細胞の培養寿命の延長および培養細胞からのタンパク質収量を増加させるための改良された方法および組成物
細胞培養物の寿命を延長させ、タンパク質(好ましくは抗体、ペプチド、酵素、成長因子、インターロイキン、インターフェロン、ホルモン、およびワクチンなどの組換えタンパク質)の生産増加を可能にするための組成物および方法が開示される。三重突然変異型Bcl−2遺伝子などのアポトーシス阻害遺伝子またはベクターをトランスフェクトした細胞は、培養下で、より長く生存することができ、タンパク質生合成の状態および収量の拡大をもたらす。前記トランスフェクト細胞は、親細胞株によって達成される最大密度に等しいか、それを上回る最大細胞密度を示す。トランスフェクト細胞を無血清培地における成長に前適応させて、無血清培地におけるタンパク質生産を獲得するのに必要な時間を著しく短縮することもできる。特定の方法では、前適応細胞を使って、無血清条件下での形質転換後に、タンパク質生産を行うことができる。本方法では、好ましくは真核細胞、より好ましくは哺乳動物細胞を使用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のさまざまな実施形態は、細胞株の寿命延長および/または細胞株からのタンパク質収量を増加させるための方法および組成物に関する。具体的な実施形態において、細胞株は、抗体または抗体フラグメントを産生するハイブリドーマ細胞株であってもよい。さらに具体的な実施形態において、本方法は、一つ以上の遺伝子(例えばE6、E7および/もしくはBcl−2または関連タンパク質をコードする遺伝子)を細胞株にトランスフェクトすることを含み得る。そのようなタンパク質はそのネイティブ配列に限定されるわけではなく、例えばT69E、S70EおよびS87Eに点突然変異を持つBcl−2などのように、置換されたアミノ酸を一つ以上含んでいてもよい。別の実施形態は、無血清培地中で成長しタンパク質を産生する能力を持つ哺乳動物細胞株に関する。そのような細胞株は、抗体、二重特異性抗体、多価抗体もしくは多重特異性抗体またはそのフラグメントなどの異種タンパク質を発現させる発現ベクターを、その細胞株にトランスフェクトすることによる、タンパク質生産の方法に使用することができる。好ましい実施形態では、その細胞株を無血清培地中でトランスフェクトすることにより、トランスフェクト細胞株を無血清増殖成長および無血清タンパク質生産に適応させる必要を回避して、かなりの時間を節約することができる。
【背景技術】
【0002】
細胞をインビトロで(特に大きなバイオリアクターで)培養することは、数多くのバイオテクノロジー製品を生産する基礎を成している。これは、細胞による培地中へのタンパク質産物の産出を伴い、これらの産物はその培地から単離され、さらに加工された後、臨床的に使用される。培養下で増殖成長する細胞から生産されるタンパク質の量は、例えば細胞密度、細胞周期の位相、そのタンパク質の細胞生合成速度、細胞の生存および成長を支えるために用いられる培地の条件、ならびにその細胞の培養下での寿命(すなわち、それらの細胞がプログラム細胞死またはアポトーシスで死ぬまでの時間)などといった、いくつかの因子に依存する。培養細胞の生存率および寿命を改善する方法は、例えば栄養素、細胞密度、酸素含量および二酸化炭素含量、乳酸デヒドロゲナーゼ、pH、容量オスモル濃度、異化産物などを制御することによって所望するタンパク質の生産性を増加させる方法と共に、種々開発されてきた。例えば、細胞密度を増加させることで、生産性を高めることはできるが、それは培養細胞の寿命を縮めることにもなり得る。そこで、細胞集団ができるだけ長く最も生産的な状態に維持されるように、最大密度に到達した時には培養細胞の増殖速度を低下させることが望まれるだろう。これにより、バイオリアクター周期をその生産ピークにおいて増加または延長させて、所望するタンパク質産物をより長期間産出させることができ、そしてそれは、バイオリアクター周期からの収量を高めることになる。
【0003】
バイオリアクター周期の時間を増加させるために、例えば細胞増殖のための培地を調節すること、一定の成長促進因子を添加すること、ならびにタンパク質合成に影響を及ぼさずに細胞増殖を阻害することなど、多種多様なアプローチが探究されてきた。ある具体的アプローチでは、細胞周期因子に影響を及ぼすための遺伝子またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを使って細胞周期を制御することにより、培養細胞の寿命を増加させることを目指す。この方法では、細胞周期進行を妨げて、いわゆる擬似老化状態(これは、さらなる細胞分裂を遮断し培養細胞のタンパク質合成能力を拡大する)を誘導するベクターをトランスフェクトし、または形質転換し、または感染させることにより、細胞を擬似老化段階へと誘導する。言い換えると、細胞周期阻害剤を発現させるベクターを細胞にトランスフェクトすることにより、擬似老化状態を誘導することができる(Bucciarelli et al.,米国特許出願公開第2002/0160450号A1;WO 02/16590 A2)。後者の方法は、細胞増殖を阻害することにより、GoldsteinとSingalが記述しているように延長された細胞培養寿命を持ち(Exp Cell Res 88,359−64,1974;Brenner et al.,Oncogene 17:199−205,1998)、アポトーシスに対して耐性を持つ(Chang et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,4291−6,2000;Javeland et al.,Oncogene 19,61−8,2000)ことができる状態に、細胞を強制的に陥らせようとするものである。
【0004】
さらにもう一つのアプローチでは、アデノウイルスE1遺伝子のトランスフェクション後に無限増殖性を持つ初代二倍体ヒト細胞またはその誘導体を樹立する。機能的なAd5 E1AおよびE1B遺伝子産物を発現させる新しい細胞株(その一つがPER.C6(ECACC受託番号96022940)である)は、遺伝子治療およびワクチン用ならびに組換え治療タンパク質(例えばヒト成長因子およびヒト抗体)の生産用に設計された組換えアデノウイルスならびに他のウイルス(例えばインフルエンザ、単純ヘルペス、ロタウイルス、麻疹)を産生することができる(Vogels et al.,WO 02/40665 A2)。
【0005】
別のアプローチでは、細胞におけるアポトーシスを防止または遅延させるためのカスパーゼ阻害剤の使用に、焦点が当てられた。例えば米国特許第6,586,206号を参照されたい。さらに別のアプローチでは、細胞におけるアポトーシスを防止または遅延させるために、Bcl−2ファミリーのメンバーなどといったアポトーシス阻害剤を使用することが試みられた。Arden et al.,Bioprocessing Journal,3:23−28(2004)を参照されたい。これらのアプローチは予測不可能な結果をもたらした。例えばある研究では、Bcl−2の発現によって細胞の生存率は増加したが、タンパク質生産は増加しなかった(Tey et al.,Biotechnol.Bioeng.68:31−43,2000参照)。もう一つの例では、CHO細胞におけるアポトーシスを遅延させることを目的とするBcl−2タンパク質の過剰発現が開示されたが、Bcl−xLはタンパク質生産を増加させたものの、Bcl−2はタンパク質生産を減少させた(WO03/083093参照)。さらにもう一つの例では、培養Sp2/0−Ag14細胞(ATCC番号CRL−1581、以下Sp2/0という)の生存を延長するためにBcl−2タンパク質の発現を使用する実験が開示された。しかし、Bcl−2発現クローンの細胞密度は、その親培養物の細胞密度よりも20〜50%低く、生物医薬産業での実用化には懸念が生じた(WO03/040374;U.S.6,964,199参照)。
【0006】
したがって、組換えタンパク質を高レベルに発現させるための改良された宿主細胞および組換えタンパク質生産(特に、宿主細胞における抗体および抗体フラグメント、多重特異性抗体、フラグメントおよび単鎖構築物、ペプチド、酵素、成長因子、ホルモン、インターロイキン、インターフェロン、ならびにワクチンの生産)を確実に増加させるための方法が、当分野において必要とされていることは、明らかである。また、無血清成長および無血清タンパク質生産の前に非常に長い適応期間を経ることなく、無血清条件下で発現ベクターをトランスフェクトし、タンパク質生産に使用することができる、無血清培地または血清枯渇培地中で成長するように前適応させた細胞株も必要とされている。
【発明の開示】
【0007】
したがって、老化を阻害する薬剤または細胞生存を促進する薬剤(例えば抗アポトーシス剤)を細胞中に導入することにより、細胞培養の寿命および/または組換えタンパク質収量を増加させるための改良された宿主細胞および方法を提供することが、本発明の目的である。そのような薬剤の使用は、所望する組換えタンパク質の生産に用いられる培養細胞の寿命および生存率を優先的に増加させると同時に、培養細胞の生産性を増加させ、それによって所望するタンパク質の最適収量を増加させる。好ましくは、本発明の方法で使用されるアポトーシス阻害因子には、Bcl−2およびそのファミリーメンバーが含まれるが、これらに限るわけではない。あるいは、細胞内アポトーシス促進性タンパク質のレベルをダウンレギュレートする因子(例えばp53およびRb)または細胞内抗アポトーシスタンパク質(例えばBcl−2)をアップレギュレートする因子を細胞中に導入することによって、細胞クローンの寿命および組換えタンパク質収量を改良することもできる。
【0008】
好ましくは、本発明の方法で使用される調節剤には、ヒトパピローマウイルス16型(HPV−16)がんタンパク質E6およびE7、抗アポトーシスタンパク質Bcl−2、ならびにその組合わせが含まれるが、これらに限るわけではない。また、本明細書に記載するカスパーゼ阻害剤も、アポトーシスを遮断または減少させ、よって細胞生存を増加させ、前記培養細胞による組換えタンパク質の生産を増加させる一因となり得る。組換えタンパク質の生産を強化するためにこれらの培養物に使用することができる抗アポトーシス剤のさらにもう一つのクラスには、I型サイトカインスーパーファミリーの一定のメンバー、例えばエリスロポエチン(EPO)などが含まれる。EPOは、このクラスのプロトタイプ分子として、赤血球だけでなく、複数の細胞タイプのアポトーシスの主要調整因子であり、それゆえに、例えば内皮細胞、心筋細胞、腎臓の尿細管上皮細胞、皮膚、およびニューロンなどにおいて、より普遍的な細胞保護機能を持つ[P.GhezziおよびM.Brinesによる総説、Cell Death and Defferentiation 11(suppl.1),s37−s44,July 2004を参照のこと]。
【0009】
さまざまな実施形態で、HPV−16のE6、E7および/またはBcl−2などの一つ以上の調節因子をトランスフェクトした細胞株を、無血清培地での成長に前適応させることができる。そのような前適応細胞株、例えばSp/ESF細胞株(下記実施例参照、ただしこれに限るわけではない)は、一つ以上の発現ベクターにより、無血清条件下で、さらなる形質転換を起こすことができ、したがって無血清成長への適応に長い時間を必要とせずに、無血清条件下での発現およびタンパク質生産を可能にすることができる。この驚くべき結果は、無血清条件下または低血清条件下でのタンパク質生産を可能にし、培地コストの著しい節約をもたらす。同時に、標準的な哺乳動物細胞株(これは、血清リッチな条件下でしかトランスフェクション可能でなく、無血清タンパク質生産への適応には、さらに6〜12ヶ月を必要とする)を使った場合に要求される、無血清適応に必要なかなりの時間が、無血清条件下でのトランスフェクションおよびタンパク質生産によって不要になる。
【0010】
本発明は、細胞培養物の寿命を延長し、かつ/または最適化され、所望する組換えタンパク質の収量が増加するような細胞培養条件を作り出すために、例えばトランスフェクションベクター、望ましい性質を持つ細胞クローンのスクリーニングおよび選択、細胞培養培地、成長条件、バイオリアクター構成、ならびに細胞タイプなどといった因子(ただしこれらに限るわけではない)の新規な組合わせを取り入れた細胞培養方法も教示する。これらの細胞培養方法には、懸濁培養法、潅流培養法および半回分培養法が含まれる。Tey et al.,J.Biotechnol.79:147−159(2000);Zhang et al.,J.Chem.Technol.Biotechnol.79:171−181(2004);Zhou et al.,Biotechnol.Bioeng.55:783−792(1997)を参照されたい。
【0011】
別段の定義をしない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、その平易な通常の意味を持つ。また、本明細書で言及する特許および他の参考文献の内容は、参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において、「ある(aまたはan)」は、ある項目について、一つまたはそれ以上を意味し得る。
【0013】
本明細書で使用する用語「および(and)」および「または(or)」は、接続詞または離接的接続詞を意味するために使用され得る。すなわち、どちらの用語も、別段の表示がない限り、「および/または(and/or)」に等価であると理解すべきである。
【0014】
本明細書で使用する用語「約」は±10%を意味する。すなわち「約100」は90〜110の数字を意味する。
【0015】
本明細書にいう抗体とは、完全長の(すなわち天然の、または通常の免疫グロブリン遺伝子フラグメント組換えプロセスによって形成された)免疫グロブリン分子(例えばIgG抗体)または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な(すなわち、特異的に結合する)部分もしくは類似物、例えば抗体フラグメントを指す。
【0016】
抗体フラグメントは、例えばF(ab)2、F(ab’)2、Fab、Fv、sFvなどといった抗体の一部分である。構造がどうであれ、抗体フラグメントは、完全な抗体によって認識される抗原と同じ抗原に結合する。「抗体フラグメント」という用語は、特異的抗原に結合して複合体を形成することによって抗体のように作用する任意の合成タンパク質または遺伝子操作タンパク質も包含する。例えば抗体フラグメントには、可変領域からなる単離されたフラグメント、例えば重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」フラグメント、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とがペプチドリンカーによってつながれている組換え単鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)、および超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識ユニット(CDR)が含まれる。
【0017】
本明細書で使用する抗体融合タンパク質という用語は、同じまたは異なる特異性を持つ二つ以上の同じまたは異なるscFvまたは抗体フラグメントが連結されるように組み換えられて生産された抗原結合分子を指す。融合タンパク質の結合価は、その融合タンパク質が単一の抗原またはエピトープに対して持つ結合アームまたは結合部位の数、すなわち一価、二価、三価または多価を示す。抗体融合タンパク質の多価結合性は、抗原への結合に複数の相互作用を利用することができ、したがってその抗原への結合のアビディティを増加させ得ることを意味する。特異性は、抗体融合タンパク質が結合することのできる抗原またはエピトープの数、すなわち単一特異性、二重特異性、三重特異性、多重特異性を示す。これらの定義を使った場合、天然の抗体、例えばIgGは、二つの結合アームを持つので二価であるが、一つのエピトープに結合するので単一特異性である。単一特異性多価融合タンパク質は、例えば同じ抗原と反応する二つの結合部位を持つダイアボディなど、あるエピトープに対して二つ以上の結合部位を持つが、単一のエピトープにしか結合しない。融合タンパク質は、単一の抗体構成要素を含むか、異なる抗体構成要素の多価的または多重特異性的組合わせを含むか、または同じ抗体構成要素の複数コピーを含み得る。融合タンパク質はさらに、抗体または抗体フラグメントおよび治療剤を含み得る。そのような融合タンパク質に適した治療剤の例には、免疫調整剤(「抗体−免疫調整剤融合タンパク質」)および毒素(「抗体−毒素融合タンパク質」)が含まれる。好ましい毒素の一つは、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、好ましくは組換えRNアーゼを含む。
【0018】
細胞株
本発明のさまざまな実施形態は、宿主細胞株を含む改良された組成物、およびそのような細胞株で組換えタンパク質の強化された生産を行うための方法に関する。一つ以上の抗アポトーシス遺伝子を構成的に発現させ、関心対象のタンパク質またはペプチドをコードする発現構築物をトランスフェクトすることができる細胞株であって、抗アポトーシス遺伝子の発現が培養下でのトランスフェクト細胞の生存を延長し、関心対象のタンパク質またはペプチドの収量を高め得るような細胞株を作出した。
【0019】
特定の実施形態は、回分培養下で強化された生存を示すSp−E26、Sp−EEEおよびSp−ESFと呼ばれる新規細胞株をもたらすSp2/0骨髄腫細胞株の派生細胞株に関する。Sp−E26は、HPV−16のE6タンパク質およびE7タンパク質を構成的に発現させる。Sp−EEEおよびSp−ESFは、Bcl−2−EEEと呼ばれるBcl−2突然変異体を構成的に発現する。さらにまた、Sp−E26、Sp−EEEまたはSp−ESFに関心対象の組換えタンパク質の発現ベクターをトランスフェクトすれば、組換えタンパク質生産、特に組換え抗体および抗体フラグメントの生産を改良することもできる。E6/E7タンパク質またはBcl−2−EEEタンパク質は、宿主細胞におけるアポトーシスの誘導を遅延させ、宿主細胞における強化された組換えタンパク質生産を可能にする。タンパク質生産は、その細胞の成長培地に、一つ以上のカスパーゼ阻害剤(例えばカスパーゼ1および/または3阻害剤)を添加することによって(Bin Yang et al.,Nephron Experimental Nephrology 2004;96:e39−e51)、そして/またはI型サイトカインスーパーファミリーの一つ以上のメンバー、例えばエリスロポエチン(EPO)を添加することによって、さらに増強することができる。これに関して、汎カスパーゼ阻害剤は特に有効である。
【0020】
さらに、Sp−EEE細胞株を、無血清条件下または低血清条件下での成長およびタンパク質生産に前適応させて、Sp−ESFなどの無血清前適応細胞株を生じさせることもできる。Sp−ESFおよび類似の細胞株には、関心対象のタンパク質、例えば抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体などをコードする一つ以上の発現ベクターをトランスフェクトすることができる。トランスフェクションへの無血清条件の使用は、トランスフェクションおよびタンパク質生産に利用することができる哺乳動物細胞株では類を見ないものであり、無血清成長への適応に要するかなりの時間を不要にする。
【0021】
Bcl−2などのアポトーシス阻害因子の同時発現により、宿主細胞における組換えタンパク質、例えば抗体または抗体フラグメントの生産を著しく強化することができる。特に、抗体または抗体フラグメントをコードする発現ベクターを安定にトランスフェクトすると共に、Bcl−2などのアポトーシス阻害因子をコードする発現ベクターをコトランスフェクトしたSp2/0などの骨髄腫細胞株では、タンパク質生産が著しく強化される。増加した抗体生産は、E6/E7遺伝子をトランスフェクトした宿主細胞からも得ることができる。組換えタンパク質生産は、細胞の成長培地に一つ以上のカスパーゼ阻害剤を添加することによって、さらに増強することができる。これに関して、汎カスパーゼ阻害剤は特に有効である。また、組換えタンパク質生産は、細胞培養物の培地にEPOまたは他の抗アポトーシス性サイトカインを供給することによって強化することもできる。
【0022】
アポトーシスと呼ばれる生理的細胞死またはプログラム細胞死(Kerr et al.,Br J Cancer.,26:239−257,1972)は、適正な組織の発生および維持にとって不可欠であり、進化の過程で保存されてきた固有の遺伝的プログラムによって制御される(Ellis et al.,Annu Rev Cell Biol,7,663−698,1991)。そのため、エクスビボ培養物などの人工的環境で細胞が成長する場合は、この遺伝的資質が有限の寿命をもたらす。したがって、医学および産業ならびに研究で用いられるタンパク質の生産にとって、そのような細胞培養物の有用性は、そのような培養物がアポトーシス機構によって死ぬまで、より長い寿命またはサイクルにわたって、そのような培養物を維持することに依存する。
【0023】
細胞周期をアポトーシス作用と区別することにより、細胞増殖イベントおよび細胞死イベントに独立して作用する方法および薬剤が発見されている。アポトーシスの周知の細胞内調節因子であるBcl−2(Vaux et al.,Nature 335,440−2,1988)は、細胞周期進入に対するその阻害的影響とは遺伝的に異なる抗アポトーシス作用を持つことがわかっているがん原遺伝子である(Huang et al.,EMBO J 16,4628−38,1997)。Bcl−2の二つのホモログBcl−xLおよびBcl−wも細胞生存を延長させるが、Bcl−2ファミリーの他のメンバー、例えばBaxおよびBakは、アポトーシス促進性である(Oltvai et al.,Cell 74,609−19,1993;Chittenden et al.,Nature 374,733−6,1995;Farrow et al.,Nature 374,731−3,1995;Kiefer et al.,Nature 374,736−9,1995)。他の抗アポトーシス遺伝子にはBcl−6およびMcl−1が含まれる。
【0024】
このように、Bcl−2とそのファミリーの一定のメンバーはアポトーシスに対する防御作用を持ち、これを、タンパク質の生産に使用される一定の培養宿主細胞の寿命を増加させ、それによって生産、単離されるタンパク質の量を高めるための方法に使用することができる。抗アポトーシス性のBcl−2ファミリーメンバー、例えばBcl−2、BCl−xL、Bcl−w、またはこれらのタンパク質の突然変異体種の過剰発現は、アポトーシスを阻害し、その結果として細胞密度を増加させ、培養物の生存を延長する。そのため、抗アポトーシス性のBcl−2ファミリー遺伝子をトランスフェクトすれば、他の研究者ら(前掲書)が提案しているように細胞周期そのものを妨害することによって細胞培養物を延命する必要は回避される。同様に、Bcl−2遺伝子の線維芽細胞へのトランスフェクションは、これらの細胞におけるBcl−2の過剰発現をもたらし、その結果として、アポトーシスの拮抗作用と細胞の寿命の増加が起こり、それに付随して組換えタンパク質の生産および単離が増加する。インターロイキン−6(IL−6)依存性マウス骨髄腫細胞は、サイトカイン離脱時に、あたかもアポトーシスを起こすかのように死ぬことも観察されている。そのような細胞中のIL−6受容体は、アポトーシスの延期に関して、Bcl−2またはBcl−xLによって調節され得ることも、見出されている(Schwarz et al.,Cancer Res 55:2262−5,1995)。
【0025】
三つの点突然変異(T69E、S70EおよびS87E)を有する突然変異型Bcl−2は、野生型または単一点突然変異体と比較して有意に高い抗アポトーシス活性を示すことが、報告されている(Deng et al.,PNAS(101)153−158,2004)。したがって、さまざまな実施形態が、Bcl−2−EEE三重突然変異体の発現ベクターの構築に関するものであり、その発現ベクターは、改良された寿命および組換えタンパク質生産を示すSp−EEEクローンおよびサブクローンを作出するために、Sp2/0細胞のトランスフェクションに使用された。
【0026】
発がんウイルスなどの他の因子も、例えば高リスク型HPVがんタンパク質E6およびE7など、それらが誘発する細胞不死化および最終的には完全な悪性トランスフォーメーションの一部として、アポトーシスに対抗することができる(Finzer et al.,Cancer Lett 188,15−24,2002)。例えば、ウイルスE6タンパク質は、紫外線に対する表皮のアポトーシス応答を効果的に遮断する(Storey,Trends MoI Med 8,417−21,2002)。間接的な証拠から、ヒトパピローマウイルスが扁平上皮癌におけるアポトーシスの減少を引き起こし得る(ただし基底細胞癌におけるアポトーシスは減少させない)ことも示唆されている(Jackson et al.,Br J Cancer 87,319−23,2002)。しかし、パピローマウイルスがんタンパク質の全てが、抗アポトーシス作用を持つわけではない。例えば別の研究では、ウシ種のパピローマウイルスE6タンパク質はアポトーシスに対する細胞の感受性を高めることが報告されており(Liu et al.,Virology 295,230−7,2002)、これは、HPV−16 E7遺伝子が一定の刺激によって誘導されるアポトーシスからアストロサイトを保護することを示す別の研究とは対照的である(Lee et al.,Yonsei Med J 42,471−9,2001)。E6結合性ペプチドアプタマーの使用により、HPV E6がんタンパク質がHPV陽性腫瘍細胞において抗アポトーシス活性を持つことを示す直接的な実験的証拠が得られた(Butz et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,6693−7,2000)。しかし他のHPVがんタンパク質は反対の作用を持ち得る。E2タンパク質は、他のHPVタンパク質の不在下で、アポトーシスを誘導する(Webster et al.,J Biol Chem 275,87−94,2000)。
【0027】
E6タンパク質とE7タンパク質の両方の持続的発現が、子宮頸がん細胞の最適な増殖には必要であることが知られており、これら二つのウイルスタンパク質は、細胞生存に対して異なる作用を発揮する(DeFilippis et al.,J Virol 77,1551−63,2003)。HPV−16 E6による主要細胞内ターゲットはp53である。E6は、p53および細胞ユビキチンリガーゼE6APと三元複合体を形成して、p53のユビキチン化およびプロテアソーム経路による分解ならびにp53の不活化をもたらす。これに対し、HPV−16 E7タンパク質は、腫瘍抑制タンパク質Rbと相互作用し、それを不安定化する。さらにまた、例えばBcl−2、Bcl−xL、p73、MDM2、p21、サイクリンおよびcdc、cdkタンパク質など、アポトーシス経路および細胞周期経路に関与するさまざまな他の細胞内タンパク質のレベルが、E6およびE7トランスフォーメーションによって調節されると報告された。これらのタンパク質の発現の変化は、細胞の生理学的性質に著しい影響を与えるだろう。そこで本発明者らは、老化培養条件により誘導されるアポトーシスに対して耐性である遺伝子改変クローンを生成させるためにHPV−16 E6およびE7による培養細胞のトランスフェクションは有効であり、その結果として細胞培養物の寿命を延長させることができるだろうという仮説を立てた。HPV−16がんタンパク質E7またはE6の単独での細胞への導入が、老化培養条件により誘導されるアポトーシスに対して改良された耐性を持つ遺伝子改変クローンを生成させるのに十分であるかもしれないとも推測した。細胞が組換えタンパク質産生クローンである場合、生理学的性質の改良は、結果的に、総合的なタンパク質生産性の強化につながるだろう。
【0028】
ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させる新しい宿主細胞の生成
HPV−16 E6タンパク質およびE7タンパク質などのウイルス抗アポトーシス遺伝子を構成的に発現させる骨髄腫宿主細胞などの宿主細胞を生成させることができる。これらの宿主細胞には、関心対象の組換えタンパク質をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることができ、抗アポトーシス遺伝子の同時発現は、著しく増加した組換えタンパク質の生産をもたらす。
【0029】
宿主細胞は、基本的に、ウイルス抗アポトーシス遺伝子で安定に形質転換することができる組換えタンパク質生産に適した任意の宿主細胞であることができる。多くの組換えタンパク質にとっては、CHO細胞およびCOS細胞などの宿主細胞が好都合であり、一方、抗体などの他のタンパク質には、骨髄腫細胞およびCHO細胞などの宿主細胞が一般に好んで選択される。有用な宿主細胞株の他の例は、VERO細胞およびHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、W138、BHK、COS−7、293、HepG2、3T3、NSO、NS1、RINおよびMDCK細胞株である。有用な細胞株は、COS−1(例えばATCC CRL 1650)、COS−7(例えばATCC CRL−1651)、HEK293、BHK21(例えばATCC CRL−10)、P3X3Ag8.653(ATCC CRL−1580)、CHO(例えばATCC CRL 1610)およびBSC−1(例えばATCC CRL−26)細胞株など、商業的供給源から入手することができる。ウイルス遺伝子(例えばE6/E78)および/または真核生物遺伝子は、それらの遺伝子の構成的発現または誘導性発現をもたらす任意の適切な方法によって、すなわち宿主細胞染色体へのそれらの遺伝子の安定な組込みを可能にすると同時にそれらの遺伝子の発現も可能にする任意の方法によって、宿主細胞中に導入することができる。宿主細胞を関心対象の遺伝子で安定に形質転換するための方法は、当分野では周知である。とりわけ好都合な方法は、ウイルス抗アポトーシス遺伝子をコードするレトロウイルスベクターを使用することである。適切なベクターとして、LSXNベクター(Miller et al.,Biotechniques 7,980−90,1989)が挙げられる。しかし、エレクトロポレーションまたは細胞融合など、当分野で知られる任意の代替方法を利用することができる。
【0030】
宿主細胞のトランスフェクションに使用するベクターは、そのベクターを含有する細胞の選択を可能にする選択可能マーカーを含有すると好都合である。トランスフェクト細胞に抗生物質耐性を付与する酵素など、適切な選択マーカーは、当分野では周知である。トランスフェクション後は、抗生物質などの選択剤を含有する培地で細胞を維持し、マーカーに対する耐性についてスクリーニングする。通常の方法を使って、細胞を選択し、限界希釈法でクローニングすることができる。
【0031】
細胞生存率を増加させるウイルス抗アポトーシス遺伝子の能力は、アポトーシスを誘導する薬剤、例えばシクロヘキシミド(CHX)などで、細胞を攻撃することによって、試験することができる。ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させない細胞がアポトーシスの著しい発生を示しがちであるのに対し、それらの遺伝子を発現させる細胞は、激しく低下したアポトーシス活性を示す。アポトーシスを検出する方法は当分野で周知であり、例えば細胞表面FITC−アネキシンV結合アッセイ、DNAラダーリングアッセイおよびTUNELアッセイなどがある。
【0032】
ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させる適切な細胞を選択したら、その細胞に、選択した組換えタンパク質をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることができる。発現ベクターは、一過性発現に適したベクターであるか、好都合には、真核生物複製起点を含有するエピソームベクター、または発現カセットの安定な組込みとそれに続く遺伝子増幅とを可能にする増幅可能ベクターであることができる。適切なベクターは当分野では周知であり、例えば、抗体および抗体フラグメントの生産にとりわけ適しているpdHL2ベクターなどがある。増幅可能な発現カセットを使用する場合、それは、トランスフェクト細胞の選択が可能なように、レトロウイルスベクターに使用する選択可能マーカーとは異なる選択可能マーカーを含有すると好都合である。ここでもまた、適切にトランスフェクトされた細胞を選択し、次に限界希釈法によってクローニングすることができる。
