説明

紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法

【課題】 非常に単純な工程で結晶性の高い、緑色の発光を消失させた紫外線光源や紫外線レーザーなどに応用できる紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液並びに紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化亜鉛ナノ微粒子が2nm〜100nmの平均粒径を有していることを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって2nm〜100nmの平均粒径を有する酸化亜鉛ナノ微粒子を製造することを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線光源や紫外線レーザーなどに応用できる紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液並びに紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は紫外線吸収材料や光触媒材料や蛍光管用の蛍光体として利用されてきた。中でもこれまで古くから蛍光体として利用されてきた酸化亜鉛は緑色発光の蛍光体として利用されており、これらの粉末はZnO粉末を還元性雰囲気中で焼成し、酸化亜鉛格子内に過剰Zn及び酸素欠陥を導入することによって調製されてきた(非特許文献1参照)。
【0003】
また、酸化亜鉛はそのバンドギャップエネルギーが3.3eVであり、室温で60meVもの高い励起子結合エネルギーを有することから、室温で紫外域の短波長光を放出する材料として期待されている。このような紫外光発光素子は、紫外光の光源のみならず、高密度光メモリ、バイオ応用、環境応用などに利用が可能であることからその材料開発が進められてきた。
近年、レーザーMBE(Molecular Beam Epitaxy)法によって室温のもとで作成された、ナノメートルオーダーの六角柱から構成される酸化亜鉛薄膜より紫外線領域の発光並びにレーザー発振が観測された。
【0004】
これらを契機に紫外光光源としての酸化亜鉛粒子の開発が盛んに進められるようになってきた。このような紫外線発光用酸化亜鉛粒子の場合、その粒子サイズがナノメートルオーダーになると、粒子表面上には通常欠陥が多数存在するようになり、この欠陥に基づく電子準位が関与した緑色の発光強度が強くなると共に、バンド間遷移に基づく紫外発光の強度が低下する問題があった。
このようなことから、紫外発光の強度を増加させるために、欠陥準位が関与した緑色の発光を完全に無くした紫外線発光用酸化亜鉛ナノ微粒子及びその製造方法が求められてきた。
【0005】
従来技術として、例えば酸化亜鉛微粒子の製造方法には、原料酸化亜鉛を含む水スラリー中に二酸化炭素ガスを導入し、塩基性炭酸亜鉛を生成する工程、これにより得られた塩基性炭酸亜鉛を乾燥する工程、及び当該乾燥された塩基性炭酸亜鉛を粉砕しながら加熱分解し酸化亜鉛とする工程からなる酸化亜鉛微粒子の製造方法がある(特許文献1参照)。
また、混合終了時点でのpHが11〜13となる亜鉛含有液の所定量と、アルカリ水溶液の所定量とを、0.1秒〜600秒の間で攪拌しながら混合し、次いで混合液中の酸化亜鉛微粉末を熟成することを特徴とする製造方法がある(特許文献2参照)。さらには、カルボン酸亜鉛塩とアルコールとを含む混合物を加熱することにより、酸化亜鉛結晶の生成反応を行わせる製造方法等がある(特許文献3参照)。
【0006】
特許文献3については、アルカリ金属元素及び/又はハロゲン元素を含まない紫外線発光酸化亜鉛微粒子の製造が可能であり、これらの粒子は波長0.4〜0.6μm域に発光スペクトルのピークトップを有しない紫外線発光酸化亜鉛微粒子が製造できるとされているので、有効であると考えられる。
しかしながら、これらの従来の方法は全て化学的な湿式合成法であり、工程が多段階にわたると共に非常に複雑で、pHの精密な制御あるいは熱処理等が必要であった。すなわち、熱処理等を必要とせずに極めて単純な工程で結晶性の高い、緑色の発光を完全に排除した紫外線発光用酸化亜鉛ナノ微粒子を製造できる技術はなく、従来技術はいずれも製造コストがかかり非能率的という問題があった。
【非特許文献1】蛍光体同学会 編、オーム社1987刊、蛍光体ハンドブック、157頁
【特許文献1】特開2001−342021
【特許文献2】特開2002−284527
【特許文献3】特開2003−268368
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、非常に単純な工程で結晶性の高い、緑色の発光を消失させた紫外線光源や紫外線レーザーなどに応用できる紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液並びに紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、陰イオン界面活性剤を除くさまざまなイオン性を有する界面活性剤水溶液中で金属亜鉛表面に強いエネルギーを印加して、亜鉛を水溶液中に原子、イオン、クラスターとして放出させ、界面活性剤と水との存在下で反応させることにより、酸化亜鉛ナノ微粒子を熱処理等を必要とせずに、非常に簡単な工程で得ることができるとの知見を得た。特に、金属亜鉛ターゲットに両イオン性界面活性剤水溶液中でパルスレーザー光の集光照射によりエネルギーを印加してパルスレーザーアブレーションを行うと緑色の発光を完全になくした紫外線発光用酸化亜鉛ナノ微粒子及びその分散溶液が高効率で得られることを見出した。
