説明

細胞内移行性速度を測定することによる機能性物質のスクリーニング法

【課題】細胞膜から細胞内への移動速度を測定することによって細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質をスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】検出可能な標識物質で標識された被検物質を、細胞膜上に蛋白質を有する細胞に接触させる工程、及び該細胞の細胞質内における標識物質を経時的に測定することによって細胞質内における被検物質を経時的に測定する工程を含む、細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表面上の蛋白質に対して結合する分子種の細胞内移行を速度論的に分析することによって、有効な分子をスクリーニングする方法に関するものである。本発明の方法により選択された分子は、細胞膜上の蛋白質に結合する本来の生体成分の効果を阻害又は促進する効果が期待され、疾患の治療用の候補分子として選別することができる。
【背景技術】
【0002】
創薬の過程では種々の生物学的標的、例えば、受容体、酵素、シグナル伝達蛋白質などに対する作用について化合物のテストを日常的に行っている。こうした化合物は、化合物の種類が数十万から百万程度の大きなライブラリとして収集されている。
【0003】
低分子化合物がこれまで治療用薬物の主役であったが、現在多くの蛋白質薬剤が登場し、その生理活性の特異性から有用な新薬創生に結びついている。現在、薬の発見と共に、生物学的に適切な細胞アッセイを高い処理能力で実施することができる迅速で強力な方法の開発が望まれている。特に、創薬の種となる蛋白質や化合物の生物活性および新規な生物学的標的に対する作用メカニズムの推定には、細胞を利用したアッセイが不可欠である。
【0004】
細胞は多くの受容体分子をその表面膜状に発現し、受容体特異的に反応する分子であるリガンドが結合することによりその受容体の機能に応じたシグナルを細胞内に伝える。受容体分子は蛋白質でありそれ自身を精製または、遺伝子組み換え技術により作製することで純品を得ることができる。精製品を用いてリガンド−受容体反応を試験管内(インビトロ)で再現することによりその結合反応を生体分子さながら再現することが可能である。
【0005】
多くの場合、上記の生体を模した系を用いて大量の医薬品候補をスクリーニングすることが広く製薬企業にて行われている。得られた候補医薬品はその後実際に生きた細胞にて受容体の効果を促進する、または阻害する効果を有しているかどうかを検証する過程を経てその効果が確かめられる。近年、この生体内を模倣したステップを経ずに直接生細胞を用いて大量の医薬品候補をスクリーニングする試みが始まっている。実際には、96ウェルまたは384ウェルプレートに生きた細胞を撒き、その中にリガンドに相当する分子に蛍光標識したものを加え、同時に医薬品候補を存在させることにより生細胞の形態変化や蛍光標識したリガンド分子が細胞に結合することを阻害するかまたは促進するかどうかを反応時間の終点を決めたアッセイにて評価している。
【0006】
細胞表面に存在する蛋白質のうち、その蛋白質に物質が結合するにより細胞表面から細胞内部へ移行するものが知られている。その多くは受容体であるがリガンド物質が結合することにより細胞表面から細胞内部への移行が促進されるもの、リガンド物質の結合に依存せず定常的に細胞表面から細胞内部への移行が起こるものが存在する。前者の代表例として、トランスフェリン、低密度リポ蛋白(LDL)、上皮細胞増殖因子の各受容体が良く知られているが、本来の受容体に対する結合分子ではないものが受容体に結合した場合、その細胞内移行は本来の受容体に対する結合分子が結合した場合に比べ挙動がどうなるかは全くわかっていない。
【0007】
化学物ライブラリのスクリーニングの多くは、インビトロ(試験管内で)のアッセイ法により行われている。このようなアッセイ法は、ひとたび構築されれば、高感度で再現性よく実施できる。シンチレーション近接法、蛍光偏光法と時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法(FRET)、表面プラズモン共鳴分光法などの技術により、リガンド−受容体結合、プロテインキナーゼ活性などの種々の生化学的過程のスクリーニングを大規模に行うことが可能になっている。インビトロ・アッセイ法は薬理および構造活性相関の研究における最も基準になる方法であるが、インビトロ・アッセイ法では、ヒットした化合物の生物学的な利用能もしくは活性についての情報は得られないという欠点があった。
