説明

細菌内毒素吸着剤及びそのスクリーニング方法

【課題】 本発明は、合成が容易で、様々な類縁構造も容易に調整でき、種々のリポ多糖の吸着に使用し得る、新しいリポ多糖吸着剤(細菌内毒素吸着剤)とそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、生合成前駆体型リピドA又は大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入したリピドA放射性標識体を用いて、ペプチドライブラリーとのバインディングアッセイ(結合実験)を行うことを特徴とする細菌内毒素吸着剤のスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法により見出された特定のペプチドライブラリーから成る細菌内毒素吸着剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドドキシン(細菌内毒素)吸着剤のスクリーニング・作製方法及びその方法により見出された特定構造の吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高等動物はバクテリアが体内に侵入すると自らの免疫系を活性化するシステムを有しており、このシステムは自然免疫(innate immunity)として注目を集めている。リポ多糖(Lipopolysaccharide:LPS、内毒素、エンドトキシン)は大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌の細胞表層の主成分であり、バクテリア侵入のシグナルとして働いてサイトカイン、プロスタグランジンやPAFなどの脂質、NOなど様々なメディエーターを生産させることで免疫系を活性化する。適量のリポ多糖が作用した場合は有益な免疫応答が起こるが、感染症などによりリポ多糖が過剰に作用すると免疫系が暴走し、高熱や全身的な血液凝固などが起こり致死的なショックが引き起こされる。一方で人工透析液中のリポ多糖の混入も透析中に体内にリポ多糖が入ることにより、サイトカインを誘導して種々の合併症を引き起こす可能性がある。また生物学的製剤へのリポ多糖の混入も大きな問題である。そこでリポ多糖を除去するためのリポ多糖吸着剤の開発が望まれてきた。しかしながら、現在までのところ、リポ多糖の吸着剤として開発され実用化されているのは、エンドトキシン吸着療法に用いられている、抗生物質ポリミキシンBをファイバーに固定したトレミキシン(東レ(株)商品名)ぐらいしかない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記した如き現状に鑑みなされたもので、合成が容易で、様々な類縁構造も容易に調整でき、種々のリポ多糖の吸着に使用し得る、新しいリポ多糖吸着剤(細菌内毒素吸着剤)とそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、生合成前駆体型リピドA又は大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入したリピドA放射性標識体を用いて、ペプチドライブラリーとのバインディングアッセイ(結合実験)を行うことを特徴とする細菌内毒素吸着剤のスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法により見出された細菌内毒素吸着剤に関する。
【0005】
また、本発明は、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれにオリゴペプチドを結合させてなるペプチドライブラリーに関する。
【0006】
更に、本発明は、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれに、該他の官能基と結合し得る官能基を有し、且つこれ以外の官能基を2以上有する化合物を結合させ、然る後、更にこれにオリゴペプチドを結合させてなるペプチドライブラリーに関する。
【0007】
更にまた、本発明は、合成前駆体型リピドA又は大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入したリピドA放射性標識体に関する。
【0008】
即ち、天然型リピドAの1位グリコシルリン酸基は化学的に不安定であるが、これをホスホノオキシエチル(PE)基に置き換えたPE類縁体は化学的に安定であり、天然型のものと同等の活性を示すことが明らかにされている。本発明者らは、先にPE類縁体の効率的な合成法を開発し報告している(Bull.Chem.Soc.Jpn.,72,1377(1999))が、今回、更にPE類縁体合成においてアルデヒド中間体の還元にNaBを用いることによって、大腸菌リピドAトリチウム標識PE類縁体の合成に成功し、これらの放射性標識体を用いて特定のペプチドライブラリーとのバインディングアッセイ(結合実験)を行うことにより効果的な細菌内毒素吸着剤のスクリーニングが実施できることを見出し本発明を完成するに到った。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エンドドキシン(細菌内毒素)吸着剤のスクリーニング・作製方法及びその方法により見出された特定構造の吸着剤に関するものであり、合成が容易で、様々な類縁構造も容易に調整でき、種々の細菌内毒素の吸着に使用し得る、新しい細菌内毒素吸着剤(エンドドキシン吸着剤)を提供するものである点に効果を有する。また、本発明の吸着剤は、既存の吸着剤と比べて、天然物(天然アミノ酸)を使用している点に大きな利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられる、生合成前駆体型リピドA又は大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入した放射線標識リピドA類縁体における放射性元素としては、例えば、トリチウム(H)が挙げられる。
本発明で用いられる、大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入した放射線標識リピドA類縁体としては、例えば、下記構造式[4]で示されるものが挙げられる。
【化4】

【0011】
また、本発明で用いられる、生合成前駆体型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体に放射性元素を導入した放射線標識リピドA類縁体としては、例えば、下記構造式[5]で示されるものが挙げられる。
【化5】

