説明

細胞濃縮分離装置

【課題】前処理無しに微量の細胞の濃縮から分離精製までを連続して行う細胞濃縮分離装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、細胞を連続濃縮する機能と、引き続き、連続して細胞を流路の特定の領域に連続配置する機能と、特定の周波数の誘電電気泳動力に対して、引力あるいは斥力という異なる特性を持つ細胞を連続で分離精製する機能を有する細胞濃縮精製画像ベースで1細胞単位でその形状と蛍光の発光を同時認識する機能と、その形状と蛍光の発光の情報に基づいて認識を行って細胞を分離精製する機能を有する細胞濃縮分離装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞濃縮分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物における生体組織は種々細胞が役割を分担して全体として調和の取れた機能を維持している。あるいは、細胞の一部ががん化(ここでは腫瘍も含め、一括してがんと呼ぶことにする)すると、周辺領域と異なる新生物となるが、がん領域とそこから遠く離れた正常組織部分とはある境界を持って必ずしも区切れるものではなく、がん周辺領域も何らかの影響を受けている。したがって、臓器組織における機能を解析するには狭い領域に存在する少数の細胞を短時間のうちになるべく簡単に、かつ損失を最小にして分離する必要がある。
【0003】
また、再生医療の分野では、組織の中から臓器幹細胞を分離し、これを再培養して分化誘導し目的の組織、ひいては臓器を再生しようとする試みがなされている。
【0004】
細胞を識別したり分離したりしようとすると、何らかの指標に従い区別する必要がある。一般に細胞の区別には、
1)目視による形態学的な細胞分類:たとえば尿中に出現する異型細胞検査による膀胱がんや尿道のがんなどの検査や血中の異型細胞分類、組織中における細胞診によるがん検査などをあげることができる。
2)蛍光抗体法による細胞表面抗原(マーカー)染色による細胞分類:一般にCDマーカと呼ばれる細胞表面抗原を、それに特異的な蛍光標識抗体で染色するもので、セルソーターによる細胞分離やフローサイトメーターや組織染色によるがん検査などに用いられている。もちろんこれらは、医療面のみならず、細胞生理研究用や、工業的な細胞利用の上でも多用されている。
3)あるいは、幹細胞の分離に関しては、細胞内に取り込まれる形の蛍光色素をレポーターとして幹細胞を含む細胞を大まかに分離し、更にその後で実際に培養を行うことで目的の幹細胞を分離する例がある。これは、幹細胞の有効なマーカーがまだ確立されていないので、実際に培養し、分化誘導したもののみを利用することで、実質的に目的細胞を分離しているのである。
【0005】
このように培養液中の特定の細胞を分離し回収することは生物学・医学的な分析においては重要な技術である。細胞の比重の違いで細胞を分離する場合には速度沈降法によって分離することができる。しかし、未感作の細胞と感作した細胞とを見分けるような、細胞の比重の違いがほとんど無い場合には、蛍光抗体で染色した情報あるいは目視の情報を基に細胞を1つ1つ分離する必要がある。
【0006】
この技術については、例えば、セルソーターがある。セルソーターは、蛍光染色処理後の細胞を電荷を持たせた液滴中に1細胞単位で単離して滴下し、この液滴中の細胞の蛍光の有無、光散乱量の大小を基に、液滴が落下する過程で、落下方向に対して法平面方向に高電界を任意の方向に印加することで、液滴の落下方向を制御して、下部に置かれた複数の容器に分画して回収する技術である(非特許文献1:Kamarck,M.E., Methods Enzymol. Vol.151, p150-165 (1987))。
【0007】
しかし、この技術は高価であること、装置が大型であること、数千ボルトという高電界が必要であること、一定以上の濃度まで濃縮された試料が多量に必要であること、液滴を作成する段階で細胞に損傷を与える可能性があること、直接試料を観察できないことなどの問題がある。これらの問題を解決するため、近年、マイクロ加工技術を用いて微細な流路を作成し、流路内の層流中を流れる細胞を直接顕微鏡観察しながら分離するセルソーターが開発されている(非特許文献2:Micro Total Analysis, 98, pp.77-80 (Kluwer Academic Publishers, 1998);非特許文献3:Analytical Chemistry, 70, pp.1909-1915 (1998))。しかし、このマイクロ加工技術を用いて作成するセルソーターでは観察手段に対する試料分離の応答速度が遅く、実用化するためには、試料に損傷を与えず、かつ、より応答の速い処理方法が必要であった。また、利用するサンプル溶液中の細胞濃度も一定以上の濃度に事前に高めることをしないと、希薄な細胞濃度であっては、十分に装置の分離効率を高めることができないという問題点、さらに微量なサンプル中での濃縮について、別装置で行った場合には、その濃縮液をロスなく回収することが困難であるだけでなく、煩雑な前処理段階において、細胞が汚染されるなどの再生医療等では望ましくない問題が発生することが課題となっていた。
【0008】
本発明者らは、このような問題点を解消するため、マイクロ加工技術を活用して、試料の微細構造と試料中の蛍光分布に基づいて試料を分画し、回収する試料に損傷を与えることなく、簡便に細胞試料を分析分離することのできる細胞分析分離装置を開発している(特許文献1:特開2003−107099;特許文献2:特開2004−85323;特許文献3:WO2004/101731)。これは実験室レベルでは十分に実用的なセルソーターであるが、再生医療のために汎用的に使用するには、液搬送法や回収法、試料調製などの前処理について新たな技術開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【特許文献2】特開2004−85323号公報
【特許文献3】国際公開第2004/101731号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kamarck,M.E., Methods Enzymol. Vol.151, p150-165 (1987)
【非特許文献2】Micro Total Analysis, 98, pp.77-80 (Kluwer Academic Publishers, 1998)
【非特許文献3】Analytical Chemistry, 70, pp.1909-1915 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
基板の一面にマイクロ流路を作成して液を流すと、一般的にはその中を流れる液は層流になる。一見すると、流路の断面積方向には液流速分布が無い様に錯覚するが、実際にこのようなマイクロ流路中に細胞懸濁液を流すと、細胞が流路内の壁に接触する現象が頻発する。壁に接触した細胞は流れに逆らう抵抗を受けることになるため流速が低下し、後方を流れてくる細胞と接触したりする。セルソーターやフローサイトメーターにおいてこのような現象が起きると、細胞の分離検出が困難になる。一般的にこのような現象を防止するにはシースフロー技術が用いられる。これは高速に流れる液流を鞘としてそのコア部分に細胞懸濁液を流し込むことで細胞を一列に整列させる技術で、鞘となるシース流とコア流を合体させた後、空気中にジェット流として流し出すことで達成される。この従来法ではそもそも壁が無いので細胞が壁に接触する現象の無い理想的な状態で細胞を分離することができる。
【0012】
しかし、シースを用いたジェット流を安定に形成するのは非常に難しく、実用的な装置はきわめて高価であり、シース形成用のセルは試料ごとに取り替えることができない。大型の装置に限らずチップ上に形成したセルソーターに関しても、本願の発明者らが開示している方法以外の従来の技術では、もれなく試料液搬送とシース液搬送のために独立したポンプを用いている。これらのポンプはチップとは別に配置され、チップを交換するごとに繋ぎ換える必要がある。また、チップ交換に伴う試料送液速度とシース送液のバランス変動を調整し直す必要がある。このような厳密な制御を行うため、大掛かりな高安定なポンプが必要である。また、シース液を導入して細胞の位置を配列させる場合には、大量のサイドシース液を導入する必要があり、そのため、細胞濃度は更に希薄されてしまうという問題があった。
