説明

細胞壊死活性を有する化合物

【課題】 細胞壊死活性、特に、腫瘍細胞に対する細胞壊死活性を必要とする医薬品の分
野において有用な化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】
[1]魚類及び介類の肉、卵、及び体液からなる群から選ばれるいずれかを、疎水性の有
機溶媒で抽出することにより得られる、細胞壊死活性を有する化合物。
[2]前記細胞壊死活性は、肺癌患者由来の癌細胞を用いたハイブリドーマ、ヒト大腸癌
由来細胞、マウス大腸癌由来細胞及びヒト末梢血リンパ球に対するものであることを特徴
とする、上記[1]に記載の細胞壊死活性を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞壊死活性を有する化合物に関し、より詳細には、魚類及び介類から得ら
れる、疎水性の細胞壊死活性を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体においては、形態学的に分類される2種類の細胞死が知られている。一方は
プログラムされた細胞死といわれるアポトーシスであり、他方は細胞の壊死(ネクローシ
ス)である。こうした細胞の死は、ウイルス感染の場合を例に挙げれば、感染成立後に生
体防御機構が作動してT細胞とB細胞とが協同的に作用し、ウイルスに感染した細胞を非
自己と認識して死滅させるものである。
【0003】
細胞の壊死は、ウイルス感染のみならず、近年、死亡原因の上位に位置する癌の場合に
も起こることが知られている。癌細胞が出現すると、腫瘍細胞の壊死作用を有するTNF
等の生体因子やNK細胞等が作用し、生体の恒常性の維持が図られる(非特許文献1参照
)。
【0004】
一方、動植物に含まれる種々の活性を有する化合物については、植物精油等の主要成分
等に関する報告も多く、研究も進んでいる(非特許文献2参照)。また、魚類や介類にお
いても、シガトキシン等を初めとする海産毒については研究が進み、いろいろな報告もな
されている(非特許文献3参照)が、腫瘍壊死活性を有する物質を含むかどうかについて
の報告は少ない。
【非特許文献1】BioScience用語ライブラリー 免疫 14〜15頁 1995年11月1日 第1刷発行
【非特許文献2】エッセンシャルオイルの化学 1990年1月30日 第1版発行 裳華房
【非特許文献3】http://www.jst.go.jp/pr/report/report193/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体の恒常性とのバランス上、細胞壊死活性を有する物質の生体内における産生量は限
られているため、腫瘍を有している生体そのものから、腫瘍細胞を選択的に壊死させるこ
とができる物質を大量に得ることは難しい。
【0006】
しかし、こうした活性を有する化合物は、ウイルス感染や癌の治療においては有用性が
高いと考えられており、腫瘍壊死活性を有する化合物を、あるまとまった量で定常的に確
保することについては、強い要請がある。
【0007】
本発明の発明者らは、上記のような事情の下で鋭意研究を進め、本発明を完成したもの
である。本発明は、魚類又は介類から得られる、細胞壊死活性を有する化合物を含む画分
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、魚類及び介類の肉、卵、及び体液からなる群より選ばれる少なく
とも一つを、疎水性の有機溶媒で抽出して得られる細胞壊死活性を有する化合物である。
【0009】
ここで、前記魚類の肉は、カツオ、マグロ、アジ、サバ及びイワシからなる群から選ば
れるものであることが好ましく、前記魚類の卵は、ニシン、タラ、トビウオ、ホキ及びシ
シャモからなる群から選ばれるものであることが好ましい。また、前記介類の体液は、イ
カスミ及びタコスミからなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0010】
また、前記細胞壊死活性は、肺癌患者由来の癌細胞を用いたハイブリドーマ、ヒト大腸
癌由来細胞、マウス大腸癌由来細胞及びヒト末梢血リンパ球に対するものであることが好
ましい。
【0011】
さらに、前記細胞壊死活性を有する化合物は、アルカリに親和性のあるものであること
が好ましく、100℃、30分の加熱処理によって失活するものであることが、さらに好
ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚類及び介類から疎水性の細胞壊死活性を有する化合物を得ることが
できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の化合物の抽出に用いた、魚類及び介類について説明する。ここで使用し
た魚類としては、例えば、カツオ、マグロ、アジ、サバ及びイワシ等を挙げることができ
るが、これらに限定されるものではない。
中でもカツオ、マグロ、アジ、サバ及びイワシからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することが好ましく、カツオを使用することがさらに好ましい。