【0012】
上記放射線標識リピドA類縁体の製造方法は、後記実施例の項で詳細に述べるとおりである。
【0013】
本発明で用いられるペプチドライブラリーとしては、例えば、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれにオリゴペプチドを結合させて作製したペプチドライブラリーが挙げられる。
また、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれに、該他の官能基と結合し得る官能基を有し、且つこれ以外の官能基を2以上有する化合物を結合させ、然る後、更にこれにオリゴペプチドを結合させて作製したペプチドライブラリーも好ましいものとして挙げられる。
【0014】
官能基を有する固相担体としては、例えば、アミノ基を有する固相担体が挙げられる。
官能基を有する固相担体がアミノ基を有する固相担体である場合、該アミノ基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物としては、例えば、式:HOOC(NH)CH(CHNH(式中、nは1〜4の整数を表す。)で示される塩基性アミノ酸や、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸等の水酸基を2以上有するカルボン酸等が挙げられる。
上記アミノ酸の具体例としては、例えば、リジン、オルニチン等が好ましいものとして挙げられる。
【0015】
官能基を有する固相担体がアミノ基を有する固相担体であり、該アミノ基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物が、式:HOOC(NH)CH(CHNH(式中、nは1〜4の整数を表す。)で示されるアミノ酸である場合、該他の官能基と結合し得る官能基を有し、且つこれ以外の官能基を2以上有する化合物としては、例えば、式:HOOC(NH)CH(CHNH(式中、nは1〜4の整数を表す。)で示される塩基性アミノ酸が挙げられる。
上記アミノ酸の具体例としては、例えば、リジン、オルニチン等が好ましいものとして挙げられる。
【0016】
本発明で用いられるペプチドライブラリーにおいて、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を介して、或いは、官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれに、該他の官能基と結合し得る官能基を有し、且つこれ以外の官能基を2以上有する化合物を結合させたもの介して、結合させるオリゴペプチドとしては、例えば、アミノ酸残基が2から20、好ましくは3から10、より好ましくは4から8のオリゴペプチドが挙げられる。
アミノ酸残基の種類に特に制約はないが、例えば、Gly、D,L−Val、D,L−Phe、D,L−Pro、D,L−Ser、D,L−Gln、D,L−Glu、D,L−Lys等が好ましいものとして挙げられる。
【0017】
本発明に係るペプチドライブラリーの具体例としては、例えば、下記一般式[1]、[2]又は[3]で示される化合物が挙げられる。
【化6】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)
【化7】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)
【化8】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)
【0018】
上記一般式[1]、[2]又は[3]で示されるペプチドライブラリーにおいて、AA、AA、AA及びAAで表されるアミノ酸残基の種類に特に制約はなく、何れのアミノ酸残基でも良いが、好ましいものとしては、例えば、Gly、D,L−Val、D,L−Phe、D,L−Pro、D,L−Ser、D,L−Gln、D,L−Glu、D,L−Lys等が挙げられる。
【0019】
本発明の細菌内毒素吸着剤は、前記リピドA放射性標識体を用いて、上記ペプチドライブラリーとのバインディングアッセイを行うことにより検索、抽出されるが、そのようにして得られた本発明の細菌内毒素吸着剤の具体例としては、例えば、上記一般式[1]において、AA、AA、AA及びAAが下記表1に記載の何れかの組み合わせからなるもの、
【0020】
【表1】

【0021】
上記一般式[2]において、AA、AA、AA及びAAが下記表2に記載の何れかの組み合わせからなるもの、
【0022】
【表2】

【0023】
及び、上記一般式[3]において、AA、AA、AA及びAAが下記表3に記載の何れかの組み合わせからなるもの、
【0024】
【表3】

【0025】
等が挙げられる。
オリゴペプチド構造と細菌内毒素吸着剤としての有効性との相関関係は、未だ十分には解明されていないが、AAにリジンがあるのがより有効のようである。
【0026】
本発明で用いられる官能基を有する固相担体としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の官能基を有する樹脂、好ましくはビーズ状樹脂が挙げられる。そのような樹脂の具体例としては、例えば、上記した如き官能基を有するポリエチレングリコール−ポリスチレン樹脂[具体的な商品名としては、例えば、TentaGel S−NH(Rapp Polymere社)、Aminomethyl NovaGel HL(Novabiochem社)等が挙げられる。]や、親水性ビニルポリマー[具体的な商品名としては、例えば、TSKgel AF−AminoTOYOPEARL 650S(東ソー(株))等が挙げられる。]等が挙げられる。
【0027】
以下に、放射線標識リピドA類縁体と分子ピンセットライブラリー(ペプチドライブラリー)との結合実験の概略について述べる。
分子ピンセットライブラリーの調製
先ず、スプリット合成によってエンコード分子ピンセットライブラリー(ペプチドライブラリー)を調製した。
即ち、ケノデオキシコール酸をテンプレートとし、その2つの水酸基にGly残基を介してテトラペプチドライブラリーを結合したもの(diarm L1)、L−Lysの2つのアミノ基にそれぞれテトラペプチドライブラリーを結合したもの(diarm L2)、及びL−Lysのそれぞれのアミノ基にL−Lysを結合させ、計4つのアミノ基にテトラペプチドライブラリーを結合したもの(tetraarm L3)である。固相担体としては水中でアッセイを行うことを考慮して、水に膨潤性のポリエチレングリコール-ポリスチレン樹脂であるTentaGelを用いた。 L1をコア構造として用いる場合はまずデオキシコール酸を固相担体に導入した後、2つの水酸基に対してFmoc−Glyを結合させた。リジン(L2)とトリリジン(L3)コアは通常のペプチド固相合成法により調製した。ライブラリー調製には15種類(GlyとD及びL−Val,Phe,Ser,Gln,Glu,Lys及びPro)のアミノ酸を用いた。4段階のスプリットカップリングサイクルを行って、3×15=151,875種類のペプチドを含むライブラリーを構築した。
【0028】
放射線標識リピドA類縁体と分子ピンセットライブラリーの結合実験
上記構造式[4]で示される放射線標識リピドA類縁体(以下、[H]PE506と略記する。)、又は上記構造式[5]で示される放射線標識リピドA類縁体(以下、[H]PE406と略記する。)を用いて、分子ピンセットライブラリーとの結合実験(バインディングアッセイ)を行った。 なお放射線化合物を用いた分子ピンセットライブラリーとの結合実験についてはNestlerがすでに確立しており、その手法に従った(Nestler H.P.;Wennemers H.;Sherlock R.;Dong D.L.-Y.Bioorg.Med.Chem Lett.,6,1327(1996).)。
H]PE506を用いた結合実験についてはライブラリー(15.7mg,約19000個のビーズ状樹脂を含む。)を[H]PE506の存在下で4℃で41時間振盪した。この操作により[H]PE506を認識する分子ピンセットが結合した樹脂は[H]PE506を吸着するので放射能を帯びる。これにKodak autoradiographic emulsionを作用させると、放射能を帯びた樹脂の回りが感光される。定着した後、余分なエマルジョンを除去すると放射能を帯びた樹脂は黒く染まる。これを取り出し、後に述べるエンコード法で樹脂上のペプチド配列を決定した。その結果、[H]PE506と結合する19種類の分子ピンセットが見出された(表4)。
【0029】
【表4】