【0033】
適切なクローンを選択したら、所望する関心対象のタンパク質を生産するために、細胞を適切な培地に入れて培養することができる。培地は、血清を含有するか、好ましくは無血清であることができる。また、培養培地に一つ以上のカスパーゼ阻害剤(例えばカスパーゼ1または3)を添加することにより、細胞の寿命およびタンパク質生産を増加させることもできる。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ3、カスパーゼ9および/またはカスパーゼ12の一つ以上を阻害するように作用する。細胞透過性カスパーゼ阻害剤を使用すると好都合であり、汎カスパーゼ阻害剤はとりわけ好都合である。Z−VAD−fmkおよびAc−DEVD−cho(配列番号7)などの適切な阻害剤は、当分野では周知である。あるいは、アポトーシスに影響を与えることによってその成長特性を強化するために、その細胞株をさらにトランスフェクトして、AvenまたはXIAPなどのカスパーゼ阻害剤を発現させることもできる。これに関して、EPOなど、I型サイトカインスーパーファミリーの一定のメンバーも、抗アポトーシス作用および細胞保護作用を持つことにより、細胞生存を増加させることができる。
【0034】
上述の方法により、基本的に任意の所望する遺伝子によるトランスフェクションに使用することができる細胞株が生成する。しかし、所望するタンパク質(特に組換えタンパク質)を構成的に発現させる樹立細胞株に、後から、ウイルスまたはBcl−2ファミリー抗アポトーシス遺伝子をコードする適切なベクターをトランスフェクトしてもよいことは、当業者には理解されるだろう。下記実施例2を参照されたい。
【0035】
関心対象のタンパク質は、宿主細胞において検出可能な量で生産され得る基本的に任意のタンパク質であることができる。例として、従来のIgG型抗体、Fab’、Fab、F(ab’)2もしくはF(ab)2フラグメント、scFv、ダイアボディ、IgG−scFvもしくはFab−scFv融合抗体、IgG−もしくはFab−ペプチド毒素融合タンパク質、またはワクチン[例えば、限定するわけではないが、A型、B型またはC型肝炎;HIV、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ハンターンウイルス、エボラウイルス、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、リーシュマニアRNAウイルス、SARS、マラリア、結核(マイコバクテリア)、炭疽、痘瘡、野兎病、その他、参照によりそのまま本明細書に組み入れられるwww.vaccines.orgに列挙されているもの]が挙げられる。本明細書に記載する宿主細胞は、実施例1および実施例2で述べる骨髄腫細胞における抗体および抗体フラグメント、ならびに組換え成長因子(例えばEPO、G−CSF、GM−CSF、EGF、VEGF、トロンボポエチン)、ホルモン、インターロイキン(例えばIL−1〜IL−31)、インターフェロン(例えばα、β、γ、およびコンセンサス)、ならびに酵素の高効率生産には、とりわけ適している。これらの方法は、他の骨髄腫細胞株、例えばマウスNSOまたはラットYB2/0;上皮株、例えばCHOおよびHEK293;間葉系細胞株、例えば線維芽細胞株COS−1またはCOS−7;およびニューロン細胞、例えば網膜細胞、ならびにグリア細胞およびグリア腫細胞など、組換えタンパク質の生産に用いられるいくつもの細胞株に適用することができるだろう。
【0036】
アポトーシス阻害剤を発現させる細胞における組換え抗体発現
先行の研究では、キメラ抗体を産生する組換えCHO細胞中で天然のアポトーシス阻害剤であるBcl−2を同時発現させることの効果が述べられている(Tey et al.,Biotechnol.Bioeng.68:31−43(2000)参照)。細胞培養寿命の増加は観察されたが、抗体生産は、Bcl−2発現を欠く等価な細胞と比較して増加しなかった。しかし本発明者らは、骨髄腫細胞からの組換え抗体の生産が、その細胞がBcl−2も発現させる場合には、著しく増加することを見出した。
【0037】
骨髄腫細胞株に、抗体または抗体フラグメントをコードする発現カセットを安定にトランスフェクトすると、好都合である。適切な発現カセットは、抗体重鎖および軽鎖(scFvの場合は単鎖)の発現を制御する一つ以上のプロモーターを、上述の選択可能マーカーと共に含有する。とりわけ有用なベクターはpdHL2であり、これは、選択可能マーカー酵素をコードするDNA配列に作動的に連結されたプロモーターを含む選択可能マーカー遺伝子;関心対象のタンパク質をコードするDNA配列に作動的に連結されたプロモーターを持つ転写単位;選択可能マーカー遺伝子と転写単位との間にあって、選択可能マーカー遺伝子と第1転写単位の両方の転写を、第1エンハンサーの非存在下における選択可能マーカー遺伝子と第1転写単位の両方の転写と比較して刺激する、エンハンサーエレメントを含有する。
【0038】
ベクターは、第1エンハンサーと選択可能マーカー遺伝子との間に置かれたプロモーターから構成されるブロッキングエレメントも含有し、これは、選択可能マーカー遺伝子の転写の刺激を選択的に弱めるのに潜在的に役立つ。VH配列およびVL配列は、ヒト軽鎖定常領域、重鎖定常領域、および増幅可能なdhfr遺伝子の配列(それぞれが別々のプロモーターによって制御されるもの)を含有する増幅可能ベクターであるpdHL2に、連結することができる。Leung et al.,Tumor Targeting 2:184,(1996)およびLosman et al.,Cancer 80:2660−2667,(1997)を参照されたい。このベクターは、例えばエレクトロポレーションによって、細胞にトランスフェクトすることができる。選択は、0.1μMまたは適切な濃度のメトトレキサート(MTX)を培養培地に添加することによって行うことができる。増幅は、MTXの濃度を3μMまたはそれ以上まで増加させることで、段階的に行うことができる。したがって、発現カセットを安定にトランスフェクトされると共に、関心対象の抗体を構成的に発現させる細胞を、当分野では周知である方法を使って取得し、特徴づけることができる。下記実施例4も参照されたい。選択およびクローニングの後、次に、抗体発現細胞株には、Bcl−2などの抗アポトーシス遺伝子をコードする発現ベクターを、トランスフェクトすることができる。例えば、SV40プロモーターに融合されたBcl−2遺伝子を含有するベクターpZeoSV(Invitrogen,カリフォルニア州カールズバッド)を、エレクトロポレーションなどの適切な方法を使って、細胞にトランスフェクトし、必要に応じて、選択および遺伝子増幅を行うことができる。
【0039】
あるいは、適切な宿主細胞に、突然変異型Bcl−2遺伝子などのアポトーシス阻害剤をトランスフェクトし、次に無血清培地での成長に適応させてから、所望する関心対象のタンパク質をコードする発現ベクターを、好ましくは無血清培地中で、さらにトランスフェクトすることもできる。その結果生じた細胞株を用いる抗体生産を上述のように行い、アポトーシス阻害剤を発現させない細胞における生産と比較することができる。
【0040】
本発明を例証するために代表的な例を以下に示す。実施例1では、HPV−16 E6/E7をSp2/0細胞に組み入れることにより、アポトーシスが減少/遅延するという特徴を示す改良型細胞クローンSp−E26がもたされることを説明する。実施例2では、HPV−16 E7エレメントのみの過剰発現によって宿主細胞株を改良するための方法を説明する。実施例3では、組換えAbを産生するトランスフェクタントを開発するための宿主としてSp−E26を使用することを説明する。実施例4では、E6/E7エレメントを同時発現させる抗体産生細胞株で観察される、強化されたMab生産を説明する。実施例5では、寿命の改良をもたらす三つの点突然変異を有する突然変異型Bcl−2(Bcl−2−EEE)を構成的に発現させる改変Sp2/0細胞株(Sp−EEEと呼ぶ)の生成および特徴付けを説明する。実施例6では、Bcl−2を発現させる抗体産生細胞株の改良された成長特性を説明する。実施例7では、実施例6のBcl−2発現細胞株に観察される、強化されたMAb生産を説明する。実施例8では、低レベルの組換えタンパク質を産生する細胞クローンを、その細胞にBcl−2発現を導入することによって改良する方法を説明する。実施例9では、Sp−E26を、その細胞にBcl−2発現を導入することによって改良するための方法を説明する。実施例10では、組換えAbを産生するトランスフェクタントを開発するための宿主としてのSp−EEEの使用を説明する。実施例11では、収量を最適化するための半回分式リアクタープロファイルおよび供給スケジュールの使用を説明する。実施例12では、無血清培地における成長およびトランスフェクションが可能なSp−EEEのサブクローンの生成を説明する。
【0041】
本明細書では、当分野で知られるアポトーシス阻害剤をコードする一つ以上の遺伝子をトランスフェクトした細胞株を使って、好ましい実施形態を例示するが、代替実施形態として、コードされるタンパク質がネイティブタンパク質と同じ生理学的機能(抗アポトーシス)を示す限り、そのような遺伝子のコード配列および/または非コード配列に、本願に係る方法および組成物の範囲内で、さまざまな置換、欠失または挿入を加え得ることは、当業者には理解されるだろう。一定の実施形態では、コードされるタンパク質が天然(野生型)タンパク質と80%以上の配列一致度、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは99.5%以上の配列一致度を示し得る。
【0042】
抗体
さまざまな実施形態が、関心対象のトランスフェクト細胞株から発現される抗体および/または抗体フラグメントに関し得る。「抗体」という用語は、本明細書では、抗原結合領域を持つ任意の抗体様分子を指すために使用され、これには、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv(単鎖Fv)などの抗体フラグメントが包含される。抗体に基づく種々の構築物およびフラグメントを製造し使用するための技法は、当分野では周知である。抗体を製造し特徴づけるための手段も、当分野では周知である(例えばHarloweおよびLane,1988,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory参照)。有用な抗体には、数多くのさまざまな公知供給源から市販されているものもある。例えば、さまざまな抗体分泌ハイブリドーマ株を、American Type Culture Collection(ATCC、バージニア州マナッサス)から入手することができる。例えば腫瘍関連抗原など(ただしこれに限らない)のさまざまな疾患ターゲットに対する数多くの抗体がATCCに寄託されており、本願に係る方法および組成物で使用するために入手することができる(例えば以下の米国特許番号を参照されたい:7,060,802;7,056,509;7,049,060;7,045,132;7,041,803;7,041,802;7,041,293;7,038,018;7,037,498;7,012,133;7,001,598;6,998,468;6,994,976;6,994,852;6,989,241;6,974,863;6,965,018;6,964,854;6,962,981;6,962,813;6,956,107;6,951,924;6,949,244;6,946,129;6,943,020;6,939,547;6,921,645;6,921,645;6,921,533;6,919,433;6,919,078;6,916,475;6,905,681;6,899,879;6,893,625;6,887,468;6,887,466;6,884,594;6,881,405;6,878,812;6,875,580;6,872,568;6,867,006;6,864,062;6,861,511;6,861,227;6,861,226;6,838,282;6,835,549;6,835,370;6,824,780;6,824,778;6,812,206;6,793,924;8,783,758;6,770,450;6,767,711;6,764,681;6,764,679;6,743,898;6,733,981;6,730,307;6,720,15;6,716,966;6,709,653;6,693,176;6,692,908;6,689,607;6,689,362;6,689,355;6,682,737;6,682,736;6,682,734;6,673,344;6,652,852;6,635,482;6,630,144;6,610,833;6,610,294;6,605,441;6,605,279;6,596,852;6,592,868;6,576,745;6,572;856;6,566,076;6,562,618;6,545,130;6,544,749;6,534,058;6,528,625;6,528,269;6,521,227;6,518,404;6,511,665;6,491,915;6,488,930;6,482,598;6,482,408;6,479,247;6,468,531;6,468,529;6,465,173;6,461,823;6,458,356;6,455,044;6,455,040;6,451,310;6,444,206;6,441,143;6,432,404;6,432,402;6,419,928;6,413,726;6,406,694;6,403,770;6,403,091;6,395,274;6,383,759;6,383,484;6,376,654;6,372,215;6,359,126;6,355,481;6,355,444;6,355,245;6,355,244;6,346,246;6,344,198;6,340,571;6,340,459(これらの米国特許はそれぞれ、抗体分泌ハイブリドーマ細胞株のATCC受託番号および当該抗体もしくはそのフラグメントの関連ターゲット抗原に関して、参照により本明細書に組み入れられる))。これらは典型例に過ぎず、当分野では他にも多種多様な抗体分泌ハイブリドーマが知られている。選択した関心対象の疾患関連ターゲットに対する抗体についてATCC、PubMedおよび/またはUSPTOデータベースを簡単に検索するだけで、ほとんどどの疾患関連抗原に対する抗体分泌ハイブリドーマでも入手し得ることは、当業者には理解されるだろう。当分野で周知の標準的技法を使って、クローン化抗体の抗原結合ドメインを増幅し、切り出し、発現ベクターに連結し、適応宿主細胞中に形質転換し、タンパク質生産に使用することができる。
【0043】
抗体フラグメントの生産
本願に係る方法および/または組成物のいくつかの実施形態は、抗体フラグメントに関し得る。抗体フラグメントを生産するための典型的な方法は、米国特許第4,036,945号;米国特許第4,331,647号;Nisonoff et al,1960,Arch.Biochem.Biophys.,89:230;Porter,1959,Biochem.J.,73:119;Edelman et al.,1967,METHODS IN ENZYMOLOGY,page 422(Academic Press)、およびColigan et al.(eds.),1991,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(John Wiley & Sons)に開示されている。
【0044】
抗体フラグメントを形成させる他の方法、例えば、一価軽鎖−重鎖フラグメントを形成させるための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または他の酵素的、化学的もしくは遺伝子技法も、そのフラグメントが完全な抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用することができる。例えばFvフラグメントはVH鎖とVL鎖の会合体を含む。この会合は、Inbar et al.,1972,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,69:2659に記述されているように、非共有結合的であることができる。あるいは、可変鎖を分子間ジスルフィド結合によって連結するか、グルタルアルデヒドなどの化学薬品によって架橋してもよい。Sandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照されたい。
【0045】
好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーによってつながれたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドリンカー配列でつながれたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって製造される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、次にその発現ベクターを宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、上記二つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを持つ一本のポリペプチド鎖を合成する。sFvを生産するための方法は当分野では周知である。Whitlow et al.,1991,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:97;Bird et al.,1988,Science,242:423;米国特許第4,946,778号;Pack et al.,1993,Bio/Technology,11:1271、およびSandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照されたい。
【0046】
抗体フラグメントのもう一つの形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使って抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することなどによって製造される。Larrick et al.,1991,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:106;Ritter et al.(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES: PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,pages 166−179(Cambridge University Press);Birch et al.(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND APPLICATIONS,pages 137−185(Wiley−Liss,Inc.)を参照されたい。抗体分泌ハイブリドーマ細胞株が公開されている場合は、抗原結合特異性をコードするCDR配列を入手し、それをキメラ抗体またはヒト化抗体に組み入れて、使用することができる。
【0047】
キメラ抗体およびヒト化抗体
キメラ抗体は、ヒト抗体の可変領域が、例えば、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)を含むマウス抗体の可変領域で置き換えられている組換えタンパク質である。キメラ抗体は、対象に投与された場合に、低下した免疫原性と、増加した安定性とを示す。キメラ抗体を構築するための方法は当分野では周知である(例えばLeung et al.,1994,Hybridoma 13:469)。
【0048】
マウス免疫グロブリンの可変重鎖および可変軽鎖に由来するマウスCDRを、ヒト抗体の対応する可変ドメイン中に移すことにより、キメラモノクローナル抗体をヒト化することができる。キメラモノクローナル抗体中のマウスフレームワーク領域(FR)もヒトFR配列で置き換えられる。ヒト化モノクローナルの安定性および抗原特異性を保存するために、一つ以上のヒトFR残基をマウスの対応する残基で置き換えてもよい。ヒト化モノクローナル抗体は対象の治療的処置に使用することができる。CDR配列の選ばれた修飾によって、ターゲットに対するヒト化抗体のアフィニティを増加させることもできる(WO0029584A1)。ヒト化モノクローナル抗体を生産するための技法は当分野では周知である(例えばJones et al.,1986,Nature,321:522;Riechmann et al.,Nature,1988,332:323;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534;Carter et al.,1992,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,89:4285;Sandhu,Crit.Rev.Biotech.,1992,12:437;Tempest et al.,1991,Biotechnology 9:266;Singer et al.,J.Immunol,1993,150:2844を参照されたい)。
【0049】
別の実施形態は非ヒト霊長類抗体に関し得る。治療的に有用な抗体をヒヒで生じさせるための一般技法は、例えばGoldenberg et al.,WO 91/11465(1991)、およびLosman et al.,Int.J.Cancer 46:310(1990)に見出すことができる。
【0050】
ヒト抗体
コンビナトリアルアプローチまたはヒト免疫グロブリン遺伝子座で形質転換されたトランスジェニック動物を使って完全ヒト抗体を生産するための方法は、当分野では知られている(例えばMancini et al.,2004,New Microbiol.27:315−28;ConradおよびScheller,2005,Comb.Chem.High Throughput Screen.8:117−26;BrekkeおよびLoset,2003,Curr.Opin.Phamacol.3:544−50;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。そのような完全ヒト抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体よりもさらに少ない副作用を示し、インビボでは基本的に内在性ヒト抗体のように機能すると予想される。一定の実施形態において、本願に係る方法および手法は、そのような技法によって生産されるヒト抗体を利用し得る。
【0051】
代替方法の一つでは、ファージディスプレイ技法を使って、ヒト抗体を生成させることができる(例えばDantas−Barbosa et al.,2005,Genet.Mol.Res.4:126−40、これは参照により本明細書に組み入れられる)。ヒト抗体は、正常なヒトから、またはがんなどの特定疾患状態を示すヒトから、生成させることができる(Dantas−Barbosa et al.,2005)。罹患個体からヒト抗体を構築することの利点は、循環抗体レパートリーが疾患関連抗原に対する抗体に偏っている可能性があることである。
【0052】
この方法論に限定されない一例として、Dantas−Barbosa et al.(2005)は、骨肉腫患者からヒトFab抗体フラグメントのファージディスプレイライブラリーを構築した。概説すると、循環血リンパ球から全RNAが得られた(前掲書)。組換えFabがμ鎖、γ鎖およびκ鎖抗体レパートリーからクローニングされ、ファージディスプレイライブラリーに挿入された(前掲書)。重鎖および軽鎖免疫グロブリン配列に対する特異的プライマーを使って、RNAがcDNAに変換され、Fab cDNAライブラリーの作製に使用された(Marks et al.,1991,J.MoI.Biol.222:581−97、これは参照により本明細書に組み入れられる)。ライブラリーの構築は、Andris−Widhopf et al.(2000、Phage Display Laboratory Manual(Barbas et al.(eds.),1st edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)の9.1〜9.22頁、これは参照により本明細書に組み入れられる)に従って行われた。最終Fabフラグメントを制限エンドヌクレアーゼで消化し、バクテリオファージゲノムに挿入することによって、ファージディスプレイライブラリーが作製された。そのようなライブラリーは、当分野で知られる標準的なファージディスプレイ法によってスクリーニングすることができる。この技法は典型例に過ぎず、ファージディスプレイによってヒト抗体または抗体フラグメントを作製しスクリーニングするための既知の方法をどれでも利用し得ることは、当業者には理解されるだろう。
【0053】
もう一つの代替方法として、ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニック動物を使用することにより、基本的に任意の免疫原ターゲットに対する抗体を、標準的な免疫化プロトコールを使って生成させることができる。そのようなシステムの限定でない一例は、Abgenix(カリフォルニア州フリーモント)のXenoMouse(登録商標)(例えば、Green et al.,1999,J.Immunol.Methods 231:11−23、これは参照により本明細書に組み入れられる)である。XenoMouse(登録商標)および類似の動物では、マウス抗体遺伝子が不活化されて、機能的なヒト抗体遺伝子で置き換えられているが、マウス免疫系の残りの部分は完全なまま保たれている。
【0054】
XenoMouse(登録商標)は、可変領域配列の大部分を補助遺伝子および調節配列に沿って含んでいるヒトIgH遺伝子座およびIgκ遺伝子座の一部を含有する生殖細胞系列構成のYAC(酵母人工染色体)で、形質転換された。そのヒト可変領域レパートリーを使って抗体産生B細胞を生成させることができ、それを既知の技術によってハイブリドーマに加工することができる。ターゲット抗原で免疫されたXenoMouse(登録商標)は、通常の免疫応答によってヒト抗体を産生し、それは、上述の標準的技法によって収集および/または生産することができる。さまざまなXenoMouse(登録商標)株を利用することができ、それらはそれぞれが、異なる抗体クラスを産生する能力を持つ。そのようなヒト抗体は、化学的架橋または他の既知の方法論によって、他の分子にカップリングすることができる。トランスジェニックに生産されたヒト抗体は、通常のヒト抗体の薬物動態特性を保ちつつ、治療薬としての可能性を持つことが示されている(Green et al.,1999)。本願に係る組成物および方法がXenoMouse(登録商標)システムの使用に限定されることはなく、ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されている任意のトランスジェニック動物を利用し得ることは、当業者には理解されるだろう。
【実施例1】
【0055】
HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の安定発現によるアポトーシス耐性細胞クローンの生成
CHX処理に耐性な細胞クローンの選択
HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の発現カセットを含有するLXSNレトロウイルスベクターを、10:1のMOI(多重感染度)で、Sp2/0細胞に形質導入した。24時間の回復後に、感染細胞をG418(1000μg/ml)中で10日間選択した。G418耐性細胞を限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により96ウェル細胞培養プレートでクローニングした。安定な感染物を、強力なアポトーシス誘導剤シクロヘキシミド(CHX)による処理に対する耐性についてスクリーニングした。簡単に述べると、健常細胞(生存率>95%、図1CおよびD)を、25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートし、細胞形態を顕微鏡で調べた。2〜3時間のインキュベーション後に50%を超える親Sp2/0細胞が形態変化を起こし、断片化したが(図1A)、いくつかのE6/E7トランスフェクトクローンは形態変化の程度が小さく、アポトーシスに対する耐性を示した。Sp−E26と呼ぶ最良のクローンは、4時間処理しても、明白な形態変化を示さなかった(図1B)。
【0056】
冗長な目視検査を避けるために、MTTアッセイを使って、生存細胞集団における変化にアクセスした。健常細胞を通常の培養条件下にCHXありまたはCHXなしで2〜3時間インキュベートした後、MTT色素をウェルに加えた。さらに2時間インキュベートした後、SDSおよびHClを含有する溶解バッファーを加えることによって、細胞を可溶化した。プレートを37℃で終夜インキュベートし、ELISAプレートリーダーを使って、ODの読み取りを590nmで行った。図2に示すように、Sp2/0細胞をCXHで処理した場合、生存細胞集団は有意に減少した。これに対し、同じ処理条件(CHXの濃度および時間)下で、Sp−E26細胞は、CHX処理に対して、より良く耐えた。この方法により、多数のクローンをスクリーニングし、さらなる分析のために選択することができる(図2)。
【0057】
Sp−E26の抗アポトーシス特性
Sp−E26細胞および親Sp2/0細胞におけるCHX誘導アポトーシスを、アネキシンV染色およびDNA断片化アッセイによって評価した。25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートした後、細胞を収集し、Guavaネキシン試薬で染色し(アネキシンV染色と等価)、Guava Personal Cell Analysisシステム(Guava Technologies)で分析した。図3は、CHX処理に約1.5時間ばく露した場合、30%を上回るSp2/0細胞がアネキシンV陽性になってアポトーシスを示すのに対して、Sp−E26は健常なままで、初期アポトーシス細胞の増加を示さなかったことを表している。
【0058】
CHXによるアポトーシスの誘導は、アポトーシスの特徴である細胞内オリゴヌクレオソームDNAフラグメントの形成を分析することによって明らかにすることができる。CHX処理したおよび無処理のSp−E26細胞およびSp2/0細胞から細胞DNAを抽出し、DNAラダーリングアッセイを行った。CHXで処理したSp2/0細胞では、大規模なDNA断片化が検出された(図4)。これに対し、同一の処理条件で、Sp−E26のゲノムDNAは完全なままであり、DNA断片化の外観を示さなかった(図4)。
【0059】
Sp−E26細胞におけるHPV E6遺伝子およびE7遺伝子の存在
Sp−E26細胞のゲノム中にE6遺伝子およびE7遺伝子が安定に存在することを確認するために、E6遺伝子およびE7遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、Sp−E26から抽出したゲノムDNAをテンプレートとするPCR反応に使用したところ、約700bpのDNAフラグメントが生じた。そのPCR産物をクローニングし、DNA配列決定により、E6遺伝子およびE7遺伝子であることを確認した。E6遺伝子およびE7遺伝子は、親Sp2/0細胞には検出されなかった。
【0060】
Sp−E26の改良された成長特性
Sp−E26の成長特性をTフラスコ(図5)および3L回分式バイオリアクター(図6)で評価した。Sp−E26は、回分培養において親Sp2/0に比べて改良された成長特性を示し、より高い最大細胞密度と、より長い生存期間を達成した。
【実施例2】
【0061】
HPV16 E7遺伝子の安定過剰発現によるアポトーシス耐性細胞クローンの生成
