細胞への薬物導入用組成物およびその方法
【課題】細胞内への薬物導入方法の提供
【解決手段】気体過飽和水に薬物を溶解し、物理的刺激を加えることで細胞内に薬物を導入する。
【解決手段】気体過飽和水に薬物を溶解し、物理的刺激を加えることで細胞内に薬物を導入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体過飽和水を含む細胞への薬物導入用組成物、気体過飽和水を用いた細胞への薬物導入方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜は主にリン脂質二重膜により構成され、外界から細胞内を隔て内部環境を一定に保っている。リン脂質は頭部と尾部からなり、頭部はコリン、リン酸からなり、親水性である。一方、尾部は炭化水素からなり、疎水性である。そのため極性を持つ体液中では尾部を内側に、頭部を外側にするようにリン脂質が二重の膜を形成している。このような構造を有するリン脂質二重膜は、本来、きわめて小さな分子か疎水性の炭化水素のような分子は通すが、大部分の分子やイオンを通さない。糖、アミノ酸、ペプチド、水溶性ビタミンなどは生体に必須な物質であるが、脂溶性が低く単純拡散で細胞膜を透過することは困難であるため、生体特異的な機能であるトランスポーター(輸送担体)を介して輸送される。また、ナトリウムやカリウム等の無機イオンは細胞膜に存在するチャネルというタンパク質を介して輸送される。しかしながら、薬物の大部分には特異的なトランスポーターやチャネルが存在せず、単純拡散で細胞膜を透過できなければ、事実上細胞内で利用されることはない。
近年、マイクロバブルが超音波照射による細胞への薬物、遺伝子のデリバリー効率を向上させることが報告されている(非特許文献1)。このマイクロバブルを利用した薬物・遺伝子デリバリーシステムは、体外からの超音波照射により目的組織にのみ低侵襲的な薬物・遺伝子デリバリーを可能とする新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)として期待されている。
ここで、マイクロバブルは液体中で崩壊しやすく、液体中にマイクロバブルを安定に保持することは難しい。そのため、マイクロバブルの崩壊や液体への溶解を防ぐために、たんぱく質などの物質でシェル(殻)を形成し、安定性を高めたマイクロバブルがこれまでに開発されている(特許文献1)。
しかし、膜の形成によって安定化されたマイクロバブルであっても長期に気泡を安定に存在させることは難しく、マイクロバブルの溶液の調製後すぐに使用する必要がある。
また、シェル(殻)を形成する物質としてアルブミンや卵由来タンパク質が用いられているが、抗原性がありアレルギー反応を惹起する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−507931号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Teupe C., et al. Circulation 2002; 105: 1104-1109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な態様において、気体過飽和水を含む細胞への薬物導入用組成物、気体過飽和水を用いた細胞への薬物導入方法等が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、気体過飽和水を作成し、該水溶液と物理的刺激を併用することで細胞内へ薬物を導入できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、気体過飽和水を含有する細胞内への薬物導入用組成物、および気体過飽和水を用いた細胞内への薬物導入方法等に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に関する、気体過飽和水を含む組成物は、細胞への薬物導入用組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】気体過飽和水製造装置の一例を示すブロック図である。
【図2】気体過飽和水製造装置の一例を示す概略図である。
【図3】気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ、気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ、気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図6】気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図7】気体過飽和水の製造温度と気体発生量との関係を示す図である。
【図8】気体過飽和水を4、20、37℃の各温度で製造し、37℃にした後発生する気体発生量を示す図である。
【図9】溶媒による気体発生量の変化を示す図である。
【図10】溶媒混合時の気体発生量の変化を示す図である。
【図11】気体過飽和水に超音波照射をした様子を示す写真であり、(a)は照射前、(b)は照射後の状態を示す。
【図12】脂肪酸を複合化させた気体過飽和水の写真である。
【図13】(a)は33℃、pH2.2の条件に調整された気体過飽和水の外観を示す写真である。(b)は(a)で示される水溶液に超音波を照射した様子を示す写真である。
【図14】気体過飽和水および超音波照射を用いたPI(プロピジウムイオダイド)の細胞内への導入を示す写真である。
【図15】気体過飽和水および超音波照射を用いたPIの細胞内への導入を示す写真である。
【図16】各過飽和度でのTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す図である。
【図17】過飽和度によるPIの導入効率の変化を示す図である。
【図18】周波数:1.0MHzの超音波の各照射強度におけるTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す。
【図19】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率を示す。
【図20】周波数:1.0MHzの超音波の各照射強度におけるTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す。
【図21】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率(PIが導入された細胞数/総細胞数)を示す。
【図22】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率(PIが導入された細胞数/超音波照射後の生存細胞数)を示す。
【図23】周波数:3.4MHzの超音波を照射した場合の細胞内へのPIの導入を示す。
【図24】周波数:1.0MHzの超音波を照射した場合の細胞内へのPIの導入効率を示す。
【図25】飽和量の空気を含む培地(図中の飽和水)と過飽和量の空気を含む培地(図中の過飽和水)を用い、超音波付与(図中のUS)した場合の細胞内へのPI導入効率を示す。
【図26】気体としてC3F8ガスを用いた気体過飽和水および超音波照射を用いたPIの細胞内への導入効率を示す。
【図27】気体過飽和水と超音波用マイクロバブル(超音波遺伝子導入用造影剤:SV−25、ネッパージーン社)との比較を示す。
【図28】気体過飽和水と超音波付与による緑色蛍光タンパク質遺伝子の細胞内への導入および導入された遺伝子の発現を示す図である。
【0010】
本発明は1つの態様として、気体過飽和水を含む、細胞への薬物導入用組成物を提供する。気体過飽和水は、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液であり得る。また、気体過飽和水は薬物を含み得る。さらに、薬物は該水溶液に溶解していてもよい。
気体過飽和水とは、気体が飽和溶解量を超えて含まれる水性液体である。気体過飽和水には、気体が過飽和量存在している。
【0011】
飽和溶解量とは、気体について言う場合には、本発明を実施する環境下で液体に溶解する最大体積を意味する。液体に対する気体の飽和溶解量は、液体および気体の種類、温度、気圧等により変化する。よって、飽和溶解量は、気体、その媒体となる液体の種類は同じであっても、環境により相違する。
例えば、1気圧での酸素の水1Lに対する飽和溶解量は、0℃で48.9mL、15℃で37.5mL、20℃で35.7mL、25℃で33.5mLと変化する。
飽和溶解量の例としては、以下が挙げられる:
(1)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、36.18mg/L;
(2)20℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、23.80mg/L;
(3)25℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、21.95mg/L;
(4)37℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、18.68mg/L;
(5)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する窒素の飽和溶解量は、14.68mg/L;
(6)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する酸素の飽和溶解量は、14.16mg/L;
(7)25℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する水素の飽和溶解量は、14.39mg/L。
気体の飽和溶解量はヘンリーの法則から算出できる。
【0012】
水性液体とは、溶媒が水である溶液である。水性液体の種類は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。本発明においては、細胞と浸透圧が等しい、所謂等張液を使用してもよい。
等張液の例としては、生理食塩水、PBS(PBS(+)およびPBS(−)を含む)、細胞培養液が挙げられる。細胞培養液は当業者により適宜選択され得る。細胞培養液の例としては、DMEM、EMEM、RPMI1640、MS培地、LB培地等が挙げられる。また、細胞培養液は血清(例えば、ウシ胎児血清)を適量(例えば、10%)含んでもよく、血清を含まない無血清培地でもよい。
【0013】
上記のとおり、液体に対する気体の飽和溶解量は、気体の種類、温度、気圧等により変化するので、気体過飽和水に含まれる気体の体積も、環境により相違する。例えば、気体過飽和水に含まれる気体の体積は、25℃、1気圧で測定され得る。
気体過飽和水は、例えば、0.6MPaの圧力下で気体を水に混合させて作成することができる。気体過飽和水に物理的刺激(例えば、超音波刺激、熱刺激等)が付与されると包含されている気体が溶媒から分離され、微小気泡となって出現する。
例えば、気体が空気である気体過飽和水は、超音波照射により微小気泡が発生し、微小気泡の気体の総体積は、1Lの水中に20mL〜65mL、20mL〜40mL、または30mL〜40mL(1気圧、25℃での体積)となる。
また、気体がC3F8ガスである気体過飽和水は、超音波照射により微小気泡を発生し、その総体積は、1Lの水中に、10mL〜30mL、10mL〜25mL(1気圧、25℃での体積)となる。
気体過飽和水に含まれる気体の量は、その気体の飽和溶解量に対する比で表すことができる。例えば、空気が、25℃、0.1MPa(約1気圧)で43.90mg/Lの量含まれている気体過飽和水は、25℃、0.1MPa(約1気圧)の飽和溶解量が21.95mg/Lであるから2倍の気体量が含まれていると表すことができる。また、飽和溶解量に対する比を過飽和度と表現してもよい。つまり、25℃、0.1MPa(約1気圧)の飽和溶解量の2倍の気体量が含まれていれば、過飽和度は2である。
薬物を細胞内へ導入する為に、適宜、気体過飽和水に含まれる気体量を設定できる。例えば、過飽和度1.26以上の気体過飽和水(例えば、過飽和度1.26〜18.2、2.92〜18.2、5.0〜18.2、または10.0〜18.2の気体過飽和水)を用いて、薬物を細胞内へ導入してもよい。
薬物の細胞内導入に必要な気体発生量は、例えば、溶媒1Lあたり、20mL〜65mL、または25mL〜50mL(1気圧、25℃での体積として)である。
【0014】
気体は、易溶性のものであっても難溶性のものであってもよく、液体として水を使用する場合は、空気または空気よりも水に対する溶解度が低い気体であっても高い気体であってもよい。本発明において使用できる気体の例としては、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素、オゾンが挙げられ、それらの任意の混合気体であってもよい。フルオロカーボンの例としては、CF4、C2F6、C3F6、C3F8、C4F6、C4F8、C4F10、C5F10、C5F12、C6F14が挙げられる。
【0015】
物理的刺激とは、気体過飽和水に与えたとき、キャビテーションが発生する刺激であれば特に限定されない。本発明において使用できる物理的刺激の例としては、振動刺激、衝撃刺激等が挙げられる。このような物理的刺激を与える手段の例としては、超音波照射が挙げられる。超音波刺激は、例えば、ソニトロン2000V、ソノポール4000、ソノビスタMSC1585プローブ(持田シーメンス製)、超音波洗浄槽VS-F100(Velvo-clear製)等の当業者に知られている任意の装置を用いて与えることができる。
超音波刺激の強度と周波数は当業者が適宜設定できる。
例えば、超音波の強度を0.06〜0.1W/cm2、0.03〜1W/cm2または0.03〜5W/cm2と設定してもよい。また、超音波の周波数を、例えば、50KHz〜3.4MHz、または1.0MHz〜3.4MHzの範囲に設定してもよい。
超音波強度の範囲は、本発明者らが後述の実験で微細物導入効果を確認した超音波刺激の範囲である。
また、50KHzの周波数は、本発明者らが後述の実験で微小気泡の発生を確認した刺激の周波数であり、1.0MHz、3.4MHzは、本発明者らが後述の実験で微細物導入効果を確認した値である。
【0016】
微小気泡とは、微小な大きさの泡のことである。微小気泡の大きさは特に限定されないが、1nm以上1000μm以下、10nm以上100μm以下、10nm以上10μm以下、100nm以上10μm以下または1μm以上10μm以下であり得る。例えば、微小気泡は、1μm以上20μm以下であり得る。
物理的刺激により発生する微小気泡の密度は、特に限定されないが、例えば、溶液1mL中1×106〜1×109個または1×107〜1×108個であってもよい。
【0017】
本発明において、使用する薬物は、特に限定されない。薬物の例としては、ペプチド、抗体、オリゴ糖、多糖、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム、トリプルへリックス分子、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物が挙げられる。
本発明の薬物導入方法により、遺伝子発現ベクターなどの大きな分子が導入され得ることから、当業者は、適宜、細胞内に導入する薬物を選択することができる。例えば、導入する薬物の分子量は、3X106以下、1X106以下、1X105以下、1X104以下、1X103以下、または1X102以下であり得る。
上記で例示した薬物は、本分野で既知の方法により調製される。
ペプチドは、限定はされないが、特異的なトランスポーターが導入する細胞に発現していないペプチドであり得る。ペプチドは、化学合成により調製しても、組換DNA技術を用いて適切な宿主(例えば、大腸菌)により生産させてもよい。
抗体は、限定はされないが、細胞内に発現するタンパク質を抗原とする抗体であり得る。抗体の由来は特に限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等の抗体であり得る。また、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、それらの抗体断片(例えば、Fab断片)であってもよい。
オリゴ糖は、限定はされないが、2分子以上20分子以下の単糖がグリコシド結合により結合して1分子になったものであり得る。
多糖は、限定はされないが、20分子を超えた単糖が結合して1分子になったものであり得る。
【0018】
