説明

細胞の吸着を制御可能なポリペプチド

【課題】固相表面修飾分子として使用する際に、固相表面への細胞の非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドを提供すること。
【解決手段】極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチドであって、少なくとも50アミノ酸残基から構成され、また、複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、当該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列されるポリペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相表面修飾分子として使用する際に、固相表面への細胞の非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドに関し、より詳細には、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチドに関し、具体的には、少なくとも50アミノ酸残基から構成され、また、複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、当該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列されるポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管のような医療デバイス、バイオチップのような生体分子の検出・解析デバイス,磁性ナノ粒子のような細胞関連アプリケーション用マテリアルを開発するにあたり、共通して問題とされる事項としてマテリアル・デバイス表面へのタンパク質や細胞の非特異的吸着が挙げられる。そして、様々な分子を用いた表面修飾により、マテリアル・デバイス表面へのタンパク質や細胞の非特異的吸着の抑制が試みられている。
【0003】
表面修飾分子として最も利用されている高分子にポリエチレングリコール(poly(ethylene) glycol)(PEG)がある。PEGは非電荷で強い親水性を有する極性分子であり、生体適合性にも優れている。より高分子のPEGを粒子表面に修飾することで、粒子表面に形成される固定化水層の厚み(Fixed Aqueous Layer Thickness : FALT)が増し、立体障害により粒子の細胞やタンパク質との相互作用を減らすことが可能である(非特許文献1、2参照)。また、DDSなど、in vivoでの粒子の使用に際し、粒子表面へのPEGの修飾は、血清タンパク質への吸着やマクロファージによる捕捉を低減し、粒子が細網内皮系(Reticulo-Endothelial System : RES)の異物貪食作用から逃れることに役立つ。これにより、PEG修飾粒子は、長時間血中を循環することが可能となる(非特許文献3、4及び5参照)。
【0004】
また、PEGの他、粒子の細胞やタンパク質への非特異的吸着を妨げる効果を示す表面修飾分子として、PEG同様に非電荷且つ親水性を有する多糖であるデキストラン(dextran)やブロッキング剤として一般的に用いられているアルブミン(albumin)が報告されている(非特許文献6、7参照)。また、特にデバイス表面への修飾分子としてフォスファチジルコリン(phosphatidylcholine)(PC)が利用されている。PCは、動物細胞外膜を構成する主要なリン脂質である。細胞は、中性のリン脂質であるPCを表面に配することで細胞外のタンパク質や糖などの生体分子との非特異的な相互作用を回避し、選択的に情報の授受・伝達を行っている。PC基を側鎖に持つ2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)ポリマーを用いて疎水性基盤上に自己組織化を利用して作製した人工生体膜表面では、血清タンパク質の非特異的吸着の回避と血液成分の粘着・活性化をほぼ完全に抑制することが可能であった(非特許文献8参照)。
【0005】
また、バイオセンサなどの医療デバイスに応用できる磁気微粒子として、非特異的吸着が少ない磁気微粒子や、目的物質と特異的に結合するための機能性タンパク質を結合した磁気微粒子が開示されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−314314
【特許文献2】特開平8−228782
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sadzuka, Y., A. Nakade, R. Hirama, A. Miyagishima, Y. Nozawa, S. Hirota and T. Sonobe (2002). Effects of mixed polyethyleneglycol modification on fixed aqueous layer thickness and antitumor activity of doxorubicin containing liposome. Int J Pharm 238(1-2): 171-80.
【非特許文献2】Fang, C., B. Shi, Y. Y. Pei, M. H. Hong, J. Wu and H. Z. Chen (2006). In vivo tumor targeting of tumor necrosis factor-alpha-loaded stealth nanoparticles: effect of MePEG molecular weight and particle size. Eur J Pharm Sci 27(1): 27-36.
【非特許文献3】Jeong, Y. I., S. J. Seo, I. K. Park, H. C. Lee, I. C. Kang, T. Akaike and C. S. Cho (2005). Cellular recognition of paclitaxel-loaded polymeric nanoparticles composed of poly(gamma-benzyl L-glutamate) and poly(ethylene glycol) diblock copolymer endcapped with galactose moiety. Int J Pharm 296(1-2): 151-61.
【非特許文献4】Martina, M. S., J. P. Fortin, C. Menager, O. Clement, G. Barratt, C. Grabielle-Madelmont, F. Gazeau, V. Cabuil and S. Lesieur (2005). Generation of superparamagnetic liposomes revealed as highly efficient MRI contrast agents for in vivo imaging. J Am Chem Soc 127(30): 10676-85.
【非特許文献5】Dixit, V., J. Van den Bossche, D. M. Sherman, D. H. Thompson and R. P. Andres (2006). Synthesis and grafting of thioctic acid-PEG-folate conjugates onto Au nanoparticles for selective targeting of folate receptor-positive tumor cells. Bioconjug Chem 17(3): 603-9.
【非特許文献6】Lewin, M., N. Carlesso, C. H. Tung, X. W. Tang, D. Cory, D. T. Scadden and R. Weissleder (2000). Tat peptide-derivatized magnetic nanoparticles allow in vivo tracking and recovery of progenitor cells. Nat Biotechnol 18(4): 410-4.
【非特許文献7】Wilhelm, C., C. Billotey, J. Roger, J. N. Pons, J. C. Bacri and F. Gazeau (2003). Intracellular uptake of anionic superparamagnetic nanoparticles as a function of their surface coating. Biomaterials 24(6): 1001-11.
