説明

組成物、膜触媒層接合体、および膜触媒層接合体の製造方法

【課題】本発明は、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができる組成物を提案する。
【解決手段】
本発明に係る触媒インクは、触媒担持カーボンと、含フッ素イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、高分子電解質形燃料電池における触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する塗工液であって、触媒インク中において触媒担持カーボンは、アグリゲート、アグロメレート、ならびに会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により触媒インク中の粒度分布を測定した場合、会合アグリゲートの粒径に対応する範囲に粒度分布のメインピークを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質形燃料電池の電極接合体(膜触媒層接合体)に関する。特には、電極接合体の触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する触媒インク(組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーおよび環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、燃料電池が車両用駆動源および定置型電源として注目されている。燃料電池は、電解質の種類や電極の種類等により種々のタイプに分類される。
【0003】
例えば、代表的なものとしてはアルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、高分子電解質形などが挙げられる。この中でも自動車用低公害動力源としては、あまり温度を上げずに(通常100℃以下)作動可能な高分子電解質形燃料電池(PEFC)が注目を集めており、実用化に向けた開発が進められている。ただし、あまり温度を上げずに作動可能なため、高分子電解質形燃料電池は、排熱を補機動力などに有効利用することが難しい。
【0004】
そこで、排熱の有効利用の困難性を補う意味でも、高分子電解質形燃料電池に対して、水素及び酸素の利用率の高い運転条件での、高いエネルギー変換効率及び高い出力密度を実現することが要求されている。
【0005】
高分子電解質形燃料電池がこの要求をみたすためには、電池を構成する要素のうち特に燃料電池の電極及びこの電極をその両表面に配したイオン交換膜(高分子電解質膜)とからなる電極接合体が重要となる。
【0006】
ここで燃料電池電極は、以下の構成を有する粘性混合物(触媒インク)をイオン交換膜の表面に直接塗布するか、あるいは別のシート基材に塗布して得られる層をイオン交換膜の表面に転写または貼り付けることにより形成されている。
【0007】
この触媒インクは、電極反応を促進する触媒担持カーボンと、導電性を高め且つ水蒸気の凝縮による多孔体の閉塞(フラッディング)を防止するために含フッ素イオン交換樹脂とを、エタノールなどのアルコール類の溶媒に溶解又は分散して含んでいる。
【0008】
そこで、上述した要求を満たすように、触媒インクにおける触媒成分の改良や、触媒成分の担持法、イオン交換樹脂の被覆による担持触媒の保護及び安定化等が検討され、各種改良案が提案されている。
【0009】
例えば、イオン交換樹脂で被覆した触媒粒子の粒度分布や担持触媒粒子の凝集体の粒度分布と電池特性との関係について報告されている(例えば、特許文献1)。
【0010】
すなわち、特許文献1に開示された電極構成原料では、燃料電池用電極構成材料の触媒金属を担持した担持触媒粒子の凝集体が2つの粒度分布ピークを有するように粒度分布の異なる粒子の凝集体を混合して調整している。この2つの粒度分布ピークは、より具体的には、0.1から1.0μmの間、ならびに1.0から10μmの間にそれぞれ1つずつの粒度分布ピークが存在し、かつ0.1から1.0μmの間までの分布を示す粒子の凝集体が全体積の25パーセントを占めている。
【0011】
このように2種類の粒度分布をもつことで、特許文献1に開示された電極構成原料では、粒径が小さ過ぎると細孔容積が減少し、粒径が大き過ぎると触媒利用率が低下して電池特性が低下するというそれぞれの欠点を補完することができる。
【0012】
さらにまた、触媒担持カーボン(触媒粒子)と含フッ素イオン交換樹脂とを含み、分散媒からなる塗工液(触媒インク)の粒子サイズの粒度分布において1.0μm以下となる割合が30%体積頻度以上となるように作製する燃料電池電極の作製方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−227716号公報
【特許文献2】特開2003−109612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した従来技術は、少なくとも一方の電極に高加湿(相対湿度が80%以上の状態)の反応ガスを導入して運転する場合や、少なくとも一方の電極に低加湿(相対湿度が40%未満の状態)の反応ガスを導入して運転する場合に十分に特性が得られないという問題がある。
