説明

細胞分離回収方法および細胞分離チップおよび細胞分離装置

【課題】細胞を標識し、その標識の度合いにより細胞分離装置を用いて細胞を分離回収するにあたり、細胞に与える影響を最小とし、回収した細胞の利用を容易とする。
【解決手段】細胞を標識するにあたり、細胞を各細胞のインタラクションを保持した状態で、標識する。標識にあたっては、目的細胞表面にあるトランスポーターを介して標識特定物質を細胞内に取り込み、その後、細胞を位置細胞ごとに分散させ細胞分離装置で分離する。分離後は直ちに、標識特定物質を含まない溶液に置換し、細胞に取り込まれた標識特定物質を除去する。この一連の行程を細胞分離チップで連続して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的細胞に損傷を与えることなしに簡便に目的細胞の分離を行うことを可能とする細胞分離回収方法および細胞分離チップおよび細胞分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は数多くの細胞から成り立っており、それらはお互い機能を分担し合っている。たとえば神経組織においては情報伝達を担う神経細胞すなわちニューロンと種々機能を有するグリア細胞、ニューロンから伸びていて信号を伝える軸索をさや状に取り巻くオリゴデンドロサイトなどからなる。たとえばニューロンの培養を行う場合は、ニューロンだけを分離回収することが必要になることがある。あるいは、上皮細胞のがん化に関して、がん細胞だけを分離する方法があれば、臨床検査の面で有用と考えられる。あるいは、培養細胞中の特定の状態、たとえば、S1からS4の各ステージにある細胞を分離できれば、細胞周期のそろった目的細胞を得ることができ、生命現象の研究に多大な可能性を提供するものと考えられる。
【0003】
このように、一般的に言って、特定の細胞を分離し回収することは生物学・医学的な分析において重要な技術である。分離技術としては、大きく分けると、以下のように分類できる。
(1)比重の違いで細胞を分離する方法、
(2)蛍光標識抗体で染色した情報あるいは目視の情報による方法、
(3)セルソーターによる方法。
【0004】
(1)の方法は、たとえば、精子細胞はX染色体を持つものと、Y染色体をもつ2種類があり、重篤な遺伝的疾病を持つ家系においては、男女産み分けのため、利用されることがある。精子細胞のわずかな比重の違いを用いて分離する場合には速度沈降法によって分離する。この技術は、汎用的ではあるが、比重をつける試薬に目的細胞が曝露されることと、遠心による高い加速度にさらされるため、通常の細胞内での遺伝子発現などの細胞の状態が変動してしまう可能性がある。さらに、分離に長時間を要するため、通常4℃程度の低温に長時間目的細胞をさらすことになる。
【0005】
(2)の方法は、未感作の免疫提示細胞と感作した免疫細胞とを見分けるような、細胞の比重の違いがほとんど無い場合に利用されるが、目視により目的細胞を1つ1つ分離する必要があり、分離に要する作業者の負担が大きい。さらに、目的細胞は蛍光標識抗体で染色されるため、目的細胞の状態が変動してしまう可能性がある。
【0006】
(3)の方法は、比重を用いずに細胞を分離する技術のひとつである。セルソーターは蛍光染色処理後の細胞を電荷を持たせた液滴中に1細胞単位で単離して滴下し、この液滴中における細胞の蛍光の有無、光散乱量の大小を基に、液滴が落下する過程で、落下方向に対して法平面方向に高電界を任意の方向に印加することで、液滴の落下方向を制御して、下部に置かれた複数の容器に分画して回収する技術である。この技術について詳しくは、非特許文献1に報告されている。この技術では、目的細胞に当てた光が目的細胞のサイズに依存して変化する前方散乱や細胞内部構造に依存して変化する側方散乱を測定したり、細胞表面に発現している表面抗原(一般にCDマーカとして知られている)を蛍光標識抗体で染色して検出することで目的細胞の種類を特定する方法がとられている。このため、抗体により目的細胞表面の抗原が不可逆的に攻撃され、目的細胞の状態が変動してしまう可能性がある。
【0007】
【非特許文献1】Kamarck,M.E, Methods Enzymol., 第151巻第150頁から165頁(1987年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術においては、分離の精度が不十分であるだけでなく、いずれの方法によっても、分離の工程あるいは検出の工程において試薬に目的細胞が曝露され、あるいは、蛍光標識抗体での染色のために、分離されるべき目的細胞が変質してしまうことが多い。分離した目的細胞を分析目的のみに利用する場合は、従来法による分離でも問題は少ない。しかし、分離した目的細胞を利用して細胞機能の研究をする場合や、目的細胞をさらに培養して利用したり、研究をする場合は、分離されるべき目的細胞が変質することは極力回避することが必要である。
【0009】
本発明は、分離された目的細胞の細胞内の状態がネイティブの細胞の状態を保存していると言えるような細胞分離回収方法および細胞分離チップおよび細胞分離装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、まず、分離したい目的細胞に存在するトランスポーターを通過する特定の物質で目的細胞を標識して、標識された目的細胞を光学的に認識できるようにする。次に、標識された目的細胞を含む試料をバッファ流により移動させ、移動中に光学的に認識された目的細胞に電界による力を作用させて、他の細胞から分離する。あるいは、認識された目的細胞以外の細胞に電界による力を作用させて、認識された目的細胞から分離する。次いで、分離したい目的細胞から、目的細胞に存在するトランスポーターを利用して細胞の標識に使用された特定の物質を除去する。
【0011】
すなわち、標識された目的細胞をバッファ流により移動させながら、光学的に認識して分離し、分離された目的細胞から、目的細胞に存在するトランスポーターを利用して細胞の標識に使用された特定の物質を除去する処理を一つの細胞分離チップにより処理できるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分離したい目的細胞は、認識のために、一度は特定の物質で標識されるけれども、この特定の物質は、目的細胞に存在するトランスポーターを介して導入され、分離後には、目的細胞外に排出される。したがって、標識のための特定の物質によって目的細胞が受けるダメージは極めて少ない。さらに、バッファ流により移動中に目的細胞が分離のために受ける機械力も極めて小さいか、あるいは機械力を受けないから、この面からのダメージも極めて少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の特徴とする目的細胞の標識にトランスポーターを用いることについて最初に説明する。
【0014】
トランスポーターとは、一般的には、グルタミン酸などのアミノ酸や、ジペプチドやトリペプチドなどのオリゴペプチドや種々低分子有機物が細胞膜を通過させて輸送するものである。表1には、本発明に適用して好適なトランスポーターの例を、細胞と標識に採用できる特定の物質について示す。各々、項目93にトランスポーター名、項目94に細胞膜のギャップを乗り越えて移動する基質、項目95にトランスポーターが発現している臓器ないし細胞を表す。
【0015】
【表1】

