説明

細胞培養容器

【課題】本発明の目的は、細胞の培養及び観察を良好に行うことのできる細胞培養容器を提供することにある。
【解決手段】細胞12の培養及び観察に用いられる培養部14を備えた細胞培養容器10であって、少なくとも前記培養部14を構成する底板16が、細胞12の培養及び観察を行うのに最適な0.10mm以上、1.50mm以下の薄さを持つ、光学的に透明なプラスチックであることを特徴とする細胞培養容器10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養容器、特に細胞の培養及び観察の両立化機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば細胞内イオンの測定、蛍光顕微鏡を用いた画像解析法等の前提作業として、細胞の培養が行われている。例えば細胞の培養は、培養液の入れられた培養容器内で行われている。
細胞の観察を行う際は、まず培養細胞を培養容器から取り出し、観察容器に移し変えることが一般的である。そして、観察装置では、観察容器内の細胞の光学観察を行うことが一般的である(例えば特許文献1)。
また、従来は、培養容器内で細胞を培養後、該培養細胞を観察容器に移し変えることなく、培養容器内の細胞を光学観察することも行われている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−281567号公報
【特許文献2】特開昭60−137279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来方式の容器は、特許文献1に示されるように、培養専用又は観察専用で用いられるのが一般的である。
また最近、この種の分野では、特許文献2に示されるように、培養容器内で培養された細胞を観察容器に移し変えることなく、培養容器内の培養細胞を光学観察することが特に注目されている。
【0004】
しかしながら、従来方式の容器では、細胞の培養と観察との両立を満足のゆくレベルで実現するのは非常に困難であった。
すなわち、細胞の培養と観察との両立に関し、高いレベルが求められない場合は、特許文献2に示されるような従来方式の容器を用いることも可能である。しかしながら、細胞の培養と観察との両立に関し、高いレベルが求められる場合は、細胞の培養時と観察時とで培養容器と観察容器とを使い分けているのが実情である。
【0005】
以上のように、この種の分野では、細胞の培養と観察とに関し、高いレベルでの両立が望まれていたものの、従来は、細胞の培養と観察との両立の鍵となる事項も未だ不明であるため、従来は、これを十分に解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
【0006】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、細胞の培養及び観察を良好に行うことのできる細胞培養容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが細胞の培養及び観察の両立について鋭意検討を重ねた結果、細胞の培養と観察との両立のためには、培養部を構成する底板の厚みと材質との選定が、非常に重要であることがわかった。
その上で、本発明者らが、培養部を構成する底板の厚みと材質との関係について検討を進めたところ、数ある材質と厚みとの中から、ある材質と厚みとの組み合わせによりはじめて、細胞の培養及び観察の両立が確実に行えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかる細胞培養容器は、細胞の培養及び観察に用いられる培養部を備えた細胞培養容器であって、少なくとも前記培養部を構成する底板が、細胞の培養及び観察を行うのに最適な0.10mm以上、1.50mm以下の薄さを持つ、光学的に透明なプラスチックであることを特徴とする。
ここにいう観察とは、観察ないし測定を含めていう。
