説明

細長い誘電体内側電極を備えたNMR用可変容量チューブラコンデンサ

【課題】可変容量チューブラコンデンサの絶縁耐力を増大させる。
【解決手段】円筒状誘電体チューブ3と、円筒状チューブ3を包囲する金属製の外側電極1と、円筒状チューブ3の内孔中で軸方向に移動可能であると共に内孔に接する内側電極とを備え、内側電極が金属ロッド2を含むものであって、金属ロッド2の端部が軸方向に延び、誘電体ロッド9を用いて金属ロッドを円筒状チューブ3の内孔に配した可変容量チューブラコンデンサ。チューブラコンデンサは、絶縁耐力を増大し、NMR分光計の解像度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
円筒状誘電体チューブと、この円筒状チューブを包囲する金属製の外側電極と、円筒状チューブの内孔で軸方向に移動可能であると共に内孔に接する内側電極とを備え、内側電極が金属ロッドを含むものである可変容量チューブラコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の可変容量チューブラコンデンサは、非特許文献1に記載のように例えばNMR分光システムに用いられる。
【0003】
核磁気共鳴(NMR)分光分析は最も有力な機器解析方法の1つであり、特に生物科学および材料研究に用いられる。無線(RF)周波数共振器はFR磁場パルスを試料に照射し、試料の応答を計測して評価するものである。
【0004】
そして、照射するRF磁場パルスの長さが最小であると、NMRスペクトルの品質が良くなる。達成可能な最小長さは、RF共振器とくにその容量同調要素の放電開始電圧を高くせずに設定可能な最大RF磁場振幅値に依存する。このため、容量同調要素の電圧抵抗(すなわち絶縁耐力)によりNMRスペクトルの品質が制約される。従来の容量同調要素は、上述のように可変容量チューブラコンデンサである。
【非特許文献1】会社案内 アブァンセ、 ザ・パルス・オブ・イノベーション、ブルーカー バイオシュピン アーゲー、スイス国フェーランデン、2004年4月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の基礎的な目的は、可変容量チューブラコンデンサの絶縁耐力を増大させることにあり、特にその様なチューブラコンデンサを用いてNMR分光計の解像度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は上述のタイプのチューブラコンデンサにより達成され、チューブラコンデンサは、円筒状チューブの内孔に配置された金属ロッドの端部が誘電体ロッドにより軸方向に延びることを特徴とする。
【0007】
本発明は、従来のチューブラコンデンサにおける円筒状誘電体ロッドと内側電極に接する金属ロッドとの間の狭いギャップ領域では高電圧スパークが生起せず、むしろ金属ロッドの端部領域で生じることを示す。驚くべきことに、空気が介在する電極同士の間隔が比較的大きい部位で高電圧スパークが発生し、これは金属ロッドが丸みをつけた端部部分を有する場合にもあてはまる。
【0008】
高電圧スパークのおそれが増大するチューブラコンデンサ領域において、絶縁耐力に乏しい空気を、空気その他のガスより絶縁耐力が相当高く(空気に比べて10倍以上)そして堅固且つ電気的な絶縁性を有する誘電体で置換することにより、本発明はチューブラコンデンサの絶縁耐力を増大させるものである。破壊し易い金属ロッドの端部に誘電体ロッドが装着され、誘電体が常に正確に位置づけられる。誘電体ロッドの材料は例えばプラスチック材料とくにテフロン(登録商標)、ガラスあるいはセラミック材料とくに酸化アルミニウムでよい。
【0009】
