説明

細胞アレイならびに遺伝障害マーカーの検出および使用方法

【課題】ドナー検体をレシピエントアレイ中の割り当てられた位置に設置し、アレイのコピーを提供し、各コピーで異なる生物学的分析を行うことにより、組織または他の細胞検体の迅速な分子プロファイリングを行う方法を提供する。
【解決手段】2つの非常に異なるタイプのアレイを組み合せて、癌およびトリソミーのようなさまざまな遺伝障害のマーカーとなり得る遺伝子のコピー数の変化を、高い解像度で迅速かつ正確に検出する方法。特定の遺伝障害に対応する、ゲノム上の特定の「標的」領域(核酸配列)を検出する方法。プローブを用いて特定の遺伝障害のスクリーニングおよび/または診断を行う方法。遺伝障害を治療するためにゲノム標的領域と相互作用する組成物、およびこれらの組成物を用いて遺伝障害を治療する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、いずれも全体が参照として本明細書に組み入れられる1998年10月28日出願の米国仮特許出願第60/106,038号、および1999年8月24日出願の米国仮特許出願第60/150,493号から優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、癌のような遺伝障害のマーカーを発見するための、組織試料およびゲノム領域のスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
組織検体の顕微鏡検査によって、多くの疾患の生物学的機構が明らかになってきた。さらに組織病理学的検査によって、様々な疾病に有効な医学的治療の開発が可能になった。標準的な解剖病理では、細胞の形態および染色特性に基づいて、診断が行われる。例えば、腫瘍検体を調べて、腫瘍の種類および腫瘍の攻撃性を予測することができる。この腫瘍の顕微鏡検査および分類によって医学的治療は改善したものの、標準的な方法(例えば、ヘマトキシリンおよびエオシン)で染色された検体の観察で得られる診断および分子情報は、限定されたものにすぎないことが多い。
【0004】
分子医学の最近の進歩のおかげで、疾病の細胞機構を理解し、成功の確率の高い適切な治療を選択する機会が向上した。たとえば、一部のホルモン依存性乳癌細胞は、その細胞表面のエストロゲン受容体の発現が増加しており、これはその腫瘍を持つ患者が特定の抗エストロゲン薬物療法におそらく応答すると思われることを示す。診断および予後に関連する細胞の他の変化には、腫瘍特異的細胞表面抗原(メラノーマにおけるような)、胎児性蛋白質の生産(肝癌におけるαフェトプロテインおよび胃腸の腫瘍による糖蛋白である癌胚抗原など)、および遺伝子異常(腫瘍における活性化オンコジーンなど)が含まれる。これらの細胞異常の存在を検出するために、モノクローナル抗体による免疫表現型判定、プローブを用いたインサイチューハイブリダイゼーション、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いたDNA増幅など、様々な技術が開発された。
【0005】
多数の臨床検体でバイオマーカーを評価する過程は単調で時間がかかるため、臨床的な重要性を持つ新しい分子マーカーの開発は進まなかった。たとえば、1つのマーカーの重要性を評価する前に、腫瘍の様々な進行段階に対応する組織検体を何百も評価しなくてはならない。抗体、およびmRNAまたはDNA標的のプローブの数が急速に増加しているため、多数の臨床検体で検査できるのは、そのごく一部に過ぎない。
【0006】
1枚のスライドまたはプレート上で、複数の組織または核酸の試料を調製するために、様々な方法が探られてきた。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、新しい方法で、2つの非常に異なるタイプのアレイを組み合せて、癌およびトリソミーのようなさまざまな遺伝障害のマーカーとなり得る遺伝子の増幅または欠失のような、ゲノムコピー数の変化を、高い解像度で迅速かつ正確に検出することができるという発見に基づいている。
【0008】
したがって本発明は、組織マイクロアレイ技術を、ハイスループット・ゲノミックスのような他の技術と組み合わせることによって、たとえば、1つまたは複数の種類の腫瘍または遺伝性の遺伝障害のような特定の遺伝障害に対応する、ゲノム上の特定の「標的」領域(核酸配列)を検出する方法に関する。この方法は、遺伝子または蛋白質における構造変化のような分子特性の同定、および遺伝子のコピー数または発現の変化の同定に使用され、ならびにこれらの結果を疾病の予後または治療転帰と相関させて、遺伝子予防、早期診断、疾病分類、または予後のための新規標的の同定、および治療薬の同定が行われる。ハイスループット技術には、cDNAアレイおよびCGHアレイ(Comparative Genomic Hybridization)が含まれる。
【0009】
また本発明は、核酸(遺伝子)の新しいアレイ、例えば、特定のタイプの腫瘍の典型(腫瘍特異的診断遺伝子アレイ)を調製する方法;これらのゲノム標的領域に選択的にハイブリダイズするプローブ;これらのプローブの調製方法;プローブを用いて特定の遺伝障害のスクリーニングおよび/または診断を行う方法;遺伝障害を治療するためにゲノム標的領域と相互作用する組成物;およびこれらの組成物を用いて遺伝障害を治療する方法、も含む。
【0010】
一般に1つの局面では、本発明は、複数のドナー検体を得、各ドナー検体をレシピエントアレイの割り当てられた位置に設置し、genosensor comparative genomic hybridization(gCGH)アレイを用いてレシピエントアレイを検査するためのバイオマーカーを同定し、各切片が割り当てられた位置にある複数のドナー検体を含むようにしながら、レシピエントアレイから複数の切片を作製し、バイオマーカーを用いて各切片で異なる生物分析を行い、異なる切片上で対応する割り当て位置にある異なる生物分析の結果を比較して、各位置における異なる生物学的分析の結果の間に相関の有無を決定することによる、組織検体の平行した分析に関する。たとえば、バイオマーカーは、ハイスループット遺伝分析によって選択できるが、バイオマーカーには、染色体、染色体領域、遺伝子、遺伝子断片、または遺伝子座の数の変化が含まれ得る。
【0011】
結果は、遺伝子変化のマーカーを調べることによって、遺伝子の変化があるかどうかを決定して、比較できる。たとえば、その変化は、乳癌、肺癌、大腸癌、精巣癌、子宮内膜癌、または膀胱癌におけるPDGFBの増幅の場合がある。
【0012】
別の態様では、本発明は、組織検体において増幅した遺伝子を検出するgenosensor comparative genomic hybridization(gCGH)アレイを用いて、組織検体中の複数の遺伝子をスクリーニングし、核酸プローブを用いて組織アレイ中の複数の組織検体をスクリーニングして、その組織検体中でどの遺伝子が増幅されているかを検出するが、ここで、複数の遺伝子のスクリーニング結果を用いて、複数の組織検体をスクリーニングするための核酸プローブを選択する、または複数の組織検体のスクリーニング結果を用いて、どの遺伝子が増幅されたかを検出するアレイを選択する、組織検体における遺伝子増幅を分析する方法に関する。
【0013】
本方法では、gCGHアレイは、遺伝子増幅、またはこの増幅を反映する遺伝子もしくは分子マーカーについてアッセイすることができる。CGHアレイは、癌において増幅される標的遺伝子座を含むマイクロアレイの場合がある。
【0014】
また本発明は、ゲノム領域のgenosensor comparative genomic hybridization(gCGH)アレイを、既知の特定の遺伝障害を持つ細胞由来の核酸試料に露出して、核酸がハイブリダイズするゲノム領域をバイオマーカーとして同定し;このバイオマーカーにハイブリダイズする候補プローブを入手して;候補プローブを組織検体アレイに露出して、候補プローブのハイブリダイゼーションの統計的な尺度を決定し;ハイブリダイゼーションの統計的に有意な尺度を持つ候補プローブを選択し;選択された候補プローブを用いて遺伝障害に関して生体試料を分析することによって、生体試料を遺伝障害に関して分析する方法にも関する。生体試料のこの分析は、診断または予後に関する情報を提供可能にする。
【0015】
さらに本発明は、検体において血小板由来成長因子β(PDGFB)が増幅されているかどうかを決定することにより、検体中の癌性細胞の存在を決定する方法にも関する。ここで、増幅があれば、例えば、肺、膀胱、または子宮内膜組織検体中に癌性細胞が存在することを示す。
【0016】
別の局面では、本発明は、核酸断片が1つまたは複数の候補ゲノム領域にハイブリダイズできる条件下で、genosensor comparative genomic hybridization(gCGH)アレイ中の複数のゲノム領域に、全体で既知の特定の遺伝障害を持つ細胞由来のDNAに対応する核酸断片を含む核酸試験試料を接触させ;候補ゲノム領域にハイブリダイズした核酸試験試料があればその量を測定し、正常DNAの対照試料と比較して、核酸試料のハイブリダイズ量の変化に対応する候補ゲノム領域を選択し;選択された候補ゲノム領域にハイブリダイズする核酸プローブを調製し;プローブが組織試料中のヌクレオチド配列にハイブリダイズできる条件下で、複数の組織試料にプローブを接触させ;相当な数の組織試料にハイブリダイズするプローブに対応する候補ゲノム領域を、その特定の遺伝障害に伴うゲノム標的配列として選択することによって、特定の遺伝障害に伴うゲノム標的配列を検出するための方法に関する。
【0017】
本明細書で使用される「ポリペプチド」とは、長さまたは翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関係のない、任意のアミノ酸鎖である。
【0018】
「遺伝子増幅」とは、正常組織における遺伝子のコピー数と比較した、コピー数の増加である。遺伝子増幅の例には、オンコジーンのコピー数の増加がある。「遺伝子欠失」とは、遺伝子配列に通常存在する1つまたは複数の核酸の欠失であり、極端な例には、遺伝子全体または染色体の一部の欠失が含まれ得る。
【0019】
「ゲノム標的配列」は、1つまたは複数の特定の遺伝子座に対応する、ヒトゲノム中の特定の領域に存在するヌクレオチド配列で、ヌクレオチド多型性のような遺伝子異常、欠失、または増幅を含む。
【0020】
「遺伝障害」とは、1つまたは複数の遺伝子または調節配列の変化(増幅、変異、欠失、または転移など)によって引き起こされる、任意の病気、疾患、または異常な肉体的または精神的状態である。
【0021】
「comparative genomic hybridization」またはCGHとは、Kallioniemiら、Science, 258:818-821, 1992に記述されるように、試験DNAおよび正常参照DNAに異なる標識をする技術で、これらのDNAは広げた染色体に同時にハイブリダイズされる。
【0022】
「核酸アレイ」とは、cDNAまたはCGHアレイのように、マトリックス上で核酸(DNAまたはRNAなど)に位置を割り当てて配列したものである。
【0023】
「マイクロアレイ」とは、小型化してあるために視覚的評価に顕微鏡観察が必要なアレイである。
【0024】
「DNAチップ」とは、既知のDNA配列の複数のDNA分子(例、cDNA)が通常はマイクロアレイである基質上に配列されたDNAアレイで、このDNA分子が関心のある検体由来の核酸(例、cDNAまたはRNA)にハイブリダイズできるものである。DNAチップは、Ramsay, Nature Biotechnology, 16:40-44, 1998にさらに記述されている。
【0025】
「遺伝子発現マイクロアレイ」とは、Schena, BioEssays 18:427-431, 1996にあるように、基質上にプリントされたcDNAの微小なアレイで、mRNAプローブの高密度ハイブリダイゼーション標的になるものである。
【0026】
「Serial Analysis of Gene Expression」または「SAGE」とは、Velculescuら、Science, 270:484-487, 1995に記述されるように、短い配列タグを用いて、組織中で多数の転写物を定量的に同時に分析する方法である。
【0027】
「ハイスループットゲノミックス」とは、マイクロアレイまたは他のゲノム技術を用いる、ゲノムデータもしくは遺伝データの応用または分析技術で、多数の遺伝子もしくは蛋白質を迅速に同定する、または正常もしくは異常な細胞もしくは組織から構造、発現、もしくは機能を区別するものである。
【0028】
「腫瘍」とは、悪性または非悪性のいずれかの新生物である。「同じ種類の組織の腫瘍」は、特定の器官(乳房、前立腺、膀胱、または肺など)に由来する原発腫瘍である。同じ種類の組織の腫瘍は、異なるサブタイプの腫瘍に分割できる場合がある(古典的な例は、気管支癌(肺腫瘍)で、腺癌、小細胞癌、扁平上皮癌、または大細胞癌であり得る)。
【0029】
「細胞」検体とは、細胞全体を含むもので、同様な専門化した細胞が特定の機能を実行するために凝集した組織を含む。その例として、皮膚、乳房、前立腺、血液、精巣、卵巣および子宮内膜由来の細胞が含まれる。
【0030】
「細胞懸濁液」とは細胞が散在する検体で、均一または不均一な懸濁液を含み得る。細胞懸濁液の例として、腫瘍部位から細針吸引で得られるもの、細胞学検体(パプ塗抹標本試験の調製用の膣液など)、洗浄液(気管支洗浄など)、細胞を含む尿(例えば、膀胱癌の検出)、腹水(例、腹腔穿刺で得られる)、または他の体液がある。
【0031】
「細胞学的標品」とは、病理学検査または分析のために、細胞懸濁液が塗抹標本または他の形に転換できる、膣液のような病理学的検体である。
【0032】
特に記載がないかぎり、本明細書で使用される全ての専門用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味で使用されている。本明細書に記述のものと類似または同等な方法および材料は本発明の実施または検証に使用できるが、好ましい方法と材料は以下に記述する。本明細書に記載される全ての出版物、特許出願、特許および他の参照文献は、全体が本明細書に組み込まれる。相反がある場合、定義を含め本出願が優先される。材料、方法、および実施例は、実例となるだけで、制限を加えるものではない。
【0033】
本発明は、組織中に存在する特定のゲノム異常を迅速に同定する手段のみならず、何百または何千の組織におけるこれら異常の統計学的意義と重要性を提供して、関連する診断および予後に関する情報を提供し、さらに治療薬の潜在的標的を提供する。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および請求の範囲から明らかになるだろう。
【0035】
詳細な説明
組織アレイを他のアレイ技術と組み合わせて使用すると、様々な種類の組織(異なる種類の腫瘍など)、および特定の組織学的タイプの組織(乳房の分泌管内癌のような特定の種類の腫瘍など)における多くの遺伝的変化の頻度または遺伝子発現パターン、ならびに試験される分子マーカーの組織分布に関する情報が得られる。
【0036】
DNAおよび組織アレイの組み合わせの1つの態様では、DNAアレイは、複数(数百、数千、またはそれ以上)の異なる核酸配列が支持体の表面に固定されてアレイを形成する、cDNAまたはゲノムのマイクロアレイチップの可能性がある。そのようなチップは、たとえば、cDNAクローン、オリゴヌクレオチド、または大きなインサートのゲノムP1、BAC、またはPACクローンのアレイを持つ場合がある。これらのアレイを用いると、1度に何百もの遺伝子またはゲノム断片を分析し、試験検体におけるその発現またはコピー数を決定できる。
【0037】
ハイスループットDNAチップは、ハイスループット組織アレイ技術と組み合わせて使用することができる。そのようなハイブリッド発明には、DNAアレイを用いて、限定された数の腫瘍試料について、1つまたは複数(例、数千)の特定の遺伝子またはDNA配列の発現またはコピー数のスクリーニングを行うことが含まれる。それから、対象とする遺伝子を含むプローブを用いて、多くの異なる組織検体(例えば、種々の乳房腫瘍または前立腺腫瘍)を含む組織マイクロアレイをスクリーニングして、これらの腫瘍内で同一の遺伝子または遺伝子座が同様に変化しているかどうかを決定できる。たとえば、cDNAチップを用いて、ヒトの乳癌細胞株をスクリーニングし、その特定の乳癌で過剰発現または増幅している1つまたは複数の遺伝子を同定できる。その後、同定された遺伝子に対応するプローブを用いて、異なる乳癌、または異なる種類の腫瘍(肺癌または前立腺癌など)に由来する複数の組織試料を含む組織アレイを調べる。そのようなプローブは、DNAアレイで使用された同一のクローンを標識(例、蛍光または放射性マーカー)して作製できる。関連する(または無関連の)腫瘍における遺伝子の存在は、組織アレイに対するプローブのハイブリダイゼーションパターンによって明らかにできる。
