説明

細胞培養器

【課題】細胞増殖能に富み、優れた操作性を有し、播種した細胞を余すことなく3次元培養の評価に用いることができる細胞培養器を提供する。
【解決手段】円筒状の外筒1、内腔を有し該外筒部に嵌合または螺合可能な円筒状の内筒2、該外筒の内腔部に底板4、外筒と該底板との間にパッキンまたはクッション部3、該内筒底部と底板4の間に細胞培養担体5を設置した細胞培養器であって、該細胞培養担体5が凹凸を有するシートからなることを特徴とする培養器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凹凸を有するシート状の細胞培養担体(Scaffold)を用いて細胞を培養するための装置に関するものであり、細胞増殖能に富み、優れた操作性を有し、播種した細胞を余すことなく3次元培養の評価に用いることができる細胞培養器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の再生医療技術に関する技術革新が進むに伴い、細胞が増殖、分化、組織化するための足場となる細胞培養用担体を用いた培養が重要になってきている。ここでいう細胞培養担体とは、生体適合性ポリマーの溶液を凍結乾燥した多孔体や、繊維構造体など3次元状の構造体が多く用いられる傾向にある。細胞培養担体に細胞を固定あるいは内包させる技術としては、コラーゲンやアルギン酸などのゲルを用いて細胞培養担体に内包させる方法や、細胞を含む培地を毛管現象で吸収させて、その過程で細胞を固定化させる方法、また単純に、細胞培養のための容器の底に置く方法、適当なおもりで固定化する方法が知られている。
【0003】
細胞が成育し、分化・組織化を行うことで、上記の培養方法では、播種あるいは増殖した細胞が培養担体の外部へ漏れたり、あるいは培養担体の裏側に入り込んだりするため、培養した細胞を効率良く取り出すことが難しかった。
【0004】
また、細胞が培養担体上あるいは担体中で増殖、分化していく各々の過程に関して、細胞の成育状態や、細胞が産生する細胞外マトリクスの種類や量、組織化の様子などを詳細に観察あるいは評価する必要性が高まってきている。フィルム状のマテリアルの上で細胞を培養する容器については、たとえば気体透過性のフィルムが底にぴんと張られた培養容器について記載されている(特許文献1)。このフィルムとしては、気体は透過するが液体は透過しない極めて薄いフィルムしか用いることが出来ず、例えば、凹凸を多く有するシート状、フィルム状の成型体を細胞培養担体に用いることが出来ない。
【0005】
細胞のin vitro侵襲性増殖特性を研究する装置として、第1チェンバーを輪郭付ける上方体部と、第2チェンバーを輪郭付けるベースと、前記第1および第2チェンバーを分離する基質界面と、上方体部をベースのほうにバイアスし、前記基質を上方体部とベースとの間に保持する手段とを含んでなり、基質界面には温血脊椎動物の粘膜組織を含んでなる装置が開示されている(特許文献2)。
【0006】
ニューロプローブ社(Neuroprobe, Inc. Cabin John, Maryland)から市販されているブラインドウエル(Blind Well)チャンバーは、円筒状の挿入部と、嵌合可能な透明樹脂性のチャンバーとからなる商品である。
【0007】
特許文献2あるいはニューロプローブ社の製品のいずれにしても、円筒状の内筒と外筒を有し、それらを螺合あるいは嵌合することで細胞培養担体や内筒、外筒を相互に固定している。
【0008】
然しながら、細胞培養容器は雑菌などの繁殖の危険性を避けるため滅菌された環境下で操作されることが多く、また同じ理由から素手による操作が制限される場合が多い。
そのような状況下で上記の細胞培養器を螺合あるいは嵌合し、細胞培養担体を確実に固定することは極めて困難である。
【0009】
細胞培養担体の固定が確実に行われない場合は、播種されあるいは増殖した細胞が培養中に容器の該具外部に洩れたり、細胞培養担体の裏面に回りこんだりして、播種した細胞を余すことなく細胞培養担体の表面あるいは内部に固定することができない。
【0010】
【特許文献1】特開昭52−38082号公報
