説明

細菌検査装置

【課題】本発明は、細菌検査装置に関するもので、その測定に対する信頼性を向上することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子9と、この細菌検出素子9に接続された測定部19および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部21とを備え、前記細菌検出素子9は、基板14と、この基板14上に設けた導電膜15と、この導電膜15に、レーザーで切り溝16を設けて形成した対向電極17、18とを有し、前記制御部21は、電源部から対向電極17、18に電源を印加するモードとして、電極平滑化モードと、この電極平滑化モードの後に実行する測定モードを有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種、細菌検査装置は次のようになっていた。すなわち、検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子と、この細菌検出素子に接続された測定部および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部とを備えた構成となっていた。また、細菌検出素子は、基板と、この基板上に設けた導電膜と、この導電膜に、エッチングで形成した対向電極とを有する構成となっていた。さらに、制御部は、電源部から対向電極に交流電圧を印加することで、液体中の細菌を、誘電泳動によって対向電極間に移動させ、この時の対向電極間の静電容量を測定部で測定し、次にこれを細菌数に換算する構成となっていた(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−125846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例では、細菌検出素子を構成する対向電極は、基板上の導電膜をエッチングすることによって形成しているが、このように対向電極をエッチングにて形成する場合には、基板上にマスクを配置する工程と、その後このマスクを除去する工程が必要となり、作業性が悪くなる。そこで、本発明者らは、基板上の導電膜に、レーザーで切り溝を設けることで対向電極を形成すれば、マスクの配置や、その後の除去が不要となる分、作業性が良くなるのではないかと、考えた。しかしながら、このようにレーザーで切り溝を設けることで対向電極を形成した細菌検出素子により、細菌数を測定した場合、その測定値がばらつき、測定に対する信頼性が低くなると言う問題が発生した。
【0005】
そこで本発明は、測定に対する信頼性を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そしてこの目的を達成するために本発明は、検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子と、この細菌検出素子に接続された測定部および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部とを備え、前記細菌検出素子は、基板と、この基板上に設けた導電膜と、この導電膜に、レーザーで切り溝を設けて形成した対向電極とを有し、前記制御部は、電源部から対向電極に電源を印加するモードとして、電極平滑化モードと、この電極平滑化モードの後に実行する測定モードを有する構成とし、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明は、検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子と、この細菌検出素子に接続された測定部および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部とを備え、前記細菌検出素子は、基板と、この基板上に設けた導電膜と、この導電膜に、レーザーで切り溝を設けて形成した対向電極とを有し、前記制御部は、電源部から対向電極に電源を印加するモードとして、電極平滑化モードと、この電極平滑化モードの後に実行する測定モードを有する構成としたものであるので、測定に対する信頼性を高めることができる。すなわち、本発明によれば、測定モードの前に、電極平滑化モードを実行するので、レーザーで切り溝を設けた時に、この切溝の両側壁に形成される、いわゆるバリの形を非先鋭化し、またここに引っかかっている有機物の量を測定前に、減少させることができる。このため、この電極平滑化モードの後に、測定モードを実行すれば、細菌数の測定値にばらつきが少なくなり、その結果として測定に対する信頼性を高めることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態にかかる細菌検査装置の斜視図
【図2】その容器部分を示す断面図
【図3】その細菌検出素子を示す斜視図
【図4】その電気的接続状態を示すブロック図
【図5】その細菌検出素子の製造方法を示す断面図
【図6】その細菌検出素子の製造方法を示す断面図
【図7】その細菌検出素子の製造方法を示す断面図
【図8】その細菌検出素子の製造方法を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
(実施の形態)
図1は本発明の一実施形態を示し、1は本体ケースで、この本体ケース1の上面には、円形の開口部2が形成されており、この開口部2には、図2に示す円筒状の容器3が、その上方から図1のごとく装着されている。容器3は図2に示すように上面が開口した有底円筒形状となっており、その上面開口部には、円板状の蓋4が被せられている。また、容器3の内部底面上には棒状のスタラー5が設けられており、さらに容器3の底面下には、モータ6によって回転させられる磁石7が設けられている。つまり、モータ6によって磁石7を回転させれば、容器3内のスタラー5も回転し、これにより容器3内に入れた液体8もこの図2の矢印Aのごとく旋回流になるのである。
