説明

細胞培養器具、器具の製造方法、および細胞培養方法

本発明は、構造化されていないエラストマーからなる表面を特徴とする、細胞のための細胞培養器具に関する。従って、細胞を周囲の弾性に関して自然に近い条件で培養することができる。本発明による器具の製造方法、並びにそのような器具を用いた細胞培養方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養器具、器具の製造方法、およびそのような器具を用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリスチレン等のプラスチック製の、又はガラス製の細胞培養容器および器具が従来技術から知られている。これらの容器又は器具は、非常に様々な形態で入手可能であり、かなり前から、例えば、細胞培養フラスコ、試験管、マルチウェルプレート、およびペトリ皿等の形態で日常的に使用されている。
【0003】
ポリプロピレンおよびポリスチレンは、熱可塑性プラスチックである。これらの物質は生理学的に問題がなく、食品包装にも制限なく認可されている。
【0004】
細胞培養に使用されるガラスの種類は、例えば、ソーダ石灰ガラス又はホウケイ酸ガラスである。これらのガラスは、光学的性質並びに優れた耐薬品性および耐高温性のために実験室において好んで用いられる。これらの表面は、表面を更に化学的に改質する必要なしに細胞培養をすることができる。
【0005】
しかし、不都合なことには、前述のガラスおよびプラスチックは、in vivoと類似の条件下での細胞の長期間の試験および培養が可能ではない。このような重大な欠点があるにも関わらず、それらは、多くの学術関連および産業関連の問題、例えば、作用物質のスクリーニング、又は癌研究に日常的に使用されている。
【0006】
ディッシャー(Discher)等の非特許文献1から、組織細胞は支持体(Substrate)の剛性に反応し得ることが既知である。不都合なことには、これから既知の支持体も長期間置かれる細胞培養に、および、貯蔵又は保存に適していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ディッシャーD.E.、ジャンメイP.、ユーリ・ワン(2005年)、「組織細胞は支持体の剛性を感知し、それに応答する」、サイエンス、310号、1139〜1143頁(Discher D.E., Janmey P., Yu−Li Wang, Tissue cells feel and respond to the stiffness of their substrate. Science, 310, 1139−1143)
【非特許文献2】W.ノル、シリコーンの化学よび技術、アカデミックプレス、ニューヨーク(1968年)(W.Noll, Chemistry and Technology of Silicones, Academic Press, New York(1968))
【非特許文献3】T.C.ケンドリック、B.パーブフー、J.W.ホワイト、「シロキサンポリマーおよび共重合体」、有機ケイ素化合物の化学第2部(S.パタイおよびZ.ラポポール編)、21、1289〜1361頁、ジョンウィリー、チチェスター(1989年)(T.C.Kendrick, B.Parbhoo, J.W.White, “Siloxane Polymers and Copolymers,” in The Chemistry of Organic Silicon Compounds Pt2 (edited by S.Patai and Z.Rappoport), 21, p.1289−1361, John Wiley, Chichester (1989))
【非特許文献4】S.J.クラーソン、J.A.セムリエン、シロキサンポリマー、プレンティスホール、ニュージャージー(1993年)(S.J.Clarson, J.A.Semlyen, Siloxane Polymers, Prentice Hall, New Jersey (1993))
【非特許文献5】J.W.ホワイト、R.C.トレッドゴールド、「有機官能性シロキサン」、シロキサンポリマー(S.J.クラーソンおよびJ.A.セムリエン編)、4、193〜215頁、プレンティスホール、ニュージャージー(1993年)(J.W.White, R.C.Treadgold, “Organofunctional Siloxanes,” in Siloxane Polymers (edited by S.J.Clarson and J.A.Semlyen), 4, p193−215, Prentice Hall, New Jersey (1993))
【非特許文献6】W.ガーディナー、J.W.ホワイト、「有機ポリマー改質のための構成ブロックとしての特殊シリコーン」、高価ポリマー(A.H.フォーセット編)、王立化学協会、ケンブリッジ(1990年)(W.Gardiner, J.W.White, “Specialty Silicones as Building Blocks for Organic Polymer Modification,” in High Value Polymers (edited by A.H.Fawcett), Royal Society of Chemistry, Cambridge (1990))
【非特許文献7】M.ブルック、有機、有機金属およびポリマー化学におけるケイ素、ジョンウィリー・アンド・サンズ、ニューヨーク(2000年)(M.Brook, Silicon in Organic, Organometallic and Polymer Chemistry, John Wiley and Sons, New York (2000))
【非特許文献8】ダウコーニング、ホームページ、シラン選択ガイド(Dow Corning, Homepage, Silanes selection guide)
【非特許文献9】ABCR、ホームページ、シロキサン製品リスト(ABCR, Homepage, Siloxane product list)