【0030】
表4から明らかなように、19種類の分子ピンセットのうち17種類までもがL3の構造を有していた。また各armのC−未端にL−リジン(K)残基を有するもの(K−L3構造)が9種類、D−リジン(k)を有するもの(k−L3構造)が3種類見出された。ライブラリー全体には151,875個の分子ピンセットが含まれているのに、実際のアッセイに用いたビーズ状樹脂の数は約19,000個であり、アッセイで調べた分子ピンセットの数は20%に満たない。従って今回見つかったペプチド配列以外にも[H]PE506と結合するものは数多く存在するものと予測される。
【0031】
H]PE406を用いた結合実験についてはライブラリー(24.2mg,約29000個のビーズ状樹脂を含む。)を用いて同様の結合実験を行った。その結果32種類の分子ピンセットが見出された(表5)。
【0032】
【表5】

【0033】
表5から明らかなように、32種類中20種類がL3構造を有しており、そのうち5種類のみにテトラペプチドのC未端にL−リジン残基が存在していた。この部分がコンセンサス配列であることに変わりないが、[H]PE406では配座の運動性が増加したため、様々な分子ピンセットが結合できるものと考えられる。
【0034】
リピドA類縁体認識分子ピンセットの再合成
上記のようにして見出された分子ピンセットが天然型リピドAやリポ多糖に結合するかどうかを確かめるために、上記の分子ピンセットから適当に選んで分子ピンセットの結合した樹脂6〜17を調製した。
H]PE506との結合実験で見出された分子ピンセット
(k-s-k-S)L3-TentaGel(6-TentaGel),(s-S-K-k)L3-TentaGel (7-TentaGel),(K-K-k-k)L3-TentaGel(8-TentaGel),(Q-E-K-k)L3-Tenta-gel(9-TentaGel),(K-S-K-E)L3-TentaGel(10-TentaGel),(E-q-f-K)L3-TentaGel(11-TentaGel)
H]PE406との結合実験で見出された分子ピンセット
(S-s-F-v)L3-TentaGel(12-TentaGel),(F-V-E-s)L3-TentaGel(13-TentaGel),(k-K-e-E)L3-TentaGel(14-TentaGel),(K-v-E-e)L3-TentaGel(15-TentaGel),(P-E-S-K)L3-TentaGel(16-TentaGel),(P-P-S-k)L3-TentaGel(17-TentaGel)
【0035】
再合成した分子ピンセットを用いた結合実験
次に再合成した分子ピンセットを用いて、大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体(以下、PE506と略記する。)、大腸菌型リピドA(以下、506と略記する。)、生合成前駆体型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体(以下、PE406と略記する。)、生合成前駆体型リピドA(以下、406と略記する。)、大腸菌Re変異株のリポ多糖(ReLPS)、及び大腸菌リポ多糖(E.coli O111:B4 LPS(Sigma社))との結合実験を行った。ReLPSはリピドA部にKdoと呼ばれる糖が2残基結合した構造を有しており、コア多糖部の殆どの部分とO−特異多糖部を欠いている。
参考までにReLPSの構造式を以下に示す。
【化9】

まず分子ピンセット樹脂6〜17-TentaGelのトリフルオロ酢酸塩を用いてPE506及び506との結合実験を行った。樹脂への結合はアッセイ後の溶液TLC分析を行って確認した。結果を表6に示す。
【0036】
【表6】

【0037】
次に樹脂6-TentaGel、11-TentaGel、12-TentaGel、16-TentaGel、17-TentaGelの吸着能をアッセイ後の溶液のリムルス活性を測定することによって確認した。リムルス活性試験とは、リポ多糖がカブトガニ(Limulus polyphemusなど)の血球抽出成分LAL(Limulus Amebocyte Lysate)凝固酵素を活性化する反応を利用し、内毒素活性を比色定量する方法である。
PE506、506、PE406、406、ReLPS、及び大腸菌リポ多糖(E.coli O111:B4 LPS(Sigma社))を用いて、それぞれ上記と同様に6-TentaGel、11-TentaGel、12-TentaGel、16-TentaGel、17-TentaGelとの結合実験を行い、上清についてリムルス活性を測定した。これらの内毒素が樹脂に吸着されると観測される吸光度は低下する。なお、ここではアッセイを行う前に各々の樹脂を水で洗浄したため、樹脂上の大部分のアミノ基は遊離となっているものと考えられる。そのため酸性複合糖質であるリポ多糖やリピドAに対する樹脂の吸着能は水で洗浄する前よりも向上している。実際、上記のトリフルオロ酢酸塩を用いた場合は12-TentaGelはPE506、506を吸着しないが、水で洗浄後の12-TentaGelはどちらもよく吸着している。樹脂11-TentaGelは406に対して吸着力が弱い。全ての樹脂が天然のReLPSに対しても強い吸着能を示したが、大腸菌リポ多糖(E.coli O111:B4 LPS(Sigma社))に対しては殆ど吸着能を示さなかった(図1参照)。
【0038】
TentaGelはポリエチレングリコール−ポリスチレングラフトポリマーであり、水には膨潤するものの疎水性の高い樹脂である。大腸菌リポ多糖(LPS)は長い糖鎖を有しており、親水性の糖鎖部が樹脂への浸透を妨害しているものと考えられた。そこでより親水性の高い、TSKgel AF−AminoTOYOPEARL 650S(東ソー(株))を担体として用いて、分子ピンセット6,11,12,16及び17を結合させた6-Toyopearl,11-Toyopearl,12-Toyopearl,16-Toyopearl,及び17-Toyopearlを合成し、506、ReLPS、及び大腸菌リポ多糖(E.coli O111:B4 LPS(Sigma社))との結合実験を行い、結合能をリムルス活性により評価した。その結果、期待したとおり、Toyopearlをベースにした樹脂はわずかな例外を除いてこれら全てを効率的に吸着した(図2参照)。
【0039】
以上のことから、表4に記載の19種類の分子ピンセット(ペプチドライブラリー)及び表5に記載の32種類の分子ピンセット(ペプチドライブラリー)は、何れも細菌内毒素吸着剤としてより効果的に使用し得るものと大いに期待される。
本発明の吸着剤は、既存の吸着剤と比べて、天然物(天然アミノ酸)を使用している点が大きな利点である。
なお、本発明の特定の吸着体を得る為に、上記の如く、15のアミノ酸から選んで15×3=151875ケとし、更に、実際には、19000と29000からなるライブラリーを得て、これから有効な吸着体51ケを得た。
このとき、15のアミノ酸の選択、151875からの19000と29000への絞り込みは、疎水性、親水性、酸・塩基性などの点を考慮して行った。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
実施例1 放射性標識リピドA類縁体の合成
下記の合成スキームに従って、2種類の放射性標識リピドA類縁体を合成した。
【化10】

