説明

細胞培養担体及びその利用

【課題】自由度の高い細胞培養を実現できる実用的な細胞培養担体を提供する。
【解決手段】温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる細胞培養領域と、を備える細胞培養担体。細胞接着性因子の使用を回避又は抑制して、温度応答性と細胞接着性とを備える細胞培養担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞接着性に優れる担体及びその利用を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)はその温度応答性に基づいて容易に細胞を剥離できる細胞培養基材を構成できることが知られている(特許文献1)。例えば、PNIPAAmのポリマー鎖を担体表面にグラフト重合により固定化した表面は、32℃の転移温度より低い温度で、ポリマー鎖が水分子と親和し展開することで親水性を呈し、32℃より高い温度でポリマー鎖が収縮して疎水性を呈することがわかっている。このようなグラフト状態での温度応答性に基づく水との親和性の変化を利用することで、PNIPAAm固定化表面上では、一般的な細胞培養温度(37℃)で疎水性のため細胞を接着して培養することができ、32℃より低い温度では、親水化して細胞を剥離することができる。すなわち、温度変化を利用することで、酵素処理などすることなく培養細胞を培養担体表面から容易に剥離することができる。
【0003】
一方、PNIPAAmは、キャストフィルム等の三次元形状を有する成形体として用いた場合には、PNIPAAmとコラーゲンなどの細胞接着性タンパク質を含む水溶液を塗布し乾燥してフィルム化し、フィルム表面に細胞接着性を付与することが記載されている(特許文献2)。
【0004】
同様に、PNIPAAmに細胞接着性を付与するには、PNIPAAmのモノマーとPNIPAAm類似であってより親水性の高いポリマーのモノマーとを共重合することも行われている(非特許文献1)。また、PNIPAAmモノマーとゼラチンとの共重合体も同様の目的で用いられている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−104061号公報
【特許文献2】特開平3−292882号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rochevら、J. Material Science: Materials in Medicine 2004, 15, 513-517
【非特許文献2】Morikawaら、JBiomater. Sci. Polymer Edn. 2002, 13, 167-183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術は、細胞接着性を付与した温度応答性のPNIPAAmを細胞培養担体に適用するものである。しかしながら、培養細胞層のハンドリング性、細胞への三次元形状の付与を実現する細胞培養用担体としての利用を考慮すると、これらの手法は十分とは言えなかった。すなわち、PNIPAAmを適当な基材表面にグラフトする手法では、担体へのPNIPAAmの結合量の問題があるほか、グラフト化したPNIPAAm層は一定以上の厚み(例えば、数十nm)になると細胞接着性を示さなくなる。したがって、グラフト化PNIPAAm層を用いた細胞増殖や細胞剥離はグラフト条件を高度に制御する必要があった。また、グラフト化PNIPAAm層から剥離した培養細胞層の性質も不安定であるとともに極めて脆弱であった。さらに、グラフト化PNIPAAm層厚みを自在に付与できない以上、こうしたPNIPAAm層を犠牲層(後工程で除去することを前提に形成した層を意味する。)として用いて細胞培養体に懸架状部位を有する三次元形状を付与することもできなかった。
【0008】
また、細胞接着性タンパク質などの細胞接着因子を用いる手法によれば、所定厚みを有し細胞接着性を有するPNIPAAm層を形成することはできる。しかしながら、細胞接着性因子は、コストが高いほか生体由来分子ゆえにその安定性問題があり、全く実用的ではなかった。さらに、PNIPAAmモノマーと親水性のモノマーとの共重合体にあっては、良好な細胞接着性を得ることすら容易でなく、温度応答性制御も困難であるほか、複雑な前処理(化学合成)を必要とした。
【0009】
したがって、現状において、温度応答性を維持しつつ良好な細胞接着性を備えて自由度の高い細胞培養を実現できる実用的な細胞培養担体は得られていない。
本発明は、自由度の高い細胞培養を実現できる実用的な細胞培養担体を提供及びその用途を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、温度応答性ポリマーを用いて種々検討しているなかで、偶然にもそのポリマー層を反応性ガスでプラズマ処理することで細胞接着性が発現することを初めて見出した。また、細胞接着性が発現しても温度応答性をそのまま維持できることも見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、細胞培養担体であって、温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる細胞培養領域と、を備える、担体が提供される。
【0012】
かかる細胞培養担体において、前記ポリマー層は、前記細胞の培養温度において細胞接着性を有しない層であることが好ましく、また、前記ポリマー層は、アクリルアミド系ポリマーを含有する成形体であることが好ましい。さらに、前記細胞培養領域は、細胞を配向して培養可能な凹凸形状を有することが好ましい。さらにまた、導電性基材を備え、該導電性基材上に前記ポリマー層を備えることも好ましい。また、前記反応性ガスは酸素を含むことが好ましい。さらに、前記ポリマー層の前記表層部には、前記細胞培養領域を含んで温度応答性が低下した低温度応答性層を備えることもできる。
【0013】
本発明によれば、細胞培養担体のセットであって、
以下の(a)及び(b);
(a)温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる第1の細胞培養領域と、を備える、第1の細胞培養担体、及び
(b)少なくとも前記ポリマー層が前記温度応答性に基づき溶解する温度において固相を維持可能であって、第2の細胞培養領域を備える第2の細胞培養担体、
を備え、
前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とが連続するように基材上に前記第1の細胞培養担体と前記第2の細胞培養担体とが配置されている、セットが提供される。
【0014】
かかる細胞培養担体のセットにおいて、前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とは略同一平面上にあることが好ましく、また、前記第2の細胞培養担体はシリコンを主体とすることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、細胞培養担体の製造方法であって、温度応答性を呈するポリマー層を準備する工程と、前記ポリマー層の表層部の少なくとも一部に対して反応性ガスでプラズマ処理を行って細胞培養領域を形成する工程と、を備える、製造方法が提供される。かかる製造方法において、前記ポリマー層準備工程は、前記成形体を剥離可能な非親和性表面において前記成形体を作製する工程としてもよいし、前記ポリマー層準備工程は、前記成形体の前記非親和性表面との接触側に細胞を配向して培養可能な凹凸形状を付与することを含む工程であってもよい。
【0016】
また、本発明の細胞培養担体の製造方法において、前記細胞培養領域形成工程は、前記表層部に細胞接着性を有し温度応答性が低下した層を形成する程度にプラズマ処理を行う工程としてもよい。この態様において、前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程、を備えることもできる。
【0017】
本発明によれば、細胞培養担体セットの製造方法であって、
前記セットは、以下の(a)及び(b);
(a)温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる第1の細胞培養領域と、を備える第1の細胞培養担体、及び
(b)少なくとも前記ポリマー層が前記温度応答性に基づき溶解する温度において固相を維持可能であって、第2の細胞培養領域を備える第2の細胞培養担体、
を備えており、
前記第2の細胞培養担体を基材上に準備し、次いで、前記第2の細胞培養担体の周囲及びその表面に前記ポリマー層と同一組成のポリマー層前駆体を形成し、前記プラズマ処理により前記ポリマー層前駆体をアブレーションして前記第2の細胞培養領域と連続するように前記第1の細胞培養領域を形成するとともに前記第1の細胞培養担体を形成する工程、
を備える、製造方法が提供される。
【0018】
かかる製造方法にあっては、前記第2の細胞培養領域が露出されるまで前記ポリマー層前駆体をプラズマ処理するようにしてもよいし、前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とは略同一平面上となるようにすることが好ましい。また、前記基材は導電性基材であることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、本発明の細胞培養担体の前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層を有する1又は2以上の培養細胞ユニットを準備する工程と、前記培養細胞ユニットの前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程と、を備える、細胞構造体の製造方法が提供される。
【0020】
かかる製造方法においては、前記溶解工程に先立って、前記1又は2以上のユニットを重層する工程を、備えていてもよい。また、前記溶解工程は、2以上の前記培養細胞ユニットが備える2以上の前記ポリマー層を同時に溶解する工程であってもよい。
【0021】
