説明

組み換えタンパク質の製造のための微生物菌株

【課題】組み換えタンパク質の製造を容易にする微生物菌株を提供する。
【解決手段】組み換えタンパク質をコードする遺伝子と、プロテアーゼではない宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子とを有する微生物菌株であって、その組み換えタンパク質を発酵中に分泌し、かつ宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子が、その突然変異された遺伝子の基礎となる野生型遺伝子と比較して、宿主タンパク質の低減された発現をもたらすように突然変異されていることを特徴とする微生物菌株によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えタンパク質の改善された製造を可能にする微生物菌株と、かかる菌株の製造方法と、前記菌株を使用した組み換えタンパク質の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えタンパク質の大容量の経済的な製造方法は、生物工学的産業及び製薬産業のために重要性が増している。一般に、組み換えタンパク質は、哺乳動物細胞培養又は微生物系のいずれかで製造される。微生物系は、哺乳動物細胞培養に対して、こうすることで組み換えタンパク質がより短時間で、かつ少ないコストで製造できるという利点を有する。細菌である大腸菌は、組み換えタンパク質の製造のために最も広範に知られる微生物である。大腸菌において、タンパク質は、原則的に種々の様式で製造される:
1.可溶性タンパク質としての細胞内産生
2.封入小体("インクルージョンボディー")としての細胞内産生
3.ペリプラズム又は周囲の栄養培地中への分泌。
【0003】
所望のタンパク質の製造の労力とコストは、発酵直後に、組み換えタンパク質と細胞によって必然的に分泌される宿主タンパク質とを含む混合物として存在する粗生成物の製造コストの他にも、実質的に、粗生成物を所望のタンパク質へと精製する精製コストによって決まる。その精製は、殆どの場合に、複数の工程を介してクロマトグラフィー法により行われる。この場合に、部分的に免疫原性又は毒性の不純物である宿主タンパク質の分離精製が重要な役割を担う。
【0004】
大腸菌におけるタンパク質の分泌は、殆どの場合に、いわゆるsec経路を介して行われる。このために、製造されるべきタンパク質についての遺伝子がシグナル配列と結合され、これによりシグナルペプチド−タンパク質−融合物の産生がもたらされる。該シグナルペプチドは、細菌固有のsec系により細胞質膜を介してのペリプラズム中へのタンパク質の分泌を媒介する。この場合に、該シグナル配列は開裂されて、所望のタンパク質がペリプラズム中に得られる。タンパク質は、その後、ペリプラズムから精製することができる。所定の条件下で又は所定の細菌株において、タンパク質は、ペリプラズムから周囲の栄養培地中に放出し(例えばRay et al.2002;EP0338410号B1;Nagahari et al.1985;Yang et al.,1998)、そしてそこから精製することができる。
【0005】
その分泌は、別の製造方法と比較して有利なのは、本来の可溶性の、正しく折り畳まれたタンパク質が得られ、該タンパク質が"インクルージョンボディー"法に対して変性されていないので、それを復元(収率の高い損失を伴う工程)させる必要がないことである。更に、得られた生成物は、細胞内の可溶性の製法と比較して、宿主タンパク質であまり汚染されておらず、それは微生物のペリプラズムに含まれる宿主タンパク質は、細胞質よりはるかに少ないからである。
【0006】
周囲の栄養培地へのタンパク質の分泌は、ペリプラズム中への分泌と比較して、その際タンパク質が更に純粋な形で存在するという更なる利点を提供する。更に、第一の精製工程として、ペリプラズムの費用のかかる調製を必要とせず、全細胞の分離は、はるかに簡単であり、再現可能に行われる。
【0007】
分泌によるタンパク質の製造の場合に、粗生成物は、細胞内製造の場合よりも全体として少ない宿主タンパク質で汚染されている。それにもかかわらず、ここでも不純物である宿主タンパク質、とりわけ微生物から必然的に分泌されて、ペリプラズム中又は更なる外膜中に局在している宿主タンパク質は一つの要因である。これらのタンパク質は、それらの遺伝子が必然的に、この分泌を媒介するシグナル配列を有するという点で際だっている。前記の宿主タンパク質が粗生成物を汚染するという事実の他に、該タンパク質は産生されるべきタンパク質と分泌装置の成分をめぐって競合し、これにより産生されるべきタンパク質の分泌の低下をもたらす。粗生成物の汚染に導く前記の宿主タンパク質は、しかしながら当然のごとく生理学的役割を満たしている。該タンパク質は、例えば走化性及び特定の輸送過程に関与することがある。
【0008】
文献では、ペリプラズムプロテアーゼをコードする遺伝子、例えばdegP、ompT、ptrの欠失によって、分泌されるタンパク質分解感受性のタンパク質の製造を改善できることを記載している(US5264365号;Baneyx&Georgiou,1991;Wadensten et al.,1991)。この効果は、出発細胞において生成されたタンパク質を分解するプロテアーゼの活性をオフにすることに起因する。とりわけ、細胞中で異種産生されたタンパク質は、しばしば宿主固有のプロテアーゼによって分解される。しかしながら、量的には、該プロテアーゼは不純物としてのいかなる要因にもならないが、それは該プロテアーゼが高い活性及び酵素的機能に基づいて宿主細胞中で非常に少量しか産生されないからである。従って、前記の遺伝子の欠失は、産生されるべきタンパク質の純度に影響をもたらさない。
【0009】