本発明のチューブラコンデンサの好適な実施形態では、誘電体ロッドは、金属ロッドに直接に接合する長手方向領域で特にその全長にわたり、金属ロッドと外径が同一である。誘電体ロッドの外径はその全長にわたって一定である必要はない。しかしながら、金属ロッドと誘電体ロッドとの環状移行線において両ロッドの外方側では両ロッドの外径を同一にすべきである。これにより絶縁耐力が高くなる。両ロッドおよび孔の断面を円形または楕円形にするのが好ましい。円形でない断面(特にコーナ断面)では、ロッド断面の外側輪郭が外径にかわる。この実施形態の更なる発展形態では、金属ロッドに直接続く長手方向領域において、好ましくはその全長にわたり、誘電体ロッドは金属ロッドと外径が同一である。この直接に接合する長手方向領域は、少なくとも、金属ロッドの直径の1.5倍と一般に用いられる金属ロッドの端部部分の軸方向延長部との和に対応することが好ましい。これにより金属ロッドの端部付近でのエアギャップの増大を回避し、チューブラコンデンサの絶縁耐力が確実に大きくなる。
【0010】
本発明のチューブラコンデンサの特に好適な実施形態では、円筒状チューブの内孔に配置される金属ロッドの端部は丸みをつけた端部部分を有し、この端部部分は金属ロッドの端部における鋭い変化を回避することが好ましい。誘電体チューブの孔に配される金属ロッド端部領域の形状が円筒状形状と異なる部位すなわち直径が減少する部位で、金属ロッドの端部部分が始まる。丸みをつけた端部部分および金属ロッドは一体に形成される。端部部分に丸みをつけることにより金属ロッドの端部まわりでの電界強度が減少し、高電圧スパーク傾向が低減する。
【0011】
上記実施形態の更なる発展形態では、誘電体ロッドの長さLは、少なくとも、端部部分の軸方向長さLと金属ロッドの直径Dの1.5倍との和に相当する。すなわち、L=L+1.5Dである。誘電体ロッドはこれにより特にスパークの影響を受け易い金属ロッドの端部領域をカバーして、絶縁耐力を向上する。
【0012】
更なる発展形態では、金属ロッドの端部部分は1つ以上の円筒状段部を有する。円筒状段部は端部部分における長さ区間(または平坦領域)であり、同区間では非消滅長さにわたり外径が一定である(但し、端部部分から離間した円筒状領域での金属ロッドの直径より小さい)。これにより誘電体延長部(すなわち誘電体ロッド)と金属ロッドとの接続の機械的安定性が向上する。
【0013】
更なる発展形態では、金属部分の端部部分は1以上の収縮部を有する。これにより誘電体延長部と金属ロッドとの機械的固定が更に安定かつ堅固になる。この収縮部により取付けとくに弾性的に係合および解除可能な取付けが容易になる。
【0014】
上記実施の形態の特に好適な更なる発展形態では、金属ロッドの端部部分が概ね細長い回転楕円面形状を有する。この形状により、特に金属ロッドの外径寸法を円滑且つ一定に低減させることにより電界ピークが最小になり、絶縁耐力が最適になる。
【0015】
更なる特に有利な発展形態では、誘電体ロッドが端部部分の全面に特に空気含有物なしにシールして接続される。換言すれば、端部部分および誘電体ロッドは両者の全面にわたって接触する。これにより接続表面での絶縁耐力が向上する。
【0016】
本発明のチューブラコンデンサの更に有利な実施の形態では、円筒状チューブの誘電体の比誘電率およびロッドの誘電体の比誘電率が1.3ないし5であり、特に各誘電体がテフロン(登録商標)である。この材料は高電圧スパークを防止するのに好適である。
【0017】
別の好適な実施の形態では、円筒状チューブの誘電体の比誘電率とロッドの比誘電率との差が1.0以下であり、好ましくは2つの比誘電率は同一である。これにより高電圧スパーク傾向が低減する。
【0018】
本発明は、無線周波数(RF)共鳴器と該RF共鳴器を動作させる回路とを備える核磁気共鳴(NMR)プローブヘッドであって、本発明のチューブラコンデンサを1つ以上備える核磁気共鳴(NMR)プローブヘッドにも関連する。この種のプローブヘッドにより、絶縁耐力が向上し、RF共振器を用いて非常に短く且つ強いRFパルスを試料に照射することができ、関連するNMR分光計のスペクトル測定品質が向上する。
【0019】
