説明

細胞の調節

本発明は、幹細胞などの標的細胞の細胞増殖、分化及び他の生物活性を調節する能力について薬剤を試験するために用いることができる方法に関する。さらにまた、本発明は、インビトロでの標的細胞の生物活性を調節するための方法、該方法によって生物活性が調節される細胞、該方法によって標的細胞から産生されうる細胞、及び、移植、輸血及び他の目的のための該細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(技術分野)
本発明は、細胞培養物中の標的細胞の生物活性を調節するための方法、及び細胞培養物中の標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を試験するための方法に関する。
本発明は、幹細胞などの標的細胞の細胞増殖、分化及び他の生物活性を調節する能力について薬剤を試験するために用いることができる方法に関する。さらにまた、本発明は、インビトロでの標的細胞の生物活性を調節するための方法、該方法によって生物活性が調節される細胞、該方法によって標的細胞から産生されうる細胞、及び、移植、輸血及び他の目的のための該細胞の使用に関する。
【0002】
(発明の背景)
細胞増殖及び分化などの細胞活性を調節することができる薬剤を同定するためのアッセイシステムの開発には多くの努力が費やされており、現在、このような多くのアッセイシステムを使ってこのような薬剤を同定し、ひとたび同定されると標的細胞の細胞活性を調節するために用いる。
幹細胞の分化を刺激することができる因子を同定するためのアッセイの開発は、生物体を形成する多くの異なる細胞型に適した条件下で分化する幹細胞の能力を考慮して非常に関心のある一分野であった。したがって、幹細胞は、パーキンソン及び1型糖尿病などの疾患を治療するために有用な様々な細胞型に分化することができる細胞の潜在的な再生可能な供給源でありうる。
【0003】
幹細胞は、不定の期間の間、自己複製能を有する細胞であって、分化した機能、例えば心臓細胞、神経細胞及び膵臓β細胞を有する成熟細胞に発達する能力を有する。幹細胞にはいくつかの種類又は供与源がある。
胚性幹(ES)細胞は、芽細胞の内部細胞塊由来の幹細胞であって、多能性である;すなわち、それらは、3つすべての一次胚葉由来の細胞に分化することができる:外胚葉、内胚葉又は中胚葉。
【0004】
成体幹細胞は、特定の分化した細胞を提供するために毎日複製する未分化細胞である。成人幹細胞は骨髄、末梢血液、脳、脊髄、肝臓及び膵臓を含む身体全体にわたって同定されており、それらはES細胞より限定した能力を有する。一般的に、成体幹細胞は、起源となる組織の機能に寄与する細胞に分化するように仕向けられた多分化能の細胞である。しかしながら、成体幹細胞は、特定の条件下で、異なる胚性胚葉由来の細胞などの無関係な組織の分化した細胞に分化する可能性が認識されている。
幹細胞はどんな条件下で所望の系統の細胞に分化するように誘導されうるかについて決定するためにアッセイを設定する場合、培養物中の未分化細胞の自己再生を支持し、それらを所望の細胞系統に仕向けるであろう正確な分子又はむしろ、分子の正確な組み合わせを同定することが望ましい。
【0005】
本発明以前では、所望の細胞系統への幹細胞の分化を刺激することができる分子又は分子の組合せを同定するための方法は顕微操作によるものであり、1) 単一分子について連続的な勾配、又は2) 異なる濃度の分子をそれぞれ含有するチャンバーを用いた一以上の分子の分散(不連続的な)濃度を達成するためには、時間と労力を費やすものであった。
【0006】
(発明の概要)
本発明は、細胞培養物中に一又は複数の対象とする薬剤の連続的な濃度勾配を生じさせる方法を提供する。
一実施態様では、本方法は、細胞接着分子(一又は複数)を発現する細胞が自己集合化凝集塊(self-assembling aggregates)を形成し、かつ細胞培養培地に組み換えて発現した薬剤(一又は複数)を分泌するために十分な条件下にて、少なくとも一の細胞接着分子と一又は複数の対象とする薬剤を組み換えて発現する細胞を培養して、これによって細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配が生じることを含んでなる。
【0007】
他の実施態様では、重力補助法(gravity assisted method)と言われ、一又は複数の対象とする薬剤を組み換えて発現する細胞を、細胞が自己集合体化凝集塊を形成するために十分な条件下にて、ペトリ皿などの容器の蓋に懸滴として置き、この自己集合体化凝集塊が容器から細胞培地へ移動する際に細胞培養培地中に組み換えて発現される薬剤(一又は複数)を分泌させて、薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配を生じさせる。
本明細書中で開示される本発明の方法では、一又は複数の対象とする薬剤と場合によって少なくとも一の細胞接着分子を組み換えて発現する細胞は「エフェクター細胞」として公知であり、このときエフェクター細胞によって発現される対象の薬剤(一又は複数)は標的細胞における応答を誘導することを目的とするものであって、このような細胞は本明細書中で「インデューサ細胞」とも称されうる。本明細書中に記載の自己集合化凝集塊を生産するための重力補助法では、エフェクター細胞が細胞接着分子(一又は複数)を組み換えて発現する必要がないことが理解されるであろう。
【0008】
また、本発明は、標的細胞の生物活性を調節するための方法を提供する。
一実施態様では、標的細胞の生物活性を調節するための方法は、
A) 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
B) 該標的細胞の生物活性が細胞培養培地中の該薬剤(一又は複数)によって調節されるように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて標的細胞を培養すること
を含んでなる。
他の実施態様では、標的細胞の生物活性を調節するための方法は、
A) 一又は複数の対象とする薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞と標的細胞を、標的細胞とエフェクター細胞が自己集合体化凝集塊を形成するために十分な条件下にて、ペトリ皿などの容器の蓋に懸滴として置くこと、このとき容器から細胞培地へ凝集塊が移動する際の、該凝集塊中の該エフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により、細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配が生じ;そして、
B) 該凝集塊中の標的細胞の生物活性が細胞培養培地中の薬剤(一又は複数)の該濃度勾配によって調節されるように、十分な時間の間、自己集合体化凝集塊を培養すること
を含んでなる。
【0009】
さらに、本発明は、標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を評価するための方法を提供する。
一実施態様では、標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を評価するための方法は、
A) 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の候補薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による候補薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
B) 該標的細胞の生物活性を検出するか又は測定すること、このとき、候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性の変化の検出又は測定により、細胞培養培地中の候補薬剤(一又は複数)が標的細胞の生物活性を調節することが可能なことが示されること
を含んでなる。
【0010】
他の実施態様では、標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を評価する方法は、
A) 一又は複数の候補薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞と標的細胞を、標的細胞とエフェクター細胞が自己集合体化凝集塊を形成するために十分な条件下にて、ペトリ皿などの容器の蓋に懸滴として置くこと、このとき容器から細胞培地へ凝集塊が移動する際の、該凝集塊中の該エフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により、細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配が生じ;
