説明

細菌胞子を抑制するための、非抗菌性のテトラサイクリン製剤の使用

本発明は、必要とする哺乳動物において、細菌胞子に感染性の栄養細胞にならないようにするための方法に関する。他の態様において、本発明は、必要とする哺乳動物において、細菌胞子を増殖させないようにするための方法に関する。本方法は、有効量の非抗菌性のテトラサイクリン製剤を哺乳動物に投与することなどが挙げられる。一態様において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、低抗菌性の量で抗菌性のテトラサイクリンなどが挙げられる。他の態様において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、非抗菌性のテトラサイクリンなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2005年7月15日に出願した米国出願第11/182,500号、及び2005年12月23日に出願した米国出願第11/317,635号に対する優先権を主張し、これら明細書は参照により、本明細書に完全に取り込まれる。
【0002】
(発明の背景)
いくつかの種の病原性及び非病原性の細菌は、不利な環境条件、例えば栄養の減少に応答して、胞子を形成する能力を有する。このような胞子は、安定であり、かつ熱、化学薬品及び乾燥に対する高い抵抗性を有する。
細菌の胞子は、一般的に、胞子が栄養細胞に成長することを許容する環境に遭遇するまで代謝的に不活性な状態を維持する。結果として、細菌の栄養型が、成長し及び繁殖する。これは胞子を形成する病原性細菌の栄養型であり、一般的に哺乳動物に病気(例えば、炭疽病)を起こさせる。
典型的には、細菌の胞子に感染した、又は将来において感染するであろう人、又は活性な感染症を有する人に対して投与される従来の薬剤(例えば、抗生物質)は、細菌の栄養型を抑えることにより機能する。従って、従来の薬剤が細菌の成長を抑制し又は細菌を殺すことができる前に、活性な栄養型が人間の中に存在しなければならない。
【0003】
しかしながら、一旦栄養細胞が侵入すると、有毒分子の生成が始まる。栄養細胞により生成される毒は、主に、哺乳動物の死亡及び/又は病的状態に関する原因である。
化合物テトラサイクリンは、テトラサイクリン、テトラサイクリン化合物、テトラサイクリン誘導体等とも言われる抗生物質化合物の種類の一員である。化合物テトラサイクリンは、以下の一般構造で示される:
【化1】

【0004】
テトラサイクリン環核の番号系は、以下の通りである:
【化2】

【0005】
テトラサイクリン、加えてテラマイシン及びオーレオマイシン誘導体は、自然に存在し、よく知られた抗生物質である。天然のテトラサイクリンは、それらの抗菌特性を失うことなく変性して良いが、ある元素を保持しなければならない。基本のテトラサイクリン構造に対して行って良い又は行ってはいけない変性は、MitscherによりThe Chemistry of Tetracyclines, Chapter 6, Marcel Dekker, Publishers, New York (1978)で概説されている。Mischerによれば、テトラサイクリン環系の5-9位の置換基を、抗菌特性の完全な消失を伴うことなく変性できる。
しかしながら、基本の環系に対する変更、又は4位及び10から12位の置換基の置き換えは、一般的に、合成テトラサイクリンの抗菌活性を実質的に減少させ、又は事実上全く抗菌活性を失わせる。化学的に変性した非抗菌性のテトラサイクリン(以下COL)のいくつかの例は、4-デジメチルアミノテトラサイクリン、4-デジメチルアミノサンサイクリン(6-デメチル-6-デオキシ-4-デジメチルアミノテトラサイクリン)、4-デジメチルアミノミノサイクリン(7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシ-4-デジメチルアミノテトラサイクリン)及び4-デジメチルアミノドキシサイクリン(5-ヒドロキシ-6-デオキシ-4-デジメチルアミノテトラサイクリン)である。
【0006】
これらの抗菌特性に加えて、テトラサイクリンは、多くの他の用途を有するものとして述べられてきた。例えば、テトラサイクリンは、哺乳動物(人間を含む)の細胞及び組織により生成されるコラーゲン破壊酵素の活性を、非抗菌性のメカニズムにより抑制することも知られる。このような酵素は、コラゲナーゼ(MMP-1、MMP-8及びMMP-13)、ゼラチナーゼ(MMP-2及びMMP-9)及びその他(例えばMMP-12、MMP-14)を含む、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を含む。Golub et al., J. Periodont. Res. 20:12-23 (1985); Golub et al. Crit. Revs. Oral Biol. Med. 2:297-322(1991); U.S. Patent Nos. 4,666,897; 4,704,383; 4,935,411; 4,935,412を参照されたい。さらに、テトラサイクリンは、哺乳動物の骨格筋の消耗及びタンパク質分解を抑制し(米国特許第5,045,538)、誘導NOシンターゼを抑制し(米国特許第6,043,231及び5,523,297)及びホスホリパーゼA2を抑制し(米国特許第5,789,395及び5,919,775)、及び哺乳動物の細胞におけるIL-10生成を強化することが知られる。これら特性は、テトラサイクリンを、多くの病気の治療で有用とする。
【0007】
いくつかの出版物が、胞子を形成する能力を有する細菌の感染に関連する状態の治療のために、テトラサイクリンを使用することに関する。例えば、2004年1月14日に発行された米国公開特許出願第2004/0014731は、外毒素を生成する細菌に関する状態から哺乳動物を保護し及び/又は治療するために、哺乳動物に対するテトラサイクリン化合物の投与を開示する。米国公開特許出願第2004/0014731に開示されたこのような細菌の例は、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)(すなわち炭疽病を起こす細菌)である。
しかしながら、細菌の栄養型のみが、外毒素を生成する。従って、胞子発芽の抑制は、米国公開特許出願第20040014731には開示も示唆もされていない。