【非特許文献8】Futamura, K., R. Matsuno, T. Konno, M. Takai and K. Ishihara (2008). Rapid development of hydrophilicity and protein adsorption resistance by polymer surfaces bearing phosphorylcholine and naphthalene groups. Langmuir 24(18): 10340-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下の分析は、本発明により与えられる。なお、前掲の特許文献及び非特許文献の夫々は、引用をもって本明細書に組み込んで記載されているものとする。
【0009】
上述したような細胞関連アプリケーションに用いられるデバイス・マテリアル表面に対して分子修飾を施すことに以下の二つが施されている。一つは、抗体等を修飾することで目的細胞への結合性・特異性を付加していること、二つ目は、ポリエチレングリコール(Poly(ethylene) glycol)(PEG)、フォスファチジルコリン(phosphatidylcholine)(PC)、デキストラン(dextran)等を修飾することで細胞の非特異的吸着からの抵抗性を付加していることである。精度の高いアプリケーションを実現するためには、デバイス・マテリアル表面に対し、上記の二要素を同時に付加する必要があり、さらに、二種の分子を修飾する必要がある。抗体を固定化した表面に対しPEG等を化学架橋法により修飾する場合、抗体の活性を阻害しないような修飾機序や修飾分子の大きさ(長さ)を考慮する必要がある。しかしながら、それらを考慮することで細胞の非特異的吸着の抑制効果を十分に発揮できない場合が多い。そこで、PEG等の分子をリンカー(linker)として用いて抗体をデバイス・マテリアル表面に固定化する形態が検討されてきている。しかしながら、この方法においては、各分子の段階的な高精度の反応が必要となり、煩雑な操作と長い反応時間が問題とされている。
【0010】
したがって、本発明は上述に鑑みて成されたものであり、細胞の吸着を制御可能なポリペプチドを提供することを目的とするものであり、より詳細には、固相表面修飾分子として使用する際に、固相表面への細胞の非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチドが、固相表面における細胞の非特異的な吸着を制御することが可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の一視点において、ポリペプチドは、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチドであることを特徴とする。このポリペプチドは、少なくとも50アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であれば、当該アミノ酸配列は任意の配列でよく、このポリペプチドが用いられる細胞の発現系に影響を及ぼさない限り、このポリペプチドの長さは特に制限されない。また、このポリペプチドは、複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、固相を用いて目的物質であるタンパク質や細胞を分離・回収・検出する際に、該ポリペプチドを固相表面に配することで、親水性と立体障害性により目的物質の固相表面への非特異的吸着を抑制することができる。
【0014】
また、このポリペプチドは、複数のアミノ酸残基から構成される1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列される構造を有していてもよい。これにより、かかるポリペプチドを設計する際に、使用するアミノ酸の種類や残基長をユニット単位で最適化することができ、アミノ酸配列を効率的に選定することが可能となる。この1ユニットを構成するアミノ酸配列は、当該アミノ酸を適宜選択して、任意のアミノ酸配列とすることができる。
【0015】
該1ユニットを構成する、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸としては、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、トレオニン(T)、チロシン(Y)及びセリン(S)が挙げられ、中でも親水性と立体障害性の付与の観点から、親水性が高く、且つ側鎖のサイズが小さいアスパラギンが好適である。また、該1ユニット中又は該ポリペプチド全体のアミノ酸配列中の一部にセリンが含まれていてもよい。セリンをアミノ酸配列中に付加することにより、該ポリペプチドにフレキシビリティを付与することができ、目的物質の非特異的吸着抑制能の向上に貢献すると期待できる。
【0016】
かかる1ユニットのアミノ酸配列は、a、bを任意の整数とした、第1種のアミノ酸×aと第2種のアミノ酸×bの組合せ、例えば、選択したアミノ酸の記号とa、bの値で表示した場合の(NQTYS×a、NQTYS×b)は、多様な組合せが可能である。例えば、第1種のアミノ酸にグルタミン(Q)、第2種のアミノ酸にセリン(S)を選択し、a、bの値の組合せ(例えば、a,b=2,1; 3,1; 3,2; 4,1; 4,2; 5,1; 5,2,,,)を表示した場合の(QaSb)は、(QS)、(QS)、(QS)、(QS)、(QS)、(QS)、(QS)、、、等がいずれも可能である。本発明では、具体的に、1ユニットを4つのアスパラギンと1つのセリンの組合せ(N4S)とし、この1ユニットの繰り返し配列((N4S)n)とすることで、本発明のポリペプチドは固相表面修飾分子として使用する際に固相表面への細胞の非特異的な吸着を制御できる。この場合、1ユニット内の配列において、セリンの配列位置は特に限定はなく、1ユニット内において任意の位置で設計すればよい。また、1ユニットの同じ配列の繰り返しの回数は、立体障害性を確保できれば特に制限はないが、一般に繰り返し回数が多くなるほど、コスト面と合成のしやすさから入手が困難となることから、例えば20回程度の繰り返しが好ましい。本発明においては、特に、配列番号1により表されるアミノ酸配列のポリペプチドが好ましく、アミノ酸合成機などを用いて、人工的に合成してもよい。
【0017】
また、本発明のポリペプチドは、細胞関連アプリケーションに用いられるデバイス・マテリアルの表面に適用される抗体等の機能性タンパク質のアミノ酸を付加して、融合タンパク質として組み込むことが可能である。また、この機能性タンパク質によって捕獲した目的物質をさらなる研究等に用いるために、当該ポリペプチドから回収する必要があり、例えば、ポリペプチドの配列内に特定の制限酵素の認識部位を設けることによって、捕獲した目的物質を容易に回収することができる。
【0018】