もちろん、全ての細胞において存在するトランスポーターが知られているわけではなく、ゲノム配列から予想されるオーファントランスポーターや、トランスポーターが未知あるいは、表2記載のアルギニンオリゴマーのように具体的なトランスポーターという概念のチャンネルを使わなくても細胞膜を乗り越えて細胞内外に移動する物質もある。たとえば、一般に脂溶性が高く細胞内に取り込まれるステロイドや薬剤、有機物などの膜通過輸送にかかわる機能を持つものが存在することが分かっていれば本発明は実施できる。すなわち、種々の蛍光分子などを細胞内に取り込み、さらに、細胞内から排除する機能を持つものが存在することが確認できれば、発明は実施できる。
【0016】
【表2】

目的細胞に存在するトランスポーターを通過させて特定の物質で目的細胞を標識するには、トランスポーターを通過する標識特定物質を含む溶液に所定時間暴露させることが必要である。しかし、目的細胞を分離した後に、トランスポーターを通過させて特定の物質を目的細胞から排除するために、標識特定物質を含まない溶液で所定時間培養することで、目的細胞に与えるダメージを少ない状態で目的細胞を分離できる。本発明により、細胞表面や細胞質のタンパク質や糖鎖などを傷つけることなく目的細胞を認識分離できる。
【0017】
図1は、本発明による細胞分離回収方法の処理工程の実施例を示す図である。
【0018】
ステップ1では、分離回収したい目的細胞を持つ組織断片を採取して、定法に従い培養液に入れて培養する。なお、対象の組織断片によっては培養前に15〜30分間のコンディショニングを行う場合もある。ここで、目的細胞内に取り込まれるべき特定物質の拡散の問題があるため、一般的には組織片の大きさは小さい方が良く、できれば、細胞が20層以内の薄い切片になっていることが望ましい。しかし、例えば、大腸組織切片に存在する上皮上部に存在する目的細胞を標識し、深部の細胞と分けるなどの目的にはむしろ厚めの断片でトランスポーターを介して標識を行う方が良い。この場合、上皮上部と反対側の細胞部分は標識後、剃刀などで除去するのが良い。
【0019】
ステップ2では、目的細胞に発現しているであろうトランスポーターを用いて目的細胞内に取り込まれるべき特定物質を添加する。
【0020】
ここで特定物質とは、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの糖物質、グリシン、グルタミン酸、β−アミノ酪酸などのアミノ酸やジペプチドやトリペプチドなどのオリゴペプチド、各種薬剤、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどのことを言う。各特定物質は、検出がし易いように標識してある。標識には蛍光体を用いるが、特定物質の電荷に変化をきたさないようにすることが重要である。また、サイズがなるべく小さいものが適しており、6-(N-(7-nitrobenz-2-oxa-1.3-diazol-4-yl)誘導体や4,4-difluoro-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene誘導体などをもちいる。アミノ酸の標識には、電荷を変えないように、アミノ酸と蛍光体をつなぐリンカー部分を調整し、蛍光標識後に電荷の数が変化しないようにする。アミノ酸電荷を変えないで標識する方法には、たとえば、アミノ酸のアミノ基をイミドエステル類で修飾して標識物を導入すれば良い。イミドエステル類はpH8.5〜9でアミノ基と反応してイミドアミド、つまりアミジンになる。アミジン基は反応前のアミノ基を同様に生理的なpHではプロトン化しているため、トランスポーターを通過する場合の荷電ギャップの影響を受けずらい。
【0021】
ステップ3では、特定物質を添加された組織断片をトリプシンで処理して細胞の分散処理を行う。
【0022】
ステップ4では、分散された細胞を、通常15分間〜2時間インキュベートし、目的細胞内に標識特定物質を取り込ませる。この場合、ステップ4で行う目的細胞の分離回収の前に、標識特定物質を含まない培養液でリンスして余分な標識特定物質を除去すると再現性が良く、バックグランドノイズによる誤分離が少ないため、良い結果が得られる場合が多い。
【0023】
ステップ5では、目的細胞の分離回収を行う。この工程4に使う細胞分離チップおよび細胞分離装置に関しては後述する。分離は標識された画像が流体中を流下する過程で、光学的に認識され、一定蛍光強度以上の細胞を回収する形で行われる。このときの画像認識は点光源として細胞を認識しても良いが、より高度な分離には、画像で捕らえた細胞内の標識特定物質の分布状態を捉え、特定オルガネラに標識特定物質が集まったもののみを分離することもできる。例えば、ミトコンドリアに特定物質が濃縮された細胞のみを分離することができる。
【0024】
ステップ5では、異物となる標識物が目的細胞内に存在する細胞から、これを取り除くために、標識特定物質を含まない培養液でインキュベーションし、目的細胞内から標識特定物質を除去する。標識特定物質を除去は、トランスポーターを使い可逆的に排除される、ABCトランスポーターのような異物放出に関するトランスポーターを介して排除される、あるいは、リソソームで分解されたりする等が考えられる。
【0025】
本発明により得られる目的細胞は、従来から多用されているCDマーカーのように細胞に不可逆的に標識物が結合するのとは異なり、除去が可能なため、初期の目的細胞の状態を保持できるメリットがある。
【0026】
上記処理を、より具体的に説明する。
【0027】
採取された組織断片に蛍光標識した物質を10μMになるように添加し、37℃でインキュベートし、一定時間ごとに一部を取り出し定法に従い細胞を分散させ、後述する細胞分離装置で分離する。図2は細胞分離装置で蛍光強度が5000以上の細胞を分離したときの一般的な特性を示す図であり、約20分間で蛍光標識した物質の目的細胞への取り込みが一定になっていることが示唆される。もちろん、細胞断片の採り方や大きさ、状態によってこの時間は大きく変動する。当然のことながら、使用者が各自のサンプルでの条件の設定方法を決めることが必要なことは言うまでもない。
【0028】
次に、蛍光標識した物質が取り込まれる目的細胞と取り込まれない細胞の分離が可能かどうかを説明する。図3は蛍光標識した物質が目的細胞内に取り込まれたときの蛍光強度をヒストグラムで表した図である。横軸に蛍光強度、縦軸に細胞数を百分率で表している。一般的に、線21,22で示すように2つのグループが得られる。線21で示すグループは標識されていない細胞群、線22で示すグループは標識された目的細胞群と考えられる。
【0029】
次に、標識された線22で示す目的細胞群を蛍光標識した物質を含まない培養液で培養し続け、一定時間ごとに目的細胞を取りだし、例えば、蛍光強度が500以上の細胞を分離する。図4は横軸に細胞の培養時間、縦軸に分離された蛍光強度が500以上の細胞の数を取ったときのグラフである。このケースでは24時間で標識物が細胞内から90%除去された細胞が全細胞数の70%に達し、48時間でほぼ全ての細胞から標識物が除去されることがわかる。
【0030】
このように、本発明では、目的細胞に存在するトランスポーターを通過する物質を標識物に用いることで、目的細胞を分離した後に目的細胞を蛍光標識した物質を含まない培養液で培養することによって、元の状態(ネイティブな状態)に戻すことができる。このことは、分離した目的細胞を体内に戻すケースなどでは、異物が入り込まないので、重要なメリットとなる。また、細胞研究においても、細胞分離用の標識物を速やかに除去できることは、標識物の細胞にあたえる影響を最小にすることができるので、細胞生理の正確な把握研究に多大な貢献をすることができる。
