説明

細胞培養支持体並びに細胞培養方法

【課題】本発明の目的は、多種類の細胞を、同一層内で培養を可能にし、毛細血管の線幅でパターニングでき、かつ二次元的(膜面方向)にも三次元的(膜厚方向)にも構造がナノスケールで制御でき、基材から細胞のみを均等に剥離することにある。
【解決手段】基材上に、2種以上の温度応答性高分子により、異なる領域に表面被覆を行った細胞培養支持体であって、該温度応答性高分子により表面被覆を行った異なる領域のうち、少なくとも一つの領域の線幅の最小値が0.1μm以上30μm以下であり、かつ該温度応答性高分子の膜厚が0.1nm以上500nm以下であることを特徴とする細胞培養支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や細胞培養、組織培養等の分野において利用される細胞の培養を生体外で行うための細胞培養支持体及びこの細胞培養支持体を用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動物細胞の一般的な培養法として広く用いられる単層細胞培養法は、生体内で有していた複雑系の細胞本来の培養環境下におかれないため、生存を継続する分化機能を維持することが困難であり、細胞は生存又は増殖するものの、分化機能の停止や制御困難を招くことがよく知られている。
【0003】
肝細胞の長期培養化には、(生体の肝臓の構造を考えて)血管由来の細胞との共培養が有効であると考えられているが、通常の培養皿を用いる方法で、ただ単に肝細胞と線維芽細胞或いは肝細胞と内皮細胞との混合等では安定に共培養することはできない。
【0004】
肝実質細胞とラット血管内皮細胞との共培養の例が知られているが(例えば、特許文献1)、基材にパターニングされている温度応答性高分子は、N−n−プロピルメタクリルアミドモノマー重合体とN−イソプロピルアクリルアミドモノマー重合体というように、それぞれ単独ポリマーで構成されている。
【0005】
ここにおいて、線幅については特に規定していないが、一般的な毛細血管の巾である10μmに対してパターニング可能であることについては言及されていない。
【0006】
2つの単独ポリマーは、マスク法でパターニングされているため、異種ポリマー間の間隙に隙間が空いたり、ポリマー同士の重なりが起こったりする。それに伴い、ポリマー上で培養される異種の細胞が重なりコンタミを起こしたり、異種の細胞間で隙間が開いてしまったりする。また、重合方法が電子線重合のため、分子量分布のバラツキが大きく、温度応答性高分子の膜厚が不均一となり、さらにその上で培養されることになる、細胞層の膜厚がばらつく結果をもたらす。これにより、細胞培養後低温にして剥離する際に、均等に細胞が剥離されず、一部細胞が破損してしまう。
【0007】
また原子移動ラジカル重合開始剤を植えつける方法では、例えば、特許文献2のようにシリカ微粒子表面に原子移動ラジカル重合開始剤を植え付けてそこから、温度応答性ポリマーを成長させる方法が載っている。これらは、クロマトグラフィー用に限定されている上に一種類のポリマーしか重合できていない。二種類以上の温度応答性高分子をシリカ微粒子表面に結合させることは、不可能であった。
【0008】
また細胞培養基材への細胞接着層のパターニングには、例えば、特許文献3のように、インクジェット法により細胞接着材料で細胞接着層を基材にパターニングする方法があるが、1つのポリマーを用いて基材に塗布し、一定の線幅を描いているだけであり、複数のポリマーを塗り分ける技術については言及されていない。
【0009】
また、細胞接着材料としてポリエチレングリコール(PEG)を用いているため、細胞の剥離ができない。また、基材へPEGを固定する手段として超臨界二酸化炭素を使っており、プロセスが複雑な上に、装置が大型してしまう。
【特許文献1】国際公開第01/068799号パンフレット
【特許文献2】特開2007−69193号公報
【特許文献3】特開2006−325791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、多種類の細胞を、同一層内で培養を可能にし、毛細血管の線幅でパターニングでき、かつ二次元的(膜面方向)にも三次元的(膜厚方向)にも構造がナノスケールで制御でき、基材から細胞のみを均等に剥離することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0012】
1.基材上に、二種以上の温度応答性高分子により、異なる領域に表面被覆を行った細胞培養支持体であって、該温度応答性高分子により表面被覆を行った異なる領域のうち、少なくとも一つの領域の線幅の最小値が0.1μm以上30μm以下であり、かつ該温度応答性高分子の膜厚が0.1nm以上500nm以下であることを特徴とする細胞培養支持体。
【0013】
2.前記温度応答性高分子を重合する際に用いる重合開始剤の少なくとも1つが原子移動ラジカル開始剤であることを特徴とする前記1に記載の細胞培養支持体。
【0014】
3.前記温度応答性高分子がアクリルアミド系モノマー、アクリル系モノマー、ビニル系モノマーから選ばれる少なくとも1つを含むモノマーを重合することにより得られた高分子であることを特徴とする前記1又は2に記載の細胞培養支持体。
【0015】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養支持体上で細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【0016】
5.前記1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養支持体上で複数種の細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【0017】
6.前記4又は5に記載の細胞培養方法で培養した細胞を温度応答性高分子の下限臨界温度以下にして剥離することを特徴とする細胞培養方法。
【0018】
7.前記6に記載の細胞培養方法により剥離された細胞を重ね合わせることを特徴とする細胞培養方法。
【発明の効果】
【0019】
多種類の細胞を、同一層内で培養することを可能にし、毛細血管の線幅でパターニングでき、かつ二次元的(膜面方向)にも三次元的(膜厚方向)にも構造がナノスケールで制御でき、また、基材から細胞のみを均等に剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。
【0021】
〔膜厚を0.1nm以上500nm以下にする方法〕
本発明においては、細胞培養支持体の温度応答性高分子の膜厚を0.1nm以上500nm以下にすることが好ましく、より好ましくは0.3nm以上300nm以下が好ましい。温度応答性高分子の膜厚としては、細胞培養支持体の基材の種類や培養する細胞の種類により適宜選択されるが、0.1nm以下にした場合、基材の影響力が強くなり、培養する細胞が基材と直接的に接着し、培養後の細胞剥離時に剥離できない結果となる。また、温度応答性高分子が500nm以上になると最表面での水分子の吸着が多くなり、表面が親水的になり培養したい細胞が接着しにくくなり成長を阻害する。これら細胞接着と細胞剥離を両立するためには、温度応答性高分子の膜厚を0.1nm以上500nm以下にする必要がある。
【0022】
膜厚を制御する方法としては、例えばバーコーター法、カーテンコート法、浸漬法、エアーナイフ法、ホッパー塗布法、リバースロール塗布法、グラビア塗布法、エクストリュージョン塗布法、真空蒸着法(スパッタリング法)等の公知の方法を用いることができる。
【0023】
また、二種類以上の温度応答性高分子を細胞培養基材の支持体上の異なる領域に表面被覆を行う、所謂パターニングする際には、リソグラフィー法、インクジェット方法、スーパーインクジェット方法で塗布することが好ましい。また、さらに好ましくは、原子移動ラジカル開始剤をインクジェット法を用いて塗布し、そこからポリマーを成長させるいわゆるポリマーブラシ法を用いることで膜厚を均一にすることができる。
【0024】
温度応答性高分子を基材上へ固定化する技術としては、熱による硬化、又はUV照射による硬化のどちらを採用してもよい。
【0025】
反応が速いという観点でUV照射による硬化が好ましく、UV光を用いる場合は、光源として、例えば、0.1kPa〜1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプや紫外域の発光波長をもつキセノンランプ、冷陰極管、熱陰極管、LED等従来公知のものが用いられる。
【0026】
前記ポリマーブラシ方法とは、温度応答性高分子材料を、基材表面に、ラジカル重合可能な二重結合を有する化合物を原子移動ラジカル重合によりグラフト重合してなるグラフトポリマー層を形成させることにより達成する。
【0027】
また、本発明においては、前記グラフトポリマー層が、前記基材表面に開始剤を固定化した後、該開始剤を起点として、ラジカル重合可能な二重結合を有する化合物を原子移動ラジカル重合によりグラフト重合してなることが好ましい態様であるが、ラジカル開始剤なしで基材自体にコロナ放電処理、プラズマ処理で表面にラジカルを発生させて、該ラジカルを開始点にしてグラフトポリマー層を形成してもよい。
【0028】
好ましくは、基材表面に原子移動ラジカル開始剤を固定化した方がよく、該開始剤が、原子移動ラジカル重合を開始する部位と、基材と結合しうる部位とを同一分子内に有する化合物であることが好ましい。より具体的には、前記基材と結合しうる部位がシランカップリング剤から構成されていることが好ましく、また、前記原子移動ラジカル重合を開始する部位がα−ハロゲノエステル化合物から構成されていることが好ましい。
【0029】
加えて、前記原子移動ラジカル重合には触媒が用いられることが好ましい。また、前記触媒が遷移金属錯体であることがより好ましい。
【0030】
本発明の作用機構では、原子移動ラジカル重合法を用いることにより、基材表面に温度応答性を有するモノマーを高密度でグラフト重合することが可能となり、いわゆるポリマーブラシ状態を実現することができる。このことにより、膜厚0.1nm以上300nm以下の均一な膜を形成できる。平坦な基材を用いた場合は、その平滑性を維持したまま細胞培養を行うことができる。
【0031】
〔基材表面に開始剤を固定化するプロセス〕
基材表面に開始剤を固定するプロセスは文献公知のいずれの方法を用いてもよい。特に、操作の簡便性、また、大面積適用性の観点から、シランカップリング剤などの基材結合性末端基を有する開始剤を、基材の表面に、好ましくは所望の領域全面にわたり付着させる方法が好ましい。