【0038】
別の態様には、診断用の腫瘍特異的遺伝子アレイの作製方法が含まれる。
【0039】
図1〜12の態様
本発明のマイクロアレイを作製する装置の第1の態様は、図1および2に示されており、プラットフォーム32上であらかじめ定められた方向でドナー容器31を保持する、L型エッジガイド34付き静止プラットフォーム32上に取り付けられた長方形容器31中に、(組織の)ドナーブロック30が示されている。パンチ装置38は、上述のプラットフォーム32に取り付けられており、垂直ガイドプレート40および水平位置決定プレート42を含む。位置決定プレート42は、一対のデジタルマイクロメーターによって正確に位置決定できるx-yステージ(図には示さず)上に取り付けられている。
【0040】
垂直ガイドプレート40の前面は平らな精密ガイド面となっており、図1の後退位置と、図2の伸長位置の間をトラック46に沿って移動できる往復運動式パンチベース44が、これに接して滑ることができる。伸縮性バンド48は、この通路に沿ったベース44の動きの調節を助け、ベース44の前進および後退の限界は、トラックメンバー46が設定しているが、これはベース44の振幅の大きさを限定する止めを形成している。先端が鋭くなっている薄い壁のステンレスチューブのパンチ50は、ベース44の平らな底面に取り付けられており、プラットフォーム32およびプラットフォーム上の容器31に対して前進および後退できるようになっている。パンチ50の空洞の内部は、ベース44を通して円筒形の穴が続いており、ベース44の水平の縁53上の開口部51に続いている。
【0041】
図1は、ヘマトキシリン・エオシンまたは他の染料で染色された組織の薄切片を、ドナーブロック30から採取し、スライド52上に取り付け(適当な調製および染色を行う)、ブロック30上で対象とする解剖学的構造および微細解剖学的構造の位置を確認できることを示す。スライド52は、透明なサポートスライド58の縁をしっかり保持するクランプ56の付いた折れ曲がり式アームホルダー54(図9)によって、ドナーブロック30の上方に保持できる。アームホルダー54は、連結部60で折り曲がり、サポートスライド58が容器31の上の位置に固定される第1の位置と、サポートスライド58が図9で示される位置から水平に移動してパンチ50へ自由にアクセスができるようになる第2の位置との間を、旋回できるようになっている。
【0042】
操作中には、長方形の容器31はプラットフォーム32上に置かれ(図1)、容器31の縁がガイド34の縁に接して、容器31が選択された位置に保持される。ドナーブロック30は、大きな組織検体(例えば、3次元腫瘍検体62)をパラフィンに包埋して調製する。ドナーブロック30の薄切片を薄く切り出し、染色し、薄切片64としてスライド52上に取り付け、その後スライド52をサポートスライド58上に置き、図9に示すようにドナーブロック30の上方に設置する。スライド52をサポートスライド58上で動かし、図9の点線で示すように、薄切片64の縁が大きな病理学的検体62の縁と揃うようにする。それから、アーム54を第1の位置に固定するが、アームは第2の位置に移動した後、ここに戻ることができる。
【0043】
その後、顕微鏡(図には示さず)を通して薄切片を調べることによって、対象とする微細解剖学的または組織学的構造66の位置を確認できる。たとえば、組織検体が乳房の腺癌の場合、対象とする構造66の位置は、検体内で、細胞構造が浸潤性および非浸潤性成分のような癌に特異的な特徴を示唆する部分であることがある。対象とする構造66の位置を決めたら、対象とする構造66の薄切片62の作製元の組織検体62の対応する領域は、対象とする構造66の直下に決められる。図1に示すように、位置決定プレート42はxおよびy方向に移動するか(デジタルマイクロメーターまたはジョイスティックで)、大きな距離の場合にはドナーブロックを移動して、パンチ50をドナーブロック30の関心のある領域上に揃え、それからサポートスライド58を、連結部60(図9)の周りに水平に回転させて、ドナーブロック30上の位置から離す。
【0044】
その後、プレート44が停止位置(装置38によってあらかじめ設定済)に届くまで垂直ガイドプレート40をトラック46に沿って進ませ、パンチ50をドナーブロック30上の関心のある構造に挿入する(図2)。パンチ50が前進すると、その鋭い先端が、ドナーブロック30から円筒形の組織検体を切りとり、その検体はパンチが図1の後退位置に戻る際にパンチ中に保持される。その後、その円筒形の組織検体は、スタイレット(stylet)(示さず)を開口部51に進めることによって、パンチ50から取り外せる。たとえば、組織切片をパンチ50から取り外し、図3に示すレシピエントブロック70中の容器のアレイ中の、相補的な形状およびサイズの円筒形の容器に挿入する。
【0045】
ドナーブロック30から組織検体を作製する前に、1つまたは複数のレシピエントブロック70を調製することができる。ブロック70は、固体のパラフィンブロックを容器31に入れ、図3に示すタイプの円筒形の容器のアレイを作るような規則的なパターンで、パンチ50を用いてブロック70中に円筒形の穴を作製して調製できる。規則的なアレイは、ブロック70の上方の開始点(たとえば、各アレイの角)にパンチ50を位置させ、パンチ50を前進および後退させてブロック70上で特定の座標から円筒形の芯を取り出し、それから開口部51にスタイレットを挿入してパンチから芯を取り出して作製できる。その後、パンチ装置またはレシピエントブロックをxおよび/またはy方向に規則的な距離だけ次の座標まで移動させ、穴開け工程を繰り返す。図3に開示される特定の態様では、アレイの円筒形の容器は約0.6 mmの直径を持ち、円筒形の中心は約0.7 mmずつ離れている(そのため、容器の隣接する縁の間には約0.05 mmの距離がある)。
【0046】
1つの特定の実施例では、芯の組織生検は0.6 mmの直径で、3〜4 mmの高さであり、個々の「ドナー」パラフィン包埋腫瘍ブロックの選択された代表的な領域から採取され、新しい「レシピエント」パラフィンブロック(20 mm x 45 mm)中に厳密に配置された。H & E染色切片はドナーブロックの上方に設置され、腫瘍の形態学的に代表的な部位からサンプルを採取するためのガイドとして用いられた。生検パンチの直径は異なっても良いが、腫瘍アレイの各要素で組織学的パターンを評価できるほど大きく、かつ元のドナー組織ブロックに最小限の損傷しか与えず、ある程度均一な組織ブロックを単離できるほど小さいため、0.6 mmの円筒は適切であることが分かった。
【0047】
最高1000またはそれ以上のそのような円筒形組織が20 x 45 mmのレシピエントパラフィンブロック中に入れられる。シリンダーの開示される特定の直径は0.1〜4.0 mm、例えば0.5〜2.0 mm、および最も特異的には1 mm未満、たとえば0.6 mmである。コンピュータを用いた検体の設置を含む自動化手順により、非常に小さな検体をレシピエントアレイ上に密に設置することができる。
【0048】
図4はアレイの容器に円筒形の組織検体が詰められた後の、レシピエントブロック内のアレイを示す。それから、レシピエントブロックの上面を粘着性コートテープ切断システム(Instrumedics)の粘着性フィルム74で覆い、円筒形の組織切片が、作製後はアレイ中に保持されるようにする。アレイブロックは、切片作製前に37℃で15分間暖めて、組織の芯の接着を促進し、ブロック表面に滑らかできれいな表面(例えば、顕微鏡スライド)を押し付けたときにブロック表面が滑らかになるようにしても良い。
【0049】
粘着性フィルムを置いたら、円筒形組織の縦軸に直角に、レシピエントブロックの4〜8μmの切片を切りだし(図5)、通常の検体スライド78に移動される薄いマイクロアレイ切片76(円筒形の組織切片がディスク形に含まれる)を作製する。たとえば、スライド上の接着剤によって、マイクロアレイ切片76をスライド78に接着する。その後、フィルム74をその下のマイクロアレイ切片76から剥がし、処理用に露出させる。スライド78の黒くなっている端80は、スライドのラベリングまたは取り扱いに適している。
【0050】
乳癌組織検体は、高分子量DNAおよびRNAを保存するように冷却エタノールで固定し、372の検体がこのようにして固定された。各ブロックから最低200の連続する4〜8μmの腫瘍アレイ切片が作製でき、コピー数または複数の遺伝子の発現を含め、DNA、RNA、または蛋白質レベルで、複数の分子マーカーの相関したインサイチュー分析の標的が得られる。この分析は、別々のアレイ切片で異なる遺伝子の分子標的(例えば、DNAまたはRNA配列、または抗体が規定する抗原)を検定し、アレイの同一の座標(ドナーブロックから得られた同一の円筒形組織由来の組織検体に対応する)における結果を比較することにより、行われる。この手法によって、事実上、各腫瘍から何百もの分子的特徴の測定が行えるため、培養されていないヒトの腫瘍の相関する遺伝型または表現型の大きな系列の作製ができる。
【0051】
645検体を含む単一のマイクロアレイ76の例を、図10Aに示す。このマイクロアレイの拡大した部分(図10Aで四角で囲まれた部分)は図10Bに示されており、ここではerbB2 mRNAインサイチューハイブリダイゼーションのオートラジオグラフでアレイ上の2つの隣接する検体が、強いハイブリダイゼーションシグナルを示すことが示されている。図10Cは、電気泳動ゲルを示すもので、4℃で一晩エタノール中で固定された乳癌検体から、高分子量のDNAおよびRNAが抽出できることを示す。
【0052】
蛍光「陽性」シグナルを与えた組織検体の1つは、図10Dで示されるように免疫ペルオキシダーゼ染色によっても分析され、erbB2遺伝子産物が存在することが確認された(濃い染色)。erbB2遺伝子のDNAプローブを用いて、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)が行われた。図10Dは腫瘍アレイ要素の1つを示すが、これはerbB2遺伝子の高レベルの増幅を示している。図10E中の挿入は、多くのerbB2ハイブリダイゼーションシグナルのクラスターと、2コピーのセントロメアの参照プローブを示す。これらのアッセイに関する詳細は、以下の実施例1〜4に記載されている。
【0053】
複数の組織検体の分子分析を迅速に平行して行う本発明のアレイ技術の可能性は、図11A〜11Dに示されている。図11Aおよび図11Cのグラフのy軸は、明確な臨床病理的特徴または分子的特徴を持つ特定のグループの腫瘍の割合に対応する。この図は、マイクロアレイにおける組織検体の臨床的特徴と組織学的特徴の相関を示すものである。図11Bに並ぶ各々の小さな四角は、アレイ上の座標の位置を表す。レシピエントブロックの連続する薄切片の対応する座標は、水平の列において、それぞれが垂直に並ぶようになっている。これらの結果は、細胞膜エストロゲン受容体の発現の有無、および細胞DNAにおけるp53変異の有無によって、組織検体が腫瘍の4つのグループに分類されることを示す(図11A)。図11Bでは、p53変異の存在は黒い四角で示されており、エストロゲン受容体の存在も、黒い四角で示されている。4つのグループ(ER-/p53+, ER-/p53-, ER+/p53+, およびER+/p53-)への分類は、ER/p53の状態に応じてグループI, II, IIIおよびIVに分類する、図11Aおよび11Bの間の点線で示されている。
【0054】
図11Bは、アレイの各々の座標において組織に伴う臨床的な特徴も示す。年齢の四角が黒いのは、患者が閉経前であること、Nの四角が黒いのは所属リンパ節に転移性疾病が存在すること、Tの黒い四角は臨床的にさらに進行したステージ3または4、グレードの黒い四角は、高い悪性度と関連する高いグレード(少なくともグレード3)の腫瘍を示す。ER/p53の状況は、臨床的指標の四角(年齢、N、T、グレード)の上4行を、真ん中の2行の四角(ER/p53の状況)と比較することにより、相関させることができる。この相互相関の結果は、図11Aの棒グラフに示されており、ER-/p53+(グループI)腫瘍は、他の腫瘍よりもグレードが高い傾向があり、特にmyc増幅の頻度が特に高いが、それに対してER+/p53+(グループIII)腫瘍は、外科的切除の時に、陽性の節を持つ可能性が高いことが分かる。ER-/p53-(グループII)は、このグループで最も広く増幅される遺伝子がerbB2であることを示した。対照的に、ER-/p53-(グループII)およびER+/p53-(グループIV)腫瘍は重症の疾病の指標の数が少なく、p53変異がないことと、予後の良さには相関があることを示唆する。
【0055】
この方法は、連続FISH実験において372の原発乳癌検体のアレイで他のいくつかの主要な乳癌オンコジーンのコピー数の分析にも使用され、その結果を用いてER/p53の分類とこれらの他のオンコジーンの発現との間の相関が確認された。これらの結果は、連続するレシピエントブロックの切片に別々のオンコジーンのそれぞれにプローブを用い、アレイの対応する座標における結果を比較して、得られた。図11Bでは、特異的なオンコジーンまたはマーカー(mybL2, 20q13, 17q23, myc, cnd1およびerbB2)の増幅の陽性の結果が、黒い四角で示されている。erbB2オンコジーンはアレイの372の検体中18%で増幅され、mycは25%、cyclin D1 (cnd1)は24%だった。
【0056】
乳癌でしばしば増幅されることが最近発見された2つのDNA領域17q23および20q13は、各腫瘍の13%および6%で増幅されることが分かった。オンコジーンmybL2(最近20q13.1に位置し、乳癌細胞株で過剰発現することが分かった)は同じ腫瘍のセットの7%で増幅していることが分かった。MybL2は主な20q13遺伝子座のコピー数が正常な腫瘍で増幅されており、これは20qで独立して選択される増幅領域を定めている可能性を示している。図11Bと11Cの間の点線は、これらの遺伝子の複雑な増幅パターンを、やはりER-/p53+, ER-/p53-, ER+/p53+, およびER+/p53-に対応するグループI〜IVに分類している。
【0057】
図11Cおよび11Dは、ER-/p53+の検体の70%でこれらのオンコジーンのうちの1つまたは複数が陽性で、mycがこのグループで増幅される主なオンコジーンであることを示す。これとは対照的に、ER+/p53-グループの検体の43%しかこれらのオンコジーンのうちの1つの増幅を示さず、この情報は図11Aに示される臨床パラメーターと相関させることができる。したがって、本発明のマイクロアレイ技術では、多数の腫瘍検体をこれらの多くの特徴に関して簡便に迅速にスクリーニングし、患者の臨床的提示および疾病の分子進化に関連できる遺伝子発現のパターンを分析することができる。本発明のマイクロアレイ技術がなければ、これらの相関は、より得難いものとなる。
【0058】
これらの相関を得るための特定の方法が図12に示されているが、これは図11Bの右側の部分を拡大したものである。マイクロアレイ76(図10A)は、異なる腫瘍由来の円筒形の組織検体の断面図に対応する17列9段の円形の位置を含む切片に配列し、マイクロアレイ上の各位置が、座標(列、段)で表されている。たとえば、第1切片の第1列の検体は、(1,1), (1,2)…(1,9)という座標位置、第2列の検体は(2,1), (2,2),…(2,9)という座標位置で表される。これらのアレイの座標の各々を用いて、レシピエントブロックの連続切片上の対応する位置に由来する組織切片が指定され、同一の円筒形組織から切り出されたアレイの組織検体が同定される。
【0059】
図12は、アレイを系統立て、分析する概念的手法を示すが、長方形のアレイは、線上の各四角がアレイの座標位置に対応するように、線状の表現に転換できる。同一のアレイ座標位置に対応する各四角が、同一の座標位置の他の四角の上方に並ぶように、四角の各線を整列させることができる。したがって、点線1で結ばれる四角は、ドナーブロックの連続薄切片においてある座標位置(例、(1,1))における結果を見て得られる結果、またはマイクロアレイからは得られないが、その座標位置に対応する腫瘍の組織を同定するためにシステムに入力できる臨床データに対応する。同様に、点線10で結ばれた四角は、アレイの座標位置(2,1)に見られる結果に対応し、点線15で結ばれる四角は、アレイの座標位置(2,6)の結果に対応する。a, b, c, d, e, f, gおよびhの文字は、アレイを作製するために切り出したドナーブロックの連続する切片に対応する。
