説明

紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法と紫外線遮蔽材料微粒子分散体、並びに紫外線遮蔽体

【課題】透明性、紫外線遮蔽特性、隠蔽力および生産性に優れる紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法、当該製造方法により得られる紫外線遮蔽材料微粒子、当該紫外線遮蔽材料微粒子を用いた紫外線遮蔽材料微粒子分散体、並びに紫外線遮蔽体を提供する。
【解決手段】アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下し、沈殿物を得る工程と、上記沈澱物を、デカンテーションする工程と、上記デカンテーション後の沈殿物を、アルコール溶液で湿潤処理して湿潤処理物を得て、その後、当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る工程と、上記酸化亜鉛前駆体を加熱処理して酸化亜鉛微粒子を得る工程と、を具備することを特徴とする紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両、ビル、事務所、一般住宅、電話ボックスなどの窓、ショーウィンドー、照明用ランプ、透明ケースなどのカバーに用いられる紫外線遮蔽機能を必要とする透明基材へ適用される紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法に関し、さらには、紫外線遮蔽材料微粒子と、当該紫外線遮蔽材料微粒子を用いた紫外線遮蔽材料微粒子分散体、並びに紫外線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛微粒子は、可視光を透過し、かつ紫外線のカット波長領域が酸化チタン微粒子に比べて長波長側まで広い。さらに、酸化亜鉛微粒子は、当該紫外線カット効果が長期にわたって持続する。このため、酸化亜鉛微粒子は、紫外線を遮蔽する材料の一つとして用いられている。例えば、当該微粒子を樹脂に含有させてフィルム、繊維および樹脂板などの樹脂成形品として使用したり、当該微粒子と有機または無機のバインダーとを混合して、フィルム、繊維、樹脂板、ガラスおよび紙などの基材に塗装する塗料として使用される。
【0003】
当該紫外線遮蔽機能を有する酸化亜鉛微粒子を製造する方法として、一般的には乾式法と湿式法が知られている。
例えば、特許文献1には、亜鉛塩を含む水溶液をアルカリで中和することで、亜鉛塩の一部または大部分を一度、塩基性塩として沈殿させた後、さらに、中和して最終的に粒径1μm以下の酸化亜鉛微粒子を生成させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、亜鉛塩を含む水溶液をアルカリで中和して、当該水溶液中で直接酸化亜鉛微粒子を生成させる方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、亜鉛塩と酢酸アンモニウムの混合溶液に硫化水素を通じて得られた沈殿物を非水溶媒に分散させ、当該分散液をオートクレーブで250〜400℃で加熱し、得られた乾粉を500〜800℃で加熱処理する方法が開示されている。
一方、特許文献4には、亜鉛塩水溶液とアルカリ水溶液とをそれぞれ別々に、かつ同時に、連続的または半連続的に反応槽に投入して高速撹拌し、中和生成物を濾過、洗浄し、次いで乾燥、焼成することによる、超微細酸化亜鉛粒子の製造方法が提示されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭56−18538号公報
【特許文献2】特開昭53−116296号公報
【特許文献3】特開平2−311314号公報
【特許文献4】特開平10−120418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、紫外線遮蔽性能、透明性、隠蔽力および製造容易性といった観点から従来技術を検討してみると、以下の様な課題があることが見出された。
まず、特許文献1、2に開示されている方法で製造した酸化亜鉛の粉末を用いて形成した膜の紫外線遮蔽特性は、不十分なものに留まってしまうことが確認された。これは、特許文献1、2に開示されている方法では、中和反応温度が高いほど低pHで直接酸化亜鉛が生成されやすいが、亜鉛塩を含む水溶液をアルカリで中和して酸化亜鉛に変態させる場合中和時の最終温度が低い為に得られる酸化亜鉛微粒子の結晶性が低下する為であると考えられる。
さらに、特許文献1、2に開示されている方法では、亜鉛塩を含む水溶液をアルカリで中和して酸化亜鉛に変態させるが、中和時の最終温度が低い為に中和反応時間が長く、生産効率が悪いという課題もあった。
【0007】
特許文献3に開示されている方法は、オートクレーブといった特殊な耐圧容器で加熱した後、乾燥した粉をさらに加熱する必要がある。これでは、生産性を上げることが困難である。さらに、酸化亜鉛粉末を得るための最終焼成温度を高くせざるを得ないため、生成する酸化亜鉛粒子が粗大化してしまい分散性が悪くなるという課題が存在した。
【0008】
さらに、特許文献4に提示されている方法で製造された超微細酸化亜鉛粒子は、当該製造過程中の微量不純物が除去されきれず、生成する超微細酸化亜鉛中に残留し、当該超微細酸化亜鉛粒子の紫外線遮蔽性能を低下させていることがわかった。
【0009】
本発明者は、上述のような状況においてなされたものであり、その課題とするところは、透明性、紫外線遮蔽特性、隠蔽力および生産性に優れる紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法、当該製造方法により得られる紫外線遮蔽材料微粒子、当該紫外線遮蔽材料微粒子を用いた紫外線遮蔽材料微粒子分散体、並びに紫外線遮蔽体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上述の課題を解決すべく鋭意研究を継続した結果、アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下すると共に撹拌して沈殿物を得る工程と、上記沈殿物のデカンテーションを行った後の洗浄液の導電率が所定値以下となるまで、上記沈殿物のデカンテーションを行った後、前記デカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液で湿潤処理して湿潤処理物を得、その後、当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る工程と、上記酸化亜鉛前駆体を所定条件下において加熱処理して、酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子を得る工程と、を具備している紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法に想到した。そして、当該製造方法により製造された酸化亜鉛微粒子からなる紫外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させた紫外線遮蔽材料微粒子分散体を用いれば、透明性、紫外線遮蔽特性に優れる紫外線遮蔽材料微粒子分散体、並びに紫外線遮蔽体を得られることに想到し、本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する第1の手段は、
アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下すると共に、当該アルカリ溶液を撹拌して沈殿物を得る工程と、
上記沈澱物のデカンテーションを行った後の洗浄液の導電率が1mS/cm以下となるまで、上記沈殿物のデカンテーションを行う工程と、
上記デカンテーション後の沈殿物を、アルコール溶液で湿潤処理して湿潤処理物を得、その後、当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る工程と、
上記酸化亜鉛前駆体を、大気、不活性ガス、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスから選択されるいずれかの雰囲気下において、350℃以上、500℃以下で加熱処理して、酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子を得る工程と、を具備することを特徴とする紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法である。
【0012】
第2の手段は、
上記酸化物前駆体が、Zn(OH)(CO、ZnCO、ZnCO(OH)Oから選ばれる少なくとも1種以上から構成されていることを特徴とする第1の手段に記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法である。
【0013】
第3の手段は、
上記酸化亜鉛前駆体が、ZnCO3とZn(OH)(COとを含み、かつ、
Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対する、ZnCO3の(
104)XRDピーク強度の比が0.9以上であることを特徴とする第1、2の手段のいずれかに記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法である。
【0014】
第4の手段は、
上記酸化亜鉛前駆体を、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素が酸化物換算で0重量%を超え、15重量%以下含有されているアルコール溶液へ浸漬処理した後、乾燥してSi、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を含む酸化亜鉛前駆体を得る工程を具備することを特徴とする第1〜3の手段のいずれかに記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法である。
【0015】
第5の手段は、
第1〜第4の手段のいずれかに記載の製造方法で得られた紫外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散された紫外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
上記紫外線遮蔽材料微粒子の結晶子径が15nm〜20nmであり、比表面積が25m/g〜55m/gで、かつ平均粒子径が19nm〜41nmであることを特徴とする紫外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0016】
第6の手段は、
Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素が酸化物換算で0重量%を超え、15重量%以下含有され、当該Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素は、酸化物として、上記紫外線遮蔽材料微粒子の近傍に独立して存在していることを特徴とする第5の手段に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0017】
第7の手段は、
上記紫外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする第5または第6の手段に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0018】
第8の手段は、
上記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第5〜第7の手段のいずれかに記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0019】
第9の手段は、
第5〜第8の手段のいずれかに記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体であって、板状、フィルム状、薄膜状から選択されたいずれかの形態であることを特徴とする紫外線遮蔽体である。
【0020】
第10の手段は、
第9の手段に記載の紫外線遮蔽体であって、
波長400nmの光の透過率が70%以上で、365nmの紫外線透過率が5%以下であり、かつヘイズの値が1%以下であることを特徴とする紫外線遮蔽体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法によれば、アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下することで、当該亜鉛化合物溶液が瞬時に過飽和度に到達して沈殿が生成するため、比較的粒子サイズの揃った均一な微粒子が得られる。さらに生成した沈殿に対して、洗浄液の導電率が1mS/cm以下となるまでデカンテーションによる洗浄を行い、紫外線遮蔽特性の悪化を回避した。さらにデカンテーションによる洗浄後の沈殿物に対し、アルコール溶液で湿潤処理を行うことによって、当該沈殿物を構成する酸化亜鉛微粒子が強