本発明の更なる利点は詳細な説明および図面から抽出することができる。上述のおよび下記の特徴は個々にあるいは任意に組み合わせて用いることができる。図示および記載される実施の形態は本発明を網羅するものではなく、例示的な性格をもつものと解すべきである。
【0020】
本発明は図面により詳細に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.序論
現今のNMR分光計の多くは、短いRFパルスすなわち精密に区分されたRFパルス群を専ら使用して測定サンプル内の磁気スピンを励起するものになっている。結果として生じる信号はFID(自由誘導減衰)と称され、その後、高速フーリエ変換を用いて同信号から所望のNMRスペクトルが算出される。
【0022】
測定サンプルは、これに近接配置されると共に所望の励起周波数fに同調されたNMRプローブヘッド内のRF共鳴器(RF=無線周波数)を用いて励起される。現今のNMR分光計のプロトン励起周波数は100MHzないし900MHzである。
【0023】
励起プロセス中(図1)、短いRF電流パルスiがRF共振器に供給される。これによりスピン系を励起する短い磁気RF磁場パルスが発生する。
【0024】
RF磁場パルスは、NMRスペクトル全体を励起するためにできる限り短くなければならず、できる限り均一でなければならない。また、スピン回転軸線が好ましくは約90度のフリップ角だけ回転されるようにRF磁場振幅が充分に大きくなければならない。一般に90度の角度は最適感度すなわち受信NMR信号に対し最適な信号対ノイズ比を保証する。
【0025】
RF磁場パルスの最小長さは、RF共振器やその容量同調要素の放電開始電圧を高くすることなく設定可能なRF磁場振幅値に依存する。
【0026】
RF共振器では必ずしも放電は発生しないが、容量同調要素でしばしば発生する。このため、NMR分光計製造業者は、容量同調要素の電圧抵抗を最適に高くするよう努めている。
【0027】
スピン系を励起するRFパルスは、好ましくはインピーダンスが50ΩのRFラインを介してRF送信器からRF共振器に供給される。
【0028】
図2aは、NMRでしばしば用いられるRF共振器の典型的な回路を示す。RF送信器21は、周波数fの、本例では600MHzの内部正弦波電源電圧Uを発生し、同電圧は50Ωの直列抵抗を介して外部へ供給される。これは送信器の出力抵抗と称されるが、エネルギの自由反射伝送を可能とするため出力抵抗はRFケーブルのインピーダンスと同一でなければならない。
【0029】
RF共振器は点Aに接続され(図2a参照)、L、C、CおよびRの発振回路からなる。RはNMRコイルの損失抵抗である。Cは50Ωに整合し、Cは回路を正確な共振周波数に同調する。同調中、容量同士が互いに影響を及ぼす。同調後、RFエネルギ全体が反射することなくRF共振器に到達するように(すなわち100%)、RF共振器は、点AからRF共振器に向かってみて50Ωの抵抗の如きの挙動を呈する。受信されたパワーはコイル損失抵抗RFで解放され、すなわちNMRコイルが加熱され、これにより原子核スピンを励起する強いRF磁場が発生する。
【0030】
調査対象の溶媒(測定サンプル)がコイル内に導入されると、追加のエネルギを吸収可能になる。共振回路は、溶媒導入後の同回路の動作周波数に特に同調可能である。これが電子回路を変化させ、同回路の負荷になるからである。
【0031】
簡易化のため、ここでは測定サンプルなしに動作し且つ反射なしの600MHzに同調されたRF回路を検討する。共振器全体が50Ωの抵抗の如きの挙動を呈するとき、すなわち回路の点Aで送信器の電源電圧の半分(U/2)が測定され又はそこでの電圧がマイナス6dB(図3a)および位相位置が0度(図3b)であるときに、RF回路が正確に同調される。従って、共振器は送信器の出力抵抗に対し50Ωの直列抵抗として現れる。図2bは、同調されたRF共振器23を備えた送信器22の等価回路図を示す。同調されていない場合、この等価回路図は有効ではない。
【0032】
点BでのNMRコイルの両端電圧(図2a)は、NMRコイルのQ値によっては極めて高い値をとる。下記の例では図2aの回路を以下の諸元で用いた。