【0008】
HCS(ハイコンテント・スクリーニング)は、細胞の画像に基づく解析を利用して、細胞過程の刺激もしくは阻害剤への反応による蛋白質の細胞内配置および再分布を検出する生細胞使用のアッセイ法である(特許文献1)。しかしながら、その検出子の測定には量的な測定のみを終点として測定するだけであり、速度論的概念は乏しいものである。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,989,835号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したHCSに時間概念を加味し、終点を設定せずその経過を速度論的にモニターすることによって、生細胞の動的パラメータを測定することができれば、創薬候補の発見に応用できることが期待されていた。本発明は、細胞膜から細胞内への移動速度を測定することによって細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質をスクリーニングする方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、検出可能な標識物質で標識された被検物質を細胞に接触させ、細胞質内における標識物質を経時的に測定することによって、細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質をスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、検出可能な標識物質で標識された被検物質を、細胞膜上に蛋白質を有する細胞に接触させる工程、及び該細胞の細胞質内における標識物質を経時的に測定することによって細胞質内における被検物質を経時的に測定する工程を含む、細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質のスクリーニング方法が提供される。
【0013】
好ましくは、細胞質内における被検物質を経時的に測定することによって、被検物質が細胞膜から細胞質に移行する速度を測定する。
好ましくは、上記細胞膜上の蛋白質は、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質、受容体、受容体の一部であって細胞外部分の切断後細胞表面に残存する蛋白質、細胞間の蛋白−蛋白相互作用による細胞間シグナル伝達を担う蛋白質、細胞膜上の酵素、細胞表面チャネル、細胞表面トランスポーター、細胞膜結合抗体、及び上記と複合体を形成する蛋白質からなる群から選ばれる蛋白質である。
【0014】
好ましくは、上記被検物質は、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質ペア、受容体に相互作用するリガンド分子、受容体に相互作用する薬物、細胞膜上に存在する蛋白質に対し相互作用するランダムな配列から選択された蛋白質又はペプチド、細胞間の蛋白−蛋白によるシグナル伝達蛋白質、核酸、細胞膜酵素基質、抗体、抗原、及び細胞膜上に存在する蛋白質と相互作用する機能未知の化合物からなる群から選ばれる物質である。
好ましくは、上記検出可能な標識物質は、(i)蛍光化合物、(ii)蛍光蛋白質、(iii) 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法のための標識物質、(iv)ラジオアイソトープ標識物質、又は(v)バイオルミネセンス、化学発光、リン光、又は酵素発色による検出が可能な標識物質である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞膜に存在する蛋白質と相互作用する被検物質(薬物を含む化合物や蛋白質、ペプチド等)に検出可能な標識物質を付加することによって、当該被検物質の細胞膜から細胞内への移動速度を測定することが可能になり、これにより、細胞膜に存在する蛋白質と相互作用する物質に比べて細胞内移動速度の異なる物質をスクリーニングすることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の方法は、米国特許第6,511,967号に開示されているような受容体−リガンドのイメージング技術をさらに応用したものであり、米国特許第6,511,967号に記載された内容は全て引用により本明細書中に含まれるものとする。また、米国特許第5,989,835号に開示されているような既存のハイコンテント計測器およびソフトウェアを含む生理活性物質の発見のための種々の既存の自動化システムと併せて用いることができる。