【0011】
そして、このように旋回する液体(例えば水)8の水面下の容器3の側壁面部分には、細菌検出素子9が配置されている。また、上記蓋4の中央部に形成した開口10からは綿棒11が容器3内に挿入されている。綿棒11は周知のごとく、その先端に綿球12が設けられており、この綿球12で、例えば口腔内の唾液を採取し、その状態でこの図2に示すごとく液体8内に綿球12を沈めれば、上記矢印9の水流と、回転するスタラー5とによってこの綿球12も回転し、その結果として綿球12により採取した唾液が液体8内に流出することになる。また、綿球12が回転している容器3の下方側壁面に、突起13を設けておけば、この突起13に綿球12が衝突を繰り返すことで、綿球12で採取した唾液を、より液体8中に流出させやすくなる。そして、このようにして液体8中に流出した唾液中の細菌数は、上述した細菌検出素子9によって測定されるようになっている。
細菌検出素子9は図3に示すように、絶縁性の基板14と、この基板14上に設けた例えばAg層よりなる導電膜(図5〜図8の15)と、この導電膜15に、レーザーで切り溝16を設けて形成した対向電極17、18とにより構成されている。また、この図3では図示していないが、基板14の表面側には、対向電極17、18からの接続端子(図4の17a、18a)が設けられており、この接続端子(図4の17a、18a)には、容器3を水密的に貫通したリード線(図示せず)を介して、図4のごとく、容器3外の測定部19や泳動電源部20が電気的に接続されている。対向電極17、18は図3からも理解されるように、それぞれが櫛歯状になっており、切り溝16内に存在する細菌(微生物)の数によって対向電極17、18間のインピーダンス(例えば静電容量)が変化するようになっている。
【0012】
図4はその電気的接続状態を示し、対向電極17、18間のインピーダンス(例えば静電容量)は、測定部19で測定されるようになっている。また、これらの対向電極17、18には、泳動電源部20が接続されており、細菌の測定時には、先ずは、800KHzの正弦波の交流電圧(P―Pが1V)と、3MHzの正弦波の交流電圧(P―Pが10V)とが重畳状態で、測定部19をバイパスして、この対向電極17、18間に供給される。すると、液体8内に存在する細菌が、誘電泳動によって対向電極17、18間に移動され、この結果として発生する対向電極17、18間のインピーダンス(例えば静電容量)の変化は、泳動電源部20をバイパスして測定部19で測定され、その値が制御部21で細菌数に変換され、表示手段22に表示されるようになっている。
【0013】
また、泳動電源部20と制御部21間には周波数・電圧切替手段23が接続されており、上述した細菌の測定時(測定モード時)には、対向電極17、18間には、800KHzの正弦波交流電圧(P―Pが1V)と3MHzの正弦波交流電圧(P―Pが10V)が重畳状態で、20秒間、印加されるようになっているが、本実施形態では、この測定(測定モード)を実行する前に、電極平滑化モードを実行することが特徴となっている。そして、この電極平滑化モード時には、対向電極17、18間に、測定モードよりも低い周波数(具体的には10Hzよりも高く、10KHzよりも低い周波数で、その中でもこの実施形態では1KHz)の正弦波の交流電圧を、泳動電源部20から測定部19をバイパスして、供給する構成とした。また、この電極平滑化モードにおいては、測定モードよりもP―Pが低い正弦波の交流電圧(具体的にはP―Pが1Vよりも高く、1.6Vよりも低い交流電圧で、その中でもこの実施形態ではP―Pが1.4Vの交流電圧)を、泳動電源部20から測定部19をバイパスして、供給する構成とした。
【0014】
さらに、この電極平滑化モードにおいては、測定モードよりも短い時間(具体的には10秒よりも短い時間)、正弦波の交流電圧を、測定部19をバイパスし、対向電極17、18に供給する構成とした。なお、以上の説明からも理解されるように、モータ6、測定部19、制御部21、表示手段22、周波数・電圧切替手段23はDC電圧で駆動され、また泳動電源部20はDC電圧をACに変換したAC電圧で駆動されるようになっている。また、上記各P―Pとは、正弦波の交流電圧の上ピークから下ピーク間(電位差)を意味するものである。
【0015】
以下、本実施形態の特徴点である、測定モード前に、電極平滑化モードを実行する点について説明する。図5は細菌検出素子9の製造方法を示すのもで、絶縁性の基板14上には、例えばAg層よりなる導電膜15が平面状に設けられている。本実施形態では、この導電膜15に、図6のごとくレーザーで切り溝16を設けることで、上記対向電極17、18を形成した。すなわち、対向電極17、18をエッチング形成した場合、基板上にマスクを配置する工程と、その後このマスクを除去する工程が必要となり、作業性が悪くなるのに対し、本実施形態のごとくレーザーで対向電極17、18を形成すれば、マスクを配置やその除去工程が不要となって、作業性が良くなる。
【0016】
しかしながら、本実施形態のごとく、レーザーで導電膜15に切り溝16を設けることで、対向電極17、18を形成した場合、この図6からも理解されるように、切り溝16の両側壁に、先鋭化した、いわゆるバリ24(例えば高さが200nm程度)が形成されてしまう。そして、このバリ24に、この対向電極17、18形成時や、その後の保管時に、図7のごとく大気中などの有機物25が引っかかることなる。
【0017】
この図7の状態となっている細菌検出素子9を用いて上述した細菌の測定を行うと、その測定時に、水流の影響を受けてバリ24から有機物25が離脱し、その離脱量に応じて測定値が大きくばらついてしまう。本発明者は、この有機物25の離脱が原因で、測定値が大きくばらつくことになると言うこと、を見出したものであり、その対策として、測定モード前に、バリ24への有機物25の引っかかりを抑制することとした。具体的には、本実施形態では、上述したように測定モード前に、電極平滑化モードを実行することとしたものであり、この電極平滑化モード時には、泳動電源部20から、測定部19をバイパスして対向電極17、18に、周波数が1KHzで、P―Pが1.4Vの交流電圧を、10秒よりも短い時間(本実施形態では5秒)供給する構成とした。
