説明

細胞間脂質の分子会合構造の評価方法

【課題】皮膚のラマンスペクトルから細胞間脂質由来の信号を正確に抽出し、細胞間脂質の分子会合構造を正確かつ簡便に評価する方法の提供を提供する。
【解決手段】ラマン分光により皮膚の角層のスペクトルを測定する工程、測定したスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質に特異的な信号を抽出したスペクトルを得る工程、細胞間脂質に特異的な信号を指標とし細胞間脂質の分子会合構造を評価する工程、を含む細胞間脂質の分子会合構造の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞間脂質の分子会合構造の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最も重要な機能の1つにバリア機能があり、皮膚の最外層に存在する角層が主にバリア機能を担っている。角層の中でも、細胞間脂質が角層のバリア機能に大きく寄与していることが知られている。一方、角層は人の目に触れる部分であって、角層が乾燥した場合などは一目瞭然で肌荒れを起こしていることが分かるため、医薬品、医薬部外品、化粧料を角層に塗布してケアすることは、医療・美容分野において非常に重要である。
【0003】
角層の細胞間には、セラミド、コレステロール及び脂肪酸を主成分とする脂質が多層状構造(ラメラ構造)を形成し、当該ラメラ構造が水分透過バリアとして重要な役割を果たしている。しかし、肌荒れや加齢などにより角層の細胞間脂質の構造が変化し、ラメラ構造が形成されず、皮膚のバリア機能が低下する場合がある。したがって、細胞間脂質の構造を正しく把握することは、医薬品、医薬部外品、化粧品の研究や、医薬品、医薬部外品による治療方法の研究、化粧品による美容方法の研究等、医療・美容分野において有用である。
【0004】
生体試料を測定対象とする解析法の1つとして、ラマン分光法がある。ラマン分光法は、ヒトや非ヒト動物の皮膚から剥離して採取した生体試料だけではなく、皮膚試料を剥離することなく非侵襲的にラマンスペクトルの測定ができ、多くの人に適用できるハイスループットな方法であるという利点を有する。非特許文献1には、ラマン分光法を利用し、皮膚の角層のラマンスペクトル中の細胞間脂質に特異的な信号に基づく、細胞間脂質の分子会合構造の評価方法が記載されている。
しかし、ヒトの皮膚の角層のラマンスペクトルを測定した場合、図21及び22に示すように、細胞間脂質のCH2伸縮振動由来の信号(2850cm-1付近及び2880cm-1付近に出現)と、タンパク質のCH3伸縮振動に由来する信号(2930cm-1付近に出現)は、一部が重複した波数領域で観測される。そのため、タンパク質、脂質及び水を主要構成成分とする角層のラマンスペクトルを測定するとタンパク質及び脂質をそれぞれ由来とする信号が重畳したスペクトルが得られ、ラマンスペクトル中の細胞間脂質に特異的な信号を定量的に取扱うことが困難となる。したがって、角層のラマンスペクトルから、CH3伸縮振動の影響を除去して、細胞間脂質に特異的な信号を抽出する方法が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Forster et al.,Pharmaceutical Research,vol.28,p.858-872,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚のラマンスペクトルから細胞間脂質由来の信号を正確に抽出し、細胞間脂質の分子会合構造を正確かつ簡便に評価する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者等は角層のラマンスペクトルから、細胞間脂質に特異的な信号を抽出する方法について鋭意検討を行った。その結果、後述の実施例でも示すように、皮膚の角層のラマンスペクトルにおいて、2930cm-1付近に出現する主にタンパク質のCH3伸縮振動に由来する信号が、角層に含まれる水分量に応じてシフトすることを見出した。この現象は、皮膚の角層のラマンスペクトルから、タンパク質のラマンスペクトル中の寄与分を排除し、細胞間脂質に特異的な信号を抽出する際、大きな問題となる。そこで、本発明者らはさらに検討した結果、脱脂角層に十分量の水分を含有する含水脱脂角層モデルのラマンスペクトル中のCH3伸縮振動に由来する信号の極大吸収波長(本明細書において、「ピークトップの波数」ともいう)が、皮膚の角層のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動に由来する信号のピークトップの波数とほぼ一致することを見出した。そして、皮膚の角層のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去することで、細胞間脂質に特異的な信号を正確に抽出することができ、抽出したスペクトルに基づいた細胞間脂質の分子会合構造の評価が可能となることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明は、ラマン分光により皮膚の角層のスペクトルを測定する工程、