【0009】
本発明は、この知見に基づいて、
1.酸化亜鉛ナノ微粒子が2nm〜100nmの平均粒径を有していることを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
2.酸化亜鉛ナノ微粒子が2nm〜15nmの平均粒径を有していることを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
3.界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって製造された該酸化亜鉛ナノ微粒子であることを特徴とする上記1又は2記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
4.金属亜鉛の純度が98%以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
5.界面活性剤が、陽イオン性、両イオン性又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする上記3又は4記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
6.界面活性剤が両イオン性界面活性剤であるアルキルベタイン(C2n+1(CH)CHCOO)であることを特徴とする上記3〜5のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
7.酸化亜鉛ナノ粒子が結晶化したナノ微粒子であることを特徴とする上記1〜6記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液を提供する。
【0010】
また、さらに本発明は、
8.界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって2nm〜100nmの平均粒径を有する酸化亜鉛ナノ微粒子を製造することを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
9.界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって2nm〜15nmの平均粒径を有する酸化亜鉛ナノ微粒子を製造することを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
10.パルスレーザー光の集光照射エネルギーを印加してパルスレーザーアブレーションを行うことを特徴とする上記8又は9記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
11.50mJ/pulse以上のパルスエネルギーを印加することを特徴とする上記10記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
12.金属亜鉛ターゲット表面に1J/cm以上のレーザー光エネルギー密度を付与することを特徴とする上記10又は11記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
13.陽イオン性、両イオン性又は非イオン性界面活性剤水溶液を用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする上記8〜12のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
14.両イオン性界面活性剤であるアルキルベタイン(C2n+1(CH)CHCOO)を用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする上記8〜13のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
15.アルキルベタイン中のアルキル鎖中の炭素数nが6〜22であることを特徴とする上記14記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
16.アルキルベタイン中のアルキル鎖中の炭素数nが12であることを特徴とする上記14記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
17.界面活性剤の濃度が0.0001mol/L以上であることを特徴とする上記8〜16記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
18.酸化亜鉛ナノ粒子が結晶化したナノ微粒子であることを特徴とする上記8〜17記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、結晶性が高く、緑色の発光を消失させた紫外線光源あるいは紫外線レーザーなどに応用できる紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液が得られ、さらに非常に簡単な工程で、紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子を製造できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を図に基づいて説明する。図1に酸化亜鉛ナノ微粒子及びその分散溶液の製造装置(縦型セル方式製造装置(図1−1)及び横型セル方式製造装置(図1−2))を示す。これらの装置を使用して、レーザー装置2からレーザー光反射ミラー3、集光レンズ4を介して、石英ガラスセル5に装入した亜鉛金属板ターゲット7にレーザーを照射する。