WO2004/035792号A1は、所定の宿主タンパク質(例えばPhoS/PstS、DppA、MBP、Trx)を個々のアミノ酸の突然変異により改変して、生理学的あるいは生化学的特性(等電点、疎水性、サイズ)を改変に導くことを記載している。前記の生理学的あるいは生化学的特性の改変により、結果的に、生成する改変された不純物である宿主タンパク質は、そのつど製造が所望されるタンパク質と一緒に同時精製されなくなるが、それは、これらのタンパク質が例えばクロマトグラフィーカラムに対して異なる挙動をとるからである。該方法は、任意のタンパク質の製造のためには利用できない。それというのも、汚染する宿主タンパク質を、それぞれ産生すべきタンパク質について特別に改変せねばならないからであり、それは各タンパク質が種々異なる生化学的特性を有するためである。WO2004/035792号A1による方法では、汚染している宿主タンパク質の改変にもかかわらず、その生産性と機能性は保持されている。従って、産生されるタンパク質の粗生成物の純度は変わらないが、汚染している宿主タンパク質と該タンパク質との分離はそのつど軽減されない。
【0010】
WO98/18946号は、産生されるべきタンパク質に加えて、Dsbタンパク質を同時発現し、かつ野生型のpstS遺伝子に欠失を有するが、同時にpstS変異体を発現する細胞を記載している。従って、ここでも、汚染している宿主タンパク質の量には変化はない。
【特許文献1】EP0338410号B1
【特許文献2】US5264365号
【特許文献3】WO2004/035792号A1
【特許文献4】WO98/18946
【非特許文献1】Ray et al.2002
【非特許文献2】Nagahari et al.1985
【非特許文献3】Yang et al.,1998
【非特許文献4】Baneyx&Georgiou,1991
【非特許文献5】Wadensten et al.,1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、組み換えタンパク質の製造を容易にする微生物菌株を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、組み換えタンパク質をコードする遺伝子と、プロテアーゼではない宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子とを有する微生物菌株であって、その組み換えタンパク質を発酵中に分泌し、かつ宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子が、その突然変異された遺伝子の基礎となる野生型遺伝子と比較して、宿主タンパク質の低減された発現をもたらすように突然変異されていることを特徴とする微生物菌株によって解決される。
【0013】
タンパク質の経済的な製造のために、生産された組み換えタンパク質が、既に粗生成物中で、従って発酵直後に、組み換えタンパク質と汚染している宿主タンパク質とを含む混合物として存在する場合に、できる限り少ない宿主タンパク質でできる限り少量で汚染されていることが好ましい。それにより、つまりは組み換えタンパク質の比収率が高まる。組み換えタンパク質の後続の精製は、それにより容易になる。この利点は、本発明による微生物菌株が提供する。
【0014】
低減された発現とは、本発明の範囲においては、有利には、当該タンパク質の産生量及び分泌量が、野生型細胞と比較して、25〜100%、特に有利には75〜100%だけ低減されていることを表す。殊に有利には、当該タンパク質の産生及び分泌は完全にオフにされている。有利には、宿主タンパク質は、OppA、OmpA、DppA、YddS、FliC、PhoA及びPhoSの群から選択される。
【0015】
組み換えタンパク質は、発酵中に、有利にはペリプラズム又は発酵培地中に分泌される。特に有利には、組み換えタンパク質は、発酵培地中に分泌される。
【0016】
組み換えタンパク質は、有利には異種タンパク質である。
【0017】
微生物基株は、有利には細菌株、特に有利には腸内細菌科からの細菌株、特にエシェリキア・コリ種の菌株である。特に有利には、エシェリキア(E)・コリ菌株であり、該菌株は、発酵後に、大腸菌W3110(ATCC27325)よりも高濃度の組み換えタンパク質を、ペリプラズム中に、又は殊に有利には周囲の栄養培地中に有することに際だっている。かかる菌株を、以下に分泌菌株と呼称する。
【0018】
特に、分泌菌株であって、発酵後に、50mg/lより多く、特に有利には100mg/lより多く、殊に有利には200mg/lより多くの組み換えタンパク質を周囲の栄養培地中に有する菌株が好ましい。
【0019】
本発明による菌株の更なる有利な特徴は、その製造の範囲において挙げている。以下に挙げられる出発菌株の特徴は、それと同様に、本発明による菌株についても言える。
【0020】
本発明による微生物菌株は、組み換えタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された宿主細胞を発酵において使用して、組み換えタンパク質を製造するにあたり、宿主細胞が、組み換えタンパク質と更なる宿主タンパク質とを発酵培地中に分泌し、そうして組み換えタンパク質と更なる宿主タンパク質とを含有する粗生成物を得て、その更なる宿主タンパク質を特性決定して、前記宿主タンパク質の1つをコードする遺伝子の発現を低減又は阻害することを特徴とする方法によって得られる。
【0021】
組み換えタンパク質をコードする遺伝子を、宿主タンパク質の発現の低減又は阻害のための方法の間に微生物菌株から取り出すことが好ましい。
【0022】
宿主細胞は、微生物菌株、例えば酵母菌株又は細菌株の細胞である。有利には、それは、腸内細菌科からの細菌株、特に有利にはエシェリキア・コリ種の菌株である。特に有利には、エシェリキア(E)・コリ菌株であり、該菌株は、発酵後に、大腸菌W3110(ATCC27325)よりも高濃度の組み換えタンパク質を、ペリプラズム中に、又は殊に有利には周囲の栄養培地中に有することに際だっている。
【0023】
特に有利には、発酵後に、10mg/lより多く、特に有利には50mg/lより多く、殊に有利には100mg/lより多くの組み換えタンパク質を周囲の栄養培地中に有する分泌菌株である。
【0024】
殊に有利には、以下の大腸菌株の1つである:
− BLR:Ray et al.2002、Novagen社から購入できる