【0014】
また、前記魚類の卵としては、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモ等の
卵を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
中でもニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモからなる群より選ばれる少な
くとも一つの卵を使用することが好ましく、ニシンの卵であるカズノコを使用することが
、一定の質の材料を容易に入手できることからさらに好ましい。
【0015】
また、前記介類は、イカ及びタコ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
中でもイカ及びタコからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0016】
また前記体液は、イカスミ、タコスミ等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
中でもイカスミ及びタコスミからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
特に、スルメイカのイカスミを使用すると、後述する細胞壊死活性の高い化合物を得ることができる。
【0017】
上記の魚類の肉、卵および体液、並びに介類の肉、卵および体液から、後述する細胞壊死活性を有する化合物を抽出するにあたっては、疎水性の有機溶媒を使用することが好ましく、前記疎水性の有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等を挙げることができる。これらの中でも脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類、及びエステル類が好ましく、n−ヘキサン、トルエン、ベンゼン、及び酢酸エチルからなる群から選ばれるものを使用することが、溶媒自体の極性及び水との親和性という点から好ましく、とりわけ、n−ヘキサンを使用すると抽出効率が高い。
【0018】
上記疎水性の有機溶媒は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0019】
上記疎水性の有機溶媒には、エチルアルコール、アセトン、DMSO等の水溶性の有機
溶媒の一種もしくは二種以上を併用することができる。
【0020】
また、細胞壊死活性は、肺癌患者由来のリンパ球細胞とリンパ腫細胞であるNAT−3
0細胞とを融合して作製したハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来細胞、マウス大腸癌由来細
胞及びヒト末梢血リンパ球に対するものであることが好ましい。ここで、肺癌患者由来の
リンパ球細胞とリンパ腫細胞であるNAT−30細胞とを融合して作製したハイブリドー
マとしては、HB4C5、HF10B4等を挙げることができる。HB4C5を使用する
ことが、培養及び細胞活性の測定が容易であるという理由から好ましい。
【0021】
ヒト大腸癌由来細胞としては、Colo−201、LoVo、Caco−2、LS18
0等を挙げることができる。Colo−201、及びCaco−2からなる群より選ばれ
る少なくとも一つの株化細胞を使用することが、培養が容易であることから好ましく、C
olo−201を使用することがさらに好ましい。
【0022】
マウス大腸癌由来細胞としては、colon−26、RKO−E6、CT26、CL2
5等を挙げることができる。colon−26を使用することが、in vivo(動物
実験)において効果を検討することが容易であることから好ましい。
【0023】
また、上記のような株化細胞以外に、ヒト末梢血リンパ球細胞に対して、細胞壊死活性
を有するものであってもよい。
【0024】
前記細胞壊死活性を有する化合物は、アルカリに親和性のあるものであることが好まし
く、100℃、30分の加熱処理によって失活するものであることがさらに好ましい。
【0025】
こうしたアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げるこ
とができる。また、100℃、30分の加熱処理による細胞壊死活性の失活率(%)は、
加熱処理をしない場合の約50〜80%である。
【0026】
以下に、本発明の細胞壊死活性を有する化合物を得るための手順を説明する。
【0027】
上述したカツオの魚肉、イカスミ、及びカズノコを、それぞれ、所定量ずつ秤量し、所
定の大きさの遠心可能なチューブに個別にとり、所定量のn−ヘキサン等の疎水性の有機
溶媒を各チューブに加える。
【0028】
これらのチューブを、1〜8℃、好ましくは3〜5℃、さらに好ましくは約4℃の温度
範囲で、6,000〜18,000×g、好ましくは7,000〜15,000×g、さ
らに好ましくは8,000〜15,000×gの遠心力の範囲で所定の時間遠心分離する

