説明

細胞培養に有用な多目的基板およびその製造および使用方法

(1)リン酸カルシウム・コーティングでコーティングしたベースと、(2)前記リン酸カルシウム・コーティング上に吸着された、フルオロフォアで標識したコラーゲンとからなる多目的基板が開示される。この多目的基板は、さまざまな細胞の培養および細胞活性の研究に有用である。本明細書に記載の多目的基板は、培養細胞の溶液系および画像系の解析に使用することができる。これらのコーティング基板を製造および使用するための新しい方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2009年11月25日に出願した米国特許出願第12/625,952号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は多目的基板に関し、さらに具体的には、細胞の培養に使用するための多目的基板に関する。
【背景技術】
【0003】
接着性の動物細胞の培養は、一般に、生物培地の存在下で基板に細胞を播種することによって行われる。細胞培養基板および培地は、細胞がインビボと似た様式で接着および機能する環境を提供する上で重要である。細胞の培養は、多くのさまざまなタイプの疾病、および、これらの疾病を治療または予防する可能性のある薬物を研究するための研究ツールを提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞が基板表面で培養される場合、細胞は光学顕微鏡によって画像化されうる。しかしながら、画像系の解析はうんざりするほど時間を要し、結果をリアルタイムに得られない。例えば、骨細胞の場合には、基板表面に形成されるくぼみ(pits)を明らかにするために細胞培養を停止し、漂白しなければならない。よって、表面の撮像に加えて、細胞を基板上で培養する際に、追加の検出法を可能にする基板を有することが望ましいであろう。これらの必要性に対処する多目的基板およびその製造方法が本明細書に開示される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の組成物、物品、および方法の目的に従い、(1)リン酸カルシウム・コーティングでコーティングしたベースと、(2)前記リン酸カルシウム・コーティング上に吸着された、フルオロフォアで標識したコラーゲンとからなる多目的基板が、本明細書に具象化され幅広く記載される。この多目的基板は、さまざまな細胞の培養および細胞活性の研究に有用である。本明細書に記載の多目的基板は、培養細胞の溶液系の解析および画像系の解析の両方に使用されうる。このようなコーティング基板を製造および使用するための新しい方法も開示される。
【0006】
追加の利点は、一部は、以下の説明に記載され、一部は、その説明から明白になるであろうし、あるいは、以下に記載される態様の実施によって習得されよう。下記の利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素および組合せによって実感および達成されよう。前述の概要および後述する詳細な説明は、単に典型的および説明的なものであって、それらによって限定されないことが理解されよう。
【0007】
本明細書に取り込まれその一部を構成する添付の図面は、以下に記載するいくつかの態様を例証している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】Eu標識化コラーゲンの経時における回収画分のEu蛍光発光を示すグラフ。
【図2】Eu標識化コラーゲンの経時による回収画分のコラーゲン濃度を示すグラフ。
【図3】7日間にわたり、5%CO2を用いて37℃で無水マレイン酸誘導体化ポリスチレンプレート(製品A)に共有結合させたユウロピウムで標識化したコラーゲンと比較した、Corning Osteo Assay Surface(COAS)および組織培養処理したポリスチレン(TCT)からの培地へのEu−コラーゲンの脱着を示すグラフ。
【図4】7日間にわたる、Eu−コラーゲンでコーティングした表面および製品A上に播種したヒト破骨細胞前駆体細胞(HOCL)による培地へのEu−コラーゲンの放出を示すグラフ。
【図5】7日間の培養後のEu標識化コラーゲンでコーティングしたCOASおよび製品Aの表面におけるHOCLのTRAP染色を示す図。
【図6】7日間の培養後のEu標識化コラーゲンでコーティングしたCOASおよび製品AにおけるHOCLの溶液系の定量的TRAPアッセイ示すグラフ。
【図7】7日間の培養後のEu標識化コラーゲンでコーティングしたCOASおよび製品AにおけるHOCLのくぼみの形成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載の材料、化合物、組成物、物品、装置、および方法は、以下に記載される本開示の対象の特定の態様およびそこに含まれる実施例の詳細な説明、並びに図面を参照することにより、さらに容易に理解されよう。
【0010】
本発明にかかる材料、化合物、組成物、物品、装置、および方法を開示および説明する前に、以下に説明する態様は特定の合成方法または特定の試薬に限定されず、当然ながら変化しうることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、単に特定の態様を説明する目的のために用いられ、限定されることは意図されていないこともまた理解されるべきである。
【0011】
また、本明細書全体にわたり、さまざまな刊行物が参照される。これら刊行物の開示全体は、本開示の対象の関連する最先端のものについてさらに十分に説明するために、参照することによって本願に援用される。開示される文献はまた、その文献が信頼されるに値する文章において論じられている、それらに含まれる材料についても、本明細書で参照することにより、個別にかつ具体的に取り込まれる。
【0012】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体にわたり、「含む」という用語、および例えば「含んでいる」および「含まれる」など、その用語の他の形態は、限定はしないが含むことを意味し、例えば、他の添加剤、成分、整数、またはステップを除外することは意図されていない。
【0013】
「随意的な」または「随意的に」とは、その語句の後に記載の事象または状況は起こっても起こらなくてもよく、その説明は事象または状況が生じる場合、および生じない場合の両方を含むことを意味する。
【0014】