本発明によれば、細胞構造体の製造方法であって、本発明の細胞培養担体のセットの連続する前記第1の細胞培養領域及び前記第2の細胞培養領域にわたって培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層を有する1又は2以上の培養細胞ユニットを準備する工程と、前記培養細胞ユニットの前記第1の培養細胞担体の前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程と、を備える、製造方法が提供される。
【0022】
本発明によれば、本発明の細胞培養担体と、前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層と、を備える、培養細胞ユニットが提供される。また、本発明の細胞培養担体と前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層とを備える2以上の培養細胞ユニットを重層して得られる積層体も提供される。さらに、本発明の細胞培養担体のセットと、連続する前記第1の細胞培養領域及び前記第2の細胞培養領域にわたって培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層と、を備える、培養細胞ユニットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の細胞培養担体の一例を示す図である。
【図2】本発明の細胞培養担体の製造工程の一例を示す図である。
【図3】本発明の細胞培養担体を利用形態の他の一例を示す図である。
【図4】本発明の細胞培養担体の利用形態の他の一例を示す図である。
【図5】本発明の細胞培養担体の利用形態の他の一例を示す図である。
【図6】本発明の細胞培養担体のセットの製造工程の一例を示す図である。
【図7】本発明の細胞培養担体を用いた細胞培養構造体の製造工程の一例を示す図である。
【図8】ポリマー層のプラズマ処理前後の水の接触角を比較するグラフ図である。
【図9】ポリマー層のプラズマ処理前後の有機官能基の分布状態を示すスペクトル図である。
【図10】細胞接着性の定量的評価結果を示す図である。図10(a)は、出力との関係を示し、図10(b)は、処理時間との関係を示す。
【図11】分子量が異なるPNIPAAm層に対するプラズマ処理による細胞接着性の評価結果を示す図である。
【図12】プラズマ処理によって形成される膜状体を示す図である。
【図13】膜状体のSEM観察結果を示す図である。
【図14】細胞パターニング結果を示す図である。
【図15】細胞の配向結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、細胞培養担体に関する。本発明の細胞培養担体は、温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる細胞培養領域と、を備えることができる。本発明によれば、ポリマー層に対して反応性ガスでプラズマ処理をすることにより、ポリマー層の表層に細胞接着性を付与でき、細胞培養領域を形成できる。また、ポリマー層は温度応答性を有していることから、相転移温度に相当する温度条件を付与することにより、親水化して水性媒体に溶解して細胞培養領域としての機能を喪失させ、培養細胞層を剥離することができる。したがって、本発明の細胞培養担体によれば、細胞接着因子などの生体由来分子の使用が回避又は抑制された温度応答性と細胞培養領域を備える細胞培養担体が提供できる。
【0025】
ポリマー層を温度応答性ポリマーを含有する成形体とすることで、ポリマー層を結合させる基材の使用を排除でき、細胞培養領域で培養して得られた培養細胞層を剥離することなくそのままハンドリング可能な培養細胞ユニットを形成可能な細胞培養担体が提供される。
【0026】
また、ポリマー層を成形体とすることで細胞培養担体に所望の形状や大きさを付与できる上、プラズマ処理により細胞培養領域をその表層に選択的に形成できる。このため、例えば、所定の厚みのあるポリマー層を用いて細胞を培養し、その後、温度応答性を利用してポリマー層を溶解除去できるため、懸架状部位を有する細胞構造体を得るための犠牲層として利用できる。
【0027】
さらに、本発明は、細胞培養担体の製造方法に関する。本発明の細胞培養担体の製造方法によれば、細胞培養領域をプラズマ処理により容易に付与できる。ポリマー層として成形体を用いるときには、ハンドリング性に優れた担体を作製できるとともに、犠牲層として機能する部分を有する担体も容易に製造することができる。
【0028】
本発明は、さらに、細胞培養担体の利用に関し、具体的には、培養細胞複合体、細胞構造体の製造方法等に関する。これらの発明は、培養細胞のハンドリング性に優れる複合体を提供できる。また、細胞構造体の製造方法によれば、自由度の高い細胞培養を実現できるため、所望の細胞構造体を簡易に作製できる。
【0029】
以下、本発明の各種実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。本発明の各種実施形態に関し、詳細に説明する。図1は、本発明の細胞培養担体の一例を示す図であり、図2は、その製造工程の一例を示す図である。なお、これらの図面は、各種実施形態の説明のための一例を示すものであって本発明を限定するものではない。
【0030】
(細胞培養担体)
本発明の細胞培養担体は、接着性の細胞を培養して培養細胞の構造体を構築するのに有用である。本発明の細胞培養担体10で培養する細胞としては、接着性の細胞であれば特に限定されないが、好ましくはヒトあるいは非ヒト動物に由来する細胞が挙げられる。接着性の細胞としては、例えば、線維芽細胞、筋芽細胞、筋管細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、真皮細胞、表皮細胞、粘膜上皮細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞、骨芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、毛根細胞、歯髄幹細胞、ベータ細胞、肝細胞等が挙げられる。なお、本発明において細胞とは、個々の細胞を意味するほか、生体から採取されて組織を構成している状態の細胞を含んでいる。
【0031】
こうした細胞は、ヒトなどにおける再生医療等における利用を考慮したとき、自家細胞を用いることが好ましいが、許容される免疫適合性を備える限り異種動物由来の細胞であってもよいし、同種細胞における他家細胞であってもよいし、自家細胞であってもよい。
【0032】
(ポリマー層)
本発明の細胞培養担体10は、温度応答性を呈するポリマー層20を備えている。ポリマー層20は、少なくとも温度応答性ポリマーを含有している。本発明において用いることのできる温度応答性ポリマーは、細胞培養温度下(通常、37℃程度)において疎水性を示し、培養した細胞シートの回収時の温度下において親水性を示すものである。剥離時の細胞へのストレスを考慮すると、下限臨界溶解温度(T)を有する温度応答性ポリマーであることが好ましい。また、下限臨界温度は、温度応答性ポリマーが当該温度未満で親水性を示し、当該温度以上で疎水性を示す相転移温度である。下限臨界溶解温度(T)が0℃以上80℃以下であることが好ましく、より好ましくは、20℃以上50℃以下であり、さらに好ましくは25℃以上35℃以下である。
【0033】
かかる温度応答性ポリマーとしては、特に限定しないで公知のホモポリマー又はコポリマーを問わず各種温度応答性ポリマーを用いることができる。また、これらは、温度応答性ポリマーの性質が損なわれない範囲で適宜架橋されていてもよい。こうした温度応答性ポリマーとしては、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)、ポリ−N,N’−ジエチルアクリルアミドなどの各種のポリアクリルアミド誘導体が挙げられる。より具体的には、ポリ−N−イソ,プロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等のアクリルアミド系ポリマーが挙げられる。その他のポリマーとしては、例えばポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体や、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体や、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体が挙げられる。これらのポリマーは、例えばモノマーの単独重合体がT=0〜80℃を有するようなモノマーの単独若しくは共重合により調製される。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。また、適宜、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフトまたはブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとのポリマーブレンドを用いてもよい。
【0034】
温度応答性ポリマーは、下限臨界温度等の観点からポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)、ポリ−N,N’−ジエチルアクリルアミドなどを好ましく用いることができる。
【0035】
ポリマー層20は、培養しようとする細胞の培養温度で当該細胞が接着性を有しない層であることが好ましい。本発明は、このようなポリマー層20に対して細胞接着性を簡易に付与して細胞培養領域を形成することができる点において有利である。このような表面特性は、例えば、培養しようとする細胞を一定範囲の細胞密度となるように接種して通常条件で培養して観察することができる。また、水の接触角を測定するなどして評価することができる。水の接触角の場合、40度以上のときは、上記疎水性を有しているといえる。なお、接触角は、θ/2法によって測定することができる。θ/2法による場合、50℃の純水5μlを50℃に保ったポリマー層の表面に滴下後、1分後に測定することが好ましい。
【0036】