【0032】
本発明に適用し得る基材としては、ガラス板、シリコン板、アルミ板、ステンレス板、などの無機物質からなる基材及び高分子などの有機物質からなる基材のいずれも用いることができる。無機物質からなる基材としては、上記のほかに、金、銀、亜鉛、銅等などの金属板、ITO、酸化錫、アルミナ、酸化チタンなどの金属酸化物を表面に設けた基材なども使用することができる。
【0033】
また、高分子基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレー卜、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂からなる基材を使用することができる。また、これらの高分子基材は、基材結合性末端基を有する開始剤との結合性を向上するために、コロナ処理、プラズマ処理などにより、表面に、水酸基やカルボキシル基などの官能基が導入されたものであってもよい。
【0034】
なお、本発明における基材の形状は、特に限定されるものではなく、上記の材質と共に、適宜、選択される。
【0035】
(開始剤)
重合開始剤としては、原子移動ラジカル重合を開始する部位(以下、開始部位と称する。)と、基材と結合しうる部位(以下、結合部位と称する。)と、を同一分子内にもった化合物なら、公知のいずれのものも使用することができる。
【0036】
開始部位としては、一般に、有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲン原子を有するエステル化合物や、ベンジル位にハロゲン原子を有する化合物)、又は、ハロゲン化スルホニル化合物等を部分構造として導入してものが挙げられる。また、同様の、開始剤としての機能を有するものであれば、ハロゲンの代わりになる基、例えば、ジアゾニウム基、アジド基、アゾ基、スルホニウム基、オキソニウム基などを有する化合物を用いても構わない。
【0037】
開始部位として導入されうる化合物としては、具体的には以下に例示するような化合物が挙げられる。
−CH
−CH(X)(CH
−C(X)(CH
(式中、Cは、フェニル基を表し、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す。)。
−CH(X)−CO
−C(CH)(X)−CO
−CH(X)−C(O)R
−C(CH)(X)−C(O)R
(式中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を表し、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す。)
−C−SOX、
(式中、R及びXは、前記したものと同義である。)。
【0038】
上記の開始剤の開始部位として特に好ましいものは、経時安定性の観点から、α−ハロゲノエステル化合物である。
【0039】
また、開始剤中に存在する結合部位、即ち、基材結合性末端基(基材と結合しうる官能基)としては、チオール基、ジスルフィド基、アルケニル基、架橋性シリル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。これらのうち特に好ましい結合部位としては、チオール基、架橋性シリル基が挙げられる。
【0040】
開始部位と結合部位をもった開始剤の他の具体的な例としては、以下に例示する。
(CHO)SiCHCHC(H)(X)C
l3SiCHCHC(H)(X)C
l3Si(CHC(H)(X)−CO
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−CO
(CHO)Si(CHC(H)(X)−CO
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−CO
前記各式中、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表し、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。
【0041】
〔固定化した開始剤を起点として、温度応答性モノマーを原子移動ラジカル重合によりグラフト重合し、グラフトポリマーを生成するプロセス〕
細胞を均一に成長させるという観点より、細胞と直接、接着する温度応答性高分子表面を均一にすることが好ましく、そのためには温度応答性高分子の膜厚を制御できること、つまり温度応答性高分子の分子量を制御できることが好ましい。分子量を制御する方法としては、基材から温度応答性高分子をグラフトポリマーとして成長させる方法があるが、該グラフトポリマーを生成する際に原子移動ラジカル重合を用いることが好ましい。
【0042】
(原子移動ラジカル重合法)
「リビングラジカル重合法」は、重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い(Mw/Mnが1.1〜1.5程度)重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0043】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物或いはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤として、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としては更に好ましいものである。この原子移動ラジカル重合法としては、例えば、Matyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、7901頁、サイエンス(Science)1996年、272巻、866頁、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、或いはSawamotoら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、1721頁、特開平9−208616号公報、特開平8−41117号公報などが挙げられる。
【0044】
また、上記のような有機ハロゲン化物或いはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤として用いる通常の原子移動ラジカル重合以外に、過酸化物のような一般的なフリーラジカル重合の開始剤と銅(II)のような通常の原子移動ラジカル重合触媒の高酸化状態の錯体を組み合わせた「リバース原子移動ラジカル重合」も原子移動ラジカル重合に含まれる。
【0045】
(原子移動ラジカル重合触媒)
このような原子移動ラジカル重合には、触媒を用いることが必要であり、ここで用いられる触媒としては、遷移金属錯体が挙げられる。触媒に用い得る遷移金属錯体には、特に限定はなく、PCT/US96/17780に記載されているものが利用可能である。中でも好ましいものとして、0価の銅、1価の銅、2価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄、又は2価のニッケルの錯体が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、及び、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も、触媒として好適である。
【0047】
触媒として銅化合物を用いる場合、その配位子として、PCT/US96/17780に記載されている配位子の利用が可能である。特に限定はされないが、アミン系配位子が良く、好ましくは、2、2′−ビピリジル及びその誘導体、1、10−フェナントロリン及びその誘導体、トリアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン等の脂肪族アミン等の配位子である。本発明においては、これらの内では、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン等の脂肪族ポリアミンが好ましい。
【0048】
上記のような配位子を用いる量は、通常の原子移動ラジカル重合の条件では、遷移金属の配位座の数と、配位子の配位する基の数から決定され、ほぼ等しくなるように設定されている。例えば、通常、2、2′−ビピリジル及びその誘導体をCuBrに対して加える量はモル比で2倍であり、ペンタメチルジエチレントリアミンの場合はモル比で1倍である。
【0049】
本発明において配位子を添加して重合を開始する、及び/又は、配位子を添加して触媒活性を制御する場合は、特に限定はされないが、金属原子が配位子に対して過剰になる方が好ましい。配位座と配位する基の比は好ましくは1.2倍以上であり、更に好ましくは1.4倍以上であり、特に好ましくは1.6倍以上であり、特別に好ましくは2倍以上である。
【0050】
(反応溶媒)
本発明においてグラフト重合反応は、無溶媒、即ち、溶媒を用いることなく温度応答性モノマー単独で行なってもよく、また、各種の溶媒中で行ってもよい。重合反応に用い得る溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、及び水、等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
溶媒を用いるグラフト重合反応は、一般的には、溶媒中にモノマーを添加し、必要に応じて触媒を添加した後、該溶媒中に開始剤を固定化してなる基材を浸漬し、所定時間反応させることにより行なわれる。
【0052】
また、無溶媒でのグラフト重合反応は、一般的には、室温下若しくは100℃までの加熱状態で行なわれる。
【0053】
以上のようにして得られた材料は、温度応答性基を有するグラフトポリマーが高密度で基材と直接結合していることから、基材との密着性に優れたグラフトポリマー層を有することとなる。そのため、本発明の温度応答性高分子材料は、平坦な基材を用いた場合、グラフトポリマー層の表面も均一で平坦な表面となる。
【0054】
また、グラフトポリマー層は均一性が良いため、薄い層で性能を発現できる。
【0055】
さらに温度応答性高分子上で培養される細胞も平坦に(均一に)なり、剥離時には、過度に力のかかる場所がなく、細胞シートの破損の危険性がなくなる。
【0056】
〔線幅を0.1μm以上30μm以下に制御する方法と温度応答性高分子の細胞培養基材へのパターニングについて〕
