説明

細胞培養用ガス濃度調節剤の気密性容器

【課題】 簡便にガス濃度の調整ができ、培養および顕微鏡観察においてそのまま使用可能な気密性容器を椎強する。
【解決手段】 培養容器を載置して顕微鏡観察可能としてなる透明部を設けた培養部と該培養部を所定のガス雰囲気に制御するガス濃度調節剤の収納部とを有し、かつ、顕微鏡観察ステージに搭載可能な顕微鏡観察用の気密性容器であって、天井面が光学的に透明平滑な角型の本体上部(1)、該本体上部1の下端で繋合する角型の底枠(2)、該底枠2の内面に搭置された透明シート(3)、本体上部(1)と底枠(2)上の透明シート(3)の周囲との間にシール材(4)、および本体上部1の一つの側壁部にガス濃度調節剤の収納部(5)と該側壁に圧力調節部(6)とを設けてなる顕微鏡観察用の気密性容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養過程を顕微鏡観察する方法に係り、透明部を設けたガス雰囲気を制御した培養部とその雰囲気を制御するガス濃度調節剤とを有し、顕微鏡ステージに載せた状態で一般の培養容器内の試料を培養しながら観察することが出来る顕微鏡観察用の気密性容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物、生殖又はバイオテクノロジーの研究分野または産業分野において実施される細胞の培養では大気雰囲気と異なるガス環境が必要とされる。
生細胞観察を長時間連続して行う場合、培養液中の生細胞を通常培養温度で一定に保持するとともに培養液のpHも一定に保持する必要がある。その際、例えば、培養液のpHを血液の通常状態と同じpH7.4に保持するための条件は雰囲気二酸化炭素濃度を5%にすることである。
【0003】
また、多くの研究分野で細胞の低酸素培養が注目されている。具体的には生体内と同様の低酸素雰囲気下で細胞培養を行うことで生体内と同様の生化学反応や血管新生に関連した低酸素誘導因子(HIF)などの遺伝子を誘導したり、細胞の増殖・分化を促進する効果が確認されている。また、血流の停止による臓器不全を再現する虚血再灌流実験モデルでも細胞や組織を一定時間無酸素下に置くことで細胞内での機序が詳細に研究されている。さらに、ヒト細胞を用いた薬剤感受性試験で無酸素下で還元雰囲気下を作出して薬剤代謝試験が実施されている。
【0004】
このような細胞培養では、所定のガス環境をCOインキュベーターやマルチガスインキュベーターを用いて作成し、その中に入れた通気性のある通常の培養容器で細胞培養を行う。この際、培養容器としては、一般にマルチウェルプレートやフラスコ、シャーレ、チャンバースライド、培養バッグ等を使用される。
【0005】
大気と異なるガス環境下で細胞培養状況の観察又は写真撮影等の記録を行うためには、所定のガス環境を形成している培養器から培養容器を一時的に取り出して顕微鏡にセットし、観察又は、写真撮影を行うことになる。この際、大気下に設置した顕微鏡では細胞観察中に培地のガス濃度が変化し、所定のガス環境が維持できない。よって、移送および観察時に培養細胞の状態が変化する問題点がある。
【0006】
これを解決する手段として、実験室にマルチガスコントロールチャンバーを設置して、その中で培養や顕微鏡観察を行うことも出来る。具体的にはIn vivo環境実験装置ViVox−TCバイオ(ViVox社製)等が市販されている。しかしながら、これらのマルチガスコントロールチャンバーは、大変高価であるとともに、大量の置換ガスを使用するため、実験者の安全を考慮すると、設置場所に制限がある。
【0007】
そこで、多くの実験者は、顕微鏡のステージ上を透明プラスチックで囲い、ガスボンベと連結したガス調節器などでガス濃度をコントロールして観察する方法を用いている。しかし、この方法は、ガス置換スペースが大きく、常にガスをリークさせながら観察するため、消費ガス量が多く、所定のガス濃度に到達するのに時間がかかる。
【0008】
一般に使用されるガスコントロールインキュベーターやマルチガスコントロールチャンバーの中に顕微鏡等の観察機器を収納する方法では、系内が高湿度(ほぼ100%)のため、機器への結露により、機器が正常に機能しない。よって、長期に安定した試料観察は困難であった。
【0009】
一方、近年、多数の生物標本を観察するために、培養顕微鏡装置が商品化されている。
温度、湿度、ガス濃度をコントロールした試料室内に撮像ユニットを設けた装置(特許文献1)や、温度、湿度、ガス濃度をコントロールした培養室とその下にこれと隔離した顕微鏡観察室を設けた培養顕微鏡(特許文献2)などが開発されている。
