説明

細胞の分離方法

【課題】細胞含有液から必要とする細胞を効率よく分離する方法を提供する。
【解決手段】密度勾配遠心法による細胞の分離方法において、細胞含有液と血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液とで細胞液を調製する工程、得られた細胞液を密度勾配形成用媒体の上に重層する工程、及び密度勾配遠心分離を行い、分離された細胞を回収する工程を有することを特徴とする細胞の分離方法。また、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いて細胞を保存する方法も本発明に含まれる。本発明により、血液から必要とする細胞を高効率で分離できる事から、採血時に血液量は少なくてよく、自己の細胞を用いる治療において、患者の負担を軽減することが可能となる。また本発明の方法は基礎研究、医療への応用研究において極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等から細胞を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医学の進歩に伴い、血液中から必要な細胞又は成分のみを分離し、当該細胞を用いた基礎研究や治療への応用が行われるようになってきた。血液から必要とする細胞又は成分を分離・回収する方法には、細胞をその比重に基づいて分離する密度勾配遠心法(例えば、特許文献1)、細胞のサイズや膜表面の抗原を利用し、フィルターや粒子状の担体で細胞を分離する方法(例えば、特許文献2)が用いられている。特に、密度勾配遠心法は、液体状もしくは流動状の密度勾配形成用媒体の上に血液、希釈血液又は血液から事前に回収した細胞を含む溶液等を重層して遠心した後、分離された層のうちの所望の細胞を含有する層のみを回収する事で、必要としない細胞又は成分を実質的に含まないようにすることができるため、より多く用いられてきている。
【0003】
しかしながら密度勾配遠心法において、より多くの細胞や成分を分離・回収するためには、使用する血液の量も多くする必要があるため、更なる効率の良い分離・回収方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1997/021488号パンフレット
【特許文献2】特開2004−121144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、細胞含有液から必要とする細胞や成分を効率よく分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、密度勾配遠心法を用いた細胞含有液から細胞を分離する方法において、密度勾配形成用媒体の上に重層する細胞液にあらかじめ血液由来タンパク質又は乳タンパク質を添加しておくことにより、従来の方法に比べて、必要とする細胞の回収率が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は密度勾配遠心法による細胞からの細胞の分離方法に関し、
1)細胞含有液と血液由来タンパク質、乳タンパク質、又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液とで細胞液を調製する工程、
2)工程1)で得られた細胞液を密度勾配形成用媒体の上に重層する工程、及び
3)密度勾配遠心分離を行い、分離された細胞を回収する工程、
を包含することを特徴とする。前記方法は、更に、
4)工程3)で回収した細胞を洗浄する工程、及び
5)工程4)で洗浄した細胞を保存する工程
を包含してもよい。
第1の発明の態様としては、血液由来タンパク質が血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミンである方法が提供される。また、乳タンパク質がカゼインである方法が提供される。更に、血液由来タンパク質含有する溶液が、血漿、血清又はそれらの希釈物である方法が提供される。更に、上記工程4)において、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いて回収した細胞を洗浄、及び工程5)において、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いて細胞を保存する方法が提供される。
第1の発明の細胞含有液としては、血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血及び成分採血液からなる群より選択される試料が挙げられ、また、血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血及び成分採血液からなる群より選択される試料から事前に分離された細胞を含む画分が挙げられる。更に、第1の発明の密度勾配形成用媒体としては、ショ糖、グリセロール、デキストラン、メトリザミド、イオディキサノール、ショ糖とエピクロロヒドリンの共重合体、ポリビニルピロリドンの被膜をもつコロイド状シリカ粒子、スクロースポリマー、ジアトリゾ酸、イオヘキソール及びニコデンツからなる群より選択される媒体が挙げられる。
【0008】
本発明の第2の発明は、密度勾配遠心法による細胞の分離方法における、密度勾配形成用媒体の上に重層する細胞液の調製時の血液由来タンパク質、乳タンパク質、又はそれらタンパク質を含有する溶液の使用に関する。第2の発明の態様としては、血液由来タンパク質が血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミンである使用が提供される。また、乳タンパク質がカゼインである使用が提供される。また、血液由来タンパク質を含有する溶液が血漿、血清又はそれらの希釈物である使用が提供される。
【0009】
本発明の第3の発明は、第1の発明の方法に用いるためのキットに関し、
1)密度勾配形成用媒体、及び
2)血液由来タンパク質及び/又は乳タンパク質、