【0031】
一般にトランスポーターに関しては、一種類の基質に関連して複数種のトランスポーターが存在し、細胞の種類や状態で使われるトランスポーターが異なると考えられる。したがって、トランスポーターの本来の基質である特異物質に蛍光体で修飾したり、基質そのものの側鎖を改変したりすることで、トランスポーターに対する特異性を改変することも可能である。このため、トランスポーターを使用して目的細胞を識別分離する本発明は、さまざまな細胞分化や細胞の活動状態で識別し分離するのに好適であるといえる。
【0032】
上述したように、本発明では、分離したい目的細胞のトランスポーターを用いて目的細胞内にトランスポーターを通過する特定の物質を添加し目的細胞内に特定物質を導入する工程と、上記細胞分離装置を用いて特定の物質を取り込んだ目的細胞を検出する工程と、上記細胞分離装置を用いて特定の物質を取り込んだ目的細胞を分離する工程で目的細胞を分離回収することで、傷みの少ない目的細胞を得ることができる。この場合、目的細胞内にトランスポーターを通過する特定の物質を添加し目的細胞内に特定物質を導入する工程は、目的細胞にあまり手を加えないで取ってきたそのままで行うのが、目的細胞をより自然の状態で標識できる効果がある。たとえば組織断片を細胞に分散させるために、トリプシンなどの酵素で処理すると、細胞を1個ずつに分散することができるが、この時点では、それまでに特定な形状を保っていた細胞が丸い状態になってしまい、場合によっては、その後の利用に支障をきたす場合がある。本発明では、このような場合は、組織断片の状態でトランスポーターを通過する標識特定物質を含む溶液に一定時間暴露させ、その後、細胞分散処理を行う順序とすることで、目的細胞をより正確に得られるように工夫されている。
【0033】
本発明においては、培養細胞についても同じであり、カルチャーフラスコなどの表面に1層細胞を培養した後、そのままの状態でトランスポーターを通過する標識特定物質を含む溶液で培養し、その後、トリプシンなどを用いて細胞を分散させ、分離回収する。従来法では、細胞を分散させた後に、細胞表面抗原を標識抗体を用いて標識していたが、これでは、細胞をトリプシン処理などしたあとの標識となるため、この操作により目的細胞が変性しても影響のない標識しか使えい。
【0034】
また、無理に細胞表面抗原を標識抗体で標識した後に細胞分散処理を行おうとしても、表面抗原を構成する分子集合体のタンパク質部分や標識抗体が分解されてしまうので、再現のよい状況を得ることができない。本発明では、目的細胞内に取り込まれる物質を標識物として用いるため、細胞分散処理前に標識処理しても、細胞分散処理時に従来法のように標識物が分解されたり除去されたりする心配がない。また、分散処理の前に標識を行うと、その後の操作で細胞状態が変動したとしても、標識した時点では従来の細胞の特性を保持した状態であるので、問題なく目的細胞を分離することができる。
【0035】
一般的にトランスポーターを介して標識物を目的細胞内に取り込ませるには一定の時間が必要となる。このため、目的細胞を含むであろう試料を目的細胞に存在するトランスポーターを通過する特定の物質を含む溶液で一定時間培養する培養工程を置くのが良い。これにより目的細胞をトランスポーターを通過する特定物質で標識することができる。上記培養工程が終了し、目的細胞内に標識識別用の特定物質を目的細胞内に取り込ませた細胞を分離した後、さらに分離した目的細胞を上記トランスポーターを通過する標識用特定物質を含まない溶液に一定時間曝露させる培養工程を追加することで、最終的に得られる目的細胞には、細胞機能に影響を与えるかもしれない標識用特定物質を含まないかあるいは影響の無い程度まで細胞内濃度を低減させた目的細胞を得ることができる。
【0036】
(細胞分離チップの実施例)
図5は、本発明の細胞分離のプロトコルを実施するのに好適な細胞分離チップの実施例を模式的に示す平面図である。図6は、図5のA−A,B−B,C−CおよびD−D位置で矢印の方向に見た断面図である。図6では、図が煩雑になるのを避けるために、断面位置近傍に見えるもののみを表示した。図7は、図5、図6で説明した細胞分離チップを複数個積載した細胞分離装置の1例を模式的に示す平面図である。
【0037】
100は細胞分離チップである。大きさは、ほぼ30mm×40mm程度である。50は基板であり、たとえば、厚さが1mm程度のPMMAなどのプラスチック素材によるモールド基板である。51は分離すべき目的細胞を含むバッファを注入されるすり鉢状の穴である。52および53はバッファを注入される穴である。穴51は底面部で0.1mmφ、上面部で5mmφとされる。穴52および53は基板50を貫通する形で形成され、およそ3mmφである。55,56および57は流路であり、一端が、前記穴51,52および53に開口している。流路55,56および57は、基板50の底面に形成され、およそ高さ50μm×幅100μmである。基板50の上面には穴51,52および53に一括してバッファを供給することができるバッファ貯留槽54が形成される。バッファ貯留槽54はおよそ高さ10mm×10mmφとする。
【0038】
流路55,56および57は、下流側で合流して流路59となる。流路59は、その一部が細胞監視領域60とされ、その下流側に細胞分離領域70が形成される。流路59は、流路55,56および57と同様、およそ高さ50μm×幅100μmである。細胞分離領域70では、流路59の両側に二つのゲル電極のゲルの開口部が対向して設けられる。それぞれの開口部は、流路59の流れの方向に対して、わずかながら、位置をずらして配置される。ゲル電極のゲルの開口部の背後には、ゲルを保持するスペース61,62が形成され、それぞれのスペースは、流路59とほぼ同じ高さとされ、ゲル供給穴65,66が設けられる。ゲル供給穴65,66は、およそ3mmφである。ゲルを保持するスペース61,62の一部には金属薄膜層63,64が蒸着され、この薄膜層は、基板50の底面から側面まで延伸されている。
【0039】
細胞分離領域70の下流部には回収すべき目的細胞の流路となる流路71と廃棄すべき細胞の流路となる流路72が設けられる。流路71,72は、流路55,56および57と同様、およそ高さ50μm×幅100μmである。ここでは、細胞監視領域60で、流下してくる細胞が目的の標識をされているものであると判別されたときは、流路59の両側の二つのゲル電極には電圧が印加されないものとし、流下してくる細胞が目的の標識をされていないものであると判別されたときは、流路59の両側の二つのゲル電極には、細胞が細胞分離領域70に達したとき、所定の電圧が印加されるものとする。このとき、二つのゲル電極の位置を流路59の流れの方向に対して、わずかながら、位置をずらして配置しておくことにより、二つのゲル電極により作用する電界によって細胞に作用する力の方向が、やや右上に向くようにすることができる。その結果、細胞が流下する方向の力と電界によって細胞に作用する力とが合成されて、細胞には右下方向に向かう力が作用することになり、この方向の位置に、廃棄すべき細胞の流路となる流路72が設けられることにより、容易に、廃棄すべき細胞を流路72に導くことができる。流下してくる細胞が目的の標識をされているものであると判別されたときは、流路59の両側の二つのゲル電極には電圧が印加されないから、流下してくる目的細胞は、そのまま、回収すべき細胞の流路となる流路71に流れる。
【0040】
