細胞培養における解糖阻害物質
細胞培養物中におけるタンパク質および/またはポリペプチドの大規模生産のための改善された系を提供する。本発明によると、目的のタンパク質またはポリペプチドを発現している細胞は、解糖阻害物質を含む培地中で生育させる。さらに、および/または別法では、目的のタンパク質またはポリペプチドを発現している細胞を、グルタミンを制限した培地中で生育させる。かかる系の使用は、高レベルのタンパク質またはポリペプチド産生を可能にし、乳酸塩などの望ましくない代謝廃棄産物の蓄積を減少させる。本発明にしたがって発現させたタンパク質およびポリペプチドは、有利には、医薬組成物、免疫原性組成物、農薬組成物または他の商業的組成物の製造に使用されうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月3日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第60/586,615号(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)と同時係属中であり、少なくとも1人の共通の発明者を有し、かつ、優先権主張している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
タンパク質およびポリペプチドは、益々重要な商業的治療剤となってきている。多くの場合、これらのタンパク質およびポリペプチドは、目的の特定のタンパク質またはポリペプチドを異常に高レベルに産生するように操作された、および/または選択された細胞から、細胞培養において生産される。細胞培養条件の調節および最適化は、タンパク質およびポリペプチドの商業的生産の成功に極めて重要である。
【0003】
細胞培養で生産される多くのタンパク質およびポリペプチドは、細胞を一定期間培養し、次いで、培養を終了し、産生したタンパク質またはポリペプチドを単離するバッチまたはフェッドバッチプロセスにおいて製造される。別法では、タンパク質またはポリペプチドは、培養を終了せず、新たな栄養分および他の成分を周期的に培養物に加え、その間、発現したタンパク質またはポリペプチドを周期的に回収する潅流細胞培養プロセスで生産することができる。生産されるタンパク質またはポリペプチドの最終的な量および質は、細胞培養条件によって著しく影響を及ぼされる。例えば、伝統的なバッチおよびフェッドバッチ培養プロセスは、しばしば、細胞成長または生存、および目的のタンパク質またはポリペプチドの産生または安定性に不利な影響を及ぼす代謝廃棄産物の産生をもたらす。これらの不利益な廃棄産物には、グルコース代謝産物である乳酸塩がある。乳酸蓄積は、細胞培養物のpHを減少させることが分かっており、細胞生存能力および生産能力の両方に不利益である(Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm. International, April 2003参照)。細胞培養プロセスにおけるタンパク質およびポリペプチドの産生を改善するために種々の努力がなされてきたが、さらなる改善の要望が依然としてある。
【0004】
さらに、細胞、特に哺乳動物細胞を培養する際に使用するための規定培地(すなわち、既知の個々の成分から構成され、かつ、血清または他の動物性副産物を欠く培地)の開発において著しい努力がなされてきた。細胞成長特徴は、血清由来の培地と比べて、規定培地において非常に異なる。不利益な廃棄産物の蓄積が減少または排除された規定培地における細胞培養によって、タンパク質およびポリペプチドを生産するための改善された系の開発に対する特別の要望がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm. International, April 2003
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、細胞培養におけるタンパク質および/またはポリペプチドの大規模生産のための改善された方法および組成物を提供する。ある特定の具体例において、解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルコース類似物2−デオキシグルコースを含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルタミンが約13mM未満の濃度で存在する解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルタミンが約4mM未満の濃度で存在する解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、本発明の細胞培養培地は、目的のタンパク質またはポリペプチドを発現する哺乳動物細胞を増殖させるために使用される。
【0007】
ある特定の具体例において、本発明は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを含有する培地を利用する商業的規模(例えば、500L以上)の培養方法を提供する。ある特定の具体例において、開示される培養方法は、細胞培養の過程間、1以上の温度シフトを含んでいてもよい。本明細書の教示によると、かかる方法の使用は、高レベルのタンパク質生産を可能にし、ある種の望ましくない因子(限定するものではないが、乳酸塩を包含する)の蓄積を減少させる。
【0008】
当業者は、本発明の培地処方が規定および複合培地の両方を包含することを理解するであろう。ある特定の具体例において、培養培地は、培地の組成が既知であり、調節されている規定培地である。
【0009】
ある特定の具体例において、米国特許出願第11/213,308号、第11/213,317号および第11/213,633号(各々、2005年8月25日出願)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に記載のいずれかの細胞培養方法にしたがって細胞を生育させる。いくつかの具体例において、米国仮特許出願第60/830,658号(2006年7月13日出願)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に記載の1以上の条件下で細胞を生育させる。
【0010】
本発明の細胞培養は、所望により、栄養分および/または、例えば、ホルモンおよび/または他の成長因子、イオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、および/またはホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する他の培地成分で補足してもよい。ある特定の具体例において、1以上の化学インダクタント(inductant)、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および酪酸ナトリウム(「NaB」)で培地を補足することは有益である。これらの任意の補足物は、培養の開始時に加えてもよく、または枯渇した栄養分を補充するために、または別の目的で、もっと後の時点で加えてもよい。一般に、本発明にしたがって、補足を最小限にするための最初の培地組成を選択することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、皿において、2−デオキシグルコースの存在下におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図2】図2は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図3】図3は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の生存能力を示す。
【図4】図4は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の力価を示す。
【図5】図5は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の乳酸蓄積を示す。
【図6】図6は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図7】図7は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の力価を示す。
【図8】図8は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の乳酸蓄積を示す。
【図9】図9は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞のグルコース取り込みを示す。
【図10】図10は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の生存細胞密度を示す。
【図11】図11は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の力価を示す。
【図12】図12は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の乳酸レベルを示す。
【図13】図13は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日のグルコースレベルを示す。
【図14】図14は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の比生産性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
「アミノ酸」
「アミノ酸」なる語は、本明細書中で使用される場合、ポリペプチドの生成に通常使用される20個の天然アミノ酸、該アミノ酸の類似物または誘導体あるいはいずれかの非天然アミノ酸のいずれかをいう。本発明のアミノ酸は、培地中において細胞培養物に提供される。培地中に提供されるアミノ酸は、塩または水和物形態として提供されうる。
【0013】
本明細書中で使用される場合、「抗体」なる語は、少なくとも1つ、典型的には2つのVHドメインまたはその部分、および/または少なくとも1つ、典型的には2つのVLドメインまたはその部分を含むタンパク質を包含する。ある特定の具体例において、抗体は、2つの重鎖免疫グロブリンおよび2つの軽鎖免疫グロブリンからなる4量体であり、ここに、該重鎖免疫グロブリンおよび軽鎖免疫グロブリンは、例えば、ジスルフィド結合によって、相互連結されている。抗体、またはその一部は、限定するものではないが、齧歯類、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)、ラクダを包含するいずれかの起源から得ることができ、同様に、本明細書中により詳細に記載されるように、組み換え生産、例えば、キメラ、ヒト化および/またはイン・ビトロ生産されることができる。
【0014】
抗体の「抗原結合フラグメント」なる語に含まれる結合フラグメントの例は、限定するものではないが、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域にてジスルフィド結合によって連結された2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメント、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント、(vi)ラクダ科の、またはラクダ化された重鎖可変ドメイン(VHH)、(vii)単一鎖Fv(scFv)、(viii)二重特異性抗体、および(ix)Fc領域に融合した免疫グロブリン分子の1以上のフラグメントを包含する。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組み換え法を用いて、VLおよびVH領域が一対になって1価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作成されることを可能にする合成リンカーによって結合することができる(単一鎖Fv(scFv)として知られる)(例えば、Birdら、(1988) Science 242:423−26、Hustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879−83)参照)。かかる単一鎖抗体は、また、抗体の「抗原結合フラグメント」なる語に包含されることが意図される。これらのフラグメントは、当業者に既知の通常の技術を用いて得てもよく、該フラグメントは、無傷抗体と同じように機能について評価される。
【0015】
「抗原結合フラグメント」なる語は、所望により、例えば、安定性、エフェクター細胞機能または補体結合の1以上を強化する部分を包含する。例えば、抗原結合フラグメントは、さらに、ペグ(peg)化された部分、アルブミン、または重鎖および/または軽鎖定常領域を包含することができる。
【0016】
「二重特異性」または「二重機能性」抗体以外に、抗体は、その結合部位の各々が同一性を有することは理解される。「二重特異性」または「二重機能性」抗体は、2つの異なる重/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの結合を包含する種々の方法によって生産することができる(例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315−321(1990);Kostelnyら、J.Immunol.148,1547−1553(1992)参照)。
【0017】
抗体またはその抗原結合フラグメントを得るために、当業者に既知の多くの方法が利用可能である。例えば、モノクローナル抗体は、既知の方法にしたがって、ハイブリドーマの作成によって生産してもよい。該方法で形成されたハイブリドーマは、典型的には、標準的な方法、例えば、酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴(BiacoreTM(登録商標))分析を用いてスクリーンして、特定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1以上のハイブリドーマを同定する。特定の抗原のいずれかの形態は、免疫原、例えば、組み換え抗原、天然形態、そのいずれかの変種またはフラグメント、ならびにその抗原性ペプチドとして使用してもよい。
【0018】
抗体を作成する1の例示的方法は、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージまたはリボソームディスプレーライブラリーをスクリーニングすることを包含する。ファージディスプレーは、例えば、Ladnerら、米国特許第5,223,409号、Smith(1985)Science 228:1315−1317、WO92/18619、WO91/17271、WO92/20791、WO92/15679、WO93/01288、WO92/01047、WO92/09690およびWO90/02809に記載されている。
【0019】
ディスプレーライブラリーの使用のほかに、特定の抗原を用いて非ヒト動物、例えば、齧歯類、例えば、マウス、ハムスターまたはラットを免疫化することができる。ある特定の具体例において、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を包含する。例えば、マウス抗体産生に欠陥のあるマウス系統をヒトIg座の大きなフラグメントで操作することができる。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子から由来の抗原特異的モノクローナル抗体を生産および選択してもよい。例えば、XENOMOUSETM(登録商標)、Greenら、(1994)Nature Genetics 7:13−21、US2003−0070185、WO96/34096(1996年10月31日公開)およびPCT出願第PCT/US96/05928号(1996年4月29日出願)を参照のこと。
【0020】
ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、非ヒト動物から得られ、次いで、修飾、例えば、ヒト化、脱免疫化、キメラ化され、当該分野で既知の組み換えDNA技術を用いて生産されうる。キメラ抗体を作成するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851,1985、Takedaら、Nature 314:452,1985、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開第EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許第GB2177096B号を参照のこと。ヒト化抗体は、また、例えば、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現するが、内因性マウス免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現することのできないトランスジェニックマウスを用いて生産してもよい。Winterは、本明細書に記載のヒト化抗体を調製するために使用されうるCDR−グラフィティング法を例示する(米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体のCDRの全てを非ヒトCDRの少なくとも一部で置き換えてもよく、またはCDRのいくつかだけを非ヒトCDRで置き換えてもよい。ヒト化抗体の所定の抗原への結合に必要なCDRの数を置き換えさえすればよい。
【0021】
ヒト化抗体またはそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列を、ヒトFv可変ドメイン由来の等価配列で置き換えることによって作成することができる。ヒト化抗体またはそのフラグメントを作成するための例示的方法は、Morrison(1985)Science 229:1202−1207、Oiら、(1986)BioTechniques 4:214、ならびにUS5,585,089、US5,693,761、US5,693,762、US5,859,205、およびUS6,407,213によって提供される。かかる方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも1つ由来の免疫グロブリンFv可変ドメインの全てまたは一部をコードする核酸配列を単離、操作および発現させることを包含する。かかる核酸は、上記のように、所定の標的に対して抗体を産生するハイブリドーマから、ならびに他の供給源から得てもよい。ヒト化抗体分子をコードしている組み換えDNAは、次いで、適当な発現ベクター中にクローン化することができる。
【0022】
ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系置換および/または復帰変異の導入によって最適化される。かかる改変された免疫グロブリン分子は、当該分野で既知のいくつかの技術のいずれかによって作成することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308−7312,1983、Kozborら、Immunology Today,4:7279,1983、Olssonら、Meth.Enzymol.,92:3−16,1982参照)、PCT公開第WO92/06193号またはEP0239400の技術にしたがって作成してもよい。
【0023】
抗体またはそのフラグメントは、また、WO98/52976およびWO00/34317に開示される方法によって、ヒトT細胞エピトープの特異的欠失または「脱免疫化(deimmunization)」によって修飾してもよい。簡単に言えば、抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインは、MHCクラスIIに結合するペプチドについて分析することができ、これらのペプチドは、潜在的T−細胞エピトープを示す(WO98/52976およびWO00/34317に定義される)。潜在的T−細胞エピトープの検出の場合、「ペプチドスレッディング(threading)」と呼ばれるコンピューターモデリングアプローチを応用することができ、さらに、WO98/52976およびWO00/34317に記載のように、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースをVHおよびVL配列に存在するモチーフについて検索することができる。これらのモチーフは18個の主要MHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合し、かくして、潜在的T細胞エピトープを構成する。検出された潜在的T−細胞エピトープは、可変ドメイン中の少数のアミノ酸残基を置換することによって、または好ましくは、単一アミノ酸置換によって除去することができる。典型的には、保存的置換を作成する。しばしば、限定するものではないが、ヒト生殖細胞系抗体配列中のある位置に共通するアミノ酸を用いてもよい。ヒト生殖細胞系配列は、例えば、Tomlinsonら、(1992)J.Mol.Biol.227:776−798、Cook,G.P.ら、(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237−242、Chothia,D.ら、(1992)J.Mol.Biol.227:799−817、およびTomlinsonら、(1995)EMBO J.14:4628−4638に開示されている。V BASEディレクトリーは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的なディレクトリーを提供する(Tomlinson,I.A.ら、MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKによって編集)。これらの配列は、ヒト配列の供給源として、例えば、フレームワーク領域およびCDRのためのヒト配列の供給源として、使用することができる。コンセンサスヒトフレームワーク領域は、また、例えば、US6,300,064に記載されるように使用することができる。
【0024】
ある特定の具体例において、抗体は、改変された免疫グロブリン定常またはFc領域を含有することができる。例えば、本明細書中の教示にしたがって生産される抗体は、補体および/またはFc受容体のようなエフェクター分子により強力に、またはより特異的に結合することができ、それは、抗体のいくつかの免疫機能、例えば、エフェクター細胞活性、溶解、補体媒介性活性、抗体クリアランスおよび抗体半減期を調節することができる。抗体(例えば、IgG抗体)のFc領域に結合する典型的なFc受容体は、限定するものではないが、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIおよびFcRnサブクラスの受容体を包含し、それらは、これらの受容体の対立遺伝子変種および選択的スプライス形態を包含する。Fc受容体は、RavetchおよびKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457−92,1991、Capelら、Immunomethods 4:25−34,1994、およびde Haasら、J.Lab.Clin.Med.126:330−41,1995に概説されている。
【0025】
「バッチ培養」
「バッチ培養」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞を培養する際に最終的に使用される全ての成分(培地(下記の「培地」を参照のこと)および細胞自体を包含する)が培養プロセスの開始時に提供される細胞培養方法をいう。バッチ培養は、典型的には、ある時点で止められ、培地中の細胞および/または成分を回収し、所望により精製する。
【0026】
「バイオリアクター」
「バイオリアクター」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞培養物の生育に有用ないずれかの容器をいう。バイオリアクターは、細胞の培養に有用であるかぎり、いずれのサイズであってもよい。典型的には、バイオリアクターは、少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、または中間のいずれの容量であってもよい。バイオリアクターの内部条件は、限定するものではないが、pHおよび温度を包含するが、所望により、培養期間中に調節される。バイオリアクターは、本発明の培養条件下で培地中、細胞培養物を懸濁されたまま保持するのに適当ないずれかの材料(ガラス、プラスチックまたは金属を包含する)で構成されることができる。「生産バイオリアクター」なる語は、本明細書中で使用される場合、目的のポリペプチドまたはタンパク質の生産に使用される最終的なバイオリアクターをいう。生産バイオリアクターの容量は、典型的に、少なくとも500リットルであり、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、またはその中間のいずれの容量であってもよい。当業者は、本発明の実施に有用な適当なバイオリアクターを承知し、選択することができるであろう。
【0027】
「細胞密度」
「細胞密度」なる語は、本明細書中で使用される場合、所定の培地容量に存在する細胞の数をいう。
【0028】
「細胞生存力」
「細胞生存力」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養条件または実験バリエーションの所定の設定下、培養中の細胞の生存能をいう。該用語は、本明細書中で使用される場合、特定の時点で、培養中の全細胞数(生きている細胞および死んでいる細胞)に関連して、その時点で生きている細胞の部分をいう。
【0029】
「複合培地」
「複合培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、その正体または量が未知であるか、または制御されていない少なくとも1つの成分を含有する培地をいう。
【0030】
「培養物」「細胞培養物」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、細胞集団の生存および/または生育に適当な条件下、培地(下記の「培地」の定義を参照のこと)中に懸濁された細胞集団をいう。当業者に明らかなように、これらの用語は、また、本明細書中で使用される場合、細胞集団をおよび細胞集団が懸濁された培地を含む組み合わせをいう。ある特定の具体例において、細胞培養物は哺乳動物細胞培養物である。
【0031】
「規定培地」
「規定培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、培地の組成が既知であり、かつ、制御されている培地をいう。
【0032】
「フェッドバッチ培養」
「フェッドバッチ培養」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養プロセスの開始時または開始に続いて、付加的な成分が培養物に提供される細胞培養方法をいう。提供される成分は、典型的には、培養プロセスの間に枯渇した細胞のための栄養補給物を含む。さらに、または別法では、付加的な成分は、補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を包含しうる。ある特定の具体例において、付加的な成分は、フィード培地(下記の「フィード培地」の定義を参照のこと)中に提供されうる。フェッドバッチ培養は、典型的には、ある時点で終了し、培地中の細胞および/または成分は、回収され、所望により、精製される。
【0033】
「フィード培地」
「フィード培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞培養の開始後に加えられる生育する哺乳動物細胞を養う栄養分を含有する溶液をいう。フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供されるのと同一の成分を含有しうる。別法では、フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供された成分を超える1以上の付加的な成分を含有していてもよい。さらに、または別法では、フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供された1以上の成分を欠くものであってもよい。ある特定の具体例において、フィード培地の1以上の成分は、最初の細胞培養培地中に提供された成分の濃度またはレベルと同一または類似の濃度またはレベルで提供される。ある特定の具体例において、フィード培地の1以上の成分は、最初の細胞培養培地中に提供された成分の濃度またはレベルと異なる濃度またはレベルで提供される。ある特定の具体例において、フィード培地は、補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を含有する。
【0034】
「フラグメント」
「フラグメント」なる語は、本明細書中で使用される場合、ポリペプチドをいい、所定のポリペプチドに特有の、または特徴的な該ポリペプチドのいずれかの分離した部分として定義される。該用語は、本明細書中で使用される場合、また、少なくとも全長ポリペプチドのうち画分を保持する所定のポリペプチドのいずれかの分離した部分をいう。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも10%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の100%以上である。別法では、またはさらに、該用語は、本明細書中で使用される場合、全長ポリペプチドに見出される少なくとも確立された配列エレメントを含む所定のポリペプチドのいずれかの部分をいう。ある具体例において、該配列エレメントは、全長ポリペプチドの少なくとも約4−5、10、15、20、25、30、35、40、45、50またはそれ以上のアミノ酸にわたる。
【0035】
「遺伝子」
「遺伝子」なる語は、本明細書中で使用される場合、少なくともある部分が分離した最終産物、典型的には、限定するものではないが、ポリペプチドをコードするいずれかのヌクレオチド配列、DNAまたはRNAをいう。所望により、該用語は、ポリペプチドまたは他の分離した最終産物をコードするコーディング配列のみをいうのではなく、基底レベルの発現を調節するコーディング配列の前および/または後の領域(下記の「遺伝子調節エレメント」の定義を参照のこと)、ならびに個々のコーディングセグメント(「エクソン」)間の介在配列(「イントロン」)を包含することもある。
【0036】
「遺伝子調節エレメント」
「遺伝子調節エレメント」なる語は、本明細書中で使用される場合、作動可能に連結した遺伝子の産物の発現を調節するいずれかの配列エレメントをいう。遺伝子調節エレメントは、遺伝子産物の発現レベルを増加または減少させることによって機能してもよく、コーディング配列の前、中または後ろに位置していてもよい。遺伝子調節エレメントは、例えば、転写の開始、延長または終止、mRNAスプライシング、mRNAエディティング、mRNA安定性、細胞内でのmRNA局在化、翻訳の開始、延長または終止、あるいは遺伝子発現のいずれか他の段階を調節することによって、遺伝子発現のいずれかの段階で作用しうる。遺伝子調節エレメントは、個々にまたは互いに共同して機能しうる。
【0037】
「解糖」
「解糖」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞によるグルコースの代謝的酸化をいう。解糖の間、グルコースは、乳酸塩またはピルビン酸塩のいずれかに酸化する。好気性条件下、主要産物はピルビン酸塩である。酸素が枯渇した時、主要な解糖産物は乳酸塩である。本発明のある種の目的は、解糖の通常プロセスを改変することによって、細胞培養中の乳酸産生または蓄積を防止または遅くすることにある。ある特定の具体例において、乳酸産生または蓄積は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、および/またはフルオロアセテートを含む細胞培養物中で細胞を生育させることによって、防止または遅くされる。
【0038】
「解糖阻害物質」
「解糖阻害物質」なる語は、本明細書中で使用される場合、グルコースの解糖およびそれに続く乳酸産生または蓄積を阻害する、あるいはネガティブに改変する物質(例えば、化合物、ポリペプチド、薬物、代謝産物など)をいう。ある特定の具体例において、かかる解糖阻害物質は、細胞培養培地中に提供される。ある特定の具体例において、解糖阻害物質は、2−デオキシグルコースである。ある特定の具体例において、解糖阻害物質は、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートである。当業者は、過度の実験をすることなく、本発明の方法および組成物にしたがって用いられうる解糖阻害物質を認識または決定することができるであろう。
【0039】
「宿主細胞」
「宿主細胞」なる語は、本明細書中で使用される場合、目的のタンパク質またはポリペプチドを生産するために、本発明にしたがって培養において生育される細胞をいう。ある特定の具体例において、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。
【0040】
「ハイブリドーマ」
「ハイブリドーマ」なる語は、本明細書中で使用される場合、不死化細胞および抗体産生細胞の融合から生じる細胞または細胞の子孫をいう。得られるハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作成するために使用される個々の細胞は、いずれかの哺乳動物起源に由来することができ、限定するものではないが、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギおよびヒトを包含する。該用語は、トリオーマ細胞系統を包含し、それは、ヘテロハイブリッドメラノーマ融合物の子孫(ヒト細胞とネズミメラノーマ細胞系統との間の融合産物)が次いでプラズマ細胞と融合する時に生じる。さらに、該用語は、抗体を産生するいずれかの不死化ハイブリッド細胞系統、例えば、クアドローマを包含することを意味する(例えば、Milsteinら、Nature,537:3053,1983参照)。
【0041】
「積分生存細胞密度」、「IVCD」
「積分生存細胞密度」または「IVCD」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養が実行される時間量を乗じた培養過程にわたる生存細胞の平均密度をいう。産生したポリペプチドおよび/またはタンパク質の量が培養過程にわたって存在する生存細胞数に比例する場合、積分生存細胞密度は、培養過程にわたって産生したポリペプチドおよび/またはタンパク質の量を概算する有用なツールである。
【0042】
「培地」、「細胞培養培地」、「培養培地」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、生育している細胞を養う栄養分を含有する溶液をいう。ある特定の具体例において、培養培地は、哺乳動物細胞を生育するために有用である。典型的には、培養培地は、最小限の生育および/または生存のために細胞によって要求される必須および非必須アミノ酸、ビタミン類、エネルギー源、脂質、および微量元素を提供する。培養培地は、また、生育および/または生存を最少速度以上に促進する補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を含有していてもよく、限定するものではないが、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する。ある特定の具体例において、培地は、有利には、細胞生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に処方される。ある特定の具体例において、培地は、細胞培養の開始後に加えられるフィード培地である(上記の「フィード培地」の定義を参照のこと)。ある特定の具体例において、細胞培養培地は、開始時の栄養溶液および細胞培養開始後に加えられるいずれかのフィード培地の混合物である。
【0043】
「代謝廃棄産物」
「代謝廃棄産物」なる語は、本明細書中で使用される場合、特に、所望の組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現または活性に関連して、同様に細胞培養に不利益な正常または非正常代謝過程の結果として、細胞培養物によって生産された化合物をいう。例えば、代謝廃棄産物は、細胞培養物の生育または生存に不利益であり、産生される組み換えポリペプチドまたはタンパク質の量を減らし、発現されるポリペプチドまたはタンパク質の折り畳み、安定性、グリコシル化または他の翻訳後修飾を改変し、または他のあらゆる方法で、細胞および/または組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現または活性に不利益でありうる。例示的な代謝廃棄産物は、グルコース代謝の結果として生じる乳酸塩、およびグルタミン代謝の結果として生じるアンモニウムを包含する。細胞培養物は、1以上の代謝廃棄産物を生じうる。本発明の1の目標は、細胞培養物において、代謝廃棄産物の産生を遅らせ、減少させ、または除去することである。
【0044】
「ポリペプチド」
「ポリペプチド」なる語は、本明細書中で使用される場合、ペプチド結合を介してアミノ酸が連結してなる連続した鎖をいう。該用語は、いずれかの長さのアミノ酸鎖を示すために使用されるが、当業者は、該用語が長い鎖に限定されず、ペプチド結合を介して連結した2個のアミノ酸を含む最短の鎖を示すことができることを理解するであろう。当業者に既知であるように、ポリペプチドは、加工および/または修飾されていてもよい。例えば、ポリペプチドは、グリコシル化されていてもよい。本発明にしたがって発現されるべきポリペプチドは、ポリペプチド治療剤であることができる。ポリペプチド治療剤は、体内の領域に対して生物学的影響を有するポリペプチドであって、該領域において作用するか、または中間体を介して間接的に該領域に作用する。ポリペプチド治療剤の例は、下記に詳細に論じる。
【0045】
「タンパク質」
「タンパク質」なる語は、本明細書中で使用される場合、分離した単位として機能する1以上のポリペプチドをいう。単一のポリペプチドが分離した機能性単位であり、分離した機能性単位を形成するために他のポリペプチドと永続的または一時的な物理的結合を要求しない場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」なる語は、交換可能に使用されうる。分離した機能性単位が互いに物理的に結合する複数のポリペプチドから構成される場合、「タンパク質」なる語は、本明細書中で使用される場合、物理的にカップリングし、分離した単位として一緒に機能する複数のポリペプチドをいう。本発明にしたがって発現されるべきタンパク質は、タンパク質治療剤であることができる。タンパク質治療剤は、体内の領域に対して生物学的影響を有するポリペプチドであって、該領域において作用するか、または中間体を介して間接的に該領域に作用する。ポリペプチド治療剤の例は、下記に詳細に論じる。
【0046】
「組み換え発現したポリペプチド」および「組み換えポリペプチド」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、人工的にそのポリペプチドが発現するように操作された宿主細胞から発現したポリペプチドをいう。ある特定の具体例において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。ある特定の具体例において、該操作は、1以上の遺伝子修飾を含んでいてもよい。例えば、宿主細胞は、発現されるべきポリペプチドをコードしている1以上の異種遺伝子の導入によって遺伝子修飾されうる。異種組み換え発現ポリペプチドは、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドと同一または類似であることができる。異種組み換え発現ポリペプチドは、また、宿主細胞にとって外来物であることができ、例えば、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドにとって異種であることができる。ある特定の具体例において、異種組み換え発現ポリペプチドは、キメラである。例えば、ポリペプチドの部分は、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドと同一または類似であるアミノ酸配列を含有していてもよいが、他の部分は、宿主細胞にとって外来であるアミノ酸配列を含有する。さらに、または別法では、ポリペプチドは、宿主細胞に通常発現される2以上の異なるポリペプチド由来のアミノ酸配列を含有しうる。さらに、ポリペプチドは、宿主細胞にとって外来である2以上のポリペプチドから由来するアミノ酸配列を含有しうる。いくつかの具体例において、宿主細胞は、1以上の内在性遺伝子の活性化またはアップレギュレーションによって遺伝子修飾される。
【0047】
「補足成分」
「補足成分」なる語は、本明細書中で使用される場合、生育および/または生存を最少速度以上に促進する補足成分をいい、限定するものではないが、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する。ある特定の具体例において、補足成分は、最初の細胞培養物に加えられる。ある特定の具体例において、補足成分は、細胞培養の開始後に加えられる。
【0048】
「力価」
「力価」なる語は、本明細書中で使用される場合、所定量の培地容量中における、細胞培養物によって生産される組み換え発現したポリペプチドまたはタンパク質の総量をいう。力価は、典型的には、1ミリリットルの培地あたりのポリペプチドまたはタンパク質のミリグラムまたはマイクログラムの単位で表される。
【0049】
ある特定の具体例の詳細な説明
本発明は、細胞培養によるタンパク質および/またはポリペプチドの生産のための改善された方法および培地処方を提供する。ある特定の具体例において、本発明は、細胞培養物中における代謝廃棄産物の産生を最小限にする方法を提供する。ある特定の具体例において、本発明は、代謝廃棄産物である乳酸塩の産生を最小限にする方法を提供する。乳酸塩は、細胞成長、生存力、および/またはタンパク質産生または質に不利益であることが示された。以前の研究では、培養期間中、グルコースレベルを低く維持することによって、細胞培養中の乳酸レベルが低いまま維持されうることが明らかにされた(Cruzら、Metabolic Shifts by Nutrient Manipulation in Continuous Culture of BHK Cells,Biotechnology and Bioengineering,66(2):104−13,1999)。しかしながら、グルコースレベルの連続的モニタリングおよび調整は、タンパク質またはポリペプチドの大規模生産にとって実用できではない。本発明は、培養物のグルコースレベルを連続的にモニターし、調整する必要性を回避する細胞培養によるタンパク質および/またはポリペプチドの生産のための改善された方法および培地処方を提供する。ある特定の具体例において、細胞培養は、バッチまたはフェッドバッチ培養である。
【0050】
本発明のある特定の組成物は、解糖阻害物質を含む細胞培養培地を包含する。ある特定の具体例において、かかる解糖阻害物質は、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを包含する。いくつかの具体例によると、培養物の代謝廃棄産物のレベルは、かかる解糖阻害物質を欠くことを除いて同一の培地中、同一の条件下で生産される代謝廃棄産物のレベルよりも低い。いくつかの具体例によると、培養物の乳酸レベルは、かかる解糖阻害物質を欠くことを除いて同一の培地中、同一の条件下で生産される乳酸レベルよりも低い。
【0051】
本発明の他の具体例を下記に詳細に論じる。しかしながら、当業者は、これらの具体例に対する種々の修飾が本願請求の範囲の範囲内にあることを理解するであろう。特許請求の範囲およびその等価物は本発明の範囲を定義付けるが、本願発明は、特定の具体例の記載に限定されるべきではなく、該記載によって限定されるものではない。
【0052】
細胞
細胞培養が可能で、かつ、タンパク質またはポリペプチドの発現が可能ないずれの宿主細胞を本発明にしたがって利用してもよい。ある特定の具体例において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。本発明にしたがって使用されうる哺乳動物細胞の非限定的な例は、BALB/cマウス骨髄腫系統(NSO/l,ECACC No:85110503)、ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell,Leiden,The Netherlands))、SV40で形質転換したサル腎臓CV1系統(COS−7,ATCC CRL 1651)、ヒト胚腎臓系統(293細胞または懸濁培養中の生育のためにサブクローン化した293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.,36:59(1977))、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞+/−DHFR(CHO,UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980))、マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243−251(1980))、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1 587)、ヒト子宮頸癌細胞(HeLa,ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75)、ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065)、マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51)、TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44−68(1982))、MRC 5細胞、FS4細胞、およびヒトヘパトーマ系統(HepG2)を包含する。