【0060】
図12の線1に沿って並ぶ四角を比較すると、腫瘍は外科的切除の際にリンパ節に転移性疾患がない閉経前の女性から得られ、腫瘍はステージ3以前であるが、組織学的には少なくともグレードIIIであることが分かる。この腫瘍から1つの組織ブロックが採取され、レシピエントアレイの座標位置(1,1)と関連された。このアレイ位置は、その各々がこの円筒状アレイの切片を含む8つの平行する切片(a, b, c, d, e, f, gおよびh)に切り出された。これらの切片のそれぞれが、特定の分子属性に特異的な異なるプローブを用いて分析された。切片aでは、この組織検体がp53+であることが示され;切片bではER-;切片cではmybL2オンコジーンの増幅がないこと;切片d, e, f, gおよびhでは20q13, 17q23, myc, cnd1およびerbB2の増幅が陽性であることが示された。
【0061】
図12の各ラインの10番目の四角を結び、図10(A)のアレイ76の2列目の1段目(2,1)に対応する垂直な線10をたどると、座標位置(2,1)に置かれた円筒形の腫瘍検体の分子的特徴に関しても、同様に比較できる。同様に、座標位置(2,6)の円筒形腫瘍検体の切片の特徴も、各列の15番目の四角を結ぶ垂直な線15をたどって、分析できる。このようにして、アレイの別々の切片に関する平行する情報が、アレイの372のすべての位置について得られる。この情報は、図12のように分析のために視覚的に表すこともできるし、異なる分子的特徴(オンコジーンの増幅パターン、およびこれらの増幅パターンと腫瘍の臨床的提示との対応など)の分析および相関のためにデータベースに入力することもできる。
【0062】
腫瘍アレイの連続切片を分析すると、すべての腫瘍の形態学的に規定された領域における同一の細胞群において、何百もの異なるDNA,RNA,蛋白質、または他の標的の位置を同時に特定できるため、培養していないヒトの腫瘍の多数の相関する遺伝子型または表現型の特徴のデータベースの作製が容易になる。何百もの検体が1つの実験で分析できるので、mRNAのインサイチューハイブリダイゼーションまたは蛋白質の免疫組織学的染色の評価も、腫瘍組織マイクロアレイによって容易になる。従来の検体を1つずつ切片作製、染色、および評価する処理と比較して、腫瘍アレイは、組織の消費、試薬の使用量、および作業量も大きく低下させる。いくつものDNA,RNA,および蛋白質標的を組み合せて分析することは、腫瘍検体をその分子的特徴によって層別化する強力な手段となる。そのようなパターンは、診断または予後に利用できる可能性のある、以前は理解されなかったが重要な、腫瘍の分子的特徴を検出するために役立つだろう。
【0063】
組織アレイ切片上で行われた実験の観察および評価のための分析技術には、明視野顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、CCDカメラに基づくデジタルイメージングシステム、またはDNAチップベースの分析に使用されるような光電子増倍管またはスキャナーが含まれる。
【0064】
これらの結果は、特に、ドナーブロックの組織の標本採取部位が腫瘍領域をよく表すような組織学的構造を含むように選択されると、組織アレイの調製に使用されるごく小さな円筒が、多くの場合、正確な情報を与えることを示す。単一のドナー組織ブロック中の、組織学的に規定される複数の領域から試料を採取して、元の組織をより包括的に表し、表現型(組織の形態)と遺伝子型の間の相関を、直接分析することも可能である。たとえば、乳癌の進行の異なる段階(例、正常組織、過形成、非定型過形成、管内癌、浸潤性および転移性癌)を表す何百もの組織を含むようにアレイを作製することができる。その後、組織アレイ技術を使って、腫瘍の進行に対応する分子的事象を分析することになる。
【0065】
円筒をさらに密に配置したり、より大きなレシピエントブロックを使用すると、アレイごとの検体数が増加する。病理検査室のアーカイブ全体を、分子プロファイリングのために重複する500〜1000の検体組織マイクロアレイに設置することができる。試料採取と配列に自動化手順を使うと、各々が分子分析用の数百の切片を提供する重複する腫瘍アレイを何十も作製することが可能である。腫瘍アレイ用に開発された戦略および器具を用いて、最適に固定し、形態学的に規定される腫瘍組織要素から、高分子量のRNAおよびDNAを単離して、RNAおよびDNAに基づく分子生物学的技術(PCRベースの技術など)によって同じ腫瘍の相関した分析を行うために、円筒形組織を利用することもできる。核酸分析が計画されるときは、ホルマリンは核酸を架橋したり傷害を与えたりするため、組織検体はホルマリンの代わりに、好ましくはエタノールまたはMolecular Biology Fixative (Streck Laboratories, Inc.、ネブラスカ州オマハ)のようなアルコールベースの固定剤で固定する。本発明の円筒形の組織は、種々の分子解析を行うために十分な量のDNAまたはRNAを提供する。
【0066】
このアレイ技術の可能性は、乳癌における遺伝子増幅のFISH分析で明らかにされてきた。FISHは、個々の形態学的に規定される細胞において、遺伝的再配列(増幅、欠失または転移)の可視化と正確な検出のために優れた方法である。組み合せた腫瘍アレイ技術によって、FISHは、1日に何百もの分析が可能な強力なハイスループットの方法になる。
【0067】
本明細書に記述される装置の基本的原理を組み込んだ自動化高速装置を用いることもできる。そのような装置は、複数のドナーおよびレシピエントトレイまたは容器を処理することができ、参照として本明細書に組み入れられる米国仮特許出願第60/106,038号およびPCT出願US99/04000号に説明されている。装置は、記憶システム、入力装置、および1つまたは複数の出力装置と組み合わせた少なくとも1台の高速処理装置(CPU)を含むコンピュータを含む、標準的な動作環境によって制御される。これらの要素は、少なくとも1つのバス構造によって、相互接続されている。CPUはよく知られた設計で、計算の実行のためのALU、データおよび命令の一時的な保存のための一連のレジスタ、およびシステムの動作の制御のための制御ユニットを含む。CPUは、DigitalのAlpha;MIPS Technology、NEC、IDT、Siemens等のMIPS;IntelならびにCyrix, AMDおよびNexgen等のx86;Motorolaの680x0;ならびにIBMおよびMotorola のPowerPCを含む種々のアーキテクチャのうちの任意のものを持つプロセッサであってよい。たとえば、本発明はApple ComputerのPower Macintosh 8500、またはIBM互換パソコン(PC)によって実施できる。
【0068】
アレイ技術の実施例と応用
自動化腫瘍アレイ技術によって、同一の腫瘍セットから、数十または数百のマーカーの検査を簡単に行うことができる。これらの検査は、重複する腫瘍アレイブロックまたは切片を他の検査室に送ることにより、多施設の環境でも実施できる。同じ手法は、新しく発見された分子マーカーの診断、予後、または治療への有用性を調べるために、特に有用だろう。組織アレイ技術は、DNA、RNA、および蛋白質レベルで何百または何千もの腫瘍の迅速なプロファイリングのためのプラットフォームを提供し、多数の腫瘍のコレクションから相関するバイオマーカーのデータベースを作製することによって、癌の基礎研究も促進する。たとえば、増幅標的遺伝子の探索には、同一の細胞群における何十もの候補遺伝子および遺伝子座の増幅と発現の相関した分析が必要である。規定される多数の腫瘍のそのような広範囲な分子分析は、通常の技術では実施が難しいだろう。
【0069】
以下の実施例1〜4は新生物の分析に関連する組織アレイ技術の利用の態様を開示しているが、この技術の応用は、癌の研究に限られてはいない。アレイ分析は、様々なトランスジェニック動物または培養細胞由来の組織を含め、他の疾病および正常なヒトまたは動物組織における複数の遺伝子の発現および量を理解するうえでも、助けとなる。
【0070】
組織アレイを用いて、たとえば、DNA配列決定、DNAマイクロアレイ、またはSAGE(Serial Analysis of Gene Expression)(Velculescuら、Science, 270:484-487,1995)のようなハイスループットゲノミックスにより発見された遺伝子および標的の更なる分析を行うことができる。組織アレイを用いて、たとえば、癌の発生の様々な段階における特定の組織と反応する特異的な抗体またはプローブのような癌の診断用の試薬の評価や、同一および異なる種類の癌、または癌以外の疾病における遺伝的変化の進行を追跡もできる。組織アレイを用いて、癌の治療の転帰を予測するマーカーや予後マーカーを同定および分析することもできる。既知の転帰を持つ患者由来の数百の癌から組織アレイを作製すると、それらのアレイ上で1つまたは複数のDNA、RNA、および蛋白質測定が可能になるため、重要な予後マーカーまたは治療の転帰を予測するマーカーを決定することができる。
【0071】
また組織アレイは、特定の腫瘍マーカープロファイルを示す特定の患者に最適な治療法を評価する役にも立つ可能性がある。たとえば、腫瘍アレイを分析して、どれがHER-2を増幅および/または過剰発現するかを決定し、その腫瘍タイプ(または、より具体的にはその腫瘍が採取された患者)が抗HER-2ハーセプチン免疫療法の良い候補であると決定することができる。別の応用では、組織アレイを用いて、遺伝子療法のための新規の標的を探すこともできる。たとえば、cDNAハイブリダイゼーションパターン(例えば、DNAチップ上)で、特定の種類の組織(肺癌など)の腫瘍または特定の腫瘍(肺の腺癌など)の特定の組織学的サブタイプで、異なる遺伝子調節が明らかになる場合がある。数百の腫瘍を含む大きな組織アレイ上でそのような遺伝子候補の各々を分析すると、癌の診断、予後、または治療の手法のために最も有望な標的を決定するのに役に立つだろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のパンチ装置の第1の態様の概要の透視図で、ドナーブロックにおけるドナー組織の対象とする領域の上方にパンチを整列したところを示している。
【図2】図1と同様の図だが、ドナー検体試料を得るためにパンチを進めたものである。
【図3】ドナー検体が置かれたレシピエントブロックの概要の透視図である。
【図4】レシピエントブロックから薄切片アレイを調製する段階を示す概要の透視図である。
【図5】レシピエントブロックから薄切片アレイを調製する段階を示す概要の透視図である。
【図6】レシピエントブロックから薄切片アレイを調製する段階を示す概要の透視図である。
【図7】レシピエントブロックから薄切片アレイを調製する段階を示す概要の透視図である。
【図8】レシピエントブロックから薄切片アレイを調製する段階を示す概要の透視図である。
【図9】対象とする領域を設置するために、ドナーブロック中の組織の上方に、検体を取り付けたスライドを保持するための固定装置の透視図である。
【図10A】顕微鏡検査のためにスライド上にマウントされた、H&E染色の薄切片組織アレイを示す。
【図10B】図10Aのスライドの部分的な拡大図で、図10Aの小さな長方形における領域の組織アレイのerB2 mRNAインサイチューハイブリダイゼーションの結果を示す。
【図10C】冷却エタノールで固定した乳癌検体から、高分子量DNAおよびmRNAが抽出できることを示す電気泳動ゲルである。
【図10D】図10A中のアレイの組織試料の1つの拡大図で、erbB2抗原に関する免疫ペルオキシダーゼ染色を示す。
【図10E】図10Dと同様の図で、erbB2 DNAプローブによる、アレイ中の組織の蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって検出された、高レベルのerbB2遺伝子増幅を示す。
【図11】図11A〜11Dは、本発明の方法によって得られたアレイの平行した分析の実施例の概要を示す。
【図12】図11の一部を拡大した図である。
【図13】癌において増幅されると報告されている31の標的遺伝子座を含むgenosensor CGHマイクロアレイの概略図である。標的遺伝子座の周りの円は、本試験で調べられた乳癌細胞株に見られる増幅を示す。
【図14】10q25-q26および7q21-q22にSum-52乳癌細胞で高レベルの増幅があることを示す染色体のCGH分析結果、MET (7q21)およびFGFR2 (10q25)オンコジーンの高レベルの増幅を示すgenosensor CGH分析、およびFGFR2 (10Q25)の増幅を示すFISH分析の結果を、デジタル化して表した。
【図15】乳癌組織マイクロアレイの概略図、およびハイブリダイゼーションのでデジタル画像で、乳癌組織マイクロアレイの腫瘍試料のうちの4.5%でFGFR2が増幅されたことを示す。
【図16】DNAアレイと組織アレイの組み合わせの模式図で、DNAアレイは何百ものプローブを用いて単一の腫瘍を探ることができるのに対して、組織アレイ技術は単一のプローブで何百もの腫瘍の検体を探ることができることを示す。
【図17】組織アレイ技術とcDNAおよび/またはCGHアレイとの組み合わせを示す模式図である。
【実施例】
【0073】
本発明は以下の実施例でさらに説明されるが、これらは請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0074】
実施例1 - 組織検体
合計645の乳癌検体を用いて、乳癌腫瘍組織マイクロアレイが作製された。試料には、372の新しく凍結されエタノール固定された腫瘍、ならびに273のホルマリン固定された乳癌、正常組織、および固定対照が含まれていた。1986〜1997年に外科的に切除された1500以上の凍結乳癌を含む、バーゼル大学病理学研究所の腫瘍銀行から、凍結乳癌試料のサブセットが無作為に選択された。この腫瘍銀行の腫瘍のみが、分子分析に使用された。このサブセットは病理学者が観察し、腺管癌259、小葉癌52、髄様癌9、粘液癌6、篩状癌3、管状癌3、乳頭癌2、組織球性癌1、明細胞癌1、および脂質に富む癌1が含まれると決定した。さらに、インサイチューの腺管癌が15、癌肉腫が2、手術前に化学療法を受けた原発癌が4、再発腫瘍が8、および転移が6あった。
【0075】
以前に化学療法を受けていない浸潤性の原発腫瘍でのみ、組織学的等級分析が行われた。これらの腫瘍の中で、24%はグレード1、40%はグレード2、および36%はグレード3だった。pTステージでは、29%がpT1、54%がpT2、9%がpT3、および8%がpT4だった。腋窩リンパ節は282人の患者(45% pN0、46%pN1、9%pN2)で調査を行った。それまでに固定されていない腫瘍はすべて冷却エタノールで4℃で一晩固定してから、パラフィンに包埋した。
【0076】
実施例2 - 免疫組織化学
組織アレイの作製とドナーブロックの切り出しを行った後、免疫組織化学用に標準的な免疫ペルオキシダーゼ手順が使用された(ABC-Elite, Vector laboratories)。DAKO (Glostrup、デンマーク)のモノクローナル抗体を用いて、p53 (DO-7、マウス、1:200)、erbB-2 (c-erbB-2、ウサギ、1:4000)、およびエストロゲン受容体(ER ID5、マウス、1:400)が検出された。p53(90℃で30分)およびerbB-2抗原(90℃で60分)の回復には、マイクロ波による前処理が施された。色原体としてジアミノベンジジンが使用された。陽性対照には、陽性が既知の腫瘍が用いられた。陰性対照には、一次抗体は割愛された。腫瘍細胞の少なくとも10%において核に明確な陽性が見られれば、ERまたはp53陽性と判断された。erbB-2染色は、主観的に3つのグループに分けられた:陰性(染色なし)、弱い陽性(膜に弱い陽性)、強い陽性(膜に強い陽性)。
【0077】
実施例3 - 蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)