【0010】
培養室をもつ培養顕微鏡装置の場合は、培養試料室を高湿度に、顕微鏡室を乾燥下に維持する必要がある。培養試料室と顕微鏡室それぞれの気密性を確保するため、装置構造が複雑になる問題があった。また、試料室全体のガス濃度を1種類しか設定できないので、それぞれの試料で要求ガス濃度が異なる場合、測定試料ごとに試料室全体のガス置換を行う必要があり、実質的に各試料で独立したガスコントロールは出来ない。
【0011】
顕微鏡ステージ上に顕微鏡観察専用の小型培養室を設け、その温度、湿度およびガス濃度をコントロールして、1種類の培養細胞を連続、長期的に顕微鏡観察または写真撮影を行う方法(特許文献3)がある。この方法も、ガスボンベとガスコントローラーとを必要とする。また、ガスの流通を前提としており、流通ガスを飽和水蒸気ガスとしない場合には、培地からの水分蒸発により組成が変化しやすく、培養結果に悪影響を与えることがある。また、飽和水蒸気ガスとする場合、細菌やウイルスのコンタミネーションのない取り扱いが必須である。
【0012】
細菌培養において、ガス濃度調節剤をいれてガスコントロールを行う透明密封性容器が提案されている(特許文献4)が、顕微鏡で観察を行う場合、鮮明な画像を得られるほど、上下面が光学的に平滑でなかったり、倒立型顕微鏡で観察するに当たっては、焦点が合わないほど底面が厚いものであったり、顕微鏡上のXY方向に移動できる移動ステージに載せるには大きすぎるため、顕微鏡観察用途には好ましくなかった。
【0013】
また、ガス濃度調節剤の種類によっては、気密状態で使用した場合、系内が減圧になったり、加圧になったりする場合がある。これに伴い、天井や底板が反り変形し、平滑でなくなり、顕微鏡観察に適さなくなり、ひいては容器そのものが破損してしまう問題点を生じる。
【0014】
【特許文献1】特開2003−93041号
【特許文献2】特開2005−326495号
【特許文献3】特開2004−329099号
【特許文献4】実用新案登録第3034364号
【特許文献5】特開平09−252766号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、培養過程を顕微鏡観察する方法に係り、顕微鏡ステージに載せた状態で試料を培養しながら観察することが出来る簡便な細胞培養観察システムに用いる顕微鏡観察用の気密性容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、簡便にガス濃度の調整ができ、培養および顕微鏡観察においてそのまま使用可能な気密性容器について鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、培養容器を載置して顕微鏡観察可能としてなる透明部を設けた培養部と該培養部を所定のガス雰囲気に制御するガス濃度調節剤の収納部とを有し、かつ、顕微鏡観察ステージに搭載可能な顕微鏡観察用の気密性容器であって、天井面が光学的に透明平滑な角型の本体上部(1)、該本体上部1の下端で繋合する角型の底枠(2)、該底枠2の内面に搭置された透明シート(3)、本体上部(1)と底枠(2)上の透明シート(3)の周囲との間にシール材(4)、および本体上部1の一つの側壁部にガス濃度調節剤の収納部(5)と該側壁に圧力調節部(6)とを設けてなる顕微鏡観察用の気密性容器である。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、該シール材(4)が、軟質樹脂であること、該透明シート(3)が、厚さ0.1〜1.5mmである。また、該透明シート(3)が、培養容器の搭載部を凹賦形して該底枠(2)の底面と該透明シート(3)の下面とを同一平面としてなるものであること、または、該透明シート(3)が、該培養容器の底面形状の外形に対応して凹凸賦形してなるものである。該底枠(2)の所定部分の高さが、0.5〜1cmであることの用件を満たす顕微鏡観察用の気密性容器である。
【発明の効果】
【0018】
本気密性容器を用いることにより、一般的な様々な小型培養容器を用いて、特定のガス環境下で培養細胞を観察できる。また、培養においても、恒温槽内で気密性容器ごとに必要なガス環境を個別に設定できるものであって、気密性容器間でのクロスコンタミを防止することが出来る。さらに、それぞれの培養ガス環境を維持したまま、顕微鏡と培養器の間を移動させられる可搬性を持つ。