また、本発明の別の視点によると、本発明は、上記ポリペプチドをコードする塩基配列を含むプラスミドを提供できる。好ましくは、配列番号2に示す塩基配列を含むプラスミドが好ましい。これにより、上記ポリペプチドが発現できるように細胞に形質転換できる。また、本発明は、当該プラスミドにより形質転換された細胞を提供でき、細胞は磁性細菌であることが好ましい。
【0019】
本発明のさらに別の視点によると、上記磁性細菌において、上記プラスミドを該磁性細菌に導入し、該磁性細菌を培養し、合成された磁性細菌粒子を抽出することにより、細胞に対する非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドを合成した磁性細菌粒子の作製方法を提供できる。また、上記方法によって、上述したポリペプチドのいずれかを発現することができ、具体的には、磁性細菌の磁性細菌粒子膜上に発現された磁性細菌粒子を得ることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の別の視点によると、上記磁性細菌粒子を用いることによって、該粒子の細胞に対する非特異的吸着を抑制する方法、該粒子の分散性を向上する方法、及び細胞の分離方法を提供する。これによって、当該粒子表面にポリペプチドが配された粒子において、当該ポリペプチドのもたらす親水性と立体障害性により、細胞の粒子への非特異的な吸着を制御可能である。また、粒子表面の上記ポリペプチドは、粒子同士の凝集抑制にも寄与し、粒子の分散性を向上可能である。また、粒子表面の上記ポリペプチドによって細胞の非特異的吸着が抑制された結果、例えば、末梢血からの目的細胞の分離が高純度及び高効率で可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、本発明の極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチドによって、細胞の粒子への非特異的な吸着を制御可能である。少なくとも50アミノ酸残基から構成され、また、複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、当該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列されるポリペプチド、具体的には、少なくとも2種類の当該アミノ酸の組合せから構成されるポリペプチド、例えば、(N4S)nポリペプチドを粒子表面に配することで、ポリペプチドのもたらす親水性と立体障害性により、細胞の粒子への非特異的な吸着を制御可能である。また、粒子表面の(N4S)nポリペプチドは、粒子同士の凝集抑制にも寄与し、粒子の分散性を向上可能である。更に、ポリペプチド鎖長を伸長させることで、粒子と細胞間又は粒子同士の相互作用に及ぼす効果を増大させることが可能である。また、本発明のポリペプチドを磁気細胞分離に用いるマテリアル(磁性粒子)上に修飾する場合に、抗体結合性タンパク質と本発明のポリペプチドを融合タンパク質としてディスプレイすることで、磁性ナノ粒子上へ配向性を保った抗体の固定化が可能である。この抗体固定化磁性ナノ粒子を用いることで、細胞の非特異的吸着からの回避に伴い、目的とする細胞のみを高精度に磁気標識でき、高純度に磁気分離可能である。さらにまた、本発明のポリペプチドを修飾することで粒子の分散性も向上することから、抗体固定化磁性ナノ粒子の目的細胞との反応効率も向上し、高回収率での磁気分離も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1におけるBacMPs上へのprotein G-NS polypeptide linker (100AA)-Mms13融合タンパク質発現用プラスミドの作製概略図を示す。
【図2】実施例1におけるBacMPs上へのprotein G-NS polypeptide linker (50AA)-Mms13融合タンパク質発現用プラスミドの作製概略図を示す。
【図3】本発明におけるProtein G-NS polypeptide linker (100AA)-Mms13融合タンパク質発現BacMP(protein G-linker(100)-BacMP)の概念図を示す。
【図4】実施例1におけるBacMPs上へのprotein G-NS polypeptide linker (100AA)-Mms13融合タンパク質のSDS-PAGEによる発現確認の図を示す。
【図5】実施例2におけるProtein G 依存的に BacMPs 上に固定化された rabbit IgG 抗体数を示す図である。
【図6】(A)及び(B)共に、実施例3におけるBacMPsの粒度分布を示す図である。
【図7】実施例4における透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscopic)(TEM)によるBacMPsの観察を示す図である。
【図8】実施例5におけるBacMPs上へのNS polypeptide linkerの発現とBacMPsの細胞への非特異的吸着の相関を示す図である。
【図9】実施例6における抗CD19抗体固定化BacMPsを用いたRaji細胞の磁気回収率を示す図である。
【図10】実施例7における抗CD19抗体固定化BacMPsを用いた末梢血からのCD19+細胞の直接的磁気分離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のポリペプチドは、磁性ナノ粒子のような細胞関連アプリケーション用マテリアルにおける、固相表面修飾分子として、固相表面への細胞の非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドであることを特徴とする。
【0024】
より詳細に説明すると、本発明のポリペプチドは、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸のポリペプチドである。このポリペプチドは、少なくとも50アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であれば、当該アミノ酸配列は任意の配列でよく、また、このポリペプチドが用いられる細胞の発現系に影響を及ぼさない限り、このポリペプチドの長さは特に制限されない。また、このポリペプチドは、複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、当該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列されるポリペプチドを特徴とする。
【0025】