ポリマー層20は、温度応答性ポリマーの成形体であってもよい。ポリマー層20が、成形体であると所望の三次元形状を備えることができ、必要に応じた形状や大きさを容易に付与することができる。また、適当なマスクを利用するなどして成形体の所望の表面に細胞培養領域を選択的に形成することもできる。温度応答性ポリマーの成形体の大きさ、形状等は特に限定されず、細胞の培養に必要な形態やサイズが適宜決定される。典型的には、シート状体、柱状体、筒状体等各種の三次元形状が挙げられる。また、形状付与にあたり、ポリマー溶液の乾燥・硬化によってもよいし、重合可能なモノマーやプレポリマー等の重合性成分を含んだ組成物の重合を伴う硬化に溶液の重合を伴っていてもよい。さらに、熱や放射線照射等による架橋を伴っていてもよい。
【0037】
細胞培養担体10を培養細胞のハンドリングに用いる場合、成形体は、ハンドリングするのに十分な強度や剛性を備えていることが好ましい。より好ましくは、成形体は、自立型の成形体である。本明細書において、自立型の成形体とは、別途支持体を伴わなくても取り扱い可能な独立した成形体を意味している。このような自立型の成形体を用いることにより、ポリマー層20を培養細胞層との分離層として用いるのでなく、培養細胞層を支持して取り扱い可能なハンドリング用として用いることができるようになる。
【0038】
成形体2はそれ自体の自立性、ハンドリング性や重層性を考慮すると、その厚みは1μm以上1mm以下であることが好ましい。1μm未満であると、自立性を維持しにくくハンドリング性も低下しすぎてしまうし、1mmを超えると適用部位への追従性、配置容易性や重層容易性等が低下しすぎるからである。より好ましくは、10μm以上150μm以下である。
【0039】
成形体は、シート状とすることが有利な場合がある。後述するように、複合体を、ポリマー層20を介して2つの培養細胞層40が重層された複層構造とするには、重層に適しているという観点から、成形体をシート状体とすることが好ましい。また、例えば、成形体を、可撓性を有するシート状体としたとき、当該担体10から得られた培養細胞−担体積層体140は、適宜変形させることが可能となり、湾曲又は屈曲された三次元形状の積層体140を得ることができる。
【0040】
成形体を、懸架状部位を有する細胞構造体などを製造するための犠牲層として用いる場合、少なくともその厚みが20nm以上であることが好ましい。より好ましくは100nm以上であり、さらに好ましくは1000nm以上である。
【0041】
なお、ポリマー層20は、適当な基材表面に温度応答性ポリマーをグラフト化させて得られるものであってもよい。ポリマー層20として温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化(共有結合による固定化)したものは、温度応答性ポリマー鎖が基材表面に共有結合で結合した状態であれば、どのような経過で当該状態にいたった態様は問わない。このようなグラフト化は、基材表面において、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマーの存在下、通常、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等による放射線を照射する放射線重合により実施される。このようなポリマー層20は、厚みが数十nmを超えると細胞接着性が低下することが知られている。このようなグラフト化によるポリマー層20であっても、プラズマ処理により細胞接着性が復元する。
【0042】
ポリマー層20は、上述のように温度応答性ポリマーあるいはそのモノマー以外のポリマーやモノマーを含んでいてもよい。また、本発明におけるポリマー層20において、細胞接着性タンパク質を含む細胞外マトリックス(ECM)成分を含有することを排除するものではない。本発明によれば後述するプラズマ処理により十分な細胞接着性が確保されることがわかっているが、このような成分を含むことが接着性を含めて培養細胞の増殖促進や剥離後の構造体の構造強化や細胞配向性の維持などに有用な場合もある。なお、本明細書においてECM成分としては、ECMに存在する分子のほか細胞接着性タンパク質(ペプチド)も含めるものとする。
【0043】
こうしたECM成分としては、特に限定しないで公知の各種成分を用いることができる。例えば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸等)、フィブロネクチン、ラミニン、ヒドロネクチン、ゼラチン等が挙げられる。また、例えば、RGDペプチド、RGDSペプチド、GRGDペプチド、GRGDSペプチドが挙げられる。
【0044】
(細胞接着領域)
本発明の細胞培養担体10は、ポリマー層20の表層部の少なくとも一部に細胞培養領域40を備えている。細胞培養領域40は、ポリマー層20の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理することによって得られる領域である。反応性ガスを用いたプラズマ処理により、ポリマー層20の表層においてなんらかの現象が生じて当該処理領域が親水化され、細胞培養が可能な程度の細胞接着性が発揮するものと考えられる。細胞培養領域40における水の接触角としては、30度以下、より好ましくは20度以下、さらに好ましくは10度以下である。
【0045】
ポリマー層20の表層部には、細胞培養領域40を含んで温度応答性が低下した低温度応答性層を備えることができる。この低温度応答性層は、プラズマ処理により形成されるものである。低温度応答性層は、プラズマ処理した領域に対応した範囲に厚みをもって形成される。低温度応答性層は、プラズマ処理された表面において細胞接着性を有しているとともに、後述するように膜としてポリマー層20から分離したときには、プラズマ処理された表面と反対側の表面にも細胞接着性を有している。
【0046】
低温度応答性層は、当該層よりも下層(内側)のポリマー層20よりも温度応答性が低下している。このため、低温度応答性層の形成後、ポリマー層20の相転移温度に相当する温度条件が付与されない間は、ポリマー層20とおおよそ一体となってポリマー層20の表層部の少なくとも一部を形成する。一方、ポリマー層20の相転移温度に相当する温度条件を付与したときには、温度応答性が低下しているために、溶解せずに膜として残存させて、細胞接着性膜として取得することもできる。ポリマー層20における低温度応答性層は、ポリマー層20の表層部に対するプラズマ照射によるポリマー層20のポリマー成分やポリマー中の官能基がプラズマ重合した結果、もとのポリマー層20と異なる組成等となっているものと推察される。少なくとも、O−C=O、C−O−C=O、C−O−C等の酸素含有官能基の含有量が増大していることが観察されている。これらの官能基は親水性の向上に寄与していると考えられる。また、C−O−C=O、C−O−Cは、ポリマー層20の重合度に寄与すると考えられる。
【0047】
低温度応答性層は、ポリマー層20が溶解する温度条件で細胞接着性膜として分離される。細胞接着性を有しかつ薄膜として分離できる限り、その厚みや強度は特に限定しないが、例えば、薄膜として分離後の厚み(乾燥後)1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは700nm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
【0048】
プラズマ処理に用いる反応性ガスが含むガス種としては、酸素(O2)及び窒素(N2)が挙げられる。好ましくは酸素である。プラズマ処理は、好ましくは導電性基材上に載置したポリマー層20に対して実施する。こうすることで、より弱い出力及び/又はより短時間のプラズマ処理で、ポリマー層20の表層に細胞接着性を付与できる。例えば、導電性基材としては、Si、InAs、PbS、PbSeなど半導体基材であることが好ましい。
【0049】
また、プラズマ処理に際して、ポリマー層のサイズが大きいと、プラズマ処理の効率が低下する傾向がある。これはポリマー層が絶縁性であるためと考えられる。このため、ポリマー層のサイズをプラズマ処理効果の低下を抑制できる程度に小さくすることが好ましい。ポリマー層を支持する低導電性又は絶縁性基板を用いる場合には、こうした基板のサイズも同様に小さくすることが好ましい。ポリマー層又は基板面積は、好ましくは、30ミリ×30ミリ(900mm2)以下程度であり、より好ましくは10ミリ×10ミリ(100mm2)以下である。
【0050】
また、反応性ガスの流量ほか、プラズマ処理における出力条件や時間は特に限定しないで、処理対象とするポリマー層20のポリマー等の種類、培養しようとする細胞の接着性等に応じ適宜決定される。なお、出力の増大、酸素流量の低下、処理時間の延長、基板サイズの減少、基板が導電性を有することが、細胞接着性の付与に関連すると考えられる。また、導電性基板や半導体基板上に細胞培養担体100を備えることで、こうした基板上で作製・加工される他のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)要素と組み合わせて細胞を利用したマイクロデバイスが提供される。
【0051】
細胞培養領域40は、プラズマ処理する領域を適宜選択することでポリマー層20における形成領域が適宜選択される。プラズマ処理領域を選択するには、プラズマ処理をスキャニングして行うかあるいはフォトリソフグラフィーにおいて常用されるマスクなどを用いることができる。
【0052】
ポリマー層20の細胞培養領域40には、細胞を配向して培養可能な凹凸形状を備えることができる。かかる凹凸形状を備えることで、培養細胞層の細胞を機能的に配向させることができる。培養細胞に付与したい配向性や配列に応じて適宜設定できる。なお、本明細書において、「細胞を配向する」とは、細胞に所望の向きを付与することであるが、さらに所望の細胞の配列状態を付与するものも含めた意味としても用いる場合がある。凹凸形状は、細胞培養領域40のおおよそ全体に存在することが好ましいが、その一部であってもよい。また、細胞培養領域40の外側まで及んでいてもよい。
【0053】
例えば、培養細胞に所望の向きを付与したい場合には、当該向きに沿った凹状部(長さは短くてよい)等を備えることができる。さらに一定の配列状態を付与したい場合、例えば、所望の向きで全体として直線状に配列させたい場合には、所望の向きで細胞培養領域40の全体を横断するような直線状の凹状部等を備えていてもよい。
