説明

細胞融合容器、細胞融合装置及びこれらを用いた細胞融合方法

【課題】
電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合容器、細胞融合装置およびそれらを用いた細胞融合方法を提供する。
【解決の手段】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備えた細胞融合容器であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の各々の断面が開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって開口面の面積が小さくなる形状である細胞融合容器、細胞融合装置およびそれらを用いた細胞融合方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合容器、細胞融合装置及びそれらを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、異なる細胞同士を融合させ1つの交雑細胞とする細胞融合技術として、主にポリエチレングリコール(PEG)を用いる化学的融合法が用いられているが、この方法では(i)PEGは細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため細胞融合確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。
【0003】
これに対して、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞を融合させることができるという利点がある。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。また、細胞を電流密度の高い方向、すなわち、電気力線が集中する方向に引き寄せる力を一般に誘電泳動と呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果細胞融合が起こるものである。
【0004】
上記の電気的融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の融合を顕微鏡を見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実であり、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)が、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が融合するため化学的融合法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
上記平行電極法の課題を解決するために、細胞融合容器の細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合容器の例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
図1は上記例の細胞融合容器の断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合容器の細胞融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度の直流パルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切替える為の切替機構を有する切替スイッチ(7)とから構成されている。
【0007】
ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合容器は、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる隔壁(35)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合容器の細胞融合領域内の細胞懸濁液内におかれている。
【0008】
上記例の動作を図21〜図23を用いて説明する。最初に、電源(4)の切替スイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図21に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図22に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切替スイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切替える。図22に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、直流パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図23に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0009】
しかしながら、前記特許文献2に記載された細胞融合容器を用いて細胞融合を行う方法は、微細孔の直径が細胞Aの直径より大きくかつ細胞Bの直径より大きい場合、それぞれの細胞が微細孔にトラップされ接触する際に、図3に示すように、電気力線の向きと同一方向に細胞Aと細胞Bが接触する確率が減るため、細胞融合の確率が低くなるという課題があった。また、逆に微細孔の直径が細胞Aの直径より小さくかつ細胞Bの直径より小さい場合、両方の細胞は微細孔にトラップされ接触し融合されるが、融合後、図4に示すように微細孔から細胞が外れなくなり、微細孔から細胞を取り出すことができなくなる上、無理に取り出そうとすると、融合した細胞が壊れてしまうという課題があった。
【0010】
さらに、前記特許文献2に記載された細胞融合容器を用いて細胞融合を行う方法は、前記微細孔において2細胞一対を同時に固定することが難しいという課題があった。例えば、細胞Aを微細孔に入れた後、さらに細胞Bを微細孔に入れるために細胞融合容器内に細胞Bを含有する細胞懸濁液を導入すると、導入する際の送液により、あらかじめ微細孔に固定しておいた細胞Aが微細孔から脱離してしまう。また、細胞Aと細胞Bを同時に微細孔に固定するには細胞懸濁液の送液に熟練を要し非常に困難であった。さらに、前記特許文献2に記載された方法により複数の細胞を同時に細胞融合させる場合、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、2細胞を一対ずつ固定する必要がある。
【0011】
ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、複数のアレイ状に形成された微細孔で目的とする2細胞一対の細胞融合を行うことが非常に難しいという課題があった。
【0012】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の方法は、微細孔(特許文献3では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献3では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に1つの細胞を固定している。
【0013】
しかしながら、前記特許文献3に記載された方法により1つの微細孔に1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいという課題があった。一般に、細胞融合を行う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましく、また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すためには、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0014】