なお、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにはKieselgel 60(E.Merck社 0.040−0.063mm)を用いた。また、Sephadex LH−20はPharmacia Biotech,Swedenから購入した。無水CHClとCHClは水素化カルシウムを脱水剤に用いて蒸留して調製した。無水テトラヒドロフラン(THF)と無水ベンゼンは関東化学(株)より購入した。NaB(specific activity 222 GBq mmol−1)はアマシャムライフサイエンスより購入した。オートラジオグラフィーにはイメージングプレートBAS−TR2040S(富士フィルム(株))を用い、検出にはバイオ・イメージングアナライザーBAS−1500 MAC(富士フィルム(株))を用いた。
【0042】
(1) 2-(ホスホノオキシ)[2-]エチル 2-デオキシ-6-O-[2-デオキシ-2-[(R)-3-(ドデカノイルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-4-O-ホスホノ-3-O-[(R)-3-(テトラデカノイルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-α-D-グルコピラノシド([H]PE506:4*)の合成
(1−1) ホルミルメチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ドデカノイルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(テトラデカノイルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(化合物20)の合成
化合物19(450mg,202mmol)のTHF/t−ブタノール/水 (10:10:1,12mL)溶液に激しく撹拌下、4−メチルモルフォリンN−オキシド(NMO)(94mg,0.80mmol)と四酸化オスミウム(OsO)の水溶液(2.5%,400mL,40mmol)を加えた。6時間後飽和Na水溶液(50mL)を加え、酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層をNa水溶液(50mL×2)と飽和食塩水(20mL)で洗浄した後、NaSOで乾燥し、減圧濃縮して粗生成物のジオールを得た(458mg)。ジオールを無水ベンゼン(10mL)に溶かし、四酢酸鉛(Pb(OAc))(純度90%,119mg,242mmol)を加え、30分間撹拌した。反応混合物をシリカゲルカラム(3g)にチャージし、酢酸エチルで溶出した。減圧濃縮後、残渣を中圧シリカゲルクロマトグラフィー(20g,トルエン/酢酸エチル=5:1)で精製し化合物20を無色シラップとして得た(377mg,収率:84%)。
FAB-MS (positive) m/z 2244 [(M+Na)]; H NMR (500MHz,CDCl) δ=9.37(s,1H,CHO)。
なお、化合物19の合成は、文献[Liu W-C, Oikawa M, Fukase K, Suda Y, Kusumoto S. Bull Chem Soc Jpn 1999; 72:1377-1385.; Fukase K, Oikawa M, Suda Y, Liu W-C, Fukase Y, Shintaku T, Sekljic H, Yoshizaki H, Kusumoto S. J Endotoxin Res 1999; 5: 46-51.]に記載の方法に準じて行った。
【0043】
(1−2) 2-ヒドロキシ-[2-H]エチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ドデカノイルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(テトラデカノイルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド (化合物21*)の合成
化合物20(150mg,62.4mmol)の2−プロパノール/メタノール/CHCl(5:1:1,3.5mL)溶液に0℃でNaB(590mL,26.4mmol/mL,240GBq mmol−1)を加え、30分間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を止めた後、酢酸エチルで抽出した。抽出液をNaSOで乾燥した後、減圧濃縮し、化合物21*の無色シラップを得た(144mg,定量的)。生成物は精製することなく次の反応に用いた。
【0044】
(1−3) 2-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イルオキシ)-[2-H] エチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ドデカノイルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(テトラデカノイルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(化合物22*)の合成
化合物21*(144mg,59.9mmol)のCHCl(14mL)溶液に0℃でN,N−ジエチル−1,5−ジヒドロ−3H−2,4,3−ベンゾジオキサフォスフェピン−3−アミン(89mg,0.37mmol)とテトラゾール (25mg,0.32mmol)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した後、−78℃に冷却した。mCPBA(70%,81mg,0.37mmol)を加えた後、45分間撹拌した。飽和Naを加えて反応を終了させた後、CHClで抽出した。有機層を飽和NaHCO水溶液と飽和食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させた。減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[3.0g,トルエン/酢酸エチル/ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)=100:50:1]で精製し化合物22*の無色シラップを得た(134mg,収率:87%)。得られた化合物はTLC上で標品の非標識体22と一致した。
[α]25 = +17.8 (c 1.00, CHCl); FAB-MS (positive) m/z 2428 [(M+Na)]。 Found: C, 69.96; H, 9.21; N, 1.14%. Calcd for C140H218NO26P: C, 69.85; H, 9.13; N, 1.16%。
【0045】
(1−4) 2-(ホスホノキシ)[2-H]エチル 2-デオキシ-6-O-[2-デオキシ-2-[(R)-3-(ドデカノイルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-4-O-ホスホノ-3-O-[(R)-3-(テトラデカノイルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-α-D-グルコピラノシド([H]PE506:4*)の合成
化合物22*(57mg,22mmol)のTHF(8mL)溶液にPd−black(130mg)を加え、加圧下(7kgcm−2)室温で2時間接触還元を行った。トリエチルアミンを加えて中和した後、Pd−blackを濾過で除いた。減圧濃縮して得た残渣を液液分配クロマトグラフィー(Sephadex LH−20:20g,CHCl/メタノール/水/2−プロパノール=9:9:9:1)(有機層を固定相として水層を移動相として使用)で精製し、[H]PE506(4*)を白色粉末として得た(25mg,841MBq,62GBq mmol−1,収率:63%)。得られた化合物はクロマトグラフィー上で標品の非標識体4と一致した。