Altboum et al.(Infection and Immunity, 2002, 70:6231-6241)は、鼻腔内でバチルス・アンスラシス(B.anthracis)胞子に感染したモルモットにおける、テトラサイクリンの効果を検査した。Altboum et alで記載された実験におけるテトラサイクリンは、感染後のモルモットに対して、抗菌投与量で投与された。著者らは、テトラサイクリンを用いた14日間の治療が、治療の間感染した動物の死を防いだことを報告する。しかしながら、テトラサイクリンの治療終了時に、バチルス・アンスラシスのVollum株に感染した8匹の動物の内2匹、及びATCC6605株に感染した9匹の動物の内1匹のみが生き残った。
【0008】
Natalizi et al.(Anticiotica, 1996, 4:218-229)はオキシテトラサイクリンを試験し、生体外でバチルス・サブチリス(B.subtilis)胞子の発芽におけるその効果を試験した。著者らは、オキシテトラサイクリンは、胞子の開始段階(例えば発芽)における効果を全く有しないと結論づけた。
従って、細菌胞子が感染性の栄養細胞とならないようにすることが必要である。
【0009】
(発明の概要)
これら及び他の目的を本発明により達成できることを発見し、一の態様では、本発明は、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにするための、これを必要とする哺乳動物における方法を提供する。この方法は、哺乳動物に対して、有効量の非抗菌性のテトラサイクリン製剤を投与することを含む。
他の態様において、本発明は、細菌胞子の増殖を抑制するための、これを必要とする哺乳動物における方法を提供する。この方法は、哺乳動物に対して、有効量の非抗菌性のテトラサイクリン製剤を投与することを含む。
【0010】
(発明の詳細な説明)
(細菌胞子の抑制)
本発明は、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにするための、これを必要とする哺乳動物における方法に関する。この方法は、有効量のテトラサイクリン製剤を、哺乳動物に投与することを含む。
細菌胞子は、種々の段階、例えば発芽及び増殖段階を経て、感染性の栄養細胞になることができる。用語“発芽”は、胞子殻の分解を言う。本明細書で使用するものとして“増殖”は、胞子殻からの細菌の脱出を言う。細菌胞子の発芽段階の復習のため、とりわけSetlow, Curr. Opin. Microbiol., 2003, 6:550-556を参照されたい。
本発明は、細菌胞子が感染性の栄養細胞になるプロセスにおける、いかなる特定の段階の抑制にも限定されない。むしろ、本発明は、細菌胞子が、感染性の栄養細胞にならないようにすることに関する。従って、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子が感染性の栄養細胞になるいかなる特定の段階も抑制できる。
【0011】
用語“感染性の栄養細胞”は、毒素を生成しかつ哺乳動物に病気を起こさせる細菌細胞の形態である。このような細胞は、胞子を形成する能力、及びそれらの感染性の栄養段階において外毒素を生成する能力がある。このような細菌の例としては、バチルス(Bacillus)属及びクロストリジウム(Clostridium)属の細菌などが挙げられる。Bacillus属に属する細菌の例としては、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)などが挙げられる。クロストリジウム属に属する細菌の例としては、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・デフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・ノーヴィ(Clostridium novyi)、クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)及びクロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)などが挙げられる。
【0012】
本発明によると、感染性の栄養細胞への細菌胞子の分化の割合が、少なくとも約10%減少し、好ましくは少なくとも約25%減少し、さらに好ましくは少なくとも約50%まで減少し、さらにより好ましくは少なくとも約75%減少する場合、細菌胞子が、感染性の栄養細胞にならないようにすると考えられる。好ましくは、テトラサイクリン製剤は、細菌胞子が感染性の栄養細胞になることを完全に抑制する。
一態様において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子の発芽を抑制する。細菌胞子の発芽の割合が、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、及びさらにより好ましくは少なくとも約75%減少する場合、細菌胞子の発芽が抑制されると考えられる。好ましくは、テトラサイクリン製剤は、細菌胞子の発芽を完全に抑制する。
他の態様において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子の増殖を抑制する。細菌胞子の増殖の割合が、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、及びさらにより好ましくは少なくとも約75%減少する場合、細菌胞子の増殖は抑制されると考えられる。好ましくは、テトラサイクリン製剤は、細菌胞子の増殖を完全に抑制する。
【0013】
いかなる哺乳動物も、本発明の方法の利益を得ることができる。適切な哺乳動物としては、人間、家畜(farm animal)、家畜(domestic animal)、実験動物などが挙げられる。家畜(farm animal)のいくつかの例としては、ウシ、ブタ、馬、羊などが挙げられる。家畜(domestic animal)のいくつかの例としては、犬、猫などが挙げられる。実験動物のいくつかの例としては、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなどが挙げられる。
一態様において、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにし、細菌胞子の発芽の抑制又は発芽した胞子の増殖の抑制の必要のある哺乳動物としては、感染性の栄養細菌細胞に関連する病気又は状態となる危険性のある哺乳動物などが挙げられる。感染性の栄養細菌細胞に関連する状態となる危険性のある哺乳動物としては、細菌胞子に曝露されやすい、細菌胞子に曝露された疑いのある、又は細菌胞子に曝露された哺乳動物などが挙げられる。細菌胞子に対する曝露は、意図的ではない場合もあり、又は意図的、例えばバイオテロ行為であり得る。このような哺乳動物は典型的には人間であり、及び例えば、軍人、動物の皮を取り扱う人、とりわけ感染しやすいエリアに住む人、感染した人間又は動物を治療し得る又は治療した医療専門家、及び細菌胞子の有無の検査で陽性と出たエリアに接触した又はその近くにいる人がなどが挙げられる。一般的に、細菌胞子に曝露されやすい、又は細菌胞子に曝露された疑いのある哺乳動物は、細菌胞子に感染していることが分からない。
