説明

細胞および組織からのRNA迅速抽出

【課題】迅速な膜ベースのRNA抽出方法、特に術中診断用途に使用するためのRNA抽出方法を提供すること。
【解決手段】生物系(細胞、細胞断片、オルガネラ、組織、器官または生物)からRNAを抽出する方法であって、RNA含有溶液をRNAが結合できる基体と接触させる方法が提供される。RNAは、負圧を適用することにより、基体から回収される。30秒を超える遠心分離ステップを含まない。好ましくは、濾過の前にRNAが希釈され、また干渉物質を除去するために1以上の洗浄ステップを用いることができる。該方法の一態様ではDNA剪断および乾燥ステップは別として、抽出ステップ中には遠心分離が行われない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はとりわけインビトロ診断用のRNAの抽出に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム技術およびバイオインフォマティックスにおける最近の進歩の結果として、癌および他の疾患についての診断、予後診断および治療の指標として有用な新たな遺伝子発現マーカーが急速に発見されつつある。これらのマーカーをインビトロ診断検査として評価および適用するためには、迅速で、感度がよく、かつ使用容易な細胞、組織および他の生物成分からのRNA抽出方法に対する必要性がある。
【0003】
腫瘍学においては、サージカルマージン(外科的余地)、リンパ節または他の転移部位をより感度よく検出するために、そして組織内の癌の存否を確認するために、迅速術中分子検査法が用いられることがある。外科的処置に影響を及ぼすためには、患者が手術室にいる時間、一般には約45分の間に、術中セッティングに有用な診断結果を処置中の外科医が利用できるようにしなければならない。分子マーカーの逆転写とこれに続く増幅および検出のための時間を考慮すると、細胞および組織からの増幅可能RNAは数分以内で抽出および精製されなければならない。
【0004】
細胞および組織からのRNAの単離および精製のために、幾つかの異なる手法が開発されている。これらの手法としては、膜ベースの方法、溶液ベースの方法および磁性ベースの方法がある。溶液ベースの方法は、一般に、実行に少なくとも90分を要し、毒性のある溶媒の使用を伴う。磁性粒子方法が開発されているが、実行に少なくとも45分を要する。
【0005】
膜ベースのRNA精製を実行するためのキットが幾つかの販売者から商業的に入手可能である。一般に、キットは、細胞および組織からのRNAの小規模(30mg以下)調製用に(例えばQIAGEN RNeasy Miniキット)、中規模(250mg組織)用に(例えばQIAGEN RNeasy Midiキット)および大規模(最大1g)用に(例えばQIAGEN RNeasy Maxiキット)開発されている。残念なことに、現在入手可能な膜ベースのRNA抽出精製系は多数のステップを必要とし、術中診断用途のためには遅すぎることがある。
【発明の概要】
【0006】
したがって、より迅速な膜ベースのRNA抽出方法、特に術中診断(intraoperative-diagnostic)用途に使用するためのものが必要である。
【0007】
本発明は、生物系(細胞、細胞断片、オルガネラ、組織、器官または生物)からRNAを抽出する方法であって、RNA含有溶液をRNAが結合できる基体と接触させる方法である。RNAは、負圧を適用することにより、基体から回収される。30秒を超える遠心分離ステップを含まない。好ましくは、濾過に先立ってRNAが希釈され、また干渉物質を除去するために1以上の洗浄ステップを用いることができる。別の実施態様では、DNA剪断および乾燥ステップを別として、抽出ステップ中には遠心分離が行われない。
【0008】
本発明の別の態様においては、問題のRNAを含む細胞から問題のRNAを含まない細胞が除去される。問題のRNAを含む細胞は次に溶解され、その溶解物が、RNAに結合する(付着する)物質を含有するか又は該物質が付着された基体と接触させられる。ある時間、好ましくは15秒未満の間、基体に対して負圧が適用され、遠心分離を適用することなく該基体から干渉物質が除去される。
【0009】
本発明の更に別の態様では、生物系からのRNA抽出方法は以下の諸ステップ:
(a)生物系から細胞含有サンプルを取得するステップと、
(b)任意的に、該サンプルから問題のRNAを含まない細胞を除去して、作業サンプルを生成するステップと、
(c)該問題のRNAを含む細胞を溶解し、該細胞のホモジネートを生成するステップと、
(d)該ホモジネートを希釈するステップと、
(e)該湿潤した均質化した作業サンプルを、RNAが結合する物質を含有するか又は付着させる基体と接触させるステップと、
(f)該サンプルを該基体に結合させるステップと、
(g)混入物質および干渉物質を除去するステップと、
(h)該基体を乾燥するステップと、
(i)該基体からRNAを溶出させるステップと、
を有し、該方法は8分未満で行われる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る生物系は、細胞、細胞断片、オルガネラ、組織、器官または生物である。問題のRNAを含有する溶液は、該生物系から調製されるか又は見出される何れの流体からも取得することができる。
【0011】
完全なままのRNAの良好な単離には、一般に、少なくとも以下の4ステップ:細胞または組織の効果的な破壊、核タンパク質複合体の変性、内因性リボヌクレアーゼ(RNA分解酵素)の不活性化、および混入するDNAとタンパク質の除去、を伴う。
【0012】
問題のRNA(すなわちRNAであってそのマーカーがアッセイの対照となるもの)を含有するサンプルによっては、問題のRNAを含まない細胞を除去することが好ましい場合がある。問題のRNAを含まない細胞の除去は、好ましくは、該細胞を溶解し、そしてその溶解物を該溶液から除去することにより行われる。全血を用いて作業する場合には、赤血球が多量に存在しかつ有核でないことから、問題のRNAを含まない状態で存在する細胞の大部分を占めるのは赤血球である。赤血球は、低張性ショックの影響を非常に受けやすく、そのために低張性緩衝液の存在下で破裂させることができる。溶解試薬は当業界でよく知られており、数多くある中でも塩化アンモニウム−シュウ酸カリウムまたはアンモニウムを含有する溶液が挙げられる。
【0013】