測定したスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質に特異的な信号を抽出したスペクトルを得る工程、
細胞間脂質に特異的な信号を指標とし細胞間脂質の分子会合構造を評価する工程、
を含む細胞間脂質の分子会合構造の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、皮膚のラマンスペクトルから細胞間脂質由来の信号の正確な抽出が可能となり、細胞間脂質の分子会合構造を正確かつ簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒト前腕内側部の角層のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質由来の信号を抽出したスペクトルを示す図である。
【図2】脱脂乾燥角層のラマンスペクトルを示す図である。
【図3】図2に示すラマンスペクトルの2920〜2950cm-1領域を拡大した図を示す。
【図4】CH3伸縮振動由来の信号強度で規格化した、ヒト前腕内側部、脱脂調湿角層(98%RH)、脱脂調湿角層(10%RH)及び脱脂乾燥角層のラマンスペクトルを示す図である。
【図5】図4に示す各スペクトルの2920cm-1〜2960cm-1領域を拡大した図を示す。
【図6】水のラマンスペクトルを示す図である。
【図7】図4中の各スペクトルの水のOH伸縮振動に由来する信号強度(2950cm-1〜3750cm-1に出現)及びタンパク質のNH伸縮振動に由来する信号強度(2950cm-1〜3750cm-1に出現)に、水のラマンスペクトルを足し合わせて、前腕内側部のOH伸縮振動由来の信号強度に揃えたスペクトルを示す。
【図8】図7に示す各スペクトルの2920cm-1〜2960cm-1領域を拡大した図を示す。
【図9】図8に示す各信号のピークトップの波数と、角層水分量との関係を示す図である。
【図10】CH3伸縮振動由来の信号の強度で規格化を行った、ヒトの前腕内側部及び含水脱脂角層のラマンスペクトルを示す図である。
【図11】図10に示す各スペクトルの2920cm-1〜2960cm-1領域を拡大した図を示す。
【図12】図10中の含水脱脂角層のラマンスペクトルから水の寄与分を除去する補正をして得られたスペクトルを、ヒト前腕内側部及び補正前の含水脱脂角層のラマンスペクトルと併せて示す図である。
【図13】図12に示す各スペクトルの2820cm-1〜3020cm-1領域を拡大した図を示す。
【図14】脱脂乾燥角層、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂調湿角層(98%RH)、含水脱脂角層及びヒト前腕内側部のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数と、角層水分量との関係を示す図である。
【図15】加熱直後及び加熱から5分経過後のヒト前腕内側部のラマンスペクトルを示す図である。
【図16】図15中の各スペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質由来の信号を抽出したスペクトルを示す図である。
【図17】実施例における、ヒト前腕内側部の角層のR値の加熱処理後の経時変化を示す図である。
【図18】上腕内側部及び頬部のラマンスペクトルを示す図である。
【図19】図18中の各スペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質由来の信号を抽出したスペクトルを示す図である。
【図20】実施例における、上腕内側部、前腕内側部及び頬部の角層のR値を示す図である。
【図21】ヒトの皮膚の角層のラマンスペクトルの一例を示す図(表示領域:2750〜3850cm-1)である。
【図22】ヒトの皮膚の角層のラマンスペクトルの一例を示す図(表示領域:2750〜3150cm-1)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の評価方法では、皮膚の角層のラマンスペクトルを測定する。ラマンスペクトルの測定について、皮膚を採取してラマンスペクトルを測定する方法(侵襲法)や、皮膚のラマンスペクトルを直接測定する方法(非侵襲法)等が挙げられる。細胞間脂質は周囲の環境により分子会合構造が変化しやすいため、角層をそのままの状態で評価できハイスループットが可能な非侵襲法が好ましい。
ラマンスペクトル測定装置についても特に制限はなく、通常の装置を用いることができる。このうち、角層自体は非常に薄いため、高い空間分解能で測定可能な共焦点光学系を有する測定装置を用いることが好ましい。ラマンスペクトルの測定方法についても特に制限はなく、一般的な方法を使用することができるが、共焦点顕微ラマン法による測定が好ましい。
【0012】
ラマンスペクトルの測定に用いられる光源について、波長および入射角は特に限定はない。例えば、波長は500〜1100nmが好ましく、600〜900nmがより好ましい。皮膚表面に対する光源の入射角は0°〜60°が好ましく、0°〜30°がより好ましい。なおここでの入射角は、皮膚表面に対して垂直な法線からの角度とする。