を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、細胞含有液、特に血液から必要とする細胞を高効率で分離できる事から、採血時の血液量を少なくすることが可能であり、自己の細胞を用いる治療において、患者の負担を軽減することが可能となる。また、血液から効率よく細胞を回収できることから、本発明の方法は基礎研究、医療への応用研究において極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0012】
本願明細書において「密度勾配形成用媒体」とは、それ自身で又は遠心分離によって密度勾配を形成する液体状又は粒子状の物質を示す。例えば、ショ糖、グリセロール、デキストラン、メトリザミド、イオディキサノール、ショ糖とエピクロロヒドリンの共重合体(例えば後述のFicoll)、ポリビニルピロリドンの被膜をもつコロイド状シリカ粒子(例えば後述のPercoll)、スクロースポリマー、ジアトリゾ酸、イオヘキソール、ニコデンツ(nycodenz)が挙げられ、イオン性又は非イオン性のいずれのものも使用できる。また、Ficoll、Ficoll−PaqueやPercoll(いずれもGEヘルスケア バイオサイエンス社製)、Lymphoprep、Polymorphprep、OptiPrep(Axis−Shield PoC AS社製)、Lymphoseparl(免疫生物研究所製)等の密度勾配形成用として市販されている媒体も好適に使用できる。
【0013】
本願明細書において「血液由来タンパク質」とは、血液に含有されるタンパク質を示す。例えば、血液に含有されるタンパク質として血漿由来タンパク質及び/又は血清由来タンパク質が挙げられ、具体的には、血清アルブミン、血清グロブリン等が挙げられる。また血清アルブミンとしては、ヒト血清アルブミン又はウシ血清アルブミンが挙げられる。
【0014】
本願明細書において「乳タンパク質」とは、乳に含有されるタンパク質を示す。例えば、牛乳の約80%を占めるカゼインが挙げられる。
【0015】
前記のタンパク質は天然由来の材料より単離、精製されたものでもよく、組換え体(微生物や培養細胞)を利用して製造されたものでもよい。
【0016】
本発明の方法においては、血液由来タンパク質又は乳タンパク質は1種のみを使用してもよく、複数のものを混合して使用してもよい。好ましくは単離された血液由来タンパク質又は乳タンパク質、すなわち血液由来又は乳由来の他の成分を実質的に含有しない血液由来タンパク質又は乳タンパク質が本発明に使用される。また、入手可能な組換え血液由来タンパク質又は乳タンパク質を使用してもよい。本発明において、血液由来タンパク質又は乳タンパク質は固体状態のものを直接使用してもよく、これらタンパク質を緩衝液に溶解又は懸濁させ、「血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液」として使用してもよい。また、血漿、血清又はそれらの希釈物を「血液由来タンパク質含有する溶液」として本発明に使用することもできる。
【0017】
本願明細書において「細胞含有液」とは、細胞を含有する液状の組成物を意味する。その種類に限定はなく、任意の細胞含有液に本発明の方法を適用することができる。血液系の細胞の分離を目的とする場合、本発明に使用される細胞含有液としては血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血又は成分血液等、生体由来の細胞を含有する試料が例示される。また、組織を材料として調製された細胞懸濁液や培養細胞の懸濁液にも本発明を適用することができる。
【0018】
前記の細胞含有液は生体試料を公知の操作で分画することにより調製された「細胞含有画分」であってもよい。例えば、血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血又は成分採血液(単核球、顆粒球、末梢血幹細胞など、細胞成分を採取することを目的とする成分採血で得られる細胞含有液)等の試料から事前に分離した細胞を含む画分を本発明に使用することができる。
【0019】
本発明は、当該細胞含有液を材料とした、所望の細胞の分離に利用することができる。本発明により分離される細胞には特に限定はない。特に血液中に存在する細胞が本発明には好適であり、末梢血単核球(PBMC)、多核球、顆粒球、赤血球、造血幹細胞等が挙げられる。
【0020】
以下、血液からPBMCを分離回収する方法について説明するが、本発明はこの説明の内容に限定されるものではない。
【0021】
まず、ドナー(ヒト又は動物)より採血を実施する。得られた血液(例えばヘパリン血)又はその希釈物を常法に従い、例えば200〜1000×gで5〜40分間、0〜40℃にて遠心分離を行い、上清である血漿と分離された細胞含有画分、例えば赤血球層及びBuffy coat層を回収する。PBMCの製造のためにはBuffy coat層を細胞含有液として使用する。
工程1)では、得られた画分、すなわちBuffy coat層と、血液由来タンパク質を含有する溶液、例えばヒト血清アルブミンを含む溶液とを混合することで細胞液を調製する。あるいは乳タンパク質を含有する溶液、例えばカゼインを含む溶液と混合し細胞液を調製してもよい。当該溶液は、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含む以外は常法で用いられるもの、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液、細胞培養用培地、無血清培地等が使用できるのは当然のことである。血液由来タンパク質を含有する溶液として、血漿、血清又はそれらの希釈液も使用することができる。例えば、前記の遠心分離操作で得ることができる血漿もしくはその希釈液、血液又はその希釈液に抗凝固成分を加えずに凝固させた後に回収した上澄み液(血清)もしくはその希釈液を血液由来タンパク質を含有する溶液として使用してもよい。好ましくは、血漿、血清は非働化処理を行った後に使用される。これら血漿又は血清は、市販されている血漿(製品名:正常ヒト血漿、コージンバイオ社製)又は血清(製品名:Human serum,AB、Lonza社製)等を使用いてもよい。また、特に細胞と同じドナー由来の血漿又は血清の使用は、安全性の観点から特に好適である。