上記従来の技術における問題点や課題を解決するために、本発明者らは、後述する比較例に示したように、細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極方向に貫通した複数の微細孔を有する絶縁体を有し、前記絶縁体が、前記電極のうちどちらか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を導入して、前記第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加することで細胞融合する方法を検討した。本検討において、融合させる細胞の大きさに対して微細孔の大きさを最適化し、細胞を微細孔に固定する際に印加する交流電圧の波形の形状を最適化することで、アレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を極めて容易に固定できることを見出し、2細胞1対を融合させ、1/10000の融合確率を得た。これは、通常の電気的細胞融合における融合確率0.2/10000の5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた(例えば、特許文献4参照)。
【0015】
しかしながら一般に、細胞の直径の範囲に広がりがあり、例えば、第1の細胞の例であるマウス脾臓細胞は、図2(a)に示すように直径約6.2μmの細胞が最も多いが、直径約5.5μm〜直径約10.0μmまで細胞の直径の範囲に広がりがあり、平均直径は約6.7μmである。また、第2の細胞の例であるマウスミエローマ細胞は、図2(b)に示すように直径約11.3μmの細胞が最も多いが、直径約9.0μm〜直径約15.0μmまで細胞の直径の範囲に広がりがあり、平均直径は約11.8μmである。なお、各細胞の直径分布はベックマン・コールター製・コールターZ2型を用いて測定した。ここで特許文献4では、第1の細胞である脾臓細胞の平均直径に合わせて微細孔の直径を決定するが、この場合、微細孔より大きい直径を有する脾臓細胞を微細孔に入れることができず、結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【0016】
また一般に電気的細胞融合法は、数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れを2細胞の接触面で生じさせ、細胞膜の再構成を行い細胞融合を行う。この場合、直流パルス電圧の大きさは、一般に脾臓細胞の平均直径に合わせて決定する。ここで、下記(式1)に示すように、細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧Vpは、細胞の直径Rが小さくなるほど、高い電圧を必要とする。ここで、Vmは細胞膜の破壊電圧(一般に約1V程度)、dは電極間距離である。
【0017】
Vp = (4×Vm×d)/(3×R) ・・・ (式1)
従って、平均直径より小さい脾臓細胞は、設定した直流パルス電圧では細胞膜の可逆的乱れが生じないため細胞融合しない。また、平均直径より大きい脾臓細胞は、設定した直流パルス電圧では細胞膜が修復できないまで完全に破壊されてしまい細胞が死んでしまうため細胞融合しない。その結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【0018】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特公平7−4218号公報
【特許文献3】特許第3723882号公報
【特許文献4】特開2007−295912公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、電気的細胞融合において、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる新規な細胞融合容器、細胞融合装置およびそれらを用いた細胞融合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記課題を解決する手段として、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備えた細胞融合容器であって、絶縁体が電極のいずれか一方の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、微細孔の各々の断面が開口上部より電極と接する開口底部に向かって開口面の面積が小さくなる形状である細胞融合容器を用いること、この細胞融合容器と細胞融合容器の前記一対の電極に交流電圧及び直流パルス電圧を印加する電源と、交流電源と直流パルス電源とを切替える切替機構とを有する細胞融合装置を用いること、この細胞融合装置を用いて第1の細胞と当該第1の細胞の平均直径よりも大きい平均直径を有する第2の細胞とを細胞融合する方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加する細胞融合方法を用いることで、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備えた細胞融合容器であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の各々の断面が開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって開口面の面積が小さくなる形状である細胞融合容器である。
【0022】
また本発明は、上記細胞融合容器において、微細孔の各々の断面が、開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって2段階以上の直径と深さとなる形状である細胞融合容器である。
【0023】
また本発明は、微細孔の各々の断面が開口上部側と開口底部側とで2段階の直径と深さとなる形状を有しており、異なる平均直径の2種の細胞を細胞融合する細胞融合容器であって、開口底部側の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下、当該微細孔の深さが細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以下であり、開口上部側の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の大きい細胞の平均直径より大きい、上記の細胞融合容器である。
【0024】
また本発明は、絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている、上記の細胞融合容器であり、
また本発明は、絶縁体に形成される複数の微細孔が絶縁体の面において、アレイ状に形成されている、上記の細胞融合容器である。
【0025】
また本発明は、微細孔の隣合う間隔が微細孔に入れる直径の小さい細胞の平均直径の0.5倍以上6倍以下である、上記の細胞融合容器である。
【0026】
また本発明は、スペーサーが、前記細胞融合領域を形成する貫通孔を有する、上記の細胞融合容器である。
【0027】
また本発明は、スペーサーが、細胞を導入する導入流路および細胞を排出する排出流路を有する、上記の細胞融合容器である。
【0028】
また本発明は、上記の細胞融合容器と、細胞融合容器の一対の電極に電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、この電源が、細胞融合容器の一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替機構を有する、細胞融合装置である。
