説明

細胞内寄生病原体に対する遺伝子ワクチン

【課題】結核菌、マラリア原虫、トキソプラズマ原虫等の細胞内寄生原虫に由来する遺伝子等と、ユビキチン遺伝子との融合遺伝子(フュージョンDNA)を構築し、各々の感染宿主に対する遺伝子ワクチンを用い、その遺伝子産物であるユビキチン化された病原体抗原がプロテアソームでプロセッシングを受けることにより、その病原体に特異的なCD8T細胞を強力に誘導するフュージョンDNAワクチンを提供する。
【解決手段】細胞内寄生病原体由来の遺伝子とユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有することを特徴とする遺伝子ワクチン。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ユビキチンプロテアソーム系を応用した細胞内寄生病原体に対する遺伝子ワクチンに関する。
【従来の技術】
【非特許文献1】 Immunol.Rev.163:161-76,1998
高等動物においては、抗原と称される物質が生体内に入り込んできた場合に抗体と呼ばれる物質を生成する能力が備わっていることが知られている。この目的は自己に害を及ぼす恐れのある物質又は生物、即ち抗原から生体を保護することにある。これは侵入した抗原を特異的に認識し、その抗原を分解、中和、不活性化することによって生体を保護しようとするものである。
近年、免疫学の著しい進歩により、侵入してきたあらゆる種類の抗原に対していかに巧妙に特異抗体が生成され、種々の免疫担当細胞が動員され、目的を達するのかといういわゆる免疫応答機構が明らかにされてきた。
免疫応答機構の一つで、一度侵入した抗原を記憶し、再度同じ抗原が侵入した場合に極めて迅速、有効に免疫応答を誘起するという性質を利用したものが、ワクチンである。ワクチンの技術は、不活性化した感染性生物又は感染性生物の構成物質の一部を予めヒトに接種し擬似感染を成立させることによって、感染時に生体内に記憶された免疫応答を有効に引き出し感染症に対する耐性を発揮させるというものである。
【0002】
難治性感染症に対応するに最も適切な戦略はワクチンであることは紛れもない事実であり、現実的に臨床サイドからも早急な開発が期待されている。
しかしながら、世界的に蔓延し大きな社会問題となっているマラリア、結核、トキソプラズマ、HIV等の免疫回避エスケープ機構が複雑な細胞内寄生病原体に対するワクチンに関しては、これまで幾度となく開発が試みられてきたもののことごとく失敗に帰してきた。これは、これらの病原体の感染および寄生適応機構の解明が十分進まず、さらにそれらの病原体排除に要求される宿主防御機構も特定されていないことに起因する。エスケープ機構が複雑な病原体に対し十二分な予防効果を発揮するワクチン法を確立するためには、これまでのワクチン戦略を抜本的に見直し、感染免疫の分子論的基盤に立脚した総合的な研究を展開していく必要がある。
【0003】
一般的に、マラリア、結核、HIV等のような細胞内寄生病原体に対する防御免疫にはCD8T細胞(キラーT細胞)を中心とした細胞性免疫の誘導が必須である。
しかしながら、それらの病原体のペプチド抗原を用いた従来の免疫方法では体液性免疫は誘導されるが、上記のような細胞性免疫の誘導はきわめて困難である。
なお、これらの病原体には化学療法が困難で、また薬剤耐性の場合が多く、ワクチンの開発が急務である。
【0004】
抗原特異的CD8T細胞が誘導されるためには抗原が細胞質内酵素であるプロテアソームでプロセッシングを受けた後に、MHCクラスI分子に提示されることが必須である。
近年、田中等により細菌抗原等のペプチド抗原をユビキチン化することによりその抗原が必然的にプロテアソームに誘導され、その酵素でプロセッシングを受けることが証明された。この抗原処理経由はユビキチンプロテアソームシステムと呼称されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、結核菌、マラリア原虫、トキソプラズマ原虫、クルーズトリパノソーマ、HIV、サイトメガロウイルス等の細胞内寄生病原体に由来する遺伝子等と、ユビキチン遺伝子との融合遺伝子を構築し、各々の感染宿主に対する遺伝子ワクチンを用い、その遺伝子産物であるユビキチン化された病原体抗原がプロテアソームでプロセッシングを受けることにより、その病原体に特異的なCD8T細胞を強力に誘導するフュージョンDNAワクチンを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ユビキチンプロテアソームシステムを基盤とし、結核菌由来のMPB51遺伝子、マラリア原虫由来のMSP−1遺伝子、トキソプラズマ原虫由来のSAG−1遺伝子等との融合遺伝子(フュージョンDNA)を構築することにより、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[2]に記載した事項により特定される。