【特許文献2】特表平10−513363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、細胞増殖能に富み、かつ優れた操作性を有し、播種した細胞を余すことなく培養の評価に用いることができる細胞培養器を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、円筒状の外筒(1)、内腔を有し該外筒部に嵌合または螺合可能な円筒状の内筒(2)、該外筒の内腔部に底板(4)、外筒と該底板との間にパッキンまたはクッション部(3)、該内筒底部と底板(4)の間に細胞培養担体(5)を設置した細胞培養器であって、該細胞培養担体(5)が凹凸を有するシートからなることを特徴とする培養器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の細胞培養器は細胞増殖能に富み、かつ優れた操作性を有する。本発明の細胞培養器は播種した細胞を余すことなく細胞培養担体の表面あるいは内部に固定することができ、さらには凹凸を有するシート状の培養担体が細胞の足場材としてどれくらい優れているかについての定量的な評価が容易に実施できるように、培養担体に生着した細胞が生育していく過程をそのまま観察することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の実施例により、本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下、本発明について詳述する。なお、これらの実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0015】
本発明の好ましい構成を、図を用いて説明する。
図1において、円筒状の外筒(1)および内筒(2)は、樹脂製であっても金属製であってもガラス製であってもよく、中央部に観測用の内腔(6)および液体培地を保持するための内腔(7)が開いている。外筒は液体培地が漏洩するのを防ぐためのパッキン(3)を置く段部を有し、外筒(1)と内筒(2)はねじ溝を有することで、内筒を外筒にねじ込むことができ、内筒の端部が細胞培養担体(5)および底板(4)を圧着し、固定することができる。
【0016】
また外筒(1)と底板(4)の間にはパッキンまたはクッション部(3)が設置されている。これは外筒(1)と底板(4)の間の液漏れ防止機能および内筒を嵌合または螺合させ圧着させる際にクッション機能を提供するものである。本目的を満たせば、パッキンとして挿入するようにしても、クッション部として外筒に一体化されていても構わない。パッキンまたはクッション部(3)の素材はある程度の弾力を有していれば良く、素材としては例えばゴムが挙げられるが、好ましくは細胞毒性の少ないシリコン製あるいはフッ素ゴム製が用いられる。
【0017】
液体培地の底部となる平板すなわち底板(4)は透明であるものがよく、ガラス製あるいは透明樹脂製の平板が好ましく用いられる。この底板(4)の上に、細胞培養担体(5)を設置し、内筒(2)を用いて上から圧着する。内筒(2)は液体培地を保持するための内腔を有しており、この内腔から細胞観察することも可能である。
【0018】
細胞培養担体(5)はその円周部の端を上部から圧着させることで、上から細胞を播種したときに生じる担体横側からの細胞の漏れを防ぐことができ、さらには上部より均等にその端部が押えられるため、内腔(7)に面した細胞培養担体表面は水平状に近似することが可能で、特に凹凸の多いシートの表面を水平に保つことが可能である。
【0019】
外筒(1)および内筒(2)の材質は、樹脂製であっても金属製であってもガラス製であってもよいが、入手・加工のしやすさや滅菌の容易さから、ステンレス製やテフロン(登録商標)樹脂が好ましい。その中でオーステナイト系ステンレスは、研究開発業務で多用されるオートクレーブ(蒸気加熱)滅菌に適しているため、好ましい。ステンレスの具体例としてはSUS304やSUS316製のステンレスが好ましく用いられる。
【0020】
外筒(1)および内筒(2)の材質が樹脂製であることもハンドリングのしやすさから好ましい。樹脂の種類としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル系樹脂等が挙げられる。耐ガンマ線剤などの添加剤などを適宜添加した樹脂を用いることも好ましい。
【0021】
ステンレス成型体を用いて細胞を培養する際は、ステンレスの表面を不動体化処理するのが好ましい。不動体化処理は、公知のいかなる方法を用いても良いが、好ましくは、0.01〜1N程度の酸水溶液で洗浄するのがよく、更に好ましくはリン酸や亜リン酸を含む酸性水溶液を洗浄剤として用いるのがよい。
【0022】
外筒の内腔は窓穴として、細胞の生育状況を観察するものであり、倒立型の顕微鏡を用いて細胞の成育を観察することができる。
【0023】