【0053】
さらに、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する多数の市販および非市販のハイブリドーマ細胞系統を本発明にしたがって利用してもよい。当業者は、ハイブリドーマ細胞系統が異なる栄養要求性を有するかもしれないこと、および/または最適な生育およびポリペプチドまたはタンパク質発現のために異なる培養条件を必要とするかもしれないことを理解し、必要に応じて、条件を修飾することができるであろう。
【0054】
上記のように、多くの例において、高レベルの目的のタンパク質またはポリペプチドを産生するように、細胞を選択または操作する。しばしば、細胞は、例えば、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードしている遺伝子の導入によって、および/または目的のポリペプチドまたはタンパク質をコードしている遺伝子(内在性または導入のいずれか)の発現を調節する調節エレメントの導入によって、高レベルのタンパク質を産生するように操作される。
【0055】
ある特定のポリペプチドは、細胞成長、細胞生存力または何らかの方法で目的のポリペプチドまたはタンパク質の産生を最終的に制限する細胞の何らかの他の特徴に対して不利益な効果を有しうる。特定のポリペプチドを発現するように操作された1の特定の型の細胞の集団のなかでさえ、ある種の個々の細胞がよく生育し、および/または目的のポリペプチドをより多く生産するような細胞集団内のばらつきが存在しうる。ある特定の具体例において、細胞系統は、細胞を培養するために選択される特定の条件下での力強い生育のために、実行者によって経験的に選択される。ある特定の具体例において、特定のポリペプチドを発現するように操作された個々の細胞は、細胞生育、最終的な細胞密度、細胞生存能力パーセント、発現したポリペプチドの力価またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて、大規模生産のために選択される。
【0056】
細胞の培養
本発明は、ポリペプチドの発現が可能ないいずれかの細胞培養方法または系と共に用いてもよい。例えば、細胞は、バッチまたはフェッドバッチ培養において生育させてもよく、ここに、ポリペプチドの十分な発現後に培養を終了し、その後、発現したポリペプチドを回収し、所望により精製する。別法では、細胞は、潅流培養において生育させてもよく、ここに、培養を終了せず、新たな栄養分および他の成分を周期的または連続的に培養物に加え、その間、発現したポリペプチドは、周期的または連続的に回収される。
【0057】
細胞は、実行者によって選択されたいずれかの好都合な容量で生育させればよい。例えば、細胞は、2、3ミリリットル〜数リットルの範囲の容量の小規模反応容器内で生育させてもよい。別法では、細胞は、最小で約1リットル〜10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットルまたはそれ以上、あるいはその間のいずれかの容量の市販のバイオリアクター中で大規模に生育させてもよい。
【0058】
細胞培養の温度は、主に、細胞培養物が生存することができる温度範囲、高レベルのポリペプチドが産生する温度範囲、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になる温度範囲、および/またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて選択されるであろう。非限定的な一例として、CHO細胞は、約37℃でよく生育し、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産する。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃〜42℃でよく生育し、および/または高レベルのタンパク質またはポリペプチドを産生することができるが、本発明の開示によって教示される方法は、これらの温度に限定されない。ある特定の哺乳動物細胞は、約35℃〜40℃でよく生育し、および/または高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができる。ある特定の具体例において、細胞培養は、細胞培養過程中の1以上の時点で、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃で生育する。当業者は、細胞の必要性および実行者の生産要求に依存して、細胞を生育させるための適当な温度を選択することができるであろう。
【0059】
さらに、培養は、培養過程の間に1以上の温度シフトに付してもよい。培養温度がシフトする場合、温度シフトは、比較的漸進的であってもよい。例えば、温度変化が完了するまで数時間または数日かかってもよい。別法では、温度シフトは、比較的急速であってもよい。温度は、培養過程の間に絶え間なく増加または減少していてもよい。別法では、温度は、培養過程の間の種々の時点で分離した量が増加または減少してもよい。その後の温度または温度範囲は、最初または以前の温度または温度範囲より低くてもよく、または高くてもよい。当業者は、複数の分離した温度シフトがこれらの具体例に包含されることを理解するであろう。例えば、温度が一旦シフトすれば(高温または低温または温度範囲のいずれか)、ある一定期間、細胞を該温度または温度範囲で維持し、その後、温度を再び新たな温度または温度範囲にシフトしてもよく、その温度は、以前の温度または温度範囲より高温であっても、低温であってもよい。各分離したシフト後の培養物の温度は一定であるか、またはある一定の温度範囲内で維持されてもよい。
【0060】
温度範囲の最初の温度と同様に、温度シフト後の細胞培養物の温度または温度範囲は、細胞培養物が生存することができる温度波に、高レベルのポリペプチドが産生する温度範囲、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になる温度範囲、および/またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて選択されるであろう。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃〜42℃で生存可能であり、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができるが、本発明の開示によって教示される方法は、これらの温度に限定されない。ある特定の具体例において、哺乳動物細胞は、約25℃〜35℃で生存可能であり、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができる。ある特定の具体例において、細胞培養物は、温度シフト後に1回以上、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃で生育させる。当業者は、細胞の特定の必要性および実行者の特定の生産要求に依存して、温度シフト後に細胞を生育させるための適当な温度を選択することができるであろう。細胞は、実行者の要求および細胞自体の要求に依存して、いずれかの期間生育させればよい。
【0061】
ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、発現したポリペプチドが実行者の要求によって決定される十分に高い力価に達したらすぐに終止させる。非限定的例として、細胞培養は、ポリペプチド力価が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、2000mg/Lまたはそれ以上のときに終止させてもよい。当業者は、バッチおよび/またはフェッドバッチ培養物を回収してもよい1以上の適当な力価を選択できるであろう。さらに、または別法では、バッチおよびフェッドバッチ反応は、細胞が実行者の要求によって決定される十分に高い密度に達したらすぐに終了させる。例えば、培養は、細胞が最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントに達したらすぐに終了してもよい。
【0062】
ある特定の具体例において、乳酸塩およびアンモニウムなどの代謝廃棄産物の望ましくない産生または蓄積を防止するために、バッチおよび/またはフェッドバッチ細胞培養を終了させる。ある特定の具体例において、細胞培養は、乳酸塩が培養物中に望ましくないレベルまで蓄積する前に終了させる。非限定的例として、細胞培養は、乳酸塩が8、7、6、5、4、3、2または1g/Lに達する前に終了してもよい。ある特定の具体例において、本発明の方法および組成物にしたがって生育させた細胞培養物は、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になるので、伝統的な培養法を用いて可能になるよりも長時間生育させることができる。
【0063】
ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、実行者の要求によって決定される十分に高いレベルに細胞密度が達したらすぐに終了させる。例えば、細胞培養は、細胞密度が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100または1200万細胞/mLまたはその以上に達したらすぐに終了させてもよい。ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、細胞密度が100万細胞/mLに達する前に終了させる。ある特定の具体例において、本発明の方法および組成にしたがって生育させる細胞培養物は、伝統的な培養方法を用いて可能になるよりも高い細胞密度まで生育させることができる。
【0064】
ある特定の場合、細胞培養物に、その後の産生段階中に、細胞によって枯渇または代謝された栄養分または他の培地成分を補足することが有益または必要な場合がある。非限定的な例として、細胞培養物にホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、またはグルコースまたは他のエネルギー源を補足することが有益または必要な場合がある。これらの補足成分は、全てを細胞培養物に一度に加えてもよく、または一連の添加で細胞培養物に提供してもよい。
【0065】
ある特定の具体例において、細胞は、米国特許出願第11/213,308号、第11/213,317号および第11/213,633号(各々、2005年8月25日に出願)(出典明示により、全体として、本明細書の一部とされる)に記載の細胞培養方法のいずれかにしたがって生育させる。例えば、ある特定の具体例において、細胞は、累積アミノ酸濃度が約70mMを超える培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミン 対 累積総アミノ酸モル比が約0.2未満である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積無機イオン 対 累積総アミノ酸モル比が約0.4〜1である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミンおよび累積アルパラギンの合わせた濃度が約16〜36mMである培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、2、3、4または5個全ての上記培地条件を含む培養培地中で生育させてもよい。
【0066】
いくつかの具体例において、細胞は、米国仮出願第60/830,658号(2006年7月13日出願)(出典明示により全体として本明細書の一部とされる)に記載の1以上の条件下で生育させる。例えば、いくつかの具体例において、細胞は、約10〜600nMの濃度でマンガンを含有する培養培地中で生育させる。いくつかの具体例において、細胞は、約20〜100nMの濃度でマンガンを含有する培養培地中で生育させる。いくつかの具体例において、細胞は、約40nMの濃度でマンガンを含有する培地中で生育させる。
【0067】
当業者は、限定するものではないが、生育速度、細胞生存力、細胞培養物の最終細胞密度、乳酸塩およびアンモニウムなどの不利益な代謝副産物の最終濃度、発現したポリペプチドの最終的な力価、またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考える他の条件を包含する細胞培養物のある種の特性を最適化するために、特定の細胞培養条件を調整することができるであろう。
【0068】
培地組成物
幅広い種類の生育培地のうちいずれも、本願発明に使用されうる。ある特定の具体例において、細胞は、種々の化学的に規定された培地のいずれかにおいて生育され、ここに、該培地成分は、既知であり、かつ、調節されている。ある特定の具体例において、細胞は、種々の複合培地中で生育され、ここに、該培地成分の全てが既知であるわけではなく、および/または調節されているわけではない。
【0069】
哺乳動物細胞培養用化学規定生育培地を包含する細胞培養のための化学的に規定された生育培地は、この数年にわたって幅広く開発され、発表されている。規定培地の全成分は、よく特徴付けられており、そのように規定された培地は、血清または加水分解物などの複合添加物を含有しない。初期の培地処方は、細胞成長および生存力の維持を可能にするために開発され、タンパク質産生にはほとんど、または全く配慮していなかった。より近年になって、培地処方は、組み換えタンパク質および/またはポリペプチドを生産するより生産性の高い細胞培養物を支持するという明確な目的で開発された。
【0070】
規定培地は、典型的には、水中における既知濃度で約50種の化学物質からなる。ほとんどの規定培地は、1以上のよく特徴付けられたタンパク質、例えば、インシュリン、IGF−1、トランスフェリンまたはBSAも含有するが、他は、タンパク質成分を必要とせず、故に、タンパク質不含規定培地と呼ばれる。規定培地の化学成分は、一般に、5つの幅広いカテゴリー、すなわち、アミノ酸類、ビタミン類、無機塩類、微量元素、および明確な類別化を無視するその他雑多なカテゴリーに分類される。
【0071】
規定または複合の全ての培地は、生育している細胞のためのエネルギー源を含む。しばしば、エネルギー源は、グルコース、化学式C6H12O6を有する単純な単糖類である。Ham’s F10(Sigma)、最少必須培地([MEM],Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地([DMEM],Sigma)などの市販の培地を包含する伝統的な培地処方は、比較的高レベルのグルコースを含有していた。グルコースは、細胞の主な代謝エネルギー源であるので、伝統的には大量に必要とされると考えられていた。しかしながら、グルコースの迅速な消費は、乳酸塩の蓄積を導く。乳酸塩は、不利益な代謝廃棄産物であり、細胞培養における細胞成長および生産性の既知の阻害剤である(Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm.International,April 2003;Lao and Toth,Effect of ammonium and lactate on growth and metabolism of a recombinant Chinese Hamster Ovary Cell Culture,Biotechnology.Prog.13(5):688−691,1997参照)。
【0072】
本発明は、ある特定の細胞培養法および培地処方が培養における代謝廃棄産物、例えば、乳酸塩の蓄積を最小限にし、逆転さえするという知見を包含する。Rothらは、2−デオキシグルコースをラットに与えた場合、全食物摂取量を減らすことなくグルコース/エネルギーの流れを減少させることを明らかにした(Caloric Restriction in Primates and Relevance to Humans, Annals of the New York Academy of Sciences, 928:305−15, 2001)。2−デオキシグルコースは、糖の2位のヒドロキシル基が水素原子で置き換わっているグルコースの構造類似体である。該開示は、限定するものではないが、2−デオキシグルコースを包含する解糖阻害物質を含有する培地処方が細胞培養において細胞を生育させるために使用される場合、乳酸塩を包含する代謝廃棄産物の蓄積の減少をもたらすことを明らかにする。特定の理論に縛られることは望ましくないが、かかる解糖阻害物質を開始培地中に提供することによって、何らかの方法で解糖が遅くなるか、または改変され、かくして、培養物中の乳酸蓄積の遅延または防止が可能である。かかる解糖阻害物質を含有する本発明の培地処方は、また、細胞成長および/または生存力に有益な影響を与え、その結果、より高い全IVCDをもたらす。
【0073】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって使用されるべき解糖阻害物質は、2−デオキシグルコースを含む。ある特定の具体例において、2−デオキシグルコースは、1リットルあたり、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50グラムまたはそれ以上の濃度で提供される。ある特定の具体例において、細胞培養中における2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率は、1/50、1/45、1/40、1/39、1/38、1/37、1/36、1/35、1/34、1/33、1/32、1/31、1/30、1/29、1/28、1/27、1/26、1/25、1/24、1/23、1/22、1/21、1/20、1/19、1/18、1/17、1/16、1/15、1/14、1/13、1/12、1/11、1/10、1/9、1/8、1/7、1/6、1/5、1/4、1/3、1/2、1/1またはそれ以上またはそれ以下のいずれかの比率である。当業者は、細胞培養培地中における2−デオキシグルコースの上記の濃度および比率がバッチ培養、フェッドバッチ培養、または潅流培養を用いて達成されうることを理解するであろう。
【0074】
本発明は、また、グルタミン濃度が制限される培地処方を包含する。ある特定の具体例において、細胞培養培地中のグルタミンの濃度は、約13mM未満に制限される。ある特定の具体例において、細胞培養培地中のグルタミン濃度は、約4mM未満に制限される。
【0075】
代謝廃棄産物(例えば、乳酸塩)は、細胞が培養中で生育するにつれて経時的に蓄積する。上記のように、本明細書に記載の教示にしたがって生育された細胞培養物は、より高温での開始生育段階後、より低温に温度シフトしてもよい。グルタミン濃度が制限される開始培地を用いたときの興味深く有益な結果は、細胞培養物が低温にシフトするときに乳酸レベルの増加が止まり、実際、減少し始めることである(例えば、実施例3および4参照)。特定の理論に縛られることは望ましくないが、本発明によって教示されるような低グルタミン条件下で生育された細胞は、実際に、乳酸を消費および/または処理し始めうる。
【0076】
本明細書に記載の教示によると、一般に、全IVCDが高い細胞培養物を生育させることが望ましい。グルタミン濃度が制限された培養培地を提供し、開始生育段階後に細胞培養物をより低温にシフトすることによって、培養物中の乳酸レベルが減少し始め、潜在的に、より生存能力の高い、および/またはより密集した細胞培養が可能となる。該手法の1つの問題は、温度シフトが遅すぎると、細胞が乳酸塩を取り込めなくなり、その結果、より生存能力の低い、および/またはより低密度の細胞培養物がもたらされることである。かくして、乳酸が決定的なレベルまで蓄積する前に、培養物をより低温にシフトすることが望ましい。しかしながら、細胞をより低温にあまりにも早くにシフトした場合の負の効果は、細胞成長が結果として遅くなることである。かくして、伝統的な細胞培養方法は、実行者に、到底理想的とは言えない2つの選択肢から選択させる。すなわち、1)培養物を早期にシフトし、その結果、乳酸の全蓄積量が低くなるが(および、低グルタミン条件下で生育させる場合、その後の減少)、早期の温度シフト後に細胞生育速度が減少する。または2)培養物をより後期にシフトし、細胞生育速度の増加をもたらすが、乳酸の全蓄積量が高くなる。
【0077】
本発明の開示は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコースを含有する細胞培養培地中で細胞を生育させることの1の利益が、かかる解糖阻害物質を欠く比較培養培地中よりも遅い速度で乳酸が蓄積することであることを明らかにする。結果として、培養物がかかる解糖阻害物質を欠いた場合に可能となるよりも遅い時点で、培養物をより低温にシフトしてもよく、その結果、細胞はシフト後であっても、乳酸塩を取り込み始めるであろう。かくして、本明細書中に記載の特定の本願発明の培地および方法を利用することによって、シフト時に細胞密度がより高くなり、全IVCDが増加するであろう。
【0078】
本発明の開示は、シフト後に細胞が乳酸塩を確実に取り込むようにするために、培養物をいつシフトすべきかを決定するにあたり、少なくとも2つの因子、すなわち、シフト時の乳酸濃度およびシフト時の細胞密度が重要でありうることを教示する(例えば、実施例3参照)。特定の細胞系統は、種々の量の乳酸塩を生産し、または培養物中に蓄積された乳酸塩に対してより耐性であったり、またはより耐性が乏しい場合がある。にもかかわらず、本明細書に記載の本発明の方法および培地組成物の利用が所定の細胞培養において、乳酸のより低い全蓄積をもたらし、かくして、より遅い時点で培養物をより低温にシフトさせ、培養物の全IVCDを増加させることが可能である。当業者は、使用される細胞系統の特徴、生産されるべきタンパク質またはポリペプチドの特徴、培地中における他の成分の存在または不存在、または実験的な要求および/または他の要求に望ましいいずれか他の因子に基づいて、培養物をより低温にシフトする正確な時点を選択することができるであろう。
【0079】
本明細書中に開示される本発明の培地処方は、必要に応じ、または所望により、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、タンパク質加水分解物またはグルコースまたは他のエネルギー源で補足してもよい。本発明のある特定の具体例において、培地を化学インダクタント、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および酪酸ナトリウム(「NaB」)で補足することが有益でありうる。これらの任意の補足物は、培養の開始時に加えてもよく、または枯渇した栄養分の補充のために、または別の理由で、より後の時点で加えてもよい。当業者は、本発明の培養処方に含まれてもよいいずれかの望ましい、または必要な補足物を承知し、実験的な要求および/または他の要求に基づいて、加えるべき特定の補足物をを選択することができるであろう。
【0080】
ポリペプチド
宿主細胞において発現可能なポリペプチドは、本明細書に開示される方法および組成物にしたがって生産されうる。ポリペプチドは、宿主細胞にとって内在性の遺伝子から、または宿主細胞中に導入された異種遺伝子から発現されてもよい。ポリペプチドは、天然物であってもよく、または別法では、人工的に操作または選択された配列を有していてもよい。産生されるべきポリペプチドは、個々に天然のポリペプチドフラグメントから構成されていてもよい。さらに、または別法では、操作されたポリペプチドは、非天然の1以上のフラグメントを含んでいてもよい。
【0081】
望ましくは本発明にしたがって発現されうるポリペプチドは、しばしば、興味深い、または有用な生物学的または化学的活性に基づいて選択される。ある特定の具体例において、本発明の方法および/または組成物は、タンパク質治療剤またはポリペプチド治療剤を発現するために用いられる。例えば、本発明は、医薬上または商業上関連する酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤などを発現させるために用いてもよい。本発明にしたがって生産することのできるポリペプチドおよびタンパク質の下記リストは、本来、単なる例示であって、制限的記載であると解釈されるべきではない。当業者は、いずれのポリペプチドまたはタンパク質が本発明にしたがって発現されうるかを理解し、または特定の要求に基づいて生産されるべき特定のポリペチドを選択できるであろう。
【0082】
凝固因子
凝固因子は、医薬的および/または商業的物質として有効であることが示されている。血友病などの疾患の治療における組み換え凝固因子の重要性を鑑みると、本発明の方法および組成物にしたがって組み換え技術によって生産される凝固因子の発現は、特に興味深い。本発明にしたがって生産できる非限定的な凝固因子は、凝固因子IX(因子IXまたは「FIX」)である。FIXは、一本鎖糖蛋白であり、その欠如は、B型血友病、患者の血液が凝固できない障害をもたらす。かくして、出血をもたらすいずれの小さな創傷でも、潜在的に生死に関わる事象である。
【0083】
FIXは、活性化ペプチドの放出によって2本鎖セリンプロテアーゼ(因子IXa)に活性化されることのできる1本鎖チモーゲンとして合成される。因子IXaの触媒的ドメインは、重鎖に位置する(Changら、J.Clin.Invest.,100:4,1997参照、出典明示により本明細書の一部とされる)。FIXは、N−結合型およびO−結合型炭水化物を包含する複数のグリコシル化部位を有する。セリン61にある1の特定のO−結合型構造(Sia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1−O−Ser)は、かつて、FIXに独特であると考えられていたが、その後、哺乳動物およびショウジョウバエにおけるNotchタンパク質を包含する2、3個の他の分子において見出された(Maloneyら、Journal of Biol.Chem.,275(13),2000)。細胞培養においてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたFIXは、セリン61オリゴ糖鎖においていくつかの変化性を示す。これらの異なる糖型および他の可能性のある糖型は、ヒトまたは動物に投与された場合に凝固を誘導する異なる能力を有することがあり、および/または血液中で異なる安定性を有することがあり、その結果、あまり有効でない凝固をもたらす。
【0084】
B型血友病から臨床上区別がつかないA型血友病は、ヒト凝固因子VIII、1本鎖チモーゲンとして合成され、次いで、2本鎖活性型に変換する別の糖蛋白における欠陥によって引き起こされる。本発明は、また、凝固因子VIIIのグリコシル化パターンを調節または改変して、その凝固活性を変調するために用いてもよい。本発明にしたがって生産でき、そのグリコシル化パターンが調節または改変されることのできる他の糖蛋白凝固因子は、例えば、限定するものではないが、組織因子およびフォン・ウィルブランド(von Willebrand)因子を包含する。
【0085】
抗体
抗体は、特定の抗原に特異的に結合する能力を有するタンパク質である。医薬的または他の商業的物質として現在使用または研究下にある多数の抗体を鑑みると、本発明の方法および組成物にしたがう抗体の生産は、特に興味深い。
【0086】
宿主細胞中に発現されることのできるいずれの抗体も、本発明にしたがって使用されうる。ある特定の具体例において、発現されるべき抗体は、モノクローナル抗体である。ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、キメラ抗体である。当該分野で知られているように、キメラ抗体は、1以上の生物から由来のアミノ酸フラグメントを含有する。キメラ抗体分子は、例えば、ヒト定常領域と共に、マウス、ラット、または他の種の抗体由来の抗原結合ドメインを含むことができる。キメラ抗体を作成するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. 81:6851,1985、Takedaら、Nature 314:452,1985、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開第EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許第GB2177096B号(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)を参照のこと。
【0087】
ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化抗体は、アミノ酸残基の大部分がヒト抗体から由来し、かくして、ヒト対象にデリバリーした場合にいずれかの潜在的な免疫反応を最小限にするキメラ抗体である。ヒト化抗体において、超可変領域中のアミノ酸残基は、所望の抗原特異性またはアフィニティーを授与する非ヒト種由来の残基に置き換わっている。ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、ヒト抗体に対して、少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセントまたはそれ以上同一であるアミノ酸配列を有する。ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系置換(germline substitution)および/または復帰変異の導入によって最適化される。かかる改変された免疫グロブリン分子は、当該分野において既知のいくつかの技術のいずれかによって作成することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308−7312,1983;Kozborら、Immunology Today,4:7279,1983;Olssonら、Meth.Enzymol.,92:3−16,1982)、PCT公報第WO92/06193号またはEP0239400(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)にしたがって作成してもよい。
【0088】
非限定的な一例としてではあるが、本明細書の教示にしたがって生産されうる抗体は、抗−ABeta抗体である。抗−ABeta抗体は、アルツハイマー病(「AD」)の治療において、特に有望な可能性のある治療方法である。ADは、老人性認知症をもたらす進行性疾患である(一般に、Selkoe,TINS 16:403,1993;Hardyら、WO 92/13069;Selkoe,J.Neuropathol.Exp.Neurol.53:438,1994;Duffら、Nature 373:476,1995;Gamesら、Nature 373:523,1995参照、各々、出典明示により本明細書の一部とされる)。おおまかに言うと、該疾患は2つのカテゴリー、すなわち、老齢(65+歳)に起こる後期発症および老年期よりかなり前(すなわち、35歳〜60歳)に発症する早期発症に分類される。どちらのタイプの疾患も、病理は同じであるが、より早い年齢で開始する場合、異常性がより重篤かつ幅広い傾向にある。該疾患は、脳における少なくとも2つの型の病変、神経原繊維錯綜および老人斑によって特徴付けられる。神経原繊維錯綜は、対になって互いに巻き付いた2つのフィラメントからなる微小管関連タウタンパク質の細胞内沈着である。老人斑(すなわち、アミロイド斑)は、直径150μmまでの乱れた神経網からなり、その中央に、脳組織の切片の顕微鏡分析によって見ることのできる細胞外アミロイド沈着がある領域である。脳内のアミロイド斑の蓄積は、また、ダウン症候群および他の認識障害にも関連する。
【0089】
斑の主要な構成要素は、ABetaまたはBeta−アミロイドと呼ばれるペプチドである。ABetaペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる大きな膜貫通型糖蛋白の39−43個のアミノ酸からなる4−kDaの内部フラグメントである。種々のセクレターゼ酵素によるAPPのタンパク質分解プロセシングの結果として、ABetaは、主として、長さ40アミノ酸の短い形態および42−43アミノ酸の長い形態で見出される。APPの疎水性膜貫通型ドメインの部分は、ABetaのカルボキシ末端で見出され、特に長い形態の場合、ABetaの斑に凝集できる能力の原因となりうる。脳におけるアミロイド斑の蓄積は、最終的に、神経細胞死を導く。該型の神経劣化に関連する身体的症状は、アルツハイマー病の特徴である。
【0090】
APPタンパク質内でのいくつかの変異は、ADの存在に相関している(例えば、Goateら、Nature 349:704,1991(バニリン717〜イソロイシン)、Chartier Harlanら、Nature 353:844,1991(バニリン717〜グリシン)、Murrellら、Science 254:97,1991(バニリン717〜フェニルアラニン)、Mullanら、Nature Genet.1:345,1992(リジン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変化する二重変異)参照、各々、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。かかる変異は、APPのABetaへのプロセシング、特に、APPの増加した量の長い形態のABeta(すなわち、ABeta1−42およびABeta1 43)へのプロセシングの増加または改変によって、ADを引き起こすと考えられる。他の遺伝子、例えば、プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2の変異は、APPのプロセシングに間接的に影響を及ぼして、増加した量の長い形態のABetaを生成すると考えられる(Hardy,TINS 20: 154,1997参照、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。
【0091】
マウスモデルは、ADにおけるアミロイド斑の重要性を決定するために首尾よく使用されている(Gamesら、上掲;Johnson−Woodら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1550,1997、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。特に、PDAPPトランスジェニックマウス(変異型のヒトAPPを発現し、若年でアルツハイマー病を発症する)に長い形態のABetaを注射した場合、アルツハイマー病の進行減少およびABetaペプチドに対する抗体力価の増加の両方を表す(Schenkら、Nature 400,173,1999、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。上記した観察は、ABeta、特に、長い形態のABetaがアルツハイマー病の原因要素であることを示す。
【0092】
ABetaペプチドは、溶液中に存在することができ、CNS(例えば、CSF)およびプラズマにおいて検出することができる。ある特定の条件下、可溶性ABetaは、AD患者の老人斑および脳血管に見出される繊維性で毒性のベータシート形態に変換される。ABetaに対するモノクローナル抗体での免疫化を含む治療が研究されている。能動および受容の両方の免疫化がADマウスモデルにおいて試験された。能動免疫化は、脳における斑の負荷をいくらか減少させたが、経鼻投与の場合だけである。PDAPPトランスジェニックマウスの受動免疫化もまた、研究されている(Bardら、Nat.Med.6:916−19,2000、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。ABetaのアミノ末端および中央ドメインを認識する抗体は、ABeta沈着の食作用を刺激したが、一方、カルボキシ末端ドメイン近くのドメインに対する抗体は刺激しなかった。
【0093】
受動または能動免疫化後のABetaのクリアランスのメカニズムは、継続した研究下にある。2つのメカニズム、すなわち、中枢分解および末梢分解が有効なクリアランスのために提唱された。中枢分解メカニズムは、血液脳関門を横切り、斑に結合し、先在する斑のクリアランスを誘導することのできる抗体に依存する。クリアランスは、Fc−受容体媒介性食作用によって促進されることが示された(Bardら、上掲)。ABetaクリアランスの末梢分解メカニズムは、抗体投与時に、脳、CSFおよびプラズマ間のABetaの動的平衡が崩壊し、それにより、1のコンパートメントから別のコンパートメントへABetaの輸送を導くことに依存する。中枢誘導性のABetaは、CSFおよびプラズマ中に輸送され、そこで分解される。近年の研究では、脳におけるアミロイド沈着の減少さえ伴わずに、可溶性で非結合型ABetaがADに関連する記憶障害に関与すると結論づけた。ABetaクリアランスのこれらの経路の作用および/または相互作用を決定するために、さらなる研究が必要とされる(Dodelら、The Lancet Vol. 2:215, 2003、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。
【0094】
抗−ABeta抗体は、ABetaまたはアミロイド斑を構成する他の成分に結合し、浄化しうるので、潜在的に有望なAD治療経路である。本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、例えば、より効果的にアミロイド斑の成分に結合し、浄化することによって、2、3またはそれ以下の重篤な副作用を伴ってアミロイド斑を浄化することによって、またはアミロイド斑の形成または構築を妨げることによって、ADまたは他の関連疾患をより良好に治療するように働きうる。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、モノクローナル抗体である。
【0095】
ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの可溶性形態に結合することなく、凝集形態に特異的に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、抗−ABetaの凝集形態に結合しない条件下で、抗−ABetaの可溶性形態に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、凝集形態および可溶性形態の両方に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、斑中のABetaに結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、血液脳関門を横切る。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、対象に負荷されるアミロイドを減少させる。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、対象における神経炎性ジストロフィー(neuritic dystrophy)を減少させる。ある特定の具体例において、抗−ABeta抗体は、シナプス構築(例えば、シナプトフィジン)を維持することができる。
【0096】
いくつかの具体例によると、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの残基13−28内のエピトープに結合する(天然ABetaの最初のN末端残基を1とする)。いくつかの具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの残基19−22内のエピトープに結合する。いくつかの具体例において、種々の抗−ABetaエピトープに対する結合特異性を有する複数のモノクローナル抗体を用いる。例えば、いくつかの具体例において、ABetaの残基19−22内のエピトープに特異的な抗体は、ABetaの残基19−22の外側のエピトープに対して特異的な抗体と共同投与される。かかる抗体は、連続的または同時に投与することができる。ABeta以外のアミロイド成分に対する抗体も使用することができる(例えば、投与または共同投与される)。
【0097】
ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、別法で生産された抗−ABeta抗体よりも強くまたは特異的にABetaエピトープに結合する。抗体のエピトープ特異性は、既知の技術によって、例えば、種々のメンバーが種々のABetaサブ配列を表示するファージディスプレーライブラリーを形成することによって、決定できる。次いで、ファージディスプレーライブラリーは、試験下で抗体に特異的に結合しているメンバーについて選択されうる。配列のファミリーが単離される。典型的には、かかるファミリーは、共通のコア配列を含有し、異なるメンバーにおいてフランキング配列の長さが異なる。抗体に対する特異的な結合を示す最も短いコア配列は、典型的には、抗体によって結合されるエピトープを規定する。別法では、またはさらに、抗体は、そのエピトープ特異性がすでに決定された抗体を用いる競合アッセイにおいてエピトープ特異性について試験されうる。例えば、ABetaに対する結合について15C11抗体と競合する抗体は、15C11と同一または類似のエピトープ、すなわち、残基ABeta19−22内に結合すると考えられる。ある特定の具体例において、エピトープ特異性について抗体をスクリーニングすることは、治療効力の有用な予知因子である。例えば、ABetaの残基13−28(例えば、Aβ19−22)内のエピトープに結合することが決定された抗体は、おそらく、本発明の方法にしたがってアルツハイマー病を予防および治療するのに有効である。
【0098】
ABetaの他の領域に結合することなく、ABetaの好ましいセグメントに特異的に結合する抗体は、他の領域に結合するモノクローナル抗体または無傷ABetaに対するポリクローナル血清と比較して、いくつかの利益を有する。特に、等しい質量の投与量の場合、好ましいセグメントに特異的に結合する抗体の投与量は、アミロイド斑のクリアランスにおいて有効な、より高モル量の抗体を含有する。また、好ましいセグメントに特異的に結合している抗体は、無傷APPポリペプチドに対するクリアランス応答を誘導することなく、アミロイド沈着に対するクリアランス応答を誘導し、それにより、潜在的な副作用を減少しうる。
【0099】
ある特定の具体例において、上記のモノクローナル、キメラ、1本鎖またはヒト化抗体は、天然のいずれの種におけるいずれの抗体においても、自然に生じないアミノ酸残基を含有しうる。これらの外来残基は、例えば、モノクローナル、キメラ、1本鎖またはヒト化抗体において新規または修飾された特異性、アフィニティーまたはエフェクター機能を与えるために利用できる。
【0100】
酵素
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできる別のクラスのポリペプチドには、酵素がある。疾患の治療ならびに他の商業的および医薬的使用における組み換え酵素の重要性を鑑みると、本発明にしたがう酵素の生産は、特に興味深い。
【0101】
非限定的な一例としてではあるが、グルコセレブロシダーゼ(GCR)の欠如は、ゴーシェ病として知られる病態をもたらし、それは、ある種の細胞のリソソームにおけるグルコセレブロシドの蓄積によって引き起こされる。ゴーシェ病の対象は、脾腫、肝腫脹、骨障害、血小板減少症および貧血を包含する一連の症状を示す。FriedmanおよびHayesは、主要アミノ酸配列において単一置換を含有する組み換えGCR(rGCR)が改変されたグリコシル化パターン、特に、天然GCRと比べてフコースおよびN−アセチルグルコサミン残基の増加を示したことを明らかにした(米国特許番号第5,549,892号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。かくして、本発明の方法にしたがうGCRの生産が意図される。当業者は、本発明の方法にしたがって生産されうる他の望ましい酵素を承知しているであろう。
【0102】
成長因子および他のシグナル伝達分子
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできる別のクラスのポリペプチドには、成長因子および他のシグナル伝達分子がある。成長因子および他のシグナル伝達分子の生物学的重要性および潜在的な治療剤としてのその重要性を鑑みれば、本発明の方法および組成物にしたがうこれらの分子の生産は、特に興味深い。成長因子は、典型的には、細胞によって分泌され、他の細胞上の受容体に結合して活性化し、それにより、受容体細胞における代謝または発育変化を起こす糖蛋白である。