凝集体となることを回避でき、この結果、当該酸化亜鉛微粒子の媒体中における分散が効率よく進むので、遮蔽体としたときのヘイズ値も小さくなり、優れた透明性を発揮することができた。すなわち、透明性、紫外線遮蔽特性および隠蔽力に優れた紫外線遮蔽材料微粒子を高い生産性をもって得ることができた。そして、本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子を用いた紫外線遮蔽材料微粒子分散体を用いれば、透明性、紫外線遮蔽性および隠蔽力に優れる紫外線遮蔽体を得ることができる。さらに、本発明に係る紫外線遮蔽体は紫外線を遮蔽したい用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、1.紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法、2.紫外線遮蔽材料微粒子分散体、3.紫外線遮蔽体、の順で詳細に説明する。
【0023】
1.紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法
本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下すると共に攪拌して沈殿物を得る。
(2)得られた沈殿物をデカンテーションする。
但し、当該デカンテーションを行った後の洗浄液の導電率が、1mS/cm以下となるまで、当該デカンテーションを継続して行う。
(3)デカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液で湿潤処理して、湿潤処理物を得る。
(4)当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る。
(5)酸化亜鉛前駆体を、大気中、不活性ガス中、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス中、のいずれかの雰囲気下において、350℃以上500℃以下で加熱処理して酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子を得る。
【0024】
まず、(1)のアルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下すると共に撹拌して沈殿物を得る工程について説明する。
本工程では、アルカリ溶液に亜鉛化合物溶液を滴下すると共に継続的に攪拌して沈殿物を生成させる。これは、アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下することで、当該亜鉛化合物溶液が瞬時に過飽和度に到達して沈殿が生成するためである。この結果、比較的粒子サイズの揃った均一な微粒子が得られる。これに対し、亜鉛化合物溶液へアルカリ溶液を滴下した場合、亜鉛化合物溶液とアルカリ溶液とを並行滴下した場合では、本発明と異なり、比較的粒子サイズの揃った均一な微粒子が得られない。
【0025】
ここで、本工程において適用される亜鉛化合物は、特に限定されるものではない。当該亜鉛化合物として、例えば、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられるが、中でも、不純物除去が容易である観点から硝酸塩が好ましい。
【0026】
亜鉛化合物溶液中の亜鉛化合物濃度は、収量、生成する粒子径およびその均一性の観点から、当該亜鉛化合物中のZn量に換算して0.1モル/L〜3モル/Lが好ましい。
沈殿剤として用いるアルカリ溶液も、特に限定されない。当該アルカリ溶液として、例えば、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、などの各水溶液が挙げられる。
アルカリ濃度は、亜鉛化合物が水酸化物となるに必要な化学当量以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、後工程のデカンテーションの際における洗浄時間短縮の観点から、当量〜1.5倍過剰量とする。このときのアルカリ溶液温度は、特に限定されないが、50℃以下、好ましくは室温である。特に、液温を室温以下とすると、新たに冷却装置などが必要になってくることから、そのような装置を要しない液温とすることが好ましい。
【0027】
亜鉛化合物溶液の滴下時間は、特に限定されないが、生産性の観点から30分以下、好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下とする。終了後、系内の均一化を図るために継続的に攪拌しながら熟成を行うが、そのときの温度は沈殿を生成させるときの温度と同温とすることが好ましい。また、継続的に撹拌する時間は特に限定されないが、生産性の観点から30分以下、好ましくは15分以下で十分である。
【0028】
次に、(2)の得られた沈殿物をデカンテーションする工程について説明する。
熟成させて得られた沈澱物は、デカンテーションによって十分洗浄することが必要である。具体的には、デカンテーションを行った後の洗浄液の導電率が1mS/cm以下とな
るまで行う。洗浄液の導電率が1mS/cm以下となるまで洗浄を行うことで、微粒子中に残留する塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの不純物の残留が、所望とする紫外線遮蔽特性を悪化させることを回避できる。従って、当該洗浄液の上澄み液の導電率が、1mS/cm以下(残留不純物量1.5%以下に相当)となるまで十分洗浄することが好ましい。
【0029】
次に、(3)のデカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液で湿潤処理して、湿潤処理物を得る工程について説明する。
当該湿潤処理において、アルコール溶液の濃度は50%以上であることが好ましい。アルコール溶液の濃度が50%以上であれば、酸化亜鉛微粒子が強凝集体となることを回避でき、溶媒中での分散が効率よく進むので遮蔽体としたときのヘイズも1%以下となり、優れた透明性を発揮するからである。
【0030】
ここで、当該アルコール溶液に用いられるアルコールは特に限定されないが、水に対する溶解性に優れ、沸点100℃以下のアルコールが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブチルアルコールが挙げられる。
【0031】
当該湿潤処理は、デカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液中へ投入して攪拌すればよく、このときの時間や攪拌速度は処理量に応じて適宜選択すればよい。
デカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液中に投入する際のアルコール溶液量は、沈殿物を容易に攪拌できて流動性を確保できる液量があれば良い。攪拌時間や攪拌速度は、濾過洗浄時に一部凝集した部分を含む沈殿物がアルコール溶液中において、凝集部が無くなるまで均一に混合されることを条件に適宜選択すれば良い。
【0032】
また、当該湿潤処理の温度は室温下で行えば良いが、必要に応じて、アルコールが蒸発して失われない程度に加温しながら行うことも勿論可能である。アルコールの沸点以下の温度で加熱するのであれば、湿潤処理中にアルコールが蒸発して失われ湿潤処理の効果がなくなってしまうことを回避できる。当該湿潤処理中にアルコールが蒸発して失われ、湿潤処理の効果が喪失した後、当該湿潤処理物を乾燥すると強凝集体となってしまうため、好ましくない。
【0033】
次に、(4)の当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る工程について説明する。
湿潤処理後、湿潤処理物はアルコールに湿潤した状態のまま加熱乾燥する。ここで、当該加熱乾燥の乾燥温度や乾燥時間は特に限定されるものではない。当該湿潤処理後であれば、湿潤処理物の乾燥を行っても強凝集体となることがない。従って、湿潤処理物の処理量や処理装置などの条件によって、乾燥温度や乾燥時間を適宜選択して良い。
【0034】
当該乾燥処理により、湿潤処理を受けた微粒子状の酸化亜鉛前駆体を得る。当該酸化亜鉛前駆体は、Zn(OH)(CO、ZnCO、ZnCO(OH)Oから選ばれる少なくとも1種以上から構成されていることが好ましい。
さらに、当該酸化亜鉛前駆体は、ZnCO3とZn(OH)(COとを含み
、かつ、Zn(CO(OH)の(200)ピーク強度に対するZnCO3の(
104)ピーク強度の比が0.9以上であることが好ましい。
また、Zn(OH)(COの(200)XRDピーク強度に対するZnCO3の(104)XRDピーク強度との比が2.5を超えても効果が飽和する。一方、当該
XRDピーク強度の比が2.5以下であれば、中和に要するアルカリ濃度が増えて沈殿物の洗浄効率が低下することを回避できる。従って、当該XRDピーク強度の比は2.5以下が好ましい。
上記XRDピーク強度の比を0.9以上とするためには、アルカリ溶液に、亜鉛化合物溶液を滴下し、かつ中和時のpHを7.0以上に維持することが好ましい。
【0035】
ここで、前記酸化亜鉛微粒子前駆体を加熱処理する前に、必要に応じて、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を酸化物換算で0重量%を超え、15重量%以下含有させたアルコール溶液を用いて湿潤処理した後、乾燥を施してもよい。この場合、湿潤処理の操作方法や用いるアルコール溶液は、上述したものと同様で良い。
Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を、アルコール溶液に含有させるには、前記元素を含む原料をアルコール溶液に添加して十分攪拌混合すればよい。
【0036】
Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を、予めアルコール溶液に含有させる構成をとった場合、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を含む化合物が、亜鉛化合物溶液を滴下して生成されたZn(OH)(CO、ZnCO、ZnCO(OH)Oから選ばれる少なくとも1種以上と、独立して散在しており、加熱処理して生成する酸化亜鉛の粒成長を抑制することができる。そして、これらの元素の酸化物換算での含有量が15重量%以下であれば、相対的に酸化亜鉛の含有割合を減少させることを回避できるので、紫外線遮蔽特性の低下や隠蔽力の低下が回避できるので好ましい。
【0037】
最後に、(5)の酸化亜鉛前駆体を、大気中、不活性ガス中、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス中、のいずれかの雰囲気下において、350℃以上500℃以下で加熱処理して酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子を得る工程について説明する。
乾燥処理された酸化亜鉛前駆体には、紫外線遮蔽特性や隠蔽力を向上させるために加熱処理を施す。当該加熱処理は、大気中、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中、前記不活性ガスと水素などの還元性ガスとの混合ガス中、のいずれかの雰囲気下で行う。このときの処理温度は、所望とする紫外線遮蔽特性を得る観点から、下限は350℃以上、上限は500℃以下とすることが必要である。一方、処理時間は、当該前駆体の処理量や加熱処理温度に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
上述した加熱処理の後、結晶子径が15nm〜20nmであり、比表面積が25m/g〜55m/gで、かつ平均粒子径が19nm〜41nmを有する酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子が得られる。尚、当該平均粒子径は、式:d=6/ρ・S(d;粒子径、ρ;真密度、S;比表面積)から求めた値である。
【0039】
2.紫外線遮蔽材料微粒子分散体
本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子を、適宜な媒体中に分散することで紫外線遮蔽材料微粒子分散体を得ることができる。そして、当該紫外線遮蔽材料微粒子分散体を、所望の基材表面に成膜形成する方法を採ることができる。
当該方法によれば、予め、高温で焼成して得られた紫外線遮蔽材料微粒子を、基材中に練り込む、または、適宜な媒体によって基材表面に結着させることが可能になるので、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への応用が可能となる。さらに、当該方法によれば、成膜形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0040】
また、本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Al、Zr、Tiのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることは、当該紫外線遮蔽材料微粒子の光触媒活性を抑制する観点から好ましい。微粒子表面が、Si、Al、Zr、Tiのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆された酸化亜鉛微粒子を得る方法は特に限定されない。一例を挙げれば、上記した紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法で得られた酸化亜鉛微粒子表面を、上記被覆酸化物の元素を含むアルコキシドの加水分解反応や金属塩の中和反応を利用して処理することによって容易に得ることができる。