図2で本願発明の培養容器のもう一つの態様を説明する。円筒状の外筒(11)および内筒(12)は、樹脂製であっても金属製であってもガラス製であってもよく、中央部に液体培地を保持するための内腔(16)が開いている。外筒(11)は増殖した細胞が底板の裏面に回りこむのを防ぐためのパッキン(13)を置く底部を有し、外筒(11)と内筒(12)はねじ溝を有することで、内筒を外筒にねじ込むことができ、内筒の端部が細胞培養担体(15)および底板(14)を圧着し、固定することができる。
【0024】
また外筒と底板の間には液体培地の漏洩防止のためにパッキン(13)が挿入されている。該液漏れ防止のためのパッキン(13)は、ゴム製のものならいずれのものを用いてもかまわないが、好ましくは細胞毒性の少ないシリコン製あるいはフッ素ゴム製のパッキンが用いられる。
【0025】
液体培地の底部となる平板すなわち底板(14)は透明であるものがよく、ガラス製あるいは透明樹脂製の平板が好ましく用いられる。この底板(14)の上に、細胞培養担体を設置し、内筒(12)を用いて上から圧着する。内筒(12)は液体培地を保持するための内腔を有しており、この内腔から細胞観察することも可能である。
【0026】
細胞培養担体(15)はその円周部の端を上部から圧着されることで、上から細胞を播種したときに生じる担体横側からの細胞の漏れを防ぐことができ、さらには上部より均等にその端部が押えられるため、内腔(16)に面した細胞培養担体表面は水平状に近似することが可能で、特に凹凸の多いシートの表面を水平に保つことが可能である。
【0027】
外筒(11)および内筒(12)の材質は、樹脂製であっても金属製であってもガラス製であってもよいが、外側からの観察とりわけ外筒の底部から観察することを可能にするためには透明な樹脂あるいはガラスが望ましい。入手・加工のしやすさや滅菌の容易さからは、ステンレス製やテフロン(登録商標)樹脂が好ましい。その中でオーステナイト系ステンレスは、研究開発業務で多用されるオートクレーブ(蒸気加熱)滅菌に適しているため、好ましい。ステンレスの具体例としてはSUS304やSUS316製のステンレスが好ましく用いられる。
【0028】
ステンレス製の培養容器を用いて細胞を培養する際は、ステンレスの表面を不動体化処理するのが好ましい。不動体化処理は、公知のいかなる方法を用いても良いが、好ましくは、0.01〜1N程度の酸水溶液で洗浄するのがよく、更に好ましくはリン酸や亜リン酸を含む酸性水溶液を洗浄剤として用いるのがよい。
【0029】
培養容器が透明な樹脂あるいはガラス製である場合は、倒立型の顕微鏡を用いて細胞の成育を観察することができ、ステンレス製の培養容器である場合は内筒の内腔から観察することができる。
【0030】
外筒(1)あるいは内筒(2)のいずれか、あるいは外筒(1)と内筒(2)の両方に、同様に外筒(11)あるいは内筒(12)のいずれか、あるいは外筒(11)あるいは内筒(12)のそれぞれに、穴、溝、切り込み等凹部を設けることも好ましい。凹部は穴、溝、切り込みのいずれか一つでもあるいは組み合わせであっても良い。
【0031】
図1には外筒(1)と内筒(2)にある穴の場合が例示されている。外筒の周囲に有する穴(8)は、側面に、外筒(1)の中心に向かって同心円状に掘られていて、内筒の上部にある穴(9)は、垂直方向に穴が掘られている。これらの穴には通常のピンセット、歯科用のピンセットやつる首型のピンセットなど、実際の実験に良く用いられる先のとがったピンセット類の先を2箇所入れて、外筒と内筒を嵌合する際に、内筒を回転させたり固定したりするのに都合が良い。
【0032】
また内筒の上部に穴(9)を設けて通常のピンセット、歯科用のピンセットやつる首型のピンセットなど、実際の実験に良く用いられる先のとがったピンセット類の先を2箇所入れて、外筒と内筒を嵌合することも好ましい。
【0033】
内筒の上部にある穴の2個所にはめ込むことが可能であり、これを用いることで、内筒を外筒に嵌めこむことが容易に行える。さらに(10)の中央部に穴を設けて、ピンセットなど先の尖った道具を入れることで、直接手を触れることなく嵌合できるようにすることも好ましい。
【0034】
図1、図2何れの場合も内筒の上部は塞がっていても構わないし、あるいは蓋によって塞がれても良い。
本発明の細胞培養器は、細胞培養担体を取り替えて洗浄〜滅菌等の処理をすることにより、繰り返し使用することが可能である。
【0035】
細胞培養担体(5)は凹凸を有するシートからなり、シートの原料となる高分子は、公知のいずれの高分子を用いることができ、生体適合性ポリマーであることが好ましい。具体的にはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン並びにこれらの共重合体などの合成ポリマー、再生セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴムなどの生体高分子とその誘導体が挙げられる。