また、従来のセルソーターでは、標的とする回収するための細胞を選別するためには、蛍光抗体標識などの光学的に識別できる標識をターゲット細胞に結合させ、これを蛍光検出装置などの光学的な手法で識別して、その判断を電子的な手段で行ったうえで細胞を分離・精製するものであり、標識手段による細胞の損傷、再培養や移植が困難となるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況に鑑み、本発明者らは、基板の一面に形成する流路を用いる細胞分離あるいは検出用に、確実に所定の細胞の検出及び分離を行うことのできる細胞濃縮分離技術を確立し、事前に細胞濃度を調整する必要が無い、細胞濃縮前処理を行う手段を備えることで、細胞が汚染を受けることなく前処理から連続して細胞分離に移行できる細胞濃縮分析分離装置を提供する。
【0014】
また、本発明は、無標識で細胞を回収するために、一列に配列した細胞の形状を、1細胞単位で光学的に画像認識し、その細胞形状の画像データに基づいて電子的な手段を用いて識別して回収するシステムを提供する。
また、本発明は、さらに、無標識で細胞を回収するために、一列に配列した細胞の特定の周波数の誘電電気泳動力に対して引力、あるいは斥力を持つという応答性の違いと、「く」型(またはV字型)の鋭角を持った櫛形電極の鋭角の先端に特定の周波数では斥力を持つ物質も、引力を持つ物質も濃縮されることを利用して、複数の異なる周波数の誘電電気泳動力に対して引力、斥力をもつことの特定の組み合わせがされたもののみを回収するシステムを提供する。
【0015】
本発明で想定している細胞は、小さいものではバクテリア、大きいものでは動物細胞でがん細胞のようなものである。したがって、細胞サイズとしては0.5μmから30μm程度の範囲となる。細胞濃縮と細胞分離を基板の一面に組み込んだ流路を用いて連続して行おうとすると、まず問題になるのが流路幅(断面形状)である。また、流路は基板表面の一つに基板の厚み方向で10〜100μm内外のスペースに実質2次元平面状に作成することとなる。細胞の大きさからしてバクテリア用では厚み方向で5〜10μm、動物細胞用では厚み方向で10から50μmが適当なサイズとなる。
【0016】
本発明の細胞濃縮分離装置は、同一のチップ内に、細胞を濃縮する手段を持つ細胞濃縮部と、それに引き続き、細胞を分離精製する手段を持つ細胞配列部と細胞分離部、そして分離精製する細胞を識別判断する光学的解析手段からなる。細胞濃縮部は、濃縮処理がされていない、試料溶液が1つの入り口から導入され、濃縮部の下流に配置された排出部から試料溶液が排出される基本構成に加えて、濃縮部側壁内に設置された濃縮細胞回収口に向けて細胞に対して外力を与えて細胞を濃縮する手段を有する。このときの外力としては、超音波放射圧、重力、静電力、誘電電気泳動力を用いることができ、濃縮部の試料溶液の流れに対して直交する方向で、かつ、濃縮細胞回収口の方向に向けてこれらの外力を与えることができる配置で利用する。
細胞分離精製部においては、細胞が流れている流路の中央に細胞が配列するように細胞に対して外力を加えて下流の2つに分岐した流路の一方にすべての細胞が流れることができる手段と、それに引き続いて、配列した細胞のうち回収したい細胞のみに、さらに外力を加えて細胞の流れる位置を移動させることで、上記2つに分岐する流路のうち、この外力を加えたときのみ細胞が別の流路に導入される手段を用いる。ここで、具体的には外力としては、超音波放射圧による定在波の節への細胞の配列手段を利用する、あるいは、楔形の電極アレイを組み合わせることで、楔形の頂点の位置に細胞を配列させる手段を利用する、あるいは、対になったヒゲ型電極を用いて細胞を2つの対電極の間に配列させる手段を用いれば良い。また、この手段を用いれば、サイドシース液を添加すること無しに細胞を一直線に配置することができるため、前段で濃縮した細胞溶液が希釈される上記発明が解決しようとする課題にのべられた課題を合わせて解決できることとなる。
【0017】
細胞分離精製部においては、細胞が流れている流路の中央に細胞が配列するように細胞に対して外力を加えて下流の2つに分岐した流路の一方にすべての細胞が流れることができる手段と、それに引き続いて、配列した細胞のうち回収したい細胞のみに、さらに外力を加えて細胞の流れる位置を移動させることで、上記2つに分岐する流路のうち、この外力を加えたときのみ細胞が別の流路に導入される手段を用いる。ここで、具体的には外力としては、超音波放射圧による定在波の節への細胞の配列手段を利用する、あるいは、楔形の電極アレイを組み合わせることで、楔形の頂点の位置に細胞を配列させる手段を利用する、あるいは、対になったヒゲ型電極を用いて細胞を2つの対電極の間に配列させる手段を用いれば良い。また、この手段を用いれば、サイドシース液を添加すること無しに細胞を一直線に配置することができるため、前段で濃縮した細胞溶液が希釈される上記発明が解決しようとする課題にのべられた課題を合わせて解決できることとなる。
【0018】
本発明の濃縮分離装置の細胞検出部は、細胞分離部にある。細胞を画像として捕らえて評価する場合は流路分岐部分の上流にCCDカメラで観測する部位を設け、必要に応じてその下流に細胞分離領域を設置する構造とする。画像によらず、流路を通過する細胞にレーザーなどを照射し、細胞が横切るときの散乱光や細胞を蛍光で修飾している場合はその蛍光を光検出器で検出することもできる。この場合も、検出部の下流に細胞分離領域となる分離流路点を設置する構造とする。
【0019】
細胞分離領域である分離部で細胞を分離するわけであるが、細胞分離部に外部から細胞に外力を加えて細胞を移動させる手段としてたとえば誘電電気泳動力を用いる場合には1対の櫛形電極を設置し、細胞を分離して排出することのできる流路を設ける。静電力による場合は、電極に電圧をかけて細胞の流路内での位置変更を行う。このとき、一般に細胞はマイナスにチャージしているのでプラスの電極に向かって動く。
【0020】
また、本発明では、試料液のチップ内への導入圧力が、液の移動の駆動力となっているため、濃縮部の廃液出口、細胞分離部の精製細胞の出口、細胞分離部の廃液の出口の圧力がほぼ同じになるように構成することが望ましい。そのために、細い流路や、S字状の長い流路など各出口の直前に圧力調整用の流路抵抗調整部を配置している。
【0021】
細胞認識と分離のアルゴリズムに関しては次のような特徴がある。
【0022】
細胞を画像として捕らえて評価する場合は合流後の流路部分をCCDカメラで観測する部位を設け、測定範囲を面に広げ画像認識で細胞の識別を行い、追跡することでより確実な細胞分離を行う。このとき重要なのは、画像の取り込み速度である。一般の30フレーム/秒のビデオレートのカメラでは、画像での細胞取りこぼしが生じる。最低200フレーム/秒の取り込みレートがあれば、流路中をかなりの速度で流れる細胞を認識できる。
【0023】
次に画像処理法であるが、取り込みレートが早いということはあまり複雑な画像処理を行うことはできない。まず、細胞認識であるが、前記したとおり、細胞の移動速度や細胞によりまちまちで、場合によっては細胞の追い越しがある。このため、各細胞が最初に画像フレームに現れたときに細胞にナンバリングを施し、以下、画像フレームから消えるまで同一ナンバーで管理を行うこととする。すなわち、連続する複数枚のフレームで細胞像が移動する状況をナンバーで管理する。各フレーム内での細胞は上流側にあったものから順に下流側に移行し、画像中に認識されるナンバリングされた特定細胞の移動速度はある範囲に収まるとの条件でフレーム間の細胞をリンクさせる。このようにすることで、たとえ、細胞の追い抜きがあったとしても各細胞を確実に追跡できるようにする。
【0024】
これで、細胞の認識が可能となるが、細胞のナンバリングには、まず細胞像を2値化し、その重心を求める。2値化した細胞の輝度重心、面積、周囲長、長径、短径を求め、これらのパラメーターを用いて各細胞をナンバリングする。各細胞像をこの時点で画像として自動保存することも使用者にとって益があるので行えるようにする。
【0025】