【0014】
他の態様において、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにし、細菌胞子の発芽の抑制又は発芽した胞子の増殖の抑制の必要のある哺乳動物は、感染性の栄養細胞になる能力のある細菌胞子に感染したと考えられる哺乳動物である。
非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、外部毒素、例えば炭疽菌の致死因子の毒性量が存在する前のいかなる時間で、必要とする哺乳動物に投与できる。好ましくは、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子に対する疑わしい曝露の後、又は細菌胞子に感染したことを知った後、可能な限りすぐに投与される。
例えば、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子に対する疑わしい曝露の後、又は細菌胞子に感染したことを知った後、約1ヶ月以内に、好ましくは約2週間以内に、より好ましくは約1週間以内に、さらに好ましくは約2日以内に、さらにより好ましくは約1日以内に、及び最も好ましくは約12時間以内に投与される。
【0015】
細菌胞子に曝露されやすい哺乳動物に対して、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子に対する起こるかもしれない曝露の前に投与され、ここでテトラサイクリン製剤は、起こるかもしれない曝露の時に、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないために十分な、テトラサイクリン化合物の血漿レベルを達成する。例えば、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、細菌胞子に対する起こるかもしれない曝露の前の、最大で約1ヶ月、好ましくは最大で約1週間、より好ましくは最大で約1日、さらに好ましくは最大で約12時間、さらにより好ましくは最大で約6時間、及び最も好ましくは1時間以内に投与できる。
【0016】
(非抗菌性のテトラサイクリン製剤)
本明細書において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、低抗菌性の投与量(sub-antibacterial dose)の抗菌性テトラサイクリン化合物、非抗菌性のテトラサイクリン化合物、又は医薬品として許容されるこれらの塩を含む。
いかなる抗菌性のテトラサイクリン化合物も、本発明の方法で使用して良い。抗菌性のテトラサイクリン化合物のいくつかの例としては、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロロテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ライムサイクリンなどが挙げられる。ドキシサイクリンは、そのハイクレート(hyclate)塩として、又は水和物として、好ましくは一水和物として好ましく投与される。
非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、抗菌性のテトラサイクリンと構造的に関係するが、化学的な変性により、実質的に又は完全に除去されたその抗菌活性を有する。例えば、非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、ドキシサイクリンの抗菌活性よりも、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは少なくとも約25倍低い抗菌活性を有する。すなわち、非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、同程度の濃度で、ドキシサイクリンの抗菌活性に匹敵する抗菌活性を達成する能力がない。
【0017】
いかなる非抗菌性のテトラサイクリン化合物も、本発明の方法で使用して良い。いくつかの例としては、Colla Genex Pharmaceuticals, Incに譲渡された、2003年10月28日に公開された米国特許第6,638,922号に一般的に又は具体的に開示された化合物などが挙げられる。米国特許第6,638,922号に開示されたテトラサイクリン化合物は、本明細書に参照により取り込まれる。
非抗菌性のテトラサイクリン化合物(COL)の具体的な例としては、4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(COL-1)、テトラサイクリノニトリル(COL-2)、6-デメチル-6-デオキシ-4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(COL-3)、9-アミノ-6-ジエチル6-デオキシ-4-デジメチルアミノテトラサイクリン(COL-308)、7-クロロ-4-デ(ジメチルアミノ)-テトラサイクリン(COL-4)、テトラサイクリンピラゾール(COL-5)、4-ヒドロキシ-4-デ(ジメチルアミノ)-テトラサイクリン(COL-6)、4-デ(ジメチルアミノ-12α-デオキシテトラサイクリン(COL-7)、6-デオキシ-5α-ヒドロキシ-4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(COL-8)、4-デ(ジメチルアミノ)-12α-デオキシアンヒドロテトラサイクリン(COL-9)及び4-デ(ジメチルアミノ)ミノサイクリン(COL-10)などが挙げられる。
【0018】
テトラサイクリン化合物は、天然から単離されるか、又は本技術で公知のいかなる方法で調製される。例えば、天然のテトラサイクリンは、それらの抗菌特性を失うことなく変性しても良いが、構造の特定元素は維持しなければならない。基本のテトラサイクリン構造に対して行っても良い変性及び行ってはいけない変性は、The Chemistry of Tetracyclines, Chapter 6, Marcel Dekker, Publishers, New York(1978)でMitscherにより再検討された。Mitscherによると、テトラサイクリン環系の5−9位の置換基を、抗菌特性を完全に失うことなく変性して良い。しかしながら、基本環系に対する変更又は第1-4位及び10-12位の置換基の置き換えは、一般的に、テトラサイクリンの抗菌活性を実質的に失わせ、又は効果的に失わせる。