また、本発明のポリペプチドを構成するアミノ酸は、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸であれば、特に制限はなく、これらのアミノ酸に該当するアスパラギン(N)、グルタミン(Q)、トレオニン(T)、チロシン(Y)及びセリン(S)から任意に選択されるが、好ましくは、アスパラギン、グルタミン及びセリンからなる群から2つ以上選択して使用される。また、極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸は親水性アミノ酸でもあり、本発明のポリペプチドを構成するアミノ酸は親水性でもある。また、1ユニット内のペプチド配列は、5つのアミノ酸の配列で構成されることが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0026】
より好ましくは、本発明のポリペプチドは、具体的には、第1の種類のアミノ酸(例えば、アスパラギン)を4つ、次いで、第2の種類のアミノ酸(例えば、セリン)を1つ並べて配列した(N4S)を1ユニットとしたペプチドから構成されるポリペプチドが好ましいが、ここで、1ユニット内の5つのアミノ酸の配列は制限されるものでない。つまり、1ユニット内において、1つだけの第2種アミノ酸(セリン)と4つの第1種アミノ酸(アスパラギン)による配列に関しては、任意に配されてよい。また、例えば、a、bを任意の整数とすると、1ユニットは、第1種のアミノ酸×aと第2種のアミノ酸×bの組合せから構成されて、1ユニットの配列はアスパラギン(N)、グルタミン(Q)、トレオニン(T)、チロシン(Y)及びセリン(S)から任意に選択した多様な組合せからなるアミノ酸配列が可能である。
【0027】
また、本発明のポリペプチドとしては、上記の4つのアスパラギンと1つのセリンのアミノ酸配列より構成される1ユニットが繰り返し配列されたポリペプチド(以下、「(N4S)nポリペプチド」と記す)が好ましい。特に、アスパラギンは、ポリペプチドの親水性と立体障害性の付与の観点から好ましく、セリンは、ポリペプチドに構造上のフレキシビリティを付与することができ、目的物質の非特異的吸着抑制能の向上に寄与できる。ここで、当該1ユニットの繰り返し数(n)には特に制限がなく任意の値をとり得るが、本発明のポリペプチドにおいては、少なくとも数回、好ましくは10回程度以上、特に20回程度の繰り返しが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリヌクレオチドにおいては、当該1ユニットの繰り返し数を調整することで、ポリペプチド鎖長を調整でき、このポリペプチド鎖長に依存して、非特異的な吸着の制御の調節が可能である。
【0029】
このように、本発明のポリペプチドは、非特異的な吸着の制御の度合いに依存して、上述した条件により適宜調製できるが、本発明においては、上記(N4S)nポリペプチドが好ましく、特には、1ユニットの(N4S)が20回繰り返す、(N4S)20ポリペプチドが好ましい。また、本発明においては、配列番号1により表されるアミノ酸配列のポリペプチドが好ましい。
【0030】
さらに、本発明のポリペプチドは、細胞関連アプリケーション用マテリアルを開発するにあたり、例えば、磁性ナノ粒子の表面に修飾する際に、機能性タンパク質をディスプレイするためのリンカーとして使用することができる。この場合、機能性タンパク質を本発明のポリペプチドと一体化することができる。つまり、機能性タンパク質を調製する際に、本発明のポリペプチドとの融合タンパク質とすることができ、当該機能性タンパク質のアミノ酸配列を本発明のポリペプチドに組み込むことができる。機能性タンパク質としては、例えば、抗原、抗体、プロテインA、プロテインG等の免疫関連タンパク質や、レクチン、アビジン、ビオチン等の結合能を有する結合性タンパク質や、補酵素、加水分解酵素、酸化還元酵素、異性化酵素、転移酵素、脱離酵素、制限酵素等の酵素や、各種受容体や、GFP等のマーカタンパク質などが挙げられ、また、上記機能性タンパク質の一部からなるペプチドや、HA(ヘマグルチニン)、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどを例示することができるがこれらに限定されるものではなく、1又は2以上の機能性タンパク質や機能性ペプチドが融合した融合機能性タンパク質であってもよい。
【0031】
また、この場合、本発明のポリペプチドの配列内に特定の制限酵素の認識部位を設けることによって、機能性タンパク質によって捕獲された目的物質を容易に回収することができ、回収された目的物質をさらなる研究及び実験などに使用することができる。
【0032】
また、本発明のポリペプチドは、アミノ酸合成機で人工的に合成することもできるが、本発明においては、当該ポリペプチドをコードする塩基配列、つまり、特定のアミノ酸配列である本発明のポリペプチドを細菌などの細胞内で合成するための塩基配列を作製し、当該塩基配列を公知の遺伝子技術によってプラスミドなどのベクターに導入し、次いで、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等の公知の導入技術によって、当該プラスミドを、上記ポリペプチドを発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞に導入することによって合成することができる。
【0033】
宿主細胞としては、磁性細菌、大腸菌などの細菌原核細胞や、酵母などの真核細胞、昆虫細胞、動物細胞又は植物細胞を挙げることができるが、本発明のポリペプチドを細胞関連アプリケーションに利用する際に、磁性ナノ粒子上に形態化できることから、特に、磁性細菌を用いることが好ましい。
【0034】
なお、磁性細菌とは、体内に磁性細菌粒子(磁気微粒子ともいう)を蓄積する能力を有する細菌であり、本発明において使用可能な磁性細菌(Magnetospirillum sp.)としては、AMB−1(FERM BP−5458)、MS−1(IFO15272,ATCC31632,DSM3856)、MSR−1(IFO15272,DSM6361)、RS−1(FERM BP−13283)、MGT−1(FERM P−16617)等の磁性細菌を具体的に例示することができるがこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明のポリペプチドは、上記機能性タンパク質を含んで、磁気微粒子膜上に発現している磁気微粒子として、上記宿主磁性細菌を用いて製造することができる。かかる製造方法としては、例えば、本来的に有機膜に結合して生成する膜タンパク質Mms13の全部又は一部(少なくとも膜結合部分)をコードするDNA、又はそのDNAに機能性タンパク質及びポリペプチドをコードするDNAとを融合させたDNA配列と、例えば、mms16プロモーターなどの高転写活性を有するプロモーター配列とを含む組換えプラスミドにより形質転換された磁性細菌を培養することにより、本発明のポリペプチド(機能性タンパク質を含んで)が磁気微粒子膜上に発現している磁気微粒子を細菌内で生成させる方法を挙げることができる。本発明のポリペプチド(機能性タンパク質を含んで)が磁気微粒子膜上に発現している磁気微粒子は、培養により増殖させた上記磁性細菌を公知の方法により破砕又は溶解し、磁石を利用して容易に収集することができる。
【0036】