− K802=CGSC*5610:Yang et al.,1998
− WCM105:EP0338410号B1に従って製造可能
− MM28=CGSC*#5892:Nagahari et al.1985
− RV308=ATCC**31608;EP0677109号B1
− RR1:ATCC**31434:Nagahari et al.,1985
− KG1005 ompT:Wadensten et al.,1991
*大腸菌ストックセンターCGSC(830 Kline Biology Tower,MCD Biology Department,266 Whitney Ave.,PO box 208103,Yale University,New Haven)から購入できる
**LGCプロモケム(Mercatorstr.51,46485 Wesel,Deutschland)から購入できる
分泌されるタンパク質は、宿主細胞から産生されかつ分泌される組み換えタンパク質である。有利には、タンパク質の分泌は、その遺伝子とシグナル配列との融合によって可能である。有利には、産生されるタンパク質は、工業的バッチで使用されるタンパク質又は医薬作用物質として使用されるタンパク質(生物製剤、生物薬剤)である。
【0025】
産生されるタンパク質を汚染する宿主タンパク質の同定は、当業者に公知の方法に従って、例えば培養後の細胞不含の上清のSDSポリアクリルアミドゲル中での分離と、それに引き続き個々のバンドのN末端配列決定又はペプチド−フィンガープリントによる分析によって行われる。
【0026】
大腸菌において、分泌されたタンパク質を汚染するタンパク質の例は、OppA、DppA、OmpA、YddS、FliC、PhoA、PhoSであり、更にこれらのタンパク質のそれぞれの組合せである:
− オリゴペプチド結合タンパク質OppA:Swiss Prot#P23843、61kDa、ペリプラズム中の主タンパク質の1つ、オリゴペプチド−パーミアーゼ(結合タンパク質依存性の輸送系)の構成要素、5アミノ酸までのペプチドを高い親和性で結合し、SecBによって結合されて、アミノグリコシド系抗生物質の吸収に関与するシャペロン機能をも有する
− ジペプチド結合タンパク質DppA:Swiss Prot#P23847、61kDa、ペプチド走化性やシャペロン類似機能(ロドバクターにおいて)に必要な輸送系のペリプラズム性のジペプチド結合タンパク質
− 外膜タンパク質Omp3a=OmpA:NCBI#NP_286832、37kDa、外膜中に局在する、コリシンK及びコリシンLの作用や接合の間の安定化のために必要、ファージ用の受容体、小さい溶質に低い透過性を有するポリン
− フラジェリンFliC:Swiss Prot#P04949、51kDa、鞭毛のサブユニット
− 推定されるヘミン結合タンパク質YddS:Swiss Prot#Q8XAU4、57kDa、推定されるジペプチド輸送タンパク質
− アルカリ性ホスファターゼPhoA:E.C.3.1.3.1、49kDa、オルトリン酸モノエステルの分解を触媒するペリプラズム性タンパク質
− リン酸結合タンパク質PhoS:37kDa、ペリプラズム性タンパク質;PTSリン酸−取り込み系の構成要素
アルカリ性ホスファターゼPhoA及びリン酸結合タンパク質PhoSは、両者とも大腸菌のリン酸供給に関与している。
【0027】
それに基づき、宿主細胞中では、前記タンパク質の遺伝子の発現が低減され又は阻害される。これらのタンパク質は当然のように細菌中で生理学的役割を満たすので、これらのタンパク質の形成の劇的な低減が、細胞の生存と該タンパク質の過剰生産に必要な効果的な代謝とを両立させるとは、当業者であっても全く予想しない。
【0028】
遺伝子の発現が低減し又は阻害されて、出発細胞において前記遺伝子によってコードされる特定の宿主タンパク質がより少なく生産されるか又はもはや生産されない方法は公知である。
【0029】
該遺伝子の1つの発現は、例えば以下の措置によって低減又は阻害することができる:
− 該遺伝子に付属するプロモーターを好適な塩基置換によって弱める
− 発現に必要な転写アクチベーターを不活性化/改変する
− 翻訳シグナル(例えばリボソーム結合部位、開始コドン)を好適な塩基置換によって弱める
− 該遺伝子のmRNA安定化領域を除去する
− 特異的アンチセンスRNAをコードするDNA領域を過剰発現する
− 全遺伝子又は少なくとも一部を欠失する
− 該遺伝子を、例えば抗生物質耐性カセットの挿入によって破壊する
− 相応の遺伝子にヌクレオチド欠失又は挿入に基づきリーディングフレームの変動を導入する。
【0030】
任意の染色体DNA配列を、相同であるが、塩基挿入、欠失又は置換によって改変された配列によって交換するための方法は、当業者に公知である。このように、大腸菌においては、例えばLink et al.(1997)によって記載された系を使用して、組み込みプラスミドを用いて相同組み換えの機構を介して、汚染しているタンパク質についての遺伝子の野生型の染色体配列を突然変異されたアレルに交換することができる。
【0031】
汚染している宿主タンパク質についての遺伝子に欠失を挿入することが好ましい。このことは、該遺伝子を、完全な遺伝子を対象する特異的プライマーを使用してPCRにより増幅した後に、まずプラスミドベクター(例えばpUC18、pBR322、PACYC184)中にクローニングすることによって達成することができる。こうして得られたプラスミドを、遺伝子の範囲内でのみ切断しうる好適な制限エンドヌクレアーゼを用いて制限することによって、遺伝子の内部領域を除去することができる。前記のようにして、制限されたプラスミドの再ライゲーションの後に、遺伝子中に内部欠失を挿入することができる。遺伝子内で制限されたプラスミドの再ライゲーションの代わりに、抗生物質耐性カセットを該遺伝子中にクローニングすることもできる。
【0032】
例えば、DatsenkoとWanner(2000,PNAS,97(12)、第6640〜6645頁)によるλ−Redレコンビナーゼ系を用いた遺伝子の欠失を行うことができる。
【0033】