また、ここにいう光学的に透明なプラスチックとは、細胞観察(測定)波長範囲において満足のゆく細胞観察を行うのに必要な明るさ(光透過率,光透過性)を持つものをいう。
【0009】
なお、本発明においては、前記培養部を構成する底板の厚みが、0.10mm以上、1.50mm以下であることが好ましく、0.13mm以上、0.17mm以下であることが特に好ましい。
すなわち、前記培養部を構成する底板の厚みが、0.10mmよりも薄いと、細胞の培養が良好に行えないことがある。これに対し、該培養部を構成する底板の厚みが、1.50mmよりも厚いと、培養細胞の観察(測定)が適正に行えないことがあるからである。
【0010】
また、本発明においては、前記培養部を構成する底板の材質が、ポリスチレン、ポリシクロオレフィンよりなる群より選択されることが好ましく、ポリシクロオレフィンであることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる細胞培養容器によれば、細胞の培養と観察との両立の鍵の発見に基づき
培養部を構成する底板として0.10mm以上、1.50mm以下の薄さを持つプラスチックを用いることとしたので、細胞の培養及び観察を良好に行うことができる。
本発明においては、前記培養部を構成する底板の厚みが0.13mm以上、0.17mm以下であることにより、細胞の培養及び観察の両立を、より確実に図ることができる。
【0012】
また本発明においては、前記培養部を構成する底板の材質が、ポリシクロオレフィン、ポリスチレンよりなる群より選択されることにより、細胞の培養及び観察の両立を確実に図ることができる。
本発明においては、前記培養部を構成する底板の材質が、ポリシクロオレフィンであることにより、細胞の培養及び観察の両立を、より確実に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる細胞培養容器の概略構成が示されている。
なお、同図(A)は細胞培養時の細胞培養容器の様子、該培養細胞観察時の細胞培養容器の様子である。
同図に示す細胞培養容器10は、細胞12の培養及び観察(測定)に用いられる培養部14を備える。
本実施形態において特徴的なことは、細胞の培養と観察との両立の鍵の発見に基づき、培養部14を構成する底板16として、細胞の培養及び観察を行うのに最適な0.10mm以上、1.50mm以下の薄さを持つ、光学的に透明なプラスチックを用いたことである。
この結果、本実施形態にかかる細胞培養容器10は、細胞の培養及び観察を良好に行うことができる。
【0014】
以下に、本実施形態にかかる細胞培養容器10について、より具体的に説明する。
同図(A)に示す細胞培養容器10は、孔18を有する本体20と、本体20の下部に設けられた前記底板16とを備える。
培養部14は、孔18を形成する本体20の内周壁部分20aと、孔18の下部開口端に設けられ、孔18の下部開口端を閉口する底板部分16aとで構成されている。
本体20と底板16とは、液漏れが生じないように、接着剤等でしっかり固定されている。
このようにして構成された培養部14には培養液22が入れられ、細胞12は培養部14の培養液22中で培養される。
培養細胞12は、同図(B)に示されるように、細胞培養容器10の培養部14に入れられたまま、底板16を介して、光学観察装置24により観察(測定)される。
【0015】
ところで、培養容器では、例えば培養細胞の観察容器への移し変えの際の手間や不具合の低減化、また培養細胞を生きたまま観察すること等を目的として、培養容器に培養細胞を入れたまま、観察に用いることが望まれている。
このためには、一の容器で、細胞の培養及び観察を良好に行う必要があるが、従来は、一の容器で、コストを抑えながら、これを両立するのが非常に困難であった。
【0016】
すなわち、容器では、培養部を構成する底板として、ガラス板を用いることが一般的である。
しかしながら、ガラス板を用いたのでは、例えば波長330nm以下の光透過性が悪いため、例えば細胞の顕微鏡写真が暗くなることあり、満足のゆく観察が行えないことがある。