クローンSp−E26のゲノムに組み込まれたポリシストロン性のHPV16 E6遺伝子およびE7遺伝子の構造を、プライマーペアE6−N8+(ATGTTTCAGGACCCACAGGAGCGA;配列番号8)およびE7−C8-(TTATGGTTTCTGAGA ACAGATGGG;配列番号9)を用いるPCRならびにDNA配列決定によって分析した。プライマーE6−N8+およびE7−C8-の配列は、それぞれE6のN末端の8アミノ酸残のコード配列およびE7のC末端の8コドンの相補配列と合致するので、完全長E6およびE7のアンプリコンは、約850bpであると予想される。しかし、E6−N8+およびE7−C8-を使ってSp−E26細胞から調製されたゲノムDNAを増幅したところ、約700bpしかないPCRフラグメントが得られた。この700bp PCR産物をDNA配列決定したところ、182ポリヌクレオチドフラグメントがE6遺伝子から欠失していることが明らかになった。この欠損E6遺伝子は、おそらくスプライシングによって生じたものと思われ、N末端の43アミノ酸残基を持つ切断型E6ペプチドをコードする。E6に起因すると考えられる主な生理学的活性が、p53発現をダウンレギュートするその能力であることを考慮すると、この切断型E6タンパク質はおそらく完全には機能しないだろう。なぜなら、Sp−E26におけるp53の発現レベルは、Sp2/0における発現レベルよりも安定していることがわかったからである。
【0062】
そこで、抗アポトーシス作用を持ち、Sp2/0細胞の成長特性を改良するには、HPV−16 E7遺伝子だけで十分であるかどうかを調べるために、HPV−16 E7によるSp2/0細胞のトランスフェクションを、以下のように行う:
(i)E7をコードするDNA配列をSp−E26細胞からRT−PCRによってクローニングする。哺乳類発現ベクターpRc/CMV(Invitrogen)への遺伝子の連結が容易になるように、適切な制限部位を導入する。E7pRcと名付けたベクター内のウイルス遺伝子の転写は、CMVプロモーター−エンハンサー配列から指示される。このベクターはネオマイシン耐性を付与する遺伝子も含有し、その遺伝子はSV40プロモーターから転写される。
(ii)HPV−16 E7遺伝子の発現カセットを含有する発現ベクターをSp2/0細胞にトランスフェクトする。簡単に述べると、5μgのE7pRcをScaIで線状化し、エレクトロポレーションによって細胞にトランスフェクトする。
(iii)24時間の回復後に、トランスフェクト細胞をG418(1000μg/ml)中で10日間選択する。
(iv)次にG418耐性細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートでクローニングする。安定なトランスフェクタントを選択し、強力なアポトーシス誘導剤であるシクロヘキシミド(CHX)による処理に対する耐性についてスクリーニングする。
(v)健常細胞(生存率>95%)を、25μg/mlのCHXを含有する培地中、またはCHXの非存在下に、通常の培養条件で3〜4時間インキュベートした後、ウェルにMTT色素を添加する。さらに2時間インキュベートしてから、SDSおよびHClを含有する溶解バッファーを加えることにより、細胞を可溶化する。プレートを37℃で終夜インキュベートし、ELISAプレートリーダーを使ってODの読み取りを590nmで行う。CHX処理に対して耐性を示す細胞クローンを選択し、さらなる分析のために拡大する。
(vi)E7−トランスフェクト細胞の抗アポトーシス特性を、アネキシンV染色およびDNA断片化アッセイによって評価する。アネキシンVアッセイでは、25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートしてから、細胞を収集し、Guavaネキシン試薬で染色し(アネキシンV染色と等価)、Guava Personal Cell Analysisシステム(Guava Technologies,Inc.)で分析する。DNA断片化アッセイでは、CHX処理したおよび無処理のE7−トランスフェクタントおよびSp2/0細胞から細胞DNAを抽出し、それをアガロースゲル電気泳動で分析する。
(vii)E7−トランスフェクタントにおけるウイルスがん遺伝子の発現を、サザンブロット(ゲノムレベル)分析、ノーザンブロット(mRNAレベル)分析、およびイムノブロット(タンパク質レベル)分析によって評価する。アポトーシス過程に関与しE7タンパク質による影響を受ける細胞内タンパク質の発現を、イムノブロッティング分析によって調べる。
(viii)選択したE7−トランスフェクタントの成長特性を、Tフラスコおよび3L回分式バイオリアクターで評価する。トランスフェクタントは、回分培養した親Sp2/0と比較して、改良された成長特性を示す。すなわち、より高い最大細胞密度と、より長い生存期間とを達成する。
【実施例3】
【0063】
Sp−E26におけるhLL2 IgGの高レベル発現
この実施例では、NHLおよび自己免疫疾患を持つ患者を処置するために開発されたヒト化抗CD22 AbであるhLL2を産生する細胞クローンを生成させるために、Sp−E26を宿主として使用する。hLL2産生クローン87−2−C9は、Sp2/0細胞を宿主として使用することによって、以前に生成されており(Losman et al.,Cancer 80,2660−2666,1997)、その例では、トランスフェクション後に陽性クローンが一つだけ同定され(約2.5×10-7の頻度)、増幅前のその唯一のhLL2産生クローンの最大生産性(Pmax)(Tフラスコにおける調整終末培養培地中の抗体濃度と定義される)は、1.4mg/Lだった。Losman et al.が記述した手法(Cancer 80,2660−2666,1997)と同様の手法を使って、同じhLL2pdHL2ベクターをSp−E26細胞にトランスフェクトしたところ、200を超える安定なhLL2産生クローンが得られた(頻度>10-4)。ランダムに選択した12個のクローンのPmaxを評価したところ、13〜170mg/L(平均50mg/L)の範囲にあることが分かった。これらのクローンの生産性は、MTXを使った遺伝子増幅によって、さらに強化することができる。この実施例により、組換えタンパク質を産生する細胞クローンを開発するための宿主としてSp−E26を使用することの(その親Sp2/0細胞と比較した場合の)利点が実証された。
【実施例4】
【0064】
HPV16 E6遺伝子およびE7遺伝子の安定発現によるAb産生細胞株の改良
607−3u−8細胞は、もともと、ヒト化モノクローナルAbを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成された細胞である。このクローンは、遺伝子増幅(MTXを使用)およびサブクローニングによって開発されものであり、最大(Ab)生産性は150mg/Lまで強化されたが、培養培地への血清添加を断つと約100mg/Lに低下した。無血清条件下でより高い抗体生産性を得るために、HPV−16のE6/E7遺伝子を607−3u−8細胞に導入し、Ab生産性に対するE6/E7の作用を以下のように評価した。
【0065】
10%FBSおよび3μM MTXを添加したHSFMで維持した607−3u−8細胞に、HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の発現カセットを含有するLXSNレトロウイルスベクターを、10:1のMOIで形質導入した。24時間回復させた後、安定にトランスフェクトされた細胞をG418(400μg/ml)中で10日間選択した。G418耐性細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートでサブクローニングした。生き残ったクローン(607E1C12と命名)を評価のために得た。E6/E7トランスフェクションを伴わない607−3u−8−7G7および607−3u−8−2D10と名付けた607−3u−8の二つのサブクローンも選択した。これら三つのクローンのPmaxを決定したところ、有意差はなかった(表1)。
【0066】
これらの結果は、この細胞にE6/E7遺伝子を導入しても、Abを産生する細胞の能力は変化しないことを示唆している。次に、607E1C12、607−3u−8−7G7および607−3u−8−2D10を無血清培地中で成長するように適応させ、これらのクローンの生産性を決定した。全ての細胞が無血清培地でよく成長していた。クローン607E1C12の最終抗体生産性は150mg/Lに維持されたが、E6/E7を持たない二つのクローンはかなり減少した。また、607E1C12の生産性は、凍結(冷凍保存のため)と融解サイクルの後も、安定だった(表1)。
【0067】
【表1】
【実施例5】
【0068】
突然変異型Bcl−2を構成的に発現させる遺伝子改変Sp2/0細胞株の生成および特徴付け
三つの点突然変異(T69E、S70EおよびS87E)を有する突然変異型Bcl−2は、野生型および単一点突然変異体と比較して、有意に高い抗アポトーシス活性を示すことを、証拠が示唆している(Deng et al.,PNAS 101:153−158,2004)。そこで、この三重突然変異体(Bcl−2−EEEと呼ぶ)の発現ベクターを構築し、それを使って、(特にバイオリアクターにおける)生存および生産性を増加させるために、Sp2/0細胞のトランスフェクションを行った。クローンを単離し、Bcl−2−EEE発現レベル、成長およびアポトーシス特性について評価した。Bcl−2−EEEの核酸配列を配列番号3に示し、Bcl−2−EEEタンパク質の対応するアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0069】
ヒトBcl−2のアミノ酸残基64〜101のコード配列に基づいて、116bpの合成DNA二重鎖を設計した。残基69、70および87のコドンを全て、グルタミン酸(E)のコドンに変えた。この配列全体は並外れてGCリッチであり、数多くのポリG区間およびポリC区間を持っていた。いくつかのコドンに保存的置換を施して、GおよびCの連続を中断させ、全体のGC含量を減少させた。
【0070】
合わせると上記116bp配列をまたぎ、3’末端の22bp分が重複している、二つの80マーオリゴヌクレオチドを合成した(配列番号5および配列番号6を参照されたい)。これらのオリゴヌクレオチドをアニールさせ、Taq DNAポリメラーゼを用いるプライマー伸長によって二重鎖DNAを生成させた。その二重鎖を、PCRプライマーBcl−2−EEE PCR Left(TATATGGACCCGGTCGCCAGAGAAG;配列番号10)およびBcl−2−EEE PCR Right(TTAATCGCCGGCCTGGCGGAGGGTC;配列番号11)を使って、増幅した。
【0071】
次に、その126bpアンプリマーをpGemT PCRクローニングベクターにクローニングした。Bcl−2−EEE−pGemTをTthI制限エンドヌクレアーゼおよびNgoMI制限エンドヌクレアーゼで消化し、105bpフラグメントをゲル単離し、TthIおよびMgoMIで消化したhBcl−2−puc19ベクター(ATCC 79804)と連結することにより、hBcl−2(EEE)−puc19を生成させた。この構築物の配列を確認した。
【0072】
948bpのインサートフラグメントをhBcl−2(EEE)−puc19からEcoRIで切り出し、EcoRIで消化しアルカリホスファターゼで処理したpZeoSV2+ベクターと連結した。その結果得られた構築物がhBcl−2(EEE)−pZeoSV2+である。
【0073】
次に、Sp2/0細胞(5.6×106)に60μgのhBcl−2(EEE)−pZeoSV2+を、エレクトロポレーションにより、Sp2/0細胞用の標準的プロトコールに従ってトランスフェクトした。細胞を6枚の96ウェルプレートにプレーティングし、それを選択なしで48時間インキュベートした。2日後に、800μg/mlのゼオシンを培地に加えた。
【0074】
40ウェルからの細胞を24ウェルプレートに拡大し、ウェスタンブロットにより、抗hBcl−2および抗βアクチンを使って分析した。40ウェルのうち5ウェルを除く全てが、中〜高レベルのBcl−2−EEE発現を示した。4枚のゲルのうち1枚について、結果を図7に示す。野生型Bcl−2が前もってトランスフェクトされているSp2/0由来のhMN14細胞株(クローン664.B4)を、陽性対照(+)として使用した。Dengらによって実証されたように、Bcl−2−EEEはSDS−PAGEで野生型Bcl−2よりもわずかに遅く移動する。
【0075】
三つの強く陽性なウェル(#7、#25および#87)をさらなる評価とサブクローニングのために選択した。限界希釈プレーティングにより、1枚の96ウェルプレートにつき20未満の陽性ウェルを得たことから、個々のウェル中の細胞が実際にクローニングされている可能性は極めて高い(>99%)ことが示された。まず、もとの3ウェルから得た23のサブクローンを、抗hBcl−2−PEを使って、Guava Expressで分析した(図8)。その結果、元のウェルは混合された細胞クローンを含有していることが確認された。ウェル#7は最も強いシグナルを持つクローンをもたらし、ウェル#25は最も低いシグナルを持つクローンを含んでいた。クローン7−12、7−16、87−2および87−10をさらなる分析のために拡大した。次に、初期の成長速度が遅いいくつかのサブクローンを同様に分析したところ、一つのクローン87−29が、他のどのクローンよりも20%高いシグナルを与えたので、それを、さらなる分析のために拡大した。
【0076】
二つの高発現SP−EEEクローン(87−29および7−16)を非トランスフェクトSp2/0、RajiおよびDaudi細胞と比較した(図9)。Sp−EEEクローンは、Raji細胞およびDauji細胞(これらはどちらもおそらく正常細胞レベルのBcl−2を発現させることが知られている)より約20倍高く発現させる。Sp2/0細胞は陰性だった。このことは、抗Bcl−2イムノブロットによって、さらに実証された(図10)。Bcl−2は、ヒトBcl−2特異的抗体では、タンパク質負荷量を多くし(50K細胞)、X線フィルムを長く露光しても、Sp2/0細胞中に検出されなかった。マウス、ラットおよびヒトBcl−2を認識する抗Bcl−2 MAb(C−2、Santa Cruz Biotech)によるイムノブロット分析では、タンパク質負荷量を多くし(100K細胞)、X線フィルムを長く露光しても、非トランスフェクトSp2/0細胞からBcl−2は検出されなかった(図10B)。Sp2/0細胞中で発現されるBcl−2があるとすれば、それは、クローン87−29におけるBcl−2−EEEよりも2桁以上の低いレベルである。
【0077】
五つのSp−EEEサブクローンおよびSp2/0細胞について成長曲線を比較した。三つのSp−EEEサブクローンは、Sp2/0細胞に対して明確な優位性を示した。これらの三つ(7−12、7−16および87−29)は、最も高レベルのBcl−2−EEEも発現させる。7−12および7−16は、同じもとのウェルに由来し、ほぼ同一の性質(Bcl−2−EEEレベルおよび成長曲線)を持つので、これらはおそらく同じ発端クローンから派生したのだろう。最もよい二つのSP−EEEサブクローン7−16および87−29をさらなる評価に使用した。
【0078】
10%、1%または0%血清を添加した培地にクローンをプレーティングし(前適応ステップなし)、細胞密度および生存率を監視した。10%血清では、87−29は高密度まで成長し、Sp2/0細胞と比較して生存は4日以上増加した(図11)。1%血清では、全ての細胞が10%血清で達成された密度の約35〜40%まで成長し、Bcl−2−EEEトランスフェクタントはSp2/0に対して生存面で類似の優位性を持っていた(図12)。無血清培地に直接移すと、Sp2/0細胞は600K細胞/mlまでしか成長しなかったが、87−29細胞は2倍高い密度まで成長した(図13)。各血清濃度において、87−29細胞はSp2/0細胞より4〜6日間長く生存した。
【0079】
メトトレキサート(MTX)感受性を87−29について決定した(図14)。このデータは、MTX耐性クローンの初期選択には、0.04μMという最小MTX濃度で十分であることを示唆している。したがって、Sp2/0細胞に用いられるものと同じ選択および増幅プロトコールを、Sp−EEE細胞にも使用することができる。
【0080】
Bcl−2は生存促進/抗アポトーシスタンパク質である。フレキシブルループドメイン(FLD)を欠くBcl−2欠失突然変異体が強化されたアポトーシス阻害能力を持つことは、数グループによって実証されている(Figueroa et al.,2001,Biotechnology and Bioengineering,73,211−222;Chang et al.,1997,EMBO J.,16,968−977)。さらに最近になって、Bcl−2のFLD中の1〜3個のS/T残基がグルタミン酸に突然変異すると(これはリン酸化を模倣している)、その抗アポトーシス能力は著しく強化されることが、実証された(Deng et al.,2004,PNAS,101,153−158)。三重突然変異体(T69E、S70EおよびS87E)は、最も著しい生存強化をもたらした。ここでは、類似のBcl−2三重突然変異体構築物(Bcl−2−EEE)を使って、Sp2/0細胞を安定にトランスフェクトした。
【0081】
上述の実験は全て、Bcl−2−EEEの発現がSp2/0細胞におけるアポトーシス速度を低下させることを実証している。発現レベルが高いクローンは低レベルのクローンより長く生きたので、この作用はおおむね用量依存的だった。最も良いクローン87−29は、非トランスフェクトSp2/0細胞と比較して、15〜20%高い細胞密度まで成長し、4〜6日間長く生存する。
【0082】
クローン(87−29)中のBcl−2−EEEレベルは、Daudi細胞またはRaji細胞における正常レベルより、約20倍高い。非トランスフェクトSp2/0細胞ではBcl−2発現は検出されなかった。実施例6で述べるように、hMN−14発現Sp2/0細胞に、野生型Bcl−2を発現させるための類似の構築物をトランスフェクトし、並外れた成長特性と強化された生産性とを持つクローンを単離した。このクローン(664.B4)をMTXでさらに増幅させたところ、Bcl−2レベルは著しく増加した。最後に、増幅された(3μM MTX)細胞株をサブクローニングしたところ、あるクローン(664.B4.1C1)のBcl−2レベルは、664.B4より2倍高かった。この特定サブクローンは、優れた生産性および成長特性を持つ。87−29におけるBcl−2−EEEレベルは、増幅された664.B4.1C1中のBcl−2レベルより、約2倍高い。87−29細胞は、Sp2/0細胞の成長速度に匹敵する成長速度を持ち、Sp2/0と比較して、見かけ上、一日は余分に成長を続けることができ、15〜20%高い最大密度に到達することができる。類似する性質が、E6/E7発現Sp−E26細胞株でも見出された。親Sp2/0細胞よりも4〜6日長く生存するBcl−2−EEE発現87−29クローンは、1日しか余分に生存しないSp−E26クローンより優れている。
【0083】
87−29クローンに代表されるSp−EEE細胞株は、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する適切なベクターによるトランスフェクション時にその組換えタンパク質を発現させるためのアポトーシス耐性宿主として有用である。この細胞株が有用であるためには、それが、トランスフェクションおよび増幅後ならびに延長された培養中に、そのBcl−2−EEE発現および生存面の優位性を維持しなければならない。安定にトランスフェクトされたBcl−2−EEE遺伝子がその後のトランスフェクション中に失われることはなさそうであるから、生存特性は減少しないはずである。MTX増幅は、Bcl−2タンパク質の発現を増加させることによって、産生クローンの生存をさらに改良し得ると考えられる。実際、野生型Bcl−2をトランスフェクトしたhMN−14 664.B4細胞株の場合は、これが当てはまった。増幅およびサブクローニング後に、Bcl−2レベルは数倍増加し、細胞生存は著しく改良された。
【0084】
最終Sp/EEEクローン(#87−29)は、親Sp2/0細胞に匹敵する成長速度を持つ。しかし、Sp/EEE 87−29細胞は、Sp2/0と比較して、1日は余分に成長し続け、15〜20%高い最大密度に到達し、4〜6日は余分な生存を示す。さらに、Sp/EEE細胞株は、血清欠乏に対して、Sp2/0細胞よりもかなり耐性が高かった。
【実施例6】
【0085】
ヒトBcl−2遺伝子の安定発現による静置回分培養におけるAb産生細胞生存の改良
Bcl−2−トランスフェクト細胞クローンの生成
細胞クローン665.2B9は、もともと、ヒト化モノクローナル抗CEA Abを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成させた細胞である(Qu et al.,未公表の結果)。hMN14pdHL2と呼ばれるベクターを使ってSp2/0細胞をトランスフェクトすることにより、細胞クローン665.2B9が得られた。pdHL2ベクターはGilliesらが初めて記述したベクターであり、メトトレキサート処理による後続の選択および増幅を可能にする増幅可能なマウスdhfr遺伝子を持っていた(Gillies et al.,J.Immunol.Methods 125:191(1989))。一般に、pdHL2ベクターは、二つのメタロチオニン(metallothionine)プロモーターとIgHエンハンサーとによって独立して制御されるIgG重鎖および軽鎖遺伝子の両方の発現をもたらす。hMN14pdHL2ベクターの図解を図16に示す。配列番号1はこのベクターの配列を表し、配列番号2はエンハンサー配列と定義される72bp配列を表す。プロモーター配列はhMN14pdHL2のnt2908〜2979に相当する。
【0086】
一般に、Sp2/0細胞には、この例で使用するhMN14pdHL2ベクターなどの線状化pdHL2ベクターを、エレクトロポレーションによってトランスフェクトすることができる。選択は、トランスフェクションの48時間後に、0.05〜0.1μM MTXを含有する培地と共に細胞をインキュベートすることによって開始することができる。挿入された抗体配列の増幅は、MTX濃度を5μMまで段階的に増加させることによって達成される。
【0087】
クローンを、MTXを0.3μMまで段階的に増加させる遺伝子増幅にかけたところ、この時点で、抗体の最大生産性(Pmax)は約100mg/Lまで増加した。細胞成長特性を改良するために、665.2B9細胞に、ヒトBcl−2遺伝子を含有するプラスミド発現ベクター(図17)を、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。ATCCから購入したpB4プラスミド(pB4、カタログ番号79804)からEcoRI部位を使ってBcl−2遺伝子を切り出し、哺乳類発現ベクターpZeoSV(+)のMCSに同じ制限酵素を使って挿入した。ゼオシン耐性遺伝子がこのベクターの一部であるため、50〜300μg/mLの範囲のゼオシンを含有する培地に、トランスフェクト細胞を入れた。300mg/mlゼオシンを含有する培地から安定なクローンを選択し、0.5細胞/100μL/ウェルの密度で96ウェルプレートにプレーティングすることにより、ゼオシンを含まない培地でサブクローニングした。その後はゼオシンを含まない培地を使用した。
【0088】
ウェルにおけるクローンの形成を、顕微鏡下の目視観察によって確認した。細胞クラスターを一つだけ含むウェルの細胞を拡大した。各96ウェルプレートが約30クローンをもたらし、そのうちの14クローンをさらなる研究のためにランダムに選択した。これらのクローンの成長特徴を、ViaCount試薬およびGuava PCAを用いる毎日の細胞計数および生存率測定によって評価した。24ウェルプレートで評価した14クローン(図18、19)から、改良された成長特徴(より高い細胞密度および延長された細胞生存)を示すBcl−2−トランスフェクトクローンを一つ同定し、665.2B9#4(またはクローン#4)と名付けた。親665.2B9と比較すると、クローン#4は、Tフラスコ中で、より高い細胞密度(約1.7倍)まで成長すると共に4〜6日間長く生存し(図20、21)、より良い成長の結果として、クローン#4のPmaxは、ELISAタイトレーションおよびプロテインAカラム精製による決定で約170mg/Lまで増加した。
【0089】
665.2B9#4におけるBcl−2発現
665.2B9#4の改良された成長特性がBcl−2のトランスフェクションによってもたらされたことを確認するために、Guava Express試薬およびGuava PCA計測器を使って、ヒトBcl−2タンパク質の細胞内レベルを測定した。簡単に述べると、1.5ml遠心管に入れた4×105細胞を1500rpmで5分間遠心分離し、1×PBSで3回洗浄した。上清を注意深く吸引した。Santa Cruz Biotechnology(SCB),Inc.の固定溶液(10×、60μL)(カタログ番号sc−3622)を細胞ペレットに15分間加え、氷上でインキュベートした。固定溶液を、4℃のPBS 4×1mLで、毎回上述のように遠心することによって除去した。
【0090】
−20℃の透過処理バッファー(0.5mL)(SCBカタログ番号sc−3623)を、ボルテックスしながら滴下した後、15分間氷上でインキュベートした。次に細胞を遠心し、0.5mLのFCM洗浄バッファー(SCBカタログ番号sc−3624)で2回洗浄した。最終細胞ペレットを100μLのFCM洗浄バッファーに再懸濁し、Bcl−2細胞内タンパク質について、PEにコンジュゲートした抗Bcl−2マウスモノクローナル抗体(SCBから入手)10μLで染色した。インキュベーションは暗所、室温で1時間行った。次に0.5mLのFCM洗浄バッファーによる洗浄を2回行った。最終細胞ペレットを0.4mLのFCM洗浄バッファーで再懸濁し、細胞をGuava PCで分析した。各クローンの蛍光強度の平均値(MFI)を、PEとコンジュゲートした非特異的アイソタイプマウスIgGIによる対照染色と比較した。表2に要約する結果は、クローン665.2B9#4が親細胞株より高レベルのBcl−2を発現させることを裏付けている。親665.2B9と類似する成長プロファイルを示すゼオシン耐性クローン(#13)は、Bcl−2染色に関して陰性であったことから、この成長の改良にはBcl−2発現が必要であることが確認された。
【0091】
【表2】
【0092】
Guava Express分析により、Bcl−2レベルに対応する蛍光染色の強度は、クローン665.2B9#4のMTX増幅と共に上昇することが分かったことから、Bcl−2とdhfr遺伝子との同時増幅が示唆された。増幅細胞の細胞内Bcl−2レベルを比較するために、ウェスタンブロッティング分析を、クローン665.2B9#4(Bcl−2陽性)およびクローン#13(Bcl−2陰性)の細胞溶解物に対して、抗ヒトBcl−2抗体を使って行った。デンシトメトリー評価により、1.0μM MTX中で成長するクローン665.2B9#4のBcl−2シグナルは、0.6μM MTX中の細胞よりも2倍強いことがわかった。クローン#13の溶解物は、Bcl−2タンパク質の存在を示さなかった(図22)。
【実施例7】
【0093】
回分培養条件下でのクローン665.2B9#4の改良されたAb生産
終末期近くの細胞培養物における栄養素消費を監視することにより、グルコースおよびL−グルタミンが消費される最初の構成要素であることがわかった。これらの制限栄養素の添加が最終抗体収量を改善するかどうかを決定するための実験を行った。2タイプの培養を開始した。すなわち、補給半回分法(この場合はこれらの制限構成要素が消費された時に栄養素を添加した)と、無供給回分法(栄養素の添加なし)である。試験したのは、0.6μMおよび1μMのMTXを含有する培地で成長するBcl−2陽性クローン665.2B9#4、ならびに0.3μM MTX中で成長するBcl−2陰性クローン#13である。図23および図24に、終末段階に到達するまでの、両培養タイプにおける細胞生存率および細胞密度のプロファイルを示す。mg/Lで表したタンパク質収量を表3に示す。この実験の結果は、栄養素の補給により、生産される抗体の総収量が、全ての培養物で約2倍改良されることを示唆している。
【0094】
【表3】
【実施例8】
【0095】
低レベルの組換えタンパク質を産生する細胞株へのBcl−2遺伝子の導入
細胞クローン482.2C4Aは、もともと、IgG(抗CEA)およびそれぞれがIgG重鎖のC末端に共有結合されている二つのscFv(抗DTPA)(Leung et al.,J.Nuc.Med.41:270P,2000;Hayes et al.,Proc.Am.Asso.Cancer.Res.43:969,2002)という形態をした二重特異性Abを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成させた細胞である。このクローンは遺伝子増幅にかけられ、約20mg/Lの最終生産性を持っていた。成長特性を改良し、最終的にはAb生産性を改良するために、482.2C4A細胞に、ヒトBcl−2遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターを、実施例6に記載するように、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。3週間後に、750μg/mlのゼオシンを含有する培地で、トランスフェクタントを選択した。
【0096】
アポトーシス感受性細胞を排除するために、ゼオシン耐性細胞を25μg/mlのCHXで5時間処理した。処理した細胞を新しい培養培地で2回洗浄してCHXを除去し、新しい成長培地に再懸濁した。24時間回復させた後、生存細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートにクローニングした。クローンは2週間でウェルに出現し、それらをAb産生、CHX誘導アポトーシスに対する耐性、および成長プロファイルについてスクリーニングした。全ての面で親482.2C4Aより成績の良いクローンを選択し、さらに特徴づける。最も成績の良いクローンは、親482.2C4A細胞と比較して、ストレス条件下で成長させた時に、より頑強であり、老化培養条件誘導アポトーシスに抵抗し、より高い最大Ab生産性(約150%以上)を持つと予想される。
【実施例9】
【0097】
細胞成長特性をさらに改良するためのSp−E26へのBcl−2遺伝子の導入
Sp−E26細胞に、実施例5で述べたヒトBcl−2−EEE遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターを、エレクトロポレーションによってトランスフェクトする。3週間後に、500μg/mlのゼオシンを含有する培地で、トランスフェクタントを選択する。
【0098】
アポトーシス感受性細胞を排除するために、ゼオシン耐性細胞を25μg/mlのCHXで5時間処理する。処理した細胞を新しい培養培地で2回洗浄してCHXを除去し、新しい成長培地に再懸濁する。24時間回復させた後、生存細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートにクローニングする。クローンは2週間でウェルに出現し、それらをCHX誘導アポトーシスに対する耐性および成長プロファイルについてスクリーニングする。全ての面で親Sp−E26およびSp−EEEより成績の良いクローンを選択し、さらに特徴づける。HPV−16 E6/E7およびBcl−2−EEEを含有する最も成績の良いクローンは、親Sp−E26およびSp/EEE細胞よりも、ストレス条件下で成長させた時に頑強であり、老化培養条件誘導アポトーシスに対して耐性であると予想され、それゆえに、組換えタンパク質生産にとって、より良い宿主細胞である。
【実施例10】
【0099】
Sp−EEE細胞株による組換えタンパク質の改良された生産
組換えタンパク質を生産するために生存が強化されている細胞株を開発する場合にとり得る経路が二つある。実施例6で述べたように極めてうまく成し遂げられた一方法では、既に産生している細胞株に、Bcl−2などの生存促進遺伝子を安定にトランスフェクトする。しかしこの方法には、追加のトランスフェクションステップ、選択ステップおよびクローニングステップが必要であり、これにより、細胞株開発プロセスが少なくとも2ヶ月は長くなり、もしかするとそれよりはるかに長くなるかもしれない。さらにまた、成長/生存、Bcl−2発現レベルおよび生産性を含むいくつかのパラメータを決定する必要があるので、「最良」のクローンをスクリーニングする必要もある。したがって少数のクローンしか評価することができない。最も高い生産性を持つクローンが優れた生存性を持たないことは十分にあり得ることであり、その逆も同様である。ここで使用する代替方法は、優れた成長特性および生存特性を持つ親細胞株を開発し、その後に、その細胞株に、所望するタンパク質を生産するための発現ベクターをトランスフェクトすることである。
【0100】