【0022】
上記調製した細胞液中の血液由来タンパク質又は乳タンパク質の最終濃度は、添加もしくは希釈に用いた血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液により細胞液にもたらされる血液由来タンパク質又は乳タンパク質の最終濃度として0.01〜25%(W/V)が好ましく、好適には0.05〜10%(W/V)である。また、血液由来タンパク質を含有する溶液として、血漿、血清又はそれらいずれかの希釈物を用いる場合、細胞含有液の液量に対して、0.1〜100%(V/V)に相当する液量を添加すればよく、好適には0.5〜100%(V/V)に相当する液量である。また、血漿、血清の希釈物は、常法で用いられるもの、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液、細胞培養用培地、無血清培地等を用いた希釈により調製し、上記液量で細胞含有液に添加すればよい。
【0023】
次に、工程2)として、調製した細胞液を適切な遠心分離用容器内の密度勾配形成用媒体上に重層し、例えば200〜1000×gで5〜40分間、0〜40℃にて遠心分離を行う。さらに工程3)として、分離された層のうちPBMCを含む画分である中間層をピペットで回収する。こうして得られたPBMC含有画分は、適当な溶液、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、細胞培養用培地等に当該回収した中間層を懸濁し、次いで遠心分離を行って上清を除去することにより洗浄を行う。
【0024】
また、本発明の好適な態様としては、上記記載の工程3)において血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液が使用できる。例えば、前記の中間層をピペットで回収後、まず初めに血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液に懸濁し、次いで遠心分離を行って上清を除去する。この操作を数回繰り返すことにより洗浄を行う。この場合、全ての洗浄工程において血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いてもよく、2回目以降の洗浄時に適当な溶液に変えて行ってもよい。
【0025】
こうして得られたPBMCの生細胞数及び死細胞数を、例えば自動血球計測装置を用いて算出することにより、PBMCの生存率が測定できる。
【0026】
上記の操作に準じて、PBMC以外の血液由来細胞も分離することができる。更に、こうして取得された細胞もしくは細胞集団は、他の細胞分離操作(例えば表面抗原を指標とした分離)に供するための材料としてもよい。
【0027】
PBMC以外の細胞の調製においては、所望の細胞を含有する試料(体液、組織等)に応じて細胞液の調製を行い、適切な密度勾配形成用媒体、血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液とそれらの濃度、使用条件を適宜設定することにより、本発明の細胞の分離方法を実施することができる。
【0028】
以上、本発明から、細胞含有液に血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液を別途添加することにより、従来法に比べて必要とする細胞を効率よく分離・回収することが可能となる。
【0029】
また、本発明により分離・回収した細胞を、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含む溶液で保存することにより、不要な他の成分を含有することなく、細胞濃度を高く保持し、かつ細胞生存率を維持したまま、未凍結状態で長時間保存することが可能である。当該保存方法も本願に包含される。細胞の保存に用いる血液由来タンパク質を含有する溶液として、血漿、血清の希釈物を用いる場合、0.01〜25%(V/V)の溶液が好ましく、好適には0.05〜10%(V/V)の溶液である。また、血漿、血清の希釈には、常法で用いられるもの、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液、細胞培養用培地、無血清培地等を用いた希釈により調製すればよいが、不要な他の成分を含有しない点から、生理食塩水が好ましい。未凍結状態とは、1〜10℃、好ましくは4℃である。本発明の保存方法を用いることにより、例えば、4℃で1〜5日間、好適には1〜2日間、細胞濃度を高く保持し、細胞生存率を維持したまま細胞を保存することが可能である。こうして保存された細胞は、使用前に再度工程4)と同様の方法で細胞を洗浄し、使用してもよい。また、血漿及び血清は不要な他の成分を含有していないことから、そのまま使用してもよい。通常、細胞の保存は凍結状態で行い、融解後、洗浄操作を行う必要があるが、本発明の保存方法を用いることにより、これら融解及び洗浄操作を行う必要がないため、これら操作による細胞生存率の低下を防ぐことができ、細胞生存率を維持したまま培養等に使用可能となる。
【0030】
本発明の第2の発明は、密度勾配遠心法による細胞の分離方法における、密度勾配形成用媒体の上に重層する細胞液の調製時の血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液の使用である。すなわち、本発明により開示された、血液由来タンパク質、乳タンパク質又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液を、密度勾配遠心法による細胞の分離に供される細胞液の調製に使用する行為は本願発明に包含される。
【0031】