【0036】
これらのうち、生分解性ポリマーが好ましく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートおよびポリエチレンサクシネート並びにこれらの共重合体などの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートを好ましい例として挙げることができ、更に好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンが挙げられる。なかでもポリ乳酸が特に好ましい。
【0037】
本発明においては、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用(例えば、ポリマー共重合体、ポリマーブレンド、化合物の混合等)しても良い。
【0038】
細胞培養担体(5)は、100重量部のポリマーおよび0.01〜10重量部のリン脂質からなることが好ましい。好ましいリン脂質としてはホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびそれらの誘導体からなる群から選択されてなる少なくとも一種であることが好ましい。より好ましくはホスファチジルエタノールアミン類であり、さらに好ましくはL−α−ホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルである。
【0039】
凹凸部は、その全表面積に対して、好ましくは10〜100%、より好ましくは20〜100%である。
凹凸部は、好ましくは孔径0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜18μm、さらに好ましくは1〜15μmの細孔を有する。細孔は均一に配置されていることが好ましい。また細孔は、ハニカム状に配置されていることが好ましい。細孔の深さは、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜18μm、さらに好ましくは1〜15μmである。
凹凸部は、シートあるいはフィルムの片側にある状態(非貫通)でもよく、薄いフィルムの場合においては凹凸部がフィルムを貫通していても良い。
【0040】
細胞培養担体は厚みが1〜1000μmのものが好ましく、さらに好ましくは500μm以下のものが用いられる。これよりも細胞培養担体が厚いと、圧着による気密性を維持するのが難しいため好ましくない。また、圧着をより確実なものにするために、シリコンゴムなどのシーリング材やパッキンは適宜使用することができる。
【0041】
本発明の細胞培養担体(5)を構成する凹凸を有するシートは好ましくは、以下の方法で製造することができる。
即ち、該シートは、
(1)ポリマー成分、リン脂質および有機溶媒を含有するポリマー溶液を基板上にキャストし、キャスト液を得る工程、
(2)キャスト液を相対湿度10〜85%の下、静置し有機溶媒を蒸発させると共に、水蒸気をキャスト液表面に結露させ水滴を形成させ、ついで、水滴を蒸発させる工程、
により製造することができる。
【0042】
上記の方法においてはキャスト液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須であり、使用する有機溶媒は非水溶性である必要がある。よって有機溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、などの非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独またはこれらの溶媒を混合して使用してもよい。
【0043】
ポリマー溶液中の、ポリマー成分とリン脂質とを併せた溶質濃度は好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。溶質濃度が0.01重量%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足し望ましくない。また10重量%以上では溶質液濃度が高くなりすぎ、十分な凹凸構造が得られないことがある。
【0044】
ポリマー溶液中のポリマー成分とリン脂質との重量比は10:1から10000:1であることが好ましい。より好ましくは20:1〜1000:1であり、さらに好ましくは50:1〜500:1である。
【0045】
(キャスト工程)
ポリマー溶液を基板上にキャスト(流延)しキャスト液を得る工程である。かかる工程はポリマー溶液を基板上に流し込むことで行なうことができる。