【0017】
また、ガラス板を用いたのでは、細胞の発育が悪く、満足のゆく培養が行えないこともある。
さらに、ガラス板を用いたのでは、価格が高くなる。
【0018】
ここで、ガラスに対し、細胞の接着性を上げるための表面処理コートを施すことも考えられる。
しかしながら、ガラスに対し表面処理コートを施したのでは、表面処理コートの分だけ、さらにコストが上がるばかりであり、満足のゆく接着性の向上が図られるものでない。
【0019】
また、容器では、培養部を構成する底板として、プラスチックを用いることも考えられる。
プラスチックを用いると、細胞の発育が改善されるが、単にプラスチック製底板を用いただけでは、光学特性、例えば所望の測定波長領域において満足のゆく光透過性が得られないことがあり、観測が困難となることがある。
【0020】
これに対し、本発明において特徴的なことは、細胞の培養と観察の両立の鍵の発見に基づき、培養部を構成する底板の厚みと材質とを選定したことである。
すなわち、細胞の接着性を向上するためにはガラスに対し細胞の接着性を向上するための表面処理コートを施すという技術常識又は単にプラスチックを用いるという技術常識を覆し、また細胞観察の良好性を改善するためにはガラス又は合成石英を用いるという技術常識を覆し、培養部を構成する底板として、ある薄さを持つプラスチックを用いることにより、細胞の培養と観察との両立を、満足のゆくレベルで実現することができることを本発明者らが見出したのである。
このために本実施形態においては、前述のような細胞の培養と観察との両立の鍵の発見に基づき、培養部を構成する底板として、例えば0.15mmの薄さを持つ光学的に透明なプラスチックを用いている。
この結果、本実施形態においては、細胞の培養と観察との両立を、満足のゆくレベルで実現することができる。
【0021】
具体的には、以下の効果がある。
<培養>
本実施形態においては、以下の点で細胞の培養を良好に行うことができる。
すなわち、培養部を構成する底板に対する細胞の接着性が良いので、細胞の発育が良い。
<観察>
本実施形態においては、以下の点で、容器内細胞の観察を底板を介して良好に行うことができる。
第一に、培養部を構成する底板の厚みが薄いので、高倍率であっても顕微鏡観察に最適である。
第二に、培養部を構成する底板は紫外領域での吸収がないため、光学観測での輝度が向上する。
第三に、培養部を構成する底板は従来の容器に比較し容器自身の持つ蛍光強度が低い。
<そのほか>
本実施形態においては、低価格の点、環境によい点で優れている。
【0022】
両立の確実性向上
ところで、本実施形態においては、細胞の培養と観察との両立を、より確実に実現することも非常に重要である。
ここで、単に光透過率の制御だけを考慮して、底板の厚みを試行錯誤で変えることが考えられる。
しかしながら、底板の厚みを試行錯誤で変えていたのでは、また底板として単にプラスチックを用いただけでは、細胞の培養と観察との両立を、確実に実現することができないことがある。
すなわち、本実施形態のように、細胞の培養と観察との両立を実現するためには、底板の材質と厚みとの選定が非常に重要であり、底板の材質の選定だけ又は底板の厚み制御だけでは、細胞の培養と観察とを、より確実に両立することができず、以下の材質と厚み制御との組み合わせによりはじめて、細胞の培養及び観察の両立を、確実に実現することができることを本発明者らが発見したのである。
【0023】
<材質>
本実施形態においては、細胞の培養及び観察の両立を、より確実に実現するため、培養部を構成する底板の材質が、ポリシクロオレフィン、ポリスチレンよりなる群より選択されたプラスチックであることが好ましく、ポリシクロオレフィンであることが特に好ましい。
【0024】
<厚み>
また本実施形態においては、細胞の培養及び観察の両立を、より確実に実現するためには、前記プラスチック製底板の厚みが、0.10mm以上、1.50mm以下であることが好ましく、0.13以上、0.17mm以下であることが特に好ましい。