Sp2/0細胞と比較すると、Sp−EEE細胞は一日長く成長し続け、15〜20%高い最大密度に到達し、培養下で4〜6日長く生存する。細胞は、組換えタンパク質、例えばIgG、抗体フラグメントおよび融合タンパク質、成長因子、例えばG−CSF、GM−CFS、EPO、EGF、VEGF、サイトカイン、例えばインターロイキンフェミリーメンバー(IL−1〜IL−31)、またはインターフェロンファミリーメンバー(例えばα、βまたはγインターフェロン)、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ホルモン、酵素、またはワクチン(例えばA型、B型またはC型肝炎、ならびに上述した他のワクチン)を生産するための遺伝子を、後からトランスフェクトしても、その強化された成長特性および生存特性を保つ。
【0101】
IgGなどの組換えタンパク質のための発現カセットを一つ以上含有するpdHL2などのDNAベクターを使って、エレクトロポレーションなどの標準的方法によって、Sp−EEE細胞をトランスフェクトする。トランスフェクタントを96ウェルプレートにプレーティングし、ELISAまたはBiacoreなどの確立された技法により、クローンをタンパク質産生について分析する。産生クローンを、培養培地中のMTXに、その濃度を数ヶ月かけて増加させながら曝すことにより、遺伝子コピー数を増幅する。Bcl−2−EEE発現クローンは、Bcl−2陰性Sp2/0細胞で生成させたクローンと比較して、約20%高い細胞密度まで成長し、少なくとも4日間は長く生存するので、前者は標準的フラスコまたはローラーボトル培養において少なくとも20%多い組換えタンパク質を産生するだろう。懸濁培養、灌流培養または半回分式バイオリアクター培養では、さらに高い増加が実現される。
【実施例11】
【0102】
バイオリアクターにおけるBcl−2トランスフェクトクローン665.B4.1C1の改良されたAb生産
実施例6の665.2B9#4と親クローン665.2B9をどちらも無血清培地に前適応させた。細胞を、Tフラスコで数ヶ月間、連続継代培養することにより、3μM MTXを含有するハイブリドーマ無血清培地(HSFM)の特別仕様の製剤(Immunomedics PN 10070)に適応させた。適応した細胞を、バンキングのために、Tフラスコからローラーボトルにスケールアップした。45%調整培地(指数増殖期にある培養物の遠心分離後に上清として集めた培地)、10%DMSOおよび45%HSFMから構成されるFBSフリー冷凍保存溶液を使って、各1mLバイアル中に1×107個の生存細胞を含むマスター細胞バンク(MCB)を、各細胞株について作製した。MCB細胞株を、それぞれ665.2B9.1E4(Bcl−2遺伝子なし)および665.B4.1C1(Bcl−2遺伝子あり)と名付けた。これら二つのクローンの成長特性および抗体産生を回分培養条件で比較した。
【0103】
実験は、MCBから拡大した上記の細胞を使って、3Lベンチスケールバイオリアクターで行った。3Lバイオリアクターシステムは、2500L cGMPバイオリアクターシステムのスケールダウンモデルである。したがって、評価結果は、大規模商業生産へのこれらの細胞株の適合性を裏付けるだろう。
【0104】
MCBを作製する際に使用したものと同じ成長HSFM(Immunomedics PN 10070)を使って、細胞株を維持し、接種物を調製した。3L半回分式バイオリアクタープロセスには、特別仕様の変更を加えた成長HSFMに基づく特別仕様の製剤である基礎HSFM(Immunomedics PN 10194)を使用した。どちらの培地も唯一の微量タンパク質としてインスリンおよびトランスフェリンを含有する。撹拌および曝気によって起こる剪断から細胞を保護するために、さらに0.1%のプルロニックF68を製剤に組み入れた。この培地は3μM MTXも含有した。
【0105】
連続供給溶液およびパルス供給溶液の具体的特徴を以下の表4および表5に示す。
【表4】
【表5】
【0106】
半回分実験は、3L Bellcoスピナーフラスコバイオリアクターシステム(Bellco glasses、ニュージーランド州バインランド)で、作業体積を2Lとして行った。バイオリアクターの温度、pHおよび溶存酸素(DO)を監視し、シングルループコントローラで制御した。リアクター温度は加熱ブランケットで37℃に制御した。培養pHはCO2または6%Na2CO3の添加によって7.3に制御した。曝気は、円柱状シンタードスパージャー(cylindrical sintered sparger)により、10ml/分で行った。DOは、培地へのO2の間欠的散布により、40%を上回る空気飽和度に制御した。培養中は常に約50〜60rpmの一定撹拌速度を使用した。
【0107】
MCBからの凍結バイアルを融解し、Tフラスコ中で約1〜2週間回復させた。次に、細胞をTフラスコからローラーボトルに拡大した後、バイオリアクターに接種した。細胞を5%CO2雰囲気下に37℃で培養し、拡大プロセス中は常に指数成長期に維持した。
【0108】
接種に先だって、1.2リットルの基礎HSFMをバイオリアクターに無菌的にポンプ輸送した。溶存酸素(DO)計を較正するために、培地を空気飽和させた。pH計を較正するために、培地試料も採取した。pH計およびDO計を較正し終えた後、両方のコントローラをAUTOモードに設定した。システムがpH(7.3)および温度(37℃)の設定ポイントに到達したら、計算された量の接種物をローラーボトルからバイオリアクターにポンプ輸送した。接種後の生存細胞密度(VCD)は約2×105生存細胞/mlだった。
【0109】
供給方法は以下のとおりである。培養中は、必要かつ過剰でない栄養素を細胞に与えるために、濃縮栄養素溶液をバイオリアクターに供給した。濃縮栄養素溶液は、連続供給およびパルス供給によって、培養物に送達した。連続供給溶液は、蠕動ポンプ(Watson−Marlow 101U/R)を使って、リアクターに連続的にポンプ輸送した。パルス供給溶液は、1日に1回、培養物にパルス供給した。
【0110】
二つの半回分式供給方法を開発し、両方の細胞株に適用した。プロセス#1では、培養中に組換えインスリンを供給しない。プロセス#2はプロセス#1に基づき、リノール酸および脂質供給スケジュールの変更と、インスリンの追加供給を伴う。以下の表に、両プロセスの供給を、両細胞株について要約する。
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
培養中は、オフライン分析のために、バイオリアクター試料を定期的に採取した。生存細胞密度(VCD)および細胞生存率を、0.4%トリパンブルー色素による染色後に、血球計を使った顕微鏡計数によって測定した。グルコース、乳酸、グルタミン、アンモニア濃度を、Nova Bioprofile 200を使って測定した。抗体濃度をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーカラムを用いるHPLCによって決定した(Applied Biosystems,P/N 2−1001−00)。
【0116】
抗体の累積生産量を培養物中の総生存細胞数の時間積分で割ることによって、比抗体生産性を算出した。すなわち
【数1】
式中、
【数2】
は、公式:
【数3】
によって近似される。
【0117】
プロセス#1では、665.2B9.1E4細胞が成長して、6日目に1×107生存細胞/mlの最大VCD、生存率86%を達成した。6日目の後は、VCDおよびV%が急速に低下し、培養物を8日目に収集した。プロセス#2は、培養物が、1.2×107生存細胞/mlという、さらに高いVCDに到達して、1日長く持続するのに役立った。
【0118】
665.2B9.1E4細胞と比較すると、665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも、はるかに良好な成長を示した。プロセス#1の場合、そのVCDは7日目に2×107生存細胞/mlに到達し、生存率は97%だった。また、その培養物は、このVCDおよびV%をさらに2日間維持してから、下降を始めた。培養物を11日目に収集した。プロセス#2では、665.B4.1C1細胞は、プロセス#1と類似する成長プロファイルを示した。より具体的には、細胞は、2.3×107生存細胞/mlの最高VCDに到達し、生存率は少し遅く下降し、収集は11日目に行われた。この観察結果は、プロセス#2において成長面での優位性を示した665.2B9.1E4細胞株とは、多少異なった。
【0119】
プロセス#1および#2における二つの細胞株の抗体収量を比較した。665.2B9.1E4細胞の最終収量は、プロセス#1で0.42g/L、プロセス#2で0.55g/Lだった。これに比して、665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも、1.5g/Lという高い最終収率を達成した。
【0120】
一日あたりの比抗体生産性(細胞あたり)を算出したところ、665.2B9.1E4細胞は、どちらのプロセスでも、培養の全過程を通して、約15pg/細胞/日という平均一日Q[MAb]を持っていた。プロセス#2では最高VCDでの成長が1日追加されたことにより、最終抗体濃度が高くなった。
【0121】
665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも類似する一日あたりの比抗体生産性プロファイルを示したが、プロセス#1の方がわずかに高い生産性をもたらした。一日Q[MAb]は9日目まで約20〜25pg/細胞/日に保たれた。その後、生産性は下降した。
【0122】
665.2B9.1E4細胞株と比較して、665.B4.1C1細胞株は、15pg/細胞/日よりも高い約25pg/細胞/日という比抗体生産性を示した。その良好な成長と相まって、665.B4.1C1細胞株では、最終抗体収量が、665.2B9.1E4細胞株によって達成される0.55g/Lと比較して1.5g/Lと、3倍になった。これらの結果は、組換えタンパク質(この例では臨床使用するための抗体)の大規模商業製造をモデル化したバイオリアクター中の無血清培地における宿主細胞の成長および抗体収量を強化するために、Bcl−2遺伝子を宿主細胞に組み入れることの利益を実証している。
【実施例12】
【0123】
Sp/ESF無血清前適応細胞株の開発
細胞形質転換およびタンパク質生産の標準的プロトコールを以下に要約する。Sp2/0細胞またはSp2/0由来の細胞株を10%FBS中で維持し、関心対象の遺伝子を含有する発現ベクターをエレクトロポレーションによってトランスフェクトする。10%FBSを添加した培地中でトランスフェクタント細胞株を維持しながら、培養培地中のメトトレキサート(MTX)を段階的に増加させることにより、発現を増幅させることを試みる。この増幅プロセスは通常、4〜8ヶ月を要するが、うまく機能するのは時折しかなく、典型的には初期生産性が低い細胞株においてうまく機能するだけのようである。MTX増幅が完了したら、3〜6ヶ月かけてクローンを無血清培地での成長に徐々に適応させるが、これは、典型的には、生産性を最大50%喪失させる。
【0124】
Sp/EEE細胞株は、強化された成長および生存特性を示すと共に、血清欠乏に対して優れた耐性を示したので、無血清培地での成長に前適応させたSp/EEE細胞株を開発することの実現可能性を探究し、この細胞株をトランスフェクション、クローニングおよび増幅に使用することにした。以下に、Sp/ESF(Sp/EEE無血清)細胞株の開発を説明する。抗体またはフラグメントなどのクローン化タンパク質の生産に関する実行可能性は、C−AD2−Fab−h679−pdHL2発現ベクターのトランスフェクションによって実証した。
【0125】
無血清培地における成長への適応およびサブクローニング
Sp/EEE細胞を、2ヶ月かけて、無血清培地(SFM)での成長に適応させた。FBSを使わずにSFM中でトランスフェクションを行い得るかどうかを決定する目的で、無血清適応Sp/EEE細胞を限界希釈法でプレーティングして、それらが低密度から回復するかどうかを決定した。細胞を96ウェルプレートの第1列に5細胞/ウェルの濃度でプレーティングし、そのプレートの下方に向かって2倍ずつ希釈した。この限界希釈により、合計7個のクローンを得た。これらの結果は、細胞がトランスフェクションに必要な条件下で生存できることを実証している。それら7個のサブクローンのうち4個を使って成長曲線実験を行うことにより、最も好ましい成長特性を持つクローンを選択した。4個のクローン(#1、3、4、および5)と親クローンを、T25フラスコ中、6mlの培養培地に、密度が3×105細胞/mlになるように分割した。細胞生存率(図25)および細胞密度(図26)を、生存率が0に達するまで監視した。
【0126】
サブクローンのうち、#3は、他のどのサブクローンまたは親細胞株よりも24時間長く生存した。また、サブクローン#3および#1は、他のクローンより高い最大細胞密度(320万〜330万/mL、図26)に到達した。これは、サブクローン#3が、うまくトランスフェクションを起こすように、より良く適応し得ることを示唆している。そこで、サブクローン#3を新たにSp/ESFと名付け、以降のトランスフェクションに使用した。
【0127】
h679−AD2によるSp/ESF細胞のトランスフェクション
上記のデータに基づき、Sp/ESF細胞(サブクローン#3)に、エレクトロポレーションにより、Sp2/0細胞に関する標準的プロトコールに従って、30μgのh679−AD2−pdHL2をトランスフェクトした。48時間後に、細胞を0.1μM MTXで選択した。対照として、10%FBS中のSp/EEE細胞にも、h679−AD2−pdHL2を、エレクトロポレーションにより、同じ条件下でトランスフェクトした。10日後に、プレートは、BSA−IMP−260コートプレートを使ってELISAでスクリーニングできる状態になっていた。どちらのトランスフェクションでも、400ウェルのうち約130ウェルが陽性クローンを含んでいた。OD測定値が最も高い40ウェルの陽性Sp/ESF細胞を24ウェルプレートに移し、MTXを0.2μM MTXに増加させた。24ウェルプレート中の細胞が終末相に達してから、HSGセンサーチップを使ったBIACORE分析によるスクリーニングを、さらに行った。スクリーニングしたクローンのうち4個が>50mg/Lの生産性を持っていた。生産性が最も高いクローン(h679−AD2−SF #T6)は、82mg/Lの初期生産性を持っていた。これらの初期生産性結果は、10%FBS中のSp/EEE細胞を使ったこの構築物のトランスフェクションによって以前得られた結果と極めてよく似ていた。
【0128】
増幅
MTX増幅用にh679−AD2−SF# T6クローンを選択した。2週間後に、MTX濃度を0.2μMから0.4μMに増加させた。わずか2回のMTX増加後でも既に、生産性の多少の増幅を観察することができる。
【0129】
【表10】
【0130】
結論
Sp/ESFについて上に示したデータは、トランスフェクション、限界希釈法によるクローニング、およびMTX増幅の全てを、無血清条件下に1ヶ月未満で達成できることを示している。これは、h679−Fab−AD2−pdHL2発現ベクターのトランスフェクションによって実証された。このトランスフェクションは、82mg/Lという極めて高い初期生産をもたらし、これを2週間で103mg/Lまで増幅することができた。MTXばく露の時間を長くすれば、さらなる増幅が予想される。82mg/Lという最良クローン(T6)の初期生産性は、10%FBS中で行われた親Sp/EEE細胞株の元のトランスフェクションによる最良のh679−AD2−pdHL2クローン(5D8)の初期生産性(これは約50mg/Lだった)を上回っている。Sp/ESF細胞には、エリスロポエチンを生産するためのEPO−DDD2−pdHL2もトランスフェクトした。
【0131】
Sp/ESFの主要パラメータを既存のPER.C6細胞株(Jones et al.,Biotechnol.Prog.2003,19:163−168)のパラメータと比較した表11に示すように、Sp/ESPは多くのカテゴリでPER.C6を凌ぐ。
【0132】
【表11】
【0133】
本願が開示しクレームする組成物および/または方法および/または装置は全て、この開示に照らして、過度の実験を行わなくても作製し、実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態に関して説明したが、組成物および/または方法および/または装置ならびに本明細書に記載の方法のステップまたはステップの順序に、本発明の概念、要旨および範囲から逸脱することなく改変を加え得ることは、当業者には明らかだろう。より具体的には、本明細書に記載する薬剤の代りに、化学的にも生理学的にも関係する一定の薬剤を使用することができ、それでもなお同じ結果または類似する結果が達成されるであろうことは、明らかだろう。当業者にとって自明なそれらの類似する置換態様および変更態様は、本願請求項によって定義される本発明の要旨、範囲および概念に含まれるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】シクロヘキシミドで処理した(+CHX)または無処理の(−CHX)Sp2/0細胞およびSp−E26細胞の視覚像を表す。
【図2】CHX処理に対してより耐性なHPV E6/E7形質導入細胞をスクリーニングした結果を示す。合計55クローンをスクリーニングした。最初の実験では31クローンをスクリーニングし(上段のパネル)、2番目の実験では24クローンをスクリーニングした(下段のパネル)。各クローンの健常細胞を二つに等分した。一方をCHXで2時間処理し、他方を無処理のままにしておいた。次に、これら二つの培養物中の生存細胞をMTTアッセイで測定し、処理した生存細胞集団(CHX+)と無処理の生存細胞集団(CHX-)との比をプロットとした。上段のパネルに示すように、Sp2/0細胞ではCHX処理が生存率を30%低下させたのに対し、Sp−E26細胞では6%しか低下しなかった。スクリーニングした31クローンのうち7クローン(*で示すもの)は、Sp2/0よりも有意に成績が良かったが(生存率の低下は<20%)、Sp−E26ほど良くはなかった。2番目の実験でスクリーニングした24クローンの場合(下段のパネル)、CHX処理は、Sp2/0細胞の生存率を約50%低下させ、Sp−E26の生存率を<20%低下させた。24クローンのうち10クローン(*または**で示すもの)は、Sp2/0よりも有意に成績が良く(<30%の低下)、そのうちの6クローン(**で示すもの)はSp−E26に匹敵するか、Sp−E26より優秀だった(<20%)。E28およびE36は、Sp2/0よりは良い成績だがSp−E26ほど良くはない二つの追加対照クローンである。
【図3】GuavaネキシンVアッセイのドットプロットを表す。初期アポトーシス細胞(ネキシンV陽性および7−AAD陰性)のパーセンテージを右下の象限に示す。
【図4】CHXで処理したSp2/0におけるDNA断片化を表す。これに対し、Sp−E26細胞はこの処理に対して耐性だった。
【図5】TフラスコにおけるSp2/0細胞およびSp−E26細胞の成長プロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)を、200,000/mlの初期細胞密度で、Tフラスコに播種した。Guava ViaCount試薬(Guava technologies,Inc.)およびPCA計測器(Guava Technologies,Inc.)を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。NH4+および乳酸の蓄積も監視した。
【図6】3Lバイオリアクターでの回分培養物について決定したSp2/0細胞とSp−E26細胞の成長プロファイルの比較。健常細胞(>95%の生存率)を250,000/mlの初期細胞密度でバイオリアクターに播種した。トリパンブルーと顕微鏡とによって細胞を毎日計数した。
【図7】Bcl−2−EEE発現についてクローンをスクリーニングするために、Bcl−2(100)抗体(Santa Cruz Biotech.)で染色し、増感化学発光法で発色させた代表的イムノブロットを表す。
【図8】Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で染色した。数個のサブクローンを比較している。
【図9】Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で染色した。Sp2/0細胞、Raji細胞およびDaudi細胞をBcl−2−EEEクローンと比較した。
【図10】665.B4.1C1細胞、Sp2/0細胞、Raji細胞、Daudi細胞、Sp−EEE(87−29クローン)細胞およびSp−EEE(7−16クローン)細胞の溶解物のイムノブロット分析の結果を表す。(A)ヒトBcl−2特異的抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色したブロット。(B)マウスおよびヒトBcl−2を認識する抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色したブロット。
【図11】10%ウシ胎仔血清を添加した培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図12】1%ウシ胎仔血清を添加した培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図13】無血清培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図14】Sp−EEE(87−29クローン)細胞のメトトレキサート死滅曲線を表す。
【図15】1mg/mlのゼオシンの存在下または非存在下で成長させたSp−EEEクローンを比較した、Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色した。
【図16】ヒト化抗体配列ならびにSV40のプロモーター配列およびエンハンサー配列を持つ665.2B9クローンを得るために、Sp2/0細胞のトランスフェクションに使用した、pdHL2ベクターの地図を表す。
【図17】クローン665.2B9のトランスフェクションに使用した、Bcl−2遺伝子が組み入れられているDNAプラスミドの地図を表す。
【図18】Bcl−2トランスフェクトクローン665.2B9#4、Bcl−2陰性クローンおよび非トランスフェクト対照の成長プロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)を24ウェルプレートに400,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図19】Bcl−2トランスフェクトクローン665.2B9#4、Bcl−2陰性クローンおよび非トランスフェクト対照の成長プロファイル。健常細胞(>95%の生存率)を24ウェルプレートに400,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図20】異なるMTX濃度におけるBcl−2トランスフェクトクローン665.259#4およびBcl−2陰性クローンの成長プロファイルを示す。健常細胞(>95%の生存率)をTフラスコに100,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞密度および生存率を毎日計数した。
【図21】異なるMTX濃度におけるBcl−2トランスフェクトクローン665.259#4およびBcl−2陰性クローンの成長プロファイルを示す。健常細胞(>95%の生存率)をTフラスコに100,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞密度および生存率を毎日計数した。
【図22】クローン665.2B9#4(MTX濃度を増加させたもの)およびクローン#13によって発現されるヒトBcl−2のレベル(ウェスタンブロット法で検出したもの)を表す。
【図23】L−グルタミンおよびグルコースを補給して、またはL−グルタミンおよびグルコースを補給せずに、0.6μMおよび1μMのMTX中で培養したクローン665.2B9#4ならびに0.3μM MTX中で培養したクローン#13の細胞生存率のプロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)をローラーボトルに200,000/mlの初期細胞密度で播種した。「補給」培養物には、2日目および4日目(矢印で示した時点)に、グルコースおよびL−グルタミンを含有する栄養添加溶液を加えた。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図24】L−グルタミンおよびグルコースを補給して、またはL−グルタミンおよびグルコースを補給せずに、0.6μMおよび1μMのMTX中で培養したクローン665.2B9#4ならびに0.3μM MTX中で培養したクローン#13の生存細胞密度のプロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)をローラーボトルに200,000/mlの初期細胞密度で播種した。「補給」培養物には、2日目および4日目(矢印で示した時点)に、グルコースおよびL−グルタミンを含有する栄養添加溶液を加えた。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図25】培養5日間にわたるSp/EEEサブクローンの無血清培地における生存率を表す。
【図26】培養5日間にわたる無血清Sp/EEEサブクローンの生存細胞密度を図示している。
【技術分野】
【0001】
本発明のさまざまな実施形態は、細胞株の寿命延長および/または細胞株からのタンパク質収量を増加させるための方法および組成物に関する。具体的な実施形態において、細胞株は、抗体または抗体フラグメントを産生するハイブリドーマ細胞株であってもよい。さらに具体的な実施形態において、本方法は、一つ以上の遺伝子(例えばE6、E7および/もしくはBcl−2または関連タンパク質をコードする遺伝子)を細胞株にトランスフェクトすることを含み得る。そのようなタンパク質はそのネイティブ配列に限定されるわけではなく、例えばT69E、S70EおよびS87Eに点突然変異を持つBcl−2などのように、置換されたアミノ酸を一つ以上含んでいてもよい。別の実施形態は、無血清培地中で成長しタンパク質を産生する能力を持つ哺乳動物細胞株に関する。そのような細胞株は、抗体、二重特異性抗体、多価抗体もしくは多重特異性抗体またはそのフラグメントなどの異種タンパク質を発現させる発現ベクターを、その細胞株にトランスフェクトすることによる、タンパク質生産の方法に使用することができる。好ましい実施形態では、その細胞株を無血清培地中でトランスフェクトすることにより、トランスフェクト細胞株を無血清増殖成長および無血清タンパク質生産に適応させる必要を回避して、かなりの時間を節約することができる。
【背景技術】
【0002】
細胞をインビトロで(特に大きなバイオリアクターで)培養することは、数多くのバイオテクノロジー製品を生産する基礎を成している。これは、細胞による培地中へのタンパク質産物の産出を伴い、これらの産物はその培地から単離され、さらに加工された後、臨床的に使用される。培養下で増殖成長する細胞から生産されるタンパク質の量は、例えば細胞密度、細胞周期の位相、そのタンパク質の細胞生合成速度、細胞の生存および成長を支えるために用いられる培地の条件、ならびにその細胞の培養下での寿命(すなわち、それらの細胞がプログラム細胞死またはアポトーシスで死ぬまでの時間)などといった、いくつかの因子に依存する。培養細胞の生存率および寿命を改善する方法は、例えば栄養素、細胞密度、酸素含量および二酸化炭素含量、乳酸デヒドロゲナーゼ、pH、容量オスモル濃度、異化産物などを制御することによって所望するタンパク質の生産性を増加させる方法と共に、種々開発されてきた。例えば、細胞密度を増加させることで、生産性を高めることはできるが、それは培養細胞の寿命を縮めることにもなり得る。そこで、細胞集団ができるだけ長く最も生産的な状態に維持されるように、最大密度に到達した時には培養細胞の増殖速度を低下させることが望まれるだろう。これにより、バイオリアクター周期をその生産ピークにおいて増加または延長させて、所望するタンパク質産物をより長期間産出させることができ、そしてそれは、バイオリアクター周期からの収量を高めることになる。
【0003】
バイオリアクター周期の時間を増加させるために、例えば細胞増殖のための培地を調節すること、一定の成長促進因子を添加すること、ならびにタンパク質合成に影響を及ぼさずに細胞増殖を阻害することなど、多種多様なアプローチが探究されてきた。ある具体的アプローチでは、細胞周期因子に影響を及ぼすための遺伝子またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを使って細胞周期を制御することにより、培養細胞の寿命を増加させることを目指す。この方法では、細胞周期進行を妨げて、いわゆる擬似老化状態(これは、さらなる細胞分裂を遮断し培養細胞のタンパク質合成能力を拡大する)を誘導するベクターをトランスフェクトし、または形質転換し、または感染させることにより、細胞を擬似老化段階へと誘導する。言い換えると、細胞周期阻害剤を発現させるベクターを細胞にトランスフェクトすることにより、擬似老化状態を誘導することができる(Bucciarelli et al.,米国特許出願公開第2002/0160450号A1;WO 02/16590 A2)。後者の方法は、細胞増殖を阻害することにより、GoldsteinとSingalが記述しているように延長された細胞培養寿命を持ち(Exp Cell Res 88,359−64,1974;Brenner et al.,Oncogene 17:199−205,1998)、アポトーシスに対して耐性を持つ(Chang et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,4291−6,2000;Javeland et al.,Oncogene 19,61−8,2000)ことができる状態に、細胞を強制的に陥らせようとするものである。
【0004】
さらにもう一つのアプローチでは、アデノウイルスE1遺伝子のトランスフェクション後に無限増殖性を持つ初代二倍体ヒト細胞またはその誘導体を樹立する。機能的なAd5 E1AおよびE1B遺伝子産物を発現させる新しい細胞株(その一つがPER.C6(ECACC受託番号96022940)である)は、遺伝子治療およびワクチン用ならびに組換え治療タンパク質(例えばヒト成長因子およびヒト抗体)の生産用に設計された組換えアデノウイルスならびに他のウイルス(例えばインフルエンザ、単純ヘルペス、ロタウイルス、麻疹)を産生することができる(Vogels et al.,WO 02/40665 A2)。
【0005】
別のアプローチでは、細胞におけるアポトーシスを防止または遅延させるためのカスパーゼ阻害剤の使用に、焦点が当てられた。例えば米国特許第6,586,206号を参照されたい。さらに別のアプローチでは、細胞におけるアポトーシスを防止または遅延させるために、Bcl−2ファミリーのメンバーなどといったアポトーシス阻害剤を使用することが試みられた。Arden et al.,Bioprocessing Journal,3:23−28(2004)を参照されたい。これらのアプローチは予測不可能な結果をもたらした。例えばある研究では、Bcl−2の発現によって細胞の生存率は増加したが、タンパク質生産は増加しなかった(Tey et al.,Biotechnol.Bioeng.68:31−43,2000参照)。もう一つの例では、CHO細胞におけるアポトーシスを遅延させることを目的とするBcl−2タンパク質の過剰発現が開示されたが、Bcl−xLはタンパク質生産を増加させたものの、Bcl−2はタンパク質生産を減少させた(WO03/083093参照)。さらにもう一つの例では、培養Sp2/0−Ag14細胞(ATCC番号CRL−1581、以下Sp2/0という)の生存を延長するためにBcl−2タンパク質の発現を使用する実験が開示された。しかし、Bcl−2発現クローンの細胞密度は、その親培養物の細胞密度よりも20〜50%低く、生物医薬産業での実用化には懸念が生じた(WO03/040374;U.S.6,964,199参照)。
【0006】
したがって、組換えタンパク質を高レベルに発現させるための改良された宿主細胞および組換えタンパク質生産(特に、宿主細胞における抗体および抗体フラグメント、多重特異性抗体、フラグメントおよび単鎖構築物、ペプチド、酵素、成長因子、ホルモン、インターロイキン、インターフェロン、ならびにワクチンの生産)を確実に増加させるための方法が、当分野において必要とされていることは、明らかである。また、無血清成長および無血清タンパク質生産の前に非常に長い適応期間を経ることなく、無血清条件下で発現ベクターをトランスフェクトし、タンパク質生産に使用することができる、無血清培地または血清枯渇培地中で成長するように前適応させた細胞株も必要とされている。