用語“医薬品として許容される塩”は、テトラサイクリン化合物及び酸又は塩基から調製される、良好に許容される非毒性の塩を言う。酸は、抗菌性のテトラサイクリン化合物又は非抗菌性のテトラサイクリン化合物の無機酸又は有機酸塩であっても良い。無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、ヨウ化水素酸、硫酸及びリン酸などが挙げられる。有機酸の例としては、カルボン酸及びスルホン酸などが挙げられる。有機酸の基は、脂肪族又は芳香族であって良い。有機酸のいくつかの例としては、ギ酸、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フロ酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(embonic acid)(パモ酸(pamoic acid))メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、パントテン酸(panthenoic acid)、ベンゼンスルホン酸、ステアリン酸、スルファニル酸、アルギン酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グロン酸、アリールスルホン酸及びガラクツロン酸などが挙げられる。適切な有機塩基は、例えば、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、クロリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)及びプロカインから選択して良い。
本明細書全体にわたり、パラメーターは、最大量及び最小量により定義される。各最小量は、範囲を定義する各最大量と組み合わせることができる。
【0019】
投与量
本発明によると、抗菌性のテトラサイクリン化合物を含む非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、低抗菌性の量で投与される。抗菌性テトラサイクリン化合物の低抗菌性の量は、(i)その目的に対して効果的であるが、(ii)治療的な抗菌活性を全く、又は実質的に有しないテトラサイクリンの血漿濃度又は血清濃度をもたらすいかなる量でもある。一態様において、目的は、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにすることである。他の態様において、目的は、細菌胞子の発芽を抑制することである。さらなる態様において、目的は、細菌胞子の増殖を抑制することである。
実質的に抗菌活性を有しない、抗菌性のテトラサイクリン化合物の濃度は、細菌の増殖を有意に防止しているとは言えないいかなる濃度でもある。すなわち、微生物学者が、臨床治療の観点から、細菌の増殖をが抑制されるとは考えないであろう。
テトラサイクリン化合物の抗菌活性の量を定める一つの方法は、当業者に公知である、いわゆる最小抑制濃度(minimum inhibitory concentration)(MIC)の測定によるものである。
【0020】
MICは、生体外で細菌の特定株の増殖を抑制する最小のテトラサイクリン濃度である。MIC値は、標準操作を用いて決定する。標準操作は、例えば、接種材料及びテトラサイクリン粉末の標準濃度を用いる希釈法(ブロス又は寒天)又は同等なものに基づく。例えば、National Committee for Clinical Laboratory Standards. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing - Eleventh Informational Supplement. NCCLS Document MlOO-Sl 1, Vol. 21, No. 1, NCCLS, Wayne, PA, January, 2001を参照されたい。
生体内で細菌の株の増殖を抑制するために、テトラサイクリン化合物は、菌株に対するMICを超える血漿濃度又は血清濃度を達成する。血漿濃度又は血清濃度は、定常状態で採取された個人の血液中に測定されるテトラサイクリン化合物の濃度を言う。定常状態は、一般的に、投与後5〜7終末半減期の間に達成される。異なるテトラサイクリン化合物の半減期は、数時間から数日の間で変動する。
【0021】
本発明の方法において、抗菌性のテトラサイクリン化合物は、上記のように効果的であり、及び普通に存在する細菌に対するMICよりも顕著に低い血漿濃度又は血清濃度をもたらす量で投与される。このような量は、全く、又は実質的に抗菌活性を有しないと考えられる。テトラサイクリンの影響を受ける普通に存在する細菌の例は、大腸菌(Escherichia coli)(例えばATCC 25922及び35218);淋菌(Neisseria gonorrhoeae)(例えばATCC 49226);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(例えば ATCC 29213及び43300);及び肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)(例えばATCC 49619)である。
例えば、本発明において、抗菌性のテトラサイクリン化合物は、上記普通に存在する細菌に対する、約80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%又は0.5%のMICよりもより低い血漿濃度又は血清濃度をもたらす量で投与される。当業者は、このような濃度を達成するために投与する、特定の抗菌性のテトラサイクリン化合物の量を容易に決定できる。
例えば、ドキシサイクリンは、約0.1μg/ml、0.2μg/ml又は0.3μg/mlの最小の定常状態の血漿濃度又は血清濃度をもたらし、及び約0.7μg/ml、0.8μg/ml又は0.9μg/mlの最大の定常状態の血漿濃度又は血清濃度をもたらす量で投与される。
【0022】
抗菌性テトラサイクリン化合物の低抗菌性の量は、一日投与量で表現することもできる。抗菌性テトラサイクリン化合物の一日投与量は、上記効果的な低抗菌性の血漿濃度又は血清濃度を生成するのに十分であるいかなる量でもある。このような投与量は、例えば、最小の抗菌性の一日投与量のパーセンテージとして表現できる。