本発明において、レーザー光入射部位の深さ方向については特に制限はない。例えば、ラマンスペクトルは共焦点装置により、皮膚表面から200μm程度の深さまでの任意の深さのスペクトルを測定することが可能である。実際の測定では、角層の厚さを考慮し、測定頻度と測定深度を適宜決定して測定を行う。例えば、ヒトの角層の厚さは通常約20μm前後であることから、皮膚表面から40μm程度の深さまでの任意の深さにレーザー光入射部位を調整し、皮膚の角層のラマンスペクトルを測定すればよい。
使用する対物レンズについて、倍率、開口数(N.A.)は特に限定はない。例えば、より高空間分解能での測定を行う場合には、倍率は40倍〜100倍、開口数は0.9〜1.5が好ましい。
【0013】
本発明の測定方法における測定対象としては特に限定はなく、ヒトの皮膚の他、マウス、モルモット、ブタ、イヌ、等の動物の皮膚を対象とすることができる。また、測定部位についても特に制限はなく、上腕、前腕、頬等任意の部位を測定することができる。
【0014】
ヒトの角層の典型的なラマンスペクトルを図21及び22に示す。ヒトの角層のラマンスペクトルの2750〜3850cm-1の領域で確認される主な信号(ピーク)として、2850cm-1付近(2850±10cm-1)に出現する細胞間脂質のCH2対称伸縮振動由来の信号、2880cm-1付近(2880±10cm-1)に出現する細胞間脂質のCH2逆対称伸縮振動由来の信号、2930cm-1付近(2930±10cm-1)に出現するタンパク質のCH3対称伸縮振動由来の信号、3400cm-1付近に出現する水のOH伸縮振動とタンパク質のNH伸縮振動が重畳した信号等がある。また、細胞間脂質のCH2伸縮振動由来の2つの信号は、タンパク質のCH3対称伸縮振動由来の信号と重畳している。
本発明では、皮膚のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、図1に示すように細胞間脂質に特異的な信号(図1に示すラマンスペクトルにおいては、2850cm-1付近で検出されるCH2対称伸縮振動に由来する信号、2880cm-1付近で検出されるCH2逆対称伸縮振動に由来する信号)を抽出する。
【0015】
含水脱脂角層の調製のために採取する皮膚の部位に特に制限はなく、かかと、上腕部、前腕部、頬部等、任意の部位の角層でよい。また、本発明により細胞間脂質の分子会合構造を評価しようとする部位と同じであっても異なっていてもよい。このうち、かかとの角層は厚いため含水脱脂角層の調製が容易であり、好ましい皮膚の部位である。
【0016】
含水脱脂角層の調製のために採取した角層の脱脂方法に特に制限はなく、通常の方法を採用できる。例えば、採取した角層をクロロホルム−メタノール混合溶液に浸漬し、脂質を含む油溶性成分を除去することにより、脱脂角層を調製することができる。
【0017】
脱脂角層を用いて含水脱脂角層を調製する方法に特に制限はないが、測定する部位に通常含まれる水分量と同程度以上の水分が含まれるように含水脱脂角層を調製することが好ましい。実際、角層の水分量は表面では10〜20wt%、最深部では約70wt%であり、その中心付近での水分量は通常40wt%である。このうち20〜30wt%は結合水として、残りは自由水として存在する。角層を構成するタンパク質の主成分であるケラチンは、結合水と相互作用することでコンフォメーション変化が生じる。後述の実施例でも示すように、脱脂角層に含まれる水分量が少ない程、ケラチンのコンフォメーション変化に応じてラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数が短波長側にシフトする。一方、脱脂角層に含まれる水分量が一定量以上となると、水分量の違いによるケラチンのコンフォメーション変化はほとんどないと考えられるため、ラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数に大きな変化は生じない。したがって、任意の部位の角層を採取し、通常の方法により脱脂処理を行い、角層を構成するケラチンのコンフォメーション変化が生じなくなる水分量を含有させればよい。例えば、後述の実施例でも示すように、ヒトの脱脂角層に含まれる水分量が概ね40wt%以上の場合ラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数に大きな変化はないため、約40wt%以上の範囲内の任意の水分量となるように脱脂処理済の角層に水分を付与すればよい。水分を付与する方法は、ラマンスペクトルを測定する含水脱脂角層中の水分量が所定の水分量以上になるように水分を付与できる方法であれば特に制限はない。
【0018】