[1]細胞内寄生病原体由来の遺伝子とユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有することを特徴とする遺伝子ワクチン。
[2]細胞内寄生病原体由来の遺伝子が、結核菌由来のMPB51、MDP1、Ag85A、Ag85B、HSP65、Mtb72f遺伝子、マラリア原虫由来のMSP−1遺伝子、トキソプラズマ原虫由来のSAG−1遺伝子、クルーズトリパノソーマ原虫由来のTSA遺伝子、HIV関連遺伝子、サイトメガロウイルス関連遺伝子から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の遺伝子ワクチン。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のワクチンは、細胞内寄生病原体由来の遺伝子とユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子(フュージョンDNA)を含有することによって得ることができる。
本発明に係る細胞内寄生病原体は、ウィルス、バクテリア、原虫、真菌、細胞内寄生体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。具体的には、結核菌由来のMPB51、MDP1、Ag85A、Ag85B、HSP65、Mtb72f遺伝子、マラリア原虫由来のMSP−1遺伝子、トキソプラズマ原虫由来のSAG−1遺伝子、クルーズトリパノソーマ原虫由来のTSA遺伝子、HIV関連遺伝子、サイトメガロウイルス関連遺伝子等から選ばれる少なくとも1種の細胞内寄生病原体由来の遺伝子等を用いることができる。
【0009】
結核やマラリアのような細胞内寄生病原体に対する防御免疫には、CD8T細胞を中心とした細胞性免疫の誘導が必須である。細胞性免疫の誘導は、CD8T細胞を誘導し、活性化するためにはワクチン抗原蛋白質を抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)上のMHCクラスI分子に接着させることが必須の課程である。そのためには、CD8T細胞受容体(T cell receptor)が認識しうる8個のアミノ酸からなるペプチドをワクチン抗原蛋白質から切り出すことが必要である。この切り出し作業が細胞質内酵素であるプロテアソームで行われる。しかし、その前提として、ワクチン抗原蛋白質が細胞内でユビキチンと結合(ユビキチン化)されなければならない。そこで、ワクチン抗原蛋白質をコードする遺伝子と、ユビキチンをコードする遺伝子を結合した遺伝子を遺伝子銃等で抗原提示細胞内に直接注入することにより、その細胞内で結合遺伝子がコードする癒合蛋白質が合成される。そして、癒合蛋白質の一部であるユビキチンが癒合蛋白質をプロテアソームに導くことにより、プロテアソームにより癒合蛋白質内のワクチン抗原蛋白質から8個のアミノ酸からなるペプチドが切り出され、CD8T細胞受容体に認識される。
【0010】
抗原特異的CD8T細胞が誘導されるためには、抗原が細胞質内酵素であるプロテアソームでプロセッシングを受けた後に、MHCクラスI分子に提示されることが必須である。このことは、抗原提示細胞の培養中にプロテアソーム特異的阻害剤であるlactacystinやMG−132を加えると、MHCクラスI分子に抗原が提示されず、CD8T細胞が活性化されないことが証明され、またプロテアソームノックアウトマウスを用いた実験でも同様の現象が確認されていることからも明らかである(Immunol.Rev.163:161-76,1998)。
【0011】
本発明におけるワクチンは、リコンビナント蛋白質ワクチンや病原体蛋白質を用いたワクチンと異なり、頻回投与によってもアナフィラキシーショックを引き起こす可能性は少なく、安全性に優れる。また、リコンビナント蛋白質ワクチン/サイトカインに比べ精製・調製が簡便かつ経済的である。
従来のウィルスベクターを用いた遺伝子治療の最も重大かつ致命的欠点の一つは、ウィルスベクターに対する抗体が産生されやすく、頻回投与ではウィルスベクターの排除あるいはアナフィラキシーショックを惹起する危険性がある。それに比べて、本発明のウィルスベクターを用いないnaked DNAによる遺伝子治療、DNAワクチンでは、生体への反復投与が容易かつ安全に行うことができる。さらにウィルスベクターを用いる場合に比してnaked DNA遺伝子の構築は非常に容易である。
【0012】
本発明においては、ウィルスベクターを用いないので遺伝子の構築が容易で、しかもウィルスベクターの強毒化による感染の危険性が極めて少ない。また、ウィルスベクターを用いないのでgenomic DNA内にインテグレーションされる可能性が非常に低い。