【0029】
また本発明は、上記の細胞融合装置を用いて第1の細胞と当該第1の細胞の平均直径よりも大きい平均直径を有する第2の細胞とを細胞融合する方法であって、細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加する、細胞融合方法である。
【0030】
以下に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0031】
本発明の細胞融合容器およびこの細胞融合容器を備えた細胞融合装置は、上記の通りである。
【0032】
ここで、本発明の細胞融合容器と細胞融合装置の構成について、図6を用いて詳しく説明する。
【0033】
図6は、本発明の細胞融合装置の概念図を示した図である。なお、図6は本発明の細胞融合装置の各部品の構成を分かりやすくするために離した状態にて図示している。また、後述する図7では本発明の細胞融合装置を本来の構成として各部品を組み上げた状態とした上で、AA’断面図として図示した。図において、本発明の細胞融合装置は、細胞融合容器(13)と電源(4)で構成されている。
【0034】
細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置することで細胞融合領域(1)を確保し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。
【0035】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板や樹脂基板、セラミックス基板などでもよいが、微粒子懸濁液の導入を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0036】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。細胞融合容器(13)の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。
【0037】
スペーサーは、上記微粒子懸濁液導入容器と同様に、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(29)及びそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路(30)及びそれに連通する排出口(20)が設けられている。
【0038】
また、絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0039】
ここで図7は、図6の細胞融合容器のAA’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図7のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図7に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0040】
また、本発明の細胞融合容器に形成した微細孔の各々の断面形状は、前記絶縁体の微細孔開口部において、開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって2段階以上の直径と深さとなる形状となることが好ましく、さらに2段階以上の直径と深さとなる形状であることが好ましく、特に開口上部側と開口底部側とで2段階の直径と深さとなる形状を有することが好ましい。なお開口上部あるいは開口底部とは、その例とし図7で説明すれば、絶縁体(8)に設けられた開口部分となる微細孔(9)において、上部電極(14)側を開口上部あるいは開口上部側とし、下部電極(15)と接する側を開口底部あるいは開口底部側となる。
【0041】
さらに図7に示すように、前記絶縁体が配置された前記電極面である下部電極(15)に向かって前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が小さくなるように2段階以上の前記直径と深さを有しており、前記2段階以上の前記直径と前記深さを有する微細孔が、2段階の前記直径と前記深さを有する微細孔であって、開口底部側の微細孔すなわち前記絶縁体が配置された前記電極面である下部電極(15)の側に位置する段の微細孔(以下、1段目の微細孔(17)と称する。)の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下であり、前記絶縁体が配置された前記電極面である下部電極(15)の側に位置する段の微細孔(1段目の微細孔)の深さが細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以下であり、開口上部側の微細孔すなわち前記細胞融合領域(1)の側に位置する段の微細孔(以下、2段目の微細孔(21)と称する。)の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の大きい細胞の平均直径より大きいことを特徴としている。なお本発明の細胞融合容器が対象とする細胞融合の対象とするものは、異なる平均直径の2種の細胞であり、後述するように、2種の細胞の各々が所定の細胞直径の分布を有するものである。
【0042】
ここで、微細孔の段階の数に特に制限はないが、段数が多すぎると微細孔の製作が難しくなる上、それに見合った顕著な効果が得られないことから、段数は2段階が好ましい。また、微細孔の平面形状は特に制限はなく、円状であっても良いし、三角形状、四角形状のような多角形状、星形状のような複雑な多角形状であってもよい。多角形状の場合、頂点の角が鋭角の場合は、その部分に電気力線が集中することで細胞を引き寄せる誘電泳動力が大きくなる効果がある。また、複数の微細孔を形成した場合は、各微細孔に均等に細胞が固定される必要があり、微細孔に細胞を引き寄せる誘電泳動力が平面方向に均一であることが好ましいことから、微細孔形状は点対称であることが好ましい。従って、微細孔の製作のし易さも考慮すると、微細孔の平面形状は正方形状あるいは円状であることが好ましい。
【0043】
1段目の微細孔の直径は、細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞が1段目の微細孔に入り、平均直径の大きい細胞は1段目の微細孔に入らないことが好ましいことから、細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下であることが好ましい。
【0044】
また、1段目の微細孔(17)の深さは、あまり深すぎると、1段目の微細孔に固定される平均直径の小さい細胞と、2段目微細孔(21)に固定される平均直径の大きい細胞と接触することができなくなるので、平均直径の小さい細胞の平均直径以下であれば特に制限はないが、あまり浅すぎると微細孔での電気力線の集中効果が弱くなり、細胞を確実に微細孔に固定することが難しくなることから、1段目の微細孔の深さの最小値は1μm程度であることが好ましい。
【0045】