【0015】
より具体的には、特許文献1に開示された電極構成原料は、1.0から10μmの間までの分布を示す触媒担持カーボン(触媒粒子)の凝集体が全体積の75%を占め、粒径の大きい触媒担持カーボンの凝集体を多く含むことで電極の細孔容積が確保でき水蒸気の凝縮による多孔体のフラッディングを防止する。しかしながら、特許文献1の電極構成原料を用いて作製された燃料電池を、少なくとも一方の電極に低加湿のガスを導入して運転する場合には、触媒層内部が水蒸気による凝縮が起こりにくい雰囲気下となるため、触媒を十分に活性化することが出来ず電池の出力を十分に発揮することが出来ない。
【0016】
つまり、粒径の大きい触媒担持カーボンの凝集体では、その内部においてイオノマー樹脂(アイオノマー樹脂)などのイオン交換樹脂により被膜されていない範囲があり、その結果、触媒担持カーボンにおいて活性化される範囲が小さくなってしまう。つまり、粒径の大きい触媒担体カーボンの凝集体の割合が多くなればなるほど、イオン交換樹脂により被膜されていない範囲が大きくなり、触媒担持カーボンにおける活性化範囲がさらに小さくなることとなる。このため、フラッティングが生じ難い低加湿条件化では、従来の電極構成原料と比較して、引用文献1の電極構成原料の方が触媒の活性化が低下してしまう。
【0017】
一方、特許文献2の高分子電解質形燃料電池電極の製造方法の場合、粒径が1.0μm以下となる凝集体の割合が30%体積頻度以上となる。つまり、1.0μm以下となる小さい粒径の凝集体を多く含み、結果として細孔が小さくなる。したがって、特許文献2の電極構成材料を用いて作製された燃料電池を、少なくとも一方の電極に高加湿のガスを導入して運転する場合には、フラッティングが生じやすくなる。このため、高い加湿条件下ではフラッティングの影響を受け、電池の出力を十分に発揮することができないという問題が生じる。
【0018】
本発明は、上記従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができる組成物、膜触媒層接合体、および膜触媒層接合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る組成物は、上記した課題を解決するために、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、燃料電池における触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する組成物であって、当該組成物中において触媒担持カーボンは、該触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態であり、アグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した場合、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する。
【0020】
本発明に係る膜触媒層接合体は、上記した課題を解決するために、高分子電解質膜と、該高分子電膜上に配置された触媒層とを有する膜触媒層接合体であって、前記触媒層は、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンが、該触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する組成物を、高分子電解質膜に塗工することで形成される。
【0021】
本発明に係る膜触媒層接合体の製造方法は、上記した課題を解決するために、高分子電解質膜を準備し、この高分子電解質膜上に、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンの一次粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態として、触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され、且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートとを含み、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲にメインピークを有する組成物を塗工する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上に説明したように構成され、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る燃料電池単セルの概略構成の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体である単独アグリゲートの一例を示す図である。
【図3】本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体であるアグロメレートの一例を示す図である。
