説明

細胞剥離抑制器具及びこれを用いた培養容器、細胞剥離抑制方法

【課題】 大面積の培養面上で培養している細胞の剥離を抑制する細胞剥離抑制器具及びこれを用いた培養容器、細胞剥離抑制方法を提供すること
【解決手段】 細胞を培養するための培養容器1であって、細胞接着面として機能する培養面を有する培養容器本体2と、培養容器本体2に着脱可能であって、当該培養容器本体2内の溶液の動きを抑制するように培養面20を仕切る細胞剥離抑制器具3と、を具備するように形成する。この場合、細胞剥離抑制器具3は、培養面20を仕切る1以上の穴を有するように形成すれば良く、好ましくは、穴の面積を2.25cm以下にするのが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、培養している細胞の剥離を抑制する細胞剥離抑制器具及びこれを用いた培養容器、細胞剥離抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤の薬理活性評価や毒性試験のシミュレーターとして、生体内と同様の三次元組織であるスフェロイドが注目されている。このスフェロイドを培養する方法には種々あるが、その一つとして、樹脂フィルムや樹脂基板の培養面に形成された凹凸構造上に細胞を播種し、スフェロイドを形成するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/097120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような細胞をマルチウェルプレート上で培養すると、細胞をウェルごとに回収する必要があり面倒である。そこで、大面積のプレート状で培養することが考えられるが、大面積のプレート上で細胞を培養すると、なぜか培養面上の細胞が培養中に剥離するという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、大面積の培養面上で培養している細胞の剥離を抑制する細胞剥離抑制器具及びこれを用いた培養容器、細胞剥離抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の細胞剥離抑制器具は、培養面上で細胞を培養するための培養容器本体に着脱可能であって、当該培養容器内の溶液の動きを抑制するように前記培養面を仕切るものであることを特徴とする。
【0007】
この場合、前記細胞剥離抑制器具は、前記培養面を仕切る1以上の穴を有するものを用いることができる。また、前記穴の面積は3.8cm以下である方が好ましい。
【0008】
また、本発明の培養容器は、細胞を培養するための培養容器であって、細胞接着面として機能する培養面を有する培養容器本体と、前記培養容器本体に着脱可能であって、当該培養容器本体内の溶液の動きを抑制するように前記培養面を仕切る細胞剥離抑制器具と、を具備することを特徴とする。
【0009】
この場合、前記細胞剥離抑制器具は、前記培養面を仕切る1以上の穴を有するものを用いることができる。また、前記穴の面積は**cm以下である方が好ましい。また、前記培養面は、細胞接着面として機能する凹凸構造を有するものを用いることができる。
【0010】
また、本発明の細胞剥離抑制方法は、細胞を培養する間、培養容器本体内の溶液の動きを抑制するように培養面を仕切ることを特徴とする。
【0011】
この場合、上述した細胞培養抑制器具を用いて、前記培養容器本体内の溶液の動きを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、培養容器の培養面を所定の大きさに仕切ることにより、培地の動きを抑制するので、培養面から細胞が剥離するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の培養容器を示す平面図である。
【図2】図1の培養容器のI−I線断面図である。
【図3】本発明の凹凸構造を示す平面図である。
【図4】本発明の凹凸構造を示すSEM写真である。
【図5】実施例の培養容器の状態を示す平面図である。
【図6】培養面積と浮遊しているスフェロイド及び接着しているスフェロイドとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の培養容器1は、細胞を培養するためのものであって、図1、図2に示すように、細胞接着面として機能する培養面20を有する培養容器本体2と、培養容器本体2内の溶液9の動きを抑制するための細胞剥離抑制器具3と、を具備するものである。
【0015】
培養容器本体2としては、培養する細胞の接着面として機能する培養面20を有していればどのようなものでも良く、例えば、プレート、ディッシュ、シャーレ、トレイ等がある。また、8穴プレートのようなものも含まれる。
【0016】
培養面20は、細胞接着面として機能するものであり、例えば、所定の凹凸構造を有するものや、所定の表面処理を施したものが該当する。
【0017】