【0041】
以下、紫外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法と、その適用方法例について説明する。(a)紫外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散して基材表面に成膜形成する方法
例えば、本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子を適宜な溶媒中に分散させ、ここへ媒体樹脂を添加して、紫外線遮蔽材料微粒子分散液を得る。そして当該紫外線遮蔽材料微粒子分散液を、適宜な基材表面にコーティングし、溶媒を蒸発させて所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該紫外線遮蔽材料微粒子を媒体樹脂中に分散した薄膜の形成が可能となる。
【0042】
ここで、前記分散液を適宜トルエンで希釈し、酸化亜鉛微粒子濃度を0.05重量%まで低下させても、このときの分散液の紫外線透過率は、5%以下とすることができた。この結果からも、本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子の紫外線遮蔽性が高く、換言すれば、強い紫外線隠蔽力を有していることが確認できる。
【0043】
前記コーティングの方法は特に限定されない。基材表面に紫外線遮蔽材料微粒子分散液が均一にコートできればよく、例えば、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ロールコート法、流し塗り等が挙げられる。また、当該紫外線遮蔽材料微粒子分散液において紫外線遮蔽材料微粒子を直接媒体樹脂中に分散した構成を有するものは、基材表面にコートした後に溶媒を蒸発させる必要がないので、環境的、工業的にも好ましい。
【0044】
上記媒体には、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が、目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
【0045】
また、媒体として金属アルコキシドを用いることも可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いた媒体は、加水分解させた後に加熱することで酸化物膜を形成させることが可能である。
【0046】
一方、上記基材は、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、各種目的に応じて、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等が使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることもできる。
【0047】
(b)基材中に紫外線遮蔽材料微粒子を分散する方法
本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子は、基材中に分散させてもよい。
紫外線遮蔽材料微粒子を基材樹脂中に分散させるには、基材樹脂表面から浸透させても良い。当該基材樹脂表面から浸透させる方法をとる場合、予め、基材樹脂を溶融温度以上
に昇温して溶融させておき、紫外線遮蔽材料微粒子と混合してもよい。このようにして得られた紫外線遮蔽材料微粒子含有樹脂は、所定の方法でフィルムやボード状に成形して紫外線遮蔽材料微粒子成形体として応用可能である。
【0048】
また例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂と記す場合がある)に紫外線遮蔽材料微粒子を分散する方法として、まずPET樹脂と紫外線遮蔽材料微粒子分散液とを混合し、当該混合物から分散溶媒を蒸発させた後、PET樹脂をその溶融温度である300℃程度に加熱して当該PET樹脂を溶融させ、紫外線遮蔽材料微粒子と溶融したPET樹脂とを混合し冷却することで、紫外線遮蔽材料微粒子を分散させたPET樹脂を得ることができる。
【0049】
この他、本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子を樹脂中に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤を添加したり、pH調整したりしてもよい。
【0050】
3.紫外線遮蔽体
本発明に係る紫外線遮蔽材料微粒子は、上述の紫外線遮蔽性能を有しているので、当該紫外線遮蔽材料微粒子の分散体を板状、フィルム状または薄膜状に形成すれば紫外線遮蔽体とすることができる。
当該紫外線遮蔽体は、波長400nmの可視光透過率が70%以上で、波長365nmの紫外線透過率が5%以下であり、かつヘイズが1%以下である。つまり、当該紫外線遮蔽体の吸収端は、可視光近傍の紫外線領域にあるので、紫外線は十分に遮蔽しつつ、紫外光に近い可視光は効率よく透過するという、立ち上がりの良い理想的な紫外線遮蔽プロファイルを有する透明性に優れた紫外線遮蔽体を得ることができる(例えば、後述する実施例1に係る紫外線遮蔽体の紫外線遮蔽プロファイルを示す図1参照)。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下し、得られた沈殿物をデカンテーションし、デカンテーション後の沈殿物をアルコール溶液で湿潤処理して、該湿潤処理物を乾燥して得られる酸化亜鉛前駆体の、Zn(OH)(COの(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度比は、粉末法の測定ができるXRD装置で測定し、算出した。
また、得られた酸化亜鉛微粒子の結晶子径はシェラー法によって算出した。比表面積はマウンテック社製のMacsorbを用いて測定した。
また、酸化亜鉛微粒子分散液を適宜トルエンで希釈した希釈液や、当該紫外線遮蔽材料微粒子の分散体を板状、フィルム状または薄膜状に形成した紫外線遮蔽体の可視光透過率や紫外線透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。
【0052】
[実施例1]