このようにして得られた磁性細菌粒子は、(N4S)nポリペプチド鎖を粒子表面に配することで、ポリペプチドのもたらす親水性と立体障害性により、細胞の粒子への非特異的な吸着を制御可能である。また、粒子表面の(N4S)nポリペプチドは、粒子同士の凝集抑制にも寄与し、粒子の分散性を向上可能である。更に、ポリペプチド鎖長を伸長させることで、粒子と細胞間又は粒子同士の相互作用に及ぼす効果を増大させることが可能である。
【0037】
また、本発明のポリペプチドを磁性ナノ粒子などの粒子表面に修飾する際に、機能性タンパク質をディスプレイするためのリンカーとして利用する場合、本発明のポリペプチドは、それらのタンパク質の配向性を一定に保った状態でデバイス・マテリアル表面にディスプレイするのに役立つ。例えば、抗体結合性タンパク質であるプロテインGと本発明のポリペプチドを融合タンパク質としてディスプレイすることで、磁性ナノ粒子上へ配向性を保った抗体の固定化が可能である。この抗体固定化磁性ナノ粒子を用いることで、細胞の非特異的吸着からの回避に伴い、目的とする細胞のみを高精度に磁気標識でき、高純度に磁気分離可能である。また、本発明のポリペプチドを修飾することで粒子の分散性も向上することから、抗体固定化磁性ナノ粒子の目的細胞との反応効率も向上し、高回収率での磁気分離も可能である。
【実施例】
【0038】
以下に、具体的な実施例を掲げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの例示に限定されるものではない。
【0039】
本実施例では、細胞関連アプリケーションにおいて、ナノ粒子の細胞への非特異的吸着を抑制するための新規粒子表面修飾分子として、(N4S)nポリペプチド(NS polypeptideともいう)を合成した。そして、NS polypeptideの効果を検証するため、各実施例において、プロテインG(protein G)を発現させる際のリンカーとしてNS polypeptideを導入した磁性細菌粒子(Bacterial magnetic particles : 以下、BacMPsという)(磁気微粒子、磁性ナノ粒子ともいう)を作製し、protein G-NS polypeptide発現BacMPsと細胞の相互作用に関する解析を行った。
【実施例1】
【0040】
Protein G-NS polypeptide linker発現BacMPs(protein G-linker-BacMPs)の作製
BacMPs上へのprotein G-NS polypeptide linker融合タンパク質のディスプレイを目的とし、プラスミドの構築を行った(図1及び2)。NS polypeptide linker((N4S)18+LVPRGS+(N4S)(配列番号1))をコードする遺伝子(315 bp)(配列番号2)を含むプラスミド(pUC18)(TAKARA BIO社に遺伝子合成を発注)から制限酵素Ssp Iを用いてリンカー(linker)遺伝子を切り出し、pUMP16M13のSspIサイトに導入した。これをNS polypeptide linker(100AA)発現用プラスミド(pUM13L(100))(図1)とした。更に、pUM13L(100)上のNS polypeptide linker遺伝子の中央にsite-direct mutagenesis法によりHpa Iサイト及びストップコドン(stop codon)を導入した。これをNS polypeptide linker(50AA)発現用プラスミド(pUM13L(50))(図2)とした。Protein GのIgG binding domain(B1-domain)(配列番号3)をコードする遺伝子(174 bp)(配列番号4)を含むプラスミド(pPCR-Script)(OPERON社に遺伝子合成を発注)から制限酵素Ssp Iを用いてB1-domain遺伝子を切り出し、pUM13L(100)のAfe Iサイト及びpUM13L(50)のHpa Iサイトに導入した。これらを、protein G-NS polypeptide linker(100 AAまたは50AA)発現用プラスミド(pUM13L(100)B1、pUM13L(50)B1)とした。なお、pUM13L(50)B1作製の際に、配列番号6、7を用いた。pUM13L(100)B1は、Mms13遺伝子+((N4S)18+LVPRGS+(N4S)) polypeptide遺伝子+protein G遺伝子の融合遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子を含んでいる。pUM13L(50)B1は、Mms13遺伝子+(N4S)10polypeptide遺伝子+protein G遺伝子の融合遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子を含んでいる。なお、(N4S)10polypeptideのアミノ酸配列は、配列番号5で示される。両プラスミド共にプロモーターにはmms16プロモーターを用いた。上記NS polypeptide linker((N4S)18+LVPRGS+(N4S))内のアミノ酸(LVPRGS)は、トロンビン(thrombin)酵素の消化部位である。
【0041】
また、本実施例においては、アスパラギンとセリンから構成されるポリペプチド((N4S)nポリペプチド)内に、捕獲後の目的物質の回収のための制限酵素の認識部位を設けたが、4つのアスパラギンと1つのセリンの1ユニットを20回繰り返したポリペプチド((N4S)20ポリペプチド)とすることができる。なお、図3に、本発明におけるProtein G-NS polypeptide linker (100AA)-Mms13融合タンパク質発現BacMP(protein G-linker(100)-BacMP)の概念図を示す。
【0042】
pUM13L(100)B1、pUM13L(50)B1を磁性細菌AMB-1にエレクトロポレーションにて導入後、形質転換体より抽出したBacMPsを1% SDS中で30分間煮沸することでBacMPs膜タンパク質を回収し、SDS-PAGE(アクリルアミド:12.5%)により目的タンパク質:protein G-NS polypeptide linkerのBacMPs膜への発現を確認した。その結果、形質転換体より抽出したBacMPsの膜タンパク質のSDS-PAGEにおいて、アンカータンパク質:Mms13とprotein G-NS polypeptide linkerの融合タンパク質に相当するバンドが確認された(図4)。これより、プラスミドpUM13L(100)B1またはpUM13L(50)B1を磁性細菌に導入することでprotein G-NS polypeptide linker(100AA)発現BacMPs(protein G-linker(100)-BacMPs)またはprotein G-NS polypeptide linker(50AA)発現BacMPs(protein G-linker(50)-BacMPs)の作製が可能であることが示された。