オリゴヌクレオチドは、限定はされないが、DNA、RNA、それらの誘導体であってもよく、一本鎖でも二本鎖でも、直線状でも環状であってもよい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的とするmRNAにハイブリッド形成してmRNAのタンパク質への翻訳を阻害するように調製できる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの誘導体であってもよく、また、一本鎖でも二本鎖であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、限定はされないが、ホスホロチオエート等のリン酸骨格を含むことができる。
siRNAは、限定はされないが、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制するように設計されることができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAは、翻訳段階を阻害するので、細胞の核内に到達しなくても、細胞質に到達できれば、標的とする遺伝子の発現を抑制することができる。
リボザイムは、限定はされないが、RNAの特異的な切断を触媒することができる酵素的RNA分子である。特異的な認識部位でmRNAを切断するリボザイムの例としては、ハンマーヘッドリボザイムが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとは異なり、リボザイムは酵素的であるので、低い細胞内濃度が効率化のために要求される。
トリプルへリックス分子は、限定はされないが、標的遺伝子の発現を抑制するように、当業者により設計されることができる(例えば、Lee et al., Nucleic Acids Research 6:3073(1979)等参照)。
ウイルスベクターおよびプラスミドは、限定はされないが、細胞内での遺伝子発現の目的で使用され得る。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。プラスミドの例としては、neo遺伝子を含み、G418により形質転換体を選択できるベクターが挙げられる。ベクターは、細胞内に導入され発現させる所望の遺伝子を含むことができる。
細胞内に導入する遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム、トリプルへリックス分子、ウイルスベクターまたはプラスミドは、例えば、10bp〜50kbp、10bp〜10kbp、10bp〜5kbp、10bp〜4.7kbp、10bp〜3kbp、10bp〜1kbp、10bp〜100bpまたは10bp〜30bpであり得る。
有機化合物とは、限定はされないが、炭素原子を構造の基本骨格に持つ化合物であり得、炭素原子の他に、窒素、酸素、硫黄、燐、ハロゲン原子等を含み得る化合物である。低分子有機化合物は、例えば、アミノ酸、単糖、水溶性ビタミン(例えばビタミンB1、B2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、アスコルビン酸)であり得る。また、低分子化合物の分子量は、例えば、50以上668以下、100以上668以下、100以上500以下であり得る。
細胞膜透過性が低い化合物を、本発明において薬物として使用してもよい。
【0019】
薬物の気体過飽和水への溶解は、当業者により適宜行われる。例えば、気体過飽和水を作成した後に当該水溶液に薬物を溶解してもよく、気体過飽和水の作成時に薬物を溶解させてもよい。
通常、薬物を含む水溶液を細胞に接触させる前に、薬物を含む水溶液に20kHz程の超音波を付与することで、薬物が付着したマイクロバブルを調製することもできるが、本発明に係る組成物については、細胞に接触させる前に超音波を照射しても、しなくてもよい。つまり、薬物を含む水溶液は、細胞に接触させる前にマイクロバブルを含んでいても、含んでいなくてもよく、細胞に接触した後に、例えば1.0〜3.4MHzの超音波を照射することで、薬物が付着したマイクロバブルを形成することができる。
薬物が遺伝子であれば、本発明の組成物により細胞に導入され、その結果、当該遺伝子が発現し得る。よって、本発明は一つの態様として、気体過飽和水、および該水溶液に溶解した遺伝子を含む、細胞への遺伝子導入用組成物を提供する。遺伝子は、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれてもよい。
【0020】
細胞の由来は、ヒト由来の細胞であっても、ヒト以外の哺乳類由来の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても浮遊細胞であってもよい。
本発明で使用できる細胞の例としては、HL60細胞、CHO細胞、COS細胞、293細胞、血管内皮細胞等が挙げられる。また、本発明の組成物を使用できる組織の例としては、血管、角膜、骨格筋、心臓、脳(大脳、中脳、小脳、延髄)、肝臓が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる気体過飽和水には、シェル(殻)に囲まれた気泡は存在してもしなくてもよい。よって、本発明に用いる気体過飽和水は、殻を形成する物質として、アルブミン、γグロブリン、卵由来の物質(例えば、水素添加卵黄)、脂質(例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルセリンナトリウム)、ポリマー(例えば、PLGA)、糖類(例えば、βラクトース、ガラクトース)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸)、界面活性剤、および/またはリポソームを含んでも含まなくてもよい。
【0022】
本発明は別の1つの態様として、(i)気体過飽和水であって薬物を含む水溶液と細胞を接触させる工程;および(ii)物理的刺激を与える工程、を含む、細胞への薬物導入方法を提供する。薬物は、気体過飽和水に溶解されていてもよい。
薬物には遺伝子が含まれるので、本発明は一つの態様として、以下の工程:
(i)気体過飽和水であって遺伝子が溶解している水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、細胞への遺伝子導入方法、を提供する。遺伝子は、ベクター、例えばプラスミド、ウイルスベクターに含まれ得る。
上記薬物導入方法は、in vitroまたはin vivoで実施され得る。
気体過飽和水は、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液であり得る。
飽和溶解量、気体、物理的刺激、微小気泡、薬物、水溶液、細胞等の用語については、上記に説明した。
上記薬物導入方法をin vivoで実施する場合に用いる超音波発生装置は、当業者により適宜選択され得る。
【0023】
本発明において、気体過飽和水は、例えば、以下の工程:
(i)液体を圧送する工程;
(ii)圧送された液体に気体を注入する工程;
(iii)気体を注入された液体を加圧し気体を溶存する工程;および
(iv)気体が溶存した液体を圧送しながらその圧力を大気圧まで減圧する工程、
を含む方法により製造される。
図1は、気体過飽和水の作成手順の一例を示す。
上記(i)−(iv)の工程を実施する温度は特に限定されない。例えば溶媒に水を用いるのであれば、液体として存在する0℃〜100℃において気体過飽和水は作成可能である。
微小気泡の発生量を多くするためには、加圧時の圧力を一定とするならば、より低温で作成するのが好ましい。
本発明者らは後述の実験により、上記(i)−(iv)の工程を実施する温度が低いほど、微小気泡の発生量が多いことを確認した。
例えば、溶媒を水とするならば、水溶液が凍らない低温、0℃〜10℃、4℃〜20℃または4℃〜10℃で上記(i)−(iv)の工程を実施すれば微細気泡の発生量を増加させることができる。
また、上記工程は使用温度よりも低い温度で実施されることが好ましい。
一般的に、生体内や細胞に薬物を適用する場合、約37℃で使用すること想定されるので、37℃より低い温度(例えば、0℃より高く37℃より低い温度)で気体過飽和水を作成してもよい。
本発明者らは後述の実験により、想定使用温度である37℃で上記(i)−(iv)の工程を実施した組成物と4℃で上記(i)−(iv)の工程を実施し、37℃まで加温した組成物とを比較し、後者の方が微小気泡の発生量が多いことを確認した。よって、本発明は、一つの態様として、37℃より低い温度(例えば、0℃より高く20℃より低い、0℃より高く10℃より低い、または4℃より高く10℃より低い温度)で、上記(i)−(iv)の工程を実施することを含む、気体過飽和水の製造方法を提供する。
【0024】
また、気体過飽和水の製造は、装置を用いて機械的に製造することができる。例えば、給水配管や液体貯留槽などの液体供給源から液体を取り入れる入液部と、入液部から入った液体に気体を供給する気体供給部と、気体が供給された液体を加圧する加圧部と、気液を混合する気液混合部と、この気液混合液から余分な気体を分離する気体分離部と、加圧状態の気液混合液を溶液内に気体がとどまるように大気圧まで減圧する減圧部と、減圧された溶液を吐出する吐出部と備えており、各部は流路に接続して設けられている装置を使用して製造することができる。
該装置は、減圧部の流出側から直径1μmを越える気泡の発生のない気体溶存液を連続的に吐出させる装置であってもよい。よって、気体過飽和水は、直径1μmを越える気泡の存在しない水溶液であってもよい。
このような装置の例としては、図2に示されるような製造装置Xが挙げられる。
図1は、気体過飽和水の製造装置Xの一例を示すブロック図である。気体過飽和水を製造する装置Xは、気体Gsと液体Lqとを混合する気液混合部53と、この混合された気液を加圧する加圧部51と、混合された気液から余分な気体を分離する気体分離部54と、混合し加圧された気液混合体を減圧する減圧部55とが備えられており、最終的に気体過飽和水が得られる。
【0025】
図2は、気体過飽和水の製造装置Xの具体的な一例を示す概略図である。図2の装置Xは、液体を圧送して連続的に気体過飽和水を製造するものであり、給水配管や液体貯留槽などの液体供給源から液体を取り入れる入液部63と、入液部63から入った液体に気体を供給する気体供給部52と、気体が供給された液体を加圧する加圧部51と、気体と液体を混合する気液混合部53と、この気液が混合した液体(気液混合液)から余分な気体を分離する気体分離部54と、加圧状態の気液混合液を大気圧まで減圧する減圧部55と、減圧された気液混合液を吐出する吐出部57とを備えており、各部は流路56に接続して設けられている。
【0026】
流路56は、装置Xの各部同士や各部と外部とを接続し、液体を上流から下流に流すものであり、例えばパイプなどの管体で構成される。加圧部51と気液混合部53と気体分離部54と減圧部55とは、上側に向かって径が小さくなるテーパ状の円筒型の筐体62にこの順で下側から上側に配置して収容されている。流路56は、筐体62より上流側の流路56a、筐体内の流路56b、筐体62より下流側の流路56cにて構成されている。流路56bは筐体全体として上方向に向かって液体が流れるように形成されている。
【0027】
入液部63は、装置Xの外部にある液体供給源から装置の内部に液体を入れるためのものであり、図2の形態では液体供給源と接続する流路56aの管体の入口として構成されている。この入液部63には、開閉して液体の流入量や圧力を調節できる調節弁などを設けてもよい。
【0028】
気体供給部52は、液体を流れる流路56(流路56aまたは56b)などに接続されることにより液体に気体を供給して注入するものであり、図示の形態では管体などにより構成されている。そして、例えば気体として空気を注入する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路56に接続して気体供給部52を形成することができる。あるいは気体として、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素、オゾン等を供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路56に接続して気体供給部52を形成することができる。また、オゾンを供給する場合は、気体供給部52をオゾン発生機に接続し、空気から生成したオゾンを供給するようにしてもよい。流路56への気体供給部52の接続位置は、気液混合部53よりも上流側の位置であればよい。この装置のように、加圧部51と気液混合部53とが同体となってポンプ61で構成されている場合は加圧部51より上流側の流路56に接続することになる。また、加圧部51と気液混合部53とが別体で構成されている場合は、加圧部51より上流側の流路56に接続するようにしても、あるいは加圧部51より下流側の流路56に接続するようにしてもいずれでもよい。
【0029】
ここで、薬物を物理的刺激により発生する微小気泡に付着させる場合には、予め薬物を液体に分散・混合しておき、この液体を入液部63に送ってもよく、気体過飽和水を製造した後に薬物を溶解させてもよい。
【0030】
加圧部51は液体を圧送するものであり、例えば、この装置のように、液体供給源から送られた液体を加圧して下流側に送りだすポンプ61などで構成することができる。また、ポンプ61により構成した場合は、このポンプ61で液体貯留槽に常圧で貯留された液体を汲み上げるようにしてもよい。
【0031】
気液混合部53は圧送された液体とこの液体に注入された気体とを混合し、加圧により気体を微細な気泡にして液体中に分散・混合させるものである。気液混合部53としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路56を流れているのであれば単に流路56で構成することもできる。図2の形態では、加圧部51と気液混合部53とが兼用されてポンプ61で構成されて設けられている。気液混合部53内においては液体と気体が高圧条件で混合される。
【0032】
上記のような加圧部51および気液混合部53を構成するポンプ61により、気体が注入された液体に急激に圧力が加わって、飽和溶解量以上の気体が液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧にする際、加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、また、気液混合部53から気体分離部54に送り出される際の液圧を0.15MPa以上にすることにより、飽和溶解量以上の気体が液体に分散することができる。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP1/tの上限は167MPa/secであり、加圧された水溶液の圧力の上限は50MPaである。
【0033】
図3は、ポンプ61の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ61aは回転体71の回転により液体を加圧するものであり、回転体71に取り付けられた回転翼72が連続的に回転してポンプ入口76からポンプ流路室73を介してポンプ77への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図3において白抜き矢印は液体方向の流れ方向を示し、実線矢印は回転体71の回転方向を示している。このポンプ61aでは4枚の回転翼72が備えられている。また回転体71の回転軸75は、円筒状に形成されたポンプ壁74の円筒中心よりもポンプ出口77側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸71の偏心によりポンプ流路室73の第二流路室73bの容積は、第一流路室73aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室73の容積が順次小さくなっている。
【0034】
そして、ポンプ流路室73に送りだされた液体は、回転翼72で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡BBが細分化されて微細な気泡BNが液体中に分散される。すなわち、回転体71の回転と共に第一流路室73aから第二流路室73bに送られた液体は、ポンプ流路室73の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力により気泡BNが生成される。また、図示のポンプ61aでは、ポンプ壁74の内面と回転翼72の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡BB)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細な気泡(BN)になる。ここで、ポンプ壁74の内面と回転翼74の内面と回転翼72の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離LCは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体71を用いたポンプ61aによれば、回転体71で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断して微細な気泡を形成することができる。なお、ポンプ61中では、高圧液体中に気体が高濃度で含まれた状態となっている。