【0054】
かかる凹凸形状は、細胞培養領域40をプラズマ処理と同時に形成することもできるし、プラズマ処理に先立ってポリマー層20に付与しておいてもよい。このような凹凸形状は、半導体における各種エッチング技術やMEMSによって成形体に付与することもできるし、このような技術によって形成された型を用いて成形体により成形体に付与することもできる。このような手法によって得られる凹凸形状は、規則性が高い点において好ましい。こうした手法によって得られる凹状部の好ましい形態としては、その短手方向の幅が5μm以上100μm以下の長溝が挙げられる。前記幅が5μm未満であると、細胞が配向されないし配列もされない。また、100μmを超えると凹部の長軸方向に細胞が配向しにくいからである。より好ましくは5μm以上50μm以下である。
【0055】
他の凹凸形状として、金属表面を一方向に研削して得られる擦過傷状の表面形状を利用したものであってもよい。こうした凹凸形状は、それ自体MEMS技術等によるよりも規則性が低いが良好な細胞配向性を発揮する。金属研削表面形状を凹凸状部としての利用形態としては、金属研削表面形状に一致した表面形状を凹凸形状として利用する形態が挙げられる。また、金属研削表面形状を反転した表面形状を凹凸形状として利用する形態が挙げられる。金属研削表面形状を反転した凹凸形状は、金属研削表面形状と同一の凹凸形状よりも、細胞を効果的に配向しやすい傾向がある。このような凹凸形状を形成する方法は、後段にて詳述する。
【0056】
こうした金属研削表面を利用した凹凸形状形成領域の表面粗さ(Rz)は、平均して2μm以上であることが好ましい。2μm未満であると、細胞を配向させることが困難になる。また、上限は、20μm以下であることが好ましく、より好ましくは、15μm以下である。なお、表面粗さ(Rz)は、十点平均高さとして定義されるパラメーターである。基準長さは、表面粗さに応じて適宜設定される。好ましくは、2点以上の複数点の平均値として得るようにする。
【0057】
培養細胞が、心筋細胞、筋芽細胞、筋管細胞、平滑筋細胞等、細胞の配向性や配列状態が細胞の分化や機能の発現に関与する細胞については、かかる凹凸形状を備える細胞培養領域40とすることが好ましい。
【0058】
以上説明した本発明の細胞培養担体10は、細胞を培養するための細胞培養担体として利用できる。ポリマー層20が成形体等であってハンドリング可能である場合、細胞培養担体10によれば、図3に示すように、細胞培養担体10と、細胞培養領域40の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層60とを備える、培養細胞ユニット120のまま、培養細胞層60をハンドリングできるため、剥離操作を回避して培養細胞層60の操作・搬送・積層・移植等を簡易に行うことができる。このため、培養細胞層60の剥離やハンドリングに伴う変形、収縮、配向性の低下を抑制又は回避できるとともに、剥離に伴う面倒な作業を回避することができる。
【0059】
また、図4に示すように、細胞培養担体100は、細胞の積層造形用に用いることができる。すなわち、本発明の細胞培養担体10のポリマー層20自体がハンドリング性を備えて培養細胞層60を培養細胞ユニット120としてハンドリングできるため、培養細胞層60の重層操作が容易になる。なお、こうした培養細胞ユニット120の重層後は、ポリマー層20を溶解除去できるため、培養細胞層60を積層した細胞構造体100を容易に得ることができる。
【0060】
さらに、細胞培養担体10は、梁(桁)や膜など、少なくとも一部に支持されてない懸架状の培養細胞層60を備える細胞構造体100を作製できるように構成することもできる。すなわち、図5に示すように、ポリマー層20を犠牲層として用いることができる。すなわち、第1の細胞培養担体10と、少なくとも第1の細胞培養担体10のポリマー層20がその温度応答性に基づき溶解する温度において固相を維持可能であって、第2の細胞培養領域42を備える第2の細胞培養担体80を備え、第1の細胞培養領域40と第2の細胞培養領域42とが連続するように基材上に前記第1の細胞培養担体と前記第2の細胞培養担体とが配置されている、セットの形態を採ることもできる。この形態においては、第1の細胞培養領域40は、懸架状部位(非支持部位)となる培養細胞層60を培養し、第2の細胞培養領域42は、支持部位となる培養細胞層62を培養するようになっている。これらのセットを用いて、それぞれの細胞培養領域40、42にわたって細胞を培養して培養細胞が相互に結合し連続する培養細胞層60,62を形成し、その後、第1の細胞培養担体10のポリマー層20を溶解除去することで、懸架状部位としての培養細胞層60と支持部位としての培養細胞層62を備える細胞構造体100を得ることができる。このセットにおいては、第1の細胞培養領域40と第2の細胞培養領域42とは略同一平面上にあると、基材に略平行な懸架状部位を作製できる。
【0061】
さらにまた、第1の細胞培養担体10の表面に培養細胞の配向性制御のために凹凸を付与することで配向が制御された培養細胞層60aを梁状の懸架状部位として有することができる。かかる細胞構造体100は、培養細胞又は細胞構造体100の力学的性質等を評価したり、細胞構造体100をマイクロデバイスとして利用するのに都合がよい。
【0062】
細胞培養担体セットは、導電性基材、好ましくは半導体基材上に備えることが好ましい。半導体基板上に備えることで第1の細胞培養担体10の細胞培養領域40を容易に形成できるとともに、細胞構造体100を懸架素子として評価し、マイクロデバイスとして利用するのに都合がよい。第2の細胞培養担体80は、細胞培養担体10のポリマー層20の溶解時において少なくとも固相を維持でき培養細胞層62を支持できるものであればよいが、細胞接着性や加工性等を考慮すると、好ましくは、Si、InAs、PbS、PbSe等を用いる。なお、図5においては、支持部位を2箇所とし第2の細胞培養担体80も2個設けたが、これに限定するものではない。MEMSにおいて通常用いられる手法を適用して各種形態で懸架状部位を有する細胞構造体100を構築することができる。
【0063】
なお、これらの細胞培養担体及び細胞培養担体のセットの構成要素であるポリマー層20は、いずれも低温度応答性層を有するものであってもよい。
【0064】
本発明によれば、ポリマー層20の表層部に形成した低温度応答性層を、ポリマー層20に相転移温度条件を付与することで細胞接着性膜として分離できる。細胞接着性膜は、上記のとおり、ポリマー層20に由来するが、プラズマ処理により酸素含有官能基量の増大、細胞接着性の発現、温度応答性の低下ないし消失という特性を備えている。こうした細胞接着性膜それ自体は、ポリマー層20の表面に露出されていた表面(プラズマ照射側)及びその反対側の表面の双方に細胞接着性を有する細胞培養担体として利用されうる。細胞接着性膜は、各種形態での利用が可能である。例えば、細胞培養容器等の細胞を培養したい任意の箇所に適用することで簡易に(例えば、プラズマ照射装置がなくても)細胞培養領域を形成することができる。また、細胞接着性を利用して、既に形成した細胞培養層に積層するとともにさらにその露出された表面で細胞を培養することができる。また、二つの細胞培養層の間に介在させてこれらを積層接着するのに用いることができる。
【0065】
(細胞培養担体の製造方法)
本発明の培養細胞担体の製造方法は、温度応答性を呈するポリマー層を準備する工程と、前記ポリマー層の表層部の少なくとも一部に対して反応性ガスでプラズマ処理を行って細胞培養領域を形成する工程と、を備えることができる。以下、図1に例示の細胞培養担体10を製造するのに好適な製造工程の一例である図2を適宜参照しながら説明する。
【0066】
(ポリマー層の準備工程)
ポリマー層は、適宜調製してもよいが、商業的に入手したものであってもよい。ポリマー層20の準備工程は、ポリマー層20の形態によって異なる。ポリマー層20が適当な基材上に温度応答性ポリマーをグラフトしたものである場合には、グラフト化のためのポリマー、モノマー、プレポリマー等の存在下、放射線重合により基材表面にポリマー鎖をグラフトする。
【0067】
また、ポリマー層20を成形体として準備するときには、適当なポリマー組成物を準備した上、乾燥して成形体を得るのが好ましい。成形のためのポリマー組成物は、適当な溶媒に温度応答性ポリマーを溶解して調製できる。典型的には水、水と相溶するアルコールなどの有機溶媒、水とこうした有機溶媒との混液等が挙げられる。なお、通常、ポリマー組成物の調製は、ポリマー組成物に含める温度応答性ポリマーが使用する溶媒に溶解する温度域で行うようにする。
【0068】
ポリマー組成物を成形して成形体2とする成形方法は特に限定されないで、成形体2について得ようとする三次元形状や大きさ等を考慮して公知の樹脂成形法から適宜選択して用いることができる。例えば、キャスト法、バーコート法、ギャップコート法等を公知の各種方法を採用できる。
【0069】
成形体2を容易に得るには、図2に示すように、ポリマー組成物の硬化物を剥離可能な非親和性表面200に、ポリマー組成物を供給して前記ポリマー組成物を硬化させることが好ましい。こうすることで薄膜状のポリマー層20であっても容易に得ることができる。このような非親和性表面200は、キャビティを有する成形型の成形面であってもよいし、図2に例示するような平板上の表面であってもよい。また、非親和性表面200を構成する材料は、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有ポリマー等を適宜用いることができる。
【0070】
ポリマー組成物を硬化してポリマー層20とするには、温度応答性ポリマーの硬化に適用される公知の各種方法を利用できるが、例えば、温度応答性ポリマーがその溶媒に溶解する条件下で乾燥して溶媒を蒸発させることによってもよい。なお、細胞培養担体10を培養細胞層60のハンドリングや積層造形に用いる場合には、ポリマー層20をハンドリング可能な強度を有するように準備するようにする。
【0071】