基板としては、無機材料、ポリマーまたは液体を使用することができる。無機材料として、ガラス、金属、シリコンウェハー等が挙げられる。ポリマーとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。液体として、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等が挙げられる。
【0046】
(蒸発工程)
キャスト液を相対湿度10〜85%の下、静置し、有機溶媒を蒸発させる工程である。相対湿度は好ましくは20〜85%、より好ましくは30〜85%である。相対湿度が10%未満ではキャスト液上への結露が不十分になり、また、85%を超えると湿度のコントロールが難しく好ましくない。雰囲気温度は、有機溶媒が徐々に蒸発する温度であればよく、好ましくは10〜30℃、より好ましくは室温である。
【0047】
この工程では、有機溶媒が蒸発すると共に、水蒸気がキャスト液表面に結露し水滴が形成される。これは有機溶媒が蒸発するとき潜熱を奪い、キャスト液表面の温度が下がり、雰囲気中の水蒸気がキャスト液表面に結露するからである。ポリマー中の親水基の働きによって結露した水蒸気と有機溶媒との間の表面張力が減少し、結露した水蒸気は凝集し微小な水滴となる。有機溶媒が蒸発するに伴い、キャスト液表面にヘキサゴナル配置で最密充填された微小な水滴が並ぶ。有機溶媒の蒸発が進むに伴い、キャスト液はフィルム状になると共に、水滴は沈下し、キャスト液の表面は、ポリマーに囲まれた水滴が規則正しく配置された構造となる。ついで、結露により生じた水滴を蒸発させる。水滴が蒸発することにより、ポリマーが規則正しくハニカム状に並んだ形として残る。
【0048】
凹凸を有するフィルムは、凹凸を有した鋳型を用いた押出成形、リソグラフィー、フィルム形成後ナノインプリンティング、またレーザー加工などにより製造することができる。
【0049】
得られるフィルムの表面には、孔径0.1〜20μmの細孔が規則正しくハニカム状に形成される。細孔の孔径は、好ましくは0.5〜18μmであり、より好ましくは1〜15μmである。
【0050】
シートの厚さが充分厚い場合は、基板に接していた裏面は細孔が貫通していない平らな面となる。この場合、細孔の深さは、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.5〜18μmである。また、膜厚が水滴の大きさよりも薄い場合は、細孔が貫通したシートが得られる。
【0051】
凹凸を有するシートは表面に凹凸を有するシートと基体シートとの積層体であることも好ましい。その場合の同種のポリマーでなっていても異種のポリマーからなっていてもよい。積層方法は、特に限定されないが、たとえば、基体フィルムを作製した上に別に作製しておいた凹凸を有するシートを積層後、熱圧着により貼付させることができる。また、任意に応じて凹凸を有するシートと通常のキャストフィルムなどを複数重ねて用いることも、本発明の目的の範囲内であれば問題ない。
【0052】
基体シートは、例えばポリマー成分および有機溶媒を含有するポリマー溶液を基板上にキャストし、溶媒を除去することにより製造することができる。ポリマー成分および有機溶媒を含有するポリマー溶液を基板上にキャストし、溶媒を除去するキャスト方法、またはインフレーション押出成形法、Tダイ押出成形法などの押出成形法、カレンダー法などにより製造することができる。ポリマー溶液の溶質濃度は、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
[細胞培養担体の作成]
ポリ(乳酸−カプロラクトン)共重合体(PLCA、分子量163,000、共重合モル比 乳酸/カプロラクトン=88/12)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルをPLCAに対し1/200の割合(重量)で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、キャスト液を得た。
【0054】
次に、キャスト液を室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に蒸発ささせると共に水蒸気をキャスト液表面に結露させ水滴を形成させ、ついで水滴を蒸発させフィルムを調製した。
【0055】
得られたフィルムは、全表面に孔径約5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ10μmの非貫通フィルムであった。フィルムの凹凸部の顕微鏡写真を図3に示す。このフィルムを60℃にて10分間熱処理を行い、これから直径26mmのシートを切り出した。