本発明の第3の発明のキットは、本発明の第1の発明の方法に使用される密度勾配形成用媒体、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する。好適な態様として、前記の各構成成分に加えてこれらの本発明の第1の発明の細胞分離方法における使用方法を指示する指示書を含むキットが例示される。本発明のキットにおいて、密度勾配形成用媒体、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液は、いずれも本発明の細胞分離方法に適した濃度とされていてもよく、用時に希釈して使用される高濃度溶液や用時に溶解又は懸濁して使用される乾燥物もしくは凍結乾燥物とされていてもよい。さらに、本発明のキットは、構成成分の希釈や溶解に使用される溶媒、回収された細胞を洗浄するための洗浄液等を含有してもよい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例をもって本発明を更に具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1 ヒト血清アルブミン(HSA)含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離
(1)PBMCの分離
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、60mL分のへパリン加採血を実施した。得られた血液を約15mLずつコニカルチューブ(ベクトン・ディッキンソン社製又はグライナ―社製)に分注後、700×g、室温で20分間遠心し、遠心後の上清である血漿画分とPBMCを含む細胞画分とに分離した。PBMCを含む細胞画分は、ダルベッコPBS(以下、DPBSと記載する。インビトロジェン社製又はニッスイ社製)、0.96%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下、0.96%HSA/生理食塩水と記載する)、RPMI1640(インビトロジェン社製又は和光純薬社製)、又は生理食塩水(テルモ社製)を用いて、それぞれ20mLにフィルアップし希釈した。得られた希釈細胞液を、Ficoll−Paque PREMIUM(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)20mLの上にそれぞれ重層して、700×g、室温で20分間遠心した。遠心後、分離した層のうち、PBMC層をピペットで回収し、RPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水又はリンパ球培養用培地GT−T551(タカラバイオ社製)をそれぞれ用いて30mLにフィルアップした後、650×g、4℃にて10分間遠心し、上清を除去した。同様に、600×g、500×gと段階的に遠心力を落としながら順次遠心操作を行い、計3回洗浄を繰り返した。得られたPBMCの生細胞数及び生存率(%)を自動血球計測装置(ヌクレオカウンター Chemometec社製)を用いて算出し、以下の式に準じて細胞回収率(%)を算出した。Ficoll重層時の希釈溶媒と洗浄時の溶媒との関係と得られた結果を表1に示す。表中、ドナー1及び2は異なるドナーの血液を用いて比較を行った結果である。
式:細胞回収率(%)=各条件で分離した際の回収PBMC細胞数/基本法で分離した際の回収PBMC細胞数×100(※基本法とは、Ficoll重層時の希釈溶媒としてDPBSを、洗浄時の溶媒としてRPMI1640を使用する方法を示す。)
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法、RPMI1640の組合せ、生理食塩水とGT−T551の組合せと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、この効果は複数のドナー血液を用いたPBMC分離について確認された。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0036】
(2)回収PBMCの細胞集団の解析
実施例1−(1)で基本法により分離して得られたPBMC又は0.96%HSA/生理食塩水を用いて分離して得られたPBMCを、1%(W/V)ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ社製)を含むDPBS(以下1%BSA/DPBSと記載する)で洗浄した。その後、それぞれのPBMCを1%BSA/DPBSに細胞を懸濁し、FITC標識マウス抗ヒトCD8抗体/RD1標識マウス抗ヒトCD4抗体/PC5標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)、あるいはFITC標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)及びRD1標識マウス抗ヒトCD56抗体(ベックマンコールター社製)を添加した。ネガティブコントロールとしてFITC標識マウスIgG抗体/RD1標識マウスIgG抗体/PC5標識マウスIgG抗体(ベックマンコールター社製)を添加した。氷上で30分間インキュベートした後、ACK Lysing Bufferを添加し、残存赤血球を溶血した。次に、0.1%(W/V)BSAを含むDPBSで細胞を洗浄し、再度DPBSに懸濁した。この細胞をフローサイトメトリー(Cytomics FC500:ベックマンコールター社製)に供し、各々の細胞集団について、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD3陰性CD56陽性細胞の含有率を算出した。ここで含有率(%)は、全細胞数に占める陽性細胞数の占める割合を示す。結果を表2に示す。表中、ドナー1及び2は異なるドナーのPBMCを用いて比較を行った結果である。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0039】
実施例2 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離
(1)PBMCの分離
