説明

細胞培養観察装置

【課題】 本発明は、細胞の経時的変化を連続的に観察する細胞培養観察装置を提供する。
【解決手段】 細胞の経時的変化を連続的に観察する細胞培養観察装置であって、複数の細胞の細胞活性を維持可能な細胞培養部2と、該細胞培養部2の細胞の経時的変化を観察する複数の撮像部3と、該撮像部3で撮影された画像を解析する画像解析部4と、該画像解析部4で解析された画像を表示する画像表示部5を備えていることを特徴とする細胞培養観察装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養観察装置に関する。詳しくは、細胞の経時的変化を連続的に観察する細胞培養観察装置である。
【背景技術】
【0002】
細胞が多数のシグナル伝達経路を利用できることは知られている。このシグナル伝達経路を用いてこの細胞に影響を与えるシグナルが細胞核に伝達される。細胞は外の刺激に反応でき、細胞増殖、細胞の活性化、分化または制御された細胞死をもって反応している。このような細胞の経時的変化を解析する為に、細胞を培養しながら観察する方法が知られている。
例えば、基板上に設けた穴からなる細胞培養部と、細胞培養部の上面を覆う半透膜と、半透膜上部に設けた培養液交換部を有する細胞培養容器を備え、細胞培養容器への細胞培養液の供給手段と、細胞培養部内の細胞を長期観察することのできる顕微光学手段を具備している一細胞長期培養顕微観察装置が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】 特開2002−153260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記一細胞長期培養顕微鏡観察装置では、特定の一細胞に由来する細胞群を培養することや、細胞を培養する過程で相互作用させる細胞を特定しながら培養観察すること、細胞濃度を一定にしたまま細胞を培養すること、培養している細胞群の中の特定の細胞のみにシグナル物質等の薬剤などの細胞と相互作用する物質を散布し、その細胞と他の細胞との変化の違いを観察すること等を可能としている。また、特定の状態にある細胞のみを回収し、その細胞の遺伝子、発現mRNA等の解析、あるいは生化学的測定を行うことを可能としている。上記一細胞長期培養顕微鏡観察装置では、特定の一細胞に由来する細胞群を培養、観察することは可能である。
【0004】
しかしながら、多種の細胞を同時に培養し、該細胞間のシグナル伝達観察では、より生体内での環境に近い培養が望まれており、細胞の物理的変化や三次元的移動が生じる為、レンズから細胞がフレームアウトしたり、ピントがずれ観察することができなくなる問題があった。
【0005】
本発明の課題は、細胞間シグナル伝達等の複数の細胞の経時的変化を、同時且つ連続的に観察を行うことができる細胞培養観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の発明に係る。
請求項1に係る発明は、細胞の経時的変化を連続的に観察する細胞培養観察装置であって、複数の細胞の細胞活性を維持可能な細胞培養部2と、該細胞培養部2の細胞の経時的変化を観察する複数の撮像部3と、該撮像部3で撮影された画像を解析する画像解析部4と、該画像解析部4で解析された画像を表示する画像表示部5を備えている細胞培養観察装置である。
この発明に係る細胞培養観察装置においては、細胞培養部2を複数の撮像部で観察することにより、特定の細胞と所望の細胞群を観察することができる。これにより、細胞の三次元的変化を起こしても、細胞間シグナル伝達等を行う細胞と、細胞間シグナル伝達等を受ける細胞の経時的変化を、およびクロストークを同時且つ連続的に観察することが可能となる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の細胞培養観察装置において、細胞培養部2が、分離部26を備えている細胞培養観察装置である。
この発明に係る細胞培養観察装置においては、細胞培養部2を分離部で分離することにより、異種の細胞を完全に分離して細胞の経時的変化を連続的に観察することが可能となる。これにより、細胞の三次元培養、異種の細胞の共培養、細胞遊走、浸潤アッセイおよび薬物透過アッセイ等のより生体内に近い環境での細胞培養をすることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1から2に記載の細胞培養観察装置において、撮像部が、光源および対物レンズを備えているCCDカメラである細胞培養観察装置である。
この発明に係る細胞培養観察装置においては、光源および対物レンズを備えることにより、各細胞をはっきりと高精度に区別して認識することが可能となる。また、必要に応じて光源を使用しないことも可能である。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1から3に記載の細胞培養観察装置において、画像解析部が、幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量から選ばれる少なくとも1つを解析する細胞培養観察装置である。