つぎに、細胞分離に使用する場合であるが、ナンバリングした細胞のうち、特定の細胞のみを分離しなくてはならない。分離の指標は上記した輝度重心、面積、周囲長、長径、短径などの情報でもよいし、画像とは別に蛍光検出を行うことを併用して蛍光を利用した情報を得てもよい。いずれにせよ、検出部で得た細胞をナンバリングに従い分離する。具体的には、所定時間毎に取り込まれる前記画像からナンバリングされた細胞の移動速度(V)を計算し、細胞移動速度(V)に対して検出部から分離部までの距離を(L)、印加時間(T)によって、印加タイミングを(L/V)から(L/V+T)までとすることでちょうど目的のナンバーの細胞が電極間に来た時に細胞を電気的に振り分けて分離する。
【0026】
具体的には、本発明は、以下の細胞濃縮分離装置を提供する。
(1)基板と、
上記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路と、
上記流路内に設けられた、細胞を濃縮するための細胞濃縮領域と、
上記流路内に設けられた、上記細胞を分離するための細胞分離領域と
を備える、細胞分離チップ。
(2)上記流路が、上記細胞濃縮領域の下流で分岐しており、
上記細胞濃縮領域を通過した細胞を含む液が、上記分岐した流路の1つを流下するように構成されており、
該分岐した流路の1つに上記細胞分離領域が設けられている、上記(1)記載の細胞分離チップ。
(3)上記分岐した流路内の上記細胞分離領域の上流に細胞情報検出領域を備え、
上記細胞情報検出領域で検出された上記細胞の情報に基づいて、上記細胞分離領域で上記細胞が分離されるように構成されている、上記(2)記載の細胞分離チップ。
(4)上記流路が上記細胞分離領域の下流でさらに分岐しており、
上記細胞分離領域で分離された細胞を含む液が、上記分岐した流路の1つを流下するように構成されている、上記(2)または(3)記載の細胞分離チップ。
(5)上記細胞濃縮領域に、超音波放射圧、重力、静電力、または誘電電気泳動力を細胞に作用させるように構成された機構を備える、上記(1)〜(4)のいずれか記載の細胞分離チップ。
(6)上記機構が、上記細胞濃縮領域の流路内表面に配置された電極を含む、上記(5)記載の細胞分離チップ。
(7)上記電極が、櫛形電極アレイである、上記(6)記載の細胞分離チップ。
(8)上記櫛形電極アレイが、V字型の電極のアレイで構成され、各V字型電極のV字の頂点が上記流路の下流を向いている、上記(7)記載の細胞分離チップ。
(9)上記細胞濃縮領域と上記細胞分離領域とが上記流路内で一体化している、上記(1)記載の細胞分離チップ。
(10)上記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の上記流路内表面の1つに、V字型の電極アレイからなる櫛形電極アレイが、各V字型電極のV字の頂点が上記流路の下流を向くように配置されている、上記(9)記載の細胞分離チップ。
(11)上記流路が、上記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の下流の該流路内で分岐しており、該流路内で上記電極と離れる方向または上記電極に近づく方向にそれぞれ分離された細胞が、上記分岐した各流路へ流下するように構成されている、上記(10)記載の細胞分離チップ。
(12)
(a)以下の(i)〜(v)を備える細胞分離チップと、
(i) 基板
(ii) 上記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路
(iii) 上記流路内に設けられた、細胞を濃縮するための細胞濃縮領域
(iv) 上記流路内の上記細胞濃縮領域の下流に設けられた、細胞の情報を得るための細胞情報検出領域、および
(v) 上記流路内の上記細胞情報検出領域の下流に設けられた、上記細胞を分離するための細胞分離領域
(b)上記細胞濃縮領域において超音波放射圧、重力、静電力、または誘電電気泳動力を細胞に作用させるように構成された機構と、
(c)上記細胞情報検出領域を通過する細胞の情報を得るための、光学系および細胞画像処理部を備える細胞情報検出装置と、
(d)上記細胞情報検出装置により得られた上記細胞の情報に基づいて、上記細胞分離領域において上記細胞に外力を作用させるように電圧を印加するように構成された機構と、
を備える、細胞濃縮分離装置。
(13)上記(b)の機構が、上記細胞濃縮領域の流路内表面に配置された電極を含む、上記(12)記載の細胞濃縮分離装置。
(14)上記電極が、櫛形電極アレイである、上記(13)記載の細胞濃縮分離装置。
(15)上記櫛形電極アレイがV字型の電極のアレイで構成され、各V字型電極のV字の頂点が上記流路の下流を向いている、上記(14)記載の細胞濃縮分離装置。
(16)基板と、
上記基板内の一面に構成される、細胞を含む液を流下させるための第1の流路と、
上記第1の流路に上記液を導入する導入口と、
上記第1の流路を流下する細胞を濃縮する手段と、
上記細胞が濃縮された後に残った廃液を排出する、上記第1の流路の一端に位置する廃液出口と、
上記第1の流路に接続し、上記濃縮された細胞を含む液を分岐導入する第2の流路と、
上記濃縮された細胞を流しながら、上記第2の流路内で該細胞を一直線となるように配列させる手段と、
上記細胞を配列させた後の上記第2の流路の所定の領域で細胞の状態を検出する細胞情報検出手段と、
上記第2の流路の上記細胞情報検出手段が配置された位置の下流に配置された細胞分離手段であって、上記検出された細胞の情報に応じて上記細胞を上記第2の流路のさらに下流にて連絡する二つの分岐流路のいずれかに流下させる細胞分離手段と、
上記二つの分岐流路の下流に設けられ、それぞれの分岐流路を流下する細胞を含む緩衝液を保持する二つの溶液貯めと、
を備えた、上記(12)記載の細胞濃縮分離装置。
(17)上記基板が金型による射出成型で作成されたプラスチック基板であり、上記流路が上記プラスチック基板の一面に作成された溝とこれを覆うラミネートフィルムで形成されている、上記(16)記載の細胞濃縮分離装置。
(18)上記細胞情報検出領域で検出する細胞の情報が細胞の画像情報から得られるものである、上記(16)記載の細胞濃縮分離装置。
(19)上記細胞を配列させる手段として、超音波放射圧、誘電電気泳動力、または細胞を濃縮させたい位置となる上記第2の流路の下流側中央部に向けて鋭角な先端を有する、櫛型電極の繰り返し構造となる電極アレイを用いて発生させた誘電電気泳動力を用いる、上記(16)記載の細胞濃縮分離装置。
(20)上記細胞分離手段として、上記細胞が緩衝液とともに流下する第2の流路に1対の櫛形電極が設けられ、
二つの電極間に交流電流を流した場合と流さない場合に応じて、細胞が上記細胞分離領域で二つの分岐流路のいずれかに分配される、上記(16)記載の細胞濃縮分離装置。
(21)上記第1の流路に上記液を導入する1つの導入口と上記第1の流路および上記第2の流路に合わせて3つ以上の液の廃液出口を有し、上記導入口から液の導入によって与えられた液の移動のための駆動力となる圧力を、これら3つ以上の液の出口の位置で等しくするために、上記3つ以上の液の出口の直前に圧力を調整するための調整部となる流路が付加されている、上記(16)記載の細胞濃縮分離装置。
(22)
(a)以下の(i)〜(iv)を備える細胞分離チップと、
(i) 基板
(ii) 上記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路
(iii) 上記流路内に設けられた、上記流路内で一体化されている細胞濃縮領域および細胞分離領域、ならびに
(iv) 上記一体化されている細胞濃縮領域および細胞分離領域の上記流路内表面の1つに各V字型電極のV字の頂点が上記流路の下流を向くように配置されているV字型の電極アレイからなる櫛形電極アレイ
(b)分離される細胞に依存して特定の周波数の誘電電気泳動力を上記櫛形電極アレイに作用するように構成された特定の周波数の交流電場印加手段と、
を備える、細胞濃縮分離装置。
(23)上記交流電場の特定の周波数が可変である、上記(22)記載の細胞濃縮精製装置。
(24)上記細胞分離チップの上記流路が、上記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の下流の該流路内で分岐しており、該流路内で上記電極と離れる方向または上記電極に近づく方向にそれぞれ分離された細胞が、上記分岐した各流路へ流下するように構成されている、上記(22)または(23)記載の細胞濃縮分離装置。