B) 該凝集塊中の標的細胞の生物活性が細胞培養培地中の薬剤(一又は複数)の該濃度勾配によって調節されるように、十分な時間の間、該凝集塊を培養すること;そして、
c) 該標的細胞の生物活性を検出するか又は測定すること、このとき、候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性の変化の検出又は測定により、細胞培養培地中の候補薬剤(一又は複数)が標的細胞の生物活性を調節することが可能なことが示されること
を含んでなる。
【0011】
他の実施態様では、上記方法の標的細胞は幹細胞であり、調節される生物活性は所望の系統の細胞への幹細胞の分化である。
また、本発明は、本発明の方法で用いられるエフェクター細胞、特に薬剤及び/又は細胞接着分子及び薬剤の特定の組合せをコードする核酸配列を形質移入しているエフェクター細胞に関する。
また、本発明は、本発明の方法に従って薬剤に曝された標的細胞、本発明の方法に従って薬剤に曝された標的細胞から生成された細胞、該細胞を含有してなる医薬組成物、及び該細胞の使用方法に関する。
【0012】
(本発明の説明)
本発明は、標的細胞の生物活性を調節するための方法を提供する。一実施態様では、本方法は、
A) 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
B) 該標的細胞の生物活性が細胞培養培地中の該薬剤(一又は複数)によって調節されるように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて標的細胞を培養すること
を含んでなる。
この方法では、エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤(一又は複数)は、既に同定されている薬剤、及び/又は本方法において調節すると思われる標的細胞の生物活性を調節することが可能な分子として知られている薬剤である。
【0013】
また、本発明は、標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を評価するための方法を提供する(「候補薬剤」は単に、本方法において試験する前に、本方法において測定されるべき標的細胞の生物活性を調節することができる薬剤として同定されていない薬剤を意味する)。一実施態様では、本方法は、
A) 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の候補薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に候補薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
B) 該標的細胞の生物活性を検出するか又は測定すること、このとき、候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性の変化の検出又は測定により、細胞培養培地中の候補薬剤(一又は複数)が標的細胞の生物活性を調節することが可能なことが示されること
を含んでなる。
【0014】
上記方法で生産される薬剤(一又は複数)の濃度勾配が連続的なものであるのに対して、濃度勾配の「形状」は、1) 標的細胞及びエフェクター細胞の混合の程度を変える、2) エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤に対抗するアゴニスト/アンタゴニスト(一又は複数)(「ソース/シンク」概念)を使用する、及び/又は3) エフェクター細胞に対する標的細胞の比率を変えることを含む様々な方法で変更することができる。この3)ではエフェクター細胞に対する標的細胞の比率を変えるので勾配の形状は変わらないが勾配の最小値及び最大値は変わるであろう。
標的細胞及びエフェクター細胞の混合の程度に関して、これは、標的細胞及びエフェクター細胞が同じ細胞接着分子を発現するかどうか、及びその分子の発現レベルに依存している。例えば、標的細胞が細胞接着分子Aを高レベルに発現し、エフェクター細胞が細胞接着分子Aを低レベルに発現する場合、標的細胞は中央でともにクラスターを形成し、エフェクター細胞は標的細胞のクラスターの周辺にあるであろう(図6を参照)。逆にいえば、エフェクター細胞が細胞接着分子Aを高レベルに発現し、標的細胞が細胞接着分子Aを低レベルで発現する場合、エフェクター細胞と標的細胞は逆に配位するであろう(図5を参照)。これに対して、エフェクター細胞及び標的細胞が同じ濃度で同じ細胞接着分子を発現する場合、標的細胞とエフェクター細胞は混ざり合うであろう(図7を参照)。
【0015】
他の実施態様では、標的細胞が細胞接着分子Aを発現し、エフェクター細胞が細胞接着分子Bを発現する場合、標的細胞とエフェクター細胞は互いに混ざり合わないであろう。
当然のことながら、標的細胞とエフェクター細胞とが混ざり合うことが望ましいかどうかは、試験する薬剤のために培養培地中にどのタイプの濃度勾配が望ましいかに依存するであろう。例えば、エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤に標的細胞を拡散して曝す場合、標的細胞とエフェクター細胞との混合は望ましい結果であろう。これに対して、濃度勾配が急な薬剤に標的細胞を曝す場合、標的細胞とエフェクター細胞との混合は望ましくないであろう。この点に関して、標的細胞に「出会う」薬剤の濃度はエフェクター細胞までの距離に依存し、標的細胞がエフェクター細胞に近ければ近いほど標的細胞が出会う薬剤の濃度は高くなる。
【0016】
他の実施態様では、薬剤の濃度勾配の形状は、薬剤の「ソース」としてエフェクター細胞の一集団と薬剤の「シンク」としてエフェクター細胞のもう一つの集団を有することによって変更することができる。このときのソース及びシンクの概念は、胚に多い勾配の設定[例えば、腹側性に配位するShhに加えて背側性に配位するBMPと腹側性に配位するコーディンを使用する神経管の背腹パターン]に類似している。例えば、エフェクター細胞の各集団に形質移入される細胞接着分子を選択することによって、及び標的細胞で発現された細胞接着分子の種類によって、アンタゴニストを発現しているエフェクター細胞の集団(すなわち「シンク」)を標的細胞と混合させ、アゴニストを発現するエフェクター細胞の集団(すなわち「ソース」)を標的細胞と混合させないこと、又はその逆も可能である。
「ソース/シンク」概念が薬剤の濃度勾配を生産するために利用する方法の具体例は、エフェクター細胞から拡散するレチノイン酸(RA)を生産するための前駆体としてビタミンAを用いる酵素を生成するレチノイン酸(RA)をコードするRALDH2遺伝子をエフェクター細胞の一集団に形質移入すること、及び、チトクロームP450ファミリー酵素を分解するRAである一又は複数のCYP26アイソフォームをエフェクター細胞の第二の集団に形質移入することである。
【0017】
本明細書中で用いられる「エフェクター細胞」は、薬剤及び場合によって細胞接着分子が組み換えて発現されうる任意の細胞を意味する。エフェクター細胞が少なくとも一の薬剤と少なくとも一の細胞接着分子が発現される細胞である場合、一実施態様では、エフェクター細胞は、エフェクター細胞が組み換えて発現する細胞接着分子をほとんど又は全く内在性に発現しない細胞又は細胞株である。他の実施態様では、エフェクター細胞は、標的細胞が得られたのと同じ種から得られる。ゆえに、例えば、標的細胞がヒト由来の成体幹細胞であった場合、エフェクター細胞はヒト由来の細胞であるだろう。
さらに他の実施態様では、エフェクター細胞において組み換えて発現される細胞接着分子がカドヘリンスーパーファミリーのメンバーである場合、エフェクター細胞は、線維芽細胞株、例えばL細胞又はCHO細胞を含むがこれに限らず間充織細胞株から選択されてもよい。
【0018】
本明細書中で用いられる「細胞接着分子」は、同じ細胞接着分子を発現する細胞が自己凝集するように、細胞間認識及び細胞間接着を媒介する任意の細胞膜結合型タンパク質ないしはその断片を意味する。一実施態様では、細胞接着分子は、細胞シグナル伝達を伴わない分子であろう。本発明の方法において、エフェクター細胞において組み換えて発現される接着分子が同じ種からのものであることが好ましい。
本発明の方法で用いられうる細胞接着分子の例には、カドヘリンスーパーファミリー又はEphレセプターファミリー(エリスロポエチン産生のヒト肝細胞癌細胞株における発現にその名の由来がある)のメンバーが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0019】