【0017】
[細胞膜上に存在する蛋白質]
本発明では、検出可能な標識物質で標識された被検物質を、細胞膜上に蛋白質を有する細胞に接触させる。ここで、細胞膜上の蛋白質としては、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質、受容体、受容体の一部であって細胞外部分の切断後細胞表面に残存する蛋白質、細胞間の蛋白−蛋白相互作用による細胞間シグナル伝達を担う蛋白質、細胞膜上の酵素、細胞表面チャネル、細胞表面トランスポーター、細胞膜結合抗体、及び上記と複合体を形成する蛋白質などを挙げることができる。これらのうち好ましくは、ジフテリア毒素、緑膿菌毒素、コレラ毒素、リシン、コンカナバリンA、トランスフェリン、低密度リポ蛋白(LDL)、卵黄蛋白、イムノグロブリンE、イムノグロブリンA重合体、イムノグロブリンG、インスリン、上皮細胞増殖因子、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、神経成長因子、カルシトニン、グルカゴン、プロラクチン、黄体ホルモン、血小板由来増殖因子、インターフェロン、カテコールアミン、ならびに、これらのドメイン、断片もしくは相同物からなる群から選ばれるものが好ましく、最も好ましくはトランスフェリン、上皮細胞増殖因子である。
【0018】
[被検物質]
スクリーニングすべき被検物質としては、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質ペア、受容体に相互作用するリガンド分子、受容体に相互作用する薬物、細胞膜上に存在する蛋白質に対し相互作用するランダムな配列から選択された蛋白質又はペプチド、細胞間の蛋白−蛋白によるシグナル伝達蛋白質、核酸、細胞膜酵素基質、抗体、抗原、及び細胞膜上に存在する蛋白質と相互作用する機能未知の化合物などを挙げることができる。蛋白質やペプチドであればその断片や誘導体、アミノ配列乃至修飾の異なる蛋白質やペプチド、合成ペプチド、合成オリゴヌクレオチド、DNA増幅物、小型干渉性RNA(small interfering RNA)、細胞膜上に存在する蛋白質に対し相互作用することが既知または未知の合成または天然の既知または未知の機能を有する化合物などを用いることができる。化合物という用語は、広義に解釈して使用するよう意図されており、このため、例えば、単純な有機および無機分子、蛋白質、ペプチド、抗体、核酸とオリゴヌクレオチド、炭水化物、脂質、もしくは生物学的に重要な任意の化学物が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、化学物ライブラリという用語も、広義に解釈して使用するよう意図されており、例えば、分子のコレクションが含まれるが、これに限定されるものではない。本発明の方法に用いられる被検物質としては、受容体アゴニスト、受容体アンタゴニスト、受容体分解阻害剤が好ましい。
【0019】
[検出可能な標識物質]
本発明で用いる被検物質は、検出可能な標識物質で標識されている。検出可能な標識物質とは、(i)蛍光化合物、(ii)蛍光蛋白質、(iii) 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法のための標識物質、(iv)ラジオアイソトープ標識物質、又は(v)バイオルミネセンス、化学発光、リン光、又は酵素発色による検出が可能な標識物質などを挙げることができる。好ましくは、蛍光化合物、酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、リン光性蛋白質などを用いることができ、さらに好ましくは、蛍光、バイオルミネセンス、化学発光、又はリン光により検出可能な物質である。
【0020】
細胞スクリーニング法は、細胞可溶化物を分析する準生化学的な方法、もしくは生細胞アッセイ法の2群に大別することができる。本発明では、主として細胞全体を用いるアッセイに焦点を当てている。細胞全体を用いるアッセイ方法は、アッセイの原理によって異なるが、大部分は共通して発光もしくは蛍光の検出様式を採るため発光または蛍光が好ましい。発光とは、エネルギーが特異的に分子に誘導されて励起状態を生じる現象である。発光には、蛍光、リン光、化学発光および生物発光が含まれる。但し、本発明による検出子は上記発光以外にもイメージ取得が可能な検出子であれば利用可能であるため発光に限定するものではない。
【0021】