【発明の開示】
【0007】
したがって、老化を阻害する薬剤または細胞生存を促進する薬剤(例えば抗アポトーシス剤)を細胞中に導入することにより、細胞培養の寿命および/または組換えタンパク質収量を増加させるための改良された宿主細胞および方法を提供することが、本発明の目的である。そのような薬剤の使用は、所望する組換えタンパク質の生産に用いられる培養細胞の寿命および生存率を優先的に増加させると同時に、培養細胞の生産性を増加させ、それによって所望するタンパク質の最適収量を増加させる。好ましくは、本発明の方法で使用されるアポトーシス阻害因子には、Bcl−2およびそのファミリーメンバーが含まれるが、これらに限るわけではない。あるいは、細胞内アポトーシス促進性タンパク質のレベルをダウンレギュレートする因子(例えばp53およびRb)または細胞内抗アポトーシスタンパク質(例えばBcl−2)をアップレギュレートする因子を細胞中に導入することによって、細胞クローンの寿命および組換えタンパク質収量を改良することもできる。
【0008】
好ましくは、本発明の方法で使用される調節剤には、ヒトパピローマウイルス16型(HPV−16)がんタンパク質E6およびE7、抗アポトーシスタンパク質Bcl−2、ならびにその組合わせが含まれるが、これらに限るわけではない。また、本明細書に記載するカスパーゼ阻害剤も、アポトーシスを遮断または減少させ、よって細胞生存を増加させ、前記培養細胞による組換えタンパク質の生産を増加させる一因となり得る。組換えタンパク質の生産を強化するためにこれらの培養物に使用することができる抗アポトーシス剤のさらにもう一つのクラスには、I型サイトカインスーパーファミリーの一定のメンバー、例えばエリスロポエチン(EPO)などが含まれる。EPOは、このクラスのプロトタイプ分子として、赤血球だけでなく、複数の細胞タイプのアポトーシスの主要調整因子であり、それゆえに、例えば内皮細胞、心筋細胞、腎臓の尿細管上皮細胞、皮膚、およびニューロンなどにおいて、より普遍的な細胞保護機能を持つ[P.GhezziおよびM.Brinesによる総説、Cell Death and Defferentiation 11(suppl.1),s37−s44,July 2004を参照のこと]。
【0009】
さまざまな実施形態で、HPV−16のE6、E7および/またはBcl−2などの一つ以上の調節因子をトランスフェクトした細胞株を、無血清培地での成長に前適応させることができる。そのような前適応細胞株、例えばSp/ESF細胞株(下記実施例参照、ただしこれに限るわけではない)は、一つ以上の発現ベクターにより、無血清条件下で、さらなる形質転換を起こすことができ、したがって無血清成長への適応に長い時間を必要とせずに、無血清条件下での発現およびタンパク質生産を可能にすることができる。この驚くべき結果は、無血清条件下または低血清条件下でのタンパク質生産を可能にし、培地コストの著しい節約をもたらす。同時に、標準的な哺乳動物細胞株(これは、血清リッチな条件下でしかトランスフェクション可能でなく、無血清タンパク質生産への適応には、さらに6〜12ヶ月を必要とする)を使った場合に要求される、無血清適応に必要なかなりの時間が、無血清条件下でのトランスフェクションおよびタンパク質生産によって不要になる。
【0010】
本発明は、細胞培養物の寿命を延長し、かつ/または最適化され、所望する組換えタンパク質の収量が増加するような細胞培養条件を作り出すために、例えばトランスフェクションベクター、望ましい性質を持つ細胞クローンのスクリーニングおよび選択、細胞培養培地、成長条件、バイオリアクター構成、ならびに細胞タイプなどといった因子(ただしこれらに限るわけではない)の新規な組合わせを取り入れた細胞培養方法も教示する。これらの細胞培養方法には、懸濁培養法、潅流培養法および半回分培養法が含まれる。Tey et al.,J.Biotechnol.79:147−159(2000);Zhang et al.,J.Chem.Technol.Biotechnol.79:171−181(2004);Zhou et al.,Biotechnol.Bioeng.55:783−792(1997)を参照されたい。
【0011】
別段の定義をしない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、その平易な通常の意味を持つ。また、本明細書で言及する特許および他の参考文献の内容は、参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において、「ある(aまたはan)」は、ある項目について、一つまたはそれ以上を意味し得る。
【0013】
本明細書で使用する用語「および(and)」および「または(or)」は、接続詞または離接的接続詞を意味するために使用され得る。すなわち、どちらの用語も、別段の表示がない限り、「および/または(and/or)」に等価であると理解すべきである。
【0014】
本明細書で使用する用語「約」は±10%を意味する。すなわち「約100」は90〜110の数字を意味する。
【0015】
本明細書にいう抗体とは、完全長の(すなわち天然の、または通常の免疫グロブリン遺伝子フラグメント組換えプロセスによって形成された)免疫グロブリン分子(例えばIgG抗体)または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な(すなわち、特異的に結合する)部分もしくは類似物、例えば抗体フラグメントを指す。
【0016】
抗体フラグメントは、例えばF(ab)2、F(ab’)2、Fab、Fv、sFvなどといった抗体の一部分である。構造がどうであれ、抗体フラグメントは、完全な抗体によって認識される抗原と同じ抗原に結合する。「抗体フラグメント」という用語は、特異的抗原に結合して複合体を形成することによって抗体のように作用する任意の合成タンパク質または遺伝子操作タンパク質も包含する。例えば抗体フラグメントには、可変領域からなる単離されたフラグメント、例えば重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」フラグメント、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とがペプチドリンカーによってつながれている組換え単鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)、および超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識ユニット(CDR)が含まれる。
【0017】
本明細書で使用する抗体融合タンパク質という用語は、同じまたは異なる特異性を持つ二つ以上の同じまたは異なるscFvまたは抗体フラグメントが連結されるように組み換えられて生産された抗原結合分子を指す。融合タンパク質の結合価は、その融合タンパク質が単一の抗原またはエピトープに対して持つ結合アームまたは結合部位の数、すなわち一価、二価、三価または多価を示す。抗体融合タンパク質の多価結合性は、抗原への結合に複数の相互作用を利用することができ、したがってその抗原への結合のアビディティを増加させ得ることを意味する。特異性は、抗体融合タンパク質が結合することのできる抗原またはエピトープの数、すなわち単一特異性、二重特異性、三重特異性、多重特異性を示す。これらの定義を使った場合、天然の抗体、例えばIgGは、二つの結合アームを持つので二価であるが、一つのエピトープに結合するので単一特異性である。単一特異性多価融合タンパク質は、例えば同じ抗原と反応する二つの結合部位を持つダイアボディなど、あるエピトープに対して二つ以上の結合部位を持つが、単一のエピトープにしか結合しない。融合タンパク質は、単一の抗体構成要素を含むか、異なる抗体構成要素の多価的または多重特異性的組合わせを含むか、または同じ抗体構成要素の複数コピーを含み得る。融合タンパク質はさらに、抗体または抗体フラグメントおよび治療剤を含み得る。そのような融合タンパク質に適した治療剤の例には、免疫調整剤(「抗体−免疫調整剤融合タンパク質」)および毒素(「抗体−毒素融合タンパク質」)が含まれる。好ましい毒素の一つは、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、好ましくは組換えRNアーゼを含む。
【0018】
細胞株
本発明のさまざまな実施形態は、宿主細胞株を含む改良された組成物、およびそのような細胞株で組換えタンパク質の強化された生産を行うための方法に関する。一つ以上の抗アポトーシス遺伝子を構成的に発現させ、関心対象のタンパク質またはペプチドをコードする発現構築物をトランスフェクトすることができる細胞株であって、抗アポトーシス遺伝子の発現が培養下でのトランスフェクト細胞の生存を延長し、関心対象のタンパク質またはペプチドの収量を高め得るような細胞株を作出した。
【0019】
特定の実施形態は、回分培養下で強化された生存を示すSp−E26、Sp−EEEおよびSp−ESFと呼ばれる新規細胞株をもたらすSp2/0骨髄腫細胞株の派生細胞株に関する。Sp−E26は、HPV−16のE6タンパク質およびE7タンパク質を構成的に発現させる。Sp−EEEおよびSp−ESFは、Bcl−2−EEEと呼ばれるBcl−2突然変異体を構成的に発現する。さらにまた、Sp−E26、Sp−EEEまたはSp−ESFに関心対象の組換えタンパク質の発現ベクターをトランスフェクトすれば、組換えタンパク質生産、特に組換え抗体および抗体フラグメントの生産を改良することもできる。E6/E7タンパク質またはBcl−2−EEEタンパク質は、宿主細胞におけるアポトーシスの誘導を遅延させ、宿主細胞における強化された組換えタンパク質生産を可能にする。タンパク質生産は、その細胞の成長培地に、一つ以上のカスパーゼ阻害剤(例えばカスパーゼ1および/または3阻害剤)を添加することによって(Bin Yang et al.,Nephron Experimental Nephrology 2004;96:e39−e51)、そして/またはI型サイトカインスーパーファミリーの一つ以上のメンバー、例えばエリスロポエチン(EPO)を添加することによって、さらに増強することができる。これに関して、汎カスパーゼ阻害剤は特に有効である。
【0020】
さらに、Sp−EEE細胞株を、無血清条件下または低血清条件下での成長およびタンパク質生産に前適応させて、Sp−ESFなどの無血清前適応細胞株を生じさせることもできる。Sp−ESFおよび類似の細胞株には、関心対象のタンパク質、例えば抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体などをコードする一つ以上の発現ベクターをトランスフェクトすることができる。トランスフェクションへの無血清条件の使用は、トランスフェクションおよびタンパク質生産に利用することができる哺乳動物細胞株では類を見ないものであり、無血清成長への適応に要するかなりの時間を不要にする。
【0021】
Bcl−2などのアポトーシス阻害因子の同時発現により、宿主細胞における組換えタンパク質、例えば抗体または抗体フラグメントの生産を著しく強化することができる。特に、抗体または抗体フラグメントをコードする発現ベクターを安定にトランスフェクトすると共に、Bcl−2などのアポトーシス阻害因子をコードする発現ベクターをコトランスフェクトしたSp2/0などの骨髄腫細胞株では、タンパク質生産が著しく強化される。増加した抗体生産は、E6/E7遺伝子をトランスフェクトした宿主細胞からも得ることができる。組換えタンパク質生産は、細胞の成長培地に一つ以上のカスパーゼ阻害剤を添加することによって、さらに増強することができる。これに関して、汎カスパーゼ阻害剤は特に有効である。また、組換えタンパク質生産は、細胞培養物の培地にEPOまたは他の抗アポトーシス性サイトカインを供給することによって強化することもできる。
【0022】
アポトーシスと呼ばれる生理的細胞死またはプログラム細胞死(Kerr et al.,Br J Cancer.,26:239−257,1972)は、適正な組織の発生および維持にとって不可欠であり、進化の過程で保存されてきた固有の遺伝的プログラムによって制御される(Ellis et al.,Annu Rev Cell Biol,7,663−698,1991)。そのため、エクスビボ培養物などの人工的環境で細胞が成長する場合は、この遺伝的資質が有限の寿命をもたらす。したがって、医学および産業ならびに研究で用いられるタンパク質の生産にとって、そのような細胞培養物の有用性は、そのような培養物がアポトーシス機構によって死ぬまで、より長い寿命またはサイクルにわたって、そのような培養物を維持することに依存する。
【0023】
細胞周期をアポトーシス作用と区別することにより、細胞増殖イベントおよび細胞死イベントに独立して作用する方法および薬剤が発見されている。アポトーシスの周知の細胞内調節因子であるBcl−2(Vaux et al.,Nature 335,440−2,1988)は、細胞周期進入に対するその阻害的影響とは遺伝的に異なる抗アポトーシス作用を持つことがわかっているがん原遺伝子である(Huang et al.,EMBO J 16,4628−38,1997)。Bcl−2の二つのホモログBcl−xLおよびBcl−wも細胞生存を延長させるが、Bcl−2ファミリーの他のメンバー、例えばBaxおよびBakは、アポトーシス促進性である(Oltvai et al.,Cell 74,609−19,1993;Chittenden et al.,Nature 374,733−6,1995;Farrow et al.,Nature 374,731−3,1995;Kiefer et al.,Nature 374,736−9,1995)。他の抗アポトーシス遺伝子にはBcl−6およびMcl−1が含まれる。
【0024】
このように、Bcl−2とそのファミリーの一定のメンバーはアポトーシスに対する防御作用を持ち、これを、タンパク質の生産に使用される一定の培養宿主細胞の寿命を増加させ、それによって生産、単離されるタンパク質の量を高めるための方法に使用することができる。抗アポトーシス性のBcl−2ファミリーメンバー、例えばBcl−2、BCl−xL、Bcl−w、またはこれらのタンパク質の突然変異体種の過剰発現は、アポトーシスを阻害し、その結果として細胞密度を増加させ、培養物の生存を延長する。そのため、抗アポトーシス性のBcl−2ファミリー遺伝子をトランスフェクトすれば、他の研究者ら(前掲書)が提案しているように細胞周期そのものを妨害することによって細胞培養物を延命する必要は回避される。同様に、Bcl−2遺伝子の線維芽細胞へのトランスフェクションは、これらの細胞におけるBcl−2の過剰発現をもたらし、その結果として、アポトーシスの拮抗作用と細胞の寿命の増加が起こり、それに付随して組換えタンパク質の生産および単離が増加する。インターロイキン−6(IL−6)依存性マウス骨髄腫細胞は、サイトカイン離脱時に、あたかもアポトーシスを起こすかのように死ぬことも観察されている。そのような細胞中のIL−6受容体は、アポトーシスの延期に関して、Bcl−2またはBcl−xLによって調節され得ることも、見出されている(Schwarz et al.,Cancer Res 55:2262−5,1995)。
【0025】
三つの点突然変異(T69E、S70EおよびS87E)を有する突然変異型Bcl−2は、野生型または単一点突然変異体と比較して有意に高い抗アポトーシス活性を示すことが、報告されている(Deng et al.,PNAS(101)153−158,2004)。したがって、さまざまな実施形態が、Bcl−2−EEE三重突然変異体の発現ベクターの構築に関するものであり、その発現ベクターは、改良された寿命および組換えタンパク質生産を示すSp−EEEクローンおよびサブクローンを作出するために、Sp2/0細胞のトランスフェクションに使用された。
【0026】
発がんウイルスなどの他の因子も、例えば高リスク型HPVがんタンパク質E6およびE7など、それらが誘発する細胞不死化および最終的には完全な悪性トランスフォーメーションの一部として、アポトーシスに対抗することができる(Finzer et al.,Cancer Lett 188,15−24,2002)。例えば、ウイルスE6タンパク質は、紫外線に対する表皮のアポトーシス応答を効果的に遮断する(Storey,Trends MoI Med 8,417−21,2002)。間接的な証拠から、ヒトパピローマウイルスが扁平上皮癌におけるアポトーシスの減少を引き起こし得る(ただし基底細胞癌におけるアポトーシスは減少させない)ことも示唆されている(Jackson et al.,Br J Cancer 87,319−23,2002)。しかし、パピローマウイルスがんタンパク質の全てが、抗アポトーシス作用を持つわけではない。例えば別の研究では、ウシ種のパピローマウイルスE6タンパク質はアポトーシスに対する細胞の感受性を高めることが報告されており(Liu et al.,Virology 295,230−7,2002)、これは、HPV−16 E7遺伝子が一定の刺激によって誘導されるアポトーシスからアストロサイトを保護することを示す別の研究とは対照的である(Lee et al.,Yonsei Med J 42,471−9,2001)。E6結合性ペプチドアプタマーの使用により、HPV E6がんタンパク質がHPV陽性腫瘍細胞において抗アポトーシス活性を持つことを示す直接的な実験的証拠が得られた(Butz et al.,Proc Natl Acad Sci USA 97,6693−7,2000)。しかし他のHPVがんタンパク質は反対の作用を持ち得る。E2タンパク質は、他のHPVタンパク質の不在下で、アポトーシスを誘導する(Webster et al.,J Biol Chem 275,87−94,2000)。
【0027】
E6タンパク質とE7タンパク質の両方の持続的発現が、子宮頸がん細胞の最適な増殖には必要であることが知られており、これら二つのウイルスタンパク質は、細胞生存に対して異なる作用を発揮する(DeFilippis et al.,J Virol 77,1551−63,2003)。HPV−16 E6による主要細胞内ターゲットはp53である。E6は、p53および細胞ユビキチンリガーゼE6APと三元複合体を形成して、p53のユビキチン化およびプロテアソーム経路による分解ならびにp53の不活化をもたらす。これに対し、HPV−16 E7タンパク質は、腫瘍抑制タンパク質Rbと相互作用し、それを不安定化する。さらにまた、例えばBcl−2、Bcl−xL、p73、MDM2、p21、サイクリンおよびcdc、cdkタンパク質など、アポトーシス経路および細胞周期経路に関与するさまざまな他の細胞内タンパク質のレベルが、E6およびE7トランスフォーメーションによって調節されると報告された。これらのタンパク質の発現の変化は、細胞の生理学的性質に著しい影響を与えるだろう。そこで本発明者らは、老化培養条件により誘導されるアポトーシスに対して耐性である遺伝子改変クローンを生成させるためにHPV−16 E6およびE7による培養細胞のトランスフェクションは有効であり、その結果として細胞培養物の寿命を延長させることができるだろうという仮説を立てた。HPV−16がんタンパク質E7またはE6の単独での細胞への導入が、老化培養条件により誘導されるアポトーシスに対して改良された耐性を持つ遺伝子改変クローンを生成させるのに十分であるかもしれないとも推測した。細胞が組換えタンパク質産生クローンである場合、生理学的性質の改良は、結果的に、総合的なタンパク質生産性の強化につながるだろう。
【0028】
ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させる新しい宿主細胞の生成
HPV−16 E6タンパク質およびE7タンパク質などのウイルス抗アポトーシス遺伝子を構成的に発現させる骨髄腫宿主細胞などの宿主細胞を生成させることができる。これらの宿主細胞には、関心対象の組換えタンパク質をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることができ、抗アポトーシス遺伝子の同時発現は、著しく増加した組換えタンパク質の生産をもたらす。
【0029】
宿主細胞は、基本的に、ウイルス抗アポトーシス遺伝子で安定に形質転換することができる組換えタンパク質生産に適した任意の宿主細胞であることができる。多くの組換えタンパク質にとっては、CHO細胞およびCOS細胞などの宿主細胞が好都合であり、一方、抗体などの他のタンパク質には、骨髄腫細胞およびCHO細胞などの宿主細胞が一般に好んで選択される。有用な宿主細胞株の他の例は、VERO細胞およびHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、W138、BHK、COS−7、293、HepG2、3T3、NSO、NS1、RINおよびMDCK細胞株である。有用な細胞株は、COS−1(例えばATCC CRL 1650)、COS−7(例えばATCC CRL−1651)、HEK293、BHK21(例えばATCC CRL−10)、P3X3Ag8.653(ATCC CRL−1580)、CHO(例えばATCC CRL 1610)およびBSC−1(例えばATCC CRL−26)細胞株など、商業的供給源から入手することができる。ウイルス遺伝子(例えばE6/E78)および/または真核生物遺伝子は、それらの遺伝子の構成的発現または誘導性発現をもたらす任意の適切な方法によって、すなわち宿主細胞染色体へのそれらの遺伝子の安定な組込みを可能にすると同時にそれらの遺伝子の発現も可能にする任意の方法によって、宿主細胞中に導入することができる。宿主細胞を関心対象の遺伝子で安定に形質転換するための方法は、当分野では周知である。とりわけ好都合な方法は、ウイルス抗アポトーシス遺伝子をコードするレトロウイルスベクターを使用することである。適切なベクターとして、LSXNベクター(Miller et al.,Biotechniques 7,980−90,1989)が挙げられる。しかし、エレクトロポレーションまたは細胞融合など、当分野で知られる任意の代替方法を利用することができる。
【0030】
宿主細胞のトランスフェクションに使用するベクターは、そのベクターを含有する細胞の選択を可能にする選択可能マーカーを含有すると好都合である。トランスフェクト細胞に抗生物質耐性を付与する酵素など、適切な選択マーカーは、当分野では周知である。トランスフェクション後は、抗生物質などの選択剤を含有する培地で細胞を維持し、マーカーに対する耐性についてスクリーニングする。通常の方法を使って、細胞を選択し、限界希釈法でクローニングすることができる。
【0031】
細胞生存率を増加させるウイルス抗アポトーシス遺伝子の能力は、アポトーシスを誘導する薬剤、例えばシクロヘキシミド(CHX)などで、細胞を攻撃することによって、試験することができる。ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させない細胞がアポトーシスの著しい発生を示しがちであるのに対し、それらの遺伝子を発現させる細胞は、激しく低下したアポトーシス活性を示す。アポトーシスを検出する方法は当分野で周知であり、例えば細胞表面FITC−アネキシンV結合アッセイ、DNAラダーリングアッセイおよびTUNELアッセイなどがある。
【0032】
ウイルス抗アポトーシス遺伝子を発現させる適切な細胞を選択したら、その細胞に、選択した組換えタンパク質をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることができる。発現ベクターは、一過性発現に適したベクターであるか、好都合には、真核生物複製起点を含有するエピソームベクター、または発現カセットの安定な組込みとそれに続く遺伝子増幅とを可能にする増幅可能ベクターであることができる。適切なベクターは当分野では周知であり、例えば、抗体および抗体フラグメントの生産にとりわけ適しているpdHL2ベクターなどがある。増幅可能な発現カセットを使用する場合、それは、トランスフェクト細胞の選択が可能なように、レトロウイルスベクターに使用する選択可能マーカーとは異なる選択可能マーカーを含有すると好都合である。ここでもまた、適切にトランスフェクトされた細胞を選択し、次に限界希釈法によってクローニングすることができる。
【0033】
適切なクローンを選択したら、所望する関心対象のタンパク質を生産するために、細胞を適切な培地に入れて培養することができる。培地は、血清を含有するか、好ましくは無血清であることができる。また、培養培地に一つ以上のカスパーゼ阻害剤(例えばカスパーゼ1または3)を添加することにより、細胞の寿命およびタンパク質生産を増加させることもできる。好ましくは、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ3、カスパーゼ9および/またはカスパーゼ12の一つ以上を阻害するように作用する。細胞透過性カスパーゼ阻害剤を使用すると好都合であり、汎カスパーゼ阻害剤はとりわけ好都合である。Z−VAD−fmkおよびAc−DEVD−cho(配列番号7)などの適切な阻害剤は、当分野では周知である。あるいは、アポトーシスに影響を与えることによってその成長特性を強化するために、その細胞株をさらにトランスフェクトして、AvenまたはXIAPなどのカスパーゼ阻害剤を発現させることもできる。これに関して、EPOなど、I型サイトカインスーパーファミリーの一定のメンバーも、抗アポトーシス作用および細胞保護作用を持つことにより、細胞生存を増加させることができる。
【0034】
上述の方法により、基本的に任意の所望する遺伝子によるトランスフェクションに使用することができる細胞株が生成する。しかし、所望するタンパク質(特に組換えタンパク質)を構成的に発現させる樹立細胞株に、後から、ウイルスまたはBcl−2ファミリー抗アポトーシス遺伝子をコードする適切なベクターをトランスフェクトしてもよいことは、当業者には理解されるだろう。下記実施例2を参照されたい。
【0035】
関心対象のタンパク質は、宿主細胞において検出可能な量で生産され得る基本的に任意のタンパク質であることができる。例として、従来のIgG型抗体、Fab’、Fab、F(ab’)2もしくはF(ab)2フラグメント、scFv、ダイアボディ、IgG−scFvもしくはFab−scFv融合抗体、IgG−もしくはFab−ペプチド毒素融合タンパク質、またはワクチン[例えば、限定するわけではないが、A型、B型またはC型肝炎;HIV、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ハンターンウイルス、エボラウイルス、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、リーシュマニアRNAウイルス、SARS、マラリア、結核(マイコバクテリア)、炭疽、痘瘡、野兎病、その他、参照によりそのまま本明細書に組み入れられるwww.vaccines.orgに列挙されているもの]が挙げられる。本明細書に記載する宿主細胞は、実施例1および実施例2で述べる骨髄腫細胞における抗体および抗体フラグメント、ならびに組換え成長因子(例えばEPO、G−CSF、GM−CSF、EGF、VEGF、トロンボポエチン)、ホルモン、インターロイキン(例えばIL−1〜IL−31)、インターフェロン(例えばα、β、γ、およびコンセンサス)、ならびに酵素の高効率生産には、とりわけ適している。これらの方法は、他の骨髄腫細胞株、例えばマウスNSOまたはラットYB2/0;上皮株、例えばCHOおよびHEK293;間葉系細胞株、例えば線維芽細胞株COS−1またはCOS−7;およびニューロン細胞、例えば網膜細胞、ならびにグリア細胞およびグリア腫細胞など、組換えタンパク質の生産に用いられるいくつもの細胞株に適用することができるだろう。
【0036】
アポトーシス阻害剤を発現させる細胞における組換え抗体発現
先行の研究では、キメラ抗体を産生する組換えCHO細胞中で天然のアポトーシス阻害剤であるBcl−2を同時発現させることの効果が述べられている(Tey et al.,Biotechnol.Bioeng.68:31−43(2000)参照)。細胞培養寿命の増加は観察されたが、抗体生産は、Bcl−2発現を欠く等価な細胞と比較して増加しなかった。しかし本発明者らは、骨髄腫細胞からの組換え抗体の生産が、その細胞がBcl−2も発現させる場合には、著しく増加することを見出した。
【0037】
骨髄腫細胞株に、抗体または抗体フラグメントをコードする発現カセットを安定にトランスフェクトすると、好都合である。適切な発現カセットは、抗体重鎖および軽鎖(scFvの場合は単鎖)の発現を制御する一つ以上のプロモーターを、上述の選択可能マーカーと共に含有する。とりわけ有用なベクターはpdHL2であり、これは、選択可能マーカー酵素をコードするDNA配列に作動的に連結されたプロモーターを含む選択可能マーカー遺伝子;関心対象のタンパク質をコードするDNA配列に作動的に連結されたプロモーターを持つ転写単位;選択可能マーカー遺伝子と転写単位との間にあって、選択可能マーカー遺伝子と第1転写単位の両方の転写を、第1エンハンサーの非存在下における選択可能マーカー遺伝子と第1転写単位の両方の転写と比較して刺激する、エンハンサーエレメントを含有する。
【0038】
ベクターは、第1エンハンサーと選択可能マーカー遺伝子との間に置かれたプロモーターから構成されるブロッキングエレメントも含有し、これは、選択可能マーカー遺伝子の転写の刺激を選択的に弱めるのに潜在的に役立つ。VH配列およびVL配列は、ヒト軽鎖定常領域、重鎖定常領域、および増幅可能なdhfr遺伝子の配列(それぞれが別々のプロモーターによって制御されるもの)を含有する増幅可能ベクターであるpdHL2に、連結することができる。Leung et al.,Tumor Targeting 2:184,(1996)およびLosman et al.,Cancer 80:2660−2667,(1997)を参照されたい。このベクターは、例えばエレクトロポレーションによって、細胞にトランスフェクトすることができる。選択は、0.1μMまたは適切な濃度のメトトレキサート(MTX)を培養培地に添加することによって行うことができる。増幅は、MTXの濃度を3μMまたはそれ以上まで増加させることで、段階的に行うことができる。したがって、発現カセットを安定にトランスフェクトされると共に、関心対象の抗体を構成的に発現させる細胞を、当分野では周知である方法を使って取得し、特徴づけることができる。下記実施例4も参照されたい。選択およびクローニングの後、次に、抗体発現細胞株には、Bcl−2などの抗アポトーシス遺伝子をコードする発現ベクターを、トランスフェクトすることができる。例えば、SV40プロモーターに融合されたBcl−2遺伝子を含有するベクターpZeoSV(Invitrogen,カリフォルニア州カールズバッド)を、エレクトロポレーションなどの適切な方法を使って、細胞にトランスフェクトし、必要に応じて、選択および遺伝子増幅を行うことができる。
【0039】
あるいは、適切な宿主細胞に、突然変異型Bcl−2遺伝子などのアポトーシス阻害剤をトランスフェクトし、次に無血清培地での成長に適応させてから、所望する関心対象のタンパク質をコードする発現ベクターを、好ましくは無血清培地中で、さらにトランスフェクトすることもできる。その結果生じた細胞株を用いる抗体生産を上述のように行い、アポトーシス阻害剤を発現させない細胞における生産と比較することができる。
【0040】
本発明を例証するために代表的な例を以下に示す。実施例1では、HPV−16 E6/E7をSp2/0細胞に組み入れることにより、アポトーシスが減少/遅延するという特徴を示す改良型細胞クローンSp−E26がもたされることを説明する。実施例2では、HPV−16 E7エレメントのみの過剰発現によって宿主細胞株を改良するための方法を説明する。実施例3では、組換えAbを産生するトランスフェクタントを開発するための宿主としてSp−E26を使用することを説明する。実施例4では、E6/E7エレメントを同時発現させる抗体産生細胞株で観察される、強化されたMab生産を説明する。実施例5では、寿命の改良をもたらす三つの点突然変異を有する突然変異型Bcl−2(Bcl−2−EEE)を構成的に発現させる改変Sp2/0細胞株(Sp−EEEと呼ぶ)の生成および特徴付けを説明する。実施例6では、Bcl−2を発現させる抗体産生細胞株の改良された成長特性を説明する。実施例7では、実施例6のBcl−2発現細胞株に観察される、強化されたMAb生産を説明する。実施例8では、低レベルの組換えタンパク質を産生する細胞クローンを、その細胞にBcl−2発現を導入することによって改良する方法を説明する。実施例9では、Sp−E26を、その細胞にBcl−2発現を導入することによって改良するための方法を説明する。実施例10では、組換えAbを産生するトランスフェクタントを開発するための宿主としてのSp−EEEの使用を説明する。実施例11では、収量を最適化するための半回分式リアクタープロファイルおよび供給スケジュールの使用を説明する。実施例12では、無血清培地における成長およびトランスフェクションが可能なSp−EEEのサブクローンの生成を説明する。