本発明の遺伝子ワクチンは、以下の有利な特徴を有する。すわなち、リコンビナント蛋白質ワクチンでは、細胞内寄生病原体の排除に必須の関わりを持つCD8T細胞を中心とした細胞性免疫の誘導が非常に困難である。また、リコンビナント蛋白質ワクチンは、複数回投与ではアナフィラキシー等の重篤な副作用を惹起する危険性があるが、本DNAワクチンではその危険性が少ない。また、リコンビナント蛋白質ワクチンは、精製が容易ではないため高価にならざるを得ないが、DNAワクチンは、精製も容易で安価であるため、上記の病原体による感染症が深刻な発展途上国においても使用が比較的容易である。更に、遺伝子治療は多くの場合ウィルスベクターを用いる。しかし、この場合、ベクターのウィルスに対する中和抗体やアナフィラキシーを惹起するIgE抗体が産生されるため無効あるいは使用不可能となる。本DNAワクチンではnaked DNAを用い、ウィルスベクターは用いないためこの様な障害は生じない。
【0013】
キラーT細胞受容体が認識するエピトープは、多くの場合8個のアミノ酸により構成されるが、感染宿主の組織抗原(MHC、ヒトではHLA)の相違により、その個体のキラーT細胞受容体が認識するエピトープが異なる場合が多い。しかし、本発明に使用されるDNAがコードするペプチドは多種のMHCのキラーT細胞が認識しうるもの、あるいは複数のエピトープをコードするDNAを用いているので、臨床応用に当たっても、オーダーメイド/テイラーメイド的な配慮の必要性は少なく、オーダーメイド的に多種のMHCを持つ集団がこのワクチンの対象となりうる。これは技術的のみならず経済的にも大きなメリットであり、経済基盤の弱い発展途上国にも応用が可能となる。
【0014】
本発明におけるキラーT細胞エピトープの遺伝子の構築については、キラーT細胞エピトープ既知配列をデータベースより検索し、その配列両端についてプライマーを合成し、腫瘍細胞よりフェノール・クロロフォルム法によりRNAを抽出し、そのRNAをテンプレートとして、RT−PCR法を用いて逆転写し、遺伝子を構築する。ここで、PCR法(polymerase chain reaction)とは、DNA鎖の特定部位のみ繰り返し複製する反応で、微量のDNAを1,000,000倍程度まで増幅できる。複製反応のプライマーとしては、増幅部両端の塩基配列を含む合成オリゴヌクレオチオを用いて、耐熱性DNAポリメラーゼにより行う。また、RT−PCR法(reverse−transcript polymerase chain reaction)とは、第一回目の反応に逆転写酵素を用いることにより、RNAからDNAを合成し、その後は通常用いられるPCR法によって、特定のDNA部位を増幅する方法である。
【0015】
本発明に係るワクチンは、病気罹患の際に免疫学的により好ましい免疫応答のできる免疫システムが達成されるような、あらゆる組成物をも含むことができる。通常、ワクチンは免疫決定要因と、この免疫決定要因の応答を、迅速強化するような作用を呈する免疫助成剤とを含み、免疫決定要因は免疫助成剤と組み合わせて用いるのが好適である。免疫賦活剤は、通常用いられる、例えば、フロインド(Freund)複合体助成剤や、フロインド非複合体助成剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、本発明のワクチンは、免疫助成剤を用いなくとも効能を有する。
【0016】
本発明におけるユビキチンは、蛋白質の分解提示シグナルの機能等を有する保存性の高い蛋白質であり、ユビキチン遺伝子は、細胞内に生じた異常タンパク質を排除する他、様々な生物機能に関係しているユビキチンタンパク質をコードする。
本明細書においては、ユビキチンをコードする遺伝子のプロモーター、ユビキチンをコードする構造遺伝子、及びこれら両者を含むDNA配列を、併せて「ユビキチン遺伝子」ということがある。
本発明に係るユビキチン遺伝子の含有量は、種々の要因により適宜変更できるが、マウス一匹(20g)当たり、1μg〜20μg、好ましくは、6μg〜9μgである。この範囲外になるにつれ、ワクチン効果が減弱するという傾向が見られる。
【0017】
本発明に係る細胞内寄生病原体由来の遺伝子の含有量は、種々の要因により適宜変更できるが、マウス一匹(20g)当たり、1μg〜20μg、好ましくは、6μg〜9μgである。この範囲外になるにつれワクチン効果が減弱するという傾向が見られる。
ユビキチン化した遺伝子、細胞内寄生病原体由来の遺伝子は、上述したRT−PCR法で構築されるが、この方法に限定されるものではない。具体的には、第一回目の反応に逆転写酵素を用いることにより、RNAからDNAを合成し、この後、PCR法によりDNA鎖の特定部位のみ繰り返し複製し、微量のDNAを増幅した後、大腸菌に形質転換し、37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行う。その後、遠心を行い、上清を捨て、沈殿物である菌体成分をTris−HCl/EDTA溶液に溶解する。続いてアルカリ溶液NaOH/SDS溶液にて菌体成分を溶菌し、溶菌後、反応を止める為中和溶液酢酸カリウムにて中和する。その後、核酸精製用陰イオン交換樹脂カラムに溶液をloadし、NaCl/酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、NaCl/Tris−HClにて溶出する。尚、その遺伝子が実際に細胞内で発現することは、cos細胞にtransfectして確認する。