組織用の市販RNA抽出キット、たとえばQiagenにより供与されているようなキットでは、溶解用緩衝液が使用される。好ましくは、これらのキットは、グアニジン−チオシアネート(GTC)溶液、および1種以上の界面活性剤たとえばドデシル硫酸ナトリウム、ならびにリボヌクレアーゼ(RNA分解酵素)を阻害または不活性化するための強還元剤たとえば2−メルカプトエタノールを含む。GTCは特に有用な破壊特性およびRNA保護特性を有する。GTC/界面活性剤の組合せは核タンパク質複合体を破壊するように作用し、RNAが溶液中に放出されタンパク質を含まない形で単離されることを可能にする。高濃度のGTCの存在下での細胞抽出物の希釈は、RNAを溶液中に残しながら細胞タンパク質の選択的沈殿を生じさせる。最も好ましくは、RLT緩衝液(溶解または均質化用緩衝液と称することがある)がQiagenから商業的に入手可能でそのRNA抽出キットの構成要素であることから、RLT緩衝液が使用される。細胞および望ましくない細胞構成要素の溶解および除去は、ホモジナイザー、ビード・ミキサー、乳鉢と乳棒または他の類似の装置を用いた機械的破壊によって補助することができる。
【0014】
組織内の転移および微小転移の分布は、節または他の組織では一様でない。従って、転移が見逃されないように、十分に大きなサンプルを取得する必要がある。本方法におけるサンプリング問題に対する1つのアプローチは、大きな組織サンプルを均質化(homogenize)し、次いで後続の分子検査法に用いられるべき十分に混合された均質化されたサンプルの希釈を行うことである。
【0015】
希釈ステップは、均質化後であってRNA結合ステップ(後述)へのホモジネート添加前が特に有利である。希釈ステップは、RNA不安定性を増大させることなく組織ホモジネートを希釈する試薬である希釈剤を添加することを伴う。特に、希釈剤は前述のRLT緩衝液といったような試薬である。好ましくは、ホモジネートは8〜2mgホモジネート/ml希釈剤で希釈される。より好ましくは、ホモジネートは約4〜2mg/mlで希釈される。最も好ましくは、ホモジネートは約4mg/mlで希釈される。
【0016】
このような希釈ステップは、例えばスピンカラムに通過させる等の高速濾過を可能とする。希釈ステップはまた、スピンカラム内の目詰りを無くすか又は大幅に減少させ、後に用いる多量の均質化用緩衝液の必要性を無くし、後の遠心分離ステップの必要性を無くし、そしてシュレッディングカラム又は装置にサンプルを通過させる必要性を無くすることができる。究極的に、このような希釈ステップはRNA抽出を容易化し、より標準化されたプロトコルをもたらす。
【0017】
細胞、残骸または非RNA材料は、一般に、1以上の洗浄ステップにより除去され、次に、精製されたRNAが、例えば基体含有カラムからの溶出などにより、抽出される。
【0018】
該RNAは、エタノールにより溶液から選択的に沈殿され、ガラス繊維のシリカ表面などのような膜/基体に結合する。RNAの基体への結合は、カオトロピック塩による水分子の破壊に起因して迅速に起こり、従って核酸のシリカへの吸収を有利とする。結合した全RNAは、混入する塩、タンパク質および細胞性不純物から、簡単な洗浄ステップによって更に精製される。
【0019】
「スピンカラム」(spin column)精製に基づく組織からのRNA抽出用キットが幾つか商業化されている。その全てが本発明の方法に適合する。これらのキットとしては、Invitrogen Corp. (Carlsbad, CA), Stratagene (La Jolla, CA), BDBiosciences Clontech (Palo Alto, CA), Sigma-Aldrich (St. Louis, MO), Ambion Inc. (Austin, TX)及び Promega Corp. (Madison, WI) により販売されるものがある。一般的に、これらのキットは、グアニジウム塩(4.0M以上)を含有する溶解結合用緩衝液、グアニジウムなどのようなカオトロピック塩の存在または不存在下で緩衝液中に異なる希釈度のエタノールを有する洗浄液、および溶出用緩衝液、通常はヌクレアーゼを含まない蒸留水である。一般的に、以下のような試薬を含む:
溶解/結合用緩衝液(4.5M塩酸グアニジウム,100mMリン酸ナトリウム),
洗浄用緩衝液I(5M塩酸グアニジウム中の37%エタノール,20mM Tris−HCl),
洗浄用緩衝液II(20mM NaCl中の80%エタノール,2mM Tris−HCl),
溶出用緩衝液,および
ヌクレアーゼを含まない無菌二重蒸留水。
【0020】
RNAが結合する物質が結合するか又はRNAが結合する基体の使用が、膜ベースのRNA抽出方法と本方法とを識別させる点である。例えば適した試薬による溶出などによって、RNAが該物質から又は該物質により容易に放出される限り、RNAは任意の化学的または物理的手段により該物質に結合する。膜ベースの方法では多数の基体が現在一般に使用されている。マシュレ−ナーゲル(Macherey-Nagel)シリカゲル膜技術はそのような技術の1つであって、参照により本明細書に援用されるEP 0496822に記載されている。本質的に、RNAはシリカゲル膜に吸着される。高濃度のカオトロピック塩は、溶液中で水和された分子から水を除去する試薬に含まれる。多糖とタンパク質は吸着せず、除去される。洗浄ステップ後、純粋なRNAが低塩濃度条件下で溶出する。
【0021】
イオン交換樹脂も膜ベースの系におけるRNA抽出用の基体として頻繁に使用される。例えば、Qiagenから商業的に入手できる陰イオン交換樹脂では、作業サンプルが基体にさらされる(結合する)時に低塩濃度が用いられ、RNAの洗浄時に高塩濃度が用いられ、そしてアルコールを介して沈殿が起こる。この樹脂は高密度のジエチルアミノエチル基(DEAE)を有するシリカベースのものである。該基体用の緩衝液の添加と使用により、塩濃度とpHが制御される。このようなQiagenから商業的に入手できるイオン交換樹脂の例として次式のものがある。
【化1】

【0022】
最も好ましい基体は、次式の単純シリカゲルである。
【化2】

【0023】
結合用緩衝液の存在下で、核酸がシリカゲルに吸着する。本発明の好ましい実施態様において、基体は、カラムなどのような容器内に収容される。最も好ましくは、このようなカラムは、Qiagen, GbH から入手できる"RNeasy"カラムなどのように商業的に入手されるものである。
【0024】
