると、チオキサントン系化合物の場合、コーティングニス中の含有量は0.5質量%以下であり、アミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物の場合、2質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の第二の形態は、基材上、又は、基材上に印刷された印刷インキ層の上に、アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの層を形成し、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより得られることを特徴とする印刷物である。
【0030】
本発明の印刷物で使用する印刷基材としては、特に限定は無く、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。
【0031】
本発明の印刷物の製造に用いられる印刷インキとしては、紫外線発光ダイオードより発せられる紫外線に対して好適に硬化する組成物であれば特に限定は無く、例えば印刷方式に応じて、オフセット、水無し、グラビア、フレキソ、シルクスクリーン、インクジェット、その他従来から印刷用途に使用されているUV硬化性インキを採用することが可能である。
【0032】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスは、ナチュラルロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、スプレーコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート等の公知の手段により塗工することができる。
【0033】
本発明の印刷物を製造するために使用する紫外線発光ダイオード光源より発せられる紫外線の発光波長としては、例えば、発光ピーク波長が350〜420nm程度であるものが好ましい。
【0034】
紫外線発光ダイオード光源よりUV硬化性組成物へ照射される紫外線の積算光量値に関しては、印刷基材上のUV硬化性組成物の種別や印刷層の厚み等により異なる為、厳密には特定出来ず、適宜好ましい条件を選択するものであるが、例えば、積算光量の総和が5〜200mJ/cm程度であり、より好ましくは、20〜100mJ/cm程度である。
【0035】
インクジェット印刷に関する先行文献においては5000mJ/cmもの大積算光量により紫外線硬化性組成物の硬化を実施した例が述べられているが(例えば、特許文献3参照)、本発明で述べる実施例構成においては100mJ/cm以下の積算光量で、充分な紫外線硬化性組成物の硬化が得られることを実証している。ただし本発明においても、積算光量値が5mJ/cm未満の条件では、充分な紫外線硬化性組成物の硬化を得ることは困難である。
【0036】
一方、積算光量値200mJ/cmを超える条件は、本発明で述べる印刷方式においては不必要であり、紫外線発光ダイオード光源の特徴である省エネルギー性を維持する目的においても過剰量のエネルギー照射は行わない。
【0037】
紫外線発光ダイオード光源より印刷基材上のUV硬化性組成物へ照射される紫外線の照射強度(mW/cm)に関しては、印刷方向に並べる紫外線発光ダイオード光源の個数、光源から組成物までの照射距離等の諸条件によっても適切な照射強度範囲が変動することから特に規定はしないが、本発明で述べる印刷方式における印刷基材の移動速度は60〜400m/min.程度であるから、該印刷速度で移動する印刷基材上のUV硬化性組成物に対して、積算光量値が先に述べた程度と成る照射強度であることが好ましい。
【実施例】
【0038】
次に実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0039】
(紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1)の調製)
アミン変性ポリエーテルアクリレート(EBECRYL80)35.0部、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO)6.5部、ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIRAMER M284)42.8部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(アロニックスM−402)15.0部、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックスSPRAY40)0.2部、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(SH28PA)0.5部の配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤および光増感剤成分を完全に溶解させることで、実施例ニス−1を調製した。
【0040】
((実施例ニス−2〜13)及び(比較例ニス−1〜6)の調製)
原材料を表1〜5に示す配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤および光増感剤成分を完全に溶解させることで、実施例ニス-1と同様の方法で、(実施例ニス−2〜13)及び(比較例ニス−1〜6)を調製した。
【0041】
(印刷物の製造方法)
前記のように調製された紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1〜13及び比較例ニス−1〜6)を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、0.45mlを使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に、紫外線発光ダイオード硬化性コーティング膜厚が約5μmと成るよう印刷した。
【0042】
(紫外線発光ダイオード光源による乾燥方法)
紫外線発光ダイオード光源として、発光波長ピークが385nmである紫外線発光ダイオード照射装置(パナソニック電工社製、ANUD8002T01)を使用し、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを印刷したPETフィルムに対して、紫外線発光ダイオード光源の直下を通過させるよう、紫外線照射を施した。照射時の電力は140W/cm、光源1灯を用い、合計140W/cmであった。ラインスピード100m/min.にて照射を行い、積算光量は照射強度3000mW/cm、印刷方向の有効照射幅25mmとして計算し、45mJ/cmであった。
【0043】
(UVランプ光源による乾燥方法)
UVランプ光源として、水冷メタルハライドランプ(フュージョンUVシステムズ社製Dバルブ)を使用し、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを印刷したPETフィルムに対して、UVランプ光源の直下を通過させるよう、紫外線照射を施した。照射時の電力は160W/cm、光源3灯を用い、合計480W/cmであった(電力量は紫外線発光ダイオード比 約340%)。ラインスピード100m/min.にて照射を行い、積算光量測定にはUNIMETER UIT−150−A(ウシオ電機社製)を使用し、紫外線受光機としてはUVD−C254(ウシオ電気社製感度波長領域220〜310nm)、UVD−C365(ウシオ電気社製感度波長領域310〜390nm)を用い、各々測定した積算光量の値を合計したところ、80mJ/cmであった。
【0044】
(コーティングニスの評価方法:開始剤析出)
紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを冷蔵庫内(4℃)にて1週間保管し、重合開始剤の溶解性低下に伴う析出の状態を目視で確認し、次の3段階で評価した。本評価項目において析出の発生する組成では、冬場等、低温環境下においては十分な製品性能を発揮することが出来ない。