ここで、細胞内寄生病原体由来の遺伝子とユビキチン遺伝子は、1:1で混合させるのが好ましいが、種々の条件により適宜変更できる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、これらの例は単なる実例であって本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変更させてもよい。
実施例1
本実施例において、トキソプラズマ原虫由来のSAG−1遺伝子と、ユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有するワクチンを調製した。
UB−SAG−1遺伝子を含有する発現プラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、LB培地500ml中で37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行った。
次いで、4℃、12,000rpmにて10分間、遠心分離を行い、上清を捨て、沈殿物である菌体成分を50mMTris−HCl(pH8.0)/10mMEDTA溶液10mlに溶解した。続いて、アルカリ溶液200mMNaOH/1%SDS溶液10mlにて菌体成分を溶菌し、溶菌後、反応を止めるため、中和溶液3.1M酢酸カリウム(pH5.5)10mlにて中和した。
その後、600mMNaCl/100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)30mlにて平衡化した核酸精製用陰イオン交換樹脂カラム(MARLIGEN BIOSCIENCE INC.製)に中和溶液を室温にて12000rpmで10分間、遠心分離を行った上清をloadし、800mMNaCl/100mM酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、1.25MNaCl/100mMTris−HCl(pH8.5)にて溶出した。
【0019】
実施例2
本実施例において、マラリア原虫由来のMSP−1遺伝子と、ユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有するワクチンを調製した。
UB−MSP−1遺伝子を含有する発現プラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、LB培地500ml中で37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行った。
次いで、4℃、12000rpmにて10分間、遠心分離を行い、上清を捨て、沈殿物である菌体成分を50mMTris−HCl(pH8.0)/10mMEDTA溶液10mlに溶解した。続いて、アルカリ溶液200mMNaOH/1%SDS溶液10mlにて菌体成分を溶菌し、溶菌後、反応を止めるため、中和溶液3.1M酢酸カリウム(pH5.5)10mlにて中和した。
その後、600mMNaCl/100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)30mlにて平衡化した核酸精製用陰イオン交換樹脂カラム(MARLIGEN BIOSCIENCE INC.製)に中和溶液を室温にて12000rpmで10分間、遠心分離を行った上清をloadし、800mMNaCl/100mM酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、1.25MNaCl/100mMTris−HCl(pH8.5)にて溶出した。
【0020】
実施例3
本実施例において、結核菌由来のAg85BあるいはHSP65等の遺伝子と、ユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有するワクチンを調製した。
UB−Ag85B遺伝子あるいはUB−HSP65遺伝子等を含有する発現プラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、LB培地500ml中で37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行った。
次いで、4℃、12000rpmにて10分間、遠心分離を行い、上清を捨て、沈殿物である菌体成分を50mMTris−HCl(pH8.0)/10mMEDTA溶液10mlに溶解した。続いて、アルカリ溶液200mMNaOH/1%SDS溶液10mlにて菌体成分を溶菌し、溶菌後、反応を止めるため、中和溶液3.1M酢酸カリウム(pH5.5)10mlにて中和した。