流路72の他端は廃棄細胞回収穴73に連通する。廃棄細胞回収穴73はおよそ3mmφである。基板50の上面には回収穴73に連通するバッファ貯留槽74が形成される。バッファ貯留槽74は、バッファ貯留槽54と同様、およそ高さ10mm×10mmφとする。回収すべき目的細胞の流路となる流路71は透析部80に連結される。透析部80は、基板50の上面から底面まで連なり、かつ、折れ曲がった流路が形成される。折れ曲がった流路の末端は回収流路83に連通される。ここで、流路の幅を100μm、仕切りの幅を100μm、全体の大きさを10mm×10mmとすると、ほぼ、50cmの流路長が得られる。折れ曲がった流路の上面には多孔質のメンブレン(0.2μm)もしくは透析膜(分子量カット100000Da)を貼り付け、その上面に蛍光標識物質を含まない溶液を流下させるスペース82を形成する。スペース82の両端には、バッファ(蛍光標識物質を含まない溶液)を供給するバッファ貯留槽86とスペース82を流下してきたバッファを回収するバッファ貯留槽89とを設ける。透析部80の折れ曲がった流路を回収すべき目的細胞が流下するとき、蛍光標識物質を含まない溶液により、目的細胞に取り込まれた標識特定物質は除去される。蛍光標識物質を含まない溶液を十分に供給するために、貯留槽86には、図示しない貯留槽から蛍光標識物質を含まない溶液を補充し、貯留槽89から回収された蛍光標識物質を含まない溶液を排出するようにするのが良い。87は貯留槽86とスペース82を結ぶ流路、88はスペース82と貯留槽89を結ぶ流路である。これらの流路は基板50の上面に形成される。貯留槽86,89は中継用であるので、およそ高さ10mm×5mmφとする。
【0041】
なお、透析部80は基板50では切り欠きとしておいて、そこに、透析部80と多孔質のメンブレンもしくは透析膜81およびスペース82を別に一体化して製作し、嵌め込むものとしても良い。この方が、基板50をモールドで作成するには有利な面がある。
【0042】
回収流路83の他端はすり鉢状の穴85に連通する。基板50の上面には回収流路83を通して回収される目的細胞とともに、流下してくるバッファを回収するバッファ貯留槽84が形成される。バッファ貯留槽84はおよそ高さ10mm×10mmφとする。各種の貯留槽およびスペース82の壁は厚さが1mm程度である。
【0043】
図6から分かるように、基板50の底面には、PMMAなどのプラスチック薄膜58が貼り付けられて基板50の底面の流路を完成させる。一方、基板50の上面に各種の貯留槽およびスペース82の壁が形成されるが、これらも、PMMAのプラスチックで形成されたものが貼り付けられたものとされる。これらのPMMAのプラスチックはポリオレフィン系プラスチックとしても良い。また、多孔質のメンブレンはセルロース膜(分画分子量3万ドルトン)を過ヨウ素酸酸化して部分的にアルデヒド基を導入したものにアビジンを反応させハイドロボレーション反応で結合のシッフ塩基を還元安定化させたものを、ビオチン修飾したチップ表面にビオチンアビジン結合で貼り付けることで得ることができる。チップ表面のビオチン化は、プラスチック場合は表面を酸素プラズマで処理し、ラジカルを生成した後、直ちに二重結合残基を有するビオチン誘導体を含む溶液に浸して導入する。
【0044】
さらに、図7に示すように、細胞分離チップ100を多数併設した細胞分離装置300を構成して、トータルとしての細胞分離のスループットを上げることができる。ここで、91は、貯留槽86に蛍光標識物質を含まない溶液を補充するための配管であり、これが分岐されて、細胞分離チップ100の貯留槽86に蛍光標識物質を含まない溶液が補充される。また92は、貯留槽89から回収された蛍光標識物質を含まない溶液を排出するための配管であり、これが分岐されて、細胞分離チップ100の貯留槽89から溶液を排出する。また、細胞分離チップ100は、細胞分離装置300の表面に窪みをつけて設けられた細胞分離チップホルダ200の位置に挿入することで、チップを交換しても同じ位置にチップを設けることができる。さらに、細胞分離チップホルダ200の、細胞分離チップ100の延伸された金属薄膜層63,64に対応する位置に設けられた電極63,64を通してゲル電極に電圧を印加できるようにすれば、チップを交換しても電極を接続する手数はなくすることができる。もちろん、細胞分離チップ100に金属薄膜層63,64を設けるのをやめて、細胞分離装置300の表面の細胞分離チップ100に隣接する位置に接続用の端子を設けて、これを、ゲル供給穴65,66に挿入してゲル電極に電圧を印加できるようにしても良い。
【0045】
細胞分離チップ100を一つとして細胞分離装置を構成する、あるいは、複数の細胞分離チップ100を纏めて細胞分離装置を構成するにしろ、細胞監視領域60の流路を流れる細胞が収集すべき目的細胞か廃棄すべき細胞かを決定する光学系を設け、これの信号により、ゲル電極に電圧を印加することが必要である。
【0046】
図8は、細胞分離チップの細胞監視領域60に設ける光学系を説明する図である。図5−図8では光学系の表示を省略したが、流路59を流下する細胞を監視し、収集すべき目的細胞か廃棄すべき細胞かを決定するとともに、その流下速度を評価して、細胞分離領域70に着目した細胞が到達したときに、ゲル電極に電圧を印加し、あるいは電圧を印加しないかを制御する必要がある。光学系はこのために使用される。
【0047】
101は実体顕微鏡の光源であり、一般にハロゲン系のランプが用いられる。102は実体顕微鏡観察の光源101の光から特定の波長のもののみを透過させるバンドパスフィルタである。103はコンデンサレンズであり、位相差観察をする場合は位相差リングを導入し、微分干渉観察をする場合は、偏光子を導入する。100は細胞分離チップである。前記チップ100の細胞監視領域60の流路59の状態は、対物レンズ105で観察される。このとき対物レンズ105から観察されるのは、光源101から透過された光による流路59内の細胞の実体像と、光源108からの光をバンドパスフィルタ109で励起光波長のみをダイクロイックミラー106によって対物レンズ105から照射された励起光によって標識された目的細胞が発した蛍光像である。このとき、実体顕微鏡像観察に用いる光の波長は、観察する蛍光波長領域より十分短いか、あるいは十分長い波長であり、かつ、可能であれば励起光波長領域とも異なることが望ましい。
【0048】
前記バンドパスフィルタ102を透過するのと同波長の光を反射するダイクロイックミラー110およびバンドパスフィルタ112によって、流路内の実体顕微鏡像のみがカメラ113によって観察される。他方、蛍光像は、対物レンズ105を通過した光のうちミラー111およびバンドパスフィルタ114によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ115で観察される。2つのカメラ113と115で撮った像は、計算機116による画像処理において解析され、2つの像の相対位置関係を比較することで、細胞の微細構造と、蛍光の発光位置を比較同定することができる。この結果に応じて、計算機116は、ゲル電極に電圧を印加するか否か決定し、電圧を印加するときは、所定のタイミングで矢印に示すように電圧印加信号を送出する。なお、この例では、1つの波長帯域の実体像と、1つの波長帯域の蛍光像を観察して比較解析したが、同様に、2つ以上の波長帯域の実体像を比較しても良いし、2つ以上の蛍光像を比較解析してもよい。また、そのためには、さらに1個以上のダイクロイックミラーおよび、光源、あるいはカメラ観測系を光路中に上記と同様に配置すればよい。