ポンプ61の回転体71の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させることができる。
【0035】
加圧部51および気体混合部53による加圧は、加圧部51または気液混合部53を複数設けて、複数回加圧することができる。具体的には、加圧部51を図2のようにポンプ61で構成すると共に、気液混合部53を一つ又は二つ以上のポンプ61又はベンチュリ管で構成することができるものである。
【0036】
気体分離部54は上記のようにして気体が混合された液体から、液体に微細に混合されていなかったり溶存できなかったりする気体を取り除くものである。このような過剰の気体は径の比較的大きい気泡として存在しており、この気泡を取り除けば過剰の気体を分離し除去することが可能である。
【0037】
気体分離部54は、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにした管体などで構成することができる。取り除かれた気泡は気体となって上部に集積するので。この除去された気体を気体除去部58により取り除くことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡は、浮力により上昇するので、取り除くことができる。
【0038】
気体分離部54としては、具体的には、図4のような構成にすることができる。(a)は、地表面に略水平(重力方向に対して略垂直な平面上)になるように形成し、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(b)は、形状が正面視逆L字型になるように形成し、液体Lqの流れ方向を水平方向から下方向(重力方向と略同方向)に変化させて液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(c)は、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。気体分離部54によって分離された気泡は、管体などで構成された気体除去部58から外部に排出される。
【0039】
減圧部55は気体が混合された液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧により気体と混合された液体は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、キャビテーションが発生することがある。そこで、減圧部55で大気圧まで徐々に減圧した後に吐出するようにしているものである。減圧部55は、気体が混合された液体を送りながら配管全域での減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして減圧するように構成されている。それにより、キャビテーションが発生することなく溶液を取りだすことができるものである。
【0040】
減圧部55としては、図5のような構成にすることができ、具体的には、(a)のように流路断面積が段階的に徐々に小さくなる流路56や、(b)のように流路断面積が連続的に徐々に小さくなる流路56や、(c)のように加圧された液体が流路56内を流れる圧力損失により高圧状態(P1)の気液混合液の圧力を徐々に低下させて(P2、P3、・・・)大気圧(Pn)まで減圧するように長さ(L)が調整された流路56や(d)のように流路56に設けられた複数の圧力調整弁59などにより構成することができる。
【0041】
例えば図5(a)又は(b)のような減圧部55を用いた場合、減圧部55よりも上流側の流路56を内径20mmにし、減圧部55を、流路の長さが約1cm〜10mで、内径が20mmから4mmにまで徐々に小さくなることにより流路断面積が小さくなる管体により構成することができる。なお、減圧部55は、入口内径/出口内径=2〜10程度に設定したり、1cmあたりの内径減少値を1〜20mm程度に設定したりすることができる。このとき、減圧部55に気液混合液を流速4×10−6m/s以上で送ると、減圧速度2000MPa/sec以下で、キャビテーションを発生させることなく1.0MPa減圧することができ、液体を大気圧にまで減圧することができる。
【0042】
減圧された液体は吐出液57から外部に吐出される。なお、その際、図6のように、流路56bと流56cとの間に、加圧部51における液体の押し込み圧を十分に確保するために延長流路60を設けることができる。すなわち、減圧部55を含めた全体の圧力損失を算出し、加圧部51からの押し込み圧によって気液混合部53内で液体と気体を加圧するのに必要な圧力と、全体の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の圧力損失が生じるように流路長さを調整した延長流路60を流路56に付加するようにしてもよい。押し込み圧の確保には絞り部などを設けることも考えられるが、絞り部などで押し込み圧を調整すると急激な圧力変化により気泡が崩壊するおそれがある。しかし、このように延長流路60を設ければキャビテーションの発生なく、気体過飽和水を吐出することができる。
【0043】
上記のように構成された装置Xにあっては、入液部63から入った液体に、気体供給部52により気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、ポンプ61で構成された加圧部51及び気液混合部53によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、気液混合部53から気液分離部54へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、気体分離部54で液中の余分な気体を取り除いた後、該液体を減圧部55及び下流側の流路56に送りながら最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、キャビテーションの発生なく、気体過飽和水を連続的に生成することができる。
【0044】
なお、気液混合部53よりも下流側の流路56は内径2〜50mm程度の管体などに形成することができる。それにより、比較的太い流路断面積で気体過飽和水を吐出することができ、細路により流路56を構成する場合のような配管の詰まりを防止できる。
【0045】
そして、吐出部57から吐出された気体過飽和水は、適切な剤形の製剤に加工される。例えば、静脈内投与するために注射器に封入されたり、経口投与するためにアンプルやバイヤルに詰められたり、経皮投与するために袋体に封入されたりすることができる。このように製造された製剤は、容器内においても気泡が発生することなく安定に存在するものであるので、気泡を要時調製するなどの手間を必要とすることなく、簡単に効率よく多量の気泡を体内に投与することができる。
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1
[気体過飽和水の製造]
装置Xを用い、気体として後述の各種の気体を用い、液体として後述の液体をもちいて気体過飽和水を製造した。
装置Xとしては、気液混合部53がポンプ61で構成された、図2の構成のものを用いた。ポンプ61としては回転体により加圧する図3のようなポンプ61aを用いた。
【0048】
気体と液体の比(液体に対する気体の注入量)は、容積比(体積比)で1:1に設定した。また、ポンプ61の回転体71の回転数は1700rpmに設定した。この条件により大気圧(0.1MPa)の水に気体が注入された後、加圧速度ΔP1/t=28.3MPa/secで加圧されて、気液混合部53から気体分離部54に送り出される際の水溶液の圧力が0.6MPaになった。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入される。
【0049】
また、減圧部55よりも上流側の流路56(56b)を内径20mmのものにした。減圧部55としては図5(a)のような、3段階で内径が徐々に小さくなるものを用い、具体的には、内径が14mm、8mm、4mmで長さが各約3.3mm(減圧部55の全長として約1cm)の三つの流路管部からなるものを用いた。また、減圧部55よりも下流側の流路56および延長流路60として、内径4mm(外径6mm)のホースを用い、下流側の流路56と延長流路60とを合わせた長さが2mとなるように設定した。この条件により、減圧部55において、最高減圧速度60MPa/sec、時間0.0025秒で水溶液を減圧し、さらに、下流側の流路56および延長流路60において、1MPa/sec、時間0.5秒で水溶液を減圧し、ホース先端部から、大気圧(0.1MPa)まで減圧された気体過飽和水が得られた。
【0050】
[発生する気体量の測定]
液体として超純水を、気体として空気を用い、4℃、20℃、37℃で、上記のように0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより気体過飽和水を作成した。作成直後に封止して、一部は37℃に加温し、その後、水溶液を25℃にした。水溶液中に過剰量含まれている気体(空気)の量を以下の(1)−(4)のように測定した。
(1)ナイロン樹脂製のガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に気体過飽和水を密閉し;
(2)ガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に密閉された水溶液をホットプレート上で45℃、2時間静置し;
(3)室温(25℃)で3時間静置し;
(4)ガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に存在する気体を捕集しその体積を測定する、ことにより測定した。
その結果、水溶液から発生する気体の量は、4℃が最も多く、20℃、37℃の順に少なくなった(図7参照)。4℃で作成すれば約60mLの気体が1Lの水に含まれ、20℃で作成すれば約40mLの気体が1Lの水に含まれ、37℃で作成すれば、約20mLの気体が1Lの水に含まれ、超音波付与によりこれらが微小気泡となって出現した。4℃および20℃で製造した水溶液からの気体発生量は、37℃に加温することにより僅かに減少したが、それでも37℃で製造した水溶液に比較し気体の発生量は多かった(図8参照)。
よって、作成温度が低いほど、気体発生量が増加すること、作成時の温度の方が、作成後の温度上昇よりも気体発生量の低下に対する寄与が大きいことが明らかとなった。生体や細胞に37℃で適用する場合、低温で作成した後に加温した方が得られる気体の発生量が多いことが示された。
【0051】
[各種水溶液における気体の発生量]
液体として超純水、生理食塩水またはリン酸バッファー(PBS(+))を用い、気体として空気を用いて、4℃で、実施例1の方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより、気体過飽和水を作成した。作成直後に封止して、その後、該水溶液中に存在する気体量を25℃にし、気体発生量を測定した(図9参照)。
また、4℃で超純水を用いて作成した気体過飽和水に4℃の10倍濃縮生理食塩水(10×生理食塩水)、10倍濃縮PBS(+)(10×リン酸バッファー)または10倍濃縮培養液(10×RPMI1640)(10×培養液)を加え、1×生理食塩水、1×リン酸バッファーおよび1×RPMI1640を作成した。作成直後に封止して、一部を37℃に加温し、その後、該水溶液を25℃にし、気体発生量を測定した。
その結果、食塩水、PBS(リン酸緩衝液)を用いて気体過飽和水を直接作成した場合、超純水に比較し気体発生量の低下は見られなかった(図9参照)。
また、10倍濃縮した溶媒と超純水を用いて作成した気体過飽和水を混合して1倍濃度に希釈した場合、気体発生量は2〜3割低下した(図10参照)。なお、図10中、「超純水」は、液体として超純水、気体として空気を用いて4℃で製造された気体過飽和水の気体発生量を表し、「10×生理食塩水」は、10倍濃縮生理食塩水を「超純水」で希釈して1倍とした生理食塩水の気体発生量を表し、「10×リン酸バッファー」は、10倍濃縮PBS(+)を「超純水」で希釈して1倍としたPBS(+)の気体発生量を表し、「10×RPMI1640」は、10倍濃縮RPMI1640培地を「超純水」で希釈して1倍としたRPMI1640培地の気体発生量を表す。
直接過飽和量の気体を混合して作成された等張液の方が、超純水を用いて気体過飽和水を一旦作成し、その気体過飽和水で希釈することにより作成された等張液に比較し、発生気体量が多くなり、微小気泡の発生量が多くなることが示された。
【0052】
実施例2
[超音波の照射]
超音波による微小気泡の崩壊の例を示す。
図11は、超音波照射の前後の気体過飽和水Aの写真であり、(a)は照射前、(b)は照射後である。図中、超音波浴槽を符号4で示している。
ビーカー(300mL)内に、液体として超純水を、気体として窒素を用いて実施例1の方法に従って作成された気体過飽和水Aを入れた。
超音波浴槽4としては、振動子40kHzボルト締めランジュバン型振動子を用いた超音波浴槽(槽の寸法は240×140×150mm)を用いた。その浴槽内に水を張り、出力100Wで超音波を照射している浴槽内の水にビーカーごと1〜2秒程度浸した。その結果、図11(b)のように、微小気泡が発生した。
【0053】
実施例3
[微小気泡への脂肪酸の付着]
窒素と超純水を用いて実施例1の方法に従って作成した気体過飽和水に脂肪酸を混合したところ、溶液内に成分が均一に分散(乳化)することが確認された。
図12に、このようにして調製された、脂肪酸を複合化した気泡を有する組成物Aを示す。
使用した脂肪酸は、脂肪酸混合物(バター)であり、その主な成分は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸である。
この結果は、混合した脂肪酸が微小気泡に付着されていることを示している。
さらに、超音波を照射したところ、微小気泡が発生した。この結果は、脂肪酸を混合しても気体過飽和水の特性が維持されていることを示している。
【0054】
実施例4
[酸性条件下での微小気泡の発生]
窒素と超純水を用いて実施例1の方法に従って作成した気体過飽和水に塩酸を加えてpH2.2にし、恒温槽にて33℃でインキュベートした。
図13(a)に、この条件に調製された気体過飽和水Aの外観を示す。
この気体過飽和水Aに超音波を照射すると、気泡が発生した(図13(b))。
一般に胃液のpHが2〜3であると言われていることから、この結果は、胃酸環境下でも気体過飽和水の特性が失われないことを示している。
【0055】
実施例5
[気体過飽和水を利用した薬物の細胞内への導入]
HL60細胞を、RPMI1640培地を用いて培養した。HL60細胞を回収し、PBS(−)に2.1×108細胞/mlに懸濁した。HL60細胞懸濁液、培養液を96Wellプレートに滴下した。培養液はRPMI1640粉末を規定の1/10の量の超純水で溶かした10倍濃度のRPMI1640培養液を作成し、(1)気体過飽和水で10倍希釈した培養液、(2)飽和水(飽和量の空気が溶解した水)で10倍希釈した培養液、(3)超純水(ミリポア社製)で10倍希釈した培養液の3種類を用いた。なお、気体過飽和水は、液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより作成した。
実験ではそこにPI(プロビディウムアイオダイド)を混合し超音波付与を行った。
超音波の照射は、96Wellプレートの底面に超音波のトランスデューサーを接触させて行った(正弦波、周波数:1.0MHz、強度:0.06W/cm2、PRF:100Hz、Duty:50%、10秒間付与)。伝達効率を高めるために、トランスデューサーとプレート底面の間にはゲルを塗布した。また、細胞培養用のウェルは底が190μmほどの薄いフィルムでできているもの(BDFalcon社製)を採用した。
超音波の照射後、細胞を回収し、トリパンブルー(TB)を滴下し、蛍光顕微鏡を用いてPI染色およびTB染色の結果を観察した。
PI(プロピジウムイオダイド)は、通常生細胞の細胞膜を通過しないが、細胞膜が破損した場合には細胞内のDNAにインターカレートし蛍光を発する。
一方、トリパンブルー(TB)は、生細胞では排出されるが、死細胞では排出されず、青く染色する。
よって、PIで染色され、TBで染色されない細胞は、細胞膜が少なくとも一時的に破損されPIが細胞内に入った生存細胞と考えることができる。
PIは、核酸内のDNAと結合して発色することから、TBで染色されずPIで染色された細胞は生きている細胞の核にPIが導入されていることを示す。
すなわち、溶液内に薬剤や微細物があれば、それらはPIと同様に細胞の核内に導入されるといえる。