【0056】
図1に示すごとく、観察用の窓穴としての内腔(6)を有する円筒状のSUS304製外筒(1)の段部上に、フッ素ゴム製のパッキン(3)、ガラス板製の底板(4)を置き、さらに上記により製造した細胞培養担体(5)を置いた。観察用の窓穴すなわち内腔(7)を有し、外周部にネジ溝を有する円筒状のSUS304製内筒(2)を挿入し、細胞培養担体であるポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体よりなる凹凸フィルムを上から圧着した。円筒状の内筒(2)の内径は24mmであった。
【0057】
ウサギ軟骨より採集した初代軟骨細胞と、液体培地を内腔(7)に5分目となるように入れ軟骨細胞を培養した。培養に用いた細胞数は、約2×10個であった。培養は5%二酸化炭素濃度、37℃での条件で実施し、液体培地は適宜交換した。2週間後、細胞数の増殖および細胞外マトリクスの産出を観察することができた。細胞培養担体を取り出して観察したところ、細胞は細胞培養担体に生着し、3次元状に培養されていることを確認した。底板(4)に面した側には細胞は多くは認められず、細胞がもれなく細胞培養担体である凹凸フィルムに固定されたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明で開示した培養器は、シート状の細胞培養担体の評価や、細胞培養担体上での細胞の生育状況を確認する上で有益な培養器であり、細胞の定量的な評価や細胞が算出する細胞外マトリックスについて定量的に評価することが可能である。本培養器は再生医療分野において、細胞培養のための培養担体(Scaffold)の評価や、Scaffold中での細胞の生育状況、生育過程を評価する上で重要なツールとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1の培養容器の断面図。
【図2】実施例1の培養容器とは別態様の培養容器の断面図。
【図3】実施例1のフィルムの凹凸部の顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0060】
1 外筒
2 内筒
3 パッキン
4 底板
5 細胞培養担体
6 外筒の内腔
7 内筒の内腔
8 外筒に施した穴
9 内筒に施した穴
10 内筒を旋回するための道具
11 外筒
12 内筒
13 パッキン
14 底板
15 細胞培養担体
16 内筒の内腔
17 外筒に施した穴
18 内筒に施した穴
19 内筒を旋回するための道具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外筒(1)、内腔を有し該外筒部に嵌合または螺合可能な円筒状の内筒(2)、該外筒の内腔部に底板(4)、外筒と該底板との間にパッキンまたはクッション部(3)、該内筒底部と底板(4)の間に細胞培養担体(5)を設置した細胞培養器であって、該細胞培養担体(5)が深さが0.1〜20μmの凹凸を有するシートからなることを特徴とする培養器。
【請求項2】
シートが生体適合性のポリマーからなることを特徴とする請求項1に記載の培養器。
【請求項3】
生体適合性のポリマーが脂肪族ポリエステルである請求項2に記載の培養器。
【請求項4】
凹凸部には、孔径0.1〜20μmの細孔が均一に配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の培養器。
【請求項5】
細孔がハニカム状である請求項4に記載の培養器。
【請求項6】
細胞培養担体(5)が、100重量部のポリマーおよび0.01〜10重量部のリン脂質からなる請求項1〜5のいずれかに記載の培養器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の培養器を用いて、該細胞培養担体の評価を実施する評価方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の培養器に用いられる孔径0.1〜20μmの細孔を有するシートからなる細胞培養担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−304734(P2006−304734A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134108(P2005−134108)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】