化合物に対する蛍光標識を行うための物質は数多く知られているが、特に蛋白質に対する蛍光標識試薬は蛍光化合物がフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド(Texas Red)、BODIPYR、シアニン(Cyanine)系化合物、Alexa fluorRが広く使用され、GEヘルスケア社、ピアース(PIERCE)社、インビトロゲン・モレキュラー・プローブズ(Invitrogen Molecular Probes)社などの販売元から広く入手することができる。また、蛍光蛋白質も増加の一途をたどっているが、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)由来のGFPおよびそのスペクトル変異体が代表として挙げられ、広く用いられている。これらの蛍光蛋白質は、シグナルの発生に外来性の基質もしくは補因子を何ら必要としないという利点を有するが、内在性蛍光体の励起のために外部の放射線源を必要とする。さらに、広範囲の蛍光レポータ蛋白質をコードする遺伝子が入手しやすくなって、特定の用途、細胞種および検出系のためにカスタマイズされたアッセイ法の構築が可能になっている。
【0022】
[標識物質(被検物質)を経時的に測定]
標識物質(被検物質)を経時的に測定とは細胞質内に取り込まれた標識物質(被検物質)を単位時間ごとに検出することをいう。具体的な測定方法は下述する。
【0023】
[測定方法]
上述のように、本発明の方法は、米国特許第6,511,967号に開示されているような受容体−リガンドのイメージング技術をさらに応用したものである。本発明は、細胞の複数の情報をイメージデータを採取することで同時に解析する、いわゆるハイコンテント・スクリーニング(HCS)のための細胞表面蛋白質−化合物の結合後の細胞内部への移動速度を測定することによりモニターするアッセイ法である。
【0024】
本発明のスクリーニング方法は、生細胞、固定細胞、もしくは、細胞溶解液を用いて実施されることが好ましく、スクリーニングのシグナルの細胞内分布、および前記スクリーニングのシグナルの強度を物質の被検物質の標識によって発生する検出可能なシグナルを光学的かつ定量的、経時的に測定されることを特徴とする。このシグナルは自動化された計測により検出されることが好ましい。
【0025】
本発明者らは、これまでにイメージング法を用いて終点を定めた細胞表面上の蛋白質に対し結合する分子種の細胞内移行を確認してきた。一方、その過程で細胞表面上の蛋白質に対し結合する分子種のうち、細胞内への移行速度を経時的な観察により測定できることを見出した。
【0026】
本発明者においては、上述の既存スクリーニング法に速度論の概念と細胞内移行する事象を入れることにより、より複雑な反応系をスクリーニング可能な方法を提供することが可能になった。受容体のリガンドには蛋白質であるものも知られている。またその結合物が細胞表面から細胞内部へ移行する例も知られている。例えば、トランスフェリンという蛋白質は血液中の鉄イオンを運搬する役目を担う糖蛋白質として知られ、三価鉄イオン(Fe(III))を2つ結合する構造を有する。鉄イオンで飽和されたトランスフェリン(ホロトランスフェリン)が細胞表面のトランスフェリン受容体に出会うと、まず受容体との結合が生じ続いて細胞内部に小胞体として取り込まれる。細胞内部は酸性であるので、トランスフェリンは鉄イオンを遊離させ細胞に鉄イオンを供給している。その後、役目を終えたトランスフェリン受容体は再び細胞表面に戻り、新たなトランスフェリンを取り込む役目を果たすため再利用されることが知られている。一般に癌細胞は多くの新生血管を作り出すが、そのために細胞表面にはトランスフェリン受容体が数多く存在することが知られている。トランスフェリンをリガンドとして用いたスクリーニング系を組むことにより癌細胞に鉄を運ばせないための物質をスクリーニングすることができる。その際トランスフェリンが細胞膜上の受容体に結合させない物質をスクリーニングする系が考えられる。
【0027】
上記以外にも、一旦細胞内に入ったトランスフェリン−トランスフェリン受容体が細胞内に移行することを阻害する物質をスクリーニングする系、更には再利用され細胞表面に戻るための移動を疎外する物質をスクリーニングする系もその測定する経時反応をどこに設定するかを変えることで測定可能となる。
【0028】