亜鉛金属板ターゲット7には98%以上の純度の亜鉛金属板を使用し、この亜鉛金属板ターゲット7を石英ガラスセル5の底部又は軸10に固定する。石英ガラスセル5中には界面活性剤水溶液、例えば両イオン性界面活性剤水溶液8を適量加える。符号9は台、符号11はギアボックス、符号12はターゲット回転駆動用モーターである。
【0013】
界面活性剤としては、使用するレーザー光の波長に対して強い光吸収が無ければ、陰イオン性界面活性剤以外の、陽イオン性、両イオン性、非イオン性界面活性剤など、どのようなものでも酸化亜鉛ナノ微粒子の製造に使用出来る。
例えば、陽イオン性の界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウムクロライドやアルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、両イオン性界面活性剤であるアルキルベタインやアミドベタイン、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオオキシエチレンアルキルアリルエーテルなどが挙げられる。
【0014】
これらの界面活性剤の中でも、特に両イオン性界面活性剤が酸化亜鉛ナノ微粒子の製造に好適である。この中でも、アルキルベタイン(C2n+1(CH)CHCOO)が特に有効である。また、アルキルベタイン中のアルキル鎖中の炭素数nは6から22が良く、特にn=12が望ましい。
両イオン性界面活性剤の濃度は0.0001 mol/L以上あれば良く、望ましくは界面活性剤の25°Cにおける臨界ミセル濃度以上で、さらに望ましくは臨界ミセル濃度の5倍以上界面活性剤の飽和濃度以下である。
【0015】
使用可能なレーザー装置のレーザー光波長は使用する界面活性剤に対して強い吸収が無ければ良く、例えばパルスNd:YAGレーザーの基本波(波長:1064nm)、第二高調波(波長:532nm)、第三高調波(波長:355nm)などが利用できる。
レーザー光のエネルギーとしては、ターゲットの亜鉛金属が水溶液中で原子、イオン、クラスターとして放出されるエネルギーがあれば良く、エネルギー源としてパルスレーザーを用いる場合には亜鉛金属のレーザーアブレーション現象が発現するに十分に足りるエネルギーがあればよい。
【0016】
1パルスあたりのエネルギーとしては50mJ/pulse以上あれば十分である。ターゲット表面上でのレーザー光のエネルギー密度は1J/cm以上あれば良く、望ましくは2J/cmである。
このようにして得られる酸化亜鉛ナノ微粒子の大きさは平均粒径が2nmから100nmのものが得られ、さらに平均粒径2nmから15nmの微細な酸化亜鉛ナノ微粒子を得ることができる。また、このようにして得られた酸化亜鉛ナノ微粒子は結晶性の高いナノ微粒子であり、熱処理を施さなくても結晶化していることが本発明の大きな特徴の一つである。このように、熱処理工程を必要としないので、製造が容易であるという著しい効果を有する。
【実施例】
【0017】
次に実際に製造した例について説明する。図2には調製及び分析手順を示した。表1に使用した代表的な界面活性剤名称、化学式、イオン性の種別、25°Cにおける臨界ミセル濃度を示した。
以降、陽イオン性界面活性剤であるセチルトリメリルアンモニウムブロマイドをCTABと、両イオン性界面活性剤であるラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインをLDAと、非イオン性界面活性剤であるオクタエチレングリーコールモノデシルエーテルをOGMと表記する。
また、使用した界面活性剤は表に記載のものに限られることは無く、陰イオン界面活性剤を除く様々な陽イオン性、両イオン性、非イオン性界面活性剤が使用できることはいうまでもない。
【0018】
【表1】

【0019】
界面活性剤の水溶液を調製し、界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度が使用する水溶液の濃度の範囲内に入るように0.0001 mol/Lから0.1 mol/Lの範囲で変化させた。
純度99.9%の亜鉛板(サイズ20mm×20mm、厚さ5mm)を図1の装置に装着し、パルスNd:YAGレーザーの第三高調波(波長:355nm)で10Hzの繰り返し周波数を使用した。
100mJ/pulseのパルスエネルギーでターゲット上のレーザー光のスポットサイズが直径1.4mmとなるようにレンズの位置を調製した後、界面活性剤水溶液中でターゲット回転駆動用モーターを介してターゲットを回転させながらパルスレーザー光を1時間照射した。
【0020】
これにより亜鉛が水溶液中に原子、イオン、クラスターとして放出され、界面活性剤と水の存在下で直ちに反応し水溶液中で結晶性酸化亜鉛ナノ微粒子が形成され、酸化亜鉛ナノ微粒子が分散した溶液が熱処理等の工程を必要とせずに、極めて簡単に得られた。