次に、ポリマー層20の細胞培養領域40に細胞を配向させて培養するための凹凸形状の形成方法について説明する。かかる凹凸形状については、既に説明した各種実施態様がそのまま適用され、既に説明したように各種方法が利用可能である。凹凸形状は、ポリマー層20を形成する際、非親和性表面200との接触側に凹凸形状を付与することが好ましい。すなわち、凹凸形状を成形するための表面形状を有する非親和性表面にポリマー組成物を供給して硬化させることが好ましい。より好ましくは、既に説明した金属研削表面形状を利用して形成する。金属研削表面形状を利用することで、エッチング技術やMEMSのための大規模な装置を必要とせずに、簡易に凹凸形状を付与できるとともに、大面積にも凹凸形状を容易に付与できる。また、金属研削表面形状に一致あるいは反転した凹凸形状を有する非親和性表面200を準備することで、細胞配向に効果的な凹凸形状をポリマー層20に効率的に付与できる。
【0072】
なお、こうした非親和性表面200を準備するのに用いられる金属は、特に限定しないで、研削に用いる研削材よりやわらかい金属をもちいればよい。例えば、鉄やアルミ等を用いることができる。また、研削する研削材も公知の研削材から適宜選択して用いることができるが、金属ヤスリやいわゆるサンドペーパーから好ましい番手を適宜選択して用いることができる。また、研削する手法は特に限定しないが、研削方向及び研削時の荷重を調節できるものであることが好ましい。
【0073】
なお、かかる凹凸形状は、得ようとする培養細胞層60や細胞構造体100における細胞に付与したい配向性に応じて形成される。ほぼ一方向に配向しかつ直線状に配列には、一方向に研削すればよいし、その他、構築しようとする細胞構造体100等に応じて研削すればよい。
【0074】
(細胞培養領域の形成)
こうして得られたポリマー層20に対して、反応性ガスによるプラズマ処理を行い、細胞培養領域40を形成する。プラズマ処理により、ポリマー層20の表層を親水化することで、ポリマー層20に細胞接着性を付与できるものと考えられる。プラズマ処理条件は、プラズマ処理に用いる反応性ガスや処理条件等については既に説明した態様で適宜実施することができる。例えば、ポリマー層20における水の接触角の評価や適当な細胞を用いた細胞接着性の評価に基づき設定することができる。例えば、既に説明したように、ポリマー層20における水の接触角が30度以下、より好ましくは20度以下、さらに好ましくは10度以下となるようにプラズマ処理することできる。また、XPS等による酸素含有官能基の量を指標としてもよい。
【0075】
プラズマ処理によってポリマー層20を適度な親水化して細胞接着性を付与することができるが、少なくとも細胞接着性を付与する範囲において細胞剥離のための温度応答性が維持されることがわかっている。温度応答性ポリマーのポリマー鎖における官能基の組成は温度応答性に大きく関与すると考えられるが、プラズマ処理は、本来有する温度応答性を実質的に阻害することなく、細胞が培養可能な程度に親水化できることは本願出願前には全く知られていなかった。なお、低温度応答性層が形成されている場合には、当該層よりも下層側では、温度応答性は維持されており、培養細胞層(低温度応答性層に由来する薄膜を含む)の剥離性は実質的に確保されているといえる。
【0076】
酸素等の反応性ガスを用いたプラズマ処理では、ポリマー層20をアブレーションして切削加工が可能である。すなわち、ポリマー層20の形状加工も同時に実施可能である。例えば、ポリマー層20に凹状部を形成するとともにその底部を細胞培養領域40とすることができる。細胞培養領域40をポリマー層20の凹状部内に形成することで、細胞培養領域40を容易に周囲と区画でき、形状の整った培養細胞層60を容易に得ることができるようになる。したがって、細胞構造体100の形状やサイズあるいは位置制御するのにあたり、ポリマー層20に対してポリマー層20の切削を伴うプラズマ処理で細胞培養領域40を形成することは有利である。なかでも、細胞培養担体10を犠牲層として用いてマイクロデバイス等としての細胞構造体100を得る場合には、極めて有利である。
【0077】
また、プラズマ処理、特に酸素を用いたプラズマ処理では、ポリマー層20をガラスなどの絶縁性基材表面に接触させた状態で行ってもよいが、導電性基材、好ましくはSiなどの半導体基材の表面に接触させた状態で実施することが好ましい。こうすることで低い出力及び/又は短時間の処理で細胞接着性を付与できる。また、プラズマ処理は、ポリマー層20を形成した非親和性表面200で実施してもよい。
【0078】
低温度応答性層を形成する条件は特に限定されないが、PNIPAAmのポリマー層20に対して例えば、プラズマ処理装置(ヤマトマテリアル製、PiPi)を用いて出力30W以上で、酸素ガス流量2ml/分以上20ml/分以下、5分以上30分以下のプラズマ処理等により行うことができる。低温度応答性層形成のための条件は、プラズマ処理後にポリマー層20の相転移温度条件を付与することで薄膜として分離できるかどうか等により確認することができる。
【0079】
また、細胞培養担体10を、懸架状部位を有する細胞構造体100を作製するのに用いる場合は、懸架状部位のための細胞培養担体のセットを作製するには、各種態様があるが、例えば、第2の細胞培養担体80を基材上に準備し、次いで、第2の細胞培養担体の周囲及びその表面に前記ポリマー層と同一組成のポリマー層前駆体を形成し、プラズマ処理によりこのポリマー層前駆体をアブレーションして第2の細胞培養領域42と連続するように第1の細胞培養領域40を形成するようにすることができる。すなわち、図6に示すように、予め、Si等で基板上にMEMS技術を用いて第2の細胞培養担体80を作製しておき、その後、この基板上の第2の細胞培養担体80の周囲及び表面にポリマー組成物を供給し、硬化してポリマー層20の前駆体22を形成しておく。その後、プラズマ処理によりポリマー層前駆体22をアブレーションして第2の細胞培養領域と連続させるようにして第1の細胞培養領域40を形成することができる。第1の細胞培養領域40の形成と同時にポリマー層20を備える第1の細胞培養担体10が形成されることになる。前駆体22のプラズマ処理は、少なくとも、前駆体の下にある第2の細胞培養担体80の第2の細胞培養領域42が露出されるまで継続する。この結果、プラズマ処理によって形成された第1の細胞培養領域40と露出された第2の細胞培養領域42とは容易に連続状となり、また、容易に両者を略同一平面上とすることができる。なお、第2の細胞培養領域42は、第2の細胞培養担体80が本来的に備えるものであることが好ましい。第2の細胞培養担体80がSi等であってポリマー層20と同様にアブレーションされる場合には、第2の細胞培養担体80の細胞培養領域42が露出されてもさらにプラズマ処理をしても、細胞培養領域42として機能することができる。かかるセットの作製は、プラズマ処理効率や第2の細胞培養担体80の作製等を考慮すると、導電性基材、より好ましくは半導体基材上で行う。
【0080】
以上説明した本発明の細胞培養担体の製造方法によれば、プラズマ処理を用いることで温度応答性と細胞接着性との双方を備える細胞培養領域40を備える細胞培養担体10を簡易に製造することができる。したがって、細胞接着性付与のための高価で不安定な生体由来分子を用いることなく低コストかつ簡易に優れた細胞培養担体10を提供できる。プラズマ処理を用いることでポリマー層20の形状加工と細胞培養領域40の形成とを同時に実現できる点においても有利である。
【0081】
なお、細胞培養担体の製造方法において、細胞培養担体10の構成要素であるポリマー層20は、いずれも低温度応答性層を有するものであってもよい。
【0082】
本発明によれば、ポリマー層20の表層部に対するプラズマ処理により、細胞接着領域40を有する低温度応答性層を形成する工程と、ポリマー層20に対して相転移温度条件を付与することにより低温度応答性層に対応する細胞接着性膜を得る工程と、を備える細胞接着性膜の製造方法も一実施態様に含まれる。この方法によれば、細胞接着性を両面に備える細胞接着性膜を容易に製造することができる。
【0083】
(細胞構造体の製造方法)
本発明の細胞構造体の製造方法は、細胞培養担体10の細胞培養領域40の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層60を有する1又は2以上の培養細胞ユニット120を準備する工程と、培養細胞ユニット120のポリマー層20をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程とを備えている。本発明の細胞構造体の製造方法によれば、細胞培養層60が形成された細胞培養担体10のポリマー層20をその温度応答性を利用し溶解し除去することで培養細胞層60を取得できる。また、培養細胞層60を、生着部位や他の培養細胞層に生物学的に結合させて細胞構造体100を得ることができる。細胞培養担体10は、プラズマ処理により細胞培養領域40を簡易に形成できることから、様々な形状の細胞構造体100の製造工程を簡略化することができる。
【0084】
図7に示すように、培養細胞ユニット(以下、単にユニットという。)の準備工程は、細胞培養担体10の細胞培養領域40で細胞を培養し、培養細胞層60を形成する。典型的には、細胞培養担体10を、液体培地等を貯留可能な培養装置内に配置して、培地の存在下、細胞あるいは組織片を細胞培養領域40に供給して培養する。細胞培養領域40は細胞接着性を有するため、細胞は当該領域40に接着して増殖することができる。培養条件は、用いる細胞の種類等に応じて当業者であれば適宜設定することができる。細胞培養担体10のポリマー層20に用いられる温度応答性ポリマーの下限臨界温度に基づき、ポリマー層20が溶解しない温度を培養条件として設定する。こうした培養工程により、細胞培養領域40と細胞培養担体10とからなるユニット120が得られる。
【0085】
なお、ユニット120を容易にハンドリングするには、ポリマー層20が一定以上の強度を備えることが好ましいほか、細胞培養担体10をポリマー層20に対して非親和性である表面(ポリマー層20の成形時に用いた非親和性表面200)に載置して細胞を培養することが好ましい。こうすることでユニット120を容易に培養系から取り出してハンドリングすることができる。
【0086】