当業者は、抗菌性テトラサイクリン化合物に関する最小の抗菌性の一日投与量を知っており、又は規定通り決定できる。本発明の方法に対して適切である、抗菌性テトラサイクリン化合物の低抗菌性の投与量の例としては、最小の抗菌性の投与量の約80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%及び0.5% よりも低い量などが挙げられる。
抗菌性テトラサイクリン化合物の、非抗菌性の経口一日投与量のいくつかの例としては、ドキシサイクリンの約20mg/1日2回;ミノサイクリンの1日1回、2回、3回又は4回の約38mg;テトラサイクリンの1日1回、2回、3回又は4回の約60mgなどが挙げられる。
【0023】
投与された量が、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにする能力を有している限り、抗菌性のテトラサイクリン化合物の最小の有効量は必要ではない。例えば、量がMIC血漿濃度又は血清濃度のパーセンテージで表現される場合、適切な最小の血漿濃度又は血清濃度としては、MIC血漿濃度又は血清濃度の約0.1%、0.5%、0.8%及び1%などが挙げられる。量が、最小の実際の血漿濃度又は血清濃度として表される場合、適切な実際の血漿濃度又は血清濃度としては、約0.01 μg/ml、0.05 μg/ml、0.1 μg/ml、0.15 μg/ml、0.2 μg/ml、0.25 μg/ml、0.3 μg/ml、0.35 μg/ml、0.4 μg/ml、0.45 μg/ml、0.5 μg/ml、0.55 μg/ml、0.6 μg/ml、0.65 μg/ml、0.7 μg/ml、0.75 μg/ml、0.8 μg/ml、0.85 μg/ml、0.9 μg/ml、0.95 μg/ml及び1.0 μg/mlなどが挙げられる。投与量が最小の抗菌性の一日投与量のパーセンテージとして表される場合、そのパーセンテージは、最小の抗菌性の投与量の約0.1%、0.2%、0.5%、1%、1.5%及び2%である。
ある態様において、ドキシサイクリンのいかなる形態(例えばドキシサイクリン塩、例えばドキシサイクリンハイクレート;及びドキシサイクリン水和物、例えばドキシサイクリン一水和物)が、MICより低い人間の血漿中における濃度を維持する間、約10から60mgのドキシサイクリンの一日量、又はこれに相当する量で投与される。
【0024】
とりわけ好ましい態様において、ドキシサイクリン、ドキシサイクリン塩又はドキシサイクリン水和物は、1日2回の20ミリグラムのドキシサイクリンの投与量、又はこれに相当する量で投与される。このような製剤は、商標名Periostatで、CollaGenex Pharmaceuticals, Inc.(Newtown, Pennsylvania)により、歯周病の治療のために販売される。
非抗菌性テトラサイクリン化合物は、全く、又は実質的に抗菌活性を有しない。従って、細菌の増殖の無差別な抑制のリスク、及びそれによる抗生物質耐性菌の発生の脅威を減少させる。従って、非抗菌性のテトラサイクリン化合物、例えば上記のCOLを含む非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、少しでもあるとしたら副作用が許容される程度である、いかなる効果的な投与量で投与される。
例えば、上記COLの適切な最大の血漿濃度又は血清濃度としては、最大で約10 μg/ml、約 20 μg/ml、約 30 μg/ml、及びさらには最大で約100 μg/ml、約 200 μg/ml及び約 300 μg/mlなどが挙げられる。COLの適切な最大の一日投与量としては、約 18 mg/kg/日、約 40 mg/kg/日、約 60 mg/kg/日及び約80 mg/kg/日などが挙げられる。
【0025】
好ましいCOLは、6-デメチル-6-デオキシ-4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(COL-3)である。COL-3は、最大で約200mg/日、好ましくは約150mg/日、より好ましくは約100mg/日の投与量で、又は最大で約50μg/ml、約40μg/ml又は約30μg/mlの血漿濃度又は血清濃度をもたらす量で、適切に投与される。例えば、COL-3の約10から約20mg/日の投与量は、約1.0μg/mlの人間における血漿濃度又は血清濃度を生成する。
COLの最小の有効量は必要ではない。COLのいくつかの典型的な最小の血漿濃度又は血清濃度としては、例えば、約0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.8μg/ml及び1.0μg/mlなどが挙げられる。COLのいくつかの典型的な最小の1日投与量としては、約0.05 mg/日、約 0.1 mg/日、約 0.5 mg/日、約 1 mg/日、約 5 mg/日又は約 10 mg/日などが挙げられる。
本発明の方法で有用である、非抗菌性のテトラサイクリン製剤の利点は、これらが、テトラサイクリンの抗菌性の製剤の高い投与量での及び/又は長期間の投与により起こる副作用を避ける投与量で投与されることである。このような副作用の例としては、抗生物質耐性菌の発生並びに菌類及び酵母の異常増殖などが挙げられる。副作用を避けるために、抗生物質は、通常約8から12日間、普通は約2週間以下の間人間に投与される。
【0026】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、抗生物質化合物よりもより長い期間、より安全に投与できる。例えば、非抗菌性テトラサイクリン製剤は、少なくとも約3週間、好ましくは少なくとも約6週間、より好ましくは少なくとも約2月、及び最も好ましくは少なくとも約6月の間投与できる。好ましくは、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、少なくとも約1年間投与できる。
【0027】
光毒症
好ましくは、テトラサイクリン化合物は、低い光毒症を有し、又は光毒症が許容される程度での血漿レベルをもたらす量で投与される。テトラサイクリン化合物の好ましい量は、40mgのドキシサイクリンの合計1日投与量の投与により起こる光毒症よりも低い光毒症を引き起こす。
低い光毒症を有するテトラサイクリン化合物の例は、限定されないが、以下の一般式を有するテトラサイクリン化合物を含む:
【化3】

(式中:R7、R8及びR9は、いずれの場合もひとまとめにして考えて、以下の意味を有する
R7 R8 R9
水素 水素 アミノ(COL-308)
水素 水素 パルミトアミド(COL-311)
水素 水素 ジメチルアミノ(COL-306))
【0028】
及び
【化4】

(式中:R7、R8及びR9はいずれの場合もひとまとめにして考えて、以下の意味を有する
R7 R8 R9
水素 水素 アセトアミド(COL-801)