2色のFISHハイブリダイゼーションでは、スペクトラムオレンジ標識のサイクリンD1、myc、またはerbB2プローブと、対応するFITC標識セントロメア参照プローブ(Vysis)とが合わせて使用された。1色のFISHハイブリダイゼーションでは、スペクトラムオレンジ標識の20q13最小共通領域(Vysis、およびTannerら、Cancer Res.54:4257-4260 (1994)参照)、mybL2および17q23プローブ(Barlundら、Genes Chrom.Cancer 20:372-376 (1997))が用いられた。ハイブリダイゼーション前に、腫瘍アレイ切片を脱パラフィン化して、空気乾燥し、70、85、および100%エタノールで脱水後、70%ホルムアミド-2 x SSC溶液中で74℃で5分間、変性させた。ハイブリダイゼーション反応液には、各プローブ30 ngと、ヒトCot1-DNAが15μg含まれていた。加湿チャンバー中で37℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った後、スライドを洗浄し、抗退色溶液中で0.2μM DAPIで対比染色した。FISHシグナルは、FITCおよびスペクトラムオレンジシグナルを同時に可視化するための二重帯域フィルターを装備したツァイス(Zeiss)蛍光顕微鏡を用いて測定した。1細胞あたり10のFISHシグナル、またはシグナルの密なクラスターがあれば、遺伝子増幅を示すと判断された。
【0078】
実施例4 - mRNAインサイチューハイブリダイゼーション
mRNAインサイチューハイブリダイゼーションには、ハイブリダイゼーション前に、腫瘍アレイ切片を脱パラフィン化し、風乾を行った。erbB2 mRNAに対する合成オリゴヌクレオチドプローブ(Genbank寄託番号X03363、ヌクレオチド350〜396)の3'末端を、末端デオキシヌクレオチド転移酵素を用いて33P-dATPで標識した。切片は、ハイブリダイゼーション反応液(50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、1%サルコシル、0.02 Mリン酸ナトリウム、pH 7.0、4 x SSC、1 x Denhardt’s溶液、および10 mg/ml ssDNA)100μL中、1 x 107 CPM/mlのプローブと、加湿チャンバー中で42℃で18時間ハイブリダイズを行った。ERBB2 mRNA発現を可視化するために、切片はホスホリメージャー(phosphorimager)スクリーンに3日間露出した。陰性対照切片は、ハイブリダイゼーション前にRNase処理したが、これによりハイブリダイゼーションシグナルがすべて破壊された。
【0079】
本方法は、1アレイあたり数百もの検体のハイスループット分析を可能にする。したがって、数十の個々にホルマリン固定された検体があまりまたは全く規定されていない構成で、抗体検査に使用される従来のブロックと比較すると、この技術は分析できる検体数を一桁上昇させる。本発明のその他の利点には、元の組織ブロックの破壊がごくわずかであること、およびこの技術をDNAおよびRNA標的の可視化にも利用できるようにする最適化された固定プロトコールが含まれる。また本方法は、研究目的のヒト腫瘍組織の調達および分配も改善する。病理検査室からの何万もの既存のホルマリン固定組織のアーカイブ全体を、数十の高密度組織マイクロアレイ上に設置することができ、多くの種類の腫瘍ならびに腫瘍の進行の様々な段階を調べることができる。また腫瘍アレイ戦略は、同一の腫瘍セットから、潜在的な予後または診断分子マーカーを数十または数百も試験することを可能にする。さらに、円筒形の組織試料から得られる検体を用いて、分子分析用のDNAおよびRNAを単離することもできる。
【0080】
実施例5 - 多様な腫瘍における遺伝子増幅調査に関する組織マイクロアレイ
悪性腫瘍の多様性に相関した分子的変化の迅速スクリーニングを達成するために、17の異なる腫瘍試料(総数397の腫瘍)からなる組織マイクロアレイを、単一のパラフィンブロックにアレイした。組織マイクロアレイから切り出した連続切片を用い、3種類の蛍光色素を利用したインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)法による実験で、3種類のオンコジーン (CCND1、MYC、ERBB2) の増幅を分析した。乳癌、肺癌、頭部および頸部癌、さらに膀胱癌およびメラノーマにCCND1の増幅が見いだされた。膀胱癌、乳癌、大腸癌、胃癌、精巣癌、および肺癌にERBB2の増幅が検出された。また、MYCの増幅が、乳癌、大腸癌、腎臓癌、肺癌、卵巣癌、膀胱癌、頭部および頸部癌、および子宮内膜癌に認められた。
【0081】
このマイクロアレイは、17の異なる種類の腫瘍の397の原発性腫瘍および20の正常組織からなる総数417例の組織試料を用いて構築された。これらの組織は採取後、急速凍結し、-70℃で保存した。各試料は冷却エタノール中(+4℃)で16時間固定した後、パラフィンに包埋した。代表的な腫瘍部位の組織ブロックそれぞれから切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン染色を施した。次に、各「ドナー」組織ブロックの腫瘍部位をパンチして、直径0.6 mm円筒状組織を得、これを記載のカスタムメイドの精密機械を用いてレシピエントのパラフィンブロックに埋包した。次に、0.6 mm のアレイエレメントの接着を支持するパラフィン切片の補助システム(接着性のコーティングを施したスライド、(PSA-CS4x)、粘着テープ、UVランプ; Instrumedics Inc.、New Jersey)を用いて、得られたマルチ腫瘍組織のマイクロアレイブロックの5μm切片をスライドグラスに移した。
【0082】
96の乳房腫瘍(腺管癌41、小葉癌28、髄様癌6、粘液癌5、および管状癌4、インサイチューの腺管癌(DCIS) 7および葉状腫瘍5)、80の肺癌(扁平上皮癌31、大細胞癌11、小細胞癌2、腺癌31、および気管支肺胞癌5)、17の頭部および頸部腫瘍 (口腔の正常所在扁平上皮癌12、および喉頭の正常所在扁平上皮癌5)、32の大腸部の腺癌、4のカルチノイド腫瘍(肺由来3で、残りは小腸由来1)、12の胃由来腺癌、28の腎細胞の明細胞癌、20の精巣腫瘍 (精上皮腫10と奇形癌10、37の膀胱の移行上皮癌(浸潤性腫瘍(pTl-4) 33および非浸潤性腫瘍4)、22の前立腺癌、26の卵巣癌(漿液性12、類内膜癌12、および粘液性腫瘍2)、13の子宮内膜癌、3の甲状腺癌、3の褐色細胞腫、および4のメラノーマからなる原発性腫瘍を用いた。また、対照として、乳房、前立腺、膵臓、小腸、胃、唾液腺、大腸、および腎臓由来の正常組織を用いた。
【0083】
ハイブリダイゼーション前に、パラフィン前処理用の試薬キットに添付のプロトコール(Vysis、Illinois)に従って組織マイクロアレイの切片を処理した。FISHは、スペクトラムオレンジ標識CCND1、ERBB2、およびMYCプローブを用いて行った。スペクトラムグリーン標識したセントロメアプローブ CEP11 および CEP17を参照として用いた(Vysis、Illinois)。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション後の洗浄は、「LSI 法」(Vysis、Illinois)に従って実施した。次に、125 ng/mlの4',6-ジアミノ-2-pフェニルインドールを含む抗退色剤溶液を用いてスライドの対比染色を行った。スペクトラムグリーンおよびスペクトラムオレンジ(Vysis、Illinois)のシグナルを同時に可視化する二重帯域フィルターを装備したツァイスの蛍光顕微鏡を用いて、FISHのシグナルを調べた。(a)10種以上の遺伝子のシグナルもしくは少なくとも5種の遺伝子のシグナルの密なクラスター、または (b) 各染色体のセントロメアシグナルと比較して3倍以上の遺伝子シグナル、のいずれかを満たす場合、(少なくとも5%の腫瘍細胞において)増幅が起こっていると見なす。
【0084】
ハイブリダイゼーションを行った腫瘍試料968のうち72試料において増幅が認められた。一方、正常の組織では、いずれも増幅が見られなかった。通常、増幅はアレイエレメント中のほぼ全ての腫瘍細胞を含む。16の頭部および頸部癌の6(38%)、62の胸部癌の14(23%)に、6のDCISのうち1(17%)、27の膀胱癌のうち3(11%)、76の肺癌の7(9%)、および4のメラノーマのうち1に、CCND1の増幅が認められた。
【0085】
MYCの増幅は、11の子宮内膜癌の2(18%)、74の胸部癌の9(12%)、5のDCISの1(20%)、17の頭部および頸部癌のうち1(6%)、22の腎臓腫瘍のうち1(5%)、24の卵巣癌のうち2(8%)、17の精巣腫瘍のうち1(6%)、30の大腸癌の1(3%)、78の肺腫瘍の7(9%)、および33の膀胱腫瘍の1(3%)に認められた。
【0086】
また、71の乳癌の4(6%)、6の DCISの4(67%)、11の胃癌の2(18%)、30の大腸癌の1(3%)、17の精巣腫瘍の1(6%)、および75の肺癌の1(1%)に、ERBB2の増幅が観察された。2つの乳癌においてこれら3つの遺伝子全てが共役的に増幅していた。2種の遺伝子の共役増幅は、2つの乳癌 (CCND1/ MYCおよびCCND1/ERBB2) および1つの精巣奇形癌 (MYCおよびERBB2)において観察された。
【0087】
ブロックから切り出した連続切片は、多様な組織における複数の標的DNA、RNAまたは蛋白質を一度に平行して大量にインサイチューで調べて検出するための出発材料となる。組織アレイ技術を用いると、大容量化、自動化が可能となり、試料を採取した元の組織ブロックにほとんど損傷を与えず、組織試料の正確な位置決定が可能となり、免疫染色とともに他の種類の分子解析方法でこれらの組織を調べることが可能となる。各ドナーブロックから、ドナーを大きく傷つけることなく、10〜20(またはそれ以上)のパンチした試料を得ることができる。これにより、アレイブロック複製を複数つくることが可能となる。それぞれ複製は、同一試料に由来する同一の配位を有するものである。予め決められた形態で試料を配置する精密機械を用いることによって、アレイした腫瘍の自動画像解析法の開発を行うことも可能となる。元の組織ブロックの厚みにもよるが、150〜300枚の切片を各アレイブロックから切り出すことができる。この技術によって小型の原発性腫瘍でも分析が可能となり、将来の研究で様々な分析方法を用いて調べる必要性が生じるまで、他にはない貴重な腫瘍試料を保存しておくことができる。
【0088】
本実施例に提示されるアレイに関するデータは、評価対象の73%が、遺伝子増幅の有無に関係した既報の文献と一致する。しかしながら、この既報の予備実験においては、特定種類の腫瘍に関する包括的分析の実施を行うには、1種類の腫瘍当たりの試料数が少なすぎた。25事例以下の試料数しか調べていない25種類の腫瘍のうち9種では、既報で検出されたと記載のある増幅が、アレイを用いた場合には検出されなかった。これとは対照的に、1種類の腫瘍当たり少なくとも25の事例を調べた場合、既知の遺伝子増幅のうち92% (11/12) が検出されたのである。
【0089】
本研究では、凍結腫瘍組織を冷却エタノール中で固定した。その理由は、この方法を用いると、核酸が固定組織試料に良好に保持がされるためである。剖検で得られた試料のようなホルマリン固定の腫瘍組織でも、DNAコピー数の変化をFISH法で解析することができる。しかしながら、FISH法を実施する場合、冷却エタノール固定の方が好都合である。なぜなら試料の作製の際に4%緩衝性ホルマリン中で固定した試料と比べて、必要な前処理の工程数が少なくてすむからである。冷却エタノール固定の場合には、わずか数ヶ月の保存でも、パラフィンブロック中でRNAが分解する。従って、RNA分解酵素に対する阻害剤を添加するか、もしくはRNAの分解を阻害するような方法でブロックを保存しない限り、冷却エタノール中で貴重な組織をたくさん固定することは好ましくない。
【0090】
実施例6 - マルチ腫瘍組織アレイを用いたPDGFB遺伝子のFISH
本実験では、実施例5のマルチ腫瘍組織アレイを用いた。Vysis Inc.(Downers Grove、IL)製の血小板由来増殖因子β(PDGFB)のプローブを用いて本実験を行った。大きなサイズのゲノムDNAをインサートとして含むライブラリーをPCRでスクリーニングし、このプローブを得た。このライブラリーは、PCRによるライブラリースクリーニングに使用したPCRプライマーの標的となる2つのタグ配列部位(STS)遺伝子配列中に含む。ゲノムライブラリーのスクリーニングで得られた陽性クローンをさらにSTSが含まれるか否か、また中期の染色体に対するプローブを用いたFISH法でハイブリダイゼーションを実施し確認した。この実験では、PDGFBに関して該当する染色体の位置にシグナルが得られた。
【0091】
目的の遺伝子に特異的なPCRプライマーのセットを用い、Green およびOlson(PNAS USA、87:1213-1217、1990)の文献に記載の方法でPCR/STSスクリーニングを行うことができる。アレイした多種類クローンのサイズの大きなインサートを含むライブラリーをPCRを利用したスクリーニングする方法を用いて、大きなサイズのインサートを含むライブラリー(例えば、コスミド、P1クローン、BAC、およびPAC)から、FISHのプローブを作製してもよい。リサーチジェネティックス(Research Genetics; Huntsville、AL)およびゲノムシステムズ(Genome Systems; St. Louis)では、いずれもこのようなフィルタースクリーニングを実施し、ライブラリースクリーニングを行うためのDNAプールを販売している。
【0092】
PDGFB(pVYS309A)の P1クローンを単離する方法の一つとしては、ゲノムシステムズ(Genome Systems、Inc.)から購入したヒト P1ライブラリーのDNAプールをスクリーニングすることが挙げられる。PCR後、陽性と考えられるクローンのDNA断片のサイズを電気泳動のゲル上で確認して、個々のクローンの同定を行う。PDGFBの候補クローンを含むバクテリアの培養を行い、これを寒天栄養培地上に線条接種し個々のコロニーから単一コロニーを得て純化を行う。さらにこれを増殖させ、次に標準的な技術を用いてDNAを単離する。PCRとゲル電気泳動で、このDNAが所望のDNA配列を含むか否かを確認する(STSの確認)。DNA試料をニックトランスレーションまたはランダムプライミング法によりスペクトラムオレンジdUTP (Vysis)で標識し、正常の中期染色体のうちの染色体 22qの相当する領域にハイブリダイゼーションするか否かをFISHを用いて調べる。
【0093】
PDGFBに対するPCRプライマーは、この遺伝子のcDNAに関して既に報告されている配列(GenBank 登録番号 X02811)に由来するものでもよい。STSを設計する際の好適な領域としては、該cDNAの3'非翻訳領域が挙げられる。PDGFBに対する複数のPCRプライマーのセットが、公共データベース(例えば、PDGPB PCR1、PDGPB PCR2、PDGFB PCR3、stPDGFB.b、WI-8985等のアンプリマー(amplimer)(PCRプライマーのセット))に登録されている。また、ゲノムデータベース(http://gdbwww.gdb.org/gdb/gdbtop.html)に登録されているものもある。プライマーセットWI-8985はホワイトヘッド研究所(Whitehead Institute)のデータベース(http://www. genome.wi.mit.edu/)、および NIH 遺伝子マップ98のデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ genemap98/)でも調べることができる。
【0094】
実施例5に示されるように、標準的プロトコールを用いてFISH法を実施した。プローブの組織アレイ試料に対するハイブリダイゼーションの検出は、実施例5に記載の方法で行った。ハイブリダイゼーションが検出されたのは、以下の種類の腫瘍である。
【0095】
【表1】

【0096】
本実施例は、乳癌、肺癌、大腸癌、精巣癌、子宮内膜癌、および膀胱癌等の特定タイプの悪性腫瘍に、以前には予想されていなかった高度なPDGFBの増幅が存在することを示す最初の証拠を提供するものである。
【0097】
実施例7 - 前立腺癌の進行と遺伝子増幅
本研究では、異なる300以上の前立腺腫瘍の試料を含むホルマリン固定組織のマイクロアレイの連続切片を、FISH法を用いて、5つの異なる遺伝子増幅(AR、CMYC、ERBB2、サイクリンD1、およびNMYC)について調べた。ここでは、前立腺癌の悪化の各段階での遺伝子増幅に関する包括的検索を行うことを課題としている。これは遠位の転移巣に由来する試料を含むものである。該組織マイクロアレイには、371の試料に由来する少量試料を使用した。