本明細書に開示されるある特定の材料、化合物、組成物、および成分は、商業的に得ることができ、あるいは、当業者に周知の技法を用いて容易に合成することができる。例えば、本開示の化合物および組成物の調製に用いられる出発原料および試薬は、供給業者から入手可能であるか、または当業者に既知の方法によって調製される。
【0015】
本開示の材料、化合物、組成物、物品、および方法の特定の態様について詳細に説明され、それらの例は下記実施例および添付の図面に例証される。
【0016】
本明細書において、(1)リン酸カルシウム・コーティングでコーティングしたベースと、(2)前記リン酸カルシウム・コーティング上に吸着された、フルオロフォアで標識したコラーゲンとからなる多目的基板が開示される。基板の各要素ならびに基板の製造および使用方法は以下に詳細に説明される。
【0017】
本明細書では「ベース」という用語は、リン酸カルシウムをコーティングすることができる表面を有するいずれかの物品である。1つの態様では、基板は、リン酸カルシウム・コーティングを生成可能な溶液を受け入れ、保持することができる1つ以上のウェルまたは陥凹部(depression)を有しうる。ベースは、多目的基板の所望の最終用途に応じた多くの形状および寸法を仮定して差し支えない。例えば、ベースは、多様な寸法および高さの複数のウェルを有するマイクロウェル・プレートでありうる。
【0018】
ベースは、さまざまな異なる材料から調製されうる。1つの態様では、ベースはポリマーを含む。これらのポリマーの例としては、限定はしないが、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはエチレン酢酸ビニルなどのホモポリマーおよび共重合体が挙げられる。ポリマーの混合物もまた知られており、本願が考慮されうる。これらの混合物としては、限定はしないが、ポリカーボネート/ABS、PVC/ABS、ポリフェニレンオキサイドおよび耐衝撃性(high impact)ポリスチレンなどの市販の材料が挙げられるが、先に列記したホモポリマーおよび共重合体の新規の混合物であってもよい。これらのポリマーは、ウェル、マルチウェルプレート、フラスコなどを含めた細胞培養容器を形成しうる。加えて、細胞培養容器は、細胞培養ウェルの側壁を形成するために、水を透過させない方法で底部ベース上に設置された構造を備えた、ガラススライドまたはシート状のポリマー材料などの底部ベースから形成された実質的なウェルであってもよい。
【0019】
1つの態様では、ポリマーベースは、リン酸カルシウム・コーティングを施用する前に改質されうる。ポリマーベースは、活性な化学的部位を増大させるため、または表面酸素の量を増大させるために、ベースの電荷を変化させるように改質されて差し支えない。例えば、ベース表面は、コロナ放電、プラズマ処理(例えば、アンモニア、窒素、酸素、亜酸化窒素、二酸化炭素、空気、または活性化またはイオン化されうる他の気体)、加熱、紫外線照射、γ線照射、紫外オゾン、またはマイクロ波エネルギーなどのエネルギーに曝露されうる。表面酸素の増大はベースの親水性を増大させる。これは、ある特定の態様では望ましいであろう。ベース表面の処理は、ベース上の全体的な表面電荷を改質することができ、リン酸カルシウムを用いた表面のコーティングを促進することができる。1つの態様では、ベースは、表面酸素量が増大するように処理されたポリスチレンを含む。
【0020】
別の態様では、ベースは無機材料を含む。無機材料の例としては、表面酸化可能な金属および半導体材料、ガラス、およびセラミック材料が挙げられる。ベース材料として使用することができる金属の例としては、アルミニウム、クロム、チタニウムおよび鋼鉄の酸化物がある。ベース材料に用いられる半導体材料は、シリコンおよびゲルマニウムを含みうる。ベース材料に用いられるガラスおよびセラミック材料は、クオーツ、ガラス、磁器、アルカリ土類アルミノホウケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスおよび他の混合酸化物を含みうる。無機基板材料のさらなる例としては、亜鉛化合物、雲母、シリカおよび無機の単結晶材料が挙げられる。ベースは層状構造を含んでもよく、上述のポリマー性材料または無機材料のいずれかを互いの上にコーティングすることができることが意図されている。例えば、ベースは、シリカでコーティングされたポリマー性の表面でありうる。
【0021】
ベース表面にリン酸カルシウム・コーティングを有するベースは、本明細書において「プレ基板」と称される。プレ基板はさまざまな技法によって調製されて差し支えない。例えば、ベースは、リン酸カルシウム・コーティングを生成するための複数の前駆体成分を含む溶液と接触させられうる。ベースを溶液と接触させる方法は、ベースの選択によって異なる。例えば、ベースがガラススライドの場合、スライドは、ガスケット(例えば、Greiner Bio One社(ドイツ国所在)によって製造されたflexiPerm再利用可能な細胞培養チャンバ)に接着されて差し支えなく、溶液がウェルに加えられる。別の態様では、ベースがマイクロウェル・プレートの場合、各ウェルは特定量の溶液で満たされる。この態様では、各ウェルは、同一または異なる溶液(すなわち、異なる前駆体成分および/または異なる量の前駆体成分)で満たされることが意図されている。各ウェルに加えられる溶液の量は変動してもよく、ウェルのサイズ(直径および高さ)、ベース材料、および前駆体成分の濃度に応じて決まる。1つの態様では、各ウェルは溶液で部分的に満たされる。ベースを溶液と接触させる別の技法は、噴霧コーティングである。
【0022】
前駆体成分は、ベース表面上にリン酸カルシウム・コーティングを形成させることができるいずれかの成分である。前駆体成分は一般的には塩であるが、前駆体成分は酸または塩基であってもよい。1つの態様では、前駆体成分としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。炭酸塩には重炭酸塩も含まれ、リン酸塩にはリン酸水素およびリン酸二水素も含まれ、硫酸塩には硫酸水素塩も含まれることが意図されている。
【0023】
別の態様では、前駆体成分は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、重炭酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、および塩化ナトリウムのいずれかの組合せを含む。これらの成分のイオンは、一般に血漿中に存在する。よって、これらの成分を含む溶液は、一般に疑似体液すなわちSBFと称される。疑似体液またはそれらの誘導体の生成は、当技術分野で既知である。SBF溶液は改質されてもよい。例えば、ある特定の態様では、溶液はカリウムまたは硫黄を必要としない。