30mg未満の組織サンプルからRNAを抽出および精製するための好ましい方法は、QIAGEN, GbH から入手できる RNeasy Miniキットに含まれる試薬を、本明細書に記載の方法に適用するものである。大きな組織サンプルからの多量RNAの抽出のために、当業者は、数ある試薬構成の中でも特に、QIAGEN, GbH からのQIAGEN RNeasy MIDIまたはQIAGEN RNeasy MAXIとして商業的に利用できるキットを使用することにより、後述される方法を容易にスケールアップすることができる。
【0025】
このようなキットを使用する場合に、本発明による好ましい方法は以下の通りである。
【0026】
20mg未満の組織で開始する場合には、350〜600μlの均質化用緩衝液(好ましくはQiagenからのキット中で得られるRLT緩衝液)を組織に添加し、また20〜30mgの組織の場合には、600μlの緩衝液を添加するのが好ましい。均質化用緩衝液の量は組織サンプルによって増減し得る。次に、以下:ローター・スターター・ホモジナイザー、ビード・ミキサー、乳鉢と乳棒およびハンド・グラインダーを限定されることなく包含する方法の1つにより、組織または細胞を破壊する。手動での細胞および組織の破壊を行う場合、通常、処分可能な組織グラインダー(VWR Scientific, カタログ番号15704-126または15704-124)を使用することにより、均質化を行う。より好ましくは、Omni International (Warrenton, VA)から商業的に利用できるPCR組織均質化キットなどのような、均質化を目的として作製された機械的装置の使用により、均質化を行う。
【0027】
均質化時間は、一般的には約1分であり、好ましくは組織が視覚的に均質化され次第すぐである。
【0028】
濃い組織サンプルを使用する場合、サンプルの粘度を低下させるのが望ましいことがある。最も好ましくは、粘度の低下は、ホモジネートに均質化用緩衝液を添加することによって行う(8mgホモジネート/ml緩衝液ないし2mg/ml)。粘度の低下は、RNA分解酵素を含まない注射器に適合した針(好ましくは約20ゲージ)に1回以上通過させるか、又は遠心分離に使用される QIAシュレッダーカラムなどのような装置を使用することによっても行うことができる。
【0029】
好ましくは、清澄化した溶解産物に対して1体積の70%エタノールを添加し、ピペット処理(pipetting)により混合する。
【0030】
こうして調製した約700μlまでのサンプルを、RNA結合性マトリックスを収容する容器(好ましくはQiagenキットのRNeasyシリカゲル・miniカラム)に適用し、及び/又は(遠心分離ではなく)濾過により、好ましくは減圧(vacuum)の適用による濾過により廃棄する。好ましくは、約15〜60秒間、(全ての減圧ステップの場合と同様に)約11〜13psi(約76〜90kPa)で減圧を適用する。ここで減圧が適用される全ステップと同様に、そのような圧力に耐える該マトリックスの能力を超えない限り、減圧の増大に伴い、減圧が適用される時間を減少させることができる。
【0031】
洗浄用緩衝液(好ましくは約700μlのQiagenキットのRW1緩衝液)を、該RNA結合性マトリックスを収容する容器(好ましくはRNeasyカラム)に添加し、そして濾過により、好ましくは減圧の適用による濾過により、流出液を除去し及び/又は廃棄し、そして次に収集チューブを除去し及び/又は廃棄する。
【0032】
第2の洗浄用緩衝液(好ましくは約500μlのQiagenキットのRPE緩衝液)を該カラム上にピペットで注ぐ。該チューブを穏やかに閉じ、そして濾過により、好ましくは減圧の適用による濾過により、流出液を除去し及び/又は廃棄する。
【0033】
任意に、洗浄用緩衝液(好ましくは約500μlのRPE緩衝液)を容器(好ましくはRNeasyカラム)に再び添加してもよい。該チューブを穏やかに閉じ、そして基体/膜を乾燥させる。好ましくは、容器を新たな2ml収集チューブに入れ、(好ましくは約8,000gで1分間)遠心分離する。
【0034】
溶出のために、好ましくは、容器を新たな1.5ml収集チューブに移し、RNA分解酵素を含まない30〜50μlの水を基体/膜上に直接にピペットで注ぐ。該チューブを穏やかに閉じ、(好ましくは約10,000RPMで約30秒間)遠心分離して、RNAを溶出させる。RNA収量が30μgを超えると予想される場合、この段落のステップを溶出時に繰り返すことが好ましい。
【0035】
動物組織からの全RNAの単離のための RNAeasyプロトコル(QIAGEN RNAeasy Handbook, 2001年6月)は、少なくとも6分45秒、および遠心分離のための加速減速時間を含める場合に8分45秒の、全遠心分離時間を要する。これに対して、本発明の迅速方法における全濾過および遠心分離ステップに要する全時間は、2分15秒、および遠心分離のための加速減速時間を含める場合に3分である。さらに、組織均質化に要する約30秒〜1分およびサンプル操作(希釈および混合ステップを含む)に要する約45秒〜1分は、本発明の方法と従来技術の方法で共通である。
【0036】
こうして本発明の方法に要する全時間は8分未満であり、好ましくは6分未満である。サンプルが単一リンパ節である場合、5分の全抽出時間が特に望ましく、また達成可能である。
【0037】
便利なスピンカラム並列減圧処理のために、QIA vac 24真空マニホールド(vacuum manifold)などのような真空マニホールドを使用することが好ましい。サンプルおよび洗浄液は、遠心分離の代わりに減圧によりカラム膜を通じて引き下ろされるため、処理スピードが早くなり、細胞および組織からのRNAの抽出および精製における取扱い時間が短縮される。
【0038】
本方法は、適切な破壊方法を用いることにより、植物および動物細胞ならびに細菌、酵母、植物および糸状菌からのRNAを抽出するために使用することができる。
【実施例】
【0039】
リアルタイムPCR
本発明の実施例はリアルタイムPCRの使用に基づく。リアルタイムPCRにおいて、ポリメラーゼ連鎖反応の生成物は、終了時点の測定によるのではなく、PCRの対数期にリアルタイムでモニターされる。従って、DNAおよびRNAの定量は遥かに精度と再現性が高い。蛍光値が各サイクル中に記録され、増幅反応において当該時点までに増幅された生成物の量を表わす。反応の開始時に存在する鋳型が多いほど、蛍光信号が基準値(background)を上回る統計的に有意なものとして最初に記録される点に到達するのに要するサイクル数(これが(Ct)値の定義である)が少なくなる。閾値サイクル(Ct)の概念は、蛍光ベースのRT−PCRを用いた正確かつ再現性の高い定量を可能にする。PCR生成物の均一系測定は、2本鎖DNA結合性色素(例えばSYBRグリーン)、蛍光原性プローブ(例えばTaqManプローブ、分子ビーコン)および直接標識型プライマー(例えばAmplifluorプライマー)に基づくものなどを含む多数の異なる検出方法を用いて実行することができる。