【0103】
哺乳動物成長因子および他のシグナル伝達分子の非限定的な例は、サイトカイン、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGFs)、例えば、aFGFおよびbFGF、形質転換成長因子(TGFs)、例えば、TGF−アルファ、およびTGF−ベータ1、TGF−ベータ2、TGF−ベータ3、TGF−ベータ4またはTGF−ベータ5を包含するTGF−ベータ、インシュリン様生長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II)、デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質、CDタンパク質、例えば、CD−3、CD−4、CD−8、およびCD−19;エリトロポイエチン、骨誘導因子、抗毒素、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロン、例えば、インターフェロン−アルファ、−ベータ、および−ガンマ、コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF、インターロイキン(TLs)、例えば、IL−1ないしIL−10、腫瘍壊死因子(TNF)アルファおよびベータ、インシュリンA−鎖、インシュリンB−鎖、プロインシュリン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、凝固因子、例えば、因子VIIIC、因子IX、組織因子、およびフォン・ウィルブランド因子、抗凝固因子、例えば、プロテインC、心房性ナトリウム利尿因子、肺表面活性剤、プラスミノーゲンアクチベーター、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿または組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)、ボンベシン、トロンビン、造血成長因子、エンケファリナーゼ、RANTES(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted)、ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ)、ミュラー管抑制物質、レラキシンA−鎖、レラキシンB−鎖、プロレラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5または−6(NT−3、NT−4、NT−5、またはNT−6)、または神経成長因子、例えば、NGF−ベータを包含する。当業者は、本発明にしたがって発現されることのできる他の成長因子またはシグナル伝達因子を承知しているであろう。
【0104】
受容体
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできるポリペプチドの別のクラスには、受容体がある。受容体の生物学的重要性および潜在的な治療剤としてのその重要性を鑑みれば、本発明の方法および組成物にしたがうこれらの分子の生産は、特に興味深い。受容体は、典型的には、細胞外シグナル伝達リガンドを認識することによって機能する膜貫通型糖蛋白である。受容体は、しばしば、リガンド認識ドメインのほかに、プロテインキナーゼドメインを有する。該プロテインキナーゼドメインは、リガンド結合時に標的細胞内分子をリン酸化することによってシグナル伝達経路を開始し、それにより、細胞内での発育的変化または代謝的変化をもたらす。
【0105】
ある特定の具体例において、腫瘍壊死因子阻害剤は、腫瘍壊死因子アルファおよびベータ受容体(TNFR−1;EP 417,563、1991年3月20日公開;およびTNFR−2,EP 417,014、1991年3月20公開)(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)の形態において、本発明の系および方法にしたがって発現される(概説に関し、Naismith and Sprang, J Inflamm.47(1−2):1−7,1995−96参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。いくつかの具体例によると、腫瘍壊死因子阻害剤は、可溶性TNF受容体を含む。ある特定の具体例において、腫瘍壊死因子阻害剤は、可溶性TNFR−Igを含む。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、TNFRIおよびTNFRIIの可溶性形態である。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、可溶性TNF結合タンパク質である。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、TNFR−Ig融合タンパク質、例えば、TNFR−Fcまたはエタネルセプト(etanercept)である。本明細書中で使用される場合、「エタネルセプト」なる語は、p75 TNF−α受容体の細胞外部分の2つの分子からなる2量体であって、各分子がヒトIgG1の235アミノ酸Fc部分からなるTNFR−Fcをいう。
【0106】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって生産されるべき受容体は、受容体チロシンキナーゼ(RTKs)である。RTKファミリーは、種々の機能的な多くの細胞型にとって欠かせない受容体を包含する(例えば、YardenおよびUllrich、Ann.Rev.Biochem.57:433−478,1988、UllrichおよびSchlessinger、Cell 61:243−254,1990参照)(出典明示により本明細書の一部とされる)。RTKsの非限定的な例は、腫瘍壊死因子アルファおよびベータ受容体(TNFR−1;EP 417,563、1991年3月20日公開;およびTNFR−2,EP 417,014、1991年3月20日公開;概説に関し、NaismithおよびSprang、J Inflamm.47(1−2):1−7, 1995−96参照)(出典明示により本明細書の一部とされる)、線維芽細胞成長因子(FGF)受容体ファミリー、上皮細胞成長因子受容体(EGF)ファミリーのメンバー、血小板由来成長因子(PDGF)受容体、免疫グロブリンおよびEGF相同ドメイン−1(TIE−1)およびTIE−2受容体を伴うチロシンキナーゼ(Satoら、Nature 376(6535):70−74,1995)(出典明示により本明細書の一部とされる)およびc−Met受容体を包含し、そのいくつかは、直接または間接的に血管形成を促進することが示唆される(MustonenおよびAlitalo、J.Cell Biol.129:895−898,1995)。RTK’sの他の非限定的な例は、胎児肝キナーゼ1(FLK−1)(時々、キナーゼ挿入ドメイン含有受容体(KDR)と称する(Termanら、Oncogene 6:1677−83,1991)か、または血管内皮細胞成長因子受容体2(VEGFR−2)と称する)、fms様チロシンキナーゼ−1(Flt−1)(DeVriesら、Science 255;989−991,1992;Shibuyaら、Oncogene 5:519−524,1990)、時々、血管内皮細胞成長因子1(VEGFR−1)と称する)、ニューロフィリン−1、エンドグリン、エンドシアリン、およびAxlを包含する。当業者は、本発明のある特定の方法および組成物にしたがって発現されることのできる他の受容体を承知しているであろう。
【0107】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって生産されるべき受容体は、G−プロテイン結合型受容体(GPCR)である。GPCRは、薬物作用および開発の主要な標的である。実際、受容体は現在知られている薬物の半分以上をもたらしており(Drews, Nature Biotechnology, 14:1516, 1996)、GPCRsは、臨床的に処方される薬物の30%がGPCRを拮抗または作動するという治療的介入のための最も重要な標的を示す(Milligan,G.およびRees、S.,TIPS,20:118−124,1999)。これらの受容体は確立された治療標的としての証明された歴史を有しているので、本発明にしたがうGPCRsの生産は、また、特に興味深い。
【0108】
GPCRsは、7回膜貫通型ドメインを有するタンパク質である。GPCRへのリガンドの結合時に、シグナルが細胞内で変換され、その結果、細胞の生物学的または生理学的特性の変化がもたらされる。GPCRsは、G−プロテインおよびエフェクター(G−プロテインによって変調される細胞内酵素およびチャネル)と共に、細胞内セカンドメッセンジャーの状態を細胞外インプットへ連絡するモジュラーシングナル伝達系の成分である。これらの遺伝子および遺伝子産物は、疾患の潜在的な原因物質である。
【0109】
GPCRタンパク質スーパーファミリーは、現在、250種を超える、遺伝子重複(または他のプロセス)によって生じた変種を示す受容体、パラログ(異なる種由来の同じ受容体であるオルソログの反対として)を含有する。該スーパーファミリーは、5つのファミリーに分けることができる。すなわち、ロドプシンおよびベータ2−アドレナリン受容体によって類型化され、現在200を超える独特のメンバーによって代表されるファミリーI;近年特徴付けられた副甲状腺ホルモン/カルシトニン/セクレチン受容体ファミリーである、ファミリーII;哺乳動物における代謝型グルタミン酸受容体ファミリーであるファミリーIII;D.discoideumの走化性および発育において重要なcAMP受容体ファミリーであるファミリーIV;およびSTE2などの真菌交配フェロモン受容体であるファミリーV。
【0110】
GPCRsは、生体アミン、炎症の脂質メディエーター、ペプチドホルモン、および感覚シグナルメディエーターのための受容体を包含する。GPCRは、受容体がその細胞外リガンドに結合した時に活性化になる。GPCRのコンフォメーション変化は、リガンド−受容体相互作用に由来するが、GプロテインのGPCR細胞内ドメインに対する結合アフィニティーに影響を及ぼす。これにより、Gプロテインに対する増加したアフィニティーでGTPが結合できるようになる。
【0111】
GTPによるGプロテインの活性化は、Gプロテインαサブユニットとアデニレートシクラーゼまたは他のセカンドメッセンジャー分子ジェネレーターとの相互作用を導く。該相互作用は、アデニレートシクラーゼの活性を調節し、したがって、セカンドメッセンジャー分子、cAMPの産生を調節する。cAMPは、他の細胞内タンパク質のリン酸化および活性化を調節する。別法では、他のセカンドメッセンジャー分子、例えば、cGMPまたはエイコシノイド(eicosinoid)の細胞レベルが、GPCRの活性によってアップレギュレートまたはダウンレギュレートされうる。Gプロテインαサブユニットは、GTPaseによるGTPの加水分解によって失活し、α、βおよびγサブユニットが再び結合する。次いで、ヘテロ3量体Gプロテインがアデニレートシクラーゼまたは他セカンドメッセンジャー分子ジェネレーターから解離する。GPCRの活性は、また、細胞内および細胞外ドメインまたはループのリン酸化によって調節されうる。
【0112】
グルタミン酸受容体は、神経伝達において重要なGPCRsの群を形成する。グルタミン酸塩は、CNSにおける主要な神経伝達物質であり、神経可塑性、認識、記憶、学習およびいくつかの神経学的障害、例えば、癲癇、卒中および神経変性において重要な役割を有すると考えられる(Watson,S.およびS.Arkinstall, The G− Protein Linked Receptor Facts Book, Academic Press, San Diego CA, pp. 130−132, 1994)。血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)ファミリーは、その作用がGPCRsによって媒介される関連するポリペプチドの群である。該ファミリーの主要メンバーは、VIP自体、セクレチン、および成長ホルモン放出因子(GRF)である。VIPは、平滑筋の弛緩、種々の組織におけるセクレチンの刺激または阻害、種々の免疫細胞活性の調節、およびCNSにおける種々の興奮性および阻害性活性を包含する幅広いプロフィールの生理学的作用を有する。セクレチンは、膵臓および腸における酵素およびイオンの分泌を刺激し、脳においても少量存在する。
【0113】
一般に、本発明の実行者は、目的のポリペプチドを選択し、その正確なアミノ酸配列を知るであろう。本発明にしたがって発現されるべきいくつかの所定のタンパク質は、それ自体の特定の特徴を有し、培養細胞の細胞密度または生存力に影響を及ぼし、同一の培養条件下で生育される別のポリペプチドまたはタンパク質よりも低レベルで発現されうる。当業者は、適宜、本明細書に記載の培地および方法を修飾して、細胞成長および/または所定の発現されたポリペプチドまたはタンパク質の生産を最適化できるであろう。
【0114】
宿主細胞中へのポリペプチドの発現のための遺伝子の導入
ある特定の具体例において、細胞中に導入される核酸分子は、本発明にしたがって発現されるのが望ましいポリペプチドをコードする。ある特定の具体例において、核酸分子は、細胞による所望のポリペプチドの発現を誘導する遺伝子産物をコードしていてもよい。例えば、導入される遺伝材料は、内在性または異種ポリペプチドの転写を活性化する転写因子をコードしていてもよい。別法では、またはさらに、導入核酸分子は、細胞によって発現されるポリペプチドの翻訳または安定性を増加しうる。
【0115】
目的のポリペプチドの発現を達成するために十分な核酸を哺乳動物宿主細胞中に導入するのに適当な方法は、当該分野で既知である。例えば、Gethingら、Nature,293:620−625,1981;Manteiら、Nature,281:40−46,1979;Levinsonら、EP 117,060;およびEP 117,058(各々、出典明示により本明細書の一部とされる)を参照のこと。哺乳動物細胞の場合、遺伝材料を細胞中に導入する一般的な方法は、Grahamおよびvan der Erb,Virology, 52:456−457,1978のリン酸カルシウム沈降法またはHawley−Nelson,Focus 15:73,1993のlipofectamineTM(登録商標)(Gibco BRL)法を包含する。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的な態様は、Axelによって、米国特許第4,399,216号(1983年4月16日発行)に記載されている。遺伝材料を哺乳動物細胞中に導入するための種々の技術については、Keownら、Methods in Enzymology, 185:527−537, 1990およびMansourら、Nature, 336:348−352, 1988を参照のこと。
【0116】
ある特定の具体例において、導入されるべき核酸は、裸の(naked)核酸分子の形態である。これらの具体例のいくつかの態様において、細胞中に導入される核酸分子は、ポリペプチドをコードしている核酸および必要な遺伝子調節エレメントのみからなる。これらの具体例のいくつかの態様において、ポリペプチド(必要な調節エレメントを包含する)をコードしている核酸は、プラスミドベクター内に含有される。哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現に適当なベクターの非限定的な代表例は、pCDNA1;pCD(Okayamaら、Mol.Cell Biol.5:1136−1142,1985参照);pMClneo ポリ−A(Thomasら、Cell 51:503−512,1987参照);バキュロウイルスベクター、例えば、pAC 373またはpAC 610;CDM8(Seed, B., Nature 329:840, 1987)およびpMT2PC (Kaufmanら、EMBO J. 6:187−195, 1987)を包含する。ある特定の具体例において、細胞中に導入されるべき核酸分子は、ウイルスベクター内に含有される。例えば、ポリペプチドをコードしている核酸は、ウイルスゲノム(または、部分ウイルスゲノム)中に挿入されうる。ポリペプチドの発現を指示する調節エレメントは、ウイルスゲノム中に挿入された核酸と共に含まれることができ(すなわち、ウイルスゲノム中に挿入された遺伝子に結合される)、またはウイルスゲノム自体によって提供されることができる。
【0117】
裸のDNAは、DNAおよびリン酸カルシウムを含有している沈澱を形成することによって、細胞中に導入されることができる。さらに、または別法では、裸のDNAは、また、DNAおよびDEAE−デキストランの混合物を形成し、次いで、該混合物を細胞と一緒にインキュベートするか、または細胞およびDNAを適当なバッファー中で一緒にインキュベートし、次いで、該細胞を高圧電気パルスに付すこと(すなわち、エレクトロポレーション)によって、細胞中に導入することができる。いくつかの具体例において、裸のDNAは、DNAをカチオン性脂質を含有するリポソーム懸濁と混合することによって、細胞中に導入される。DNA/リポソーム複合体を、次いで、細胞と一緒にインキュベートする。裸のDNAは、また、例えばマイクロインジェクションによって、細胞中に直接注入することができる。
【0118】
さらに、または別法では、裸のDNAは、DNAをカチオン、例えば、ポリリジンと複合体化し、それを細胞表面受容体のためのリガンドに結合することによって細胞中に導入することができる(例えば、Wu,G.およびWu,C.H.,J.Biol.Chem.263:14621,1988;Wilsonら、J.Biol.Chem.267:963−967,1992;および米国特許第5,166,320号参照)。DNA−リガンド複合体の受容体への結合は、受容体媒介性エンドサイトーシスによるDNAの取り込みを容易にする。
【0119】
特定の核酸配列、例えば、ポリペプチドをコードしているcDNAを含有するウイルスベクターの使用は、核酸配列を細胞中に導入するための一般的なアプローチである。ウイルスベクターでの細胞の感染は、大部分の細胞が核酸を受容するという利益を有し、それにより、核酸を受容した細胞の選択の必要性を回避することができる。さらに、例えば、ウイルスベクター中に含有されるcDNAによって、ウイルスベクター内でコードされる分子は、一般に、ウイルスベクター核酸を取り込んだ細胞において効率良く発現される。
【0120】
欠損性レトロウイルスは、遺伝子療法の目的で遺伝子移入における使用について、よく特徴付けられている(概説に関し、Miller,A.D.,Blood 76:271,1990を参照のこと)。レトロウイルスゲノム中に挿入された目的のポリペプチドをコードしている核酸を有する組み換えレトロウイルスを構築することができる。さらに、レトロウイルスゲノムの部分は、レトロウイルス複製が欠損するように除去することができる。次いで、複製欠損性レトロウイルスをビリオン中にパッケージし、それを用いて、標準的な技術によりヘルパーウイルスの使用によって標的細胞を感染させることができる。
【0121】
アデノウイルスのゲノムは、目的のポリペプチドをコードし、発現するが、正常な溶解ウイルスライフサイクルにおけるその複製能に関して不活性化されるように操作することができる。例えば、Berknerら、BioTechniques 6:616,1988;Rosenfeldら、Science 252:431−434,1991;およびRosenfeldら、Cell 68:143−155,1992を参照のこと。アデノウイルス株Ad型5 dl324または他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)から由来する適当なアデノウイルスベクターは、当該分野でよく知られている。組み換えアデノウイルスは、それらが有効な遺伝子デリバリービヒクルであるために分裂細胞を必要としないことにおいて有益であり、気道上皮(Rosenfeldら、1992,上掲)、内皮細胞(Lemarchandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482−6486,1992)、肝細胞(HerzおよびGerard,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812−2816,1993)および筋細胞(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581−2584,1992)を包含する幅広く種々の細胞型を感染させるために使用することができる。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびそこに含有される外来性DNA)は、宿主細胞ゲノム中に組み込まれないが、エピソームのままであり、それにより、導入DNAが宿主細胞ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)中に組み込まれるようになる挿入変異の結果として起こることのできる潜在的な問題を回避する。さらに、外来性DNAに関するアデノウイルスゲノムの収容能力は、他の遺伝子デリバリーベクターと比べて大きい(8キロベースまで)(Berknerら、上掲;Haj−AhmandおよびGraham,J.Virol.57:267,1986)。現在使用される大抵の複製欠損性アデノウイルスベクターは、ウイルス性E1およびE3遺伝子の全てまたは部分について欠失しているが、アデノウイルスの遺伝材料の80%も保持する。
【0122】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、有効な複製および増殖ライフサイクルのためにヘルパーウイルスとして別のウイルス、例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスを必要とする天然欠損性ウイルスである。(概説に関し、Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro. and Immunol. 158:97−129, 1992を参照のこと。)それは、また、そのDNAを非分裂細胞中に組み込みうる2、3のウイルスのうち1つであり、高頻度の安定な組込を示す(例えば、Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−356,1992;Samulskiら、J.Virol.63:3822−3828,1989;およびMcLaughlinら、J.Virol.62:1963−1973,1989参照)。300塩基対という小さいAAVを含有するベクターをパッケージすることができ、組み込むことができる。外因性DNAのためのスペースは、約4.5kbに限られている。AAVベクター、例えば、Tratschinら(Mol. Cell. Biol. 5:3251−3260, 1985)に記載のベクターを用いて、DNAを細胞中に導入することができる。AAVベクターを用いて、種々の核酸が種々の細胞型に導入されている(例えば、Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466−6470,1984;Tratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072−2081,1985;Wondisfordら、Mol.Endocrinol.2:32−39,1988;Tratschinら、J.Virol.51:611−619,1984;およびFlotteら、J.Biol.Chem.268:3781−3790,1993参照)。
【0123】
核酸分子を細胞集団中へ導入するために使用される方法が細胞の大きな集団の修飾および細胞によるポリペプチドの効率的な発現をもたらす場合、細胞の修飾された集団は、さらに単離または集団内での個々の細胞のサブクローニングをすることなく、使用してもよい。すなわち、細胞の集団によるポリペプチドの十分な生産があり、その結果、さらなる細胞単離は必要なく、該集団をすぐに使用してポリペプチドの生産のための細胞培養に接種することができる。いくつかの具体例において、ポリペプチドを効率的に生産する単一細胞由来の細胞の均質集団を単離および拡大することが望ましい。
【0124】
目的のポリペプチドをコードする細胞中に核酸分子を導入する代わりに、導入核酸は、別のポリペプチド、タンパク質または細胞によって内因的に生産されるタンパク質またはポリペプチドの発現レベルを誘導または増加する調節エレメントをコードしていてもよい。例えば、細胞は、特定のポリペプチドを発現することができる場合があるが、さらなる細胞処理を用いることなく、そうすることはできない場合がある。同様に、細胞は、所望の目的に不十分な量のポリペプチドを発現する場合がある。かくして、目的のポリペプチドの発現を刺激する物質を用いて、細胞によるポリペプチドの発現を誘導または増加させることができる。例えば、導入された核酸分子は、目的のポリペプチドの転写を活性化またはアップレギュレートする転写因子をコードしていてもよい。次いで、かかる転写因子の発現は、目的のポリペプチドの発現またはより強固な発現を導く。同様に、導入された核酸分子は、1以上の転写リプレッサーを目的のポリペプチドの調節領域から取り去る(titrate away)1以上の調節エレメントを含有していてもよい。
【0125】
ある特定の具体例において、ポリペプチドの発現を指示する核酸を安定に宿主細胞中に導入する。ある特定の具体例において、ポリペプチドの発現を指示する核酸は、一時的に宿主細胞中に導入される。当業者は、実験要求に基づいて、細胞中に核酸を安定に導入するか、または一時的に導入するかを選択することができるであろう。
【0126】
目的のポリペプチドをコードしている遺伝子は、1以上の調節遺伝子調節エレメントに結合していてもよい。いくつかの具体例において、遺伝子調節エレメントは、ポリペプチドの構成的発現を指示する。いくつかの具体例において、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子の誘導性発現を提供する遺伝子調節エレメントを使用することができる。誘導性遺伝子調節エレメント(例えば、誘導性プロモーター)の使用は、細胞中のポリペプチドの産生の変調を可能にする。真核生物細胞において使用するための潜在的に有用な誘導性遺伝子調節エレメントの非制限的な例は、ホルモン調節エレメント(例えば、Mader,S.およびWhite,J.H.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603−5607,1993参照)、合成リガンド調節エレメント(例えば、Spencer,D.M.ら、Science 262:1019−1024,1993)および電離放射線調節エレメント(例えば、Manome,Y.ら、Biochemistry 32:10607−10613,1993;Datta,R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10149−10153,1992)を包含する。当該分野で知られた付加的な細胞特異的系または他の調節系を本明細書に記載の方法および組成物にしたがって用いてもよい。
【0127】
当業者は、本発明の教示にしたがって、細胞に目的のポリペプチドを発現させる遺伝子を導入する方法を選択し、所望により適宜修飾することができるであろう。
【0128】
発現したポリペプチドの単離
ある特定の具体例において、本発明にしたがって発現されるタンパク質またはポリペプチドを単離および/または精製することが望ましい。ある特定の具体例において、発現したポリペプチドまたはタンパク質は、培地中に分泌され、かくして、例えば、精製工程における第1段階として、遠心分離または濾過によって細胞および他の固体を除去してもよい。
【0129】
いくつかの具体例において、発現したポリペプチドまたはタンパク質は、宿主細胞の表面に結合する。かかる具体例において、培地を除去し、ポリペプチドまたはタンパク質を発現している宿主細胞を精製工程の第1段階として溶解する。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズによる物理的破壊および高pH条件への曝露を包含するいくつかの当業者に既知の手段によって達成することができる。
【0130】
ポリペプチドまたはタンパク質は、限定するものではないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、または差別的溶解度、エタノール沈澱、またはタンパク質の精製のためのいずれか他の利用可能な技術を包含する標準的な方法によって、単離および精製されうる(例えば、Scopes,Protein Purification Principles and Practice 2nd Edition,Springer−Verlag,New York,1987;Higgins,S.J.およびHames,B.D.(eds.),Protein Expression:A Practical Approach,Oxford Univ Press,1999;およびDeutscher,M.P.,Simon,M.I.,Abelson,J.N.(編),Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology,Methods in Enzymology Series,Vol 182,Academic Press,1997参照)(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。特に、イムノアフィニティークロマトグラフィーの場合、タンパク質は、該タンパク質に対して生じた抗体であって、固定支持体に固定された抗体を含むアフィニティーカラムに結合させることによって単離されうる。別法では、アフィニティータグ、例えば、インフルエンザコート配列、ポリヒスチジン、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼを標準的な組み換え技術によってタンパク質に結合させて、適当なアフィニティーカラムに通すことにより容易な精製を可能にすることができる。当業者は、発現したポリペプチドを単離するのに有用な他の既知のアフィニティータグを承知しているであろう。精製過程の間のポリペプチドまたはタンパク質の分解を減少または排除するために、プロテアーゼ阻害剤、例えば、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンまたはアプロチニンをいずれかの段階または全段階で加えてもよい。プロテアーゼ阻害剤の使用は、しばしば、発現されたポリペプチドまたはタンパク質を単離および精製するために、細胞を溶解しなければならないときに有益である。
【0131】
当業者には、正確な精製技術は、精製されるべきポリペプチドまたはタンパク質の特徴、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する細胞の特徴、および細胞を生育させた培地の組成に依存して変更してもよいことが明らかであろう。
【0132】
免疫原性組成物
本明細書の教示にしたがって生産されるタンパク質またはポリペプチドは、また、免疫原性組成物において、例えばワクチンとして使用してもよい。一般に、本発明の免疫原性組成物の成分について適当な「有効量」または投与量の選択は、典型的には、限定するものではないが、使用される免疫原性組成物中の選択されたポリペプチドの同一性、ポリペプチドのグリコシル化パターン、および対象の物理的状態を包含する、特に、免疫される対象の全体的な健康状態、年齢および体重を包含する種々の因子に基づく。当該分野で知られるように、特定の投与方法および経路ならびに免疫原性組成物中の付加的な成分の存在もまた、DNAプラスミド組成物の投与量および量に影響を及ぼしうる。かかる有効投与量の選択および上方向または下方向の調整は、当該分野の技術範囲内である。限定するものではないが、保護的応答を包含する免疫応答を誘導するために、または有意な副作用を伴わずに患者において外因性の影響を生じるために必要とされる免疫原性組成物の量は、これらの因子に依存して変化する。適当な投与量は、当業者によって容易に決定される。
【0133】
本発明のある特定の免疫原性組成物は、アジュバントを含有していてもよい。アジュバントは、免疫源または抗原と一緒に投与した場合に免疫応答を増強する物質である。いくつかのサイトカインまたはリンフォカインは、免疫変調活性を有することが示され、かくして、アジュバントとして使用され、限定するものではないが、インターロイキン1−α、1−β、2、4、5、6、7、8、10、12(例えば、米国特許第5,723,127号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、13、14、15、16、17および18(およびその変異形態)、インターフェロン−α、βおよびγ、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(例えば、米国特許第5,078,996号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、GSF、および腫瘍壊死因子αおよびβを包含する。本発明において有用なまた別の他のアジュバントは、ケモカインを包含し、限定するものではないが、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、およびRANTESを包含する。接着分子、例えば、セクレチン、例えば、L−セクレチン、P−セクレチンおよびE−セクレチンもまた、アジュバントとして有用でありうる。また他の有用なアジュバントは、限定するものではないが、ムチン様分子、例えば、CD34、GlyCAM−1およびMadCAM−1、インテグリンファミリーのメンバー、例えば、LFA−1、VLA−1、Mac−1およびp150.95、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、例えば、PECAM、ICAMs、例えば、ICAM−1、ICAM−2およびICAM−3、CD2およびLFA−3、共刺激分子、例えば、CD40およびCD40L、血管成長因子、神経生長因子、繊維芽細胞成長因子、上皮細胞成長因子、B7.2、PDGF、BL−1、および血管内皮成長因子を包含する成長因子、Fas、TNF受容体、Flt、Apo−1、p55、WSL−1、DR3、TRAMP、Apo−3、AIR、LARD、NGRF、DR4、DR5、KILLER、TRAIL−R2、TRICK2、およびDR6を包含する受容体分子を包含する。また別のアジュバント分子は、カスパーゼ(ICE)を包含する。国際特許公開第WO98/17799号および第WO99/43839号(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)も参照のこと。
【0134】
コレラ毒素(CT)およびその変異体もまた、アジュバントとして有用であり、公開された国際特許出願第WO00/18434号に記載(ここに、アミノ酸位置29のグルタミン酸が別のアミノ酸(アスパラギン酸以外、例えば、ヒスチジン)で置き換わっている)のものを包含する。類似のCTsまたは変異体は、公開された国際特許第WO02/098368号に記載される(ここに、単独で、またはアミノ酸位置68のセリンの別のアミノ酸による置換と共に、アミノ酸位置16のイソロイシンが別のアミノ酸で置き換わり、および/またはアミノ酸位置72のバリンが別のアミノ酸で置き換わっている)。他のCT毒素は、公開された国際特許出願第WO02/098369号に記載される(ここに、アミノ酸位置25のアルギニンが別のアミノ酸で置き換わり;および/またはアミノ酸位置49にアミノ酸が挿入され;および/または2つのアミノ酸がアミノ酸位置35および36に挿入されている)。これらの参考文献の各々は、全体として本明細書の一部とされる。
【0135】
ある特定の具体例において、本発明の免疫原性組成物は、限定するものではないが、鼻腔内、経口、直腸、非経口、皮内、経皮(例えば、国際特許公開第WO98/20734号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、筋内、腹腔内、皮下、静脈内および動脈内を包含する種々の経路によって、ヒトまたは非ヒト脊椎動物に投与される。適当な経路は、使用される免疫原性組成物の性質、患者の年齢、体重、性別および全体的な健康状態の評価、免疫原性組成物中に存在する抗原、および/または当業者に既知の他の因子に依存して選択されうる。
【0136】
ある特定の具体例において、免疫原性組成物は、複数回投与する。免疫原性組成物投与の順序および個々の投与間の時間間隔は、限定するものではないが、宿主の物理的特徴および該方法の適用に対する宿主の正確な応答を包含する当業者に既知の関連する因子に基づいて、当業者によって選択されうる。
【0137】
医薬処方
ある特定の具体例において、生産されたポリペプチドまたはタンパク質は、薬理活性を有し、医薬の製造に有用であろう。上記のように、本願発明の組成物は、対象に投与してもよく、または、まず、限定するものではないが、非経口、静脈内、筋内、皮内、皮下、経口、バッカル、舌下、鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸、および膣経路を包含するいずれかの利用可能な経路によってデリバリーするために処方されてもよい。本発明の医薬組成物は、典型的には、哺乳動物細胞系統から発現された精製したポリペプチドまたはタンパク質、デリバリー剤(すなわち、上記のカチオン性ポリマー、ペプチド分子輸送体、界面活性剤など)を医薬上許容される担体と含む。本明細書中で使用される場合、「医薬上許容される担体」なる語は、医薬投与に適合性の溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。補足活性化合物もまた、本発明の組成物中に配合することができる。例えば、本発明にしたがって生産されたタンパク質またはポリペプチドを全身性薬物療法のための薬物、例えば、毒素、低分子量細胞毒剤、生物学的応答修飾剤、および放射性核種にコンジュゲートしてもよい(例えば、Kunzら、Calicheamicin derivative−carrier conjugates,US20040082764 A1参照)。本発明にしたがって医薬組成物を調製するのに有用な付加的な成分は、例えば、フレーバー剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、増量剤、潤滑剤、圧縮補助剤、結合剤、錠剤崩壊剤、カプセル被包材料、乳化剤、バッファー、保存料、甘味料、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤、または浸透圧調節剤、またはその組み合わせを包含する。
【0138】
別法またはさらに、本発明にしたがって生産されるタンパク質またはポリペプチドは、1以上の付加的な医薬活性剤と共に(同時または連続的に)投与してもよい。これらの医薬活性剤の例示リストは、the Physicians’ Desk Reference,55 Edition, published by Medical Economics Co.,Inc.,Montvale,NJ,2001(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に見出すことができる。これらの挙げられた薬剤の多くの場合、医薬上有効な投与量および方針は、当該分野で知られており、多くは、the Physicians’ Desk Reference自体に示されている。
【0139】
固体医薬組成物は、1以上の固体担体、および所望により、1以上の他の添加剤、例えば、フレーバー剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、増量剤、潤滑剤、圧縮補助剤、結合剤または錠剤崩壊剤またはカプセル化被包材料を含有していてもよい。適当な固体担体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖類、ラクトース、デキストリン、デンプン、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスまたはイオン交換樹脂、またはその組み合わせを包含する。粉末医薬組成物において、担体は、微粉化固体であってもよく、微粉化された活性成分と混合する。錠剤において、活性成分は、一般に、適当な割合で必要な圧縮性を有する担体、および所望により、他の添加剤と混合し、所望の形状およびサイズに圧縮する。
【0140】
液体医薬組成物は、本発明にしたがって発現されたポリペプチドまたはタンパク質、および溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシルまたは加圧組成物を形成するための1以上の液体担体を含有していてもよい。医薬上許容される液体担体は、例えば、水、有機溶媒、医薬上許容される油脂、またはその組み合わせを包含する。液体担体は、他の適当な医薬添加剤、例えば、可溶化剤、乳化剤、バッファー、保存料、甘味料、フレーバー剤、懸濁化剤、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤または浸透圧調節剤、またはその組み合わせを含有することができる。液体処方が小児科用途を目的とする場合、一般的に、アルコールを含むことを避けるか、またはアルコールの量を制限することが望ましい。
【0141】
経口または非経口投与に適当な液体担体の例は、水(所望により、セルロース誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロースなどの添加剤を含有する)、アルコールまたはその誘導体(一価アルコールまたは多価アルコール、例えば、グリコールを包含する)または油(例えば、分別ココヤシ油および落花生油)を包含する。非経口投与の場合、担体は、また、油性エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルであることができる。加圧組成物のための液体担体は、ハロゲン化炭化水素または他の医薬上許容されるプロペラントであることができる。
【0142】
滅菌溶液または懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、筋内、腹腔内、硬膜外、髄腔内、静脈内または皮下注射によって、非経口投与することができる。経口または経粘膜投与のための医薬組成物は、液体または固体組成形態のいずれであってもよい。
【0143】
ある特定の具体例において、医薬組成物は、意図される投与経路と適合性であるように処方される。非経口、皮内、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分、すなわち、滅菌希釈剤、例えば、注射用水、セーライン溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒、抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン、抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム、キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸、バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、および等張性を調整するための薬剤、例えば、塩化ナトリウム、またはデキストロースを含むことができる。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸および/または水酸化ナトリウムで調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てのシリンジまたは複数回投与用のバイアル中に封入することができる。
【0144】
注射での使用に適当な医薬組成物は、典型的には、滅菌水性溶液(水溶性)または分散液ならびに滅菌注射可能溶液または分散液の即席調製物のための滅菌粉末を包含する。静脈内投与の場合、適当な担体は、生理学的セーライン、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化セーライン(PBS)を包含する。全ての場合、組成物は、滅菌されているべきであり、容易な通針性が存在する程度まで流動性でなければならない。有利には、ある特定の医薬処方は、製造および貯蔵条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。一般に、関連する担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびその適当な混合物を含有する溶媒または分散媒体であることができる。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合、所望の粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持されることができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成されることができる。ある特定の場合、等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことが有用であろう。注射可能な組成物の長期の吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによって、もたらされることができる。