免疫組織化学および免疫細胞化学のこうした広範囲の技術は、まるごとの細胞(whole cell)に対して適用することができる。発光、蛍光もしくは生物発光シグナルは、蛍光マルチウェルプレート・リーダ、蛍光細胞分析分離装置(FACS)、およびシグナルの空間分解能を有する細胞利用の自動イメージングシステムを含む種々の自動および/または高性能計測システムのうちの任意のシステムを用いて容易に検出および定量することができる。セロミクス社(Cellomics)、GEヘルスケア社、TTP社、Q3DM社、エボテック社(Evotec)、ユニバーサル・イメージング社(Universal Imaging)およびツァイス社(Zeiss)により開発された自動蛍光イメージングおよび自動顕微鏡システムなど、HCSを自動化するための種々の計測システムが開発されている。また、生細胞内の蛋白質の移動を検討するのに、光退色後蛍光回復法(FRAP)および経時的蛍光顕微鏡法(time lapse fluorescence microscopy)が用いられている。光退色後蛍光回復法(FRAP)および経時的蛍光顕微鏡法(time lapse fluorescence microscopy)は処理能力が低いため多検体のスクリーニングには向かないため、このうち好ましくは、蛍光分光法、発光分光法、蛍光励起細胞分析法、螢光励起細胞分離法、自動化された顕微鏡法、もしくは、自動化されたイメージング法(automated imaging)である。
【0029】
光学的計測法およびハードウェアはあらゆる生物発光シグナルを高感度、高性能で検出することができるまで進歩した。これを利用して、例えば、リガンドその他の検出子は、フルオレセインもしくは別の蛍光体で直接標識することにより細胞表面の蛋白質への結合を検出することができ、シグナルを直接的に検出しその細胞内での位置までも確認することができる。
【0030】
本発明の方法においては、細胞の形態を認識させた上で細胞内の領域がどこであるかの位置決めが正確に行われている必要があるが、これらの位置決めにおいてもセロミクス社(Cellomics)、GEヘルスケア社、TTP社、Q3DM社、エボテック社(Evotec)、ユニバーサル・イメージング社(Universal Imaging)およびツァイス社(Zeiss)により開発された自動蛍光イメージングおよび自動顕微鏡システムなど、HCSとしての自動化計測システムが利用可能である。
【0031】
本発明の方法においては、HCSを用い細胞の形態を認識させた上で細胞膜から細胞内移行する受容体−受容体結合分子の速度をモニターすることにより細胞内への取り込みを経時的に測定する。
【0032】
本発明のスクリーニングは、マルチウェルフォーマット、マイクロタイター・プレート、マルチスポットフォーマットもしくはアレイを用いて実施されることが好ましい。また、ベータカウンター、ガンマカウンターによるカウント測定により実施されることが好ましい。
【0033】
本発明は、機能性物質の発見のための、特に細胞膜から細胞内への移行速度に特徴を有する物質を同定するための機能性物質のスクリーニング法である。適切な細胞膜蛋白質と相互作用する薬物を含む化合物や蛋白質またはその改変蛋白質、ランダムな配列から選択され細胞膜蛋白質と相互作用する蛋白質やペプチド、ランダムな化合物から選択された細胞膜蛋白質と相互作用するものについて、細胞膜から細胞内への移動速度を測定することによって、相互作用する物質に比べ細胞内移動速度の異なる物質をスクリーニングすることができる。この相互作用するペアは、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質ペア、受容体とリガンドまたは受容体に相互作用する薬物、もしくは適切な細胞膜蛋白質に対し相互作用するランダムな配列から選択された蛋白質およびペプチド、適切な細胞膜蛋白質と相互作用する機能未知の化合物より選択することができる。本明細書に記載した方法は蛍光標識蛋白質スクリーニング法であるが、その応用として発光やラジオアイソトープ標識などによる検出子によるスクリーニング法も構築することができる。
【0034】
スクリーニングにより得られた蛋白質または化合物のうち、例えば完全な抗体のような適切に細胞膜蛋白質と相互作用する標準物質に比べ細胞内移動速度がより遅い物質は細胞膜に局在し続け細胞内での分解から逃れられるため細胞膜上での効果が期待できる。例えばスクリーニングにより得られた蛋白質または化合物に抗原性を有する蛋白質や抗原性を有する化合物を付加することで生体内の免疫機構に認識されやすくなり、結合した細胞を選択的に識別し生体が除去するマーカーとして利用できる。また、相互作用する標準となる物質に比べ細胞内移動速度がより速い蛋白質は効果的に細胞内に入るため、蛋白質や化合物を付加することで細胞内への効率の良いキャリアーとして利用可能となる。例えば、相互作用する標準となる物質に比べ細胞内移動速度がより速い物質に細胞膜から細胞内に入って初めて活性化する抗癌剤を付加することで標準となる物質より高い細胞殺傷効果を得ること、細胞膜より更に核に近い位置にまで高効率で到達することを利用してラジオアイソトープで標識することによりDNA切断を効率よく起こすことを利用して細胞殺傷効果を増強することが可能となる。このように細胞膜から細胞内への移行速度に特徴を有する物質のスクリーニング法を構築する方法について説明する。これにより機能物質の発見に対する生物学的に新しい知見、基盤が得られる。