【0033】
=0.172pF
=0.833pF
L=70nH
=1.5Ω
送信器出力電力が300Wの場合、上記により
P=U/RおよびR=50Ωが発生する。すなわち、点Aでの電圧はU=√(P*R)=122Vおよび送信器の電源電圧Uは2*U=245Vである。このため、点BでのNMR試料の両端電圧(図2a)が非常に大きくなる。すなわち、U=24dB*U.16*U=3.9KVeff又はU=5.5kV(ピーク値)である。
【0034】
算出電圧および算出位相に従い図3c及び図3dの曲線を得る。これは、RF共振器で極めて高いRF電圧を発生できることを示す。
【0035】
コイル回路で高電圧が発生するばかりではなく、原子核スピンを励起する強い磁場を最終的に発生させる非常に高い電流も考慮しなければならない。
【0036】
図面に示した例示的な回路は、50Ωまでの損失抵抗RLを変換する変換器として理解することができる。すなわち、送信器の負荷は50Ωであるが、エネルギが実際に入力する抵抗はこれよりも小さい。
【0037】
2.先行技術
一般に、可変チューブラコンデンサは、共鳴を同調させると共にRF共振器のパワーを整合させるために使用される。可変チューブラコンデンサはそのサイズが最小化され且つ磁化率が無視することができる値でなければならず、また極めて高いRF電圧に耐えなければならない。商業的にいえば、その様な可変チューブラコンデンサは、非常に高品質で且つ大量生産することのできないすき間商品であり、従って、可変コンデンサの製造業者には興味のないものである。従って、NMR分光計の製造者は、チューブラコンデンサを自ら設計製造しなければならない。
【0038】
チューブラコンデンサは同軸でかつ円筒状(図4)に設計され、誘電体の円筒状チューブ3と、外側電極1として外側から固定して当接される金属チューブと、内側電極とから構成され、内側電極は、誘電体の円筒状チューブ3の内孔41に密に接するが、軸方向に移動可能である。内側電極は金属ロッド2からなり、内孔41に配置された同ロッドの端5’は鋭く変化しないように丸められている。
【0039】
内側電極すなわち金属ロッド2は、例えば金属製の接触スリーブ4を介して接触している。好ましくは誘電体チューブ3にテフロン(登録商標)が使用され、その特徴は電圧抵抗およびRFのQが高いことにある。容量同調可能範囲は通常は0.2pFないし6pFである。
【0040】
チューブラコンデンサCまたはC(図2a)をコイルLの「ホット」RF端に直接に接続した場合、上記の如くに算出された高い電圧値がチューブラコンデンサの両端に直接発生し、従ってチューブラコンデンサをその様な高電圧に耐えるように設計する必要がある。
【0041】
チューブラコンデンサCMをコイルLの「ホット」端に直接に接続しなくともよいが、共振周波数fの同調範囲を低減すると共に微細な同調を可能にするには固定の直列コンデンサを介して接続する。この場合、チューブラコンデンサの両端電圧は容量式電圧デバイダにより低減される一方、高電圧抵抗の問題が追加の直列コンデンサに伝達されるが、容量値が固定であるので重要性は低くなる。これは常にあてはまるわけではないが、プロトン分光法では望ましい。
【0042】
コンデンサの電圧抵抗は第1に電極間隔に依存し、第2には電極形状そして部分的には誘電体に依存し、第3には誘電体の絶縁耐力に依存する。ここで、誘電体は空気、ガス、固体または液体である。
【0043】
本発明の範囲において、エアギャップが最小であって破壊が最も生じやすいと思われる金属ロッド2の円筒状領域(例えば図5の部位6)では、通常、チューブコンデンサの破壊が生じることがないことが判明した。これに対し、エアギャップが最大であるロッド端5’付近の領域7で破壊が生じる。電場強度が追加的に増大しないよう端部を丸めて鋭い変化をなくした場合にも、これがあてはまる。この予期しない挙動を以下に説明する。
【0044】
このため、RF誘電体強度を改良したチューブラコンデンサが直ちに必要になる。