気密性容器の繰り返し使用により、傷が付き観察に支障が出やすい底面部2の部品のみを、交換する構造とすることで、その他の部分は、繰り返し使用が可能なため、経済性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、添付の図面により本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の顕微鏡観察用の気密性容器の斜視図である。図2は、図1の側面図であり、図3は、図1の上から見た平面図である。また、図4は、シール部の典型例の拡大図である。
図1において、顕微鏡観察用の気密性容器は、天井面が光学的に透明平滑な角型の本体上部(1)、断面ほぼL型で角型の底枠(2)、透明シート(3)、本体上部(1)と底枠(2)の上の透明シート(3)の周囲との間のシール材(4)、本体上部(1)の一つの側壁部にガス濃度調節剤の収納部(5)と該側壁に圧力調節部(6)とを設けてなる。
【0020】
図2、3に示したように、本体上部1は、蓋として開閉自在とし、かつ、本体上部1は底枠2と底枠2に支えられた透明シート3の周囲上面のシール材4とにより、蓋をした状態において密閉構造とされる。なお、透明シート3と底枠2との間には適宜、緩衝材(4’)を配置し、底枠2の底面と透明シート3の下面との面合わせ性を向上、すり合わせの向上、底枠2への固定などの役割を担うものとする。
そして、本体上部1は、その一つの側壁部にガス濃度調節剤の収納部(5)と圧力調節部(6)とを有する。ガス濃度調節剤の収納部5は、その上部で本体上部1に着脱自在としてなり、側面部は、適宜、開口を形成したものであり、透明シート上に収納された培養容器との間でのガス交換を容易としてなる。
また、この収納部5を設けた本体上部1の側壁には、圧力調節部6が設置される。
【0021】
図4は、シール部の拡大図であり、本体上部1、底枠2、透明シート3、シール材4及び緩衝材4’とからなるシール部分を示したものである。本気密性容器は、本体上部1、透明シート3およびシール材4にて気密を保つ。底枠2、緩衝材4’は、1、4、3からなるシール部を安定に保持するための補助部材である。また、図4のb、cはフィルムに曲げ部分を設けて内部方向への引っ張りがあってもずれにくくするものである。
なお、本図面には記載していないが、本体上部1と底枠2とは、別途、留め具を用いて固定される。
【0022】
本気密性容器において、本体上部1の天井面、透明シート3は、光学的に透明な材料を使用してなるものであり、その他の部分、本体上部1の側壁、収納部5、底枠は、形状保持するもの、構造保持材であることから、それに十分な強度を有する材料を用いる。
全光線透過率が高く、光学的に均一なものとして使用できるものとしては、ガラス、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、脂環式アクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、スチレン・メチルメタクリレート樹脂、スチレン・アクリロニトリル樹脂が例示される。
側壁部や底枠に用いる材質は、上記した透明材質は当然に使用できるが、上記以外として、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、フルオロエチレン樹脂など、前記樹脂類にガラス繊維他の強化材を配合した繊維強化プラスチックス類、アルミニウムおよびその合金などが例示される。
【0023】
顕微鏡観察は、様々な光学手法が適用されており、それぞれの手法に即した光学材料を使用する必要がある。
位相差顕微鏡においては、複屈折の少ない材料が必須であり、ガラス、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、脂環式アクリレート樹脂、ポリスチレンとポリカーボネートのブロック共重合樹脂などが例示される。
蛍光顕微鏡による観察は、その励起光として、通常、波長350〜750nmの光を使用し、励起光より長波長の蛍光を観察する。したがって、蛍光顕微鏡による観察用としては、広い波長領域にわたって透過率が高い材料が必須であり、ガラスあるいは波長350nm以上で全光線透過率が80%以上であるシクロオレフィンポリマー(ZENOX,ZEONOR 日本ゼオン製)が例示される。一方、紫外線を遮蔽する容器材料として、ポリエチレンナフタレートなどが例示される。
可視光線による観察に使用する容器材料としては、ガラスや強度的に優れているポリカーボネートが例示される。
【0024】
顕微鏡観察は、本気密性容器の透明シート3の上に培養容器を載せ、顕微鏡観察ステージに搭載した状態で、通常、その下側から行う。