【図4】本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体である会合アグリゲートの一例を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る触媒インクにおけるカーボン粒子の凝集体の粒度分布を示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係る触媒インクの分散媒中において、会合アグリゲート間に単独アグリゲートが接続した状態の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る触媒インクの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態に係る触媒担持カーボンに対するせん断時間と、凝集体の粒径およびその体積頻度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(燃料電池単セル)
本実施形態に係る燃料電池単セル1の構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係る燃料電池単セル1の概略構成の一例を示す図である。なお、本実施の形態に係る燃料電池単セル1は、高分子電解質形燃料電池(PEFC)のセルとして説明する。
【0025】
図1に示すように、燃料電池単セル1は、高分子電解質膜2の両側に、2つの電極(燃料極3と空気極4)が形成され、これらがMEA(膜・電極接合体)5として一体化されてなる構成である。電極は、高分子電解質膜2側に配される触媒層(燃料極触媒層31と空気極触媒層41)と、この触媒層の外側に配される導電性を有する多孔質の部材であるガス拡散層32,42とを備える。この電極は、触媒担持カーボン及び含フッ素イオン交換樹脂を含んでいる。
【0026】
また、ガス拡散層32,42の外側には水素および酸素などの反応ガスの供給通路をかねているセパレータ6、7が配されており、これらセパレータ6、7によってMEA5は挟持されている。
【0027】
触媒層(燃料極触媒層31と空気極触媒層41)を形成する触媒としては、アノード及びカソードで電極反応を促進する物質が使用され、特に白金などの白金族金属又はその合金が好適である。触媒は金属粒子をそのまま使用してもよいが、本実施形態では比表面積が300m/g以上の触媒担持カーボンを触媒として利用する。なお、金属の担持量は触媒担持カーボン全質量に対して10〜70%質量であることが好ましい。
【0028】
2つの電極と隣接し、これらの電極に挟持されている高分子電解質膜2(イオン交換膜)は、イオン交換容量が0.6〜2.2ミリ当量/gであることが好ましく、特に1.1〜1.6ミリ当量/gのものが好ましい。また、燃料電池の電極の厚さは1〜50μm、特に10〜30μmであることが好ましい。
【0029】
高分子電解質膜2を構成する材料としては、電極の形成に使用される含フッ素イオン交換樹脂として例示されたものと同様のものが好適である。すなわち、この含フッ素イオン交換樹脂は、テトラフルオロエチレンに基づく重合単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルに基づく重合単位と含む共重合体からなるものが好ましい。
【0030】
スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルとしては、CF2=CF−(OCF2CFX)―O−(CF2)n−SOH(式中、mは0〜3、nは1〜12、pは0又は1、XはF又はCF3)で表されるものが好ましい。
【0031】
また、これらガス拡散層32,42の外側には水素や酸素などの反応ガスの供給通路を兼ねているセパレータ6,7が配されており、これらセパレータ6,7によってMEA5が挟持された構成である。
【0032】
ところで、高分子電解質形燃料電池において、水素および酸素の利用率の高い運転条件でも高いエネルギー変換効率および高い出力密度を実現するためには、MEA5の性能が重要となる。特に、電極(燃料極3と空気極4)の触媒層(燃料極触媒層31と空気極触媒層41)を形成する触媒インク(組成物)によって性能が左右される。なお、本明細書では、特に燃料極触媒層31と空気極触媒層41とを区別して説明する必要が無い場合は、単に触媒層と称する。また、燃料極3と空気極4とを区別して説明する必要が無い場合は、電極と称するものとする。
【0033】
触媒インクは、電極反応を促進する触媒担持カーボンと、導電性を高め、かつ水蒸気の凝集によるフラッティングを防止するための含フッ素イオン交換樹脂と、分散媒としてアルコール、エーテル、ジアルキルスルホシキド及び水からなる群から一種類以上を含む分散媒を使用する。
【0034】
この触媒インクは、高分子電解質膜2に直接塗布されるか、あるいは別のシート状基材に塗布して得られる層を高分子電解質膜2の表面に転写もしくは張り付けられる。
【0035】
以下において、高分子電解質膜2に塗布する触媒インクの詳細について説明する。
【0036】
(触媒インク)
まず、触媒インクに含まれる含フッ素イオン交換樹脂は、導電性及びガスの透過性の点からイオン交換容量が0.6〜2.2ミリ当量/gであることが好ましく、特に1.1〜1.6ミリ当量/gのものが好ましい。また、含フッ素イオン交換樹脂は、テトラフルオロエチレンに基づく重合単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルに基づく重合単位とを含む共重合体からなるものが好ましい。