皮膚の角層のラマンスペクトルの信号強度と、含水脱脂試料のラマンスペクトルの信号強度は、必ずしも一致しない。そこで、測定した皮膚の角層のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去する際、皮膚の角層のラマンスペクトルと、含水脱脂試料のラマンスペクトルとを規格化することが好ましい。本発明においては、ラマンスペクトル中2930cm-1付近に出現する、CH3伸縮振動由来の信号の強度で規格化することが必要である。規格化方法については通常の方法を採用することができる。
なお、対象とする動物が同じであれば含水脱脂試料のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップ波数には個体差や部位差が無いことを確認しており、一つの含水脱脂試料のラマンスペクトルを、同じ動物であれば異なる個体や異なる部位の評価に適用することができる。
【0019】
皮膚の角層のラマンスペクトルから、含水脱脂角層のラマンスペクトルに基づいて含水脱脂角層の寄与分を除去することにより、図1に示すような細胞間脂質に特異的な信号の抽出が可能となる。このようにして得られるスペクトルにおいて、細胞間脂質を由来とする信号に重畳したタンパク質由来の信号は観測されない。したがって、抽出した細胞間脂質に関する2つの信号を指標として、細胞間脂質の分子会合構造を正確に評価することができる。
【0020】
細胞間脂質がラメラ構造を形成し測定部位における細胞間脂質の分子間相互作用が大きくなると細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性が低下し、2880cm-1付近の信号が大きくなる。これに対して、測定部位における細胞間脂質の分子間相互作用が小さくなると細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性が上昇し、2880cm-1付近の信号が小さくなる。脂質の評価方法に関して、2850cm-1付近の信号と2880cm-1付近の信号との強度比(本明細書において、「R値」ともいう)が、細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性や細胞間脂質の結晶構造を反映することが知られている(例えば、P.R.Carey、「ラマン分光学 基礎と生化学への応用」、共立出版、1984参照)。R値が大きくなると、細胞間脂質の分子会合構造は横方向の秩序度が高い状態であるのに対し、R値が小さくなると、細胞間脂質の分子会合構造は横方向の秩序度が低い状態となる。
上述の通り、測定した皮膚の角層のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去することで、細胞間脂質に特異的な信号を正確に抽出することできる。したがって、本発明によれば、抽出した細胞間脂質に特異的な信号を指標とし、層構造形成の有無、細胞間脂質のパッキング状態(細胞間脂質の会合状態)、細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性、細胞間脂質の結晶構造等、細胞間脂質の分子会合構造を正確かつ簡便に評価することができる。
【0021】
本発明の細胞間脂質の分子会合構造の評価方法は、以下の手順に従って行うことができる。しかし、本発明はこれに制限されない。
(1)含水脱脂角層のモデルとする部位の角層を採取し、有機溶媒に浸漬して脱脂処理を施し、水分量が概ね40wt%以上となるように水分を付与し、含水脱脂角層を調製する。
(2)含水脱脂角層のラマン測定を行い、含水脱脂角層の標準スペクトルを得る。
(3)皮膚にレーザー光を照射し、角層のラマン測定を行う。具体的には、共焦点顕微ラマン法に従い、皮膚表面から40μm程度の深さまでの任意の深さで角層のラマン測定を行う。
(4)角層のラマンスペクトルと、含水脱脂角層の標準スペクトルとを規格化する。具体的には、ラマンスペクトル中2930cm-1付近に出現する、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号の強度で規格化する。
(5)含水脱脂角層の標準スペクトルを用いて、細胞間脂質由来の信号に重畳するタンパク質由来の信号の影響を排除して含水脱脂角層の寄与分を除去し、角層のラマンスペクトルから細胞間脂質に特異的な信号を抽出する。具体的には、タンパク質、水及び脂質を構成成分とする角層のラマンスペクトルから、タンパク質及び水を構成成分とする含水脱脂試料のラマンスペクトルを差し引いて、細胞間脂質に特異的な2つの信号を抽出する。
(6)抽出した細胞間脂質に特異的な2つの信号を指標とし、細胞間脂質の分子会合構造を評価する。例えば、2850cm-1付近の信号と2880cm-1付近の信号との強度比(R値)を算出し、層構造形成の有無、細胞間脂質のパッキング状態(細胞間脂質の会合状態)、細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性、細胞間脂質の結晶構造等を評価する。
【0022】
本発明の評価方法により、細胞間脂質の分子会合構造を正確に評価できる。したがって、本発明の方法は、被験者に合った化粧品の選択、化粧品の研究開発、被験者毎の美容方法の選択、美容方法の研究等の美容目的等で用いることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