本発明は、同一層内に異なる領域を被覆した(パターニングされた)2種類以上の温度応答性高分子上で2種類以上の細胞を異なる領域で培養できればよいが、細胞を積層する際には、各層間の細胞パターンが同じであった方が組織的な機能発現という点で好ましい。そのためには、温度応答性高分子が基材へパターニングされた細胞培養支持体の方が好ましい。
【0057】
本発明に係る温度応答性高分子を基材の表面に所定パターンで付加する際には、温度応答性高分子を構成する材料を液状化して付加することが好ましい。液状化した温度応答性高分子を構成する材料を所定のパターンで付加する方法としては、スクリーン印刷法やインクジェット法などの印刷方法を用いることが好ましい。このような印刷方法を用いると、より簡単に温度応答性高分子を構成する材料を細胞培養する基材の表面に任意のパターンで付加することができる。また、所定のパターンに穿孔したマスクを作製し、これを基材表面上に設置した後、温度応答性高分子を構成する材料を含有した溶液をスプレー塗布する方法を採用することもできる。
【0058】
なお、本発明の細胞培養支持体を用いて血管や神経系などの複雑で個体差のあるパターンを形成する場合、特に、個別対応性の高いインクジェット法が好ましい。それ以外の方法としては、フォトリソ法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法でも可能である。
【0059】
解像度が高く、5〜6種類の温度応答性高分子を同時に塗布することが可能であることから、また、パターニングの時間が短い点で、インクジェット法がより好ましい。
【0060】
同時塗布が可能なことから異種の温度応答性高分子の重なり合いがなくなり、該温度応答性高分子上に培養される細胞の重なり合いがなくなり、培養細胞を均一に基材から剥離することが可能になる。
【0061】
また、プラズマ処理と該マスク法とを組み合わせて、ラジカル開始剤を使用することなく、直接ラジカル開始点を基材にパターニングし、そこからポリマーブラシを成長させる方法でも構わない。
【0062】
また、温度応答性高分子を構成する材料を液状にする方法としては、温度応答性高分子を構成する材料を加熱して軟化させる方法や、温度応答性高分子を構成する材料を所定の溶媒に溶解する方法などが挙げられるが、温度調整を行う必要のない点から溶媒に溶解する方法が好適である。
【0063】
パターニングできる線幅としては、毛細血管の線幅が通常10μm〜20μmといわれているため、一つの領域の線幅の最小値が0.1μm以上30μm以下が好ましく、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。一つの領域が一定の線幅であるとは限らないので、線幅の最小値で定義する。
【0064】
このような線幅で、10μm程度、また特に10μm以下の線幅で描画を行う際には、静電吸引方式のインクジェットヘッドを用いるスーパーインクジェット装置を用いる方式が好ましい。
【0065】
以下に静電吸引方式のインクジェット装置についてその一実施の形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0066】
基材上に静電吸引型インクジェット装置によりパターンを描画することにより、一般的な毛細血管の巾である10μm程度の線幅をもつ細線パターン描画できる。
【0067】
本発明に係る細胞培養支持体の基材としては50〜3000μm程度の厚みをもつ各種高分子材料、ガラス、布、紙、金属(例えばアルミニウム)等が挙げられ、取り扱い上の観点より本発明の細胞培養支持体における基材としては、プラスチック材料、特に、ポリスチレンが特に好ましい。
【0068】
図1は、本実施形態に係る静電吸引型インクジェット装置の全体構成を示す断面図である。
【0069】
静電吸引型インクジェット装置1は、インク等の帯電可能な液体Lの液滴Dを吐出するノズル10が形成されたインクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2のノズル10に対向する対向面を有するとともにその対向面で液滴Dの着弾を受ける基板Kを支持する対向電極3とを備えている。なお、インクジェットヘッド2は、いわゆるシリアル方式或いはライン方式等の各種の静電吸引型インクジェット装置に適用可能である。
【0070】
インクジェットヘッド2の対向電極3に対向する側には、複数のノズル10を有する樹脂製のノズルプレート11が設けられている。インクジェットヘッド2は、ノズルプレート11の対向電極3に対向する吐出面12からノズル10が突出されない、或いはノズル10が30μm程度しか突出しないフラットな吐出面を有するヘッドとして構成されている(例えば、後述する図2(D)参照)。
【0071】
各ノズル10は、ノズルプレート11に穿孔されて形成されており、各ノズル10には、それぞれノズルプレート11の吐出面12に吐出孔13を有する小径部14とその背後に形成されたより大径の大径部15との2段構造とされている。本実施形態では、ノズル10の小径部14及び大径部15は、それぞれ断面円形で対向電極側がより小径とされたテーパ状に形成されており、小径部14の吐出孔13の内部直径(以下、ノズル径という。)が10μm、大径部15の小径部14から最も離れた側の開口端の内部直径が75μmとなるように構成されている。
【0072】
なお、ノズル10の形状は前記の形状に限定されず、例えば、図2(A)〜(E)に示すように、形状が異なる種々のノズル10を用いることが可能である。また、ノズル10は、断面円形状に形成する代わりに、断面多角形状や断面星形状等であってもよい。
【0073】
ノズルプレート11の吐出面12と反対側の面には、例えばNiP等の導電素材よりなりノズル10内の液体Lを帯電させるための帯電用電極16が層状に設けられている。本実施形態では、帯電用電極16は、ノズル10の大径部15の内周面17まで延設されており、ノズル内の液体Lに接する。
【0074】
また、帯電用電極16は、静電吸引力を生じさせる静電電圧を印加する静電電圧印加手段としての帯電電圧電源18に接続されており、単一の帯電用電極16がすべてのノズル10内の液体Lに接触しているため、帯電電圧電源18から帯電用電極16に静電電圧が印加されると、全ノズル10内の液体Lが同時に帯電され、インクジェットヘッド2と対向電極3との間、特に液体Lと基板Kとの間に静電吸引力が発生される。
【0075】
帯電用電極16の背後には、ボディ層19が設けられている。ボディ層19の前記各ノズル10の大径部15の開口端に面する部分には、それぞれ開口端にほぼ等しい内径を有する略円筒状の空間が形成されており、各空間は、吐出される液体Lを一時貯蔵するためのキャビティ20とされている。
【0076】
ボディ層19の背後には、可撓性を有する金属薄板やシリコン等よりなる可撓層21が設けられており、可撓層21によりインクジェットヘッド2が外界と画されている。
【0077】
なお、ボディ層19には、キャビティ20に液体Lを供給するための図示しない流路が形成されている。具体的には、ボディ層19としてのシリコンプレートをエッチング加工してキャビティ20、共通流路、及び共通流路とキャビティ20とを結ぶ流路が設けられており、共通流路には、外部の図示しない液体タンクから液体Lを供給する図示しない供給管が連絡されており、供給管に設けられた図示しない供給ポンプによりあるいは液体タンクの配置位置による差圧により流路やキャビティ20、ノズル10等の液体Lに所定の供給圧力が付与される。
【0078】
可撓層21の外面の各キャビティ20に対応する部分には、それぞれ圧力発生手段としての圧電素子アクチュエータであるピエゾ素子22が設けられており、ピエゾ素子22には、素子に駆動電圧を印加して素子を変形させるための駆動電圧電源23が接続されている。ピエゾ素子22は、駆動電圧電源23からの駆動電圧の印加により変形して、ノズル内の液体Lに圧力を生じさせてノズル10の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成させるようになっている。なお、圧力発生手段は、本実施形態のような圧電素子アクチュエータのほかに、例えば、静電アクチュエータやサーマル方式等を採用することも可能である。
【0079】
駆動電圧電源23及び帯電用電極16に静電電圧を印加する前記帯電電圧電源18は、それぞれ動作制御手段24に接続されており、それぞれ動作制御手段24による制御を受ける。
【0080】
動作制御手段24は、本実施形態では、CPU25やROM26、RAM27等が図示しないBUSにより接続されて構成されたコンピュータからなっており、CPU25は、ROM26に格納された電源制御プログラムに基づいて帯電電圧電源18及び各駆動電圧電源23を駆動させてノズル10の吐出孔13から液体Lを吐出させる。
【0081】
なお、本実施形態では、インクジェットヘッド2のノズルプレート11の吐出面12には、吐出孔13からの液体Lの滲み出しを抑制するための撥液層28が吐出孔13以外の吐出面12全面に設けられている。撥液層28は、例えば、液体Lが水性であれば撥水性を有する材料が用いられ、液体Lが油性であれば撥油性を有する材料が用いられるが、一般に、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン)、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、フッ素シロキサン、フルオロアルキルシラン、アモルファスパーフルオロ樹脂等のフッ素樹脂等が用いられることが多く、塗布や蒸着等の方法で吐出面12に成膜されている。なお、撥液層28は、ノズルプレート11の吐出面12に直接成膜してもよいし、撥液層28の密着性を向上させるために中間層を介して成膜することも可能である。
【0082】
インクジェットヘッド2の下方には、基板Kを支持する平板状の対向電極3がインクジェットヘッド2の吐出面12に平行に所定距離離間されて配置されている。対向電極3とインクジェットヘッド2との離間距離は、0.1〜3mm程度の範囲内で適宜設定される。
【0083】
本実施形態では、対向電極3は接地されており、常時接地電位に維持されている。そのため、前記帯電電圧電源18から帯電用電極16に静電電圧が印加されると、ノズル10の吐出孔13の液体Lと対向電極3のインクジェットヘッド2に対向する対向面との間に電界が生じる。また、帯電した液滴Dが基板Kに着弾すると、対向電極3はその電荷を接地により逃がすこととなる。