また、2段目の微細孔(21)の直径は、平均直径の大きい細胞が2段目の微細孔に入ることができればよいので、平均直径の大きい細胞の平均直径より大きければ特に制限はないが、あまり大きすぎると、微細孔に多数の細胞が入ってしまい、2種類の細胞の1対1での融合が難しくなることから、2段目の微細孔の直径は、平均直径の大きい細胞の平均直径の2倍以下であることが好ましい。また、2段目の微細孔の深さは特に制限はないが、あまり浅すぎると微細孔での電気力線の集中効果が弱くなり、細胞を確実に微細孔に固定することが難しくなり、あまり深すぎると、はじめに2段目の微細孔に固定した平均直径の小さい細胞と、微細孔表面(31)の付近に固定した平均直径の大きい細胞が接触することができず、細胞融合できなくなることから、2段目の微細孔の深さの最小値は1μm程度、さらに好ましくは平均直径の小さい細胞の平均直径程度であることが好ましく、また2段目の微細孔の深さの最大値は平均直径の小さい細胞の平均直径程度であることが好ましい。具体的には、例えば融合する細胞として、平均直径の小さい細胞にマウス脾臓細胞(平均直径:約6μm)、平均直径の大きい細胞にマウス癌細胞(平均直径:約10μm)を用いた場合、1段目の微細孔の直径は約8.5μm、1段目の微細孔の深さは約4μm、2段目の微細孔の直径は約12μm、2段目の微細孔の深さは約6μmとなる。このような態様とすることで、微細孔に固定する平均直径の小さい細胞の直径の範囲に広がりがあったとしても、設定した直流パルス電圧で融合できる細胞の直径の範囲が広がり、融合確率を高くすることが可能となる。
【0046】
ここで本発明における微細孔の断面形状の効果を説明する前に、本発明の細胞融合方法の特徴を説明する。
【0047】
本発明の細胞融合方法は、上記細胞融合装置を用い、図6に示した細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域内に当該第1の細胞の平均直径よりも大きい平均直径を有する第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法である。
【0048】
すなわち、第2の細胞の平均直径が第1の細胞の平均直径より大きいことが好ましく、細胞を導入する際は平均直径の小さい細胞を第1の細胞として最初に導入し、平均直径の大きい細胞を第2の細胞として次に導入することが好ましい。このようにすることで、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧を印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることがきる。この本発明の細胞融合方法の特徴である、「第2の細胞の平均直径が第1の細胞の平均直径より大きいことが好ましく、細胞を導入する際は平均直径の小さい細胞を第1の細胞として最初に導入し、平均直径の大きい細胞を第2の細胞として次に導入する」ことが好ましい理由及び、本発明の細融合容器の特徴である、「前記2段階の直径と深さを有する微細孔において、前記絶縁体が配置された前記電極面側に位置する段の微細孔(1段目の微細孔)の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下であり、前記1段目の微細孔の深さが細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以下であり、前記細胞融合領域側に位置する段(2段目の微細孔)の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の大きい細胞の平均直径より大きい」ことが好ましい理由を、以下でさらに詳細に説明する。
【0049】
まず、特許文献4に記載されている微細孔の断面形状が1段階である場合の効果と課題について説明する。
【0050】
微細孔の断面形状が1段階の微細孔では、微細孔に電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図12に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁膜面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図12は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁膜に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁膜を配置した電極が存在している。絶縁膜面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁膜厚に相当する。計算によれば、絶縁膜の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図12に示すように微細孔内の電極面の電界強度は、絶縁膜面の電界強度より約20%程度高い結果となる。
【0051】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。ここで(式1)に示したように、一般に細胞の平均直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、平均直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、平均直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図12に示すように、微細孔内の電界強度が微細孔表面の電界強度より高いために、図8に示したように、微細孔(9)の中に固定された平均直径の小さい第1の細胞(18)には、より高い電圧が印加され、微細孔表面(31)に固定された平均直径の大きい第2の細胞(22)には第1の細胞に印加される電圧よりも20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧をそれぞれの細胞に印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることがきる。
【0052】
しかしながら図9に示すように、第1の細胞(18)の直径の範囲に広がりがある場合、断面形状が1段階の微細孔では、第1の細胞のうち直径の比較的大きい細胞は微細孔(9)に入らないため、第2の細胞(22)が第1の細胞の更に上か横に配置されてしまい、特許文献4に記載されているような効果を十分得られず、細胞融合しない細胞が存在する為、融合確率が低下してしまうという課題があった。
【0053】
そこで本発明者らが鋭意検討した結果、前記微細孔の断面形状が、前記絶縁体が配置された前記電極面に向かって前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が小さくなる様に2以上の段階、好ましくは2段階の前記直径と深さを有するような微細孔の断面形状とすることで、この課題を解決するに至った。
【0054】
ここで、前記2段階の直径と深さを有する微細孔は、前記絶縁体が配置された前記電極面側に位置する段の微細孔(1段目の微細孔)の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下であり、前記1段目の微細孔の深さが細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以下であり、前記細胞融合領域側に位置する段(2段目の微細孔)の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の大きい細胞の平均直径より大きいことがより好ましい。
【0055】
次に、本出願の特徴である、各々の微細孔の断面形状が絶縁体の微細孔開口部において、開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって2段階以上の直径と深さとなる形状となることが好ましく、さらに2段階以上の直径と深さとなる形状であることが好ましく、特に開口上部側と開口底部側とで2段階の直径と深さとなる形状を有することが好ましい理由とその効果にについて図10〜図13を用いて説明する。
【0056】