炭酸水素アンモニウム(特級)86.9gを含む水溶液1100gを準備し、ここへ硝酸亜鉛6水和物(特級)148.4gを含む水溶液946.1gを、25℃下で撹拌しながら6分かけて滴下して沈殿物を生成した。当該滴下終了後さらに10分間攪拌を継続して、沈殿物の熟成を行った。このときの最終pHは、7.5であった。
次に、洗浄液の導電率が1mS/cm以下になるまでデカンテーションにて、沈殿物の洗浄を繰り返し行った。その後、洗浄された沈殿物を、変性アルコール(日本アルコール販売(株)製、ソルミックスAP−2(商品名))(以下、「AP−2」と略記する場合がある。)に浸漬して湿潤処理し、105℃で乾燥し乾燥粉を得た。
当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、ZnCO3とZn(OH)(CO
とZnCO(OH)Oとの混合相であり、Zn(CO(OH)の(200)ピーク強度に対するZnCO3の(104)ピーク強度との比が1.5であ
った。
【0053】
次に、当該乾燥物を、大気中400℃の温度で1時間加熱処理することによって酸化亜鉛微粒子aを得た。
当該酸化亜鉛微粒子aの結晶子径は19.6nmであり、比表面積は36.4m/gで、平均粒子径は28.4nmであった。
【0054】
次に、酸化亜鉛微粒子a7.5重量%と、アクリル系分散剤5.7重量%と、トルエン86.8重量%とを、充填率63%相当の0.3mmジルコニアビーズを入れたペイントシェーカーで10時間分散して、分散液Aを得た。このとき、分散液A中における酸化亜鉛微粒子aの分散粒子径は153nmであった。ここで、分散液Aを適宜トルエンで希釈し、酸化亜鉛微粒子a濃度を0.05重量%としたときの紫外線透過率を求めた。当該紫外線透過率の測定結果を表1に示す。
【0055】
当該分散液A66.7重量%と、UV硬化樹脂33.3重量%とをよく混合して混合液とした後、番手24のバーを用いて、膜厚50μmのPETフィルム上へ、当該混合液を塗布した。当該塗布された面に、70℃で1分間の条件で高圧水銀ランプの紫外線を照射し、実施例1に係る紫外線遮蔽体Aを得た。
【0056】
得られた紫外線遮蔽体Aの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。結果を表1に示し、図1に実線で示す。
図1は、縦軸に透過率をとり、横軸に光の波長をとったグラフである。そして、波長380nm以上の光は可視光であるので、プロットは可視光透過率を示し、波長365nmの範囲の光は紫外光でありプロットは紫外線透過率を示している。同様に、280〜380nmの範囲の光は紫外光でありプロットは紫外線透過率を示している。
【0057】
[実施例2、比較例1、比較例2]
当該乾燥物を加熱処理することによって酸化亜鉛微粒子を得る際の加熱処理雰囲気を、2%のHを含有するNとした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係る酸化亜鉛微粒子b、分散液Bおよび紫外線遮蔽体Bを得た。
【0058】
また、当該加熱処理温度を230℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係る酸化亜鉛微粒子c、分散液Cおよび紫外線遮蔽体Cを得た。
さらに、当該加熱処理温度600℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2に係る酸化亜鉛微粒子d、分散液Dおよび紫外線遮蔽体Dを得た。
【0059】
実施例2に係る酸化亜鉛微粒子bの結晶子径は19.4nmであり、比表面積は34.5m/gで、平均粒子径は30.0nmであった。
比較例1に係る酸化亜鉛微粒子cの結晶子径は17.9nmであり、比表面積は58.5m/gで、平均粒子径は14.5nmであった。
比較例2に係る酸化亜鉛微粒子dの結晶子径は48.3nmであり、比表面積は9.3m/gで、平均粒子径は111.3nmであった。
【0060】
実施例2、比較例1、2に係る各分散液を、実施例1と同様にして、適宜トルエンで希釈し、酸化亜鉛微粒子濃度を0.05重量%のときの紫外線透過率を求めた。当該紫外線透過率の測定結果を表1に示す。
また、実施例2、比較例1、2に係る各分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実
施例2、比較例1、2に係る紫外線遮蔽体B、C、Dを得た。得られた紫外線遮蔽体B、C、Dの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示し、得られた比較例1に係る紫外線遮蔽体Cの、可視光からの紫外域の透過率を図1に破線で示す。
【0061】
[実施例3、実施例4]
炭酸水素アンモニウム水溶液へ硝酸亜鉛水溶液を滴下して生成した沈殿物を洗浄し、105℃で乾燥して得た、105℃乾燥粉20gをコロイダルシリカ(SiO含有量20wt%)3.8g含む変性アルコールAP−2溶液80g中で10分間撹拌した後乾燥した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係る酸化亜鉛微粒子e、分散液Eおよび紫外線遮蔽体Eを得た。当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、ZnCOとZn(CO(OH)とZnCO(OH)Oとの混合相であり、Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度との比は1.5であった。
一方、上記コロイダルシリカ量を8.2gとした以外は、実施例3と同様の操作を行って、実施例4に係る酸化亜鉛微粒子f、分散液Fおよび紫外線遮蔽体Fを得た。当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、ZnCOとZn(CO(OH)とZnCO(OH)Oとの混合相であり、Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度との比は1.5であった。
【0062】
実施例3に係る酸化亜鉛微粒子eの結晶子径は18.5nmであり、比表面積は42.7m/gで、平均粒子径は24.2nmであった。
実施例4に係る酸化亜鉛微粒子fの結晶子径は17.8nmであり、比表面積は54.5m/gで、平均粒子径は19.0nmであった。
【0063】
実施例3、4に係る各分散液を、実施例1と同様にして、適宜トルエンで希釈し、酸化亜鉛微粒子濃度を0.05重量%のときの紫外線透過率を求めた。当該紫外線透過率の測定結果を表1に示す。