【0049】
光学系にCCDカメラを使用する場合について、さらに詳しく説明する。この場合は、図8で説明したカメラ112,115は一つのカメラとされる。
【0050】
前提条件として、細胞は流路59を平均秒速1mmで移動しているとする。細胞は形状にもよるが、0.5秒に一回程度回転しながら流れるケースがあるとする。細胞の認識に10コマ必要とすると、50マイクロ秒間隔で細胞象を検出すれば細胞が回転していても細胞形状などを計測できる。よって、この条件では最低20コマ/秒で象を観察するシステムがあればよいことになる。同一コマに平均1個の細胞が入り込むとすると、20細胞/秒の細胞認識が可能となるが、ここでは余裕を持って200コマ/秒が撮影できるCCDカメラシステムを使用する。このため、実際には数万細胞/10分間程度の細胞認識と分離が可能となる。
【0051】
カメラは細胞監視領域60を撮像範囲とし、細胞監視領域60の流路59で、細胞分離領域70の上流0.5mmの位置で流路59に沿って100μmの領域を観察する。ここで観察された細胞は0.1秒後に細胞分離領域70に到達する。線速1mmで細胞が流れているので、観測領域を細胞が通過する間に20コマの細胞画像が取り込まれ、細胞形状と蛍光画像が観察される。
【0052】
カメラは、細胞が流れる方向に対し直角方向にカメラの走査線を操作し、細胞を画像として認識する。レンズ105から入射した光が細胞に当たり、発する蛍光が再度レンズ105に戻り、バンドパスフィルタを通して蛍光を波長分離し結像させる光学系と光源101の光が細胞を照射した透過像を検出する光学系を構成する。透過像と蛍光像はカメラの同じCCD撮像面に場所を区切って投影されるように光学系を工夫することにより、高価な高速高感度カメラ1台で透過像と蛍光像の両者を測定できる。
【0053】
上述した細胞分離チップ100の使い方を概説する。まず、細胞分離チップ100を60℃程度に温めて、穴65,66から、ゲル電極61,62のスペースに対応した量のゲル電極材料を所定の圧力を加えてゲル電極材料を供給する。この結果、ゲル電極61,62の開口部までゲル電極材料が到達する。また、穴65,66も、ほぼ、ゲル電極材料で埋まっている状態となる。もっとも、本発明のチップがマーケットに供給される場合を想定すると、ゲル電極材料は充填されていると考えても良い。
【0054】
次に、タンク54にバッファを満たす。この結果、細胞を含む流体を供給するための試料穴51とバッファを供給するためのバッファ穴52,53を介して流路55,56および57を介して、流路59、細胞分離領域70、流路71、流路72、透析部80、流路83、と順次流入する。さらに、穴73,85にも貯まっていく。この状態で、試料穴51に細胞を含む流体を供給すると、細胞は先細りの流路55を通過するうちに、1細胞ごとに並び、且つ、流路55,56と合流する位置で層流となって、細胞監視領域60の流路59に到達する。流路59を流下する光学系で監視されているから、流下する細胞ごとに、順次、回収すべき目的細胞か、廃棄すべき細胞か識別される。光学系は識別結果に応じて、ゲル電極61,62に電圧を印加し、あるいは印加しない。ゲル電極61,62に所定の電圧を印加すると、細胞には電界による力が作用して、流路72に導かれる。ゲル電極61,62に電圧が印加されないと、目的細胞には電界による力が作用しないから、流路71に流下する。流路71に流下した目的細胞は透析部80の流路を流下する。透析部80の上部には多孔質のメンブレン81が設けられ、その上にバッファ貯留槽86から供給されるバッファが流されているから、透析部80の流路を流下している目的細胞は、目的細胞内に取り込まれた蛍光標識物質が減少する。透析部80に供給すべきバッファの量はタンク86の容量だけでは、不足であるので、別に供給することとし、バッファ貯留槽89に回収されるバッファも排除するようにする。バッファ貯留槽86,89はバッファの中継タンクとなる。
【0055】
なお、透析部80の流路の長さと細胞の移動速度とを勘案すると、上述の細胞分離チップでは、十分な透析効果が得られないケースがあると考えられる。この場合には、目的細胞を含む流体を収容するための穴85から目的細胞を回収した後、別途、透析処理を行うのが良い。
【0056】
以下、本発明の細胞分離のプロトコルを、実施例に示す細胞分離チップで実行する具体例についていくつか説明する。
(細胞分離例1)
具体例としてマウス脳真皮から切除された大脳組織断片を用いる例について詳細に述べる。組織細胞(この場合は大脳組織断片)を直ちに等張培養液にいれ37℃で5%二酸化炭素を含む雰囲気で15分間インキュベーションし、コンディショニングする。神経細胞系で使用できるであろう物質と標識物を表3に従って説明する。これらトランスポーターはhttp://www.bioparadigms.org/slc/intro.aspに記載されている。
【0057】
【表3】

具体的には、神経細胞系では、γ−アミノ酪酸(GABA)、ノルアドレナリン(4-tetrahydro-N-methyl-1-naphthylamine)、ドーパミン(2−ジヒドロキシフェニルエチルアミン)、セロトニンなどのトランスポーターが知られており、これらのアミノ酸配列には相同性があり一種のファミリーを形成している。いずれも12回膜貫通構造を持つことがわかっている。組織断片の状態で、例えば、標識したセロトニンを添加すると、セロトニントランスポーターと考えられるトランスポーターを介して、標識セロトニンが神経細胞内に取り込まれる。セロトニンは蛍光標識したものを用いる。これらGABAと相同性を持つトランスポーター以外にも異なるトランスポーターファミリーに属すると考えられているグルタミン酸トランスポーターにおいても、リンカーを用いて蛍光体を結合したグルタミン酸を用いることで目的細胞内に標識物を導入することができる。ここでは標識として、4,4-difluoro-4-bora-3a,4a-diaza-s-indaceneの各種誘導体のように比較的分子が小さく、電荷を持たない膜透過性のものを用いる。標識としては、たとえばセロトニンのアミノ基を用いてアミジン化反応で蛍光体を入れることができる。
【0058】
まず、組織断片に上記系抗体で標識したセロトニン(以下標識セロトニン)を10μMになるように添加し、37℃で30分間インキュベートした後、定法に従い細胞を分散させ、独自開発のセルソーターで分析する。本装置で得られる蛍光強度が5000以上の細胞を分離する。細胞1000個をスターティング細胞数としてここまでの操作を行うと、この処理では26%の細胞が分離される。標識された目的細胞群を標識セロトニンの含まない培養液で18時間培養し続け、蛍光強度が500以下の細胞を分離すると156個の目的細胞が回収される。このことは、分離した目的細胞を体内に戻すケースなどでは、異物が入り込まないので、重要なメリットとなる。また、細胞研究においても、細胞分離用の標識物を速やかに除去できることは、標識物の細胞にあたえる影響を最小にすることができるので、細胞生理の正確な把握研究に多大な貢献をすることができる。
【0059】
(細胞分離例2)
表1に示した糖関連のトランスポーターを介する細胞分離を行う。糖の標識方法に関してはCytometry 27,262-268 (1997)に記載されているグルコースの標識法が応用できる。本文献には、蛍光標識グルコースを用いて、実際に細胞を染色し、セルソーターで検出できることが示されている(実際に分離回収はしていない)。
【0060】
