説明

細菌のクオラムセンシング調節方法

【課題】 患部の有用な菌を減らしてしまったり耐性菌を生じてしまう虞のないクオラムセンシングの調節方法を提供する。
【解決手段】 白金ナノコロイドを用いる細菌のクオラムセンシング調節方法とする。白金ナノコロイドはコロイドを形成し維持することのできる溶媒、好ましくはポリビニールピロリドン,ポリアクリル酸,及びポリアクリル酸塩,クエン酸,及びクエン酸塩と共に患部若しくは細菌の培養環境に対して接触させて使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細菌のクオラムセンシング調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は密度依存的な遺伝子発現制御機構を持ち、細菌密度が低いうちはシグナル分子の濃度も低いため何も起こらないが細菌密度の上昇に伴いシグナル分子の密度も上昇し、ある一定の濃度に達したときにシグナル伝達が働き出し様々な現象へと誘導される仕組みがクオラムセンシングとして知られている。クオラムセンシングは、それによる細菌の病原性の発現、抗生物質の生産、コンピテンスの獲得が知られており、特に歯科領域においてはS.mutans菌のクオラムセンシングによるバイオフィルム形成,P.gingivalis菌のクオラムセンシングによる歯肉の分解が知られている。
【0003】
クオラムセンシングを調節する物質、例えばDHCP(4,5−ジヒドロキシ2−シクロペンテン−1−オン)を用いてクオラムセンシングによる害をコントロールする試みも行われている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、従来のクオラムセンシングの調節剤は同時に強力な抗菌作用を持つために患部の有用な菌をも減らしてしまったり耐性菌を生じてしまう弊害があった。
【特許文献1】特表2005−519616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、患部の有用な菌を減らしてしまったり耐性菌を生じてしまう虞のないクオラムセンシングの調節方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、白金ナノコロイドは抗菌性が低く有用なクオラムセンシング調整剤であることを見出して本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は、白金ナノコロイドを用いる細菌のクオラムセンシング調節方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る白金ナノコロイドは、一重項酸素除去能を有する物質として従来から知られているものであって、例えば特開平10−68008号,特開2001−79382号,特開2005−139102号,国際公開WO2005/023467号に記載されているもの等が使用できる。白金ナノコロイドの使用方法はコロイドを形成し維持することのできる媒体と共に患部若しくは細菌の培養環境に対して白金ナノコロイドを接触させる。
【0008】
白金を分散させるための媒体としてはポリビニールピロリドン,ポリアクリル酸,及びポリアクリル酸塩,クエン酸,及びクエン酸塩などが使用できる。口腔内への適用方法としては単に水中に白金ナノコロイドを分散させたものはもちろん,洗口液,または歯磨剤の配合物として適用してもよい。細菌の培養方法としては寒天培地,液体培地,また好気条件,嫌気条件を問わず応用可能である。細菌培養時における白金ナノコロイド適用方法としては,水溶液を0.22μmフィルターを用いてろ過滅菌したものを添加する方法が望ましい。
【実施例】
【0009】
<実施例>
AI(オートインデューサー)-2アッセイを使用した。Vibrio harveyi BB-170株(ATCC Number:BAA-1117)株はクオラムセンシング表現型センサー1-,2+を有する。これは同株の無細胞培養液(オートインデューサー2を含有した培養液)を添加するとクオラムセンシング機構により発光する。
【0010】
V. harveyi BB-170株をDifco Marine Broth 2216を用いて30℃にて一晩好気培養した。その後、培養液をオートインデューサー・バイオアッセイ培地(AB培地,表1)にて100倍希釈し25℃にて約20時間好気培養した。培養液を遠心分離し回収した上清をフィルターろ過滅菌したものを無細胞培養液とした。本無細胞培養液20μL,V. harveyi BB-170株培養液の2,000倍希釈液180μL,白金ナノコロイド水溶液(クエン酸コーティング白金ナノコロイド:シーテック社製)20μLを96ウェルプレートのウェル内にて混合し30℃にて4時間インキュベートした後、各ウェルの発光量をルミネッセンサーJNR2(ATTO社)を用いて測定した。白金ナノコロイド水溶液については1000μMから8μMの2倍希釈系列を作製して試験に供した。なおAI-2を含まない比較例としては無細胞培養液を含まないAB培地を添加した(-AI-2)。結果を図1に示す。白金ナノコロイドが濃度依存的にV. harveyi BB-170株による発光、即ち、クオラムセンシングを阻害していることが分かる(+AI-2)。
【0011】
<表1>

【0012】
白金ナノコロイドがV. harveyi BB-170株を滅菌することなくクオラムセンシングだけを阻害していることを確認するため、4時間インキュベートした後の生菌数を測定した。生菌数はDifco Marine Agar 2216を用いた寒天平板表面塗抹法により求めた。更には発光量を生菌数で割りV. harveyi BB-170株の1細胞あたりの発光量について算出した。白金ナノコロイドを含まない例を比較例2とした。結果を表2に示す。白金ナノコロイドがV. harveyi BB-170株を滅菌することなく発光、即ちクオラムセンシングのみを効率的に阻害しており、且つクオラムセンシングの阻害は白金ナノコロイドの濃度に依存することが確認できる。
【0013】
<表2>

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Vibrio harveyi BB-170株の発光量に対する白金ナノコロイド濃度の関係

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金ナノコロイドを用いる細菌のクオラムセンシング調節方法。

【図1】
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