【実施例2】
【0043】
Protein G-linker-BacMPs上への固定化抗体数の評価
プラスミドpUM13L(100)B1、pUM13L(50)B1、pUM13B1を導入したAMB-1の形質転換体よりprotein G-linker(100)-BacMPs、protein G-linker(50)-BacMPs、protein G-BacMPsをそれぞれ抽出した。HEPESによる洗浄後、各BacMPs:20μgとALP標識rabbit由来anti-goat IgGまたはALP標識chicken由来anti-rat IgG抗体溶液:20μl(20μg/ml)を反応させた(RT、30分間)。磁気分離による洗浄後、BacMPs懸濁液:20μlにルミホス530:80μlを加え5分後の発光強度を測定した。ALP標識抗体を用いて作製した検量線を基に、測定された発光強度からBacMPs上に固定化された固定化量を算出した。さらに、下記条件を用い、BacMPs上に固定化された抗体量から、BacMP 1粒子上に固定化された抗体数を算出した(抗体分子量:150kDa、BacMP直径:75nm、BacMP密度:5.2g/cm3)。
【0044】
その結果、評価した3種のBacMPにおいて、BacMP 1粒子上には約20分子の抗体がprotein G依存的に固定化された(図5)。Protein G-linker(100)-BacMP、protein G-linker(50)-BacMP、protein G-BacMP 1粒子上に固定化されたrabbit由来IgG抗体数から非特異的に結合したchicken由来IgG抗体数を引いた値を、BacMP 1粒子上に発現したprotein G依存的に結合した抗体数とした。これより、protein G-linker(100)-BacMP、protein G-linker(50)-BacMP、protein G-BacMP 1粒子上には、ほぼ同等数(20 molecules/a single BacMP)の機能性protein Gが発現していると考えられた。BacMPs上へのprotein Gの発現系において、NS polypeptide linkerの導入は融合タンパク質の発現及び機能に影響を及ぼさないと考えられた。以上より、作製したBacMPsは抗体を固定化するのに有用であることが示された。
【実施例3】
【0045】
BacMPsの分散性と発現したNS polypeptide linker鎖長の相関解析
Protein G-linker(100)-BacMPs、protein G-linker(50)-BacMPs、protein G-BacMPsを超純水(super pure water)またはPBSに懸濁(5μg BacMPs/ml)し、超音波攪拌直後の粒度分布を動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定し、分散性を評価した。
【0046】
その結果、超純水(super pure water)中での各BacMPsの平均粒径は、(protein G-linker(100)-BacMPs:52.9 ± 16.8nm、protein G-linker(50)-BacMPs:50.7 ± 13.5nm、protein G-BacMPs:61.9 ± 50.5nm)であった(図6(A))。一方、PBS中での各BacMPsのメインピークの示す粒径は、(protein G-linker(100)-BacMPs:66.8 ± 10.6nm、protein G-linker(50)-BacMPs:105.2 ± 29.3nm、protein G-BacMPs:211.8 ± 42.8nm)(図6(B))であり、NS polypeptide linker鎖長に比例しBacMPsの分散性が向上した。超純水(Super pure water)中では、BacMPsを覆う主要なリン脂質であるフォスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)由来の負電荷の効果によりBacMPs同士の電気的な反発が起こり、BacMPsが単分散を容易に保てると考えられた。一方、緩衝液であるPBS中においては、多量に存在するイオンによりBacMPsの表面電荷は打ち消され、個々のBacMPの有する磁力に起因した凝集塊の形成が促進されると考えられた。しかし、BacMPs上にNS polypeptide linkerを配することで、立体障害によりBacMPs同士の凝集が抑制されたと考えられた。更には、NS polypeptideは親水性であることから、PEGのもたらす効果と同様にBacMPs表面に固定化水層(非特許文献1参照)が形成されている可能性も示唆された。以上より、NS polypeptide linker のディスプレイにより緩衝液中においてもBacMPsの分散性を保持することが可能であることが示された。
【実施例4】
【0047】
透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope : TEM)によるprotein G-linker-BacMPsの観察
Protein G-linker(100)-BacMPs、protein G-BacMPsに関し透過型電子顕微鏡STEMによる観察を行った。
【0048】
その結果、Protein G-BacMPsと比較し、protein G-linker(100)-BacMPs表面には分厚い層が観察された(図7)。TEMでは真空中のサンプルを観察する為、protein G-linker(100)-BacMPs上に発現したNS polypeptideがBacMPs表面に集積されることで、分厚い層のように観察されたと考えられた。これは、BacMPs上へのNS polypeptideの発現及び、NS polypeptideの有する立体障害性を裏付ける結果と考えられた。
【実施例5】
【0049】
BacMPsの細胞への非特異的吸着に及ぼすNS polypeptideディスプレイの効果の評価
培養細胞懸濁液:70μl(2×105 cells)に対し、protein G-linker(100)-BacMPs、protein G-linker(50)-BacMPs、protein G-BacMPs:30μl(1-30μg)を反応させた(4℃、10分間)。遠心洗浄及び磁気分離後、BacMPsの細胞への非特異的吸着により回収された細胞数を計測し、非特異的細胞回収率を算出した。培養細胞には、Raji細胞(B細胞系)、JM細胞(T細胞系)、THP-1細胞(単球系)、RAW 264.7細胞(マクロファージ系)を用いた。
【0050】