【0018】
この結果、図8のごとくバリ24の形が非先鋭化し、またここに引っかかっている有機物25の量を減少させることができることとなった。そして、この電極平滑化モード完了後、引き続き、測定モードの実行へと移行するため、対向電極17、18間のインピーダンス(例えば静電容量)は、誘電泳動によってこの対向電極17、18間に移動した細菌の数に比例した値となり、その結果として、測定に対する信頼性を高めることができるのである。
【0019】
本実施形態で用いる容器3は、前回測定の影響を受けないように、測定時には毎回取り替えるものである。そして、取り替えられた容器3毎に、上述した測定モード前の、電極平滑化モードの実行が、行われることになる。しかし、本実施形態では、この電極平滑化モードは、測定モードで用いる液体8を用いて行うので、液体8の交換作業等の作業の煩わしさが無く、作業性の良いものとなる。また、このように毎回の測定前に、必ず電極平滑化モードの実行が行われるので、測定に対する信頼性を極めて高くすることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上のように本発明は、検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子と、この細菌検出素子に接続された測定部および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部とを備え、前記細菌検出素子は、基板と、この基板上に設けた導電膜と、この導電膜に、レーザーで切り溝を設けて形成した対向電極とを有し、前記制御部は、電源部から対向電極に電源を印加するモードとして、電極平滑化モードと、この電極平滑化モードの後に実行する測定モードを有する構成としたものであるので、測定に対する信頼性を高めることができる。すなわち、本発明によれば、測定モードの前に、電極平滑化モードを設けるので、レーザーで切り溝を設けた時に、この切溝の両側壁に形成される、いわゆるバリの形を非先鋭化し、またここに引っかかっている有機物の量を測定前に、減少させることができる。このため、この電極平滑化モードの後に、測定モードを実行すれば、細菌数の測定値にばらつきが少なくなり、その結果として測定に対する信頼性を高めることができるのである。したがって、例えば口腔内の細菌数を測定する細菌検査装置としての活用が広く期待される。
【符号の説明】
【0021】
1 本体ケース
2 開口部
3 容器
4 蓋
5 スターラー
6 モータ
7 磁石
8 液体
9 細菌検出素子
10 開口
11 綿棒
12 綿球
13 突起
14 基板
15 導電膜
16 切り溝
17、18 対向電極
19 測定部
20 泳動電源部
21 制御部
22 表示手段
23 周波数・電圧切替手段
24 バリ
25 有機物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含んだ液体が収納される容器と、この容器内に配置された細菌検出素子と、この細菌検出素子に接続された測定部および電源部と、これらの測定部および電源部に接続した制御部とを備え、前記細菌検出素子は、基板と、この基板上に設けた導電膜と、この導電膜に、レーザーで切り溝を設けて形成した対向電極とを有し、前記制御部は、電源部から対向電極に電源を印加するモードとして、電極平滑化モードと、この電極平滑化モードの後に実行する測定モードを有する構成とした細菌検査装置。
【請求項2】
電極平滑化モードにおいては、測定モードよりも低い周波数の交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項1に記載の細菌検査装置。
【請求項3】
電極平滑化モードにおいては、10Hzよりも高く、10KHzよりも低い周波数の交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項2に記載の細菌検査装置。
【請求項4】
電極平滑化モードにおいては、1KHzの交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項3に記載の細菌検査装置。
【請求項5】
電極平滑化モードにおいては、測定モードよりもP―P(上ピークから下ピーク間を意味し、以下同じ)が低い交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項1から4のいずれか一つに記載の細菌検査装置。
【請求項6】
電極平滑化モードにおいては、P―Pが1Vよりも高く、1.6Vよりも低い交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項5に記載の細菌検査装置。
【請求項7】
電極平滑化モードにおいては、測定モードよりも短い時間、交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項1から6のいずれか一つに記載の細菌検査装置。
【請求項8】
電極平滑化モードにおいては、10秒よりも短い時間、交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項7に記載の細菌検査装置。
【請求項9】
電極平滑化モードにおいては、正弦波の交流電圧を、電源部から対向電極に印加する構成とした請求項1から8のいずれか一つに記載の細菌検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266219(P2010−266219A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115406(P2009−115406)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】