【非特許文献10】M.へガー、エラストマー製品のための光造形樹脂の開発、博士論文、ダルムシュタット、ドイツ(2001年)(M.Heger, Entwicklung eines Stereolithographieharzes fuer elatomere Produkte, Ph.D.thesis, Darmstadt, Germany (2001))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、in vivoと類似の条件下での細胞培養を可能にする細胞培養器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、メインクレームによる器具およびサブクレームによる製造方法によって解決される。有利な実施形態は、それにそれぞれ関連する特許クレームから得られる。
【0010】
細胞培養器具は、本発明によれば、エラストマー製の構造化されていない表面を特徴とする。従って、前記細胞培養器具は、エラストマー製の平坦な表面を有する。
【0011】
本発明の枠内で、ヤング率の形態で物理的に表される細胞培養表面の弾性特性が、in vivoと類似の条件下で細胞を培養する場合に、非常に重要であることが分かった。ヤング率は、弾性率(E−Modul)又は弾性率(Elastizitaetsmodul)としても既知である。
【0012】
エラストマーは、出発物質の種類に応じて、および製造方法に応じて決定される再現可能に調整できるヤング率を有する。エラストマーは、有利には、硬い表面を有する従来技術に従って使用される細胞培養容器よりも細胞の培養にはるかに好適である。その場合、エラストマーの化学組成よりも、ヤング率の形態で表される物理的性質の方がはるかに重要である。
【0013】
弾性表面は柔軟性および弾性に関して自然に近いと言えることが分かった。エラストマーは、有利には、いわば、in situ又はin vivoと類似の条件下での細胞培養を可能にする。
【0014】
本発明の枠内で、更に、ポリプロピレン又はポリスチレン等の従来技術に従って頻繁に使用される材料は、弾性率が約10Paであり、硬度が高過ぎることが分かった。そのような材料は、弾性に関して、自然に近いとは言えない。同様に頻繁に使用されるソーダ石灰ガラス(弾性率7.31010Pa、ポアソン数:0.22)およびホウケイ酸ガラス(弾性率6.31010Pa、ポアソン数:0.2)にも、同じことが当てはまる。
【0015】
それに加えて、本発明の枠内で、これまで使用された培養条件および細胞培養器具の表面は、剛性および硬度に関して、細胞の自然の環境と反対であることが分かった。特に、多細胞の細胞は、実験室で使用されるガラス又はプラスチックの種類で与えられるよりも明らかに柔軟で弾性のある表面と接触して結合している。
【0016】
本発明による器具の表面は、細胞の受容(Aufnahme)のために、構造化されていないエラストマー製の層又は膜を有する。細胞は、培養のため、この表面と直接、又は培養を促進する層を介して接触し、接着する。
【0017】
従って、そのようなエラストマー層又は膜は、構造化されていない平坦な表面を有する。層又は膜は、いかなる性質の(微細)構造も有していない。本発明の枠内で、例えば、溝又は島状の隆起等の構造は、多くの細胞タイプにおいて、非常に不都合なことには、細胞が影響を受けることなく細胞分裂により発達および増殖および/又は伸展することを妨げることが分かった。従って、エラストマー製の平坦な表面によって、有利には、細胞の自然な発達および増殖が促進される。
【0018】
有利には、構造化されていないエラストマーの面積は、例えば少なくとも1cmである。これは、ほぼカバーガラスの面積と同じであると見なすことができる。
【0019】
その場合、本発明の概念は、最も広い実施形態では、構造化されていないエラストマーを細胞のための表面として有する細胞培養器具を包含し、ここで、耐薬品性と、使用される細胞に対する生体適合性があるいかなるエラストマーも細胞培養器具の表面として使用することができる。使用されるエラストマーは、有利には、弾性に関してやはり再現可能に製造できなければならない。
【0020】
構造化されていないエラストマーは、細胞を受容するために付与される細胞培養器具の表面の部分を、例えば薄膜として形成されている層の形態で被覆する。エラストマーは、従って、細胞の支持体(Untergrund)を形成する。
【0021】
エラストマーは、本発明の一実施形態では、透明である。そのため、場合によりエラストマーに接着した細胞、並びに細胞培養の経過をよく観察することができる。
【0022】
また、細胞培養容器の材料自体も、即ち、エラストマーなしで、一般に、同様に透明であるため、有利には、器具の外壁を通した、および、器具の内壁のエラストマー表面を通した細胞の正確な観察が可能である。
【0023】
このために、エラストマー製の器具の表面は、本発明の別の有利な実施形態では、約1.3〜1.5の範囲の屈折率、特に1.4の屈折率を有する。
【0024】
エラストマーを有する本発明による器具は、接着性細胞(全ての既知の動物細胞の種類の95%超がこれに属する)を受容するのに特に適している。
【0025】
本発明による器具のエラストマーのヤング率は、問題に応じて1MPa〜1kPa未満までに調整することができる。エラストマーの弾性は、下は500Paまで再現可能に調整できる。
【0026】
本発明による器具は、有利には、約0.3〜0.5の範囲のポアソン比又はポアソン数を有するエラストマーを有する。0.5のポアソン比は、エラストマーが圧縮不可能であるか、又は体積一定であることをよく示している。それは、数学的におよび物理的に正確に理解され得る。
【0027】
本発明の特に有利な実施形態では、器具の表面は、水をベースとしていないエラストマーを有する。その時、本発明による器具の表面のエラストマーは、有利には耐久性を維持し続け、それに対応する長い貯蔵寿命を有する。従って、それは、例えば、これに関して不都合な既知の寒天又はアクリル表面のように、水の蒸発によって収縮しない。