その後、600mMNaCl/100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)30mlにて平衡化した核酸精製用陰イオン交換樹脂カラム(MARLIGEN BIOSCIENCE INC.製)に中和溶液を室温にて12000rpmで10分間、遠心分離を行った上清をloadし、800mMNaCl/100mM酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、1.25MNaCl/100mMTris−HCl(pH8.5)にて溶出した。
【0021】
実施例4
本実施例において、トキソプラズマへのDNAワクチンがキラーT細胞を効果的に活性化していることを測定した。
BALB/cマウス由来のRenca細胞でSAG−1を定常発現する細胞を標的細胞とし、H‐チミジンラベル法によりキラーT細胞活性を測定した。
その結果を図1に示す。図1はDNAワクチンによるキラーT細胞の活性化を示すグラフであり、このアッセイには、UB―SAG1免疫マウス(一群3匹)を用いその平均値を示した。
図1より、Ub−fusion formベクター導入群においては、顕著なSAG1特異的細胞傷害活性が認められた。しかし、Empty vector、Secretion form、Basic form導入群においてはSAG1特異的細胞傷害活性は認められなかった。
以上の結果より、ユビキチン結合型ワクチンを用いることで特異的な細胞傷害が誘導できることがわかった。
【0022】
実施例5
本実施例において、SAG−1特異的なキラー細胞活性化効果がユビキチンプロテアソーム系を介してであることをプロテアソーム阻害剤を用いて調べた。
アカゲザル腎由来細胞COS7細胞にUB−SAG1ベクターをトランスフェクトし、一晩(〜16時間)培養後、プロテアソーム阻害剤MG−132を0、0.625、1.25、2.5、5.0、10.0μM培養液中に添加し、さらに24〜36時間培養した。培養後、細胞を溶解し、溶解液を抗SAG−1抗体を用いてウエスタンブロット法により解析を行った。その結果を図2に示す。
図2より、プロテアソーム阻害剤MG−132を添加していない場合、SAG−1蛋白質の発現は認められなかったが、MG−132の濃度依存的にSAG−1蛋白質の発現が確認された。よって、細胞へのUB−SAG1ベクター導入により発現したSAG−1蛋白質はプロテアソーム依存的に分解されており、ユビキチン−プロテアソーム経路を介する分解を示唆するものである。
【0023】
実施例6
本実施例において、ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子(フュージョンDNA)によるDNAワクチンの効果を調べた。
BALB/cマウスにEmpty vector、Ub−fusion form、Secretion form、Basic form SAG−1ベクターを4回免疫後、最終免疫の2週間後、トキソプラズマ原虫株(RH)株の致死量感染を生存率を指標に行った。
その結果を図3に示すが、Ub−fusion form SAG−1ベクターをマウスに導入した群において顕著な感染抵抗性が確認された。これにより、Ub結合型ワクチンの有効性が示唆された。
【0024】
実施例7
本実施例において、ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子によるDNAワクチンがサイトカイン産生に及ぼす影響を調べた。
BALB/cマウスにEmpty vector、Ub−fusion form、Secretion form、Basic form SAG−1ベクターを4回免疫後、最終免疫の2週間後の脾細胞を回収し、SAG−1特異的なサイトカイン産生能についてELISA法を用いて解析を行った。
その結果を図4に示すが、Th1型(細胞性免疫)型サイトカインであるインターフェロンγの産生が見られ、Th1型(細胞性免疫)型の免疫応答が誘導されていることが示唆された。
【0025】
実施例8
本実施例において、ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子によるDNAワクチンが抗体産生に及ぼす影響を調べた。
BALB/cマウスにEmpty vector、Ub−fusion form、Secretion form、Basic form SAG−1ベクターを免疫し、2回免疫後、4回免疫後の血清を経時的に回収し、血清中のSAG−1特異的抗体価についてELISA法を用いて解析した。
その結果を図5に示すが、4回免疫後血清中では高いSAG−1特異的抗体価が誘導できており、免疫により正常に免疫応答が誘導されたことが示唆された。
【0026】
実施例9
本実施例においてユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子を細胞内にtransfectすることより、細胞内でポリユビキチン化されたSAG−1蛋白質が合成されることを確認した。