更に、本発明は、組み換えタンパク質をコードする組み換え遺伝子を有する細菌株を用いて発酵培地中で組み換えタンパク質を発酵的に製造する方法において、本発明による微生物菌株を発酵培地中で培養し、そしてその発酵培地を、発酵後に細菌株の細胞から分離することを特徴とする方法に関する。
【0034】
有利には、発酵培地の分離後に、組み換えタンパク質は、発酵培地から精製される。本発明による方法によって、精製された組み換えタンパク質を発酵培地から精製することは容易となる。
【0035】
有利には、産生されるべきタンパク質をコードする遺伝子は、前記宿主生物中で機能的な発現シグナル(プロモーター、転写開始、翻訳開始、リボソーム結合部位)を備えている。
【0036】
付加的に、産生されるべきタンパク質をコードする遺伝子は、産生されるべきタンパク質が、まずはシグナル配列によってコードされるシグナルペプチドとの融合物として産生されることをもたらすシグナル配列と結合される。前記シグナルペプチドは、産生されたタンパク質の分泌を引き起こす。
【0037】
シグナル配列としては、phoA、ompA、pelB、ompF、ompT、lamB、malE、スタフィロコッカスのプロテインA、stIIが使用される。
【0038】
産生されたタンパク質の分泌は、例えば細胞のsec装置によって行われる。ペリプラズム中に行われる分泌後に、シグナルペプチダーゼ(例えば大腸菌の場合のLepB)によってシグナルペプチドは分解されて、所望のタンパク質が生ずる。
【0039】
産生されるべきタンパク質であって発現シグナルと分泌シグナルを含むタンパク質についての遺伝子は、宿主細胞中に組み込まれる。このことは、ベクター上で、例えば公知の発現ベクター、例えばpUC18、pBR322、pACYC184、pASK−IBA3又はpETの誘導体のようなプラスミドを用いて行われる。該遺伝子は、宿主細胞の染色体からも発現しうる。
【0040】
本発明によるタンパク質の製造のための細菌株の発酵は、有利には完全培地又は最少培地中で行われる。これらの培地は文献から公知である。
【0041】
炭素源としては、原則的に、使用可能な全ての糖、糖アルコール、有機酸もしくはそれらの塩、デンプン加水分解物、糖蜜又は別の物質を使用することができる。この場合に、有利にはグルコース又はグリセリンが使用される。また、複数の種々異なる炭素源を組み合わせた栄養補給も可能である。窒素源としては、尿素、アンモニア及びそれらの塩、硝酸塩並びに別の窒素源を用いることができる。可能な窒素源には、複合アミノ酸混合物、例えば酵母エキス、ペプトン、麦芽エキス、大豆ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー及びNZアミン(例えばKerry Bio−Science、米国シカゴ在)も該当する。
【0042】
更に、該培地に、更なる成分、例えばビタミン、塩、酵母エキス、アミノ酸及び微量元素を添加することができ、それにより細胞増殖は改善される。
【0043】
菌株のインキュベーションは、有利には好気的な培養条件下で16〜150時間の時間にわたり、それぞれの菌株に最適な増殖温度の範囲において行われる。
【0044】
最適な温度範囲としては、15〜55℃が好ましい。特に、30〜37℃の温度が好ましい。
【0045】
菌株の培養は、振盪フラスコ又は発酵器中で行うことができ、その際、容量に関する制限は与えられていない。培養は、回分法で、流加培養法で、又は連続法で行うことができる。
【0046】
ペリプラズムあるいは培養培地からのタンパク質の精製は、当業者に公知の方法に従って、例えば培地を遠心分離して、細胞を分離して、引き続きタンパク質をクロマトグラフィーにより精製し、錯形成し、濾過又は沈殿させることによって行うことができる。
【0047】
以下の実施例は、本発明の更なる説明に役立つものである。
【実施例】
【0048】
実施例1:汚染している宿主タンパク質の同定
文献から公知の以下の一般的に入手可能であり、市販されている大腸菌−分泌菌株を、LB培地中で100mlのエルレンマイヤーフラスコにおいて30℃で48時間培養した:
− BLR:Ray et al.2002、Novagen社から購入できる
− K802=CGSC*5610:Yang et al.,1998
− WCM105:EP0338410号B1に従って製造可能
− MM28=CGSC*#5892:Nagahari et al.1985
− RV308=ATCC**31608;EP0677109号B1
− RR1:ATCC**31434:Nagahari et al.,1985
− KG1005 ompT:Wadensten et al.,1991
*大腸菌ストックセンターCGSC(830 Kline Biology Tower,MCD Biology Department,266 Whitney Ave.,PO box 208103,Yale University,New Haven)から購入できる
**LGCプロモケム(Mercatorstr.51,46485 Wesel,Deutschland)から購入できる。
【0049】
次いで、細胞を、13000gで10分間遠心分離することによって分離した。上清(培地)から、それぞれ30μlを、SDSサンプルバッファー(5×SDSサンプルバッファー:125mMのトリス(pH6.8);10%のグリセロール;0.5%のSDS;0.05%のブロモフェノールブルー;5%のβ−メルカプトエタノール)と混合し、そして12%のNuPAGE(登録商標)Bis−Trisゲル(インビトロジェン社のカタログ番号NP0341)中で1×のMES含有ランニングバッファー(20×のMES−ランニングバッファー、インビトロジェン社のカタログ番号NP0002)を用いて分離した(電気泳動パラメータ:200Vで40分間)。次いで、ゲルを、クーマシーブルー染色溶液(1タブレットのPlusOneクーマシータブレット、Phast Gel Blue R−350(アマシャム 17−0518−01)、80mlのH2O中に溶解されている、+120mlメタノール、+200ml酢酸20%)で1時間染色し、そして脱色溶液(300mlのメタノール、100mlの酢酸、600mlの完全脱塩H2O)中で脱色した。と120mlのメタノールと200mlの酢酸20%完全脱塩水中で洗浄したあとに、際だったバンドがゲル上に同定された(図1を参照)。これらは、粗生成物によって汚染しているタンパク質をもたらす。相応のバンドを切り出し、そして交互にアセトニトリルと50%の重炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.5)で洗浄した。必要であれば、DTT及びヨードアセトアミドによるジスルフィド結合の還元を行った。トリプシンによるタンパク質分解の後に、生ずるペプチドをMALDI−TOF質量分析によって測定した。理論上計算される質量(予想ペプチド)あるいはデータベースの登録データと比較することによって、試験されたタンパク質を同定した。7種の目立ったタンパク質が同定された:
− オリゴペプチド結合タンパク質OppA:Swiss Prot#P23845
− ジペプチド結合タンパク質DppA:Swiss Prot#P23847
− 外膜タンパク質Omp3a=OmpA:NCBI#NP_286832
− フラジェリンFliC:Swiss Prot#P04949
− 推定されるヘミン結合タンパク質YddS:Swiss Prot#Q8XAU4
− アルカリ性ホスファターゼPhoA:E.C.3.1.3.1 Swiss Prot#P00634
− リン酸結合タンパク質PhoS:Swiss Prot#P06128
実施例2:汚染している宿主タンパク質についての遺伝子の欠失
その都度の菌株における遺伝子の大きな内部領域の欠失を、DatsenkoとWanner(2000,PNAS,97(12)、第6640〜6645頁)によるλ−Redレコンビナーゼ系を用いて行った。このために、まず除去されるべき遺伝子領域をクロラムフェニコール耐性カセットと交換したが、それは引き続き酵母FLPレコンビナーゼとカセット側面の特定の"FRT"フランキングを使用することによって再び排除することができる。
【0050】
その欠失を以下のとおり実施した:
PCR:
・ 鋳型:
鋳型として、pKD3(クロラムフェニコール耐性;大腸菌ストックセンターCGSCからCGSC#7631として得られる)を使用した。
【0051】
・ オリゴプライマー(Oligos):
フォワードオリゴプライマー:除去されるべき遺伝子の最初の36〜50塩基対の相同配列+20塩基対の相同プラスミド配列:
5′−36〜50塩基対の染色体−GTGTAGGCTGGAGCTGCTTC−3′(配列番号1)
リバースオリゴプライマー:除去されるべき遺伝子の最初の36〜50塩基対の相同配列+20塩基対の相同プラスミド配列(反対鎖):
5′−36〜50塩基対の染色体−CATATGAATATCCTCCTTAG−3′(配列番号2)
・ ポリメラーゼ:
Pfu又はTaq
・ 生成物長:
pKD3:1.1kb
PCR産物の精製:
PCR産物を精製し(例えばQiaプレップ(Qiaprep)カラムを介して)、そしてDpnIで消化させ(付属のバッファー中37℃で2時間)、次いでもう一度精製して、30μlの蒸留水中に溶出させた(=PCR調製物)。
【0052】
・ エレクトロコンピテント細胞の調製:
・ pKD46=λ Redレコンビナーゼ発現プラスミド(アラビノース誘導が可能)、これは大腸菌ストックセンターCGSCからCGSC#7739として得られる、Amp耐性、温度感受性の複製起点:全ての工程は最大30℃で
・ 該プラスミドの改変されるべき目的菌株での形質転換(発現/30℃でのインキュベーション)
・ 目的菌株とプラスミドからエレクトロポレーション用のコンピテント細胞を製造する
・ 細胞培養用の培地:SOB培地:
20g/lのトリプトン
5g/lの酵母エキス
0.5g/lのNaCl
2.5g/lのKCl
10mMのMgCl
+0.2%のアラビノース
+100mg/lのアンピシリン
・ エレクトロポレーション用コンピテント細胞の製造:
− 30℃で培養する
− OD600で0.6までで細胞を回収する
− 約100倍に濃縮し、そして氷冷グリセリン(10%)で3回洗浄する
組み換え:
・ 10μlのPCR調製物(約10〜100ngの精製されたPCR−DNA)を、エレクトロコンピテント細胞中に形質転換させる
・ 表現型発現:形質転換バッチを1mlのLB中に入れ、37℃で1時間インキュベートし、そしてLBcamプレート上で選別する。37℃でインキュベート
pKD46(CGSC#7739)のキュアリング:
・ こうして得られた耐性カセットを有するクローンを、2つのLBプレート上に塗抹し、並行して37℃と43℃で培養する
・ これらのプレートから、単一クローンをLBamp(100mg/lのアンピシリンを有するLB)とLB上に塗抹し、そして30℃でインキュベートする
・ そのうちの約8つのクローンをLBcam(30mg/lを有するLB)(37℃)上で浄化する
クローンのPCR制御:
・ 好適なオリゴプライマー(上記したこととDatsenkoとWanner,2000を参照)を用いて、耐性カセットが、染色体中の除去されるべき遺伝子の部位に実際にあるかどうかを試験する
染色体抗生物質耐性カセットの除去:
・ pCP20(大腸菌ストックセンターCGSCからCGSC#7629から得られる)="FLP"レコンビナーゼ発現プラスミド、Amp耐性、温度感受性の複製起点:全ての工程は最大30℃で
・ amp感受性のクローン(キュアリングによりcam耐性)を、pCP20で形質転換し、LBamp上で30℃において選別する
・ 8つの形質転換体を、LB上で浄化する、インキュベートは37℃
・ 個々のコロニーを、もう一度LB上に塗抹し、43℃でインキュベートする
・ そのうち約12つのクローンをcam感受性とamp感受性について試験する
・ amp/cam感受性クローンは、耐性カセットとpPC29を失っている
=>導入されたCamカセットを有さない欠失クローン
特に、個々の欠失突然変異体の構築のためには、以下のオリゴプライマーを使用して、以下のPCR産物が得られた:
OmpAの欠失
PCR用プライマー:
OmpA5:
【0053】
【表1】

