説明

細胞培養方法及び細胞培養装置

【課題】培養細胞を安価に、かつ、大量に製造することができる細胞培養方法及び細胞培養装置を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有する基材12を搬送するとともに、該基材の表面に細胞を供給し、細胞が供給された基材を培養液30中に浸漬させた状態で搬送しながら前記細胞を増殖させて、細胞32を前記基材の表面から回収する。基材の表面が多孔質フィルムにより形成されていることが好ましく、孔がハニカム状に配置されていることが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養方法及び細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来から行われてきた臓器移植や人工臓器を用いる治療法にとって代わる方法として、再生医療に大きな期待が寄せられている。再生医療の研究は、骨髄移植のような幹細胞の補充による細胞・組織の再生、創傷治癒、手術時の皮膚、臓器の損傷修復を目指した研究と、狭義の組織工学(Tissue engineering)という概念で捉えられる一連の研究という2つの方向性で発展してきた。狭義の組織工学とは、細胞が生体内で生着する際に必要な足場(scaffold)と細胞の両方を用いて修復しようとする研究である。再生医学には「細胞」、「細胞の増殖・分化のための足場」、及び「細胞増殖因子」が必要である。再生医療においては、より長期間生存し、生体内における本来の機能をより高いレベルで発現する手段が重要である。
培養細胞については、三次元的に集合した組織体(スフェロイド)を形成した場合には、二次元的に形成した場合に比べて、より長期間生存し、生体内における本来の機能をより高いレベルで発現することが報告されている。このため、培養細胞から三次元組織体を形成する技術は、例えば、生体の挙動を再現するシミュレータ、薬品開発における動物実験の代替技術、細胞移植による再生医療技術等への応用が期待されている。
【0003】
このような培養細胞の三次元体(スフェロイド)を形成する技術として、例えば、流動性の培地中で回転させながら培養する方法(特許文献1参照)、所定の粘度以上の細胞培養液を用いる方法(特許文献2参照)、ゾル状態の培養液にスフェロイド前駆体を浮遊させた後、培養液をゲル化して培養を行う方法(特許文献3参照)、細胞は透過せず培養液は透過し得る網目状構造物を設けた培養容器(特許文献4参照)などが提案されている。
【0004】
また、細胞増殖に良好な足場(scaffold)となり得る材料として、非水溶性ポリマーから形成され、ハニカム構造、即ち、基底フィルムの表面に基底フィルムに垂直な隔壁で区画された複数の小空間が互いにヘキサゴナルに位置するように形成された構造を有するハニカム多孔質体の使用が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2004−520023号公報
【特許文献2】特開平7−79772号公報
【特許文献3】特開平8−140673号公報
【特許文献4】特開平8−70847号公報
【特許文献5】特開2001−157574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞培養において、上記のような種々の培養方法、培養液、培養容器等が提案されているが、今後、培養細胞を薬品開発における動物実験の代替技術や細胞移植による再生医療技術等に益々適用するには、培養細胞を安価に、かつ、大量に製造することが望まれる。
【0006】
本発明は、培養細胞を安価に、かつ、大量に製造することができる細胞培養方法及び細胞培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば以下の細胞培養方法及び細胞培養装置が提供される。
【0008】
<1> 表面に凹凸を有する基材を搬送するとともに、該基材の表面に細胞を供給する工程と、前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞を培養する工程と、前記培養した細胞を前記基材の表面から回収する工程を含むことを特徴とする細胞培養方法。
<2> 前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞をスフェロイド化することを特徴とする<1>の細胞培養方法。
<3> 前記基材の搬送速度を0.001〜100m/分とすることを特徴とする<1>又は<2>に記載の細胞培養方法。
<4> 前記基材として連続したシート状基材をロールから繰り出して供給する工程と、前記培養した細胞を回収した後の前記シート状基材を巻き取る工程とをさらに有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の細胞培養方法。
<5> 前記基材が連続した無端のシート状基材であり、前記培養した細胞を回収した後のシート状基材を洗浄する工程をさらに有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の細胞培養方法。
<6> 前記基材の表面が、多孔質フィルムにより形成されていることを特徴とする<1>〜<5>のいずれかに記載の細胞培養方法。
<7> 前記基材が、前記多孔質フィルムを支持する支持体を含むことを特徴とする<6>に記載の細胞培養方法。
<8> 前記多孔質フィルムが、疎水性の高分子多孔質フィルムであることを特徴とする<6>又は<7>に記載の細胞培養方法。
<9> 前記多孔質フィルムの支持体が金属製であることを特徴とする<7>又は<8>に記載の細胞培養方法。
<10> 前記多孔質フィルムが、三次元網目構造を有し、表面に孔がハニカム状に配置していることを特徴とする<6>〜<9>のいずれかに記載の細胞培養方法。
<11> 前記基材の表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域と、該細胞接着性領域の周りを囲む細胞非接着性領域とが配置されていることを特徴とする<1>〜<10>のいずれかに記載の細胞培養方法。
<12> 前記基材の表面に、前記細胞をインクジェットヘッドにより供給することを特徴とする<1>〜<11>のいずれかに記載の細胞培養方法。
【0009】
<13> 表面に凹凸を有する基材を所定の方向に搬送する手段と、
前記搬送される基材の表面に細胞を供給する手段と、
前記細胞を培養する培養液を収容し、前記細胞が供給された基材を前記培養液に浸漬させる培養液槽と、
前記培養した細胞を前記基材の表面から回収する手段と、
を含むことを特徴とする細胞培養装置。
<14> 前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞をスフェロイド化することを特徴とする<13>に記載の細胞培養装置。
<15> 前記基材を搬送する手段が、前記基材を0.001〜100m/分の搬送速度で搬送する手段であることを特徴とする<13>又は<14>に記載の細胞培養装置。
<16> 前記基材として連続したシート状基材をロールから繰り出して供給する手段と、前記培養した細胞を回収した後の前記シート状基材を巻き取る手段とを有することを特徴とする<13>〜<15>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<17> 前記基材が連続した無端のシート状基材であり、前記培養した細胞を回収した後のシート状基材を洗浄する手段をさらに有することを特徴とする<13>〜<15>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<18> 前記基材の表面が、多孔質フィルムにより形成されていることを特徴とする<13>〜<17>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<19> 前記基材が、前記多孔質フィルムを支持する支持体を含むことを特徴とする<18>に記載の細胞培養装置。
<20> 前記多孔質フィルムが、疎水性の高分子多孔質フィルムであることを特徴とする<18>又は<19>に記載の細胞培養装置。
<21> 前記多孔質フィルムの支持体が金属製であることを特徴とする<19>又は<20>に記載の細胞培養装置。