実施例1−(1)と同様の方法でインフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA/生理食塩水、生理食塩水又はソルデム3A(ブドウ糖、電解質液を含有する維持液、テルモ社製)を用いてそれぞれ別々に希釈を行った。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、RPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水、生理食塩水又はソルデム3Aをそれぞれ用いて3回行った。Ficoll重層時の希釈溶媒と洗浄時の溶媒との関係と、得られた結果を表3に示す。表中、Exp.A及びBは同一ドナーの血液を用いた実施時期の異なる実験の結果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法や生理食塩水又はソルデム3Aの組合わせと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。一方、生理食塩水及びソルデム3Aの組合せでは、細胞の生存率が低下した。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0042】
実施例3 得られたPBMCからのT細胞拡大培養
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例3−(1)で得られたPBMCを実施例1−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、実施例1−(2)で使用した抗体に加え、FITC標識マウス抗ヒトCD19抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、FITC標識マウス抗ヒトCD14抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、FITC標識マウス抗ヒトCD15抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)も使用した。その結果を表5に示す。すなわち表5は、各々の細胞集団について、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD3陰性CD56陽性細胞、CD19陽性細胞、CD14陽性細胞及びCD15陽性細胞の含有率を算出した結果である。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合に大きな差はなかった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0047】
(3)T細胞の拡大培養
実施例3−(1)で得られたPBMCを用いて、T細胞の拡大培養をおこなった。
抗CD3抗体OKT3(終濃度5μg/mL、ヤンセンファーマ社製)及びレトロネクチン(終濃度25μg/mL、登録商標、タカラバイオ社製)を含むACD−A液(テルモ社製)を培養面積86cmにしたガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標)215(タカラバイオ社製)に10.4mL/バッグずつ添加し、CO濃度が5%(以下、5%COと記載する)中、37℃で5時間インキュベートした。更に、上記のバッグは使用前にRPMI1640で3回洗浄した後、OKT3及びレトロネクチン固定化CultiLife215として実験に供した。
【0048】
実施例3−(1)で分離したPBMC 1.2×10cellsを、1.0%(V/V)非働化済み血漿を含むGT−T551(以下血漿含有GT−T551と記載)120mLに懸濁し、上記で作製したOKT3及びレトロネクチン固定化CultiLife215に添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2(製剤名;Proleukin、カイロン社製)を添加し、5%CO中37℃で培養を開始した(培養0日目)。培養開始4日目に、各CultiLife215内の細胞液を均一な懸濁液とし、一部を希釈して、培養面積を430cmにした何も固定化していないガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標)Eva(タカラバイオ社製)に移した。この際、細胞液を40mL添加し、血漿含有GT−T551を296mL添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO中37℃で培養した。培養を継続し、培養開始7日目には各CultiLifeEvaに細胞液と等量の血漿を含まないGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始10日目に自動血球計測装置(ヌクレオカウンター、Chemometec社製)を用いて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較し、拡大培養率を算出した。また、得られた培養後の細胞の細胞集団を実施例1−(2)と同様の方法で解析し、CD3陽性細胞含有率、CD4陽性細胞含有率、CD8陽性細胞含有率、及びCD3陰性CD56陽性細胞含有率を算出した。その結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
表6に示すように、どちらの血液分離方法で得られたPBMCもスタート細胞数を同じとした拡大培養において、拡大培養率、培養後の細胞の構成に差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0051】
実施例4 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.1%(V/W)HSAを含む生理食塩水又は0.3%(V/W)HSAを含む生理食塩水(以下、0.1%HSA/生理食塩水、0.3%HSA/生理食塩水とそれぞれ記載する)、0.96%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、0.1%HSA/生理食塩水、0.3%HSA/生理食塩水、0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表7に示す。表中、ドナー3及び4は異なるドナーの血液を用いて比較を行った結果である。
【0052】
【表7】