【0056】
図14は、超音波付与後の溶液を顕微鏡で撮影した写真である。左の明視野画像で、TBで染色された細胞を観察でき、右の蛍光画像でPIで染色された細胞を観察可能である。
左右の写真は同じ場所を撮影したものであり、PIで染まり、TBで染まらない細胞が画面内に多数見られた。これらの細胞は生存しているが、細胞膜が破損しており、PIが核酸まで到達している。よって細胞への微細物の導入可能性が示された。
【0057】
図15は、超純水または気体過飽和水を用いて作成したRPMI1640培地(過飽和度:1.6(=38/23.8))を用い、超音波のありなしの条件で実験を行った結果の顕微鏡写真である。
図15中、「超純水」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合のPIおよびTB染色結果を、「超純水+超音波」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した場合のPIおよびTB染色結果を、「過飽和水」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合のPIおよびTB染色結果を、「過飽和水+超音波」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した場合のPIおよびTB染色結果を示す。
気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した条件でのみ、PIで染まり、TBで染まらない細胞が多数見られた。
【0058】
実施例6
[細胞内への薬物導入効果のある過飽和度の検討]
液体として超純水を、気体として窒素ガス(99.9%)を用い、温度20℃、加圧を0.6MPa、3MPaとし2種類の気体過飽和水を作成した。
気体捕集法により気体発生量を計測したところ、0.6MPaで加圧したものは50.6mg/L、3MPaで加圧したものは367.8mg/Lであった。
20℃における窒素の飽和溶解量は19.62mg/Lであり、0.6MPaで加圧した水は3.58倍、3MPaで加圧した水は20.2倍の過飽和度であるといえる。
0.6MPaで加圧したものを2倍、5倍、10倍と希釈し、それぞれ過飽和度が2.29、1,52、1.26の3種類の溶液を作成した。
3MPaで加圧したものは0.9倍,10倍と希釈しそれぞれ過飽和度が18.2倍、2.92倍の2種類の溶液を作成した。
希釈は、飽和水(超純水に飽和濃度の窒素ガスが溶解させた水溶液)と濃縮したPBS(-)バッファーを用い、浸透圧が細胞と等しくなるよう調整した。
実験ではそこに細胞混濁液とPI(プロビディウムアイオダイド)を混合し超音波付与を行った。
超音波の照射は、96Wellプレートの底面に超音波のトランスデューサーを接触させて行った(正弦波、周波数:1.0MHz、強度:0.1W/cm2、PRF:100Hz、Duty:50%、10秒間付与)。伝達効率を高めるために、トランスデューサーとプレート底面の間にはゲルを塗布した。また、細胞培養用のウェルは底が190μmほどの薄いフィルムでできているもの(BDFalcon社製)を採用した。
超音波の照射後、細胞を回収し、トリパンブルー(TB)を滴下し、蛍光顕微鏡を用いてPI染色およびTB染色の結果を観察した。
【0059】
その結果、過飽和度1.26以上18.2以下で、PIが核に導入されている細胞が観察された(図16参照)。導入効率(“PIで染色されTBで染色されない細胞の数”/“総細胞数”X100(%))は、過飽和度の上昇により顕著な差が見られなかった(図17参照)。
1.26以上の過飽和度であれば効果があると推測される。また、窒素ガスが大部分を占める空気についても、窒素ガスと同様に、1.26以上の過飽和度、例えば、過飽和度1.26以上18.2以下でPIが核に導入されている細胞が観察されると推測される。
【0060】
実施例7
[超音波付与条件の検討]
実施例5と同様のHL60細胞を用いたPIの細胞内導入実験において、超音波の周波数を1.0MHz(正弦波、PRF100Hz、Duty50%)と固定し、超音波の強度を0.1W/cm2、1W/cm2と変化させてPIの導入効率を測定した(図18、19参照)。
【0061】
図18は、顕微鏡視野内での、変化のない細胞(PI,TBともに染色なし)、死細胞(TBで染色された細胞)、PIが導入された生細胞(“PIで染まり、TBで染まらない細胞の数”)の計数結果である。
図18中、「超純水+US0.1W/cm2」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に0.1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「過飽和水+US0.1W/cm2」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に0.1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「超純水+US1W/cm2」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「過飽和水+US1W/cm2」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「(参考)超純水-US」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合の結果を示す。
超音波強度の上昇に伴い、導入される生細胞数は増加するが、それに伴い死細胞数が増加することがわかった。
図19は、(“PIで染まり、TBで染まらない細胞の数”/”総細胞数“)の比率を示す。
0.1W/cm2、1W/cm2いずれの強度の超音波付与条件においても、気体過飽和水を用いて作成された培地を用いることにより、導入効率の向上が確認できた。
さらに、超音波の強度を3W/cm2、5W/cm2と変化させてPIの導入効率を測定した。その結果、3W/cm2、5W/cm2の超音波照射によりPIが導入された生細胞が確認できた(図20参照)。超音波強度を上げることで死細胞の数が増加した。導入効率(PIが導入された細胞数/総細胞数)は1%以下であった(図21参照)。死細胞数が多かったことから、導入効率をPIが導入された細胞数/超音波刺激後に生存した細胞数として解析したところ、気体過飽和水で導入効率が増加していることが認められた(図22参照)。増殖能が高い細胞への導入は、3W/cm2、5W/cm2の超音波強度の刺激が有用であることが示された。
次に、超音波の強度を0.1W/cm2と固定し、超音波周波数を、1.0MHz、3.4MHzと変化させてPIの導入を試験した。
その結果、3.4MHzの周波数でもPIが導入された生細胞が確認できた(図23参照)。
また、周波数を1.0MHzまたは3.4MHzと固定し、超音波の強度を変化させてPIの導入効率を測定した。
その結果、導入効率は1.0MHzまたは3.4MHzで顕著な変化は見られなかったが、1.0MHzと比べて3.4MHzでは、死細胞数の顕著な減少が見られた。
また、周波数1.0MHzの超音波を使用した場合、0.06W/cm2で高い導入効率が得られた(図24参照)。
【0062】
実施例8
[発生気体量とPI細胞内導入効率の検討]
飽和濃度で空気が溶解した水(飽和水)にRPMI1640粉末を溶解させた培地(図25中の飽和水)を用いた場合と、液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより作成した気体過飽和水にRPMI1640粉末を溶解させた培地(図25中の過飽和水)を用いた場合の細胞内へのPI導入効率を比較した。超音波は、1.0MHz、0.06W/cm2を10秒間付与した(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)。
飽和濃度で空気が溶解した培地は、超純水(ミリQ水)を1L試薬ビンに入れ、30分間バブリングを行い、使用温度の開放系で室温に30分間静置し、それにRPMI1640の粉末を溶解させて作成した。なお、本条件で飽和濃度に達していることは、事前に分光光度計(ハック社DR2800)による溶解酸素量の計測により確認した。
図25から、飽和濃度で空気が溶解した培地では細胞内にPIが導入されないことが示され、細胞内の薬物の導入には飽和濃度を超える(過飽和の)空気が培地に存在している必要があることが示された。
【0063】
実施例9
[気体種とPI細胞内導入効率の検討]
空気の代わりにC3F8ガスを用い、HL60細胞内へのPIの導入を検討した。C3F8ガスにおいても、本発明の手法で過飽和状態になり得る(1Lあたりの気体発生量約25ml、空気は約60ml)ことを確認し、また、超音波を付与した際に長時間(空気:約30秒、C3F8:約5分間)微細気泡として存在することを確認した。なお、超音波(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)は、1.0MHzの周波数で、0、0.03、0.06、0.12または0.24W/cm2の強度で10秒間付与した。C3F8ガスにおいても生細胞内にPIが導入されることを確認した(図26)。
【0064】
実施例10
[市販超音波用マイクロバブルとの比較実験]
本手法による微細物導入の比較対象として、研究用に販売されている超音波遺伝子導入用造影剤(ネッパージーン社SV-25)にて比較検証を行った。
SV-25を培地に懸濁し、超音波を付与し、PI染色にて評価を行ったところ、HL60細胞内への微細物の導入は可能であった。
過飽和水で培地を作成し、超音波の付与を行ったところ、導入効率は数%ほどであり気体過飽和水に比べ低い値が得られた(図27)。なお、超音波(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)は、1.0MHzの周波数で、0、0.03、0.06、0.12または0.24W/cm2の強度で10秒間付与した。また、気体過飽和水にくらべ、SV-25を用いると死細胞率が高く、超音波強度の上昇とともに死細胞率が大きく上昇した。
この結果から、気体過飽和水を使用することで、通常のマイクロバブル導入剤に比べ、死細胞率を低下させることができると示唆される。また、マイクロバブルより低い超音波強度で導入が可能となり細胞、生体への悪影響を軽減できる可能性が示唆された。
【0065】
実施例11
[細胞内への蛍光タンパク質発現遺伝子の導入について]
液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより気体過飽和水を作成した。RPMI1640の10倍濃縮液を気体過飽和水または超純水で10倍希釈し、気体過飽和水を含むRPMI1640培養液および超純水で作成されたRPMI1640培地をそれぞれ作成した。それぞれの培地にFBSを添加し、最終10%のFBSが含まれるようにした。HL60細胞を96穴プレート(底厚180μm)に1X107細胞/wellの濃度で播種し、培養液100μl/well中で培養した。八放サンゴ由来の単量体型の緑色蛍光タンパク質(490nm、507nmにそれぞれ励起、蛍光の極大を有する)を発現するベクター“pDendra-2 N Vector"(clontech社製:4705bp)を20μg/mlとなるように培地に添加し、1.0MHz、0.5W/cm2の超音波(正弦波、PRF100Hz、Duty50%)を10秒付与した。
その結果、超音波付与により、気体過飽和水で作成した10%FBS含有RPMI1640培地中で培養された細胞内に、超音波付与40および70時間後に緑色蛍光タンパク質の発現が確認された(図29)。一方、超純水で作成した10%FBS含有RPMI1640培地中で培養された細胞内には、超音波付与によっても、緑色蛍光タンパク質の発現は確認されなかった。
【符号の説明】
【0066】
A:気体過飽和水
X:気体過飽和水の製造装置
4:超音波浴槽
51:加圧部
52:気体供給部
53:気液混合部
54:気体分離部
55:減圧部
56:流路
57:吐出部
58:気体除去部
61:ポンプ
63:入液部
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明で提供される気体過飽和水は、細胞内への薬物導入に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体過飽和水を含む細胞への薬物導入用組成物、気体過飽和水を用いた細胞への薬物導入方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜は主にリン脂質二重膜により構成され、外界から細胞内を隔て内部環境を一定に保っている。リン脂質は頭部と尾部からなり、頭部はコリン、リン酸からなり、親水性である。一方、尾部は炭化水素からなり、疎水性である。そのため極性を持つ体液中では尾部を内側に、頭部を外側にするようにリン脂質が二重の膜を形成している。このような構造を有するリン脂質二重膜は、本来、きわめて小さな分子か疎水性の炭化水素のような分子は通すが、大部分の分子やイオンを通さない。糖、アミノ酸、ペプチド、水溶性ビタミンなどは生体に必須な物質であるが、脂溶性が低く単純拡散で細胞膜を透過することは困難であるため、生体特異的な機能であるトランスポーター(輸送担体)を介して輸送される。また、ナトリウムやカリウム等の無機イオンは細胞膜に存在するチャネルというタンパク質を介して輸送される。しかしながら、薬物の大部分には特異的なトランスポーターやチャネルが存在せず、単純拡散で細胞膜を透過できなければ、事実上細胞内で利用されることはない。
近年、マイクロバブルが超音波照射による細胞への薬物、遺伝子のデリバリー効率を向上させることが報告されている(非特許文献1)。このマイクロバブルを利用した薬物・遺伝子デリバリーシステムは、体外からの超音波照射により目的組織にのみ低侵襲的な薬物・遺伝子デリバリーを可能とする新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)として期待されている。
ここで、マイクロバブルは液体中で崩壊しやすく、液体中にマイクロバブルを安定に保持することは難しい。そのため、マイクロバブルの崩壊や液体への溶解を防ぐために、たんぱく質などの物質でシェル(殻)を形成し、安定性を高めたマイクロバブルがこれまでに開発されている(特許文献1)。
しかし、膜の形成によって安定化されたマイクロバブルであっても長期に気泡を安定に存在させることは難しく、マイクロバブルの溶液の調製後すぐに使用する必要がある。
また、シェル(殻)を形成する物質としてアルブミンや卵由来タンパク質が用いられているが、抗原性がありアレルギー反応を惹起する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−507931号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Teupe C., et al. Circulation 2002; 105: 1104-1109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な態様において、気体過飽和水を含む細胞への薬物導入用組成物、気体過飽和水を用いた細胞への薬物導入方法等が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、気体過飽和水を作成し、該水溶液と物理的刺激を併用することで細胞内へ薬物を導入できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、気体過飽和水を含有する細胞内への薬物導入用組成物、および気体過飽和水を用いた細胞内への薬物導入方法等に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に関する、気体過飽和水を含む組成物は、細胞への薬物導入用組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】気体過飽和水製造装置の一例を示すブロック図である。
【図2】気体過飽和水製造装置の一例を示す概略図である。
【図3】気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ、気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ、気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図6】気体過飽和水製造装置の一部を示す概略図である。
【図7】気体過飽和水の製造温度と気体発生量との関係を示す図である。
【図8】気体過飽和水を4、20、37℃の各温度で製造し、37℃にした後発生する気体発生量を示す図である。
【図9】溶媒による気体発生量の変化を示す図である。
【図10】溶媒混合時の気体発生量の変化を示す図である。