【0098】
ホルマリン固定しパラフィン包埋した腫瘍および対照試料は、バーゼル大学(スイス)の病理学研究所およびタンペア大学病院(フィンランド)の標本から得たものである。組織マイクロアレイ用の試料とするため、できるだけ未分化な腫瘍部位を選んだ。少なくとも1種類のFISHプローブに関して、結果が合理的に説明可能であった少量試料としては以下のものが含まれる。すなわち、I) 対照として用いた32人の良性前立腺過形成 (BPH)の患者に由来する経尿道的切除試料、II) BPHの経尿道的切除で期せずして検出された64の癌、根治的前立腺切除で得られたステージ T1a/bの臨床的に限局性の145の癌、および原発性の局所に広範な疾患の患者から得た14の経尿道的切除試料を含む223の原発性腫瘍、III) 生存する患者31の経尿道的切除試料および生検で得られた23の試料を含む、ホルモン療法を行ったが成功せずに局所での再発が見られた54、IV) 睾丸摘出によるアンドロゲン抑制を実施したが、その後末期転移性の前立腺癌で死亡した47人の患者から採取した62の転移巣の剖検試料である。試料として得た転移巣由来の組織は、骨盤リンパ節(8)、肺 (21) 、肝臓 (16)、胸膜 (5)、副腎 (5)、腎臓 (2)、縦隔リンパ節(l)、腹膜(1)、胃 (1)、および尿管 (1)である。23の剖検では、原発巣および転移巣の双方から試料が得られた。339例のうち44については、1つの腫瘍当たり1以上の試料をアレイした。その腫瘍の少なくとも1つの試料が遺伝子増幅を示したとき、該腫瘍は増幅が起こっていると見なした。
【0099】
該アレイには、どのFISHプローブでも一貫して切片の分析がうまくいかない病理学的に代表的な試料が48例も含まれていた。従って、これらの試料に関しては解析から外した。これらのほとんどが剖検試料であった。各プローブで評価した試料の数に相違がみられた。これは、プローブ毎にハイブリダイゼーションの効率が僅かに異なる、薄切やFISHの実施中にアレイ試料のうち脱落するものもある、またブロック表面のみがその腫瘍の代表的な形態を示すものであり、さらに切片を切り出すにしたがい形態が変化する、等の理由による。
【0100】
前立腺の組織マイクロアレイは、上記実施例1に記載の方法で構築した。実施例1では乳癌の試料が用いられているが、本実施例では代わりに前立腺癌を用いている。
【0101】
ホルマリン固定した試料のアレイ状切片に対する2色素を用いたFISH法は、スペクトラムオレンジ標識したAR、CMYC、ERBB2、およびサイクリンD1(CCND1)の各プローブと対応するFITC標識したセントロメアプローブ (Vysis、Downer's Grove、Illinois) を用いて行った。さらに、1色素によるFISH法は、スペクトラムオレンジ標識したNMYCプローブ (Vysis)を用いて実施した。ハイブリダイゼーションは、メーカーの説明書に従って行った。より信頼性の高い解析をFISHで行うために、ホルマリン固定した腫瘍のアレイは次のようにした。前立腺マイクロアレイのスライドをまず脱パラフィン化し、0.2N塩酸中でアセチル化、1Mチオシアン酸ナトリウム溶液中で80℃、30分間反応させ、次にプロテアーゼ溶液(0.9%塩化ナトリウム溶液に0.5 mg/mlの濃度で溶解した)(Vysis) 37℃で10分間浸漬した。このスライドを、10% 緩衝性ホルマリン中で10分間の後固定を施した後、風乾し、次に70%ホルムアミド/2x SSC(SSCは、0.3 M 塩化ナトリウムおよび 0.03 M クエン酸ナトリウムからなる)溶液中で5分間、73℃で変性処理を行った。70、80、および100%のエタノール溶液のシリーズを用いて脱水し、プロテアーゼK(4 μg/ml リン酸緩衝液の食塩水) (GIBCOBRL、Life Technologies Inc.、Rockville、Maryland) 処理を37℃で7分間施した。次に、このスライドを脱水処理してハイブリダイゼーションに用いた。
【0102】
ハイブリダイゼーション溶液は、プローブおよびCot1-DNA(1 mg/ml; GIBCOBRL、LifeTechnologies Inc.、Rockville、Maryland) をそれぞれ3μl含む。加湿チャンバー中で一昼夜、37℃でハイブリダイゼーションを行った後、スライドを洗浄し、0.2μMのDAPIで対比染色を行った。二重帯域フィルターを装備したツァイスの蛍光顕微鏡でFISHのシグナルを調べた。この際、対物レンズは、40〜100倍のものを用いた。セントロメアーのシグナルに対する相対的な遺伝子シグナルを評価した。遺伝子増幅に関する基準は次の通りである。すなわち、1細胞当たりセントロメアーのシグナルと比較して少なくとも3倍以上の試験プローブのシグナルが、少なくとも10%の腫瘍細胞に検出される。試験/対照シグナル比が1〜3の場合には、低レベルの増加と見なした。この場合、特異的な遺伝子増幅の証拠とは考えなかった。少なくとも5遺伝子のシグナルが少なくとも10%の腫瘍細胞で観察された場合に、対照プローブのないNMYCの増幅が起こっているものと見なした。
【0103】
セントロメアプローブおよび遺伝子特異的なプローブの双方で、強度のハイブリダイゼーションシグナルがえられたのは、BPH試料でX染色体/AR遺伝子96%、第8番染色体/CMYC遺伝子84%、第17番染色体/ERBB2遺伝子81%、および第11番染色体/サイクリンD1遺伝子83%という結果であった。評価可能なBPH試料では、上皮細胞の平均百分率(%)は、2種類の常染色体プローブでシグナルが得られたものが約75%、単一のシグナルが約20%、さらにシグナルを与えなかったものが約5%であった。単一のシグナルもしくはシグナルを与えなかった細胞の百分率(%)は、薄切の際に核が分断されたことに起因すると考えられる。癌の生検試料をパンチして得られた試料(単一のアレイエレメント)を用いた場合には、AR、CMYC、ERBB2、およびCCND1遺伝子に関するFISHのデータは、92%、78%、82%および86%得られた。剖検腫瘍をパンチして得たものではFISHの成功率は低かった(44〜58%)。10%以上の腫瘍細胞において、試験プローブに関するコピー数が染色体特異的なセントロメアの対照プローブに関するコピー数と比較して3倍以上であるときは、増幅とは見なさなかった。シグナルの分裂もしくはG2/M-期の細胞の存在等が原因で遺伝子座特異的なプローブがセントロメアプローブより僅かに高いコピー数を示すこともしばしばあるため、低レベルの増幅がさほど有意と考えられない場合には、このような基準を選択した。
【0104】
ARプローブを用いたFISHでは、47の評価可能なホルモン抵抗性を示す局所での再発の23.4%に増幅を認めた。59のホルモン抵抗性腫瘍の転移巣でも同様の頻度(22.0%)で、増幅が見られた。評価可能な205の原発性腫瘍のうちわずか2つ(1%)にしかAR増幅が見られず、32のBPH対照では全く増幅が観察されないことを考えると、AR増幅とホルモン抵抗性前立腺癌の密接な関連性は明白である。この2つの例外のうち、一方は局所で進行し、かつ転移を起こした前立腺癌の患者であった。また、もう一方は臨床的に限局性の疾患の患者であった。患者17例について原発部位の癌および遠位の転移巣を組にして、AR増幅を解析した。これらの患者のうち11人では、いずれの部位にもAR増幅は見られなかった。残りの6例の患者のうち、3例の患者では局所の腫瘍塊にも遠位部の転移巣にも増幅が見られた。2例では、原発部位の試料にのみ増幅が観察されたが、残りの1例では遠位の転移巣にのみ増幅が見られた。
【0105】
47の評価可能な転移のうち5つ(10.6%)に、高レベルのCMYC増幅が認められ、この47のうち2つは局所で再発したものである(4.3%、両方とも転移性の癌)。しかしながら、168の評価可能な原発性癌もしくは31のBPH対照では全く増幅が認められなかった。パンチして得られた単一試料(アレイエレメント)の腫瘍細胞における異なる遺伝子の増幅を比較すると、ARとCMYCの間には有意な相関が見いだされた。パンチして得られた試料でAR増幅の起こった27の評価可能な11.1%にCMYCの増幅が認められた。しかし、AR増幅の起こらない235の試料では、わずか1.7% (p = 0.0041、分割表による解析)にしかCMYCの増幅が認められなかった。単独のAR増幅が認められる試料が24あった。一方、ARが増幅せずCMYCのみ増幅した試料が4つあった。
【0106】
腫瘍毎に評価した場合、ARとCMYCの間に有意な相関が見いだされた。AR増幅を示す24の評価可能な腫瘍では12.5%にCMYCの増幅が認められたが、AR増幅の起こっていない219の腫瘍ではわずか1.8% (p = 0.003、分割表による解析)のみにCMYCの増幅が認められた。単独のAR増幅が認められる腫瘍が21あった。一方、ARが増幅しておらずCMYCのみ増幅していた腫瘍試料が4つあった。
【0107】
CCND1増幅が認められたのは、172の評価可能な原発性腫瘍のうちの2つ(1.2%)、38つの局所での再発のうち3つ(7.9%)および43例の転移のうち2つ(4.7%)である。CCND1増幅が認められるパンチして得た腫瘍試料で、試験を行った他の遺伝子のいずれも増幅していないものが4/7あり、これらにおいてはCCND1増幅はAR増幅もしくはCMYC増幅とは独立であると考えられた。評価可能な262の腫瘍および31のBPH対照では、いずれでもERBB2増幅が起こっていなかった。最終的に、これらの腫瘍のサブセットを、NMYCプローブを用いた単一色素によるFISH法で解析した。10%以上の腫瘍細胞で1細胞当たり5もしくはそれ以上の種類のシグナルが欠落している場合に非増幅と定義した場合、入手した164の腫瘍ではいずれも非増幅であった。
【0108】
本研究では、遠位性の転移を含む前立腺癌の進行の各ステージを全て含む試料における複数遺伝子の増幅パターンの検査が可能な腫瘍アレイを構築した。該腫瘍アレイ法により、同一の腫瘍、さらには腫瘍の同一特定部位における、同一技術、同じ種類のプローブ、同じ評価基準を用い、標準化された複数の遺伝子に関する分析が可能となる。たかだか5回のFISH法による実験で、371例の試料を5種類の遺伝子について全てスクリーニングすることができ、のべ1400を越える数の評価可能FISHデータを得ることができた。ホルマリン固定した組織を利用した信頼性の高い遺伝子増幅検出の検出能によって、腫瘍アレイ技術の応用範囲はかなり広がるものと期待される。
【0109】
徴候性の前立腺癌はホルモン抵抗性で転移性になることが多い。これら二つの臨床特質を区別することは困難であり、またこれらの過程に寄与する分子機構を区別することも困難であることが本例の結果から分かった。AR増幅はホルモン抵抗性の細胞増殖の亢進に、より密接に関わっているが、一方CMYC増幅は転移の経過に関連している。前立腺癌における最も一般的な遺伝子増幅は、AR遺伝子増幅である。この遺伝子は通常、CMYCおよびサイクリンD1とは独立に増幅する。この研究では、局所での再発組織(4%; 患者の末期転移性の癌のそれぞれで)より遠位性の転移(11%)に、CMYCの増幅がより高頻度に観察された。一方、ARの増幅は双方の解剖学的部位において同等の頻度で観察された(それぞれ、22%および23%)。このことは、ARはホルモン抵抗性増殖に利用できるが転移性の播種には利用不可であることを意味している。一方、CMYCについては逆のことがいえる。
【0110】
前立腺癌の経過に伴っておこる増幅に関してはAR遺伝子が最も頻度の高い標的であり、本実施例はAR遺伝子が第一に選択されるべき標的であることを示している。また第二のものとしては、ARとは対照的に、CMYCオンコジーンの増幅は転移性播種に最も関係が深いと考えられる。また、前立腺癌ではサイクリンD1遺伝子が増幅することもあるが、一方、前立腺癌の進行におけるいずれのステージでもERBB2の増幅およびNMYCの増幅が重要な役割を演じることはないようである。
【0111】
実施例8 - cDNAアレイおよび腫瘍アレイ技術を組み合わせた腎細胞癌(RCC)における予後マーカーの迅速スクリーニング
本実施例では、まずcDNAアレイ用いて腎細胞癌(RCC)において何らかの役割を演じている遺伝子を同定し、次に得られた候補遺伝子について腫瘍アレイ上で分析し、それらに関して内在する臨床意義を調べる。核酸のアレイと腫瘍アレイを組み合わせた方法が、RCCにおいて生物学的役割を演じる遺伝子を迅速に同定し、さらにそれらを評価するために有用性の高い方法であることを示す。
【0112】
正常腎臓由来の50μg の全RNA(Invitrogen)および腎臓の癌細胞株(CRL-1933) (ATCC. VA、USA)を用いてcDNAを合成し、放射性標識した。この操作は標準的なプロトコール (Research Genetics; Huntsville、AL)に従って行った。Research Genetics から購入したヒト遺伝子のフィルター(GeneFilters; Release I) を用い差分発現スクリーニングを行った。この膜は一枚当たり5184のスポットを含み、それぞれのスポットは5ng の既知遺伝子のcDNAもしくは発現配列タグ(EST)を含んでいる。2枚のcDNAアレイフィルター (Research Genetics) を別々にハイブリダイゼーションした後、高分解能スクリーン (Packard)に3日間露光した。正常組織および腫瘍細胞株における5184種類の遺伝子の発現パターンをホスホルイメージャー (Cyclone、Packard)で解析した。遺伝子ESTの発現の多寡を明らかにするためには、Pathfinderソフトウエア (Research Genetics; Huntsville、AL)を用いて解析した際に、正常組織と該細胞株間で少なくとも10倍の発現量の差があること、およびフィルター上の染色強度に関して決定的な差異を可視的に確認することが必要である。
【0113】
腎腫瘍のマイクロアレイブロックの構築を行うために、腎切除で得た615例の腎腫瘍のスクリーニングを行い、パラフィン包埋した代表的な組織試料で解析が可能か否かを調べた。532例の腎腫瘍の試料および6例の正常腎臓組織を用いて腫瘍アレイ法を実施した。該腫瘍は、TNM 分類に従って各ステージに分類した。グレードの分類は、Thoenes (Pathol. Res. Pract.、181:125-143、1986) に従って行った。また組織学的分類は、一人の病理学者がUICCの推奨基準(Bostwick 等の.、Cancer、80:973-1001、1997)に従って行った。生検試料の中心組織(直径 0.6 mm)を個々のパラフィン包埋した腎腫瘍(ドナーブロック)から形態学的に典型的な領域を選んで取り出し、新規のレシピエントパラフィンブロック (45mm x 20mm)に正確にアレイ状に配列した。この操作にはカスタムメイドの装置を用いた。 次に、得られた腫瘍組織のマイクロアレイブロックから切り出した5ミクロン切片を、0.6 mm のアレイエレメントの接着を支持するパラフィンブロック用の薄切システム(接着性のコーティングを施したスライド、粘着テープ、UVランプ;Instrumedics Inc.、New Jersey)を用いてスライドグラスに移した。
【0114】
免疫組織化学は、例えば Moch 等の文献(Hum. Pathol.、28:1255-1259、1997)に記載されているような通常の間接免疫ペルオキシダーゼ法(ABC-Elite、Vectra Laboratories)を用いて行った。ビメンチン検出にはモノクローナル抗体(抗ビメンチン; Boehringer Mannheim、Germany、1:160)を用いた。明瞭な陽性反応が腫瘍細胞の細胞質に見られたときに、その腫瘍はビメンチン陽性であるとみなした。内皮細胞におけるビメンチン陽性反応は、内部対照として用いた。上皮細胞にビメンチン陽性反応が観察された場合には、陰性(非染色)もしくは陽性(どの細胞質も染色染色される)と見なした。
【0115】
分割表分析用いて、ビメンチンの発現とグレード、ステージ、腫瘍のタイプ等との関係を解析した。生存期間は、腎切除から患者の死亡時までの時間と定義した。生存率はカプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)の検定法によるプロットで求めた。各群の間の生存率の差をログランク試験(log-rank test)を用いて調べた。コックス比例ハザード分析(Cox proportional hazard analysis)を用いて、予後に関する独立変数の試験を行った。
【0116】