FAB-MS (negative) m/z 1840 [(M-H)]; H NMR (600MHz,CDOD/CDCl=1:1)δ=5.23 (m,1H), 5.19 (t,J =8.2 Hz,1H), 5.17 (m,1H), 5.14 (t,J =8.2 Hz,1H), 4.82 (d,J =3.0 Hz,1H), 4.56 (d,J =7.4 Hz,1H), 4.23 (q,J =8.0Hz,1H), 4.18 (dd,J =8.9, 3.0Hz,1H), 4.08-3.93 (m,5H), 3.92-3.82 (m,4H), 3.80 (dd,J =10.3, 4.5Hz,1H), 3.74 (d,J =10.6Hz,1H), 3.63 (m,1H), 3.56 (t,J =8.1Hz,1H),3.37 (m,1H), 2.72 (dd,J =14.0, 6.6Hz,1H), 2.64 (dd,J =14.0, 4.5Hz,1H), 2.52-2.46 (m,2H), 2.44-2.36 (m,2H), 2.36-2.27 (m,6H), 1.66-1.39 (m,12H),1.38-1.20 (m,108H), 0.89 (t,J =5.6Hz,18H)。
【0046】
(2) 2-(ホスホノキシ)[2-H]エチル 2-デオキシ-6-O-[2-デオキシ-2-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-4-O-ホスホノ-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-α-D-グルコピラノシド([H]PE406:5*)の合成
(2−1) ホルミルメチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(化合物24)の合成
化合物23(230mg,0.15mmol)のTHF/t−ブタノール/水 (10:10:1,9mL)溶液に激しく撹拌下、4−メチルモルフォリンN−オキシド(NMO)(40mg,0.45mmol)と四酸化オスミウム(OsO)の水溶液(2.5%,230mL,20mmol)を加えた。6時間後飽和Na水溶液(50mL)を加え、酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層をNa水溶液(50mL×2)と飽和食塩水(20mL)で洗浄した後、NaSOで乾燥し、減圧濃縮して粗生成物のジオールを得た(458mg)。ジオールを無水ベンゼン(10mL)に溶かし、四酢酸鉛(Pb(OAc)) (純度90%,68mg,140mmol)を加え、30分間撹拌した。反応混合物をシリカゲルカラム(3g)にチャージし、酢酸エチルで溶出した。減圧濃縮後、残渣を中圧シリカゲルクロマトグラフィー(6g,トルエン/酢酸エチル=4:1)で精製し化合物24を無色シラップとして得た(190mg,収率:83%)。
FAB-MS (positive) m/z 2032 [(M+Na)];H NMR (500MHz,CDCl)δ=9.30 (s, 1H, CHO)。
【0047】
(2−2) 2-ヒドロキシ-[2-H]エチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(化合物25*)の合成
化合物24(100mg,49.8mmol)の2−プロパノール/メタノール(5:1,1.5mL)溶液に0℃でNaB(474mL,26.3mmol/mL,240GBq mmol−1)を加え、30分間撹拌した。2M HCl水溶液と飽和食塩水を加えて反応を止めた後、酢酸エチルで抽出した。抽出液をNaSOで乾燥した後、減圧濃縮し、化合物25*の無色シラップを得た(100mg,定量的)。生成物は精製することなく次の反応に用いた。
【0048】
(2−3) 2-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イルオキシ)-[2-H] エチル4-O-ベンジル-6-O-[6-O-ベンジル-2-デオキシ-4-O-(1,5-ジヒドロ-3-オキソ-3λ-3H-2,4,3-ベンゾジオキサホスフェピン-3-イル)-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイルアミノ]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ)テトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイル]-2-[(R)-3-(ベンジルオキシ) テトラデカノイルアミノ]-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(化合物26*)の合成
化合物25*(100mg,49.8mmol)のCHCl(14mL)溶液に0℃でN,N−ジエチル−1,5−ジヒドロ−3H−2,4,3−ベンゾジオキサフォスフェピン−3−アミン(70mg,0.29mmol)とテトラゾール (20mg,0.25mmol)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した後、−20℃に冷却した。mCPBA(70%,65mg,0.29mmol)を加えた後、45分間撹拌した。飽和Naを加えて反応を終了させた後、CHClで抽出した。有機層を飽和NaHCO水溶液と飽和食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させた。減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[2.3g,トルエン/酢酸エチル/ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)=100:50:1]で精製し化合物26*の無色シラップを得た(63.9mg,収率:59%)。得られた化合物はクロマトグラフィー上で標品の非標識体26と一致した。
[α]25 = +16.9 (c 1.00, CHCl); FAB-MS (positive) m/z 2428 [(M+Na)]。
Found: C, 69.98; H, 8.40; N, 1.33%. Calcd for C128H182NO24P: C, 70.05; H, 8.36; N, 1.28%。
【0049】
(2−4) 2-(ホスホノキシ)[2-H]エチル 2-デオキシ-6-O-[2-デオキシ-2[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-4-O-ホスホノ-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-β-D-グルコピラノシル]-3-O-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-[(R)-3-ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]-α-D-グルコピラノシド ([H]PE406:5*)の合成
化合物26*(17mg,7.8mmol)のTHF(6mL)溶液にPd−black(120mg)を加え、加圧下(7kgcm−2)室温で2時間接触還元を行った。トリエチルアミンを加えて中和した後、Pd−blackを濾過で除いた。減圧濃縮して得た残渣を液液分配クロマトグラフィー(Sephadex LH−20:20g,CHCl/メタノール/水/2−プロパノール=8:8:9:1)(有機層を固定相として水層を移動相として使用)で精製し、[H]PE406(5*)の白色粉末を得た(7.5mg,331MBq,64GBq mmol−1,収率:66%)。得られた化合物はクロマトグラフィー上で標品の非標識体5 と一致した。