すなわち、培養部を構成する底板の厚みが、0.10mmよりも薄いと、細胞の培養が良好に行えないことがあるのに対し、1.50mmよりも厚いと、培養細胞の観察が適正に行えないことがあるからである。
この原因について未だ不明な点もあるが、本発明者らが検討を進めたところ、培養部を構成する底板が0.10mmよりも薄いと、細胞の培養が良好に行えないのは、培養部を構成する底板の平坦度が出し難いため、細胞の底板への接着、伸展が阻害されるためであると考えられる。また培養部を構成する底板が1.50mmよりも厚いと、細胞の観察が良好に行えないのは、高倍率観察では観察装置の焦点を合せるのが困難ないし不可能であるためであると考えられる。
【0025】
このように本実施形態においては、培養部を構成する底板として、プラスチックという材質と、0.10mm以上、1.50mm以下という薄さとを組み合わせることによりはじめて、一の容器で、培養時は満足のゆく細胞の接着性が得られ、観察時は観察装置の焦点を容易に及び確実に合せることができる。このため高倍率観察(測定)であっても顕微鏡等の観察装置による観察(測定)が良好に行える。
本実施形態においては、このような材質と厚みとの最適な選択により、低コストで、満足のゆくレベルでの、細胞の培養と観察との両立を、確実に実現することができる。
【0026】
本実施形態においては、底板として、特に前記ポリシクロオレフィンと前記薄さ制御との組み合わせの採用により、さらに、以下の効果もある。
ポリシクロオレフィン容器は、ポリスチレン容器に比較し、蛍光性が、より低いので、観察(測定)を、より良好に行うことができる。
【0027】
ポリシクロオレフィン容器は、一般的なプラスチック容器、ガラス容器に比較し、光学特性に優れている。
すなわち、ポリシクロオレフィン容器は、一般的なプラスチック容器、ガラス容器に比較し、例えば短波長290nmまでの光透過性を有する。ポリシクロオレフィン容器では、測定波長範囲の拡大化が図られる。ポリシクロオレフィン容器は、一般的なプラスチックに比較し光学的な透明性が高いので、培養細胞の顕微鏡写真も明るくなる。このため、ポリシクロオレフィン容器では、観察ないし計測を、より良好に行うことができる。
【0028】
以下に、前記底板の材質、厚みの根拠について説明する。
細胞培養の良好性
培養細胞の観察では通常、伸展細胞のみ、つまり底板にしっかり接着後、伸展している細胞のみを使用する。このため、細胞培養の良好性を判断するには、細胞の接着性を見ることが非常に重要である。
そこで、本試験例では、容器の持つ細胞培養の良好性を評価するため、細胞の培養容器の底板への接着性の検討を行う。
すなわち、細胞の接着性の良否は、細胞の発育の良否に影響し、細胞の底板への接着性が悪いと、細胞が丸くなり、細胞の発育が悪くなる。逆に細胞の底板への接着性が良いと、細胞が伸張し、細胞の発育が良くなるからである。
【0029】
本試験例では、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器I、ポリスチレン製底板を持つ容器II、ガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器III、ガラス製底板(PLLコートあり)を持つ容器III´に対し、それぞれHEp−2細胞を播種して培養した。
図2には、播種12時間後のHEp−2細胞の顕微鏡写真が、各容器毎に示されている。
なお、同図(A)はポリシクロオレフィン製底板を持つ容器I内の細胞の顕微鏡写真、同図(B)はポリスチレン製底板を持つ容器II内の細胞の顕微鏡写真、同図(C)はガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器III内の細胞の顕微鏡写真、同図(D)はガラス製底板(PLLコートあり)を持つ容器III´内の細胞の顕微鏡写真である。
【0030】
次に図2に示した顕微鏡写真をもとに、各容器内の培養細胞を3種類(伸展、接着、未接着)に分類し、100個以上の細胞についてカウントした結果を表1に示す。
【0031】
(表1)