【0040】
例1.短い遠心分離時間
この例では、2種の胸部リンパ節を Asterand Inc.(Detroit, MI) から購入した。1つの節は病理学により癌陽性であることが確認され(ALNC1)、第2の節は癌陰性であった(ALNN1)。
【0041】
対照として、前述したような製造者により推奨されるQIAGEN RNeasy Mini手順を使用して、各節からの組織30mgを抽出および精製した。各サンプルについて単一ホモジネートから三重抽出を行った。RPE洗浄用緩衝液の最終添加後に各遠心分離ステップを30秒に短縮したことを除いては類似の方法で、三つの30mg部分をQIAGEN RNeasy Mini手順により処理した。全ての遠心分離ステップをEppendorfモデル5415C微小遠心分離器(microcentrifuge)(Brinkman, Instrument, Inc, Westbury)で行った。
【0042】
各節から抽出されたRNAを Hewlitt-Packard HP8453 UV−可視分光システム(Waldbronn, Germany)で260nmおよび280nmにおける分光測定により分析し、全RNA収量を260nmにおいて定量するとともにRNAの質をサンプル毎に260nm/280nm比に基づいて判断した。
【0043】
以下で特記する場合を除いて、プライマーを含め全試薬をInvitrogen Corp, Carlsbad CAから購入した。
【0044】
得られたRNAを以下のように転写してcDNAコピーを作った。5μLのアンカー型オリゴdT23、5μLの10mM各種dNTPおよび50μLとなるまでRNA分解酵素処理水(Sigma Chemical Co, St. Louis, Mo)からなるストック溶液を調製し、2.5μgのRNAを添加し、溶液を70℃に5分間加熱し、次に氷上に置いた。次に、20μLの5×Superscript First-Strand緩衝液、10μLの0.1Mジチオスレイトール、3μLの40U/μL Rnasin 溶液(Promega Corp, Madison WI)および5μLの200U/μL Superscript II 逆転写酵素からなる溶液38μLおよび体積38μLまでのRNA分解酵素を含まない水を添加した。チューブを42℃で50分間インキュベートし、次に40μLの0.5M NaCl を添加して、チューブを70℃で5分間インキュベートした。20μLの1M Tris−HCl 緩衝液,pH7.0を添加した後に、90μlのRNA分解酵素を含まない水を添加した。RNAからcDNAへの完全な変換および1μg=100,000細胞当量(CE)の変換係数を仮定して、80mM Tris緩衝液中の1000CE/μLの濃度を、後続の全てのリアルタイムPCRアッセイについて使用した。
【0045】
リアルタイムPCRにおけるSYBRグリーン検出に基づく以下のプロトコルを、ハウスキーピング遺伝子であるポルホビリノーゲンデアミナーゼ(PBGD,配列番号20)ならびに乳癌に特異的な遺伝子であるママグロビン(mammaglobin, 配列番号17)およびプロラクチン誘導性タンパク質(PIP,配列番号18)の定量的検出のために使用した。10μLの10×PCR緩衝液#1(Applied Biosystems, Inc, Foster City, CA),10μLの10M MgCl2,2μLの10mM各種dNTP,1μLの100×SYBER グリーン溶液(Sigma Chemical Co, St. Louis, MO),TE緩衝液中の5μMストック液からの各種プライマー2μL,および0.75μLの Taq/抗Taq 抗体混合物、および94μLまでのRNA分解酵素を含まない水からなるストックマスター混合溶液を調製した。その他の反応成分の添加に先立って、Taq DNAポリメラーゼおよび抗Taq 抗体を混合し、10〜15分間インキュベートした。49μlの上記マスター混合溶液とともに1μLのcDNA(1,000CE)を各ウェルに添加した。
【0046】
以下のプライマー対を使用した:PBGDについて配列番号1および配列番号2;ママグロビンについて配列番号3および配列番号4;およびPIPについて配列番号5および配列番号6。
配列番号1: ATGACTGCCT TGCCTCCTCA GTA(PBGD)
配列番号2: GGCTGTTGCT TGGACTTCTC TAAAGA(PBGD)
配列番号3: CAAACGGATG AAACTCTGAG CAATGTTGA(ママグロビン)
配列番号4: TCTGTGAGCC AAAGGTCTTG CAGA(ママグロビン)
配列番号5: GGCCAACAAA GCTCAGGACA ACA(PIP)
配列番号6: GCAGTGACTT CGTCATTTGG ACGTA(PIP)
【0047】
リアルタイムPCR測定は、Applied Biosystems 7900(Foster City, CA)で行った。94℃で2分間の後に、50サイクルの94℃で15秒間、62℃で15秒間および72℃で45秒間という温度プロファイルならびに閾値275を使用した。
【0048】
これらの実験の結果を表1にまとめる。これらの結果は、標準QIAGEN手順と比較して短縮した遠心分離ステップで抽出されたサンプル間で、ハウスキーピング遺伝子PBGDまたは癌遺伝子ママグロビンおよびPIPのRNA収量または増幅効率のいずれにも大きな差を示さない。
【0049】
【表1】

【0050】
この迅速プロトコルにおける良好なRNAの質についての追加的な証拠として、6000 Nano-chip Kitを使用する Agilent 2100Bioanalyzer(Agilent Technologies, Wilmington DE)により、上記サンプルの全てについてRNAの質を評価した。電気泳動図の結果は、最小限のRNA分解とともに明確な18sおよび28sリボソームのピークの存在に基づく同程度の良好なRNAの質を示した。全てのサンプルが Agilent Bioanalyzerデータに基づく約1.6以上のリボソームピーク比を有し、このことからも短縮した遠心分離プロトコルからの高品質のRNAが確認された。RNA抽出に要する全時間は5分15秒であった。
【0051】
例2.RNA収量、逆転写およびリアルタイムPCR増幅