【0084】
なお、対向電極3又はインクジェットヘッド2には、インクジェットヘッド2と基板Kとを相対的に移動させて位置決めするための図示しない位置決め手段が取り付けられており、これによりインクジェットヘッド2の各ノズル10から吐出された液滴Dは、基板Kの表面に任意の位置に着弾させることが可能とされている。
【0085】
静電吸引型インクジェット装置1による吐出を行う液体Lは、例えば、無機液体としては、水、COCl、HBr、HNO、HPO、HSO、SOCl、SOCl、FSOHなどが挙げられる。
【0086】
また、有機液体としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して用いてもよい。
【0087】
吐出を行う場合には、前述した液体Lに溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。
【0088】
ここで、液体Lの吐出原理について説明する。
【0089】
本実施形態では、帯電電圧電源18から帯電用電極16に静電電圧を印加し、ノズル10の吐出孔13の液体Lと対向電極3のインクジェットヘッド2に対向する対向面との間に電界を生じさせる。また、駆動電圧電源23からピエゾ素子22に駆動電圧を印加してピエゾ素子22を変形させ、それにより液体Lに生じた圧力でノズル10の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成させる。
【0090】
本実施形態のように、ノズルプレート11の絶縁性が高くなると、図3にシミュレーションによる等電位線で示すように、ノズルプレート11の内部に、吐出面12に対して略垂直方向に等電位線が並び、ノズル10の小径部14の液体Lや液体Lのメニスカス部分に向かう強い電界が発生する。
【0091】
特に、図3でメニスカスの先端部では等電位線が密になっていることからわかるように、メニスカス先端部では非常に強い電界集中が生じる。そのため、電界の静電力によってメニスカスが引きちぎられてノズル内の液体Lから分離されて液滴Dとなる。さらに、液滴Dは静電力により加速され、対向電極3に支持された基板Kに引き寄せられて着弾する。その際、液滴Dは、静電力の作用でより近いところに着弾しようとするため、基板Kに対する着弾の際の角度等が安定し正確に行われる。
【0092】
ノズルを基板K上の突起に対向させて吐出する場合には、液滴Dは突起先端に集中した高電界に吸引され、突起に引き寄せられるようにして着弾する。そのため、メニスカスが引きちぎられた直後の飛翔方向にバラツキが生じても、より正確に突起上に着弾させることができる。
【0093】
このように、インクジェットヘッド2における液体Lの吐出原理を利用すれば、フラットな吐出面を有するインクジェットヘッド2においても、高い絶縁性を有するノズルプレート11を用い、吐出面12に対して垂直方向の電位差を発生させることで強い電界集中を生じさせることができ、正確で安定した液体Lの吐出状態を形成することができる。
【0094】
発明者らが、電極間の電界の電界強度が実用的な値である1.5kV/mmとなるように構成し、各種の絶縁体でノズルプレート11を形成して下記の実験条件に基づいて行った下記の実験では、ノズル10から液滴Dが吐出された。
【0095】
[実験条件]
ノズルプレート11の吐出面12と対向電極3の対向面との距離:1.0mm
ノズルプレート11の厚さ:125mm
ノズル径:10μm
静電電圧:1.5kV
駆動電圧:20V
次に、本実施形態のインクジェットヘッド2及び静電吸引型インクジェット装置1の動作について説明する。
【0096】
図4は、本実施形態の静電吸引型インクジェット装置におけるインクジェットヘッドの駆動制御を説明する図である。本実施形態では、静電吸引型インクジェット装置1の動作制御手段24は、帯電電圧電源18から帯電用電極16に一定の静電電圧VCを印加させる。これにより、インクジェットヘッド2の各ノズル10には常時一定の静電電圧VCが印加され、インクジェットヘッド2と対向電極3との間に電界が生じる。
【0097】
また、動作制御手段24は、液滴Dを吐出させるべきノズル10ごとに、そのノズル10に対応する駆動電圧電源23からピエゾ素子22に対してパルス状の駆動電圧VDを印加させる。このような駆動電圧VDが印加されると、ピエゾ素子22が変形してノズル内部の液体Lの圧力を上げ、ノズル10の吐出孔13では、図中Aの状態からメニスカスが隆起し始め、Bのようにメニスカスが大きく隆起した状態となる。
【0098】
すると、前述したように、メニスカス先端部に高度な電界集中が生じて電界強度が非常に強くなり、メニスカスに対して前記静電電圧VCにより形成された電界から強い静電力が加わる。この強い静電力による吸引とピエゾ素子22による圧力とにより図中Cのようにメニスカスが引きちぎられて液滴Dが形成される。液滴Dは、電界で加速されて対向電極方向に吸引され、対向電極3に支持された基板Kに着弾する。
【0099】
その際、液滴Dには空気の抵抗等が加わるが、前述したように、静電力の作用で液滴Dはより近いところに着弾しようとするため、基板Kに対する着弾方向がぶれることなく安定し、基板Kに正確に着弾する。
【0100】
本実施形態では、帯電電圧電源18から帯電用電極16に印加される一定の静電電圧VCは1.5kVに設定されており、駆動電圧電源23からピエゾ素子22に印加されるパルス状の駆動電圧VDは20Vに設定されている。
【0101】
なお、ピエゾ素子22に印加する駆動電圧VDとしては、本実施形態のようにパルス状の電圧とすることも可能であるが、この他にも、例えば、電圧が漸増した後漸減するいわば三角状の電圧や、電圧が漸増した後一旦一定値を保ちその後漸減する台形状の電圧、或いはサイン波の電圧を印加するように構成することも可能である。また、図5(A)に示すように、ピエゾ素子22に常時電圧VDを印加しておいて一旦切り、再度電圧VDを印加してその立ち上がり時に液滴Dを吐出させるようにしてもよい。また、図5(B)、(C)に示すような種々の駆動電圧VDを印加するように構成してもよく適宜決定される。
【0102】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド2及び静電吸引型インクジェット装置1によれば、インクジェットヘッド2は、フラットな吐出面12を有するヘッドとされているため、図示を省略するが、インクジェットヘッド2のクリーニング時に吐出面12にブレードやワイパ等の部材が接触してもノズル10が損傷する等の事態が生じることがなく、操作性に優れる。
【0103】
また、インクジェットヘッド2の製造においてノズル10の突起等の微細構造を形成する必要がなく構造が単純であるから、容易に製造することが可能で生産性に優れる。
【0104】
さらに、ノズル10が形成されるノズルプレート11として、体積抵抗率が1015Ωm以上の材料を用いることで、帯電用電極16に印加する静電電圧が1.5kV程度の低い電圧であっても、ピエゾ素子22の変形によりノズル10の吐出孔部分に形成される液体Lのメニスカスに電界を集中することができ、メニスカスの先端部の電界強度を液滴Dが安定的に吐出される3×10V/m以上とすることが可能となる。
【0105】
このように、本実施形態のインクジェットヘッド2は、フラットなヘッドでありながら、ノズルが突出されたヘッドと同様の電界集中をメニスカス先端部に効果的に生じさせることができるため、低電圧の静電電圧の印加でも効率良くかつ正確に液体を吐出することが可能となる。
【0106】
なお、本実施形態では、ピエゾ素子22の変形により形成されたメニスカスを静電吸引力で分離して液滴化し、静電電圧VCによる電界で加速して基板Kに着弾させる構成としているが、この他にも、例えば、ピエゾ素子22の変形による圧力のみで液体Lが液滴化する程度の強い駆動電圧を印加するように構成することも可能である。
【0107】
また、ノズル内の液体Lに圧力を生じさせ、ノズル10の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成する圧力発生手段としてピエゾ素子22の変形を用いる場合について示したが、圧力発生手段はこの機能を有するものであればよく、この他にも、例えば、ノズル10やキャビティ20の内部の液体Lを加熱するなどして気泡を生じさせ、その圧力を用いるように構成することも可能である。
【0108】
また、本実施形態では、対向電極3を接地する場合について述べたが、例えば、電源から対向電極3に電圧を印加して、帯電用電極16との電位差が1.5kV等の所定の電位差になるようにその電源を動作制御手段24で制御するように構成することも可能である。
【0109】
次に、静電吸引式吐出工程につき説明する。
【0110】
上記静電吸引型インクジェット装置1を用い、基板Kに対し液体を吐出してパターンを形成する。その際、まず、図6(A)に示すように、基板の所定位置に液滴を着弾させて吐出液体によるドット51を形成する。静電吸引型インクジェット装置によれば高電界により精度良く着弾位置が定まる。
【0111】
図6(A)には、3つのドット51を示した。まず、パターンを形成する範囲に所定の間隔でドットを形成する。
【0112】
次に、図6(B)に示すように、着弾したドット51aに一部重ねて隣接させて液滴を着弾させ、ドット51bを形成する。これにより、ドット51aからパターンを延設することができる。このとき、既に着弾したドット51aに一部重ねるように着弾させるから、ドット51bは、ドット51aに形成される強電界の作用と液体同士の親和性の作用により精度良く着弾位置が定まる。
【0113】
さらに、ドット51cを形成して、隣接して形成されたドット51dとパターンを繋げる。同様に、ドット51e、ドット51fを形成し、ドット51dとドット51gとを繋ぐ。
【0114】
さらに、図6(B)に示す既に形成されたドット上に液滴を着弾させてドット(図示せず)を積層する。これにより必要な厚みのパターンを形成するとともに、パターンのエッジの直線度を高めることができる。
【0115】
以上のようにしてパターンを一本に繋げ、積層することで必要な厚みに厚膜化するとともにエッジを整えて細線パターンを形成する。
【0116】
図6(B)は、当初の位置からドット51を1/3ずつずらして形成する例を示す。
【0117】
また、図7(A)→(B)→(C)→(D)→(E)のように、先ず、パターンを形成する範囲の端にある1つの点にドット51を形成し、さらにこれに連続してドットの一部を重ねながらパターンを一方向に連ねるように形成してもよい。