容器I 容器II 容器III 容器III´

伸展(%) 58 86 20 29

接着(%) 25 8 37 35

未接着(%) 17 6 43 36

【0032】
伸展:底板にしっかり接着後、伸展している細胞(通常の実験には伸展細胞のみが使用可能)
接着:底板に明らかに接着しており、伸展しようとしている突起を多数出して運動しているが、まだ伸展には至っていないもの
未接着:完全に丸い形であり、底板に付いていることは付いているが、まだ突起も見られないもの
【0033】
図2、表1より明らかなように、ポリスチレン製底板を持つ容器を示す同図II、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器を示す同図I、ガラス製底板(PLLコートあり)を持つ容器を示す同図III´、ガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器を示す同図IIIの順に、播種細胞は底板にしっかり接着して伸展し、細胞らしい形になっているものが多いことがわかる。
【0034】
すなわち、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器Iの接着性、及びポリスチレン製底板を持つ容器IIは、ガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器IIIに比較し、満足のゆく接着性が得られている。
またガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器IIIでは、観察を適正に行うのに十分な接着性を満足していないため、ガラスに対しPLLコートを施すことも考えられる。
しかしながら、ガラス製底板(PLLコートあり)を持つ容器III´であっても、ガラス製底板(PLLコートなし)を持つ容器IIIに比較し接着性が若干上がっているものの、PLLコートのためコストが高くなる割には、満足のゆく接着性が得られていない。
【0035】
このような試験結果からも、細胞の接着性の良い材質としては、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン等が挙げられる。
一方、接着性の悪い材質としては、ポリ-L-リジン(PLL)コートガラス、ノンコートガラス等が挙げられる。
【0036】
さらに、接着性の悪い材質としては、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、アクリル等が挙げられる。
【0037】
光学特性
培養細胞の観察を適正に行うため、容器は、測定波長領域において高い光透過性を持ち、また自己蛍光が低い等の優れた光学特性を持つことが非常に重要である。
そこで、細胞観察の良好性を検討するため、容器の持つ光学特性(光透過性、低蛍光性)の検討を行った。
【0038】
<光透過性>
まず、本実施形態にかかる細胞培養容器の持つ高い光透過性を検討する目的で、以下の試験を行った。
下記表2には、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器I、ポリスチレン製底板を持つ容器II、ガラス製底板を持つ容器III、石英製底板を持つ容器IVを用いた場合の光透過率の比較結果が示されている。
なお、同表では、各容器の光透過率を、空気の光透過率を基準に表わしている。
【0039】
(表2)
光透過率比較(%)

波長(nm) 容器I 容器II 容器III 容器IV

250 77.6 0.01 0 90.4

300 88.0 54.2 17.8 91.6

310 88.4 67.2 49.6 91.7

320 88.8 71.9 73.5 91.8

330 89.1 75.0 84.0 91.9

340 89.6 77.8 87.9 92.1

350 90.0 79.2 89.2 92.3

【0040】
表2より明らかなように、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器Iを示す同図I、及び石英製底板を持つ容器IVを示す同図IVは、少なくとも250nm〜350nmの測定波長範囲において、観察ないし計測を適正に行うのに十分な光透過性を示している。
一方、ポリスチレン製底板を持つ容器IIを示す同図II、及びガラス製底板を持つ容器IIIを示す同図IIIは、330nm以上の波長範囲では観察ないし計測可能な光透過性を示しているが、330nm以下の波長範囲では光透過性が落ち込み、波長250nm以下の波長範囲では光透過性の落ち込みが大きく、この波長範囲での観測ないし計測は困難である。
【0041】
<低自己蛍光性>
本実施形態にかかる細胞培養容器の持つ低い自己蛍光性を検討する目的で、以下の試験を行った。
表3には、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器I、ポリスチレン製底板を持つ容器II、ガラス製底板を持つ容器III、石英製底板を持つ容器IVを用いた場合の蛍光強度の比較結果が示されている。
なお、同表では、蛍光強度値を、サンプルのない状態で得られる強度を0とした場合の相対値で示している。
【0042】
本試験例では、励起光の波長を340nmとし、また底板の直交方向に対する励起光入射方向のなす角度を30度、底板の面方向に対する蛍光検出方向のなす角度を30度(底板の直交方向に対する蛍光検出方向のなす角度を60度)とした。
【0043】
(表3)