この実験では、腺管癌を有する胸部腋窩節を使用した。試薬は全てQIAGEN RNeasy キット(カタログ番号74181, QIAGEN, Inc. Valencia Corporation)からのものを使用した。以下の備品と機材もQIAGEN INCより購入した:QIAvac24濾過装置(カタログ番号 19403),QIAシュレッダー(カタログ番号79656),QIAvacコネクタ(カタログ番号19409)およびVacコネクタ(カタログ番号19407)。他の試薬は全て例1に記載の供給源より購入した。
【0052】
この実験の組織均質化については、540mgの胸部節組織を10.8mlのRLT緩衝液中に懸濁させ、使用に先立って均質化した。得られたホモジネートを幾つかの異なる方法で以下のように処理した。
【0053】
パートI.真空マニホールドの評価。この実験は減圧を適用してQIAvac24濾過装置を使用して行った。
1. 700μLのホモジネートを QIAシュレッダーカラムに入れ、14,000RPMで2分間遠心分離した。
2. 該溶解物に等体積の70%エタノールを添加し、ピペット処理により混合した。遅滞なく次のステップを続けた。
3. 700μLのサンプルを、真空マニホールドに取り付けられた RNeasy miniカラムに適用した。12psi(約83kPa)で10秒間減圧を適用した。
4. 700μLのRWI緩衝液を該カラムに適用し、同じ減圧を同じ時間、適用した。
5. 500μLのRPE緩衝液を該カラム上にピペットで注ぎ、同じ減圧を同じ時間、適用した。別の500μLのRPE緩衝液を該カラムに添加し、同じ減圧を同じ時間、適用した。
6. 該カラムを収集チューブに入れ、14,000rpmで1分間遠心分離して、カラムを乾燥させた。
7. 該カラムを新たな1.5mlチューブに移した。RNA分解酵素を含まない25μLの水を膜上に直接にピペットで注いだ。
8. 膜を60秒間遠心分離して溶出させた。
【0054】
パートII.この実験は真空マニホールドの使用とともに遠心分離時間を30秒に短縮する効果を決定するために行った。
1. 700μLのホモジネートを QIAシュレッダーカラムに入れ、14,000RPMで30秒間遠心分離した。
2. 該溶解物に等体積の70%エタノールを添加し、ピペット処理により混合した。遅滞なく次のステップを続けた。
3. 700μLのサンプルを、真空マニホールドに取り付けられた RNEasy miniカラムに適用した。12psi(約83kPa)で10秒間減圧を適用した。
4. 700μLのRWI緩衝液を該カラムに適用し、上記と同じ減圧を適用した。
5. 500μLのRPE緩衝液を該カラム上にピペットで注ぎ、上記と同じ減圧を適用した。別の500μLのRPE緩衝液を該カラムに適用し、上記と同じ減圧を適用した。
6. 該カラムを収集チューブに入れ、14,000rpmで30秒間遠心分離して、カラムを乾燥させた。
7. 該カラムを新たな1.5mlチューブに移した。RNA分解酵素を含まない25μLの水を膜上に直接にピペットで注いだ。
8. 膜を30秒間遠心分離して溶出させた。
【0055】
パートIII.低速遠心分離器の使用。
この実験では、上記パートIIのステップ1、ステップ6およびステップ7において、VWR Scientific, West Chester, PAより購入したモデル10MVSS遠心分離器を10,000rpmで使用した。
【0056】
パートIV.カラム乾燥ステップの削除。
負の対照として、パートIIに記載の手順からステップ6(パートII)を削除した実験を含ませた。
【0057】
これらの各パートにおけるRNA収量、RNAの260/280nm比(RNA純度の推定値)ならびに3’および5’プライマーを用いたハウスキーピング遺伝子PBGDについてのSYBRグリーンに基づくリアルタイムPCRアッセイを下の表2に示す。手順と試薬は例1に記載した通りである。
【0058】
【表2】

【0059】
これらの実験の結果は、スピードを向上させ機器コストを低下させたプロトコルによりRNA収量に若干の損失が生じることを示す。しかしながら、この修正プロトコルによるRNA収量は、逆転写酵素反応に必要な量(2〜2.5g)を十分に上回る。リアルタイムPCR結果は、この迅速プロトコルがリアルタイムPCRにより転写および定量化され得るRNAを生じることを確認する。
【0060】
例3.迅速プロトコル、対、従来技術プロトコル(Taqmanアッセイを用いたリアルタイムPCRに基づく)
全体で16のH&E陽性節および15のH&E陰性胸部節サンプルをGenomics Collaborativeより購入した。各節から2つの30mg組織片を切り取った。
【0061】
パートI.一方の30mg組織片を以下のように処理した。すなわち、600μlのRLT緩衝液を添加し、組織サンプルを処分可能な組織グラインダー(カタログ番号15704-126, VWR Scientific, West Chester, PA)により20〜40秒間手動で均質化した。チューブをEppendrofモデル5415C微小遠心分離器内で最大速度で3分間遠心分離した。上清液を新たなチューブに移し、1体積の70%エタノールを添加した。サンプル(700μL)を、QIA vac 24真空マニホールド上に配置された RNeasy miniカラム上に適用し、減圧を適用した。RWI緩衝液(700μL)を該カラムを通じて濾過させた。RPE緩衝液(500μL)を該カラム上にピペットで注ぎ、該カラムを通じて濾過させた。別の500μLのRPE緩衝液を該カラムに添加し、該カラムを通じて濾過させた。該RNeasy mini カラムを2ml収集チューブに入れ、微小遠心分離器(microfuge)内で最大速度で1分間遠心分離した。次に、該RNeasyカラムを新たな1.5ml収集チューブに移し、RNA分解酵素を含まない50μlの水を添加し、8000×gで1分間遠心分離することによって、該カラムからRNAを溶出させた。
【0062】
パートII.胸部節の第2の30mg組織片を以下のような迅速プロトコルにより処理した。すなわち、(1)組織片を600μLのRLT緩衝液に添加し、処分可能な組織グラインダーにより20〜40秒間手動で均質化した。(2)そのホモジネートを QIAシュレッダーカラムを通じて最大速度で30秒間遠心分離した。(3)該溶解物に1体積の70%エタノールを添加し、ピペット処理により混合した。(4)次にサンプルを、QIAvac24真空マニホールド上に配置された RNeasy miniカラム上に適用し、減圧を適用した。(5)700μlのRWI緩衝液を該カラムに添加し、該カラムを通じて濾過させた。(6)500μlのRPE緩衝液を該カラム上に添加し、該カラムを通じて濾過させた。(7)該カラムを2mlの収集チューブに移し、10,000rpmで30秒間遠心分離した。(8)RNA分解酵素を含まない25μLの水を膜に添加し、該カラムを10,000rpmで30秒間遠心分離して、RNAを溶出させた。迅速プロトコルにおける遠心分離ステップは全てモデル10MVSS VWR遠心分離器で行った。