【0118】
以上の工程により、最小幅の線パターンを形成することができる。
【0119】
図8に示すように、隣接する最小幅の線パターンを形成した後、ドットの一部を重ねながらパターンを前記線パターンと垂直な方向に延設することにより、隣接する最小幅の線パターンの間を繋げて、幅広の線パターンや広面積の任意のパターンを形成することができる。
【0120】
図8に示すように、ライン幅L、スペース幅Sは、ドットの配置ピッチPとも関係するが吐出する液適量を制御して基板Kに形成するドット径を吐出工程時に選択することが可能である。
【0121】
以上の静電吸引方式の吐出工程により、細線を含む所望のパターンを形成することができる。なお、液体Lの種類により、静電吸引方式の吐出工程の後にパターンを形成する溶質を融着させるために所定の温度に加熱する必要がある場合がある。
【0122】
このインクジェット記録装置、特にオンデマンド型のインクジェット記録装置では、記録時にのみノズルからインクの液滴が吐出されるので、ノズル開口のインクが大気に曝露した状態で長時間経過することで、インクの溶媒のみが蒸発し、インクの液滴の吐出が不安定になったり、目詰まりしたりする場合がある。
【0123】
そこで、この事態を防ぐために、装置の非稼動時にはノズルの開口を封止し、ノズル内のインクの溶媒の蒸発を防止すること(キャッピング)がなされている。
【0124】
また、装置の立ち上げ時や、ノズルの目詰まりが疑われる時に、ノズルに負圧をかけて、乾燥したインクの固形物を吸引し、ノズル内にインクを充填すること(サッキング)や、ノズルをインク吸収体であるクリーニング材で洗浄すること(クリーニング)もなされている。
【0125】
また該線幅を達成するために、インク液滴の直径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、それに伴いインクヘッドも0.1μm以上30μm以下が好ましい。該インク液滴がインクヘッドから記録媒体へ着弾する前に乾燥してしまうのを防ぐためにインクジェットヘッドと記録媒体との間隙が0.1mm以上3mm以下であることが好ましく、0.5mm以上2mm以下であることがさらに好ましい。
【0126】
またノズルにインクが目つまりすることの防止のためにインクタンクに含まれる溶液の粘度が0.5cp以上10cp以下、表面張力が15〜80mN/m以上であることが好ましい。
【0127】
〔温度応答性高分子について〕
本発明においては、温度応答性高分子を一般的な細胞培養基材の上に塗布することが好ましい。温度応答性高分子とは、親水性と疎水性とが温度変化により可逆的に変化する高分子材料のことである。温度応答性高分子を表面に備えた細胞培養基材は、疎水性条件下では細胞と優れた接着性を示すため、細胞を好適に培養、増殖させることができ、また親水性条件下では、細胞との接着性を低下させることができるため、タンパク質加水分解酵素や化学薬品を使用せずに細胞を剥離できるため、細胞の破損や、基材の剥離混入を生じることなく、容易に細胞の剥離・回収が可能である。
【0128】
さらに、疎水性から親水性あるいは親水性から疎水性への変化が迅速であるため、温度をはじめとする外部環境を変化させる際に細胞に与える影響が少ないので好ましい。温度応答性高分子の親水性と疎水性とが変化する温度を臨界温度といい、特に高温で疎水性、低温で親水性になる時の温度を下限臨界温度という。細胞培養に使用される細胞は、多くは恒温動物由来であるため、人間の体温付近の37度近辺で培養されることが多く、該温度で細胞が細胞培養支持体に接着しやすい方が良く、つまり、37度近辺で細胞培養支持体表面は疎水性の性質であることが好ましい、細胞の剥離時には、熱によるたんぱく質の変性を起こさないために低温で細胞培養支持体から剥離した方が好ましい。つまり低温で細胞培養支持体表面は親水性の性質であることが好ましい。
【0129】
さらには、細胞を好適に培養・剥離できることから、該下限臨界温度が20℃以上40℃以下程度の温度範囲にあることが好ましい。
【0130】
本発明においては、温度応答性高分子としては、アクリルアミド系ポリマーがよく知られており、これはアクリルアミドモノマーを重合することにより得られる。
【0131】
このような重合体を与える水溶性有機モノマーの例としては、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体などを好ましく使用することができ、具体的にはN−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルピロリジンが挙げられる。
【0132】
かかる有機モノマーの重合体としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−n−プロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−エトキシエチルアクリルアミド)、ポリ(N−エトキシエチルメタクリルアミド)、ポリ(N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド)、ポリ(N−テトラフルフリルメタクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)が挙げられる。
【0133】
また水溶性有機モノマーの重合体としては、以上のような単一水溶性有機モノマーからの重合体のほか、これらから選ばれる複数の異なる水溶性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。
【0134】
また上記水溶性有機モノマーからなる重合体が好ましいが、上記水溶性有機モノマーとそれ以外の水溶性有機モノマー又は有機溶媒可溶性有機モノマーとの共重合体も、得られた重合体が親水性及び疎水性の両方を示すものであれば使用することができる。
【0135】
共重合に用いられる有機モノマーとしては、具体的にはN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、又は、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。なお、より好ましくは、N−アルキルアクリルアミド又はN,N−ジアルキルアクリルアミドが用いられる。アルキル基としては、炭素数が1〜4のものが好ましく選択される。その他には、アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン等も用いることができる。
【0136】
温度応答性高分子の少なくとも一つがアクリル系モノマーとその重合体(アクリル樹脂)を含有してもよく、アクリル系樹脂との共重合比率により、温度応答性高分子の下限臨界温度を変更できる。
【0137】
本発明におけるアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等の一般的なアクリル系樹脂でもよく、その誘導体で構わない。また脂環式炭化水素骨格からなる多環式炭化水素系化合物であるアクリル樹脂でもよく、多環式炭化水素系化合物としては、脂肪族の多環構造を有し、三次元的な架橋構造を含むものでもよい、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートや、アダマンチルメタクリレート、アダマンチルアクリレート等や、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、ビニルノルボルネン等が挙げられる。
【0138】
またアクリル系樹脂としては、アクリルモノマーを基本として他のモノマーと共重合してよく、本発明において、好ましい温度応答性高分子としては、好ましくは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0139】
【化1】

【0140】
ここにおいてR、Rは水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基を表す。R、R、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、又は、−(CHCHO)−(CHCH(CH)O)−Rで表されるポリオキシアルキレン基を表す。ここにおいてnは1〜300、mは0〜60の整数を表す。また、Rは、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基を表す。Rは炭素原子数3以上22以下のアルキル基を表す。また、x、y、zは各成分の質量%を表し、5≦x≦100、0≦y≦80、0≦x≦40、ここでx+y+z=100である。
【0141】
、Rで表される炭素原子数1〜8のアルキル基としては直鎖でもよく分岐してもよい。例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ドデシル基等を表し、また、置換されていてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、また、アシル基等の基を含み、例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。シクロアルキル基としてはシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0142】
、Rで表されるアリール基としてはフェニル基、またトリル基等の置換フェニル基が挙げられる。また、R、Rの少なくとも一つは水素原子であることが好ましい。
【0143】
で表される炭素原子数1〜30のアルキル基は、直鎖でもよく分岐してもよく、置換、無置換のアルキル基を含み、無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ドデシル基等の基を表す。また、置換アルキル基における置換基としてはハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の基を含み、例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。Rで表されるシクロアルキル基としてはシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、置換シクロアルキル基でもよい、また、シクロアルキル基の骨格炭素がヘテロ原子で置換された例えばオキソラニル基、オキサニル基、ピラジニル基等のヘテロ原子を含む飽和炭化水素基でもよい。