まず、細胞融合容器に最初に導入する平均直径が小さい第1の細胞の直径が、前記2段階の直径と深さを有する微細孔のうち、前記絶縁体が配置された前記電極面側に位置する段の微細孔(1段目の微細孔(17))の直径と等しいか小さい場合の例を図10に示した。また、このときの微細孔付近の電界強度を図13に示した。図13に示すように、1段目の微細孔(17)の電界強度が最も高く、次に2段目の微細孔(21)の電界強度は1段目の微細孔の電界強度に比べて15%程度低く、さらに微細孔表面(31)の電界強度は2段目の微細孔の電界強度よりさらに20%程度低い。この場合、細胞融合容器に導入する平均直径が大きい第2の細胞が、前記2段階の直径と深さを有する微細孔のうち、前記細胞融合領域側に位置する段の微細孔(2段目の微細孔)に入って前期第1の細胞と接触する。ただし、1段目の微細孔の深さが第1の細胞の平均直径よりも大きい場合は、2段目の微細孔に入った第2の細胞と接触することができなくなるため、1段目の微細孔の深さは、第1の細胞の平均直径よりも小さいことが好ましい。この状態で直流パルス電圧を印加すると、特許文献4と同様に、1段目の微細孔の中の電界強度が、2段目の微細孔の中の電界強度より高いために、1段目の微細孔内に固定された平均直径の小さい第1の細胞には、より高い電圧が印加され、2段目の微細孔に固定された平均直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも15%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧をそれぞれの細胞に印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることがきる。
【0057】
次に、細胞融合容器に最初に導入する平均直径が小さい第1の細胞の直径が、前記1段目の微細孔の直径より大きい場合の例を図11に示した。このときの微細孔付近の電界強度は前述の例の図13と同じである。この場合、第1の細胞(18)は1段目の微細孔(17)の上側、すなわち、2段目の微細孔(21)に固定される。引き続き、細胞融合容器に平均直径の大きい第2の細胞(22)を導入すると、第2の細胞は図11に示すように微細孔表面(31)に配置され、前期第1の細胞と接触する。この状態で直流パルス電圧を印加すると、2段目の微細孔の中の電界強度が、微細孔表面の電界強度より高いために、2段目の微細孔内に固定された平均直径の小さい第1の細胞には、より高い電圧が印加されるものの、1段目の微細孔の中に固定される場合よりも15%程度低い電圧が印加されるので、1段目の微細孔の中に入る程度の直径の比較的小さい第1の細胞よりも、1段目の微細孔には入らず、2段目の微細孔の中で固定される程度の直径の比較的大きい第1の細胞の細胞膜を修復できない程度まで破壊してしまうほどの電圧は印加されず、細胞膜が修復可能な可逆的乱れを生じさせる程度の電圧が印加される。また、微細孔表面に固定された平均直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも、さらに20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、第1の細胞の直径の範囲に広がりがある場合であったとしても、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧をそれぞれの細胞に印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることができる。
【0058】
また、本発明の細胞融合容器は、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていること、すなわち図6に示すように、複数の微細孔が絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じるため、微細孔に細胞が固定される確率も各微細孔で等しくなり、1つの微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなる。
【0059】
また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。
【0060】
また、本発明の細胞融合装置に用いる交流電源は、例えば、ピーク電圧が1V〜20V程度、周波数100kHz〜3MHz程度の正弦波、矩形波、三角波、台形波等の交流電圧を出力できる交流電源であれば特に制限はなく、また直流パルス電源は、50V〜1000V、パルス幅10μsec〜50μsec程度の直流パルス電圧を出力できる直流パルス電源であれば特に制限は無い。
【0061】
本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となる。ここで、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形としては、矩形波であることが好ましい。その理由として、図14〜図17に示すように、交流電圧の波形が正弦波(図14)、三角波(図15)、台形波(図16)に比べて、矩形波(図17)は瞬時に設定したピーク電圧Vp(38)に到達するため、細胞が微細孔に速やかに動くため、細胞が重なって微細孔に入る確率が低くなり、従って、1つの微細孔につき1つの細胞を固定する確率が高くなる。また、細胞は電気的にコンデンサーと見なすことができ、矩形波のピーク電圧が変化しない間は、微細孔に入った細胞には電流が流れにくくなるため、電気力線が生じにくく、細胞の入った微細孔には誘電泳動力が発生しにくくなるため、一度微細孔に細胞が入ると、別の細胞がその微細孔に入る確率が低くなり、電気力線が生じ誘電泳動力が発生している空の微細孔に、順次、細胞が入っていくためである。
【0062】
また、本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じて発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0063】
ところで、本発明の細胞融合方法では、1つの微細孔に第1の細胞を固定した後、固定した第1の細胞のさらに上から第2の細胞を固定する。第2の細胞には誘電泳動力、重力、及び第1の細胞の静電気力が作用し第1の細胞と接触する。しかしながら、前述した理由により、微細孔を第1の細胞が塞いでしまうため電流が流れにくくなることで電気力線の発生が抑制され、第2の細胞に作用する誘電泳動力が弱くなる。従って、第2の細胞を、微細孔に固定した第1の細胞に1つずつ接触させる確率が低下する。しかしながら、第2の細胞の濃度を第1の細胞の濃度よりも高くし、細胞融合領域に過剰に導入することで、第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げることが可能である。この場合、図13に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って弱くなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となり、高い融合確率を得られる。また、第1の細胞の数が微細孔の数より多いと微細孔に固定されない細胞が存在し結果として細胞融合に関与する細胞の割合が少なくなるので、第1の細胞の数は微細孔の数と同数かそれ以下が好ましい。また前述したように、第2の細胞の数が第1の細胞の数より少ないと、第2の細胞と接触できない第1の細胞が存在し結果として細胞融合する2細胞1組の組み合わせが少なくなるため、第2の細胞の数が第1の細胞の数より多いほうが好ましいが、第2の細胞の数があまり多すぎると、現実的に細胞を導入できなくなることがあることから、第2の細胞の数は第1の細胞数と同数〜4倍程度の数が好ましい。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞融合容器及び細胞融合装置によれば、微細孔に固定する平均直径の小さい細胞の直径の範囲に広がりがあったとしても、設定した直流パルス電圧で融合できる細胞の直径の範囲が広がり、融合確率を高くすることが可能となる。