【0063】
抽出されたRNAを、例1に記載したように逆転写し、RNAおよびcDNAを定量した。
【0064】
Taqmanアッセイについて、Taqman Core試薬キット、Gene Amp 10×PCR緩衝液、Amp Erase ウラシルN−グリコシダーゼおよびAmpliTaq Gold DNAポリメラーゼをApplied Biosystems, Foster City, CAより購入した。他の試薬は全て例1に記載の商業的供給源より購入した。グリセロールはSigma Chemical Co(St. Louis, MO)より、またTween 20はEastman Organic Chemicals(Rochester, NY)より購入した。
【0065】
ママグロビンプライマー(配列番号3および配列番号4)はInvitrogen Corp.(Carlsbad, CA)により合成され、ママグロビンTaqmanプローブ(配列番号7)はEpoch Biosciences(San Diego, CA)から入手した。PBGDプライマー(配列番号8および配列番号9)はQIAGEN Operon(Alameda, CA)により合成され、そのプローブ(配列番号23)はSYNTHEGEN, LLC (Houston, TX)により合成された。B305Dプライマー(配列番号11および配列番号12)はInvitrogen Corp.で合成され、そのプローブ(配列番号13)はApplied Biosystems, Inc.により合成された。全てのTaqmanプローブについて、カルボキシフルオレセイン(FAM) およびカルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA) を色素およびクエンチャー対として使用した。
配列番号3: CAAACGGATG AAACTCTGAG CAATGTTGA
配列番号4: TCTGTGAGCC AAAGGTCTTG CAGA
配列番号7: 6-FAM-TGTTTATGCA ATTAATATAT GACAGCAGTC TTTGTG-TAMRA
配列番号8: CTGAGGCACC TGGAAGGAGG
配列番号9: CATCTTCATG CTGGGCAGGG
配列番号23: 6-FAM-CCTGAGGCAC CTGGAAGGAG GCTGCAGTGT-TAMRA
配列番号11: TCTGATAAAG GCCGTACAAT G
配列番号12: TCACGACTTG CTGTTTTTGC TC
配列番号13: 6-FAM-ATCAAAAAACA AGCATGGCCTA CACC-TAMRA
【0066】
Taqmanアッセイについて、10μLの10×PCR緩衝液#1、14μLの25mM MgCl2 、8μLの10mM各種dNTP、1μLのAmpErase UNG(1U/μL)、16μLのグリセロール、1μLの1%w/v Tween 20、0.75μLのAmpliTaq Gold(5U/μL)、5μMストック液からの各種プライマー6μL、10μMプローブストック液からの0.4μL、および最終体積96μLとなるまでの水を添加することによって、マスター混合液を調製した。マスター混合液(48μL)および各節サンプルからのcDNA2μLを、各光学反応微小検定プレートウェルに加えた。光学的キャップ形成剤でキャップ形成した後に、該プレートを ABI Prism 7900 HT配列検出システム(Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA) で処理した。Taqman PCR Core 試薬キット、Taqman DNA鋳型試薬およびTaqman B−アクチン検出試薬は、Applied Biosystems(Foster City, CA)より購入し、アッセイは該製造者により推奨されるプロトコルに従って行った。ママグロビンアッセイを用いた分析には0.02の閾値を使用し、B305Dアッセイには0.03、B−アクチンアッセイには0.08、そしてPBGDアッセイには0.1の閾値を使用した。Taqmanによる三重測定の平均を表3および表4に示す。
【0067】
15のH&E陰性節サンプルならびに16のH&E陽性節サンプルおよび2つの対照cDNAサンプルにおける、ハウスキーピング遺伝子であるB−アクチン(配列番号19)およびPBGDのリアルタイムPCR測定の比較を表3に示す。これらの実験の結果は、従来技術プロトコルにより得られるCt値と本発明の迅速方法により得られるCt値との間で良好な一致を示し、迅速RNA抽出プロトコルにより抽出されたRNAが従来技術プロトコルに基づき抽出されたRNAと類似する程度に逆転写およびPCR増幅され得ることを確認するものである。
【0068】
表4は、表3で評価するのと同じ胸部リンパ節サンプルを用いた、乳癌マーカーであるママグロビンおよびB305D(アイソフォームC,配列番号14)についてのCt値に基づく遺伝子発現結果を比較するものである。リアルタイムPCRに基づきH&E陽性およびH&E陰性胸部節サンプル間で相関させることができるかどうかを決定するために、H&E陰性節サンプルにおける各マーカーについての最低Ct値を、ママグロビンとB305Dの両方について特定した。H&E陰性節サンプル中のこの最低値よりも2.5Ct値小さいという任意的であるが堅実なカットオフを、H&E陽性サンプルに適用した。表4において影を付けて示すサンプルは、Ct値がH&E陰性節サンプル中で見られるCt値よりも少なくとも2.5Ct値低いという点で、これら2つの胸部マーカーについて高い発現を有する。該キットの製造者であるQIAGENにより推奨される従来技術の方法と本発明の迅速方法の両方を使用するこれらのマーカーの発現には良好な相関があった。
【0069】
