説明

細菌検出方法

【課題】 試料採取工程、PCR後の増幅DNA断片の検出を迅速化する方法を提供する。
【解決手段】 食品、飲料などの試料に水を加えてホモジナイズ処理し(図中■)、抗O157リポポリサッカライド抗体でコートされた磁性粒子と混合して試料中の大腸菌O157株を集菌する(図中■)。前記操作を繰り返した試料は、PCR反応容器に入れ(図中■)、反応容器の外側から磁性粒子を引き寄せ、磁性粒子を回収し、これを滅菌水に懸濁して洗った後に再度PCR反応容器に入れ、その中にFITC−dUTPを含む遺伝子増幅用反応液(PCR反応液)を入れ、PCR反応を行う(図中■)。ベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株が試料に含まれていれば、FITC−dUTPがDNA鎖に取り込まれることにより、蛍光偏光度が増大するので、蛍光偏光度の値よりベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株の存在が検出できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ベロ毒素産生性大腸菌などの細菌を検出する方法に関する。本発明の方法は食品、飲料等の安全性、衛生管理の分野において利用される。
【0002】
【従来の技術】例えば、腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli、以下、EHEC)またはベロ毒素産生性大腸菌(Verocytotoxin-producing Escherichiacoli、以下、VTEC)は、出血性大腸炎に代表される食中毒症状のみでなく、小児の溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome )の原因菌ともなることが認められ、近年、臨床検査では、本菌の検出が重要視されつつある。
【0003】EHEC(又はVTEC)にかかる検査では、検査材料は患者の糞便、食品、または患者の周辺環境から採取された水(飲料水、河川水等)である。これらの検体からEHEC(又はVTEC)を検出し、同定しようとする場合、直接分離培養、一次確認培養試験、二次確認培養試験を経て抗血清による凝集反応試験に至る操作を行う必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、これらの培養段階に要する時間は、それぞれ18〜24時間であり、総所要時間にすると3〜4日となり、非常に長時間である。EHEC(VTEC)の血清型としては、現在、O157:H7が代表的であるが、この血清型同定に必要な診断用抗血清はまだ市販されておらず、自家調製しなければならない。さらにEHEC(VTEC)においては、血清型と起病性とは必ずしも一致するものではないので、血清型による同定だけでは起因菌としての判定に困難が生じる場合が多い。したがって、現在のEHEC(VTEC)検査法では、迅速性および簡便性に欠け、実効的でない。
【0005】近年これら課題を解決するため、EHEC(VTEC)の産生するベロ毒素の遺伝子と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを作製し、このオリゴヌクレオチドをプライマーとして遺伝子増幅法(PCR法)を行い、ベロ毒素産生菌のみを選択的に検出する方法が提案されている。しかし、PCR法を用いる方法は、PCR後の増幅DNA断片の確認をアガロース電気泳動により行っているため、迅速検出という点で課題があった。
【0006】そこで、本発明は、上記課題を解決し、より迅速に細菌を検出する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、(a)検出対象の細菌を、細菌に対する抗体をコートした粒子により集菌する工程と、(b)前記工程で得られた細菌を、蛍光標識されたヌクレオチド誘導体を含む遺伝子増幅用反応液に加え、蛍光色素をとりこませながら遺伝子増幅する工程と、 (c)遺伝子増幅された核酸断片の蛍光偏光を検出することにより細菌中の特定遺伝子の存在を検出する工程とからなる。
【0008】ここで、検出対象の細菌は、例えばEHEC又はVTECを挙げることができるが、これらに限定されず、食品、飲料等の検査で必要となる細菌全てを含む。細菌に対する抗体をコートした粒子とは、例えば検出対象がVTECの場合、O157株の菌表面リポポリサッカライドに対する抗体を用いることができる。この抗体の作成は、Chart,H.らにより報告されており(Chart,H.et al,Journal ofInfection, 24 巻,257-61,1992)、同様の抗体を磁性粒子にコートしたものが、Dynal(Norway,Oslo)社から入手可能である。
【0009】集菌した細菌は、懸濁、洗浄してから遺伝子増幅される。遺伝子増幅は、Saiki らが開発したPolymerase Chain Reaction 法(以下、PCR法と略する;Science 230, 1350(1985) )をもとに行っている。この方法は、ある特定のヌクレオチド配列領域(例えば、EHECまたはVTECのベロ毒素遺伝子)を検出する場合、その領域の両端の一方は+鎖を、他方は−鎖をそれぞれ認識してハイブリダイゼーションするようなオリゴヌクレオチドを用意し、それを熱変性により1本鎖状態にした試料核酸に対し、鋳型依存性ヌクレオチド重合反応のプライマーとして機能させ、生成した2本鎖核酸を再び1本鎖に分離し、再び同様な反応を起こさせる。この一連の操作を繰り返すことで、2つのプライマーに挟まれた領域は検出できるまでにコピー数が増大してくる。なお、熱変性の温度は90〜95℃、プライマーをハイブリダイズさせるアニーリング操作の温度は37〜65℃、重合反応は50〜75℃で、これを1サイクルとしたPCRを20から42サイクル行って増幅させる。
【0010】プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドは、選択性や検出感度および再現性から考えて、10塩基以上、望ましくは15塩基以上の長さを持ったヌクレオチド断片で、化学合成あるいは天然のどちらでもよい。また、プライマーは、特に検出用として標識されていなくてもよい。プライマーが規定しているEHEC(VTEC)のベロ毒素遺伝子のヌクレオチド配列における増幅領域は、50塩基から2, 000塩基、望ましくは、100塩基から1, 000塩基となればよい。プライマーの一例としては、EHECまたはVTECのVT1、VT2遺伝子を検出する場合は、特開平7−8280号公報に記載のプライマーを用いることができる。