水素 水素 ジメチルアミノアセトアミド(COL-802)
水素 水素 パルミトアミド(COL-803)
水素 水素 ニトロ(COL-804)
水素 水素 アミノ(COL-805))
【0029】
及び
【化5】

(式中:R8及びR9はひとまとめにして考えて、それぞれ、水素及びニトロである(COL-1002))。
【0030】
投与
テトラサイクリン製剤は、本技術で公知のいかなる方法により投与しても良い。特定の場合における非抗菌性テトラサイクリン製剤の実際の好ましい量は、使用する特定のテトラサイクリン化合物、投与の様式、投与の特定箇所、及び治療される対象(例えば年齢、性別、サイズ、耐薬性等)により変動するであろう。
非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、全身に投与しても良い。本明細書の目的に対して、“全身投与”は、化合物を血流中に吸収させる方法による人間に対する投与を意味する。
好ましくは、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、本技術で公知のいかなる方法により、経口投与される。例えば、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、錠剤、カプセル、ピル、トローチ、エリキシル、懸濁物、シロップ、カシェ剤、チューインガム等の形態で投与できる。
更に、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、経腸的に又は非経口的に、例えば経静脈的に;筋肉注射で;注射可能な溶液又は懸濁物として皮下に;腹腔内に又は直腸内に投与できる。投与は、鼻腔内であることができ、例えば鼻内スプレーの形態であることができ;又は経皮的、例えばパッチの形態であることもできる。
【0031】
上記医薬目的に対して、本発明の方法で有用な非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、それ自体が、当業者が理解するように、任意で適切な医薬品のキャリアー(ビヒクル)又は賦形剤を有しても良い、医薬品製剤に調合できる。これら製剤は、従来の化学的な方法によって製造できる。
経口用途の錠剤の場合において、通常使用されるキャリアーとしては、ラクトース及びトウモロコシデンプンなどが挙げられ、及び滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムを通常添加する。カプセル形態の経口投与のため、有用なキャリアーとしては、ラクトース及びトウモロコシデンプンなどが挙げられる。キャリアー及び賦形剤のさらなる例としては、ミルク、糖、ある種のクレイ、ゼラチン、ステアリン酸又はその塩、ステアリン酸カルシウム、タルク、植物脂肪又は植物油、ゴム及びグリコールなどが挙げられる。
水性懸濁液を経口投与で使用する場合、乳化剤及び/又は懸濁剤を通常添加する。加えて、甘味剤及び/又は香味剤を、経口組成物に対して添加して良い。
【0032】
筋肉内、腹腔内、皮下及び経静脈的な用途のため、非抗菌性のテトラサイクリン製剤の滅菌溶液を適用でき、及びその溶液のpHを適切に調整し、緩衝できる。経静脈的な用途のため、溶質の合計濃度を制御して、製剤を等張にすることができる。
本発明の非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、更に、1以上の医薬品として許容される付加的な成分、例えば、ミョウバン、安定化剤、緩衝剤、着色剤、香味剤等を含むことができる。
非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、周期的に投与して良い。例えば、テトラサイクリン製剤は、1日1-6回、好ましくは1日1-4回、さらに好ましくは1日2回、さらにより好ましくは1日1回、又は1日おきに1回投与して良い。
一態様において、いかなる抗菌性のテトラサイクリン化合物又は非抗菌性のテトラサイクリン化合物、例えば上記のもの、例えばドキシサイクリン及びCOL-3の上記投与量のいずれかを含む、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、特定の期間、例えば24時間放出を制御することにより投与される。特定の期間のテトラサイクリン化合物のレベルは、上記のような血漿濃度又は血清濃度により典型的に測定される。適切な制御された放出製剤は、遅延、徐放及び即時(すなわち瞬時)放出を含む。
【0033】
例えば、ドキシサイクリンは、24時間にわたって約40ミリグラムの量で好ましく投与される。制御された40mgのドキシサイクリンの放出は、例えば、瞬時の放出のための30mgのドキシサイクリンと、遅延した放出のための10mgのドキシサイクリンに調合しても良い。
医薬品の制御した放出のための方法は本技術において公知であり、例えば、CollaGenex Pharmaceuticals, Inc. of Newtown, Pennsylvaniaに譲渡された国際特許出願PCT/US02/10748及び米国特許第5,567,439; 6,838,094; 6,863,902;及び6,905,708に記載される。
非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、局所的に投与することもできる。局所投与のための非抗菌性のテトラサイクリン製剤の適切な投与量は、当業者が容易に決定できる。例えば、ビヒクル中の最大で約25%(w/w)の量のCOLの局所投与は、人間におけるいかなる毒性を有することなく投与できる。約0.1%から約10%の量が好ましい。
【0034】
特定の非抗菌性のテトラサイクリン化合物、例えばCOL-5は、限定された生体内分布のみを有する。そのような場合には、局所投与は、化合物の投与の好ましい方法である。
局所用途に対して適切であると考えられるキャリアー組成物としては、ゲル、軟膏(salve)、ローション、クリーム、軟膏(ointment)等などが挙げられる。非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、例えば皮膚に対して直接適用できる支持基体(support base)、マトリックス、組織接着剤等に取り込むこともできる。
組合わせた又は調整したテトラサイクリン製剤の局所及び全身投与も、本発明で意図される。例えば、非吸収性の非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、局所的に投与でき、一方で人間に十分吸収され及び効果的に全身に分布できる抗菌性又は非抗菌性のテトラサイクリン化合物は、全身に投与できる。
【0035】
