説明

細胞検出方法及び、細胞検出装置

【課題】細胞懸濁液から異物を除去するとともに、細胞の配列及び観察を行うことにより効率的に細胞懸濁液に含まれる循環腫瘍細胞の検出を行う。
【解決手段】細胞が含まれる細胞懸濁液が上層に、前記細胞懸濁液及び前記細胞よりも比重の大きい第2液体が下層となるように貯留槽に注ぎ、
前記貯留槽の上方から、前記細胞懸濁液と前記第2液体の界面を撮影し、
前記撮影により得られた画像から前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、血液中における細胞、特に循環腫瘍細胞(CTC:Circulating tumor cell)を検出するために、細胞を配列し配列した細胞の中から稀少細胞を検出する細胞検出方法及び細胞検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者の血液中においては循環腫瘍細胞が存在する。循環する血液中の循環腫瘍細胞の有無を検出することにより、癌に罹っているか否かあるいは、癌患者に対する治療の効果を判断することができる。
【0003】
循環腫瘍細胞の濃度は非常に低く、10〜10個の細胞中にわずか数個の低濃度で存在する。例えば血液10mlのサンプルに対して含まれる循環腫瘍細胞は数個程度である。
【0004】
特許文献1では、細胞から循環腫瘍細胞を分離するために、チキソトロープ物質を含む複数種類の密度の異なる物質を容器にいれて遠心分離を実施、チキソトロープ物質よりも上の物質を取り出すことにより、循環腫瘍細胞その他のチキソトロープ物質よりも比重が小さい物質を分離する手段が開示されている。
【0005】
特許文献2では、細胞自体がマイナスに荷電していることを利用し、細胞が接着した接着部をマイナスに荷電することにより、細胞を損傷させずに剥離する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−529541号公報
【特許文献2】特許第3494535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、循環腫瘍細胞を分離させることを目的とするものである。また特許文献2では、同極性による静電気的な反発力を利用して細胞を剥離させることを目的とするものである。これらはいずれも複数種類の細胞が混在した細胞懸濁液から対象となる循環腫瘍細胞等の細胞を分離するものであるが、分離の手間がかかるということと、そもそも分離が不十分になる虞がある。また全細胞を移動させるとともに配列、観察を行うものではない。
【0008】
本願発明は分離工程の一部を省略して細胞懸濁液に含まれる全細胞(特に白血球及び循環腫瘍細胞)の移動と同時に顕微鏡観察に適切な平面状態を作り出すことを目的とするとともに、細胞懸濁液から異物を除去して、全細胞の配列及び観察を行うことにより効率良く細胞懸濁液に含まれる循環腫瘍細胞の検出を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0010】
1.細胞が含まれる細胞懸濁液が上層に、前記細胞懸濁液及び前記細胞よりも比重の大きい第2液体が下層となるように貯留槽に注ぎ、
前記貯留槽の上方から、前記細胞懸濁液と前記第2液体の界面を撮影し、
前記撮影により得られた画像から前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出方法。
【0011】
2.前記貯留槽には、前記第2液体を最初に注ぎ、注がれた前記第2液体の上方に細胞懸濁液を注ぐことを特徴とする前記1に記載の細胞検出方法。
【0012】
3.前記貯留槽には底部に注入口を備えており、細胞懸濁液を最初に注ぎ、前記注入口により前記細胞懸濁液の下方から前記第2液体を注入することを特徴とする前記1に記載の細胞検出方法。
【0013】
4.細胞が含まれる細胞懸濁液が注入された貯留槽において、前記細胞が浮かぶ方向の電界を形成し、
前記細胞懸濁液の上面に浮上した前記細胞を撮影し、
前記撮影により得られた画像から前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出方法。
【0014】
5.前記細胞は、負に帯電しており、前記電界は上方が正となる方向に形成されていることを特徴とする前記4に記載の細胞検出方法。
【0015】
6.上方に設けられた透明電極板と、下方に設けられた下電極板と、を有する貯留槽と、
前記透明電極板と前記下電極板との間に電界を形成する電源と、