【0144】
に含まれてもよい−(CHCHO)−(CHCH(CH)O)−Rで表されるポリオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基の繰り返し単位(n)として1〜300が好ましく、より好ましいのは6〜100の範囲であり、さらに好ましいのは8〜50の範囲である。また、またRに含まれてもよいオキシプロピレン基の繰り返し単位(m)としては0〜60が好ましく、より好ましいのは0〜30の範囲であり、さらに好ましいのは0〜15の範囲である。これらオキシエチレン基とオキシプロピレン基は混在してもよい。Rで表される炭素原子数1〜30のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、デシル、ドデシル、ステアリル等の基が挙げられる。
【0145】
で表される炭素原子数3以上22以下のアルキル基としては、直鎖或いは分岐アルキル基でよく、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基、ステアリル基等を表す。
【0146】
一般式(1)の共重合体の製造は、各成分モノマーの共重合により得ることができる。
【0147】
下記に各成分モノマーの例を挙げるが、一般式(1)の条件を満たしていれば、これに限定されることはない。
【0148】
一般式(1)において、R、Rで表される基を含むモノマーとしては、代表的にはダイアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N−エチルアクリルアミド、N−ピロリジニルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル、N−イソロプロピルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−メチル、N−イソロプロピルアクリルアミド、N−ピペリジニルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等のモノマーが挙げられる。
【0149】
一般式(1)において、R、Rで表される基を含むモノマー単位、また、R、Rで表される基を含むモノマー単位としては、下記の中から選択して用いることができる。
【0150】
例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。
【0151】
また、例えば(ポリオキシアルキレン)アクリレート及びメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(オキシアルキレン)材料、例えば商品名”プルロニック”[Pluronic(旭電化工業(株)製)]、アデカポリエーテル(旭電化工業(株)製)、カルボワックス[Carbowax(グリコ・プロダクス)]、トリトン[Toriton(ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas製))]およびP.E.G(第一工業製薬(株)製)として販売されているものを公知の方法でアクリル酸、メタクリル酸、アクリルクロリド、メタクリルクロリド又は無水アクリル酸等と反応させることによって製造できる。
【0152】
また、上市されているものとして、日本油脂株式会社製のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPE−90、ブレンマーPE−200、ブレンマーPE−350、ブレンマーAE−90、ブレンマーAE−200、ブレンマーAE−400、ブレンマーPP−1000、ブレンマーPP−500、ブレンマーPP−800、ブレンマーAP−150、ブレンマーAP−400、ブレンマーAP−550、ブレンマーAP−800、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B、ブレンマーAEPシリーズ、ブレンマー55PET−400、ブレンマー30PET−800、ブレンマー55PET−800、ブレンマーAETシリーズ、ブレンマー30PPT−800、ブレンマー50PPT−800、ブレンマー70PPT−800、ブレンマーAPTシリーズ、ブレンマー10PPB−500B、ブレンマー10APB−500Bなどが挙げられる。同様に日本油脂株式会社製のアルキル末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしてブレンマーPME−100、ブレンマーPME−200、ブレンマーPME−400、ブレンマーPME−1000、ブレンマーPME−4000、ブレンマーAME−400、ブレンマー50POEP−800B、ブレンマー50AOEP−800B、ブレンマーPLE−200、ブレンマーALE−200、ブレンマーALE−800、ブレンマーPSE−400、ブレンマーPSE−1300、ブレンマーASEPシリーズ、ブレンマーPKEPシリーズ、ブレンマーAKEPシリーズ、ブレンマーANE−300、ブレンマーANE−1300、ブレンマーPNEPシリーズ、ブレンマーPNPEシリーズ、ブレンマー43ANEP−500、ブレンマー70ANEP−550など、また共栄社化学株式会社製ライトエステルMC、ライトエステル130MA、ライトエステル041MA、ライトアクリレートBO−A、ライトアクリレートEC−A、ライトアクリレートMTG−A、ライトアクリレート130A、ライトアクリレートDPM−A、ライトアクリレートP−200A、ライトアクリレートNP−4EA、ライトアクリレートNP−8EAなどが挙げられ、これらの中から選択し用いることができる。
【0153】
これらの共重合体からなるポリマーは親水性と親油性を併せもち下限臨界温度によりその性質が可逆的に変化する。下限臨界温度を変化させるには、一般式(1)のx、y、zの共重合比を変えることで任意に決めることができる。
【0154】
例えば、オキシエチレン基の繰り返し単位を多くすることで下限臨界温度を上げることができる。またR、Rの置換基を疎水性にすることで下限臨界温度を下げることができる。
【0155】
また、本発明で用いられるビニルモノマーとは、その化学構造中に少なくとも1個のエチレン性不飽和結合(ビニル基、ビニリデン基等)を有する化合物であればよく、例えば塩化ビニル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−エトキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、3−tert−ブチルスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン及び1−ビニルナフタレンなどを意味する。「ジエンモノマー」とは共役又は非共役の直鎖又は環状ジエンを意味し、例としてはブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,9−デカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、2−アルキル−2,5−ノルボルナジエン、5−エチレン−2−ノルボルネン、5−(2−プロペニル)−2−ノルボルネン、5−(5−ヘキセニル)−2−ノルボルネン、1,5−シクロオクタジエン、ビシクロ[2,2,2]オクタ−2,5−ジエン、シクロペンタジエン、4,7,8,9−テトラヒドロインデンおよびイソプロピリデンテトラヒドロインデンなどがある。
【0156】
温度応答性高分子を得るには、目的の下限臨界温度に応じた混合比率で、モノマーを混合し、例えば溶媒として各モノマー、また共重合体に対し溶解性のよい溶媒、例えばメチルエチルケトン等に溶解し、重合開始剤を加えて、室温或いは加温、又はUV光で溶液重合させればよい。
【0157】
共重合の形態としては、ランダム共重合でもよく、ブロック共重合でもよい。下限臨界温度の親水、疎水変化をシャープにするためには、ランダム共重合が好ましい。
【0158】
これらの、温度応答性高分子においては、重合開始剤としては、アクリル系モノマーとアミド系モノマーの重合であるため、ラジカルを発生する開始剤であることが好ましく、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤を用いることができる。
【0159】
油溶性の過酸化物系あるいはアゾ系開始剤が好ましく、一例を挙げると、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メチキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4′−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート等がある。
【0160】
特に、ターシャリイソブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物類、過酸化水素等が好ましい。
【0161】
また、そのほか、光重合開始剤も同様に好ましい重合開始剤としてあげられる。例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等の光ラジカル開始剤等が挙げられる。
【0162】
これら重合開始剤は、モノマーに対して、0.01〜20質量%、特に、0.1〜10質量%使用されるのが好ましい。
【0163】
本発明に係る共重合体の製造において反応の場としては、有機溶媒又は水を使ってもよく、又は使わなくてもよい。後工程で溶媒を除く必要があるため、好ましくは、溶媒を使用しない方がよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、エーテル、イソプロピルエーテル等エーテル類、またテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、あるいは芳香族炭化水素であるトルエン等特に制限はないが、原料となるモノマーに対しまた生成する共重合体に対し、溶解性の高い溶媒を選択して用いることが好ましい。
【0164】
重合温度が余り低くならない様に、溶媒の沸点としては50℃以上が好ましく、70℃以上がさらに好ましい。しかしながら、150℃以上と高くなると、その後の取り扱いに工数を要するので、150℃以下であることが好ましい。
【0165】