ゆえに、透明シート3は、当然に顕微鏡観察可能な光学特性を有したものでなければならない。この点から、厚さは、0.05〜3mm、特に0.1〜1.5mmが好ましい。
また、透明シート3は、培養容器の底面、顕微鏡ステージ面、および培養用恒温槽床面などと直接接触することとなるので、特に、外底面には、適宜、保護フィルムを仮接着しておき、顕微鏡観察時のみ、これを剥がして使用するようにすることが好ましい。また、透明シート3の培養容器搭載面には、適宜、防曇加工を施すか、防曇フィルムを貼付して使用する。また、培養容器が接触する部分に関しての傷対策として、適宜、ハードコートを施して使用する。さらに、底枠2と直接接着などしていない場合には、傷などによる不都合が発生した場合には新品と取り替える。
【0025】
また、透明シート3は、顕微鏡観察との観点から、少なくとも培養部分に相当する部分は顕微鏡観察ステージに直接接触することが好ましい。この要件から、添付図2のように、透明シート3の周囲は、底枠2と適宜用いる緩衝材の厚み相当部分突出した構造に成形する。この成形において、4角部分に皺などが発生した場合にはシール状態の悪化が起こりやすくなるので、この発生がなく、かつ、内部に光学歪みが残らないように行う。また、透明シート3は、当然に底枠に合うサイズであるが、培養容器に応じて、培養容器を固定するためにそのサイズに適合した窪み(周囲に凸部)を形成しても良い。透明シートの辺縁部形状は、図4に例示するように、平坦な形でも、外枠に沿って立ち上がった形でも、シール部の容器内側が外枠の形状に沿って盛り上がった形でもよい。
【0026】
シール材4の材質としては、天然ゴム、合成ゴム等のエラストマーが適用可能である。これらのシール材が培養液と直接接触することは無いが、細胞毒性を低くするために、揮発成分が少ないことが好ましい。
本発明においては、圧力調節部6にて、容器内外の圧力差を容器の天井面や底面(透明シート3)が実質的に変形しない範囲に調節することから、シール材にかかる圧力差は小さい。ゆえに、より軟質の材料でも圧力差による変形に耐えることができるので、密閉シールのために過剰の締めつけを行うことなくシール可能な軟質材料が好適に使用できる。具体的には超軟質ウレタン樹脂やオイル含浸ポリエチレンなどが好ましい。
さらには、硬化型の液状のシール材も用いた本体材質との関係を考慮して適宜選択でき、例えば、ポリカーボネートの場合、一成分系無溶剤型のシリコーンシール剤が使用できる。
【0027】
培養期間中は高温にさらされることはないことから特に、耐熱性など考慮の必要はないが、予め加熱殺菌(オートクレーブ滅菌)して使用する場合、長期間に渡る培養の場合など、使用条件を考慮して、シール材の材質は選択される。
耐熱性の高いものとしては、シリコンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴムなどが例示される。ガス透過性のより小さいシール材としては、ブチルゴム、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、高ニトリルゴム、フッ素ゴムが例示される。
また、シール材の断面形状としては、長方形、丸型、U字、V字、L字、コ字等のシーリング材が適用可能である。
【0028】
また、緩衝材4’としては、上記のシール材と同様なものが、一般的な緩衝としての用途では使用できる。しかし、本発明において、特に、図4のa、b、cに示したように、透明シート3を形状保持して固定する機能のために使用することが可能であり、このような用途の場合には、金属や繊維強化樹脂などを用い、これに、透明シート3を適宜、接着などして固定したものとして使用できる。
【0029】
本気密性容器は、当然、培養容器を収納し、顕微鏡ステージに設置できるサイズとする。下面側からの観察、例えば、倒立型位相差顕微鏡では、通常、外形高さ6cm以下である。また、培養容器およびガス濃度調節剤の収納部5、圧力調節部6を設けた状態において、特に、XY方向に移動できる移動ステージで自動観察が容易との条件からは、外形サイズとして横20cm以下、縦12cm以下であることが好ましい。
本気密性容器の底枠2は、本体上部1を取った後、背の低い培養容器を取り出しやすいように、高さが2cm以下で、特にマルチウェルプレートなどの場合にも、直接容器を掴みやすいように、アーム位置に対応する部分を1cm以下とすることが好ましい。強度の維持との観点からは高さ0.5cm以上、1cm以下であることが好ましい。本体上部1は高さ5cm以下、通常、1〜5cmから選択されることとなる。