試験例1 脱脂乾燥角層、脱脂調湿角層及び含水脱脂角層の調製
健常男性(40歳代)のかかとから角層片(約3mg)を剥離し、クロロホルム−メタノール溶液(体積比:1:1)に一昼夜浸して脂質等の油溶性成分を除去し、さらに水に24時間浸してアミノ酸等の水溶性成分を除去した後、五酸化二リンとともに調湿容器に入れ密封し、調湿容器を23℃のデシケーター内で1週間保管し、完全に乾燥させたかかと角層(以下、「脱脂乾燥角層(かかと)」ともいう)を調製した。
飽和LiCl水溶液を用いて前記脱脂乾燥角層を調湿(10%RH)したかかと角層(以下、「脱脂調湿角層(10%RH)」ともいう)を調製した。
飽和Na2HPO4水溶液を用いて前記脱脂乾燥角層を調湿(98%RH)したかかと角層(以下、「脱脂調湿角層(98%RH)」ともいう)を調製した。
前記脱脂乾燥角層(約3mg)にイオン交換水10μLを滴下し、含水かかと角層(以下、「含水脱脂角層」とともいう)を調製した。
前腕内側部から、剥離した角層(粉末状)について、前記脱脂乾燥角層と同様の処理をした角層(以下、「脱脂乾燥角層(前腕内側部)」ともいう)を調製した。
【0025】
試験例2 脱脂乾燥角層のラマンスペクトルの測定
前記脱脂乾燥角層(かかと)、及び前記脱脂乾燥角層(前腕内側部)のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光器 ナノファインダー30(商品名、東京インスツルメンツ製)を用いて測定した。測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
励起波長632.8nm
波数分解能:5cm-1(脱脂乾燥角層(かかと))又は30cm-1(脱脂乾燥角層(前腕内側部))
対物レンズ:100倍、NA=1.3(油浸)
その結果を図2に示す。さらに、該ラマンスペクトルのベースラインを調整し、タンパク質のCH3伸縮振動に由来する信号が出現する2920〜2950cm-1領域を拡大した図を図3に示す。
【0026】
図2に示すとおり、かかとの脱脂乾燥角層の方が、前腕内側部の脱脂乾燥角層よりもS/Nの良いスペクトルを取得することができた。これは、前腕内側部から削りだした角層は粉末状であり、採取できる量も少ないため、前腕内側部の脱脂乾燥角層のラマンスペクトルの測定はより困難だったことによる。
これに対して、図3より、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号については、前腕内側部とかかとでは大きな違いはなかった。特に、2つのスペクトルにおいて、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数に大きな違いはなかった。
そこで、下記実施例では、ヒトの角層のラマンスペクトルにおいてCH2伸縮振動に由来する信号に重畳する、CH3伸縮振動に由来する信号の影響を除去するための標準的な脱脂角層のラマンスペクトル(標準スペクトル)として、S/Nの良いかかとの角層のラマンスペクトルを用いることとした。
【0027】
試験例3 角層のラマンスペクトルの水分量依存性
20代男性の前腕内側部をドライヤー(1000W)で1分間加熱し、前腕内側部角層のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光器 ナノファインダー30(商品名、東京インスツルメンツ製)を用いて測定した。この測定中、前腕は測定台(温度:約25℃)に固定し、同一部位を5回測定した。測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
励起波長632.8nm
波数分解能:5cm-1
対物レンズ:100倍、NA=1.3(油浸)
測定深さ:皮膚表面から約5μm
【0028】
同様に、前記脱脂調湿角層(98%RH)、前記脱脂調湿角層(10%RH)、及び前記脱脂乾燥角層(かかと)のラマンスペクトルも同様に測定した。
CH3伸縮振動由来の信号強度で規格化した、前腕内側部、脱脂調湿角層(98%RH)、脱脂調湿角層(10%RH)及び脱脂乾燥角層(かかと)のラマンスペクトルを図4に示す。さらに、図4中の各スペクトルのベースラインを調整し、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号が出現する2920cm-1〜2960cm-1領域を拡大した図を図5に示す。
【0029】
図4より、3400cm-1付近に出現する水のOH伸縮振動由来の信号の強度が、前腕内側部、脱脂調湿角層(98%RH)、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂乾燥角層の順に小さくなっていることがわかる。これは、角層に含まれる水分量が、前腕内側部、脱脂調湿角層(98%RH)、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂乾燥角層の順に少なくなることと一致する。