正常腎臓および腫瘍細胞株 CRL-1933に由来するcDNAを放射性標識し、これを用いて2枚のcDNAアレイ膜をハイブリダイゼーションした。本実験によれば、差分的に発現する遺伝子/ESTは89例あった。既に名称を有する26種の遺伝子および12種のESTを含む38種の配列ついては、CRL-1933 中での過剰発現が観察された。また、51種の配列(既に名称を有する25種の遺伝子と 26種のEST)に関しては、該細胞株での発現は低かった。該細胞株で発現の亢進していた遺伝子の一つの配列を調べるとそれはビメンチンと同一の配列であった。
【0117】
ヘマトキシリン・エオシン染色したスライドを用い、各円筒状組織について上皮腫瘍細胞の有無を調べた。この円筒状組織を用いることによって、483例の腫瘍および正常腎臓の組織6例全例に関してビメンチン発現を評価することができた。ビメンチンの発現の頻度は、明細胞 (51%) および乳頭RCC(61%)で高く、23例の嫌色素性RCCでは稀であった(4%)。 17例の膨大細胞腫のうち2例にのみ微弱ながらビメンチンの発現が観察された(12%)。正常腎の腎管ではビメンチンを発現していなかった。ビメンチン発現と組織学グレードおよび腫瘍のステージ間の関連は明細胞RCCに関してのみ評価した。ビメンチンの発現は、グレードIの RCC(13%) と比較するとグレードIIのRCC(44%)およびグレードIIIのRCC(42%) でより頻度が高い(p < 0.0001)。ビメンチンの発現は高いステージの腫瘍では頻度が高い(ステージ pTl/2で60% に対してステージ pT3/4 で40%)が、しかしこの差は有意ではない (p = 0.09)。
【0118】
追跡は平均で52.9 ± 51.4ヶ月(中央値37ヶ月、最小値0.1ヶ月、最大値241ヶ月)行った。生存期間が短ことと組織学的グレードが高いこと(p < 0.0001)および腫瘍のステージが高いこと (p < 0.0001)との間には強い相関がある。患者の予後とビメンチンの発現との間の相関を患者の明細胞RCCに関して評価した。ビメンチンの発現は短い生存期間 (p = 0.007) と強く相関した。腫瘍のステージ、組織学グレード、およびビメンチンの発現を変数とする比例ハザード分析では、ビメンチン発現は、予後に関する独立した予測因子であり、明細胞RCCにおける相対危険率は1.6 (p = 0.01) であることを示している。
【0119】
本実施例の結果によれば、cDNAアレイと腫瘍アレイの組み合わせは、強力な同定法であり、さらにヒトの悪性腫瘍に果たす遺伝子の役割に関する強力な評価法でもあることが分かる。本実施例は、正常組織(本例では腎臓組織)と比較して(腎臓癌等の)腫瘍細胞で差分的に発現する遺伝子の検索にcDNAアレイが利用可能であること示している。分子病理学の伝統的な方法を用いる場合、培養を経ない原発腫瘍の代表的なものについて、cDNA実験で得られる候補遺伝子を全てを評価するには何年もかかるであろう。 しかしながら、腫瘍マイクロアレイ技術を用いることによって、このような研究は著しく促進される。組織アレイでは、同時に数百の腫瘍をDNA、RNAおよび蛋白質レベルでインサイチュー分析することが可能であり、臨床的な追跡データとの相関を得ることも可能となるのである。
【0120】
このようなハイスループット分析によって、腎腫瘍のサブタイプ間におけるビメンチン発現の著しい差異を明らかにできる。ビメンチンは、乳頭RCCおよび明細胞RCCで高頻度に検出されたが、悪性膨大細胞腫RCCおよび嫌色素性RCCでは稀だった。本例において、明細胞RCCでビメンチンの陽性率が高く検出されたので、ビメンチン発現の有無を診断上の特徴として利用し、明細胞RCCと嫌色素性RCCの鑑別を行うことができる。
【0121】
本実施例はさらに、腫瘍組織アレイの導入によって基礎的研究によって得られた知見を臨床応用するまでの期間を短縮することができることを示している。分析速度が速いので、複数工程による方法が導入できる。第一に、ヒトの腫瘍の種類に関してできるだけ多く(または全部)の試料を含むマスター・マルチ腫瘍アレイ上で、分子マーカーもしくは目的の遺伝子の評価を行う。第二段階として、最初の実験で変化のあった全種類の腫瘍について、同一種類の組織に由来する腫瘍をより多く含む腫瘍の種類特異的なアレイ(例えば、膀胱癌)上でさらに調べる。このような腫瘍としては生存もしくは特定の療法に対する応答等の臨床的追跡に関係する情報を有するものを用いる。第三の段階として、通常の(大規模な)診断的、組織学的、細胞学的試料の分析を、最初のアレイ分析で確実なデータの得られたマーカーに限定して行う。例えば、ビメンチンの発現に関しては、現在より大規模な組織試料を用いた研究が可能であり、明細胞RCCにおける予後の有意性を検証することができる。アレイデータで確認した後、ビメンチンの免疫組織化学を用いて、将来に向けてRCCの予後マーカーを調べることができる。
【0122】
実施例9 - DNAアレイ技術
単一のプローブを用いて試料DNAの特異的な配列を調べる代わりに、多くの異なる「プローブ」を含む遺伝子チップまたはDNAチップを用いる。「プローブ」とは通常、標識したもので標的にハイブリダイゼーションするものを意味している。この場合、プローブは基質に結合する。単一種類プローブが多コピーで、チッブ表面の小さなスポットに結合する。例えば、このようなスポットは直径がおおよそ 0.1 mm 以下である。このようなプローブとしては、DNA、RNA、cDNA、オリゴヌクレオチドなど様々なものが挙げられる。本技術の様々な変法において、特異的な蛋白質、ポリペプチドまたは免疫グロブリンまたはその他の天然もしくは合成分子が、DNA、RNA、蛋白質もしくはその他の細胞、組織の構成物質、またはその他の生物学的試料を解析の標的として用いることができる。それぞれが異なる分子標的を含む多数のスポットを、アレイ状に配列してグリッドを形成させる。アレイ表面は、ガラスもしくはその他の固体材料、またはフィルターもしくはその他生物学的分子を結合するのに都合のよい物質からなる。標識したプローブで検索を実施してチップを観察すると、多くの異なる配列または分子に関して試料中における有無が分かる。例えば、組織から単離して標識したcDNAを用い、多くの異なる遺伝子の発現をDNAチップで同時に調べることができる。
【0123】
核酸チップについて以下に説明するように、これらチップの有する利点は、同時に調べることのできる配列もしくはその他の生物学的分子の種類の多さだけに限定されない。核酸の分析では、かかる分析に要する核酸試料は比較的少量ですむ(通常、100万分の1グラム以下の核酸)。核酸のチップへの結合を可視化するには、まず核酸試料を蛍光分子もしくは放射性標識物質で標識する。 チップから発せられる(カラー画像等)シグナルを補足する高感度カメラ、共焦点スキャナー、画像解析装置、放射線フィルムもしくはPHOSPHOIMAGERTM等を用いて、放射された蛍光もしくは放射線を検出することができる。画像解析ソフトウエアを備えたコンピュータで、この画像を検出し、アレイ上のそれぞれの位置におけるプローブのシグナル強度を分析する。放射性cDNAアレイによる遺伝子の差分発現の検出については、上記実施例8で説明済みである。通常、試験アレイからのシグナルは、(正常試料等の)対照と比較する。
【0124】
DNAチップの構造、構成、機能性は大いに異なるものであるが、共通の性質としては、通常、プローブアレイのサイズ が小さく、典型的には1平方センチメータもしくはそれ以下のオーダーである。この程度の面積でも十分広く、それぞれのスポットが、直径0.1 mm で、スポット間が互いに0.1 mm 離れている場合には、2、500個以上のプローブスポットを含むことができる。スポットの直径と間隔が2分の1になると同一のアレイではスポットが10、000に増加する。またこれらのスケールをさらに半分にすると、スポット数は40、000になる。 コンピュータ産業によって開拓された光リソグラフィー等のマイクロファブリケーション技術を用いると、0.01 mm以下のスポットサイズが可能となる。これにより、250、000の異なるプローブ部位を用意することも可能なのである。
【0125】
アレイ上の標的は、DNAオリゴマーでもより長いDNA断片であってもよい。8〜20ヌクレオチドのオリゴマーは化学的方法で容易に合成できる。光リソグラフィー技術で数十万種類の異なるオリゴマーを合成して、インサイチュー合成と称される工程で単一チップ上の個々のスポットに分離して載せる。他方、数千ヌクレオチド程度までの大きなサイズのDNAは、化学的方法で合成することはできない。代わりに、遺伝子工学的技術でヒトのゲノムから相当するDNAを切り出し、バクテリアの細胞に導入する。このような細胞もしくはクローンは、当該DNAが簡単に得られる供給源として用いることができる。これにより、培養で大量にDNAを生産することができるのである。抽出し、適当な化学的調製法で処理した後、それぞれのクローンから得たDNAを、ロボットを利用してチップ上にスポットする。このようなロボットとしては、非常に細いシリンジもしくはインクジェットシステムを備えたものが挙げられる。
【0126】
DNAチップ上の標的は、ハイブリダイゼーションで解析するDNA(標的DNA)と相互作用する。この過程の特異性(試料核酸の配列がアレイに配置した相補的標的配列と結合する精度)は主にプローブ長が関係している。短いオリゴヌクレオチドプローブの場合には、単一の点突然変異(遺伝子中の単一ヌクレオチドの変化)が検出できるような条件を選択する。この場合、比較的短いDNA配列であっても配列を正確に推定するには、65、536程度もしくはそれ以上の種類のオリゴヌクレオチドプローブが単一チップ上に載っている必要がある。この「ハイブリダイゼーションによる配列決定(SbH)」と呼ばれる工程では、画像解析用のコンピュータソフトウエアーで解析することのできる非常に複雑なハイブリダイゼーションパターンを生成する。 さらに、解析する配列は、好ましくは短いものであり、単離されている必要がある。また、チップによる配列解析を行う前に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる技術でゲノムの残りの部分を増幅しておかなくてはならない。
【0127】
比較ゲノムハイブリダイゼーション (Comparative Genomic Hybridization; CGH)では、腫瘍等の試料組織由来のDNAを正常のヒトDNAと比較する。Vysis、Inc.で実施される特定のCGHでは、試料DNAを蛍光色素で標識し、対照(「正常」)DNAのものとは異なる発色団を有する蛍光色素で標識する。次に、それぞれのDNAを同量混合しDNAチップとハイブリダイゼーションさせる。該Vysis チップもしくはゲノセンサーは、大きなサイズのインサートDNAのアレイを含む。個々のDNAクローンは、おおよそ100、000ヌクレオチドのヒトDNA配列からなる。ハイブリダイゼーション後に、マルチ発色画像システムでアレイ中のプローブスポット各の発色比(例えば、赤色蛍光に対する緑色蛍光の比)を調べる。試料DNAと正常DNA間で差がないときには、全スポットが赤色および緑色の蛍光に関して同量の混合物であり、黄色の発色を与える。与えられたスポットが緑色もしくは赤色に偏れば、緑色もしくは赤色で標識したDNAのいずれかが対応するプローブ配列によってより多くチッブに結合したことを示唆するのである。この発色シフトは、ヒトのゲノム上の特定領域に対する試料および対照DNAの間の差異を示すものである。 これは、アレイ上に位置するクローンに含まれる特異的な配列もしくは遺伝子の増幅または欠失のいずれかを意味するものである。検出可能な遺伝的変化の例としては、癌における遺伝子増幅、もしくはネコ鳴き症候群(Cri du chat)等の遺伝的症候群における特徴的な欠失を挙げることができる。
【0128】
解析するそれぞれの遺伝的領域は、1もしくは数個の複製スポットとしてチップ上に提示されていなくてはならないので、ゲノセンサーは大きな欠失もしくは重複の有無を調べるために、単一アッセイでヒトの全ゲノムを走査するように設計されている。例えば、ヒトのゲノムに沿って等間隔で並ぶクローン3000種類を含むアレイは、中期染色体のハイブリダイゼーションで達成できるものに比べて、少なくとも10倍高いレベルの分解能を有する。しかも、より低コスト、より短時間にこれを達成できるのである。ある種の癌もしくは症候群の解析を行うために、特殊チップを設計することもできる。このような特殊チップは、医師に最新の研究施設で現在得られるよりも遙かに多くの通常の臨床分析に関する情報を提供し得るのである。
【0129】
ゲノセンサーCGH(gCGH)によるアッセイの発色比分析は、試料DNA中の特異的な配列の量に関し絶対的定量を必要としない利点を有する。その代わりに、対照(正常)DNAに比べて相対量のみを、比較的高い精度で測定する。このような方法は、「発現チップ」と称する第3の種類に属するチップ技術にとっても同様に有用性が高いものである。これらのチップは、ヒトのゲノム中の異なる遺伝子にそれぞれ特異的なプローブスポットのアレイを含む。このチップではDNA中の変異の有無を直接測定するわけではなく、与えられた遺伝子から生成するメッセージの量を調べるのである。メッセージもしくはmRNAは、DNAがコードする遺伝的情報を蛋白質に翻訳する過程上に位置する媒介分子である。mRNA量を測定する工程は、不安定なmRNAをcDNAに変換する酵素的過程を含む。この工程で、同時に蛍光標識が取り込まれる。試料組織から調製したcDNAを、ある色素で標識し、また正常組織から調製したcDNAを別の色素で標識する。チップに対して比較ハイブリダイゼーションを行った後、それぞれのプローブスポットの発色比を分析して、正常組織に対する試料組織中の特異的mRNAの相対量を調べる。発現チップでは、チップ上のプローブスポットに対応するそれぞれの遺伝子の相対的発現を測定する。
【0130】
ヒトのゲノム中には、おおよそ 100、000 個の異なる遺伝子が存在する。それら遺伝子は数年中に全て明らかになる予定である。チップは数千の異なるプローブスポットを含み得るので、それぞれの遺伝子の相対的発現量を単一のアッセイで調べることができる。このことは疾患の診断・治療に大きな意義がある。発現チップを用いて、組織培養で得られる細胞中の限られた数の遺伝子の発現に対する薬剤効果を試験することができる。薬剤で処理した細胞由来のmRNAと未処理細胞のmRNAを比較することによってこれを達成することができる。このように全遺伝子の制御に対する効果を迅速に測定できれば、薬剤の潜在効果と潜在的副作用を開発の早期に調べることができる。従って、薬剤設計をさらに迅速かつ正確に行うことができるのである。さらに、組織分化を決定する制御スイッチに関する理解が急速に深まれば、これらの過程を開始させたり修飾したりすることの可能な薬剤が設計できる。組織アレイではmRNAの発現を調べることもでき、これを用いた解析でCGHにおける差分発現に関する知見を深めることができる。
【0131】
CGHに関する態様の一つにおいて、Vysis製のAmpliOncTM チップ等のDNAチップもしくはゲノセンサー(つまり、ゲノセンサーCGHもしくはgCGH)はPI、BAC、もしくはPAC クローンのアレイを含むことができる。これらは、それぞれヒトゲノムDNAのインサートを含んでいる。これらインサートのサイズは、80〜150キロ塩基の範囲であり、この技術における分解能の改善を図るためにヒトのゲノムに沿ってほぼ等間隔な部位からに得たインサートを含むのである。ハイブリダイゼーションプローブの混合物に含まれる試料および対照組織由来のヒト全DNAは、たかだか200ngオーダーに過ぎない。従って、アレイ状に配列したそれぞれの標的クローンに対して用いるプローブの総数は比較的少なくてすむ。通常の蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション技術に比べて、このシステムでは高い感度が要求される。このような要求を満たすために、チップの表面、結合に関する化学的処理、画像システム等に関して改善がなされてきた。これらを組み合わせることによって、バックグランドを高効率に減少させて、108 発蛍光団/cm2未満の感度を多性することができる。
【0132】