(25)上記(24)記載の細胞濃縮分離装置を複数含み、
上記分岐した流路の少なくとも1つが、別の上記細胞濃縮分離装置の細胞を含む試料液を流下させるための流路の上流端に接続され、
上記分岐した上記流路の少なくとも1つを流下する細胞を含む液が、上記別の細胞濃縮分離装置においてさらなる濃縮分離に供されるように、上記複数の細胞濃縮分離装置がタンデムに連なって構成されている、細胞濃縮分離装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の細胞濃縮分析分離装置によれば、基板の一面に形成する流路を用いる細胞分離あるいは検出用に、確実に所定の細胞の検出及び分離を行うことのできる細胞濃縮分離技術を確立し、事前に細胞濃度を調整する必要が無い、細胞濃縮前処理を行う手段を備えることで、細胞が汚染を受けることなく前処理から連続して細胞分離に移行することができる。
【0028】
セルソーターをチップ上に構築した従来のセルソーターでは、セルソーターに導入する細胞の濃度を、別途、遠心分離機などの濃縮工程などを経て濃縮させたために、コンタミネーションの問題があったが、本発明においては、チップ上で直接濃縮したものを、送液部分および分離した細胞の培養槽もチップ上に形成し、光学系以外の機能はチップのみでクローズドで行うことでコンタミネーションや細胞のロスが発生しないだけでなく、手順が簡素化され、処理時間が短縮される使い勝手を改善することができる。クローズドにすることで、たとえば、幹細胞の分離や臨床検査には、他の検体組織由来細胞のコンタミネーション防止が必須であるがコンタミネーションを考慮する必要が無くなる。このように、本発明は、セルソーターの前処理部分を含めて主要部分をチップ化することで、装置のクロスコンタミネーションの完全な防止などが可能になり、医療分野、特に再生医療分野で必須なクロスコンタミネーションの無い細胞分離システムを提供する。
【0029】
本発明により、細胞濃縮などの前処理を行う必要無く、安定した細胞分離が可能な使いきり型の汚染の無い細胞濃縮分離を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の細胞濃縮分離培養装置のシステム構成の一例を概念的に示す模式図である。
【図2】図1における細胞濃縮部の構成の1例を模式的に示す平面図である。
【図3】図1における細胞配列部の構成の1例を模式的に示す平面図である。
【図4】図1における細胞配列部の構成の1例として、実際に楔形電極を用いてポリスチレン微粒子を配列させた結果を示した図である。
【図5】図1における細胞配列部の構成の1例として、実際にヒゲ型電極を用いてポリスチレン微粒子を配列させた結果を示した図である。
【図6】図1における細胞分離部の構成の1例を模式的に示す平面図である。
【図7】細胞検出領域の光学系の概要を示す概念図である。
【図8】誘電泳動力の極性の違いによって微粒子を連続的に分離精製する装置の1例を模式的に示す平面図(上図)および側面図(下図)である。
【図9】図8において負の誘電泳動力を受ける粒子が導入された場合に粒子が分離精製される原理を説明する概念図の平面図(上図)および側面図(下図)である。
【図10】図8において正の誘電泳動力を受ける粒子が導入された場合に粒子が分離精製される原理を説明する概念図の平面図(上図)および側面図(下図)である。
【図11】図8で装置の構造を示し、図9および図10で装置の動作原理を説明した分離精製装置の構成の一例として、実際にV字櫛形電極を用いて枯草菌の芽胞とポリスチレンビーズを分離精製した結果を示した図である。
【図12】誘電泳動力の極性の周波数応答性の違いによって微粒子を連続的に分離精製する装置の1例を模式的に示す側面図である。
【図13】誘電泳動力によって微粒子が懸濁されている溶液を連続的に交換する装置の1例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0032】
(細胞濃縮分離装置のシステム構成)
図1は、本発明の細胞濃縮分離装置のシステム構成の基本的概念を模式的に示す平面図である。入れられた試料溶液中の細胞の濃縮から配列、精製までを平面チップ上10上に2次元に展開して配置された一連の微細加工された流路と、チップ10に組み込まれた細胞に力を作用させる手段からなる。
【0033】
細胞濃縮分離装置1はチップ10上に構成されている。チップ10の内部に流路を、上面にこの流路に連通する開口を設け、試料や必要な緩衝液(培地)の供給口とする。流路の作成はPMMAなどのプラスチックを金型に流し込むいわゆる射出成型で作成することで作成することもできるし、あるいは、複数のガラス基板を接着することで作成することもできる。チップ10全体のサイズは、たとえば50×70×1mm(t)であるがこれに限定されない。チップ10の内面に刻まれた溝や貫通穴を流路やウェルを流れる細胞を、高倍率の光学顕微鏡で観察できるように、PMMAプラスチックを用いた場合には、例えば、0.1mm厚のラミネートフィルムを熱圧着して用いており、また、ガラスの場合は同様に0.1mmのガラスを光学接着することで用いている。例えば、開口数1.4、倍率100倍の対物レンズを用いて、0.1mmのラミネートフィルムを通して流路内を流れる細胞を観察できる。プラスチックの場合、プラスチックを透光性の高いものとすれば、チップ基板10の上面側からも観測できる。また、本発明で想定している細胞は、小さいものではバクテリア、大きいものでは動物細胞でがん細胞のようなものである。したがって、細胞サイズとしては典型的には0.5μmから30μm程度の範囲となるが、厳密にこの範囲に限定されるわけではなく、本発明が有効に使用される限り任意のサイズの細胞が使用されうる。細胞濃縮と細胞分離を基板の一面に組み込んだ流路を用いて連続して行おうとすると、まず問題になるのが流路幅(断面形状)である。また、流路は基板表面の一つに基板の厚み方向で典型的には10〜100μm内外のスペースに実質2次元平面状に作成することとなる。細胞の大きさからしてバクテリア用では厚み方向で5〜10μm、動物細胞用では厚み方向で10から50μmが適当なサイズとなる。
【0034】
チップ10上で、まず、試料溶液は、試料液導入口20からシリンジポンプあるいは、空気圧などの脈流が発生しない、細胞導入手段によって、細胞濃縮部30に導入される。細胞濃縮部に導入された細胞を含む試料液は、そのまま下流にある廃液出口50に向けて試料の流れ100に沿って流れて行き排出される。このとき細胞濃縮部30において、細胞濃縮部30の側壁の一部に配置された細胞濃縮液導入口60に向けて細胞が濃縮されるように細胞に対して連続して外力を加える手段が導入されており、その外力によって、細胞は濃縮細胞の流れ101に沿って濃縮されてゆき、試料液導入口で導入された細胞濃度の100倍以上の高濃度の細胞濃縮液が細胞濃縮液導入口60に導入される。
【0035】
このとき細胞に加える外力としては、超音波放射圧、重力、静電力、誘電電気泳動力を用いることができる。たとえば、超音波放射圧を用いる場合には、試料液の流れに直交し、かつ、細胞濃縮液導入口60の方向に超音波の進行波を発生させて、その超音波の放射圧によって濃縮細胞の流れ101を発生させることができる。超音波の導入手段については、PZT系圧電素子をチップ10表面に接着しても良いし、あるいは、細胞濃縮部に表面弾性波が発生するように櫛形電極アレイを圧電素子表面に配置し、これを細胞濃縮部表面に張り付けて、浸み出した超音波が細胞濃縮部に導入されることを利用しても良い。重力を用いる場合には、試料液の流れに直交し、かつ、細胞濃縮液導入口60の方向が重力の方向となるように、チップの空間配置を調整しても良いし、あるいは、回転することができる円盤上に、チップを、試料液の流れに直交し、かつ、細胞濃縮液導入口60の方向が円盤の動径方向と同じ方向に配置しても良い。静電力を用いる場合には、細胞濃縮部30の側壁に電極を配置することで、細胞が側壁に向かって外力を受けるように配置すれば良く、その場合には、対象となる細胞の持つ細胞表面の電位が正となるか負となるかに応じて、どちらの電荷を印加するかを決めればよい。ただし、静電力を発生させる場合は、電流を加える電極表面の電位が過酸素化電位、あるいは過水素化電位などの一定の電位を超えると気泡が電極から発生することとなるため、印加する電圧は非常に弱いものとなり、それ故、細胞濃縮部30の流路距離は、細胞に加える外力の種類と強さに応じて柔軟に調整しなければならず、たとえば静電力の場合は十分に長いものとならなければならない。誘電電気泳動力を外力として用いる場合には、細胞濃縮部30内に、試料液の流れに直交し、かつ、細胞濃縮液導入口60の方向に誘電電気泳動力が加えられるように、電極を配置すれば良い。