各チューブのヘキサン相を他の容器に別個に移し、n−ヘキサン等の疎水性の有機溶媒
相Aとする。次いで、それぞれのチューブ内の沈殿物に所定量のn−ヘキサン等の疎水性
の有機溶媒を加えて再度溶解させ、その後、同様に所定の時間遠心分離し、n−ヘキサン
等の疎水性の有機溶媒相Bを得る。上記のn−ヘキサン等の疎水性の有機溶媒相A及びB
を合わせて、n−ヘキサン等の疎水性の有機溶媒相抽出画分(1)とする。
【0029】
n−ヘキサン等の疎水性の有機溶媒相抽出画分(1)から所定量を遠心可能なチューブ
にとり、ここに等量の水を加えて激しく混和し、1〜8℃、好ましくは3〜5℃、さらに
好ましくは約4℃の温度範囲で、6,000〜18,000×g、好ましくは7,000
〜15,000×g、さらに好ましくは8,000〜15,000×gの遠心力の範囲で
所定の時間遠心分離し、水相を除く。
【0030】
再度等量の水をここに加えて上記と同様に混和した後に遠心し、得られたn−ヘキサン
等の疎水性の有機溶媒相をヘキサン抽出画分(2)とする。
【0031】
上記のようにして得たn−ヘキサン等の疎水性の有機溶媒画分(1)及び(2)を、粗
精製標品として以下の手順に従い細胞壊死活性を測定する。
【0032】
継代培養した上記のハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来株化細胞、マウス大腸癌由来株化
細胞を、それぞれ2〜3日間前培養する。
【0033】
ついで、所定の倍率に希釈した上述した粗標品を、所定量であらかじめ用意した大きさ
のシャーレに分注し、所定量のあらかじめ調製しておいた4×ITESをこのシャーレに
所定量ずつ分注する。
【0034】
次に、あらかじめ調製した2×EDRF培地を用いて、上述の各細胞を約2×10
cells/mLに調製し、これを上記のシャーレそれぞれに、所定量ずつ分注する。
【0035】
細胞の分注を終えた後に、これらのシャーレを5%COインキュベータ中、37℃に
て約2日〜3日間培養し、各シャーレ中の細胞数(全数)と、生細胞数とを測定し、生存
率を求めて細胞壊死活性とする。
【0036】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
カツオその他の魚類の試料からのn−ヘキサン等による各画分の抽出
(1−1)材料等
カツオは鰹節製造工場より入手した2尾を用い、これらから得られた抽出用試料を、そ
れぞれ、カツオ−I及びカツオ−IIとした。
【0038】
イカスミは市販品を購入した。また、カズノコは、オランダ産の市販品(−18℃以下
にて冷凍保存されたもの)を購入した。
【0039】
n−ヘキサン、エチルアルコールルは、和光純薬工業(株)より、いずれも特級品を購
入した。また、水は、超純水を蒸留して使用した。
【0040】
マイクロチューブは、容量1,500μL、2,000μL、及び5000μLのものをアシスト(株)社より購入した。
【0041】
(1−2)ヘキサン抽出画分(1)、(2)、水抽出画分及びエタノール抽出画分の調製
上述したカツオ−I、カツオ−II、イカスミ、及びカズノコを、それぞれ、カツオ−I
とカツオ−IIとは0.551g、イカスミは0.541g、及びカズノコを0.549g
秤量し、1.5mLのマイクロチューブに個別にとり、それぞれ1mLのへキサンを加え
て溶解させた。
【0042】
これらのチューブを、4℃、12,000rpm(13,000×g)にて5分間遠心
し、それぞれヘキサン相を他の容器にそれぞれ移し、ヘキサン相Aとした。次いで、それ
ぞれの沈殿に1mLのヘキサンを加えて再度溶解させた後、4℃、12,000rpm(
13,000×g)にて5分間遠心分離し、ヘキサン相Bを得た。上記のヘキサン相A及
びB合わせて、ヘキサン抽出画分(1)とした(図1参照)。
【0043】
ヘキサン抽出画分(1)から600μLを1.5mLマイクロチューブに移し、ここに
600μLの水を加えて激しく混和し、4℃、12,000rpm(13,000×g)
にて15分間遠心分離し、水相を除いた。再度600μLの水をここに加えて上記と同様
に混和、遠心を行い、得られたヘキサン相をヘキサン抽出画分(2)とした(図1参照)