【0035】
以下の実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:
上皮細胞増殖因子受容体を多数細胞表面に発現していることで知られるヒト扁平上皮癌細胞株A431細胞を15,000個/ウェルにて96ウェルプレートに播種し37℃、5%炭酸ガスを供給したインキュベーター内で、MEM・E培地に非必須アミノ酸(NEAA)溶液1%およびウシ胎児血清10%(いずれもインビトロゲン・ギブコ(Invitrogen GIBCO)社)を添加した培地200μLの存在下で一晩培養した。翌日細胞をリン酸緩衝液(ダルベッコ、以下、D−PBS(pH7.4)と記載)にて2回洗浄し、HoechstTM33342((株)同仁化学研究所)2μMとLavaCellTM(Active Motif社)2μMにて5%炭酸ガスを供給したインキュベーター内で37℃、30分染色した。
【0037】
HoechstTM33342は生細胞にて核を染色し細胞の数を測定するためのものである。LavaCellTMは細胞膜および細胞質中に存在する小胞体やゴルジ体、核膜等を染め細胞全体を認識するために用いた。
【0038】
上記細胞を、FreeStyle293(Invitrogen GIBCO)培養液にて2回洗浄後、同メディウム中に40nMの上皮細胞成長因子受容体に対する蛍光標識したモノクローナル抗体C528(LabVisionより購入)、ならびにC528より蛋白分解酵素ペプシンにより切断し精製したF(ab’)2を加え、30、60、180、300分間5%炭酸ガスを供給したインキュベーター内で37℃保温後FreeStyle293培養液にて2回洗浄後新しいFreeStyle293培養液を加え蛍光強度を測定した。
【0039】
上記で用いたモノクローナル抗体C528ならびにC528より蛋白分解酵素ペプシンにより切断し精製したF(ab’)2は、ALEXA FULORTMマイクロスケールプロテイン標識キットを用いALEXA−488にて標識した。1分子当たりのALEXA−488標識分子数はそれぞれ、7.21、7.95、5.11であった。
【0040】
IN Cell Analyzer 1000(GEヘルスケア社)を用い、上記経過時間による各蛍光色素をイメージングデータとして取得した。HoechstTM3342の蛍光測定は、励起波長360±40nm−測定波長460±40nm、ALEXA−488の蛍光測定は、励起波長480±40nm−測定波長535±50nm、LavaCellTMの蛍光測定は、励起波長480±40nm−測定波長620で行った。蛍光標識による細胞染色結果の一部でHoechstTM3342、C528−ALEXA−488標識物、LavaCellTMでの染色像、その透過光イメージの微分干渉像およびそれらの重ね合わせ画像(全て40X)の経時的なイメージを代表例として図1に示す。
【0041】
数値化定量は、細胞形態をLavaCellTM染色像にて機械認識させ、その領域内部を細胞質と考え、その領域内に存在するALEXA−488由来の顆粒(Granule)蛍光を機械認識させ染色強度を数値化後HoechstTM3342染色による球形の染色像を1個の細胞と数えその細胞数で除した。一連の計算は機器添付のDeveloper Toolsソフトウェアにより自動化した計算を行うためのバッチ処理により行なった。
【0042】
30、60、180、300分後の蛍光染色抗体による細胞内顆粒蛍光強度シグナルを数値化し、C528−ALEXA−488標識の1分子当たりのALEXA−488標識分子数7.95を基準としてC528より蛋白分解酵素ペプシンにより切断し精製したF(ab’)2の蛍光強度をその比蛍光分子数で補正したグラフおよびその一次回帰直線を図2に示した。
【0043】