【0037】
スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルとしては、CF=CF(OCFCFX)−O―(CF)−SOHで表されるものが好ましい。ここでXはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数、nは1〜12の整数、pは0又は1である。より好ましい具体例として以下の化合物が挙げられる。なお、下記の式中、q、rは1〜8の整数、tは1〜3の整数である。
【0038】
CF2=CFO(CF2SO
CF=CFOCFCF(CF)O(CFSO
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF2SO
また、電極に含まれる触媒担持カーボンと含フッ素イオン交換樹脂とは、質量比で触媒担持カーボン:含フッ素イオン交換樹脂=60:40〜70:30であることが、この電極の導電性と物質輸送の点から好ましい。なお、ここでいう触媒担持カーボンは、触媒のみの場合も含むものとする。
【0039】
次に触媒インクに含まれる分散媒について説明する。分散媒は、水を含む水性分散媒、特に水とアルコールの混合溶媒を用いることが好ましい。アルコール及びエーテルはその炭素数が1〜6の範囲であるものが好ましく、ジアルキルスルホシキドはその炭素数が2〜6の範囲であるものが好ましい。上記に該当する溶媒の好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
【0040】
また、ジアルキルスルホシキドとしては、ジメチルスルホシキド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0041】
さらにまた、触媒インクには、触媒を担持する触媒粒子としてカーボン粒子(触媒担持カーボン)が含まれており、このカーボン粒子(ドメイン)が強い力で結合した凝集体を、本実施形態では、主として図2から4に示すように粒径サイズの異なる以下の3種類の凝集体に分類する。なお、カーボン粒子の最小単位は、10〜50(0.01〜0.05μm)nmサイズである。
【0042】
まず1種類目の凝集体は、図2に示すようにいくつかのカーボン粒子同士を強い力で凝集した一次凝集体であるアグリゲートである。これ以降、他の凝集体と区別するために、このアグリゲートを単独アグリゲートと称する。なお、図2は、本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体である単独アグリゲートの一例を示す図である。この単独アグリゲートの粒径サイズは約300nm(約0.3μm)である。この単独アグリゲートは、反応過程で液晶状態の粒子が溶融結合して出来た骨格に、さらに炭化水素が結合し、その後炭化して生成されるものと考えられている。
【0043】
次に2種類目の凝集体は、図3に示すように一次凝集体である単独アグリゲート同士がファンデルワールス力や単なる集合、絡み合い等による力で凝集した2次凝集体であるアグロメレートである。図3は本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体であるアグロメレートの一例を示す図である。なお、このアグロメレートの粒径サイズは約十数μmから数百μmである。
【0044】
3種類目の凝集体は、図4に示すように単独アグリゲートがファンデルワールス力や単なる集合、絡み合い等による力で数個程度凝集したものであり、アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態となる凝集体である。本明細書ではこの凝集体を会合アグリゲートと称する。図4は、本実施の形態に係るカーボン粒子の凝集体である会合アグリゲートの一例を示す図である。なお、この会合アグリゲートの粒径サイズは、約0.5μm以上1.5μm以下の範囲である。本実施の形態において、会合アグリゲートは、アグロメレートとはこのように粒径によって区別して定義される。
【0045】
つまり、本実施の形態に係る触媒インク中には、上述した単独アグリゲート、会合アグリゲート、及びアグロメレートがそれぞれ所定の割合ずつ存在しており、レーザー散乱・回析法により測定される粒度分布では、会合アグリゲートの粒径サイズの範囲にこの粒度分布のメインピークがくる。すなわち、触媒インク中には、特に会合アグリゲートの体積頻度が最も高くなっている。
【0046】
なお、ここで粒度分布の測定は、レーザー散乱・回析法により、具体的にはマイクロトラック(登録商標)社製粒度分布装置HRA moderu9320-X100を用いて評価した。
【0047】
ところで、出願人は、触媒インク中のカーボン粒子の凝集体の粒度分布に起因して、この触媒インクを塗布して作製した燃料電池電極を用いた高分子電解質形燃料電池の性能が異なることを見出した。
【0048】
特に、触媒インク中のカーボン粒子の凝集体の粒度分布として図5に示すように、単独アグリゲート、会合アグリゲート及びアグロメレートが存在しており、その中で会合アグリゲートの粒子の割合が全分散粒子に対して体積頻度が最も高くなるようにすると、燃料電池の性能が向上することを見出した。図5は、本実施の形態に係る触媒インクにおけるカーボン粒子の凝集体の粒度分布を示すグラフである。