【0054】
OmpA6:
【0055】
【表2】

【0056】
−>pKD3(大腸菌ストックセンターCGSCからCGSC#7631として得られる)によるPCR:産物:1114塩基対;ompAの598塩基対を、組み換えにおいて、1014塩基対のCam耐性によって置換する
プライマー:
OmpA3:GACAGCTATCGCGATTGCAG(配列番号5)
OmpA4:GCTGAGTTACAACGTCTTTG(配列番号6)
を用いた組み込み/欠失の調査
産物:野生型:1022塩基対;挿入突然変異体:1486塩基対;欠失突然変異:約430塩基対
記載されるようにして、以下の菌株を製造した:
− BLRΔompA
− K802ΔompA
− WCM105ΔompA
− MM28ΔompA
− RV308ΔompA
− RR1ΔompA
− KG1005ompTΔompA
OppAの欠失
PCR用プライマー:
OppA5:
【0057】
【表3】

【0058】
OppA6:
【0059】
【表4】

【0060】
−>pKD3によるPCR:産物:1114塩基対;oppAの1331塩基対を、組み換えにおいて、1014塩基対のCam耐性により置換する
プライマー:
OppA3:GCGGATCTTTGCCGGTATAG(配列番号9)
OppA4:GACCAACATCACCAAGAGAA(配列番号10)
を用いた組み込み/欠失の調査
産物:野生型:1587塩基対;挿入突然変異体:1270塩基対;欠失突然変異:約260塩基対
以下の菌株:
− BLRΔoppA
− K802ΔoppA
− WCM105ΔoppA
− MM28ΔoppA
− RV308ΔoppA
− RR1ΔoppA
− KG1005ompTΔoppA
が得られた
DppAの欠失
PCR用プライマー:
DppA1:
【0061】
【表5】

【0062】
DppA2:
【0063】
【表6】

【0064】
−>pKD3によるPCR:産物:1114塩基対;dppAの1381塩基対を、組み換えにおいて、1014塩基対のCam耐性により置換する
プライマー:
DppA3:GTCAGGGATGCTGAAGCTTG(配列番号13)
DppA4:TGTTTGCCTAATGGATCAAC(配列番号14)
を用いた組み込み/欠失の調査
産物:野生型:1587塩基対;挿入突然変異体:1193塩基対;欠失突然変異:約566塩基対
以下の菌株:
− BLRΔdppA
− K802ΔdppA
− WCM105ΔdppA
− MM28ΔdppA
− RV308ΔdppA
− RR1ΔdppA
− KG1005ompTΔdppA
が得られた
FliCの欠失
PCR用プライマー:
FliC1:
【0065】
【表7】

【0066】
FliC2:
【0067】
【表8】

【0068】
−>pKD3によるPCR:産物:1114塩基対;fliCの1334塩基対を、組み換えにおいて、1014塩基対のCam耐性により置換する
プライマー:
FliC3:TATCAACAAGAACCAGTCTGC(配列番号17)
FliC4:AGACAGAACCTGCTGCGGTA(配列番号18)
を用いた組み込み/欠失の調査
産物:野生型:1432塩基対;挿入突然変異体:1112塩基対;欠失突然変異:約110塩基対
以下の菌株:
− BLRΔfliC
− K802ΔfliC
− WCM105ΔfliC
− MM28ΔfliC
− RV308ΔfliC
− RR1ΔfliC
− KG1005ompTΔfliC
が得られた
YddSの欠失
PCR用プライマー:
YddS1:
【0069】
【表9】