FAB-MS (negative) m/z 1448 [(M-H)]; H NMR (500MHz, SDS-d25-DO) d = 5.18(dd,J =9.4, 7.5Hz,1H), 5.17 (dd,J =9.8, 9.6Hz,1H), 4.87 (d,J = 3.8 Hz,1H), 4.67 (d,J =7.0Hz,1H), 4.12 (dd,J =9.8, 3.8 Hz,1H), 4.11 (dd,J =15.5,1.6Hz,1H), 4.11 (q,J =7.5,1H), 4.02 (dd,J =9.4, 7.0Hz,1H), 3.99 (m,1H), 3.96 (m,1H), 3.91 (m,3H), 3.87 (ddd,J =9.6, 1.6, 2.9Hz,1H), 3.82 (dd,J =9.8, 8.6Hz,1H), 3.82 (dd,J =15.5, 2.9Hz,1H), 3.82 (m,1H), 3.81 (m,3H), 3.71 (m,1H), 3.59 (m,1H), 2.56-2.23 (m,8H), 1.54-1.11 (m,80H), 0.86 (m,12H)。
【0050】
実施例2 分子ピンセットライブラリー(ペプチドライブラリー)の調製
エンコード分子ピンセットライブラリーはスプリット(split-mix)合成法で調製した。固相担体としては15gのTentaGel S−NH(Rapp Polymere社,粒径90μm,0.29mmol/g of NH)を用いた。標準的なFmoc/Boc(Fluorenylmethoxycarbonyl/Butyloxycarbonyl)ペプチド固相合成法を用いてペプチド鎖を伸長させた。ペプチド縮合法としてはHOBt/DIC(Hydroxybenzotriazole / Diisopropylcarbodiimide)を用いた。ペプチド縮合反応の終点はブロモフェノールブルーテストで青色の発色がなくなることで確認した。カテコールTagはカルボキシル基を介してHOBt/DIC法でアミノ基の約1%にアミド結合形成反応により導入した。ケノデオキシコール酸(L1)をコア構造として用いる場合はまずデオキシコール酸を固相担体に導入した後、2つの水酸基に対しDMF中で6当量のFmoc−Gly−Fと6当量のトリエチエルアミン、0.06当量のジメチルアミノピリジンを作用させて、Fmoc−Glyを結合させた。リジン(L2)とトリリジン(L3)コアは通常のペプチド固相合成法により調製した。ライブラリー調製には15種類(GlyとD及びL−Val,Phe,Ser,Gln,Glu,Lys及びPro)のアミノ酸を用いた。4段階のスプリットカップリングサイクルを行って、3×15=151,875種類のペプチドを含むライブラリーを構築した。ライブラリー上の保護基は20%ピペリジン/DMFと95%TFA/2.5%水/2.5%チオアニソールを用いて除去した後4℃で保管した。
【0051】
実施例3 分子ピンセットライブラリー(ペプチドライブラリー)と放射性標識リピドA類縁体との結合実験
(1)[H]PE506との結合実験
H]PE506(62GBq/mmol,1.4mg,47MBq)を水(2ml)に溶かした。分子ピンセットライブラリー(15.7mg,約19000ビーズ)を水(200μl)に懸濁し、[H]PE506溶液(100μl,2.4MBq)を加えた。この[H]PE506(130μM)と樹脂の懸濁液を4℃で41時間ゆっくりと振盪した。遠心して樹脂を沈殿させ、上清を除く操作を3回繰り返した。 ガラスプレートをNaCIO溶液で処理した後、十分に水洗し、0.5ゼラチン溶液に浸してから取り出し、風乾してゼラチンがコートされたガラスプレートを調製した。これに上記の樹脂をのせ、風乾させた。これを温めて溶融させた Kodak autoradiography emulsionで覆い、十分に固まったことを確認後、遮光下−78℃で12日間放置した。ガラスプレートを展開液に10分間つけた後、水で洗浄した。固定液に15分間つけた後に水で洗浄した。放射能を帯びた樹脂の回りはゼラチンに銀が付着して黒くなる。これを指標に放射能を帯びた樹脂を取り出し、樹脂に結合したTagを樹脂から切り離し、電子補足ガスクロマトグラフィー(ECGC)でTagを検出、デコードすることにより19種類の[H]PE506を結合する分子ピンセットを見出した
(2)[H]PE406との結合実験
H]PE406(64GBq/mmol,0.6mg,26MBq)を水(1ml)に溶かした。分子ピンセットライブラリー(24.2mg,約29000ビーズ)を水(200μl)に懸濁し、[H]PE406の溶液(100μl,2.6MBq)を加えた。この[H]PE406(130μM)と樹脂の懸濁液を4℃で48時間ゆっくりと振盪した。遠心して樹脂を沈殿させ、上清を除いた。水1μlを加え振盪し、遠心して樹脂を沈殿させ、上清を除く操作を3回繰り返した。
ゼラチンがコートされたガラスプレートに樹脂をのせ、風乾させた。これを温めて溶融したKodak autoradiography emulsionで覆い十分に固まったことを確認後、遮光下−78℃で7日間放置した。放射線を帯びた樹脂を取り出し、ECGC解析した。32種類の[H]PE406を結合する分子ピンセットを見出した。
【0052】
実施例4 分子ピンセットの再合成
固相担体としてはTentaGel S−NH(Rapp Polymere社,粒径90μm,0.29mmol/g of NH)又はTSKgel AF−AminoTOYOPEARL 650S(東ソー(株),0.1mmol/ml)を用いた。標準的なFmoc/Boc(Fluorenylmethoxycarbonyl/Butyoxycarbonyl)ペプチド固相合成法を用いてペプチド鎖を伸長させた。ペプチド縮合法としてはHOBt/DIC(Hydroxybenzotriazole / Diisopropylcarbodiimide)を用いた。ペプチド縮合反応の終点はブロモフェノールブルーテストで青色の発色がなくなることで確認した。
代表的な例として分子ピンセット6−Toyopearl[(k-s-k-S)L3−Toyopearl]の合成例を示す。
(1) Nα,Nε−ジ−t−ブトキシカルボニル−L−リジン(Boc-L-Lys(Boc)-OH)の導入
TSKgel AF−AminoTOYOPEARL 650S(0.1mmol/ml)(1ml,0.1mmol)に10%ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)/DMF(4.0ml)を加え30秒間振盪した後、濾渦した。DMF(4.0ml)で樹脂を2回洗浄後、Boc-L-Lys(Boc)-OH(104mg,0.300mmol)のDMF溶液(3ml)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(47.0μl,0.300mmol)のDMF溶液(1ml)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(40.5mg,0.300mmol)のDMF溶液(1ml)を加え、室温で2時間振盪した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で4回洗浄した。Boc-L-Lys(Boc)-OHを用いたペプチド縮合反応をもう一度繰り返した。無水酢酸−DMF(1:1)溶液(2ml)とトリエチルアミン−DMF(1:1)溶液(2ml)を加え、室温で15分間振盪し、わずかに残る未反応のアミノ基を完全にブロックした。濾渦後、樹脂をDMF(4ml)で4回洗浄した。
(2) Boc基の除去
25%TFA/DMF(4.0ml)を加え、室温で30分間振盪した。濾渦後 、樹脂をDMF(4.0ml)で4回洗浄した。