【0053】
表7に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.1%〜約1%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0054】
実施例5 HSA含有生理食塩水を用いた成分採血液からのPBMC分離回収
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、成分採血を実施した。ここでいう成分採血とは、単核球採取を目的とした採血である。得られた成分採血液をDPBS又は0.96%HSA/生理食塩水で希釈後、Ficoll−paque PREMIUM上に重層して700×gで20分間遠心した。中間層のPBMCをピペットで回収後、それぞれRPMI1640又は0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回洗浄した。その結果を表8に示す。表中、ドナー5及び6は異なるドナーの成分採血液を用いて比較を行った結果である。
【0055】
【表8】

【0056】
表8に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナーの成分採血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は細胞含有液の違いに関係なく、成分採血液からのPBMC分離回収時においても好適に使用できることが明らかとなった。
【0057】
実施例6 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA/生理食塩水又は4.2%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下、4.2%HSA/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水、4.2%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表9に示す。
【0058】
【表9】

【0059】
表9に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%〜4.2%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0060】
実施例7 BSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、又は1%(W/V)BSAを含む生理食塩水(以下、1%BSA/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%BSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表10に示す。
【0061】
【表10】

【0062】
表10に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%BSA/生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0063】
実施例8 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下5%HSA/生理食塩水と記載する)及びFicoll−Paque PREMIUMの添付資料に血液分離時の推奨バッファーとして記載されているBlanced solt solution(以下、推奨バッファーと記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。推奨バッファーは、1gのD−グルコース(ナカライテスク社製)、0.0074gの塩化カルシウム2水和物(ナカライテスク社製)、0.1992gの塩化マグネシウム6水和物(ナカライテスク社製)、0.4026gの塩化カリウム(ナカライテスク社製)、17.565gのTris(ナカライテスク社製)を蒸留水(大塚製薬社製)で溶解し、5N塩酸(和光純薬社製)でpH7.6に調製後、蒸留水で1Lにメスアップしてからフィルターユニット(旭テクノグラス社製)で滅菌したバッファーAと、8.19gの塩化ナトリウム(ナカライテスク社製)を蒸留水で1Lにメスアップしてからオートクレーブ滅菌したバッファーBとを1:9の割合で混合して調製した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水及び推奨バッファーを用いて3回行った。その結果を表11に示す。
【0064】
【表11】

【0065】
表11に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%のHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、実施例4、実施例6及び実施例8の結果から、0.1%〜5%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用する事で、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げられることが明らかとなった。さらにはHSAを含む生理食塩水を使用することは、分離媒体(Ficoll−Paque PREMIUM)販売元が血液分離時に推奨するバッファーと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0066】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例8−(1)で得られたPBMCを実施例2−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、ACK Lysing Bufferで残存赤血球の溶血処理は行わなかった。その結果を表12に示す。
【0067】
【表12】

【0068】
表12に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水、推奨バッファーを使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また同様に5%のHSAを含む生理食塩水を使用することは、推奨バッファーと比較しても、含有される各抗原陽性細胞の割合にほとんど差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、得られる各細胞の含有率がほぼ同じものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0069】
実施例9 カゼインナトリウム含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、1%のカゼインナトリウム(和光純薬社製)を含む生理食塩水(以下、1%カゼインNa/生理食塩水と記載する)及び0.2%のカゼインナトリウムを含む生理食塩水(以下、0.2%カゼインNa/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%カゼインNa/生理食塩水及び0.2%カゼインNa/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表13に示す。
【0070】
【表13】

【0071】
表13に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%又は0.2%のカゼインナトリウムを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0072】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例9−(1)で得られたPBMCを実施例2−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、ACK Lysing Bufferで残存赤血球の溶血処理を行わなかった。その結果を表14に示す。
【0073】
【表14】

【0074】
表14に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水、1%又は0.2%のカゼインナトリウムを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、得られる各細胞の含有率がほぼ同じものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0075】
(3)PBMCの保存
実施例9−(1)で得られたドナー8のPBMCをRPMI1640に懸濁後、CP−1(極東製薬工業社製)と25%HSA(製剤名ブミネート、バクスター社製)を17:8の割合で混合した保存液を等量加えて液体窒素中にて保存した。使用時には、これら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNase(カルビオケム社製)を含むGT−T551(タカラバイオ社製)で洗浄後、各実験に供した。
【0076】
(4)T細胞の拡大培養
実施例9−(3)で得られたドナー8のPBMCを用いて、T細胞の拡大培養を行った。
OKT3(終濃度0.3μg/mL)を含むDPBSを培養面積3.8cmの12ウエルプレート(コーニング社製)に0.45mL/ウエルずつ添加し、5%CO中37℃で5時間インキュベートした。また、上記の12ウエルプレートは使用前に培養器材から当該DPBSを吸引除去後、各ウエルをDPBSで2回、RPMI1640で1回洗浄し各実験に供した。
【0077】
実施例9−(3)で得られたドナー8のPBMC 0.53×10cellsを、血漿含有GT−T551 5.3mLに懸濁し、上記で作製したOKT3固定化12ウエルプレートに添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO中37℃で培養を開始した(培養0日目)。培養開始4日目に、各12ウエルプレート内の細胞液を均一な懸濁液とし、一部を血漿含有GT−T551で約12倍希釈して、この希釈液約7.8mLを培養面積が10cmの何も固定化していないT25細胞培養フラスコ(コーニング社製)を立てたものに移した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO中37℃で培養した。培養を継続し、培養開始7日目には各フラスコに細胞液と等量の血漿を含まないGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始11日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較し、拡大培養率を算出した。また、得られた培養後の細胞の細胞集団を実施例1−(2)と同様の方法で解析し、CD3陽性細胞含有率、CD4陽性細胞含有率、CD8陽性細胞含有率、及びCD3陰性CD56陽性細胞含有率を算出した。表中の基本法の値はN=2の平均値を示し、1%カゼインNa/生理食塩水はN=1の値を示す。その結果を表15に示す。
【0078】
【表15】