【0044】
600μLのヘキサン抽出画分(2)を5mLのマイクロチューブにとり、ここに、n-
ヘキサンと水とをそれぞれ1mLずつ加えて上記と同様に混和し、遠心分離した。得られ
た沈殿に対して、600μLの水を加えて同様に混和し、4℃、12,000rpm(1
3,000×g)にて15分間遠心分離した。この遠心分離操作によって得られた上清を水抽出画分とした。また、得られた沈殿は、600μLのエタノールに溶解し、エタノール抽出画分とした(図1参照)。
【0045】
(実施例2)上記各画分の細胞壊死活性測定
(2−1)試料、試薬等
上記の実施例1で得られた、カツオ−I、カツオ−II、イカスミ及びカズノコからそれぞ
れ得られた、ヘキサン抽出画分(1)、同(2)、水抽出画分、エタノール抽出画分につ
いて、細胞壊死活性を検討した。
【0046】
細胞壊死活性は、HB4C5、Colo−201、Colon−26及びヒト末梢血リ
ンパ球細胞を後述する条件にて培養し、総細胞数に対する生細胞数(生存率)を指標とし
て評価した。
【0047】
HB4C5細胞は、肺癌患者のリンパ球と、リンパ腫細胞であるNAT−30とを融合
させて作製されたヒト−ヒトハイブリドーマであり、IgM型のヒトモノクローナル抗体
(C5抗体)を分泌する。この細胞の培養には、EDRF培地を、極東製薬工業(株)よ
り購入して使用した。添加物であるインスリン、トランスフェリン、エタノール及びセレ
ナイトは、シグマ社より購入して使用した。
【0048】
ヒトの大腸癌細胞株Colo−201はATCC(American Type Culture Collection
)より購入し、マウスの大腸癌細胞株Colon−26は、東北大学加齢医学研究所より
分与を受けた。Colo−201の培養には、5%ウシ胎児血清(以下、FBSというこ
とがある)を添加した上記EDRF培地を使用した。FBSは56℃で30分間、非動化
処理を行っている。
【0049】
ヒト末梢血リンパ球細胞は、健常成人より約30mLを真空採血管を用いて採血し、後
述する処理を行って得た。この処理には、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSということ
がある)及びLSM(Lymphocyte Separation Medium)を使用した。PBSは生理食塩水と
リン酸バッファーとを用いて調製し、LSMはオルガノンテクニカ社より購入した。
【0050】
上述した実施例1で調製した各試料の希釈には、DMSO(特級)を和光純薬工業(株
)より、購入して使用した。
【0051】
(2−2)ハイブリドーマHB4C5に対するヘキサン抽出画分(1)及び(2)の細胞
壊死活性の測定
継代培養したハイブリドーマHB4C5を、58cmのシャーレ4枚に2×10
ells/mLでまき、2日間培養して、8×10cells/mLに調製した。
【0052】
上述した実施例1で調製した各試料を、5倍及び25倍にDMSOを用いて希釈した。
DMSOには細胞毒性があることから、細胞壊死活性測定においては、培地中における濃
度が0.5%以下となるようにした。すなわち、段階希釈した各試料30μLを滅菌水1
.47mLに溶解し、この溶解液500μLを、あらかじめ用意した2mLのシャーレに
それぞれ分注した。
【0053】
ついで、以下のようにして4×ITESを調製した。すなわち、200μLのインスリ
ン(200μg)、200μLのトランスフェリン(800μg)、200μLのエタノ
ールアミン(4.84μg)、及び200μLのセレナイト(0.192μg)を合わせ
、ここに蒸留水9.2mLを加えて10mLとし、4×ITESを調製した。こうして調
製した4×ITESを、500μLずつ、上記の2mLの各シャーレに分注した。
【0054】
次に、EDRF粉末17.7gを、500mLの蒸留水に溶解して調製した2×EDR
F培地10mL以上を用いて、ハイブリドーマHB4C5を2×10cells/mL
に調製した。このハイブリドーマHB4C5を含む2×EDRF培地を、上記の各シャー
レに1mLずつ分注した。
【0055】
これらのシャーレを5%COインキュベータ中、37℃にて2日間培養し、各シャー
レ中の細胞数(全数)及び生細胞数とを測定し、生存率を求めた。生細胞数の測定には、
1%トリパンブルーを使用した。
【0056】
カツオ−I、カツオ−II、イカスミ及びカズノコから実施例1の手順に従って得られた
、ヘキサン抽出画分(1)、同(2)について、細胞壊死活性を測定した。陽性対照には
、ヘキサンをDMSOで5倍希釈した試料を使用した(表1〜3中、番号1で示す)。ま
た、各画分の活性は、5倍希釈及び25倍希釈の試料を用いて測定した(表1〜3中、2
及び4は5倍希釈を、また、3及び5は25倍希釈の試料をそれぞれ活性測定に使用して
いる)。結果を表1〜3、図2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