【0036】
次に、細胞濃縮液導入部60に導入された濃縮細胞液は、細胞配列部70において、溶液中で流れに沿って一列に配列される。具体的には、誘電電気泳動力、あるいは超音波放射圧の定在波モードを用いることで、細胞配列部70の流路の中央部に細胞が引き寄せられるように外力を発生させる手段を有するものである。このようにして中央に一直線に配列された細胞は、細胞分離部80の前段に配置された細胞検出領域221(図7を参照)において、細胞を計測して、その各細胞の種類を判定した後に、上流から下流への流れに垂直な方向への外力を加えることの有無によって、分岐する2つの下流域である精製細胞出口90と廃液出口51のいずれかに誘導するものとなる。
【0037】
また、この試料液導入口20からの試料液の導入から3つの出口、すなわち精製細胞出口90、廃液出口50,51までの溶液の一連の流れは、本実施例では、試料導入口20を1つだけにすることで、導入口からの試料の導入をシリンジポンプ等で導入する力のみによって発生させることを、試料溶液全体の駆動力として利用することができる。ただし、このような、1つの入力に対して液の流れが等しくなるためには、上記3つの出口に等しく圧力が分散されて等しく溶液の流れが発生しなければならない。このように溶液が排出されるために、各排出出口の前には流路抵抗調整部40,41が配置されており、これによって出口の空間配置の違いによって発生する圧力差を相殺している。実際には、チップ内でのこの流路抵抗は、おもに、S字型の流路を加えて流路長を伸ばしたり、流路幅を狭めたりすることで実現させるものである。
【0038】
さらに、このような流路抵抗調整部を加えることで、多段での細胞精製分離が可能となる。具体的には、初段の細胞濃縮液導入口60から初段の細胞分離部80で分離されたのちの、廃液出口51のところに出口を設けず、さらに、第2段の細胞濃縮液導入口、第2段の細胞分離部というように、繰り返し細胞の分離精製を行う手段を配置構成することで、一度に複数の種類の細胞を、各々独立して分取精製することができる。
【0039】
図2は、実際の濃縮部30の構成の例として、誘電電気泳動力によって外力を実現する場合の、構成の一例を示したものである。細胞を含む試料注入口1010から導入された試料溶液は、濃縮部並行流路1050を経て、廃液出口1020に流れてゆく。その途中に、濃縮用斜行櫛形電極2010を、溶液の流れの方向に対して一定の角度を持って、濃縮粒子取出用分岐流路の方向に誘電電気泳動力を誘導することができる構成で配置する。この組み合わされた1対の電極の末端にある濃縮用斜行櫛形電極接点(2020、2021)に、たとえば1MHz、30Vppの交流電場を印加することで、溶液が通過する過程で、細胞は濃縮部斜行流路1060を通って濃縮粒子取出用分岐流路1070に向けて連続的に濃縮される。たとえば、流速が20m/s程度の高速になる場合には、350Vpp程度の電圧まで上げることができれば、十分に細胞に外力を与えて濃縮することができる。
【0040】
図3は、実際の細胞配列部の構成の例として、誘電電気泳動力によって外力を実現する場合の、電極配置の構成の一例を示したものである。濃縮粒子取出用分岐流路1070から導入された濃縮細胞溶液は、そのまま細胞配列部の流路を通過するが、図3に示したような楔形の交互に配置した形状の電極(収束用V字櫛形電極2110)を配置し、収束用V字櫛形電極接点(2120、2121)に電圧を印加することで、細胞をこの楔形の頂点の位置に向けて細胞に対して外力を加えることができ、その結果、楔形の頂点の位置に細胞を連続して濃縮することができる。この実施例の電極で重要なのは、流路中に配置された電極の形状であり、下流側に向けて角度をもった電極であることと、この電極が一直線ではなく鋭角な先端を持ち、かつ、軸対象な形状を持つ、くし型電極アレイであることで、誘電電気泳動力を受ける細胞は、それによって斥力を受ける場合であっても、引力を受ける場合であっても、流れによって細胞が下流に押し流されてゆく力と、鋭角な先端部分に向けて細胞が受ける力の合力によって、細胞は、この鋭角な電極先端部分に誘導されて配列することとなる。言い換えると、流路中の細胞を濃縮させたい位置に、電極アレイの鋭角の頂点の位置を配置することで、細胞は、流れによって下流に進む力と、この鋭角先端方向に向けた誘電電気泳動力との合力によって、鋭角先端部に集まることとなる。
図4は、実際に濃縮を行った結果の一例を示したものである。流路幅120μm、流路の高さ(チップ内の深さ)12.5μmの流路の中に、楔形電極を、各々幅20μm、間隔20μm、流れに対する角度30°となるようにアルミニウムを基板底面に蒸着してポリスチレンビーズ(直径2μm)を、0.5mg/ml BSA, 13.5% sucrose水溶液に溶かして、流速1mm/sで流したものである。電圧を印加しない場合は、微粒子はそのまま流路を通過するが、10Vpp, 10MHzの正弦波を電極に加えると、ポリスチレン微粒子が流路中央に集束することが観察できる。
【0041】
図5は、図4と同様な組成で、ただし、電極の形状を一対のヒゲ電極2130、2131としたものである。これに交流電場を印加することで、ポリスチレンビーズを一直線に配列された結果の別の一例である。この図からもわかるように、上流から流れてきた微粒子は、細胞配列部を通過することで、流路中に一直線に配列することができる。
【0042】
これら図3から図5で示した細胞の配列技術においては、細胞配列部での流れの中での細胞の配列位置が重要である。この位置を、流れの中央から少し廃液流路側に寄せておいた場合には、配列した細胞は、外力が加わらない場合は、そのまま廃液出口51に誘導され、外力が加わったことで位置が精製細胞流路側に移動した細胞のみが精製細胞出口90で回収されることになる。あるいは、逆に、この位置を、流れの中央から少し精製細胞流路側に寄せておいた場合には、配列した細胞は、外力が連続して加えられている場合は、細胞は廃液出口51に誘導され、外力が切られたことで位置が戻った場合には、精製細胞流路寄りに戻った細胞のみが精製細胞出口90で回収されることになる。前者の手法の特長は、採取したい細胞が来たときのみ、外力を加えれば良いということであるが、欠点は、細胞に電気的な外力が加わることである。逆に、後者では、長所として、電気的な外力が採取する細胞に加わらない代わりに、廃棄する細胞が通過するときは、常に外電場をくわえている必要があることが欠点となる。
【0043】
図6は、細胞分取部において、細胞に外力を与える一例として、誘電電気泳動力を用いた場合の一例を示したものである。図2の細胞濃縮部で用いた電極と同じ構成の電極アレイを、外力を加えたい方向として、流れに対して一定の角度をもった形で配置することで、上記細胞配列部で一直線に配置した細胞を、その配列位置からずらして、別の下流の流路に誘導することができる。濃縮粒子取り出し用分岐流路1070から流れてきた配列した細胞を、一対の選別用斜行電極2210を用いて、その両端にある選別用斜行電極接点2220、2221に交流電場を印加することで分離するのに足る外力を細胞に与えることができる。ここで、本実施例で対となる電極が最少の一対となっているのは、この電極のスイッチングで操作する細胞が1細胞単位とするために、外力を同時に受ける領域を最小限にするために、最少の構成数としている。これが、図3で濃縮用に配置した電極の構成と異なる点である。
【0044】
(光学系の例)
図7は、細胞検出領域221の光学系の概要を示す概念図である。細胞分離培養装置のチップ基板201の上面に細胞に光を照射するための光源225とフィルタ226を配置する。チップ基板201の下面に、細胞に照射された光の検出系を示す。ここでは、図2を参照して分るように、細胞検出領域221から細胞分離領域222を経由して流路218への流路に沿った断面として示す。
【0045】