溶解工程は、ポリマー層20の温度応答性ポリマーが溶解又は分散可能な媒体中、ポリマー層20に用いられる温度応答性ポリマーの例えば、下限臨界温度に基づく温度条件をポリマー層20に付与することによって行う。温度条件をユニット120に付与する方法は特に限定されない。温度応答性ポリマーは、下限臨界温度未満で親水性を呈することから、通常、水や水を主体とする溶媒中のポリマー層20に所定の温度条件を付与すればよい。最も簡易には、図7に示すように、細胞培養担体10の存在する液体の温度調節によりポリマー層20を崩壊させることができる。また、温度を調節したガスをユニット120に供給して、ユニット120又はその一部のポリマー層20に選択的に所望の温度条件を付与することもできる。所定の温度条件の付与により培地中等にポリマー層20が溶解することで、培養細胞層60を細胞構造体100として得ることができる。
【0087】
ポリマー層20の表層部において細胞接着領域40を含んだ低温度応答性層が形成されている場合には、所定の温度条件を付与するときに、低温度応答性層より下層側のポリマー層20は溶解するが、低温度応答性層は薄膜として現われる。この薄膜は、細胞接着領域40に培養細胞層60を備えるときには、培養細胞層60の支持層として機能して培養細胞層60と一体化した状態で取得できる。したがって、低温度応答性層に培養細胞層60が形成されている場合には、細胞構造体100は、培養細胞層60と細胞接着性膜とを備えることになる。
【0088】
本発明の細胞構造体の製造方法は、基本的には、上記培養工程と溶解工程とを備えているが、細胞培養担体10の用い方により各種形態を採ることができる。以下、複数の培養細胞層60を積層して造形する細胞構造体100を製造する実施形態と、懸架状部位を有する細胞構造体100を製造する実施形態とについてそれぞれ説明する。
【0089】
図4に示すように、積層造形による細胞構造体100を得るには、溶解工程に先立って、1又は2以上のユニットを重層する工程を実施する。すなわち、ユニット120を複数個重層して細胞構造体100の前駆体としての積層体140を得て、その後、この積層体140中の2以上のポリマー層20を溶解するようにする。好ましくは同時に2以上のユニット120が備えるポリマー層20を溶解するようにする。ポリマー層20の溶解により、ポリマー層20を介して重層される細胞が生物学的に結合される。積層体140を用いることで、培養細胞層60そのものを直接重層するのに比較して、構造安定性及び配向性に優れた細胞構造体100を得ることができる。さらに、細胞又は組織の機能を利用又は代替する構造の生体外デバイス又は生体内デバイスを容易に製造できる。
【0090】
積層体140は、2以上の培養細胞ユニットを重層して得られる。積層体140は、ユニット120を構成する支持体層10の全面に培養細胞層60を備えている必要はない。ポリマー層20の表面のその少なくとも一部、例えば、細胞培養領域40等によって規定された領域等において任意のパターンで培養細胞層60を備えていればよい。
【0091】
本発明の積層体140は、各種形態を採ることができる。一つのポリマー層20を介して2つの培養細胞層60が重層された複層構造を有していてもよい。このような積層体140は、より具体的には、2つ以上のユニット120をポリマー層20と培養細胞層60とが交互になるよう重層した複層構造が挙げられる。また、ユニット120の培養細胞層60同士を直接接触するように重層した複層構造を有していてもよい。細胞培養層60同士の生着を速やかに行う必要があるときにはかかる複層形態が好ましい。
【0092】
なお、積層体140においては、細胞の分化や機能発現の観点から、培養細胞層60の少なくとも一部において培養細胞が一定方向に配向されていることが好ましい。好ましくは、連続して重層される2以上のユニット120の培養細胞層60において、ほぼ同一方向に配向された培養細胞を備えている。
【0093】
積層体140においては、同一種類の培養細胞からなる培養細胞層60を有するユニット120の複層構造であってもよいし、重層される培養細胞層60がそれぞれ異なる培養細胞からなる複層構造であってもよい。本発明の積層体140においては、重層される培養細胞層60が異種細胞で構成されていても、ポリマー層20を介して重層構造となっているため、複合化が容易である。また、同一の培養細胞層60において、2種類以上の細胞が培養されたものであってもよい。積層体140は、重層される2以上のユニット120における培養細胞層60が互いに同一又は相違する平面形態であってもよい。
【0094】
積層体140は、全体としてシート状の積層体140を変形したものであってもよい。例えば、積層体140は、シート状のユニット120を積層し丸めて円筒状等の筒状体としたものであってもよい。また、積層体140は、得ようとする細胞構造体100をスライスして得られる断面形状に対応するパターンの培養細胞層60を有するユニット120を積層したものであってもよい。この場合、ポリマー層20は、適当な温度条件で崩壊し除去されるため、細胞構造体100を、所望の外形形状と内部形状とを備える複雑な三次元形状の細胞構造体100として構築可能である。したがって、かかる積層体140は、細胞の機能を利用又は代替する生体外及び生体内デバイス用の前駆体として有利である。さらにこれらの培養細胞層60において配向が制御されており、重層される培養細胞層60等において、その配向がほぼ同一である場合には、心筋細胞、筋芽細胞、筋管細胞、平滑筋細胞等による機能を利用又は代替する生体外及び生体内デバイス用の前駆体として一層有利である。
【0095】
積層体140が2以上のユニット120を含む複層構造を有する場合には、積層体140が備える複数のポリマー層20を同時に除去することにより一挙に細胞構造体100を得ることができる。また、積層体140は異なる下限溶解温度を有するポリマー層20を含むユニット120を含んでいてもよい。この場合、部位選択的に温度条件を付与することにより、特定部位のポリマー層20を崩壊させ、特定部位近傍の培養細胞層60を結合させ、その後他のポリマー層20を崩壊させて他の培養細胞層60を結合させてもよい。
【0096】
こうして得られる細胞構造体100には、さらに本発明の積層体140のポリマー層20を接触するように積層することで、より複雑な三次元形状の細胞構造体100を構築できる。
【0097】
図5に示すように、懸架状部位を備える細胞構造体100を作製するには、懸架状部位の細胞培養層60を形成するための本発明の細胞培養担体10と支持部位となる細胞培養層62を形成するための他の細胞培養担体80とのセットを準備する。そして、これらの細胞培養担体10、80の各細胞培養領域に細胞を供給し、それぞれ培養細胞層60,62を形成して他の細胞培養担体80を含むユニット122を形成する。この培養ユニット122では、培養細胞層60,62は一続きの培養細胞層64を形成している。このユニット122につき、第1の細胞培養担体10のポリマー層20のみを溶解させることで、梁や膜等の懸架状部位(60)と、第2の細胞培養担体80で支持された支持部位(62)とを備える培養細胞層64を備える細胞構造体100を得ることができる。なお、このセットを用いて得られるユニット122に対してさらに、他のユニット120、122を重層して積層体140とし、細胞構造体100を得てもよい。
【0098】
なお、細胞構造体100の作製にあたり、ポリマー層20が溶解又は分散して除去される環境であれば、ポリマー層20の溶解工程は、インビトロでもインビボでも可能であり、細胞構造体100の用途に応じて適宜選択できる。細胞構造体100の安定性等を考慮すると、細胞構造体100の作製は、細胞構造体100の使用部位に積層体140を配置して実施することが好ましい。すなわち、細胞構造体100の使用部位(インビボ又はインビトロ)に積層体140を配置した上で、その場でポリマー層20を崩壊させることが好ましい。こうすることで、細胞構造体100自体をハンドリングすることを回避して、細胞構造体100の構造崩壊や細胞の配向性低下を回避又は抑制できる。
【0099】
本発明によれば、こうした細胞構造体の製造方法の一部であるユニット120及び積層体140並びにこれらの製造方法も提供される。
【0100】
なお、上記した細胞構造体の製造方法において、細胞培養担体10の構成要素であるポリマー層20は、いずれも低温度応答性層を有するものであってもよい。また、細胞培養担体10のポリマー層が低温度応答性を有する場合には、細胞構造体の製造方法によって得られる細胞構造体100の少なくとも一つの細胞培養層60には、細胞接着性膜を備えることができる。
【0101】
(細胞構造体)
本発明の細胞構造体100は、本発明の細胞培養担体10を用いて細胞を培養し、そのポリマー層20を除去して得られる。本発明の細胞構造体100の三次元形態は特に限定されない。シート状他、積層造形により、中空部や貫通部など複雑な三次元形状を備えることができる。機能上かかる構造が重要あるいは必須である場合には本発明の細胞構造体100は有用である。
【0102】
また、本発明の細胞構造体100は、培養細胞層60に細胞接着性膜が一体化されたものであってもよいし、これらが複数層積層されたものであってもよい。また、細胞接着性膜を介して2以上の培養細胞層60が積層されたものであってもよい。細胞接着性膜は温度応答性が低下しているために本来の相転移温度条件を付与しても溶解しないが、その材質及び構造から細胞構造体100における培養細胞の機能を損なうものではない。また、細胞接着性膜は長期間にわたって相転移温度条件を付与するなど強い条件下では溶解させることもできる。
【0103】
また、本発明の細胞構造体100は各種の態様を採ることができる。すなわち、培養細胞が所定の配向性で配列された培養細胞が重層された構造を有することもできるし、また、懸架状部位を有することもできる。こうした細胞構造体100によれば、細胞の配向性が分化や機能発現に重要な要素である生体外デバイス又は生体内デバイス用の細胞構造体として有用である。特に、特に細胞の配向が重要な平滑筋組織等の筋組織の機能を利用又は代替する生体外又は生体内デバイスとして有用である。
【0104】
本発明の細胞構造体100は、ヒトあるいは非ヒト動物における各種細胞、組織、器官及び臓器の代替を目的とする再生医療等に用いることができる。特に、細胞の配向が重要である心筋の一部を再生材料として用いることができる。また、本発明の細胞構造体100は、骨格筋等の機能を生体外で利用するアクチュエータなどに用いることができる。