【図11】気体過飽和水に超音波照射をした様子を示す写真であり、(a)は照射前、(b)は照射後の状態を示す。
【図12】脂肪酸を複合化させた気体過飽和水の写真である。
【図13】(a)は33℃、pH2.2の条件に調整された気体過飽和水の外観を示す写真である。(b)は(a)で示される水溶液に超音波を照射した様子を示す写真である。
【図14】気体過飽和水および超音波照射を用いたPI(プロピジウムイオダイド)の細胞内への導入を示す写真である。
【図15】気体過飽和水および超音波照射を用いたPIの細胞内への導入を示す写真である。
【図16】各過飽和度でのTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す図である。
【図17】過飽和度によるPIの導入効率の変化を示す図である。
【図18】周波数:1.0MHzの超音波の各照射強度におけるTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す。
【図19】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率を示す。
【図20】周波数:1.0MHzの超音波の各照射強度におけるTB(トリパンブルー)およびPIで染色された細胞数を示す。
【図21】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率(PIが導入された細胞数/総細胞数)を示す。
【図22】周波数:1.0MHzの超音波の照射強度と細胞内へのPIの導入効率(PIが導入された細胞数/超音波照射後の生存細胞数)を示す。
【図23】周波数:3.4MHzの超音波を照射した場合の細胞内へのPIの導入を示す。
【図24】周波数:1.0MHzの超音波を照射した場合の細胞内へのPIの導入効率を示す。
【図25】飽和量の空気を含む培地(図中の飽和水)と過飽和量の空気を含む培地(図中の過飽和水)を用い、超音波付与(図中のUS)した場合の細胞内へのPI導入効率を示す。
【図26】気体としてC3F8ガスを用いた気体過飽和水および超音波照射を用いたPIの細胞内への導入効率を示す。
【図27】気体過飽和水と超音波用マイクロバブル(超音波遺伝子導入用造影剤:SV−25、ネッパージーン社)との比較を示す。
【図28】気体過飽和水と超音波付与による緑色蛍光タンパク質遺伝子の細胞内への導入および導入された遺伝子の発現を示す図である。
【0010】
本発明は1つの態様として、気体過飽和水を含む、細胞への薬物導入用組成物を提供する。気体過飽和水は、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液であり得る。また、気体過飽和水は薬物を含み得る。さらに、薬物は該水溶液に溶解していてもよい。
気体過飽和水とは、気体が飽和溶解量を超えて含まれる水性液体である。気体過飽和水には、気体が過飽和量存在している。
【0011】
飽和溶解量とは、気体について言う場合には、本発明を実施する環境下で液体に溶解する最大体積を意味する。液体に対する気体の飽和溶解量は、液体および気体の種類、温度、気圧等により変化する。よって、飽和溶解量は、気体、その媒体となる液体の種類は同じであっても、環境により相違する。
例えば、1気圧での酸素の水1Lに対する飽和溶解量は、0℃で48.9mL、15℃で37.5mL、20℃で35.7mL、25℃で33.5mLと変化する。
飽和溶解量の例としては、以下が挙げられる:
(1)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、36.18mg/L;
(2)20℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、23.80mg/L;
(3)25℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、21.95mg/L;
(4)37℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する空気の飽和溶解量は、18.68mg/L;
(5)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する窒素の飽和溶解量は、14.68mg/L;
(6)0℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する酸素の飽和溶解量は、14.16mg/L;
(7)25℃、0.1MPa(約1気圧)で水に対する水素の飽和溶解量は、14.39mg/L。
気体の飽和溶解量はヘンリーの法則から算出できる。
【0012】
水性液体とは、溶媒が水である溶液である。水性液体の種類は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。本発明においては、細胞と浸透圧が等しい、所謂等張液を使用してもよい。
等張液の例としては、生理食塩水、PBS(PBS(+)およびPBS(−)を含む)、細胞培養液が挙げられる。細胞培養液は当業者により適宜選択され得る。細胞培養液の例としては、DMEM、EMEM、RPMI1640、MS培地、LB培地等が挙げられる。また、細胞培養液は血清(例えば、ウシ胎児血清)を適量(例えば、10%)含んでもよく、血清を含まない無血清培地でもよい。
【0013】
上記のとおり、液体に対する気体の飽和溶解量は、気体の種類、温度、気圧等により変化するので、気体過飽和水に含まれる気体の体積も、環境により相違する。例えば、気体過飽和水に含まれる気体の体積は、25℃、1気圧で測定され得る。
気体過飽和水は、例えば、0.6MPaの圧力下で気体を水に混合させて作成することができる。気体過飽和水に物理的刺激(例えば、超音波刺激、熱刺激等)が付与されると包含されている気体が溶媒から分離され、微小気泡となって出現する。
例えば、気体が空気である気体過飽和水は、超音波照射により微小気泡が発生し、微小気泡の気体の総体積は、1Lの水中に20mL〜65mL、20mL〜40mL、または30mL〜40mL(1気圧、25℃での体積)となる。
また、気体がC3F8ガスである気体過飽和水は、超音波照射により微小気泡を発生し、その総体積は、1Lの水中に、10mL〜30mL、10mL〜25mL(1気圧、25℃での体積)となる。
気体過飽和水に含まれる気体の量は、その気体の飽和溶解量に対する比で表すことができる。例えば、空気が、25℃、0.1MPa(約1気圧)で43.90mg/Lの量含まれている気体過飽和水は、25℃、0.1MPa(約1気圧)の飽和溶解量が21.95mg/Lであるから2倍の気体量が含まれていると表すことができる。また、飽和溶解量に対する比を過飽和度と表現してもよい。つまり、25℃、0.1MPa(約1気圧)の飽和溶解量の2倍の気体量が含まれていれば、過飽和度は2である。
薬物を細胞内へ導入する為に、適宜、気体過飽和水に含まれる気体量を設定できる。例えば、過飽和度1.26以上の気体過飽和水(例えば、過飽和度1.26〜18.2、2.92〜18.2、5.0〜18.2、または10.0〜18.2の気体過飽和水)を用いて、薬物を細胞内へ導入してもよい。
薬物の細胞内導入に必要な気体発生量は、例えば、溶媒1Lあたり、20mL〜65mL、または25mL〜50mL(1気圧、25℃での体積として)である。
【0014】
気体は、易溶性のものであっても難溶性のものであってもよく、液体として水を使用する場合は、空気または空気よりも水に対する溶解度が低い気体であっても高い気体であってもよい。本発明において使用できる気体の例としては、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素、オゾンが挙げられ、それらの任意の混合気体であってもよい。フルオロカーボンの例としては、CF4、C2F6、C3F6、C3F8、C4F6、C4F8、C4F10、C5F10、C5F12、C6F14が挙げられる。
【0015】
物理的刺激とは、気体過飽和水に与えたとき、キャビテーションが発生する刺激であれば特に限定されない。本発明において使用できる物理的刺激の例としては、振動刺激、衝撃刺激等が挙げられる。このような物理的刺激を与える手段の例としては、超音波照射が挙げられる。超音波刺激は、例えば、ソニトロン2000V、ソノポール4000、ソノビスタMSC1585プローブ(持田シーメンス製)、超音波洗浄槽VS-F100(Velvo-clear製)等の当業者に知られている任意の装置を用いて与えることができる。
超音波刺激の強度と周波数は当業者が適宜設定できる。
例えば、超音波の強度を0.06〜0.1W/cm2、0.03〜1W/cm2または0.03〜5W/cm2と設定してもよい。また、超音波の周波数を、例えば、50KHz〜3.4MHz、または1.0MHz〜3.4MHzの範囲に設定してもよい。
超音波強度の範囲は、本発明者らが後述の実験で微細物導入効果を確認した超音波刺激の範囲である。
また、50KHzの周波数は、本発明者らが後述の実験で微小気泡の発生を確認した刺激の周波数であり、1.0MHz、3.4MHzは、本発明者らが後述の実験で微細物導入効果を確認した値である。
【0016】
微小気泡とは、微小な大きさの泡のことである。微小気泡の大きさは特に限定されないが、1nm以上1000μm以下、10nm以上100μm以下、10nm以上10μm以下、100nm以上10μm以下または1μm以上10μm以下であり得る。例えば、微小気泡は、1μm以上20μm以下であり得る。
物理的刺激により発生する微小気泡の密度は、特に限定されないが、例えば、溶液1mL中1×106〜1×109個または1×107〜1×108個であってもよい。
【0017】
本発明において、使用する薬物は、特に限定されない。薬物の例としては、ペプチド、抗体、オリゴ糖、多糖、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム、トリプルへリックス分子、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物が挙げられる。
本発明の薬物導入方法により、遺伝子発現ベクターなどの大きな分子が導入され得ることから、当業者は、適宜、細胞内に導入する薬物を選択することができる。例えば、導入する薬物の分子量は、3X106以下、1X106以下、1X105以下、1X104以下、1X103以下、または1X102以下であり得る。
上記で例示した薬物は、本分野で既知の方法により調製される。
ペプチドは、限定はされないが、特異的なトランスポーターが導入する細胞に発現していないペプチドであり得る。ペプチドは、化学合成により調製しても、組換DNA技術を用いて適切な宿主(例えば、大腸菌)により生産させてもよい。
抗体は、限定はされないが、細胞内に発現するタンパク質を抗原とする抗体であり得る。抗体の由来は特に限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等の抗体であり得る。また、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、それらの抗体断片(例えば、Fab断片)であってもよい。
オリゴ糖は、限定はされないが、2分子以上20分子以下の単糖がグリコシド結合により結合して1分子になったものであり得る。
多糖は、限定はされないが、20分子を超えた単糖が結合して1分子になったものであり得る。
【0018】
オリゴヌクレオチドは、限定はされないが、DNA、RNA、それらの誘導体であってもよく、一本鎖でも二本鎖でも、直線状でも環状であってもよい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的とするmRNAにハイブリッド形成してmRNAのタンパク質への翻訳を阻害するように調製できる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの誘導体であってもよく、また、一本鎖でも二本鎖であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、限定はされないが、ホスホロチオエート等のリン酸骨格を含むことができる。
siRNAは、限定はされないが、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制するように設計されることができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAは、翻訳段階を阻害するので、細胞の核内に到達しなくても、細胞質に到達できれば、標的とする遺伝子の発現を抑制することができる。
リボザイムは、限定はされないが、RNAの特異的な切断を触媒することができる酵素的RNA分子である。特異的な認識部位でmRNAを切断するリボザイムの例としては、ハンマーヘッドリボザイムが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとは異なり、リボザイムは酵素的であるので、低い細胞内濃度が効率化のために要求される。
トリプルへリックス分子は、限定はされないが、標的遺伝子の発現を抑制するように、当業者により設計されることができる(例えば、Lee et al., Nucleic Acids Research 6:3073(1979)等参照)。
ウイルスベクターおよびプラスミドは、限定はされないが、細胞内での遺伝子発現の目的で使用され得る。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。プラスミドの例としては、neo遺伝子を含み、G418により形質転換体を選択できるベクターが挙げられる。ベクターは、細胞内に導入され発現させる所望の遺伝子を含むことができる。
細胞内に導入する遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム、トリプルへリックス分子、ウイルスベクターまたはプラスミドは、例えば、10bp〜50kbp、10bp〜10kbp、10bp〜5kbp、10bp〜4.7kbp、10bp〜3kbp、10bp〜1kbp、10bp〜100bpまたは10bp〜30bpであり得る。
有機化合物とは、限定はされないが、炭素原子を構造の基本骨格に持つ化合物であり得、炭素原子の他に、窒素、酸素、硫黄、燐、ハロゲン原子等を含み得る化合物である。低分子有機化合物は、例えば、アミノ酸、単糖、水溶性ビタミン(例えばビタミンB1、B2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、アスコルビン酸)であり得る。また、低分子化合物の分子量は、例えば、50以上668以下、100以上668以下、100以上500以下であり得る。
細胞膜透過性が低い化合物を、本発明において薬物として使用してもよい。
【0019】
薬物の気体過飽和水への溶解は、当業者により適宜行われる。例えば、気体過飽和水を作成した後に当該水溶液に薬物を溶解してもよく、気体過飽和水の作成時に薬物を溶解させてもよい。
通常、薬物を含む水溶液を細胞に接触させる前に、薬物を含む水溶液に20kHz程の超音波を付与することで、薬物が付着したマイクロバブルを調製することもできるが、本発明に係る組成物については、細胞に接触させる前に超音波を照射しても、しなくてもよい。つまり、薬物を含む水溶液は、細胞に接触させる前にマイクロバブルを含んでいても、含んでいなくてもよく、細胞に接触した後に、例えば1.0〜3.4MHzの超音波を照射することで、薬物が付着したマイクロバブルを形成することができる。
薬物が遺伝子であれば、本発明の組成物により細胞に導入され、その結果、当該遺伝子が発現し得る。よって、本発明は一つの態様として、気体過飽和水、および該水溶液に溶解した遺伝子を含む、細胞への遺伝子導入用組成物を提供する。遺伝子は、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれてもよい。
【0020】
細胞の由来は、ヒト由来の細胞であっても、ヒト以外の哺乳類由来の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても浮遊細胞であってもよい。
本発明で使用できる細胞の例としては、HL60細胞、CHO細胞、COS細胞、293細胞、血管内皮細胞等が挙げられる。また、本発明の組成物を使用できる組織の例としては、血管、角膜、骨格筋、心臓、脳(大脳、中脳、小脳、延髄)、肝臓が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる気体過飽和水には、シェル(殻)に囲まれた気泡は存在してもしなくてもよい。よって、本発明に用いる気体過飽和水は、殻を形成する物質として、アルブミン、γグロブリン、卵由来の物質(例えば、水素添加卵黄)、脂質(例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルセリンナトリウム)、ポリマー(例えば、PLGA)、糖類(例えば、βラクトース、ガラクトース)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸)、界面活性剤、および/またはリポソームを含んでも含まなくてもよい。