カドヘリンはカルシウム依存性の細胞-細胞接着を媒介する単一の通過膜貫通型タンパク質であり、カドヘリンスーパーファミリーは、典型的なカドヘリン、デスモソームカドヘリン及びプロトカドヘリンを含んでなるいくつかのサブファミリーからなり、カドヘリンスーパーファミリーのこれら多くのメンバーをコードする核酸配列が公知である[Yagi等 (2000) Genes and Development, 14:1169-1180、出典明記によってこの内容が本明細書に援用される]。3つのファミリーのメンバーはタンデムリピートの数が異なり、そのファミリーは4つのタンデムリピートを有する典型的なカドヘリン、5つのタンデムリピートを有するデスモソームカドヘリン、及び6又は7つのタンデムリピートを有するプロトカドヘリンがある。
典型的なカドヘリンは、E-(上皮)、N-(神経)、P-(胎盤)及びR-(網膜)カドヘリンとしても一般に知られている、最もよく特徴付けられているCDH1からCDH4を含む特定のCDH1からCDH22である。一実施態様では、本発明の方法で用いられうる細胞接着分子は典型的なカドヘリンから選択され、他の実施態様では、E-、N-、P-及びR-カドヘリンから選択される。
【0020】
カドヘリンとしての分子は3つの主要な領域、細胞特有の接着を媒介する細胞外領域、細胞膜にわたる膜貫通領域及び細胞内に伸展する細胞質ドメインを有し、2つのカドヘリンの異なる領域をともに融合させることによって作製されるカドヘリンないしはキメラカドヘリンの断片もまた、本発明の細胞接着分子として利用されることができると理解される。
さらに他の実施態様では、本発明の方法で用いられうる細胞接着分子はプロトカドヘリンサブファミリーから選択され、このようなプロトカドヘリンの例には、CNR、Pcdhα、βないしはγ及びPcdh7、8、9又は11が含まれるがこれに限定するものではない。
【0021】
他の実施態様では、細胞接着分子は、それらの細胞外ドメイン配列の相関性及びエフリンAないしはエフリンBリガンドに結合するレセプターの能力に基づいてEphAレセプター及びEphBレセプターの2つのグループに分類されるEphレセプターであってもよい。EphA1からEphA9と称されるレセプターのEphAグループに少なくとも9つのメンバーと、EphB1からEphB6と称されるレセプターのEphBグループに少なくとも6つのメンバーがあり、これらレセプターの各々の完全長配列は公知である。
当然のことながら、エフェクター細胞に一又は複数の細胞接着分子をコードする核酸分子が形質移入されてもよいことが理解され、「形質移入された」とは、細胞に核酸分子を導入するための任意の方法を意味し、この方法には、リポフェクション、DEAE-デキストラン媒介形質移入、リン酸カルシウム沈殿法、レトロウイルス運搬法及び電気穿孔法を含むがこれらに限定するものではない。エフェクター細胞における核酸分子の組み換え発現は、プロモーター及び、形質移入されたエフェクター細胞において細胞接着分子の組み換え発現を導くために十分な、当分野の技術者に公知の他の任意の配列に、細胞接着分子をコードする核酸分子を作用可能に結合させることによって達成してもよい。当然のことながら、本発明の細胞接着分子(及び薬剤)をコードする核酸配列を発現させるために利用されるプロモーターは恒常性プロモーターでも誘導性プロモーターでもよいことが理解される。このようなプロモーター及びそれらの配列は当分野の通常の技術者に公知である。
【0022】
一実施態様では、各々のエフェクター細胞において単一の種類の細胞接着分子を組み換えて発現するように選択してもよい。ゆえに、例えば、エフェクター細胞の一集団においてE-カドヘリン分子、エフェクター細胞の他の集団においてN-カドヘリン分子などが組み換えて発現されてもよい。エフェクター細胞の異なる集団を追跡したい場合、例えば、異なる細胞接着分子を組み換えて発現するエフェクター細胞の異なる集団を生産する場合、異なる蛍光タンパク質をコードする配列をエフェクター細胞集団に形質移入することも望ましい。市販の蛍光タンパク質マーカーの例は当業者に公知であり、図3に記載のもの、並びにCop-Green (緑色)、Phi-Yellow (黄色)及びHcRed Tandem (濃赤色)の名称でEvrogenから市販されているベクターが含まれる。
ゆえに、例えば、E-カドヘリンをコードする核酸配列と緑色蛍光タンパク質をコードする配列をエフェクターの第一集団に形質移入させ、N-カドヘリンをコードする配列と赤色蛍光タンパク質をコードする配列をエフェクター細胞の第二集団に形質移入してもよい。
【0023】
したがって、本発明は、本発明の方法で用いるエフェクター細胞、特に細胞接着分子、薬剤及び場合によって蛍光マーカータンパク質をコードする配列の特定の組合せをコードする核酸配列を形質移入しているエフェクター細胞に関する。
エフェクター細胞において組み換えて発現されることが望ましい細胞接着分子の種類及び入手しようとする組み換えて発現された細胞接着分子の発現レベルは、標的細胞において内在的に発現される細胞接着分子の種類及び標的細胞における該分子の発現レベル、望ましい標的細胞とエフェクター細胞との混合の程度、及び/又は標的細胞が曝される候補薬剤ないしは薬剤の濃度勾配の形状を含む、上記のものなどの因子によって決定されうる。
【0024】
全体にわたって用いられる「標的細胞」は、本発明の方法によって調節されることが望ましい生物活性を有する任意の細胞又は細胞株を意味する。このような標的細胞は、ヒト、他の霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ニワトリなどの非哺乳類、及びモデル系として使われる任意の種及び/又は商業的な関心がもたれている任意の種から入手してもよい。
例えば、本発明の一実施態様では、標的細胞は、より分化又は専門化した後代細胞(プロジェニー細胞)に分化する可能性を有する任意の種類の幹細胞ないしは始原細胞であってもよい。このような実施態様では、選択される幹細胞は胚性幹細胞ないしは成体幹細胞であってもよく、成体幹細胞が用いられる場合、本発明の方法で利用される成体幹細胞の選択は生産しようとする分化した細胞の種類に応じて行うであろう。例えば、膵臓の分化した細胞を生産したい場合、標的として用いるべき成体幹細胞として腸幹細胞を選びうる。胚性幹細胞及び成体幹細胞を得る方法は当分野で公知である(例として、出典明記によって本明細書中に援用される、霊長類胚性幹細胞の単離を記述している米国特許第5843780号を参照)。
【0025】
胚性幹細胞について、これらの細胞は多能性であり、3つすべての胚葉(中胚葉、外胚葉及び内胚葉)由来の細胞を誘導することができるので、ES細胞から生産される細胞の種類は、本発明の方法においてES細胞が曝される薬剤(一又は複数)の種類に依存することが認識されるであろう。このとき中胚葉由来の細胞は骨髄、副腎皮質、リンパ組織、骨格、平滑筋及び心筋、結合組織、例えば骨及び軟骨、及び心臓及び血管の細胞を含み、外胚葉由来の細胞は皮膚、神経組織、脳下垂体、眼、耳及び首及び表面の結合組織の細胞を含み、そして、内胚葉由来の細胞は気管及び胃腸(GI)管に配列する細胞、肝臓及び膵臓などのGI器官の細胞、及び胸腺、甲状腺及び肺の細胞を含むことは理解される。
他の実施態様では、標的細胞は、ドーパミン作動性ニューロン、β細胞、肝細胞及び心筋細胞から選択されてもよい。
【0026】
当然のことながら、本発明の方法において用いる薬剤(一又は複数)の選択は本発明の方法を用いて達成したい結果に依存することが理解される。例えば、ES細胞から神経細胞を生産したい場合、ES細胞を、β細胞を生産したい場合にES細胞を曝すのとは異なる組の薬剤にES細胞を曝すのがよい。
他の実施態様では、標的細胞は、特定の薬剤の有無によって同定された膵臓始原細胞などの始原細胞であってもよい。例えば、PDX1+Nkx6.1+p48-PTF1+細胞は多分化能の膵臓始原細胞である(「+」記号は、細胞が+記号の前のタンパク質又はペプチドの発現について陽性であることが当業者によって理解される)。
【0027】
他の実施態様では、標的細胞は、β細胞、神経細胞、心臓細胞又は癌細胞などの、増殖を調節したい細胞であってもよい。
他の実施態様では、標的細胞は、調節しようとする酵素活性を有する又は有することができる任意の細胞でありうる。例えば、チトクロームP450ファミリーの酵素は、異なる薬剤に曝すことによって活性が誘導又は抑制されることが知られている酵素であり、したがって、チトクロームP450酵素を発現している細胞は本発明の方法の標的細胞となりうる。
更なる実施態様では、標的細胞は、調節しようとするリガンド結合及び/又は細胞シグナル伝達を有するレセプターを含む細胞でありうる。
【0028】
更に他の実施態様では、標的細胞は、薬剤に対して走化性応答を示す又は表すことができる任意の細胞であり得、単球、好中球及びマクロファージが含まれるがこれらに限定するものではない。