【0024】
溶液中に存在する前駆体成分の濃度は変動してもよい。ある特定の態様では、濃度は、単独で、または微量の他の溶液(例えばアルコール)またはpH調整剤(例えば、酸または塩基)と組み合わせて水に可溶性である前駆体成分の最大量である。1つの態様では、溶液はSBFを含む。別の態様では、溶液は5倍または10倍のSBFを含む。溶液の最初のpHは、前駆体成分の濃度、ベース材料、およびベース表面の表面電荷(存在する場合)に応じて変化しうる。1つの態様では、溶液は、3〜8、3〜7、3〜6、4〜8、5〜8、5〜7、または5〜6の初期pH値を有する。溶液のpHが変化することにより、ベース上に形成されるリン酸カルシウム・コーティングの全般的な形態を調節することができる。
【0025】
上述のように、ある特定の態様では、ベースは、ベースの表面電荷を変化させる多くの表面技法で処理され、それによって、表面の湿潤性に影響を与えうる。例えば、ベースの表面が酸素化基(例えば、ヒドロキシル、カルボキシル)の量を増大させるために処理される場合、処理ベースは溶液に対する親和性が大きくなりうる。他に考慮すべきなのは、使用する溶液の量である。一般に、溶液の体積は、適切なリン酸カルシウム・コーティングを生じさせるのに十分な量である。使用する溶液の量は、溶液濃度および所望するコーティングの厚さに応じて決まる。
【0026】
ベースを溶液と接触させた後、ベースは、表面に前記リン酸カルシウム・コーティングを生じさせるようにインキュベートされる。インキュベーションの温度および時間は、ベース上のリン酸カルシウム・コーティングの所望の形態に応じて変化しうる。例えば、ベース表面に、より小さいリン酸カルシウム結晶を生じさせるためには、より低い温度において、より長いインキュベーション時間を有することが望ましいであろう。1つの態様では、インキュベーションの工程は、最高で90℃の温度で最長72時間までの時間で行われる。別の態様では、インキュベーションの工程は、室温〜90℃、30℃〜80℃、または40℃〜60℃の温度で、1〜72時間、2〜36時間、2〜24時間、または2〜18時間、行われる。
【0027】
前駆体成分の選択に応じて、インキュベーションおよび結晶化の間に気体が生じる場合がある。例えば、前駆体成分を含む溶液が酸性であり、溶液に重炭酸塩が加えられる場合、CO2ガスが発生する。理論に縛られることは望まないが、気体の除去は、溶液のpHに影響を与え、したがって、結晶形成の速度および量に影響を与えうる。溶液中に存在する成分に応じて、結晶形成はpH変化に敏感な場合がある。例えば、重炭酸塩が酸性溶液に加えられる場合、CO2が発生する。系からCO2が除去される場合、平衡は右にシフトし、溶液中の酸がさらに除去される(すなわち、重炭酸塩と反応する)。これは、結果として、pHの上昇を生じる。CO2が除去されない場合は、平衡に達し、酸の濃度およびpHはそれ以上変化しない(すなわち、重炭酸塩はそれ以上酸と反応しない)。よって、ベース上の結晶成長が溶液のpHに対して敏感である場合、結晶形成を促進するために、インキュベーションの間に生じる気体の除去が行われうる。
【0028】
他の態様では、ベースが一連のベース(例えば、多量のマイクロプレートまたはペトリ皿)を含む場合、インキュベーションの間に、わずかな減圧を印加して、積み重ねた系から気体を除去することができる。別の方法では、積み重ねた系は、インキュベーションの間に生じた気体が系から逃げられるように、各プレートまたは皿が緩く積み重ねられて配置される。
【0029】
インキュベーション工程の後、ベースはリン酸カルシウム・コーティングを有する。コーティングされたベースにその後の工程を行ってもよく、これら工程には、プレ基板を水で洗浄し、プレ基板に気流を適用するか、または熱を印加することによって前記プレ基板を乾燥することが含まれる。
【0030】
ベース上のリン酸カルシウム・コーティングの厚さは、コーティングされるベースならびに選択される前駆体成分の性質および濃度に応じて変化しうる。例えば、コーティングの厚さは、200nm〜800nm、200nm〜700nm、200nm〜600nm、200nm〜500nm、200nm〜400nm、300nm〜800nm、400nm〜800nm、500nm〜800nm、または600nm〜800nmの範囲である。厚いコーティングが望まれる場合、より厚いコーティングが生じるように、前述の接触およびインキュベーションの工程を連続して複数回行うことができる。ある特定の態様では、基板上の細胞をより良好に視覚化し、細胞吸収に対する感受性を改善するために、薄いコーティング(例えば、1μm未満)が望ましい。
【0031】
ベースは、さまざまなパターンおよびデザインで、リン酸カルシウムでコーティングされうる。例えば、取り外し可能な粘着テープまたはマスクをベースの表面に設置して、最終的にリン酸カルシウムでコーティングされる露出基板にパターンまたはデザインを生じさせることができる。次に、インキュベーションおよび結晶形成の後にテープまたはマスクが除去される。あるいは、表面酸素を増大させるためにベースが処理される場合、表面処理の前に、取り外し可能な粘着テープまたはマスクをベースの表面に設置することができる。ここで、リン酸カルシウム・コーティングは、表面処理されたベース部分または区画にのみ形成され、あるいは、マスク化領域に結晶が形成される場合には、それらは、その後の洗浄工程の間に容易に除去される。
【0032】
1つの態様では、リン酸カルシウム・コーティングは、式Ca5(PO43OHを有するヒドロキシアパタイトを含む。別の態様では、リン酸カルシウム・コーティングは置換ヒドロキシアパタイトからなる。置換ヒドロキシアパタイトとは、1つ以上の原子が別の原子に置換されたヒドロキシアパタイトである。置換ヒドロキシアパタイトは式M53Yで表わされ、ここで、MはCa、Mg、Naであり;XはPO4またはCO3であり;YはOH、F、Cl、またはCO3である。ヒドロキシアパタイト構造内の微量の不純物は、以下のイオン: Zn、Sr、Al、Pb、Baに由来して存在しうる。別の態様では、リン酸カルシウムはオルトリン酸カルシウムを含む。オルトリン酸カルシウムの例としては、限定はしないが、無水リン酸二水素カルシウム、リン酸一カルシウム・一水和物、リン酸二カルシウム・二水和物、無水リン酸水素カルシウム、リン酸オクタカルシウム、β−リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、スーパーα−リン酸三カルシウム、またはリン酸四カルシウムが挙げられる。ある特定の態様では、リン酸カルシウム・コーティングは、培養の間に、例えば骨細胞などのある特定の型の細胞の接着を促進するカーボネート基(CO3)を有する結晶を含む。他の態様では、リン酸カルシウム・コーティングは、骨基質タンパク質などの細胞培養に有用なタンパク質を選択的に吸着することができるカルシウム欠乏性のヒドロキシアパタイトも含みうる。