【0079】
表15に示すように、1%カゼインNa/生理食塩水を用いた血液分離方法で得られたPBMCもスタート細胞数を同じとした拡大培養において、拡大培養率、培養後の細胞の構成に差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0080】
実施例10 NycoPrep 1.077での新鮮血からのPBMC分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、密度勾配形成用媒体としてFicoll−Paque PREMIUM、及びNycoPrep 1.077(AXIS−SHIELD社製)を用いた。また、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、分離剤ごとにそれぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表16に示す。
【0081】
【表16】

【0082】
表16に示すように、Ficoll−Paque PREMIUMを密度勾配形成用媒体として使用した場合と同等に、NycoPrep 1.077重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、密度勾配形成用媒体によらず本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0083】
実施例11 HSA含有生理食塩水を用いた成分採血液からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、成分採血を実施した。得られた成分採血液を0.96%又は5%HSA/生理食塩水で希釈後、Ficoll−paque PREMIUM上に重層して700×gで20分間遠心した。中間層のPBMCをピペットで回収後、それぞれ0.96%又は5%HSA/生理食塩水を用いて3回洗浄した。結果を表17に示す。
【0084】
【表17】

*本実施例のみ、0.96%HSA/生理食塩水を使用した際の回収PBMC数と比較し算出した。
【0085】
表17に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用した場合と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。なお両条件とも基本法に比べ高い細胞回収率を示した。これらのことから、本発明の方法は成分採血液からのPBMC分離回収時においても好適に使用できることが明らかとなった。
【0086】
実施例12 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA(製剤名ブミネート、バクスター社製)/生理食塩水又は0.96%HSA(製剤名アルブミナー、CSLベーリング社製)/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、表18記載の洗浄時溶媒を用いて3回行った。その結果を表18に示す。
【0087】
【表18】

【0088】
表18に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、HSAの製造元によらず、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0089】
実施例13 Histopaque 1.077での新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、密度勾配形成用媒体としてFicoll−Paque PREMIUMとHistopaque 1.077(シグマ社製)を用いた。また、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、分離剤ごとにそれぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表19に示す。
【0090】
【表19】

【0091】
表19に示すように、Ficoll−Paque PREMIUMを密度勾配形成用媒体として使用した場合と同等に、Histopaque 1.077重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、密度勾配形成用媒体によらず本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0092】
実施例14 HSA含有生理食塩水を用いたPBMCの保存
(1)PBMCの分離回収と保存
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、0.96%HSA/生理食塩水を用いて25mLにフィルアップし希釈し、中間層のPBMCの回収後の洗浄は、0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。この際、遠心はすべて室温で行った。得られたPBMCを3本のコニカルチューブに分注し、500×g、室温で5分間遠心し、上清を除去した。各コニカルチューブについて、細胞濃度が1×10cells/mLとなるように2.5%HSA/生理食塩水、CPS−1(細胞科学研究所社製)、2.5%HSA/CPS−1に懸濁し、4℃暗所で保存した。各溶媒で保存当日、1日後、2日後の細胞濃度及び生存率を表20に示す。
【0093】
【表20】