本発明の方法で調整される標的細胞の「生物活性」は、標的細胞によって又は、標的細胞において実行されうる任意の生物活性を意味する。当然のことながら、調節される生物活性の種類は、本発明の方法で利用される標的細胞の種類と薬剤の種類を含む多くの因子に依存するであろうことは理解される。本発明の方法で調節されうる生物活性の例には、所望の系統の細胞、標的細胞の増殖(「増殖」とは細胞数又は細胞の大きさの増加を意味する)、アポトーシス、走化性、レセプター結合活性及び酵素活性に対する標的細胞の分化を含むが、これらに限定するものではない。
【0029】
一実施態様では、標的細胞の生物活性は、本発明の方法における薬剤(一又は複数)によって、薬剤(一又は複数)に曝されなかった標的細胞の生物活性と比較して少なくとも20%調節(すなわち、増加又は減少)されている。
他の実施態様では、標的細胞の生物活性は、本発明の方法における薬剤(一又は複数)によって、薬剤(一又は複数)に曝されなかった標的細胞の生物活性と比較して少なくとも40%調節されている。
更なる実施態様では、標的細胞の生物活性は、本発明の方法における薬剤(一又は複数)によって、薬剤(一又は複数)に曝されなかった標的細胞の生物活性と比較して少なくとも60%調節されている。
【0030】
更に他の実施態様では、標的細胞の生物活性は、本発明の方法における薬剤(一又は複数)によって、薬剤(一又は複数)に曝されなかった標的細胞の生物活性と比較して少なくとも75%調節されている。
他の実施態様では、標的細胞の生物活性は、本発明の方法における薬剤(一又は複数)によって、薬剤(一又は複数)に曝されなかった標的細胞の生物活性と比較して少なくとも90%調節されている。
より更なる実施態様では、本発明の方法で調節される標的細胞の生物活性は標的細胞の分化であり、このとき「分化」なる用語は当分野で周知であり、より分化又は専門化した始原細胞を生産するための任意の幹細胞又は後代細胞(プロジェニー細胞)の潜在能力を包含することを意図し、好ましくは分化は薬剤に曝されなかった標的細胞の分化と比較して少なくとも1.5倍、より好ましくは3倍、最も好ましくは5倍増加する。
【0031】
本明細書中で用いられる「調節する」又は「調節された」は、標的細胞の生物活性の増減を意味する。生物活性の調節の程度は、本発明の方法で使用する薬剤(一又は複数)を除いて、薬剤(一又は複数)によって調節される生物活性及び生物活性を測定するために用いる特定のアッセイに依存するが、当業者は、測定する標的細胞の生物活性の増減を構成する、又は測定する標的細胞の生物活性を増減する薬剤(一又は複数)として候補薬剤(一又は複数)を同定する標的細胞の生物活性における統計学的に有意な変化を測定することができることは理解されるであろう。
当然のことながら、本発明の方法の標的細胞の生物活性を調節するために、一又は複数の薬剤に標的細胞を曝さなくてはならない。このとき「薬剤」とは標的細胞によって、又は標的細胞において生物応答を調節しうる天然に生じる分子又は人工的な分子を意味する。
【0032】
「天然に生じる分子」とは、例えば標的細胞によって又は標的細胞において生物活性を調節する分子を合成又は生産することによって、標的細胞によって又は標的細胞において生物活性を直接調節する、又は標的細胞によって又は標的細胞において生物活性を間接的に調節するための生物学的なシステムにおいてインビボで発見されている分子を意味する。このような分子の例には、タンパク質又はペプチド類、例えば、ホルモン類、増殖因子、サイトカイン、化学誘引物質及び酵素、このようなタンパク質又はペプチド類の断片及び抗体断片を含む抗体が含まれるが、これらに限定するものではない。一実施態様では、薬剤がペプチド、増殖因子又はサイトカインである場合、ひとたびエフェクター細胞によって組み換えて発現されると、エフェクター細胞から分泌されうる分子でなければならない。
【0033】
本明細書中で用いられる「酵素」なる用語は、レチノイン酸及び他のステロイドのような小分子を合成することができる酵素(標的細胞が曝される最終薬剤が酵素によって生産されて、エフェクター細胞から分泌される小分子である)、並びにタンパク質又は小分子を分解することができる酵素、例えば、レチノイン酸を分解することができるチトクロームP450ファミリーの酵素又はグルカゴン様ペプチド1を含む多数のペプチド類を分解することができる酵素DPP-が含まれるが、これらに限定するものではない。一実施態様では、薬剤がエフェクター細胞内で小分子を合成することができる酵素である場合、酵素は、エフェクター細胞内で組み換えて発現されるとエフェクター細胞から分泌されないタンパク質であってもよい。
【0034】
「人工的な分子」とは、生物系においてインビボでは発見されず、合成又は組み換え法によって産生され、天然の分子の機能を擬態する分子を意味する。
このような分子の例には、一又は複数の異なるタンパク質ないしはペプチド類の一部のキメラ、並びに天然に生じるタンパク質ないしはペプチド類の類似体又は誘導体が含まれる。
「類似体」とは、天然に生じるポリペプチドの一又は複数のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されている、及び/又は一又は複数のアミノ酸残基がポリペプチドから欠失している、及び/又は一又は複数のアミノ酸残基がポリペプチドに付加されているポリペプチドを意味する。一実施態様では、アミノ酸残基の付加又は欠失は、ペプチドのN末端及び/又はペプチドのC末端で起こりうる。他の実施態様では、天然に生じるポリペプチドの5以下のアミノ酸は、他のアミノ酸によって置換されている、及び/又は欠失している、及び/又は天然に生じるポリペプチドに付加している。更に他の実施態様では、天然に生じるポリペプチドの3以下のアミノ酸は、他のアミノ酸によって置換されている、及び/又は欠失している、及び/又は天然に生じるポリペプチドに付加している。
【0035】
「誘導体」とは、化学的に修飾されたペプチドないしはその類似体を意味し、このとき少なくとも一の置換基は非修飾ペプチドないしはその類似体に存在しないもの、すなわち、共有結合的に修飾されているペプチドであり、この修飾にはアミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステルなどが含まれるがこれらに限定するものではない。
当然のことながら、薬剤は標的細胞によって又は標的細胞において生物活性を単独で調節しうる、又は、薬剤は、他の薬剤の存在下にて標的細胞に提示される場合にのみ、生物活性を調節しうることが理解される。他の実施態様では、薬剤は、ある濃度で存在する場合に標的細胞によって又は標的細胞において生物活性を誘導し(又は抑制し)、異なる濃度で存在する場合に同じ生物活性を抑制する(又は誘導する)。
【0036】
本発明の方法を実施する際に、異なる細胞が異なる薬剤に反応し、異なる細胞が同じ薬剤に反応して、同じないしは異なる生物活性が増加ないしは低減しうることも理解される。ゆえに、本発明の方法に利用する薬剤(一又は複数)の選択は、本方法で利用される標的細胞、及び測定される標的細胞の生物活性に依存するであろう。
例えば、好中球などの標的細胞の走化性反応、又はβ細胞などの標的細胞の増殖を調節したい場合、単一薬剤への標的細胞の曝露でさえ、このような生物活性を調節するために十分でありうる。これに対して、標的細胞が幹細胞であり、所望の系統のより分化した細胞に分化するその能力を調節しようとする場合、薬剤の組合せは、所望の系統の細胞への選択標的細胞の分化を調節するためにより望ましいといえる。
【0037】
一実施態様では、標的細胞が胚性幹細胞であり、調節される生物活性が内胚葉、中胚葉又は外胚葉由来の細胞へのES細胞の分化である場合、本発明の方法に使用するための薬剤の選択は、標的ES細胞をどの所望の細胞系にしたいかによるであろう。
例えば、内胚葉へのES細胞の分化について、使用される薬剤は、TGFβスーパーファミリーのメンバー(特にNodal、BMP4及びアクチビン)、Wntファミリー(特にWnt3及びWnt8)、NotchリガンドΔ様-1及びJagged-1(別名Serrate-1)、及び、線維芽細胞増殖長因子(FGF )、上皮細胞増殖因子(EGF)、及びHedgehogファミリーを含む薬剤の群から選択されうる。また、レチノイン酸(RA)が使用される薬剤であってもよく、RAを合成する酵素であるRALDH2を発現するエフェクター細胞を用いて応用することができる(この場合「沈む」とは、RA分解酵素であるCYP26を発現するエフェクター細胞の集団であるとして用いてもよい。一実施態様では、TGFβ及びWntファミリーについて、「シンク」として分泌されたインヒビター、例えばコーディン、ノギン、フォリスタチン、セルベラス(Cerberus)、TGFβのLefty及びWntのsFrp及びDkkを用いることができる。