<22> 前記多孔質フィルムが、三次元網目構造を有し、表面に孔がハニカム状に配置していることを特徴とする<18>〜<21>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<23> 前記基材の表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域と、該細胞接着性領域の周りを囲む細胞非接着性領域とが配置されていることを特徴とする<13>〜<22>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<24> 前記細胞を、インクジェットヘッドにより前記基材に供給することを特徴とする<13>〜<23>のいずれかに記載の細胞培養装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、培養細胞を安価に、かつ、大量に製造することができる細胞培養方法及び細胞培養装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る細胞培養方法及び細胞培養装置について、主にスフェロイドの製造方法及びスフェロイド製造装置を例に、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る細胞培養方法は、表面に凹凸を有する基材を搬送するとともに、該基材の表面に細胞を供給する工程と、前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞を培養する工程と、前記培養した細胞を前記基材の表面から回収する工程を含む。
【0012】
−第1の実施形態−
本発明に係るスフェロイドの製造方法は、例えば図1に示すような構成の装置を用いて好適に行うことができる。
本実施形態のスフェロイド製造装置10は、表面に凹凸を有する連続したシート状基材12を所定の方向に連続的に搬送する手段(基材搬送手段)14,16,18a,18bと、前記連続的に搬送される基材12の表面に細胞を断続的又は連続的に供給する手段(細胞供給手段)20,22,24と、前記細胞をスフェロイド化する培養液30を収容し、前記細胞が供給された基材12を前記培養液30に浸漬させる培養液槽(細胞培養手段)28と、前記スフェロイド化した細胞32を前記基材12の表面から回収する手段(細胞回収手段)34,44とを含んでいる。
このような装置構成により、表面に凹凸を有する連続したシート状基材12を連続的に搬送させるとともに、基材12に細胞を断続的又は連続的に供給した後、一定期間培養液30中に浸漬させながら搬送させて細胞を培養し、スフェロイド化した細胞32を基材12から回収することができる。
【0013】
<基材>
基材12は、表面に凹凸が形成されており、供給された細胞を保持し、搬送中、細胞が脱落しないように、培養する細胞の種類、サイズ等に応じて選択すればよい。例えば、多孔質有機樹脂製フィルム、メッシュフィルム、任意の方法による微細加工フィルムなどが挙げられる。微細加工フィルムの例としては、微小な孔がハニカム状に配置された、いわゆるハニカムフィルム、ナノインプリントにより表面にμm又はnmオーダーの凹凸を施した樹脂フィルム、光リソグラフィー技術を用いた、任意のサイズ・形・分布・パターンの孔(例えば10μm径の均一六角柱状孔)をハニカムパターンに配置したフィルム、平均直径が1μm〜10μmのランダムなサイズの円筒孔がランダムに配置したフィルム、マイクロ打ち抜き加工や射出成形加工で同様に作製した多孔質フィルムなどが挙げられる。本発明の基材12としてはハニカムフィルムが好ましい。
【0014】
例えば、多孔質フィルムを用いる場合は、フィルムの厚さ方向に貫通し、または貫通しない孔を有するフィルムであって、かつ、細胞などの組織体を表面に保持できるものであれば、材質、構造、孔の形態および孔径、孔径分布、孔の位置の分布、開孔率(フィルム面積に対する表面開孔部総面積の割合)は特に限定されず、細胞の種類に応じて選択すればよい。より具体的な例として、下記のような方法により製造したものが挙げられる。
例えば、ワイヤー状、フィラメント状の素材を高密度で編成或いは織成してシート状の織編体とする方法、繊維集合体を繊維の絡み合いや融着、バインダーなどにより成形して不織布とする方法、樹脂材料などに発泡、或いは加圧発泡等により連通孔構造を形成して多孔質フィルム(多孔質シート)とする方法、有機溶媒と高分子化合物を含む液を支持体上にキャストするキャスト法により連通孔、貫通孔を形成したフィルムを形成する方法、パンチング等の方法で穿孔して多孔質フィルムを得る方法などが挙げられる。
【0015】
多孔質フィルムにおける孔の形態および孔径については、例えば、細胞の平均径の80%以下の円柱状や四角柱状の貫通孔、細胞の平均径よりも狭い孔径であって、表裏面を連通してなる孔を有する多孔構造などが挙げられる。
孔径分布や孔の位置の分布については例えば、精密メッシュフィルターのような単分散なもの、一般的な多孔質フィルムのような多分散なものが挙げられる。
開孔率については、精密メッシュフィルターのように80%を超えるもの、一般的な多孔質フィルムのように50%以下のものなど、いずれも目的に応じて使用することができる。
【0016】
本発明に使用しうる多孔質フィルムにおける孔径としては、前記の如く細胞の平均径の80%以下の孔径、細胞の平均径よりも狭い孔径であることが三次元組織体の形成には好ましいが、より具体的には、孔径は0.01μm〜100μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1μm〜50μm、さらに好ましくは1μm〜20μmの範囲である。なお、本発明における多孔質フィルムの孔径の大きさは、その形状に拘わらず特に断らない限り、最大径を表すものとし、例えば、円形であれば直径を、矩形であれば対角線の長さを意味するものとする。この多孔質フィルムにおける空孔の孔径は、市販の高倍率顕微鏡やSEM表面観察によって測定することができる。
【0017】
また、培養する細胞の平均径とこの空孔径との関係を制御することで、例えば、フィルムの厚さ方向に貫通した孔を有する多孔質フィルムを使用する場合、フィルムの表面のみならず、播種側の裏面にも組織体を形成することが可能となる。即ち、多孔質フィルムとして孔径が細胞径よりも小さいものを使用すれば、細胞播種側の多孔質フィルムの表面および細胞播種反対側の多孔質フィルム表面(裏面)の両面にスフェロイドを形成することができる。一方、多孔質フィルムの孔径が細胞径よりも大きいものを用いて同様の培養を行った場合は、細胞播種した多孔質フィルム表面ではなく、その反対側の多孔質フィルム裏面上にスフェロイドが形成される。従って、多孔質フィルムの孔径を制御することで組織体の形成方向を制御することができる。
ただし、搬送中における基材12の破損を防ぐため、表面の多孔質フィルムと、該多孔質フィルムを支持する支持体とを含む基材12を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを支持体とし、この樹脂フィルム上に多孔質フィルムを一体的に形成した基材12を用いることができる。このような基材12であれば、細胞は表面となる多孔質フィルム側のみで増殖してスフェロイドを形成することとなる。
【0018】
また、表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域と、該細胞接着性領域の周りを囲む細胞非接着性領域とが配置されている基材を用いてもよい。例えば、多孔質フィルムの表面に上記細胞接着性領域と、細胞非接着性領域のパターニングを行えばよい。
【0019】
この細胞非接着性物質としては、例えば、細胞接着性領域で培養する細胞の細胞膜に存する細胞表面分子に対して結合しない物質を用いることができる。具体的に、生体から取得された細胞非接着性物質としては、例えば、アルブミン等の高い親水性を示すたんぱく質等を好ましく用いることができる。また、合成された細胞非接着性物質としては、例えば、ポリエチレングリコール等の極めて高い親水性を示す高分子鎖を含む化合物や、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、poly−HEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)、SPC(セグメント化ポリウレタン)等を好ましく用いることができる。また、これら細胞非接着性物質の誘導体としては、例えば、当該細胞非接着性物質に任意の官能基や高分子鎖を、所定の化学反応等によって結合したものを好ましく用いることができる。上記の中で、特に好ましい細胞非接着性物質は、ポリエチレングリコールである。