細胞分離例2では、複数の基質の細胞透過能の違いを測定することで細胞の違いを識別分離する例について述べる。ここでは、上記文献に記載されているグルコースに対し、ガラクトースやフルクトースの細胞透過能を観察することで細胞を識別分離する。一般に、グルコースは細胞のエネルギー源として多用されているが、ガラクトースやフルクトースは直接利用されるわけではない。たとえば、大腸菌をグルコースとガラクトースの混合培地で培養すると、最初にグルコースを消費し、グルコースが少なくなるとガラクトースが消費されるようになることが知られている。したがって、たとえば、グルコースの取り込みをコントロールデータとして種々基質の細胞透過能を測定することで、より細胞の状態を反映した形での細胞分離が可能となる。
【0061】
ここではコントロールとしてグルコースの標識誘導体として6-(N-(7-nitrobenz-2-oxa-1.3-diazol-4-yl)amino)化糖(Ex465/Em540)を用いる(NDB標識糖)を用いる。ガラクトースとフルクトース標識蛍光体としては4,4-difluoro-4-bora-3a,4a-diaza-s-indaceneの各種誘導体のように比較的分子が小さく、電荷を持たない膜透過性のものであればよい。各種NDB標識糖を培養液に添加し、脳組織断片(切除部位不詳)由来で培養液中に分散させた細胞を3等分し、それぞれの培養液に上記3種のNBD標識糖を添加し、15分間37℃でインキュベートする。培養液をNBD標識糖を含まないものに置換し、直ちに独自開発のセルソーターに添加し、相対蛍光強度が500以上のものを分離する。細胞200個を装置にかけたところ、得られた細胞数はNBD標識グルコースを指標にしたものが最も多く66細胞、NDB標識ガラクトースを用いたものでは13細胞、NBD標識フルクトースでは分離できない結果である。同様に、肝臓組織由来の細胞懸濁試料ではNBD標識グルコースを指標にしたものでは46細胞、NBD標識フルクトースでは37細胞、NDB標識ガラクトースを用いたものでは8細胞と脳由来細胞とは異なる結果となることが確認できる。
【0062】
ここで示したグルコース、フルクトース、ガラクトースに関しては、種々のトランスポーターが細胞表面に発現しているし、各トランスポーターの基質特異性がそれほど高く無いが、実際には細胞をグループ化できる。蛍光体が結合していることによる特異性の変化がグルコース、フルクトース、ガラクトースに対する取り込みやすさを変化させていることが示唆される。
【0063】
(細胞分離例3)
細胞分離例3では、複数の標識アミノ酸や標識ペプチドの細胞透過能の違いを測定することで細胞の違いを識別分離する例について述べる。
【0064】
細胞分離例2では、コントロールとしてグルコースを用いているが、広くいろいろな臓器で発現しているトランスポーターの基質を利用するほうがよい。表4に示すように、thiamine、葉酸、eicosanoids、prostaglandin、 L-Ascorbic acid、アルギニン、ヌクレオシドが適している。これらのトランスポーターはいろいろな細胞でユビキタスに存在する。
【0065】
【表4】

あるいは、トランスポーターそのものは不明(あるいは別のメカニズムで細胞内に取り込まれる)であるが、アルギニンオリゴマーのような細胞が常に取り込むものを使用する。コントロールに対して、測定を行う基質としては、たとえば表5に示すようなアミノ酸系ペプチド系の基質とそれらに対応するトランスポーターが利用できる。
【0066】
【表5】

L-GluやD/L-Aspはニューロンやアストロサイトなどの大脳細胞系や小脳のプルキンエ細胞、網膜あるいは小腸、腎臓、肝臓、腎臓、骨格筋、胎盤といったエネルギーを多量に消費する細胞群の識別分離に使用する。L-Ala、L-Ser、L-Thr、L-Cys、L-Glnは肺、骨格筋、大腸、腎臓、精巣、脂肪組織の細胞識別分離に使用できる。L-Asnに関しては、急性白血病や悪性りんぱ腫におけるアスパラギン要求性腫瘍細胞の検出分離に有効である。急性白血病の検査に利用できる。標識にはたとえば、アミノ基の電荷を消失しないようにイミドアミド結合を用いて蛍光体を修飾したものを用いる。
【0067】
(細胞分離例4)
細胞分離例3を応用して白血病の原因細胞の分離を試みる一例を示す。急性白血病患者の血液にNDB化葉酸(Ex465/Em540)、4,4-difluoro-1,3,5,7-tetramethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-8-propionate標識Asn、4,4-difluoro-5-(2-pyrrole)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionate標識Thrを添加し30分間37℃でインキュベートする。NDB化葉酸(Ex465/Em540)をコントロールとして、4,4-difluoro-1,3,5,7-tetramethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-8-propionate標識Asn(Ex493/Em503), 4,4-difluoro-5-(2-pyrrole)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionate標識Thr(Ex576/Em589)の取り込み両を、DB化葉酸由来の蛍光強度に対する4,4-difluoro-4-bora-3a,4a-diaza-s-indaceneの各種誘導体由来の蛍光強度として測定し、蛍光波長503nm近傍の蛍光強度の強い細胞、すなわち、4,4-difluoro-1,3,5,7-tetramethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-8-propionate標識Asnの取り込み量の覆い細胞をセルソーターで分取する。分取した細胞を組織学的に顕微鏡観察すると95%以上の確立でいずれもガン化したロイコサイトである。がん細胞に対する正常は血球細胞における4,4-difluoro-5-(2-pyrrole)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionate標識Thrの取り込みは、4,4-difluoro-1,3,5,7-tetramethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-8-propionate標識Asnの取り込みほど顕著ではない。
【0068】
(細胞分離例5)
細胞分離例5では、未知の機構で目的細胞内に取り込まれる物質を用いる例について述べる。ここではアルギニンオリゴマーを基質として使用する。アルギニンオリゴマーは、種々蛍光物質のほかに酵素などの巨大分子を修飾物質として結合させても目的細胞に取り込むことができる。また、細胞を問わず細胞膜透過性を示す(J. Mol. Recognit. 16, 260-264 (2003))。細胞のアルギニンオリゴマー取り込みの機構は解明されていないが、エンドサイトーシスやファゴサイトーシスではなく、アルギニンのグアニジル残基が細胞膜に存在するリン脂質と水素結合をつくり分子が膜ギャップを直接乗り越えるモデルとグアニジル基の強い塩基の影響が議論されている。 本発明者らは、これらに加え、カオトロピックイオンの効果によりアルギニンオリゴマーが弱い変性剤として働き、膜を部分的に変性していると考えている。
【0069】
(細胞分離例6)