【0038】
中胚葉及び外胚葉へのES細胞の分化について、使用する薬剤の一覧は、内胚葉へのES細胞の分化の場合と基本的に同じであるが、外胚葉への分化の場合では、RA及び可能であればWntインヒビターによる処理によってES細胞を神経化(neuralize)した後にHedgehogによって刺激してもよい。予めES細胞を神経化する場合、SonicHedgehog(Shh)及びコーディン、ノギンを用いて、神経細胞を腹側化し、BMP7を用いて背側化してもよい。
細胞接着分子をコードする核酸分子をエフェクター細胞に形質移入する場合、上記の方法及び手段によって、薬剤(一又は複数)をコードする核酸分子をエフェクター細胞に形質移入してもよい。一実施態様では、内部リボソーム導入部位(IRES)を用いて、単一の核酸分子から細胞接着分子及び薬剤の発現を促してもよい。例えば、5'から3'位に、細胞接着分子をコードする遺伝子、IRES及び対象とする薬剤をコードする遺伝子を含有するコンストラクトを設定することができる。代替的な実施形態では、5'から3'位に、細胞接着分子をコードする遺伝子、IRES及び蛍光マーカータンパク質をコードする遺伝子を含有するコンストラクトを設定することができる。このようなコンストラクトの一例を図3に示す。
【0039】
本発明の方法の実施では、標的細胞の生物活性に対する薬剤(一又は複数)の影響を検出又は測定するために使用するアッセイの種類は、測定しようとする生物活性に依存し、この生物活性ごとに変更するであろう。
例えば、膵臓β細胞へのES細胞の分化を刺激するために本発明の方法を用いる場合、細胞培養物の細胞中の特定のマーカーの存在を検出することによってβ細胞の生産についてアッセイすることができる(例えば、β細胞のためには、インスリン+Nkx6.1+PDX+HlxB9+GLUT2+である)。このとき、このようなマーカーを測定するために使用するアッセイの種類には、mRNA検出(例えばRT-PCR、ノーザン、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ及びマイクロアレイ)及び免疫検出アッセイが含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、天然のβ細胞とES由来のβ細胞とのマイクロアレイ比較を行い、同じ揃いの遺伝子を発現していることを示すことができる。
【0040】
これに対して、膵臓β細胞へのES細胞の分化を刺激するために本発明の方法を用いる場合、グルコースなどの適当な刺激及びアルギニンなどの特定のアミノ酸に反応してインスリンを分泌する培養物中の細胞の能力についてアッセイすることができる。このとき、インスリン放出を測定するために有用なアッセイの例にはELISA及びRIAが含まれる。
当然のことながら、本発明の方法で利用されるアッセイがエフェクター細胞において発現される薬剤(一又は複数)によって標的細胞の生物活性の任意の調節を検出することができない場合、当業者は、陰性結果が実際に生物活性を調節することができない薬剤(一又は複数)によるものであるかどうかを決定するために行うことができる多くの試験があることを認識するであろう。
【0041】
例えば、標的細胞が複数の薬剤に曝されていた場合、標的細胞の生物活性に対する各薬剤の個々の影響を試験することができる。他の実施態様では、薬剤の活性を正確に測定するために既に示されているシステムにエフェクター細胞を置くことによって、エフェクター細胞において発現される薬剤が「活性」であることを確認することができる。更に他の実施態様では、生物活性の量及び形態でエフェクター細胞が薬剤を発現していることを決定するために、試験する薬剤に反応するレポーター遺伝子を標的細胞に形質移入することができる。また、標的細胞の生物活性を調節するための本発明の方法は、異なる薬剤(一又は複数)を発現するエフェクター細胞の2つの異なる集団を順に用いてもよい。例えば、ES細胞などの標的細胞を、増殖因子A及びBをコードする核酸配列を形質移入したエフェクター細胞の一集団に曝し、細胞Aを産生させ、エフェクター細胞の第一集団を、増殖因子C及びDをコードする核酸配列を形質移入したエフェクター細胞の第二集団と置き換え、細胞Bへの細胞Aの分化を刺激することができる。一実施態様では、エフェクター細胞の第一集団に、選択剤による処理によって形質移入細胞を除去する分子をコードする核酸配列を形質移入することによって、細胞培養物からエフェクター細胞の第一集団を除去することができる。このような手法の一例は、単純ヘルペスチミジンキナーゼをコードする配列をエフェクター細胞の第一集団に形質移入して、次いで、それらを取り除くために形質移入細胞をガンシクロビル(すなわち「選別剤」)にて処理することである。他の実施態様では、好適な選択系は、例えばテトラサイクリン/ドキシサイクリンによって制御される誘導性ジフテリア毒素A鎖コンストラクトであってもよい。
【0042】
当然のことながら、標的細胞の生物活性が調節された後に細胞培養物からエフェクター細胞を取り除くことが望ましいので、本発明の方法が連続して用いられない場合でもこのような手法を用いることができることが理解されるであろう。例えばまた、本発明の方法では、増殖因子A及びBをコードする配列を形質移入したエフェクター細胞(少なくとも一の細胞接着分子及び場合によって蛍光マーカータンパク質をコードする配列も形質移入しているエフェクター細胞)に標的細胞を曝す場合、エフェクター細胞を取り除くために選択剤に細胞培養物を曝すことができるように、選択剤による処理によって形質移入細胞を取り除く分子をコードする核酸配列をエフェクター細胞に形質移入することができる。
代替的な実施形態では、好適な抗生物質による細胞培養物の処理によって形質移入した標的細胞でなくエフェクター細胞が取り除かれるように、抗生物質耐性遺伝子をコードする配列を標的細胞に形質移入することによって、エフェクター細胞と標的細胞の細胞培養物から、エフェクター細胞を選択的に取り除いてもよい。例えば、標的細胞へのインスリンプロモーター-NeoRの形質移入を行って、非β細胞を取り除くことができる。
【0043】
本発明の標的細胞及びエフェクター細胞を培養する際に、使用する培地は、細胞が一般的に培養される任意の好適な培地でありうる。一実施態様では、使用する培地は、標的細胞が一般的に培養される培養培地であろう。
本発明の標的細胞及びエフェクター細胞をターゲティングするための好適な支持表面には、限定するものではないが、セラミック、金属、ガラス又はポリマー表面が含まれ、このような表面は、限定するものではないが、プラスチック皿、フラスコ及びマイクロタイタープレートを含む容器の形態であってもよい。
また、本発明は、本発明の方法に従って薬剤に曝された標的細胞、本発明の方法に従って薬剤に曝された標的細胞から生成された細胞、該細胞を含有してなる薬剤組成物、及び該細胞の使用方法に関する。
【0044】
さらに、本発明は、細胞培養物中に一又は複数の対象とする薬剤の連続的な濃度勾配を生じさせる方法であって、細胞接着分子(一又は複数)を発現する細胞が自己集合化凝集塊(self-assembling aggregates)を形成し、かつ組み換えて発現した薬剤(一又は複数)を分泌するために十分な時間の間、少なくとも一の細胞接着分子と一又は複数の対象とする薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞を培養して、これによって薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配が生じることを含んでなる方法を提供する。
【0045】
本明細書中で引用するすべての科学的な刊行物及び特許は、出典明記によって特別に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】「インデューサー細胞」(増殖因子Xを生成)及び標的細胞(ES)からなる細胞凝集塊の重力補助集合体化を示す。このときストークスの法則に従って細胞の凝集塊が単一細胞より速く沈降するであろう。図1Aは、インデューサー細胞及び標的細胞の集合体化のためのプロトコールを示す(インデューサーと標的細胞の実数は変化しうる)。図1Bは、集合体化過程を図示する(一定の比率でない)。図1Cは、単一のインデューサー/標的細胞集合体化を図示する。インデューサー細胞を赤で示し、標的細胞を淡青で示す。インデューサー細胞からの距離の増加を矢印で示し、近くに位置するがインデューサー細胞と等距離にある標的細胞を破線1で示し、インデューサー細胞と比較して(等距離)中間位及び遠位に位置する標的細胞をそれぞれ破線2及び3で示す。図1Dは、X(インデューサー細胞)の供与源からの距離に対する、標的細胞が曝されるX([X])の濃度の変化をグラフに示す。インデューサー細胞(図1Cの1、2及び3に対応)からの3つの分散距離と、標的細胞が曝されるX(1、2及び3)の対応する濃度を示す。破線1(図1C中)に沿って分布する標的細胞は、破線2(図1C中)に沿って分布する標的細胞より高い濃度のXに曝され、さらに破線2(図1C中)に沿って分布する標的細胞は、破線3(図1C中)に沿って分布する標的細胞より高い濃度のXに曝されるであろう。標的細胞が異なる濃度のXに対して異なる反応を示すことを考えると、破線1(図1C中)に沿って分布する標的細胞は、破線2(図1C中)に沿って分布する標的細胞と異なって反応し、さらに破線2(図1C中)に沿って分布する標的細胞は、破線3(図1C中)に沿って分布する標的細胞とは異なって反応するであろう。細胞が凝集するために必要とする実際の時間は細胞ごとに変化しうる。細胞は各工程で凝集するために24時間を要する場合もあり、懸滴全体の時間が培養皿の更なる培養の前の48時間に変わりうる。