【0105】
以下、本発明の具体例を、実施例を挙げて説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0106】
(プラズマ処理したPNIPAAm層における細胞培養)
本実施例では、PNIPAAm層に対してプラズマ処理を行い、それによる細胞培養への影響を確認した。
(1)PNIPAAmフィルムの作製
PNIPAAm(Polyscience社製のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド、分子量〜40000(粘度)、融点<200℃、ガラス転移温度85℃)の5w/v%のポリマーのエタノール溶液をガラス基板(10ミリ×10ミリ、一部につき18ミリ×18ミリ(試験番号5、12、17のみ))上にキャスティングし、乾燥して基板と同じサイズで約50μm厚みのフィルムを作製した。ポリマー溶液は1cm2あたり50μl供給した。また、キャスティング量を10分の1として約10分の1の膜厚(約5μm)のフィルム(試験番号1)も作製した。
(2)プラズマ処理
(1)で作製した約50μm厚みのフィルムに対して表1に示す条件で酸素プラズマ処理を行った。プラズマ処理は、ガラス基板上にフィルムを保持したまま行った。
(3)細胞培養
プラズマ処理したPNIPAAmフィルムに対して所定量のC2C12細胞を播種して、DMEM培地(Invitorogen、Carlsbad、CA)(10% fetal Bovine serum (FBS、ICN Biomedicals, Inc., Aurora,OH)、100U/ml ペニシリンGカリウム及び100μg/ml硫酸ストレプトマイシン(Invitorogen)を含有する)を用いて37℃、24時間培養して、細胞の増殖状態を観察した。また、プラズマ処理しないPNIPAAm層(試験番号1)に対しても同様にして細胞を播種して観察した。観察は、実体顕微鏡及び核染色/アクチン染色後に蛍光顕微鏡にて行った。結果を表1に示す。なお、表1中の記号は、細胞接着性の基板上に細胞を直接播種した場合に、接着・伸展している細胞数(コントロールの細胞数)に対する接着・伸展している細胞数であり、○は、コントロールの細胞数の50%超であることを示し、△はコントロールの細胞数の50%未満であることを示し、×は、コントロールの細胞数の10%以下であることを示す。
(4)培養細胞の回収
細胞増殖が観察されたPNIPAAmフィルムを培地中に浸漬した状態で25℃に冷却し、細胞の回収が可能かどうかを確認した。また、こうした細胞を再播種して培養したとき再増殖が可能であるかどうかを確認した。
【0107】
【表1】

【0108】
表1に示すように、適度な(30W以上200W以下程度)の出力で酸素ガスを用いてプラズマ処理することで数分から数十分程度の処理で細胞が接着、進展、増殖することがわかった。出力と処理時間が大きくなるほど、酸素流量が少ないほど、ガラス基板(ポリマー層)のサイズ(面積)が小さいほど、細胞の接着等の効果が高まることがわかった。膜厚を10分の1程度にしても(試験番号1)、プラズマ処理をしないと細胞の接着等の効果が得られなかった。このことは、プラズマ処理が細胞接着性の発揮に寄与していることを支持している。また、増殖した細胞は温度を下げることでPNIPAAm層から回収でき、再増殖が可能であることもわかった。なお、本発明者らは、カバーガラスのほか、Si基板及び通常の細胞培養用のディッシュ上でも、プラズマ処理によりPNIPAAm層に細胞の接着等の効果を付与できることを確認した。
【0109】
以上の結果から、温度応答性ポリマー層に対するプラズマ処理により、細胞の接着性等を付与して細胞を培養可能な領域を形成できること、培養した細胞を温度応答性を利用して回収できることがわかった。
【実施例2】
【0110】
(プラズマ処理による細胞接着性の安定性)
本実施例では、プラズマ処理によって得られた細胞接着性の安定性を、一定条件で作製し保存(デシケータ中、室温、16日間)したフィルムと同一条件で作製した作製直後のフィルムとを用い細胞培養を行い、増殖状態を観察して比較した。PNIPAAmフィルムの作製条件は、実施例1と同様5w/v%のポリマーのエタノール溶液をガラス基板(10ミリ×10ミリ)上に1cm2あたり50μl供給してキャスティングし、乾燥することとした。また、プラズマ処理条件は、ガラス基板上で出力60W、酸素流量6ml/分、10分とし、細胞培養は実施例1と同様にして行った。また、これらのフィルムの表面元素分析も行った。
【0111】
結果は、保存後のフィルム及び作製直後のフィルムに細胞増殖性に相違はなく、また、元素組成においても同様に相違がなかった。以上のことから、プラズマ処理による温度応答性ポリマー層に対する細胞接着性等の付与効果は安定して保持されることがわかった。
【実施例3】
【0112】
(プラズマ処理によるPNIPAAm層の表面特性の変化)
本実施例では、プラズマ処理前後におけるPNIPAAmフィルムの表面特性(水の接触角)を、一定条件で作製したフィルムについて、プラズマ処理前後で比較した。併せて細胞増殖についても実施例1と同様にして確認した。PNIPAAmフィルムの作製条件は、実施例1と同様5w/v%のポリマーのエタノール溶液をガラス基板(10ミリ×10ミリ)上に1cm2あたり50μl供給してキャスティングし、乾燥することとした。また、プラズマ処理条件は、ガラス基板上において、出力0W〜120W、酸素流量6ml/分、10分とした。また、水の接触角は、50℃の純水5μlをPNIPAAm表面に滴下後、1分後に測定した。なお、接触角の測定はθ/2法により行った。結果を図8に示す。
【0113】
細胞増殖性は、30W以上で良好であった。一方、図8に示すように、30W以上のときに接触角の低下が観察された。ただ、60W以上の処理おいては、ばらつきが大きく接触角も大きくなった。120W以上では測定不可能な程度に超親水性であった。接触角のばらつき及び増大は、プラズマ処理によって形成されたポリマー層表面への凹凸によるものであり、細胞接着性には表面親水性に依存していることがわかった。
【0114】
以上のことから、温度応答性ポリマー層の親水性の向上が細胞接着性の向上に寄与していることがわかった。温度応答性ポリマーは、従来、親水化が困難であり、細胞接着性を付与できる程度に安定に保持されるとは考えられていなかったが、以上の結果から、細胞接着性を有していない温度応答性ポリマーであっても、プラズマ処理によって細胞接着性を付与できることがわかった。
【実施例4】
【0115】
(XPSによる表面解析)
本実施例では、実施例3のプラズマ処理前後の有機官能基の状態をXPSを用いて解析した。結果を図9に示す。
【0116】
図9に示すように、C−O−C=O、C−O−C、O−C=Oのピークが観察された。なかでも、C−O−C=O、C−O−Cは、プラズマ処理による重合を強く示唆した。
【実施例5】
【0117】
(細胞接着性の定量的評価)
本実施例では、プラズマ処理によって得られたPNIPAAm層表面の細胞接着性を細胞数をカウントすることで定量的に評価した。PNIPAAmフィルムの作製条件は、実施例1と同様5w/v%のポリマーのエタノール溶液をガラス基板(10ミリ×10ミリ)上に1cm2あたり50μl供給してキャスティングし、乾燥することとした。また、プラズマ処理条件は、A系列としてガラス基板上で出力10W〜120W、酸素流量6ml/分、10分、B系列として出力60W、酸素流量6ml/分、処理時間0分〜10分とした。プラズマ処理装置は、ヤマトマテリアル社製のPiPiを用いた。細胞は、C2C12細胞5000個を播種し、38℃、5%炭酸ガスインキュベータ(湿度99%)下で、DMEM培地で24時間〜72時間培養した。結果を、図10に示す。
【0118】
図10(a)に示すように、酸素6ml/分、10分では30W以上の出力でのプラズマ処理が有意な細胞接着性を確認することができた。60W以上では細胞接着性が大きく増大する傾向は認められなかった。また、図10(b)に示すように、60W、酸素6ml/分では、1分以上の処理で有意な細胞接着性を確認することができた。
【0119】
なお、参考までに、同様のPNIPAAm層に対して、異なるプラズマ処理装置(ヤマトマテリアル製、PDC210)を用いて、酸素流量50ml/分、処理時間10分として、出力を150W〜350W(50W刻み)でプラズマ処理したところ、350Wでやや細胞接着性が観察された程度であった。したがって、出力等のプラズマ処理条件は用いるプラズマ処理装置によっても大きく相違し、出力、処理時間及び酸素流量等を用いる装置において適宜設定する必要があることがわかった。
【実施例6】
【0120】
(分子量が異なるPNIPAAm層に対するプラズマ処理による細胞接着性の評価)
本実施例では、分子量の異なるPNIPAAmを用いて、実施例1と同様にしてPNIPAAm層を形成して、プラズマ処理により細胞接着性が異なるかどうかを評価した。PNIPAAmとしては、実施例1で用いたPolyscience社製で分子量が〜40×106程度のもののほか、Aldrich社製で分子量が〜20×106程度のもの及びScientific polymer product社製の〜300×106程度のものを用いた。これらのPNIPAAmにつき実施例1と同様にしてPNIPAAm層を形成した。プラズマ処理条件は、出力120W、酸素流量6ml/分、処理時間60分とした。また、細胞は、C2C12細胞5000個を播種し、38℃、5%炭酸ガスインキュベータ(湿度99%)下で、DMEM培地で48時間培養し、細胞数をカウントした。結果を図11に示す。
【0121】
図11に示すように、PNIPAAmの分子量と細胞接着性とは関係がないことがわかった。
【実施例7】
【0122】
(PNIPAAm層に対する酸素プラズマ処理による細胞接着性膜の形成)