この発明に係る細胞培養観察装置において、細胞間シグナル伝達等に使用されるシグナルを、幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量から選ばれる少なくとも1つにより解析することが可能となる。また、その組み合わせを同時に解析することが可能となる。また、同時に、細胞間シグナル伝達等による、細胞の変化を、幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量から選ばれる少なくとも1つにより解析することが可能となる。また、その組み合わせを同時に解析することが可能となる。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1から4に記載の細胞培養観察装置において、記録部が、フレームレート30fps(frame per second)以上である細胞培養観察装置である。
この発明に係る細胞培養観察装置において、フレームレート30fps以上にすることにより、細胞の経時的変化をより詳細に観察することが可能となる。これにより、より詳細な細胞の変化を解析することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞培養観察装置は、細胞間シグナル伝達等による複数の細胞の経時的変化を、同時且つ連続的に観察を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る細胞培養観察装置の一実施形態について図1から図4を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養観察装置は、図1に示す細胞培養部で培養される複数の細胞の経時的変化を連続的に観察する装置である。即ち、図1に示すように細胞培養観察装置は、複数の細胞の細胞活性を維持可能な細胞培養部2と、該細胞培養部2の細胞の経時的変化を観察する複数の撮像部3と、該撮像部で撮影された画像を解析する画像解析部4と、該画像解析部で解析された画像を表示する画像表示部5を備えている。
【0013】
上記細胞培養部2は、細胞培養セル21と、温度調節部22を備えている。図1に示すように、細胞培養セル21は、培養する細胞と培養液が入れられ、外部環境から遮断するために筐体に固定されている。
【0014】
細胞培養セル21は、温度調節部22が取り付けられている。細胞培養セル21の周囲に温水を流通させることにより、温水の熱を細胞培養セル21内の培養液に伝達することが可能となる。
【0015】
温度調節部22には、温水温度制御部により温度が制御された温水タンクが接続されている。また、温度調節部22と温水タンクの間は、温水ポンプが接続されている。温水ポンプを駆動することにより、温水タンクから温度調節された温水が温度調節部に供給される。温水ポンプは、たとえば、ペリスタポンプ等の循環ポンプがよく、温水ポンプ制御部により、流水量および流出タイミング等が制御される。更に、温水ポンプ制御部は、温度センサ、例えば、熱電対、サーミスタ、側温抵抗体等により細胞培養セルの温度を37±0.5℃の範囲に維持するように温水の温度および循環流量を制御する機能を有している。従って、細胞培養セルは、ウォーターバスの如く加温されて、急激な温度変化を生じることなく培養液の温度を一定に維持することが可能である。必要であれば培養設定温度を自由に変化させることも可能である。
【0016】
細胞培養部2は、長期間細胞を培養するような場合など、必要に応じて細胞培養セル21内の培養液を供給する培養液調節部を備えてもよい。
【0017】
培養液調節部には、培養液制御部により温度が制御された培養液タンクが接続されている。また、温度調節部と培養液タンクの間は、培養液ポンプが接続されている。培養液ポンプを駆動することにより、培養液タンクから温度調節された培養液が温度調節部に供給される。培養液ポンプは、たとえば、ペリスタポンプ等の循環ポンプがよく、培養液ポンプ制御部により、流量および流出タイミング等が制御される。
【0018】
筐体内は、二酸化炭素制御部により二酸化炭素の濃度が制御される。細胞培養部2は、内部の細胞を観察できるような、ガラスあるいは樹脂等の無色透明材料で構成されている。
【0019】