前記共重合反応において、重合後、最終的には、固形分濃度が10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、また、最終的な共重合体を含む溶液の粘度が固形分30質量%換算で10cp以上500cp以下となる重合度であることが好ましい。
【0166】
本発明に係る共重合反応においては、残モノマー量を1質量%以下とし、反応を終了させる。この測定は、ガスクロマトグラフにて行う。
【0167】
共重合ポリマーを含有する反応液は、貧溶媒と混合し、析出させ、さらに、溶解、析出を繰り返し、固形分として、単離することができ、本発明の温度応答性高分子を得ることができる。
【0168】
本発明においては、インクジェット装置に用いることから、用いるインクの粘度が0.5cp以上10cp以下、表面張力が15〜80mN/m以上であることが好ましい。
【0169】
又本発明においては、予め重合ポリマーを得て、これを用い表面被覆を行ってもよいが、インクとして前記組成のポリマーを形成するモノマー組成物(重合組成物溶液)を用いて、基材に着弾後に、前記ポリマーを基材上において形成することが好ましい。
【0170】
また、前述のように、基材上に原子移動ラジカル開始剤を、インクジェット法を用いて塗布したのち、そこから前記組成のポリマーを形成するモノマー組成物を重合・成長させ、基材上にてポリマーを形成する方法(ポリマーブラシ法)を用い、温度応答性高分子により表面被覆を行うことが、平滑で、均一な膜を形成できることからさらに好ましい。このモノマー組成物は前記の場合と同様に、反応の場としての溶媒、更に、前記重合開始剤等を含んで形成される。重合開始剤としては光照射によってラジカルを発生する光ラジカル開始剤が好ましい。
【0171】
本発明の細胞培養基材に上記温度応答性高分子による被覆を形成する際には、その特性を改良する目的で、重合時に公知慣用の有機架橋剤を使用してもよい。使用する有機架橋剤濃度は特に限定されず、目的に応じて選択できる。使用できる有機架橋剤としては、従来から公知のN,N′−メチレンビスアクリルアミド、N,N′−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N′−ジアリルタータルジアミド、N,N′−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が例示できる。
〔細胞培養支持体について〕
本発明にかかわる細胞培養支持体の基材としては各種高分子材料、ガラス、改質ガラス、ウール布、コットン布、紙、金属(例えばアルミニウム)等が挙げられる。取り扱い上の観点より本発明の細胞培養支持体における基材としては、プラスチック材料(例えば、セルロースアセテート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、セルローストリアセテート又はポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等)が好ましく、本発明においてはポリスチレンが特に好ましい。支持体の厚みとしては50〜3000μm程度、好ましくは70〜1800μmである。
【0172】
細胞培養用の基材は、温度応答性高分子を付着し易くさせるため基材表面にグロー放電、コロナ放電、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理又はシランカップリング処理などで表面処理を施されていてもよい。
〔細胞培養支持体上で培養される細胞とその積層化について〕
本発明の細胞培養支持体上で培養される細胞は温度応答性高分子の下限臨界温度以下にし、支持体表面を親水化することで培養された細胞を剥離する。この剥離された細胞を重ね合わせるにあたり、細胞が概ね2〜200層程度、特に5〜100層程度重なり合った積層体が得られるように、細胞数を調整することが望ましい。積層体において細胞が多数重なりすぎている場合には積層体の中央層部の細胞が栄養不足、ガス交換不足になり、細胞の重なりが少なすぎる場合は細胞数が少なく十分な機能を発揮する積層体が形成され難い。上記範囲であればこのような問題は生じない。
【0173】
本発明の細胞培養支持体は、2種類以上の下限臨界温度をもった温度応答性高分子で表面を加工しているため、それに合わせる形で2種類以上の異なった細胞を同一層内に共培養できる。この細胞のうち少なくとも1つを血管内皮細胞等の血管再生能力を秘めた細胞にすることで、積層数を増やしても細胞が栄養不足、ガス交換不足になりにくく、本特許の目的である多種類の細胞の分化機能を精密且つ厳密に発現、さらに組織としての機能を維持するこのできる細胞の培養方法が確立できることとなった。
【0174】
積層体の細胞数は、例えば積層体の載った透過性膜を切り出し、これをホルマリン固定後、パラフィン包埋切片を作製して顕微鏡観察することにより確認することができる。
【0175】
本発明方法の対象となる細胞としては、特に限定されるものではないが、接着性の動物細胞が好適である。細胞の由来も特に限定されず、ヒト、マウス、ラット等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、接着性の動物細胞は、初代培養細胞及び株化細胞の双方を対象とすることができる。
【0176】
本発明方法は、特に、細胞の機能維持が困難な初代培養細胞の培養に適する。初代培養細胞は、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄又は血液のいずれの組織に由来するものであってもよい。細胞培養支持体表面の温度応答性高分子の種類1つに対して1つの細胞を藩種することが適しており、細胞は、単一組織に由来する単一種類の細胞を用いることもできる。複数の温度応答性高分子が表面に存在している場合は、その数だけ異なる複数種の細胞を用いることもできる。
【0177】
具体的には、例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞又はリンパ球などを使用できる。細胞は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0178】
このようにして得られた細胞培養物は、例えば医用生体材料用の細胞として使用できる。本発明において、再生医用生体材料とは、ヒト等の動物の組織の代替物として使用される材料をいう。再生医用生体材料としては、培養された細胞の種類に応じて、人工膵臓、人工脾臓、人工腎臓、人工心臓のような人工臓器、人工消化管、人工血管、人工皮膚、人工神経、人工骨、人工軟骨、人工内耳、人工水晶体、人工角膜など、又はこれらの一部分が挙げられる。
【0179】
またヒト等の動物の組織の代替物として、実験用動物代替細胞、抗癌剤感受性試験、創薬支援等に使用される場合も再生医用生体材料に含まれる。
【実施例】
【0180】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を示す。
【0181】
(1)試料の作製
実施例1
(1.1)静電吸引方式インクジェット装置
本実施形態の図1で示したインクジェットヘッド2のノズルプレート11をポリテトラフルオロエチレン(PTFE) テオネックス(帝人デュポンフィルム株式会社製)の材料を用いて実際に作製し、ノズル10の吐出孔13から液滴D(後述する温度応答性モノマー溶液A〜G)を基材K(市販のポリスチレン製細胞培養皿(ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア(Becton Dickinson Labware)社製 ファルコン(FALCON)3001ペトリディッシュ(直径3.5cm)に吐出させて確認した。
【0182】
インクジェットヘッド2の構成は、ノズル10のテーパ角は4°で小径部14と大径部15とが連続した1段構造とした。
【0183】
また、液体Lは、後述するインク溶液A〜Rで調液した導電性の液体として調製した。
【0184】
(1.2)インク溶液A〜Rの調液
0.5リットルのビーカーに、メチルエチルケトン(MEK)230g、及び表1に記載の組成割合でNIPAM以外のモノマー(単位g)、を仕込み、さらに表1に記載のNIPAMモノマー(単位g)を滴下した。その後1時間室温で攪拌し、ラジカル重合開始剤としてイルガキュア2959(チバ・ジャパン(株)社製)1gを室温で滴下し、モノマー/MEK(30質量%)溶液A〜Iを作成した。また同様に、表1記載のラジカル重合開始剤としてイルガキュア2959(チバ・ジャパン(株)社製)の添加されていないモノマー溶液J〜Rを作成した。また、表1記載の原子移動ラジカル開始剤(表1記載の添加量)のトルエン溶液S〜T(表1記載の添加量)も作成した。
【0185】
以下において、
NIPAM:N−イソプロピルアクリルアミド(興人製)
DEAA:N−ジエチルアクリルアミド(興人製)
BMA:ブチルメタクリレート(東京化成品)
PME−400:ブレンマーPME−400
−(EO)−CH(m≒9)を有するメタアクリレート
PSE−400:ブレンマーPSE−400
−(EO)−C1837(m≒9)を有するメタアクリレート
以上において、EO;エチレンオキシ基
上記はすべて日本油脂製。
St:スチレンモノマー(東京化成品)
PEG400:ポリエチレングリコール400(東京化成品)
PEG800:ポリエチレングリコール800(東京化成品)
開始剤−1:イルガキュア2959(チバ・ジャパン(株)社製)UV開始剤
開始剤−2:(5−トリクロロシリルペンチル)−2−ブロモ−2−メチルプロピオネート(原子移動ラジカル開始剤)
開始剤−3:2−(4−クロロスルフォニルフェニル)エチルトリメトキシシラン(原子移動ラジカル開始剤)
モノマー溶液A〜R、また原子移動ラジカル開始剤溶液の粘度及び表面張力を測定した。粘度は、CBCマテリアルズ株式会社製VM−10A粘度計により、また、表面張力は協和界面科学社製CBVP−Zを用いた(25℃)。
【0186】
また、温度応答性モノマー溶液A〜Iそれぞれと同組成のポリマーを合成し、下限臨界温度を測定した結果を同時に示す。尚、下限限界温度は、作製されたポリマーを、25℃の純水に溶解させ10質量%濃度のポリマー溶液を作製したのち、溶液の温度を上げてゆき、ポリマーが析出する温度を下限臨界温度とした。
【0187】
【表1】

【0188】
(1.3)モノマーによる基材へのパターニング(表2 No.1〜9記載)
前記静電吸引型インクジェット装置を使用し、前述するモノマー溶液A〜Iで調液した導電性の液体をインクタンク1とインクタンク2にそれぞれインクの代わりに入れて使用した。その時の液粘度と表面張力を表1に記載した。