【0094】
表20に示すように、PBMCを4℃保存する際に、2.5%HSA/生理食塩水、2.5%HSAを添加したCPS−1溶液を使用することで、添加していないCPS−1と比較して、細胞濃度を高く保持した状態で保存可能であることが示された。このことから、2.5%HSAは細胞の4℃保存時に好適に使用できることが明らかとなった。PBMCの保存は、凍結状態で行われることが常法であるが、4℃という未凍結状態での保存時に本方法は好適に使用される。また、HSA/生理食塩水で保存可能なことから、保存後に細胞を使用する際、CPS−1の成分を除く洗浄工程が不要であり、保存していた細胞をそのまま使用可能であることが明らかとなった。
【0095】
(2)4℃保存PBMCの細胞集団の解析
実施例14−(1)で保存したPBMCを実施例1−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、FITC標識マウス抗ヒトCD3抗体、あるいはECD標識マウス抗ヒトCD4抗体及びPC5標識マウス抗ヒトCD8抗体を使用し、ネガティブコントロールとしてFITC標識マウスIgG抗体/RD1標識マウスIgG抗体/PC5標識マウスIgG抗体及びECD標識マウスIgG抗体を使用した。結果を表21に示す。
【0096】
【表21】

【0097】
表21に示すように、2.5%HSAを添加した保存液中のPBMCと添加していない保存液中のPBMCとの間では、含有される各抗原陽性の細胞の割合に大きな差はなかった。このことから、HSAはPBMC4℃保存時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0098】
実施例15 カゼインナトリウム含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収(血液分離工程別)
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、1%カゼインNa/生理食塩水及び1%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%カゼインNa/生理食塩水又は1%HSA/生理食塩水を用いて行った。このとき、各洗浄溶媒を用いて45mLにフィルアップし、遠心は全て室温で行った。結果を表22に示す。
【0099】
【表22】

【0100】
表22に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%カゼインナトリウムおよび1%HSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、1%カゼインNa/生理食塩水は、Ficoll−Paque PREMIUM重層時または細胞洗浄時のいずれかに使用した場合でも、基本法と比較して細胞回収率を上げることが示された。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収の分離工程にかかわらず好適に使用されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、従来の分離方法と比べ、高い効率で必要とする細胞を分離する方法が提供される。本発明により、細胞含有液と血液由来タンパク質、乳タンパク質、又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液で細胞液を調製する工程を付加するだけという簡便な方法で、細胞液から必要とする細胞を効率よく分離できることから、本発明は基礎研究、医療への応用研究において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)細胞含有液と血液由来タンパク質、乳タンパク質、又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質のいずれかを含有する溶液とで細胞液を調製する工程、
2)工程1)で得られた細胞液を密度勾配形成用媒体の上に重層する工程、及び
3)密度勾配遠心分離を行い、分離された細胞を回収する工程、
を包含することを特徴とする細胞の分離方法。
【請求項2】
さらに、
4)工程3)で回収した細胞を洗浄する工程、
を包含する請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程4)において、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いて、回収した細胞を洗浄することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに、
5)工程4)で洗浄した細胞を保存する工程、
を包含する請求項2記載の方法。
【請求項5】
工程5)において、血液由来タンパク質又は乳タンパク質を含有する溶液を用いて細胞を未凍結下で保存することを特徴とする請求項4の方法。
【請求項6】
血液由来タンパク質が、血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
乳タンパク質がカゼインである請求項5記載の方法。
【請求項8】
血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質が、ヒト血清アルブミン又はウシ血清アルブミンである請求項6記載の方法。
【請求項9】
血液由来タンパク質を含有する溶液が、血漿、血清又はそれらの希釈物である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
細胞含有液が、血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血及び成分採血液からなる群より選択される試料である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
細胞含有液が、血液、希釈血液、骨髄液、臍帯血及び成分採血液からなる群より選択される試料から事前に分離された細胞を含む画分である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
密度勾配形成用媒体が、ショ糖、グリセロール、デキストラン、メトリザミド、イオディキサノール、ショ糖とエピクロロヒドリンの共重合体、ポリビニルピロリドンの被膜をもつコロイド状シリカ粒子、スクロースポリマー、ジアトリゾ酸、イオヘキソール及びニコデンツからなる群より選択される媒体である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
密度勾配遠心法による細胞の分離方法における、密度勾配形成用媒体の上に重層する細胞液の調製時の血液由来タンパク質、乳タンパク質、又は血液由来タンパク質もしくは乳タンパク質を含有する溶液の少なくとも1種の使用。
【請求項14】
血液由来タンパク質が、血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質である請求項13記載の使用。
【請求項15】
乳タンパク質がカゼインである請求項13記載の使用。
【請求項16】
血漿由来タンパク質又は血清由来タンパク質が、ヒト血清アルブミン又はウシ血清アルブミンである請求項14記載の使用。
【請求項17】
血液由来タンパク質を含有する溶液が、血漿、血清又はそれらの希釈物である請求項13に記載の使用。
【請求項18】
下記1)及び2)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるためのキット;
a)密度勾配形成用媒体、
b)血液由来タンパク質及び/又は乳タンパク質。

【公開番号】特開2011−24575(P2011−24575A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148954(P2010−148954)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】