【0011】遺伝子増幅用反応液には、前述したプライマー、耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTP溶液(N=A,G,C,T)、反応用緩衝液を含む。耐熱性DNAポリメラーゼの酵素の起源については90〜95℃の温度で活性を保持していれば、どの生物種由来でもよい。反応用緩衝液は、一般には、Tris-HCl, MgCl2 、KCl 、Tween 20などから組成される。また、本発明では、遺伝子増幅用反応液に蛍光標識されたヌクレオチド誘導体を加える。標識する蛍光色素としては、例えば、FITC,NBD,TRITC,Texas Red などを用いることができるが、これらに限定されない。例えば、Fluorescein-12-dUTP がBoehringer Mannheim (Mannheim,Germany)社から入手可能である。蛍光標識されたヌクレオチド誘導体を加えることにより、増幅核酸断片は、該ヌクレオチド誘導体を取り込みながら伸長することになる。
【0012】増幅された核酸断片に取り込まれたヌクレオチド誘導体は、蛍光分子の回転自由度が抑制され、蛍光偏光度が増大することにより検出される。蛍光偏光度の測定は、例えば、通常の蛍光分光光度計に2枚の偏光フィルタを取り付け、励起光の偏光面と平行及び垂直方向での蛍光強度によって、p=(I11−I2 )/(I11+I2 )なる式によって得られる(I11、I2 はそれぞれ平行、垂直方向の蛍光強度を示す)。
【0013】なお、励起光源は、用いる蛍光色素により異なり、例えば蛍光色素がFITCの場合には、アルゴンレーザーを用いることができるが、これには限定されない。また、光学系も公知の光学系を用いることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明の工程を図面に基づいて説明する。図1が本発明により大腸菌O157株を検出する工程を表す図で、先ず食品、飲料などの試料に水を加えてホモジナイズ処理し(図中■)、抗O157リポポリサッカライド抗体でコートされた磁性粒子と混合する(図中■)。大腸菌O157株が磁性粒子に結合され、この操作を繰り返すことにより、試料中の大腸菌O157株が集菌される。なお、溶液状態の試料の場合は、ホモジナイズ処理せずにそのまま抗O157リポポリサッカライド抗体でコートされた磁性粒子と混合する。 前記操作を繰り返した試料は、PCR反応容器に入れる(図中■)。この状態でPCR反応容器の外側から磁性粒子を引き寄せ、磁性粒子を回収する。なお、試料液容量が多い場合も、試料と磁性粒子の混合及び磁石による回収のプロセスを繰り返すことで、容易に試料中の目的大腸菌株を濃縮、集菌することができる。PCR反応容器より磁性粒子を回収した後、容器内の残液を棄て、容器を空にしておく。回収した磁性粒子を滅菌水に懸濁して洗った後に再度PCR反応容器に入れる。
【0015】PCR反応容器に遺伝子増幅用反応液(PCR反応液)を入れ、磁性粒子を懸濁させる(図中■)。PCR反応液は、反応用緩衝液(20mM Tris-HCl(pH 8.3),1.5mM MgCl2 、25mM KCl, 0.05% Tween 20,200μM dNTP(N=A,G,C,T) 20 unit Taq-DNA ポリメラーゼ)、50μM FITC−dUTP,ベロ毒素遺伝子用プライマー(例えば、特開平7−8280号公報)からなる。反応条件は、例えば、熱変性:94℃、1分、アニーリング:55℃、1分、重合反応:72℃、1分で、熱変性からアニーリングを経て、重合反応に至る過程を1サイクルとし、これを20から42サイクル行う。。これらの操作は、DNAサーマルサイクラー(Perkin Elmer Cetus社製)に上記反応条件をプログラムして行うことができる。
【0016】ベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株が存在していない場合は、PCR反応によってFITC−dUTPがDNA鎖に取り込まれないので、蛍光分子の回転自由度が大きい(図中■)。ベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株が試料に含まれていれば、FITC−dUTPがDNA鎖に取り込まれることにより、蛍光分子の回転自由度が抑制され、蛍光偏光度が増大する(図中■)。蛍光偏光度を例えば2枚の偏光フィルタを取り付けた蛍光分光光度計にて検出すれば、蛍光偏光度の値より試料中にベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株が存在するか否かが検出できる。
【0017】なお、以上の説明はベロ毒素遺伝子を含む大腸菌O157株の存在を検出したが、本発明はこれに限定されず、抗体及びプライマーを選択することにより、あらゆる細菌にも適用できる。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、検出対象の細菌を、細菌に対する抗体をコートした粒子により集菌するので、試料濃縮効果が上がり、検出感度が向上する。また、増幅核酸断片を蛍光偏光法で検出するので、従来のアガロースゲル電気泳動分析法より、分析時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明により大腸菌O157株を検出する工程を表す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】 検出対象の細菌を、細菌に対する抗体をコートした粒子により集菌する工程と、前記工程で得られた細菌を、蛍光標識されたヌクレオチド誘導体を含む遺伝子増幅用反応液に加え、蛍光色素をとりこませながら遺伝子増幅する工程と、遺伝子増幅された核酸断片の蛍光偏光を検出することにより細菌中の特定遺伝子の存在を検出する工程とからなる細菌検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開平10−211000
【公開日】平成10年(1998)8月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−16168
【出願日】平成9年(1997)1月30日
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)