【図2】ガンシクロビルに感受性のある蛍光タグ付加カドヘリン発現エフェクター細胞の生成のための手順を例示する。「E-cad」はE-カドヘリンを示し、「N-cad」はN-カドヘリンを示し、「R-cad」はR-カドヘリンを示し、「PGK-hsv tk」はホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターの制御下に単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子(hsv tk)をコードするプラスミドを示し、HATは、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを示す。図2に例示する手順では、チミジンキナーゼネガティブ(tk-)マウスL細胞をエフェクター細胞として用い、カドヘリンプラスミドを導入するために必要な初期安定性形質移入は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターの制御下に単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子(hsv tk)をコードするプラスミドを同時形質移入することによって行うことができ、hsv tkの発現によりtk-細胞がHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)耐性となる。したがって、hsv tk+クローンはHAT培地で選別し、結果として生じるクローンを増殖させた後に、蛍光顕微法によって蛍光タンパク質の発現についてスクリーニングし、ウェスタンブロット及び免疫細胞化学法によってカドヘリン発現についてスクリーニングすることができる。カドヘリン及び蛍光タンパク質の発現に加えて、結果として生じる単離されたクローンは、hsv tkの発現のためにガンシクロビルに対する感受性を獲得しているであろう。
【図3】「インデューサー細胞」(増殖因子Xを生成)及び標的細胞(ES)からなる細胞凝集塊のカドヘリン媒介性集合体化を示す。異なるカドヘリンを発現する2つの細胞集団を、特定のカドヘリンを発現する細胞が同じカドヘリンを発現する他の細胞と凝集するが異なるカドヘリンを発現する細胞とは凝集しないように、カドヘリン発現にしたがってこれらを分類する。図3Aは、インデューサー細胞及び標的細胞のカドヘリン媒介性集合体化のためのプロトコールを示す(インデューサーと標的細胞の実数は変化しうる)。図3Bは、集合体化過程を図示する(一定の比率でない)。図3C、単一のインデューサー/標的細胞集合体化を図示する。ここで、インデューサー細胞を赤で示し、標的細胞を淡青で示す。インデューサー細胞からの距離の増加を矢印で示し、近くに位置するがインデューサー細胞と等距離にある標的細胞を破線1で示し、インデューサー細胞と比較して(等距離)中間位及び遠位に位置する標的細胞をそれぞれ破線2及び3で示す。図3Dは、X(インデューサー細胞)の供与源からの距離に対する、標的細胞が曝されるX([X])の濃度の変化をグラフに示す。インデューサー細胞(図3Cの1、2及び3に対応)からの3つの分散距離と、標的細胞が曝されるX(1、2及び3)の対応する濃度を示す。破線1(図3C中)に沿って分布する標的細胞は、破線2(図3C中)に沿って分布する標的細胞より高い濃度のXに曝され、さらに破線2(図3C中)に沿って分布する標的細胞は、破線3(図3C中)に沿って分布する標的細胞より高い濃度のXに曝されるであろう。標的細胞が異なる濃度のXに対して異なる反応を示すことを考えると、破線1(図3C中)に沿って分布する標的細胞は、破線2(図3C中)に沿って分布する標的細胞と異なって反応し、さらに破線2(図1C中)に沿って分布する標的細胞は、破線3(図3C中)に沿って分布する標的細胞とは異なって反応するであろう。細胞がE-カドヘリンを発現する限り、インデューサー細胞はE-カドヘリンと異なる任意の分類のカドヘリンを発現しうる。例えば、インデューサー細胞においてN-カドヘリン、R-カドヘリン、P-カドヘリン又はL-カドヘリンのいずれかを発現すると同じ結果になるであろう。標的細胞がE-カドヘリン以外の他のカドヘリンを発現する場合、インデューサー細胞は標的細胞が発現するカドヘリンを除く任意のカドヘリンを発現しうる。
【図4】異なる2つの「インデューサー細胞」(それぞれ増殖因子X及びYを生成)及び標的細胞(ES)からなる細胞凝集塊のカドヘリン媒介性集合体化を示す。図4Aは、2つの異なるインデューサー細胞及び標的細胞のカドヘリン媒介性集合体化のためのプロトコールを示す(インデューサーと標的細胞の実数は変化しうる)。図4Bは、集合体化過程を図示する(一定の比率でない)。図4Cは、2つの異なる増殖因子の対向する勾配を得るために、標的細胞に関してインデューサー細胞X及びYの空間的分布の略図を示す。図4Dは、X及びY(インデューサー細胞X及びY)それぞれの供与源からの距離に対する、標的細胞が曝されるX([X])及びY([Y])の濃度の変化をグラフに示す。図4Eは、図4Aに示すプロトコールに従って集合体化したインデューサー細胞及び標的細胞の考えられる空間的分布を示す。図4Fは、図4C(1)及び4E(2)に示す軸に沿って、X及びY(インデューサー細胞X及びY)それぞれの供与源からの距離に対する、標的細胞が曝されるX([X])及びY([Y])の濃度の変化をグラフに示す。図4Gは、標的細胞が曝される増殖因子X及びYの濃度の変化が図4Hに示す変化による場合の軸の略図を示す。図4Hは、図4Hに示す軸に沿って、X及びY(インデューサー細胞X及びY)それぞれの供与源からの距離に対する、標的細胞が曝されるX([X])及びY([Y])の濃度の変化をグラフに示す。
【図5】E-cad発現(ES標的細胞をE++、Lインデューサー細胞をE+++として示す)が標的細胞(ES細胞として図に示す)においてよりインデューサー細胞(すなわち図のL細胞)において高い場合の、図4に示すプロトコールに従った自己凝集塊の集合体化を示す。図5に図示したように、E-cad発現が標的細胞においてよりインデューサー細胞において高い場合に、凝集塊は、標的細胞によって囲まれたインデューサー細胞を含有する。
【図6】E-cad発現(Lインデューサー細胞をE+、ES標的細胞をE++として示す)が標的細胞(ES細胞として図に示す)においてよりインデューサー細胞(すなわち図のL細胞)において低い場合の、図4に示すプロトコールに従った自己凝集塊の集合体化を示す。図6に図示したように、E-cad発現が標的細胞においてよりインデューサー細胞において低い場合に、凝集塊は、標的細胞によって囲まれたインデューサー細胞を含有する。
【図7】標的細胞におけるE-cad発現(Lインデューサー細胞をE+、ES標的細胞をE++として示す)がインデューサー細胞におけるものと等しい場合の、図4に示すプロトコールに従った自己凝集塊の集合体化を示す。図7に図示したように、標的細胞におけるE-cad発現がインデューサー細胞におけるものと等しい場合に、凝集塊は、インデューサー細胞と混合した標的細胞を含有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞の生物活性を調節するための方法であって、
A) 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
B) 該標的細胞の生物活性が細胞培養培地中の該薬剤(一又は複数)によって調節されるように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて標的細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