アカゲザル腎由来細胞COS7細胞にEmpty vector、Ub−fusion form、Secretion form、Basic form SAG−1ベクターをトランスフェクトし、48時間培養後、細胞を溶解し、溶解液を抗SAG−1抗体を用いて免疫沈降を行い、抗ユビキチン抗体を用いて、ウエスタンブロット法により確認を行った。
その結果を図6に示すが、Ub−fusion form SAG−1ベクター導入群においてのみポリユビキチン化を示すラダー様の蛋白質が検出された。よって、ユビキチン結合型ベクター導入において、細胞内でユビキチン化が起こっていることが示唆された。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、結核菌、マラリア原虫、トキソプラズマ原虫等の細胞内寄生原虫に由来する遺伝子等と、ユビキチン遺伝子との融合遺伝子を構築し、各々の感染宿主に対する遺伝子ワクチンを用い、その遺伝子産物であるユビキチン化された病原体抗原がプロテアソームでプロセッシングを受けることにより、その病原体に特異的なCD8T細胞を強力に誘導するフュージョンDNAワクチンを得ることができる。
リコンビナント蛋白質ワクチンでは、細胞内寄生病原体の排除に必須の関わりを持つCD8T細胞を中心とした細胞性免疫の誘導が非常に困難である。また、リコンビナント蛋白質ワクチンは、複数回投与ではアナフィラキシー等の重篤な副作用を惹起する危険性があるが、本DNAワクチンではその危険性が少なく、安全性に優れる。
【0028】
また、リコンビナント蛋白質ワクチンは、精製が容易ではないため高価にならざるを得ないが、DNAワクチンは、精製も容易で安価であるため、上記の病原体による感染症が深刻な発展途上国においても使用が比較的容易である。
更に、遺伝子治療は多くの場合ウィルスベクターを用いるが、この場合、ベクターのウィルスに対する中和抗体やアナフィラキシーを惹起するIgE抗体が産生されるため無効あるいは使用不可能となる。本DNAワクチンではnakedDNAを用い、ウィルスベクターは用いないためこの様な障害は生じない。
本発明により発現される蛋白は大腸菌で合成されるリコンビナント蛋白と異なり、発現蛋白への糖鎖の付加が起こり、本来の蛋白構造が保たれ、目的とする蛋白が少量かつ持続的に一定期間供給されるため安全性が高く、連日投与の必要がなく、かつ効果的である。
本遺伝子ワクチンに用いる遺伝子は、全てnaked DNAであり、ウィルスベクターを用いる必要がないため、遺伝子銃を用いた遺伝子治療、DNAワクチンでは、生体への反復投与が容易かつ安全に行うことができる。しかも、遺伝子の構築が容易で、しかもウィルスベクターの強毒化による感染の危険性が極めて少ない。また、genomic DNA内にインテグレーションされる可能性が非常に低い。
【図面の簡単な説明】
【図1】DNAワクチンによるキラーT細胞の活性化を示すグラフ。
【図2】SAG−1特異的なキラー細胞活性化効果がユビキチンプロテアソーム系を介してであることをプロテアソーム阻害剤を使用して証明したグラフ。
【図3】ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子(フュージョンDNA)によるDNAワクチンの効果を示すグラフ。
【図4】ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子によるDNAワクチンがサイトカイン産生に及ぼす影響を示すグラフ。
【図5】ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子との癒合遺伝子によるDNAワクチンが抗体産生に及ぼす影響を示すグラフ。
【図6】ユビキチン遺伝子とSAG−1遺伝子を細胞内にtransfectすることのより、細胞内でポリユビキチン化されたSAG−1蛋白質が合成されることを証明したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内寄生病原体由来の遺伝子とユビキチン遺伝子とを結合した遺伝子を含有することを特徴とする遺伝子ワクチン。
【請求項2】
細胞内寄生病原体由来の遺伝子が、結核菌由来のMPB51、MDP1、Ag85A、Ag85B、HSP65、Mtb72f遺伝子、マラリア原虫由来のMSP−1遺伝子、トキソプラズマ原虫由来のSAG−1遺伝子、クルーズトリパノソーマ原虫由来のTSA遺伝子、HIV関連遺伝子、サイトメガロウイルス関連遺伝子から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子ワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−151813(P2006−151813A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−23507(P2003−23507)
【出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(800000035)株式会社産学連携機構九州 (34)
【Fターム(参考)】