【0030】
上記の本気密性容器は、少なくとも5日間、好ましくは2週間、所定のガス環境を維持できる気密性が求められる。ガス濃度調整剤を用いる場合、外気侵入量が多いと所定ガス環境の維持が困難となる。ゆえに、通常、許容される外気侵入量は、1日当たり容器内容積の1%以下、好ましくは0.5%以下であることが好ましい。
この気密性は、シール部からの漏れがなければ達成できるものであることから、シール部で空気漏れの発生しない構造およびシール材を選択する。
【0031】
本願の図1は、底面透明シート3を底枠2との間の緩衝材4’とシール4とで挟み、本体上部1と透明シート3との間にシール4を挟み、本体上部1と底枠2とを止め具を用いて着脱自在に圧着する形とした。
この形から、底面を構成する透明シート3の取替えが容易である。 また、シール材の説明においても記載したようにより軟質のシール材を採用することにより、十分な密閉を可能とする。
【0032】
本気密性容器は、その本体上部1の一つの側壁部(通常、短辺側の1側壁)にガス濃度調節剤の収納部5、その側壁に圧力調節部6を設ける。この位置関係とすることにより、気密性容器にガスを外部からまたは空気袋など取り付けて補充する場合に、ガス濃度調節剤を経由するようにして培養部に供給されるガス組成の変化を抑える。
ガス濃度調節剤の収納部は、ガス濃度調整剤が培養容器へ接触することを避け、かつ、ガス濃度調節剤が簡便に着脱できるように、通常、ガス濃度調節剤を収納する補助具を、一つの側壁部に近い天井面、両側の側壁などに着脱自在に取り付け可能とする。例えば、補助具を天井に取り付けて、天井部分に隔壁ができる形状とすることが例示され、この場合、通常、反応の初期にガス濃度調節剤から発生する水蒸気が、顕微鏡観察部分に相当する天井部へ回り込むことを抑えることができる。
【0033】
培養容器は、一般に用いられるフタをしても空気が流通する気密性の無い細胞培養容器が挙げられる。
具体的には、マルチウェルプレート、ディッシュ、チャンバースライド、ガス透過性素材からなる培養バッグや容器、ガスフィルター付きフラスコ等が挙げられる。
【0034】
ガス濃度調節剤は、本発明の気密性容器内(所定容積の密閉容器内)のガス雰囲気を所定の濃度範囲で、一定の時間維持するために用いる。
通常、ガス濃度調節剤はガスバリア性(通常、アルミバリア)外袋から取り出し、気密性容器のガス濃度調節剤の収納部5に入れて直ちに気密性容器を密閉して使用する。密閉後、一定時間の経過後に所定のガス濃度に到達し、該状態を所定の時間維持する。
本培養においては、濃度調節するガス成分は、主に、酸素と炭酸ガスで、酸素濃度を低下させ、炭酸ガス濃度を例えば3〜10%程度の所定濃度に維持するものであり、通常、水蒸気は飽和とされる。
【0035】
炭酸ガス濃度を一定とし、酸素濃度を0.1%以下の脱酸素状態あるいは低下させた雰囲気する場合、通常、酸素吸収能ならびに炭酸ガス発生能を併せ持つ有機系化合物を主剤とし、炭酸ガス吸収剤、活性炭などを助剤としたものが挙げられる。
ガス濃度調節剤として、アスコルビン酸類、金属塩、多孔質担体、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩および水からなる組成物がある(特許文献5)。
これらを具体化した商品には、細胞培養用ガス濃度調節剤カルチャーパル(商品名、三菱ガス化学(株)製)などがある。具体的には、所定の容積の容器内を、カルチャーパル・COは酸素濃度15%、炭酸ガス濃度5%に、カルチャーパル・ファイブは酸素濃度5%、炭酸ガス濃度5%に、カルチャーパル・ゼロは酸素濃度0%、炭酸ガス濃度5%にそれぞれ調節する機能に設計された滅菌されたガス濃度調整剤である。
【0036】
所定の本気密性容器と所定のガス濃度調節剤を選択することにより、一定範囲のガス濃度を、一定期間維持するものであるが、当然に本気密性容器内のガス濃度を測定あるいはモニターできる。具体的には本気密性容器内に小型ガスモニターを設置すること、ガス濃度測定器で随時、測定すること、また、非接触式で連続ガス濃度モニターが可能になるLED光を当てることで励起して蛍光を発するプローブやセンサーパッドを気密性容器内に設置すること、センサーパッドをウェルプレートに複合化したOxoPlate(Presens社製)等を使用することなどがある。
【0037】