【0022】
本発明は別の1つの態様として、(i)気体過飽和水であって薬物を含む水溶液と細胞を接触させる工程;および(ii)物理的刺激を与える工程、を含む、細胞への薬物導入方法を提供する。薬物は、気体過飽和水に溶解されていてもよい。
薬物には遺伝子が含まれるので、本発明は一つの態様として、以下の工程:
(i)気体過飽和水であって遺伝子が溶解している水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、細胞への遺伝子導入方法、を提供する。遺伝子は、ベクター、例えばプラスミド、ウイルスベクターに含まれ得る。
上記薬物導入方法は、in vitroまたはin vivoで実施され得る。
気体過飽和水は、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液であり得る。
飽和溶解量、気体、物理的刺激、微小気泡、薬物、水溶液、細胞等の用語については、上記に説明した。
上記薬物導入方法をin vivoで実施する場合に用いる超音波発生装置は、当業者により適宜選択され得る。
【0023】
本発明において、気体過飽和水は、例えば、以下の工程:
(i)液体を圧送する工程;
(ii)圧送された液体に気体を注入する工程;
(iii)気体を注入された液体を加圧し気体を溶存する工程;および
(iv)気体が溶存した液体を圧送しながらその圧力を大気圧まで減圧する工程、
を含む方法により製造される。
図1は、気体過飽和水の作成手順の一例を示す。
上記(i)−(iv)の工程を実施する温度は特に限定されない。例えば溶媒に水を用いるのであれば、液体として存在する0℃〜100℃において気体過飽和水は作成可能である。
微小気泡の発生量を多くするためには、加圧時の圧力を一定とするならば、より低温で作成するのが好ましい。
本発明者らは後述の実験により、上記(i)−(iv)の工程を実施する温度が低いほど、微小気泡の発生量が多いことを確認した。
例えば、溶媒を水とするならば、水溶液が凍らない低温、0℃〜10℃、4℃〜20℃または4℃〜10℃で上記(i)−(iv)の工程を実施すれば微細気泡の発生量を増加させることができる。
また、上記工程は使用温度よりも低い温度で実施されることが好ましい。
一般的に、生体内や細胞に薬物を適用する場合、約37℃で使用すること想定されるので、37℃より低い温度(例えば、0℃より高く37℃より低い温度)で気体過飽和水を作成してもよい。
本発明者らは後述の実験により、想定使用温度である37℃で上記(i)−(iv)の工程を実施した組成物と4℃で上記(i)−(iv)の工程を実施し、37℃まで加温した組成物とを比較し、後者の方が微小気泡の発生量が多いことを確認した。よって、本発明は、一つの態様として、37℃より低い温度(例えば、0℃より高く20℃より低い、0℃より高く10℃より低い、または4℃より高く10℃より低い温度)で、上記(i)−(iv)の工程を実施することを含む、気体過飽和水の製造方法を提供する。
【0024】
また、気体過飽和水の製造は、装置を用いて機械的に製造することができる。例えば、給水配管や液体貯留槽などの液体供給源から液体を取り入れる入液部と、入液部から入った液体に気体を供給する気体供給部と、気体が供給された液体を加圧する加圧部と、気液を混合する気液混合部と、この気液混合液から余分な気体を分離する気体分離部と、加圧状態の気液混合液を溶液内に気体がとどまるように大気圧まで減圧する減圧部と、減圧された溶液を吐出する吐出部と備えており、各部は流路に接続して設けられている装置を使用して製造することができる。
該装置は、減圧部の流出側から直径1μmを越える気泡の発生のない気体溶存液を連続的に吐出させる装置であってもよい。よって、気体過飽和水は、直径1μmを越える気泡の存在しない水溶液であってもよい。
このような装置の例としては、図2に示されるような製造装置Xが挙げられる。
図1は、気体過飽和水の製造装置Xの一例を示すブロック図である。気体過飽和水を製造する装置Xは、気体Gsと液体Lqとを混合する気液混合部53と、この混合された気液を加圧する加圧部51と、混合された気液から余分な気体を分離する気体分離部54と、混合し加圧された気液混合体を減圧する減圧部55とが備えられており、最終的に気体過飽和水が得られる。
【0025】
図2は、気体過飽和水の製造装置Xの具体的な一例を示す概略図である。図2の装置Xは、液体を圧送して連続的に気体過飽和水を製造するものであり、給水配管や液体貯留槽などの液体供給源から液体を取り入れる入液部63と、入液部63から入った液体に気体を供給する気体供給部52と、気体が供給された液体を加圧する加圧部51と、気体と液体を混合する気液混合部53と、この気液が混合した液体(気液混合液)から余分な気体を分離する気体分離部54と、加圧状態の気液混合液を大気圧まで減圧する減圧部55と、減圧された気液混合液を吐出する吐出部57とを備えており、各部は流路56に接続して設けられている。
【0026】
流路56は、装置Xの各部同士や各部と外部とを接続し、液体を上流から下流に流すものであり、例えばパイプなどの管体で構成される。加圧部51と気液混合部53と気体分離部54と減圧部55とは、上側に向かって径が小さくなるテーパ状の円筒型の筐体62にこの順で下側から上側に配置して収容されている。流路56は、筐体62より上流側の流路56a、筐体内の流路56b、筐体62より下流側の流路56cにて構成されている。流路56bは筐体全体として上方向に向かって液体が流れるように形成されている。
【0027】
入液部63は、装置Xの外部にある液体供給源から装置の内部に液体を入れるためのものであり、図2の形態では液体供給源と接続する流路56aの管体の入口として構成されている。この入液部63には、開閉して液体の流入量や圧力を調節できる調節弁などを設けてもよい。
【0028】
気体供給部52は、液体を流れる流路56(流路56aまたは56b)などに接続されることにより液体に気体を供給して注入するものであり、図示の形態では管体などにより構成されている。そして、例えば気体として空気を注入する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路56に接続して気体供給部52を形成することができる。あるいは気体として、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素、オゾン等を供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路56に接続して気体供給部52を形成することができる。また、オゾンを供給する場合は、気体供給部52をオゾン発生機に接続し、空気から生成したオゾンを供給するようにしてもよい。流路56への気体供給部52の接続位置は、気液混合部53よりも上流側の位置であればよい。この装置のように、加圧部51と気液混合部53とが同体となってポンプ61で構成されている場合は加圧部51より上流側の流路56に接続することになる。また、加圧部51と気液混合部53とが別体で構成されている場合は、加圧部51より上流側の流路56に接続するようにしても、あるいは加圧部51より下流側の流路56に接続するようにしてもいずれでもよい。
【0029】
ここで、薬物を物理的刺激により発生する微小気泡に付着させる場合には、予め薬物を液体に分散・混合しておき、この液体を入液部63に送ってもよく、気体過飽和水を製造した後に薬物を溶解させてもよい。
【0030】
加圧部51は液体を圧送するものであり、例えば、この装置のように、液体供給源から送られた液体を加圧して下流側に送りだすポンプ61などで構成することができる。また、ポンプ61により構成した場合は、このポンプ61で液体貯留槽に常圧で貯留された液体を汲み上げるようにしてもよい。
【0031】
気液混合部53は圧送された液体とこの液体に注入された気体とを混合し、加圧により気体を微細な気泡にして液体中に分散・混合させるものである。気液混合部53としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路56を流れているのであれば単に流路56で構成することもできる。図2の形態では、加圧部51と気液混合部53とが兼用されてポンプ61で構成されて設けられている。気液混合部53内においては液体と気体が高圧条件で混合される。
【0032】
上記のような加圧部51および気液混合部53を構成するポンプ61により、気体が注入された液体に急激に圧力が加わって、飽和溶解量以上の気体が液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧にする際、加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、また、気液混合部53から気体分離部54に送り出される際の液圧を0.15MPa以上にすることにより、飽和溶解量以上の気体が液体に分散することができる。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP1/tの上限は167MPa/secであり、加圧された水溶液の圧力の上限は50MPaである。
【0033】
図3は、ポンプ61の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ61aは回転体71の回転により液体を加圧するものであり、回転体71に取り付けられた回転翼72が連続的に回転してポンプ入口76からポンプ流路室73を介してポンプ77への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図3において白抜き矢印は液体方向の流れ方向を示し、実線矢印は回転体71の回転方向を示している。このポンプ61aでは4枚の回転翼72が備えられている。また回転体71の回転軸75は、円筒状に形成されたポンプ壁74の円筒中心よりもポンプ出口77側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸71の偏心によりポンプ流路室73の第二流路室73bの容積は、第一流路室73aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室73の容積が順次小さくなっている。
【0034】
そして、ポンプ流路室73に送りだされた液体は、回転翼72で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡BBが細分化されて微細な気泡BNが液体中に分散される。すなわち、回転体71の回転と共に第一流路室73aから第二流路室73bに送られた液体は、ポンプ流路室73の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力により気泡BNが生成される。また、図示のポンプ61aでは、ポンプ壁74の内面と回転翼72の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡BB)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細な気泡(BN)になる。ここで、ポンプ壁74の内面と回転翼74の内面と回転翼72の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離LCは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体71を用いたポンプ61aによれば、回転体71で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断して微細な気泡を形成することができる。なお、ポンプ61中では、高圧液体中に気体が高濃度で含まれた状態となっている。
ポンプ61の回転体71の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させることができる。
【0035】
加圧部51および気体混合部53による加圧は、加圧部51または気液混合部53を複数設けて、複数回加圧することができる。具体的には、加圧部51を図2のようにポンプ61で構成すると共に、気液混合部53を一つ又は二つ以上のポンプ61又はベンチュリ管で構成することができるものである。
【0036】
気体分離部54は上記のようにして気体が混合された液体から、液体に微細に混合されていなかったり溶存できなかったりする気体を取り除くものである。このような過剰の気体は径の比較的大きい気泡として存在しており、この気泡を取り除けば過剰の気体を分離し除去することが可能である。
【0037】
気体分離部54は、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにした管体などで構成することができる。取り除かれた気泡は気体となって上部に集積するので。この除去された気体を気体除去部58により取り除くことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡は、浮力により上昇するので、取り除くことができる。
【0038】
気体分離部54としては、具体的には、図4のような構成にすることができる。(a)は、地表面に略水平(重力方向に対して略垂直な平面上)になるように形成し、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(b)は、形状が正面視逆L字型になるように形成し、液体Lqの流れ方向を水平方向から下方向(重力方向と略同方向)に変化させて液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(c)は、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。気体分離部54によって分離された気泡は、管体などで構成された気体除去部58から外部に排出される。
【0039】
減圧部55は気体が混合された液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧により気体と混合された液体は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、キャビテーションが発生することがある。そこで、減圧部55で大気圧まで徐々に減圧した後に吐出するようにしているものである。減圧部55は、気体が混合された液体を送りながら配管全域での減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして減圧するように構成されている。それにより、キャビテーションが発生することなく溶液を取りだすことができるものである。
【0040】
減圧部55としては、図5のような構成にすることができ、具体的には、(a)のように流路断面積が段階的に徐々に小さくなる流路56や、(b)のように流路断面積が連続的に徐々に小さくなる流路56や、(c)のように加圧された液体が流路56内を流れる圧力損失により高圧状態(P1)の気液混合液の圧力を徐々に低下させて(P2、P3、・・・)大気圧(Pn)まで減圧するように長さ(L)が調整された流路56や(d)のように流路56に設けられた複数の圧力調整弁59などにより構成することができる。
【0041】
例えば図5(a)又は(b)のような減圧部55を用いた場合、減圧部55よりも上流側の流路56を内径20mmにし、減圧部55を、流路の長さが約1cm〜10mで、内径が20mmから4mmにまで徐々に小さくなることにより流路断面積が小さくなる管体により構成することができる。なお、減圧部55は、入口内径/出口内径=2〜10程度に設定したり、1cmあたりの内径減少値を1〜20mm程度に設定したりすることができる。このとき、減圧部55に気液混合液を流速4×10−6m/s以上で送ると、減圧速度2000MPa/sec以下で、キャビテーションを発生させることなく1.0MPa減圧することができ、液体を大気圧にまで減圧することができる。
【0042】
減圧された液体は吐出液57から外部に吐出される。なお、その際、図6のように、流路56bと流56cとの間に、加圧部51における液体の押し込み圧を十分に確保するために延長流路60を設けることができる。すなわち、減圧部55を含めた全体の圧力損失を算出し、加圧部51からの押し込み圧によって気液混合部53内で液体と気体を加圧するのに必要な圧力と、全体の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の圧力損失が生じるように流路長さを調整した延長流路60を流路56に付加するようにしてもよい。押し込み圧の確保には絞り部などを設けることも考えられるが、絞り部などで押し込み圧を調整すると急激な圧力変化により気泡が崩壊するおそれがある。しかし、このように延長流路60を設ければキャビテーションの発生なく、気体過飽和水を吐出することができる。