【0070】
YddS2:
【0071】
【表10】

【0072】
−>pKD3によるPCR:産物:1114塩基対;fliCの1350塩基対を、組み換えにおいて、1014塩基対のCam耐性により置換する
プライマー:
YddS3:ATTGCTCGCGCTCGTCCTTG(配列番号21)
YddS4:CCTGTTCCAGCATGGGATTG(配列番号22)
を用いた組み込み/欠失の調査
産物:野生型:1432塩基対;挿入突然変異体:1156塩基対;欠失突然変異:約160塩基対
以下の菌株:
− BLRΔyddS
− K802ΔyddS
− WCM105ΔyddS
− MM28ΔyddS
− RV308ΔyddS
− RR1ΔyddS
− KG1005ompTΔyddS
が得られた
PhoA及びPhoSの欠失
同様に行った。
【0073】
以下の菌株:
− BLRΔphoA
− K802ΔphoA
− WCM105ΔphoA
− MM28ΔphoA
− RV308ΔphoA
− RR1ΔphoA
− KG1005ompTΔphoA
− BLRΔphoS
− K802ΔphoS
− WCM105ΔphoS
− MM28ΔphoS
− RV308ΔphoS
− RR1ΔphoS
− KG1005ompTΔphoS
が得られた
実施例3:多重欠失突然変異体の作製
多重突然変異体の作製に際して、実施例2で作製された幾つかの菌株において、実施例2に記載される工程に従って段階的に、他の6つの同定された遺伝子をも欠失させた。
【0074】
とりわけ、以下の菌株:
− K802ΔoppAΔfliC
− BLRΔphoAΔoppA
− BLRΔphoAΔoppAΔyddSΔphoAΔphoS
− BLRΔphoAΔyddS
− BLRΔphoAΔoppAΔyddSΔfliC
− WCM105ΔoppAΔompA
− WCM105ΔompAΔfliC
− WCM105ΔoppAΔphoA
− WCM105ΔoppAΔyddS
− WCM105ΔfliCΔyddS
− WCM105ΔoppAΔfliC
− WCM105ΔoppAΔfliCΔyddS
− WCM105ΔoppAΔfliCΔyddSΔphoA
が得られた。
【0075】
実施例4:増殖に関する欠失突然変異体の特性決定
種々の菌株の増殖を、30℃で、1%のグルコースを有するLB中で、600nmでのODを増殖24時間後と増殖48時間後とで測定することで調査した。
【0076】
全ての菌株は、通常の増殖を示した、つまりその増殖は、出発菌株と比較して制限されていなかった。従って、それらの欠失は、菌株の生存性と増殖とに悪影響を及ぼさなかった。
【0077】
第1表は、選択された菌株での結果を示す:
【0078】
【表11】

【0079】
実施例5:上清中の汚染しているタンパク質に関する欠失突然変異体の特性決定
本発明による菌株の上清中の汚染しているタンパク質を分析するために、培養からアリコートを、SDS−PAGE及びクーマシー染色によって分析した。図2で選択された菌株について示されるように、欠失された遺伝子に相応するバックグラウンドタンパク質は、これらの菌株の場合にはもはや上清中に存在しない。汚染しているバックグラウンドバンドの全体は、それによって明らかに低減されている。
【0080】
実施例6:シクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの特異的な産生の増大
実施例2及び3に記載されるように作製した種々の菌株を、シクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの産生のために使用した。そのために、これらの菌株を、プラスミドpCM301によって通常の方法(例えばCaCl2形質転換によって)形質転換した。このプラスミドは、クレブシエラ・オキシトカM5a1由来のシクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの構造遺伝子を有しており、tac−プロモーターの制御下にあり、該プラスミドはEP0220714号に記載されている。
【0081】
これらの本発明による菌株を、1%のグルコースを有するLB培地中で10mlにおいて30℃で培養する。ODが0.5になったら、シクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの産生を、IPTG(イソプロピルチオガラクトシド)を添加して0.5mMとすることによって誘導する。
【0082】
これらの菌株の培養物の上清中で、全タンパク質含量(ブラッドフォード法により)を測定すると同時に、シクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの収率を以下の活性試験によって測定した。
【0083】
試験バッファー:5mMのTris−HClバッファー(>pH6.5)、5mMのCaSO4・2H2
基質:試験バッファー(pH6.5)中10%のNoredux溶液
試験バッチ:1mlの基質溶液+1mlの遠心分離された培養上清(12000rpmで5分)+3mlのメタノール
反応温度:40℃
酵素試験:
・ 溶液の予熱(40℃で約5分)
・ 酵素溶液の基質溶液への添加;高速混合(渦流混合機(Whirl−Mixer))
・ 40℃で3分間のインキュベート
・ メタノールの添加による酵素反応の停止;高速混合(渦流混合機)
・ 氷上でのバッチの冷却(約5分)
・ 遠心分離(12000rpmで5分)と、澄明な上清のピペットによる分離
・ 産生されたCDのHPLCによる分析
酵素活性:A=G*V1*V2/(t*MG)(ユニット/ml)
A=活性
G=CDの含量(mg/l)=試験バッチ:単位面積×104/標準溶液(10mg/ml)/単位面積
V1=希釈係数/試験バッチ(−>5)
V2=希釈係数/酵素溶液
t=反応時間(分)(−>3)
MG=分子量(g/モル)(CD−>973)
1ユニット=1マイクロモルの産物/分
第2表は、選択された本発明による菌株のシクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼの比収率の増大を示している。
【0084】
【表12】

【0085】
実施例7:DsbGの特異的産生の増大は、実施例2及び3に従って生ずる
7.1 dsbGのクローニング
dsbG(Swiss Prot#P77202)の過剰生産のためのベクターを、以下のようにして構築した:
− W3110(ATCC#27325)由来の染色体DNAを鋳型として用い、そして以下のプライマー:
【0086】
【表13】