一方、図5から、各スペクトルにおいてタンパク質(ケラチン)のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数が、角層に含まれる水分量が多くなるに従い、長波長側にシフトすることが明らかになった。すなわち、角層に含まれる水分量の違いによって、ラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数が変化した。
【0030】
前記に示すCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数変化が、角層に含まれる水分量の違いによるOH伸縮振動由来の信号強度の違いによるものかについて検討する。
図4中の各スペクトルの水のOH伸縮振動及びタンパク質のNH伸縮振動に由来する信号強度(2950cm-1〜3750cm-1に出現)に、水のラマンスペクトル(図6)を足し合わせて、前腕内側部のOH伸縮振動由来の信号強度に揃えたスペクトルを図7に示す。さらに、図7に示す各スペクトルのタンパク質のCH3伸縮振動に由来する信号が出現する2920cm-1〜2960cm-1領域を拡大した図を図8に示す。図5に示す各スペクトルと同様に、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数が、脱脂乾燥角層、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂調湿角層(98%RH)、前腕内側部の順に大きくなる。
さらに、脱脂乾燥角層、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂調湿角層(98%RH)、前腕内側部に含まれる水分量を特開2010−12076号公報に記載の方法に準じてCH3伸縮振動由来の信号強度(2800〜3030cm-1)とOH伸縮振動由来の信号強度(3100〜3750cm-1)の比から測定し、図8に示す各信号のピークトップの波数を各試料の角層水分量に対してプロットした図を図9に示す。図9から、図7に示すような、OH伸縮振動由来の信号強度の違いに応じて水の寄与分を除去したラマンスペクトルにおいても、CH3伸縮振動由来の信号のピークトップ波数が、試料に含まれる水分量の違いにより変化することが明らかとなった。
【0031】
図7〜9に示す結果から、角層のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数変化が、隣接するOH伸縮振動由来の信号の重畳によって見かけ上生じるものではなく、水和に伴い角層中のCH3基の状態変化に起因するものと考えられる。なお、角層のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号は主にケラチンのCH3伸縮振動由来であり、角層中のケラチンは、水分量の低下に伴いコンフォメーションが変化し、α-helix含量が減少することが知られている(例えば、S.Yadav et al.,Skin Research and Technology,vol.15,p.172-179,2009参照)。すなわち、脱脂角層のケラチンのコンフォメーション変化により、CH3伸縮領域のスペクトルが変化するものと考えられる。
このように、角層のラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップ波数は水分量増加に伴い長波長側にシフトする。したがって、角層のラマンスペクトルから、脱脂調湿角層又は脱脂乾燥角層のラマンスペクトルにおけるタンパク質の寄与分を排除して抽出したスペクトルは、細胞間脂質の分子会合構造を正確に反映するものとはいえない。
【0032】
試験例4 ヒトの皮膚のラマンスペクトル測定における、標準角層スペクトルの選定
試験例3で測定した20代男性の前腕内側部のラマンスペクトル、及び同様の条件で測定した試験例1で調製した含水脱脂角層のラマンスペクトルについて、CH3伸縮振動由来の信号(2930cm-1)の強度で規格化を行った。その結果を図10に示す。CH3伸縮振動由来の信号強度当たりのNH伸縮振動由来の信号強度は一定とみなせるので、3400cm-1付近の信号強度の変化は水分量の変化に対応するとみなすことができる。これより、角層に含まれる水分量は、前腕内側部よりも含水脱脂角層で多いことがわかる。
さらに、図10に示すスペクトル中、タンパク質のCH3伸縮振動に由来する信号が出現する2920〜2960cm-1の領域の拡大図を図11に示す。図11より、前腕内側部のスペクトルと含水脱脂角層のスペクトルにおいて、CH3伸縮振動由来の信号の形状及びピークトップ波数がほぼ一致していることが分かった。
【0033】
以上のように、CH3伸縮振動以外の振動の影響が小さい2920〜2960cm-1の領域において、前腕内側部と含水脱脂角層のラマンスペクトルがほぼ一致した。したがって、含水脱脂角層のラマンスペクトルは、前腕内側部のラマンスペクトルのCH3伸縮振動由来の信号を再現しているものといえる。
【0034】