【0041】
本明細書では、当分野で知られるアポトーシス阻害剤をコードする一つ以上の遺伝子をトランスフェクトした細胞株を使って、好ましい実施形態を例示するが、代替実施形態として、コードされるタンパク質がネイティブタンパク質と同じ生理学的機能(抗アポトーシス)を示す限り、そのような遺伝子のコード配列および/または非コード配列に、本願に係る方法および組成物の範囲内で、さまざまな置換、欠失または挿入を加え得ることは、当業者には理解されるだろう。一定の実施形態では、コードされるタンパク質が天然(野生型)タンパク質と80%以上の配列一致度、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは99.5%以上の配列一致度を示し得る。
【0042】
抗体
さまざまな実施形態が、関心対象のトランスフェクト細胞株から発現される抗体および/または抗体フラグメントに関し得る。「抗体」という用語は、本明細書では、抗原結合領域を持つ任意の抗体様分子を指すために使用され、これには、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv(単鎖Fv)などの抗体フラグメントが包含される。抗体に基づく種々の構築物およびフラグメントを製造し使用するための技法は、当分野では周知である。抗体を製造し特徴づけるための手段も、当分野では周知である(例えばHarloweおよびLane,1988,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory参照)。有用な抗体には、数多くのさまざまな公知供給源から市販されているものもある。例えば、さまざまな抗体分泌ハイブリドーマ株を、American Type Culture Collection(ATCC、バージニア州マナッサス)から入手することができる。例えば腫瘍関連抗原など(ただしこれに限らない)のさまざまな疾患ターゲットに対する数多くの抗体がATCCに寄託されており、本願に係る方法および組成物で使用するために入手することができる(例えば以下の米国特許番号を参照されたい:7,060,802;7,056,509;7,049,060;7,045,132;7,041,803;7,041,802;7,041,293;7,038,018;7,037,498;7,012,133;7,001,598;6,998,468;6,994,976;6,994,852;6,989,241;6,974,863;6,965,018;6,964,854;6,962,981;6,962,813;6,956,107;6,951,924;6,949,244;6,946,129;6,943,020;6,939,547;6,921,645;6,921,645;6,921,533;6,919,433;6,919,078;6,916,475;6,905,681;6,899,879;6,893,625;6,887,468;6,887,466;6,884,594;6,881,405;6,878,812;6,875,580;6,872,568;6,867,006;6,864,062;6,861,511;6,861,227;6,861,226;6,838,282;6,835,549;6,835,370;6,824,780;6,824,778;6,812,206;6,793,924;8,783,758;6,770,450;6,767,711;6,764,681;6,764,679;6,743,898;6,733,981;6,730,307;6,720,15;6,716,966;6,709,653;6,693,176;6,692,908;6,689,607;6,689,362;6,689,355;6,682,737;6,682,736;6,682,734;6,673,344;6,652,852;6,635,482;6,630,144;6,610,833;6,610,294;6,605,441;6,605,279;6,596,852;6,592,868;6,576,745;6,572;856;6,566,076;6,562,618;6,545,130;6,544,749;6,534,058;6,528,625;6,528,269;6,521,227;6,518,404;6,511,665;6,491,915;6,488,930;6,482,598;6,482,408;6,479,247;6,468,531;6,468,529;6,465,173;6,461,823;6,458,356;6,455,044;6,455,040;6,451,310;6,444,206;6,441,143;6,432,404;6,432,402;6,419,928;6,413,726;6,406,694;6,403,770;6,403,091;6,395,274;6,383,759;6,383,484;6,376,654;6,372,215;6,359,126;6,355,481;6,355,444;6,355,245;6,355,244;6,346,246;6,344,198;6,340,571;6,340,459(これらの米国特許はそれぞれ、抗体分泌ハイブリドーマ細胞株のATCC受託番号および当該抗体もしくはそのフラグメントの関連ターゲット抗原に関して、参照により本明細書に組み入れられる))。これらは典型例に過ぎず、当分野では他にも多種多様な抗体分泌ハイブリドーマが知られている。選択した関心対象の疾患関連ターゲットに対する抗体についてATCC、PubMedおよび/またはUSPTOデータベースを簡単に検索するだけで、ほとんどどの疾患関連抗原に対する抗体分泌ハイブリドーマでも入手し得ることは、当業者には理解されるだろう。当分野で周知の標準的技法を使って、クローン化抗体の抗原結合ドメインを増幅し、切り出し、発現ベクターに連結し、適応宿主細胞中に形質転換し、タンパク質生産に使用することができる。
【0043】
抗体フラグメントの生産
本願に係る方法および/または組成物のいくつかの実施形態は、抗体フラグメントに関し得る。抗体フラグメントを生産するための典型的な方法は、米国特許第4,036,945号;米国特許第4,331,647号;Nisonoff et al,1960,Arch.Biochem.Biophys.,89:230;Porter,1959,Biochem.J.,73:119;Edelman et al.,1967,METHODS IN ENZYMOLOGY,page 422(Academic Press)、およびColigan et al.(eds.),1991,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(John Wiley & Sons)に開示されている。
【0044】
抗体フラグメントを形成させる他の方法、例えば、一価軽鎖−重鎖フラグメントを形成させるための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または他の酵素的、化学的もしくは遺伝子技法も、そのフラグメントが完全な抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用することができる。例えばFvフラグメントはVH鎖とVL鎖の会合体を含む。この会合は、Inbar et al.,1972,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,69:2659に記述されているように、非共有結合的であることができる。あるいは、可変鎖を分子間ジスルフィド結合によって連結するか、グルタルアルデヒドなどの化学薬品によって架橋してもよい。Sandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照されたい。
【0045】
好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーによってつながれたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドリンカー配列でつながれたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって製造される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、次にその発現ベクターを宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、上記二つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを持つ一本のポリペプチド鎖を合成する。sFvを生産するための方法は当分野では周知である。Whitlow et al.,1991,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:97;Bird et al.,1988,Science,242:423;米国特許第4,946,778号;Pack et al.,1993,Bio/Technology,11:1271、およびSandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照されたい。
【0046】
抗体フラグメントのもう一つの形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使って抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することなどによって製造される。Larrick et al.,1991,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:106;Ritter et al.(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES: PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,pages 166−179(Cambridge University Press);Birch et al.(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND APPLICATIONS,pages 137−185(Wiley−Liss,Inc.)を参照されたい。抗体分泌ハイブリドーマ細胞株が公開されている場合は、抗原結合特異性をコードするCDR配列を入手し、それをキメラ抗体またはヒト化抗体に組み入れて、使用することができる。
【0047】
キメラ抗体およびヒト化抗体
キメラ抗体は、ヒト抗体の可変領域が、例えば、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)を含むマウス抗体の可変領域で置き換えられている組換えタンパク質である。キメラ抗体は、対象に投与された場合に、低下した免疫原性と、増加した安定性とを示す。キメラ抗体を構築するための方法は当分野では周知である(例えばLeung et al.,1994,Hybridoma 13:469)。
【0048】
マウス免疫グロブリンの可変重鎖および可変軽鎖に由来するマウスCDRを、ヒト抗体の対応する可変ドメイン中に移すことにより、キメラモノクローナル抗体をヒト化することができる。キメラモノクローナル抗体中のマウスフレームワーク領域(FR)もヒトFR配列で置き換えられる。ヒト化モノクローナルの安定性および抗原特異性を保存するために、一つ以上のヒトFR残基をマウスの対応する残基で置き換えてもよい。ヒト化モノクローナル抗体は対象の治療的処置に使用することができる。CDR配列の選ばれた修飾によって、ターゲットに対するヒト化抗体のアフィニティを増加させることもできる(WO0029584A1)。ヒト化モノクローナル抗体を生産するための技法は当分野では周知である(例えばJones et al.,1986,Nature,321:522;Riechmann et al.,Nature,1988,332:323;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534;Carter et al.,1992,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,89:4285;Sandhu,Crit.Rev.Biotech.,1992,12:437;Tempest et al.,1991,Biotechnology 9:266;Singer et al.,J.Immunol,1993,150:2844を参照されたい)。
【0049】
別の実施形態は非ヒト霊長類抗体に関し得る。治療的に有用な抗体をヒヒで生じさせるための一般技法は、例えばGoldenberg et al.,WO 91/11465(1991)、およびLosman et al.,Int.J.Cancer 46:310(1990)に見出すことができる。
【0050】
ヒト抗体
コンビナトリアルアプローチまたはヒト免疫グロブリン遺伝子座で形質転換されたトランスジェニック動物を使って完全ヒト抗体を生産するための方法は、当分野では知られている(例えばMancini et al.,2004,New Microbiol.27:315−28;ConradおよびScheller,2005,Comb.Chem.High Throughput Screen.8:117−26;BrekkeおよびLoset,2003,Curr.Opin.Phamacol.3:544−50;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。そのような完全ヒト抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体よりもさらに少ない副作用を示し、インビボでは基本的に内在性ヒト抗体のように機能すると予想される。一定の実施形態において、本願に係る方法および手法は、そのような技法によって生産されるヒト抗体を利用し得る。
【0051】
代替方法の一つでは、ファージディスプレイ技法を使って、ヒト抗体を生成させることができる(例えばDantas−Barbosa et al.,2005,Genet.Mol.Res.4:126−40、これは参照により本明細書に組み入れられる)。ヒト抗体は、正常なヒトから、またはがんなどの特定疾患状態を示すヒトから、生成させることができる(Dantas−Barbosa et al.,2005)。罹患個体からヒト抗体を構築することの利点は、循環抗体レパートリーが疾患関連抗原に対する抗体に偏っている可能性があることである。
【0052】
この方法論に限定されない一例として、Dantas−Barbosa et al.(2005)は、骨肉腫患者からヒトFab抗体フラグメントのファージディスプレイライブラリーを構築した。概説すると、循環血リンパ球から全RNAが得られた(前掲書)。組換えFabがμ鎖、γ鎖およびκ鎖抗体レパートリーからクローニングされ、ファージディスプレイライブラリーに挿入された(前掲書)。重鎖および軽鎖免疫グロブリン配列に対する特異的プライマーを使って、RNAがcDNAに変換され、Fab cDNAライブラリーの作製に使用された(Marks et al.,1991,J.MoI.Biol.222:581−97、これは参照により本明細書に組み入れられる)。ライブラリーの構築は、Andris−Widhopf et al.(2000、Phage Display Laboratory Manual(Barbas et al.(eds.),1st edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)の9.1〜9.22頁、これは参照により本明細書に組み入れられる)に従って行われた。最終Fabフラグメントを制限エンドヌクレアーゼで消化し、バクテリオファージゲノムに挿入することによって、ファージディスプレイライブラリーが作製された。そのようなライブラリーは、当分野で知られる標準的なファージディスプレイ法によってスクリーニングすることができる。この技法は典型例に過ぎず、ファージディスプレイによってヒト抗体または抗体フラグメントを作製しスクリーニングするための既知の方法をどれでも利用し得ることは、当業者には理解されるだろう。
【0053】
もう一つの代替方法として、ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニック動物を使用することにより、基本的に任意の免疫原ターゲットに対する抗体を、標準的な免疫化プロトコールを使って生成させることができる。そのようなシステムの限定でない一例は、Abgenix(カリフォルニア州フリーモント)のXenoMouse(登録商標)(例えば、Green et al.,1999,J.Immunol.Methods 231:11−23、これは参照により本明細書に組み入れられる)である。XenoMouse(登録商標)および類似の動物では、マウス抗体遺伝子が不活化されて、機能的なヒト抗体遺伝子で置き換えられているが、マウス免疫系の残りの部分は完全なまま保たれている。
【0054】
XenoMouse(登録商標)は、可変領域配列の大部分を補助遺伝子および調節配列に沿って含んでいるヒトIgH遺伝子座およびIgκ遺伝子座の一部を含有する生殖細胞系列構成のYAC(酵母人工染色体)で、形質転換された。そのヒト可変領域レパートリーを使って抗体産生B細胞を生成させることができ、それを既知の技術によってハイブリドーマに加工することができる。ターゲット抗原で免疫されたXenoMouse(登録商標)は、通常の免疫応答によってヒト抗体を産生し、それは、上述の標準的技法によって収集および/または生産することができる。さまざまなXenoMouse(登録商標)株を利用することができ、それらはそれぞれが、異なる抗体クラスを産生する能力を持つ。そのようなヒト抗体は、化学的架橋または他の既知の方法論によって、他の分子にカップリングすることができる。トランスジェニックに生産されたヒト抗体は、通常のヒト抗体の薬物動態特性を保ちつつ、治療薬としての可能性を持つことが示されている(Green et al.,1999)。本願に係る組成物および方法がXenoMouse(登録商標)システムの使用に限定されることはなく、ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されている任意のトランスジェニック動物を利用し得ることは、当業者には理解されるだろう。
【実施例1】
【0055】
HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の安定発現によるアポトーシス耐性細胞クローンの生成
CHX処理に耐性な細胞クローンの選択
HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の発現カセットを含有するLXSNレトロウイルスベクターを、10:1のMOI(多重感染度)で、Sp2/0細胞に形質導入した。24時間の回復後に、感染細胞をG418(1000μg/ml)中で10日間選択した。G418耐性細胞を限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により96ウェル細胞培養プレートでクローニングした。安定な感染物を、強力なアポトーシス誘導剤シクロヘキシミド(CHX)による処理に対する耐性についてスクリーニングした。簡単に述べると、健常細胞(生存率>95%、図1CおよびD)を、25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートし、細胞形態を顕微鏡で調べた。2〜3時間のインキュベーション後に50%を超える親Sp2/0細胞が形態変化を起こし、断片化したが(図1A)、いくつかのE6/E7トランスフェクトクローンは形態変化の程度が小さく、アポトーシスに対する耐性を示した。Sp−E26と呼ぶ最良のクローンは、4時間処理しても、明白な形態変化を示さなかった(図1B)。
【0056】
冗長な目視検査を避けるために、MTTアッセイを使って、生存細胞集団における変化にアクセスした。健常細胞を通常の培養条件下にCHXありまたはCHXなしで2〜3時間インキュベートした後、MTT色素をウェルに加えた。さらに2時間インキュベートした後、SDSおよびHClを含有する溶解バッファーを加えることによって、細胞を可溶化した。プレートを37℃で終夜インキュベートし、ELISAプレートリーダーを使って、ODの読み取りを590nmで行った。図2に示すように、Sp2/0細胞をCXHで処理した場合、生存細胞集団は有意に減少した。これに対し、同じ処理条件(CHXの濃度および時間)下で、Sp−E26細胞は、CHX処理に対して、より良く耐えた。この方法により、多数のクローンをスクリーニングし、さらなる分析のために選択することができる(図2)。
【0057】
Sp−E26の抗アポトーシス特性
Sp−E26細胞および親Sp2/0細胞におけるCHX誘導アポトーシスを、アネキシンV染色およびDNA断片化アッセイによって評価した。25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートした後、細胞を収集し、Guavaネキシン試薬で染色し(アネキシンV染色と等価)、Guava Personal Cell Analysisシステム(Guava Technologies)で分析した。図3は、CHX処理に約1.5時間ばく露した場合、30%を上回るSp2/0細胞がアネキシンV陽性になってアポトーシスを示すのに対して、Sp−E26は健常なままで、初期アポトーシス細胞の増加を示さなかったことを表している。
【0058】
CHXによるアポトーシスの誘導は、アポトーシスの特徴である細胞内オリゴヌクレオソームDNAフラグメントの形成を分析することによって明らかにすることができる。CHX処理したおよび無処理のSp−E26細胞およびSp2/0細胞から細胞DNAを抽出し、DNAラダーリングアッセイを行った。CHXで処理したSp2/0細胞では、大規模なDNA断片化が検出された(図4)。これに対し、同一の処理条件で、Sp−E26のゲノムDNAは完全なままであり、DNA断片化の外観を示さなかった(図4)。
【0059】
Sp−E26細胞におけるHPV E6遺伝子およびE7遺伝子の存在
Sp−E26細胞のゲノム中にE6遺伝子およびE7遺伝子が安定に存在することを確認するために、E6遺伝子およびE7遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、Sp−E26から抽出したゲノムDNAをテンプレートとするPCR反応に使用したところ、約700bpのDNAフラグメントが生じた。そのPCR産物をクローニングし、DNA配列決定により、E6遺伝子およびE7遺伝子であることを確認した。E6遺伝子およびE7遺伝子は、親Sp2/0細胞には検出されなかった。
【0060】
Sp−E26の改良された成長特性
Sp−E26の成長特性をTフラスコ(図5)および3L回分式バイオリアクター(図6)で評価した。Sp−E26は、回分培養において親Sp2/0に比べて改良された成長特性を示し、より高い最大細胞密度と、より長い生存期間を達成した。
【実施例2】
【0061】
HPV16 E7遺伝子の安定過剰発現によるアポトーシス耐性細胞クローンの生成
クローンSp−E26のゲノムに組み込まれたポリシストロン性のHPV16 E6遺伝子およびE7遺伝子の構造を、プライマーペアE6−N8+(ATGTTTCAGGACCCACAGGAGCGA;配列番号8)およびE7−C8-(TTATGGTTTCTGAGA ACAGATGGG;配列番号9)を用いるPCRならびにDNA配列決定によって分析した。プライマーE6−N8+およびE7−C8-の配列は、それぞれE6のN末端の8アミノ酸残のコード配列およびE7のC末端の8コドンの相補配列と合致するので、完全長E6およびE7のアンプリコンは、約850bpであると予想される。しかし、E6−N8+およびE7−C8-を使ってSp−E26細胞から調製されたゲノムDNAを増幅したところ、約700bpしかないPCRフラグメントが得られた。この700bp PCR産物をDNA配列決定したところ、182ポリヌクレオチドフラグメントがE6遺伝子から欠失していることが明らかになった。この欠損E6遺伝子は、おそらくスプライシングによって生じたものと思われ、N末端の43アミノ酸残基を持つ切断型E6ペプチドをコードする。E6に起因すると考えられる主な生理学的活性が、p53発現をダウンレギュートするその能力であることを考慮すると、この切断型E6タンパク質はおそらく完全には機能しないだろう。なぜなら、Sp−E26におけるp53の発現レベルは、Sp2/0における発現レベルよりも安定していることがわかったからである。
【0062】
そこで、抗アポトーシス作用を持ち、Sp2/0細胞の成長特性を改良するには、HPV−16 E7遺伝子だけで十分であるかどうかを調べるために、HPV−16 E7によるSp2/0細胞のトランスフェクションを、以下のように行う:
(i)E7をコードするDNA配列をSp−E26細胞からRT−PCRによってクローニングする。哺乳類発現ベクターpRc/CMV(Invitrogen)への遺伝子の連結が容易になるように、適切な制限部位を導入する。E7pRcと名付けたベクター内のウイルス遺伝子の転写は、CMVプロモーター−エンハンサー配列から指示される。このベクターはネオマイシン耐性を付与する遺伝子も含有し、その遺伝子はSV40プロモーターから転写される。
(ii)HPV−16 E7遺伝子の発現カセットを含有する発現ベクターをSp2/0細胞にトランスフェクトする。簡単に述べると、5μgのE7pRcをScaIで線状化し、エレクトロポレーションによって細胞にトランスフェクトする。
(iii)24時間の回復後に、トランスフェクト細胞をG418(1000μg/ml)中で10日間選択する。
(iv)次にG418耐性細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートでクローニングする。安定なトランスフェクタントを選択し、強力なアポトーシス誘導剤であるシクロヘキシミド(CHX)による処理に対する耐性についてスクリーニングする。
(v)健常細胞(生存率>95%)を、25μg/mlのCHXを含有する培地中、またはCHXの非存在下に、通常の培養条件で3〜4時間インキュベートした後、ウェルにMTT色素を添加する。さらに2時間インキュベートしてから、SDSおよびHClを含有する溶解バッファーを加えることにより、細胞を可溶化する。プレートを37℃で終夜インキュベートし、ELISAプレートリーダーを使ってODの読み取りを590nmで行う。CHX処理に対して耐性を示す細胞クローンを選択し、さらなる分析のために拡大する。
(vi)E7−トランスフェクト細胞の抗アポトーシス特性を、アネキシンV染色およびDNA断片化アッセイによって評価する。アネキシンVアッセイでは、25μg/mlのCHXを含有する培地中でインキュベートしてから、細胞を収集し、Guavaネキシン試薬で染色し(アネキシンV染色と等価)、Guava Personal Cell Analysisシステム(Guava Technologies,Inc.)で分析する。DNA断片化アッセイでは、CHX処理したおよび無処理のE7−トランスフェクタントおよびSp2/0細胞から細胞DNAを抽出し、それをアガロースゲル電気泳動で分析する。
(vii)E7−トランスフェクタントにおけるウイルスがん遺伝子の発現を、サザンブロット(ゲノムレベル)分析、ノーザンブロット(mRNAレベル)分析、およびイムノブロット(タンパク質レベル)分析によって評価する。アポトーシス過程に関与しE7タンパク質による影響を受ける細胞内タンパク質の発現を、イムノブロッティング分析によって調べる。
(viii)選択したE7−トランスフェクタントの成長特性を、Tフラスコおよび3L回分式バイオリアクターで評価する。トランスフェクタントは、回分培養した親Sp2/0と比較して、改良された成長特性を示す。すなわち、より高い最大細胞密度と、より長い生存期間とを達成する。
【実施例3】
【0063】
Sp−E26におけるhLL2 IgGの高レベル発現
この実施例では、NHLおよび自己免疫疾患を持つ患者を処置するために開発されたヒト化抗CD22 AbであるhLL2を産生する細胞クローンを生成させるために、Sp−E26を宿主として使用する。hLL2産生クローン87−2−C9は、Sp2/0細胞を宿主として使用することによって、以前に生成されており(Losman et al.,Cancer 80,2660−2666,1997)、その例では、トランスフェクション後に陽性クローンが一つだけ同定され(約2.5×10-7の頻度)、増幅前のその唯一のhLL2産生クローンの最大生産性(Pmax)(Tフラスコにおける調整終末培養培地中の抗体濃度と定義される)は、1.4mg/Lだった。Losman et al.が記述した手法(Cancer 80,2660−2666,1997)と同様の手法を使って、同じhLL2pdHL2ベクターをSp−E26細胞にトランスフェクトしたところ、200を超える安定なhLL2産生クローンが得られた(頻度>10-4)。ランダムに選択した12個のクローンのPmaxを評価したところ、13〜170mg/L(平均50mg/L)の範囲にあることが分かった。これらのクローンの生産性は、MTXを使った遺伝子増幅によって、さらに強化することができる。この実施例により、組換えタンパク質を産生する細胞クローンを開発するための宿主としてSp−E26を使用することの(その親Sp2/0細胞と比較した場合の)利点が実証された。
【実施例4】
【0064】
HPV16 E6遺伝子およびE7遺伝子の安定発現によるAb産生細胞株の改良
607−3u−8細胞は、もともと、ヒト化モノクローナルAbを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成された細胞である。このクローンは、遺伝子増幅(MTXを使用)およびサブクローニングによって開発されものであり、最大(Ab)生産性は150mg/Lまで強化されたが、培養培地への血清添加を断つと約100mg/Lに低下した。無血清条件下でより高い抗体生産性を得るために、HPV−16のE6/E7遺伝子を607−3u−8細胞に導入し、Ab生産性に対するE6/E7の作用を以下のように評価した。
【0065】
10%FBSおよび3μM MTXを添加したHSFMで維持した607−3u−8細胞に、HPV−16 E6遺伝子およびE7遺伝子の発現カセットを含有するLXSNレトロウイルスベクターを、10:1のMOIで形質導入した。24時間回復させた後、安定にトランスフェクトされた細胞をG418(400μg/ml)中で10日間選択した。G418耐性細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートでサブクローニングした。生き残ったクローン(607E1C12と命名)を評価のために得た。E6/E7トランスフェクションを伴わない607−3u−8−7G7および607−3u−8−2D10と名付けた607−3u−8の二つのサブクローンも選択した。これら三つのクローンのPmaxを決定したところ、有意差はなかった(表1)。
【0066】
これらの結果は、この細胞にE6/E7遺伝子を導入しても、Abを産生する細胞の能力は変化しないことを示唆している。次に、607E1C12、607−3u−8−7G7および607−3u−8−2D10を無血清培地中で成長するように適応させ、これらのクローンの生産性を決定した。全ての細胞が無血清培地でよく成長していた。クローン607E1C12の最終抗体生産性は150mg/Lに維持されたが、E6/E7を持たない二つのクローンはかなり減少した。また、607E1C12の生産性は、凍結(冷凍保存のため)と融解サイクルの後も、安定だった(表1)。
【0067】
【表1】
【実施例5】
【0068】
突然変異型Bcl−2を構成的に発現させる遺伝子改変Sp2/0細胞株の生成および特徴付け