【0020】
細胞非接着性物質またはその誘導体は、例えば、当該細胞非接着性物質またはその誘導体を含む水溶液中において、当該細胞非接着性物質またはその誘導体が有する官能基と、表面に露出している官能基とを所定の化学反応等によって結合させることにより、当該細胞接着性領域の周辺領域表面に固定できる。
基材の具体的な製造方法等については後述する。
【0021】
<基材搬送手段>
基材12を搬送する手段は、2つの搬送ローラ(供給ローラ14及び回収ローラ16)と、補助ローラ18a,18bにより構成されている。供給ローラ14には、表面に凹凸を有する連続したシート状基材12がロール状に巻かれており、基材12を連続的に繰り出して供給することができる。一方、回収ローラ16には、スフェロイド化した細胞32が基材12から回収された後、使用後の基材12が巻き取られる。供給ローラ14による基材12の供給速度と回収ローラ16による基材12の回収速度とが同じとなるように各搬送ローラ14,16の回転速度を制御することで、基材12を供給ローラ14から回収ローラ16に向けて一定の速度で搬送することができる。なお、基材12の強度等に問題がなければ、回収ローラ16を駆動ローラとし、供給ローラ14を従動ローラとすることにより基材12を搬送するようにしてもよい。
また、補助ローラ18a,18bの位置や数は任意であり、供給ローラ14から供給された基材12を培養液30中に導いて浸漬させ、培養液30中でスフェロイド化した細胞32を回収ローラ16の手前で基材12から回収できるように適宜設ければよい。
このように供給ローラ14、回収ローラ16、及び補助ローラ18a,18bを設けることで、ロール・ツー・ロールにより基材12を供給ローラ14から回収ローラ16の方向に向けて所定の速度で搬送することができる。
【0022】
<細胞供給手段>
供給ローラ14から送り出された基材12を介して補助ローラ18aにほぼ対向する位置にインクジェットヘッド20が設けられている。インクジェットヘッド20は、細胞が蓄えられた容器22にパイプ24を介して繋がれており、連続的に搬送される基材12の表面に対して細胞を含む液26を供給する。このようなインクジェットヘッド20を備えることで、連続的に搬送される基材12の表面に、細胞を含む液を一定の量で断続的に供給することができる。なお、細胞供給手段はインクジェットヘッド20に限定されず、細胞に損傷を与えずに基材12上に断続的に供給することができればディスペンサー等の他の供給手段を用いてもよい。
【0023】
<細胞培養手段>
細胞が供給された基材12は、培養液30が収容された培養液槽28に導かれ、基材12及び基材12の表面に保持された細胞は培養液30に浸漬された状態で搬送される。培養液30は細胞の種類に応じて選択すればよく、培養液30の温度も細胞の種類に応じて設定すればよい。培養液槽28には、培養液30を一定の温度に保つためのヒータのほか、浄化を行うための循環システム等を設けてもよい。
基材12に保持された細胞は、回収ローラ16に到達する前にスフェロイド化させる必要がある。そのため、培養液槽28の長さは、細胞の種類、基材12の搬送速度等に応じて選択すればよい。例えば、培養する細胞、使用する基材、培養液を用い、細胞がスフェロイド化するまでの時間を測定し、培養液槽28の長さと搬送速度を選択することができる。なお、基材12の搬送速度は、細胞が基材から離脱しない速度とし、通常は、基材の搬送速度を0.001〜100m/分とすることが好ましく、より好ましくは0.002〜80m/分、さらに好ましくは0.003〜60m/分である。
【0024】
<スフェロイド回収手段>
培養液30中でスフェロイド化した細胞32は、基材12に保持された状態で培養液槽28から出た後、基材12の表面から回収される。スフェロイド32を回収する手段は特に限定されず、例えば、吸引、ブレードによるかき取り等を採用することができる。例えば、図3に示すようなV字状のブレード36と吸引口34を組み合わせた回収手段を採用することができる。基材12に保持されているスフェロイド32は、基材12の移動に伴ってV字ブレード36と接触して基材12から離脱し、それぞれブレード36に沿って両サイドの各吸引口34に導かれて吸い込まれる。このような回収手段を用いればスフェロイド32をより確実にかつ効率的に回収することができる。
なお、本実施形態に係るスフェロイド製造装置10は、雰囲気中の雑菌による汚染を防ぐため、クリーンルーム、クローズドシステムに収容して稼動させることが好ましい。
【0025】
<多孔質フィルムの製造方法>
基材12を構成する多孔質フィルムのうち、最も好ましいのは、有機溶媒と高分子化合物を含む液を支持体上にキャストして膜を形成し、前記膜中に空隙が形成されたハニカム状或いは任意の形状の連通孔が形成されてなる多孔質フィルムである。
図4(A)〜(C)は、多数の空孔がハニカム状に配置された構造(ハニカム構造)を有する多孔質フィルム(以下、ハニカムフィルムと略称する場合がある。)50の一例を概略的に示している。本発明でいうハニカム構造とは、具体的には、図4(A)に示すようにほぼ一定の形状とサイズを有する空孔52が膜本体54に連続的にかつ規則的に配列している構造を意味する。このような規則的な孔52の配列は、単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有するものでもよい。この規則性は、二次元的には1つの空孔の周囲を複数(例えば、6つ)の空孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、空孔が最密充填のように配置ことが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。例えば、図2のSEM写真に見られるように、厚さ方向に貫通せず、隣接する空孔同士が連通するハニカムフィルムを得ることもできる。
【0026】
ハニカム構造の多孔質フィルム50の表面には、ほぼ所定の間隔Lで各孔52の開口部が現れ、本発明では、その開口部の径Dを開口径と呼ぶこととする。ハニカム構造の規則性は、このような空孔52の開口径の変動係数で比較的簡便に評価することができる。通常は、変動係数が小さいほど多孔質フィルムの力学強度を高くすることができ、本発明に係るハニカムフィルム50における変動係数は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
図4に示されるように孔50が規則的に配列された多孔質フィルム(多孔質基材)50を作製する方法としては、まず、支持体上に原料溶液をキャストして液膜(高分子膜)を形成する。次いで、結露乾燥工程により、雰囲気中の水分を結露させて高分子膜中に液滴を形成させる。その後、液滴を蒸発させることで、例えば図2のSEM写真に見られるような孔が規則的に配列された多孔質フィルムを得ることができる。
【0028】
このようなキャスト法によれば、高分子溶液に含まれる樹脂、溶剤、添加剤などの原料や、成膜雰囲気における湿度、湿潤空気の供給条件などの諸条件を調整することにより、孔の形状や配列を制御することができ、例えばハニカム状或いは任意の形状の連通孔が形成されてなる多孔質フィルム50を得ることができる。また、例えば、貫通孔としてのみならず、隣接する周囲の孔と連通して、所謂三次元網目構造の空隙52を有する多孔質フィルム50を複雑な工程を必要とせずに製造することができる。
【0029】
ハニカム状多孔質フィルム(ハニカムフィルム)の具体的な製造方法としては、例えば、特願2007−039992、特願2007−081832に記載されている方法を好ましく適用することができる。
図5は、本発明に係るハニカム状多孔質フイルムの製造方法の一例を概略的に示すである。まず、液調製工程において高分子化合物と溶媒と両親溶性化合物などの添加剤とから高分子溶液(以下、液と称する)を調製する。
また、支持体形成工程において支持体66を製造する。次いで、キャスト工程により液を支持体66上にキャスト(塗布)して高分子膜60を形成する。