細胞検出領域221の流路218を流れる細胞はフィルタ226を通して光源225により光を照射される。光を照射された細胞の画像は対物レンズ244を介して検出され、ダイクロイックミラー245、フィルタ246、レンズ247を通して蛍光検出器248で蛍光強度データとして捉えられる。他方、細胞の画像については、ミラー251を経由してフィルタ252、レンズ253を通して細胞像撮像カメラ254で細胞の画像データとして捉えられる。蛍光検出器248に得られる蛍光強度データおよび細胞像撮像カメラ254で捉えられる画像データは、画像処理機能を持ち細胞の種類の判断を行うことができるコンピュータからなる情報解析部260に送られ、細胞の持つ蛍光データ、そして、画像データと、予め準備されている検出すべき細胞に関する画像データと照合される。情報解析部260は、捉えられたデータが採取対象となる細胞であると判定したときは、細胞分離制御信号270を送出し、これにより、細胞分離部のスイッチをオンとして、細胞分離領域222において、細胞に力を作用させる。この際、流路を流下する細胞の移動速度(流路204を流れる緩衝液の流速)を別途検出しておき、細胞検出領域221において評価した細胞が細胞分離領域247を流下するタイミングで電圧を印加するのは当然である。
【0046】
ここで、画像による処理と、蛍光あるいは散乱光による処理とを併用してもよいことは言うまでもない。また、カメラ254で得られた画像データはコンピュータのモニターに表示して、使用者の観察に供することもできる。また、観察したい蛍光が複数の場合には、フィルタ226を適切に調整し、複数の励起光を透過させるとともに、下段での蛍光検出のための蛍光波長に重ならない波長を選んで、細胞に光を照射し、観察したい蛍光の種類に合わせてダイクロイックミラーから、フィルタ、蛍光検出器までの装置を付加したものを複数組み合わせれば良い。また、この構成を用いることで、細胞象についての蛍光観察結果をデータとして用いることもできる。
【0047】
細胞認識と分離のアルゴリズムに関しては次のような特徴がある。
【0048】
細胞を画像として捕らえて評価する場合は合流後の流路部分をCCDカメラで観測する部位を設け、測定範囲を面に広げ画像認識で細胞の識別を行い、追跡することでより確実な細胞分離を行う。このとき重要なのは、画像の取り込み速度である。一般の30フレーム/秒のビデオレートのカメラでは、画像での細胞取りこぼしが生じる。最低200フレーム/秒の取り込みレートがあれば、流路中をかなりの速度で流れる細胞を認識できる。
【0049】
次に画像処理法であるが、取り込みレートが早いということはあまり複雑な画像処理を行うことはできない。まず、細胞認識であるが、前記したとおり、細胞の移動速度や細胞によりまちまちで、場合によっては細胞の追い越しがある。このため、各細胞が最初に画像フレームに現れたときに細胞にナンバリングを施し、以下、画像フレームから消えるまで同一ナンバーで管理を行うこととする。すなわち、連続する複数枚のフレームで細胞像が移動する状況をナンバーで管理する。各フレーム内での細胞は上流側にあったものから順に下流側に移行し、画像中に認識されるナンバリングされた特定細胞の移動速度はある範囲に収まるとの条件でフレーム間の細胞をリンクさせる。このようにすることで、たとえ、細胞の追い抜きがあったとしても各細胞を確実に追跡できるようにする。
【0050】
これで、細胞の認識が可能となるが、細胞のナンバリングには、まず細胞像を2値化し、その重心を求める。2値化した細胞の輝度重心、面積、周囲長、長径、短径を求め、これらのパラメーターを用いて各細胞をナンバリングする。各細胞像をこの時点で画像として自動保存することも使用者にとって益があるので行えるようにする。
【0051】
次に、細胞分離に使用する場合であるが、ナンバリングした細胞のうち、特定の細胞のみを分離しなくてはならない。分離の指標は上記した輝度重心、面積、周囲長、長径、短径などの情報でもよいし、画像とは別に蛍光検出を行うことを併用して蛍光を利用した情報を得てもよい。いずれにせよ、検出部で得た細胞をナンバリングに従い分離する。具体的には、所定時間毎に取り込まれる前記画像からナンバリングされた細胞の移動速度(V)を計算し、細胞移動速度(V)に対して検出部から分離部までの距離を(L)、印加時間(T)によって、印加タイミングを(L/V)から(L/V+T)までとすることでちょうど目的のナンバーの細胞が電極間に来た時に細胞を電気的に振り分けて分離する。
図8に、細胞が持つ特定の周波数の誘電電気泳動力に対する斥力発生、引力発生の違いを利用した連続細胞精製技術の一例について図に書かれた例を用いて説明する。ここで重要なのは、特定の周波数の誘電電気泳動力に対して斥力を持つ微粒子も、引力を持つ微粒子も「く」型の構造をもつ電極においては、その鋭角の頂点に微粒子が集まることである。ただし、斥力を持つ微粒子は、電極が配置された基板面ではなく、電極が配置された基板面に対向する反対の基板面上での集合となり、引力を持つ微粒子は、電極が配置された基板面上での集合となる。この装置の構成を以下に説明する。図8は、誘電泳動力の極性の違いによって微粒子を連続的に分離精製する装置の1例を模式的に示す平面図(上図)及び側面図(下図)である。この装置は、電極チップ3001表面に配置された誘電泳動力を発生させるための薄膜電極と、流路チップ3101の内部に一部立体的な分岐を伴って2次元的に展開された微細加工された流路構造とからなる。電極チップ3001および流路チップ3101は、PMMAやガラス等の透明な素材を用いることによって流路内を流れる微粒子を光学顕微鏡によって観察しながら動作させることもできるし、あるいは、不透明な素材を用いて微粒子を観察することなく動作させることもできる。試料注入口3102から導入された試料溶液は誘電泳動力作用部3105を経て、立体分岐部3108において流路の上下方向に上側流路3106および下側流路3107に分岐し、それぞれ上側流路取出口3103および下側流路取出口3104に流出する。誘電泳動作用部3105の底面にはV字櫛形電極3003が配置され、交流電極接点3002および3002’を介して交流電源に接続されている。
図9および図10は、実際に、特定の周波数に対して斥力を持つ微粒子の振る舞いを示したものである。この図を用いて、動作の一例を示す。図9(図10)は、負(正)の誘電泳動力を受ける微粒子が装置内に導入された場合に、微粒子が誘電泳動力の極性の違いに基いて分離精製される原理を説明する概念図である。試料導入口3102から導入された微粒子3201 (3202)は、誘電泳動力作用部3105を通過する際にV字櫛形薄膜電極3003から誘電泳動力による斥力(引力)を受け、流路の平面方向中央に濃縮されると同時に、流路垂直方向には流路の上面(下面)に濃縮される。立体分岐部3108で流路が上下方向に立体的に分岐することによって、微粒子は上側流路3106(下側流路3107)にのみ流入し、下側流路3107(上側流路3106)には流入しない。以上のようにして、異なる極性の誘電泳動力を受ける微粒子を排他的に分離精製することが可能となる。
また、図11は、実際に誘電泳動の極性の違いによって微粒子の分離精製を行った結果の一例を示したものである。上図3301は、試料注入口3311、誘電泳動力作用部3312、V字櫛形電極3313および3313’、下側流路3315を備えた、装置の下層部分を示す。下図は、上側流路3316を備えた、装置の上層部分を示す。装置下層部分3301の流路は、立体分岐部3314の垂直流路を介して装置上層部分3302の流路と連結されている。誘電泳動力作用部3312、下側流路3315および上側流路3316は、PDMSチップ内に形成され、いずれも流路幅120 μm、流路の高さ(チップ内の深さ)10 μmである。立体分岐部3314の垂直流路は、直径1 mm、長さ1 mmである。V字櫛形電極3313および3313’は、幅20 μm、間隔20 μm、流路に対する角度30°となるようにアルミニウムをガラス基板表面に蒸着して配置した。枯草菌の芽胞および直径1 μmのポリスチレンビーズを0.5 mg/ml BSA, 13.5% sucrose水溶液に懸濁し、試料注入口3311から流速1.6 mm/sとなるよう注入した。V字櫛形電極3313および3313’に1 MHz, 20 Vppの交流電圧を印加したところ、芽胞およびポリスチレンビーズは共に流路水平面方向には流路中央に収束した(3321)。芽胞は正の誘電泳動力を受けて下側流路3315に流出し(3322)、ポリスチレンビーズは負の誘電泳動力を受けて上側流路3316に流出した(3323)様子が観察できる。