スルホローダミン101標識アルギニンオクタマー(Em605)とNDB標識Asn(Em540)を目的細胞に取り込ませ、両者の取り込みの違いでがん細胞の分離を試みる。スルホローダミン101標識アルギニンオクタマー(Arg−Cys−S−スルホローダミン101)はマレイイミド基を有する試薬(モレキュラープローブ社、Texas Red C maleimide)を用いてCysのSH基にエーテル結合している。アルギニンオリゴマーの細胞に対する作用は特殊なので、若干の説明を加える。J. Mol. Recognit. 16, 260-264 (2003)によると、アルギニンオリゴマーの長さには最適値があり、6から8の長さのものが最適である。短すぎると細胞膜を透過しづらいし、長すぎると、細胞膜に結合する傾向がある。さらに数10マーの長さになると細胞毒となる可能性が出てくる。本実施例ではオクタマーのものを用いている。実際には蛍光体を結合するためにアルギニンオクタマーのCOOH端にCysを連結し、このCysのSH基にマレイミド基を有する蛍光体を後付で結合させている。あるいは、Cysの代わりにあらかじめε−アミノ基に蛍光体が結合したLysをペプチド合成時に利用して蛍光標識してもよい。この場合はArg−Lys−ε−NH−スルホローダミン101となる。アルギニンオリゴマーの濃度としては1μMで、処理時間は0.5時間処理でよい。アルギニンの長さが6から8で蛍光標識したものを用いると核の内部構造部分に強く蛍光を発するようになるので、核に特異的に移行していると考えられている。しかし、核のどの部分に濃縮されるかは不明である。細胞質からも核ほどではないが蛍光が観測される。いずれにせよ、細胞にしめる核の投影面積の占める割合を計測することができる。蛍光体としては上記のもののほかに、フルオレッセイン、テトラメチルロータミン,スルホローダミン101、ピレン誘導体、Cy3、Cy5、N,N,N1,N1-[2,6-bis(3'-aminomethyl-1'-pyrazolyl)-4-phenylpyridine] tetrakis (acetic acid)のユーロピウム錯体、各種蛍光ナノ粒子(粒径30nm)が利用できる。このため、必要に応じて励起波長と蛍光波長を得ることができる。
【0070】
(細胞分離例7)
ここでは、試料としては大腸上向結腸の組織で部分的に上皮がガン化している切除組織を用いた細胞分離の操作を説明する。組織断片のまま、上記2種の蛍光標識基質を培地に混入し、30分間37℃でインキュベートする。組織を上記基質が含まれない0.15MのNaClで洗浄後、トリプシンを含む溶液で細胞を分散させる。直ちに本発明の画像解析型セルソーターにかけて、スルホローダミン101標識アルギニンオクタマー由来の蛍光波長605 nm近傍の蛍光強度分布を細胞ごとに測定する。ガン化細胞は細胞サイズが大きくなるとともに、核の占める割合も正常細胞に比べ大きくなることを利用してガン細胞を認識するために、蛍光強度の強い部分(すなわち核の特定部分)の細胞全体に対する面積比が20%以上の細胞を検出する。しかし、これだけでは実際に染まっている構造体が不明で判断に困る場合があり、フォールスネガティブが多くなる問題がある。そこで、同時に、がん細胞がAsn高要求性であることを利用し、NDB標識Asn由来の波長540nm近傍の蛍光強度を観察する。スルホローダミン101標識アルギニンオクタマーと、NDB標識Asnのいずれかが陽性となる細胞をセルソーターで分取する。分離される細胞は組織断片により異なるが、本一切除組織例では1000細胞のうち16細胞が分離される。分離した細胞と同一人物で別の大腸部位(ガン化していないと思われる部位)の細胞を組織学的に目視検査したところ、分離した細胞はいずれもがん化細胞であること推測することができる。分離細胞は培養により増殖させることが可能で、定法に従い培養すると、無限増殖能を示す。このように核がスルホローダミン101標識アルギニンオクタマーで巨大に染まり、細胞質にNDB標識Asnが取り込まれている細胞のダブルで判断することでがん細胞をより正確に分離できる。
【0071】
(細胞分離例8)
細胞分離例8では、ミトコンドリアトランスポーターのように、細胞内のミトコンドリアに特異的に透過する基質を結合しておき、ミトコンドリアを特異的に染色する基質として使用することができることを示す。Arg化合物は多くの場合細胞膜透過性を持つとともにミトコンドリアにも特異的に到達する。実際、ミトコンドリア表面にはArg特異的トランスポーターが存在する(http://www.bioparadigms.org/slc/intro.asp)。よって、細胞分離例5で示したアルギニンオリゴマーにスルホローダミン101が結合したものがミトコンドリアに取り込まれることが予想される。スルホローダミン101−Argを細胞に取り込ませ、図8に示す光学系の対物レンズ105には100倍の水浸レンズで観察したところ、細胞質に斑点状の紋様が観測される。スルホローダミン101−Argがミトコンドリアに移行していることが示唆される。
【0072】
そこで、スルホローダミン101−Argを添加し、細胞内の蛍光ローカリゼーションを確認しながら細胞を分取する。ミトコンドリアを分解能よく観察するために図8に示す光学系の対物レンズ105には100倍の水浸レンズを使用する。ここでは、細胞内に蛍光発光点が点在する度合いを調べ細胞質からの蛍光強度比が40倍以上のものをミトコンドリアに蛍光体が取り込まれたものとして分取する。分取細胞を培養液中に移し、取り込まれたスルホローダミン101−Argを除去する。蛍光強度比がこれ以上低いものは、分取後の細胞生存率が低く、高いものの多くの細胞で培養が可能である結果となる。ミトコンドリアの染色強度が低いものはアポトーシスが誘発されているものか、かなりダメージを受けている細胞と示唆される。本発明によれば、フレッシュな細胞を痛んだ細胞からより分けることが容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は---に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による細胞分離回収方法の処理工程の実施例を示す図。
【図2】細胞分離装置で蛍光強度が5000以上の細胞を分離したときの一般的な特性を示す図。
【図3】蛍光標識した物質が細胞内に取り込まれたときの蛍光強度をヒストグラムで表した図。
【図4】横軸に細胞の培養時間、縦軸に分離された蛍光強度が500以上の細胞の数を取ったときのグラフ。
【図5】本発明の細胞分離のプロトコルを実施するのに好適な細胞分離チップの実施例を模式的に示す平面図。
【図6】図5のA−A,B−B,C−CおよびD−D位置で矢印の方向に見た断面図。
【図7】図5、図6で説明した細胞分離チップを複数個積載した細胞分離装置の1例を模式的に示す平面図。
【図8】細胞分離チップの細胞監視領域60に設ける光学系を説明する図。
【符号の説明】
【0075】
21…細胞分離ヒストグラムのピークで標識されていない細胞群、22…細胞分離ヒストグラムのピークで標識されている細胞群、100…細胞分離チップ、50…基板、51,52,53,65,66,73および85…穴、55,56,57,59,71,72,83,87,88…流路、54,74,84,86および89…貯留槽、61,62…ゲル電極、63,64…電極、70…細胞分離領域、63,64…金属薄膜層、80…透析部、81…多孔質のメンブレンもしくは透析膜、82…スペース、91,92…配管、100…細胞分離チップ、101,108…光源、102,109,112,114…バンドパスフィルタ、103…コンデンサレンズ、105…対物レンズ、106…ダイクロイックミラー、113,115…カメラ、116…計算機、200…細胞分離チップホルダ、300…細胞分離装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスポーターを介して標識識別用の特定物質を目的細胞内に取り込ませる工程と、