(2)本発明の細胞融合容器及び細胞融合装置によれば、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧をそれぞれの細胞に印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることがきる。
(3)本発明の細胞融合容器及び細胞融合装置によれば、複数の微細孔に固定した2細胞一対の細胞を同時に細胞融合させることが可能となり、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(4)本発明の細胞融合容器及び細胞融合装置によれば、1つの微細孔に1つの細胞を固定する確率を高めることができ、微細孔において2細胞を一対で接触させる確率を上げることが可能になる。
(5)本発明の細胞融合方法によれば、微細孔近傍にある2細胞一対を選択的に細胞融合させることができ、2細胞一対での細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
(6)本発明の細胞融合方法によれば、平均直径の異なる2種類の細胞の細胞膜を修復可能な程度に可逆的に破壊できるように、それぞれの大きさに合った電圧をそれぞれの細胞に印加することが初めて可能となり、高い融合確率を得ることがきる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0066】
(実施例)
図6に実施例に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の円状の微細孔(9)をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。また、図6に示した細胞融合容器のAA’断面図、すなわち、微細孔の断面形状を図7に示した。図7に示すように、微細孔の断面形状は、絶縁体が配置された下部電極(15)の側の微細孔の直径が小さく(直径約8.5μm、深さ約4μm)、細胞融合領域(1)側の微細孔の直径が大きく(直径約12μm、深さ約6μm)なるように、2段階の直径を有する微細孔(以下、階段状微細孔と称する)とした。なお、本実施例では、後述するように図18に示すような一般的なフォトリソグラフィーにより階段状微細孔を作製しており、図18に示すように下部電極に階段状微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極(36)として製作した。
【0067】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図6に示すように、細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。ここで、複数の階段状微細孔を有する絶縁体(8)は、図18に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで下記のように作製した。
【0068】
まず初めに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を4μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8(化薬マイクロケム製)を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が20μmで、縦1500個×横1500個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。なお、現像前には、ホットプレートを用いて現像前ベーク(65℃、1分 → 95℃、2分)を行った。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい4μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、イソプロピルアルコール(IPA)にてリンスし、ホットプレートを用いてハードベーク(155℃、30分)を行い、レジストを固め微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)作製した。続いて、作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)上に更にレジスト(25)を6μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストには、同様にエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8(化薬マイクロケム製)を用いた。次に、縦1500個×横1500個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔に対して、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が20μmで、縦1500個×横1500個のアレイ状に並べた直径φ12μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を微細孔中心が一致するように重ね合わせ、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。現像前には、ホットプレートを用いて現像前ベーク(65℃、1分 → 95℃、2分)を行った。また、露光時間と現像時間は、微細孔の深さが1段目のレジストと2段目のレジストの膜厚の総和に等しい10μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、IPAでリンスした基板を階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極(36)とした。このようにして作製した階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極(36)を上部電極(14)、スペーサー(16)とともに図7のように積層し圧着した。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。ここで、スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約100万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源とパルス電源は切り換えスイッチにより電極への接続を切替えられるようにした。
【0069】
続いて、前記細胞融合装置に0.1mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)水溶液600μLをスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入し、直流パルス電源により、電極間に電圧900V、パルス幅30μsのパルス電圧を99回印加し、階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極の絶縁体の表面を親水化させた。ここで、親水化処理は疎水性である絶縁体表面をBSAにて修飾することにより親水性にし、細胞と絶縁膜との付着を防止する役割を担う。
【0070】
上記、親水化処理を行った階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞各々をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞、マウスミエローマ細胞は1.7×10個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調製した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0071】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約100万個)をスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約90%であった。