【0049】
図5に示すように、粒径が1μmとなる前後に会合アグリゲートを示す体積頻度の大きなピークがあり、粒径が0.3μm、十数μmそれぞれの前後に単独アグリゲート、およびアグロメレートそれぞれが現れる。
【0050】
図5に示すような粒度分布にしたがって凝集体が存在するように、触媒担持カーボンおよび含フッ素イオン交換樹脂と分散媒とを混合させ、超音波分散機、攪拌脱泡装置、湿式ジェットミルなどの分散機を用いて分散させれば、良好な電池出力を実現することができる。
【0051】
(凝集体の粒度分布と電池出力の関係)
以下において、より具体的に触媒インク中の凝集体の粒度分布と高分子電解質形燃料電池の電池出力との関係を説明する。
【0052】
まず、触媒インク中の触媒担持カーボンの分散として単独アグリゲート、会合アグリゲート及びアグロメレートが存在している中で、全体に対する単独アグリゲートの体積頻度が最も高くなる場合、高加湿条件下においてフラッティングが生じやすくなる。つまり、単独アグリゲートの割合が高い場合、ガスを通過させるための細孔が小さくなり、結果としてフラッティングの影響を受け、電池出力を十分に発揮することができない。
【0053】
一方、アグロメレートの割合、すなわち全体に対するアグロメレートの体積頻度が最も高くなる場合、低加湿条件下で、触媒活性が低下し、燃料電池の出力が小さくなる。つまり、アグロメレートの割合が高い場合、その凝集体の内部はイオノマーなどの含フッ素イオン交換樹脂に被覆されていないため、触媒活性が低くなる。
【0054】
会合アグリゲートの割合、すなわち全体に対する会合アグリゲートの体積頻度が最も高くなる場合、好ましくは2.5〜4.0%以上となる場合は、三相界面確保に最適なイオノマーの被覆厚みを形成することができる。
【0055】
つまり、含フッ素イオン交換樹脂存在雰囲気下で単独アグリゲート、会合アグリゲート及びアグロメレートを分散媒中で分散機器によって分散させる場合、アグロメレートのような相対的に大きな凝集体では、体積が大きいため、粒子間における衝突頻度が高くなる。このため、アグロメレートはせん断力がかかりやすく被覆された含フッ素イオン交換樹脂がそぎ落とされる量が大きくなるため、含フッ素イオン交換樹脂の被覆厚みが粒子全体の中で比較的薄くなる。
【0056】
逆に、単独アグリゲートのような相対的に小さな凝集体では、体積が小さいためせん断力がかかりにくく、含フッ素イオン交換樹脂の被覆厚みが粒子全体の中で比較的厚くなる。
【0057】
これに対して会合アグリゲートのようなアグロメレートと単独アグリゲートとの中間に位置する粒径の凝集体は、適度な体積により、せん断力が凝集体に適度にかかり、被覆された含フッ素イオン交換樹脂の厚みが最適化され三相界面が大きくなり電池特性が向上し燃料電池の出力が高まる。
【0058】
このように、会合アグリゲートの体積頻度が高くなることにより触媒担持カーボンに含フッ素イオン交換樹脂が均一に被覆できるようになり、三相界面が大きくなることによって電池特性が向上し、燃料電池の出力が高まる。
【0059】
さらにまた、会合アグリゲートよりも体積頻度が小さくはなるが、触媒インク中に単独アグリゲートおよびアグロメレートが存在することにより、以下の効果をもたらすことができる。
【0060】
例えば、触媒インク中に単独アグリゲートが存在し、図6に示すように会合アグリゲート間においてこの単独アグリゲートが接続されているとする。なお、図6は、本実施の形態に係る触媒インクの分散媒中において、会合アグリゲート間に単独アグリゲートが接続した状態の一例を示す図である。
【0061】
ここで、上述したように単独アグリゲートはイオノマーによって被覆されている。一方、会合アグリゲートがイオノマーによって完全に被覆されている割合は、その表面積の約80パーセント程度であると考えられる。このため、会合アグリゲート間の接合部分にはイオノマーによって完全に被覆されていない部分が存在することになる。
【0062】
そこで、この接合部分に形成された間隙に粒子径の小さい単独アグリゲートが入り込むことによって、イオノマーに被覆された状態を形成することができる。これによって、図6に示すように会合アグリゲート間に単独アグリゲートが接続された構造を有する場合、イオノマーが厚く被覆されている単独アグリゲートによってH導電性を補助することができる。
【0063】
また、会合アグリゲート間の接合部分における間隙を単独アグリゲートにより埋めることで、接合部分に形成された間隙において単独アグリゲートを介して電気が伝導することができるようになる。すなわち、電気伝導性が向上することとなる。
【0064】
一方、アグロメレートは、図3に示すように空隙を確保することが出来る構造である。このため、アグロメレートが触媒インク中に適度に存在することによりガス拡散ならびに排水性を確保することができる。
【0065】
したがって、触媒インク中にアグリゲートおよびアグロメレートも適度に存在することにより高加湿条件下でフラッティングが生じることを防止し、低加湿条件下で触媒活性が低下することを防ぐことができる。
【0066】
(触媒インクの製造工程)
次に、図7を参照して本実施の形態に係る触媒インクの製造工程について説明する。図7は、本実施の形態に係る触媒インクの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0067】