前記透明電極板の上方に設けられた撮影部と、
前記撮影部から得られた画像を解析する解析部と、
を有し、
前記貯留槽に注入された細胞が含まれる細胞懸濁液に前記電源により電界を形成し、形成した電界により前記細胞を浮上させ、浮上させた前記細胞を前記撮影部により撮影し、撮影し得られた画像を前記解析部により解析することにより前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出装置。
【0016】
7.前記細胞は、負に帯電しており、前記電源により上方が正となる方向の電界を形成することを特徴とする前記6に記載の細胞検出装置。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、細胞懸濁液に含まれる細胞を同一高さに浮上させることにより、異物の除去と、細胞の配列及び観察を行うことが可能となり、ひいては効率よく細胞懸濁液に含まれる循環腫瘍細胞の検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る細胞検出方法に用いられる細胞検出装置の概略構成を示す図である。
【図2】貯留槽10の拡大断面図である。
【図3】送液手順を説明する模式図である。
【図4】第2の実施形態の細胞検出方法に用いる細胞検出装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。
【0020】
図1は、実施形態に係る細胞検出方法に用いられる細胞検出装置の概略構成を示す図である。
【0021】
図1に示す細胞検出装置は、撮影部25、画像解析部20、送液ポンプp1、供給槽16、上流側流路r1、貯留槽10、下流側流路r2、排出槽17、経路中に配置されたバルブb1、b2を備える。
【0022】
供給槽16に供給された血液その他の細胞懸濁液は、バルブb1を開放してから送液ポンプp1を作動させることにより上流側流路r1へ搬送される。上流側流路r1を搬送された細胞懸濁液は、貯留槽10に供給される。貯留槽10では後述の方法により細胞を配列し、配列した細胞は上方に設けた撮影部25により撮影する。撮影により得られた画像データは画像解析部20により画像解析される。ここでいう配列とは、理想的には全ての細胞が単層かつ高密度で配置されていることであり、各細胞が重ならずに高密度で配置させることができれば、これを撮影することにより全て細胞の形状を確認することができる。画像解析としては例えば得られた画像データに対してコントラスト調整、2値化処理、エッジ抽出、等の処理により細胞の形状を検出する。そしてそれらの形状の特徴から白血球細胞及び循環腫瘍細胞その他の稀少細胞(rare cell)の選別を行って稀少細胞の有無もしくは個数の検出を行う。撮影部25から撮影される側の貯留槽10の上方面積(開口面積)としては、血液その他の細胞懸濁液中に含まれる全細胞を平面上に重なることなく展開する際に必要な面積と同等もしくはそれよりも広い面積とすることが好ましく、本実施形態では例えば100mm□の0.01mである。
【0023】
貯留槽10の下流側には下流側流路r2が接続されておりバルブb2を開放してから、送液ポンプp1を作動させることにより、貯留槽10の内部の細胞懸濁液は、下流側流路r2を経由して排出槽17に排出される。
【0024】
図2は、貯留槽10の拡大断面図である。貯留槽10はその底部に上流側流路r1からの注入口101が設けられている。図2に示す実施形態では貯留槽10は密閉されておらずその上方は開放されている。このような構成であることからバルブb2を閉じた状態で送液ポンプp1を作動させることにより貯留槽10の内部に液体が供給される。上方の開放状態を避けるのであれば空気抜きの穴を設けた上で撮影部25により撮影可能なように透明の材料により形成された蓋を被せるようにしても良い。
【0025】
図2においては貯留槽10の内部には、上層に細胞懸濁液lq1が、それよりも下層に第2液体lq2が注がれている。そして、細胞懸濁液lq1の底面であって第2液体lq2との境界には、白血球細胞cが配列されている状態を示している。送液手順については後述する。なお、白血球細胞c等の細胞には循環腫瘍細胞が混在している場合があるが、細胞10〜10個に数個の割合と非常に少ないので、図2及びこれ以降の図では循環腫瘍細胞の表示は省略している。
【0026】