15のH&E陰性節サンプルの1つであるGCLNC-24におけるマーカーとしてママグロビンを使用すると、実験誤差の範囲内である0.4というCt値の差を示した。第2のサンプルは、節における転移の確固とした不均一な分布に起因するサンプリング問題の可能性とともに、これらサンプル中のRNAのスペクトル的定量の困難性に起因して、ママグロビンとB305Dの両方の場合にCt値において大きな差を示した。(Csermi. 1999. Metastases in axillary sentinel lymph nodes in breast canser as detected by intensive histopathological work up(集中的組織病理学研究により検出された乳癌中の腋窩リンパ節における転移). J. Clin Pathol, 52:0922-924)
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
例4.QIAシュレッダーカラムの評価
この例の目的はリンパ節組織の均質化後に QIAシュレッダーカラムを使用し得ること、および僅か30秒間のホモジネートの遠心分離により許容可能なRNA抽出が生じることを実証することである。
【0073】
H&E陰性である胸部腋窩節をGenomics Collaborative(Cambridge, MA)より入手した。490mgの組織切片を5.5mlのRLT緩衝液と混合し、節を均質化した。600マイクロリットルのホモジネートを取り出し、例2に記載のプロトコル短縮化修正の全てを使用してRNAを抽出した。対照として、 QIAシュレッダーカラムの代わりに3分間の遠心分離を用いる点を除いては例2に記載のプロトコル短縮化修正の全てを使用して600μLのホモジネートを処理した。各反応からのRNAを、例1に記載したように逆転写し、定量した。例3に記載のようにTaqmanプローブを使用してリアルタイムPCRを行った。
【0074】
これらの研究の結果は、遠心分離プロトコルにおける0.34μg/μLと比較して、 QIAシュレッダープロトコルを伴うプロトコルにおける0.31μg/μLという類似のRNA収量を示した。両方のサンプルで2.1という同一の260/280nm比が得られ、高い質のRNAを示した。リアルタイムPCRアッセイも、遠心分離を伴うプロトコルと比較して QIAシュレッダーカラムにより抽出されたRNAを用いた場合のママグロビンについて類似のCt値(22.5対22.0)を示し、B305Dの場合(26.7対26.6)ならびにハウスキーピング遺伝子であるPBGDの場合(29.1対29.0)およびB−アクチンの場合(18.5対18.2)も同様であった。
【0075】
要約すると、この実験は、均質化後に3分間の遠心分離ステップの代わりに QIAシュレッダーを伴うプロトコルを用いた場合に類似のRNA収量、質、リアルタイムPCR増幅結果を示す。この修正はRNA抽出を行うために要する時間を2.5分短縮し、このことは患者の処置に影響を及ぼすために迅速な結果が必要とされる術中その他の適用に適したプロトコルの開発において重要である。
【0076】
例5.大腸組織での迅速RNA抽出方法と標準(従来技術)QIAGENプロトコルの比較
以下の例は、本発明の方法と従来技術の両方を用いた大腸組織からのRNAの抽出を比較するものである。20mgの大腸組織を600μlのRLT緩衝液に加え、例3に記載のように均質化した。均質化された大腸癌組織の1つのサンプルを例3Aに記載の迅速プロトコルに従って処理し、1つのサンプルを例3、パートBに記載のQIAGENプロトコルに従って処理した。両手順から得られたRNAをAgilent bioanalyerで試験した。
【0077】
迅速方法および従来技術を用いて抽出されたRNAの電気泳動図は、QIAGENプロトコルを用いて処理したサンプルのRNA比が1.54であり、迅速プロトコルを用いて処理したサンプルのRNA比が1.37であることを示した。一般に、RNA比が1.1を超えるサンプルは許容可能であると考えられている。Agilent bioanalyerにより決定される通り、迅速プロトコルを用いて処理したサンプルはRNA収量が136μg/mlであったのに対し、QIAGEN方法を用いて処理したサンプルは収量が280μg/mlであった。両プロトコルにより得られる収量は逆転写酵素反応に必要とされる量(2〜2.5μg)を十分に上回る。
【0078】
例6.RNA収量および精度に対する溶解物の希釈の効果 以下の例は、RNA収量およびRNA回収の精度に対する溶解物の希釈の効果を例証するものである。この例では、20mg、10mgまたは5mgの凍結ブタ節組織を切断した。50mlの処分可能な組織グラインダーを用いて組織を30秒間すりつぶし、該サンプルをボルテックス処理した。各々の節重量について三重の調製を行った。各溶解物の1mlを1.7mlの微小遠心分離器チューブに移し、これを次に Eppendorf微小遠心分離器内で最大速度(14,000RPM)で30秒間遠心分離した。700マイクロリットルを QIAシュレッダーカラムを通じて遠心分離し、該サンプルを最大速度で30秒間遠心分離した。次に、例2、パートI、ステップ4〜8に記載のように、カラムを洗浄し、カラムを乾燥し、RNAを溶出させた。Gene Spec IIによりRNAを定量した。これらの研究の結果を表5に示す。これらの結果は、10mgおよび20mgの節組織を含む比較的高重量のサンプルと比較して、600mlの均質化用緩衝液中で均質化された2.5mgの初期節組織重量での優れた精度を示す。これらの結果は、改善された精度のRNA回収を低重量の節で実現できることを示す。さらに、ホモジネートが希薄であるほど該カラムを通じて速く濾過されること、そして濾過装置の目詰りに伴う問題の可能性が一層低くなることが予想される。
【0079】
【表5】

【0080】
例7.以下の例は、ホモジネートの希釈により均質化後の遠心分離ステップの必要性がなくなること、および QIAシュレッダーなどの装置を通じた処理がRNAを迅速に抽出するために必要でないことを実証するために行った。
【0081】