【0045】
3.本発明のチューブラコンデンサ
領域7(図5)での破壊は、空気の局所的なイオン化により発生し、これにより導電性のプラズマが発生する。このプラズマは高いピーク電流を伝達可能であり、ロッド端5’の領域において、内側電極の表面および誘電体チューブ3の内孔41の表面に損傷を与える。
【0046】
実験的調査によれば、金属ロッド2を丸い形状に変更することは、丸み形状に鋭い変化がなくなるよう丸み形状の半径が充分に大きいものでなければ、誘電体強度に大きく影響しないことが判明した。外側電極1の形状ならびに誘電体および電極材料の選択は、誘電体強度に対して副次的に影響するに過ぎない。
【0047】
電圧実験によれば、通常はロッド端5’に近い領域7において空気中で破壊が生じ、固体の誘電体内で生じないことが判明した。これは、2つの平坦電極間のエアギャップに依存する空気に対する絶縁破壊電界強度の曲線によって説明される(図10)。同曲線は、絶縁破壊電界強度EDがエアギャップの減少につれて増大すること、すなわち重要性が低くなることを示す。
【0048】
チューブラコンデンサの2つの電極は電界強度Eが高く且つ線Eに沿う自由経路長Sが長いが、両電極間の空気領域が重要でありスパークの影響を受けやすい。これは、内側電極が丸みを帯びた端5’を有する場合にあてはまり、従って当該部位(図5の領域7)で生じる電圧スパークを説明している。
【0049】
しかしながら、内側電極の円筒状領域(例えば図5の領域6)においてエアギャップは非常に小さく(例えば0.1mm未満)、そしてエアギャップでの線Eが金属ロッド2および誘電体チューブ3の表面に対して垂直に延びているので、線Eに沿う自由経路長もまた非常に小さい。従って、この領域での電圧抵抗は大きく、これは当該領域で電圧スパークが何故発生しないのかその理由を説明している。
【0050】
空気よりも絶縁耐力が相当に大きい誘電体が種々存在しており、そこで本発明の基本的な目的は、電界が大きい領域の全てのエアギャップを絶縁耐力の大きい誘電体で置換することにより最も小さく低減することである。これによる不利益の一つは、容量可変にするために内側電極を移動可能にする点である。
【0051】
本発明によれば、この基礎的なアイデアは、誘電体ロッド9、9a、9b、9cを用いて、内側電極の金属ロッド2、2a、2bを、内孔41に配置された端部5’とくに当該部位に設けられるいわゆる端部部分5、5a、5b、5cにおいて軸方向に延在させた点にある(図6a、図6b、図7、図8、図9参照)。誘電体ロッド9、9a、9b、9cは、好ましくは空気含有物なしに端部部分5、5a、5b、5cの表面全体に対してシールされる。好ましくは、誘電体ロッド9,9a、9b、9cは、金属ロッド2、2a、2b、2cに接続される領域62(図6b参照)においてその全長にわたって金属ロッドと同一の外径を有する。
【0052】
更に、端部部分5、5a、5b、5cは鋭い変化とくに内側電極の円筒状部分への変化開始部分を有する必要はなく、また全ての丸み部分の半径寸法は最大でなければならない。金属ロッド2の端部部分5、5a、5b、5cは、誘電体チューブ3の孔に配された金属ロッド2の端部5’の領域で始り、円筒状形状を異にし(すなわち直径が減じられ)、そして、金属ロッドの実際の端部5’に延びる。
【0053】
図6bは、円形円筒形状の金属ロッド2を備えた本発明のチューブラコンデンサの断面図を示す。金属ロッド2は半球状の端部部分5を有する。誘電体ロッド9も円形円筒形状を有するが、この誘電体ロッドはその端面に半球状の凹部を有し、この凹部には端部部分5がその全面で接して装着される(例えば糊付け)。誘電体ロッド9の右縁(図6)は、(金属ロッド2と誘電体ロッド9を備える)内側電極のまわりに環状の線を形成する接続領域62における端部部分5の右端(すなわち突部)と合致している。金属ロッド2は、チューブラコンデンサの容量を調節するため誘電体ロッド9と共に左右に移動可能である(図6)。
【0054】