凹凸構造としては、培養する細胞の性質に応じて、線状(ラインアンドスペース)、ピラー状、ホール状等、種々の形状とすることができるが、好ましくは、所定の平面形状からなる単位格子201を規則的に複数配列した構造の方が良い。例えば、図3、図4に示すように、平面形状が多角形である単位格子201を複数連続したものとすることができる。この時、等方的に均一な構造上で細胞を成長させることができるという点で、正三角形、正方形、正六角形等の正多角形や、円形のものが好ましい。また、ピラー状やホール状の凹凸構造と平面形状からなる複数の単位格子201からなる凹凸構造とを組み合わせることも可能である。単位格子間202の幅は、細胞を単層状ではなく三次元的に成長させたり(スフェロイド培養)、分化させたりし、より生体内に近い状態で培養するという観点からは、3μm以下、2μm以下、1μm以下、700nm以下、500nm以下、250nm以下というように、小さくなるほど好ましい。この理由としては、単位格子間202の幅が小さくなるほど、凹凸構造面に接着した細胞は、多くの仮足を成長させながらスフェロイドを形成させることができると考えられるためである。
【0018】
また、単位格子201の深さは、培養する細胞の性質に応じて、1nm以上、10nm以上、100nm以上、200nm以上、500nm以上、1μm以上、10μm以上、100μm以上等種々の大きさに形成される。また、この凹凸構造のアスペクト比としては、0.2以上、0.5以上、1以上、2以上等種々のものがある。
【0019】
また、単位格子201の最小内径(好ましくは最大内径)は、3μm以下であることが好ましく、2μm以下、1μm以下、700nm以下、500nm以下、250nm以下というように、小さくなるほど好ましい。ここで、内径とは、単位格子201に外接する2本の平行線間の距離を意味する。したがって、最小内径とは、単位格子201に外接する二本の平行線間の距離のうち最も短いものを言い、最大内径とは、単位格子201に外接する二本の平行線間の距離のうち最も長いものを言う。例えば、単位格子201が正六角形の場合には、対向する平行な辺と辺との間の距離が最小内径となり、対向する頂点間の距離が最大内径となる。また、単位格子201が長方形の場合には、短辺の長さが最小内径となり、対角線の長さが最大内径となる。
【0020】
凹凸構造の形成方法はどのような方法でも良いが、例えば、ナノインプリント技術、溶液キャスト法、エッチング、ブラスト、コロナ放電等を用いることができる。この時、より精密に形状等を制御できる点で、ナノインプリント技術による方法が好ましい。
【0021】
また、培養容器本体2の材質は、細胞に対し無毒性のものであればどのようなものでも良く、例えば、「ポリスチレン」、「ポリエチレン」、「ポリプロピレン」、「ポリイミド」、「ポリ乳酸やポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン等の生分解性ポリマー」、「環状オレフィン共重合体(COC)や環状オレフィン重合体(COP)等の環状オレフィン系熱可塑性樹脂」、「アクリル樹脂」、「光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等のその他の樹脂」、「酸化アルミニウム等の金属」、「ガラス」、「石英ガラス」、「シリコン」等を用いることができる。
【0022】
表面処理としては、化学的な処理や、紫外線照射、ガンマ線照射、プラズマ照射等による処理がある。もちろん、細胞接着面として機能するような処理であれば、これ以外の処理を用いても構わない。
【0023】
細胞剥離抑制器具3は、培養容器本体2内の培地等の溶液9が動くのを抑制するように、培養面20を仕切るものである。これにより、培養容器本体2内の溶液9が、インキュベータ等による振動や対流によって動くのを抑制するので、培養面20上に接着している細胞が溶液9の動きによって剥離するのを防止することができる。
【0024】
なお、培養容器本体2内の培地等の溶液9が動くのを抑制できれば、仕切方はどのようなものでも良いが、例えば、培養面20を仕切る1以上の穴を有するものを用いることができる。穴の形状はどのようなものでも良く、図1に示すような格子状のものでも、マルチウェルプレートのような円状のものであっても良い。穴の面積は小さいほど溶液9の動きを抑制する効果は高いが、特に、2.25cm以下において抑制効果が高い。また、溶液9が動くのを抑制できれば、コ字状やC字状のような一部が開口しているものであっても勿論構わない。仕切の高さは、溶液9が動くのを抑制できるのであればどのような高さでも良いが、好ましくは、容器内の溶液9の水面91より上まで仕切ることができるものが良い。
【0025】
材質としては、培養容器本体2の材料と同様のものが使用でき、例えば、「ポリスチレン」、「ポリエチレン」、「ポリプロピレン」、「ポリイミド」、「ポリ乳酸やポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン等の生分解性ポリマー」、「環状オレフィン共重合体(COC)や環状オレフィン重合体(COP)等の環状オレフィン系熱可塑性樹脂」、「アクリル樹脂」、「光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等のその他の樹脂」、「酸化アルミニウム等の金属」、「ガラス」、「石英ガラス」、「シリコン」等を用いることができる。
【0026】
