説明

紫外線硬化型コート剤

【課題】インク吸収性や印刷画像の乾燥性、耐にじみ性と共に、耐タック性も改善されたインク受容層を形成する紫外線硬化型コート剤を提供する。
【解決手段】親水性重合体と、水溶性モノマーと、光重合開始剤と、スリップ剤として0.05〜2.5質量%の脂肪酸アミドを含有する紫外線硬化型コート剤とする。脂肪酸アミドはオレイン酸アミドが望ましい。該コート剤は、基材に塗布し紫外線で硬化させることにより、基材表面にインク受容層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂などの基材にインク受容層を施すための、紫外線で硬化する紫外線硬化型コート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピューター用情報の他、音声データ、画像データなどの各種情報の保存手段として、コンパクトディスク(以後CDと表記する)、デジタルビデオディスク(以後DVDと表記する)等の光情報記録媒体が開発され、広く普及してきている。
【0003】
前記の光情報記録媒体の表面には、記録された内容を示すタイトルやデザインなどがインクジェット印刷やスクリーン印刷などといった従来公知の印刷手段により実施されている。合成樹脂などの基材にインクジェット印刷などを施す場合、基材はインクを吸収しないため、基材の表面にコート剤等を塗布、硬化させてインク受容層を形成させ、その上に印刷を実施している。
インク受容層の印刷適性としては、優れたインク吸収性とともに、印刷画像の乾燥性、印刷画像の耐にじみ性、耐タック性、耐水性も併せて要求されており、インク受容層を形成するコート剤として、いくつか提案されている。
【0004】
特許文献1には、フィラー、紫外線硬化型樹脂、親水性重合体から構成される紫外線硬化型のコート剤が記載されている。特許文献2には、水溶性単量体、親水性重合体および染料固着体から構成される放射線硬化型のコート剤が記載されている。
【特許文献1】特開平8−96409号公報
【特許文献2】特開2003−25710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのようにインク吸収性を上げる目的でインク受容層を形成するコート剤に親水性高分子を用いた例では、インク吸収性は上がるが、耐タック性が低下する、すなわち滑りが悪くブロッキングを起こしやすくなるために、十分な印刷特性が得られないことがあるという問題が生じている。そのため、これらの特性を両立させたインク受容層を形成するコート剤が求められていた。
【0006】
本発明は、インク吸収性や印刷画像の乾燥性、耐にじみ性と共に、耐タック性も改善されたインク受容層を形成する紫外線硬化型コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、組成として親水性重合体、水溶性モノマー、光重合開始剤に加え、スリップ剤として脂肪酸アミドを0.05〜2.5質量%を含有した紫外線硬化型コート剤が、基材表面に製膜することにより上記課題をクリアーしたインク受容層を形成することを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)親水性重合体と、水溶性モノマーと、光重合開始剤と、スリップ剤とを含有する、紫外線で硬化する紫外線硬化型コート剤であって、前記スリップ剤として脂肪酸アミドを0.05〜2.5質量%含有することを特徴とする、紫外線硬化型コート剤、
(2)前記脂肪酸アミドがオレイン酸アミドであることを特徴とする、前記(1)記載の紫外線硬化型コート剤
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に記載の紫外線硬化型コート剤は、基材上に塗布、紫外線硬化させて製膜することにより、インク受容層を形成することができ、このインク受容層は、優れたインク吸収性を有するとともに、印刷画像の乾燥性、印刷画像の乾燥性、印刷画像の耐にじみ性、耐タック性、ともに良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、親水性重合体としては、アクリルアミド基等などの極性基を有するものが挙げられる。具体的には、アクリルアミド、アクロイルモルフォリン、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどの単重合体、共重合体が挙げられる。親水性重合体の重量平均分子量は、5000以上、200000以下が望ましく、5000以上、70000以下がより望ましい。5000未満であると親水性重合体の添加によるインク吸収性の向上効果が得られにくく、200000を超えると粘度の増加により、膜が塗りにくくなり、また耐タック性の低下が観察される。
本発明の紫外線硬化型コート剤は、親水性重合体を10〜40質量%含有することが望ましい。
【0010】
本発明の紫外線硬化型コート剤には、インク吸収性をさらに向上させるために、水溶性モノマーを添加する。本発明における水溶性モノマーとは、常温において水と任意の比率で溶解し合うことのできる紫外線重合性のモノマーである。具体的には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、エトキシメチルアクリルアミド、プロポトキシメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、ブトキシメチルアクリルアミド、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、2(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどを挙げることができる。特にアクリロイルモルフォリンが好ましい。
本発明の紫外線硬化型コート剤は、アクリロイルモルフォリンを60質量%以上含有することが好適である。
【0011】
本発明における光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインまたはそのエーテル、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、ベンジル、ベンジルメチルケタール、ベンジルエチルケタールなどのベンジル系化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンなどのヒドロキシアルキルフェニルケトン系化合物などが挙げられる。市販されているダロキュア1173(チバ・ジャパン株式会社製)、ダロキュア2959が好適である。
光重合開始剤の添加量は、紫外線硬化型コート剤の1〜10質量%、好ましくは2〜7質量%となるようにする。少なすぎると十分な硬化性が得られず、多すぎると被膜強度低下や黄変してしまう可能性がある。
【0012】
本発明の紫外線硬化型コート剤には、スリップ剤として脂肪酸アミドを含有させる。脂肪酸アミドとしては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。特にオレイン酸アミドが、スリップ性改善の効果が高く、好ましい。これらの脂肪酸アミドは、液状の紫外線硬化型コート剤に含有され、該コート剤が紫外線により硬化して層を形成した後、その層表面の耐タック性を著しく向上させる。これにより、他の成分である親水性重合体により起こりやすいタック性の問題を解決することができる。
脂肪酸アミドの含有量は、紫外線硬化型コート剤の0.05〜2.5質量%であり、他組成物への溶解性、分散性の観点から、望ましくは1〜2.5質量%である。0.05質量%より少ないと、効果が表れにくい。また、3質量%以上含有すると、紫外線による硬化が起こりにくくなる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
(試料の調製)
(親水性重合体の合成)
紫外線硬化型コート剤の材料として、以下に示す各種の親水性重合体を調製した。
【0014】
・親水性重合体(a):N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体
冷却管、窒素導入管、横枠翼を装着した1リットル容量のセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)60gと、メタノール(関東化学株式会社製)510gとを加え、攪拌下しつつ反応フラスコ内を窒素ガス(株式会社巴商会社製)で置換した。この後、アゾビスイソプチロニトリル(和光純薬工業株式会社製)0.64gをメタノール30gに溶解した溶液を加え、65℃に昇温して8時間重合反応を実施した。この重合反応後、反応溶液を減圧下で30℃にて溶媒を留去し、黄褐色の固体57gを得た。
この黄褐色の固体を、あらかじめ調製した硝酸ナトリウム0.1M(和光純薬工業株式会社製)と酢酸0.5M(和光純薬工業株式会社製)との混合水溶液を溶離剤としポリエチレンオキサイドを標準物質として、ウルトラハイドロゲル500(商品名 ウォーターズ社製)をカラムとして使用し、溶離剤流量1ml/分、カラム温度30℃にてGPC分析を行った。その結果、黄褐色の固形物の重量平均分子量は15400であった。
【0015】
・親水性重合体(b):N,N−ジメチルアクリルアミドの重合体
上述したセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)60gと、メタノール(関東化学株式会社製)510gとを加え、上述したように、撹拝下しつつ反応フラスコ内を窒素ガスで置換した。この後、アゾビスソプチロニトリル1.00gをメタノール30gに溶解した溶液を加え、75℃に昇温して8時間重合反応を実施した。この重合反応後、反応溶液を減圧下で30℃にて溶媒を留去し、黄褐色の固体58gを得た。この黄褐色の固体は、上記と同様にGPC分析を実施した結果、重量平均分子量は63800であった。
【0016】
<実施例1〜3、比較例1〜4>
以下の表1に示す配合割合で所定量の原料を混合し、紫外線硬化型コート剤の試料を作成した。
【0017】
(インク受理層の形成)
上述のとおり作製した紫外線硬化型コート剤の試料を、100μm厚PET(Polyethylene Terephthalate)フイルムに、膜厚が15〜25μmとなるようにバーコータ(RKPrint Coat Instruments社 商品名:K−202)で塗布した。
そして、紫外線照射装置((株)オーク製作所 商品名:OHD−320M)にて積算放射量350mJ/cm2で塗膜を硬化させ、インク受理層を形成した。
【0018】
(印刷適性の評価)
上述のとおり形成されたインク受理層の上に、インクジェット方式のカラープリンタ(セイコーエプソン株式会社製 商品名:PM−A890)により、黒・青・黄・赤のベタ画像を隣接して印刷した。そして、印刷状況を比較評価した。印刷状況としては、以下に示すとおり、乾燥性、にじみ性、耐タック性について、○、△、×の3段階で評価した。その評価結果を表1に示す。
【0019】
・乾燥性
印刷5分後に、印刷面に紙(アスクル社製,商品名:マルチペーパースパーエコノミー)を押し当て、紙にインクが転写される程度を評価した。
○:インクがまったく転写されない
△:インクが少し転写される
×:インクが多く転写される