(3) Nα−フルオレニルメトキシカルボニル−Nε−t−ブトキシカルボニル−L−リジン(Fmoc-L-Lys(Boc)-OH)の縮合
Fmoc-L-Lys(Boc)-OH(281mg,0.600mmol)のDMF溶液(3ml)、DIC(94.0μl,0.600mmol)のDMF溶液(1ml)、HOBt(81.1mg,0.600mmol)のDMF溶液を加え、室温で2時間振盪した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で4回洗浄した。Fmoc-L-Lys(Boc)-OHを用いたペプチド縮合反応をもう一度繰り返した。未反応のアミノ基は無水酢酸を用いて、同様にブロックした。
(4) Fmoc基の除去
20%ピペリジン/DMF(4ml)を加え室温で30分間振盪してFmoc基を除去した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で3回、メタノール(4.0ml)で2回洗浄した。Fmoc基を除去する操作を2回繰り返した。
(5) Boc基の除去
上記(2)と同様にしてBoc基を除去した。
(6) Nα−フルオレニルメトキシカルボニル−o−t−ブチル−L−セリン(Fmoc-L-Ser(tBu)-OH)の縮合
Fmoc-L-Ser(tBu)-OH(460mg,1.20mmol)のDMF溶液(6ml)、DIC(188μl,1.20mmol)のDMF溶液(2ml)、HOBt(162mg,1.20mmol)のDMF溶液(2ml)を加え、室温で2時間振盪した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で4回洗浄した。
(7) Fmoc基の除去
上記(4)と同様にしてFmoc基を除去した。
(8) Fmoc-D-Lys(Boc)-OHの縮合
Fmoc-D-Lys(Boc)-OH(562mg,1.20mmol)のDMF溶液(6ml)、DIC(188μl,1.20mmol)のDMF溶液(2ml)、HOBt(162mg,1.20mmol)のDMF溶液(2ml)を加え、室温で2時間振盪した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で洗浄した。
(9) Fmoc基の除去
上記(4)と同様にしてFmoc基を除去した。
(10) Fmoc-D-Lys(Boc)-OHの縮合
Fmoc-D-Lys(Boc)-OH(562mg,1.20mmol)のDMF溶液(6ml)、DIC(188μl,1.20mmol)のDMF溶液(2ml)、HOBt(162mg、1.20mmol)のDMF溶液(2ml)を加え、室温で2時間振盪した。濾渦後、樹脂をDMF(4.0ml)で洗浄した。
(11) Fmoc基の除去
上記(4)と同様にしてFmoc基を除去した。
(12) Boc基とtBu基の除去
上記(2)のBoc基の除去操作と同様にして側鎖保護基を除去した。
以上、(1)〜(12)の操作を順次行うことにより、分子ピンセット[(k-s-k-S)L3−Toyopearl]が得られた。
他の分子ピンセット樹脂も上記と同様にして合成した。
【0053】
実施例5 分子ピンセット6-TentaGel〜17-TentaGelと、PE506,506,PE406,406,ReLPS及び大腸菌リポ多糖(LPS)
との結合実験
PE506(0.06mg)を水(0.80ml)に溶かした。分子ピンセット6〜17TentaGel(約20mg)を水(100μl)に懸濁し、PE506溶液(25μl)を加えた。この懸濁液を室温で終夜ゆっくりと振盪した。遠心して樹脂を沈殿させ上清をTLC分析、リムルス活性測定に用いた。
506(0.56mg)、PE406(0.7mg)、406(0.7mg),ReLPS(0.85mg)、LPS(1mg)を用い同様に結合実験を行い、得られた上清をリムルス活性測定に用いた(506の場合は、TLC分析にも使用した。)。なお、TLC分析の結果は表6に示した通りである。
【0054】
実施例6 分子ピンセット6-Toyopearl,11-Toyopearl,12-Toyopearl,16-Toyopearl,及び17-Toyopearlと、506,ReLPS及び大腸菌リポ多糖(LPS)との結合実験
506(0.56mg)を水(0.80ml)に溶かした溶液をさらに3倍に希釈した。分子ピンセットの各Toyopearl(約20mg)を水(100μl)に懸濁し、506溶液(25μl)を加えた。この懸濁液を室温で終夜ゆっくりと振盪した。遠心して樹脂を沈殿させ上清をリムルス活性測定に用いた。
ReLPS(0.85mg)、大腸菌リポ多糖(LPS)(1mg)も同様に上記溶液を3倍に希釈した後に、同様に結合実験を行い、得られた上清をリムルス活性測定に用いた。
【0055】
実施例7 リムルス活性の測定
エンドスペーシーR(生化学工業(株)製)を用いてリムルス活性の測定を行った。
1.各試料(PE506,506,PE406,406,ReLPS及び大腸菌リポ多糖(LPS))を水に溶かし1mg/mlの溶液を調製した。
2.注射用蒸留水(大塚製薬株式会社製)を用いて96穴のマイクロプレート上で試料を適当な濃度に希釈した。
3.試料溶液20μlずつをマイクロプレートに分注し、氷水浴中で冷却しながらエンドスペーシーR ES−50MセットLAL試薬30μlを加え、37℃で20分間加温した。
4.下記のジアゾ化試薬A,B,Cを順次75mlづつ加えた後、波長540nmの吸光度を測定した。各試料濃度が10−6mg/mlのときの吸光度を標準に用いた。
(ジアゾ化試薬)
A:亜硝酸ナトリウム40mgを濃塩酸4mlと水96mlに溶かした溶液
B:スルファミン酸アンモニウム300mgを水100mlに溶かした溶液
C:N−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩70mgを水100mlに溶かし た溶液
結合実験で得られた各試料についても全く同様にして希釈し、それぞれについてリムルス活性試験を行い、吸光度を測定した。上記の各試料の標準の吸光度と比較して各樹脂の吸着能を見積もった。結果は、図1及び図2に示すとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、リピドA、リピドA類縁体、リポ多糖に対する本発明のペプチドライブラリー(固相担体としてポリエチレングリコール−ポリスチレン樹脂であるTentaGelを使用したもの)の結合能力を調べた結果を示す。 図1中、(a)は大腸菌型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体(PE506)との、(b)は大腸菌型リピドA(506)との、(c)は生合成前駆体型リピドAのホスホノオキシエチル誘導体(PE406)との、(d)は生合成前駆体型リピドA(406)との、(e)は大腸菌Re変異株のリポ多糖(ReLPS)との、(f)は大腸菌リポ多糖( LPS)との結合実験の結果をそれぞれ示す。
【図2】図2は、リピドA、リピドA類縁体、リポ多糖に対する本発明のペプチドライブラリー(固相担体として親水性ビニルポリマーのTOYOPEARLを使用したもの)の結合能力を調べた結果を示す。 図2中、(a)は大腸菌型リピドA(506)との、(b)は大腸菌Re変異株のリポ多糖(ReLPS)との、(c)は大腸菌リポ多糖( LPS)との結合実験の結果をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれにオリゴペプチドを結合させてなるペプチドライブラリー。
【請求項2】
下記一般式[1]
【化1】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)で示される請求項1に記載のペプチドライブラリー。
【請求項3】
一般式[1]において、AA、AA、AA及びAAが下記に記載の何れかの組み合わせからなるものである請求項2に記載のペプチドライブラリー。