三つの点突然変異(T69E、S70EおよびS87E)を有する突然変異型Bcl−2は、野生型および単一点突然変異体と比較して、有意に高い抗アポトーシス活性を示すことを、証拠が示唆している(Deng et al.,PNAS 101:153−158,2004)。そこで、この三重突然変異体(Bcl−2−EEEと呼ぶ)の発現ベクターを構築し、それを使って、(特にバイオリアクターにおける)生存および生産性を増加させるために、Sp2/0細胞のトランスフェクションを行った。クローンを単離し、Bcl−2−EEE発現レベル、成長およびアポトーシス特性について評価した。Bcl−2−EEEの核酸配列を配列番号3に示し、Bcl−2−EEEタンパク質の対応するアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0069】
ヒトBcl−2のアミノ酸残基64〜101のコード配列に基づいて、116bpの合成DNA二重鎖を設計した。残基69、70および87のコドンを全て、グルタミン酸(E)のコドンに変えた。この配列全体は並外れてGCリッチであり、数多くのポリG区間およびポリC区間を持っていた。いくつかのコドンに保存的置換を施して、GおよびCの連続を中断させ、全体のGC含量を減少させた。
【0070】
合わせると上記116bp配列をまたぎ、3’末端の22bp分が重複している、二つの80マーオリゴヌクレオチドを合成した(配列番号5および配列番号6を参照されたい)。これらのオリゴヌクレオチドをアニールさせ、Taq DNAポリメラーゼを用いるプライマー伸長によって二重鎖DNAを生成させた。その二重鎖を、PCRプライマーBcl−2−EEE PCR Left(TATATGGACCCGGTCGCCAGAGAAG;配列番号10)およびBcl−2−EEE PCR Right(TTAATCGCCGGCCTGGCGGAGGGTC;配列番号11)を使って、増幅した。
【0071】
次に、その126bpアンプリマーをpGemT PCRクローニングベクターにクローニングした。Bcl−2−EEE−pGemTをTthI制限エンドヌクレアーゼおよびNgoMI制限エンドヌクレアーゼで消化し、105bpフラグメントをゲル単離し、TthIおよびMgoMIで消化したhBcl−2−puc19ベクター(ATCC 79804)と連結することにより、hBcl−2(EEE)−puc19を生成させた。この構築物の配列を確認した。
【0072】
948bpのインサートフラグメントをhBcl−2(EEE)−puc19からEcoRIで切り出し、EcoRIで消化しアルカリホスファターゼで処理したpZeoSV2+ベクターと連結した。その結果得られた構築物がhBcl−2(EEE)−pZeoSV2+である。
【0073】
次に、Sp2/0細胞(5.6×106)に60μgのhBcl−2(EEE)−pZeoSV2+を、エレクトロポレーションにより、Sp2/0細胞用の標準的プロトコールに従ってトランスフェクトした。細胞を6枚の96ウェルプレートにプレーティングし、それを選択なしで48時間インキュベートした。2日後に、800μg/mlのゼオシンを培地に加えた。
【0074】
40ウェルからの細胞を24ウェルプレートに拡大し、ウェスタンブロットにより、抗hBcl−2および抗βアクチンを使って分析した。40ウェルのうち5ウェルを除く全てが、中〜高レベルのBcl−2−EEE発現を示した。4枚のゲルのうち1枚について、結果を図7に示す。野生型Bcl−2が前もってトランスフェクトされているSp2/0由来のhMN14細胞株(クローン664.B4)を、陽性対照(+)として使用した。Dengらによって実証されたように、Bcl−2−EEEはSDS−PAGEで野生型Bcl−2よりもわずかに遅く移動する。
【0075】
三つの強く陽性なウェル(#7、#25および#87)をさらなる評価とサブクローニングのために選択した。限界希釈プレーティングにより、1枚の96ウェルプレートにつき20未満の陽性ウェルを得たことから、個々のウェル中の細胞が実際にクローニングされている可能性は極めて高い(>99%)ことが示された。まず、もとの3ウェルから得た23のサブクローンを、抗hBcl−2−PEを使って、Guava Expressで分析した(図8)。その結果、元のウェルは混合された細胞クローンを含有していることが確認された。ウェル#7は最も強いシグナルを持つクローンをもたらし、ウェル#25は最も低いシグナルを持つクローンを含んでいた。クローン7−12、7−16、87−2および87−10をさらなる分析のために拡大した。次に、初期の成長速度が遅いいくつかのサブクローンを同様に分析したところ、一つのクローン87−29が、他のどのクローンよりも20%高いシグナルを与えたので、それを、さらなる分析のために拡大した。
【0076】
二つの高発現SP−EEEクローン(87−29および7−16)を非トランスフェクトSp2/0、RajiおよびDaudi細胞と比較した(図9)。Sp−EEEクローンは、Raji細胞およびDauji細胞(これらはどちらもおそらく正常細胞レベルのBcl−2を発現させることが知られている)より約20倍高く発現させる。Sp2/0細胞は陰性だった。このことは、抗Bcl−2イムノブロットによって、さらに実証された(図10)。Bcl−2は、ヒトBcl−2特異的抗体では、タンパク質負荷量を多くし(50K細胞)、X線フィルムを長く露光しても、Sp2/0細胞中に検出されなかった。マウス、ラットおよびヒトBcl−2を認識する抗Bcl−2 MAb(C−2、Santa Cruz Biotech)によるイムノブロット分析では、タンパク質負荷量を多くし(100K細胞)、X線フィルムを長く露光しても、非トランスフェクトSp2/0細胞からBcl−2は検出されなかった(図10B)。Sp2/0細胞中で発現されるBcl−2があるとすれば、それは、クローン87−29におけるBcl−2−EEEよりも2桁以上の低いレベルである。
【0077】
五つのSp−EEEサブクローンおよびSp2/0細胞について成長曲線を比較した。三つのSp−EEEサブクローンは、Sp2/0細胞に対して明確な優位性を示した。これらの三つ(7−12、7−16および87−29)は、最も高レベルのBcl−2−EEEも発現させる。7−12および7−16は、同じもとのウェルに由来し、ほぼ同一の性質(Bcl−2−EEEレベルおよび成長曲線)を持つので、これらはおそらく同じ発端クローンから派生したのだろう。最もよい二つのSP−EEEサブクローン7−16および87−29をさらなる評価に使用した。
【0078】
10%、1%または0%血清を添加した培地にクローンをプレーティングし(前適応ステップなし)、細胞密度および生存率を監視した。10%血清では、87−29は高密度まで成長し、Sp2/0細胞と比較して生存は4日以上増加した(図11)。1%血清では、全ての細胞が10%血清で達成された密度の約35〜40%まで成長し、Bcl−2−EEEトランスフェクタントはSp2/0に対して生存面で類似の優位性を持っていた(図12)。無血清培地に直接移すと、Sp2/0細胞は600K細胞/mlまでしか成長しなかったが、87−29細胞は2倍高い密度まで成長した(図13)。各血清濃度において、87−29細胞はSp2/0細胞より4〜6日間長く生存した。
【0079】
メトトレキサート(MTX)感受性を87−29について決定した(図14)。このデータは、MTX耐性クローンの初期選択には、0.04μMという最小MTX濃度で十分であることを示唆している。したがって、Sp2/0細胞に用いられるものと同じ選択および増幅プロトコールを、Sp−EEE細胞にも使用することができる。
【0080】
Bcl−2は生存促進/抗アポトーシスタンパク質である。フレキシブルループドメイン(FLD)を欠くBcl−2欠失突然変異体が強化されたアポトーシス阻害能力を持つことは、数グループによって実証されている(Figueroa et al.,2001,Biotechnology and Bioengineering,73,211−222;Chang et al.,1997,EMBO J.,16,968−977)。さらに最近になって、Bcl−2のFLD中の1〜3個のS/T残基がグルタミン酸に突然変異すると(これはリン酸化を模倣している)、その抗アポトーシス能力は著しく強化されることが、実証された(Deng et al.,2004,PNAS,101,153−158)。三重突然変異体(T69E、S70EおよびS87E)は、最も著しい生存強化をもたらした。ここでは、類似のBcl−2三重突然変異体構築物(Bcl−2−EEE)を使って、Sp2/0細胞を安定にトランスフェクトした。
【0081】
上述の実験は全て、Bcl−2−EEEの発現がSp2/0細胞におけるアポトーシス速度を低下させることを実証している。発現レベルが高いクローンは低レベルのクローンより長く生きたので、この作用はおおむね用量依存的だった。最も良いクローン87−29は、非トランスフェクトSp2/0細胞と比較して、15〜20%高い細胞密度まで成長し、4〜6日間長く生存する。
【0082】
クローン(87−29)中のBcl−2−EEEレベルは、Daudi細胞またはRaji細胞における正常レベルより、約20倍高い。非トランスフェクトSp2/0細胞ではBcl−2発現は検出されなかった。実施例6で述べるように、hMN−14発現Sp2/0細胞に、野生型Bcl−2を発現させるための類似の構築物をトランスフェクトし、並外れた成長特性と強化された生産性とを持つクローンを単離した。このクローン(664.B4)をMTXでさらに増幅させたところ、Bcl−2レベルは著しく増加した。最後に、増幅された(3μM MTX)細胞株をサブクローニングしたところ、あるクローン(664.B4.1C1)のBcl−2レベルは、664.B4より2倍高かった。この特定サブクローンは、優れた生産性および成長特性を持つ。87−29におけるBcl−2−EEEレベルは、増幅された664.B4.1C1中のBcl−2レベルより、約2倍高い。87−29細胞は、Sp2/0細胞の成長速度に匹敵する成長速度を持ち、Sp2/0と比較して、見かけ上、一日は余分に成長を続けることができ、15〜20%高い最大密度に到達することができる。類似する性質が、E6/E7発現Sp−E26細胞株でも見出された。親Sp2/0細胞よりも4〜6日長く生存するBcl−2−EEE発現87−29クローンは、1日しか余分に生存しないSp−E26クローンより優れている。
【0083】
87−29クローンに代表されるSp−EEE細胞株は、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する適切なベクターによるトランスフェクション時にその組換えタンパク質を発現させるためのアポトーシス耐性宿主として有用である。この細胞株が有用であるためには、それが、トランスフェクションおよび増幅後ならびに延長された培養中に、そのBcl−2−EEE発現および生存面の優位性を維持しなければならない。安定にトランスフェクトされたBcl−2−EEE遺伝子がその後のトランスフェクション中に失われることはなさそうであるから、生存特性は減少しないはずである。MTX増幅は、Bcl−2タンパク質の発現を増加させることによって、産生クローンの生存をさらに改良し得ると考えられる。実際、野生型Bcl−2をトランスフェクトしたhMN−14 664.B4細胞株の場合は、これが当てはまった。増幅およびサブクローニング後に、Bcl−2レベルは数倍増加し、細胞生存は著しく改良された。
【0084】
最終Sp/EEEクローン(#87−29)は、親Sp2/0細胞に匹敵する成長速度を持つ。しかし、Sp/EEE 87−29細胞は、Sp2/0と比較して、1日は余分に成長し続け、15〜20%高い最大密度に到達し、4〜6日は余分な生存を示す。さらに、Sp/EEE細胞株は、血清欠乏に対して、Sp2/0細胞よりもかなり耐性が高かった。
【実施例6】
【0085】
ヒトBcl−2遺伝子の安定発現による静置回分培養におけるAb産生細胞生存の改良
Bcl−2−トランスフェクト細胞クローンの生成
細胞クローン665.2B9は、もともと、ヒト化モノクローナル抗CEA Abを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成させた細胞である(Qu et al.,未公表の結果)。hMN14pdHL2と呼ばれるベクターを使ってSp2/0細胞をトランスフェクトすることにより、細胞クローン665.2B9が得られた。pdHL2ベクターはGilliesらが初めて記述したベクターであり、メトトレキサート処理による後続の選択および増幅を可能にする増幅可能なマウスdhfr遺伝子を持っていた(Gillies et al.,J.Immunol.Methods 125:191(1989))。一般に、pdHL2ベクターは、二つのメタロチオニン(metallothionine)プロモーターとIgHエンハンサーとによって独立して制御されるIgG重鎖および軽鎖遺伝子の両方の発現をもたらす。hMN14pdHL2ベクターの図解を図16に示す。配列番号1はこのベクターの配列を表し、配列番号2はエンハンサー配列と定義される72bp配列を表す。プロモーター配列はhMN14pdHL2のnt2908〜2979に相当する。
【0086】
一般に、Sp2/0細胞には、この例で使用するhMN14pdHL2ベクターなどの線状化pdHL2ベクターを、エレクトロポレーションによってトランスフェクトすることができる。選択は、トランスフェクションの48時間後に、0.05〜0.1μM MTXを含有する培地と共に細胞をインキュベートすることによって開始することができる。挿入された抗体配列の増幅は、MTX濃度を5μMまで段階的に増加させることによって達成される。
【0087】
クローンを、MTXを0.3μMまで段階的に増加させる遺伝子増幅にかけたところ、この時点で、抗体の最大生産性(Pmax)は約100mg/Lまで増加した。細胞成長特性を改良するために、665.2B9細胞に、ヒトBcl−2遺伝子を含有するプラスミド発現ベクター(図17)を、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。ATCCから購入したpB4プラスミド(pB4、カタログ番号79804)からEcoRI部位を使ってBcl−2遺伝子を切り出し、哺乳類発現ベクターpZeoSV(+)のMCSに同じ制限酵素を使って挿入した。ゼオシン耐性遺伝子がこのベクターの一部であるため、50〜300μg/mLの範囲のゼオシンを含有する培地に、トランスフェクト細胞を入れた。300mg/mlゼオシンを含有する培地から安定なクローンを選択し、0.5細胞/100μL/ウェルの密度で96ウェルプレートにプレーティングすることにより、ゼオシンを含まない培地でサブクローニングした。その後はゼオシンを含まない培地を使用した。
【0088】
ウェルにおけるクローンの形成を、顕微鏡下の目視観察によって確認した。細胞クラスターを一つだけ含むウェルの細胞を拡大した。各96ウェルプレートが約30クローンをもたらし、そのうちの14クローンをさらなる研究のためにランダムに選択した。これらのクローンの成長特徴を、ViaCount試薬およびGuava PCAを用いる毎日の細胞計数および生存率測定によって評価した。24ウェルプレートで評価した14クローン(図18、19)から、改良された成長特徴(より高い細胞密度および延長された細胞生存)を示すBcl−2−トランスフェクトクローンを一つ同定し、665.2B9#4(またはクローン#4)と名付けた。親665.2B9と比較すると、クローン#4は、Tフラスコ中で、より高い細胞密度(約1.7倍)まで成長すると共に4〜6日間長く生存し(図20、21)、より良い成長の結果として、クローン#4のPmaxは、ELISAタイトレーションおよびプロテインAカラム精製による決定で約170mg/Lまで増加した。
【0089】
665.2B9#4におけるBcl−2発現
665.2B9#4の改良された成長特性がBcl−2のトランスフェクションによってもたらされたことを確認するために、Guava Express試薬およびGuava PCA計測器を使って、ヒトBcl−2タンパク質の細胞内レベルを測定した。簡単に述べると、1.5ml遠心管に入れた4×105細胞を1500rpmで5分間遠心分離し、1×PBSで3回洗浄した。上清を注意深く吸引した。Santa Cruz Biotechnology(SCB),Inc.の固定溶液(10×、60μL)(カタログ番号sc−3622)を細胞ペレットに15分間加え、氷上でインキュベートした。固定溶液を、4℃のPBS 4×1mLで、毎回上述のように遠心することによって除去した。
【0090】
−20℃の透過処理バッファー(0.5mL)(SCBカタログ番号sc−3623)を、ボルテックスしながら滴下した後、15分間氷上でインキュベートした。次に細胞を遠心し、0.5mLのFCM洗浄バッファー(SCBカタログ番号sc−3624)で2回洗浄した。最終細胞ペレットを100μLのFCM洗浄バッファーに再懸濁し、Bcl−2細胞内タンパク質について、PEにコンジュゲートした抗Bcl−2マウスモノクローナル抗体(SCBから入手)10μLで染色した。インキュベーションは暗所、室温で1時間行った。次に0.5mLのFCM洗浄バッファーによる洗浄を2回行った。最終細胞ペレットを0.4mLのFCM洗浄バッファーで再懸濁し、細胞をGuava PCで分析した。各クローンの蛍光強度の平均値(MFI)を、PEとコンジュゲートした非特異的アイソタイプマウスIgGIによる対照染色と比較した。表2に要約する結果は、クローン665.2B9#4が親細胞株より高レベルのBcl−2を発現させることを裏付けている。親665.2B9と類似する成長プロファイルを示すゼオシン耐性クローン(#13)は、Bcl−2染色に関して陰性であったことから、この成長の改良にはBcl−2発現が必要であることが確認された。
【0091】
【表2】
【0092】
Guava Express分析により、Bcl−2レベルに対応する蛍光染色の強度は、クローン665.2B9#4のMTX増幅と共に上昇することが分かったことから、Bcl−2とdhfr遺伝子との同時増幅が示唆された。増幅細胞の細胞内Bcl−2レベルを比較するために、ウェスタンブロッティング分析を、クローン665.2B9#4(Bcl−2陽性)およびクローン#13(Bcl−2陰性)の細胞溶解物に対して、抗ヒトBcl−2抗体を使って行った。デンシトメトリー評価により、1.0μM MTX中で成長するクローン665.2B9#4のBcl−2シグナルは、0.6μM MTX中の細胞よりも2倍強いことがわかった。クローン#13の溶解物は、Bcl−2タンパク質の存在を示さなかった(図22)。
【実施例7】
【0093】
回分培養条件下でのクローン665.2B9#4の改良されたAb生産
終末期近くの細胞培養物における栄養素消費を監視することにより、グルコースおよびL−グルタミンが消費される最初の構成要素であることがわかった。これらの制限栄養素の添加が最終抗体収量を改善するかどうかを決定するための実験を行った。2タイプの培養を開始した。すなわち、補給半回分法(この場合はこれらの制限構成要素が消費された時に栄養素を添加した)と、無供給回分法(栄養素の添加なし)である。試験したのは、0.6μMおよび1μMのMTXを含有する培地で成長するBcl−2陽性クローン665.2B9#4、ならびに0.3μM MTX中で成長するBcl−2陰性クローン#13である。図23および図24に、終末段階に到達するまでの、両培養タイプにおける細胞生存率および細胞密度のプロファイルを示す。mg/Lで表したタンパク質収量を表3に示す。この実験の結果は、栄養素の補給により、生産される抗体の総収量が、全ての培養物で約2倍改良されることを示唆している。
【0094】
【表3】
【実施例8】
【0095】
低レベルの組換えタンパク質を産生する細胞株へのBcl−2遺伝子の導入
細胞クローン482.2C4Aは、もともと、IgG(抗CEA)およびそれぞれがIgG重鎖のC末端に共有結合されている二つのscFv(抗DTPA)(Leung et al.,J.Nuc.Med.41:270P,2000;Hayes et al.,Proc.Am.Asso.Cancer.Res.43:969,2002)という形態をした二重特異性Abを生産するために、トランスフェクションによって、Sp2/0から生成させた細胞である。このクローンは遺伝子増幅にかけられ、約20mg/Lの最終生産性を持っていた。成長特性を改良し、最終的にはAb生産性を改良するために、482.2C4A細胞に、ヒトBcl−2遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターを、実施例6に記載するように、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。3週間後に、750μg/mlのゼオシンを含有する培地で、トランスフェクタントを選択した。
【0096】
アポトーシス感受性細胞を排除するために、ゼオシン耐性細胞を25μg/mlのCHXで5時間処理した。処理した細胞を新しい培養培地で2回洗浄してCHXを除去し、新しい成長培地に再懸濁した。24時間回復させた後、生存細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートにクローニングした。クローンは2週間でウェルに出現し、それらをAb産生、CHX誘導アポトーシスに対する耐性、および成長プロファイルについてスクリーニングした。全ての面で親482.2C4Aより成績の良いクローンを選択し、さらに特徴づける。最も成績の良いクローンは、親482.2C4A細胞と比較して、ストレス条件下で成長させた時に、より頑強であり、老化培養条件誘導アポトーシスに抵抗し、より高い最大Ab生産性(約150%以上)を持つと予想される。
【実施例9】
【0097】
細胞成長特性をさらに改良するためのSp−E26へのBcl−2遺伝子の導入
Sp−E26細胞に、実施例5で述べたヒトBcl−2−EEE遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターを、エレクトロポレーションによってトランスフェクトする。3週間後に、500μg/mlのゼオシンを含有する培地で、トランスフェクタントを選択する。
【0098】
アポトーシス感受性細胞を排除するために、ゼオシン耐性細胞を25μg/mlのCHXで5時間処理する。処理した細胞を新しい培養培地で2回洗浄してCHXを除去し、新しい成長培地に再懸濁する。24時間回復させた後、生存細胞を、限界希釈法(0.5細胞/ウェル)により、96ウェル細胞培養プレートにクローニングする。クローンは2週間でウェルに出現し、それらをCHX誘導アポトーシスに対する耐性および成長プロファイルについてスクリーニングする。全ての面で親Sp−E26およびSp−EEEより成績の良いクローンを選択し、さらに特徴づける。HPV−16 E6/E7およびBcl−2−EEEを含有する最も成績の良いクローンは、親Sp−E26およびSp/EEE細胞よりも、ストレス条件下で成長させた時に頑強であり、老化培養条件誘導アポトーシスに対して耐性であると予想され、それゆえに、組換えタンパク質生産にとって、より良い宿主細胞である。
【実施例10】
【0099】
Sp−EEE細胞株による組換えタンパク質の改良された生産
組換えタンパク質を生産するために生存が強化されている細胞株を開発する場合にとり得る経路が二つある。実施例6で述べたように極めてうまく成し遂げられた一方法では、既に産生している細胞株に、Bcl−2などの生存促進遺伝子を安定にトランスフェクトする。しかしこの方法には、追加のトランスフェクションステップ、選択ステップおよびクローニングステップが必要であり、これにより、細胞株開発プロセスが少なくとも2ヶ月は長くなり、もしかするとそれよりはるかに長くなるかもしれない。さらにまた、成長/生存、Bcl−2発現レベルおよび生産性を含むいくつかのパラメータを決定する必要があるので、「最良」のクローンをスクリーニングする必要もある。したがって少数のクローンしか評価することができない。最も高い生産性を持つクローンが優れた生存性を持たないことは十分にあり得ることであり、その逆も同様である。ここで使用する代替方法は、優れた成長特性および生存特性を持つ親細胞株を開発し、その後に、その細胞株に、所望するタンパク質を生産するための発現ベクターをトランスフェクトすることである。
【0100】
Sp2/0細胞と比較すると、Sp−EEE細胞は一日長く成長し続け、15〜20%高い最大密度に到達し、培養下で4〜6日長く生存する。細胞は、組換えタンパク質、例えばIgG、抗体フラグメントおよび融合タンパク質、成長因子、例えばG−CSF、GM−CFS、EPO、EGF、VEGF、サイトカイン、例えばインターロイキンフェミリーメンバー(IL−1〜IL−31)、またはインターフェロンファミリーメンバー(例えばα、βまたはγインターフェロン)、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ホルモン、酵素、またはワクチン(例えばA型、B型またはC型肝炎、ならびに上述した他のワクチン)を生産するための遺伝子を、後からトランスフェクトしても、その強化された成長特性および生存特性を保つ。
【0101】
IgGなどの組換えタンパク質のための発現カセットを一つ以上含有するpdHL2などのDNAベクターを使って、エレクトロポレーションなどの標準的方法によって、Sp−EEE細胞をトランスフェクトする。トランスフェクタントを96ウェルプレートにプレーティングし、ELISAまたはBiacoreなどの確立された技法により、クローンをタンパク質産生について分析する。産生クローンを、培養培地中のMTXに、その濃度を数ヶ月かけて増加させながら曝すことにより、遺伝子コピー数を増幅する。Bcl−2−EEE発現クローンは、Bcl−2陰性Sp2/0細胞で生成させたクローンと比較して、約20%高い細胞密度まで成長し、少なくとも4日間は長く生存するので、前者は標準的フラスコまたはローラーボトル培養において少なくとも20%多い組換えタンパク質を産生するだろう。懸濁培養、灌流培養または半回分式バイオリアクター培養では、さらに高い増加が実現される。
【実施例11】
【0102】
バイオリアクターにおけるBcl−2トランスフェクトクローン665.B4.1C1の改良されたAb生産
実施例6の665.2B9#4と親クローン665.2B9をどちらも無血清培地に前適応させた。細胞を、Tフラスコで数ヶ月間、連続継代培養することにより、3μM MTXを含有するハイブリドーマ無血清培地(HSFM)の特別仕様の製剤(Immunomedics PN 10070)に適応させた。適応した細胞を、バンキングのために、Tフラスコからローラーボトルにスケールアップした。45%調整培地(指数増殖期にある培養物の遠心分離後に上清として集めた培地)、10%DMSOおよび45%HSFMから構成されるFBSフリー冷凍保存溶液を使って、各1mLバイアル中に1×107個の生存細胞を含むマスター細胞バンク(MCB)を、各細胞株について作製した。MCB細胞株を、それぞれ665.2B9.1E4(Bcl−2遺伝子なし)および665.B4.1C1(Bcl−2遺伝子あり)と名付けた。これら二つのクローンの成長特性および抗体産生を回分培養条件で比較した。
【0103】
実験は、MCBから拡大した上記の細胞を使って、3Lベンチスケールバイオリアクターで行った。3Lバイオリアクターシステムは、2500L cGMPバイオリアクターシステムのスケールダウンモデルである。したがって、評価結果は、大規模商業生産へのこれらの細胞株の適合性を裏付けるだろう。
【0104】
MCBを作製する際に使用したものと同じ成長HSFM(Immunomedics PN 10070)を使って、細胞株を維持し、接種物を調製した。3L半回分式バイオリアクタープロセスには、特別仕様の変更を加えた成長HSFMに基づく特別仕様の製剤である基礎HSFM(Immunomedics PN 10194)を使用した。どちらの培地も唯一の微量タンパク質としてインスリンおよびトランスフェリンを含有する。撹拌および曝気によって起こる剪断から細胞を保護するために、さらに0.1%のプルロニックF68を製剤に組み入れた。この培地は3μM MTXも含有した。
【0105】
連続供給溶液およびパルス供給溶液の具体的特徴を以下の表4および表5に示す。
【表4】
【表5】
【0106】
半回分実験は、3L Bellcoスピナーフラスコバイオリアクターシステム(Bellco glasses、ニュージーランド州バインランド)で、作業体積を2Lとして行った。バイオリアクターの温度、pHおよび溶存酸素(DO)を監視し、シングルループコントローラで制御した。リアクター温度は加熱ブランケットで37℃に制御した。培養pHはCO2または6%Na2CO3の添加によって7.3に制御した。曝気は、円柱状シンタードスパージャー(cylindrical sintered sparger)により、10ml/分で行った。DOは、培地へのO2の間欠的散布により、40%を上回る空気飽和度に制御した。培養中は常に約50〜60rpmの一定撹拌速度を使用した。
【0107】
MCBからの凍結バイアルを融解し、Tフラスコ中で約1〜2週間回復させた。次に、細胞をTフラスコからローラーボトルに拡大した後、バイオリアクターに接種した。細胞を5%CO2雰囲気下に37℃で培養し、拡大プロセス中は常に指数成長期に維持した。
【0108】
接種に先だって、1.2リットルの基礎HSFMをバイオリアクターに無菌的にポンプ輸送した。溶存酸素(DO)計を較正するために、培地を空気飽和させた。pH計を較正するために、培地試料も採取した。pH計およびDO計を較正し終えた後、両方のコントローラをAUTOモードに設定した。システムがpH(7.3)および温度(37℃)の設定ポイントに到達したら、計算された量の接種物をローラーボトルからバイオリアクターにポンプ輸送した。接種後の生存細胞密度(VCD)は約2×105生存細胞/mlだった。
【0109】
供給方法は以下のとおりである。培養中は、必要かつ過剰でない栄養素を細胞に与えるために、濃縮栄養素溶液をバイオリアクターに供給した。濃縮栄養素溶液は、連続供給およびパルス供給によって、培養物に送達した。連続供給溶液は、蠕動ポンプ(Watson−Marlow 101U/R)を使って、リアクターに連続的にポンプ輸送した。パルス供給溶液は、1日に1回、培養物にパルス供給した。
【0110】
二つの半回分式供給方法を開発し、両方の細胞株に適用した。プロセス#1では、培養中に組換えインスリンを供給しない。プロセス#2はプロセス#1に基づき、リノール酸および脂質供給スケジュールの変更と、インスリンの追加供給を伴う。以下の表に、両プロセスの供給を、両細胞株について要約する。
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
培養中は、オフライン分析のために、バイオリアクター試料を定期的に採取した。生存細胞密度(VCD)および細胞生存率を、0.4%トリパンブルー色素による染色後に、血球計を使った顕微鏡計数によって測定した。グルコース、乳酸、グルタミン、アンモニア濃度を、Nova Bioprofile 200を使って測定した。抗体濃度をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーカラムを用いるHPLCによって決定した(Applied Biosystems,P/N 2−1001−00)。
【0116】
抗体の累積生産量を培養物中の総生存細胞数の時間積分で割ることによって、比抗体生産性を算出した。すなわち
【数1】
式中、
【数2】
は、公式:
【数3】
によって近似される。
【0117】
プロセス#1では、665.2B9.1E4細胞が成長して、6日目に1×107生存細胞/mlの最大VCD、生存率86%を達成した。6日目の後は、VCDおよびV%が急速に低下し、培養物を8日目に収集した。プロセス#2は、培養物が、1.2×107生存細胞/mlという、さらに高いVCDに到達して、1日長く持続するのに役立った。
【0118】
665.2B9.1E4細胞と比較すると、665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも、はるかに良好な成長を示した。プロセス#1の場合、そのVCDは7日目に2×107生存細胞/mlに到達し、生存率は97%だった。また、その培養物は、このVCDおよびV%をさらに2日間維持してから、下降を始めた。培養物を11日目に収集した。プロセス#2では、665.B4.1C1細胞は、プロセス#1と類似する成長プロファイルを示した。より具体的には、細胞は、2.3×107生存細胞/mlの最高VCDに到達し、生存率は少し遅く下降し、収集は11日目に行われた。この観察結果は、プロセス#2において成長面での優位性を示した665.2B9.1E4細胞株とは、多少異なった。
【0119】
プロセス#1および#2における二つの細胞株の抗体収量を比較した。665.2B9.1E4細胞の最終収量は、プロセス#1で0.42g/L、プロセス#2で0.55g/Lだった。これに比して、665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも、1.5g/Lという高い最終収率を達成した。