波長(nm) 容器I 容器II 容器III 容器IV

500 513.4 535.9 517.1 432.3

505 544.4 570.8 535.8 440.2

510 542.9 543.3 562.4 441.0

【0044】
表3より明らかなように、ポリスチレン製底板を持つ容器IIを示す同図IIは、500〜510nmの波長範囲において、容器自身から発せられる蛍光が多い。
これに対し、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器Iを示す同図Iは、ガラス製底板を持つ容器IIIを示す同図III、合成石英製底板を持つ容器IVを示す同図IVと同様、容器自身の蛍光が大幅に少ない。
【0045】
前記各表よりも明らかなように、ポリスチレン製底板を持つ容器は、光学特性が若干悪いが許容範囲内であり、しかも細胞の培養性に非常に優れているので、本発明の細胞培養容器として好ましい。
またポリシクロオレフィン製底板を持つ容器は、光学特性及び細胞接着性のバランスに優れており、本発明の細胞培養容器として特に好ましい。
【0046】
厚み
また、培養部を構成する底板として、プラスチックという材質の選定だけでは、細胞の培養と観察との両立を確実に実現することができないことがあり、底板の厚み制御との組み合わせが非常に重要である。
そこで、プラスチック製底板を持つ容器の細胞の培養及び観察の良好性を検討するため、ポリシクロオレフィン製底板を持つ容器の底板の厚み(mm)の比較検討を行った。結果を下記表4に示す。
【0047】
(表4)

厚み 0.01 0.09 0.10 0.11 0.12 0.13 0.14

培養 × △ ○ ○ ○ ◎ ◎

観察 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

【0048】

厚み 0.15 0.16 0.17 0.20 1.20 1.50 1.60

培養 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

観察 ◎ ◎ ◎ ○ △ △ ×

【0049】
評価基準は、以下の通りである。
◎:培養(観察)に非常に好ましい
○:培養(観察)に好ましい
△:培養(観察)が可能
×:培養(観察)に好ましくない
【0050】
同表よりも明らかなように、細胞の培養と観察との両立のためには、培養部を構成するプラスチック製底板の厚みは、0.10mm以上、1.50mm以下が好ましく、0.13mm以上、0.17mm以下が特に好ましい。
【0051】
これらの試験結果よりも明らかなように、細胞の培養と観察との両立のためには、培養部の底板として、0.10mm以上、1.50mm以下のプラスチック製底板を持つ容器を用いることが好ましく、0.13mm以上、0.17mm以下のポリシクロオレフィン製底板を持つ容器を用いることが特に好ましい。
【0052】
変形例
本発明は各種デッシュ、各種マイクロプレート等に適用可能である。本発明は、例えば容器ないし培養部の形状として、シャーレ、試験管のような形状のものに限られるものでなく、各種形状のものに適用することができる。
本発明は、培養部の数として、一穴のものに限られるものでなく、多穴等のものにも適用することができる。
本発明は、本体と底板との形態として、別体化のものを組み立てるものに限られるものでなく、一体成形品等の各種形態のものにも適用することができる。
【0053】
<用途>
本発明の用途としては、例えば以下のものが一例として挙げられる。
(1)レーザ共焦点式高感度顕微鏡
(2)高感度蛍光顕微鏡
【0054】
<市場性>
本発明の市場性としては、例えば以下のものが一例として挙げられる。
(1)細胞・免疫機能分野、超微細機能・形態分析分野
(2)脳及び代謝系疾患研究分野、遺伝子系研究等の分野
(3)環境科学解析等の微量測定、組織観察等の分野
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態にかかる細胞培養容器の概略構成の説明図である。
【図2】本実施形態にかかる細胞培養容器を用いた場合と一般的な容器を用いた場合との細胞接着性の比較結果である。
【符号の説明】
【0056】
10 細胞培養容器
14 培養部
16 底板
20 本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の培養及び観察に用いられる培養部を備えた細胞培養容器であって、
少なくとも前記培養部を構成する底板が、細胞の培養及び観察を行うのに最適な0.10mm以上、1.50mm以下の薄さを持つ、光学的に透明なプラスチックであることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項2】
請求項1記載の細胞培養容器において、
前記培養部を構成する底板の厚みは、0.13mm以上、0.17mm以下であることを特徴とする細胞培養容器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の細胞培養容器において、
前記培養部を構成する底板の材質は、ポリシクロオレフィン、ポリスチレンよりなる群より選択されたことを特徴とする細胞培養容器。
【請求項4】
請求項3記載の細胞培養容器において、
前記培養部を構成する底板の材質は、ポリシクロオレフィンであることを特徴とする細胞培養容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−89448(P2007−89448A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281916(P2005−281916)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(597066441)株式会社 シナップス (1)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】