以上より、カツオ、イカスミ及びカズノコのヘキサン抽出画分(1)及び(2)には、
高い細胞壊死活性があることが示された。
【0060】
(2−3)ハイブリドーマHB4C5に対するエタノール抽出画分及び水抽出画分の細胞壊死活性の測定
上記(2−2)と同様に調製したハイブリドーマHB4C5に対して、ヘキサン抽出画
分(1)及び(2)と同量のエタノール抽出画分及び水抽出画分の細胞壊死活性を測定し
た。
【0061】
カツオ−I、カツオ−II、イカスミ及びのエタノール抽出画分、及びカツオ−IIの水抽
出画分を用い、上記実施例(2−2)と同様にして、細胞壊死活性を測定した。結果を表
4〜6及び図3に示す。なお、表4〜6及び図3中、1はエタノールをDMSOで5倍希
釈したものを表す。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

以上より、いずれの試料においても、エタノール抽出画分及び水抽出各分においては、
ハイブリドーマHB4C5細胞壊死活性は低下しており、細胞壊死活性はヘキサン抽出画
分(1)又は(2)にあることが示された。
【0065】
(実施例3)細胞壊死活性を有する化合物の物性の検討
(3−1)酸又はアルカリに対する親和性の検討
カツオ−IIから0.5757gを1.5mLマイクロチューブにとり、ここにヘキサン
1mLを加えて溶解させ、4℃、12,000rpm(13,000×g)にて5分間遠心分離し、ヘキサン相Cを得た。
【0066】
ヘキサン相Cを、500μLずつ2つのマイクロチューブに分け、一方には500μL
の6N塩酸を加え、他方には500μLの2N水酸化ナトリウムを加えた。転倒混和した
後に、4℃、12,000rpm(13,000×g)にて15分間遠心分離し、ヘキサン相D(塩酸存在下で抽出された画分)及びヘキサン相E(水酸化ナトリウム存在下で抽出された画分)を得た。
【0067】
ヘキサン相D及びEについて、上述した実施例2と同様にして、HB4C5細胞に対す
る細胞壊死活性を測定した。結果を表7及び図4に示す。
【0068】
【表7】

以上より、水酸化ナトリウム存在下においてヘキサン抽出した画分よりも、塩酸存在下
でヘキサン抽出した画分の方が高い細胞壊死活性を有することが示された。
【0069】
これによって、細胞壊死活性を有する化合物は、アルカリに対して親和性を有するもの
であろうと考えられた。
【0070】
(3−2)極性物質又は非極性物質の検討
実施例1で得た各ヘキサン抽出画分(2)500μLをドラフト内に1日静置し、ヘキ
サンが十分揮発した後、酢酸エチル500μLを加えて溶解した。この後、4℃、12,
000rpm(13,000×g)にて5分間遠心分離して上清をとり、それぞれを、カ
ツオ−I(2)A、カツオ−II(2)A、イカスミ(2)A、カズノコ(2)Aとした。
【0071】
これらの試料について、上述した実施例2と同様にしてハイブリドーマHB4C5に対
する細胞壊死活性を測定した。結果を表8及び9、並びに図5に示す。陽性対照には、酢
酸エチルをDMSOで5倍希釈したものを使用した。
【0072】
【表8】

【0073】
【表9】

以上より、カツオ−I、カツオ−II、及びイカスミでは、5倍希釈、25倍希釈のいず
れの試料を使用した場合でも、細胞壊死活性が確認された。一方、カズノコは、25倍希
釈の試料では細胞壊死活性が著しく低下していた。このため、細胞壊死活性は、概ねヘキ
サン抽出物を酢酸エチルで抽出した画分に含まれており、極性物質ではないと考えられた