【0028】
エラストマーの貯蔵寿命が少なくとも1年である場合、特に有利である。貯蔵寿命とは、器具がその製造後に、エラストマーが変化することなく使用時まで貯蔵され得る時間枠を意味する。
【0029】
本発明による器具のエラストマーは、有利には、滅菌状態で存在し得る。エラストマーは、例えば、γ線又は紫外線による滅菌の影響を受けない。
【0030】
細胞培養器具のエラストマー層の厚さは、約100ナノメートル〜数センチメートルであってもよい。
【0031】
エラストマー層の厚さと透明な器具の厚さは、有利には、顕微鏡で細胞を検査できるように互いに合わせられ、選択されなければならない。光学顕微鏡のほとんどの対物レンズに関して最適に透過され得る全層厚(器具およびエラストマーからなる)は約250μmを超えない。
【0032】
エラストマーとしては、異なる群の多数の様々な化学物質が入手可能であり、本発明において、細胞培養器具の表面として使用可能である。シロキサン樹脂、ブタジエン樹脂、およびアクリル酸樹脂の群のエラストマーが挙げられるが、これらは典型例に過ぎず、決して限定するものではない。これらの樹脂は弱い疎水性を示し、基本的に本発明による細胞培養方法に適している。樹脂は、通例、反応基を有し、それらは互いに結合し、それによってエラストマーは架橋し得る。
【0033】
以下で、主剤(Grundsubstanz)の概念は、重合したエラストマーの主成分と同義に使用される。
【0034】
シロキサン樹脂およびブタジエン樹脂の場合、反応基は、多少とも長い非反応性の鎖セグメント(Kettensegmenten)中に存在する。シロキサン樹脂の反応基は、ブタジエン樹脂の反応基のように、共重合体を使用する必要なく互いに結合することができる。共重合体は、シロキサン樹脂およびブタジエン樹脂の反応基を更に互いに架橋する。
【0035】
アクリル酸樹脂は、単独で互いに又は共重合体を添加して架橋される反応基だけを有する。
【0036】
エラストマーの主剤は、従って、モノマー、オリゴマー、又はポリマー成分から構成されており、それらは架橋によって高次構造に重合される。
【0037】
エラストマー成分、主剤および架橋剤(共重合体)を架橋するために、様々な方法が考慮される。架橋剤および共重合体の概念は、以下で同義に使用される。
【0038】
架橋は、例えば、適切な共重合体によって、紫外線、オゾンによって、又は、例えば、白金触媒によって、高温で制御される。高温では、通常、架橋の間の反応速度が増加する。
【0039】
触媒で行われる重合は迅速且つ効率的であり、例えば、シロキサン樹脂では、白金触媒を用いて、例えば、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン(Platinum−Divinyltertramethyldisoloxan)(ABCR社(Fa.ABCR)のSIP6830.0、「化学試薬に更に適切な選択」)を用いて実施される。
【0040】
主成分が単独で空気中、室温で、共重合体を添加することなく架橋される樹脂が入手可能であり、本発明に使用可能である。
【0041】
本発明によるエラストマーの主剤(非反応性鎖セグメント)の選択された鎖長が長いほど、粘度は高い。即ち、適切な架橋剤を添加した後、エラストマーの弾性は対応してますます低い。
【0042】
逆に、それに対応して、エラストマーの鎖長が短くなると、エラストマーの架橋後の弾性は増加する。
【0043】
主剤の鎖長、主剤と架橋剤(共重合体)の混合比、又は希釈剤の添加等の因子を適切に選択することによって、どのエラストマーも弾性に関して正確で再現可能に調整され得る。
【0044】
重合前に、重合性末端基を有するシロキサン樹脂の主剤の高分子構造では、モノマー成分からなる樹脂と比較して、反応種、例えば、ビニル基の拡散速度並びにその濃度の低下が起こる。例えば、反応性希釈剤で粘度を低下させることによって、並びに架橋剤を添加することによって、これらの欠点を取り除くことができる。
【0045】
反応性希釈剤は、2つの機能を有する。それは、出発物質の粘度の低下の他に、樹脂の単位体積当たりの反応基の数の増加も引き起こす。
【0046】
ブタジエン樹脂の群のエラストマーは、硫黄を有するゴムの加硫と類似の架橋反応に適している。それは、主剤としてのオリゴマー成分の主鎖が、鎖全体に分布している反応部位で架橋剤のモノマー単位によって架橋される樹脂である。これらのオリゴマー鎖は、架橋剤を添加することなく、直接、互いに結合され得る。これらのオリゴマーの高い粘度を、反応性希釈剤および架橋剤で低下させることができる。
【0047】
アクリル酸樹脂の群から生成されるエラストマーは、好ましくは樹脂成分の主剤としてのモノマーから誘導される。樹脂は、自由運動性反応基から構成される。それによって、低粘度と、十分な拡散および高い反応基濃度を達成することができる。
【0048】
また、シロキサン樹脂からなるエラストマーでも、主剤と架橋剤の混合比は、低弾性又は高ヤング率(>1MPa)にするための非常に高い架橋剤濃度から、高弾性にするための低い架橋剤濃度の混合比までにわたる。
【0049】
細胞培養に特に適切な性質を有するエラストマーは、主剤としてのビニル末端シロキサン、並びに架橋剤としてのメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体からなる混合物である。架橋後、PDMSを細胞培養のための表面として使用することができる。
【0050】
クロロシランを有するヒドロキシシロキサン等の別のシロキサンは、直接、互いに、又は共重合体を添加して架橋され、同様に本発明の枠内で細胞培養のための支持体として使用可能である。
【0051】
本発明の趣旨で特に有利なPDMS−エラストマーは、分子量100〜200000のオリゴマーを有する主剤から生成される。
【0052】