【0145】
滅菌注射溶液は、必要な量の精製したポリペプチドまたはタンパク質を適当な溶媒中に、上記の成分の1つまたは組み合わせと共に配合し、必要ならば、次いで、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドまたはタンパク質を、塩基性分散媒体および上記の必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に配合することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、有利な調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、活性成分および予め滅菌濾過した溶液から由来するいずれかの付加的な所望の成分の粉末を生じる。
【0146】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療薬投与の目的で、精製ポリペプチドまたはタンパク質を賦形剤と共に配合し、錠剤、トローチまたはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態において使用することができる。経口組成物は、また、例えば、口腔洗浄剤として使用するために、流体担体を用いて調製することもできる。医薬上適合性の結合剤、および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含むことができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、下記の材料のいずれか、または同様の性質の化合物:微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなどの結合剤、デンプンまたはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムまたはステロテス(Sterotes)などの滑沢剤、コロイド状二酸化珪素などの潤滑剤、シュークロースまたはサッカリンなどの甘味剤、またはペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジフレーバーなどのフレーバー剤を含有することができる。かかる調製物は、例えば、子供への投与、錠剤の嚥下が危険な個体、または動物への投与を容易にするために、所望により、混合チュアブルまたは液体処方あるいは食物材料または液体であってもよい。経口デリバリー用処方は、有利には、胃腸管内での安定性を改善するための薬剤および/または吸収を増強するための薬剤を配合していてもよい。
【0147】
吸入による投与の場合、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドまたはタンパク質およびデリバリー剤を含む本発明の組成物は、また、鼻腔内投与または吸入により投与されることができ、便利には、乾燥粉末吸入器の形態、あるいは適当なプロペラント、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134ATM)または1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EATM)、二酸化炭素または他の適当な気体の使用を伴う、または伴わない加圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザーもしくはネブライザーからのエーロゾルスプレー提供の形態でデリバリーされる。加圧エーロゾルの場合、投与単位は、計量された、例えば、治療上有効量をデリバリーするためのバルブを提供することによって決定されうる。本発明は、特に、鼻用スプレー、吸入器、または上気道および/または下気道への他の直接的デリバリーを用いる本発明の組成物のデリバリーを意図する。インフルエンザウイルスに対して向けられたDNAワクチンの鼻腔内投与は、CD8 T細胞応答を誘導することが示され、このことは、該経路によってデリバリーされたときに、呼吸管における少なくともいくつかの細胞がDNAを取り込むことができ、本発明のデリバリー剤が細胞性取り込みを増強することを示す。ある特定の具体例によると、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドおよびデリバリー剤を含む組成物は、エーロゾル投与のための大きな多孔性粒子として処方される。
【0148】
修飾された放出性および拍動的な放出性経口投与形態は、放出速度修飾剤として作用する賦形剤を含有していてもよく、これらは、該装置本体を被覆し、および/または装置本体中に含まれている。放出速度修飾剤は、限定するものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテート、ポリエチレンオキシド、キサンタンガム、カルボマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、水素化ひまし油、カルナウバ蝋、パラフィンワックス、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーおよびその混合物を包含する。修飾された放出性および拍動的な放出性経口投与形態は、放出速度修飾賦形剤の1つまたは組み合わせを含有しうる。放出速度修飾賦形剤は、どちらも、投与形態内、すなわち、マトリックス内、および/または投与形態上、すなわち、表面またはコーティング上に存在していてもよい。
【0149】
全身性投与は、また、経粘膜または経皮手段によることができる。経粘膜または経皮投与の場合、浸透されるべき障壁に適当な浸透剤を処方中に用いる。かかる浸透剤は、当該分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を包含する。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは座剤の使用によって達成されることができる。経皮投与の場合、精製ポリペプチドまたはタンパク質およびデリバリー剤は、例えば、下記:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水の1以上との混合物中、懸濁または溶解された活性化合物を含有する適当な軟膏として処方することができる。別法では、それらは、例えば、下記:鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水の1以上との混合物中、懸濁または溶解された適当なローションまたはクリーム、として処方されることができる。
【0150】
別法では、化合物は、座剤または膣座剤の形態で投与することができ、またはそれらは、ゲル、ヒドロゲル、ローションまたは他のグリセリド、溶液、クリーム、軟膏または散布剤の形態で局所的に塗布されてもよい。
【0151】
いくつかの具体例において、組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化したデリバリーシステムを包含する放出制御処方など、身体からの迅速排除に対するポリペプチドまたはタンパク質を保護するであろう担体と共に調製される。一般に、本発明の組成物は、放出が迅速、遅延、修飾、抑制、脈動化、または制御されたデリバリーのために処方してもよい。生物分解性の生体適合性ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸を使用することができる。かかる処方の調製方法は、当業者に明らかであろう。適当な材料は、また、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に入手できる。リポソーム懸濁(ウイルス性抗原に対するモノクローナル抗体で感染させた細胞を標的とするリポソームを含む)は、また、医薬上許容される担体として使用することができる。これらは、米国特許第4,522,811号に記載のように、当業者に既知の方法にしたがって調製することができる。
【0152】
本発明にしたがって製造されたタンパク質およびポリペプチドは、また、シクロデキストリンと組み合わせて使用してもよい。シクロデキストリンは、ある特定の分子との包接錯体および非包接錯体を形成することが知られている。シクロデキストリン錯体の形成は、タンパク質またはポリペプチドの溶解性、溶解速度、バイオアベイラビリティーおよび/または安定性を修飾しうる。シクロデキストリン錯体は、一般に、大抵の投与形態および投与経路に有用である。タンパク質またはポリペプチドとの直接的な錯体化とは別に、シクロデキストリンは、補助添加剤として、例えば、担体、希釈剤または可溶化剤として使用されうる。アルファ−、ベータ−およびガンマ−シクロデキストリンが最も一般的に使用され、適当な例は、公開された国際特許出願第WO91/11172号、第WO94/02518号および第WO98/55148号に記載されている。
【0153】
いくつかの具体例において、本発明の医薬組成物は、単位投与形態、例えば、錠剤またはカプセルにおいて提供される。容易な投与および投与量の均一性のために、単位投与形態における経口または非経口組成物を処方するのが有益でありうる。かかる形態において、組成物は、適量のポリペプチドまたはタンパク質を含有する単位投与量においてさらに分割する。単位投与形態は、パッケージした組成物であることができ、例えば、パック入りの粉末、バイアル、アンプル、予め充填したシリンジまたは液体入りのサシェであることができる。単位投与形態は、例えば、カプセルまたは錠剤自体であることができ、またはパッケージ形態の適当な数のいずれかのかかる組成物であることができる。当業者に明らかなように、治療上有効な単位投与量が、例えば、投与方法、ポリペプチドまたはタンパク質の強度、および/またはレシピエントの重量および医薬組成物中の他の成分の正体を包含するいくつかの因子に依存する。
【0154】
本発明にしたがって発現されるポリペプチドまたはタンパク質は、必要に応じて種々の間隔で種々の期間にわたり、例えば、週に1回を約1〜10週間、2〜8週間、約3〜7週間、約4、5または6週間など、投与することができる。当業者には、限定するものではないが、疾患または障害の重篤度、以前の治療、患者の全体的な健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を包含するある特定の因子が対象を効果的に治療するために必要とされる投与量および時機に影響を及ぼすことができることが明らかであろう。本明細書中に記載のポリペプチドまたはタンパク質での対象の治療は、単一治療または一連の治療を含んでいてもよい。さらに、当然のことながら、適当な投与量がポリペプチドまたはタンパク質の強度に依存しうること、および例えば、予め選択された所望の応答が達成されるまで投与量を増やして投与することによって、特定のレシピエントに合わせていてもよい。当然のことながら、いずれかの特定の動物に特異的な投与レベルは、使用される特定のポリペプチドまたはタンパク質の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康状態、性別および食餌、投与の時間、投与の経路、排出速度、いずれかの薬物の組み合わせ、および変調されるべき発現または活性の度合いを包含する種々の因子に依存しうる。
【0155】
本発明は、非ヒト動物の治療のための本発明の組成物の使用を包含する。したがって、投与量および投与方法は、獣医薬理学および医薬の既知の原理にしたがって選択すればよい。例えば、Adams,R.(編),Veterinary Pharmacology and Therapeutics,8th edition,Iowa State University Press;ISBN:0813817439;2001に、手引きを見出すことができる。
【0156】
本発明の医薬組成物は、投与指示書と共に容器、パックまたはディスペンサーに含ませることができる。
【実施例】
【0157】
実施例1:培養皿におけるα−GDF−8細胞の細胞成長に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
乳酸塩は、細胞培養における細胞成長の既知の阻害剤である(LaoおよびToth, Biotechnology.Prog.13(5):688−691,1997参照)。細胞培養中のグルコースの量が減少すると、生産される乳酸塩の量が同時に減少する。2−デオキシグルコースは、糖の2位のヒドロキシル基が水素部分に置き変わっているグルコースの構造類似体である。Rothらは、2−デオキシグルコースをラットに与えたとき、全食物取り込み量を減少させることなく、グルコース/エネルギーの流れを減少させることを明らかにした(Annals of the New York Academy of Sciences,928:305−15,2001)。該実施例では、哺乳動物細胞培養物への2−デオキシグルコースの添加が培養皿における細胞の成長に不利益であるかどうかを決定するために実験を行った。
【0158】
材料および方法:
成長および分化因子8に対するモノクローナル抗体を発現するように操作されたチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞(「α−GDF−8細胞」)(Veldmanら、Neutralizing Antibodies Against GDF−8 and Uses Therefor,US20040142382 A1参照)を培養皿において、種々の濃度の2−デオキシグルコースと共に、最終的な開始濃度9g/Lまでグルコースを補足した培地1中で生育させた。表1は、培地1の組成を示す。
【0159】
【表1】
【0160】
結果および結論:
細胞培養皿中におけるα−GDF−8細胞の比成長率を図1に示す。2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞は、約0.03 l/hの比成長率(「μ」)を示した。増加量の2−デオキシグルコースの添加により、用量依存的に比成長率が減少した。例えば、1g/Lの2−デオキシグルコース(2−デオキシグルコース:グルコース比が1:9)の存在下で生育させた細胞は、0.02 l/hを少し上回る比成長率を示したが、2.5g/Lの2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、約0.015 l/hの比成長率を示し、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞のおおよそ半分であった。かくして、2−デオキシグルコースの存在は細胞成長を阻害するようであり、約1:9より大きい2−デオキシグルコース 対 グルコース比は、比成長率を2−デオキシグルコースの不在下で観察される成長率の半分以下のレベルに減少させる。
【0161】
実施例2:培養皿におけるα−GDF−8細胞の乳酸に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例1は、培養皿において生育させた細胞培養物が、低濃度で与えられた2−デオキシグルコースによく耐性があることを明らかにした。該実施例では、2−デオキシグルコースの存在が培養皿において生育させた細胞培養物中の乳酸蓄積に対して影響を及ぼすかどうかを試験するために、実験を行った。
【0162】
材料および方法;
α−GDF−8細胞を培養皿中、種々の濃度の2−デオキシグルコースと共に約6g/Lグルコースを含有する培地1中で生育させた。いくつかのα−GDF−8培養物には、任意で、最終的な開始濃度9g/Lまでグルコースを補足した。細胞を2回継代し、各継代後、3日間生育させた。3日目の最後に、継代した培養物の各々を生存能力、細胞密度、グルコースレベル、乳酸レベルおよびα−GDF−8力価について測定した。比力価生産率(「Qp」)および比乳酸取り込み率(「Qlact」)を計算した。Qlactは、下記のように計算された。すなわち、
((最終的な乳酸レベル−開始乳酸レベル)/(最終細胞密度−開始細胞密度))x成長率x24
ここに、乳酸レベルはg/Lで測定され、細胞密度は、106細胞/mlで測定され、成長率は、l/hで測定され、最終Qlactは、mg/e6/日で計算される。Qpは、下記のように計算された。すなわち、
((最終力価−開始力価)/(最終細胞密度−開始細胞密度))x成長率x24
ここに、力価はmg/Lで測定され、細胞密度は106細胞/mlで測定され、成長率は1/hとして測定され、Qpはμg/e6/日として計算される。
【0163】
結果:
表2は、2回継代したα−GDF−8細胞培養物の開始および最終細胞密度、生存能力、最終グルコースおよび乳酸濃度、比成長率、力価、QlactおよびQpを示す。表から分かるように、細胞の生存能力は、少なくとも1:6の2−デオキシグルコース 対 グルコース比まで、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在によってあまり影響を受けない(表2、「viab」と標識した列)。しかしながら、細胞の比成長率は、用量依存的に、2−デオキシグルコースの存在によって負の影響を受ける(表2、「μ」と標識した列)。第1および第2継代の対照培養物は、各々、比成長率0.032および0.037を示すが、1g/Lの2−デオキシグルコースの存在下で生育させた培養物は、比成長率0.027(第1継代、9g/Lグルコース)、0.028(第2継代、9g/Lグルコース)および0.027(第2継代、6g/Lグルコース)を示す。かくして、実施例1の結果と同様に、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、比成長率を阻害する。
【0164】
細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、また、用量依存的に、培養物中の乳酸塩の蓄積を減少させた。表2に示されるように(「lact」と標識した列)、第1継代において、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中に蓄積した乳酸レベルは1.88g/Lであったが、1g/Lの2−デオキシグルコース(9g/Lのグルコースと共に)の存在下、乳酸塩が0.9g/Lのレベルに蓄積した。同様に、第2継代において、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中、乳酸塩が2.39g/Lのレベルまで蓄積し、一方、1g/Lの2−デオキシグルコースの存在下、乳酸塩は、0.98g/L(9g/Lのグルコースと共に)または0.68g/L(6g/Lのグルコースと共に)のレベルに蓄積しただけであった。さらに、表2から分かるように、2−デオキシグルコース 対 グルコース比が増加するにつれて、細胞培養物中の全乳酸量が減少するだけではなく、比乳酸生産率(「Qlact」)も減少した。第1継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は0.948のQlactを有していたが、1:9の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qlactは0.553に落ちた。同様に、第2継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は、0.582のQlactを有していたが、1:9の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qlactは0.290に落ちた。
【0165】
細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、また、α−GDF−8力価を用量依存的に減少させた。表2に示されるように(「titer」と標識した列)、第2継代において、α−GDF−8は、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中、67.3mg/Lのレベルに蓄積したが、1g/Lの2−デオキシグルコース(6g/Lのグルコースと共に)の存在下、α−GDF−8は、28.22mg/Lのレベルに蓄積しただけであった。さらに、表2から分かるように、2−デオキシグルコース 対 グルコース比が増加するにつれて、細胞培養物中の全力価が減少しただけでなく、比力価生産率(「Qp」)も減少した。第2継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は、16.376のQpを有したが、1:6の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qpは12.038に落ちた。
【0166】
【表2】
注釈:第1列の数字は、g/Lデオキシグルコース 対 g/Lグルコース比を示す。
かくして、0.25/9は、0.25g/Lのデオキシグルコースおよび9g/Lのグルコースを示す。
【0167】
結論:
実施例1の結果と同様に、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、用量依存的に細胞成長を阻害した。結果として、最終的な細胞密度は、2−デオキシグルコースを補足した培養物中でより低く、発現したα−GDF−8の力価は、培養物中の2−デオキシグルコース 対 グルコース比に正比例して減少した。しかしながら、2−デオキシグルコースの存在は、細胞培養物中の細胞の生存能力には、ほとんど影響がないか、または全く影響がないようであった。重要なことには、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、用量依存的に乳酸蓄積を阻害した。乳酸塩は、高い細胞密度での細胞成長および生存能力の既知の阻害剤であるので、これらの結果は、2−デオキシグルコースを細胞培養物に添加すると、より高い最終細胞密度またはより高い細胞密度のより健康な細胞培養物をもたらしうることを明らかにする。
【0168】
実施例3:バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例1および2は、培養皿において生育された細胞培養物が低濃度で加えられた2−デオキシグルコースによく耐性があり、2−デオキシグルコースの存在下で乳酸蓄積が減少することを明らかにした。該実施例では、2−デオキシグルコースがバイオリアクター中で生育させた細胞培養中で産生した乳酸塩の量を減少させるかどうか、および2−デオキシグルコースの存在が、特に細胞培養が長期間生育される場合に、成長率の減少のほかに他の有益または不利益な効果を有するかどうかを決定するために実験を行った。
【0169】
材料および方法;
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2中で生育させ、培地3を与えた。培地2および培地3の組成を表3に示す。培養物のいくつかには、0.5g/Lの2−デオキシグルコースを培養開始時に補足した。4日目(早期シフト)または6日目(後期シフト)のいずれかに、培養物を37℃から31℃にシフトした。バイオリアクター中で生育させる細胞培養物のための実験条件および栄養補給計画を表4に纏める。
【0170】
【表3−1】
【0171】
【表3−2】
【0172】
【表3−3】
【0173】
【表4】
【0174】
結果:
図2、3、4および5は、表4に記載の4つの条件下、生産バイオリアクター中で生育させたα−GDF−8細胞の毎日の細胞密度、生存能力、乳酸濃度および力価を示す。図2から分かるように、2−デオキシグルコースの存在下で生育させ、後期シフトした細胞の細胞密度は、約4日目に、他の3つの条件のいずれよりも有意に高くなり始めた。さらに2−デオキシグルコースの存在下に生育させた後期シフトした細胞の生存能力は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた後期シフトした細胞の生存能力よりも有意に高かった。図4および図5の比較は、α−GDF−8の全力価が培養物中の乳酸量と逆相関することを示す。2つの早期シフト培養物(2−デオキシグルコースを含有するものと、欠如するもの)は、各々、培養終了時までに最低の乳酸レベルを有し、各々、最高の全力価を有した。発明者らは、2−デオキシグルコースを含有した早期シフトした培養物は、2−デオキシグルコースを欠く早期シフトした培養物よりもわずかに低い乳酸レベルを有し、相応して、わずかに高い最終力価を有したことに注目する。同様に、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物は、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物よりもわずかに低い乳酸レベルを有し、相応して、わずかに高い最終力価を有した。早期シフト培養物は、両方とも、温度シフト日である約4日目に乳酸レベルの減少開始を示した。しかしながら、後期シフト培養物は、両方とも、シフト後に乳酸レベルの減少を示さず、培養周期を通して、乳酸レベルが増加し続けた。
【0175】
結論:
実施例1および2における培養皿で2、3日だけ生育させた細胞培養物において見られる細胞密度に対する不利な影響とは対照的に、該実施例は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在が、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、2日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらすことを明らかにした。さらに、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物は、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物よりも有意に高い生存能力を示した。さらに、2−デオキシグルコースを含有する培地中で生育させた細胞培養物は、2−デオキシグルコースを欠く培地中で生育させた対応する培養物よりも、得られる乳酸レベルが低かった。しかしながら、重要なことに、早期シフト培養物は、両方とも、温度シフト後に全乳酸レベルの減少を示したが、後期シフト培養物は、両方とも、培養の過程を通して乳酸塩を蓄積し続けた。早期培養物のシフト時の乳酸レベルは、後期シフト培養物のシフト時の乳酸レベルをはるかに下回っていた。かくして、シフト時の乳酸レベルにより、培養中の細胞が乳酸塩を取り込み始めるかどうかを決定することが可能である。しかしながら、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物の乳酸レベルは、シフト時に、2日早くシフトした培養物のシフト時の乳酸レベルより有意に高かったが(図4参照、約10g/L 対 約4−5g/L)、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物の乳酸レベルは、有意に高くなかった(図4参照、約6g/L 対 約4−5g/L)。しかしながら、後期シフトした2−デオキシグルコースを含有する培養物の細胞密度は、有意に高かった(図2参照、約18xe6/mL 対 12xe6/mL)。かくして、シフト時の乳酸レベルのほかに、該実施例は、シフト時の細胞密度もまた、培養物中の細胞が乳酸塩を取り込み始めるどうかの決定において役割を果たしうることを明らかにする。
【0176】
最終的に、該実施例は、培養物の力価が培養物中の乳酸レベルに逆相関することを明らかにする。かくして、乳酸塩を取り込み始めた早期シフト培養物は、最も高い最終力価を有し、一方、乳酸塩を蓄積し続けた後期シフト培養物は、最も低い最終力価を有した。それにもかかわらず、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物が有意に高い細胞密度を有していた。かくして、過剰な乳酸レベルは、2−デオキシグルコースを含有する培地中で生育させた後期シフト細胞の生産性に影響を及ぼすようである。
【0177】
実施例4:バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例3は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中における2−デオキシグルコースの存在が、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、2日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらすことを明らかにした。さらに、2−デオキシグルコース含有培養物は、2−デオキシグルコースを欠く対応する培養物よりも低い程度に乳酸塩を蓄積した。しかしながら、シフト時の高乳酸レベルおよび/または高細胞密度のために、後期シフト培養物の力価は、有意に減少した。該実施例では、シフト時の乳酸レベルおよび/または細胞密度を改変することによって、後期シフト培養物の力価を復活させることを試みる。
【0178】
材料および方法:
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2中で生育させ、培地3で補足した。培養物のいくつかには、培養開始時に0.5g/Lの2−デオキシグルコースで補足した。細胞には、3g/Lのグルコースまたは0.3g/Lの2−デオキシグルコースのいずれかが4日目に与えられ、5日目に、10容量%フィード培地または0.2g/Lの2−デオキシグルコースで補足した10容量%フィード培地を与えた。培養物は、5日目(早期)または6日目(後期)のいずれかに37℃から31℃にシフトさせた。7日目および10日目に付加的なフィードを供給した。バイオリアクター中で生育させる細胞培養物のための実験条件を表5に纏める。
【0179】
【表5】
【0180】
結果:
図6、7および8は、表5に記載の4つの条件下、生産バイオリアクター中で生育させたα−GDF−8細胞の毎日の細胞密度、乳酸濃度および力価を示す。実施例3に見られる結果と同様に、図6は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞の細胞密度が、他の3つの条件のいずれよりも、約5日目で有意に高くなり始めることを示す。図7は、全細胞培養物が低温にシフト後に乳酸レベルの減少を被ったことを示す。さらに、後期にシフトした2−デオキシグルコースを含有する細胞培養物は、2−デオキシグルコースの存在の有無に拘わらず、早期にシフトした細胞培養物より低い最終乳酸濃度を有した。さらに、全乳酸レベルは、2−デオキシグルコースの存在下または不在下のいずれかで生育させた後期シフト細胞培養物間で類似であった。しかしながら、図6は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞培養物がより多くの細胞を含有したことを示すので、2−デオキシグルコース培養物中の細胞が2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞より少量の乳酸塩を生産したか、または何らかの方法で、2−デオキシグルコースもしくは両方の不在下で生育させた細胞より大きな程度まで既存の乳酸塩を代謝したということになる。図8は、α−GDF−8の全力価が4つ全ての培養条件について同様であったことを示す。しかしながら、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞の全細胞密度がより高かったので(図6参照)、後期シフト2−デオキシグルコース細胞は、他の3つの培養条件下で生育させた細胞より、細胞当たり、より少量のα−GDF−8を生産しているようである。
【0181】
図9は、表5に記載の4つの条件下で生育させたα−GDF−8細胞のグルコース取り込み量を示す。培養培地中の2−デオキシグルコースの存在は、グルコース取り込み量の減少をもたらした(図9の第3および第4バー参照)。さらに、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた早期シフト細胞より低い率でグルコースを取り込んだ。
【0182】
結論:
実施例3に見られる結果と同様に、該実施例は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中における2−デオキシグルコースの存在が2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、1日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらしたことを明らかにする。重要なことに、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞よりも、少ない乳酸産生をもたらし、および/または大きな程度まで乳酸塩を消費したようである(図6に示される2つの試料の細胞密度を図7に示される全乳酸蓄積と比較する)。また、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞培養物は、2−デオキシグルコースの存在下または不在下のいずれかで生育させた早期シフト細胞培養物よりも低い全乳酸レベルを有したことに注目すべきである。最終的に、細胞当たりのα−GDF−8産生量は、後期シフト2−デオキシグルコース培養物におけるよりも低いが(図6に示される2つの試料の細胞密度を図8に示される全α−GDF−8力価と比較する)、全α−GDF−8力価は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物のα−GDF−8力価に類似しているので、2−デオキシグルコースの存在は、全細胞密度に対して正の影響を与えるが、実施例3の結果とは対照的に、最終的なα−GDF−8力価に対して不利な効果を有しないことが明らかになった。かくして、本発明は、乳酸が温度シフト後に取り込まれるように培養条件を操作することによって、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物の細胞密度を、対応する負の影響を全α−GDF−8力価に及ぼすことなく、増加させることができることを明らかにする。
【0183】
実施例5:高グルコースの存在下、バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例4は、生産バイオリアクター中における2−デオキシグルコースの存在が、細胞を後期に温度シフトした場合、12日間の最後に、全細胞密度の増加をもたらすことを明らかにした。全α−GDF−8力価は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物のα−GDF−8力価に類似するが、細胞当たりのα−GDF−8産生は有意に低かった。該実施例では、培養物を付加的なグルコースで周期的に補足することによって、細胞当たりのα−GDF−8産生を増加することができるかどうかを決定するために実験を行った。
【0184】
材料および方法:
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2で生育させ、培地3で補足した。開始時の培養培地には、0.5g/Lの2−デオキシグルコースを補足するか、または補足しなかった。3、5、7、10および12日目に、グルコースレベルが約8g/Lを超えるように、細胞に補給した。2−デオキシグルコースを欠く培養物は、4日目に37℃から31℃にシフトし、一方、2−デオキシグルコースを含有する培養物は、5日目に37℃〜31℃にシフトした。
【0185】
結果:
図10、11、12、13および14は、各々、2−デオキシグルコースの存在下または不在下で生育させたα−GDF−8細胞について、毎日の生存細胞密度、力価、乳酸、グルコースレベルおよび比細胞生産性を示す。図10に示されるように、2つの培養物の細胞密度は、培養の開始時および終止時に同様であるが、2−デオキシグルコースを補足した培養物の細胞密度は、培養の中期段階において、わずかに高かった。図11は、全α−GDF−8力価が2つの培養物間でも類似するが、2−デオキシグルコースを補足した培養物のα−GDF−8力価は、14日にわずかに高いことを示す。かくして、高レベルのグルコースの存在下、実施例3および4で見られる細胞当たりの力価の減少は、排除されたようである。2−デオキシグルコースを含有するか、または欠如する細胞培養物間のα−GDF−8産生の類似性は、α−GDF−8の毎日の比細胞生産性を示す図14においても示される。上記3つの実施例において示されたデータと一貫して、図12は、2−デオキシグルコースを含有する細胞培養中の乳酸蓄積が2−デオキシグルコースを欠く細胞培養物中よりも有意に低いことを示す。図13は、培養過程にわたる毎日のグルコースレベルを示す。3、5、7、10および12日目の急激な増加は、フィード培地の添加に対応した。
【0186】
結論:
該実施例は、高レベルのグルコースの存在下、実施例4および5において見られた2−デオキシグルコースの存在下における細胞当たりのα−GDF−8産生量の減少が排除されることを明らかにする。さらに、高レベルのグルコースの存在下であっても、2−デオキシグルコースの存在に起因する培養培地中の乳酸レベルの有益な減少が存続する。かくして、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、1日遅くに温度シフトすることができ、その結果、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞よりも、高い全積分生存細胞密度をもたらした。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月3日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第60/586,615号(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)と同時係属中であり、少なくとも1人の共通の発明者を有し、かつ、優先権主張している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
タンパク質およびポリペプチドは、益々重要な商業的治療剤となってきている。多くの場合、これらのタンパク質およびポリペプチドは、目的の特定のタンパク質またはポリペプチドを異常に高レベルに産生するように操作された、および/または選択された細胞から、細胞培養において生産される。細胞培養条件の調節および最適化は、タンパク質およびポリペプチドの商業的生産の成功に極めて重要である。
【0003】
細胞培養で生産される多くのタンパク質およびポリペプチドは、細胞を一定期間培養し、次いで、培養を終了し、産生したタンパク質またはポリペプチドを単離するバッチまたはフェッドバッチプロセスにおいて製造される。別法では、タンパク質またはポリペプチドは、培養を終了せず、新たな栄養分および他の成分を周期的に培養物に加え、その間、発現したタンパク質またはポリペプチドを周期的に回収する潅流細胞培養プロセスで生産することができる。生産されるタンパク質またはポリペプチドの最終的な量および質は、細胞培養条件によって著しく影響を及ぼされる。例えば、伝統的なバッチおよびフェッドバッチ培養プロセスは、しばしば、細胞成長または生存、および目的のタンパク質またはポリペプチドの産生または安定性に不利な影響を及ぼす代謝廃棄産物の産生をもたらす。これらの不利益な廃棄産物には、グルコース代謝産物である乳酸塩がある。乳酸蓄積は、細胞培養物のpHを減少させることが分かっており、細胞生存能力および生産能力の両方に不利益である(Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm. International, April 2003参照)。細胞培養プロセスにおけるタンパク質およびポリペプチドの産生を改善するために種々の努力がなされてきたが、さらなる改善の要望が依然としてある。
【0004】
さらに、細胞、特に哺乳動物細胞を培養する際に使用するための規定培地(すなわち、既知の個々の成分から構成され、かつ、血清または他の動物性副産物を欠く培地)の開発において著しい努力がなされてきた。細胞成長特徴は、血清由来の培地と比べて、規定培地において非常に異なる。不利益な廃棄産物の蓄積が減少または排除された規定培地における細胞培養によって、タンパク質およびポリペプチドを生産するための改善された系の開発に対する特別の要望がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm. International, April 2003
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、細胞培養におけるタンパク質および/またはポリペプチドの大規模生産のための改善された方法および組成物を提供する。ある特定の具体例において、解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルコース類似物2−デオキシグルコースを含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルタミンが約13mM未満の濃度で存在する解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、グルタミンが約4mM未満の濃度で存在する解糖阻害物質を含有する細胞培養培地が提供される。ある特定の具体例において、本発明の細胞培養培地は、目的のタンパク質またはポリペプチドを発現する哺乳動物細胞を増殖させるために使用される。
【0007】
ある特定の具体例において、本発明は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを含有する培地を利用する商業的規模(例えば、500L以上)の培養方法を提供する。ある特定の具体例において、開示される培養方法は、細胞培養の過程間、1以上の温度シフトを含んでいてもよい。本明細書の教示によると、かかる方法の使用は、高レベルのタンパク質生産を可能にし、ある種の望ましくない因子(限定するものではないが、乳酸塩を包含する)の蓄積を減少させる。
【0008】
当業者は、本発明の培地処方が規定および複合培地の両方を包含することを理解するであろう。ある特定の具体例において、培養培地は、培地の組成が既知であり、調節されている規定培地である。
【0009】
ある特定の具体例において、米国特許出願第11/213,308号、第11/213,317号および第11/213,633号(各々、2005年8月25日出願)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に記載のいずれかの細胞培養方法にしたがって細胞を生育させる。いくつかの具体例において、米国仮特許出願第60/830,658号(2006年7月13日出願)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に記載の1以上の条件下で細胞を生育させる。
【0010】
本発明の細胞培養は、所望により、栄養分および/または、例えば、ホルモンおよび/または他の成長因子、イオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、および/またはホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する他の培地成分で補足してもよい。ある特定の具体例において、1以上の化学インダクタント(inductant)、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および酪酸ナトリウム(「NaB」)で培地を補足することは有益である。これらの任意の補足物は、培養の開始時に加えてもよく、または枯渇した栄養分を補充するために、または別の目的で、もっと後の時点で加えてもよい。一般に、本発明にしたがって、補足を最小限にするための最初の培地組成を選択することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、皿において、2−デオキシグルコースの存在下におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図2】図2は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図3】図3は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の生存能力を示す。
【図4】図4は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の力価を示す。
【図5】図5は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の乳酸蓄積を示す。
【図6】図6は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長を示す。
【図7】図7は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の力価を示す。
【図8】図8は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の乳酸蓄積を示す。