【0074】
(3−3)熱安定性の検討
上述した実施例(3−2)と同様にして得たカツオ−I(2)A及びカツオ−II(2)
Aを、1.5mLのマイクロチューブに1mLずつ分注し、100℃の湯浴で30分間、
加熱処理を行い、その後、氷中に漬けて急冷した。
【0075】
2mLのシャーレに、熱処理したカツオ−I(2)A及びカツオ−II(2)Aと、熱処
理していないカツオ−I(2)A及びカツオ−II(2)Aとをそれぞれ500μLずつ分
注した。
【0076】
次いで、FBS800μLに滅菌水9.2mLを加え、8%FBSを調製した。この8
%FBSを上記のシャーレに500μLずつ分注した。ここで、上述したように前培養し
たColo−201細胞を上記と同様に調製して、2×10cells/mL(2×E
DRF培地)とし、上記の加熱試料又は非加熱試料、及びFBSを含む各シャーレにそれ
ぞれ1mLずつ分注した。
【0077】
このシャーレを5%COインキュベーター中、37℃にて2日間培養し、細胞数と生
細胞数とを計測して生存率(%)を求めた。
【0078】
結果を表10及び図6に示す。陽性対照には、加熱処理した酢酸エチルをDMSOで5
倍希釈したものと、加熱処理していない酢酸エチルをDMSOで5倍希釈したものとを使
用した。
【0079】
【表10】

以上より、カツオ−I(2)A及びカツオ−II(2)Aのいずれの試料においても、非
加熱処理した試料では細胞壊死活性が見られたが、100℃、30分の加熱処理によって
この活性は失われることが示された。
以上より、細胞壊死活性は熱に不安定な物資であることが示された。
【0080】
(実施例4)腫瘍細胞に対する細胞壊死活性の検討
(4−1)ヒト大腸癌細胞株Colo−201に対する細胞壊死活性
細胞をハイブリドーマHB4C5からヒト大腸癌細胞株Colo−201に代えた以外
は、実施例2と同様にして細胞壊死活性を検討した。なお、Colo−201は接着細胞
であるため、活性測定にあたっては、常法に従って前培養した付着細胞を剥がすという操
作が必要となる。
【0081】
上述したカツオ−I、カツオ−II、イカスミ及びカズノコの酢酸エチル抽出画分を試料
として、細胞壊死活性を測定した。すなわち、上記の各試料を添加した培養上清を15mL
の遠心管に移し、次いで、2mMのEDTAを含有するPBS 2mLを付着細胞に当て
て、細胞を剥がした。剥がした細胞を、上清を移した15mLの遠心管に移し、この遠心管を4℃、2,000rpm(13,000×g)で5分間遠心して上清を除いた。次いで、ここに2mLのEDRF培地を加えて懸濁した。生細胞数は、トリパンブルーと血球計算板とを用いて計測した。結果を、表11、12及び図7に示す。
【0082】
【表11】

【0083】
【表12】

以上より、上記の各抽出画分のうちカツオのヘキサン抽出画分をさらに酢酸エチルで抽
出した画分は、ヒトの癌細胞由来細胞株に対しても細胞壊死作用を有することが確認され
た。一方、イカスミとカズノコの抽出画分では、これらの活性は示されなかった。
【0084】
(4−2)マウス大腸癌細胞株Colon−26に対する細胞壊死活性
細胞をハイブリドーマHB4C5からマウス大腸癌細胞株Colon−26に代えた以
外は、実施例2と同様にして細胞壊死活性を検討した。なお、Colon−26は付着細
胞であるため、活性測定にあたっては、常法に従って前培養した付着細胞を剥がすという
操作が必要となる。
【0085】
上述したカツオ−I及びカツオ−IIの酢酸エチル抽出画分を試料として、細胞壊死活性
を測定した。すなわち、上記の各試料を添加した培養上清を15mLの遠心管に移し、次
いで、2mMのEDTAを含有するPBS 2mLを付着細胞に当てて、細胞を剥がした
。剥がした細胞を、上清を移した15mLの遠心管に移し、この遠心管を室温にて、1,
000rpm(500×g)で5分間遠心して上清を除いた。次いで、ここに2mLのE
DRF培地を加えて懸濁した。生細胞数は、トリパンブルーと血球計算板とを用いて計測
した。結果を、表13及び図8に示す。
【0086】
【表13】