支持体66上に高分子膜60を形成した後、結露工程(図5(A)参照)を行い高分子膜60中に水を主成分とする液滴64を形成する。次いで、乾燥工程を行い、高分子膜60中の有機溶媒68を揮発させ(図5(B))、さらに高分子膜60の液滴64を水蒸気70として蒸発させる(図5(C))。これにより図4に示したようなハニカム状多孔質フイルム50が得られる。なお、ハニカム状多孔質フイルム50に機能性物質を含有させるなどして機能性構造体(機能性フィルム)を得ることもできる。
【0030】
多孔質フィルム及び支持体は、合成樹脂、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)等の合成ゴム、天然ゴム等から成形される。合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル、シリコーン等を好ましく用いることができる。
【0031】
多孔質フィルムの形成に用いる材料は、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、疎水性ポリマー及び両親媒性化合物から選択される少なくとも1種が好適である。
【0032】
多孔質フィルムを構成する疎水性ポリマーは、公知のもののなかから、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、2種以上の構造単位を共重合させてなるコポリマーや2種以上のポリマーの混合物であるポリマーブレンドの形態をとってもよい。
【0033】
多孔質フィルムの形成に用いられる両親媒性化合物には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、両親媒性ポリマーが挙げられる。
両親媒性ポリマーは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。
前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0034】
両親媒性化合物としては、両親媒性ポリマー以外のものも挙げられる。両親媒性ポリマー以外の両親媒性化合物としては、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、界面活性剤などが好ましい。
両親媒性化合物として用いられる界面活性剤としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物などが挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
前記一般式(I)中、Rは脂肪族基、脂環式化合物基、芳香族基、又は、ヘテロ環を表し、Rは脂肪族基、脂環式化合物基、芳香族基、ヘテロ環、又は、−L−Zを表す。Q、Q、及びQはそれぞれ単結合、酸素原子、硫黄原子、又は、−N(R)−を表し、Rは水素原子、脂肪族基、脂環式化合物基、芳香族基、ヘテロ環、又は、−L−Zを表す。ここで、Lは2価の連結基を表し、Zはイオン性の基を表す。なお、単結合とは、元素が存在しないことを表し、例えば、Qが単結合を表すとは、PとRとが直接連結されていることを意味する。
【0037】
前記一般式(I)中、Rで表される脂肪族基としては、例えば、直鎖又は分枝の炭素数1〜40の無置換アルキル基、直鎖又は分枝の炭素数1〜40の置換アルキル基、直鎖又は分枝の炭素数2〜40の無置換アルケニル基、直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルケニル基、直鎖又は分枝の炭素数2〜40の無置換アルキニル基、直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルキニル基等が好ましい。
直鎖又は分枝の炭素数1〜40の無置換アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、tert−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、セチル基、ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、2−オクチルドデシル基、ドコシル基、テトラコシル基、2−デシルテトラデシル基、トリコシル基等が挙げられる。
直鎖又は分枝の炭素数1〜40の置換アルキル基における置換基としては、例えば、アルコキシル基、アリール基、ハロゲン原子、カルボンエステル基、カルボンアミド基、カルバモイル基、オキシカルボニル基、燐酸エステル基等が挙げられる。具体的には、例えば、ベンジル基、β−フェネチル基、2−メトキシエチル基、4−フェニルブチル基、4−アセトキシエチル基、6−フェノキシヘキシル基、12−フェニルドデシル基、18−フェニルオクタデシル基、ヘプタデシルフルオロオクチル基、12−(p−クロロフェニル)ドデシル基、2−(燐酸ジフェニル)エチル基等が挙げられる。
【0038】
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の無置換アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基、3−ペンテニル基、3−メチル−3−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、7−オクテニル基、9−デセニル基、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルケニル基としては、例えば、2−フェニルビニル基、4−アセチル−2−ブテニル基、13−メトキシ−9−オクタデセニル基、9,10−ジブロモ−12−オクタデセニル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の無置換アルキニル基としては、例えば、アセチレン基、プロパルギル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルキニル基における置換基としては、例えば、アルコキシル基、アリール基等が挙げられる。具体的には、例えば、2−フェニルアセチレン基、3−フェニルプロパルギル基等が挙げられる。
【0039】
前記一般式(I)中、Rで表される脂環式化合物基としては、例えば、置換又は無置換の炭素数3〜40のシクロアルキル基、置換又は無置換の炭素数4〜40のシクロアルケニル基等が好ましい。
前記芳香族基としては、例えば、置換又は無置換の炭素数6〜50のアリール基等が好ましい。
前記脂環式化合物基における、置換又は無置換の炭素数3〜40のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−フェニルシクロヘキシル基、3−メトキシシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
前記脂環式化合物基における、置換又は無置換の炭素数4〜40のシクロアルケニル基としては、例えば、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、2,6−ジメチル−3−シクロヘキセニル基、4−tert−ブチル−2−シクロヘキセニル基、2−シクロヘプテニル基、3−メチル−3−シクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0040】
前記芳香族基における、置換又は無置換の炭素数6〜50のアリール基の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。具体的には、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントラニル基、o−クレジル基、m−クレジル基、p−クレジル基、p−エチルフェニル基、p−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、p−n−アミルフェニル基、p−tert−アミルフェニル基、2,6−ジメチル−4−tert−ブチルフェニル基、p−シクロヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、p−tert−オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、p−n−ドデシルフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−ブトキシフェニル基、m−オクチルオキシフェニル基、ビフェニル基、m−クロロフェニル基、ペンタクロロフェニル基、2−(5−メチルナフチル基)等が挙げられる。