【図9】図9は、2−デオキシグルコースを用いた場合および用いない場合の1Lバイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞のグルコース取り込みを示す。
【図10】図10は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の生存細胞密度を示す。
【図11】図11は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の力価を示す。
【図12】図12は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の乳酸レベルを示す。
【図13】図13は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日のグルコースレベルを示す。
【図14】図14は、2−デオキシグルコースの存在下および不在下におけるα−GDF−8細胞の毎日の比生産性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
「アミノ酸」
「アミノ酸」なる語は、本明細書中で使用される場合、ポリペプチドの生成に通常使用される20個の天然アミノ酸、該アミノ酸の類似物または誘導体あるいはいずれかの非天然アミノ酸のいずれかをいう。本発明のアミノ酸は、培地中において細胞培養物に提供される。培地中に提供されるアミノ酸は、塩または水和物形態として提供されうる。
【0013】
本明細書中で使用される場合、「抗体」なる語は、少なくとも1つ、典型的には2つのVHドメインまたはその部分、および/または少なくとも1つ、典型的には2つのVLドメインまたはその部分を含むタンパク質を包含する。ある特定の具体例において、抗体は、2つの重鎖免疫グロブリンおよび2つの軽鎖免疫グロブリンからなる4量体であり、ここに、該重鎖免疫グロブリンおよび軽鎖免疫グロブリンは、例えば、ジスルフィド結合によって、相互連結されている。抗体、またはその一部は、限定するものではないが、齧歯類、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)、ラクダを包含するいずれかの起源から得ることができ、同様に、本明細書中により詳細に記載されるように、組み換え生産、例えば、キメラ、ヒト化および/またはイン・ビトロ生産されることができる。
【0014】
抗体の「抗原結合フラグメント」なる語に含まれる結合フラグメントの例は、限定するものではないが、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域にてジスルフィド結合によって連結された2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメント、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント、(vi)ラクダ科の、またはラクダ化された重鎖可変ドメイン(VHH)、(vii)単一鎖Fv(scFv)、(viii)二重特異性抗体、および(ix)Fc領域に融合した免疫グロブリン分子の1以上のフラグメントを包含する。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組み換え法を用いて、VLおよびVH領域が一対になって1価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作成されることを可能にする合成リンカーによって結合することができる(単一鎖Fv(scFv)として知られる)(例えば、Birdら、(1988) Science 242:423−26、Hustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879−83)参照)。かかる単一鎖抗体は、また、抗体の「抗原結合フラグメント」なる語に包含されることが意図される。これらのフラグメントは、当業者に既知の通常の技術を用いて得てもよく、該フラグメントは、無傷抗体と同じように機能について評価される。
【0015】
「抗原結合フラグメント」なる語は、所望により、例えば、安定性、エフェクター細胞機能または補体結合の1以上を強化する部分を包含する。例えば、抗原結合フラグメントは、さらに、ペグ(peg)化された部分、アルブミン、または重鎖および/または軽鎖定常領域を包含することができる。
【0016】
「二重特異性」または「二重機能性」抗体以外に、抗体は、その結合部位の各々が同一性を有することは理解される。「二重特異性」または「二重機能性」抗体は、2つの異なる重/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの結合を包含する種々の方法によって生産することができる(例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315−321(1990);Kostelnyら、J.Immunol.148,1547−1553(1992)参照)。
【0017】
抗体またはその抗原結合フラグメントを得るために、当業者に既知の多くの方法が利用可能である。例えば、モノクローナル抗体は、既知の方法にしたがって、ハイブリドーマの作成によって生産してもよい。該方法で形成されたハイブリドーマは、典型的には、標準的な方法、例えば、酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴(BiacoreTM(登録商標))分析を用いてスクリーンして、特定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1以上のハイブリドーマを同定する。特定の抗原のいずれかの形態は、免疫原、例えば、組み換え抗原、天然形態、そのいずれかの変種またはフラグメント、ならびにその抗原性ペプチドとして使用してもよい。
【0018】
抗体を作成する1の例示的方法は、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージまたはリボソームディスプレーライブラリーをスクリーニングすることを包含する。ファージディスプレーは、例えば、Ladnerら、米国特許第5,223,409号、Smith(1985)Science 228:1315−1317、WO92/18619、WO91/17271、WO92/20791、WO92/15679、WO93/01288、WO92/01047、WO92/09690およびWO90/02809に記載されている。
【0019】
ディスプレーライブラリーの使用のほかに、特定の抗原を用いて非ヒト動物、例えば、齧歯類、例えば、マウス、ハムスターまたはラットを免疫化することができる。ある特定の具体例において、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を包含する。例えば、マウス抗体産生に欠陥のあるマウス系統をヒトIg座の大きなフラグメントで操作することができる。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子から由来の抗原特異的モノクローナル抗体を生産および選択してもよい。例えば、XENOMOUSETM(登録商標)、Greenら、(1994)Nature Genetics 7:13−21、US2003−0070185、WO96/34096(1996年10月31日公開)およびPCT出願第PCT/US96/05928号(1996年4月29日出願)を参照のこと。
【0020】
ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、非ヒト動物から得られ、次いで、修飾、例えば、ヒト化、脱免疫化、キメラ化され、当該分野で既知の組み換えDNA技術を用いて生産されうる。キメラ抗体を作成するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851,1985、Takedaら、Nature 314:452,1985、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開第EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許第GB2177096B号を参照のこと。ヒト化抗体は、また、例えば、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現するが、内因性マウス免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現することのできないトランスジェニックマウスを用いて生産してもよい。Winterは、本明細書に記載のヒト化抗体を調製するために使用されうるCDR−グラフィティング法を例示する(米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体のCDRの全てを非ヒトCDRの少なくとも一部で置き換えてもよく、またはCDRのいくつかだけを非ヒトCDRで置き換えてもよい。ヒト化抗体の所定の抗原への結合に必要なCDRの数を置き換えさえすればよい。
【0021】
ヒト化抗体またはそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列を、ヒトFv可変ドメイン由来の等価配列で置き換えることによって作成することができる。ヒト化抗体またはそのフラグメントを作成するための例示的方法は、Morrison(1985)Science 229:1202−1207、Oiら、(1986)BioTechniques 4:214、ならびにUS5,585,089、US5,693,761、US5,693,762、US5,859,205、およびUS6,407,213によって提供される。かかる方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも1つ由来の免疫グロブリンFv可変ドメインの全てまたは一部をコードする核酸配列を単離、操作および発現させることを包含する。かかる核酸は、上記のように、所定の標的に対して抗体を産生するハイブリドーマから、ならびに他の供給源から得てもよい。ヒト化抗体分子をコードしている組み換えDNAは、次いで、適当な発現ベクター中にクローン化することができる。
【0022】
ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系置換および/または復帰変異の導入によって最適化される。かかる改変された免疫グロブリン分子は、当該分野で既知のいくつかの技術のいずれかによって作成することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308−7312,1983、Kozborら、Immunology Today,4:7279,1983、Olssonら、Meth.Enzymol.,92:3−16,1982参照)、PCT公開第WO92/06193号またはEP0239400の技術にしたがって作成してもよい。
【0023】
抗体またはそのフラグメントは、また、WO98/52976およびWO00/34317に開示される方法によって、ヒトT細胞エピトープの特異的欠失または「脱免疫化(deimmunization)」によって修飾してもよい。簡単に言えば、抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインは、MHCクラスIIに結合するペプチドについて分析することができ、これらのペプチドは、潜在的T−細胞エピトープを示す(WO98/52976およびWO00/34317に定義される)。潜在的T−細胞エピトープの検出の場合、「ペプチドスレッディング(threading)」と呼ばれるコンピューターモデリングアプローチを応用することができ、さらに、WO98/52976およびWO00/34317に記載のように、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースをVHおよびVL配列に存在するモチーフについて検索することができる。これらのモチーフは18個の主要MHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合し、かくして、潜在的T細胞エピトープを構成する。検出された潜在的T−細胞エピトープは、可変ドメイン中の少数のアミノ酸残基を置換することによって、または好ましくは、単一アミノ酸置換によって除去することができる。典型的には、保存的置換を作成する。しばしば、限定するものではないが、ヒト生殖細胞系抗体配列中のある位置に共通するアミノ酸を用いてもよい。ヒト生殖細胞系配列は、例えば、Tomlinsonら、(1992)J.Mol.Biol.227:776−798、Cook,G.P.ら、(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237−242、Chothia,D.ら、(1992)J.Mol.Biol.227:799−817、およびTomlinsonら、(1995)EMBO J.14:4628−4638に開示されている。V BASEディレクトリーは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的なディレクトリーを提供する(Tomlinson,I.A.ら、MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKによって編集)。これらの配列は、ヒト配列の供給源として、例えば、フレームワーク領域およびCDRのためのヒト配列の供給源として、使用することができる。コンセンサスヒトフレームワーク領域は、また、例えば、US6,300,064に記載されるように使用することができる。
【0024】
ある特定の具体例において、抗体は、改変された免疫グロブリン定常またはFc領域を含有することができる。例えば、本明細書中の教示にしたがって生産される抗体は、補体および/またはFc受容体のようなエフェクター分子により強力に、またはより特異的に結合することができ、それは、抗体のいくつかの免疫機能、例えば、エフェクター細胞活性、溶解、補体媒介性活性、抗体クリアランスおよび抗体半減期を調節することができる。抗体(例えば、IgG抗体)のFc領域に結合する典型的なFc受容体は、限定するものではないが、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIおよびFcRnサブクラスの受容体を包含し、それらは、これらの受容体の対立遺伝子変種および選択的スプライス形態を包含する。Fc受容体は、RavetchおよびKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457−92,1991、Capelら、Immunomethods 4:25−34,1994、およびde Haasら、J.Lab.Clin.Med.126:330−41,1995に概説されている。
【0025】
「バッチ培養」
「バッチ培養」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞を培養する際に最終的に使用される全ての成分(培地(下記の「培地」を参照のこと)および細胞自体を包含する)が培養プロセスの開始時に提供される細胞培養方法をいう。バッチ培養は、典型的には、ある時点で止められ、培地中の細胞および/または成分を回収し、所望により精製する。
【0026】
「バイオリアクター」
「バイオリアクター」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞培養物の生育に有用ないずれかの容器をいう。バイオリアクターは、細胞の培養に有用であるかぎり、いずれのサイズであってもよい。典型的には、バイオリアクターは、少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、または中間のいずれの容量であってもよい。バイオリアクターの内部条件は、限定するものではないが、pHおよび温度を包含するが、所望により、培養期間中に調節される。バイオリアクターは、本発明の培養条件下で培地中、細胞培養物を懸濁されたまま保持するのに適当ないずれかの材料(ガラス、プラスチックまたは金属を包含する)で構成されることができる。「生産バイオリアクター」なる語は、本明細書中で使用される場合、目的のポリペプチドまたはタンパク質の生産に使用される最終的なバイオリアクターをいう。生産バイオリアクターの容量は、典型的に、少なくとも500リットルであり、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、またはその中間のいずれの容量であってもよい。当業者は、本発明の実施に有用な適当なバイオリアクターを承知し、選択することができるであろう。
【0027】
「細胞密度」
「細胞密度」なる語は、本明細書中で使用される場合、所定の培地容量に存在する細胞の数をいう。
【0028】
「細胞生存力」
「細胞生存力」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養条件または実験バリエーションの所定の設定下、培養中の細胞の生存能をいう。該用語は、本明細書中で使用される場合、特定の時点で、培養中の全細胞数(生きている細胞および死んでいる細胞)に関連して、その時点で生きている細胞の部分をいう。
【0029】
「複合培地」
「複合培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、その正体または量が未知であるか、または制御されていない少なくとも1つの成分を含有する培地をいう。
【0030】
「培養物」「細胞培養物」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、細胞集団の生存および/または生育に適当な条件下、培地(下記の「培地」の定義を参照のこと)中に懸濁された細胞集団をいう。当業者に明らかなように、これらの用語は、また、本明細書中で使用される場合、細胞集団をおよび細胞集団が懸濁された培地を含む組み合わせをいう。ある特定の具体例において、細胞培養物は哺乳動物細胞培養物である。
【0031】
「規定培地」
「規定培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、培地の組成が既知であり、かつ、制御されている培地をいう。
【0032】
「フェッドバッチ培養」
「フェッドバッチ培養」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養プロセスの開始時または開始に続いて、付加的な成分が培養物に提供される細胞培養方法をいう。提供される成分は、典型的には、培養プロセスの間に枯渇した細胞のための栄養補給物を含む。さらに、または別法では、付加的な成分は、補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を包含しうる。ある特定の具体例において、付加的な成分は、フィード培地(下記の「フィード培地」の定義を参照のこと)中に提供されうる。フェッドバッチ培養は、典型的には、ある時点で終了し、培地中の細胞および/または成分は、回収され、所望により、精製される。
【0033】
「フィード培地」
「フィード培地」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞培養の開始後に加えられる生育する哺乳動物細胞を養う栄養分を含有する溶液をいう。フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供されるのと同一の成分を含有しうる。別法では、フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供された成分を超える1以上の付加的な成分を含有していてもよい。さらに、または別法では、フィード培地は、最初の細胞培養培地中に提供された1以上の成分を欠くものであってもよい。ある特定の具体例において、フィード培地の1以上の成分は、最初の細胞培養培地中に提供された成分の濃度またはレベルと同一または類似の濃度またはレベルで提供される。ある特定の具体例において、フィード培地の1以上の成分は、最初の細胞培養培地中に提供された成分の濃度またはレベルと異なる濃度またはレベルで提供される。ある特定の具体例において、フィード培地は、補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を含有する。
【0034】
「フラグメント」
「フラグメント」なる語は、本明細書中で使用される場合、ポリペプチドをいい、所定のポリペプチドに特有の、または特徴的な該ポリペプチドのいずれかの分離した部分として定義される。該用語は、本明細書中で使用される場合、また、少なくとも全長ポリペプチドのうち画分を保持する所定のポリペプチドのいずれかの分離した部分をいう。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも10%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。ある特定の具体例において、保持された活性画分は、該全長ポリペプチドの活性の100%以上である。別法では、またはさらに、該用語は、本明細書中で使用される場合、全長ポリペプチドに見出される少なくとも確立された配列エレメントを含む所定のポリペプチドのいずれかの部分をいう。ある具体例において、該配列エレメントは、全長ポリペプチドの少なくとも約4−5、10、15、20、25、30、35、40、45、50またはそれ以上のアミノ酸にわたる。
【0035】
「遺伝子」
「遺伝子」なる語は、本明細書中で使用される場合、少なくともある部分が分離した最終産物、典型的には、限定するものではないが、ポリペプチドをコードするいずれかのヌクレオチド配列、DNAまたはRNAをいう。所望により、該用語は、ポリペプチドまたは他の分離した最終産物をコードするコーディング配列のみをいうのではなく、基底レベルの発現を調節するコーディング配列の前および/または後の領域(下記の「遺伝子調節エレメント」の定義を参照のこと)、ならびに個々のコーディングセグメント(「エクソン」)間の介在配列(「イントロン」)を包含することもある。
【0036】
「遺伝子調節エレメント」
「遺伝子調節エレメント」なる語は、本明細書中で使用される場合、作動可能に連結した遺伝子の産物の発現を調節するいずれかの配列エレメントをいう。遺伝子調節エレメントは、遺伝子産物の発現レベルを増加または減少させることによって機能してもよく、コーディング配列の前、中または後ろに位置していてもよい。遺伝子調節エレメントは、例えば、転写の開始、延長または終止、mRNAスプライシング、mRNAエディティング、mRNA安定性、細胞内でのmRNA局在化、翻訳の開始、延長または終止、あるいは遺伝子発現のいずれか他の段階を調節することによって、遺伝子発現のいずれかの段階で作用しうる。遺伝子調節エレメントは、個々にまたは互いに共同して機能しうる。
【0037】
「解糖」
「解糖」なる語は、本明細書中で使用される場合、細胞によるグルコースの代謝的酸化をいう。解糖の間、グルコースは、乳酸塩またはピルビン酸塩のいずれかに酸化する。好気性条件下、主要産物はピルビン酸塩である。酸素が枯渇した時、主要な解糖産物は乳酸塩である。本発明のある種の目的は、解糖の通常プロセスを改変することによって、細胞培養中の乳酸産生または蓄積を防止または遅くすることにある。ある特定の具体例において、乳酸産生または蓄積は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、および/またはフルオロアセテートを含む細胞培養物中で細胞を生育させることによって、防止または遅くされる。
【0038】
「解糖阻害物質」
「解糖阻害物質」なる語は、本明細書中で使用される場合、グルコースの解糖およびそれに続く乳酸産生または蓄積を阻害する、あるいはネガティブに改変する物質(例えば、化合物、ポリペプチド、薬物、代謝産物など)をいう。ある特定の具体例において、かかる解糖阻害物質は、細胞培養培地中に提供される。ある特定の具体例において、解糖阻害物質は、2−デオキシグルコースである。ある特定の具体例において、解糖阻害物質は、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートである。当業者は、過度の実験をすることなく、本発明の方法および組成物にしたがって用いられうる解糖阻害物質を認識または決定することができるであろう。
【0039】
「宿主細胞」
「宿主細胞」なる語は、本明細書中で使用される場合、目的のタンパク質またはポリペプチドを生産するために、本発明にしたがって培養において生育される細胞をいう。ある特定の具体例において、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。
【0040】
「ハイブリドーマ」
「ハイブリドーマ」なる語は、本明細書中で使用される場合、不死化細胞および抗体産生細胞の融合から生じる細胞または細胞の子孫をいう。得られるハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作成するために使用される個々の細胞は、いずれかの哺乳動物起源に由来することができ、限定するものではないが、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギおよびヒトを包含する。該用語は、トリオーマ細胞系統を包含し、それは、ヘテロハイブリッドメラノーマ融合物の子孫(ヒト細胞とネズミメラノーマ細胞系統との間の融合産物)が次いでプラズマ細胞と融合する時に生じる。さらに、該用語は、抗体を産生するいずれかの不死化ハイブリッド細胞系統、例えば、クアドローマを包含することを意味する(例えば、Milsteinら、Nature,537:3053,1983参照)。
【0041】
「積分生存細胞密度」、「IVCD」
「積分生存細胞密度」または「IVCD」なる語は、本明細書中で使用される場合、培養が実行される時間量を乗じた培養過程にわたる生存細胞の平均密度をいう。産生したポリペプチドおよび/またはタンパク質の量が培養過程にわたって存在する生存細胞数に比例する場合、積分生存細胞密度は、培養過程にわたって産生したポリペプチドおよび/またはタンパク質の量を概算する有用なツールである。
【0042】
「培地」、「細胞培養培地」、「培養培地」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、生育している細胞を養う栄養分を含有する溶液をいう。ある特定の具体例において、培養培地は、哺乳動物細胞を生育するために有用である。典型的には、培養培地は、最小限の生育および/または生存のために細胞によって要求される必須および非必須アミノ酸、ビタミン類、エネルギー源、脂質、および微量元素を提供する。培養培地は、また、生育および/または生存を最少速度以上に促進する補足成分(下記の「補足成分」の定義を参照のこと)を含有していてもよく、限定するものではないが、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する。ある特定の具体例において、培地は、有利には、細胞生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に処方される。ある特定の具体例において、培地は、細胞培養の開始後に加えられるフィード培地である(上記の「フィード培地」の定義を参照のこと)。ある特定の具体例において、細胞培養培地は、開始時の栄養溶液および細胞培養開始後に加えられるいずれかのフィード培地の混合物である。
【0043】
「代謝廃棄産物」
「代謝廃棄産物」なる語は、本明細書中で使用される場合、特に、所望の組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現または活性に関連して、同様に細胞培養に不利益な正常または非正常代謝過程の結果として、細胞培養物によって生産された化合物をいう。例えば、代謝廃棄産物は、細胞培養物の生育または生存に不利益であり、産生される組み換えポリペプチドまたはタンパク質の量を減らし、発現されるポリペプチドまたはタンパク質の折り畳み、安定性、グリコシル化または他の翻訳後修飾を改変し、または他のあらゆる方法で、細胞および/または組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現または活性に不利益でありうる。例示的な代謝廃棄産物は、グルコース代謝の結果として生じる乳酸塩、およびグルタミン代謝の結果として生じるアンモニウムを包含する。細胞培養物は、1以上の代謝廃棄産物を生じうる。本発明の1の目標は、細胞培養物において、代謝廃棄産物の産生を遅らせ、減少させ、または除去することである。
【0044】
「ポリペプチド」
「ポリペプチド」なる語は、本明細書中で使用される場合、ペプチド結合を介してアミノ酸が連結してなる連続した鎖をいう。該用語は、いずれかの長さのアミノ酸鎖を示すために使用されるが、当業者は、該用語が長い鎖に限定されず、ペプチド結合を介して連結した2個のアミノ酸を含む最短の鎖を示すことができることを理解するであろう。当業者に既知であるように、ポリペプチドは、加工および/または修飾されていてもよい。例えば、ポリペプチドは、グリコシル化されていてもよい。本発明にしたがって発現されるべきポリペプチドは、ポリペプチド治療剤であることができる。ポリペプチド治療剤は、体内の領域に対して生物学的影響を有するポリペプチドであって、該領域において作用するか、または中間体を介して間接的に該領域に作用する。ポリペプチド治療剤の例は、下記に詳細に論じる。
【0045】
「タンパク質」
「タンパク質」なる語は、本明細書中で使用される場合、分離した単位として機能する1以上のポリペプチドをいう。単一のポリペプチドが分離した機能性単位であり、分離した機能性単位を形成するために他のポリペプチドと永続的または一時的な物理的結合を要求しない場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」なる語は、交換可能に使用されうる。分離した機能性単位が互いに物理的に結合する複数のポリペプチドから構成される場合、「タンパク質」なる語は、本明細書中で使用される場合、物理的にカップリングし、分離した単位として一緒に機能する複数のポリペプチドをいう。本発明にしたがって発現されるべきタンパク質は、タンパク質治療剤であることができる。タンパク質治療剤は、体内の領域に対して生物学的影響を有するポリペプチドであって、該領域において作用するか、または中間体を介して間接的に該領域に作用する。ポリペプチド治療剤の例は、下記に詳細に論じる。
【0046】
「組み換え発現したポリペプチド」および「組み換えポリペプチド」
これらの用語は、本明細書中で使用される場合、人工的にそのポリペプチドが発現するように操作された宿主細胞から発現したポリペプチドをいう。ある特定の具体例において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。ある特定の具体例において、該操作は、1以上の遺伝子修飾を含んでいてもよい。例えば、宿主細胞は、発現されるべきポリペプチドをコードしている1以上の異種遺伝子の導入によって遺伝子修飾されうる。異種組み換え発現ポリペプチドは、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドと同一または類似であることができる。異種組み換え発現ポリペプチドは、また、宿主細胞にとって外来物であることができ、例えば、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドにとって異種であることができる。ある特定の具体例において、異種組み換え発現ポリペプチドは、キメラである。例えば、ポリペプチドの部分は、宿主細胞において通常発現されるポリペプチドと同一または類似であるアミノ酸配列を含有していてもよいが、他の部分は、宿主細胞にとって外来であるアミノ酸配列を含有する。さらに、または別法では、ポリペプチドは、宿主細胞に通常発現される2以上の異なるポリペプチド由来のアミノ酸配列を含有しうる。さらに、ポリペプチドは、宿主細胞にとって外来である2以上のポリペプチドから由来するアミノ酸配列を含有しうる。いくつかの具体例において、宿主細胞は、1以上の内在性遺伝子の活性化またはアップレギュレーションによって遺伝子修飾される。
【0047】
「補足成分」
「補足成分」なる語は、本明細書中で使用される場合、生育および/または生存を最少速度以上に促進する補足成分をいい、限定するものではないが、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含する。ある特定の具体例において、補足成分は、最初の細胞培養物に加えられる。ある特定の具体例において、補足成分は、細胞培養の開始後に加えられる。
【0048】
「力価」
「力価」なる語は、本明細書中で使用される場合、所定量の培地容量中における、細胞培養物によって生産される組み換え発現したポリペプチドまたはタンパク質の総量をいう。力価は、典型的には、1ミリリットルの培地あたりのポリペプチドまたはタンパク質のミリグラムまたはマイクログラムの単位で表される。
【0049】
ある特定の具体例の詳細な説明
本発明は、細胞培養によるタンパク質および/またはポリペプチドの生産のための改善された方法および培地処方を提供する。ある特定の具体例において、本発明は、細胞培養物中における代謝廃棄産物の産生を最小限にする方法を提供する。ある特定の具体例において、本発明は、代謝廃棄産物である乳酸塩の産生を最小限にする方法を提供する。乳酸塩は、細胞成長、生存力、および/またはタンパク質産生または質に不利益であることが示された。以前の研究では、培養期間中、グルコースレベルを低く維持することによって、細胞培養中の乳酸レベルが低いまま維持されうることが明らかにされた(Cruzら、Metabolic Shifts by Nutrient Manipulation in Continuous Culture of BHK Cells,Biotechnology and Bioengineering,66(2):104−13,1999)。しかしながら、グルコースレベルの連続的モニタリングおよび調整は、タンパク質またはポリペプチドの大規模生産にとって実用できではない。本発明は、培養物のグルコースレベルを連続的にモニターし、調整する必要性を回避する細胞培養によるタンパク質および/またはポリペプチドの生産のための改善された方法および培地処方を提供する。ある特定の具体例において、細胞培養は、バッチまたはフェッドバッチ培養である。
【0050】
本発明のある特定の組成物は、解糖阻害物質を含む細胞培養培地を包含する。ある特定の具体例において、かかる解糖阻害物質は、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテートおよび/またはフルオロアセテートを包含する。いくつかの具体例によると、培養物の代謝廃棄産物のレベルは、かかる解糖阻害物質を欠くことを除いて同一の培地中、同一の条件下で生産される代謝廃棄産物のレベルよりも低い。いくつかの具体例によると、培養物の乳酸レベルは、かかる解糖阻害物質を欠くことを除いて同一の培地中、同一の条件下で生産される乳酸レベルよりも低い。
【0051】
本発明の他の具体例を下記に詳細に論じる。しかしながら、当業者は、これらの具体例に対する種々の修飾が本願請求の範囲の範囲内にあることを理解するであろう。特許請求の範囲およびその等価物は本発明の範囲を定義付けるが、本願発明は、特定の具体例の記載に限定されるべきではなく、該記載によって限定されるものではない。
【0052】
細胞
細胞培養が可能で、かつ、タンパク質またはポリペプチドの発現が可能ないずれの宿主細胞を本発明にしたがって利用してもよい。ある特定の具体例において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。本発明にしたがって使用されうる哺乳動物細胞の非限定的な例は、BALB/cマウス骨髄腫系統(NSO/l,ECACC No:85110503)、ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell,Leiden,The Netherlands))、SV40で形質転換したサル腎臓CV1系統(COS−7,ATCC CRL 1651)、ヒト胚腎臓系統(293細胞または懸濁培養中の生育のためにサブクローン化した293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.,36:59(1977))、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞+/−DHFR(CHO,UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980))、マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243−251(1980))、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1 587)、ヒト子宮頸癌細胞(HeLa,ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75)、ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065)、マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51)、TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44−68(1982))、MRC 5細胞、FS4細胞、およびヒトヘパトーマ系統(HepG2)を包含する。
【0053】
さらに、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する多数の市販および非市販のハイブリドーマ細胞系統を本発明にしたがって利用してもよい。当業者は、ハイブリドーマ細胞系統が異なる栄養要求性を有するかもしれないこと、および/または最適な生育およびポリペプチドまたはタンパク質発現のために異なる培養条件を必要とするかもしれないことを理解し、必要に応じて、条件を修飾することができるであろう。
【0054】
上記のように、多くの例において、高レベルの目的のタンパク質またはポリペプチドを産生するように、細胞を選択または操作する。しばしば、細胞は、例えば、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードしている遺伝子の導入によって、および/または目的のポリペプチドまたはタンパク質をコードしている遺伝子(内在性または導入のいずれか)の発現を調節する調節エレメントの導入によって、高レベルのタンパク質を産生するように操作される。
【0055】
ある特定のポリペプチドは、細胞成長、細胞生存力または何らかの方法で目的のポリペプチドまたはタンパク質の産生を最終的に制限する細胞の何らかの他の特徴に対して不利益な効果を有しうる。特定のポリペプチドを発現するように操作された1の特定の型の細胞の集団のなかでさえ、ある種の個々の細胞がよく生育し、および/または目的のポリペプチドをより多く生産するような細胞集団内のばらつきが存在しうる。ある特定の具体例において、細胞系統は、細胞を培養するために選択される特定の条件下での力強い生育のために、実行者によって経験的に選択される。ある特定の具体例において、特定のポリペプチドを発現するように操作された個々の細胞は、細胞生育、最終的な細胞密度、細胞生存能力パーセント、発現したポリペプチドの力価またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて、大規模生産のために選択される。
【0056】
細胞の培養
本発明は、ポリペプチドの発現が可能ないいずれかの細胞培養方法または系と共に用いてもよい。例えば、細胞は、バッチまたはフェッドバッチ培養において生育させてもよく、ここに、ポリペプチドの十分な発現後に培養を終了し、その後、発現したポリペプチドを回収し、所望により精製する。別法では、細胞は、潅流培養において生育させてもよく、ここに、培養を終了せず、新たな栄養分および他の成分を周期的または連続的に培養物に加え、その間、発現したポリペプチドは、周期的または連続的に回収される。
【0057】
細胞は、実行者によって選択されたいずれかの好都合な容量で生育させればよい。例えば、細胞は、2、3ミリリットル〜数リットルの範囲の容量の小規模反応容器内で生育させてもよい。別法では、細胞は、最小で約1リットル〜10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットルまたはそれ以上、あるいはその間のいずれかの容量の市販のバイオリアクター中で大規模に生育させてもよい。
【0058】
細胞培養の温度は、主に、細胞培養物が生存することができる温度範囲、高レベルのポリペプチドが産生する温度範囲、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になる温度範囲、および/またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて選択されるであろう。非限定的な一例として、CHO細胞は、約37℃でよく生育し、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産する。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃〜42℃でよく生育し、および/または高レベルのタンパク質またはポリペプチドを産生することができるが、本発明の開示によって教示される方法は、これらの温度に限定されない。ある特定の哺乳動物細胞は、約35℃〜40℃でよく生育し、および/または高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができる。ある特定の具体例において、細胞培養は、細胞培養過程中の1以上の時点で、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃で生育する。当業者は、細胞の必要性および実行者の生産要求に依存して、細胞を生育させるための適当な温度を選択することができるであろう。
【0059】
さらに、培養は、培養過程の間に1以上の温度シフトに付してもよい。培養温度がシフトする場合、温度シフトは、比較的漸進的であってもよい。例えば、温度変化が完了するまで数時間または数日かかってもよい。別法では、温度シフトは、比較的急速であってもよい。温度は、培養過程の間に絶え間なく増加または減少していてもよい。別法では、温度は、培養過程の間の種々の時点で分離した量が増加または減少してもよい。その後の温度または温度範囲は、最初または以前の温度または温度範囲より低くてもよく、または高くてもよい。当業者は、複数の分離した温度シフトがこれらの具体例に包含されることを理解するであろう。例えば、温度が一旦シフトすれば(高温または低温または温度範囲のいずれか)、ある一定期間、細胞を該温度または温度範囲で維持し、その後、温度を再び新たな温度または温度範囲にシフトしてもよく、その温度は、以前の温度または温度範囲より高温であっても、低温であってもよい。各分離したシフト後の培養物の温度は一定であるか、またはある一定の温度範囲内で維持されてもよい。
【0060】
温度範囲の最初の温度と同様に、温度シフト後の細胞培養物の温度または温度範囲は、細胞培養物が生存することができる温度波に、高レベルのポリペプチドが産生する温度範囲、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になる温度範囲、および/またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考えるいずれか他の条件に基づいて選択されるであろう。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃〜42℃で生存可能であり、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができるが、本発明の開示によって教示される方法は、これらの温度に限定されない。ある特定の具体例において、哺乳動物細胞は、約25℃〜35℃で生存可能であり、高レベルのタンパク質またはポリペプチドを生産することができる。ある特定の具体例において、細胞培養物は、温度シフト後に1回以上、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃で生育させる。当業者は、細胞の特定の必要性および実行者の特定の生産要求に依存して、温度シフト後に細胞を生育させるための適当な温度を選択することができるであろう。細胞は、実行者の要求および細胞自体の要求に依存して、いずれかの期間生育させればよい。
【0061】
ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、発現したポリペプチドが実行者の要求によって決定される十分に高い力価に達したらすぐに終止させる。非限定的例として、細胞培養は、ポリペプチド力価が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、2000mg/Lまたはそれ以上のときに終止させてもよい。当業者は、バッチおよび/またはフェッドバッチ培養物を回収してもよい1以上の適当な力価を選択できるであろう。さらに、または別法では、バッチおよびフェッドバッチ反応は、細胞が実行者の要求によって決定される十分に高い密度に達したらすぐに終了させる。例えば、培養は、細胞が最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントに達したらすぐに終了してもよい。