図6bは、内側電極と外側電極1との間に電圧Uが印加されるときに形成される電気力線8を示す。チューブ3の(誘電率εを有する)誘電体内の電気力線区間Eと誘電体ロッド9の(誘電率εを有する)誘電体内の電気力線区間Eは、空気の絶縁強度が小さいことに起因して重要になる。エアギャップ63内の電気力線の自由経路長Sが大きいので、絶縁耐力は小さくなる。
【0055】
しかしながら、本発明の誘電体ロッド9はエアギャップでの自由経路長Sを最小にする。なお、図6bで更に左方の電気力線はエアギャップにおいて長い自由経路長Sを有するが、電界強度は左方に向かって減少する。これを大きい電気力線間隔で示す。電界強度が小さいほど、破壊のおそれが低減する。
【0056】
誘電体ロッド9、9a、9b、9cの長さは任意であるが、以下は少なくともL=L*1.5*Dの場合に成立する。LDは誘電体ロッドの全軸方向長さ、Lは端部部分の軸方向長さ、Dは金属ロッドの直径(たとえば図7を参照)である。換言すれば、誘電体ロッド9、9a、9b、9cの突出長さLUEは金属ロッドの直径Dの1.5倍以上である。この最小条件により、誘電体ロッドの端部での電界ピークの発生を防止する。
【0057】
誘電体延長部9aと内側電極の金属ロッド2aとの接続の機械的安定性を向上させるため、好適な実施の形態では、端部部分5aの形状を当該部分が1つ以上の円筒状区間(図7の5a)を含むように選択可能である。図7の例では、2つの円筒状区間71、72が設けられている。端部部分5aに沿って外側直径を円滑に低減すると、略半球状の端部部分(図6bの参照符号5)に比べ電界ピークの発生が低減するという点でも有利である。
【0058】
特に好適な実施の形態では、端部部分5bの形状は1つ以上の収縮部81を有し、好ましくは1以上の円筒状段部82を有する(図8)。収縮部81は誘電体延長部9bと金属ロッド2bとの機械的な固定をより安定且つ堅固にする点で有利である。
【0059】
更なる実施の形態では、端部部分5cは概ね細長い回転楕円面を有する(図9)。これらの形状により電界ピークが最小になるが、誘電体延長部と端部部分との機械的固定の信頼度および堅固さが乏しいという不利益がある。
【0060】
電界シミュレーションプログラムにより、変位可能なロッドと誘電体との間のエアギャップにおける電界の挙動が明確に示される。
【0061】
以下、2つの用語を簡単に説明する。
【0062】
軸方向電界およびその電界成分は、図6bに従ってチューブラコンデンサの対称軸線61に平行に延びる。半径方向電界および電界成分は、空間の任意の点でチューブラコンデンサの対称軸線61に対して垂直である。
【0063】
以下の例では、エアギャップにおける電界が、電界延長部を有する楕円端部部分(図9における回転楕円面5c)を具備した金属ロッド2について算出されるものとする。ロッド2cの誘電体延長部9cは、εr=2.2と比誘電率がチューブ3の誘電体、本例ではテフロン(登録商標)と同一である。この計算では、励起はコンデンサに印加される1Vの電圧であるとする。電気力線の像が電圧に従属しないので、実際の場合につき、全ての電界値を1Vに基づき再度スケーリング可能である。
【0064】
図11は、種々の回転楕円面の半軸比について(図の右側において左から右に1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:6)、半径方向電界成分を位置の関数で示したものである。横軸の原点はロッドの円筒状部分の何処かにあり(図9の2c)、金属ロッド2と誘電体チューブ3との間のエアギャップにおける半径方向電界成分はロッドの金属部分の端を超えて観察される。金属ロッドの円筒状部分での電界が一定値3000V/mであることが分かる(0<x=xmm、図11中、図の左側)。楕円状の移行部を介して金属部分が誘電体延長部に入りはじめる部位xでは、エアギャップでの余分の電界を防ぐことはできない。ロッド端部の幾何学的構成によって、この余分の電界を最小にすることができる。