【0041】
前記一般式(I)中、ヘテロ環としては、例えば、置換又は無置換の炭素数4〜40の環状エーテル、置換又は無置換の炭素数4〜40の含窒素環等が好ましい。
前記置換又は無置換の炭素数4〜40の環状エーテルとしては、例えば、フリル基、4−ブチル−3−フリル基、ピラニル基、5−オクチル−2H−ピラン−3−イル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基等が挙げられる。
前記置換又は無置換の炭素数4〜40の含窒素環としては、例えば、2H−ピロリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、インドリジニル基、モルホリル基等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、炭素数1〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルキル基、置換基の炭素数を除いた炭素数が1〜24の、直鎖、環状、又は分枝の置換アルキル基、炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルケニル基、炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の置換アルケニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基が特に好ましい。
前記炭素数1〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、セチル基、ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、2−オクチルドデシル基、ドコシル基、テトラコシル基、2−デシルテトラデシル基等が挙げられる。
【0043】
前記置換基の炭素数を除いた炭素数が1〜24の、直鎖、環状、又は分枝の置換アルキル基としては、例えば、6−フェノキシヘキシル基、12−フェニルドデシル基、18−フェニルオクタデシル基、ヘプタデシルフルオロオクチル基、12−(p−クロロフェニル)ドデシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
前記炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、7−オクテニル基、9−デセニル基、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基等が挙げられる。
前記炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の置換アルケニル基としては、例えば、2−フェニルビニル基、9,10−ジブロモ−12−オクタデセニル基等が挙げられる。
前記炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、p−クレジル基、p−エチルフェニル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−アミルフェニル基、オクチルフェニル基、p−tert−オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、p−n−ドデシルフェニル基、m−オクチルオキシフェニル基、ビフェニル基、等が挙げられる。
【0044】
前記一般式(I)中、Q、Q、及びQとしては、単結合、酸素原子、又は−N(R)−が好ましく、Q、Q、及びQの内の少なくとも2つ以上が酸素原子であることが特に好ましい。
【0045】
前記一般式(I)中、Lとしては、下記一般式(II)で表される基が好ましい。
【0046】
【化2】

【0047】
ただし、前記一般式(II)中、Y、Y、及びYは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜40の置換又は無置換のアルキレン基、或いは、炭素数6〜40の置換又は無置換のアリーレン基のいずれかを表す。J、J、及びJは、それぞれ同じであっても異なっていてもく、2価の結合ユニットを表す。p、q、及びrは、それぞれ独立に、0〜5の整数を表す。sは、1〜10の整数を表す。a及びbは、それぞれ独立に、0〜50の整数を表す。
【0048】
前記Y、Y、及びYにおける置換基としては、例えば、前記一般式(I)におけるRで例示した基が挙げられる。具体的には、例えば、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、2−メトキシ−1,3−プロピレン基等が好ましく、アリーレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、3−クロロ−1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基等が好ましい。これらの中でも、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基が特に好ましい。
【0049】
前記J、J、及びJにおける2価の結合ユニットとしては、例えば、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CON(R)−、−N(R)CO−、−CON(R)CO−、−N(R)CON(R)−、−OCON(R)−、−N(R)COO−、−SO−、−SON(R)−、−N(R)SO−、−N(COR)−、−OP(=O)(OR)O−等が好ましい。なお、これらにおいて、Rは前記一般式(I)におけるのと同じ意を表し、Rは水素原子、炭素数1〜6の無置換アルキル基、及び置換基の炭素数を除いた炭素数が1〜6の置換アルキル基のいずれかを表し、RはRと同じ意を表すがそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
前記R及びRにおける置換基としては、アリール基、アルコキシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
これらの中では、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CON(R)−(Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基を表す。)、−N(R)CO−、−SON(R)−、−N(R)SO−等が特に好ましい。
【0050】
前記p、q、及びrとしては、それぞれ独立に、0〜3の整数が好ましく、0又は1の整数が特に好ましい。
前記sとしては、1〜5の整数が好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。前記a及びbとしては、それぞれ独立に、0〜20の整数が好ましく、0〜10の整数が特に好ましい。
【0051】
前記一般式(I)中、Zとしては、親水性のアニオン性又はカチオン性のイオン性基が好ましく、アニオン性基が特に好ましい。
前記アニオン性基としては、−COOM、−SOM、−OSOM、−PO(OM)−OPO(OM)が特に好ましい。なお、前記Mは、対カチオンを表し、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等)、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等)、及びアンモニウムイオンのいずれかが好ましい。これらの中でも、ナトリウムイオン、カリウムイオンが特に好ましい。
前記カチオン性基としては、例えば、−NH・X、−NH(R・X、−NH(R・X、−N(R・Xが挙げられる。
前記Rは、炭素数1〜3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基等)を表し、メチル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