本実施例では、酸素プラズマ処理によってPNIPAAm層に温度応答性が低下した層が形成されることを確認した。すなわち、実施例1と同様にしてPNIPAAm層を形成し、出力120W、酸素流量6ml/分、処理時間5分でプラズマ処理を行った。得られたPNIPAAm層(フィルム)を、使用したPNIPAAmの相転移温度(32℃)以下の水中に浸漬すると、PNIPAAm層は溶解後に、膜状体が観察された(図12参照)。また、この膜状体を銅メッシュで採取し、乾燥後、SEMにて観察した結果を図13に示す。SEM観察の結果、この膜状体は500nmを超えない薄膜であることがわかった。この薄膜は温度応答性が低下しているため、通常の相転移温度を付与する条件では溶解しないが、極めて長時間相転移温度以下に曝すときには溶解される。
【実施例8】
【0123】
(細胞接着領域のパターニングと細胞配向性の付与)
本実施例では、PNIPAAm層に対してプラズマ処理の細胞パターニング効果と凹凸の付与による効果とを確認した。すなわち、実施例1と同様にしてPNIPAAm層を形成し、出力120W、酸素流量6ml/分、処理時間5分で、マスキングをして中央部のみプラズマ処理を行った。このPNIPAAm層にC2C12細胞5000個を播種し、38℃、5%炭酸ガスインキュベータ(湿度99%)下で、DMEM培地で48時間培養し、生細胞をセルトラッカーブルーで染色し蛍光顕微鏡で観察した。結果は、図14に示すように、プラズマ処理した中央部にのみ生細胞が増殖し、非処理部では細胞は接着せず増殖しなかった。以上のことから、プラズマ処理領域をパターニングすることで細胞パターニングが可能であることがわかった。
【0124】
また、実施例1に準じ、PDMS上に金属ヤスリを用いて形成した凹凸を表面に転写したPNIPAAm層を形成し、出力120W、酸素流量6ml/分、処理時間5分で、プラズマ処理を行った。このPNIPAAm層のプラズマ処理面にC2C12細胞5000個を播種し、38℃、5%炭酸ガスインキュベータ(湿度99%)下で、DMEM培地で細胞増殖後に、分化培養5日後の状態をアクチン免疫染色して蛍光顕微鏡で観察した。結果は、図15に示すように、凹凸形状を有するPNIPAAm層に対してプラズマ処理を行うことで、細胞の配向が可能であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養担体であって、
温度応答性を呈するポリマー層と、
前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる細胞培養領域と、
を備える、担体。
【請求項2】
前記ポリマー層は、前記細胞の培養温度において細胞接着性を有しない層である、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
前記ポリマー層は、アクリルアミド系ポリマーを含有する成形体である、請求項1又は2に記載の担体。
【請求項4】
前記細胞培養領域は、細胞を配向して培養可能な凹凸形状を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の担体。
【請求項5】
さらに、導電性基材を備え、
該導電性基材上に前記ポリマー層を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の担体。
【請求項6】
前記反応性ガスは酸素を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の担体。
【請求項7】
前記ポリマー層の前記表層部には、前記細胞培養領域を含んで温度応答性が低下した低温度応答性層を備える、請求項1〜6のいずれかに記載の担体。
【請求項8】
細胞培養担体のセットであって、
以下の(a)及び(b);
(a)温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる第1の細胞培養領域と、を備える、第1の細胞培養担体、及び
(b)少なくとも前記ポリマー層が前記温度応答性に基づき溶解する温度において固相を維持可能であって、第2の細胞培養領域を備える第2の細胞培養担体、
を備え、
前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とが連続するように基材上に前記第1の細胞培養担体と前記第2の細胞培養担体とが配置されている、セット。
【請求項9】
前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とは略同一平面上にある、請求項8に記載のセット。
【請求項10】
前記第2の細胞培養担体はシリコンを主体とする、請求項8又は9に記載のセット。
【請求項11】
細胞培養担体の製造方法であって、
温度応答性を呈するポリマー層を準備する工程と、
前記ポリマー層の表層部の少なくとも一部に対して反応性ガスでプラズマ処理を行って細胞培養領域を形成する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー層準備工程は、前記成形体を剥離可能な非親和性表面において前記成形体を作製する工程を備える、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー層準備工程は、前記成形体の前記非親和性表面との接触側に細胞を配向して培養可能な凹凸形状を付与することを含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記細胞培養領域形成工程は、前記表層部に細胞接着性を有し温度応答性が低下した層を形成する程度にプラズマ処理を行う工程である、請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程、を備える、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
細胞培養担体セットの製造方法であって、
前記セットは、以下の(a)及び(b);、
(a)温度応答性を呈するポリマー層と、前記ポリマー層の表層部に対して反応性ガスでプラズマ処理して得られる第1の細胞培養領域と、を備える第1の細胞培養担体、及び
(b)少なくとも前記ポリマー層が前記温度応答性に基づき溶解する温度において固相を維持可能であって、第2の細胞培養領域を備える第2の細胞培養担体、
を備えており、
前記第2の細胞培養担体を基材上に準備し、次いで、前記第2の細胞培養担体の周囲及びその表面に前記ポリマー層と同一組成のポリマー層前駆体を形成し、前記プラズマ処理により前記ポリマー層前駆体をアブレーションして前記第2の細胞培養領域と連続するように前記第1の細胞培養領域を形成するとともに前記第1の細胞培養担体を形成する工程、
を備える、製造方法。
【請求項17】
前記第2の細胞培養領域が露出されるまで前記ポリマー層の前駆体をプラズマ処理する、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記第1の細胞培養領域と前記第2の細胞培養領域とは略同一平面上にある、請求項16又は17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記基材は、導電性基材である、請求項16〜18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養担体の前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層を有する1又は2以上の培養細胞ユニットを準備する工程と、
前記培養細胞ユニットの前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程と、
を備える、細胞構造体の製造方法。
【請求項21】
前記溶解工程に先立って、
前記1又は2以上のユニットを重層する工程を、
備える、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記溶解工程は、2以上の前記培養細胞ユニットが備える2以上の前記ポリマー層を同時に溶解する工程である、請求項20又は21に記載の製造方法。
【請求項23】
細胞構造体の製造方法であって、
請求項8〜10のいずれかに記載の細胞培養担体のセットの連続する前記第1の細胞培養領域及び前記第2の細胞培養領域にわたって培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層を有する1又は2以上の培養細胞ユニットを準備する工程と、
前記培養細胞ユニットの前記第1の培養細胞担体の前記ポリマー層をその臨界溶解温度に基づく温度条件を付与して溶解する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項24】
請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養担体と、
前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層と、
を備える、培養細胞ユニット。
【請求項25】
請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養担体と前記細胞培養領域の少なくとも一部に培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層とを備える2以上の培養細胞ユニットを重層して得られる、積層体。
【請求項26】
請求項8〜10のいずれかに記載の細胞培養担体のセットと、
連続する前記第1の細胞培養領域及び前記第2の細胞培養領域にわたって培養細胞が相互に結合して保持された培養細胞層と、
を備える、培養細胞ユニット。

【図1】
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【図8】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−220605(P2010−220605A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132301(P2009−132301)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【特許番号】特許第4483994号(P4483994)
【特許公報発行日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】