一態様において、非抗菌性のテトラサイクリン製剤は、活性成分を含む医薬品組成物のように投与され、ここで活性成分は、本質的に、その目的を達成するために効果的であるが、実質的に抗菌活性を有しない量で、抗菌性のテトラサイクリン化合物又は非抗菌性のテトラサイクリン化合物から成る。
【0036】
実施例
実施例1. バチルス・セレウスATCC10987の発芽
バチルス・セレウスATCC10987をCCY培地(Stewart et al., Biochem. J. 198:101-106, 1981)で増殖させ、次いでその胞子をClements及びMoirにより概説(J. Bacteriol, 180:6729-6735, 1998)されたように調整した。位相差顕微鏡法は、胞子の調合液が、明るい屈折体(bright refractive body)から成る事を示した。更に試験は、胞子の95%より多くが70℃で1時間の加熱に対して抵抗性を有していたことを示した。
細菌胞子は、発芽(germinant)(例えばイノシン)を結合する“発芽レセプター(germination receptor)”を有する。受容体に対する発芽の結合は、胞子の早期の発芽を開始する。早期の発芽は、活性な代謝を伴うことなく起こる。
胞子の発芽を、5μg/mlのCOL-3の存在下又は不存在下で検査した。胞子を、580nmでのODが1.00になるまで、10mM Tris-HCl(pH8.0)中に懸濁し、懸濁液を37℃で15分間インキュベートした。
【0037】
発芽は、5mMのイノシンで開始し、光学密度を継続的に監視した。Y軸は、580nmでの最初のODのパーセンテージとして示される。試料を、位相差顕微鏡法による試験のために15分ごとに採取した。胞子の相の明るさの消失は、580nmでのODの消失に対応した。ODの消失と胞子の相の明るさの消失の両方は、胞子がイノシンの添加に対応して発芽していることを示す。
実験を3回繰り返した。一貫した結果が、各試験で得られた。
COL-3は、この実験における発芽の初期を抑制しなかった。吸光度の減少割合は、COL-3の存在及び不存在下で有意に異ならなかった。
【0038】
実施例2. COL-3の存在及び不存在下における発芽のグラム染色観察
10mM Tris-HCl(pH8)に懸濁した、5mlの胞子(約5×107CFU/ml)を、二つの試験管に入れ、37℃に暖めた。一つの試験管に対して、COL-3を、5μg/mlの最終濃度になるまで添加した。他の試験管は、等量のジメチルスルホキシド(DMSO)ビヒクルを単独で加えた。0時間で、1.5mlの予熱したブレインハートインフュージョン培地(Brain Heart Infusion Broth)を、各試験管に対して添加し、次いで試験管を10秒間ボルテックスした。次いで、試験管を、37℃の加熱ブロックに戻した。
0時間で開始して、0.5mlを10分間隔で回収し、0.5mlの5%ホルムアルデヒドホスフェートで緩衝された食塩水に入れ、氷で冷却した。試験の終了時点で、全ての試料を10xgで5分間遠心分離し、上澄みを捨てた。
沈殿物をホスフェートで緩衝された0.1mlの食塩水に再懸濁した。これら試料を、顕微鏡のガラスプレート上で乾燥させ、次いでグラム染色した。0時間では、両方の試験管の内容物は、胞子の形態にあり、及びその結果としてその手順により不完全に染色された。20分時点では、両方の試験管の内容物は、胞子の発芽のためにより染色された状態を維持した。更に、コントロールがより大きなよりはっきりとした塊(body)を有することに注目されたい。
【0039】
40分時点で、COL-3にさらされた胞子が、さらなる成長を示さなかった一方で、コントロール試料は、栄養細胞の典型的なバチルス形態を示す。60分時点で、コントロールは、分化した栄養細胞を示すが、COL-3にさらされた胞子は発生しない。
この実験を、異なる濃度のCOL-3を用いて繰り返した。増殖を抑制するためのCOL-3の最小濃度は、1μg/mlであった。
実施例1に記載する実験において、COL-3は発芽の開始段階に全く効果を有しなかった。COL-3の存在下又は不存在下で5mMのイノシンの添加が、同程度の胞子の発芽をもたらした。位相差顕微鏡法は、胞子がそれらの相の明るさを消失し、相が暗くなったことを示した。実施例2において記載したグラム染色実験の結果は、初期の発芽がCOL-3の存在下又は不存在下の両方で起こるが、栄養細胞の増殖はCOL-3により抑制されることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物に対して有効量の非抗菌性のテトラサイクリン製剤を投与することを含む、これを必要とする哺乳動物において、細菌胞子が感染性の栄養細胞にならないようにするための方法。
【請求項2】
非抗菌性テトラサイクリン製剤が、抗菌性のテトラサイクリンを低抗菌性の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗菌性のテトラサイクリンがドキシサイクリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗菌性のテトラサイクリンがミノサイクリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤が、非抗菌性のテトラサイクリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-3である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-308である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-311である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-306である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-801である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-802である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-803である、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-804である、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-805である、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-1002である、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物が人間である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物が、感染性の栄養細胞の関係する病気又は状態となるリスクを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