チップ表面から発せられる自己蛍光は、ガラスチップをクロムでコーティングすることで減少可能である。これは、米国特許出願第09/085,625号に開示されている。このような非常に反射性の高い表面はシグナル収集効率が高い。また、疎水的な性質のために非特異的なプローブの結合が減少する。CGHチップのこのような高効率のシグナル特性によって、米国特許出願第09/049,748号に記載されているような多色素蛍光画像システムに高感度化、高速性、小型化、簡便性がもたらされた。非落射式の蛍光励起工学系によって、集光系からの自己蛍光が除去され、チップ表面からの蛍光のみが集光される。キセノンアークランプは、安全性と持続性の高い光源であり、さらに広い波長域の光を発する。これによって異なる多くの蛍光発色団が利用できる。励起フィルターと発光フィルターの選択を行うだけで利用できるのである。冷却CCDカメラで得られる試料面積が14 mm x 9 mm の蛍光イメージは、走査も拡大も必要とせず、通常の焦点合わせすら不要である。ソフトウエアーを用いて、このイメージを解析し、個々の画素を調べ、それぞれの標的スポットにハイブリダイゼーションした試料プローブ対対照プローブの比を計算する。適当な統計学的分析によって、プローブ混合物中の標的特異的なそれぞれの配列の相対濃度を決定する。
【0133】
発現解析もしくは癌における遺伝的変化の解析等のゲノム学的にこのシステムを応用することができる。このような目的に沿って、ゲノムレベルでの増幅による腫瘍形成に関連することが報告されている遺伝的領域の全てを対象に解析を行うマイクロアレイが開発されている。AmpliOncTM チップは、33の標的(そのほとんどが、既知のオンコジーン)を含む。それぞれの標的は5つの複製からできている。このようなチップ(および31の標的)の模式図が図13に示されている。50以上の標的を含む新規のチップもまた利用可能である。
【0134】
実施例10 - マイクロアレイの組み合わせによる、Sum-52 乳癌細胞株におけるFGFR2遺伝子増幅の検出
本実施例では、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)で検出した染色体上での増幅に関する標的遺伝子の迅速同定法を示し、またこれらの遺伝子が如何なる臨床意義を有するかを調べる方法を示す。ここで利用されるのは、新規のハイスループットなマイクロアレイ法の組み合わせである。中期染色体に対するCGH(図14、染色体のCGH)によって、乳癌の細胞株であるSum-52 細胞の染色体7q31、8pll-pl2 および10q25の領域に高いレベルのDNA増幅があることが判明した。Sum-52 細胞株のゲノムDNAを新規のCGHマイクロアレイ(図14、ゲノセンサーCGH、Vysis、Downers Grove、IL)に対してハイブリダイゼーションさせた。このマイクロアレイは、遺伝子のコピー数に関して、既知のオンコジーンもしくはオンコジーンと予想される遺伝子を含む31遺伝子座(図13示した遺伝子座)を同時にスクリーニングできる。このgCGH分析から、MET遺伝子(染色体7q31)およびFGFR2遺伝子(染色体10q25)が特異的かつ高度に増幅していることが判明した。また、およびFGFR1遺伝子(染色体8p11-p12)低レベルの増幅を起こしていることも分かった。このことは、通常のCGH分析で観察された増幅領域がこれら3種類の遺伝子を含むものであることを示唆している。
【0135】
cDNAマイクロアレイ (Clonetech Inc.)用いて同一細胞株における発現の大規模検索を行うと、付加的な情報が得られる。SUM-52 細胞では、FGFR2遺伝子が最も過剰に発現し、その転写産物も豊富であった。このことは、この遺伝子が染色体10q25における増幅の標的遺伝子であることを意味する。FGFR2の過剰発現はノーザン分析で確認し、その増幅は蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション(FISH) で確認した。最終的に、145例の原発性の乳癌組織からなるマイクロアレイに対するFISH(図15)で、インビボでのFGFR2遺伝子の増幅が4.5%の事例で起こっていることが分かった。
【0136】
上記3種のマイクロアレイ実験は、数日間で実施することが可能であり、マイクロアレイによるスクリーニング技術の組み合わせが、染色体の再構成に関係する標的遺伝子の迅速な同定および多数の原発性腫瘍におけるこのような変化の頻度に関する評価を行う際に、如何に強力な方法であるかを示すものである。このような方法が大きな威力を発揮するのは、組織マイクロアレイ技術を用いて、目的の遺伝子に対し多数の腫瘍をスクリーニングすることが可能であり、またこれと組み合わせて、目的の遺伝子を見つけ出すために(cDNAチップもしくはCGH等の)DNAアレイ技術を用い、1種類の腫瘍に対して多数の遺伝子をスクリーニングすることが可能なためである。DNAチップでは、単一の腫瘍もしくは他の細胞をスクリーニングするために複数のクローン(例えば、100クローン以上)を用い、また相補的組織マイクロアレイ技術では、複数の(例えば、100例以上)の腫瘍もしくは組織試料(これは、同一もしくは異なる種類の組織のいずれかである)をスクリーニングするために単一のプローブを用いることができることが図16に示されている。
【0137】
実施例11 - 組織アレイで遺伝子発現頻度・分布および癌の経過によるコピー数の変化を調べる
組織アレイを用い、例えば、DNA配列決定、DNAマイクロアレイもしくはSAGE(遺伝子発現の連続解析)(Velculescu 等の Science、270:484-487、1995)等のハイスループットなゲノム学によって発見された遺伝子および標的を追跡することができる。cDNAアレイ技術(Schena 1995 および1996)による遺伝子発現パターンの比較分析は、腫瘍の進行に関する分子機構を解明し、新規の予後マーカーおよび治療上の潜在的な標的を発見する目的において、発現変化のスクリーニングの ハイスループットなツールを提供する。組織アレイは、病理学的および正常の生理学的条件下におけるこのような遺伝子の正確な頻度および分布情報を与える。
【0138】
一例としては、前立腺腫瘍アレイの使用が挙げられる。すなわちこれは、ヒト前立腺癌の進行に関連したマーカーであるIGFBP2(インスリン増殖因子結合蛋白質2)を調べるものである。ホルモン抵抗性の前立腺癌の進展・経過に関する機構を調べるために、4種の独立なCWR22R ホルモン抵抗性異種移植片とアンドロゲン依存性のCWR22 原発性異種移植片の遺伝子発現プロフィールを比較した。ヒト前立腺腫瘍細胞をヌードマウスに移植することによってヒト前立腺癌のCWR22 異種移植片モデルが確立されている (Pretlow、J. Natl. Cancer Inst.、3:394-398、1993)。元の腫瘍異種移植片は、前立腺特異的な抗原(cPSA)を分泌し、ホルモン禁断療法に応答して腫瘍サイズが急速に減少するという特徴がある。このような処置を受けた動物の約半数が、数週間から数か月で腫瘍を再発する。これら再発した腫瘍は別の新規の宿主に移植した場合に、ホルモン治療に対しさらに耐性を示す。元の CWR22 腫瘍と比較してさらに侵襲的な形質を示すものもあり、最後にはその動物を死に至らしめる。この実験モデルは、ヒト患者における前立腺癌の進行経過を模倣するものである。
【0139】
マウスにおけるCWR22 前立腺癌の進行に伴う588種の既知遺伝子の発現レベルを、cDNAマイクロアレイ技術を用いて比較した。既に報告されている方法(Chirgwin、1979)を多少改変した方法を用いて、RNAをCWR22 異種移植片から調製した。mRNAはメーカーの説明書に従いダイナビーズ (Dynal)を用いてオリゴ(dT)による選択法で精製した。cDNAアレイのハイブリダイゼーションはAtlasII cDNAアレイ (Clontech)を用い、メーカーの説明書に従って実施した。cDNAプローブは、2 μg のポリ(A)+RNAを用いて合成し、32P-dCTP で標識した。
【0140】
ホルモン感受性の CWR22 異種移植片における遺伝子の発現パターンを、ホルモン抵抗性の CWR22R 異種移植片における発現パターンと比較した。以前から前立腺癌の病因に関係することが判明している複数遺伝子の発現変化を調べた。さらに、以前には前立腺癌との関連性が指摘されていなかった、もしくはアンドロゲンで制御されることが知られていなかった遺伝子を複数同定した。一貫して最も発現の亢進していた遺伝子の一つであるインスリン様増殖因子結合蛋白質2 (IGFBP-2)を用いてさらに調べた。組織マイクロアレイ技術を利用し、ホルモン療法を受けている患者において、前立腺癌の進行に伴ってIGFBP2の発現変化がインビボでも起こることを確認した。
【0141】
142例の前立腺癌をすべて含む、ホルマリンで固定しパラフィン包埋した試料から前立腺癌組織のマイクロアレイを構築した。
【0142】
これらの腫瘍は、188例のホルモン非抵抗性の原発性前立腺癌、1976〜1977年の期間に手術が行われた局所での再発性ホルモン抵抗性癌に対する54例の経尿道的切除試料、および良性の対照となるBPHの27例の経尿道的切除試料を含む。原発性のホルモン非抵抗性腫瘍および良性の対照のサブセットとしては、バーゼル大学(スイス)の病理学研究所の標本を用いた。また、ホルモン抵抗性腫瘍のサブセットはタンペア大学病院(フィンランド)から得た。原発性のホルモン非抵抗性前立腺癌の群は、BPH(pT1a/b)が疑われた経尿道的切除において期せずして検出された50例の腫瘍および138例の臨床的に限局性疾患の患者の根治的前立腺切除による試料で構成される。試料は4%リン酸緩衝液ホルマリン中で固定した。パラフィン包埋後、5μmに薄切して得た切片をスライドに載せヘマトキシリン・エオシンで染色した。切片は全て、一人の病理学者が観察し、このスライドを用いいずれが最も代表的な(通常、最も未分化な)腫瘍部位であるか評価した。組織アレイの構築には、上記の組織マイクロアレイ技術を用いた。
【0143】
免疫組織化学には標準の間接免疫ペルオキシダーゼ法(ABC-Elite、Vector Laboratories)を用いた。マイクロ波で前処理後、ヤギポリクローナル抗体IGFBP-2、C-18 (1:x、Santa Cruz Biotechnology、Inc.、California) を用いて、IGFBP2の検出を行った。反応は、ジアミノベンジジンを発色原として可視化した。IGFBP2の陽性対照には正常の腎皮質を用いた。陰性対照では該一次抗体を除いて反応を行った。細胞質IGFBP2の染色強度を4群(陰性、微弱、中程度、および強い染色)に分けて評価した。
【0144】
癌が進行してホルモン抵抗性になると高レベルに染色される頻度が高くなり、IGFBP2の染色性と癌の経過との間に密接な関係があった。IGFBP2の強い染色性は、正常の前立腺では検出されず、ホルモン非抵抗性原発性腫瘍ではわずか30% にIGFBP2の強い染色が観察され、再発性のホルモン抵抗性前立腺癌 (p = 0.0001)の場合には96%に強い染色が見られた。従って、本実施例は、疾患の進行に関与する特異的な遺伝子をcDNAアレイのハイブリダイゼーションによるハイスループットな発現検索で調べる別の事例を提供する。この仮説は、組織アレイ技術を用いて直接検証することが可能であった。この結果は、症状の進んだ前立腺癌の患者を管理する際、その診断、予後もしくは治療に関する方法を開発するために、IGFBP2をその標的として利用することができることを示唆するものである。
【0145】
実施例12 - 乳癌におけるPDGFB
AmpliOncTMDNAアレイを用いて乳癌の細胞株SKBR3をスクリーニングしたところ、血小板由来増殖因子B(PDGFB)が増幅していることが分かった。この情報を基に、AmpliOncTM アレイで用いたPDGFBローンと同一のクローン用いてPDGFBプローブを作製した。このプローブを用い乳癌の腫瘍アレイをスクリーニングした。スクリーニングした全乳癌のうちわずか2%にのみPDGFBの増幅が観察された。次に、このプローブを用いマルチ腫瘍アレイ (実施例6に記載した)を調べた。その結果、期せずして、肺癌および膀胱癌でかなり高い割合でPDGFB遺伝子が増幅していることが分かった。このように、本発明を利用して、診断上重要な新規のマーカーを別のタイプの腫瘍に関しても同定できたのである。
【0146】
実施例13 - ヘルセプチン(Herceptin)による治療
組織アレイを用いて、非常に多くの腫瘍組織の試料をスクリーニングし、特定の治療法に感受性を有する腫瘍を調べることができる。実施例1の説明にあるように、例えば、HER-2 遺伝子 (実施例1においてはERBB2とも別称される)の発現を、乳癌アレイをスクリーニングして調べることもできる。HER-2 遺伝子を過剰に発現および/もしくは増幅している腫瘍は、HER-2の発現を抑制する抗体であるHerceptinを用いた治療の候補として有望である。HER-2 抗体もしくはDNAプローブでマルチ腫瘍組織アレイをスクリーニングし、その治療法が効果的である乳癌以外の癌に関する情報を得ることもできる。
【0147】
実施例14 - 予後および生存とマーカーとの相関関係
病歴と転帰が既知である患者の腫瘍から構築した腫瘍組織アレイ用い、予後に関するマーカーの評価を行うことができる。本実施例では、腫瘍内に不均一性があっても膀胱癌の予後マーカーを腫瘍組織アレイで評価できることが示されている。
【0148】
315例の膀胱腫瘍からなるアレイを用いて、免疫組織化学的にp53の核内蓄積を解析した。p53の分析は2回実施した。1回目は、腫瘍ブロック全体を含む通常の大きなサイズの組織学的 切片で行い、2回目はそれぞれの腫瘍から1試料を含む腫瘍アレイの切片を用いて行った。用いた一群の腫瘍は、臨床的な追跡情報 (腫瘍に特異的な患者の生存率)を有する127 pTa、81 pTIa、および 128 pT2-4 等の膀胱癌で構成される。
【0149】
腫瘍当たり1ブロックを解析した。各ブロックからえた切片1枚を免疫組織化学的に分析した。次に、それぞれのブロックから単一の「パンチによい生検試料」を得、これを空のレシピエントブロックに埋め込んで組織アレイを構築した。原発性腫瘍のブロックおよびアレイブロックから4μm厚の切片を切り出した。標準的な免疫染色法に従いモノクローナル抗体 DO-7 (DAKO、1:1000) を使用して染色した。
【0150】
大きな切片の場合には、少なくとも腫瘍部位において少なくとも20%の腫瘍細胞に中程度もしくは強度の核内p53の染色が観察されたとき、腫瘍は陽性であるとした。アレイ切片の場合には、アレイに配置した腫瘍細胞の少なくとも20%に中程度もしくは強度の核内p53の染色が観察されたときに腫瘍は陽性であるとした。微弱な核内および細胞質におけるp53の染色は無視した。
【0151】
カイ2乗試験を用い、アレイでのp53と大きな切片におけるp53の結果を比較した。Kaplan-Meier法に従って生存曲線をプロットした。ログランク試験法でp53の陽性率と腫瘍特異的な生存率との関係を調べた。患者の生存は、最後の臨床の際に評価した。患者の死亡が膀胱腫瘍であるかそれ以外の原因であるかは、死亡時に評価した。
【0152】
p53の解析を315例のアレイした腫瘍試料(21例の試料では、アレイ切片にp53の染色が観察されなかった)について実施した。通常の切片では、これら315例の腫瘍のうち、アレイ上にも載っている105例に、p53の免疫染色陽性が認められた。通常の「大きな」切片で検出されたp53の陽性率は、予後不良(図1A、p < 0.0001)に有意な関連を示すものであった。大きな切片でp53が陽性であるこれら105例の腫瘍のうち69例(66%)がアレイ状に配列した腫瘍試料でも陽性を示した。しかし、残る36例(34%)は陰性であり、おそらくこれは腫瘍の不均一性によると考えられる。 しかしながら、アレイにおけるp53免疫染色結果および大きな切片における染色結果(p < 0.0001)間には、密接な関連が存在した。また、アレイにおけるp53の陽性率でも、予後不良に対して有意な相関があった(図1B、p=0.0064)。
【0153】
大きな切片の分析で得られた情報を好ましくは90%、95%もしくは100%再現するそれぞれの腫瘍の特定数の生検試料を用いることによって、組織アレイ 実験で臨床的に有意な情報を取得するために組織アレイにおいて一体どのくらいの数の「パンチ」が必要であるかを調べることができる。この最適数は解析すべき特定の腫瘍および生物学的標的の種類に依存して変わる。
【0154】
実施例15 - 新規の遺伝子標的