【請求項4】
下記一般式[2]
【化2】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)で示される請求項1に記載のペプチドライブラリー。
【請求項5】
一般式[2]において、AA、AA、AA及びAAが下記に記載の何れかの組み合わせからなるものである請求項4に記載のペプチドライブラリー。

【請求項6】
官能基を有する固相担体に、該官能基と結合し得る官能基を有し、且つ他の官能基を2以上有する化合物を結合させ、更にこれに、該他の官能基と結合し得る官能基を有し、且つこれ以外の官能基を2以上有する化合物を結合させ、然る後、更にこれにオリゴペプチドを結合させてなるペプチドライブラリー。
【請求項7】
下記一般式[3]
【化3】

(式中、球状の部分は固相担体を表し、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を表す。)で示される請求項6に記載のペプチドライブラリー。
【請求項8】
一般式[3]において、AA、AA、AA及びAAが下記に記載の何れかの組み合わせからなるものである請求項7に記載のペプチドライブラリー。

【請求項9】
AAがリジン残基である請求項2、4又は7の何れかに記載のペプチドライブラリー。
【請求項10】
請求項3に記載のペプチドライブラリーを含んでなる細菌内毒素吸着剤。
【請求項11】
請求項5に記載のペプチドライブラリーを含んでなる細菌内毒素吸着剤。
【請求項12】
請求項8に記載のペプチドライブラリーを含んでなる細菌内毒素吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31448(P2007−31448A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281025(P2006−281025)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【分割の表示】特願2001−119547(P2001−119547)の分割
【原出願日】平成13年4月18日(2001.4.18)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】