3・・・析出は発生せず、コーティングニスの外観が透明である
2・・・コーティングニスに濁りが生じているが、沈殿していない
1・・・重合開始剤が沈殿している
【0045】
(印刷物の評価方法1:乾燥性)
紫外線照射後における印刷物の乾燥性(硬化性)の評価方法としては、上質紙によるラビングテストにより皮膜表面の乾燥性を確認し、それぞれ次の5段階で評価した。
5・・・完全に乾燥しており、皮膜に傷が発生しない
4・・・ほぼ乾燥しているが、皮膜に僅かに傷が発生する
3・・・ほぼ乾燥しているが、皮膜に明確に傷が発生する
2・・・僅かに乾燥しており、弱い力でも皮膜に明確に傷が発生する
1・・・全く乾燥していない
【0046】
(印刷物の評価方法2:黄変)
紫外線照射後における硬化皮膜の黄変に起因する色変化を目視で確認し、次の5段階で評価した。
5・・・色変化が全く無い、もしくは殆ど無い
4・・・5と3の中間程度の色変化が確認できる
3・・・若干の色変化が確認できる
2・・・3と1の中間程度の色変化が確認できる
1・・・明確に黄変による色変化が確認できる
【0047】
(印刷物の評価方法3:割れ)
紫外線照射後に硬化皮膜を、印刷表面に対して反対方向に180°の角度で折り曲げ、皮膜表面の状態を目視で確認し、次の5段階で評価した。
5・・・ひび、割れ共に全く発生しない
4・・・ひびが僅かに確認できる
3・・・ひびが明確に確認できる
2・・・ひびが明確に確認でき、割れが僅かに確認できる
1・・・皮膜が完全に割れる
【0048】
実施例ニス−1〜13及び比較例ニス−1〜6の配合及び以上の評価結果を表1〜5に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
表1〜5に示す略号は以下を表す。
・EBECRYL80:アミン変性ポリエーテルアクリレート(ダイセル・サイテック社製)、
・DICLITE UE−8200:エポキシアクリレート(DIC社製)、
・Speedcure MBB:2−ベンゾイル安息香酸メチル(ランブソン社製)、
・IRGACURE 907:2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバジャパン社製)、
・DAROCUR TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(チバジャパン社製)、
・IRGACURE 819:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバジャパン社製)、
・Speedcure DETX:2,4−ジエチルチオキサントン(ランブソン社製)、
・Speedcure EDB:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(ランブソン社製)、
・アミノアルコール MDA:メチルジエタノールアミン(日本乳化剤社製)
・MIRAMER M3130:エチレンオキサイド付加(平均3モル)トリメチロールプロパントリアクリレート(MIWON社製)、
・MIRAMER M284:ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIWON社製)、
・アロニックスM−402:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(東亜合成社製)、
・SPRAY40:サゾールワックスSPRAY40、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックス社製、皮膜表面滑り性の調整剤として添加)、
・SH28PA:ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、基材および下地インキ層との親和性を高めるレベリング剤として添加)。
【0055】
実施例で述べる紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス組成では、紫外線発光ダイオード光源により良好な乾燥性が得られた。また各原材料を請求項で述べる質量%の範囲で配合することにより、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの必要特性である開始剤析出、黄変、割れ、といった評価項目において良好な結果を示し、UVランプ光源での乾燥と同等の性能が得られることを確認した。前述のように、本明細書における評価は385nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオードを光源としている。現在のところ、実用の紫外線発光ダイオード光源は発光波長域が365〜420nmに限られているものの、本発明のコーティングニスは、350nm程度にピーク波長を有する光源に対しても有効な硬化性を示すことが期待される。
【0056】
比較例の結果において、アミン変性アクリレートおよびアシルフォスフィンオキサイド系開始剤を十分量使用しないUVコーティングニス組成では、UVランプ光源では乾燥しても、紫外線発光ダイオード光源では全く乾燥しないことを確認した。また各原材料を請求項で述べる質量%の範囲外で配合する組成に関しては、乾燥性が得られても開始剤析出、黄変、割れといった評価項目において問題が発生する傾向を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスおよびそれを用いた印刷物は、UV硬化による印刷が求められるグラフィックイメージの印刷、印字図形、プラスチック電子材料などにおいて、高光沢、エンボスパターン、ホログラムパターン転写といった高意匠性を発揮する分野に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを特徴とする紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項2】
前記したアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドである請求項1に記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項3】
前記した紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分が、1分子中に4官能以上の重合基を有する紫外線硬化性モノマーを含有する請求項1又は2に記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項4】
チオキサントン系化合物を0.01〜0.5質量%含有する請求項1〜3の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項5】
脂肪族アミン誘導体及び安息香酸アミン誘導体から選ばれる3級アミン化合物を0.1〜2質量%含有する請求項1〜3の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項6】
基材上、又は、基材上に印刷された印刷インキ層の上に、アミン変性アクリレートを15〜80質量%、他の紫外線硬化性成分を15〜70質量%、及び、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの層を形成し、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより得られることを特徴とする印刷物。

【公開番号】特開2011−1449(P2011−1449A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145280(P2009−145280)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】