【0065】
図11は、軸線比が1:6の長い回転楕円面が残余電界を殆ど有せず、また電界がエアギャッに沿って連続的にかつ円滑に減少することを示す(図の右側x>xmm)。この誘電的に延在するロッドは、どの部位においてもスパークを形成することなく高電圧に耐える。チューブラコンデンサの最大電圧強度は、図10に従いおおよそエアギャップの電圧強度により専ら決定される。
【0066】
図12は、回転楕円面の種々の半軸比(最大値に対して左から右に1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:6)につき、幾何学的構成が同一の場合の軸方向電界成分を示す。軸方向電界成分は重要性が少なく、またエアギャップ内の任意の点での半径方向成分より常に相当小さい。しかしながら、軸方向成分は、粒子なだれに対する最大自由経路長の方向に、すなわち、破壊が最も生起し易く図10に従って薄いエアギャップの利点がもはや有用でない方向に常に対向しているので、軸方向成分を無視すべきではない。
【0067】
本発明による試料構造に係る実際の負荷測定は理論と合致している。すなわち、スパークを形成することなく、そしてチューブラコンデンサを破壊することなく、相当の高電圧を誘電的に延在するチューブラコンデンサに印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】RFパルス中のRF共振器における電流(I)の時間依存性(t)の図を示す。
【図2】(a)はNMR分光計用のプローブヘッドの典型的なRF共振器の回路図を示す。(b)は同調状態における図2aの回路の等価回路図を示す。
【図3a】送信周波数fの関数である図2aの回路の点Aにおける電圧Uの相対振幅の図を示す。
【図3b】送信周波数fの関数である図2aの回路の点Aにおける電圧の相対位相の図を示す。
【図3c】送信周波数fの関数である図2aの回路の点Bにおける電圧Uの相対振幅の図を示す。
【図3d】送信周波数fの関数である図2aの回路の点Bにおける電圧Uの相対位相の図を示す。
【図4】先行技術による可変容量チューブラコンデンサの概略図を示す。
【図5】図4の位置に比べて変位した金属ロッドの端部の領域における図4の拡大断面を示す。
【図6a】本発明による可変容量チューブラコンデンサの概略図を示す。
【図6b】金属ロッドを図6aの位置に比べて若干変位させた金属ロッドの端部の領域における図6の拡大断面図を示す。
【図7】金属ロッドの丸みをつけた端部部分に2つの円筒状段部を具備した本発明の可変容量チューブラコンデンサの概略断面図を示す。
【図8】金属ロッドの丸みをつけた端部部分に収縮部を備えた本発明の可変容量チューブラコンデンサの概略断面図を示す。
【図9】細長い回転楕円面形状の丸みをつけた端部部分を有する本発明の可変容量チューブラコンデンサの概略断面図を示す。
【図10】2つの平面電極間のエアギャップにおける破壊電界強度Eをエアギャップ幅dに対してプロットした図を示す。
【図11】回転楕円面の種々の半軸比につき、図9aのチューブラコンデンサにおける金属ロッドの端部領域におけるエアギャップの半径方向電界の図を示す。
【図12】回転楕円面の種々の半軸比につき、図9に対応するチューブラコンデンサにおける金属ロッドの端部領域でのエアギャップにおける軸方向電界の図を示す。
【符号の説明】
【0069】
1 外側電極
2、2a、2b、2c 金属ロッド
3 誘電体チューブ
4 金属接点スリーブ
5、5a、5b、5c 金属ロッドの端部部分
5’ チューブ3の内孔中に配される金属ロッド部分
6 金属ロッド2の円筒状領域における誘電体チューブ3と金属ロッド2間のエアギャップ内の点
7 金属ロッドの端部5’の領域におけるエアギャップ領域
8 電気力線
9、9a、9b、9c 誘電体ロッド
41 誘電体チューブ3の内孔
61 誘電体チューブの対称軸線
62 接続領域
63 エアギャップ
71、72 円筒状段部
81 収縮部