前記Xとしては、対アニオンを表し、例えば、ハロゲンイオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン等)、複合無機アニオン(例えば、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン等)、及び有機化合物アニオン(例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン等)が好ましく、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオンが特に好ましい。
【0052】
前記一般式(I)中、Rとしては、例えば、上記Rで例示した基、上記−L−Zで例示した基の中から選ばれる一価の基が挙げられる。Rで例示した基から選択される場合は、同一分子内に存在するRと同一構造であっても異なった構造であってもよい。また、−L−Zで例示した基から選択される場合も、同一分子内に存在する−L−Zと同一構造であっても異なった構造であってもよい。これらの中でも、Rで例示した基から選択される場合が特に好ましい。更に、RとRとの炭素数の合計が6以上80以下になることが好ましく、8以上50以下になる場合が特に好ましい。
【0053】
前記界面活性剤の具体例〔例示化合物(PW−1)〜(PW−52)〕を以下に例示するが、これら具体例に限定されるものではない。
【0054】
【化3】

【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、分子の大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶媒の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(疎水性側鎖/親水性側鎖)は9.9/0.1〜5.5/4.5が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶媒への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0065】
多孔質フィルムの原料となる疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10,000〜10,000,000が好ましく、50,000〜1,000,000がより好ましい。なお、この重量平均分子量は、GPC法により測定した値を採用している。
また、両親媒性化合物が界面活性剤の如き低分子量の化合物である場合の分子量としては、300〜600の範囲であることが好ましい。
【0066】
本発明の特定多孔質フィルムを形成するに際しては、疎水性ポリマーのみを原料とすることもできるが、疎水性ポリマーと両親媒性化合物とを、共に用いることが好ましい。
疎水性ポリマーと両親媒性化合物との組成比率(質量比率)は、前記両親媒性化合物が両親媒性ポリマーである場合は、99.9:0.1〜50:50が好ましく、95:5〜75:25がより好ましい。前記両親媒性化合物の比率が上記範囲において、均一な連通多孔質構造体が得られ、且つ、膜の安定性、特に力学的な安定性を十分に得ることができる。
また、前記両親媒性化合物が両親媒性ポリマーでない場合は、前記疎水性ポリマーと前記両親媒性化合物との組成比率(質量比率)は、99.9:0.1〜80:20が好ましい。前記両親媒性化合物が両親媒性の低分子量化合物である場合、この組成比率において、均一な連通多孔質構造体が得られ、フィルム強度を適切に維持することができる。
なお、両親媒性化合物として、両親媒性ポリマーと両親媒性の低分子化合物を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0067】
多孔質フィルムの原料として用いる疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい態様である。また、疎水性ポリマー及び/又は両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物により連通孔を有する多孔質構造体を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも、多孔質フィルム強度向上の観点から好ましい。
【0068】
疎水性ポリマー及び/又は両親媒性ポリマーと併用しうる多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。
これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0069】
[有機溶媒]
前記高分子化合物を溶解させて液を調製する有機溶媒としては、クロロホルム、 ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。但し、前記高分子化合物を溶解させることができれば特に限定されるものではない。また、キャストするときのポリマー濃度は、高分子膜60を形成できる濃度であれば良く、具体的には、0.1重量%以上30重量%以下の範囲であることが好ましい。0.1重量%未満であると、ハニカム状多孔質フイルム50の生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、30重量%を超える濃度であると、結露工程(図5(A))において液滴の成長が十分に行われないうちに、乾燥工程(図5(B)(C))が行われてハニカム状多孔質フイルムとなるため、好ましい構造、例えばハニカム構造を形成することが困難となる場合がある。
【0070】
[微粒子]
本発明において、微粒子を液中に含有させることで高分子膜60の高分子化合物の凝縮を容易とすることができる。微粒子は特に限定されず、また、微粒子のサイズ(平均粒子径)も特に限定されるものではない。
【0071】
[その他の添加剤]
ハニカム状多孔質フイルム50に機能性を付与するため、液中に機能性を発現する添加剤を予め含有させておくこともできる。添加剤についてもその種類、添加量などは所望の物、範囲であれば特に限定されるものではない。
【0072】
キャスト法により製造された多孔質フィルムが、平面方向(面内方向)に連通する空孔を有することは、培養細胞の酸素や培養液の供給、老廃物等の排出などの物質交換にとって有利な構造であるといえる。すなわち、図7に示すように、多孔質フィルム50の連通孔52を通じて細胞32aに栄養素(グルコース、ビタミン、必須アミノ酸など)を供給し易く、また、細胞32aからの排泄物(乳酸など)を排出し易い。
【0073】
また、支持体と多孔質フィルムを同種の材料で形成するか、互いに接着する材料で形成することで、多数の孔がハニカム状に配置された多孔質フィルムと、該多孔質フィルムを支持する支持体とが一体化したフィルムを得ることができる。このように多孔質フィルムと支持体とが一体化していれば、多孔質フィルムだけの場合に比べて強度が高くなり、基材として好適である。
【0074】
<スフェロイドの製造方法>
次に、スフェロイドの製造方法について具体的に説明する。
供給ローラ14及び回収ローラ16の回転により、供給ローラ14にロール状に巻かれているシート状基材12が連続的に所定の速度で繰り出され、インクジェットヘッド20の下に供給される。そして、供給ローラ14から回収ローラ16の方向に搬送される基材12に対して、インクジェットヘッド20から一定の間隔で断続的に細胞を含む液(単細胞溶液)26が供給される。
【0075】
基材に供給する細胞としては、所定の培養条件下で、増殖するものであれば、由来する動物種や臓器・組織の種類を問わず任意の細胞を用いることができる。具体的な例としては、ヒトまたはヒト以外の動物(例えば、サル、ブタ、イヌ、ラット、マウス等)由来の肝臓、膵臓、腎臓、神経、皮膚、脂肪等から採取される初代細胞、Oct−4・Sox2・Klf4・c−Mycの4因子を導入して初期化したマウスiPS細胞(induced pluripotent stem cells、人工多能性幹細胞)、Oct−4・Sox2・Klf4の3因子で初期化したマウスiPS細胞、OCT−4・SOX2・NANOG・LIN28の4遺伝子を胎児肺由来の線維芽細胞や新生児包皮由来の線維芽細胞へ導入し初期化したヒトiPS細胞、OCT−4・SOX2・NANOG・LIN28の4遺伝子を胎児肺由来の線維芽細胞や新生児包皮由来の線維芽細胞へ導入し初期化したヒトiPS細胞、未分化な幹細胞、胚由来のES細胞(Embryonic Stem Cell)、血管内皮細胞、樹立されている株化細胞、またはこれらに遺伝子操作等を施した細胞等であって、増殖可能な細胞を好ましく用いることができる。