細胞懸濁液lq1は、例えばPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に循環腫瘍細胞と白血球細胞cを懸濁させたものであり比重としては1.02〜1.04である。細胞懸濁液lq1全体の比重は白血球細胞cの比重1.07〜1.09及び循環腫瘍細胞の比重1.04〜1.070よりも小さい。第2液体lq2は、細胞懸濁液lq1、白血球細胞c及び循環腫瘍細胞よりも比重が大きい液体であり、例えば比重1.130のFicoll-Paque PLUS(GE社製)がある。また想定される異物(不純物)としては磁気ビーズ(MG205:JSR社製)であり、第2液体lq2の比重は、当該異物の比重1.130よりも小さいものを使用している。なお、図2においては、下流側流路r2は図示省略している。
【0027】
図3は、送液手順を説明する模式図である。図3(a)から図3(d)は図2に対応する貯留槽10の断面図であり、図3(a)から図3(d)まで時系列的に表示したものである。
【0028】
図3(a)では、上流側流路r1側から細胞懸濁液lq1を送液する。送液する量としては、貯留槽10の内部で高さ1.0〜2.0mmとなるように例えば10ml〜20mlの量を送液する。細胞懸濁液lq1には、白血球細胞cとともに、前処理により除去できずに残っている磁性ビーズ等の異物apが僅かながら混じっている可能性がある。
【0029】
図3(b)は、図3(a)に続いて上流側流路r1側から第2液体lq2を送液する。第2液体lq2は底部の注入口101から細胞懸濁液lq1の下方から、静かに注ぐことにより、両者は混ざらずに細胞懸濁液lq1の下方に第2液体lq2が分離した状態で存在することになる。送液速度としては、好ましくは5ml/min〜1ml/minである。
【0030】
図3(c)は、図3(b)に引き続き、所定量の第2液体lq2の送液を終了した状態を示している。送液する所定量としては、貯留槽10の内部で高さ3〜6mmとなるようにしている、例えば30ml〜60mlである。
【0031】
図3(d)は、図3(c)の状態から数分間静置させた後の状態を示している。循環腫瘍細胞及び白血球細胞cは、細胞懸濁液lq1よりも比重が大きく、かつ第2液体lq2よりも比重が小さいので、2つの液体の境界面に浮いた状態で同一高さに整列されることになる。一方、磁気ビーズ等の第2液体lq2よりも比重が大きい異物apは、貯留槽10の底面に沈殿することになる。
【0032】
このように図3のような手順で、貯留槽10の内部に液体を送液することにより、細胞懸濁液lq1に含まれる異物apを除去できるとともに、循環腫瘍細胞と白血球細胞cの整列されている高さを揃えることが可能となる。特に2つの液体の境界面に揃えることができるので高さ方向のばらつきが少なく、撮影部25から撮影する際に焦点深度が浅くても問題なく撮影することが可能となる。
【0033】
なお、液体を注ぐ手順としては、最初に第2液体lq2を貯留槽10に注いでおき、その上方に細胞懸濁液lq1を注ぐようにしても、図3(d)と同様の状態とすることができる。
【0034】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態の細胞検出方法に用いる細胞検出装置の概略構成を示す図である。図4に示す細胞検出装置は、撮影部25、画像解析部20、貯留槽10b、電源PSを備えている。そして貯留槽10bは、上方には透明電極板121、下方には下電極板122が設けられている。また貯留槽10bの内部には、白血球細胞cが含まれた細胞懸濁液lq1が注入されている。細胞懸濁液lq1の液量は、その液面(上面)が透明電極板121の底面に触れるような設定にしている。
【0035】
透明電極板121は、例えば、ITO基板(ITO:Indium-Tin Oxide)であり可視光を透過するので、上方にある撮影部25により透明電極板121の下方にある白血球細胞cを撮影することができる。また同図に示す例では、下電極板122と透明電極板121とは、例えば100mm□で面積0.01mとして、略同一の面積、形状で正対する位置関係となるように配置している。
【0036】
電源PSにより、下電極板122と透明電極板121との間に白血球細胞cが浮かぶ方向の電界を形成する。白血球細胞cは負に帯電しているので、電源PSの陽極側を透明電極側に、負極側を下電極板122に接続することにより、白血球細胞cが浮かぶ方向の電界を形成するので、当該電界により白血球細胞cを浮上させることができる。図4に示すように循環腫瘍細胞と白血球細胞cは、細胞懸濁液lq1の上面に浮上するので透明電極板121の底面に白血球細胞cが当接した状態となる。透明電極板121に当接した白血球細胞cを上方にある撮影部25により撮影し、撮影により得られた画像に対して画像解析部20より画像解析することにより図1に示した実施形態と同様に、個々の細胞の形状を検出して、白血球細胞及び循環腫瘍細胞その他の稀少細胞(rare cell)の選別を行って稀少細胞の有無もしくは個数の検出を行う。