【0033】
生成するリン酸カルシウム・コーティングは、一般に、大きい表面積および細孔容積を有する。リン酸カルシウム・コーティングは、一般に、ベースの表面上に均一に存在し、これは細胞培養にとって望ましいことである。さらには、リン酸カルシウム・コーティングは均一な厚さを有する場合、接着性の細胞をより良好に変化することが可能となる。
【0034】
1つの態様では、プレ基板は、
(a)ベースの表面にリン酸カルシウム・コーティングを生成する複数の前駆体成分を含む溶液にベースを導入する工程と;
(b)前記ベースを前記溶液に対して逆さにする工程と;
(c)前記逆さにしたベースをインキュベートして、前記ベースの表面に前記リン酸カルシウム・コーティングを生成する工程であって、前記インキュベーションの間に発生したガスを放出することができる工程と、
を含む方法によって製造される。
【0035】
参照することによってその全体が本明細書に取り込まれる国際公開第2008/103339号パンフレットに開示される方法を、この態様に使用することができる。この態様では、ベースを溶液に接触させた後に、ベースを溶液に対して反転すなわち逆さまにさせる。例えば、ベースがガスケットに接着させたマイクロウェルまたはスライドである場合、ベースを180°反転させることができる。
【0036】
ある特定の態様では、プレ基板は、フルオロフォアで標識したコラーゲンをプレ基板に吸着させる前に、γ線照射に曝露される。
【0037】
本明細書に記載の多目的基板は、プレ基板のリン酸カルシウム・コーティングに吸着した、フルオロフォアで標識したコラーゲンを有する。本明細書において、フルオロフォアで標識したコラーゲンに関して「吸着した」という用語は、フルオロフォアで標識したコラーゲンの、リン酸カルシウム・コーティングへの非共有的な接着または結合として定義される。フルオロフォアで標識したコラーゲンは、直接的にも間接的にもリン酸カルシウム・コーティングに共有結合しない。リン酸カルシウム・コーティングは、フルオロフォアで標識したコラーゲンと共有結合を形成可能になるような方法で改質されない。例えば、フルオロフォアで標識したコラーゲンは、リン酸カルシウム・コーティング上に存在する官能基と共有結合を形成する可能性がありうる、カルボジイミド(例えば、1−エチル−3−[ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)、マレイミド、またはヨードアセチル基などのリンカーまたはスペーサを用いて誘導体化されない。
【0038】
フルオロフォアで標識したコラーゲンには、さまざまな種類のフルオロフォアが用いられうる。フルオロフォアは、コラーゲンに共有的または非共有的に結合することができる。1つの態様では、フルオロフォアはランタニドキレートである。本発明にとって有用なランタニドキレートの例としては、限定はしないが、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、またはイッテルビウムのβ−ジケトンキレートが挙げられる。適切なβ−ジケトンとしては、例えば、2−ナフトイルトリフルオロアセトン(2−NTA)、1−ナフトイルトリフルオロアセトン(1−NTA)、p−メトキシベンゾイルトリフルオロアセトン(MO−BTA)、p−フルオロベンゾイルトリフルオロアセトン(F−BTA)、ベンゾイルトリフルオロアセトン(BTA)、フロイルトリフルオロアセトン(FTA)、ナフトイルフロイルメタン(NFM)、ジテノイルメタン(DTM)、およびジベンゾイルメタン(DBM)がある。1つの態様では、ランタニドキレートは、Eu3+−N’−(p−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−四酢酸(Perkin−Elmer社製)である。
【0039】
別の態様では、フルオロフォアは、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 680、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G、ローダミングリーン、ローダミンレッド、およびローダミンBでありうる。他の態様では、フルオロフォアは、寸法依存性の光学的および電子特性を有する半導体ナノ結晶である、量子ドットでありうる。
【0040】
フルオロフォアで標識したコラーゲンにおけるコラーゲンのタイプは、特定の種類のコラーゲンに限定されない。例えば、本発明には、I型、II型、III型、IV型、V型、VI型、VII型、VIII型、VIX型、またはX型コラーゲンなどが用いられうる。コラーゲンは組み換えであってもよく、あるいは、天然のコラーゲンであってもよい。1つの態様では、コラーゲンは脊椎動物のコラーゲンでありうる。別の態様では、コラーゲンは、例えば、ヒト・コラーゲンなどの哺乳動物のコラーゲンでありうる。用いられるコラーゲンのタイプは、培養細胞型に応じて変化させて差し支えない。例えば、破骨細胞または破骨細胞前駆体がアッセイされる場合、フルオロフォアで標識したコラーゲンにはI型コラーゲンを用いることができる。I型コラーゲンの起源としては、ラットテールコラーゲン、ウシ真皮コラーゲン、ヒト胎盤コラーゲン、およびカンガルーテールコラーゲンが挙げられる。あるいは、腫瘍細胞がアッセイされる場合には、IV型コラーゲンが用いられうる。IV型コラーゲンの起源としては、ヒトまたは他の哺乳動物の胎盤コラーゲンおよびEngelbreth−Holm−Swarmマウス肉腫コラーゲンが挙げられる。
【0041】
コラーゲンは必要に応じて精製されてもよい。検出される蛍光発光が不純物ではなくコラーゲンの分解を反映するように、コラーゲンは、比較的純粋であることが望ましい。1つの態様では、コラーゲンは、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、または100%の純度に近い。
【0042】