【0072】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約100万個)をスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入したところ、微細孔に固定したマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞を微細孔において接触することができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウスミエローマ細胞が入る確率は約70%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確立は、約63%(=90%×70%)であると推定される。
【0073】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切り換えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsのパルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%COインキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約4900個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞100万個に対して約49/10000の融合確率を得られた。これは、後述する比較例における融合確率約38/10000の約1.3倍の融合確率であり、マウス抗体産生細胞の粒径分布の影響を軽減した効率的な2細胞一対での融合を確認することができた。
【0074】
(比較例)
図19に比較例に用いた細胞融合装置の概念図を示す。なお、図19は本発明の細胞融合装置の各部品の構成を分かりやすくするために離した状態にて図示している。また、図20では本発明の細胞融合装置を本来の構成として各部品を組み上げた状態とした上で、BB’断面図として図示した。図において、細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図19に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、比較例では実施例と同様に一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を用いた。
【0075】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図7に示すように、細胞が含有した細胞懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。ここで、複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図5に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで以下のように作製した。
【0076】
まずはじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を4μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8(化薬マイクロケム製)を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい4μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、イソプロピルアルコール(IPA)にてリンスし、ホットプレートを用いてハードベーク(155℃、30分)を行い、レジストを固め微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)作製した。このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を、上部電極(14)、スペーサー(16)とともに図20のように積層し圧着した。図20は、図19に示した細胞融合容器のBB’断面図である。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。ここで、スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源は、交流電源として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は切換スイッチにより電極への接続を切り換えられるようにした。
【0077】
続いて、前記細胞融合装置に0.1mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)水溶液600μLをスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入し、直流パルス電源により、電極間に電圧900V、パルス幅30μsのパルス電圧を99回印加し、微細孔付き絶縁体一体型下部電極の絶縁体の表面を親水化させた。ここで、親水化処理は疎水性である絶縁体表面をBSAにて修飾することにより親水性にし、細胞と絶縁膜との付着を防止する役割を担う。
【0078】
上記、親水化処理を行った微細孔付き絶縁体一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞を300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×10個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mMの塩化カルシウム、0.1mMの塩化マグネシウムを添加した。
【0079】
まずはじめに、上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液600μL(マウス抗体産生細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウス抗体産生細胞が入る確率は約85%であった。
【0080】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量のピペットを用いて注入したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ、1つのマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1つのマウスミエローマ細胞が入る確率は約70%であった。マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確立は、約60%(=85%×70%)であると推定される。
【0081】
次に、電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切り換えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCOインキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約1520個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞40万個に対して約38/10000の融合確率であった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】特許文献1記載の細胞融合容器の断面図を示した概念図である。