【0189】
先ず、インクタンク−1中のインク溶液を基板全面に細線パターンを除き塗布したのち、UV光(170mW/cm)を距離5cmで、10秒間照射して、重合させポリマーパターンを形成した。
【0190】
その後、インクタンク−2から、残した細線のパターンに従って図1の静電吸引方式のインクジェット装置によりインクタンク−2のインク溶液を吐出して細線パターンを作製した。
【0191】
基板からノズル吐出口までのギャップを1mmの間隙とし、基板側に500V印加し、ヘッドインク側をアースに駆動周波数30khzで線状の細線パターンを幅10μmで形成した。
【0192】
静電吸引型インクジェットによるドット形成は、図6(B)に示すように各1層を1/3ピッチずつずらして形成した。パターン形成後、UV光(170mW/cm)を距離5cmで、10秒間照射して重合させ、サンプルを作成した。
【0193】
また、上記のパターンを静電吸引型インクジェットでない通常オンデマンド型のインクジェットで行ったサンプルを作成した(表2参照)。
【0194】
また同様のパターンのマスクを作成したのちスプレー法を用いて、また、フォトリソ法を用いて同じパターンをレジストパターンで作製したのち、塗布、UV光照射後、レジストパターンを除いて作成したサンプルもそれぞれ作成した(表2参照)。
【0195】
得られた基材について、エリプソメトリー(J.A.Woollam社製VB−250)で膜厚を測定したところ表2記載の膜厚でグラフトポリマー層が形成されていることが確かめられた。
【0196】
(1.4)開始剤による基材へのパターニング(表2記載 No.10〜20)
先ず、インクタンク−1中に表2記載のインクS又はT溶液を基板全面に細線パターンを除き塗布したのち、基材を取り出し、トルエン、メタノールで洗浄し、表面に開始剤である末端シランカップリング剤を固定化させた基材を得た。
【0197】
表1記載のモノマー溶液J〜RにAr気流下、塩化銅(I)0.891g(9.0mmol)、2、2′−ビピリジル3.12g(20.0mmol)を加え、均一となるまで撹拌した。次に、上記の方法で作製した基材をこれら溶液に浸し、一晩撹拌した。反応停止後、水で洗浄した。更にメタノールを含ませた布:ベムコットン(登録商標)で表面をこすり洗浄することで、表面にグラフトポリマー鎖を有する基材(表2記載)を得た。
【0198】
次に得られた基材を表2記載のインクS又はT溶液をインクタンク−2から、残した細線のパターンに従って図1の静電吸引方式のインクジェット装置によりインクタンク−2の表2記載のインクS又はT溶液を吐出して細線パターンを作製した。
【0199】
その後、基材を取り出し、トルエン、メタノールで洗浄し、細線のパターン表面に開始剤である末端シランカップリング剤を固定化させた基材を得た。
【0200】
得られた基材を、表1記載のモノマー溶液J〜RにAr気流下、塩化銅(I)0.891g(9.0mmol)、2、2′−ビピリジル3.12g(20.0mmol)を加え、均一となるまで撹拌した溶液に浸し、一晩撹拌した。反応停止後、水で洗浄した。更にメタノールを含ませた布:ベムコットン(登録商標)で表面をこすり洗浄することで、細線のパターン表面にグラフトポリマー鎖でパターニングを有する基材を得た。
【0201】
得られた基材について、エリプソメトリー(J.A.Woollam社製VB−250)で膜厚を測定したところ表2記載の膜厚でグラフトポリマー層が形成されていることが確かめられた。また、エリプソメトリーでその他の数箇所を測定してもほぼ同じ厚みであり、均一な厚みのグラフトポリマー層が形成されていることが判明した。
【0202】
(1.5)細胞の培養
上記作製した細胞培養支持体に培養細胞を播種して細胞の培養を行った。培養する細胞は、パターニングされた温度応答性高分子表面の下限臨界温度違いを利用して、表2記載の細胞をパターニングさせた。即ち一方の下限臨界温度以上、他方の下限臨界温度以下の温度で、培養液に、前記ポリマーがパターニングされた細胞培養支持体を浸し、さらに温度を他方の下限臨界温度以上に上げ、別の培
養液に浸す方法で作成した。培養は、ウシ胎児血清(ICN製)を10%含有するミニマム・エッセンシャル・イーグル培地(SIGMA製)(ピルビン酸(ICN製)及び非必須アミノ酸(ICN製)を添加剤として含有)使用し、5%炭酸ガス充填37℃恒温器内で行った。
【0203】
播種してから1週間後、この細胞培養アレイを、20℃恒温槽内に5分間静置してから、表面を光学顕微鏡にて観察したところ、細胞が細胞培養アレイ上にパターニングされて接着して、また十分に増殖していたことが確認された。この取り出した細胞についてトリプシン−EDTA処理を行い、各細胞を個々の状態に分離した後、トリパンブルー染色を行うことによって、生細胞数を計測したところ、表2記載No.2の培養開始時には8.2×10個であった細胞数が、培養後は5.3×10個に増加したことが確認された。この細胞培養後の値を100%として、以下の結果を表2及び表3に記載した。本発明は、比較に対してよいことが確認できた。
【0204】
(1.6)線幅バラツキ特性
光学顕微鏡で線巾の両端の直進性を評価してバラツキ範囲が2μm以上を△、2μm未満を○、1μm以下を◎とした。
【0205】
(1.7)細胞の積層
上記(1.4)で作成した細胞で培養14日後、培養した細胞の上に直径3.5cmのポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜をかぶせ、培地を静かに吸引し、細胞培養支持体材料ごと20℃で30分インキュベートし冷却することで(ポリマーを下限臨界温度以下とし親水化することで)、いずれの細胞培養支持体材料上の細胞もそのかぶせた膜と共に剥離させられた。かぶせた膜と細胞を同様に作製した細胞培養支持体材料上で正常に増殖した同一の培養細胞の上にかぶせて、5%炭酸ガス充填37℃恒温器内で2枚を接着させた。2枚の細胞シートが接着した後、PVDF膜を剥離した。同様の操作を繰り返すことで20層の細胞シートを作成した。
【0206】
かぶせた膜はいずれの細胞シートから容易に剥がすことができた。20枚の積層された細胞シートは、細胞、細胞間のデスモソーム構造、及び細胞、基材間の基底膜様蛋白質が保持されていた。
【0207】
(1.7)細胞の剥離性の評価
上記(1.6)で細胞培養支持体上から細胞剥離した際の細胞の状態を目視で観察し、下記の基準に従って、評価を行った。表2及び表3記載の結果は、1枚目から20層目重ね合わせるまでの平均をとった。
◎:問題なく完全に剥離できた
○:わずかに細胞が支持体に残るが、問題ないレベル
△:一部の細胞が支持体に残り、シートに穴が確認されるレベル
×:支持体から剥がれるが、シートがぼろぼろになる
××:支持体から細胞が剥がれない
【0208】
【表2】

【0209】
【表3】

【0210】
本発明の培養支持体は生細胞数の計測結果も比較に対しよく、また、線幅バラツキ特性も良好であり、支持体からの細胞の剥離も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】静電吸引型インクジェット装置の一実施形態に係る全体構成を示す断面図である。
【図2】形状が異なるノズルの変形例を示す図である。
【図3】シミュレーションによるノズルの吐出孔付近の電位分布を示す模式図である。
【図4】静電吸引型インクジェット装置の一実施形態に係るにおけるインクジェットヘッドの駆動制御の一例を示し、駆動制御とメニスカスの動きとの関係を説明する図である。
【図5】ピエゾ素子に印加する駆動電圧の変形例を示す図である。
【図6】静電吸引方式の吐出工程におけるドット形成の流れの一例を示す図である。
【図7】静電吸引方式の吐出工程におけるドット形成の流れの別の一例を示す図である。
【図8】静電吸引方式の吐出工程におけるドット形成の流れのさらに別の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0212】
1 静電吸引型インクジェット装置
2 インクジェットヘッド
3 対向電極
10 ノズル
11 ノズルプレート
12 吐出面
13 吐出孔
18 静電電圧電源
20 キャビティ
22 ピエゾ素子
23 駆動電圧電源
24 動作制御手段
28 撥液層
L 液体
K 基板
51 ドットパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、二種以上の温度応答性高分子により、異なる領域に表面被覆を行った細胞培養支持体であって、該温度応答性高分子により表面被覆を行った異なる領域のうち、少なくとも一つの領域の線幅の最小値が0.1μm以上30μm以下であり、かつ該温度応答性高分子の膜厚が0.1nm以上500nm以下であることを特徴とする細胞培養支持体。
【請求項2】
前記温度応答性高分子を重合する際に用いる重合開始剤の少なくとも1つが原子移動ラジカル開始剤であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養支持体。
【請求項3】
前記温度応答性高分子がアクリルアミド系モノマー、アクリル系モノマー、ビニル系モノマーから選ばれる少なくとも1つを含むモノマーを重合することにより得られた高分子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養支持体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養支持体上で細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養支持体上で複数種の細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の細胞培養方法で培養した細胞を温度応答性高分子の下限臨界温度以下にして剥離することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞培養方法により剥離された細胞を重ね合わせることを特徴とする細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−98973(P2010−98973A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271627(P2008−271627)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】