フルオロフォアで標識したコラーゲンのプレ基板への吸着は、特別な技術または操作を必要としない。例えば、プレ基板は、フルオロフォアで標識したコラーゲンを含む溶液に浸漬されて差し支えない。吸着ステップの温度および持続時間は、フルオロフォアで標識したコラーゲンの濃度およびプレ基板上に吸着されるフルオロフォアで標識したコラーゲンの所望の厚さに応じて変動しうる。1つの態様では、吸着ステップは0℃〜60℃で1〜4時間行われる。別の態様では、リン酸カルシウム・コーティングに吸着されるフルオロフォアで標識したコラーゲンの量は、5μg/cm2〜1mg/cm2である。フルオロフォアで標識したコラーゲンがプレ基板に吸着された後、続いて多目的基板は洗浄され、乾燥されうる。フルオロフォアで標識したコラーゲンのプレ基板への吸着の典型的な手順は、実施例の項に提供される。
【0043】
本明細書に記載の多目的基板は、細胞の培養に使用されて差し支えない。「多目的」という用語は、本明細書では、培養細胞の複数のタイプの画像化および分析を可能にする基板の能力のことをいう。例えば、本明細書に記載の多目的基板は、培養細胞の溶液系および画像系の解析に利用することができる。これらの技法のそれぞれは、以下に詳細に説明される。多目的基板はまた、高スループットの細胞活性検査をリアルタイムに提供する。したがって、溶液系および画像系の両アッセイを1つの基板で行うことができ、最終的には材料費および人件費が軽減される。
【0044】
本明細書に記載の多目的基板は、細胞または細胞前駆体の活性の評価に有用である。1つの態様では、本方法は、
(a)前記多目的基板上の培養培地中で細胞または細胞前駆体を培養し;
(b)前記多目的基板上に存在する前記胞または細胞前駆体を画像化し; および/または
(c)培養培地のサンプルにおける蛍光シグナルの有無を検出する、
各工程を含む。
【0045】
「活性」という用語は、本明細書では、本明細書に記載の方法を用いて定性的および/または定量的に測定することができる培養細胞または細胞前駆体の特性、機能、または機構として定義される。例えば、活性は、多目的基板のリン酸カルシウム・コーティング上に吸収窩(resorption pits)を形成する、細胞の能力でありうる。吸収窩は、例えば、破骨細胞などの細胞がリン酸カルシウム・コーティングを溶解しうる水素イオンを放出するときに形成される。溶解の際に、細胞は、リン酸カルシウム・コーティングに、SEMまたは光学顕微鏡によって画像化できるくぼみ(pit)または陥凹部を形成する。吸収窩(例えば、吸収窩面積、くぼみの数など)を効果的に定量化する能力は、多目的基板に接着および吸収される細胞の能力を評価する1つの方法である。他の態様では、多目的基板は、経時によるフルオロフォアの信号を利用してモニタリングすることによって、基板表面上でコラーゲンを分解する癌細胞の能力を評価するのに使用されうる。
【0046】
多目的基板に接着する細胞の画像化に加えて、多目的基板は、溶液系の検出にも利用することができる。理論に縛られることは望まないが、細胞がフルオロフォアで標識したコラーゲンと接触するとき、標識化コラーゲン・フラグメントが生成され、溶液中に放出される。フルオロフォアで標識したコラーゲン・フラグメントは、使用した特定のフルオロフォアを検出するための当技術分野で既知の方法で検出されて差し支えない。例えば、コラーゲンがフルオレセインで標識される場合、その蛍光発光は、それぞれ、485nmおよび535nmの励起波長および発光波長を用いた蛍光光度計を使用することによって検出することができる。他のフルオロフォアは、それら独自の励起および発光の最大値を有し、それらは当技術分野で既知である。例えば量子ドットなどのある種のフルオロフォアは、蛍光発光を検出する画像解析システムの利用により画像化することができる。
【0047】
フルオロフォアがランタニドキレートである場合、ランタニドキレートによって発生する蛍光発光は、キレートからランタニドイオンを解離させずに測定することができる。あるいは、低pH促進溶液は、標識化コラーゲンからランタニド標識を解離するのに使用することができる。ここで、遊離のランタニド(例えば、Eu3+、Sm3+、Tb3+、Dy3+)は、保護ミセル内の増強溶液成分とともに安定な蛍光キレートを形成する。1つの態様では、増強溶液は、トリトンX−100などの適切な洗剤、および分離後の蛍光発光を増幅するβ−ジケトンを含みうる。ある特定の態様では、特に水溶液における、蛍光発光をさらに改善するために、ルイス塩基などの合成化合物を加えることができる。適切な相乗化合物には、N−複素環式化合物(例えばo−フェナントロリン)、ならびにホスフィンおよびホスフィンオキシド(例えばトリオクチルホスフィンオキシド)が含まれる。
【0048】
蛍光発光は、非特定のバックグラウンド蛍光発光の寄与を低減または排除することができる時間遅延法によって検出することができる。例えば、時間分解蛍光測定を使用することができる。時間分解蛍光測定の実施に適したデバイスとしては、限定はしないが、Victor分光蛍光計(例えばEG&G Wallac社製のVictorまたはVictor2TM)、SPECTRAmax GEMINI(Molecular Devices社製)、LJL−Analyst、およびBMG Lab Technologies社製のFLUOstarが挙げられる。
【0049】
限定はしないが、幹細胞、単分化能幹細胞、分化細胞、および腫瘍細胞などを含めた多くの種類の細胞が多目的基板上で培養されうる。幹細胞の例としては、限定はしないが、胚幹細胞、骨髄幹細胞および臍帯幹細胞などが挙げられる。さまざまな実施の形態に用いられる細胞の他の例としては、限定はしないが、筋芽細胞、神経芽細胞、線維芽細胞、グリア芽細胞、胚細胞、肝細胞、軟骨細胞、角化細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、結合組織細胞、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、ホルモン分泌細胞、免疫系の細胞、およびニューロンが挙げられる。1つの態様では、破骨細胞、骨細胞、および骨芽細胞などの骨細胞は、本明細書に記載の多目的基板を用いて培養されうる。
【0050】
本発明に有用な細胞は、インビトロで培養されて差し支えなく、天然起源に由来していてもよく、遺伝子操作されていてもよく、または他の手段によって生成していてもよい。任意の天然起源の原核細胞または真核細胞を利用することもできる。
【0051】