組織アレイを用い、癌およびその他の療法の新規標的を見つけだすことができる。数百の異なる遺伝子が与えられた癌において差分的に制御されている(例えば、マイクロアレイ、ハイブリダイゼーション、もしくは配列決定またはSAGE等のその他のハイスループット発現スクリーニング法等でcDNAを基に考察する)。それぞれの遺伝子候補の大規模組織アレイによる解析によって、いずれが新規の薬剤、阻害剤等の開発に関する最も確実な標的であるかを調べることができる。例えば、数千の多様な腫瘍試料を含む腫瘍アレイを、オンコジーンもしくは新規のシグナル伝達分子をコードする遺伝子のプローブを用いてスクリーニングしてもよい。このようなプローブは、単一もしくは複数の異なる種類の腫瘍に結合することができる。このプローブによって、多くの腫瘍で特定の遺伝子が過剰発現しているおよび/もしくは増幅していることが明らかになれば、その遺伝子は組織学的に単一種類の数多くの腫瘍もしくは異なる種類の腫瘍において機能している重要な標的であると考えられる。このような遺伝子の発現を抑制する治療法、もしくはその遺伝子由来の遺伝子産物の機能を抑制する治療法は、新規の抗癌剤として有望である。特に、組織アレイは薬剤開発における標的の選択に用いる最も有用な方法であるといえる。
【0155】
実施例16 - DNAアレイ試験につづく組織アレイ実施
多くの前例で主張されていることは、組織アレイを行う前に予めDNAアレイを利用するというものであるが、本発明の方法では、これらのアレイをいずれかの順番で用いるか、もしくは他の分析技術と組み合わせて実施するものである。従って、組織アレイ分析において複数の腫瘍試料を単一のプローブで見いだした目的遺伝子を、次の段階でにDNAアレイに用いることもできる。すなわち、該目的遺伝子に由来するユニークな配列を、アレイの基質に結合させるプローブの一つとして用いるものである。例えば、マイクロアレイ実験で得られた情報を基に診断、予後、もしくは治療に最も適切であると考えられるDNAチップを作製することができる。
【0156】
cDNAアレイ、CGHアレイ、および組織アレイ間の相互関係について図17に示す。この図から分かるように、種々のアッセイはいずれの順番、もしくはいずれの組み合わせで行うことも可能なのである。
【0157】
実施例17 - 細胞株アレイ
培養細胞もしくは非固形組織もしくは非固形腫瘍(血液試料、骨髄生検試料、もしくは針穿刺吸引生検で得られた細胞学的試料等)から単離した細胞を、組織アレイ技術を用いて解析することもできる。これは、ヒトもしくは動物から直接得た、または細胞培養の実験(医薬品のスクリーニングに用いるマイクロタイター容器の形態で行った特異的なホルモン試験もしくは化学療法試験等)後にインビトロで得た個々の細胞、もしくは細胞集団の分析に対する組織アレイ技術の重要な応用例である。悪性腫瘍の分析に関してはこれを用いることにより、上記の固形腫瘍に対して用いた方法と同一の方法に従って、白血病とリンパ腫の組織もしくはその他の液性腫瘍の分析を実施することが可能となる。
【0158】
American Type Culture Collection (Rockville、MD)から得た癌細胞株を用いてこの方法を実施した。細胞をトリプシン処理し、細胞懸濁液を1200 x gで遠心して細胞を沈降させた。得られた細胞ペレットを、ホルムアルデヒドを含むアルコール固定液で固定し、以下の様な通常の病理学で用いられるプロトコールに従って、固定した細胞ペレットをパラフィンに包埋した。固定・包埋した細胞の懸濁液を、細胞アレイの作製の出発材料とした。固定・包埋は、組織試料の固定・包埋に用いた上記の方法と同一の方法を用いて行った。この方法用いると、少なくとも1000種程度までの異なる細胞集団を単一の標準サイズのパラフィンブロックにアレイすることができる。
【0159】
均一な培養細胞のアレイを作製する際に、非常に小型のパンチサイズ(例えば、0.5 mm以下)を用いることができる。これにより高密度アレイが構築可能となる。例えば、40 mm x 25 mm のサイズの単一パラフィンブロックにおおよそ2000種の異なる細胞集団を載せることができる。
【0160】
本発明の組織の解析法は、上記の実施例で具体的に説明した形態以外にも異なる様々な形態で実施することが可能である。組織試料は異常なものである必要はないが、特定の遺伝子、蛋白質、もしくはその他のバイオマーカー(ここで、バイオマーカーとは、試料の生物学的性質な情報を知る上で有用であるような生物学的特徴を意味する)機能および組織分布の解析に供する正常な組織であってもよい。該正常組織とは、胚組織、もしくは遺伝的に改変したトランスジェニックマウス等の生物由来の組織であってもよい。
【0161】
アレイ技術を用いて、遺伝的疾患以外の疾患を分析することもでできる。例えば、疾患の病因もしくは診断に重要性を有する可能性のある遺伝子もしくは蛋白質の発現パターンのプロフィールを調べることができる。組織試料は固形腫瘍だけに限定されるものではなく、細胞株、血液学的もしくはその他の液性腫瘍、細胞学的試料、または単離された細胞であってもよい。
【0162】
ヒトもしくは他の動物由来の細胞を用いて、酵母または細菌の細胞の様に懸濁液にする。もしくは、懸濁液中の細胞を遠心して沈降させ固体もしくは準固体状態のペレットにする。これを固定し、次に組織試料のようにアレイに配置する。液性細胞の懸濁液はピペットで基質(例えば、スライド表面の凹み)に配置し、上記の組織アレイについて説明したのと同一の方法で解析することができる。該組織アレイをマイクロタイタープレート上で増殖する細胞のハイスループットな化学療法スクリーニング等の、細胞株の実験に用いることもできる。各ウェルの細胞を異なる薬剤もしくは異なるの濃度の薬剤で処理する。次に細胞を回収して、細胞株マイクロアレイに用い、薬剤処理に伴うその機能的特徴、形態、生存率、特定遺伝子の発現等に関して解析する。
【0163】
アレイに利用する組織学的または免疫学的分析法に関しては、特段の限定はなく、核酸のハイブリダイゼーション、PCR(インサイチューPCR等)、PRINS、リガーゼ連鎖反応、パドロックプローブ検出法、組織化学的なインサイチューでの酵素的検出法、およびを分子ビーコン(beacon)の利用等が挙げられる。組織アレイ技術を用いて、ヒト、動物、細胞株、もしくはその他の実験システムから直接試料 (組織もしくは細胞)を採取することもできる。例えば、生検試料を通常の病理学的方法で処理する場合、固定後に、通常試料を水平方向でパラフィンブロックに埋め込む。従って、このような組織の試料から組織アレイを作製することは不可能ではないが、大変困難である。しかしながら、手術で得られた複数の生検試料を直接固定(さらに、必要に応じて、パラフィン等の適当な媒体に包埋する)し、直接基質に垂直に埋め込んであれば、この場合、生検試料組織アレイは構築可能である。このようなアレイは研究目的で有用であるばかりでなく、臨床的な目的においても有用である。例えば、悪性化前の病変の経過もしくは外科的に切除することの不可能な転移性の腫瘍の治療に対する応答(分子マーカーを用いる)のモニタリングに使用する。
【0164】
細胞学的試料(吸引細針生検細胞診、頚部細胞診、血液試料、単離された血液細胞、または尿中の細胞等)を遠心操作でペレットにした後、上記のような方法で固定・包埋してアレイに配置することができる。もしくは、細胞を懸濁液中で固定し、(例えば、ピペット操作で)直接基質の穴に入れるかもしくは包埋する。この後、アレイに配置する。このようして、研究目的もしくは診断目的の細胞のアレイが調製できる。このような方法で、細胞学的な迅速診断薬を調製できる。かかる迅速診断薬においては、単一スライドで異なる患者からの複数の試料を同時にスクリーニングすることが可能である。細胞の形態だけではなく、分子特徴に関しても調べることができるのである。顕微鏡、自動画像解析システム、走査装置もしくは類似の特殊システムを用いて複数の試料を一度にスクリーニングできるので、分析の自動化が可能となる。このような細胞調製物の利用は、白血病やリンパ腫等の血液学的疾患の診断には特に重要である。これにより、自動化を行い多くの患者のリンパ球に関するタイピングを一度に実施できる。これら患者試料をアレイの形態に埋め込み、免疫学的形質の決定もしくはインサイチューハイブリダイゼーションによる分析に供する。血液銀行に提供された血液試料のウイルス抗原、ウイルスDNAもしくはその他の病原性に関するスクリーニングは、同様にアレイの形態で実施することができる。
【0165】
被験者の腫瘍の進行(ホルモン抵抗性前立腺癌の進行等)の各ステージで採取した試料を利用して、腫瘍の進行に関するアレイを構築することができる。または、異なる被験者の異なるステージの腫瘍を採取し、アレイに組み込むこともできる。このアレイを用いて、前癌病変の進行(頚部新生物形成の進展等)および化学予防剤の効果(胸部上皮細胞および乳癌の進展に対する抗エストロゲン効果等)を調べることもできる。
【0166】
別の実施の態様においては、トランスジェニックもしくはモデル生物由来の試料を、異なる胚発生のステージもしくは出生後の異なる時間等の発生の異なる段階で採取することができる。このことによって、正常もしくは異常な胚発生等の事象の研究が可能となる。
【0167】
マイクロアレイ切片上で行う生物学的 分析は、通常の組織切片で行う分析法を用いることができる。正常組織、過形成、インサイチューの癌、浸潤性の癌、再発性腫瘍、局所リンパ節転移、もしくは遠位性の転移等の単一もしくは複数の腫瘍の異なる進行ステージの試料を用いてアレイを構築することもできる。
【0168】
「EST」もしくは「発現配列タグ」は、DNAもしくはcDNAの部分配列を意味する。これは、通常50〜500の連続したヌクレオチドからなり、ゲノムライブラリーもしくはcDNAライブラリーから得られる。これらライブラリーは、そのライブラリー中の遺伝子のmRNAに対応する選択された細胞、細胞の種類、組織または組織の種類、臓器または生物から調製する。ESTは一般的にDNA分子である。
【0169】
「特異的ハイブリダイゼーション」とは、複雑な混合物(例えば、全細胞性DNAもしくはRNA)中にその配列が存在する場合に、ストリンジェントな条件下で、ある分子の特定のヌクレオチド配列に対する結合、二重鎖形成、もしくはハイブリダイゼーションを意味する。
【0170】
その他の実施態様
本発明の原理は様々な実施態様に応用可能であり、ここに例示した態様は本発明の例に過ぎないと理解されるべきものである。また、本発明の範囲を限定するものでもない。むしろ、以下に示す請求項によって本発明の範囲が定められるものである。それ故、以下の請求項に示す請求の範囲と趣旨に沿って、ここに本発明の請求を行うものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドナー検体を獲得する段階;
各ドナー検体をレシピエントアレイの割り当てられた位置に設置する段階;
genosensor comparative genomic hybridization (gCGH)アレイを用いて、レシピエントアレイ上で検定するバイオマーカーを同定する段階;
各切片が、割り当てられた位置にある複数のドナー検体を含むようにしながら、レシピエントアレイから複数の切片を作製する段階;
バイオマーカーを用いて、各切片で異なる生物学的分析を行う段階;および 異なる切片上で対応する割り当て位置にある異なる生物学的分析結果を比較して、各割り当て位置の異なる生物学的分析結果の間に相関があるかどうかを決定する段階:を含む、組織検体の平行分析方法。
【請求項2】
バイオマーカーがハイスループット遺伝分析によって選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
バイオマーカーが染色体、染色体領域、遺伝子、遺伝子断片、または遺伝子座の数の変化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
結果の比較が、遺伝子変化のマーカーを調べることによって、遺伝子の変化があるかどうかを決定することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
変化が乳癌、肺癌、大腸癌、精巣癌、子宮内膜癌、または膀胱癌におけるPDGFBの増幅である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
以下の段階を含む、組織検体において遺伝子増幅を分析する方法: 組織検体でどの遺伝子が増幅されているかを検出するgenosensor comparative genomic hybridization (gCGH)アレイを用いて、組織検体中の複数の遺伝子をスクリーニングする段階;および 核酸プローブを用いて組織アレイ中の複数の組織検体をスクリーニングして、その組織検体中でどの遺伝子が増幅されているかを検出する段階;
ここで、複数の遺伝子のスクリーニング結果は、複数の組織検体のスクリーニングのための核酸プローブの選択に用いられるか、複数の組織検体のスクリーニング結果は、どの遺伝子が増幅されているかを検出するアレイの選択に用いられる。
【請求項7】
gCGHアレイが、遺伝子増幅、またはこの増幅を反映する遺伝マーカーもしくは分子マーカーについてアッセイされる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
gCGHアレイが、癌で増幅される標的遺伝子座を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ゲノム領域のgenosensor comparative genomic hybridization (gGCH)アレイを、既知の特定の遺伝障害を持つ細胞由来の核酸試料に露出し、核酸がハイブリダイズするゲノム領域をバイオマーカーとして同定する段階;
バイオマーカーにハイブリダイズする候補プローブを獲得する段階;
候補プローブを組織検体アレイに露出して、候補プローブのハイブリダイゼーションの統計的尺度を決定する段階;
ハイブリダイゼーションの統計的に有意な尺度を持つ候補プローブを選択する段階;および選択された候補プローブを用いて遺伝障害について生体試料を分析する段階:を含む、遺伝障害について生体試料を分析する方法。
【請求項10】
生物試料の分析が診断情報を提供する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
生物試料の分析が予後情報を提供する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
検体中で血小板由来成長因子β(PDGFB)が増幅されているかどうかを決定する段階を含み、増幅が検体中に癌性細胞の存在を示す、検体中に癌性細胞の存在を検出する方法。
【請求項13】
検体が肺組織、膀胱組織、および子宮内膜組織からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
核酸断片が1つまたは複数の候補ゲノム領域にハイブリダイズできる条件下で、genosensor comparative genomic hybridization (gCGH)アレイ中の複数のゲノム領域に、全体で既知の特定の遺伝障害を持つ細胞由来のDNAを表す核酸断片を含む核酸試験試料を接触させる段階;
候補ゲノム領域にハイブリダイズした核酸試験試料があればその量を測定し、正常DNAの対照試料と比較して、試験試料核酸のハイブリダイズした量が変化した候補ゲノム領域を選択する段階;
選択された候補ゲノム領域にハイブリダイズする核酸プローブを調製する段階;
プローブが組織試料中のヌクレオチド配列にハイブリダイズできる条件下で、プローブを複数の組織試料に接触させる段階;および 相当な数の組織試料にハイブリダイズするプローブに対応する候補ゲノム領域を、その特定の遺伝障害に伴うゲノム標的配列として選択する段階:を含む、特定の遺伝障害に関連するゲノム標的配列を検出する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図10E】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−162029(P2010−162029A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−33200(P2010−33200)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【分割の表示】特願2000−578492(P2000−578492)の分割
【原出願日】平成11年10月28日(1999.10.28)
【出願人】(599163160)バイシス・インコーポレーテツド (1)
【出願人】(500400032)ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプレゼンティッド バイ ザ シークレタリー デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ (1)
【Fターム(参考)】