特に適したPDMS−エラストマーは、シルガード(sylgard)184−キット(ダウコーニング社(Fa.Dow Corning))から製造される。これらのキットは、主剤としてビニル末端シロキサン樹脂、および架橋剤としてのメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体を別々の単位で含み、それらは所望の弾性に応じて、適切な混合比で互いに混合され、重合される。
【0053】
ビニル末端ポリジメチルシロキサンの主剤としてのDMS−V31(ABCR社(Fa.ABCR))、および架橋剤のためのメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体の例としてのHMS301(ABCR社(Fa.ABCR))は、細胞培養のためのエラストマーを生成するのに特に適している。
【0054】
PDMS−主成分、即ち、ビニル末端シロキサンDMS−V31、並びに架橋剤としてのメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体(HMS−301)は、室温で両方とも液体の状態で存在する。重合は、好ましくは白金触媒の存在下で、好ましくは約60℃で行われる。
【0055】
PDMSの希釈剤としては、典型的には、ポリジメチルシロキサンとしてのDMS−T21(ABCR)が挙げられる。これは、メチルヒドロシロキサン基が存在しないため、反応性がない。それらは100cStの粘度を有する。それは、まだ架橋されていないPDMS中に30体積パーセントまで混入可能である。
【0056】
PDMSの希釈剤としては、典型的には、ポリジメチルシロキサンとしてのDMS−T22(ABCR)も挙げられる。これは、メチルヒドロシロキサン基が存在しないため、反応性がない。それらは、200cStの粘度を有する。それは、まだ架橋されていないPDMS中に30体積パーセントまで混入可能である。
【0057】
PDMS−エラストマーおよびブタジエン樹脂ベースのおよびアクリル酸樹脂ベースのエラストマーは、容易で割安な方法で再現可能に均一な厚さで細胞培養器具の表面に塗布することができる。
【0058】
このために、当業者は、エラストマーを再現可能に製造するために適した文献部分を援用するであろう。
【0059】
これに関して、以下の文献部分およびホームページが参照され、その内容、特にそこに挙げられているエラストマー、架橋剤、および希釈剤に関する内容はこれによって本出願に組み込まれる:
・非特許文献2
・非特許文献3
・非特許文献4
・非特許文献5
・非特許文献6
・非特許文献7
・非特許文献8
・非特許文献9
・非特許文献10
主剤および架橋剤からなるシロキサン樹脂では、反応基の位置に応じて、即ち、末端位置にあるか又は鎖の内側にあるかに応じて、既知の全てのシロキサン基は、主剤としても又は架橋剤としても使用される。
【0060】
本発明による細胞培養器具のための様々な群の幾つかの重要なエラストマーを以下に要約するが、それらは典型例に過ぎず、決して限定するものではない。
【0061】
ビニル官能化シロキサン(Vinyl−funktionalisierten Siloxane)の群のエラストマーは、一方では、過酸化物を使って、および温度を調節することによってそれ自体で架橋可能である。それらはまた、白金触媒を適切に選択することによってヒドリド官能化シロキサン(Hydrid−funktionalisierten Siloxane)と架橋可能である。
【0062】
ヒドリド官能化シロキサンの群のエラストマーは、ビニル官能化シロキサンと、場合によっては白金触媒を用いて架橋される。しかし、それらは、金属塩触媒によってシラノール官能化シロキサン(Silanol−funktionalisierten Siloxane)とも架橋可能である。
【0063】
シラノール官能化シロキサンの群のエラストマーは、金属塩触媒によってヒドリド官能化シロキサンと架橋可能である。しかし、それらは、室温での加硫によってそれ自体でも架橋可能である。それらは、さらにまたアミノ官能化シロキサン(Amino−funktionalisierten Siloxane)とも架橋可能である。
【0064】
アミノ官能化シロキサン、エポキシ官能化シロキサン(Epoxy−funktionalisierten Siloxane)、およびカルビノール官能化シロキサン(Carbinol−funktionalisierten Siloxane)の群のエラストマーも同様に、本発明の趣旨において適切なシロキサンであり、即ち、細胞培養器具における細胞の支持体として使用可能である。
【0065】
メタクリレート/アクリレート官能化シロキサン(Methacrylat/Acrylat−funktionalisierten Siloxane)の群のエラストマーは、紫外線を含むラジカル発生剤によってそれ自体で架橋可能である。
【0066】
メルカプト官能化シロキサン(Mercapto−funktionalisierten Siloxane)の群のエラストマーも同様に、紫外線を含むラジカル発生剤によって、それ自体でも、またビニル官能化シロキサンとも架橋可能である。
【0067】
クロロ/ジメチルアミン官能化シロキサン(Chlorine/Dimethyamin−funktionalisierten Siloxane)の群のエラストマー(α,ω−(メタクリロキシプロピルジメチルシリル)−ポリジメチルシロキサン;メタクリロキシプロピルジメチルクロロシラン)は、クロロシラン結合の加水分解によってヒドリド官能化シロキサンと架橋される。
【0068】
エラストマーの希釈剤として、反応基のない中〜短鎖長のポリジメチルシロキサン、又は、使用される架橋反応では一緒に反応しない反応基を有するシロキサンが考えられるが、これらは典型例であり、限定するものではない。
【0069】
本発明の趣旨における主剤としてのブタジエン樹脂には、カルボキシ末端オリゴブタジエンがあるが、これは典型例であり、限定するものではない。
【0070】