上記、図8から11で示した例は、本技術の原理を説明するための一例として示したものであり、実際には、この技術を複数ユニット直列につなぎ合わせることで、異なる周波数の誘電電気泳動力に対して応答が異なる細胞を、異なる2つ以上の特定の周波数の誘電電気泳動力を対象となるサンプルに順次印加することで、無侵襲でより精密に回収精製することができる。図12は、図8の分離精製装置を多段で組合せることによって、微粒子が受ける誘電泳動力の極性の周波数応答特性の違いを用いて、微粒子を連続的に複数種類に分離精製する装置の構成の一例を示した側面図である。装置は立体的な分岐を2か所に持つ平面チップ上に2次元的に展開された微細加工された流路と、誘電泳動力を作用させるための2組の薄膜電極とからなる。試料注入口4001から導入された試料溶液は、第1誘電泳動力作用部4002を通過した後、第1微粒子取出口4003と第2誘電泳動力作用部4004とに分岐する。その後、第2誘電泳動力作用部4004を通過した試料溶液は、第2微粒子取出口4005と第3微粒子取出口4006とに分岐する。第1誘電泳動力作用部4002において、試料溶液中の微粒子は、第1V字櫛形電極4011に印加した周波数f1の交流電場4012から誘電泳動力を受ける。図中において黒丸印4021および黒四角印4022で表した種類の微粒子は、周波数f1の交流電場4012からは負の誘電泳動力を受けるために、流路上面側に収束したのち第1微粒子取出口4003から取り出すことが出来る。他方、白三角印4023、黒星印4024および黒X印4025で表した種類の微粒子は、周波数f1の交流電場4012からは正の誘電泳動力を受けるために、第1誘電泳動力作用部4005では流路下面に収束した後、第2誘電泳動力作用部4004に流入する。第2誘電泳動力作用部4004において、試料溶液中の微粒子は第2V字櫛形電極4013印加した周波数f2の交流電場4014から誘電泳動力を受ける。図中において白三角印4023で表した種類の微粒子は、周波数f2の交流電場4014からは負の誘電泳動力を受けるために、流路上面側に収束したのち第2微粒子取出口4005から取り出すことが出来る。他方、黒星印4024および黒X印4025で表した種類の微粒子は、周波数f2の交流電場4014からは正の誘電泳動力を受けるために、流路下面に収束したのち第3微粒子取出口4006から取り出すことが出来る。以上のようにして、複数種類の微粒子の混合懸濁試料溶液から、誘電泳動力の極性の周波数応答特性の違いを利用して、微粒子を分離精製することが可能となる。
また、本技術を用いることで、たとえば染色液などの特定の培地で作用をさせた後に、その培地を、効果的に除去することもできる。図13は、誘電泳動力を利用して微粒子を懸濁した試料溶液の溶媒を連続的に交換する装置の構成の一例を示した模式図の側面図である。装置はチップ表面に対して垂直方向に合流する2つの流路と、誘電泳動作用部を通過する流路と、垂直方向に分岐する2つの流路からなる、平面チップ上に展開された微細加工で形成された一連の流路と、流路底面に形成された誘電泳動力を作用させるための薄膜電極とから構成される。試料注入口5001から導入された試料溶液は、交換溶液注入口5002から導入された交換溶液と合流するが、流路構造が微細であることに起因して各溶液は混合することなく、流路の上下方向に分かれたままそれぞれ上側層流5011(斜線で示した部分)と下側層流5012を形成し、誘電泳動力作用部5003を通過した後、各層流は流路の上下方向に分岐した廃液取出口5004と微粒子再懸濁液取出口5005とに互いに混合することなく流出する。この際、試料溶液中に懸濁された微粒子5021は上側層流5011中を流れながら誘電泳動力作用部5003に流入する。誘電泳動力作用部5003の底面に配置されたV字櫛形電極5006に特定の周波数の交流電場5007を印加すると、上側層流5011中を流れる微粒子5021は正の誘電泳動力を受けて流路底面側に引き寄せられる。その結果、微粒子5021は上側層流5011中から下側層流5012中に移動する。この際、試料溶液中に含まれる溶質が正の誘電泳動力を受けないような周波数を選択することによって、試料溶液中の溶質を交換溶液に混入させることなく、微粒子5021のみを下側層流5012中に移動させることが出来る。下側層流5012中に移動した微粒子5021は微粒子再懸濁液取出口5004から取り出すことが出来、微粒子5021を除去した試料溶液からなる上側層流5011は廃液取出口5004から排出される。
【符号の説明】
【0052】
1…細胞濃縮分離装置、10,201…チップ、20…試料液導入口、30…細胞濃縮部、40、41…流路抵抗調整部、50…廃液出口、51…廃液出口、60…細胞濃縮液導入口、70…細胞配列部、80…細胞分離部、90…精製細胞出口、100…試料液の流れ、101、102…濃縮細胞の流れ、204,218…流路、221…細胞検出領域、222…細胞分離領域、225…光源、226、246、252…フィルタ、244…対物レンズ、245…ダイクロイックミラー、251…ミラー、247、253…レンズ、248…蛍光検出器、254…細胞像撮像カメラ、260…情報解析部、270…細胞分離制御信号、1010…試料注入口、 1020…廃液出口、1050…濃縮部並行流路、1060…濃縮部斜行流路、1070…濃縮粒子取出用分岐流路、2010…濃縮用斜行櫛形電極、2020、2021…濃縮用斜行櫛形電極接点 、2110…収束用V字櫛形電極、2120、2121…収束用V字櫛形電極接点、2130、2131…電極、2210…選別用斜行電極、2220、2221…選別用斜行電極接点、3001…電極チップ、3002, 3002'…交流電源接点、3003…V字櫛形電極、3101…流路チップ、3102…試料注入口、3103…上側流路取出口、3104…下側流路取出口、3105…誘電泳動力作用部、3106…上側流路、3107…下側流路、3108…立体分岐部、3201…負の誘電泳動力を受ける微粒子、3202…正の誘電泳動力を受ける微粒子、3301…装置下層部分、3302…装置上層部分、3311…試料注入口、3312…誘電泳動力作用部、3313, 3313'…V字櫛形電極、3314…立体分岐部、3315…下側流路、3316…上側流路、3321…芽胞およびポリスチレンビーズの流路中央への収束、3322…芽胞の下側流路への流出、3323…ポリスチレンビーズの上側流路への流出、4001…試料注入口、4002…第1誘電泳動力作用部、4003…第1微粒子取出口、4004…第2誘電泳動力作用部、4005…第2微粒子取出口、4006…第3微粒子取出口、4011…第1V字櫛形電極、4012…周波数f1の交流電場、4013…第2V字櫛形電極、4014…周波数f2の交流電場、4021, 4022, 4023, 4024, 4025…微粒子、5001…試料注入口、5002…交換溶液注入口、5003…誘電泳動力作用部、5004…廃液取出口、5005…微粒子再懸濁液取出口、5006…V字櫛形電極、5007…交流電場、5011…上側層流、5012…下側層流、5021…微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路と、
前記流路内に設けられた、細胞を濃縮するための細胞濃縮領域と、
前記流路内に設けられた、前記細胞を分離するための細胞分離領域と
を備える、細胞分離チップ。
【請求項2】
前記流路が、前記細胞濃縮領域の下流で分岐しており、
前記細胞濃縮領域を通過した細胞を含む液が、前記分岐した流路の1つを流下するように構成されており、
該分岐した流路の1つに前記細胞分離領域が設けられている、請求項1記載の細胞分離チップ。
【請求項3】
前記分岐した流路内の前記細胞分離領域の上流に細胞情報検出領域を備え、
前記細胞情報検出領域で検出された前記細胞の情報に基づいて、前記細胞分離領域で前記細胞が分離されるように構成されている、請求項2記載の細胞分離チップ。
【請求項4】
前記流路が前記細胞分離領域の下流でさらに分岐しており、
前記細胞分離領域で分離された細胞を含む液が、前記分岐した流路の1つを流下するように構成されている、請求項2または3記載の細胞分離チップ。
【請求項5】