この例では、ブタリンパ節の各200mg組織片を4mlの均質化用RLT緩衝液に懸濁させ、処分可能な50mlの組織グラインダー内で30秒間均質化した。組織の最終濃度が緩衝液600ml中5mgとなるように追加の20mlのRLT緩衝液を添加した。サンプルを15秒間ボルテックス処理し、組織濃度をRLT緩衝液600ml中2.5mg、1.25mgまたは0.625mgのいずれかに希釈した。以下の可変項について三重測定を行った:(I)均質化後の遠心分離および QIAシュレッダーステップ有り(II)遠心分離有り、 QIAシュレッダーステップ無し、(III) QIAシュレッダー有り、遠心分離ステップ無し(IV)組織均質化後のホモジネートの遠心分離無し、 QIAシュレッダー無し。各サンプルを等体積の70%エタノールで希釈し、混合した。該サンプル(700μl)を RNeasy miniカラムに適用し、QIAGEN真空マニホールド上に配置した。該サンプルを減圧により濾過し、該カラムを700μlのRWI緩衝液で洗浄した後に、500μlのRPE緩衝液で洗浄した。該カラムを新たな収集チューブに添加し、最大速度(14,000RPM)で30秒間遠心分離して、該カラムを乾燥させた。次に、各カラムを新たな収集チューブに移し、RNA分解酵素を含まない50μlの水を膜上にピペットで注ぎ、該チューブを14,000×gで30秒間遠心分離して、RNAを溶出させた。RNA収量を分光学的に定量した。これらの研究の結果を表6にまとめる。これらの結果は、比較的低い重量の組織(2.5mg,1.25mgおよび0.625mg)をもったサンプルでは、 QIAシュレッダー、または均質化後の遠心分離ステップ、またはその両方がアッセイに含まれる場合に何ら改善が見られないことを示す。
【0082】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物系から採取されたRNA含有溶液を、RNAに結合する物質が付着された又は該物質を含有する基体と接触させるステップと、負圧を適用することによりRNAを回収するステップを含んでなる、生物系からのRNAの抽出方法であって、30秒を超える遠心分離ステップを含まない方法。
【請求項2】
組織が組織グラインダーにより均質化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物系が組織であり、RNA含有溶液の粘度が該溶液と基体との接触前に低下させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
負圧が11.6〜13.1psi(80.0〜90.3kPa)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RNAホモジネートを希釈するステップと、前記希釈されたRNAホモジネートを含有する溶液を、RNAに結合する物質が付着された又は該物質を含有する基体と接触させるステップと、負圧を適用することによりRNAを回収するステップを含んでなる、生物系からのRNAの抽出方法。
【請求項6】
前記RNAホモジネートが8〜2mgホモジネート/ml希釈剤に希釈される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
30秒を超える遠心分離ステップを含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
生物系のサンプルから問題のRNAを含まない細胞を除去するステップと、RNAを含有する細胞を溶解させるステップと、該溶解物を、RNAが結合できる物質が付着された又は該物質を含有する基体と接触させるステップと、遠心分離の不在下で負圧を適用するステップと、該基体に結合したRNAを取り出すステップを含んでなる、生物系からのRNAの抽出方法であって、該方法が6分未満で行われる方法。
【請求項9】
細胞がグアニジニウムチオシアネートを含有する物質で溶解され、基体がシリカゲル膜である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該溶解物を洗浄するステップを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
基体との接触前または接触後に該溶解物を遠心分離するステップを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
(a)生物系から細胞含有サンプルを取得するステップと、 (b)該サンプルから問題のRNAを含まない細胞を除去して、作業サンプルを生成するステップと、 (c)問題のRNAを含む細胞を溶解するステップと、 (d)該作業サンプルを均質化するステップと、 (e)該均質化した作業サンプルを湿潤させるステップと、 (f)該湿潤した均質化した作業サンプルを、RNAが結合する物質に付着された又は該物質を含有する基体と接触させて、基体−RNA複合体を形成するステップと、 (g)該基体に負圧を適用して、RNAを抽出するステップと (h)該抽出されたRNAを洗浄するステップと、 (i)該基体−RNA複合体から水を除去するステップと、 (j)該RNAを溶出させるステップと、を含んでなる方法であって、該方法が6分未満で行われる方法。
【請求項13】
問題のRNAを含まない細胞が除去される前に溶解される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該均質化した作業サンプルを希釈するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
該作業サンプルが8〜2mgホモジネート/ml希釈剤に希釈される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該作業サンプルが約4mgホモジネート/ml希釈剤に希釈される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
該希釈剤がRNA保存物質を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
該物質がグアニジウムチオシアネートを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップg,h,iまたはjの後に遠心分離ステップをさらに含むが、該遠心分離ステップが30秒を超えない、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
該基体がシリカゲル膜である、請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2011−115173(P2011−115173A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−28985(P2011−28985)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2004−137738(P2004−137738)の分割
【原出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(504129755)ベリデックス リミティド ライアビリティー カンパニー (2)
【Fターム(参考)】