【0043】
上記のように構成された装置Xにあっては、入液部63から入った液体に、気体供給部52により気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、ポンプ61で構成された加圧部51及び気液混合部53によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、気液混合部53から気液分離部54へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、気体分離部54で液中の余分な気体を取り除いた後、該液体を減圧部55及び下流側の流路56に送りながら最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、キャビテーションの発生なく、気体過飽和水を連続的に生成することができる。
【0044】
なお、気液混合部53よりも下流側の流路56は内径2〜50mm程度の管体などに形成することができる。それにより、比較的太い流路断面積で気体過飽和水を吐出することができ、細路により流路56を構成する場合のような配管の詰まりを防止できる。
【0045】
そして、吐出部57から吐出された気体過飽和水は、適切な剤形の製剤に加工される。例えば、静脈内投与するために注射器に封入されたり、経口投与するためにアンプルやバイヤルに詰められたり、経皮投与するために袋体に封入されたりすることができる。このように製造された製剤は、容器内においても気泡が発生することなく安定に存在するものであるので、気泡を要時調製するなどの手間を必要とすることなく、簡単に効率よく多量の気泡を体内に投与することができる。
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1
[気体過飽和水の製造]
装置Xを用い、気体として後述の各種の気体を用い、液体として後述の液体をもちいて気体過飽和水を製造した。
装置Xとしては、気液混合部53がポンプ61で構成された、図2の構成のものを用いた。ポンプ61としては回転体により加圧する図3のようなポンプ61aを用いた。
【0048】
気体と液体の比(液体に対する気体の注入量)は、容積比(体積比)で1:1に設定した。また、ポンプ61の回転体71の回転数は1700rpmに設定した。この条件により大気圧(0.1MPa)の水に気体が注入された後、加圧速度ΔP1/t=28.3MPa/secで加圧されて、気液混合部53から気体分離部54に送り出される際の水溶液の圧力が0.6MPaになった。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入される。
【0049】
また、減圧部55よりも上流側の流路56(56b)を内径20mmのものにした。減圧部55としては図5(a)のような、3段階で内径が徐々に小さくなるものを用い、具体的には、内径が14mm、8mm、4mmで長さが各約3.3mm(減圧部55の全長として約1cm)の三つの流路管部からなるものを用いた。また、減圧部55よりも下流側の流路56および延長流路60として、内径4mm(外径6mm)のホースを用い、下流側の流路56と延長流路60とを合わせた長さが2mとなるように設定した。この条件により、減圧部55において、最高減圧速度60MPa/sec、時間0.0025秒で水溶液を減圧し、さらに、下流側の流路56および延長流路60において、1MPa/sec、時間0.5秒で水溶液を減圧し、ホース先端部から、大気圧(0.1MPa)まで減圧された気体過飽和水が得られた。
【0050】
[発生する気体量の測定]
液体として超純水を、気体として空気を用い、4℃、20℃、37℃で、上記のように0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより気体過飽和水を作成した。作成直後に封止して、一部は37℃に加温し、その後、水溶液を25℃にした。水溶液中に過剰量含まれている気体(空気)の量を以下の(1)−(4)のように測定した。
(1)ナイロン樹脂製のガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に気体過飽和水を密閉し;
(2)ガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に密閉された水溶液をホットプレート上で45℃、2時間静置し;
(3)室温(25℃)で3時間静置し;
(4)ガスバリア袋(アズワン 5-5665-01)に存在する気体を捕集しその体積を測定する、ことにより測定した。
その結果、水溶液から発生する気体の量は、4℃が最も多く、20℃、37℃の順に少なくなった(図7参照)。4℃で作成すれば約60mLの気体が1Lの水に含まれ、20℃で作成すれば約40mLの気体が1Lの水に含まれ、37℃で作成すれば、約20mLの気体が1Lの水に含まれ、超音波付与によりこれらが微小気泡となって出現した。4℃および20℃で製造した水溶液からの気体発生量は、37℃に加温することにより僅かに減少したが、それでも37℃で製造した水溶液に比較し気体の発生量は多かった(図8参照)。
よって、作成温度が低いほど、気体発生量が増加すること、作成時の温度の方が、作成後の温度上昇よりも気体発生量の低下に対する寄与が大きいことが明らかとなった。生体や細胞に37℃で適用する場合、低温で作成した後に加温した方が得られる気体の発生量が多いことが示された。
【0051】
[各種水溶液における気体の発生量]
液体として超純水、生理食塩水またはリン酸バッファー(PBS(+))を用い、気体として空気を用いて、4℃で、実施例1の方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより、気体過飽和水を作成した。作成直後に封止して、その後、該水溶液中に存在する気体量を25℃にし、気体発生量を測定した(図9参照)。
また、4℃で超純水を用いて作成した気体過飽和水に4℃の10倍濃縮生理食塩水(10×生理食塩水)、10倍濃縮PBS(+)(10×リン酸バッファー)または10倍濃縮培養液(10×RPMI1640)(10×培養液)を加え、1×生理食塩水、1×リン酸バッファーおよび1×RPMI1640を作成した。作成直後に封止して、一部を37℃に加温し、その後、該水溶液を25℃にし、気体発生量を測定した。
その結果、食塩水、PBS(リン酸緩衝液)を用いて気体過飽和水を直接作成した場合、超純水に比較し気体発生量の低下は見られなかった(図9参照)。
また、10倍濃縮した溶媒と超純水を用いて作成した気体過飽和水を混合して1倍濃度に希釈した場合、気体発生量は2〜3割低下した(図10参照)。なお、図10中、「超純水」は、液体として超純水、気体として空気を用いて4℃で製造された気体過飽和水の気体発生量を表し、「10×生理食塩水」は、10倍濃縮生理食塩水を「超純水」で希釈して1倍とした生理食塩水の気体発生量を表し、「10×リン酸バッファー」は、10倍濃縮PBS(+)を「超純水」で希釈して1倍としたPBS(+)の気体発生量を表し、「10×RPMI1640」は、10倍濃縮RPMI1640培地を「超純水」で希釈して1倍としたRPMI1640培地の気体発生量を表す。
直接過飽和量の気体を混合して作成された等張液の方が、超純水を用いて気体過飽和水を一旦作成し、その気体過飽和水で希釈することにより作成された等張液に比較し、発生気体量が多くなり、微小気泡の発生量が多くなることが示された。
【0052】
実施例2
[超音波の照射]
超音波による微小気泡の崩壊の例を示す。
図11は、超音波照射の前後の気体過飽和水Aの写真であり、(a)は照射前、(b)は照射後である。図中、超音波浴槽を符号4で示している。
ビーカー(300mL)内に、液体として超純水を、気体として窒素を用いて実施例1の方法に従って作成された気体過飽和水Aを入れた。
超音波浴槽4としては、振動子40kHzボルト締めランジュバン型振動子を用いた超音波浴槽(槽の寸法は240×140×150mm)を用いた。その浴槽内に水を張り、出力100Wで超音波を照射している浴槽内の水にビーカーごと1〜2秒程度浸した。その結果、図11(b)のように、微小気泡が発生した。
【0053】
実施例3
[微小気泡への脂肪酸の付着]
窒素と超純水を用いて実施例1の方法に従って作成した気体過飽和水に脂肪酸を混合したところ、溶液内に成分が均一に分散(乳化)することが確認された。
図12に、このようにして調製された、脂肪酸を複合化した気泡を有する組成物Aを示す。
使用した脂肪酸は、脂肪酸混合物(バター)であり、その主な成分は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸である。
この結果は、混合した脂肪酸が微小気泡に付着されていることを示している。
さらに、超音波を照射したところ、微小気泡が発生した。この結果は、脂肪酸を混合しても気体過飽和水の特性が維持されていることを示している。
【0054】
実施例4
[酸性条件下での微小気泡の発生]
窒素と超純水を用いて実施例1の方法に従って作成した気体過飽和水に塩酸を加えてpH2.2にし、恒温槽にて33℃でインキュベートした。
図13(a)に、この条件に調製された気体過飽和水Aの外観を示す。
この気体過飽和水Aに超音波を照射すると、気泡が発生した(図13(b))。
一般に胃液のpHが2〜3であると言われていることから、この結果は、胃酸環境下でも気体過飽和水の特性が失われないことを示している。
【0055】
実施例5
[気体過飽和水を利用した薬物の細胞内への導入]
HL60細胞を、RPMI1640培地を用いて培養した。HL60細胞を回収し、PBS(−)に2.1×108細胞/mlに懸濁した。HL60細胞懸濁液、培養液を96Wellプレートに滴下した。培養液はRPMI1640粉末を規定の1/10の量の超純水で溶かした10倍濃度のRPMI1640培養液を作成し、(1)気体過飽和水で10倍希釈した培養液、(2)飽和水(飽和量の空気が溶解した水)で10倍希釈した培養液、(3)超純水(ミリポア社製)で10倍希釈した培養液の3種類を用いた。なお、気体過飽和水は、液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより作成した。
実験ではそこにPI(プロビディウムアイオダイド)を混合し超音波付与を行った。
超音波の照射は、96Wellプレートの底面に超音波のトランスデューサーを接触させて行った(正弦波、周波数:1.0MHz、強度:0.06W/cm2、PRF:100Hz、Duty:50%、10秒間付与)。伝達効率を高めるために、トランスデューサーとプレート底面の間にはゲルを塗布した。また、細胞培養用のウェルは底が190μmほどの薄いフィルムでできているもの(BDFalcon社製)を採用した。
超音波の照射後、細胞を回収し、トリパンブルー(TB)を滴下し、蛍光顕微鏡を用いてPI染色およびTB染色の結果を観察した。
PI(プロピジウムイオダイド)は、通常生細胞の細胞膜を通過しないが、細胞膜が破損した場合には細胞内のDNAにインターカレートし蛍光を発する。
一方、トリパンブルー(TB)は、生細胞では排出されるが、死細胞では排出されず、青く染色する。
よって、PIで染色され、TBで染色されない細胞は、細胞膜が少なくとも一時的に破損されPIが細胞内に入った生存細胞と考えることができる。
PIは、核酸内のDNAと結合して発色することから、TBで染色されずPIで染色された細胞は生きている細胞の核にPIが導入されていることを示す。
すなわち、溶液内に薬剤や微細物があれば、それらはPIと同様に細胞の核内に導入されるといえる。
【0056】
図14は、超音波付与後の溶液を顕微鏡で撮影した写真である。左の明視野画像で、TBで染色された細胞を観察でき、右の蛍光画像でPIで染色された細胞を観察可能である。
左右の写真は同じ場所を撮影したものであり、PIで染まり、TBで染まらない細胞が画面内に多数見られた。これらの細胞は生存しているが、細胞膜が破損しており、PIが核酸まで到達している。よって細胞への微細物の導入可能性が示された。
【0057】
図15は、超純水または気体過飽和水を用いて作成したRPMI1640培地(過飽和度:1.6(=38/23.8))を用い、超音波のありなしの条件で実験を行った結果の顕微鏡写真である。
図15中、「超純水」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合のPIおよびTB染色結果を、「超純水+超音波」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した場合のPIおよびTB染色結果を、「過飽和水」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合のPIおよびTB染色結果を、「過飽和水+超音波」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した場合のPIおよびTB染色結果を示す。
気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与した条件でのみ、PIで染まり、TBで染まらない細胞が多数見られた。
【0058】
実施例6
[細胞内への薬物導入効果のある過飽和度の検討]
液体として超純水を、気体として窒素ガス(99.9%)を用い、温度20℃、加圧を0.6MPa、3MPaとし2種類の気体過飽和水を作成した。
気体捕集法により気体発生量を計測したところ、0.6MPaで加圧したものは50.6mg/L、3MPaで加圧したものは367.8mg/Lであった。
20℃における窒素の飽和溶解量は19.62mg/Lであり、0.6MPaで加圧した水は3.58倍、3MPaで加圧した水は20.2倍の過飽和度であるといえる。
0.6MPaで加圧したものを2倍、5倍、10倍と希釈し、それぞれ過飽和度が2.29、1,52、1.26の3種類の溶液を作成した。
3MPaで加圧したものは0.9倍,10倍と希釈しそれぞれ過飽和度が18.2倍、2.92倍の2種類の溶液を作成した。
希釈は、飽和水(超純水に飽和濃度の窒素ガスが溶解させた水溶液)と濃縮したPBS(-)バッファーを用い、浸透圧が細胞と等しくなるよう調整した。
実験ではそこに細胞混濁液とPI(プロビディウムアイオダイド)を混合し超音波付与を行った。
超音波の照射は、96Wellプレートの底面に超音波のトランスデューサーを接触させて行った(正弦波、周波数:1.0MHz、強度:0.1W/cm2、PRF:100Hz、Duty:50%、10秒間付与)。伝達効率を高めるために、トランスデューサーとプレート底面の間にはゲルを塗布した。また、細胞培養用のウェルは底が190μmほどの薄いフィルムでできているもの(BDFalcon社製)を採用した。
超音波の照射後、細胞を回収し、トリパンブルー(TB)を滴下し、蛍光顕微鏡を用いてPI染色およびTB染色の結果を観察した。
【0059】
その結果、過飽和度1.26以上18.2以下で、PIが核に導入されている細胞が観察された(図16参照)。導入効率(“PIで染色されTBで染色されない細胞の数”/“総細胞数”X100(%))は、過飽和度の上昇により顕著な差が見られなかった(図17参照)。
1.26以上の過飽和度であれば効果があると推測される。また、窒素ガスが大部分を占める空気についても、窒素ガスと同様に、1.26以上の過飽和度、例えば、過飽和度1.26以上18.2以下でPIが核に導入されている細胞が観察されると推測される。
【0060】
実施例7
[超音波付与条件の検討]
実施例5と同様のHL60細胞を用いたPIの細胞内導入実験において、超音波の周波数を1.0MHz(正弦波、PRF100Hz、Duty50%)と固定し、超音波の強度を0.1W/cm2、1W/cm2と変化させてPIの導入効率を測定した(図18、19参照)。
【0061】
図18は、顕微鏡視野内での、変化のない細胞(PI,TBともに染色なし)、死細胞(TBで染色された細胞)、PIが導入された生細胞(“PIで染まり、TBで染まらない細胞の数”)の計数結果である。
図18中、「超純水+US0.1W/cm2」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に0.1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「過飽和水+US0.1W/cm2」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に0.1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「超純水+US1W/cm2」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「過飽和水+US1W/cm2」は、気体過飽和水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に1W/cm2で超音波を付与した場合の結果、「(参考)超純水-US」は、超純水を用いて作成されたRPMI1640培地中の細胞に超音波を付与しない場合の結果を示す。