その結果を図8に示す。Protein G-BacMPsを用いた場合、反応量に比例してBacMPsの非特異的吸着に伴うRaji細胞及びRAW264.7細胞の非特異的回収率は増加した。また、protein G-linker(50)-BacMPsを用いた場合では、Raji細胞は非特異的にほとんど回収されることはなかったが、RAW264.7細胞においてはBacMPsの反応量に比例し非特異的に回収された細胞数が増加した。B細胞系培養細胞株であるRaji細胞と比較し、マクロファージ系培養細胞株であるRAW264.7細胞の有する高い接着性が、BacMPsの細胞表面への非特異的吸着を促進したと考えられた。一方、protein G-linker(100)-BacMPsを用いた場合では、Raji細胞及びRAW264.7細胞共に非特異的にほとんど回収されることはなかった。RAW264.7細胞に対し30μgのprotein G-linker(100)-BacMPsを反応させた場合、非特異的回収率は0.9 %(protein G-BacMPsを用いた場合の5分の1)であった。その他、JM細胞やTHP-1細胞を用いた評価においても、protein G-linker(100)-BacMPsを作用させることで非特異的に回収された細胞は非常に少なかった(非特異的回収率 ≦ 0.2%)。BacMPs表面にNS polypeptide linkerが存在することで、立体障害によりBacMPsと細胞間の相互作用が減少した結果、BacMPsの細胞への非特異的吸着が抑制されたと考えられた。そして、NS polypeptide linker鎖長が長いほどBacMPsの細胞への非特異的吸着の抑制効果が高いと考えられた。PEGを用いたナノ粒子表面修飾においても同様な効果が示されている(非特許文献2参照)ことから、NS polypeptide linkerはBacMPs上においてPEG様の働きをしていると考えられた。以上より、NS polypeptide linkerをBacMPs表面にディスプレイすることで、細胞のBacMPsへの非特異的吸着を低減可能であることが示された。
【実施例6】
【0051】
抗体固定化BacMPsの細胞分離能に及ぼすNS polypeptideディスプレイの効果の評価
Raji細胞懸濁液:70μl(3×104 cells)に対し、anti-CD19モノクローナル抗体固定化protein G-linker(100)-BacMPs、protein G-BacMPs:30 μl(1-25μg)を反応させた(4℃、10分間)。遠心洗浄及び磁気洗浄後、回収された細胞数を計測し、細胞回収率を算出した。
【0052】
その結果を図9に示す。同一の粒子量を反応させた結果、anti-CD19モノクローナル抗体固定化protein G-linker(100)-BacMPsを用いた場合において、protein G-BacMPsを用いた場合と比較し1.2-1.9倍数の細胞が回収された。NS polypeptideディスプレイにより向上したBacMPsの水溶液中での分散性が、抗体固定化BacMPsの抗原(細胞)結合能の向上に寄与したと考えられた。以上より、抗体固定化protein G-linker(100)-BacMPsを磁気細胞分離の磁気担体として用いることで、より高回収率での目的細胞の分離も図れると考えられた。
【実施例7】
【0053】
Protein G-linker(100)-BacMPsを用いた全血からの細胞分離
ヒト末梢血:500μlに対し、mouse IgG1由来anti-CD19固定化protein G-linker(100)-BacMPs及びprotein G-BacMPs:160μl(40μg)を反応させた(4℃、10分間)。さらに、PE標識anti-CD19 mAb:60μlを反応させた(4℃、10分間)。遠心洗浄、磁気分離洗浄を行なった後、フローサイトメトリーにより分離細胞の蛍光を解析した。磁気分離洗浄2回目のみ懸濁液(buffer)として、溶血液(buffer)(VersaLyse)を用いた。また、ヒト末梢血に含まれたCD19+細胞の割合を評価するため以下の実験を行った。ヒト末梢血:100 μlに対し、PE標識anti-CD19 mAb:10μlをそれぞれ反応させた(4℃、10分間)。さらに、VersaLyse:1mlを加え反応させた(RT、10分間)。遠心洗浄後、フローサイトメトリーにより回収細胞(白血球)の蛍光を解析した。また、ヘマサイトメーターを用いて細胞数を計測し、末梢血中に含まれた各細胞数を算出した。
【0054】
抗体を用いて白血球中のCD19+細胞の含有率を評価した結果、CD19+細胞は白血球の4.1%含まれていた。白血球は末梢血由来血球細胞中の約0.1%に当たることから、CD19+細胞は末梢血由来血球細胞中に約0.4×10-2%含まれていたと考えられた。また、anti-CD19固定化protein G-linker(100)-BacMPs及びprotein G-BacMPsを用いて、ヒト末梢血よりCD19+細胞の磁気細胞分離を行なった結果を図10に示す。末梢血由来血球細胞中に約0.4×10-2%含まれていたCD19+細胞は、anti-CD19固定化protein G-linker(100)-BacMPsを用いた場合、95.1%の純度、58.1%の回収率で分離された。anti-CD19固定化protein G-BacMPsを用いた場合では、81.9%の純度、63.6%の回収率であった。NS polypeptide linkerをBacMPs表面にディスプレイすることで、細胞のBacMPsへの非特異的吸着が抑制された結果、protein G-linker(100)-BacMPsを用いた場合において高純度に目的細胞を末梢血から分離可能であった。
【0055】
上記の実施例から分かるように、BacMPs表面に発現されたNS polypeptide linkerは、その鎖長に比例してBacMPs間及びBacMPsと細胞間の相互作用に効果を発揮した。
【0056】
また、NS polypeptide linkerは、BacMPs同士の凝集を立体障害効果により抑制することで、緩衝液中でのBacMPsの分散性の維持に寄与した。これにより、抗体固定化BacMPsの細胞結合効率に依存した細胞分離効率の向上がなされた。
【0057】
さらにまた、BacMPsの細胞への非特異的吸着の抑制へも効果を発揮した。特に、他の血球細胞と比較し高い接着性を有するマクロファージ系の細胞(RAW 264.7細胞)へのBacMPsの非特異的吸着の抑制効果は顕著であった。
【0058】
本実施例において、親水性と非電荷を指標に設計されたNS polypeptideをBacMPs表面に発現させることで、従来のPEGを用いたナノ粒子の表面修飾によって得られるのと同様な効果を獲得することが可能であった。また、本実施例では、protein Gを発現させる際のリンカー(linker)としてNS polypeptideを組み込んだことで、protein Gの機能活性に影響を及ぼすことなくNS polypeptideをBacMPs表面に配することが可能であった。
【0059】