架橋剤又は希釈剤としてのブタジエン樹脂には、例えば、ヘキサンジオールジアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、亜麻仁油、スチレン、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、n−ブチルアクリレートおよびt−ブチルアクリレートからなる共重合体、n−ヘキシルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、n−デシルメタクリレートがある。
【0071】
主剤としてのアクリル酸樹脂は、例えば、2−ヒドロキシプロピルアクリレートであってもよい。
【0072】
架橋剤又は希釈剤としてのアクリル酸樹脂は、例えば、n−ヘキシルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、n−デシルメタクリレートである。
【0073】
前述の群の1つに入る、および/又は組み込まれる文献部分に記載されているエラストマー、共重合体、および希釈剤は、明確に本発明の概念に入る。
【0074】
主剤と架橋剤のただ1つの組み合わせから、例えば、シルガード(sylgard)−184キットから、多数の僅かに互いに異なるエラストマーが生成し得る。このために、例えば、主剤と架橋剤との混合比を変えることによって、ヤング率を前述の範囲で変えることができる。
【0075】
もちろん、これは、それ以外の前述のエラストマー、および文献部分に引用されているエラストマーにも当てはまる。そのような僅かな変更も同様に明確に本発明の概念に入る。
【0076】
エラストマーからなる構造化されていない表面は、適切な方法で非常に迅速に適切な細胞培養器具の表面に塗布され得るか、又は作製され得る。それによって、有利には、既知の細胞培養器具から、本発明による細胞培養器具の工業的大量生産が可能である。
【0077】
当業者が、例えば、スピンコート又はキャスティング法(Giessverfahren)などの適切な方法を使用する限り、当業者は細胞培養器具を被覆する均一なエラストマー層をいわば任意に調整することができる。
【0078】
主剤および場合によっては共重合体(架橋剤)からなる混合物を使用した場合には、約100ナノメートル〜数センチメートルの層厚を再現可能に作り出すことができる。このために、主剤および場合によっては架橋剤および/又は触媒が混合され、細胞を受容するために付与される表面が構造化されていないエラストマーから形成されるように、細胞培養器具内又は細胞培養器具上に均一に分散される。
【0079】
エラストマーの架橋は、通例、まず細胞培養器具にエラストマーを塗布した後で実施される。
【0080】
細胞培養のための高弾性表面を作製するため、有利には、工業的な意味で迅速に、構造化されていない平坦なエラストマー膜を再現可能に器具の表面に作製することができる方法を使用することができる。これによって、本発明による細胞培養器具の大量生産が可能になる。
【0081】
スピンコート法(Rotationsverfahren)は、非常に薄く均一なエラストマー層を作製するのに特に有利である。その場合、まだ架橋していない液体エラストマーが少量、器具の表面に付与され、回転を加える適切な装置によって遠心力で分散される。
【0082】
架橋剤を含むエラストマーの場合、架橋剤は予め主剤に添加され、これと一緒に混合され、場合によっては触媒が添加される。
【0083】
器具は液体エラストマーともども、例えば、スピンコーターに嵌め込まれる。器具は、或いは、真空で回転盤上に保持されてもよい。例えば、毎分1000rpmで回転させることによって、エラストマーは、非常に均一な構造化されていない膜として細胞培養容器の底上に分散される。形成された層は、そのとき、細胞培養方法で細胞を受容する役割をする。
【0084】
場合によっては触媒を用いて硬化した後、少なくとも、シロキサン樹脂の群のエラストマーは、ほぼ永久に、且つ更に労力を費やすことなく弾性を維持し続ける。
【0085】
得られる層厚は、粘度、およびまだ架橋されていないエラストマーの量、スピンコート中の回転速度および加速度およびプロセス継続時間に依存する。
【0086】
当業者は、容易に前述の方法パラメータで様々なエラストマー層の厚さを再現可能に作り出すことができる。
【0087】
例えば、通例、架橋されていないエラストマーを少量、毎分約1000回転のスピンコーターで所望の器具の表面に塗布し、分散させることができる。
【0088】
スピンコート法の代わりに、回転を付け加えないエラストマーのキャスティング(Aufgiessen)、又は適切な装置で表面に均一な層厚に展延塗布する展延塗布法(Streichverfahren)、又はロールを用いてエラストマーを表面に延ばすロールコート法(Rollverfahren)、又は圧延法、又はこれらの様々な方法の組み合わせが、スピンコート法の考えられる代替である。
【0089】
特に、前述のエラストマーの1つからなる細胞培養用の表面からなる対応する表面を有するペトリ皿、スライドガラス(Objekttraeger)又はカバーガラスが製造可能である。その他に、マルチウェルプレート、細胞培養フラスコ、および従来技術による細胞培養に関して一般に用いられている別の形態をエラストマーで均一にコーティングすることができる。
【0090】
本発明の概念は、これまでに知られている既成のどの細胞培養容器にも、又はどの細胞培養器具にも転用することができる。従って、当業者は、関連する実験室用カタログおよび専門カタログに記載されているどの細胞培養器具もエラストマーからなる表面でコーティングすることができる。特に有利には、新しい種類の細胞培養容器および器具が提供される。
【0091】
イソプロパノール、特に純粋なイソプロパノールを用いた架橋エラストマーの洗浄工程は、エラストマーの透明性を向上させる。これは、構造化されていない平坦な表面で非常に重要である。一般に、このためには、アルコール中、約3時間の洗浄工程で十分である。
【0092】
特に、本発明による器具のエラストマーがヤング率<50kPaと高弾性である場合、イソプロパノールを用いた洗浄工程によって、架橋されていない成分が層において凝集した小泡から拡散しなくなる。そのため、洗浄工程によって細胞を観察し易くなる。
【0093】