さらに、工程c) 前記標的細胞の前記生物活性に対する前記薬剤(一又は複数)の効果を検出又は測定することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される細胞接着分子が、カドヘリンスーパーファミリーのメンバーから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
カドヘリンスーパーファミリーのメンバーが、N-カドヘリン、E-カドヘリン、R-カドヘリン、P-カドヘリン及びB-カドヘリンからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
エフェクター細胞が、エフェクター細胞によって組み換えて発現される細胞接着分子の低い内在性発現を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞培養物中には少なくとも2つのエフェクター細胞の集団、すなわち第一細胞接着分子を組み換えて発現するエフェクター細胞の第一集団及び第二細胞接着分子を組み換えて発現するエフェクター細胞の第二集団がある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
エフェクター細胞の第一集団に、第一蛍光マーカータンパク質をコードする核酸配列が形質移入されており、エフェクター細胞の第二集団に、第二蛍光マーカータンパク質をコードする核酸配列が形質移入されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
選択剤の処理による形質移入細胞の除去を可能にする分子をコードする核酸配列が、エフェクター細胞に形質移入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤(一又は複数)が細胞培養培地中の薬剤と同じ分子(一又は複数)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤(一又は複数)がエフェクター細胞から細胞培養培地中に分泌される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤(一又は複数)及び細胞培養培地中の薬剤が異なる分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
エフェクター細胞において組み換えて発現される薬剤(一又は複数)が、エフェクター細胞からの分泌の際に細胞培養培地中の薬剤(一又は複数)であるエフェクター細胞内で分子を生産する酵素である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記標的細胞の前記生物活性が該標的細胞の増殖である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記標的細胞が膵臓β細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記増殖の調節が該増殖の増加である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記増殖の調節が該増殖の減少である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤が単一のポリペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
組み換えて発現されるポリペプチドがエフェクター細胞から細胞培養培地中に分泌される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記標的細胞の生物活性が走化性である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記標的細胞が単球、好中球又はマクロファージである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される薬剤が単一のポリペプチドである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
組み換えて発現されるポリペプチドがエフェクター細胞から細胞培養培地に分泌される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記標的細胞の前記生物活性が所望の系統の細胞への該標的細胞の分化である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記標的細胞が幹細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記幹細胞が胚性幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記幹細胞が成人の幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
さらに、工程c) 所望の系統の細胞への前記幹細胞の分化に対する前記薬剤(一又は複数)の効果を検出又は測定することを含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記幹細胞の分化に対する前記薬剤(一又は複数)の効果が、所望の系統の前記細胞のマーカーの所望の系統の前記細胞上の発現又は該細胞によって、工程c)において検出又は測定される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記薬剤(一又は複数)が、内胚葉への前記胚性幹細胞の分化を誘導又は促進する、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記薬剤(一又は複数)が、中胚葉への前記胚性幹細胞の分化を誘導又は促進する、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤(一又は複数)は、外胚葉への前記胚性幹細胞の分化を誘導又は促進する、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記幹細胞が造血幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記幹細胞が骨髄由来の幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記幹細胞が腸管の幹細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
前記腸管の幹細胞が分化する所望の系統の細胞が膵細胞、好ましくは内分泌細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
細胞接着分子を組み換えて発現する前記エフェクター細胞が、前記細胞培養物中で、同じ細胞接着分子を組み換えて発現する他のエフェクター細胞と細胞性凝集体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
さらに、工程b)の後に、工程a)のエフェクター細胞を前記細胞培養物から取り除くことを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
選択的にエフェクター細胞を取り除く選択剤の細胞培養物への投与によって、前記エフェクター細胞が細胞培養物から取り除かれる、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
選択剤の処理による形質移入細胞の除去を可能にする分子をコードする核酸配列が、前記エフェクター細胞に形質移入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
標的細胞の生物活性を調節する能力について候補薬剤を評価する方法であって、
a. 標的細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の候補薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による候補薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 該標的細胞の生物活性を検出するか又は測定すること、このとき、候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性の変化の検出又は測定により、細胞培養培地中の候補薬剤(一又は複数)が標的細胞の生物活性を調節することが可能なことが示されること
を含んでなる方法。
【請求項41】