さらに、試験例3と同様に、図10に示す含水脱脂角層のラマンスペクトルについて、3400cm-1付近の信号の強度が前腕内側部のラマンスペクトルのものと揃うように、水の寄与分を除去する補正をして得られたスペクトルを、前腕内側部及び補正前の含水脱脂角層のラマンスペクトルと併せて図12に示す。さらに、図12のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号、並びに脂質のCH2伸縮振動及びCH2逆伸縮振動由来の信号が出現する2820cm-1〜3020cm-1領域を拡大した図を図13に示す。
図13より、含水脱脂角層のラマンスペクトルから水の寄与分を排除して得られた補正後のスペクトルは、補正前のスペクトルと比べて、タンパク質のCH3伸縮振動の信号の形状及び極大値(ピークトップの波数)に変化は見られなかった。したがって、含水脱脂角層のラマンスペクトルにおける水のOH伸縮振動由来の信号の強度は、脂質由来の信号(2880cm-1及び2850cm-1付近に出現する信号)に重畳する、タンパク質のCH3伸縮振動由来の信号の影響を除くための標準スペクトルの選択に影響はないと言える。
【0035】
脱脂乾燥角層、脱脂調湿角層(10%RH)、脱脂調湿角層(98%RH)、含水脱脂角層及び前腕内側部のラマンスペクトル中のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数を、各試料の角層水分量に対してプロットした図を図14に示す。図14より、脱脂角層に含まれる水分量が少ない場合、ラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数が小さくなる。一方、前腕内側部(水分量:約40wt%)のピークトップの波数と含水脱脂角層のピークトップの波数とを比較した場合、角層に含まれる水分量が十分に多いため、水分量の違いによらず、ラマンスペクトル中のタンパク質のCH3伸縮振動由来の信号のピークトップの波数にほとんど変化はなかった。
【0036】
以上より、ヒト角層のラマンスペクトルにおいて、脂質由来の信号に重畳するタンパク質由来の信号の影響を排除するために用いる標準スペクトルとして、含水脱脂角層のラマンスペクトルを採用することが妥当である。
【0037】
試験例5 ヒトの皮膚のラマンスペクトルからの細胞間脂質由来の信号の抽出
試験例4で得られた含水脱脂角層の標準ラマンスペクトルを用いて、試験例3で測定した20代男性の前腕内側部のラマンスペクトルから、含水脱脂角層の寄与分を除去しタンパク質由来の信号の影響を排除し、細胞間脂質に由来の信号を抽出した。その結果を図1に示す。
図1に示すように、CH3伸縮振動由来の信号(2930cm-1)が確認されず、CH2逆対称伸縮振動由来の信号(2880cm-1)及びCH2対称伸縮振動由来の信号(2850cm-1)が確認された。したがって、角層の主な構成成分は脂質、タンパク質及び水であるため、図1に示すラマンスペクトル中の2つの信号は細胞間脂質のCH2伸縮振動を反映するものである。
よって、ヒトの皮膚のラマンスペクトルから、含水脱脂角層のラマンスペクトルを用いて、含水脱脂角層の寄与分を除去して角層のラマンスペクトルからCH3伸縮の影響を除いてスペクトルを抽出することにより、細胞間脂質由来のCH2伸縮の信号の抽出が可能となる。
【0038】
実施例1
20代男性の前腕内側部をドライヤー(1000W)で1分間加熱した。加熱直後から、経時的に前腕内側部角層のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光器 ナノファインダー30(商品名、東京インスツルメンツ製)を用いて測定した(1分間隔、5分間)。この測定中、前腕は測定台(温度:約25℃)に固定し、同一部位を経時的に測定した。測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
励起波長632.8nm
波数分解能:5cm-1
対物レンズ:100倍、NA=1.3(油浸)
測定深さ:皮膚表面から約5μm
測定したラマンスペクトルについて、CH3伸縮振動由来の信号強度で規格化した。このようにして得られた加熱直後及び加熱から5分経過後のヒト前腕内側部のラマンスペクトルを図15に示す。
さらに、図10に示す含水脱脂角層の標準ラマンスペクトルを用いて、図15に示す各ラマンスペクトルから、含水脱脂角層の寄与分を除去しタンパク質由来の信号の影響を排除し、細胞間脂質に由来の信号を抽出したスペクトルを図16に示す。
【0039】
細胞間脂質に特異的な信号を抽出したスペクトルを用いて、R値(2850cm-1付近の信号強度に対する、2880cm-1付近の信号強度の比)を計算した。このようにして得られたR値を、前腕内側部の加熱時間に対してプロットしたグラフ、すなわち、R値の加熱処理後の経時変化を示す図を図17に示す。