【0037】
電源PSの出力電圧としては例えば、陽極側に10V、負極側を接地(ゼロV)としている。また電源PSの出力としてはDC電圧のみならずこれにAC電圧を重畳させて、下電極板122と透明電極板121との間にAC電界を重畳させてもよい。このようにすることにより循環腫瘍細胞と白血球細胞cに振動を与えて細胞の凝集を低減し細胞を分散させて細胞の単層化配列を促進することが可能となる。
【0038】
また、下電極板122を針状電極のように透明電極板121とは異なる形状とすることで両電極間に、高周波の不均一な電界を形成してもよい。当該電界により、循環腫瘍細胞と白血球細胞cには、誘電泳動力が作用することになるので、電界の向きや周波数を適正な値とすることにより誘電泳動力により白血球細胞cを透明電極板121に当接するように浮上させることができる。
【0039】
本実施形態では、貯留槽10bの内部に浮上させた状態で観察することにより、細胞懸濁液lq1に含まれる異物の除去と観察とを合わせて行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
10、10b 貯留槽
101 注入口
16 供給槽
17 排出槽
20 画像解析部
25 撮影部
PS 電源
p1 ポンプ
r1 上流側流路
r2 下流側流路
121 透明電極板
122 下電極板
c 白血球細胞
ap 異物
lq1 細胞懸濁液
lq2 第2液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が含まれる細胞懸濁液が上層に、前記細胞懸濁液及び前記細胞よりも比重の大きい第2液体が下層となるように貯留槽に注ぎ、
前記貯留槽の上方から、前記細胞懸濁液と前記第2液体の界面を撮影し、
前記撮影により得られた画像から前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出方法。
【請求項2】
前記貯留槽には、前記第2液体を最初に注ぎ、注がれた前記第2液体の上方に細胞懸濁液を注ぐことを特徴とする請求項1に記載の細胞検出方法。
【請求項3】
前記貯留槽には底部に注入口を備えており、細胞懸濁液を最初に注ぎ、前記注入口により前記細胞懸濁液の下方から前記第2液体を注入することを特徴とする請求項1に記載の細胞検出方法。
【請求項4】
細胞が含まれる細胞懸濁液が注入された貯留槽において、前記細胞が浮かぶ方向の電界を形成し、
前記細胞懸濁液の上面に浮上した前記細胞を撮影し、
前記撮影により得られた画像から前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出方法。
【請求項5】
前記細胞は、負に帯電しており、前記電界は上方が正となる方向に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の細胞検出方法。
【請求項6】
上方に設けられた透明電極板と、下方に設けられた下電極板と、を有する貯留槽と、
前記透明電極板と前記下電極板との間に電界を形成する電源と、
前記透明電極板の上方に設けられた撮影部と、
前記撮影部から得られた画像を解析する解析部と、
を有し、
前記貯留槽に注入された細胞が含まれる細胞懸濁液に前記電源により電界を形成し、形成した電界により前記細胞を浮上させ、浮上させた前記細胞を前記撮影部により撮影し、撮影し得られた画像を前記解析部により解析することにより前記細胞に含まれる稀少細胞の有無又は個数の検出を行うことを特徴とする細胞検出装置。
【請求項7】
前記細胞は、負に帯電しており、前記電源により上方が正となる方向の電界を形成することを特徴とする請求項6に記載の細胞検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−21828(P2012−21828A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158558(P2010−158558)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】