前記取り込まれた標識識別用の特定物質標識物を光学的に検出して前記目的細胞を分離する工程と、
前記分離された目的細胞に取り込まれている標識識別用の特定物質を分離する工程と、
よりなることを特徴とする細胞分離方法。
【請求項2】
前記トランスポーターを介して標識識別用の特定物質を目的細胞内に取り込ませる工程が、所定の条件で前記目的細胞を所定時間培養する培養工程を含み、
前記分離された目的細胞に取り込まれている標識識別用の特定物質を分離する工程が、前記トランスポーターを通過する標識用特定物質を含まない溶液に所定時間曝露させる培養工程を含む、
請求項1記載の細胞分離方法。
【請求項3】
前記トランスポーターを介して標識識別用の特定物質を目的細胞内に取り込ませる工程が前記目的細胞を含む組織断片の状態で実行され、その後細胞分散処理が行われる請求項1記載の細胞分離方法。
【請求項4】
細胞分離領域に、トランスポーターを介して標識識別用の特定物質を取り込ませた目的細胞を含む流体が導入される流路および該流路に連結され目的細胞を含む流体を供給するための試料穴と、
前記細胞分離領域に目的細胞を含む流体が導入される流路と並行して配置されるバッファの流路および該流路に連結されバッファを供給するためのバッファ穴と、
前記細胞分離領域に目的細胞を含む流体が導入される流路と前記バッファの流路とが合流する位置より下流側にあり、前記目的細胞を含む流体とバッファの合成された流体が層流で流れる流体中の細胞を観察する流路と、
前記細胞を観察する流路の下流側に形成され、該流路の両側に対向し、かつ、流れに対して位置をずらして配置された二つのゲル電極の開口部と、前記流路の延長線上にある目的細胞回収流路と、前記流路から分岐された細胞排出流路とより構成される前記細胞分離領域と、
前記ゲル電極にゲル電極材料を供給する穴と、
前記細胞排出流路に連結され排出細胞を含む流体を収容するための穴と、
前記目的細胞回収流路の下流側に設けられる細胞透析部と、
前記細胞透析部を通過した目的細胞を含む流体が通過する回収流路と前記回収流路に連結され回収細胞を含む流体を収容するための穴とより構成されるとともに、
前記目的細胞を含む流体を供給するための試料穴とバッファを供給するためのバッファ穴とに共通に連通して設けられたバッファを供給するためのバッファ貯留槽と、
前記排出細胞を含む流体を収容するための穴に連通して設けられた排出細胞とバッファを収容するためのバッファ貯留槽と、
前記回収細胞を含む流体を収容するための穴に連通して設けられた目的細胞とバッファを収容するためのバッファ貯留槽とを備え、且つ、
前記細胞透析部は所定の多孔質のメンブレンを介して前記回収細胞を透析して標識識別用の特定物質を排出させるための透析領域と該透析領域に標識識別用の特定物質を含まないバッファを供給するためのバッファ貯留槽および透析後のバッファを回収するためのバッファ貯留槽を備えることを特徴とする細胞分離チップ。
【請求項5】
所定の厚さと大きさを持つ基板と、
前記基板の底面に形成された前記各流路および前記ゲル電極と、
前記基板の底面に形成された前記各流路および前記ゲル電極と、それぞれ、連通し、前記基板を貫通する穴と、
前記基板の底面に貼り付けられた透光性の薄膜と、
前記基板の上面に設けられた前記流路と連通した貯留槽と、
前記細胞透析部は前記細胞分離領域の下流域の流路と前記穴との間に設けられた前記基板の底面から上面まで連通した流路と、
前記細胞透析部の前記基板の上面に設けられた多孔質のメンブレンと該メンブレン上に、前記回収細胞を透析するための標識識別用の特定物質を含まないバッファを流通させるスペースと該スペースに供給するバッファの貯留槽とよりなる請求項4記載の細胞分離チップ。
【請求項6】
細胞分離領域に、トランスポーターを介して標識識別用の特定物質を取り込ませた目的細胞を含む流体が導入される流路および該流路に連結され目的細胞を含む流体を供給するための試料穴と、
前記細胞分離領域に目的細胞を含む流体が導入される流路と並行して配置されるバッファの流路および該流路に連結されバッファを供給するためのバッファ穴と、
前記細胞分離領域に目的細胞を含む流体が導入される流路と前記バッファの流路とが合流する位置より下流側にあり、前記目的細胞を含む流体とバッファの合成された流体が層流で流れる流体中の細胞を観察する流路と、
前記細胞を観察する流路の下流側に形成され、該流路の両側に対向し、かつ、流れに対して位置をずらして配置された二つのゲル電極の開口部と、前記流路の延長線上にある目的細胞回収流路と、前記流路から分岐された細胞排出流路とより構成される前記細胞分離領域と、
前記ゲル電極にゲル電極材料を供給する穴と、
前記細胞排出流路に連結され排出細胞を含む流体を収容するための穴と、
前記目的細胞回収流路の下流側に設けられる細胞透析部と、
前記細胞透析部を通過した目的細胞を含む流体が通過する回収流路と前記回収流路に連結され回収細胞を含む流体を収容するための穴と、
前記目的細胞を含む流体を供給するための試料穴とバッファを供給するためのバッファ穴とに共通に連通して設けられたバッファを供給するためのバッファ貯留槽と、
前記排出細胞を含む流体を収容するための穴に連通して設けられた排出細胞とバッファを収容するためのバッファ貯留槽と、
前記回収細胞を含む流体を収容するための穴に連通して設けられた目的細胞とバッファを収容するためのバッファ貯留槽と、
前記細胞透析部は所定の多孔質のメンブレンを介して前記回収細胞を透析してトランスポーターを介して標識識別用の特定物質を排出させるための透析領域と該透析領域に標識識別用の特定物質を含まないバッファを供給するためのバッファ貯留槽および透析後のバッファを回収するためのバッファ貯留槽を細胞分離チップとともに、
該細胞分離チップの前記細胞を観察する流路を流下する細胞を検出する光学系が備えられ、前記流路を流下する細胞が目的細胞であるか否かを判定し、判定結果に応じて、前記ゲル電極に電圧を印加するか否かを決定することを特徴とする細胞分離装置。
【請求項7】
前記ゲル電極に電圧を印加するのは前記流路を流下する細胞が目的細胞で無いと判定されたときである請求項6記載の細胞分離装置。
【請求項8】
前記細胞分離チップが同一平面上に複数個並設され、これらのいくつかに共通に標識識別用の特定物質を含まないバッファを供給するための配管および透析後のバッファを回収するための配管を備え、それぞれの貯留槽で中継して前記細胞透析部の該透析領域に標識識別用の特定物質を含まないバッファを供給する請求項6記載の細胞分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−42654(P2006−42654A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226359(P2004−226359)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(504296024)有限責任中間法人 オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (39)
【Fターム(参考)】