腫瘍細胞などの異型細胞または異常細胞も本発明に使用することができる。多目的基板上で培養される腫瘍細胞は、薬物治療の評価のための体内における天然の腫瘍環境のさらに厳密な表現を提供することができる。本明細書に記載の多目的基板上での腫瘍細胞の成長は、特に腫瘍を対象とした薬剤の開発を可能にするインビボ様の環境における遺伝子発現、受容体発現、およびポリペプチド産生を含めた腫瘍の生化学的経路および活性の特性化を促進することができる。
【0052】
遺伝子操作された細胞もまた本発明に用いることができる。その遺伝子工学は、1つ以上の遺伝子を発現するように細胞をプログラミングする、1つ以上の遺伝子の発現を抑制する、またはその両方を含む。遺伝子工学は、例えば、遺伝物質を細胞に加えるあるいは細胞から除去する、存在する遺伝物質を変化させる、またはその両方を含みうる。細胞がトランスフェクトされるかまたは他の方法で遺伝子を発現するように操作される実施の形態は、トランスフェクト遺伝子を一時的にまたは永久的、またはその両方で使用することができる。遺伝子配列は、完全長または部分長であって差し支えなく、クローン化されていても天然のものであってもよい。
【0053】
本明細書に記載の多目的基板は、リン酸カルシウム・コーティングへの細胞接着を促進する、細胞機能または細胞成長を増進する、またはこの3つすべてを満たす、1つ以上の生物活性分子を含みうる。1つの態様では、1つ以上の生物活性分子は、リン酸カルシウム・コーティングの生成に用いられた組成物の一部である。この態様では、生物活性分子はリン酸カルシウム・コーティング全体にわたり均一に分散される。別の態様では、ひとたびリン酸カルシウム・コーティングが生成すると、コーティングは1つまたは複数の生物活性分子と接触させられる。
【0054】
生物活性分子としては、ヒトまたは獣動物用の治療薬物、栄養補助食品、ビタミン、塩、電解質、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、多糖類、核酸、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、成長因子、分化因子、ホルモン、神経伝達物質、フェロモン、ケイロン、プロスタグランジン、免疫グロブリン、モノカインおよび他のサイトカイン、保湿剤、ミネラル、電気的および磁気的反応物質、感光性物質、抗酸化物質、細胞エネルギー源として代謝されうる分子、抗原、および、細胞反応または生理学的反応を生じさせることができるいずれかの分子が挙げられる。分子の任意の組合せも、これらの分子のアゴニストまたはアンタゴニストと同様、使用することができる。グリコアミノグリカンとしては、糖タンパク質、プロテオグリカン、およびヒアルロナンが挙げられる。多糖類としては、セルロース、デンプン、アルギン酸、キトサン、またはヒアルロナンが挙げられる。サイトカインとしては、限定はしないが、カルジオトロフィン、ストロマ細胞由来因子、マクロファージ由来ケモカイン(MDC)、黒色腫増殖刺激活性(MGSA)、マクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)、2、3α、3β、4および5、インターロイキン(IL)1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、TNF−α、およびTNF−βが挙げられる。本発明に有用な免疫グロブリンとしては、限定はしないが、IgG、IgA、IgM、IgD、IgE、およびそれらの混合物が挙げられる。アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質は、任意の大きさおよび複雑さを有するこれらの分子のいずれかのタイプ、ならびにこれら分子の組合せを含みうる。例として、限定はしないが、構造タンパク質、酵素、およびペプチドホルモンが挙げられる。
【0055】
生物活性分子という用語には、線維性タンパク質、接着タンパク質、粘着剤、脱粘着剤(deadhesive compound)、および標的化合物も含まれる。線維性タンパク質としては、コラーゲンおよびエラスチンが挙げられる。粘着剤/脱粘着剤としては、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンジンおよびテネイシンCが挙げられる。接着タンパク質としては、アクチン、フィブリン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン、セレクチン、細胞内接着分子1、2、および3、および、限定はしないが例えばα5β1、α6β1、α7β1、α4β2、α2β3、およびα6β4などのインテグリンを含めた細胞マトリックス接着受容体が挙げられる。
【0056】
生物活性分子という用語はまた、レプチン、白血病抑制因子(LIF)、RGDペプチド、腫瘍壊死因子αおよびβ、エンドスタチン、アンギオスタチン、トロンボスポンジン、骨形成タンパク質−1、骨形態形成タンパク質2および7、オステオネクチン、ソマトメジン様ペプチド、オステオカルシン、インターフェロンα、インターフェロンαA、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロン1α、およびインターロイキン2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、15、16、17および18も含む。
【0057】
本明細書では「成長/増殖因子」という用語は、細胞または組織の増殖を促す生物活性分子を意味する。本発明に有用な成長因子としては、限定はしないが、形質転換成長因子−α(TGF−α)、形質転換成長因子−β(TGF−β)、血小板由来成長因子(PDGF)(AA、ABおよびBBのイソ型を含む)、線維芽細胞成長因子(FGF)(FGFの酸性のイソ型1および2、FGFの塩基性の形態2、およびFGF4、8、9および10を含む)、神経成長因子(NGF)(NGF2.5s、NGF7.0sおよびβNGFおよびニュートロフィンを含む)、脳由来神経栄養因子、軟骨由来因子、骨成長因子(BGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、EG−VEGF、VEGF関連タンパク質、Bv8、VEGF−E、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インスリン様成長因子(IGF)IおよびII、肝細胞 成長因子(HGF)、グリア細胞由来神経成長因子(GDNF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、形質転換成長因子(TGF)(TGF−α、β、β1、β2、およびβ3を含む)、骨格成長因子、骨マトリクス由来成長因子、および骨由来成長因子およびそれらの混合物が挙げられる。一部の成長因子は、細胞または組織の分化を促進することもできる。TGFは、例えば、細胞または組織の成長および/または分化を促進することができる。一部の好ましい成長因子としては、VEGF、NGF、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、FGFb、FGFa、HGF、およびBGFが挙げられる。