このために、別の物質又はアルコールを使用することが考えられる。
【0094】
エラストマーを有する細胞培養器具の表面は必ず、細胞をより観察し易いように、好ましくはそれがガラスの表面のように見えなければならない。
【0095】
細胞培養器具のエラストマーは、本発明の特に有利な実施形態では、生体分子の物理的吸着によって活性化された状態で存在することができる。
【0096】
物理的吸着によって、特殊な接着性タンパク質が器具の表面に塗布される。物理的吸着は、一般に受動的な表面コーティングを意味し、その場合、生体分子は水溶液からその下にある表面上に沈殿し、多少とも均一な層を形成する。これによって細胞のためのある一定の接着条件が与えられ、それによって非常に特殊な問題の分析が可能になる。ある一定の条件下での細胞−支持体相互作用の生化学的な面の検査は、典型例として挙げられているに過ぎない。
【0097】
このために、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、テネイシン、又はヒアルロン酸等の生体分子を、まず、緩衝液に溶解させる。液体を生体分子ともども既に架橋されたエラストマー上に塗布する。その場合、生体分子は受動的に薄層としてエラストマーに堆積する。次いで、残った液体を再び除去する。
【0098】
任意のエラストマーに対する生体分子は、本質的に、問題又は細胞に基づいて選択される。
【0099】
それによって、特に有利には、エラストマーの疎水性が少なくとも部分的に打ち消され、同時に、in vivo条件下で生体分子としてのタンパク質と細胞との間の特異的な相互作用が可能になる。結果として、エラストマーは細胞培養方法に特に好適である。
【0100】
しかし、幾つかの細胞タイプは物理的吸着によって改変したエラストマーを必要としないため、そのような改変なしに、本発明による器具内で本発明による細胞培養方法を実施することも考えられる。
【0101】
エラストマーのパラメーターの種類、弾性および物理的吸着の種類に関して多数の組み合わせが可能であるため、実施例に記載されるように、治療薬の添加後の細胞の分化に関して、従来の細胞培養器具では究明できなかった特殊な問題を扱う多数の可能性が開かれる。
【0102】
複雑な問題に関して、化学物質又は治療薬に対する細胞の反応を調べるため、構造として別々のブリッジ部(Stege)をエラストマー中に配置することが考えられる。このようにして、最も広い意味での走化性、並びに分裂動態をこれらの条件で分析することが可能である。
【0103】
例えば、中間領域を予め不活性化(Passivierung)した後、マイクロ又はナノコンスタントプリンティング(Mikro− bzw. Nanokontaktstempel)による生体分子のスタンプによって、複雑な一連の層を配置することが考えられる。
【0104】
本発明による細胞培養方法は、例えば、前培養した細胞を、器具の場合により改変したエラストマー上に塗布し、培養することを意図している。
【0105】
細胞培養という語句は、使用する細胞に関して広義に解釈される。それは、単独で存在する原核細胞および真核細胞、並びに多細胞形成物も包含する。本発明による器具は、特に、真核生物を起源とする細胞に有利であるが、その理由は、これらの細胞が一般に接着するからである。
【0106】
細胞培養という語句は、とりわけ、自然に近い弾性状態での作用物質の研究における細胞の分析を包含する。エラストマー上での細胞の分化、分裂速度および/又は移動挙動は、その場合、特に重要である。
【0107】
このために、使用する細胞タイプに応じて、培養およびエラストマーに関して不可欠な周囲条件を調節しなければならない。典型的には、周囲条件としては、適切な合成液体培地、ビタミン等の助剤、温度又は培養容器の形態の選択が挙げられる。
【0108】
本発明の特に有利な実施形態では、細胞培養方法中、細胞の分化をエラストマーのヤング率で的確に制御することができる。
【0109】
そのように、有利には、エラストマー上に播種された線維芽細胞は、エラストマーのヤング率に応じて、心臓線維芽細胞又は筋線維芽細胞等の様々な細胞タイプに分化することができる。これもまた同様に作用物質の分析および注目すべき新しい治療薬の提供において重要である。
【0110】
本発明の枠内で、細胞の分裂速度の尺度としての単位時間当たりの細胞分裂の数も、細胞培養容器のエラストマー表面のヤング率で制御できることが分かった。使用する細胞タイプに応じて、それは、柔軟な表面で、従来技術による器具と比較して最大約40%増加する。
【0111】
以下で、実施例および添付の図面に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明による細胞培養器具のための幾つかの樹脂(従来技術)の架橋タイプの概略図である。
【図2a】細胞培養の土台(Zellkulturboden)として中央に配置されたカバーガラスを有するポリプロピレン製のペトリ皿(従来技術)中で6日間培養した後の接着性線維芽細胞の、細胞骨格の抗体標識を示す。
【図2b】図2a)に対応する透過光写真である。
【図3a】細胞培養の土台として、中央に配置されたカバーガラスとこの上に配置されたヤング率38kPaのPDMSからなる弾性表面とを有するポリプロピレン製のペトリ皿中で6日間培養した後の接着性線維芽細胞の、細胞骨格の抗体標識を示す。
【図3b】図3a)に対応する透過光写真である。
【図4】図3による細胞培養器具の共焦点顕微鏡による(Konfokal erstellte)側面図である。
【実施例】
【0113】
図1は、本発明により、細胞のための構造化されていない支持体の役割をすることができる3種類の樹脂(従来技術)の架橋タイプを概略的に示す。
【0114】
図3による配置では、線維芽細胞が単離され、1cm当たり細胞約5000個の濃度で、シルガード(sylgard)184−キットから作製されたPDMS表面に平板培養された。
【0115】
キットは、主剤としてのビニル末端シロキサン、並びに共重合体としてのメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンおよび混合されるPt触媒を含む。