上記複数の撮像部3は、細胞培養部2で培養される細胞を観察する複数のCCDカメラと必要に応じて光源を備えている。複数のCCDカメラは、必要に応じてCCDカメラの先端に対物レンズを設置することができる。対物レンズは、1つあるいは複数の倍率の異なるレンズを有していてもよく、所望するレンズを選択することが可能である。撮像部3は、焦点補正やオートフォーカス機構により任意の細胞に焦点を合わせることが可能となる。また、撮像部3は、移動手段を備えていてもよく、さらには、内視鏡のような角度調節機構を備えていてもよい。このことにより、細かな微調整が可能となり、より任意の細胞を追跡することが可能となる。図1では、ひとつの細胞培養セル21に対して、2個のCCDカメラが設置されている。例えば、培養された細胞群中を、1つの高倍率のCCDカメラで任意の細胞を観察し、もうひとつの低倍率のCCDカメラで細胞間シグナル伝達により変化のある細胞を観察することが可能となる。
【0020】
上記画像解析部4は、複数の撮像部3から送られてきた撮像画像を蓄積する画像メモリ部41、該画像メモリ部41に蓄積されている撮像画像を画像処理して解析するデータ処理部42、該画像処理部42によって処理されたデータを記録するデータ記録部43を備えている。この画像解析部4は、パーソナルコンピュータ(PC)を使用するのがよい。データ記録部は、フレームレート30fps以上とすることが好ましい。細胞の経時的変化をより詳細に観察することが可能となる。これにより、より詳細な細胞の変化を解析することが可能となる。
【0021】
上記画像表示部5は、複数の撮像部3から送られてきた撮像画像や画像解析部4で解析されたデータを表示するモニターを備えている。このモニターは、撮像部3の複数のCCDカメラから送られてきた撮像画像に対して分割表示できるようになっている。たとえば、CCDカメラが4台の場合、それから送られてくる撮像画像が4つになるため、モニターは、4分割され、同時に4台のCCDカメラから送られてくる撮像画像を監視することができる。また、それぞれのCCDカメラは、撮像画像を監視しながら、画像解析部4を構成するPCにより焦点補正、移動手段および角度調節機構を調節することができる。さらには、このカメラを数十台にして培養環境条件を変化させて一度に観察できる機能を付与させることができる。
【0022】
細胞培養部2および撮像部3が、図2で示されるような場合について、図1および図2を参照して本発明の細胞培養観察装置を使用した細胞間シグナル伝達等による複数の細胞の経時的変化を、同時且つ連続的に観察する方法を説明する。
【0023】
まず細胞培養観察装置を作動させる。すなわち、図1に示すように、細胞培養部2内の細胞培養セルをセットし、温水温度制御部、温水ポンプ制御部および二酸化炭素制御部を作動させ、細胞培養部2の温度が37±0.5℃、二酸化炭素濃度が5%になるように設定する。
【0024】
次に、図2に示すように、12台のCCDカメラ(対物レンズ装着式:倍率100倍)は、細胞培養セル21を撮像する。該CCDカメラは、CCDカメラの先端部に対物レンズ(倍率10倍)が設置されている。撮像された画像データは、画像解析部4に出力される。撮像部3から送られてきた撮像画像を蓄積する画像メモリ部41に送られる。該画像メモリ部41に蓄積されている撮像画像を画像処理して解析するデータ処理部42に送られる。該画像処理部42によって処理されたデータを記録するデータ記録部43に送られる。画像表示部5は、画像解析部4から送られてきた、画像データを入力し撮像画像をモニターに出力する。観察者は、モニターに映し出された12台のCCDカメラから送られてくる撮像画像を見ながら焦点補正、移動手段および角度調節機構を調節し、それぞれの細胞培養セル21中の細胞を観察する。
【0025】
データ処理部42に送られてきた撮像画像は、幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量が解析される。または、これらの中から少なくともいずれかひとつの特徴量を解析してもかまわない。幾何学的特徴量としては、細胞の位置、面積等を挙げることができる。光学的特徴量としては、細胞の輝度、蛍光等を挙げることができる。熱学的特徴量としては、細胞の温度等を挙げることができる。上記の幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量と経過時間とを組み合わせることにより、特徴量の変化とその経過時間を記録し、細胞間シグナル伝達等による複数の細胞の経時的変化を比較することができる。
【0026】
データ処理部42から出力されたデータは、データ記録部43により入力される。データ記録部43は、データを記録する。この時、データを圧縮して記録することもできる。また、特徴量の変化がない経過時間の一部データを削除しデータを減少させることもできる。また、これらを組み合わせることにより、より効率的にデータを記録することかできる。データ記録部43は、たとえば、ハードディスク装置、コンパクトディスク装置、テープ装置、デジタルビデオディスク装置等を挙げることができる。
【0027】
細胞培養部2および撮像部3が、図3で示されるような場合について、図3を参照して説明する。