以上より、NS polypeptideは、粒子の分散性の向上及び細胞の粒子表面への非特異的結合を抑制可能な、新規な表面修飾分子として開発された。また、NS polypeptideはリンカー(linker)として使用した場合においても機能を発揮することが可能であることから、粒子表面を含めた固相への機能性タンパク質固定化の際に用いるリンカー(linker)としても有用である。その他、熱・光・pH等の変化により構造や性質を可逆的に変化させるアミノ酸配列をリンカー(linker)として組み込むことで、細胞への非特異的吸着を低減する他、様々な機能をBacMPsに付加可能である。
【0060】
また、抗体固定化protein G-linker(100)-BacMPsを磁気細胞分離の磁気担体として用いることで、より高効率に目的細胞を分離可能であり、本発明のポリペプチドは、本細胞分離システムは基礎研究から応用研究、細胞診断、細胞療法等、幅広い分野を支える基礎ツールとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリペプチドと機能性タンパク質を融合タンパク質として融合することで、マテリアル・デバイス表面への機能性タンパク質の配向性を保った固定化が可能となると共に、マテリアル・デバイス表面への細胞の非特異的吸着の抑制が可能である。また、磁性ナノ粒子などの粒子上へ修飾した場合、粒子の分散性の向上にも寄与する。以上のように、二つないしは三つの重要要素を一度に解決可能な、本発明のポリペプチドを用いた表面修飾技術は、人工血管のような医療デバイス、バイオチップ・細胞チップのような生体分子・細胞の検出・解析デバイス、磁性ナノ粒子のような細胞関連アプリケーション用マテリアルの開発の際に重要技術として汎用されることが期待される。
【0062】
特に、細胞関連アプリケーションに用いられる粒子の表面修飾分子としての利用が最も期待される。これまで、細胞関連アプリケーションにおいて、(ナノ)粒子は、細胞集団の中からの特定細胞の分離、Drug Delivery System(DDS)(薬物送達システム)に用いる薬物キャリアとしての応用、細胞への遺伝子導入用担体としての応用など様々に利用されており、また磁性ナノ粒子に関しては、交流磁界の照射によるヒステリシス損失に伴う発熱現象を利用した磁気ハイパーサーミアや、Magnetic Resonance Imaging(MRI)の増感剤としての利用も積極的に研究されている。よって、本発明のポリペプチドの応用範囲が多岐に渡ることが期待される。
【0063】
以上より、本発明は、in vitroからin vivo、基礎研究から応用研究あるいは臨床応用に渡る幅広い分野で利用されることが期待される。
【0064】
特記事項:本発明により開示した塩基配列は、全体としての性質に実質的影響を与えない範囲で、いくつかの欠失、付加ないし置換の1以上を含むことが許容される。なお、アミノ酸配列においても同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性アミノ酸且つ非荷電アミノ酸から構成されるポリペプチド。
【請求項2】
少なくとも50アミノ酸残基から構成される請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
複数のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を1ユニットとし、該1ユニットのアミノ酸配列が繰り返して配列される請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記1ユニットのアミノ酸配列を構成するアミノ酸がアスパラギン、グルタミン、トレオニン、チロシン及びセリンからなる群から選択されるとともに、前記1ユニット中又は該ポリペプチド中の一部にセリンが含まれる請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記1ユニットのアミノ酸配列は、前記2種類の選択されたアミノ酸と、当該2種類のアミノ酸の夫々の個数との組合せによって決定される請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記1ユニットのアミノ酸配列は4つのアスパラギン及び1つのセリンの任意の配列である請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記1ユニットのアミノ酸配列が20回繰り返されたアミノ酸配列を構成する請求項3乃至6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
配列番号1に示すポリペプチド。
【請求項9】
機能性タンパク質のアミノ酸配列をさらに付す請求項1乃至8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記機能性タンパク質が抗体結合性タンパク質である請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドの配列内に制限酵素認識部位をさらに有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含むプラスミド。
【請求項13】
配列番号2に示す塩基配列を含むプラスミド。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のプラスミドにより形質転換された細胞。
【請求項15】
前記細胞は磁性細菌である請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
細胞に対する非特異的な吸着を制御可能なポリペプチドを含む磁性細菌粒子の作製方法であって、請求項12又は13記載のプラスミドを磁性細菌に導入し、該磁性細菌を培養し、合成された磁性細菌粒子を抽出する、の各ステップを含む方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが請求項1乃至11のいずれかに記載のポリペプチドである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のポリペプチドが磁性細菌粒子膜上に発現された磁性細菌粒子。
【請求項19】
請求項18に記載の磁性細菌粒子を用いる該粒子の細胞に対する非特異的吸着を抑制する方法。
【請求項20】
請求項18に記載の磁性細菌粒子を用いる該粒子の分散性を向上する方法。
【請求項21】
請求項18に記載の磁性細菌粒子を用いる細胞の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−178640(P2010−178640A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23064(P2009−23064)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、委託(地域科学技術振興事業委託)事業「バイオナノ磁性ビーズの分子設計技術の開発とがん治療への応用」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】