【図2】マウス脾臓細胞とマウスミエローマ細胞の直径分布の例を示した図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合容器において、微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも大きい場合の例を示す概念図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合容器において、微細孔の直径が2つの細胞よりの直径よりも小さい場合の例を示す概念図である。
【図5】微細孔付き絶縁体一体型下部電極を作製するときの、一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図6】本発明の細胞融合装置の一例及び、実施例に用いた細胞融合装置を示す概念図である。
【図7】図6に示した細胞融合容器のAA’断面図である。
【図8】特許文献4において、第1の細胞のうち直径の比較的小さい細胞が微細孔の中に入った場合の一例を示す図である。
【図9】特許文献4において、第1の細胞のうち直径の比較的大きい細胞が微細孔の中に入らなかった場合の一例を示す図である。
【図10】本発明において、第1の細胞のうち直径の比較的小さい細胞が1段目の微細孔の中に入った場合の一例を示す図である。
【図11】本発明において、第1の細胞のうち直径の比較的大きい細胞が1段目の微細孔の中に入らず、2段目の微細孔の中に入った場合の一例を示す図である。
【図12】微細孔付近の電界強度の分布を示した図である。
【図13】階段状微細孔付近の電界強度の分布を示した図である。
【図14】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、正弦波を示した図である。
【図15】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、三角波を示した図である。
【図16】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図17】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図18】階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極を作製するときの、一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図19】比較例に用いた細胞融合装置を示す概念図である。
【図20】図19に示した細胞融合容器のBB’断面図である。
【図21】特許文献1記載の細胞融合容器の動作を説明する第1の図である。
【図22】特許文献1記載の細胞融合容器の動作を説明する第2の図である。
【図23】特許文献1記載の細胞融合容器の動作を説明する第3の図である。
【符号の説明】
【0083】
1:細胞融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:切替スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:1段目の微細孔
18:第1の細胞
19:導入口
20:排出口
21:2段目の微細孔
22:第2の細胞
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:導入流路
30:排出流路
31:微細孔表面
32:融合細胞
33:現像液
34:ピーク電圧Vp
35:隔壁
36:階段状微細孔付き絶縁体一体型下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞融合領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備えた細胞融合容器であって、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の細胞融合領域側の電極面上に配置されており、前記微細孔の各々の断面が開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって開口面の面積が小さくなる形状である、細胞融合容器。
【請求項2】
前記微細孔の各々の断面が、開口上部より前記電極と接する開口底部に向かって2段階以上の直径と深さとなる形状である、請求項1記載の細胞融合容器。
【請求項3】
前記微細孔の各々の断面が開口上部側と開口底部側とで2段階の直径と深さとなる形状を有しており、異なる平均直径の2種の細胞を細胞融合する細胞融合容器であって、開口底部側の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以上かつ平均直径の大きい細胞の平均直径以下、当該微細孔の深さが細胞融合する2細胞のうち平均直径の小さい細胞の平均直径以下であり、開口上部側の微細孔の直径が細胞融合する2細胞のうち平均直径の大きい細胞の平均直径より大きい、請求項1又は請求項2に記載の細胞融合容器。
【請求項4】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞融合容器。
【請求項5】
前記絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、アレイ状に形成されている、請求項4に記載の細胞融合容器。
【請求項6】
前記微細孔の隣合う間隔が、微細孔に入れる直径の小さい細胞の平均直径の0.5倍以上6倍以下である、請求項4または請求項5に記載の細胞融合容器。
【請求項7】
前記スペーサーが、前記細胞融合領域を形成する貫通孔を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞融合容器。
【請求項8】
前記スペーサーが、細胞を導入する導入流路および細胞を排出する排出流路を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の細胞融合容器。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の細胞融合容器と、前記細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が、前記細胞融合容器の前記一対の電極に交流電圧を印加するための交流電源及び直流パルス電圧を印加するための直流パルス電源からなり、前記交流電源と前記直流パルス電源とを切替える切替機構を有する、細胞融合装置。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞融合装置を用いて第1の細胞と当該第1の細胞の平均直径よりも大きい平均直径を有する第2の細胞とを細胞融合する方法であって、前記細胞融合領域内に前記第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域内に前記第2の細胞を導入して、交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、直流パルス電圧を印加する、細胞融合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−11824(P2010−11824A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176764(P2008−176764)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】