【0116】
シロキサンと共重合体とからなる混合物は、主剤対架橋剤50:1の混合比で調合され、混合され、デシケーター(Eksikaor)中で脱気された。
【0117】
25×75mmの寸法および約100μmの厚さを有するカバーガラスをズース・マイクロテック社(der Firma Suess Microtech)のデルタ(Delta)10Tタイプのスピンコーターの回転盤上に取り付け、まだ架橋されていないPDMS3mlで被覆した。30秒間、毎分1000回転でスピンコート法を行った。
【0118】
次いで、カバーガラスの下側から余分なPDSMをn−へプタンで洗浄した。60℃の防塵槽中で一晩硬化させたが、この場合、約25kPaの弾性が達成される。
【0119】
架橋後、エラストマーは、追加の細胞接着促進層としてのフィブロネクチン2.5μg/cmでコーティングされた。フィブロネクチンは、自然に近いある一定の条件下での細胞の接着を確実にする。このために、対応する少量が塗布され、20分後に残りの液体を元のように除去した。
【0120】
架橋されなかった余分なシリコーン油を洗い流すため、エラストマーを15秒間、2−プロパノール中で軽く振とうして洗浄した。これによって、約25kPaのヤング率を有する前述のPDMS−ポリマーの場合、約40%の体積減少と同時に透明性の向上が起こり、約38kPaに後硬化した。この工程の後、得られたエラストマー層の厚さは約40μm、ポアソン比約0.5であった。
【0121】
カバーガラスは、下からエラストマーに重なった状態で、ペトリ皿の底の中央に配置された穴に接着された。PDMS−表面と細胞培養容器の結合は、既に表面が架橋されているPDMSの接着性で直接行われる。
【0122】
あるいは、追加で使用される細胞適合性接着剤を使用することによって、接着力を大きくすることができる。
【0123】
比較試験として、同一のカバーガラスを、そのようなエラストマーなしでその他の点では同一のペトリ皿に接着した。
【0124】
胚性心筋線維芽細胞を単離し、個々の細胞としてエラストマー上に(図3)又は直接カバーガラスのガラス表面上に(図2)播種した。
【0125】
図3による細胞を、図2の細胞のように6日間、37℃で適切な培養液中でインキュベートした。続いて、細胞をホルムアルデヒドで固定し、平滑筋アクチンに対する抗体で標識し、インキュベートした。平滑筋アクチンは、自然に近い細胞の力発生機能のマーカーと見なされている。当業者は、対応する固定化および標識プロトコルを対応する専門文献から容易に得ることができる。
【0126】
図2a)と図3a)を比較すると、6日間培養した後、PDMS(図3a)上の線維芽細胞だけが明瞭に形成された密で平行な向きの細胞骨格を形成したことが分かる。それに反して、カバーガラスによって形成された比較試験(図2a)の基材上には、その機能に絶対不可欠なこの細胞骨格の平行な向きの構造は、形成されなかった。
【0127】
対応する透過光写真から、PDMS−表面(図3b)上には、ガラス表面(図2b)と比較して約40%高い細胞数が生じることが分かる。これは、ガラスと比較してPDMS上では細胞分裂速度が大きいことを示し、弾性表面を使用すると細胞ストレスが明らかに少ないことを示唆する。
【0128】
実験から、支持体としてエラストマーを選択すると、細胞の形態、および、従ってその構造と機能に好影響を与えることが明らかである。同じことが細胞数にも当てはまる。
【0129】
得られたエラストマー層3の厚さは、図4に示されるように約40μmである。その場合、層4は、隣接する空気を示し、層2はカバーガラスを示し、層1はPDMS上に配置された液体を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を受容するための構造化されていない表面を有する細胞培養器具であって、前記表面がエラストマーから形成されていることを特徴とする、細胞培養器具。
【請求項2】
透明なエラストマーを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養器具。
【請求項3】
約1.3〜1.5の範囲の、特に1.4の前記エラストマーの屈折率を特徴とする、請求項1又は2に記載の器具。
【請求項4】
1MPa〜500Paのヤング率を有するエラストマーを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の器具。
【請求項5】
前記エラストマーの表面が、細胞の接着および培養を促進する層を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の器具。
【請求項6】
フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、テネイシン又はヒアルロン酸からなる促進層を特徴とする、請求項5に記載の器具。
【請求項7】
約0.3〜0.5の範囲のポアソン数を有するエラストマーを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の器具。
【請求項8】
水をベースとしていないエラストマーを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の器具。
【請求項9】
シロキサン樹脂、ブタジエン樹脂、又はアクリル酸樹脂から選択される主剤からなるエラストマーを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の器具。
【請求項10】
ビニル末端シロキサン樹脂を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の器具。
【請求項11】
架橋剤としてメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体を含むエラストマーを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の器具。