【0062】
ある特定の具体例において、乳酸塩およびアンモニウムなどの代謝廃棄産物の望ましくない産生または蓄積を防止するために、バッチおよび/またはフェッドバッチ細胞培養を終了させる。ある特定の具体例において、細胞培養は、乳酸塩が培養物中に望ましくないレベルまで蓄積する前に終了させる。非限定的例として、細胞培養は、乳酸塩が8、7、6、5、4、3、2または1g/Lに達する前に終了してもよい。ある特定の具体例において、本発明の方法および組成物にしたがって生育させた細胞培養物は、代謝廃棄産物の産生または蓄積が最小限になるので、伝統的な培養法を用いて可能になるよりも長時間生育させることができる。
【0063】
ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、実行者の要求によって決定される十分に高いレベルに細胞密度が達したらすぐに終了させる。例えば、細胞培養は、細胞密度が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100または1200万細胞/mLまたはその以上に達したらすぐに終了させてもよい。ある特定の具体例において、バッチおよびフェッドバッチ反応は、細胞密度が100万細胞/mLに達する前に終了させる。ある特定の具体例において、本発明の方法および組成にしたがって生育させる細胞培養物は、伝統的な培養方法を用いて可能になるよりも高い細胞密度まで生育させることができる。
【0064】
ある特定の場合、細胞培養物に、その後の産生段階中に、細胞によって枯渇または代謝された栄養分または他の培地成分を補足することが有益または必要な場合がある。非限定的な例として、細胞培養物にホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、またはグルコースまたは他のエネルギー源を補足することが有益または必要な場合がある。これらの補足成分は、全てを細胞培養物に一度に加えてもよく、または一連の添加で細胞培養物に提供してもよい。
【0065】
ある特定の具体例において、細胞は、米国特許出願第11/213,308号、第11/213,317号および第11/213,633号(各々、2005年8月25日に出願)(出典明示により、全体として、本明細書の一部とされる)に記載の細胞培養方法のいずれかにしたがって生育させる。例えば、ある特定の具体例において、細胞は、累積アミノ酸濃度が約70mMを超える培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミン 対 累積総アミノ酸モル比が約0.2未満である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積無機イオン 対 累積総アミノ酸モル比が約0.4〜1である培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、累積グルタミンおよび累積アルパラギンの合わせた濃度が約16〜36mMである培養培地中で生育させてもよい。ある特定の具体例において、細胞は、2、3、4または5個全ての上記培地条件を含む培養培地中で生育させてもよい。
【0066】
いくつかの具体例において、細胞は、米国仮出願第60/830,658号(2006年7月13日出願)(出典明示により全体として本明細書の一部とされる)に記載の1以上の条件下で生育させる。例えば、いくつかの具体例において、細胞は、約10〜600nMの濃度でマンガンを含有する培養培地中で生育させる。いくつかの具体例において、細胞は、約20〜100nMの濃度でマンガンを含有する培養培地中で生育させる。いくつかの具体例において、細胞は、約40nMの濃度でマンガンを含有する培地中で生育させる。
【0067】
当業者は、限定するものではないが、生育速度、細胞生存力、細胞培養物の最終細胞密度、乳酸塩およびアンモニウムなどの不利益な代謝副産物の最終濃度、発現したポリペプチドの最終的な力価、またはこれらのいずれかの組み合わせ、または実行者が重要であると考える他の条件を包含する細胞培養物のある種の特性を最適化するために、特定の細胞培養条件を調整することができるであろう。
【0068】
培地組成物
幅広い種類の生育培地のうちいずれも、本願発明に使用されうる。ある特定の具体例において、細胞は、種々の化学的に規定された培地のいずれかにおいて生育され、ここに、該培地成分は、既知であり、かつ、調節されている。ある特定の具体例において、細胞は、種々の複合培地中で生育され、ここに、該培地成分の全てが既知であるわけではなく、および/または調節されているわけではない。
【0069】
哺乳動物細胞培養用化学規定生育培地を包含する細胞培養のための化学的に規定された生育培地は、この数年にわたって幅広く開発され、発表されている。規定培地の全成分は、よく特徴付けられており、そのように規定された培地は、血清または加水分解物などの複合添加物を含有しない。初期の培地処方は、細胞成長および生存力の維持を可能にするために開発され、タンパク質産生にはほとんど、または全く配慮していなかった。より近年になって、培地処方は、組み換えタンパク質および/またはポリペプチドを生産するより生産性の高い細胞培養物を支持するという明確な目的で開発された。
【0070】
規定培地は、典型的には、水中における既知濃度で約50種の化学物質からなる。ほとんどの規定培地は、1以上のよく特徴付けられたタンパク質、例えば、インシュリン、IGF−1、トランスフェリンまたはBSAも含有するが、他は、タンパク質成分を必要とせず、故に、タンパク質不含規定培地と呼ばれる。規定培地の化学成分は、一般に、5つの幅広いカテゴリー、すなわち、アミノ酸類、ビタミン類、無機塩類、微量元素、および明確な類別化を無視するその他雑多なカテゴリーに分類される。
【0071】
規定または複合の全ての培地は、生育している細胞のためのエネルギー源を含む。しばしば、エネルギー源は、グルコース、化学式C6H12O6を有する単純な単糖類である。Ham’s F10(Sigma)、最少必須培地([MEM],Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地([DMEM],Sigma)などの市販の培地を包含する伝統的な培地処方は、比較的高レベルのグルコースを含有していた。グルコースは、細胞の主な代謝エネルギー源であるので、伝統的には大量に必要とされると考えられていた。しかしながら、グルコースの迅速な消費は、乳酸塩の蓄積を導く。乳酸塩は、不利益な代謝廃棄産物であり、細胞培養における細胞成長および生産性の既知の阻害剤である(Gorfienら、Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures, Biopharm.International,April 2003;Lao and Toth,Effect of ammonium and lactate on growth and metabolism of a recombinant Chinese Hamster Ovary Cell Culture,Biotechnology.Prog.13(5):688−691,1997参照)。
【0072】
本発明は、ある特定の細胞培養法および培地処方が培養における代謝廃棄産物、例えば、乳酸塩の蓄積を最小限にし、逆転さえするという知見を包含する。Rothらは、2−デオキシグルコースをラットに与えた場合、全食物摂取量を減らすことなくグルコース/エネルギーの流れを減少させることを明らかにした(Caloric Restriction in Primates and Relevance to Humans, Annals of the New York Academy of Sciences, 928:305−15, 2001)。2−デオキシグルコースは、糖の2位のヒドロキシル基が水素原子で置き換わっているグルコースの構造類似体である。該開示は、限定するものではないが、2−デオキシグルコースを包含する解糖阻害物質を含有する培地処方が細胞培養において細胞を生育させるために使用される場合、乳酸塩を包含する代謝廃棄産物の蓄積の減少をもたらすことを明らかにする。特定の理論に縛られることは望ましくないが、かかる解糖阻害物質を開始培地中に提供することによって、何らかの方法で解糖が遅くなるか、または改変され、かくして、培養物中の乳酸蓄積の遅延または防止が可能である。かかる解糖阻害物質を含有する本発明の培地処方は、また、細胞成長および/または生存力に有益な影響を与え、その結果、より高い全IVCDをもたらす。
【0073】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって使用されるべき解糖阻害物質は、2−デオキシグルコースを含む。ある特定の具体例において、2−デオキシグルコースは、1リットルあたり、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50グラムまたはそれ以上の濃度で提供される。ある特定の具体例において、細胞培養中における2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率は、1/50、1/45、1/40、1/39、1/38、1/37、1/36、1/35、1/34、1/33、1/32、1/31、1/30、1/29、1/28、1/27、1/26、1/25、1/24、1/23、1/22、1/21、1/20、1/19、1/18、1/17、1/16、1/15、1/14、1/13、1/12、1/11、1/10、1/9、1/8、1/7、1/6、1/5、1/4、1/3、1/2、1/1またはそれ以上またはそれ以下のいずれかの比率である。当業者は、細胞培養培地中における2−デオキシグルコースの上記の濃度および比率がバッチ培養、フェッドバッチ培養、または潅流培養を用いて達成されうることを理解するであろう。
【0074】
本発明は、また、グルタミン濃度が制限される培地処方を包含する。ある特定の具体例において、細胞培養培地中のグルタミンの濃度は、約13mM未満に制限される。ある特定の具体例において、細胞培養培地中のグルタミン濃度は、約4mM未満に制限される。
【0075】
代謝廃棄産物(例えば、乳酸塩)は、細胞が培養中で生育するにつれて経時的に蓄積する。上記のように、本明細書に記載の教示にしたがって生育された細胞培養物は、より高温での開始生育段階後、より低温に温度シフトしてもよい。グルタミン濃度が制限される開始培地を用いたときの興味深く有益な結果は、細胞培養物が低温にシフトするときに乳酸レベルの増加が止まり、実際、減少し始めることである(例えば、実施例3および4参照)。特定の理論に縛られることは望ましくないが、本発明によって教示されるような低グルタミン条件下で生育された細胞は、実際に、乳酸を消費および/または処理し始めうる。
【0076】
本明細書に記載の教示によると、一般に、全IVCDが高い細胞培養物を生育させることが望ましい。グルタミン濃度が制限された培養培地を提供し、開始生育段階後に細胞培養物をより低温にシフトすることによって、培養物中の乳酸レベルが減少し始め、潜在的に、より生存能力の高い、および/またはより密集した細胞培養が可能となる。該手法の1つの問題は、温度シフトが遅すぎると、細胞が乳酸塩を取り込めなくなり、その結果、より生存能力の低い、および/またはより低密度の細胞培養物がもたらされることである。かくして、乳酸が決定的なレベルまで蓄積する前に、培養物をより低温にシフトすることが望ましい。しかしながら、細胞をより低温にあまりにも早くにシフトした場合の負の効果は、細胞成長が結果として遅くなることである。かくして、伝統的な細胞培養方法は、実行者に、到底理想的とは言えない2つの選択肢から選択させる。すなわち、1)培養物を早期にシフトし、その結果、乳酸の全蓄積量が低くなるが(および、低グルタミン条件下で生育させる場合、その後の減少)、早期の温度シフト後に細胞生育速度が減少する。または2)培養物をより後期にシフトし、細胞生育速度の増加をもたらすが、乳酸の全蓄積量が高くなる。
【0077】
本発明の開示は、解糖阻害物質、例えば、2−デオキシグルコースを含有する細胞培養培地中で細胞を生育させることの1の利益が、かかる解糖阻害物質を欠く比較培養培地中よりも遅い速度で乳酸が蓄積することであることを明らかにする。結果として、培養物がかかる解糖阻害物質を欠いた場合に可能となるよりも遅い時点で、培養物をより低温にシフトしてもよく、その結果、細胞はシフト後であっても、乳酸塩を取り込み始めるであろう。かくして、本明細書中に記載の特定の本願発明の培地および方法を利用することによって、シフト時に細胞密度がより高くなり、全IVCDが増加するであろう。
【0078】
本発明の開示は、シフト後に細胞が乳酸塩を確実に取り込むようにするために、培養物をいつシフトすべきかを決定するにあたり、少なくとも2つの因子、すなわち、シフト時の乳酸濃度およびシフト時の細胞密度が重要でありうることを教示する(例えば、実施例3参照)。特定の細胞系統は、種々の量の乳酸塩を生産し、または培養物中に蓄積された乳酸塩に対してより耐性であったり、またはより耐性が乏しい場合がある。にもかかわらず、本明細書に記載の本発明の方法および培地組成物の利用が所定の細胞培養において、乳酸のより低い全蓄積をもたらし、かくして、より遅い時点で培養物をより低温にシフトさせ、培養物の全IVCDを増加させることが可能である。当業者は、使用される細胞系統の特徴、生産されるべきタンパク質またはポリペプチドの特徴、培地中における他の成分の存在または不存在、または実験的な要求および/または他の要求に望ましいいずれか他の因子に基づいて、培養物をより低温にシフトする正確な時点を選択することができるであろう。
【0079】
本明細書中に開示される本発明の培地処方は、必要に応じ、または所望により、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、タンパク質加水分解物またはグルコースまたは他のエネルギー源で補足してもよい。本発明のある特定の具体例において、培地を化学インダクタント、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および酪酸ナトリウム(「NaB」)で補足することが有益でありうる。これらの任意の補足物は、培養の開始時に加えてもよく、または枯渇した栄養分の補充のために、または別の理由で、より後の時点で加えてもよい。当業者は、本発明の培養処方に含まれてもよいいずれかの望ましい、または必要な補足物を承知し、実験的な要求および/または他の要求に基づいて、加えるべき特定の補足物をを選択することができるであろう。
【0080】
ポリペプチド
宿主細胞において発現可能なポリペプチドは、本明細書に開示される方法および組成物にしたがって生産されうる。ポリペプチドは、宿主細胞にとって内在性の遺伝子から、または宿主細胞中に導入された異種遺伝子から発現されてもよい。ポリペプチドは、天然物であってもよく、または別法では、人工的に操作または選択された配列を有していてもよい。産生されるべきポリペプチドは、個々に天然のポリペプチドフラグメントから構成されていてもよい。さらに、または別法では、操作されたポリペプチドは、非天然の1以上のフラグメントを含んでいてもよい。
【0081】
望ましくは本発明にしたがって発現されうるポリペプチドは、しばしば、興味深い、または有用な生物学的または化学的活性に基づいて選択される。ある特定の具体例において、本発明の方法および/または組成物は、タンパク質治療剤またはポリペプチド治療剤を発現するために用いられる。例えば、本発明は、医薬上または商業上関連する酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤などを発現させるために用いてもよい。本発明にしたがって生産することのできるポリペプチドおよびタンパク質の下記リストは、本来、単なる例示であって、制限的記載であると解釈されるべきではない。当業者は、いずれのポリペプチドまたはタンパク質が本発明にしたがって発現されうるかを理解し、または特定の要求に基づいて生産されるべき特定のポリペチドを選択できるであろう。
【0082】
凝固因子
凝固因子は、医薬的および/または商業的物質として有効であることが示されている。血友病などの疾患の治療における組み換え凝固因子の重要性を鑑みると、本発明の方法および組成物にしたがって組み換え技術によって生産される凝固因子の発現は、特に興味深い。本発明にしたがって生産できる非限定的な凝固因子は、凝固因子IX(因子IXまたは「FIX」)である。FIXは、一本鎖糖蛋白であり、その欠如は、B型血友病、患者の血液が凝固できない障害をもたらす。かくして、出血をもたらすいずれの小さな創傷でも、潜在的に生死に関わる事象である。
【0083】
FIXは、活性化ペプチドの放出によって2本鎖セリンプロテアーゼ(因子IXa)に活性化されることのできる1本鎖チモーゲンとして合成される。因子IXaの触媒的ドメインは、重鎖に位置する(Changら、J.Clin.Invest.,100:4,1997参照、出典明示により本明細書の一部とされる)。FIXは、N−結合型およびO−結合型炭水化物を包含する複数のグリコシル化部位を有する。セリン61にある1の特定のO−結合型構造(Sia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1−O−Ser)は、かつて、FIXに独特であると考えられていたが、その後、哺乳動物およびショウジョウバエにおけるNotchタンパク質を包含する2、3個の他の分子において見出された(Maloneyら、Journal of Biol.Chem.,275(13),2000)。細胞培養においてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたFIXは、セリン61オリゴ糖鎖においていくつかの変化性を示す。これらの異なる糖型および他の可能性のある糖型は、ヒトまたは動物に投与された場合に凝固を誘導する異なる能力を有することがあり、および/または血液中で異なる安定性を有することがあり、その結果、あまり有効でない凝固をもたらす。
【0084】
B型血友病から臨床上区別がつかないA型血友病は、ヒト凝固因子VIII、1本鎖チモーゲンとして合成され、次いで、2本鎖活性型に変換する別の糖蛋白における欠陥によって引き起こされる。本発明は、また、凝固因子VIIIのグリコシル化パターンを調節または改変して、その凝固活性を変調するために用いてもよい。本発明にしたがって生産でき、そのグリコシル化パターンが調節または改変されることのできる他の糖蛋白凝固因子は、例えば、限定するものではないが、組織因子およびフォン・ウィルブランド(von Willebrand)因子を包含する。
【0085】
抗体
抗体は、特定の抗原に特異的に結合する能力を有するタンパク質である。医薬的または他の商業的物質として現在使用または研究下にある多数の抗体を鑑みると、本発明の方法および組成物にしたがう抗体の生産は、特に興味深い。
【0086】
宿主細胞中に発現されることのできるいずれの抗体も、本発明にしたがって使用されうる。ある特定の具体例において、発現されるべき抗体は、モノクローナル抗体である。ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、キメラ抗体である。当該分野で知られているように、キメラ抗体は、1以上の生物から由来のアミノ酸フラグメントを含有する。キメラ抗体分子は、例えば、ヒト定常領域と共に、マウス、ラット、または他の種の抗体由来の抗原結合ドメインを含むことができる。キメラ抗体を作成するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. 81:6851,1985、Takedaら、Nature 314:452,1985、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開第EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許第GB2177096B号(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)を参照のこと。
【0087】
ある特定の具体例において、モノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化抗体は、アミノ酸残基の大部分がヒト抗体から由来し、かくして、ヒト対象にデリバリーした場合にいずれかの潜在的な免疫反応を最小限にするキメラ抗体である。ヒト化抗体において、超可変領域中のアミノ酸残基は、所望の抗原特異性またはアフィニティーを授与する非ヒト種由来の残基に置き換わっている。ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、ヒト抗体に対して、少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセントまたはそれ以上同一であるアミノ酸配列を有する。ある特定の具体例において、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系置換(germline substitution)および/または復帰変異の導入によって最適化される。かかる改変された免疫グロブリン分子は、当該分野において既知のいくつかの技術のいずれかによって作成することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308−7312,1983;Kozborら、Immunology Today,4:7279,1983;Olssonら、Meth.Enzymol.,92:3−16,1982)、PCT公報第WO92/06193号またはEP0239400(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)にしたがって作成してもよい。
【0088】
非限定的な一例としてではあるが、本明細書の教示にしたがって生産されうる抗体は、抗−ABeta抗体である。抗−ABeta抗体は、アルツハイマー病(「AD」)の治療において、特に有望な可能性のある治療方法である。ADは、老人性認知症をもたらす進行性疾患である(一般に、Selkoe,TINS 16:403,1993;Hardyら、WO 92/13069;Selkoe,J.Neuropathol.Exp.Neurol.53:438,1994;Duffら、Nature 373:476,1995;Gamesら、Nature 373:523,1995参照、各々、出典明示により本明細書の一部とされる)。おおまかに言うと、該疾患は2つのカテゴリー、すなわち、老齢(65+歳)に起こる後期発症および老年期よりかなり前(すなわち、35歳〜60歳)に発症する早期発症に分類される。どちらのタイプの疾患も、病理は同じであるが、より早い年齢で開始する場合、異常性がより重篤かつ幅広い傾向にある。該疾患は、脳における少なくとも2つの型の病変、神経原繊維錯綜および老人斑によって特徴付けられる。神経原繊維錯綜は、対になって互いに巻き付いた2つのフィラメントからなる微小管関連タウタンパク質の細胞内沈着である。老人斑(すなわち、アミロイド斑)は、直径150μmまでの乱れた神経網からなり、その中央に、脳組織の切片の顕微鏡分析によって見ることのできる細胞外アミロイド沈着がある領域である。脳内のアミロイド斑の蓄積は、また、ダウン症候群および他の認識障害にも関連する。
【0089】
斑の主要な構成要素は、ABetaまたはBeta−アミロイドと呼ばれるペプチドである。ABetaペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる大きな膜貫通型糖蛋白の39−43個のアミノ酸からなる4−kDaの内部フラグメントである。種々のセクレターゼ酵素によるAPPのタンパク質分解プロセシングの結果として、ABetaは、主として、長さ40アミノ酸の短い形態および42−43アミノ酸の長い形態で見出される。APPの疎水性膜貫通型ドメインの部分は、ABetaのカルボキシ末端で見出され、特に長い形態の場合、ABetaの斑に凝集できる能力の原因となりうる。脳におけるアミロイド斑の蓄積は、最終的に、神経細胞死を導く。該型の神経劣化に関連する身体的症状は、アルツハイマー病の特徴である。
【0090】
APPタンパク質内でのいくつかの変異は、ADの存在に相関している(例えば、Goateら、Nature 349:704,1991(バニリン717〜イソロイシン)、Chartier Harlanら、Nature 353:844,1991(バニリン717〜グリシン)、Murrellら、Science 254:97,1991(バニリン717〜フェニルアラニン)、Mullanら、Nature Genet.1:345,1992(リジン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変化する二重変異)参照、各々、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。かかる変異は、APPのABetaへのプロセシング、特に、APPの増加した量の長い形態のABeta(すなわち、ABeta1−42およびABeta1 43)へのプロセシングの増加または改変によって、ADを引き起こすと考えられる。他の遺伝子、例えば、プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2の変異は、APPのプロセシングに間接的に影響を及ぼして、増加した量の長い形態のABetaを生成すると考えられる(Hardy,TINS 20: 154,1997参照、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。
【0091】
マウスモデルは、ADにおけるアミロイド斑の重要性を決定するために首尾よく使用されている(Gamesら、上掲;Johnson−Woodら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1550,1997、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。特に、PDAPPトランスジェニックマウス(変異型のヒトAPPを発現し、若年でアルツハイマー病を発症する)に長い形態のABetaを注射した場合、アルツハイマー病の進行減少およびABetaペプチドに対する抗体力価の増加の両方を表す(Schenkら、Nature 400,173,1999、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。上記した観察は、ABeta、特に、長い形態のABetaがアルツハイマー病の原因要素であることを示す。
【0092】
ABetaペプチドは、溶液中に存在することができ、CNS(例えば、CSF)およびプラズマにおいて検出することができる。ある特定の条件下、可溶性ABetaは、AD患者の老人斑および脳血管に見出される繊維性で毒性のベータシート形態に変換される。ABetaに対するモノクローナル抗体での免疫化を含む治療が研究されている。能動および受容の両方の免疫化がADマウスモデルにおいて試験された。能動免疫化は、脳における斑の負荷をいくらか減少させたが、経鼻投与の場合だけである。PDAPPトランスジェニックマウスの受動免疫化もまた、研究されている(Bardら、Nat.Med.6:916−19,2000、出典明示により全体として本明細書の一部とされる)。ABetaのアミノ末端および中央ドメインを認識する抗体は、ABeta沈着の食作用を刺激したが、一方、カルボキシ末端ドメイン近くのドメインに対する抗体は刺激しなかった。
【0093】
受動または能動免疫化後のABetaのクリアランスのメカニズムは、継続した研究下にある。2つのメカニズム、すなわち、中枢分解および末梢分解が有効なクリアランスのために提唱された。中枢分解メカニズムは、血液脳関門を横切り、斑に結合し、先在する斑のクリアランスを誘導することのできる抗体に依存する。クリアランスは、Fc−受容体媒介性食作用によって促進されることが示された(Bardら、上掲)。ABetaクリアランスの末梢分解メカニズムは、抗体投与時に、脳、CSFおよびプラズマ間のABetaの動的平衡が崩壊し、それにより、1のコンパートメントから別のコンパートメントへABetaの輸送を導くことに依存する。中枢誘導性のABetaは、CSFおよびプラズマ中に輸送され、そこで分解される。近年の研究では、脳におけるアミロイド沈着の減少さえ伴わずに、可溶性で非結合型ABetaがADに関連する記憶障害に関与すると結論づけた。ABetaクリアランスのこれらの経路の作用および/または相互作用を決定するために、さらなる研究が必要とされる(Dodelら、The Lancet Vol. 2:215, 2003、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。
【0094】
抗−ABeta抗体は、ABetaまたはアミロイド斑を構成する他の成分に結合し、浄化しうるので、潜在的に有望なAD治療経路である。本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、例えば、より効果的にアミロイド斑の成分に結合し、浄化することによって、2、3またはそれ以下の重篤な副作用を伴ってアミロイド斑を浄化することによって、またはアミロイド斑の形成または構築を妨げることによって、ADまたは他の関連疾患をより良好に治療するように働きうる。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、モノクローナル抗体である。
【0095】
ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの可溶性形態に結合することなく、凝集形態に特異的に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、抗−ABetaの凝集形態に結合しない条件下で、抗−ABetaの可溶性形態に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、凝集形態および可溶性形態の両方に結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、斑中のABetaに結合する。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、血液脳関門を横切る。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、対象に負荷されるアミロイドを減少させる。ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、対象における神経炎性ジストロフィー(neuritic dystrophy)を減少させる。ある特定の具体例において、抗−ABeta抗体は、シナプス構築(例えば、シナプトフィジン)を維持することができる。
【0096】
いくつかの具体例によると、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの残基13−28内のエピトープに結合する(天然ABetaの最初のN末端残基を1とする)。いくつかの具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、ABetaの残基19−22内のエピトープに結合する。いくつかの具体例において、種々の抗−ABetaエピトープに対する結合特異性を有する複数のモノクローナル抗体を用いる。例えば、いくつかの具体例において、ABetaの残基19−22内のエピトープに特異的な抗体は、ABetaの残基19−22の外側のエピトープに対して特異的な抗体と共同投与される。かかる抗体は、連続的または同時に投与することができる。ABeta以外のアミロイド成分に対する抗体も使用することができる(例えば、投与または共同投与される)。
【0097】
ある特定の具体例において、本明細書の教示にしたがって生産される抗−ABeta抗体は、別法で生産された抗−ABeta抗体よりも強くまたは特異的にABetaエピトープに結合する。抗体のエピトープ特異性は、既知の技術によって、例えば、種々のメンバーが種々のABetaサブ配列を表示するファージディスプレーライブラリーを形成することによって、決定できる。次いで、ファージディスプレーライブラリーは、試験下で抗体に特異的に結合しているメンバーについて選択されうる。配列のファミリーが単離される。典型的には、かかるファミリーは、共通のコア配列を含有し、異なるメンバーにおいてフランキング配列の長さが異なる。抗体に対する特異的な結合を示す最も短いコア配列は、典型的には、抗体によって結合されるエピトープを規定する。別法では、またはさらに、抗体は、そのエピトープ特異性がすでに決定された抗体を用いる競合アッセイにおいてエピトープ特異性について試験されうる。例えば、ABetaに対する結合について15C11抗体と競合する抗体は、15C11と同一または類似のエピトープ、すなわち、残基ABeta19−22内に結合すると考えられる。ある特定の具体例において、エピトープ特異性について抗体をスクリーニングすることは、治療効力の有用な予知因子である。例えば、ABetaの残基13−28(例えば、Aβ19−22)内のエピトープに結合することが決定された抗体は、おそらく、本発明の方法にしたがってアルツハイマー病を予防および治療するのに有効である。
【0098】
ABetaの他の領域に結合することなく、ABetaの好ましいセグメントに特異的に結合する抗体は、他の領域に結合するモノクローナル抗体または無傷ABetaに対するポリクローナル血清と比較して、いくつかの利益を有する。特に、等しい質量の投与量の場合、好ましいセグメントに特異的に結合する抗体の投与量は、アミロイド斑のクリアランスにおいて有効な、より高モル量の抗体を含有する。また、好ましいセグメントに特異的に結合している抗体は、無傷APPポリペプチドに対するクリアランス応答を誘導することなく、アミロイド沈着に対するクリアランス応答を誘導し、それにより、潜在的な副作用を減少しうる。
【0099】
ある特定の具体例において、上記のモノクローナル、キメラ、1本鎖またはヒト化抗体は、天然のいずれの種におけるいずれの抗体においても、自然に生じないアミノ酸残基を含有しうる。これらの外来残基は、例えば、モノクローナル、キメラ、1本鎖またはヒト化抗体において新規または修飾された特異性、アフィニティーまたはエフェクター機能を与えるために利用できる。
【0100】
酵素
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできる別のクラスのポリペプチドには、酵素がある。疾患の治療ならびに他の商業的および医薬的使用における組み換え酵素の重要性を鑑みると、本発明にしたがう酵素の生産は、特に興味深い。
【0101】
非限定的な一例としてではあるが、グルコセレブロシダーゼ(GCR)の欠如は、ゴーシェ病として知られる病態をもたらし、それは、ある種の細胞のリソソームにおけるグルコセレブロシドの蓄積によって引き起こされる。ゴーシェ病の対象は、脾腫、肝腫脹、骨障害、血小板減少症および貧血を包含する一連の症状を示す。FriedmanおよびHayesは、主要アミノ酸配列において単一置換を含有する組み換えGCR(rGCR)が改変されたグリコシル化パターン、特に、天然GCRと比べてフコースおよびN−アセチルグルコサミン残基の増加を示したことを明らかにした(米国特許番号第5,549,892号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。かくして、本発明の方法にしたがうGCRの生産が意図される。当業者は、本発明の方法にしたがって生産されうる他の望ましい酵素を承知しているであろう。
【0102】
成長因子および他のシグナル伝達分子
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできる別のクラスのポリペプチドには、成長因子および他のシグナル伝達分子がある。成長因子および他のシグナル伝達分子の生物学的重要性および潜在的な治療剤としてのその重要性を鑑みれば、本発明の方法および組成物にしたがうこれらの分子の生産は、特に興味深い。成長因子は、典型的には、細胞によって分泌され、他の細胞上の受容体に結合して活性化し、それにより、受容体細胞における代謝または発育変化を起こす糖蛋白である。
【0103】
哺乳動物成長因子および他のシグナル伝達分子の非限定的な例は、サイトカイン、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGFs)、例えば、aFGFおよびbFGF、形質転換成長因子(TGFs)、例えば、TGF−アルファ、およびTGF−ベータ1、TGF−ベータ2、TGF−ベータ3、TGF−ベータ4またはTGF−ベータ5を包含するTGF−ベータ、インシュリン様生長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II)、デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質、CDタンパク質、例えば、CD−3、CD−4、CD−8、およびCD−19;エリトロポイエチン、骨誘導因子、抗毒素、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロン、例えば、インターフェロン−アルファ、−ベータ、および−ガンマ、コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF、インターロイキン(TLs)、例えば、IL−1ないしIL−10、腫瘍壊死因子(TNF)アルファおよびベータ、インシュリンA−鎖、インシュリンB−鎖、プロインシュリン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、凝固因子、例えば、因子VIIIC、因子IX、組織因子、およびフォン・ウィルブランド因子、抗凝固因子、例えば、プロテインC、心房性ナトリウム利尿因子、肺表面活性剤、プラスミノーゲンアクチベーター、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿または組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)、ボンベシン、トロンビン、造血成長因子、エンケファリナーゼ、RANTES(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted)、ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ)、ミュラー管抑制物質、レラキシンA−鎖、レラキシンB−鎖、プロレラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5または−6(NT−3、NT−4、NT−5、またはNT−6)、または神経成長因子、例えば、NGF−ベータを包含する。当業者は、本発明にしたがって発現されることのできる他の成長因子またはシグナル伝達因子を承知しているであろう。
【0104】
受容体
医薬的および/または商業的物質として有効であることが示され、望ましくは本発明の教示にしたがって生産されることのできるポリペプチドの別のクラスには、受容体がある。受容体の生物学的重要性および潜在的な治療剤としてのその重要性を鑑みれば、本発明の方法および組成物にしたがうこれらの分子の生産は、特に興味深い。受容体は、典型的には、細胞外シグナル伝達リガンドを認識することによって機能する膜貫通型糖蛋白である。受容体は、しばしば、リガンド認識ドメインのほかに、プロテインキナーゼドメインを有する。該プロテインキナーゼドメインは、リガンド結合時に標的細胞内分子をリン酸化することによってシグナル伝達経路を開始し、それにより、細胞内での発育的変化または代謝的変化をもたらす。
【0105】
ある特定の具体例において、腫瘍壊死因子阻害剤は、腫瘍壊死因子アルファおよびベータ受容体(TNFR−1;EP 417,563、1991年3月20日公開;およびTNFR−2,EP 417,014、1991年3月20公開)(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)の形態において、本発明の系および方法にしたがって発現される(概説に関し、Naismith and Sprang, J Inflamm.47(1−2):1−7,1995−96参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。いくつかの具体例によると、腫瘍壊死因子阻害剤は、可溶性TNF受容体を含む。ある特定の具体例において、腫瘍壊死因子阻害剤は、可溶性TNFR−Igを含む。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、TNFRIおよびTNFRIIの可溶性形態である。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、可溶性TNF結合タンパク質である。ある特定の具体例において、本発明のTNF阻害剤は、TNFR−Ig融合タンパク質、例えば、TNFR−Fcまたはエタネルセプト(etanercept)である。本明細書中で使用される場合、「エタネルセプト」なる語は、p75 TNF−α受容体の細胞外部分の2つの分子からなる2量体であって、各分子がヒトIgG1の235アミノ酸Fc部分からなるTNFR−Fcをいう。
【0106】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって生産されるべき受容体は、受容体チロシンキナーゼ(RTKs)である。RTKファミリーは、種々の機能的な多くの細胞型にとって欠かせない受容体を包含する(例えば、YardenおよびUllrich、Ann.Rev.Biochem.57:433−478,1988、UllrichおよびSchlessinger、Cell 61:243−254,1990参照)(出典明示により本明細書の一部とされる)。RTKsの非限定的な例は、腫瘍壊死因子アルファおよびベータ受容体(TNFR−1;EP 417,563、1991年3月20日公開;およびTNFR−2,EP 417,014、1991年3月20日公開;概説に関し、NaismithおよびSprang、J Inflamm.47(1−2):1−7, 1995−96参照)(出典明示により本明細書の一部とされる)、線維芽細胞成長因子(FGF)受容体ファミリー、上皮細胞成長因子受容体(EGF)ファミリーのメンバー、血小板由来成長因子(PDGF)受容体、免疫グロブリンおよびEGF相同ドメイン−1(TIE−1)およびTIE−2受容体を伴うチロシンキナーゼ(Satoら、Nature 376(6535):70−74,1995)(出典明示により本明細書の一部とされる)およびc−Met受容体を包含し、そのいくつかは、直接または間接的に血管形成を促進することが示唆される(MustonenおよびAlitalo、J.Cell Biol.129:895−898,1995)。RTK’sの他の非限定的な例は、胎児肝キナーゼ1(FLK−1)(時々、キナーゼ挿入ドメイン含有受容体(KDR)と称する(Termanら、Oncogene 6:1677−83,1991)か、または血管内皮細胞成長因子受容体2(VEGFR−2)と称する)、fms様チロシンキナーゼ−1(Flt−1)(DeVriesら、Science 255;989−991,1992;Shibuyaら、Oncogene 5:519−524,1990)、時々、血管内皮細胞成長因子1(VEGFR−1)と称する)、ニューロフィリン−1、エンドグリン、エンドシアリン、およびAxlを包含する。当業者は、本発明のある特定の方法および組成物にしたがって発現されることのできる他の受容体を承知しているであろう。
【0107】
ある特定の具体例において、本発明にしたがって生産されるべき受容体は、G−プロテイン結合型受容体(GPCR)である。GPCRは、薬物作用および開発の主要な標的である。実際、受容体は現在知られている薬物の半分以上をもたらしており(Drews, Nature Biotechnology, 14:1516, 1996)、GPCRsは、臨床的に処方される薬物の30%がGPCRを拮抗または作動するという治療的介入のための最も重要な標的を示す(Milligan,G.およびRees、S.,TIPS,20:118−124,1999)。これらの受容体は確立された治療標的としての証明された歴史を有しているので、本発明にしたがうGPCRsの生産は、また、特に興味深い。
【0108】
GPCRsは、7回膜貫通型ドメインを有するタンパク質である。GPCRへのリガンドの結合時に、シグナルが細胞内で変換され、その結果、細胞の生物学的または生理学的特性の変化がもたらされる。GPCRsは、G−プロテインおよびエフェクター(G−プロテインによって変調される細胞内酵素およびチャネル)と共に、細胞内セカンドメッセンジャーの状態を細胞外インプットへ連絡するモジュラーシングナル伝達系の成分である。これらの遺伝子および遺伝子産物は、疾患の潜在的な原因物質である。
【0109】