なお、スフェロイド化させる細胞によっては、基材12の表面にエタノールを噴射して濡れ性を向上させた後、細胞を供給してもよい。エタノールで基材12の表面を濡らした後、細胞を供給すれば、細胞が基材表面に接触したときに細胞が損傷することを抑制することができる。
【0076】
基材12上に供給された細胞は、基材12の表面の凹凸によって保持され、基材12の搬送により培養液槽28内の培養液30中に浸漬される。培養液30としては、当該細胞の生存状態や機能等を維持することができるよう、必要な塩類や栄養成分等を適切な濃度で含む水溶液であれば任意の組成のものを用いることができる。例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:DMEM)等の基礎培地に、増殖因子や抗生物質等を添加した培養培地や、いわゆる生理的食塩水等を好ましく用いることができる。培養液30の温度も細胞の温度に応じて設定すればよいが、通常は37℃程度で細胞が最も活性化するため37℃±2℃程度に保温することが好ましい。
また、本発明では、スフェロイド32を連続的に生産するため、細胞培養を長時間行うことになる。培養液30の鮮度を保つため、培養液30を循環させて浄化を図ってもよい。
【0077】
基材12が培養液中で一定の速度で連続的に移動する間、培養時間の経過に伴って増殖し、次第に重なり合い、三次元的に集合して、立体的な組織体(スフェロイド)が形成される。培養液30中でスフェロイド化した細胞32は、基材12とともに培養液槽28から出た後、吸引等の回収手段34により回収される。ここで、スフェロイド32は基材12に密着している面積が小さいため、スフェロイド32を基材12から離脱させるためのトリプシンなどの薬剤を使用せずにブレードや吸引等の物理的手段によって離脱させ、回収することができる。従って、薬剤によるスフェロイド32のダメージを効果的に防ぐことができる。吸引されたスフェロイド32は、吸引パイプ40,42を経て専用の回収容器44内に回収される。
なお、スフェロイド32の回収は培養液30中で行ってもよく、例えば、ブレードによって基材12から離脱させた後、培養液30に浮遊したところを吸引して回収してもよい。
以上のような方法によれば、スフェロイドを連造的に生産して回収することができるため、スフェロイドを安価に、かつ、大量に得ることができる。
【0078】
−第2の実施形態−
図6は、本発明に係るスフェロイドの製造装置の他の形態を示している。この装置80は基材を繰り返し使用するタイプであり、対向配置された2つの搬送ローラ84,86に、表面に凹凸を有し、無端のシート状基材82が懸架されている。基材82としては、金属製の支持体に支持された多孔質フィルム(多孔質無端ベルト)を好ましく用いることができる。また、スフェロイド32を回収する側の搬送ローラ86の上方には、基材82を洗浄するための洗浄手段88が設けられている。
【0079】
このような構成の装置でスフェロイドを製造するには、一方の搬送ローラ84から繰り出された基材82の表面にインクジェットヘッド20から細胞を含む液26を断続的に供給する。基材82上に供給された細胞は、基材82の搬送に伴い、培養液30中に浸漬された状態で他方の搬送ローラ86の方向に移動する。基材82が培養液30中で搬送される間、基材82に保持されている細胞が増殖し、培養液30を出る前にスフェロイド化する。培養液30を出たスフェロイド32は、ブレード、吸引等の回収手段34によって基材82の表面から回収される。
【0080】
基材82からスフェロイド32が回収された後、基材82は搬送ローラ86に巻かれるとともに洗浄手段88により洗浄される。洗浄手段88及び洗浄液は、基材82の材質、培養液、細胞などに応じて適宜決めればよく、洗浄槽を別途設けてもよい。
洗浄後、基材82は、細胞供給側の搬送ローラに戻され、再び細胞の供給、培養、回収、洗浄の工程を経る。このように連続したシート状基材82として無端基材を用い、スフェロイド32を回収した後のシート状基材82を洗浄する工程を設けることで、基材82を繰り返し用いてスフェロイドを連続生産することができるため、製造コストの低下、生産性の向上を一層図ることができる。
なお、本実施形態に係るスフェロイド製造装置80も、雰囲気中の雑菌による汚染を防ぐため、クリーンルーム、クローズドシステムに収容して稼動させることが好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
<基材の作製>
厚さ175μmの2軸延伸ポリエステルフィルム(30cm幅)の片面に、ポリ(ε―カプロラクトン)(PCL、Wako製 重量平均分子量 70,000から100,000)と両親媒性ポリアクリルアミドポリマー(下記構造、重量平均分子量 49,000)を重量比10:1で0.5mg/mLとなるように塩化メチレンに溶解した。この溶液をガラスシャーレ(Φ90)上にキャストし、相対湿度80%の雰囲気下で塩化メチレンを蒸発させた。これにより、ポリエステルフィルム上に、開孔径7〜15μmの孔がハニカム状に配置されたハニカム状多孔質フィルムが形成され、これをロール状に巻いて細胞培養用基材Aを得た。
【0082】
【化13】

【0083】
<肝細胞の調製>
次に初代ラット肝細胞の調製、および培養を以下のように行った。
まず、初代ラット肝細胞を調製するために0.5mg/mLのコラゲナーゼ(和光純薬工業社製)溶液150mLを用意した。7週齢の雄ウィスター系ラット(体重250g)の門脈(肝臓に入る血管)にカニューレを導入し、脱血液を30mL/minで5分間流した後、37℃に加温したコラゲナーゼ溶液を15mL/minで10分間流した。コラゲナーゼによって処理された肝臓を培養液に入れ、メスとピペットを使って肝細胞を分散させた。得られた肝細胞懸濁液を3回洗浄し、肝細胞以外の細胞を取り除いた(95%以上の純度)。このようにして単離した肝細胞を以下の培養実験の種細胞として使用した。
【0084】
<培養液>
肝細胞の培養には、ダルベッコ改変イーグル培地(ギブコ社製:dulbecco’s modified eagle medium)13.5g/Lに、60mg/Lプロリン、50mg/mL上皮細胞成長因子(フナコシ社製:EGF)、10mg/Lインシュリン(シグマ社製)、7.5mg/Lヒドロコルチゾン(和光純薬工業社製)、0.1μM硫酸銅・5水和物(和光純薬工業社製)、3μg/Lセレン酸(和光純薬工業社製)、50pM硫酸亜鉛・7水和物(和光純薬工業社製)、50μg/Lリノール酸(シグマ社製)、58.8mg/Lペニシリン(明治製菓社製)、100mg/Lストレプトマイシン(明治製菓社製)、1.05g/L炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)、1.19g/Lの2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(同人堂社製:HEPES、2−[4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid)を加えた無血清培地を用いた。
【0085】
<培養工程>
ロール状に巻いた基材Aを繰り出すとともに、上述のラット肝細胞を1.4×10個/mとなるように基材上にフィードした。フィード後の培養は、5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気で行い、長さ15m、幅150cm、高さ30cmの培養液槽(液温37℃)に基材を浸漬し、速度0.005m/分で培養液槽中を搬送させた。培養時間は50時間とした。
培養後のスフェロイドは、ポンプによって吸引回収した。72時間後に回収したスフェロイドは142,296個であった。
【0086】
<スフェロイドの評価>
得られた肝細胞の培養状態を評価するために、培養の各期間において、位相差顕微鏡による細胞形態を観察した。また、スフェロイドが形成された条件においてはその粒径を測定し、スフェロイド粒径分布を評価した。ここで、スフェロイド粒径の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用い、1条件当たり100個のスフェロイド粒径を測定し、粒径分布を求めた。培養初期に分散状態であった細胞が徐々に集合化し、細胞同士が結合、凝集化して三次元的な細胞集合体であるスフェロイドを形成することを確認した。