【請求項12】
ペトリ皿、スライドガラス、カバーガラス、マルチウェルプレート、細胞培養フラスコ、化学試料および/又は生物試料を検査するための試料用担体(Probentraeger)、一般に、特に、マイクロ流体系の意味のブリッジ部(Stegen)および管路を有する試料用担体、又は細胞培養チャンバーを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の器具。
【請求項13】
細胞のin situハイブリダイゼーションおよび/又は抗体標識に適した材料を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の器具。
【請求項14】
細胞を受容するために提供される器具の表面を、エラストマーからなる構造化されていない表面でコーティングすることを特徴とする、細胞培養器具の製造方法。
【請求項15】
シロキサン樹脂、ブタジエン樹脂、又はアクリル酸樹脂からなるエラストマーが選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ビニル末端シロキサン樹脂を選択することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
クロリド末端シロキサン樹脂を選択することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記器具の表面をコーティングする前に、前記樹脂を、架橋剤としての共重合体および場合により触媒と混合する、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
透明なエラストマーが形成されることを特徴とする、請求項14〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記器具をエラストマーでコーティングするためにスピンコート法を実施することを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
展延塗布法、ロールコート法、又はキャスティング法を実施することを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記エラストマーを架橋する間、約60℃〜120℃の温度を選択することを特徴とする、請求項14〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
紫外線下でエラストマーを重合させることを特徴とする、請求項14〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記重合したエラストマーをイソプロパノールで洗浄する、請求項14〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記エラストマーの硬化後に前記器具を滅菌することを特徴とする、請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記エラストマーのヤング率を1MPa〜500Paにすることを特徴とする、請求項14〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
細胞培養器具内の構造化されていないエラストマー上で細胞を培養することを特徴とする、細胞培養方法。
【請求項28】
シロキサン樹脂、ブタジエン樹脂、又はアクリル酸樹脂上で前記細胞を培養する、請求項27に記載の細胞培養方法。
【請求項29】
前記培養の間に、前記エラストマーのヤング率で前記細胞の分化および/又は分裂速度および/又は移動挙動を制御する、請求項27又は28に記載の細胞培養方法。
【請求項30】
平坦なエラストマー上で治療薬を添加して前記細胞を培養する、請求項27〜29のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項31】
前記エラストマー上で線維芽細胞を培養する、請求項27〜30のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項32】
エラストマーとしてPDMSを含むキットを使用する、請求項27〜31のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項33】
シルガード(sylgard)−184キットを特徴とする、請求項27〜32のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項34】
1MPa〜500Paのヤング率を有するエラストマー上で前記細胞を培養する、請求項27〜33のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項35】
透明なエラストマー上で前記細胞を培養する、請求項27〜34のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項36】
前記細胞の接着と培養を促進する層を有するエラストマー上で、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、テネイシン又はヒアルロン酸を含む層上で、前記細胞を培養することを特徴とする、請求項27〜35のいずれか一項に記載の細胞培養方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−540805(P2009−540805A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515697(P2009−515697)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001054
【国際公開番号】WO2007/147389
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】