GPCRタンパク質スーパーファミリーは、現在、250種を超える、遺伝子重複(または他のプロセス)によって生じた変種を示す受容体、パラログ(異なる種由来の同じ受容体であるオルソログの反対として)を含有する。該スーパーファミリーは、5つのファミリーに分けることができる。すなわち、ロドプシンおよびベータ2−アドレナリン受容体によって類型化され、現在200を超える独特のメンバーによって代表されるファミリーI;近年特徴付けられた副甲状腺ホルモン/カルシトニン/セクレチン受容体ファミリーである、ファミリーII;哺乳動物における代謝型グルタミン酸受容体ファミリーであるファミリーIII;D.discoideumの走化性および発育において重要なcAMP受容体ファミリーであるファミリーIV;およびSTE2などの真菌交配フェロモン受容体であるファミリーV。
【0110】
GPCRsは、生体アミン、炎症の脂質メディエーター、ペプチドホルモン、および感覚シグナルメディエーターのための受容体を包含する。GPCRは、受容体がその細胞外リガンドに結合した時に活性化になる。GPCRのコンフォメーション変化は、リガンド−受容体相互作用に由来するが、GプロテインのGPCR細胞内ドメインに対する結合アフィニティーに影響を及ぼす。これにより、Gプロテインに対する増加したアフィニティーでGTPが結合できるようになる。
【0111】
GTPによるGプロテインの活性化は、Gプロテインαサブユニットとアデニレートシクラーゼまたは他のセカンドメッセンジャー分子ジェネレーターとの相互作用を導く。該相互作用は、アデニレートシクラーゼの活性を調節し、したがって、セカンドメッセンジャー分子、cAMPの産生を調節する。cAMPは、他の細胞内タンパク質のリン酸化および活性化を調節する。別法では、他のセカンドメッセンジャー分子、例えば、cGMPまたはエイコシノイド(eicosinoid)の細胞レベルが、GPCRの活性によってアップレギュレートまたはダウンレギュレートされうる。Gプロテインαサブユニットは、GTPaseによるGTPの加水分解によって失活し、α、βおよびγサブユニットが再び結合する。次いで、ヘテロ3量体Gプロテインがアデニレートシクラーゼまたは他セカンドメッセンジャー分子ジェネレーターから解離する。GPCRの活性は、また、細胞内および細胞外ドメインまたはループのリン酸化によって調節されうる。
【0112】
グルタミン酸受容体は、神経伝達において重要なGPCRsの群を形成する。グルタミン酸塩は、CNSにおける主要な神経伝達物質であり、神経可塑性、認識、記憶、学習およびいくつかの神経学的障害、例えば、癲癇、卒中および神経変性において重要な役割を有すると考えられる(Watson,S.およびS.Arkinstall, The G− Protein Linked Receptor Facts Book, Academic Press, San Diego CA, pp. 130−132, 1994)。血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)ファミリーは、その作用がGPCRsによって媒介される関連するポリペプチドの群である。該ファミリーの主要メンバーは、VIP自体、セクレチン、および成長ホルモン放出因子(GRF)である。VIPは、平滑筋の弛緩、種々の組織におけるセクレチンの刺激または阻害、種々の免疫細胞活性の調節、およびCNSにおける種々の興奮性および阻害性活性を包含する幅広いプロフィールの生理学的作用を有する。セクレチンは、膵臓および腸における酵素およびイオンの分泌を刺激し、脳においても少量存在する。
【0113】
一般に、本発明の実行者は、目的のポリペプチドを選択し、その正確なアミノ酸配列を知るであろう。本発明にしたがって発現されるべきいくつかの所定のタンパク質は、それ自体の特定の特徴を有し、培養細胞の細胞密度または生存力に影響を及ぼし、同一の培養条件下で生育される別のポリペプチドまたはタンパク質よりも低レベルで発現されうる。当業者は、適宜、本明細書に記載の培地および方法を修飾して、細胞成長および/または所定の発現されたポリペプチドまたはタンパク質の生産を最適化できるであろう。
【0114】
宿主細胞中へのポリペプチドの発現のための遺伝子の導入
ある特定の具体例において、細胞中に導入される核酸分子は、本発明にしたがって発現されるのが望ましいポリペプチドをコードする。ある特定の具体例において、核酸分子は、細胞による所望のポリペプチドの発現を誘導する遺伝子産物をコードしていてもよい。例えば、導入される遺伝材料は、内在性または異種ポリペプチドの転写を活性化する転写因子をコードしていてもよい。別法では、またはさらに、導入核酸分子は、細胞によって発現されるポリペプチドの翻訳または安定性を増加しうる。
【0115】
目的のポリペプチドの発現を達成するために十分な核酸を哺乳動物宿主細胞中に導入するのに適当な方法は、当該分野で既知である。例えば、Gethingら、Nature,293:620−625,1981;Manteiら、Nature,281:40−46,1979;Levinsonら、EP 117,060;およびEP 117,058(各々、出典明示により本明細書の一部とされる)を参照のこと。哺乳動物細胞の場合、遺伝材料を細胞中に導入する一般的な方法は、Grahamおよびvan der Erb,Virology, 52:456−457,1978のリン酸カルシウム沈降法またはHawley−Nelson,Focus 15:73,1993のlipofectamineTM(登録商標)(Gibco BRL)法を包含する。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的な態様は、Axelによって、米国特許第4,399,216号(1983年4月16日発行)に記載されている。遺伝材料を哺乳動物細胞中に導入するための種々の技術については、Keownら、Methods in Enzymology, 185:527−537, 1990およびMansourら、Nature, 336:348−352, 1988を参照のこと。
【0116】
ある特定の具体例において、導入されるべき核酸は、裸の(naked)核酸分子の形態である。これらの具体例のいくつかの態様において、細胞中に導入される核酸分子は、ポリペプチドをコードしている核酸および必要な遺伝子調節エレメントのみからなる。これらの具体例のいくつかの態様において、ポリペプチド(必要な調節エレメントを包含する)をコードしている核酸は、プラスミドベクター内に含有される。哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現に適当なベクターの非限定的な代表例は、pCDNA1;pCD(Okayamaら、Mol.Cell Biol.5:1136−1142,1985参照);pMClneo ポリ−A(Thomasら、Cell 51:503−512,1987参照);バキュロウイルスベクター、例えば、pAC 373またはpAC 610;CDM8(Seed, B., Nature 329:840, 1987)およびpMT2PC (Kaufmanら、EMBO J. 6:187−195, 1987)を包含する。ある特定の具体例において、細胞中に導入されるべき核酸分子は、ウイルスベクター内に含有される。例えば、ポリペプチドをコードしている核酸は、ウイルスゲノム(または、部分ウイルスゲノム)中に挿入されうる。ポリペプチドの発現を指示する調節エレメントは、ウイルスゲノム中に挿入された核酸と共に含まれることができ(すなわち、ウイルスゲノム中に挿入された遺伝子に結合される)、またはウイルスゲノム自体によって提供されることができる。
【0117】
裸のDNAは、DNAおよびリン酸カルシウムを含有している沈澱を形成することによって、細胞中に導入されることができる。さらに、または別法では、裸のDNAは、また、DNAおよびDEAE−デキストランの混合物を形成し、次いで、該混合物を細胞と一緒にインキュベートするか、または細胞およびDNAを適当なバッファー中で一緒にインキュベートし、次いで、該細胞を高圧電気パルスに付すこと(すなわち、エレクトロポレーション)によって、細胞中に導入することができる。いくつかの具体例において、裸のDNAは、DNAをカチオン性脂質を含有するリポソーム懸濁と混合することによって、細胞中に導入される。DNA/リポソーム複合体を、次いで、細胞と一緒にインキュベートする。裸のDNAは、また、例えばマイクロインジェクションによって、細胞中に直接注入することができる。
【0118】
さらに、または別法では、裸のDNAは、DNAをカチオン、例えば、ポリリジンと複合体化し、それを細胞表面受容体のためのリガンドに結合することによって細胞中に導入することができる(例えば、Wu,G.およびWu,C.H.,J.Biol.Chem.263:14621,1988;Wilsonら、J.Biol.Chem.267:963−967,1992;および米国特許第5,166,320号参照)。DNA−リガンド複合体の受容体への結合は、受容体媒介性エンドサイトーシスによるDNAの取り込みを容易にする。
【0119】
特定の核酸配列、例えば、ポリペプチドをコードしているcDNAを含有するウイルスベクターの使用は、核酸配列を細胞中に導入するための一般的なアプローチである。ウイルスベクターでの細胞の感染は、大部分の細胞が核酸を受容するという利益を有し、それにより、核酸を受容した細胞の選択の必要性を回避することができる。さらに、例えば、ウイルスベクター中に含有されるcDNAによって、ウイルスベクター内でコードされる分子は、一般に、ウイルスベクター核酸を取り込んだ細胞において効率良く発現される。
【0120】
欠損性レトロウイルスは、遺伝子療法の目的で遺伝子移入における使用について、よく特徴付けられている(概説に関し、Miller,A.D.,Blood 76:271,1990を参照のこと)。レトロウイルスゲノム中に挿入された目的のポリペプチドをコードしている核酸を有する組み換えレトロウイルスを構築することができる。さらに、レトロウイルスゲノムの部分は、レトロウイルス複製が欠損するように除去することができる。次いで、複製欠損性レトロウイルスをビリオン中にパッケージし、それを用いて、標準的な技術によりヘルパーウイルスの使用によって標的細胞を感染させることができる。
【0121】
アデノウイルスのゲノムは、目的のポリペプチドをコードし、発現するが、正常な溶解ウイルスライフサイクルにおけるその複製能に関して不活性化されるように操作することができる。例えば、Berknerら、BioTechniques 6:616,1988;Rosenfeldら、Science 252:431−434,1991;およびRosenfeldら、Cell 68:143−155,1992を参照のこと。アデノウイルス株Ad型5 dl324または他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)から由来する適当なアデノウイルスベクターは、当該分野でよく知られている。組み換えアデノウイルスは、それらが有効な遺伝子デリバリービヒクルであるために分裂細胞を必要としないことにおいて有益であり、気道上皮(Rosenfeldら、1992,上掲)、内皮細胞(Lemarchandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482−6486,1992)、肝細胞(HerzおよびGerard,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812−2816,1993)および筋細胞(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581−2584,1992)を包含する幅広く種々の細胞型を感染させるために使用することができる。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびそこに含有される外来性DNA)は、宿主細胞ゲノム中に組み込まれないが、エピソームのままであり、それにより、導入DNAが宿主細胞ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)中に組み込まれるようになる挿入変異の結果として起こることのできる潜在的な問題を回避する。さらに、外来性DNAに関するアデノウイルスゲノムの収容能力は、他の遺伝子デリバリーベクターと比べて大きい(8キロベースまで)(Berknerら、上掲;Haj−AhmandおよびGraham,J.Virol.57:267,1986)。現在使用される大抵の複製欠損性アデノウイルスベクターは、ウイルス性E1およびE3遺伝子の全てまたは部分について欠失しているが、アデノウイルスの遺伝材料の80%も保持する。
【0122】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、有効な複製および増殖ライフサイクルのためにヘルパーウイルスとして別のウイルス、例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスを必要とする天然欠損性ウイルスである。(概説に関し、Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro. and Immunol. 158:97−129, 1992を参照のこと。)それは、また、そのDNAを非分裂細胞中に組み込みうる2、3のウイルスのうち1つであり、高頻度の安定な組込を示す(例えば、Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−356,1992;Samulskiら、J.Virol.63:3822−3828,1989;およびMcLaughlinら、J.Virol.62:1963−1973,1989参照)。300塩基対という小さいAAVを含有するベクターをパッケージすることができ、組み込むことができる。外因性DNAのためのスペースは、約4.5kbに限られている。AAVベクター、例えば、Tratschinら(Mol. Cell. Biol. 5:3251−3260, 1985)に記載のベクターを用いて、DNAを細胞中に導入することができる。AAVベクターを用いて、種々の核酸が種々の細胞型に導入されている(例えば、Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466−6470,1984;Tratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072−2081,1985;Wondisfordら、Mol.Endocrinol.2:32−39,1988;Tratschinら、J.Virol.51:611−619,1984;およびFlotteら、J.Biol.Chem.268:3781−3790,1993参照)。
【0123】
核酸分子を細胞集団中へ導入するために使用される方法が細胞の大きな集団の修飾および細胞によるポリペプチドの効率的な発現をもたらす場合、細胞の修飾された集団は、さらに単離または集団内での個々の細胞のサブクローニングをすることなく、使用してもよい。すなわち、細胞の集団によるポリペプチドの十分な生産があり、その結果、さらなる細胞単離は必要なく、該集団をすぐに使用してポリペプチドの生産のための細胞培養に接種することができる。いくつかの具体例において、ポリペプチドを効率的に生産する単一細胞由来の細胞の均質集団を単離および拡大することが望ましい。
【0124】
目的のポリペプチドをコードする細胞中に核酸分子を導入する代わりに、導入核酸は、別のポリペプチド、タンパク質または細胞によって内因的に生産されるタンパク質またはポリペプチドの発現レベルを誘導または増加する調節エレメントをコードしていてもよい。例えば、細胞は、特定のポリペプチドを発現することができる場合があるが、さらなる細胞処理を用いることなく、そうすることはできない場合がある。同様に、細胞は、所望の目的に不十分な量のポリペプチドを発現する場合がある。かくして、目的のポリペプチドの発現を刺激する物質を用いて、細胞によるポリペプチドの発現を誘導または増加させることができる。例えば、導入された核酸分子は、目的のポリペプチドの転写を活性化またはアップレギュレートする転写因子をコードしていてもよい。次いで、かかる転写因子の発現は、目的のポリペプチドの発現またはより強固な発現を導く。同様に、導入された核酸分子は、1以上の転写リプレッサーを目的のポリペプチドの調節領域から取り去る(titrate away)1以上の調節エレメントを含有していてもよい。
【0125】
ある特定の具体例において、ポリペプチドの発現を指示する核酸を安定に宿主細胞中に導入する。ある特定の具体例において、ポリペプチドの発現を指示する核酸は、一時的に宿主細胞中に導入される。当業者は、実験要求に基づいて、細胞中に核酸を安定に導入するか、または一時的に導入するかを選択することができるであろう。
【0126】
目的のポリペプチドをコードしている遺伝子は、1以上の調節遺伝子調節エレメントに結合していてもよい。いくつかの具体例において、遺伝子調節エレメントは、ポリペプチドの構成的発現を指示する。いくつかの具体例において、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子の誘導性発現を提供する遺伝子調節エレメントを使用することができる。誘導性遺伝子調節エレメント(例えば、誘導性プロモーター)の使用は、細胞中のポリペプチドの産生の変調を可能にする。真核生物細胞において使用するための潜在的に有用な誘導性遺伝子調節エレメントの非制限的な例は、ホルモン調節エレメント(例えば、Mader,S.およびWhite,J.H.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603−5607,1993参照)、合成リガンド調節エレメント(例えば、Spencer,D.M.ら、Science 262:1019−1024,1993)および電離放射線調節エレメント(例えば、Manome,Y.ら、Biochemistry 32:10607−10613,1993;Datta,R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10149−10153,1992)を包含する。当該分野で知られた付加的な細胞特異的系または他の調節系を本明細書に記載の方法および組成物にしたがって用いてもよい。
【0127】
当業者は、本発明の教示にしたがって、細胞に目的のポリペプチドを発現させる遺伝子を導入する方法を選択し、所望により適宜修飾することができるであろう。
【0128】
発現したポリペプチドの単離
ある特定の具体例において、本発明にしたがって発現されるタンパク質またはポリペプチドを単離および/または精製することが望ましい。ある特定の具体例において、発現したポリペプチドまたはタンパク質は、培地中に分泌され、かくして、例えば、精製工程における第1段階として、遠心分離または濾過によって細胞および他の固体を除去してもよい。
【0129】
いくつかの具体例において、発現したポリペプチドまたはタンパク質は、宿主細胞の表面に結合する。かかる具体例において、培地を除去し、ポリペプチドまたはタンパク質を発現している宿主細胞を精製工程の第1段階として溶解する。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズによる物理的破壊および高pH条件への曝露を包含するいくつかの当業者に既知の手段によって達成することができる。
【0130】
ポリペプチドまたはタンパク質は、限定するものではないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、または差別的溶解度、エタノール沈澱、またはタンパク質の精製のためのいずれか他の利用可能な技術を包含する標準的な方法によって、単離および精製されうる(例えば、Scopes,Protein Purification Principles and Practice 2nd Edition,Springer−Verlag,New York,1987;Higgins,S.J.およびHames,B.D.(eds.),Protein Expression:A Practical Approach,Oxford Univ Press,1999;およびDeutscher,M.P.,Simon,M.I.,Abelson,J.N.(編),Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology,Methods in Enzymology Series,Vol 182,Academic Press,1997参照)(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)。特に、イムノアフィニティークロマトグラフィーの場合、タンパク質は、該タンパク質に対して生じた抗体であって、固定支持体に固定された抗体を含むアフィニティーカラムに結合させることによって単離されうる。別法では、アフィニティータグ、例えば、インフルエンザコート配列、ポリヒスチジン、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼを標準的な組み換え技術によってタンパク質に結合させて、適当なアフィニティーカラムに通すことにより容易な精製を可能にすることができる。当業者は、発現したポリペプチドを単離するのに有用な他の既知のアフィニティータグを承知しているであろう。精製過程の間のポリペプチドまたはタンパク質の分解を減少または排除するために、プロテアーゼ阻害剤、例えば、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンまたはアプロチニンをいずれかの段階または全段階で加えてもよい。プロテアーゼ阻害剤の使用は、しばしば、発現されたポリペプチドまたはタンパク質を単離および精製するために、細胞を溶解しなければならないときに有益である。
【0131】
当業者には、正確な精製技術は、精製されるべきポリペプチドまたはタンパク質の特徴、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する細胞の特徴、および細胞を生育させた培地の組成に依存して変更してもよいことが明らかであろう。
【0132】
免疫原性組成物
本明細書の教示にしたがって生産されるタンパク質またはポリペプチドは、また、免疫原性組成物において、例えばワクチンとして使用してもよい。一般に、本発明の免疫原性組成物の成分について適当な「有効量」または投与量の選択は、典型的には、限定するものではないが、使用される免疫原性組成物中の選択されたポリペプチドの同一性、ポリペプチドのグリコシル化パターン、および対象の物理的状態を包含する、特に、免疫される対象の全体的な健康状態、年齢および体重を包含する種々の因子に基づく。当該分野で知られるように、特定の投与方法および経路ならびに免疫原性組成物中の付加的な成分の存在もまた、DNAプラスミド組成物の投与量および量に影響を及ぼしうる。かかる有効投与量の選択および上方向または下方向の調整は、当該分野の技術範囲内である。限定するものではないが、保護的応答を包含する免疫応答を誘導するために、または有意な副作用を伴わずに患者において外因性の影響を生じるために必要とされる免疫原性組成物の量は、これらの因子に依存して変化する。適当な投与量は、当業者によって容易に決定される。
【0133】
本発明のある特定の免疫原性組成物は、アジュバントを含有していてもよい。アジュバントは、免疫源または抗原と一緒に投与した場合に免疫応答を増強する物質である。いくつかのサイトカインまたはリンフォカインは、免疫変調活性を有することが示され、かくして、アジュバントとして使用され、限定するものではないが、インターロイキン1−α、1−β、2、4、5、6、7、8、10、12(例えば、米国特許第5,723,127号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、13、14、15、16、17および18(およびその変異形態)、インターフェロン−α、βおよびγ、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(例えば、米国特許第5,078,996号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、GSF、および腫瘍壊死因子αおよびβを包含する。本発明において有用なまた別の他のアジュバントは、ケモカインを包含し、限定するものではないが、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、およびRANTESを包含する。接着分子、例えば、セクレチン、例えば、L−セクレチン、P−セクレチンおよびE−セクレチンもまた、アジュバントとして有用でありうる。また他の有用なアジュバントは、限定するものではないが、ムチン様分子、例えば、CD34、GlyCAM−1およびMadCAM−1、インテグリンファミリーのメンバー、例えば、LFA−1、VLA−1、Mac−1およびp150.95、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、例えば、PECAM、ICAMs、例えば、ICAM−1、ICAM−2およびICAM−3、CD2およびLFA−3、共刺激分子、例えば、CD40およびCD40L、血管成長因子、神経生長因子、繊維芽細胞成長因子、上皮細胞成長因子、B7.2、PDGF、BL−1、および血管内皮成長因子を包含する成長因子、Fas、TNF受容体、Flt、Apo−1、p55、WSL−1、DR3、TRAMP、Apo−3、AIR、LARD、NGRF、DR4、DR5、KILLER、TRAIL−R2、TRICK2、およびDR6を包含する受容体分子を包含する。また別のアジュバント分子は、カスパーゼ(ICE)を包含する。国際特許公開第WO98/17799号および第WO99/43839号(各々、出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)も参照のこと。
【0134】
コレラ毒素(CT)およびその変異体もまた、アジュバントとして有用であり、公開された国際特許出願第WO00/18434号に記載(ここに、アミノ酸位置29のグルタミン酸が別のアミノ酸(アスパラギン酸以外、例えば、ヒスチジン)で置き換わっている)のものを包含する。類似のCTsまたは変異体は、公開された国際特許第WO02/098368号に記載される(ここに、単独で、またはアミノ酸位置68のセリンの別のアミノ酸による置換と共に、アミノ酸位置16のイソロイシンが別のアミノ酸で置き換わり、および/またはアミノ酸位置72のバリンが別のアミノ酸で置き換わっている)。他のCT毒素は、公開された国際特許出願第WO02/098369号に記載される(ここに、アミノ酸位置25のアルギニンが別のアミノ酸で置き換わり;および/またはアミノ酸位置49にアミノ酸が挿入され;および/または2つのアミノ酸がアミノ酸位置35および36に挿入されている)。これらの参考文献の各々は、全体として本明細書の一部とされる。
【0135】
ある特定の具体例において、本発明の免疫原性組成物は、限定するものではないが、鼻腔内、経口、直腸、非経口、皮内、経皮(例えば、国際特許公開第WO98/20734号参照)(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)、筋内、腹腔内、皮下、静脈内および動脈内を包含する種々の経路によって、ヒトまたは非ヒト脊椎動物に投与される。適当な経路は、使用される免疫原性組成物の性質、患者の年齢、体重、性別および全体的な健康状態の評価、免疫原性組成物中に存在する抗原、および/または当業者に既知の他の因子に依存して選択されうる。
【0136】
ある特定の具体例において、免疫原性組成物は、複数回投与する。免疫原性組成物投与の順序および個々の投与間の時間間隔は、限定するものではないが、宿主の物理的特徴および該方法の適用に対する宿主の正確な応答を包含する当業者に既知の関連する因子に基づいて、当業者によって選択されうる。
【0137】
医薬処方
ある特定の具体例において、生産されたポリペプチドまたはタンパク質は、薬理活性を有し、医薬の製造に有用であろう。上記のように、本願発明の組成物は、対象に投与してもよく、または、まず、限定するものではないが、非経口、静脈内、筋内、皮内、皮下、経口、バッカル、舌下、鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸、および膣経路を包含するいずれかの利用可能な経路によってデリバリーするために処方されてもよい。本発明の医薬組成物は、典型的には、哺乳動物細胞系統から発現された精製したポリペプチドまたはタンパク質、デリバリー剤(すなわち、上記のカチオン性ポリマー、ペプチド分子輸送体、界面活性剤など)を医薬上許容される担体と含む。本明細書中で使用される場合、「医薬上許容される担体」なる語は、医薬投与に適合性の溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。補足活性化合物もまた、本発明の組成物中に配合することができる。例えば、本発明にしたがって生産されたタンパク質またはポリペプチドを全身性薬物療法のための薬物、例えば、毒素、低分子量細胞毒剤、生物学的応答修飾剤、および放射性核種にコンジュゲートしてもよい(例えば、Kunzら、Calicheamicin derivative−carrier conjugates,US20040082764 A1参照)。本発明にしたがって医薬組成物を調製するのに有用な付加的な成分は、例えば、フレーバー剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、増量剤、潤滑剤、圧縮補助剤、結合剤、錠剤崩壊剤、カプセル被包材料、乳化剤、バッファー、保存料、甘味料、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤、または浸透圧調節剤、またはその組み合わせを包含する。
【0138】
別法またはさらに、本発明にしたがって生産されるタンパク質またはポリペプチドは、1以上の付加的な医薬活性剤と共に(同時または連続的に)投与してもよい。これらの医薬活性剤の例示リストは、the Physicians’ Desk Reference,55 Edition, published by Medical Economics Co.,Inc.,Montvale,NJ,2001(出典明示により、全体として本明細書の一部とされる)に見出すことができる。これらの挙げられた薬剤の多くの場合、医薬上有効な投与量および方針は、当該分野で知られており、多くは、the Physicians’ Desk Reference自体に示されている。
【0139】
固体医薬組成物は、1以上の固体担体、および所望により、1以上の他の添加剤、例えば、フレーバー剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、増量剤、潤滑剤、圧縮補助剤、結合剤または錠剤崩壊剤またはカプセル化被包材料を含有していてもよい。適当な固体担体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖類、ラクトース、デキストリン、デンプン、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスまたはイオン交換樹脂、またはその組み合わせを包含する。粉末医薬組成物において、担体は、微粉化固体であってもよく、微粉化された活性成分と混合する。錠剤において、活性成分は、一般に、適当な割合で必要な圧縮性を有する担体、および所望により、他の添加剤と混合し、所望の形状およびサイズに圧縮する。
【0140】
液体医薬組成物は、本発明にしたがって発現されたポリペプチドまたはタンパク質、および溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシルまたは加圧組成物を形成するための1以上の液体担体を含有していてもよい。医薬上許容される液体担体は、例えば、水、有機溶媒、医薬上許容される油脂、またはその組み合わせを包含する。液体担体は、他の適当な医薬添加剤、例えば、可溶化剤、乳化剤、バッファー、保存料、甘味料、フレーバー剤、懸濁化剤、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤または浸透圧調節剤、またはその組み合わせを含有することができる。液体処方が小児科用途を目的とする場合、一般的に、アルコールを含むことを避けるか、またはアルコールの量を制限することが望ましい。
【0141】
経口または非経口投与に適当な液体担体の例は、水(所望により、セルロース誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロースなどの添加剤を含有する)、アルコールまたはその誘導体(一価アルコールまたは多価アルコール、例えば、グリコールを包含する)または油(例えば、分別ココヤシ油および落花生油)を包含する。非経口投与の場合、担体は、また、油性エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルであることができる。加圧組成物のための液体担体は、ハロゲン化炭化水素または他の医薬上許容されるプロペラントであることができる。
【0142】
滅菌溶液または懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、筋内、腹腔内、硬膜外、髄腔内、静脈内または皮下注射によって、非経口投与することができる。経口または経粘膜投与のための医薬組成物は、液体または固体組成形態のいずれであってもよい。
【0143】
ある特定の具体例において、医薬組成物は、意図される投与経路と適合性であるように処方される。非経口、皮内、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分、すなわち、滅菌希釈剤、例えば、注射用水、セーライン溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒、抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン、抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム、キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸、バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、および等張性を調整するための薬剤、例えば、塩化ナトリウム、またはデキストロースを含むことができる。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸および/または水酸化ナトリウムで調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てのシリンジまたは複数回投与用のバイアル中に封入することができる。
【0144】
注射での使用に適当な医薬組成物は、典型的には、滅菌水性溶液(水溶性)または分散液ならびに滅菌注射可能溶液または分散液の即席調製物のための滅菌粉末を包含する。静脈内投与の場合、適当な担体は、生理学的セーライン、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化セーライン(PBS)を包含する。全ての場合、組成物は、滅菌されているべきであり、容易な通針性が存在する程度まで流動性でなければならない。有利には、ある特定の医薬処方は、製造および貯蔵条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。一般に、関連する担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびその適当な混合物を含有する溶媒または分散媒体であることができる。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合、所望の粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持されることができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成されることができる。ある特定の場合、等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことが有用であろう。注射可能な組成物の長期の吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによって、もたらされることができる。
【0145】
滅菌注射溶液は、必要な量の精製したポリペプチドまたはタンパク質を適当な溶媒中に、上記の成分の1つまたは組み合わせと共に配合し、必要ならば、次いで、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドまたはタンパク質を、塩基性分散媒体および上記の必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に配合することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、有利な調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、活性成分および予め滅菌濾過した溶液から由来するいずれかの付加的な所望の成分の粉末を生じる。
【0146】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療薬投与の目的で、精製ポリペプチドまたはタンパク質を賦形剤と共に配合し、錠剤、トローチまたはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態において使用することができる。経口組成物は、また、例えば、口腔洗浄剤として使用するために、流体担体を用いて調製することもできる。医薬上適合性の結合剤、および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含むことができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、下記の材料のいずれか、または同様の性質の化合物:微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなどの結合剤、デンプンまたはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムまたはステロテス(Sterotes)などの滑沢剤、コロイド状二酸化珪素などの潤滑剤、シュークロースまたはサッカリンなどの甘味剤、またはペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジフレーバーなどのフレーバー剤を含有することができる。かかる調製物は、例えば、子供への投与、錠剤の嚥下が危険な個体、または動物への投与を容易にするために、所望により、混合チュアブルまたは液体処方あるいは食物材料または液体であってもよい。経口デリバリー用処方は、有利には、胃腸管内での安定性を改善するための薬剤および/または吸収を増強するための薬剤を配合していてもよい。
【0147】
吸入による投与の場合、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドまたはタンパク質およびデリバリー剤を含む本発明の組成物は、また、鼻腔内投与または吸入により投与されることができ、便利には、乾燥粉末吸入器の形態、あるいは適当なプロペラント、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134ATM)または1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EATM)、二酸化炭素または他の適当な気体の使用を伴う、または伴わない加圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザーもしくはネブライザーからのエーロゾルスプレー提供の形態でデリバリーされる。加圧エーロゾルの場合、投与単位は、計量された、例えば、治療上有効量をデリバリーするためのバルブを提供することによって決定されうる。本発明は、特に、鼻用スプレー、吸入器、または上気道および/または下気道への他の直接的デリバリーを用いる本発明の組成物のデリバリーを意図する。インフルエンザウイルスに対して向けられたDNAワクチンの鼻腔内投与は、CD8 T細胞応答を誘導することが示され、このことは、該経路によってデリバリーされたときに、呼吸管における少なくともいくつかの細胞がDNAを取り込むことができ、本発明のデリバリー剤が細胞性取り込みを増強することを示す。ある特定の具体例によると、哺乳動物細胞系統から発現された精製ポリペプチドおよびデリバリー剤を含む組成物は、エーロゾル投与のための大きな多孔性粒子として処方される。
【0148】
修飾された放出性および拍動的な放出性経口投与形態は、放出速度修飾剤として作用する賦形剤を含有していてもよく、これらは、該装置本体を被覆し、および/または装置本体中に含まれている。放出速度修飾剤は、限定するものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテート、ポリエチレンオキシド、キサンタンガム、カルボマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、水素化ひまし油、カルナウバ蝋、パラフィンワックス、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーおよびその混合物を包含する。修飾された放出性および拍動的な放出性経口投与形態は、放出速度修飾賦形剤の1つまたは組み合わせを含有しうる。放出速度修飾賦形剤は、どちらも、投与形態内、すなわち、マトリックス内、および/または投与形態上、すなわち、表面またはコーティング上に存在していてもよい。
【0149】
全身性投与は、また、経粘膜または経皮手段によることができる。経粘膜または経皮投与の場合、浸透されるべき障壁に適当な浸透剤を処方中に用いる。かかる浸透剤は、当該分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を包含する。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは座剤の使用によって達成されることができる。経皮投与の場合、精製ポリペプチドまたはタンパク質およびデリバリー剤は、例えば、下記:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水の1以上との混合物中、懸濁または溶解された活性化合物を含有する適当な軟膏として処方することができる。別法では、それらは、例えば、下記:鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水の1以上との混合物中、懸濁または溶解された適当なローションまたはクリーム、として処方されることができる。
【0150】
別法では、化合物は、座剤または膣座剤の形態で投与することができ、またはそれらは、ゲル、ヒドロゲル、ローションまたは他のグリセリド、溶液、クリーム、軟膏または散布剤の形態で局所的に塗布されてもよい。
【0151】
いくつかの具体例において、組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化したデリバリーシステムを包含する放出制御処方など、身体からの迅速排除に対するポリペプチドまたはタンパク質を保護するであろう担体と共に調製される。一般に、本発明の組成物は、放出が迅速、遅延、修飾、抑制、脈動化、または制御されたデリバリーのために処方してもよい。生物分解性の生体適合性ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸を使用することができる。かかる処方の調製方法は、当業者に明らかであろう。適当な材料は、また、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に入手できる。リポソーム懸濁(ウイルス性抗原に対するモノクローナル抗体で感染させた細胞を標的とするリポソームを含む)は、また、医薬上許容される担体として使用することができる。これらは、米国特許第4,522,811号に記載のように、当業者に既知の方法にしたがって調製することができる。
【0152】
本発明にしたがって製造されたタンパク質およびポリペプチドは、また、シクロデキストリンと組み合わせて使用してもよい。シクロデキストリンは、ある特定の分子との包接錯体および非包接錯体を形成することが知られている。シクロデキストリン錯体の形成は、タンパク質またはポリペプチドの溶解性、溶解速度、バイオアベイラビリティーおよび/または安定性を修飾しうる。シクロデキストリン錯体は、一般に、大抵の投与形態および投与経路に有用である。タンパク質またはポリペプチドとの直接的な錯体化とは別に、シクロデキストリンは、補助添加剤として、例えば、担体、希釈剤または可溶化剤として使用されうる。アルファ−、ベータ−およびガンマ−シクロデキストリンが最も一般的に使用され、適当な例は、公開された国際特許出願第WO91/11172号、第WO94/02518号および第WO98/55148号に記載されている。
【0153】