【0058】
「分化因子」という用語は、本明細書では、細胞または組織の分化を促進する生物活性分子を意味する。この用語には、限定はしないが、ニューロトロフィン、コロニー刺激因子(CSF)、または形質転換成長因子が含まれる。CSFには、顆粒球−CSF、マクロファージ−CSF、顆粒球−マクロファージ−CSF、エリスロポエチン、およびIL−3が含まれる。一部の分化因子は、細胞または組織の成長も促進する。TGFおよびIL−3は、例えば、細胞の分化および/または成長を促進することができる。
【0059】
「粘着剤」という用語は、本明細書では、粘着剤を含む繊維表面への細胞または組織の付着を促進する生物活性分子を意味する。粘着剤の例としては、限定はしないが、フィブロネクチン、ビトロネクチン、およびラミニンが挙げられる。
【0060】
「脱粘着剤(deadhesive compound)」という用語は、本明細書では、脱粘着剤を含む繊維から細胞または組織の剥離を促進する生物活性分子を意味する。脱粘着剤の例としては、限定はしないが、トロンボスポンジンおよびテネイシンCが挙げられる。
【0061】
「標的化合物」という用語は、本明細書では、標的化合物を含む繊維への細胞または組織の動員および/または接着を含めた、シグナリング分子として機能する生物活性分子を意味する。標的化合物およびそれらの同族受容体の例としては、フィブロネクチンおよびインテグリンに由来するRGDペプチドを含めた接着ペプチド、EGFおよびEGF受容体を含めた成長因子、およびインスリンおよびインスリン受容体を含めたホルモンが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、本開示の主題に従った方法および結果を例証するために以下に記載される。これらの例は、本明細書に開示される対象のすべての態様を含むことを意図してはおらず、むしろ代表的な方法および結果を例証するものである。これらの例は、当業者にとって明白な本発明の等価物およびバリエーションの除外を意図されてはいない。
【0063】
数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するために努力してきたが、ある程度の誤差および偏差が計上されるとみなされるべきである。他に示唆されない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか、または周囲温度であり、圧力は大気圧であるかそれに近い。例えば、成分濃度、温度、圧力などの反応条件、および、記載される方法から得られる製品の純度および収量を最適化するために用いることができる他の反応範囲および条件には多くのバリエーションおよび組合せが存在する。これらのプロセス条件を最適化するためには、合理的な日常の実験のみが必要とされよう。
【0064】
Eu−標識化コラーゲンの調製
Perkin Elmer社製のキット(Delphia Eu標識試薬1244−301)を用いて、コラーゲンをEuで標識化した。それをSuperdex200 prep grade(GE Healthcare社製)を使用して精製した。Pierce社製のBCAタンパク質アッセイ(#23235)を使用して標識化コラーゲンを特性化した。タンパク質を−20℃で保存した。Euイオンをコラーゲンに共有結合させ、測定用に、増強溶液のみがコラーゲンからEuを放出できるようにした。図1は2分ごとに回収した各画分のEu濃度を示し、図2は対応するタンパク質濃度を示している。10〜18分の間に回収されたコラーゲンのピーク画分は強いEu信号を有していた。これらの画分をさらなる調査に使用した。
【0065】
COASおよびTCTにおけるEu−標識化コラーゲンの吸着
Corning Osteo Assay Surface(COAS)でコーティングし、組織培養処理したポリスチレン(TCT)の96ウェルプレートを室温で2時間PBS溶液に浸漬し、その後、PBSで3回洗浄することにより、Eu標識化コラーゲンの吸着を行った。コーティング濃度は80μg/cm2であった。
【0066】
プレートからのEu−標識化コラーゲンの脱着
(1)COAS、および(2)TCTのプレート上にEu標識化コラーゲンをコーティングしたウェルに、血清および成長因子を有する細胞培養培地を加えた。組織培養処理したポリスチレン(製品A)に共有結合させた、ユウロピウムで標識化したコラーゲンを比較対照として用いた。37℃、5%のCO2下の細胞培養インキュベータ内にプレートを置いた。3日後、各ウェルから全培地を除去し、新鮮な培地を加えた。この時点から、培地の交換は行わなかった。24時間ごとに、各ウェルから5μlの培地をEu分析用にサンプリングした。図3に示すように、COASからのEu−コラーゲンの脱着は、最初の3日間は、製品Aからの脱着とほぼ同じであった。3日目に新鮮な培地に交換した後、製品Aと比較して、COASからはEu−コラーゲンの若干多い脱着が観察された。COASの培地中のEu−コラーゲンの全蓄積は、7日目には、製品Aの約2倍であった。対照的に、TCT表面からはEu−コラーゲンの著しい脱着が見られ、3日目にはCOASと比較して9倍の濃度上昇があった。これらの結果は、(1)COAS上におけるEu−コラーゲンの物理的吸着は安定であり;(2)Eu−コラーゲンのCOASへの結合には複雑な化学反応(すなわち共有結合)は必要ではなく;(3)TCTは物理的吸着を有するEu−コラーゲン・コーティングに適した基板ではないことを示唆している。
【0067】
細胞培養および分析