また、 細胞剥離抑制器具3は、培養容器本体2とは独立して形成され、培養容器本体2と着脱可能に形成される。例えば、 細胞剥離抑制器具3を培養容器本体2の内壁より小さく形成すれば良い。これにより、細胞の回収時に 細胞剥離抑制器具3を培養容器本体2から取り外すことができるので、大面積の培養面20上で培養した細胞を簡単に回収することができる。
【0027】
次に、本発明の細胞剥離抑制方法について説明する。
【0028】
本発明の細胞剥離抑制方法は、細胞を培養する間、培養容器本体内の溶液の動きを抑制するように培養面を仕切るものである。養容器本体内の溶液の動きを抑制するには、上述した本発明の細胞培養抑制器具を培養容器本体に装着して細胞を培養すれば良い。また、培養した細胞を回収する際には、培養容器本体から細胞培養抑制器具を取り外した後に回収すれば良い。
【実施例】
【0029】
次に本発明の細胞剥離抑制器具の実施例について説明する。
【0030】
実施例では、培養容器本体として、一つの穴の培養面の面積が12cmである市販の8穴プレート(NUNC社製、nunc 1670 64)に、培養面としてのシートを部分的に熱融着して配置したものを用いた。当該シートには、一辺の長さが3μm(内径2μm)、深さ1μm、線幅500nmの正方形からなる単位格子を規則的に複数配列した細胞接着面として機能する凹凸構造が形成されている。
【0031】
また、細胞剥離抑制器具としては、ポリスチレン製の格子状の仕切板を用いた。格子状の穴の面積は、一つの穴の大きさが(A)12cm[格子なし]、(B)6cm、(C)2.25cm、(D)1.05cm、(E)0.49cmの5種類とした(図5参照)。
【0032】
肝癌細胞(HepG2)を10%FBS/DMEM(日水製薬株式会社製)に懸濁し、3×10cells/wellで、上述した8穴プレートに播種した後、本発明の細胞剥離抑制器具を装着して37℃,5% CO条件下で培養した。
【0033】
培養7日目に、まず、細胞剥離抑制器具を外さずに、培養上清(浮遊しているスフェロイド)を回収した。次に、細胞剥離抑制器具を外し、PBSを添加してセルスクレーパーを用いて接着しているスフェロイドを回収した。回収した細胞液を遠心してPBSに懸濁した後、格子の1マス分を分注し1/10量のスフェロイド溶解液(SCIVAX社製NanoCulture Lysis)を添加し、PicoGreen assay(インヴィトロゲン社製)により、細胞のDNA量を測定した。
【0034】
浮遊しているスフェロイドと接着しているスフェロイドのDNA量の和を1として、浮遊しているスフェロイド及び接着しているスフェロイドのDNA量の割合を図6に示す。
【0035】
図6のDNA量の割合から、穴の面積が2.25cm以下になると接着しているスフェロイド数の割合が浮遊しているスフェロイド数の割合よりかなり多くなる。
【0036】
したがって、本発明の培養容器およびこれに用いられる細胞剥離抑制器具は、培養面から細胞が剥離するのを防止する効果があることが認められた。
【符号の説明】
【0037】
1 培養容器
2 培養容器本体
3 細胞剥離抑制器具
9 溶液
20 培養面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養面上で細胞を培養するための培養容器本体に着脱可能であって、当該培養容器内の溶液の動きを抑制するように前記培養面を仕切るものであることを特徴とする細胞剥離抑制器具。
【請求項2】
前記培養面を仕切る1以上の穴を有することを特徴とする請求項1記載の細胞剥離抑制器具。
【請求項3】
前記穴の面積は2.25cm以下であることを特徴とする請求項2記載の細胞剥離抑制器具。
【請求項4】
細胞を培養するための培養容器であって、
細胞接着面として機能する培養面を有する培養容器本体と、
前記培養容器本体に着脱可能であって、当該培養容器本体内の溶液の動きを抑制するように前記培養面を仕切る細胞剥離抑制器具と、
を具備することを特徴とする培養容器。
【請求項5】
前記細胞剥離抑制器具は、前記培養面を仕切る1以上の穴を有することを特徴とする請求項4記載の培養容器。
【請求項6】
前記穴の面積は2.25cm以下であることを特徴とする請求項5記載の培養容器。
【請求項7】
前記培養面は、細胞接着面として機能する凹凸構造を有することを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の培養容器。
【請求項8】
細胞を培養する間、培養容器本体内の溶液の動きを抑制するように培養面を仕切ることを特徴とする細胞剥離抑制方法。
【請求項9】
請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞培養抑制器具を用いて、前記培養容器本体内の溶液の動きを抑制することを特徴とする請求項8記載の細胞剥離抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−19413(P2011−19413A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165258(P2009−165258)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(504097823)SCIVAX株式会社 (31)
【Fターム(参考)】