いくつかの具体例において、本発明の医薬組成物は、単位投与形態、例えば、錠剤またはカプセルにおいて提供される。容易な投与および投与量の均一性のために、単位投与形態における経口または非経口組成物を処方するのが有益でありうる。かかる形態において、組成物は、適量のポリペプチドまたはタンパク質を含有する単位投与量においてさらに分割する。単位投与形態は、パッケージした組成物であることができ、例えば、パック入りの粉末、バイアル、アンプル、予め充填したシリンジまたは液体入りのサシェであることができる。単位投与形態は、例えば、カプセルまたは錠剤自体であることができ、またはパッケージ形態の適当な数のいずれかのかかる組成物であることができる。当業者に明らかなように、治療上有効な単位投与量が、例えば、投与方法、ポリペプチドまたはタンパク質の強度、および/またはレシピエントの重量および医薬組成物中の他の成分の正体を包含するいくつかの因子に依存する。
【0154】
本発明にしたがって発現されるポリペプチドまたはタンパク質は、必要に応じて種々の間隔で種々の期間にわたり、例えば、週に1回を約1〜10週間、2〜8週間、約3〜7週間、約4、5または6週間など、投与することができる。当業者には、限定するものではないが、疾患または障害の重篤度、以前の治療、患者の全体的な健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を包含するある特定の因子が対象を効果的に治療するために必要とされる投与量および時機に影響を及ぼすことができることが明らかであろう。本明細書中に記載のポリペプチドまたはタンパク質での対象の治療は、単一治療または一連の治療を含んでいてもよい。さらに、当然のことながら、適当な投与量がポリペプチドまたはタンパク質の強度に依存しうること、および例えば、予め選択された所望の応答が達成されるまで投与量を増やして投与することによって、特定のレシピエントに合わせていてもよい。当然のことながら、いずれかの特定の動物に特異的な投与レベルは、使用される特定のポリペプチドまたはタンパク質の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康状態、性別および食餌、投与の時間、投与の経路、排出速度、いずれかの薬物の組み合わせ、および変調されるべき発現または活性の度合いを包含する種々の因子に依存しうる。
【0155】
本発明は、非ヒト動物の治療のための本発明の組成物の使用を包含する。したがって、投与量および投与方法は、獣医薬理学および医薬の既知の原理にしたがって選択すればよい。例えば、Adams,R.(編),Veterinary Pharmacology and Therapeutics,8th edition,Iowa State University Press;ISBN:0813817439;2001に、手引きを見出すことができる。
【0156】
本発明の医薬組成物は、投与指示書と共に容器、パックまたはディスペンサーに含ませることができる。
【実施例】
【0157】
実施例1:培養皿におけるα−GDF−8細胞の細胞成長に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
乳酸塩は、細胞培養における細胞成長の既知の阻害剤である(LaoおよびToth, Biotechnology.Prog.13(5):688−691,1997参照)。細胞培養中のグルコースの量が減少すると、生産される乳酸塩の量が同時に減少する。2−デオキシグルコースは、糖の2位のヒドロキシル基が水素部分に置き変わっているグルコースの構造類似体である。Rothらは、2−デオキシグルコースをラットに与えたとき、全食物取り込み量を減少させることなく、グルコース/エネルギーの流れを減少させることを明らかにした(Annals of the New York Academy of Sciences,928:305−15,2001)。該実施例では、哺乳動物細胞培養物への2−デオキシグルコースの添加が培養皿における細胞の成長に不利益であるかどうかを決定するために実験を行った。
【0158】
材料および方法:
成長および分化因子8に対するモノクローナル抗体を発現するように操作されたチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞(「α−GDF−8細胞」)(Veldmanら、Neutralizing Antibodies Against GDF−8 and Uses Therefor,US20040142382 A1参照)を培養皿において、種々の濃度の2−デオキシグルコースと共に、最終的な開始濃度9g/Lまでグルコースを補足した培地1中で生育させた。表1は、培地1の組成を示す。
【0159】
【表1】
【0160】
結果および結論:
細胞培養皿中におけるα−GDF−8細胞の比成長率を図1に示す。2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞は、約0.03 l/hの比成長率(「μ」)を示した。増加量の2−デオキシグルコースの添加により、用量依存的に比成長率が減少した。例えば、1g/Lの2−デオキシグルコース(2−デオキシグルコース:グルコース比が1:9)の存在下で生育させた細胞は、0.02 l/hを少し上回る比成長率を示したが、2.5g/Lの2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、約0.015 l/hの比成長率を示し、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞のおおよそ半分であった。かくして、2−デオキシグルコースの存在は細胞成長を阻害するようであり、約1:9より大きい2−デオキシグルコース 対 グルコース比は、比成長率を2−デオキシグルコースの不在下で観察される成長率の半分以下のレベルに減少させる。
【0161】
実施例2:培養皿におけるα−GDF−8細胞の乳酸に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例1は、培養皿において生育させた細胞培養物が、低濃度で与えられた2−デオキシグルコースによく耐性があることを明らかにした。該実施例では、2−デオキシグルコースの存在が培養皿において生育させた細胞培養物中の乳酸蓄積に対して影響を及ぼすかどうかを試験するために、実験を行った。
【0162】
材料および方法;
α−GDF−8細胞を培養皿中、種々の濃度の2−デオキシグルコースと共に約6g/Lグルコースを含有する培地1中で生育させた。いくつかのα−GDF−8培養物には、任意で、最終的な開始濃度9g/Lまでグルコースを補足した。細胞を2回継代し、各継代後、3日間生育させた。3日目の最後に、継代した培養物の各々を生存能力、細胞密度、グルコースレベル、乳酸レベルおよびα−GDF−8力価について測定した。比力価生産率(「Qp」)および比乳酸取り込み率(「Qlact」)を計算した。Qlactは、下記のように計算された。すなわち、
((最終的な乳酸レベル−開始乳酸レベル)/(最終細胞密度−開始細胞密度))x成長率x24
ここに、乳酸レベルはg/Lで測定され、細胞密度は、106細胞/mlで測定され、成長率は、l/hで測定され、最終Qlactは、mg/e6/日で計算される。Qpは、下記のように計算された。すなわち、
((最終力価−開始力価)/(最終細胞密度−開始細胞密度))x成長率x24
ここに、力価はmg/Lで測定され、細胞密度は106細胞/mlで測定され、成長率は1/hとして測定され、Qpはμg/e6/日として計算される。
【0163】
結果:
表2は、2回継代したα−GDF−8細胞培養物の開始および最終細胞密度、生存能力、最終グルコースおよび乳酸濃度、比成長率、力価、QlactおよびQpを示す。表から分かるように、細胞の生存能力は、少なくとも1:6の2−デオキシグルコース 対 グルコース比まで、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在によってあまり影響を受けない(表2、「viab」と標識した列)。しかしながら、細胞の比成長率は、用量依存的に、2−デオキシグルコースの存在によって負の影響を受ける(表2、「μ」と標識した列)。第1および第2継代の対照培養物は、各々、比成長率0.032および0.037を示すが、1g/Lの2−デオキシグルコースの存在下で生育させた培養物は、比成長率0.027(第1継代、9g/Lグルコース)、0.028(第2継代、9g/Lグルコース)および0.027(第2継代、6g/Lグルコース)を示す。かくして、実施例1の結果と同様に、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、比成長率を阻害する。
【0164】
細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、また、用量依存的に、培養物中の乳酸塩の蓄積を減少させた。表2に示されるように(「lact」と標識した列)、第1継代において、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中に蓄積した乳酸レベルは1.88g/Lであったが、1g/Lの2−デオキシグルコース(9g/Lのグルコースと共に)の存在下、乳酸塩が0.9g/Lのレベルに蓄積した。同様に、第2継代において、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中、乳酸塩が2.39g/Lのレベルまで蓄積し、一方、1g/Lの2−デオキシグルコースの存在下、乳酸塩は、0.98g/L(9g/Lのグルコースと共に)または0.68g/L(6g/Lのグルコースと共に)のレベルに蓄積しただけであった。さらに、表2から分かるように、2−デオキシグルコース 対 グルコース比が増加するにつれて、細胞培養物中の全乳酸量が減少するだけではなく、比乳酸生産率(「Qlact」)も減少した。第1継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は0.948のQlactを有していたが、1:9の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qlactは0.553に落ちた。同様に、第2継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は、0.582のQlactを有していたが、1:9の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qlactは0.290に落ちた。
【0165】
細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、また、α−GDF−8力価を用量依存的に減少させた。表2に示されるように(「titer」と標識した列)、第2継代において、α−GDF−8は、2−デオキシグルコースを欠く対照培養物中、67.3mg/Lのレベルに蓄積したが、1g/Lの2−デオキシグルコース(6g/Lのグルコースと共に)の存在下、α−GDF−8は、28.22mg/Lのレベルに蓄積しただけであった。さらに、表2から分かるように、2−デオキシグルコース 対 グルコース比が増加するにつれて、細胞培養物中の全力価が減少しただけでなく、比力価生産率(「Qp」)も減少した。第2継代において、2−デオキシグルコースを含有しない対照培養物は、16.376のQpを有したが、1:6の2−デオキシグルコース 対 グルコース比を有する培養物中、Qpは12.038に落ちた。
【0166】
【表2】
注釈:第1列の数字は、g/Lデオキシグルコース 対 g/Lグルコース比を示す。
かくして、0.25/9は、0.25g/Lのデオキシグルコースおよび9g/Lのグルコースを示す。
【0167】
結論:
実施例1の結果と同様に、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、用量依存的に細胞成長を阻害した。結果として、最終的な細胞密度は、2−デオキシグルコースを補足した培養物中でより低く、発現したα−GDF−8の力価は、培養物中の2−デオキシグルコース 対 グルコース比に正比例して減少した。しかしながら、2−デオキシグルコースの存在は、細胞培養物中の細胞の生存能力には、ほとんど影響がないか、または全く影響がないようであった。重要なことには、細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在は、用量依存的に乳酸蓄積を阻害した。乳酸塩は、高い細胞密度での細胞成長および生存能力の既知の阻害剤であるので、これらの結果は、2−デオキシグルコースを細胞培養物に添加すると、より高い最終細胞密度またはより高い細胞密度のより健康な細胞培養物をもたらしうることを明らかにする。
【0168】
実施例3:バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例1および2は、培養皿において生育された細胞培養物が低濃度で加えられた2−デオキシグルコースによく耐性があり、2−デオキシグルコースの存在下で乳酸蓄積が減少することを明らかにした。該実施例では、2−デオキシグルコースがバイオリアクター中で生育させた細胞培養中で産生した乳酸塩の量を減少させるかどうか、および2−デオキシグルコースの存在が、特に細胞培養が長期間生育される場合に、成長率の減少のほかに他の有益または不利益な効果を有するかどうかを決定するために実験を行った。
【0169】
材料および方法;
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2中で生育させ、培地3を与えた。培地2および培地3の組成を表3に示す。培養物のいくつかには、0.5g/Lの2−デオキシグルコースを培養開始時に補足した。4日目(早期シフト)または6日目(後期シフト)のいずれかに、培養物を37℃から31℃にシフトした。バイオリアクター中で生育させる細胞培養物のための実験条件および栄養補給計画を表4に纏める。
【0170】
【表3−1】
【0171】
【表3−2】
【0172】
【表3−3】
【0173】
【表4】
【0174】
結果:
図2、3、4および5は、表4に記載の4つの条件下、生産バイオリアクター中で生育させたα−GDF−8細胞の毎日の細胞密度、生存能力、乳酸濃度および力価を示す。図2から分かるように、2−デオキシグルコースの存在下で生育させ、後期シフトした細胞の細胞密度は、約4日目に、他の3つの条件のいずれよりも有意に高くなり始めた。さらに2−デオキシグルコースの存在下に生育させた後期シフトした細胞の生存能力は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた後期シフトした細胞の生存能力よりも有意に高かった。図4および図5の比較は、α−GDF−8の全力価が培養物中の乳酸量と逆相関することを示す。2つの早期シフト培養物(2−デオキシグルコースを含有するものと、欠如するもの)は、各々、培養終了時までに最低の乳酸レベルを有し、各々、最高の全力価を有した。発明者らは、2−デオキシグルコースを含有した早期シフトした培養物は、2−デオキシグルコースを欠く早期シフトした培養物よりもわずかに低い乳酸レベルを有し、相応して、わずかに高い最終力価を有したことに注目する。同様に、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物は、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物よりもわずかに低い乳酸レベルを有し、相応して、わずかに高い最終力価を有した。早期シフト培養物は、両方とも、温度シフト日である約4日目に乳酸レベルの減少開始を示した。しかしながら、後期シフト培養物は、両方とも、シフト後に乳酸レベルの減少を示さず、培養周期を通して、乳酸レベルが増加し続けた。
【0175】
結論:
実施例1および2における培養皿で2、3日だけ生育させた細胞培養物において見られる細胞密度に対する不利な影響とは対照的に、該実施例は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中の2−デオキシグルコースの存在が、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、2日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらすことを明らかにした。さらに、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物は、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物よりも有意に高い生存能力を示した。さらに、2−デオキシグルコースを含有する培地中で生育させた細胞培養物は、2−デオキシグルコースを欠く培地中で生育させた対応する培養物よりも、得られる乳酸レベルが低かった。しかしながら、重要なことに、早期シフト培養物は、両方とも、温度シフト後に全乳酸レベルの減少を示したが、後期シフト培養物は、両方とも、培養の過程を通して乳酸塩を蓄積し続けた。早期培養物のシフト時の乳酸レベルは、後期シフト培養物のシフト時の乳酸レベルをはるかに下回っていた。かくして、シフト時の乳酸レベルにより、培養中の細胞が乳酸塩を取り込み始めるかどうかを決定することが可能である。しかしながら、2−デオキシグルコースを欠く後期シフト培養物の乳酸レベルは、シフト時に、2日早くシフトした培養物のシフト時の乳酸レベルより有意に高かったが(図4参照、約10g/L 対 約4−5g/L)、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物の乳酸レベルは、有意に高くなかった(図4参照、約6g/L 対 約4−5g/L)。しかしながら、後期シフトした2−デオキシグルコースを含有する培養物の細胞密度は、有意に高かった(図2参照、約18xe6/mL 対 12xe6/mL)。かくして、シフト時の乳酸レベルのほかに、該実施例は、シフト時の細胞密度もまた、培養物中の細胞が乳酸塩を取り込み始めるどうかの決定において役割を果たしうることを明らかにする。
【0176】
最終的に、該実施例は、培養物の力価が培養物中の乳酸レベルに逆相関することを明らかにする。かくして、乳酸塩を取り込み始めた早期シフト培養物は、最も高い最終力価を有し、一方、乳酸塩を蓄積し続けた後期シフト培養物は、最も低い最終力価を有した。それにもかかわらず、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物が有意に高い細胞密度を有していた。かくして、過剰な乳酸レベルは、2−デオキシグルコースを含有する培地中で生育させた後期シフト細胞の生産性に影響を及ぼすようである。
【0177】
実施例4:バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例3は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中における2−デオキシグルコースの存在が、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、2日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらすことを明らかにした。さらに、2−デオキシグルコース含有培養物は、2−デオキシグルコースを欠く対応する培養物よりも低い程度に乳酸塩を蓄積した。しかしながら、シフト時の高乳酸レベルおよび/または高細胞密度のために、後期シフト培養物の力価は、有意に減少した。該実施例では、シフト時の乳酸レベルおよび/または細胞密度を改変することによって、後期シフト培養物の力価を復活させることを試みる。
【0178】
材料および方法:
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2中で生育させ、培地3で補足した。培養物のいくつかには、培養開始時に0.5g/Lの2−デオキシグルコースで補足した。細胞には、3g/Lのグルコースまたは0.3g/Lの2−デオキシグルコースのいずれかが4日目に与えられ、5日目に、10容量%フィード培地または0.2g/Lの2−デオキシグルコースで補足した10容量%フィード培地を与えた。培養物は、5日目(早期)または6日目(後期)のいずれかに37℃から31℃にシフトさせた。7日目および10日目に付加的なフィードを供給した。バイオリアクター中で生育させる細胞培養物のための実験条件を表5に纏める。
【0179】
【表5】
【0180】
結果:
図6、7および8は、表5に記載の4つの条件下、生産バイオリアクター中で生育させたα−GDF−8細胞の毎日の細胞密度、乳酸濃度および力価を示す。実施例3に見られる結果と同様に、図6は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞の細胞密度が、他の3つの条件のいずれよりも、約5日目で有意に高くなり始めることを示す。図7は、全細胞培養物が低温にシフト後に乳酸レベルの減少を被ったことを示す。さらに、後期にシフトした2−デオキシグルコースを含有する細胞培養物は、2−デオキシグルコースの存在の有無に拘わらず、早期にシフトした細胞培養物より低い最終乳酸濃度を有した。さらに、全乳酸レベルは、2−デオキシグルコースの存在下または不在下のいずれかで生育させた後期シフト細胞培養物間で類似であった。しかしながら、図6は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞培養物がより多くの細胞を含有したことを示すので、2−デオキシグルコース培養物中の細胞が2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞より少量の乳酸塩を生産したか、または何らかの方法で、2−デオキシグルコースもしくは両方の不在下で生育させた細胞より大きな程度まで既存の乳酸塩を代謝したということになる。図8は、α−GDF−8の全力価が4つ全ての培養条件について同様であったことを示す。しかしながら、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞の全細胞密度がより高かったので(図6参照)、後期シフト2−デオキシグルコース細胞は、他の3つの培養条件下で生育させた細胞より、細胞当たり、より少量のα−GDF−8を生産しているようである。
【0181】
図9は、表5に記載の4つの条件下で生育させたα−GDF−8細胞のグルコース取り込み量を示す。培養培地中の2−デオキシグルコースの存在は、グルコース取り込み量の減少をもたらした(図9の第3および第4バー参照)。さらに、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞は、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた早期シフト細胞より低い率でグルコースを取り込んだ。
【0182】
結論:
実施例3に見られる結果と同様に、該実施例は、バイオリアクター中で12日間生育させた細胞培養物中における2−デオキシグルコースの存在が2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物、または2−デオキシグルコースの存在下で生育させたが、1日早く温度シフトした細胞培養物のいずれかよりも、培養終止時に有意に高い細胞密度をもたらしたことを明らかにする。重要なことに、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞よりも、少ない乳酸産生をもたらし、および/または大きな程度まで乳酸塩を消費したようである(図6に示される2つの試料の細胞密度を図7に示される全乳酸蓄積と比較する)。また、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた後期シフト細胞培養物は、2−デオキシグルコースの存在下または不在下のいずれかで生育させた早期シフト細胞培養物よりも低い全乳酸レベルを有したことに注目すべきである。最終的に、細胞当たりのα−GDF−8産生量は、後期シフト2−デオキシグルコース培養物におけるよりも低いが(図6に示される2つの試料の細胞密度を図8に示される全α−GDF−8力価と比較する)、全α−GDF−8力価は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物のα−GDF−8力価に類似しているので、2−デオキシグルコースの存在は、全細胞密度に対して正の影響を与えるが、実施例3の結果とは対照的に、最終的なα−GDF−8力価に対して不利な効果を有しないことが明らかになった。かくして、本発明は、乳酸が温度シフト後に取り込まれるように培養条件を操作することによって、2−デオキシグルコースを含有する後期シフト培養物の細胞密度を、対応する負の影響を全α−GDF−8力価に及ぼすことなく、増加させることができることを明らかにする。
【0183】
実施例5:高グルコースの存在下、バイオリアクター中におけるα−GDF−8細胞の細胞成長および生産性に対する2−デオキシグルコースの影響
序文:
実施例4は、生産バイオリアクター中における2−デオキシグルコースの存在が、細胞を後期に温度シフトした場合、12日間の最後に、全細胞密度の増加をもたらすことを明らかにした。全α−GDF−8力価は、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞培養物のα−GDF−8力価に類似するが、細胞当たりのα−GDF−8産生は有意に低かった。該実施例では、培養物を付加的なグルコースで周期的に補足することによって、細胞当たりのα−GDF−8産生を増加することができるかどうかを決定するために実験を行った。
【0184】
材料および方法:
α−GDF−8細胞を1Lバイオリアクター中、培地2で生育させ、培地3で補足した。開始時の培養培地には、0.5g/Lの2−デオキシグルコースを補足するか、または補足しなかった。3、5、7、10および12日目に、グルコースレベルが約8g/Lを超えるように、細胞に補給した。2−デオキシグルコースを欠く培養物は、4日目に37℃から31℃にシフトし、一方、2−デオキシグルコースを含有する培養物は、5日目に37℃〜31℃にシフトした。
【0185】
結果:
図10、11、12、13および14は、各々、2−デオキシグルコースの存在下または不在下で生育させたα−GDF−8細胞について、毎日の生存細胞密度、力価、乳酸、グルコースレベルおよび比細胞生産性を示す。図10に示されるように、2つの培養物の細胞密度は、培養の開始時および終止時に同様であるが、2−デオキシグルコースを補足した培養物の細胞密度は、培養の中期段階において、わずかに高かった。図11は、全α−GDF−8力価が2つの培養物間でも類似するが、2−デオキシグルコースを補足した培養物のα−GDF−8力価は、14日にわずかに高いことを示す。かくして、高レベルのグルコースの存在下、実施例3および4で見られる細胞当たりの力価の減少は、排除されたようである。2−デオキシグルコースを含有するか、または欠如する細胞培養物間のα−GDF−8産生の類似性は、α−GDF−8の毎日の比細胞生産性を示す図14においても示される。上記3つの実施例において示されたデータと一貫して、図12は、2−デオキシグルコースを含有する細胞培養中の乳酸蓄積が2−デオキシグルコースを欠く細胞培養物中よりも有意に低いことを示す。図13は、培養過程にわたる毎日のグルコースレベルを示す。3、5、7、10および12日目の急激な増加は、フィード培地の添加に対応した。
【0186】
結論:
該実施例は、高レベルのグルコースの存在下、実施例4および5において見られた2−デオキシグルコースの存在下における細胞当たりのα−GDF−8産生量の減少が排除されることを明らかにする。さらに、高レベルのグルコースの存在下であっても、2−デオキシグルコースの存在に起因する培養培地中の乳酸レベルの有益な減少が存続する。かくして、2−デオキシグルコースの存在下で生育させた細胞は、1日遅くに温度シフトすることができ、その結果、2−デオキシグルコースの不在下で生育させた細胞よりも、高い全積分生存細胞密度をもたらした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地。
【請求項2】
解糖阻害物質が2−デオキシグルコースである請求項1記載の培地。
【請求項3】
2−デオキシグルコースが1リットルあたり約0.25グラム〜1グラムで存在する請求項2記載の培地。
【請求項4】
さらにグルコースを含み、ここに、2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率が約1:9以下である請求項2記載の培地。
【請求項5】
さらにグルタミンを約13mM未満で含む請求項1記載の培地。
【請求項6】
培地がさらにグルコースを約8g/L以上含む請求項1記載の培地。
【請求項7】
細胞培養培地が、(i)累積アミノ酸濃度が約70mMよりも大きく、(ii)累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満、(iii)累積グルタミン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.2未満、(iv)累積無機イオン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.4〜1、(v)累積グルタミンおよび累積アスパラギンの合わせた濃度が約16〜36mM、およびその組み合わせからなる群から選択される培地特性を有する請求項1記載の培地。
【請求項8】
さらにマンガンを約10〜600nMで含む請求項1記載の培地。
【請求項9】
培地が規定される請求項1記載の培地。
【請求項10】
解糖阻害物質が、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、フルオロアセテート、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項1記載の培地。
【請求項11】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地中で、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養し、該遺伝子が細胞培養条件下で発現される工程、および、
ポリペプチドの発現が可能になるのに十分な条件下および期間、培養を維持して、その結果、培養物の乳酸レベルが、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中、同一の条件下で産生された乳酸レベルよりも低くなる工程
を含む細胞培養におけるポリペプチドの産生方法。
【請求項12】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地中で、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養し、該遺伝子が細胞培養条件下で発現される工程、
第1の期間、第1の温度範囲で培養物を維持する工程、
培養物を第2の温度範囲にシフトし、ここに、第2の温度範囲の少なくとも1つの温度が第1の温度範囲の最も低温よりも低い工程、および
ポリペプチドの発現が可能になるのに十分な条件下および時間で第2の期間、培養物を維持し、ここに、培養物の乳酸レベルが、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中、同一の条件下で観察される乳酸レベルよりも低くなる工程、
を含む細胞培養におけるポリペプチドの産生方法。
【請求項13】
解糖阻害物質が2−デオキシグルコースである請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
2−デオキシグルコースが細胞培地中、1リットルあたり約0.25グラム〜1グラムで存在する請求項13記載の方法。
【請求項15】
さらにグルコースを含み、ここに、2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率が約1:9以下である請求項13記載の方法。
【請求項16】
さらにグルタミンを約13mM未満で含む請求項11または12記載の方法。
【請求項17】
細胞培養培地がさらにグルコースを含み、ここにグルコースレベルが約8g/L以上で維持される請求項11または12記載の方法。
【請求項18】
細胞培養培地が、(i)累積アミノ酸濃度が約70mMより大きく、(ii)累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満、(iii)累積グルタミン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.2未満、(iv)累積無機イオン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.4〜1、(v)累積グルタミンおよび累積アスパラギンの合わせた濃度が約16〜36mM、およびその組み合わせからなる群から選択される培地特性を有する請求項11または12記載の方法。
【請求項19】
さらにマンガンを約10〜600nMで含む請求項11または12記載の方法。
【請求項20】
少なくとも500リットルの培養物を提供することを含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項21】
さらに補足成分が提供される請求項11または12記載の方法。
【請求項22】
補足成分がフィード培地中に提供される請求項21記載の方法。
【請求項23】
補足成分が2−デオキシグルコースを含む請求項21記載の方法。
【請求項24】
補足成分が、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、グルコースまたは他のエネルギー源、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項21記載の方法。
【請求項25】
第1の温度範囲が摂氏30〜42度である請求項12記載の方法。
【請求項26】
第2の温度範囲が摂氏25〜41度である請求項12記載の方法。
【請求項27】
シフト工程が、培養物の生存細胞密度が約6x106細胞/mL〜12x106細胞/mLの範囲内にあるときにシフトして、その結果、細胞が第2の期間中に乳酸を取り込み始めるようになることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項28】
シフト工程が、培養物の乳酸濃度が約8グラム/リットル未満のときにシフトして、その結果、細胞が第2の期間中に乳酸を取り込み始めるようになることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項29】
培養物を第3の温度または温度範囲にシフトすることを含む、第1のシフト工程後の第2のシフト工程であって、ここに、第3の温度範囲の少なくとも1つの温度が第2の温度範囲の最低温度よりも低い工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項30】
第3の温度範囲が摂氏25〜40度である請求項29記載の方法。
【請求項31】
解糖阻害物質が、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、フルオロアセテート、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項11または12記載の方法。
【請求項32】
ポリペプチドが単離および精製される請求項11〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
ポリペプチドが、酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤、凝固因子、増殖因子、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項32記載の方法。
【請求項34】
ポリペプチドが抗体である請求項32記載の方法。
【請求項35】
抗体が抗−ABeta抗体である請求項34記載の方法。
【請求項36】
抗体が、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中で同一の条件下で産生された抗体よりも、強く、特異的に、または強く且つ特異的にエピトープに結合する請求項24または35記載の方法。
【請求項1】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地。
【請求項2】
解糖阻害物質が2−デオキシグルコースである請求項1記載の培地。
【請求項3】
2−デオキシグルコースが1リットルあたり約0.25グラム〜1グラムで存在する請求項2記載の培地。
【請求項4】
さらにグルコースを含み、ここに、2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率が約1:9以下である請求項2記載の培地。
【請求項5】
さらにグルタミンを約13mM未満で含む請求項1記載の培地。
【請求項6】
培地がさらにグルコースを約8g/L以上含む請求項1記載の培地。
【請求項7】
細胞培養培地が、(i)累積アミノ酸濃度が約70mMよりも大きく、(ii)累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満、(iii)累積グルタミン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.2未満、(iv)累積無機イオン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.4〜1、(v)累積グルタミンおよび累積アスパラギンの合わせた濃度が約16〜36mM、およびその組み合わせからなる群から選択される培地特性を有する請求項1記載の培地。
【請求項8】
さらにマンガンを約10〜600nMで含む請求項1記載の培地。
【請求項9】
培地が規定される請求項1記載の培地。
【請求項10】
解糖阻害物質が、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、フルオロアセテート、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項1記載の培地。
【請求項11】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地中で、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養し、該遺伝子が細胞培養条件下で発現される工程、および、
ポリペプチドの発現が可能になるのに十分な条件下および期間、培養を維持して、その結果、培養物の乳酸レベルが、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中、同一の条件下で産生された乳酸レベルよりも低くなる工程
を含む細胞培養におけるポリペプチドの産生方法。
【請求項12】
解糖阻害物質を含む細胞培養培地中で、目的のポリペプチドをコードしている遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養し、該遺伝子が細胞培養条件下で発現される工程、
第1の期間、第1の温度範囲で培養物を維持する工程、
培養物を第2の温度範囲にシフトし、ここに、第2の温度範囲の少なくとも1つの温度が第1の温度範囲の最も低温よりも低い工程、および
ポリペプチドの発現が可能になるのに十分な条件下および時間で第2の期間、培養物を維持し、ここに、培養物の乳酸レベルが、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中、同一の条件下で観察される乳酸レベルよりも低くなる工程、
を含む細胞培養におけるポリペプチドの産生方法。
【請求項13】
解糖阻害物質が2−デオキシグルコースである請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
2−デオキシグルコースが細胞培地中、1リットルあたり約0.25グラム〜1グラムで存在する請求項13記載の方法。
【請求項15】
さらにグルコースを含み、ここに、2−デオキシグルコースのグルコースに対する比率が約1:9以下である請求項13記載の方法。
【請求項16】
さらにグルタミンを約13mM未満で含む請求項11または12記載の方法。
【請求項17】
細胞培養培地がさらにグルコースを含み、ここにグルコースレベルが約8g/L以上で維持される請求項11または12記載の方法。
【請求項18】
細胞培養培地が、(i)累積アミノ酸濃度が約70mMより大きく、(ii)累積グルタミン 対 累積アスパラギンモル比が約2未満、(iii)累積グルタミン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.2未満、(iv)累積無機イオン 対 累積全アミノ酸モル比が約0.4〜1、(v)累積グルタミンおよび累積アスパラギンの合わせた濃度が約16〜36mM、およびその組み合わせからなる群から選択される培地特性を有する請求項11または12記載の方法。
【請求項19】
さらにマンガンを約10〜600nMで含む請求項11または12記載の方法。
【請求項20】
少なくとも500リットルの培養物を提供することを含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項21】
さらに補足成分が提供される請求項11または12記載の方法。
【請求項22】
補足成分がフィード培地中に提供される請求項21記載の方法。
【請求項23】
補足成分が2−デオキシグルコースを含む請求項21記載の方法。
【請求項24】
補足成分が、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸類、脂質、グルコースまたは他のエネルギー源、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項21記載の方法。
【請求項25】
第1の温度範囲が摂氏30〜42度である請求項12記載の方法。
【請求項26】
第2の温度範囲が摂氏25〜41度である請求項12記載の方法。
【請求項27】
シフト工程が、培養物の生存細胞密度が約6x106細胞/mL〜12x106細胞/mLの範囲内にあるときにシフトして、その結果、細胞が第2の期間中に乳酸を取り込み始めるようになることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項28】
シフト工程が、培養物の乳酸濃度が約8グラム/リットル未満のときにシフトして、その結果、細胞が第2の期間中に乳酸を取り込み始めるようになることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項29】
培養物を第3の温度または温度範囲にシフトすることを含む、第1のシフト工程後の第2のシフト工程であって、ここに、第3の温度範囲の少なくとも1つの温度が第2の温度範囲の最低温度よりも低い工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項30】
第3の温度範囲が摂氏25〜40度である請求項29記載の方法。
【請求項31】
解糖阻害物質が、2−デオキシグルコース、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ドデシルホスフェート、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、ヨウ化[2−(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、ヨードアセテート、フルオロアセテート、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項11または12記載の方法。
【請求項32】
ポリペプチドが単離および精製される請求項11〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
ポリペプチドが、酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤、凝固因子、増殖因子、およびその組み合わせからなる群から選択される請求項32記載の方法。
【請求項34】
ポリペプチドが抗体である請求項32記載の方法。
【請求項35】
抗体が抗−ABeta抗体である請求項34記載の方法。
【請求項36】
抗体が、解糖阻害物質を欠くほかは同一の培地中で同一の条件下で産生された抗体よりも、強く、特異的に、または強く且つ特異的にエピトープに結合する請求項24または35記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2010−508825(P2010−508825A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535484(P2009−535484)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/083473
【国際公開番号】WO2008/055260
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/083473
【国際公開番号】WO2008/055260
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
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