【0087】
比較例1
ディッシュを用いて以下のようにバッチ式培養を行った。
市販のφ60mmディッシュ(Falcon #3002,日本ベクトン製)を30個用意し、実施例1と同様の培養液及び肝細胞を用いて細胞培養を行った。培養雰囲気、培養温度などは実施例1と同様である。
3日間培養を行ったところ、1ディッシュ当たり24個のスフェロイドが形成され、全てのディッシュを合わせて720個のスフェロイドが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るスフェロイドの製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】基材を構成する多孔質フィルムの一例を示すSEM画像である。
【図3】スフェロイドの回収手段の一例を示す概略図である。
【図4】基材を構成する多孔質フィルムの一例を示す概略図である。(A)概略平面図 (B)a−a線概略断面図 (C)b−b線概略断面図
【図5】基材を製造する方法の一例を示す図である。(A)支持体上に高分子膜が形成された状態 (B)高分子膜中の有機溶媒が揮発する状態 (C)高分子膜中の液滴から水分が揮発する状態
【図6】本発明に係るスフェロイドの製造装置の他の例を示す概略構成図である。
【図7】多孔質フィルムの孔を通じて細胞の栄養素と排泄物の出入りを概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0089】
10 スフェロイド製造装置
12 シート状基材
14 供給ローラ
16 回収ローラ
18a,18b 補助ローラ
20 インクジェットヘッド
22 細胞供給用容器
24 パイプ
26 細胞を含む液
28 培養液槽
30 培養液
32 スフェロイド
34 吸引口
44 スフェロイド回収容器
82 シート状基材(無端)
88 洗浄手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する基材を搬送するとともに、該基材の表面に細胞を供給する工程と、前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞を培養する工程と、前記培養した細胞を前記基材の表面から回収する工程を含むことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項2】
前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞をスフェロイド化することを特徴とする請求項1の細胞培養方法。
【請求項3】
前記基材の搬送速度を0.001〜100m/分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞培養方法。
【請求項4】
前記基材として連続したシート状基材をロールから繰り出して供給する工程と、前記培養した細胞を回収した後の前記シート状基材を巻き取る工程とをさらに有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項5】
前記基材が連続した無端のシート状基材であり、前記培養した細胞を回収した後のシート状基材を洗浄する工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項6】
前記基材の表面が、多孔質フィルムにより形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項7】
前記基材が、前記多孔質フィルムを支持する支持体を含むことを特徴とする請求項6に記載の細胞培養方法。
【請求項8】
前記多孔質フィルムが、疎水性の高分子多孔質フィルムであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の細胞培養方法。
【請求項9】
前記多孔質フィルムの支持体が金属製であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の細胞培養方法。
【請求項10】
前記多孔質フィルムが、三次元網目構造を有し、表面に孔がハニカム状に配置していることを特徴とする請求項6〜請求項9のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項11】
前記基材の表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域と、該細胞接着性領域の周りを囲む細胞非接着性領域とが配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項12】
前記基材の表面に、前記細胞をインクジェットヘッドにより供給することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項13】
表面に凹凸を有する基材を所定の方向に搬送する手段と、
前記搬送される基材の表面に細胞を供給する手段と、
前記細胞を培養する培養液を収容し、前記細胞が供給された基材を前記培養液に浸漬させる培養液槽と、
前記培養した細胞を前記基材の表面から回収する手段と、
を含むことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項14】
前記細胞が供給された基材を培養液中に浸漬させた状態で前記細胞をスフェロイド化することを特徴とする請求項13に記載の細胞培養装置。
【請求項15】
前記基材を搬送する手段が、前記基材を0.001〜100m/分の搬送速度で搬送する手段であることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の細胞培養装置。
【請求項16】
前記基材として連続したシート状基材をロールから繰り出して供給する手段と、前記培養した細胞を回収した後の前記シート状基材を巻き取る手段とを有することを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項17】
前記基材が連続した無端のシート状基材であり、前記培養した細胞を回収した後のシート状基材を洗浄する手段をさらに有することを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項18】
前記基材の表面が、多孔質フィルムにより形成されていることを特徴とする請求項13〜請求項17のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項19】
前記基材が、前記多孔質フィルムを支持する支持体を含むことを特徴とする請求項18に記載の細胞培養装置。
【請求項20】
前記多孔質フィルムが、疎水性の高分子多孔質フィルムであることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の細胞培養装置。
【請求項21】
前記多孔質フィルムの支持体が金属製であることを特徴とする請求項19又は請求項20に記載の細胞培養装置。
【請求項22】
前記多孔質フィルムが、三次元網目構造を有し、表面に孔がハニカム状に配置していることを特徴とする請求項18〜請求項21のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項23】
前記基材の表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域と、該細胞接着性領域の周りを囲む細胞非接着性領域とが配置されていることを特徴とする請求項13〜請求項22のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項24】
前記細胞を、インクジェットヘッドにより前記基材に供給することを特徴とする請求項13〜請求項23のいずれか一項に記載の細胞培養装置。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−213421(P2009−213421A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61605(P2008−61605)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】