を用いてPCRを行う
− 783塩基対のPCR産物をXbaIとEcoRIで制限する
− pASK−IBA3(IBA社、ゲッティンゲン在)をXbaIとEcoRIで制限する
− 両方のDNA断片をライゲーションする。
【0087】
得られたプラスミドをpASK−dsbG(3961塩基対)と呼称し、該プラスミドは、シグナル配列を含むdsbGについての遺伝子をtet−プロモーターの制御下に有する。
【0088】
7.2 DsbGの生産の増大
実施例2と実施例3に従って製造された菌株を、プラスミドpASK−dsbGで通常の方法(例えばCaCl2形質転換)に従って形質転換し、第3表に挙げられる本発明による菌株が得られた。
【0089】
菌株K802ΔoppA/pASK−dsbGは、2006年1月26日にDSMZ(ドイツ細胞バンク社、ブラウンシュバイクD−38142)で、ブタペスト条約に従って番号DSM17899として寄託した。
【0090】
菌株K802ΔfliC/pASK−dsbGは、2006年1月26日にDSMZ(ドイツ細胞バンク社、ブラウンシュバイクD−38142)で、ブタペスト条約に従って番号DSM17898として寄託した。
【0091】
これらの菌株を、1%のグルコース及び100mg/lのアンピシリンを有するLB培地中で10mlにおいて30℃で培養する。ODが0.5になったら、DsbGの生産を、アンヒドロテトラサイクリンを添加して0.2mg/lとすることによって誘導する。
【0092】
種々異なる時間後に、それぞれ細胞不含の上清を、SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離し、そしてクーマシーブリリアントブルーで染色した後に分析する。定量的な評価は、Biorad GS−800型の校正濃度計(Calibrated Densitometer)でのスキャンによりQuantity One 1−D−分析ソフトウェア(Biorad社)を用いてスタンダードと比較して行った。
【0093】
図3と図4及び第3表の幾つかの例が示しているように、DsbGの生産は、本発明による菌株中では出発菌株と比較して改善されている。
【0094】
第3表:
【0095】
【表14】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、LB中での48時間培養物の上清を、12%のNuPAGEゲル(インビトロジェン)で分離したものを示しており、実施例1のタンパク質が同定されている
【図2】図2は、LB+1%Glc中での培養物の上清を、12%のNuPAGEゲルで分離して、クーマシーにより染色されたものを示し、これは実施例3と実施例5によるものである
【図3】図3は、LB+1%Glc中での培養物の上清を、12%のNuPAGEゲルで分離して、クーマシーにより染色されたものを示している。全ての上清から、それぞれ1μlを載せた。矢印は、形成されたDsbG(26kDa)を示し、楕円は欠失したタンパク質を示している
【図4】図4は、LB+1%Glc中での培養物の上清を、12%のNuPAGEゲルで分離して、クーマシーにより染色されたものを示している。全ての上清から、それぞれ10μlを載せた。矢印は、形成されたDsbG(26kDa)を示し、楕円は欠失したタンパク質を示している

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えタンパク質をコードする遺伝子と、プロテアーゼではない宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子とを有する微生物菌株であって、その組み換えタンパク質を発酵中に分泌し、かつ宿主タンパク質をコードする突然変異された遺伝子の突然変異が、その突然変異された遺伝子の基礎となる野生型遺伝子と比較して、宿主タンパク質の低減された発現をもたらすことを特徴とする微生物菌株。
【請求項2】
請求項1記載の微生物菌株であって、突然変異された遺伝子によってコードされる宿主タンパク質を、野生型細胞における産生及び分泌と比較して、25〜100%だけ、特に有利には75〜100%だけ低減された量で産生及び分泌をすることを特徴とする微生物菌株。
【請求項3】
請求項1又は2記載の微生物菌株であって、宿主タンパク質が、OppA、OmpA、DppA、YddS、FliC、PhoA、PhoSの群から選択されることを特徴とする微生物菌株。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の微生物菌株であって、組み換えタンパク質を発酵培地中に分泌することを特徴とする微生物菌株。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の微生物菌株であって、組み換えタンパク質が異種タンパク質であることを特徴とする微生物菌株。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の微生物菌株であって、該菌株がエシェリキア・コリ種の菌株であることを特徴とする微生物菌株。
【請求項7】
請求項6記載の微生物菌株であって、該菌株が、BLR、WCM105、MM28=N99=CGSC#5892、K802=CGSC#5610=WA802、RV308=ATCC31608の群から選択されることを特徴とする微生物菌株。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の菌株の製造方法において、組み換えタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された宿主細胞を発酵において使用して、組み換えタンパク質を製造するが、該宿主細胞は、組み換えタンパク質と他の宿主タンパク質とを発酵培地に分泌するため、組み換えタンパク質と他の宿主タンパク質を含有する粗生成物が得られるものであり、前記他の宿主タンパク質を特性決定し、そして前記宿主タンパク質の1つをコードする遺伝子の発現を低減又は阻害させる製造方法。
【請求項9】
発酵培地中で、組み換えタンパク質をコードする組み換え遺伝子を含む細菌株によって組み換えタンパク質を発酵により製造する方法において、請求項1から7までのいずれか1項記載の微生物菌株を発酵培地中で培養し、そして該発酵培地を発酵後に細菌株の細胞から分離することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、発酵培地の分離後に、発酵培地から組み換えタンパク質を精製することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−202559(P2007−202559A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24736(P2007−24736)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(390009003)コンゾルテイウム フユール エレクトロケミツシエ インヅストリー ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (17)
【氏名又は名称原語表記】Consortium fuer elektrochemische Industrie GmbH
【住所又は居所原語表記】Zielstattstrasse 20,D−81379 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】