また、実施例3、4に係る各分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実施例3、4に係る紫外線遮蔽体E、Fを得た。得られた紫外線遮蔽体E、Fの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0064】
[比較例3、比較例4]
硝酸亜鉛6水和物148.4gを含む水溶液946.1gへ、炭酸水素アンモニウム86.9gを含む水溶液1100gを滴下した以外は、実施例1と同様の操作を行って比較例3に係る酸化亜鉛微粒子g、分散液Gおよび紫外線遮蔽体Gを得た。
一方、酸化亜鉛微粒子前駆体の洗浄において、洗浄液の導電率が5.5mS/cmになった時点でデカンテーションによる洗浄を打ち切った以外は、実施例1と同様の操作を行って比較例4に係る酸化亜鉛微粒子h、分散液Hおよび紫外線遮蔽体Hを得た。
【0065】
比較例3、4に係る乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、比較例3、4はZnCOとZn(CO(OH)とZnCO(OH)Oとの混合相であり、またZn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度との比較が比較例3は0.6であり、比較例4は1.4であった。
比較例3に係る酸化亜鉛微粒子gの結晶子径は20.7nmであり、比表面積は29.0m/gで、平均粒子径は35.7nmであった。
比較例4に係る酸化亜鉛微粒子hの結晶子径は22.6nmであり、比表面積は33.
3m/gで、平均粒子径は31.1nmであった。
【0066】
比較例3、4に係る各分散液を、実施例1と同様にして、適宜トルエンで希釈し、酸化亜鉛微粒子濃度を0.05重量%のときの紫外線透過率を求めた。当該紫外線透過率の測定結果を表1に示す。
また、比較例3、4に係る各分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実施例3、4に係る紫外線遮蔽体G、Hを得た。得られた紫外線遮蔽体G、Hの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0067】
[実施例5]
炭酸水素アンモニウム79gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例5に係る酸化亜鉛微粒子i、分散液Iおよび紫外線遮蔽体Iを得た。
中和反応の最終pHは7.0であり、当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、ZnCOとZn(CO(OH)とZnCO(OH)Oとの混合相であり、Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度との比は0.9であった。
また、酸化亜鉛微粒子iの結晶子径は20.0nmであり、比表面積は36.2m/gで平均粒子径は28.6nmであった。
さらに、実施例5に係る分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実施例5に係る紫外線遮蔽体Iを得た。得られた紫外線遮蔽体Iの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0068】
[実施例6]
炭酸水素アンモニウムおよび硝酸亜鉛6水和物、共に工業用グレードを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例6に係る酸化亜鉛微粒子j、分散液Jおよび紫外線遮蔽体Jを得た。
当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、ZnCOとZn(CO(OH)とZnCO(OH)Oとの混合相であり、Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCOの(104)XRDピーク強度との比は1.5であった。
また、酸化亜鉛微粒子jの結晶子径は15.0nmであり、比表面積は28.8m/gで、平均粒子径は35.9nmであった。
さらに、実施例6に係る分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実施例6に係る紫外線遮蔽体Jを得た。得られた紫外線遮蔽体Jの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0069】
[実施例7]
炭酸水素アンモニウム103.6gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例7に係る酸化亜鉛微粒子k、分散液Kおよび紫外線遮蔽体Kを得た。
中和反応の最終pHは8.5であり、当該乾燥粉の構造をXRDにて測定した結果、Zn(CO(OH)単一相であった。
また、酸化亜鉛微粒子kの結晶子径は18.3nmであり、比表面積は30.9m/gで平均粒子径は34.2nmであった。
さらに、実施例7に係る分散液を用い、実施例1と同様に操作して、実施例7に係る紫外線遮蔽体Kを得た。得られた紫外線遮蔽体Kの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0070】
[実施例8]
実施例7において、乾燥物の焼成を窒素中で行った以外は実施例1と同様の操作を行って実施例8に係る酸化亜鉛微粒子l、分散液Lおよび紫外線遮蔽体Lを得た。
当該酸化亜鉛微粒子lの結晶子径は19.5nmであり、比表面積は28.2m/gで平均粒子径は37.5nmであった。
また、紫外線遮蔽体Lの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0071】
[実施例9]
実施例7で得た酸化亜鉛微粒子k12gとイソプロピルアルコール48gを媒体攪拌ミルで分散処理を行い、平均分散粒子径100nmのZnO微粒子の分散液を調製した(A液)。
次いで、前記A液30gと、アルコキシシリル基(Si−OR)および/またはシラノール基(Si−OH)を有しメチル基を有機置換基とするシリコーンレジン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製TSR127B(不揮発分50%))6gと、イソプロピルアルコール23.7gと、触媒(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製YC9103)0.3gとを混合し攪拌し混合液とした。