C528ならびにC528由来F(ab’)2が細胞表面上の上皮細胞増殖因子受容体に結合後、細胞内移行した顆粒の形成速度は図2よりC528由来F(ab’)2>C528の順に速いことが測定された。蛍光強度値(RLU)は機器に依存するため、絶対比較可能な値ではないが細胞内移行した顆粒の形成速度は図2の傾きからC528が122.3RLU/分、C528由来F(ab‘)2が183.2RLU/分となった。これにより細胞内への効率の良い抗体送達のためには、C528は優れており、その切断物であるC528由来F(ab’)2が更に優れていることがスクリーニングにより選別された。
【0044】
図1および図2の結果から、細胞内移行する細胞表面の蛋白質に結合し、細胞内移行する可能性のある分子群を検出子により標識し、生細胞を用いた細胞内移行速度をイメージングにより測定し移行速度を算出することができた。すなわち移行速度はC528<C528由来F(ab‘)2の順に早くなる。得られた細胞表面の蛋白質に結合し、細胞内移行する分子のうち移行速度が速いもの、遅いものを選別しその移動速度の差から生理活性を有する候補分子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、A431細胞を用いたHoechstTM3342による核染色イメージ、ALEXA−488標識C528による細胞内染色イメージ、LavaCellTMによる細胞全体にわたる染色イメージ、透過光イメージの微分干渉像を40nMのALEXA−488標識C528の存在下30、60、180、300分間それぞれで40倍画像イメージを採取した結果を示す。
【図2】図2は、A431細胞を用いたC528、C528由来F(ab’)2の細胞内顆粒として存在するALEXA−488標識シグナルの数値化データを、それぞれ40nMのALEXA−488標識C528の存在時間の違いにより30、60、180、300分間測定し、縦軸に細胞1個当たりの蛍光強度数値、横軸に処理時間をプロットしたグラフを示す。C528由来F(ab’)2の蛍光強度はC528の1分子当たりの蛍光分子標識数に合わせるためC528の標識比を乗じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出可能な標識物質で標識された被検物質を、細胞膜上に蛋白質を有する細胞に接触させる工程、及び該細胞の細胞質内における標識物質を経時的に測定することによって細胞質内における被検物質を経時的に測定する工程を含む、細胞膜上に存在する蛋白質に対して相互作用する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
細胞質内における被検物質を経時的に測定することによって、被検物質が細胞膜から細胞質に移行する速度を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記細胞膜上の蛋白質が、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質、受容体、受容体の一部であって細胞外部分の切断後細胞表面に残存する蛋白質、細胞間の蛋白−蛋白相互作用による細胞間シグナル伝達を担う蛋白質、細胞膜上の酵素、細胞表面チャネル、細胞表面トランスポーター、細胞膜結合抗体、及び上記と複合体を形成する蛋白質からなる群から選ばれる蛋白質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記被検物質が、細胞−細胞間の結合に関与する蛋白質ペア、受容体に相互作用するリガンド分子、受容体に相互作用する薬物、細胞膜上に存在する蛋白質に対し相互作用するランダムな配列から選択された蛋白質又はペプチド、細胞間の蛋白−蛋白によるシグナル伝達蛋白質、核酸、細胞膜酵素基質、抗体、抗原、及び細胞膜上に存在する蛋白質と相互作用する機能未知の化合物からなる群から選ばれる物質である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
上記検出可能な標識物質が、(i)蛍光化合物、(ii)蛍光蛋白質、(iii) 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法のための標識物質、(iv)ラジオアイソトープ標識物質、又は(v)バイオルミネセンス、化学発光、リン光、又は酵素発色による検出が可能な標識物質である、請求項1から4の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−250652(P2009−250652A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95844(P2008−95844)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】