82 円筒状段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状誘電体チューブ(3)と、前記円筒状チューブ(3)を包囲する金属製の外側電極(1)と、前記円筒状チューブ(3)の内孔(41)で軸方向に移動可能であると共に前記内孔(41)に接する内側電極とを備え、前記内側電極が金属ロッド(2、2a、2b、2c)を含む可変容量チューブラコンデンサであって、
前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)の端部(5’)が軸方向に延び、誘電体ロッド(9、9a、9b、9c)を用いて前記金属ロッドを前記円筒状チューブ(3)の前記内孔(41)に配した可変容量チューブラコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体ロッド(9、9a、9b、9c)は、前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)に直接に接合する長手方向領域で特にその全長(L)にわたり前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)と同一の外径を有する請求項1記載のチューブラコンデンサ。
【請求項3】
前記円筒状チューブ(3)の前記内孔(41)に配された前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)の端部(5’)が丸みを帯びた端部部分(5、5a、5b、5c)を有し、特に前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)の端部が急激に変化しないようにした請求項1または2記載のチューブラコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体ロッド(9、9a、9b、9c)の長さLが、少なくとも、前記端部部分(5、5a、5b、5c)の軸方向長さと前記金属ロッド(2、2a、2b、2c)の直径Dの1.5倍との和に相当する請求項1ないし3のいずれかに記載のチューブラコンデンサ。
【請求項5】
前記金属ロッド(2a、2b)の前記端部部分(5a、5b)が1つ以上の円筒状段部(71、72、82)を有する請求項1ないし4のいずれかに記載のチューブラコンデンサ。
【請求項6】
前記金属ロッド(2c)の前記端部部分(5c)が概ね細長い回転楕円面形状である請求項1ないし5のいずれかに記載のチューブラコンデンサ。
【請求項7】
前記誘電体ロッド(9、9a、9b、9c)が、前記端部部分(5、5a、5b、5c)の全面に特に空気含有物なしにシールして接続される請求項1ないし6のいずれかに記載のチューブラコンデンサ。
【請求項8】
前記円筒状チューブ(3)の誘電体の比誘電率および前記ロッド(9、9a、9b、9c)の誘電体の比誘電率が1.3ないし5であり、両者の比誘電率の差が1.0以下であり、特に各前記誘電体がテフロン(登録商標)である請求項1ないし7のいずれかに記載のチューブラコンデンサ。
【請求項9】
無線周波数(RF)共鳴器と該RF共鳴器を動作させる回路とを備える核磁気共鳴(NMR)プローブヘッドであって、前記回路が請求項1ないし8のいずれかに記載のチューブラコンデンサを1つ以上備える核磁気共鳴(NMR)プローブヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図3d】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−96319(P2007−96319A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−262553(P2006−262553)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(591148048)ブルーカー バイオシュピン アー・ゲー (53)