図17より、R値は加熱直後から経時的に上昇し(加熱直後〜3分後)、その後ほぼ一定になる傾向を示した(3〜5分後)。一般に、細胞間脂質は39℃において、斜方晶/六方晶の相転移が生じる(例えば、I.Hatta et al.,Biochimica et Biophysica Acta.,vol.1758,p.1830-1836,2006;小幡ら,Spring-8 User Experiment Report,2009A1876など参照)。ドライヤーによる加熱処理直後の皮膚表面温度は約45℃であったことからこの加熱処理により角層を一時的に39℃以上に加熱したと考えられ、このようなR値の変化は、加熱により六方晶に相転移(R値が低下)した細胞間脂質が、その後の冷却過程において経時的に斜方晶に相転移(R値が上昇)していく過程を示している。このことは、細胞間脂質の分子会合構造が、加熱前は横方向の秩序度が高かったが、加熱により横方向の秩序度が低くなり、加熱後の冷却過程において経時的に横方向の秩序度が再び上昇したことを示している。これらの点からも、R値は細胞間脂質の分子会合構造の評価の指標となる。したがって、本発明によれば温度変化に伴う細胞間脂質のCH2伸縮振動由来の信号の変化を正確に測定することができ、本発明の評価方法が細胞間脂質の分子会合構造の評価に好適であることがいえる。
【0040】
実施例2
20代男性の上腕内側部、前腕内側部及び頬部のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光器 ナノファインダー30(商品名、東京インスツルメンツ製)を用いて測定した。この測定中、上腕、前腕及び頬は測定台(温度:約25℃)に固定した。上腕内側部、前腕内側部及び頬部を各5回ずつ測定した。測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
励起波長632.8nm
波数分解能:5cm-1
対物レンズ:100倍、NA=1.3(油浸)
測定深さ:皮膚表面から約5μm
測定したラマンスペクトルについて、CH3伸縮振動由来の信号強度で規格化した。このようにして得られた上腕内側部及び頬部のラマンスペクトルを図18に示す。さらに、図10に示す含水脱脂角層の標準ラマンスペクトルを用いて、図18に示す各ラマンスペクトルから、含水脱脂角層の寄与分を除去しタンパク質由来の信号の影響を排除し、細胞間脂質に由来の信号を抽出したラマンスペクトルを図19に示す。
図19からも明らかなように、前腕内側部以外の部位でも、測定したスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質に特異的な信号を抽出することにより、細胞間脂質のCH2逆対称伸縮振動(2880cm-1)及びCH2対称伸縮振動(2850cm-1)由来の信号が確認できた。
【0041】
細胞間脂質に特異的な信号を抽出したスペクトルを用いて、上腕内側部、前腕内側部及び頬部のR値を計算した。その結果を図20に示す。頬部のR値と、上腕内側部及び前腕内側部のR値とでは有意差があり、頬部よりも上腕内側部や前腕内側部の方が、R値が大きかった。これは、上腕内側部や前腕内側部は、頬部に比べて細胞間脂質のパッキングが密であることを示す。このことは、細胞間脂質の分子会合構造が、上腕内側部や前腕内側部では横方向の秩序度が高い状態であったのに対し、頬部では横方向の秩序度が低い状態であることを示している。
したがって、本発明によれば部位による細胞間脂質のCH2伸縮振動由来の信号の違いを正確に捉えることができ、本発明の評価方法が細胞間脂質の分子会合構造の評価に好適であることがいえる。
【0042】
以上のように、本発明の方法によれば、細胞間脂質の分子会合構造を正確かつ簡便に評価することができる。また、本発明の方法によれば、皮膚表面の状態の特性化、皮膚表面の状態の個人差・部位差や製剤使用前後の変化の定量化が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光により皮膚の角層のスペクトルを測定する工程、
測定したスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質に特異的な信号を抽出したスペクトルを得る工程、
細胞間脂質に特異的な信号を指標とし細胞間脂質の分子会合構造を評価する工程、
を含む細胞間脂質の分子会合構造の評価方法。
【請求項2】
細胞間脂質に特異的な信号が、CH2対称伸縮振動に由来するスペクトル中2850cm-1付近で検出される信号、及び/又はCH2逆対称伸縮振動に由来するスペクトル中2880cm-1付近で検出される信号である、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
スペクトルを抽出する工程において、予め測定した含水脱脂角層の標準スペクトルを用いて、細胞間脂質由来の信号に重畳するタンパク質由来の信号の影響を排除して含水脱脂角層の寄与分を除去する、請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項4】
細胞間脂質の分子会合構造の評価が美容目的である、請求項1〜3のいずれか記載の評価方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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