得られた酸化亜鉛ナノ微粒子が分散した溶液は特別な処理をすることなく、そのままの状態で蛍光スペクトルを測定した。また、得られた固形物を遠心分離の後洗浄し、さらに洗浄と遠心分離を数回繰返して酸化亜鉛ナノ微粒子を回収した。
得られた酸化亜鉛ナノ微粒子は乾燥空気中常温で乾燥させた後にX線回折分析、走査型電子顕微鏡観察による構造解析を行った。
【0021】
図3に、表1に示した界面活性剤の、それぞれの臨界ミセル濃度の水溶液中及びイオン交換水中で調製した酸化亜鉛ナノ微粒子のX線回折パターンを示した。
図3に示す通り、どの試料とも酸化亜鉛に基づく回折線が観察され、酸化亜鉛が形成されていることがわかった。
図4に表1に示した界面活性剤の、それぞれの臨界ミセル濃度の水溶液中及びイオン交換水中で調製した酸化亜鉛ナノ微粒子の走査型電子顕微鏡写真を示した。両イオン性界面活性剤であるLDA水溶液中で作成した酸化亜鉛ナノ微粒子の粒子サイズが最も小さく、2nmから15nmの範囲にあった。
【0022】
このように両イオン性界面活性剤の25°Cにおける臨界ミセル濃度以上の濃度の水溶液中で調製した酸化亜鉛微粒子の粒子サイズは他の界面活性剤に比較して小さいことが明らかとなった。
図5に0.01 mol/Lの濃度のLDA水溶液中及びイオン交換水中で調製した酸化亜鉛ナノ微粒子が分散した水溶液の蛍光スペクトルを示した。
ここでは励起光には340nmの光を使用した。界面活性剤水溶液及びイオン交換水のみからはまったく発光が無いことを確認しており、発光は全て酸化亜鉛ナノ微粒子の分散溶液中に含まれる酸化亜鉛ナノ微粒子からの蛍光発光である。
【0023】
イオン交換水並びに陰イオン性界面活性剤を除く様々な界面活性剤水溶液を用いて調製した酸化亜鉛ナノ微粒子の分散溶液の蛍光スペクトルでは、特徴的な以下のピークが観測された。
1)363nmの紫外光線の発光ピーク、2)385nmに観察される溶媒である水分子からのラマン散乱ピーク、3)540nmにピークをもつブロードな緑色光蛍光ピークの以上3つのピークである。
【0024】
363nmの紫外光の発光ピーク強度及び540nmにピークをもつブロードな緑色光の蛍光ピーク強度は界面活性剤の種類や濃度によって強い影響を受けるとともに、その絶対強度は酸化亜鉛粒子の量によっても影響を受ける。
そこで、これらのピーク強度を酸化亜鉛ナノ微粒子中に含まれる酸化亜鉛の量によって規格化し、界面活性剤の種類や濃度に対して363nmの紫外光発光強度及び540nmの緑色光発光強度のプロットを行った。
【0025】
図6にこの結果を示した。両イオン性界面活性剤であるLDAの場合、その濃度が増加するに従い緑色光発光強度が減少すると共に紫外光発光強度が増加しており、LDA濃度が0.01 mol/Lに達すると、完全に緑色光発が消失して、紫外光発光だけとなった。
この現象は0.01 mol/L以上の界面活性剤濃度で観察されると共に、その他の両イオン性界面活性剤でも同様の現象が観察された。
【0026】
このように、界面活性剤として両イオン性界面活性剤水溶液中で金属亜鉛板をレーザーアブレーションすると、2〜15nmの結晶性酸化亜鉛ナノ微粒子を熱処理等の工程を必要とせずに、極めて簡単に調製でき、臨界ミセル濃度以上の濃度の水溶液を用いれば微粒子からの緑色蛍光発光強度を低下させることができる。さらに臨界ミセル濃度の5倍以上の界面活性剤水溶液を用いればの緑色蛍光発光の無い紫外光発光用酸化亜鉛ナノ微粒子が調製できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上に記載するように、陽イオン性、両イオン性又は非イオン性界面活性剤水溶液中、特に両イオン性界面活性剤水溶液中での液相レーザーアブレーションを用いることにより、緑色発光のない紫外光発光用酸化亜鉛ナノ微粒子が極めて簡単な工程で製造及び調製できる。このような酸化亜鉛ナノ微粒子は室温で紫外域の短波長光を放出する事が可能で、紫外光の光源のみならず、高密度光メモリ、バイオ応用、環境応用などに利用が可能である。
また、アブレーション後に得られる酸化亜鉛ナノ微粒子が分散した溶液についても同様に紫外光の光源に応用できるが、特に生体分子との相互作用を利用した細胞内マーカーなどのバイオ応用などには極めて容易に利用が可能である。
さらに、分散した溶液を原料としてコーティング剤やポリマーとのナノコンポジット原料等にも利用が可能であり、その産業応用範囲は極めて広いと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酸化亜鉛ナノ微粒子およびその分散溶液の製造装置の概略説明図である(1−1は縦型セル方式の製造装置、1−2は横型セル方式の製造装置)。
【図2】酸化亜鉛ナノ微粒子の調製および分析工程を示す図である。
【図3】酸化亜鉛ナノ微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図4】酸化亜鉛ナノ微粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】0.01 mol/Lの濃度のLDA水溶液中及びイオン交換水中で調製した酸化亜鉛ナノ微粒子が分散した水溶液の蛍光スペクトルを示す図である。
【図6】界面活性剤の種類と濃度が変化した場合の363nmの紫外光発光強度及び540nmの緑色光発光強度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1−1 縦型セル方式製造装置