前記細胞濃縮領域に、超音波放射圧、重力、静電力、または誘電電気泳動力を細胞に作用させるように構成された機構を備える、請求項1〜4のいずれか記載の細胞分離チップ。
【請求項6】
前記機構が、前記細胞濃縮領域の流路内表面に配置された電極を含む、請求項5記載の細胞分離チップ。
【請求項7】
前記電極が、櫛形電極アレイである、請求項6記載の細胞分離チップ。
【請求項8】
前記櫛形電極アレイが、V字型の電極のアレイで構成され、各V字型電極のV字の頂点が前記流路の下流を向いている、請求項7記載の細胞分離チップ。
【請求項9】
前記細胞濃縮領域と前記細胞分離領域とが前記流路内で一体化している、請求項1記載の細胞分離チップ。
【請求項10】
前記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の前記流路内表面の1つに、V字型の電極アレイからなる櫛形電極アレイが、各V字型電極のV字の頂点が前記流路の下流を向くように配置されている、請求項9記載の細胞分離チップ。
【請求項11】
前記流路が、前記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の下流の該流路内で分岐しており、該流路内で前記電極と離れる方向または前記電極に近づく方向にそれぞれ分離された細胞が、前記分岐した各流路へ流下するように構成されている、請求項10記載の細胞分離チップ。
【請求項12】
(a)以下の(i)〜(v)を備える細胞分離チップと、
(i) 基板
(ii) 前記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路
(iii) 前記流路内に設けられた、細胞を濃縮するための細胞濃縮領域
(iv) 前記流路内の前記細胞濃縮領域の下流に設けられた、細胞の情報を得るための細胞情報検出領域、および
(v) 前記流路内の前記細胞情報検出領域の下流に設けられた、前記細胞を分離するための細胞分離領域
(b)前記細胞濃縮領域において超音波放射圧、重力、静電力、または誘電電気泳動力を細胞に作用させるように構成された機構と、
(c)前記細胞情報検出領域を通過する細胞の情報を得るための、光学系および細胞画像処理部を備える細胞情報検出装置と、
(d)前記細胞情報検出装置により得られた前記細胞の情報に基づいて、前記細胞分離領域において前記細胞に外力を作用させるように電圧を印加するように構成された機構と、
を備える、細胞濃縮分離装置。
【請求項13】
前記(b)の機構が、前記細胞濃縮領域の流路内表面に配置された電極を含む、請求項12記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項14】
前記電極が、櫛形電極アレイである、請求項13記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項15】
前記櫛形電極アレイがV字型の電極のアレイで構成され、各V字型電極のV字の頂点が前記流路の下流を向いている、請求項14記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項16】
基板と、
前記基板内の一面に構成される、細胞を含む液を流下させるための第1の流路と、
前記第1の流路に前記液を導入する導入口と、
前記第1の流路を流下する細胞を濃縮する手段と、
前記細胞が濃縮された後に残った廃液を排出する、前記第1の流路の一端に位置する廃液出口と、
前記第1の流路に接続し、前記濃縮された細胞を含む液を分岐導入する第2の流路と、
前記濃縮された細胞を流しながら、前記第2の流路内で該細胞を一直線となるように配列させる手段と、
前記細胞を配列させた後の前記第2の流路の所定の領域で細胞の状態を検出する細胞情報検出手段と、
前記第2の流路の前記細胞情報検出手段が配置された位置の下流に配置された細胞分離手段であって、前記検出された細胞の情報に応じて前記細胞を前記第2の流路のさらに下流にて連絡する二つの分岐流路のいずれかに流下させる細胞分離手段と、
前記二つの分岐流路の下流に設けられ、それぞれの分岐流路を流下する細胞を含む緩衝液を保持する二つの溶液貯めと、
を備えた、請求項12記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項17】
前記基板が金型による射出成型で作成されたプラスチック基板であり、前記流路が前記プラスチック基板の一面に作成された溝とこれを覆うラミネートフィルムで形成されている、請求項16記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項18】
前記細胞情報検出領域で検出する細胞の情報が細胞の画像情報から得られるものである、請求項16記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項19】
前記細胞を配列させる手段として、超音波放射圧、誘電電気泳動力、または細胞を濃縮させたい位置となる前記第2の流路の下流側中央部に向けて鋭角な先端を有する、櫛型電極の繰り返し構造となる電極アレイを用いて発生させた誘電電気泳動力を用いる、請求項16記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項20】
前記細胞分離手段として、前記細胞が緩衝液とともに流下する第2の流路に1対の櫛形電極が設けられ、
二つの電極間に交流電流を流した場合と流さない場合に応じて、細胞が前記細胞分離領域で二つの分岐流路のいずれかに分配される、請求項16記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項21】
前記第1の流路に前記液を導入する1つの導入口と前記第1の流路および前記第2の流路に合わせて3つ以上の液の廃液出口を有し、前記導入口から液の導入によって与えられた液の移動のための駆動力となる圧力を、これら3つ以上の液の出口の位置で等しくするために、前記3つ以上の液の出口の直前に圧力を調整するための調整部となる流路が付加されている、請求項16記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項22】
(a)以下の(i)〜(iv)を備える細胞分離チップと、
(i) 基板
(ii) 前記基板に形成された細胞を含む試料液を流下させるための流路
(iii) 前記流路内に設けられた、前記流路内で一体化されている細胞濃縮領域および細胞分離領域、ならびに
(iv) 前記一体化されている細胞濃縮領域および細胞分離領域の前記流路内表面の1つに各V字型電極のV字の頂点が前記流路の下流を向くように配置されているV字型の電極アレイからなる櫛形電極アレイ
(b)分離される細胞に依存して特定の周波数の誘電電気泳動力を前記櫛形電極アレイに作用するように構成された特定の周波数の交流電場印加手段と、
を備える、細胞濃縮分離装置。
【請求項23】
前記交流電場の特定の周波数が可変である、請求項22記載の細胞濃縮精製装置。
【請求項24】
前記細胞分離チップの前記流路が、前記一体化された細胞濃縮領域および細胞分離領域の下流の該流路内で分岐しており、該流路内で前記電極と離れる方向または前記電極に近づく方向にそれぞれ分離された細胞が、前記分岐した各流路へ流下するように構成されている、請求項22または23記載の細胞濃縮分離装置。
【請求項25】
請求項24記載の細胞濃縮分離装置を複数含み、
前記分岐した流路の少なくとも1つが、別の前記細胞濃縮分離装置の細胞を含む試料液を流下させるための流路の上流端に接続され、
前記分岐した前記流路の少なくとも1つを流下する細胞を含む液が、前記別の細胞濃縮分離装置においてさらなる濃縮分離に供されるように、前記複数の細胞濃縮分離装置がタンデムに連なって構成されている、細胞濃縮分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−252785(P2010−252785A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39371(P2010−39371)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(509091974)株式会社オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (2)
【Fターム(参考)】