細胞培養物中に候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性の変化が、候補薬剤(一又は複数)がある場合の標的細胞の生物活性を候補薬剤(一又は複数)がない場合の標的細胞の生物活性と比較することによって決定される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
膵臓始原細胞への胚性幹細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 胚性幹細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 胚性幹細胞が膵臓始原細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて胚性幹細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項43】
さらに、工程c)として、膵臓始原細胞への胚性幹細胞の分化を検出又は測定することを含んでなる、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
膵臓始原細胞への胚性幹細胞の分化が、前記細胞培養物中の膵臓始原細胞に特異的なマーカーの検出によって検出又は測定される、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
エフェクター細胞が線維芽細胞である、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
エフェクター細胞によって組み換えて発現される細胞接着分子がN-カドヘリン、E-カドヘリン、R-カドヘリン、P-カドヘリン及びB-カドヘリンからなる群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
β細胞への膵臓始原細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 膵臓始原細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 膵臓始原細胞がβ細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて膵臓始原細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項48】
さらに、工程c)として、β細胞への膵臓始原細胞の分化を検出又は測定することを含んでなる、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
β細胞への膵臓始原細胞の分化が細胞培養物中のインシュリン産生の検出によって測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
β細胞への膵臓始原細胞の分化が細胞培養物中のグルコース応答性細胞の検出によって測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
β細胞への膵臓始原細胞の分化が細胞培養物中のβ細胞に特異的なマーカーの検出によって測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
胚性幹細胞から膵臓始原細胞の単離集団を生産する方法であって、
a. 請求項41に記載の方法に従って膵臓始原細胞への胚性幹細胞の分化を刺激すること;そして、
b. 該膵臓始原細胞を単離すること
を含んでなる方法。
【請求項53】
膵臓始原細胞からβ細胞の単離集団を生産する方法であって、
a. 請求項46に記載の方法に従ってβ細胞への膵臓始原細胞の分化を刺激すること;そして、
b. 該β細胞を単離すること
を含んでなる方法。
【請求項54】
請求項51に記載の方法に従って生産される単離された膵臓始原細胞。
【請求項55】
請求項52に記載の方法に従って生産される単離されたβ細胞。
【請求項56】
請求項53に記載の膵臓始原細胞を含有してなる医薬組成物。
【請求項57】
請求項54に記載のβ細胞を含有してなる医薬組成物。
【請求項58】
1型糖尿病の治療方法であって、このような治療を必要とする被検体に請求項56に記載の医薬組成物の有効量が投与されることを含む方法。
【請求項59】
生物活性が請求項1に記載の方法に従って調節されている標的細胞の単離集団を生産する方法であって、
a. エフェクター細胞及び標的細胞の細胞培養物を、選択的にエフェクター細胞を取り除く選別剤にて処理すること;そして、
b. 処理した細胞培養物から該標的細胞を単離すること
を含んでなる方法。
【請求項60】
請求項58の方法に記載の生産される単離する標的細胞。
【請求項61】
細胞培養物中に一又は複数の対象とする薬剤の連続的な濃度勾配を生じさせる方法であって、細胞接着分子を組み換えて発現するエフェクター細胞が自己集合化凝集塊を形成し、かつ細胞培養培地に組み換えて発現した薬剤(一又は複数)を分泌するために十分な時間及び条件下にて、少なくとも一の細胞接着分子と一又は複数の対象とする薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞の細胞培養物を培養して、これによって細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の連続的な濃度勾配が生じることを含む方法。
【請求項62】
外胚葉細胞への胚性幹細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 胚性幹細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 胚性幹細胞が外胚葉細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて胚性幹細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項63】
内胚葉細胞への外胚葉細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 外胚葉細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 外胚葉細胞が内胚葉細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて外胚葉細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項64】
膵臓内胚葉細胞への内胚葉細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 内胚葉細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 内胚葉細胞が膵臓内胚葉細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて胚性幹細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項65】
内分泌細胞への膵臓内胚葉細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 膵臓内胚葉細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 膵臓内胚葉細胞が内分泌細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて胚性幹細胞を培養すること
を含んでなる方法。
【請求項66】
β細胞への内分泌細胞の分化を刺激する方法であって、
a. 内分泌細胞を含有する細胞培養物を、少なくとも一の細胞接着分子及び少なくとも一の薬剤を組み換えて発現するエフェクター細胞に曝すこと、このときエフェクター細胞による該薬剤(一又は複数)の発現により細胞培養培地中に薬剤(一又は複数)の濃度勾配が生じるものであり;そして、
b. 内分泌細胞がβ細胞へ分化するように、十分な時間の間、該エフェクター細胞の存在下にて胚性幹細胞を培養すること
を含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−546378(P2008−546378A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516266(P2008−516266)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062601
【国際公開番号】WO2006/134017
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(596113096)ノボ・ノルデイスク・エー/エス (241)
【Fターム(参考)】