1−2 横型セル方式製造装置
2 レーザー装置
3 レーザー光反射ミラー
4 集光レンズ
5 石英ガラスセル
6 レーザー光
7 亜鉛金属板ターゲット
8 界面活性剤水溶液
9 台
10 軸
11 ギアボックス
12 ターゲット回転駆動用モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛ナノ微粒子が2nm〜100nmの平均粒径を有していることを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項2】
酸化亜鉛ナノ微粒子が2nm〜15nmの平均粒径を有していることを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項3】
界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって製造された該酸化亜鉛ナノ微粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項4】
金属亜鉛の純度が98%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項5】
界面活性剤が、陽イオン性、両イオン性又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項3又は4記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項6】
界面活性剤が両イオン性界面活性剤であるアルキルベタイン(C2n+1(CH)CHCOO)であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項7】
酸化亜鉛ナノ粒子が結晶化したナノ微粒子であることを特徴とする請求項1〜6記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子及び該ナノ微粒子が分散した溶液。
【請求項8】
界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって2nm〜100nmの平均粒径を有する酸化亜鉛ナノ微粒子を製造することを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項9】
界面活性剤水溶液中で金属亜鉛のレーザーアブレーションによって2nm〜15nmの平均粒径を有する酸化亜鉛ナノ微粒子を製造することを特徴とする紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項10】
パルスレーザー光の集光照射エネルギーを印加してパルスレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項8又は9記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項11】
50mJ/pulse以上のパルスエネルギーを印加することを特徴とする請求項10記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項12】
金属亜鉛ターゲット表面に1J/cm以上のレーザー光エネルギー密度を付与することを特徴とする請求項10又は11記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項13】
陽イオン性、両イオン性又は非イオン性界面活性剤水溶液を用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項14】
両イオン性界面活性剤であるアルキルベタイン(C2n+1(CH)CHCOO)を用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項15】
アルキルベタイン中のアルキル鎖中の炭素数nが6〜22であることを特徴とする請求項14記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項16】
アルキルベタイン中のアルキル鎖中の炭素数nが12であることを特徴とする請求項14記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項17】
界面活性剤の濃度が0.0001mol/L以上であることを特徴とする請求項8〜16記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。
【請求項18】
酸化亜鉛ナノ粒子が結晶化したナノ微粒子であることを特徴とする請求項8〜17記載の紫外線発光体用酸化亜鉛ナノ微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−57568(P2009−57568A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260448(P2008−260448)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【分割の表示】特願2004−82024(P2004−82024)の分割
【原出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】