Eu−コラーゲンでコーティングしたCOASを用いて、一次細胞および細胞系を含めた破骨細胞活性を評価した。TCTプレートについても同様に試験した。実施例にはLonza社製のヒト破骨細胞前駆体細胞(HOCL)を使用した。M−CSFおよびRANKリガンドを含む培地を有する96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルの濃度で細胞を播種した。3日後、TCT表面には多核化細胞が見え始めたが、COAS上では観察されなかった。この時点で、新鮮な培地に取り換え、基礎レベル値のEu−コラーゲンを除去した。この時点から、培地は交換せず、分析のため、破骨細胞活性に起因するEu−コラーゲンの放出を維持した。24時間ごとに、各ウェルから5μlの培地をEu分析用にサンプリングした。図4に示されるように、COASからのEu−コラーゲンの放出として測定される破骨細胞活性プロファイルは、3日目から7日目まで、製品Aのプロファイルとほぼ同じであった。これは、Eu−コラーゲンでコーティングしたCOASの性能が製品Aのものと同じくらい良好であることを示唆している。一方、TCTからのEu−コラーゲンの放出は、3日目には脱着に起因して高かったが、その後は顕著に低かった。
【0068】
TRAP(酒石酸耐性酸性ホスファターゼ)は破骨細胞の分化のマーカーである。7日間の培養後、細胞を固定しTRAPで染色した。製品A上で培養した細胞も比較のために染色した。図5に示されるように、コラーゲン、Eu−コラーゲンおよび対照のCOAS表面における細胞にはTRAP活性における可視的な差異はなく、コーティングは細胞の挙動を変化させないことが示唆された。培地の上清におけるTRAPの定量的測定はこの結果を裏付けている(図6)。
【0069】
破骨細胞の機能はCOASプレート上におけるくぼみの形成によって決定される。図7に示されるように、破骨細胞はコーティング表面上で十分に機能することができた。コラーゲンおよびEu−コラーゲンでコーティングした表面では吸収窩面積がやや低下したが、これは、タンパク質コーティングが、基板上において、COASを破骨細胞性骨吸収に対してさらに耐性にする保護効果を有する可能性があることを示唆している。製品Aはくぼみの形成の研究を立証しなかった。したがって、Eu−コラーゲンでコーティングしたCOASは製品Aよりも優れている。
【0070】
自明かつ本発明に固有の他の利点については当業者にとって明白であろう。ある特定の特徴およびサブコンビネーションは有用であり、他の特徴およびサブコンビネーションとは無関係に用いられうることが理解されよう。これは、特許請求の範囲に記載された発明によって意図されており、その範囲内に入る。本発明の多くの可能性のある実施の形態が、それらの範囲から逸脱することなくなされうることから、添付の図面に記載され、または示される本明細書のすべての事柄は例示と解釈されるべきであって、限定的な意味と解釈されるべきではないことも理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ベースの表面上のリン酸カルシウム・コーティングと、
(2)前記リン酸カルシウム・コーティング上に吸着された、フルオロフォアで標識したコラーゲンと
を含む多目的基板。
【請求項2】
前記フルオロフォアが、ランタニドキレート、好ましくはユーロピウムキレート、さらに好ましくはEu3+−N’−(p−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−四酢酸であることを特徴とする請求項1記載の基板。
【請求項3】
前記コラーゲンが、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、または哺乳動物のコラーゲンであり、前記哺乳動物のコラーゲンが、好ましくはヒト・コラーゲンであることを特徴とする請求項1または2記載の基板。
【請求項4】
前記リン酸カルシウム・コーティングを含むベースが、
(a)前記リン酸カルシウム・コーティングを生成するための複数の前駆体成分を含む溶液に前記ベースを導入し;
(b)前記ベースを前記溶液に対して逆さにし;
(c)前記逆さにしたベースをインキュベートして前記ベースの表面に前記リン酸カルシウム・コーティングを生成し、
(d)随意的に、前記ベース上の前記リン酸カルシウム・コーティングをγ線照射に曝露する、
各工程を有してなる方法によって調製され、
ここで、前記ベースは、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、またはそれらの任意の組合せを含むポリマー、または無機材料を含み、ここで前記無機材料は、好ましくは ガラス、クオーツ、セラミック、シリカ、金属酸化物、またはそれらの任意の組合せを含み;
前記リン酸カルシウム・コーティングは、好ましくは、ヒドロキシアパタイトまたは置換ヒドロキシアパタイトを含む、
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の基板。
【請求項5】
細胞または細胞前駆体の活性を評価する方法であって、前記方法は、
(a)請求項1〜4いずれか1項記載の多目的基板上における培養培地で細胞または細胞前駆体を培養し;
(b)前記多目的基板上に存在する前記胞または細胞前駆体を画像化し; および/または
(c)培養培地のサンプルにおける蛍光シグナルの有無を検出する、
各工程を有してなり、
ここで、前記細胞は、好ましくは、幹細胞、単分化能幹細胞、分化細胞、腫瘍細胞、筋芽細胞、神経芽細胞、線維芽細胞、グリア芽細胞、胚細胞、肝細胞、軟骨細胞、角化細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、結合組織細胞、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、ホルモン分泌細胞、免疫系の細胞、ニューロン、または骨細胞を含み、ここで前記骨細胞は、好ましくは、破骨細胞、骨細胞、または骨芽細胞であり;
ここで、前記細胞前駆体は、好ましくは骨細胞前駆体であり、前記骨細胞前駆体は好ましくは単球またはマクロファージであり;
ここで、前記活性は、好ましくは、骨細胞または骨細胞前駆体によって生成された吸収窩(resorption pits)を定量化することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−511982(P2013−511982A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541095(P2012−541095)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/056131
【国際公開番号】WO2011/066101
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】