・にじみ性
塗膜上の印刷画像が、にじんでいる程度を評価した。
○:ほとんどにじんでいない
△:少しにじんでいる
×:著しくにじんでいる

・耐タック性
塗膜上の印刷画像に、乾燥した指で触れ、粘着性の程度を評価した。
○:粘着性を感じない
△:少し粘着性を感じる
×:明らかに粘着性(べたつき)を感じる
【0020】
【表1】

【0021】
(結果)
アクリロイルモルフォリンと重合開始剤からなり、親水性重合体とスリップ剤を含有しない比較例1では、印刷後の乾燥性が悪い。それに対し、親水性重合体(a)、(b)を含有させた比較例2、3では、乾燥性は向上したが、耐タック性の低下が見られた。
アクリロイルモルフォリンと重合開始剤に加え、親水性重合体とスリップ剤1質量%または2.5質量%を含有させた実施例1、2、3では、乾燥性、にじみ性、耐タック性ともに良好であり、最適な印刷性を得ることができた。
なお、スリップ剤を4質量%に増やしたものは、所定の紫外線照射量では硬化せず、印刷は行えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の紫外線硬化型コート剤は、合成樹脂をはじめ種々の基材に塗工して、その基材に良好なインクジェット印刷特性を付与することができる。CDやDVDなどをはじめ、従来は印刷の難しかった基材への印刷に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性重合体と、
水溶性モノマーと、
光重合開始剤と、
スリップ剤とを含有する、
紫外線で硬化する紫外線硬化型コート剤であって、
前記スリップ剤として脂肪酸アミドを0.05〜2.5質量%含有することを特徴とする、紫外線硬化型コート剤。
【請求項2】
前記脂肪酸アミドがオレイン酸アミドであることを特徴とする、請求項1記載の紫外線硬化型コート剤。

【公開番号】特開2010−106087(P2010−106087A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277573(P2008−277573)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】