次いで、この混合液を、120℃で2時間加熱処理しながら真空乾燥して溶媒を蒸発させて乾固体とし、得られた乾固体を乾式粉砕することで、酸化亜鉛微粒子に対して、約1/2倍重量のシラン化合物で被覆された表面処理酸化亜鉛微粒子mを得た以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例8に係る分散液Mおよび紫外線遮蔽体Mを得た。得られた紫外線遮蔽体Mの可視光透過率、波長400nmの可視域の透過率、波長365nmの紫外域の透過率、ヘイズについて測定した。当該測定結果を表1に示す。
また、光触媒活性抑制効果を調べるために、以下のような試験を行った。
すなわち、紫外線照射装置(岩崎電気(株)製SUV−W131)を使用し、上記紫外線遮蔽体Mに対して100mW/cmの紫外線を20時間照射し、紫外線前後のヘイズの変化率(以下、Δヘイズと記す)を調査した。
その結果、Δヘイズが0%であり、光触媒抑制効果が確認された。一方、実施例7の紫外線遮蔽体Kに対して同様の試験を行った結果、Δヘイズが6.1%と高かった。
【0072】
【表1】

【0073】
[評価]
表1に示した結果より、酸化亜鉛微粒子a、b、e、f、i、j、k、l、mを用いた実施例1〜実施例9に係る分散液A、B、E、F、I、J、K、L、Mと、当該分散液から調製した紫外線遮蔽体A、B、E、F、I、J、K、L、Mとは、酸化亜鉛微粒子c、d、g、hを用いた比較例1〜比較例4に係る分散液C、D、G、Hと、当該分散液から調製した紫外線遮蔽体C、D、G、Hとを比較した。
その結果、実施例1〜実施例9に係る紫外線遮蔽体A、B、E、F、I、J、K、L、Mは、波長400nmの可視域の透明性が80%以上と高く、波長365nmの紫外域の透過率が5%以下で、ヘイズ0.5%以下であり、透明性および紫外線遮蔽に優れていることが明らかである。
また、図1に示した結果より、実施例1に係る紫外線遮蔽体Aは、比較例1に係る紫外線遮蔽体Cに比べ、紫外線領域の遮蔽効果が優れていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る紫外線遮蔽体において、光の波長と透過率との関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ溶液へ亜鉛化合物溶液を滴下すると共に、当該アルカリ溶液を撹拌して沈殿物を得る工程と、
上記沈澱物のデカンテーションを行った後の洗浄液の導電率が1mS/cm以下となる
まで、上記沈殿物のデカンテーションを行う工程と、
上記デカンテーション後の沈殿物を、アルコール溶液で湿潤処理して湿潤処理物を得、その後、当該湿潤処理物を乾燥して酸化亜鉛前駆体を得る工程と、
上記酸化亜鉛前駆体を、大気、不活性ガス、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスから選択されるいずれかの雰囲気下において、350℃以上、500℃以下で加熱処理して、酸化亜鉛微粒子を含む紫外線遮蔽材料微粒子を得る工程と、を具備することを特徴とする紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記酸化物前駆体が、Zn(OH)(CO、ZnCO、ZnCO(OH)Oから選ばれる少なくとも1種以上から構成されていることを特徴とする請求項1記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記酸化亜鉛前駆体が、ZnCO3とZn(OH)(COとを含み、かつ、
Zn(CO(OH)の(200)XRDピーク強度に対するZnCO3の(1
04)ピーク強度との比が0.9以上であることを特徴とする請求項1、2いずれか記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項4】
上記酸化亜鉛前駆体を、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素が酸化物換算で0重量%を超え、15重量%以下含有されているアルコール溶液へ浸漬処理した後、乾燥してSi、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を含む酸化亜鉛前駆体を得る工程を具備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた紫外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散された紫外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
上記紫外線遮蔽材料微粒子の結晶子径が15nm〜20nmであり、比表面積が25m/g〜55m/gで、かつ平均粒子径が19nm〜41nmであることを特徴とする紫外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項6】
Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素が酸化物換算で0重量%を超え、15重量%以下含有され、当該Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素は、酸化物として、上記紫外線遮蔽材料微粒子の近傍に独立して存在していることを特徴とする請求項5に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項7】
上記紫外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Al、Zr、Tiから選択された1種以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする請求項5または6に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項8】
上記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽材料微粒子分散体であって、板状、フィルム状、薄膜状から選択されたいずれかの形態であることを特徴とする紫外線遮蔽体。
【請求項10】
請求項9に記載の紫外線遮蔽体であって、
波長400nmの光の透過率が70%以上で、波長365nmの紫外線透過率が5%以下であり、かつヘイズの値が1%以下であることを特徴とする紫外線遮蔽体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−132599(P2009−132599A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265973(P2008−265973)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】