ガス濃度調節剤の種類によっては、系内が減圧になることもあり、これが、顕微鏡の観察面を変形させることがあるので、この解決法として、本発明の気密性容器には、ガス濃度調節剤による圧力変化を調整するための圧力調節部(6)を設置した。圧力調節部6は、可動式のシリンダー、ガスバリア性のプラスチックフィルムあるいはアルミフィルムで構成されるバッグあるいはバルーンを容器外部の圧力調節用のガス導入口に設置したものや、容器内部に設置したものが使用できる。これらは、必要に応じて、逆止弁やフィルターやバルブと併用可能である。
【0038】
また、圧力調節部6は、ガス濃度調節剤の収納部5の部分の側壁に設置したので、外部からフィルターなどを介して導入された空気や、容器内部にバッグあるいはバルーンを設置した場合も、そこから漏れ出す空気が、ガス濃度調節剤を経て培養容器の側に流れ込む。
また、上記に説明したガス調整剤による体積変化だけでなく、37℃の培養温度に加温する際の体積変化に対しても、上記圧力調節部は、有効にはたらき、底部の圧力変動による変形を避けることが出来る。
さらに、ガス調節剤による短時間での急激な圧力変化をバルブや逆止弁で対応して、温度変化による体積変化をバッグやバルーン等の可逆的な圧力調節で対応させることも出来る。
【0039】
本発明で観察に使用する顕微鏡は、試料を下面側から観察する倒立型顕微鏡であることが好ましい。観察方法としては、光学顕微鏡、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡、微分干渉顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡など、目的に応じて適宜選択される。
また、連続観察の場合、電子撮像装置付き小型顕微鏡ユニットとこの培養容器キットを通常の恒温槽に設置することにより、細胞培養の連続モニターが実現できる。この電子撮像装置付き位相差顕微鏡としては倒立型細胞観測マイクロスコープ セルウォチャー(コアフロント株式会社製)などがある。
【0040】
培養は、通常、所定の温度(細胞培養では約37℃)を維持する。この温度制御は、通常、恒温槽が簡便である。恒温槽は、必要温度範囲の温度コントロールができるものであれば良い。
また、本発明の気密性容器を先に説明した培養顕微鏡装置に用いることにより、培養容器を入れた気密性容器ごとに異なるガス濃度組成を簡便に作出し、維持することが出来る。さらに気密性容器間でのクロスコンタミネーションを防止することが出来る。
以上に説明したものを使用して、本発明の細胞培養などを行いつつ、顕微鏡観察を行う。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に使用される気密性容器の斜視図である
【図2】図1の側面図である
【図3】図1の平面図である
【図4】気密性容器におけるシール部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0042】
1 本体上部
2 底枠
3 底面透明シート
4 シール材
4’ 緩衝材
5 ガス濃度調節部
6 圧力調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器を載置して顕微鏡観察可能としてなる透明部を設けた培養部と該培養部を所定のガス雰囲気に制御するガス濃度調節剤の収納部とを有し、かつ、顕微鏡観察ステージに搭載可能な顕微鏡観察用の気密性容器であって、天井面が光学的に透明平滑な角型の本体上部(1)、該本体上部1の下端で繋合する角型の底枠(2)、該底枠2の内面に搭置された透明シート(3)、本体上部(1)と底枠(2)上の透明シート(3)の周囲との間にシール材(4)、および本体上部(1)の一つの側壁部にガス濃度調節剤の収納部(5)と該側壁に圧力調節部(6)とを設けてなる顕微鏡観察用の気密性容器。
【請求項2】
該シール材(4)が、軟質樹脂である請求項1記載の顕微鏡観察用の気密性容器。
【請求項3】
該透明シート(3)が、厚さ0.1〜1.5mmである請求項1記載の顕微鏡観察用の気密性容器。
【請求項4】
該透明シート(3)が、培養容器の搭載部を凹賦形して該底枠(2)の底面と該透明シート(3)の下面とを同一平面としてなるものである請求項1記載の顕微鏡観察用の気密性容器。
【請求項5】
該透明シート(3)が、該培養容器の底面形状の外形に対応して凹凸賦形してなるものである請求項1記載の顕微鏡観察用の気密性容器。
【請求項6】
該底枠(2)の所定部分の高さが、5〜10mmである請求項1記載の顕微鏡観察用の気密性容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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