超音波強度の上昇に伴い、導入される生細胞数は増加するが、それに伴い死細胞数が増加することがわかった。
図19は、(“PIで染まり、TBで染まらない細胞の数”/”総細胞数“)の比率を示す。
0.1W/cm2、1W/cm2いずれの強度の超音波付与条件においても、気体過飽和水を用いて作成された培地を用いることにより、導入効率の向上が確認できた。
さらに、超音波の強度を3W/cm2、5W/cm2と変化させてPIの導入効率を測定した。その結果、3W/cm2、5W/cm2の超音波照射によりPIが導入された生細胞が確認できた(図20参照)。超音波強度を上げることで死細胞の数が増加した。導入効率(PIが導入された細胞数/総細胞数)は1%以下であった(図21参照)。死細胞数が多かったことから、導入効率をPIが導入された細胞数/超音波刺激後に生存した細胞数として解析したところ、気体過飽和水で導入効率が増加していることが認められた(図22参照)。増殖能が高い細胞への導入は、3W/cm2、5W/cm2の超音波強度の刺激が有用であることが示された。
次に、超音波の強度を0.1W/cm2と固定し、超音波周波数を、1.0MHz、3.4MHzと変化させてPIの導入を試験した。
その結果、3.4MHzの周波数でもPIが導入された生細胞が確認できた(図23参照)。
また、周波数を1.0MHzまたは3.4MHzと固定し、超音波の強度を変化させてPIの導入効率を測定した。
その結果、導入効率は1.0MHzまたは3.4MHzで顕著な変化は見られなかったが、1.0MHzと比べて3.4MHzでは、死細胞数の顕著な減少が見られた。
また、周波数1.0MHzの超音波を使用した場合、0.06W/cm2で高い導入効率が得られた(図24参照)。
【0062】
実施例8
[発生気体量とPI細胞内導入効率の検討]
飽和濃度で空気が溶解した水(飽和水)にRPMI1640粉末を溶解させた培地(図25中の飽和水)を用いた場合と、液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより作成した気体過飽和水にRPMI1640粉末を溶解させた培地(図25中の過飽和水)を用いた場合の細胞内へのPI導入効率を比較した。超音波は、1.0MHz、0.06W/cm2を10秒間付与した(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)。
飽和濃度で空気が溶解した培地は、超純水(ミリQ水)を1L試薬ビンに入れ、30分間バブリングを行い、使用温度の開放系で室温に30分間静置し、それにRPMI1640の粉末を溶解させて作成した。なお、本条件で飽和濃度に達していることは、事前に分光光度計(ハック社DR2800)による溶解酸素量の計測により確認した。
図25から、飽和濃度で空気が溶解した培地では細胞内にPIが導入されないことが示され、細胞内の薬物の導入には飽和濃度を超える(過飽和の)空気が培地に存在している必要があることが示された。
【0063】
実施例9
[気体種とPI細胞内導入効率の検討]
空気の代わりにC3F8ガスを用い、HL60細胞内へのPIの導入を検討した。C3F8ガスにおいても、本発明の手法で過飽和状態になり得る(1Lあたりの気体発生量約25ml、空気は約60ml)ことを確認し、また、超音波を付与した際に長時間(空気:約30秒、C3F8:約5分間)微細気泡として存在することを確認した。なお、超音波(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)は、1.0MHzの周波数で、0、0.03、0.06、0.12または0.24W/cm2の強度で10秒間付与した。C3F8ガスにおいても生細胞内にPIが導入されることを確認した(図26)。
【0064】
実施例10
[市販超音波用マイクロバブルとの比較実験]
本手法による微細物導入の比較対象として、研究用に販売されている超音波遺伝子導入用造影剤(ネッパージーン社SV-25)にて比較検証を行った。
SV-25を培地に懸濁し、超音波を付与し、PI染色にて評価を行ったところ、HL60細胞内への微細物の導入は可能であった。
過飽和水で培地を作成し、超音波の付与を行ったところ、導入効率は数%ほどであり気体過飽和水に比べ低い値が得られた(図27)。なお、超音波(正弦波、PRF100Hz、DUTY50%)は、1.0MHzの周波数で、0、0.03、0.06、0.12または0.24W/cm2の強度で10秒間付与した。また、気体過飽和水にくらべ、SV-25を用いると死細胞率が高く、超音波強度の上昇とともに死細胞率が大きく上昇した。
この結果から、気体過飽和水を使用することで、通常のマイクロバブル導入剤に比べ、死細胞率を低下させることができると示唆される。また、マイクロバブルより低い超音波強度で導入が可能となり細胞、生体への悪影響を軽減できる可能性が示唆された。
【0065】
実施例11
[細胞内への蛍光タンパク質発現遺伝子の導入について]
液体として超純水、気体として空気を用い、4℃で、実施例1に記載した方法に従って、0.6MPaで加圧して空気を超純水に含ませることにより気体過飽和水を作成した。RPMI1640の10倍濃縮液を気体過飽和水または超純水で10倍希釈し、気体過飽和水を含むRPMI1640培養液および超純水で作成されたRPMI1640培地をそれぞれ作成した。それぞれの培地にFBSを添加し、最終10%のFBSが含まれるようにした。HL60細胞を96穴プレート(底厚180μm)に1X107細胞/wellの濃度で播種し、培養液100μl/well中で培養した。八放サンゴ由来の単量体型の緑色蛍光タンパク質(490nm、507nmにそれぞれ励起、蛍光の極大を有する)を発現するベクター“pDendra-2 N Vector"(clontech社製:4705bp)を20μg/mlとなるように培地に添加し、1.0MHz、0.5W/cm2の超音波(正弦波、PRF100Hz、Duty50%)を10秒付与した。
その結果、超音波付与により、気体過飽和水で作成した10%FBS含有RPMI1640培地中で培養された細胞内に、超音波付与40および70時間後に緑色蛍光タンパク質の発現が確認された(図29)。一方、超純水で作成した10%FBS含有RPMI1640培地中で培養された細胞内には、超音波付与によっても、緑色蛍光タンパク質の発現は確認されなかった。
【符号の説明】
【0066】
A:気体過飽和水
X:気体過飽和水の製造装置
4:超音波浴槽
51:加圧部
52:気体供給部
53:気液混合部
54:気体分離部
55:減圧部
56:流路
57:吐出部
58:気体除去部
61:ポンプ
63:入液部
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明で提供される気体過飽和水は、細胞内への薬物導入に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体過飽和水を含む、細胞への薬物導入用組成物。
【請求項2】
該気体過飽和水が、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
物理的刺激が、超音波照射により与えられる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
物理的刺激が、0.03〜5W/cm2の超音波照射により与えられる、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
物理的刺激が、1.0MHz〜3.4MHzの周波数の超音波により与えられる、請求項2−4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
該気体過飽和水に溶解した薬物をさらに含む、請求項1−5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
該薬物が、ペプチド、抗体、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物である、請求項1−6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
該薬物が遺伝子であり、該遺伝子が、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれる、請求項1−6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
該気体が、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素およびオゾンからなる群から少なくとも1つ選択される気体である、請求項1−8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
該気体過飽和水が、細胞と浸透圧が等しい溶液である、請求項1−9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
以下の工程(i)−(iv):
(i)液体を圧送する工程;
(ii)圧送された液体に気体を注入する工程;
(iii)気体を注入された液体を加圧し気体を溶存する工程;および
(iv)気体が溶存した液体を圧送しながらその圧力を大気圧まで減圧する工程
を含む方法により気体過飽和水が製造される、請求項1−10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
気体過飽和水が37℃より低い温度で製造される、請求項1−11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
以下の工程:
(i)気体過飽和水であって薬物が溶解する水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、in vitroにおける細胞への薬物導入方法。
【請求項14】
以下の工程:
(i)気体過飽和水であって薬物が溶解する水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、in vivoにおける非ヒト細胞への薬物導入方法。
【請求項15】
該水溶液が、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
該薬物が、ペプチド、抗体、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物である、請求項12−15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
該薬物が遺伝子であり、該遺伝子が、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれる、請求項12−15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
該気体が、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素およびオゾンからなる群から少なくとも1つ選択される気体である、請求項12−17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
物理的刺激が、超音波照射により与えられる、請求項12−18のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
気体過飽和水を含む、細胞への薬物導入用組成物。
【請求項2】
該気体過飽和水が、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
物理的刺激が、超音波照射により与えられる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
物理的刺激が、0.03〜5W/cm2の超音波照射により与えられる、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
物理的刺激が、1.0MHz〜3.4MHzの周波数の超音波により与えられる、請求項2−4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
該気体過飽和水に溶解した薬物をさらに含む、請求項1−5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
該薬物が、ペプチド、抗体、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物である、請求項1−6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
該薬物が遺伝子であり、該遺伝子が、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれる、請求項1−6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
該気体が、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素およびオゾンからなる群から少なくとも1つ選択される気体である、請求項1−8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
該気体過飽和水が、細胞と浸透圧が等しい溶液である、請求項1−9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
以下の工程(i)−(iv):
(i)液体を圧送する工程;
(ii)圧送された液体に気体を注入する工程;
(iii)気体を注入された液体を加圧し気体を溶存する工程;および
(iv)気体が溶存した液体を圧送しながらその圧力を大気圧まで減圧する工程
を含む方法により気体過飽和水が製造される、請求項1−10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
気体過飽和水が37℃より低い温度で製造される、請求項1−11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
以下の工程:
(i)気体過飽和水であって薬物が溶解する水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、in vitroにおける細胞への薬物導入方法。
【請求項14】
以下の工程:
(i)気体過飽和水であって薬物が溶解する水溶液と細胞を接触させる工程;および
(ii)物理的刺激を与える工程、
を含む、in vivoにおける非ヒト細胞への薬物導入方法。
【請求項15】
該水溶液が、物理的刺激により微小気泡を発生する水溶液である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
該薬物が、ペプチド、抗体、遺伝子、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ウイルスベクター、プラスミドまたは低分子有機化合物である、請求項12−15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
該薬物が遺伝子であり、該遺伝子が、プラスミドまたはウイルスベクターに含まれる、請求項12−15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
該気体が、フルオロカーボン、6フッ化硫黄、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、塩素、メタン、プロパン、ブタン、一酸化窒素、亜酸化窒素およびオゾンからなる群から少なくとも1つ選択される気体である、請求項12−17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
物理的刺激が、超音波照射により与えられる、請求項12−18のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図22】
【図23】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−213347(P2012−213347A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80122(P2011−80122)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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