【0087】
(4−3)ヒト末梢リンパ球(PBL)に対する細胞壊死活性の検討
細胞をハイブリドーマHB4C5からPBLに代えた以外は、実施例2と同様にして細
胞壊死活性を検討した。
【0088】
健常人(男性)より約30mLを50mLの注射器により採血し、全血を50mLの遠
心管に移してPBSを20mL加えて、そっと転倒混和して懸濁した。
【0089】
15mLの遠心間12本にLSM(Lymphocyte Separation Medium)を3mLずつ加え
、数秒間遠心した。この後、LSMの上に、上記の懸濁した全血を、LSMの界面を乱さ
ないように静かに重層した。
【0090】
室温にて、2,000rpm(800×g)にて、20分間遠心し、4層に別れた全血
のうち、白血球を含む層を、別の15mLの遠心間に回収した。この遠心管に、全体が1
4mLとなるまで、上記の2×EDRF培地を加えて、転倒混和し十分に懸濁した。
【0091】
ついで、室温、1,500rpm(600×g)にて、5分間遠心し、上清をアスピレ
ータで除き、再度、14mLの2×EDRF培地を加えて、室温にて、1,500rpm
(600×g)にて、5分間遠心した。上清をアスピレータで除き、10mLの2×ED
RF培地を加えて懸濁した。
【0092】
ついで、このPBL懸濁液を、2×EDRF培地を用いて5×10cells/mL
に調製した。
【0093】
上述した実施例1で得たカツオ−I(1)Aとカツオ−II(2)Aとを試料として使用
し、陽性対照には、酢酸エチルをDMSOで5倍希釈したものを使用した。30μLのカツ
オ−I(2)A又はカツオ−II(2)Aを1.47mLの滅菌水で希釈し、この希釈後の
各試料を24穴プレートの各ウェルに250μLずつ分注した。
【0094】
600μLのFBSを2.4mLの滅菌水で希釈し、20%FBSを調製し、上記の各
ウェルに250μLずつ分注した。ついで、上記のように調製したPBLの懸濁液を、各
ウェルに1mLずつ分注した。この24穴プレートを、5%COインキュベータ中、3
7℃にて、2日間培養し、細胞数と生細胞数とを測定し、生存率を求めた。
【0095】
結果を、表14及び図9に示す。
【0096】
【表14】

以上より、上記の各抽出画分のうちカツオのヘキサン抽出画分をさらに酢酸エチルで抽
出した画分は、癌細胞のみならずヒトの末梢リンパ球細胞に対しても細胞壊死作用を有す
ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、細胞壊死活性、特に、腫瘍細胞に対する細胞壊死活性を必要とする医薬品の
分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】魚類及び介類からのヘキサン抽出画分に含まれる化合物の抽出手順を示す図である。
【図2】図2A〜Cは、魚類及び介類からの各ヘキサン抽出画分の細胞壊死活性を示す図である。
【図3】図3A〜Cは、魚類及び介類からの各ヘキサン抽出画分をさらに水で抽出した画分の細胞壊死活性を示す図である。
【図4】本発明の細胞壊死活性を有する化合物の酸又はアルカリへの親和性を示す図である。
【図5】図5A及びBは、本発明の細胞壊死活性を有する化合物の極性を測定した結果を示す図である。
【図6】本発明の細胞壊死活性を有する化合物の熱安定性を測定した結果を示す図である。
【図7】図7A及びBは、本発明の細胞壊死活性を有する化合物のヒト大腸癌由来株化細胞Colo201に対する腫瘍壊死活性を測定した結果を示す図である。
【図8】本発明の細胞壊死活性を有する化合物のマウス大腸癌由来株化細胞Colon-26に対する腫瘍壊死活性を測定した結果を示す図である。
【図9】本発明の細胞壊死活性を有する化合物のヒト末梢血リンパ球に対する腫瘍壊死活性を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類及び介類の肉、卵、及び体液からなる群より選ばれる少なくとも一つを、疎水性の有機溶媒で抽出して得られる細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項2】
前記疎水性の有機溶媒が、n−ヘキサン、トルエン、キシレン及びベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項3】
前記魚類の肉が、カツオ、マグロ、アジ、サバ及びイワシからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項4】
前記魚類の卵が、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項5】
前記介類の体液が、イカスミ及びタコスミからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項6】
前記細胞壊死活性は、肺癌患者由来の癌細胞を用いたハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来細胞、マウス大腸癌由来細胞及びヒト末梢血リンパ球に対するものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項7】
前記細胞壊死活性を有する化合物は、アルカリに親和性のあるものであることを特徴とする、請求項6に記載の細胞壊死活性を有する化合物。
【請求項8】
前記細胞壊死活性を有する化合物は、100℃、30分の加熱処理によって失活するものであることを特徴とする、請求項6又は7に記載の細胞壊死活性を有する化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−91655(P2007−91655A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284302(P2005−284302)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(590006398)マルトモ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】