細菌がバチルス(Bacillus)属である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
細菌がクロストリジウム(Clostridium)属である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
バチルス属の細菌が、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)又はバチルス・セレウス(Bacillus cereus)である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
クロストリジウム属の細菌が、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・デフィシル(Clostridium difficile)又はクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子に対する疑わしい曝露の後に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子の感染を知った後に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子に対する、起こるかもしれない曝露の前に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物に対して有効量の非抗菌性のテトラサイクリン製剤を投与することを含む、これを必要とする哺乳動物において、細菌胞子を増殖させないようにするための方法。
【請求項26】
非抗菌性テトラサイクリン製剤が、抗菌性のテトラサイクリンを低抗菌性の量で含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
抗菌性のテトラサイクリンがドキシサイクリンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
抗菌性のテトラサイクリンがミノサイクリンである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤が、非抗菌性のテトラサイクリンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-3である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-308である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-311である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-306である、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-801である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-802である、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-803である、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-804である、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-805である、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
非抗菌性のテトラサイクリンがCOL-1002である、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
哺乳動物が人間である、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
哺乳動物が、感染性の栄養細胞の関係する病気又は状態となるリスクを有する、請求項25に記載の方法。
【請求項42】
細菌がバチルス(Bacillus)属である、請求項25に記載の方法。
【請求項43】
細菌がクロストリジウム(Clostridium)属である、請求項25に記載の方法。
【請求項44】
バチルス属の細菌が、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)又はバチルス・セレウス(Bacillus cereus)である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
クロストリジウム属の細菌が、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・デフィシル(Clostridium difficile)又はクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子に対する疑わしい曝露の後に投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項47】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子の感染を知った後に投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項48】
非抗菌性のテトラサイクリン製剤を、細菌胞子に対する、起こるかもしれない曝露の前に投与する、請求項25に記載の方法。

【公表番号】特表2009−501718(P2009−501718A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521632(P2008−521632)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027313
【国際公開番号】WO2007/011699
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(500312838)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク (6)
【Fターム(参考)】