【0028】
筐体内に細胞培養セル21および温度調節部22が設置されている。細胞培養セル21内は、右部と左部とに分離部26により分断されている。この分離部26は、細胞を通さず、かつ、その他の物質、たとえば、培養液や細胞間シグナル伝達物質等を通すことができる孔を有している。該分離部26は、例えば、厚さ0.25〜0.45μmのプラスチック膜を挙げることができる。培養液24は、培養液タンクから温度調節された培養液が培養液ポンプにより、右方向パイプより導入され、細胞培養セル21の右部に、次いで分離部を通過し、細胞培養セル21の左部へ流れ、左方向パイプより排出される。温度調節部22は、温水タンクから温度調節された温水25が温水ポンプにより、右方向パイプから導入され、左方向パイプより排出される。筐体内は、二酸化炭素制御部から、濃度調節された二酸化炭素23が右方向パイプから導入され、左方向パイプより排出される。
【0029】
撮像部3は、細胞培養セル21の右部の細胞aを撮像する対物レンズ装着CCDカメラAと、細胞培養セル21の左部の細胞bを撮像する対物レンズ装着CCDカメラBとから構成されている。上記対物レンズ装着CCDカメラAおよびBには、発光ダイオードからなる光源が設置されている。
【0030】
細胞培養部2が、図4で示されるような場合について、図4を参照して説明する。
【0031】
撮像部3は、細胞培養セル21の上部の細胞aを撮像する対物レンズ装着CCDカメラAと、細胞培養セル21の下部の細胞bを撮像する対物レンズ装着CCDカメラBとから構成されている。上記対物レンズ装着CCDカメラAおよびBには、発光ダイオードからなる光源が設置されている。
【0032】
上述したように、本発明の細胞培養観察装置および細胞培養観察方法においては、細胞間シグナル伝達等による複数の細胞の経時的変化を、同時且つ連続的に観察することが可能である。すなわち、複数のCCDカメラにより、異なった細胞の経時的変化を、同時且つ連続的に観察することにより、下記のことが可能である。
1.一度に多種の細胞を観察することができるので、細胞間シグナル伝達物質に反応する細胞を発見する時間を短縮することができる。
2.細胞間シグナル伝達物質の機構を解明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の細胞培養観察装置の一実施例を示す構成図である。
【図2】図2は、細胞培養部と撮像部の一実施例を示す構成図である。
【図3】図3は、細胞培養部の一実施例を示す構成図である。
【図4】図4は、細胞培養セルの一実施例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 細胞培養観察装置
2 細胞培養部
21 細胞培養セル
22 温度調節部
23 二酸化炭素
24 培養液
25 温水
26 分離部
3 撮像部
A CCDカメラ
B CCDカメラ
4 画像解析部
41 画像メモリ部
42 データ処理部
43 データ記録部
5 画像表示部
a 細胞
b 細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の経時的変化を連続的に観察する細胞培養観察装置であって、
複数の細胞の細胞活性を維持可能な細胞培養部2と、
該細胞培養部2の細胞の経時的変化を観察する複数の撮像部3と、
該撮像部3で撮影された画像を解析する画像解析部4と、
該画像解析部4で解析された画像を表示する画像表示部5を備えていることを特徴とする細胞培養観察装置。
【請求項2】
細胞培養部2が、分離部26を備えていることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養観察装置。
【請求項3】
撮像部が、光源および対物レンズを備えているCCDカメラであることを特徴とする請求項1から2に記載の細胞培養観察装置。
【請求項4】
画像解析部が、幾何学的特徴量、光学的特徴量および熱学的特徴量から選ばれる少なくとも1つを解析することを特徴とする請求項1から3に記載の細胞培養観察装置。
【請求項5】
記録部が、フレームレート30fps(frame per second)以上であることを特徴とする請求項1から4に記載の細胞培養観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−20553(P2007−20553A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235536(P2005−235536)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(505216830)グライコジャパン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】