【0120】
一日あたりの比抗体生産性(細胞あたり)を算出したところ、665.2B9.1E4細胞は、どちらのプロセスでも、培養の全過程を通して、約15pg/細胞/日という平均一日Q[MAb]を持っていた。プロセス#2では最高VCDでの成長が1日追加されたことにより、最終抗体濃度が高くなった。
【0121】
665.B4.1C1細胞は、どちらのプロセスでも類似する一日あたりの比抗体生産性プロファイルを示したが、プロセス#1の方がわずかに高い生産性をもたらした。一日Q[MAb]は9日目まで約20〜25pg/細胞/日に保たれた。その後、生産性は下降した。
【0122】
665.2B9.1E4細胞株と比較して、665.B4.1C1細胞株は、15pg/細胞/日よりも高い約25pg/細胞/日という比抗体生産性を示した。その良好な成長と相まって、665.B4.1C1細胞株では、最終抗体収量が、665.2B9.1E4細胞株によって達成される0.55g/Lと比較して1.5g/Lと、3倍になった。これらの結果は、組換えタンパク質(この例では臨床使用するための抗体)の大規模商業製造をモデル化したバイオリアクター中の無血清培地における宿主細胞の成長および抗体収量を強化するために、Bcl−2遺伝子を宿主細胞に組み入れることの利益を実証している。
【実施例12】
【0123】
Sp/ESF無血清前適応細胞株の開発
細胞形質転換およびタンパク質生産の標準的プロトコールを以下に要約する。Sp2/0細胞またはSp2/0由来の細胞株を10%FBS中で維持し、関心対象の遺伝子を含有する発現ベクターをエレクトロポレーションによってトランスフェクトする。10%FBSを添加した培地中でトランスフェクタント細胞株を維持しながら、培養培地中のメトトレキサート(MTX)を段階的に増加させることにより、発現を増幅させることを試みる。この増幅プロセスは通常、4〜8ヶ月を要するが、うまく機能するのは時折しかなく、典型的には初期生産性が低い細胞株においてうまく機能するだけのようである。MTX増幅が完了したら、3〜6ヶ月かけてクローンを無血清培地での成長に徐々に適応させるが、これは、典型的には、生産性を最大50%喪失させる。
【0124】
Sp/EEE細胞株は、強化された成長および生存特性を示すと共に、血清欠乏に対して優れた耐性を示したので、無血清培地での成長に前適応させたSp/EEE細胞株を開発することの実現可能性を探究し、この細胞株をトランスフェクション、クローニングおよび増幅に使用することにした。以下に、Sp/ESF(Sp/EEE無血清)細胞株の開発を説明する。抗体またはフラグメントなどのクローン化タンパク質の生産に関する実行可能性は、C−AD2−Fab−h679−pdHL2発現ベクターのトランスフェクションによって実証した。
【0125】
無血清培地における成長への適応およびサブクローニング
Sp/EEE細胞を、2ヶ月かけて、無血清培地(SFM)での成長に適応させた。FBSを使わずにSFM中でトランスフェクションを行い得るかどうかを決定する目的で、無血清適応Sp/EEE細胞を限界希釈法でプレーティングして、それらが低密度から回復するかどうかを決定した。細胞を96ウェルプレートの第1列に5細胞/ウェルの濃度でプレーティングし、そのプレートの下方に向かって2倍ずつ希釈した。この限界希釈により、合計7個のクローンを得た。これらの結果は、細胞がトランスフェクションに必要な条件下で生存できることを実証している。それら7個のサブクローンのうち4個を使って成長曲線実験を行うことにより、最も好ましい成長特性を持つクローンを選択した。4個のクローン(#1、3、4、および5)と親クローンを、T25フラスコ中、6mlの培養培地に、密度が3×105細胞/mlになるように分割した。細胞生存率(図25)および細胞密度(図26)を、生存率が0に達するまで監視した。
【0126】
サブクローンのうち、#3は、他のどのサブクローンまたは親細胞株よりも24時間長く生存した。また、サブクローン#3および#1は、他のクローンより高い最大細胞密度(320万〜330万/mL、図26)に到達した。これは、サブクローン#3が、うまくトランスフェクションを起こすように、より良く適応し得ることを示唆している。そこで、サブクローン#3を新たにSp/ESFと名付け、以降のトランスフェクションに使用した。
【0127】
h679−AD2によるSp/ESF細胞のトランスフェクション
上記のデータに基づき、Sp/ESF細胞(サブクローン#3)に、エレクトロポレーションにより、Sp2/0細胞に関する標準的プロトコールに従って、30μgのh679−AD2−pdHL2をトランスフェクトした。48時間後に、細胞を0.1μM MTXで選択した。対照として、10%FBS中のSp/EEE細胞にも、h679−AD2−pdHL2を、エレクトロポレーションにより、同じ条件下でトランスフェクトした。10日後に、プレートは、BSA−IMP−260コートプレートを使ってELISAでスクリーニングできる状態になっていた。どちらのトランスフェクションでも、400ウェルのうち約130ウェルが陽性クローンを含んでいた。OD測定値が最も高い40ウェルの陽性Sp/ESF細胞を24ウェルプレートに移し、MTXを0.2μM MTXに増加させた。24ウェルプレート中の細胞が終末相に達してから、HSGセンサーチップを使ったBIACORE分析によるスクリーニングを、さらに行った。スクリーニングしたクローンのうち4個が>50mg/Lの生産性を持っていた。生産性が最も高いクローン(h679−AD2−SF #T6)は、82mg/Lの初期生産性を持っていた。これらの初期生産性結果は、10%FBS中のSp/EEE細胞を使ったこの構築物のトランスフェクションによって以前得られた結果と極めてよく似ていた。
【0128】
増幅
MTX増幅用にh679−AD2−SF# T6クローンを選択した。2週間後に、MTX濃度を0.2μMから0.4μMに増加させた。わずか2回のMTX増加後でも既に、生産性の多少の増幅を観察することができる。
【0129】
【表10】
【0130】
結論
Sp/ESFについて上に示したデータは、トランスフェクション、限界希釈法によるクローニング、およびMTX増幅の全てを、無血清条件下に1ヶ月未満で達成できることを示している。これは、h679−Fab−AD2−pdHL2発現ベクターのトランスフェクションによって実証された。このトランスフェクションは、82mg/Lという極めて高い初期生産をもたらし、これを2週間で103mg/Lまで増幅することができた。MTXばく露の時間を長くすれば、さらなる増幅が予想される。82mg/Lという最良クローン(T6)の初期生産性は、10%FBS中で行われた親Sp/EEE細胞株の元のトランスフェクションによる最良のh679−AD2−pdHL2クローン(5D8)の初期生産性(これは約50mg/Lだった)を上回っている。Sp/ESF細胞には、エリスロポエチンを生産するためのEPO−DDD2−pdHL2もトランスフェクトした。
【0131】
Sp/ESFの主要パラメータを既存のPER.C6細胞株(Jones et al.,Biotechnol.Prog.2003,19:163−168)のパラメータと比較した表11に示すように、Sp/ESPは多くのカテゴリでPER.C6を凌ぐ。
【0132】
【表11】
【0133】
本願が開示しクレームする組成物および/または方法および/または装置は全て、この開示に照らして、過度の実験を行わなくても作製し、実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態に関して説明したが、組成物および/または方法および/または装置ならびに本明細書に記載の方法のステップまたはステップの順序に、本発明の概念、要旨および範囲から逸脱することなく改変を加え得ることは、当業者には明らかだろう。より具体的には、本明細書に記載する薬剤の代りに、化学的にも生理学的にも関係する一定の薬剤を使用することができ、それでもなお同じ結果または類似する結果が達成されるであろうことは、明らかだろう。当業者にとって自明なそれらの類似する置換態様および変更態様は、本願請求項によって定義される本発明の要旨、範囲および概念に含まれるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】シクロヘキシミドで処理した(+CHX)または無処理の(−CHX)Sp2/0細胞およびSp−E26細胞の視覚像を表す。
【図2】CHX処理に対してより耐性なHPV E6/E7形質導入細胞をスクリーニングした結果を示す。合計55クローンをスクリーニングした。最初の実験では31クローンをスクリーニングし(上段のパネル)、2番目の実験では24クローンをスクリーニングした(下段のパネル)。各クローンの健常細胞を二つに等分した。一方をCHXで2時間処理し、他方を無処理のままにしておいた。次に、これら二つの培養物中の生存細胞をMTTアッセイで測定し、処理した生存細胞集団(CHX+)と無処理の生存細胞集団(CHX-)との比をプロットとした。上段のパネルに示すように、Sp2/0細胞ではCHX処理が生存率を30%低下させたのに対し、Sp−E26細胞では6%しか低下しなかった。スクリーニングした31クローンのうち7クローン(*で示すもの)は、Sp2/0よりも有意に成績が良かったが(生存率の低下は<20%)、Sp−E26ほど良くはなかった。2番目の実験でスクリーニングした24クローンの場合(下段のパネル)、CHX処理は、Sp2/0細胞の生存率を約50%低下させ、Sp−E26の生存率を<20%低下させた。24クローンのうち10クローン(*または**で示すもの)は、Sp2/0よりも有意に成績が良く(<30%の低下)、そのうちの6クローン(**で示すもの)はSp−E26に匹敵するか、Sp−E26より優秀だった(<20%)。E28およびE36は、Sp2/0よりは良い成績だがSp−E26ほど良くはない二つの追加対照クローンである。
【図3】GuavaネキシンVアッセイのドットプロットを表す。初期アポトーシス細胞(ネキシンV陽性および7−AAD陰性)のパーセンテージを右下の象限に示す。
【図4】CHXで処理したSp2/0におけるDNA断片化を表す。これに対し、Sp−E26細胞はこの処理に対して耐性だった。
【図5】TフラスコにおけるSp2/0細胞およびSp−E26細胞の成長プロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)を、200,000/mlの初期細胞密度で、Tフラスコに播種した。Guava ViaCount試薬(Guava technologies,Inc.)およびPCA計測器(Guava Technologies,Inc.)を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。NH4+および乳酸の蓄積も監視した。
【図6】3Lバイオリアクターでの回分培養物について決定したSp2/0細胞とSp−E26細胞の成長プロファイルの比較。健常細胞(>95%の生存率)を250,000/mlの初期細胞密度でバイオリアクターに播種した。トリパンブルーと顕微鏡とによって細胞を毎日計数した。
【図7】Bcl−2−EEE発現についてクローンをスクリーニングするために、Bcl−2(100)抗体(Santa Cruz Biotech.)で染色し、増感化学発光法で発色させた代表的イムノブロットを表す。
【図8】Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で染色した。数個のサブクローンを比較している。
【図9】Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で染色した。Sp2/0細胞、Raji細胞およびDaudi細胞をBcl−2−EEEクローンと比較した。
【図10】665.B4.1C1細胞、Sp2/0細胞、Raji細胞、Daudi細胞、Sp−EEE(87−29クローン)細胞およびSp−EEE(7−16クローン)細胞の溶解物のイムノブロット分析の結果を表す。(A)ヒトBcl−2特異的抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色したブロット。(B)マウスおよびヒトBcl−2を認識する抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色したブロット。
【図11】10%ウシ胎仔血清を添加した培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図12】1%ウシ胎仔血清を添加した培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図13】無血清培地中で成長させたSp−EEEクローンの成長曲線(A)および生存率(B)をSp2/0細胞と比較したものを表す。
【図14】Sp−EEE(87−29クローン)細胞のメトトレキサート死滅曲線を表す。
【図15】1mg/mlのゼオシンの存在下または非存在下で成長させたSp−EEEクローンを比較した、Guava Expressを使ったフローサイトメトリー結果のグラフを表す。細胞を固定し、透過処理してから、フィコエリトリン結合抗Bcl−2抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc)で染色した。
【図16】ヒト化抗体配列ならびにSV40のプロモーター配列およびエンハンサー配列を持つ665.2B9クローンを得るために、Sp2/0細胞のトランスフェクションに使用した、pdHL2ベクターの地図を表す。
【図17】クローン665.2B9のトランスフェクションに使用した、Bcl−2遺伝子が組み入れられているDNAプラスミドの地図を表す。
【図18】Bcl−2トランスフェクトクローン665.2B9#4、Bcl−2陰性クローンおよび非トランスフェクト対照の成長プロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)を24ウェルプレートに400,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図19】Bcl−2トランスフェクトクローン665.2B9#4、Bcl−2陰性クローンおよび非トランスフェクト対照の成長プロファイル。健常細胞(>95%の生存率)を24ウェルプレートに400,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図20】異なるMTX濃度におけるBcl−2トランスフェクトクローン665.259#4およびBcl−2陰性クローンの成長プロファイルを示す。健常細胞(>95%の生存率)をTフラスコに100,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞密度および生存率を毎日計数した。
【図21】異なるMTX濃度におけるBcl−2トランスフェクトクローン665.259#4およびBcl−2陰性クローンの成長プロファイルを示す。健常細胞(>95%の生存率)をTフラスコに100,000/mlの初期細胞密度で播種した。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞密度および生存率を毎日計数した。
【図22】クローン665.2B9#4(MTX濃度を増加させたもの)およびクローン#13によって発現されるヒトBcl−2のレベル(ウェスタンブロット法で検出したもの)を表す。
【図23】L−グルタミンおよびグルコースを補給して、またはL−グルタミンおよびグルコースを補給せずに、0.6μMおよび1μMのMTX中で培養したクローン665.2B9#4ならびに0.3μM MTX中で培養したクローン#13の細胞生存率のプロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)をローラーボトルに200,000/mlの初期細胞密度で播種した。「補給」培養物には、2日目および4日目(矢印で示した時点)に、グルコースおよびL−グルタミンを含有する栄養添加溶液を加えた。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図24】L−グルタミンおよびグルコースを補給して、またはL−グルタミンおよびグルコースを補給せずに、0.6μMおよび1μMのMTX中で培養したクローン665.2B9#4ならびに0.3μM MTX中で培養したクローン#13の生存細胞密度のプロファイルを表す。健常細胞(>95%の生存率)をローラーボトルに200,000/mlの初期細胞密度で播種した。「補給」培養物には、2日目および4日目(矢印で示した時点)に、グルコースおよびL−グルタミンを含有する栄養添加溶液を加えた。Guava ViaCount試薬およびPCA計測器を使って生存細胞および死細胞を毎日計数した。
【図25】培養5日間にわたるSp/EEEサブクローンの無血清培地における生存率を表す。
【図26】培養5日間にわたる無血清Sp/EEEサブクローンの生存細胞密度を図示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトし、無血清培地中で増殖成長するように適応させた哺乳動物細胞株。
【請求項2】
関心対象のタンパク質および選択可能なマーカータンパク質をコードするプラスミドを無血清培地中でさらにトランスフェクトした、請求項1の細胞株。
【請求項3】
アポトーシス阻害剤が、T69E、S70EおよびS87E突然変異を持つBcl−2をコードする遺伝子を含む、請求項1の細胞株。
【請求項4】
プラスミドが抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントをコードする、請求項2の細胞株。
【請求項5】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度に等しいかそれを上回る密度までの増殖成長を示す、請求項2の細胞株。
【請求項6】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも10%高い密度までの増殖成長を示す、請求項4の細胞株。
【請求項7】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも20%高い密度までの増殖成長を示す、請求項4の細胞株。
【請求項8】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株からのタンパク質生産量よりも大きい、請求項2の細胞株。
【請求項9】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株で観察される量の2倍である、請求項8の細胞株。
【請求項10】
一つ以上の発現ベクターをさらにトランスフェクトした、請求項2の細胞株。
【請求項11】
一つ以上の発現ベクターが染色体に組み込まれる、請求項10の細胞株。
【請求項12】
細胞株が、Sp2/0、Sp2/0派生細胞株、NSOまたはYB2/0からなる群より選択される骨髄腫細胞株である、請求項2の細胞株。
【請求項13】
細胞株が、CHO、HEK293、HEK293T、COS−1、COS−7、HepG2、BHK21、P3X3Ag8.653およびBSC−1からなる群より選択される、請求項2の細胞株。
【請求項14】
アポトーシス阻害剤が、E6、E7、Bcl−2、Bcl−xL、Bcl−w、Bcl−EEE、Bhrf1、KS−Bcl−2、E1B−19K、Bcl−6およびMcl−1からなる群より選択される、請求項1の細胞株。
【請求項15】
請求項2または請求項9に記載の細胞株によって生産されるタンパク質。
【請求項16】
タンパク質が、抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントである、請求項15のタンパク質。
【請求項17】
タンパク質が成長因子、ホルモン、インターロイキン、インターフェロン、サイトカインまたは酵素である、請求項15のタンパク質。
【請求項18】
タンパク質が、EPO、G−CSF、GM−CSF、EGF、VEGF、トロンボポエチン、IL−1〜IL−31、インターフェロン−α、インターフェロン−βおよびインターフェロン−γからなる群より選択される、請求項17のタンパク質。
【請求項19】
a)アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株であって、無血清培地中で増殖成長するように適応させた細胞株を取得すること、
b)アポトーシス阻害剤をトランスフェクトした前記細胞株を貯蔵のために凍結すること、
c)生産されるべき一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の発現ベクターをトランスフェクトする前に、前記凍結細胞株を融解すること、
d)前記細胞株に一つ以上の発現ベクターを無血清条件下でトランスフェクトすること、および
e)前記細胞株を無血清培地中で培養することにより、前記一つ以上の発現ベクターから一つ以上のタンパク質を生産すること、
を含む、タンパク質生産の方法。
【請求項20】
アポトーシス阻害剤が、T69E、S70EおよびS87E突然変異を持つBcl−2をコードする遺伝子を含む、請求項19の方法。
【請求項21】
発現ベクターが抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントをコードする、請求項19の方法。
【請求項22】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度に等しいかそれを上回る密度までの増殖成長を示す、請求項19の方法。
【請求項23】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも10%高い密度までの増殖成長を示す、請求項22の方法。
【請求項24】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度よりも少なくとも20%高い密度までの増殖成長を示す、請求項23の方法。
【請求項25】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株からのタンパク質生産量よりも大きい、請求項19の方法。
【請求項26】
前記細胞株が骨髄腫細胞株である、請求項19の方法。
【請求項27】
骨髄腫細胞株がSp2/0もしくはその派生細胞株、マウスNSOまたはラットYB2/0細胞株である、請求項26の方法。
【請求項28】
細胞株が、CHO、HEK293、HEK293T、COS−1、COS−7、HepG2、BHK21、P3X3Ag8.653およびBSC−1からなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項29】
前記アポトーシス阻害剤が、E6、E7、Bcl−2、Bcl−xL、Bcl−w、Bcl−EEE、Bhrf1、KS−Bcl−2、E1B−19K、Bcl−6およびMcl−1からなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項30】
少なくとも一つのカスパーゼ阻害剤を含む培地中で細胞株を増殖成長させることをさらに含む、請求項19の方法。
【請求項31】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ−1、カスパーゼ−3、カスパーゼ−9、カスパーゼ−12および汎カスパーゼ阻害剤からなる群より選択される、請求項30の方法。
【請求項32】
エリスロポエチンを含む培地中で細胞株を成長させることをさらに含む、請求項19の方法。
【請求項33】
カスパーゼ阻害剤が、Z−VAD−fmk、Ac−DEVD−cho(配列番号7)、AvenおよびXIAPからなる群より選択される、請求項31の方法。
【請求項34】
細胞培養寿命を少なくとも4日は延長させることになる、請求項19の方法。
【請求項35】
細胞培養寿命を少なくとも6日は延長させることになる、請求項19の方法。
【請求項36】
非トランスフェクト細胞がSp2/0であり、アポトーシス阻害剤がBcl−EEEであり、発現ベクターがプラスミドpdHL2を含み、Bcl−EEEおよび発現ベクターをトランスフェクトした細胞株が、バイオリアクター中でタンパク質を生産するために選択され、増幅される、請求項19の方法。
【請求項1】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトし、無血清培地中で増殖成長するように適応させた哺乳動物細胞株。
【請求項2】
関心対象のタンパク質および選択可能なマーカータンパク質をコードするプラスミドを無血清培地中でさらにトランスフェクトした、請求項1の細胞株。
【請求項3】
アポトーシス阻害剤が、T69E、S70EおよびS87E突然変異を持つBcl−2をコードする遺伝子を含む、請求項1の細胞株。
【請求項4】
プラスミドが抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントをコードする、請求項2の細胞株。
【請求項5】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度に等しいかそれを上回る密度までの増殖成長を示す、請求項2の細胞株。
【請求項6】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも10%高い密度までの増殖成長を示す、請求項4の細胞株。
【請求項7】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも20%高い密度までの増殖成長を示す、請求項4の細胞株。
【請求項8】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株からのタンパク質生産量よりも大きい、請求項2の細胞株。
【請求項9】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株で観察される量の2倍である、請求項8の細胞株。
【請求項10】
一つ以上の発現ベクターをさらにトランスフェクトした、請求項2の細胞株。
【請求項11】
一つ以上の発現ベクターが染色体に組み込まれる、請求項10の細胞株。
【請求項12】
細胞株が、Sp2/0、Sp2/0派生細胞株、NSOまたはYB2/0からなる群より選択される骨髄腫細胞株である、請求項2の細胞株。
【請求項13】
細胞株が、CHO、HEK293、HEK293T、COS−1、COS−7、HepG2、BHK21、P3X3Ag8.653およびBSC−1からなる群より選択される、請求項2の細胞株。
【請求項14】
アポトーシス阻害剤が、E6、E7、Bcl−2、Bcl−xL、Bcl−w、Bcl−EEE、Bhrf1、KS−Bcl−2、E1B−19K、Bcl−6およびMcl−1からなる群より選択される、請求項1の細胞株。
【請求項15】
請求項2または請求項9に記載の細胞株によって生産されるタンパク質。
【請求項16】
タンパク質が、抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントである、請求項15のタンパク質。
【請求項17】
タンパク質が成長因子、ホルモン、インターロイキン、インターフェロン、サイトカインまたは酵素である、請求項15のタンパク質。
【請求項18】
タンパク質が、EPO、G−CSF、GM−CSF、EGF、VEGF、トロンボポエチン、IL−1〜IL−31、インターフェロン−α、インターフェロン−βおよびインターフェロン−γからなる群より選択される、請求項17のタンパク質。
【請求項19】
a)アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株であって、無血清培地中で増殖成長するように適応させた細胞株を取得すること、
b)アポトーシス阻害剤をトランスフェクトした前記細胞株を貯蔵のために凍結すること、
c)生産されるべき一つ以上のタンパク質をコードする一つ以上の発現ベクターをトランスフェクトする前に、前記凍結細胞株を融解すること、
d)前記細胞株に一つ以上の発現ベクターを無血清条件下でトランスフェクトすること、および
e)前記細胞株を無血清培地中で培養することにより、前記一つ以上の発現ベクターから一つ以上のタンパク質を生産すること、
を含む、タンパク質生産の方法。
【請求項20】
アポトーシス阻害剤が、T69E、S70EおよびS87E突然変異を持つBcl−2をコードする遺伝子を含む、請求項19の方法。
【請求項21】
発現ベクターが抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、多価抗体またはそのフラグメントをコードする、請求項19の方法。
【請求項22】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度に等しいかそれを上回る密度までの増殖成長を示す、請求項19の方法。
【請求項23】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度より少なくとも10%高い密度までの増殖成長を示す、請求項22の方法。
【請求項24】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株が、非トランスフェクト細胞株が示す密度よりも少なくとも20%高い密度までの増殖成長を示す、請求項23の方法。
【請求項25】
アポトーシスの阻害剤をトランスフェクトした細胞株からのタンパク質生産量が、親細胞株からのタンパク質生産量よりも大きい、請求項19の方法。
【請求項26】
前記細胞株が骨髄腫細胞株である、請求項19の方法。
【請求項27】
骨髄腫細胞株がSp2/0もしくはその派生細胞株、マウスNSOまたはラットYB2/0細胞株である、請求項26の方法。
【請求項28】
細胞株が、CHO、HEK293、HEK293T、COS−1、COS−7、HepG2、BHK21、P3X3Ag8.653およびBSC−1からなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項29】
前記アポトーシス阻害剤が、E6、E7、Bcl−2、Bcl−xL、Bcl−w、Bcl−EEE、Bhrf1、KS−Bcl−2、E1B−19K、Bcl−6およびMcl−1からなる群より選択される、請求項19の方法。
【請求項30】
少なくとも一つのカスパーゼ阻害剤を含む培地中で細胞株を増殖成長させることをさらに含む、請求項19の方法。
【請求項31】
前記カスパーゼ阻害剤が、カスパーゼ−1、カスパーゼ−3、カスパーゼ−9、カスパーゼ−12および汎カスパーゼ阻害剤からなる群より選択される、請求項30の方法。
【請求項32】
エリスロポエチンを含む培地中で細胞株を成長させることをさらに含む、請求項19の方法。
【請求項33】
カスパーゼ阻害剤が、Z−VAD−fmk、Ac−DEVD−cho(配列番号7)、AvenおよびXIAPからなる群より選択される、請求項31の方法。
【請求項34】
細胞培養寿命を少なくとも4日は延長させることになる、請求項19の方法。
【請求項35】
細胞培養寿命を少なくとも6日は延長させることになる、請求項19の方法。
【請求項36】
非トランスフェクト細胞がSp2/0であり、アポトーシス阻害剤がBcl−EEEであり、発現ベクターがプラスミドpdHL2を含み、Bcl−EEEおよび発現ベクターをトランスフェクトした細胞株が、バイオリアクター中でタンパク質を生産するために選択され、増幅される、請求項19の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公表番号】特表2009−502167(P2009−502167A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523951(P2008−523951)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027820
【国際公開番号】WO2007/015848
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(599176263)イムノメディクス, インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027820
【国際公開番号】WO2007/015848
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(599176263)イムノメディクス, インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
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