まず、触媒(例えば白金)担持カーボンの湿潤工程を実施する(ステップS11、これ以降S11と称する)。つまり、触媒担持カーボンに溶媒(分散媒)を添加し、スラリー化させる。
【0068】
次に、触媒担持カーボンの粉砕工程を実施する(S12)。つまり、市販されている粉末状カーボンは、2次凝集体、すなわちアグロメレートの形態で存在すると考えられる。このため、スラリー化した触媒担持カーボンはアグロメレートの状態となっていると考えられる。そこで、このアグロメレートの触媒担持カーボンを分散機によりほぐし、機械的に分散させる。そして、触媒担持カーボンがアグリゲートの構造を保持した状態で会合アグリゲートの状態に近づけるようにアグロメレートを小さくした状態になるようにせん断力およびせん断時間を制御する。
【0069】
ステップS12により、触媒担持カーボンをほぐすと、ほぐした状態の触媒担持カーボンに含フッ素イオン交換樹脂を添加させ、インク化させるイオン交換樹脂添加工程を実施する(S13)。なお、触媒担持カーボンに含フッ素イオン交換樹脂を添加させ、インク化させる際に、アニオン系界面活性剤も含フッ素イオン交換樹脂と一緒に混合させてもよい。
【0070】
このように、触媒担持カーボンに含フッ素イオン交換樹脂を添加すると、触媒担持カーボンの粒径制御工程を実施する(S14)。すなわち、界面活性剤である含フッ素イオン交換樹脂により、触媒インクの化学分散を進行させる。そしてさらに、会合アグリゲートの粒径範囲内でメインピークとなる分散状態となるようにせん断時間を調整して触媒インクの分散状態を制御する。
【0071】
具体的には、図8に示すように、触媒インクにおいて触媒担持カーボンに対するせん断時間の長短により凝集体の粒径と体積頻度との関係が決まる。図8は本実施の形態に係る触媒担持カーボンに対するせん断時間と、凝集体の粒径およびその体積頻度との関係を示すグラフである。
【0072】
つまり、せん断時間がA<B<Cの関係にある場合であって、せん断時間が短いとき(Aのとき)、粒径の大きい凝集体、すなわちアグロメレートの体積頻度が大きくなる。一方、せん断時間が長いとき(Cのとき)、粒径の小さい凝集体、すなわち、アグリゲートの体積頻度が大きくなる。このため、せん断時間をAとCとの間のBとし、会合アグリゲート(粒径が1μm前後)でメインピークとなるような分散状態となるように制御する。
【0073】
以上のように、会合アグリゲートの粒子の割合が全分散粒子に対して体積頻度が最も高くなるようにするためには、上述したように触媒担持カーボンと含フッ素イオン交換樹脂と分散媒とを混合する。そして、その後、ロールミル、超音波分散、攪拌脱泡装置、湿式ジェットミル等を用いてせん断力をかけて分散させるように制御する。また、適宜アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤からなる分散剤を使用してもよい。
【0074】
また、上記ではステップS11の触媒担持カーボンの湿潤工程において、触媒担持カーボンに溶媒(分散媒)を添加していたが、含フッ素イオン交換樹脂と分散媒とをあらかじめ混合させておき、それを触媒担持カーボンに添加してもよい。この場合、ステップS13のイオン交換樹脂添加工程を省略することができる。
【0075】
しかしながら、上述したように、触媒担持カーボンを分散媒で分散させたものに、含フッ素イオン交換樹脂を混合させた方が、得られる電池特性が向上するので好ましい。
【0076】
なお、上述した触媒インクには、必要に応じて他の物質を添加してもよい。例えば粘度を調節するための増粘剤又は増孔剤などを添加してもよい。増粘剤としては、セロソルブ系のものが使用でき、希釈剤としては、水、炭化水素、含フッ素炭化水素などが使用できる。増孔剤としては、シリカ、アルミナなどが使用できる。
【0077】
また、上述した触媒インクの製造工程によって製造した触媒インクからイオン交換膜の表面に燃料電池の電極を形成する場合、この触媒インクをイオン交換膜の表面に直接塗布するか、あるいはカーボンペーパーなど別のシート基材に塗布して得られる層をイオン交換膜の表面に転写または貼り付けることにより形成されていた。
【0078】
触媒インクのイオン交換膜又はシート基材への塗布は、スプレー方式、ダイコータ、リップコータ、コンマコータ、グラビアコータ、スクリーン印刷等の既存の方法が適用できる。電極をシート状基材に形成しこれをイオン交換膜に転写し又は貼り付ける場合、ホットプレス法、接着法などが使用できる。このように形成される電極の厚さは、好ましくは1〜50μm、特に10〜30μmが適切である。
【0079】
(実施例)
次に、実施例(例1)及び比較例(例2、3)によって具体的態様を詳しく説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0080】
まず、例1について、その具体的な態様について説明する。
【0081】
図7のステップS11に示す触媒担持カーボン湿潤工程において、水30.3gを混合した。
【0082】
さらにカーボンブラック粉末に白金を担持した白金担持カーボン(白金が触媒担持カーボン全重量中に50質量%)6.0gを添加する。そして、ステップS12に示す触媒担持カーボン粉砕工程では、この分散液を、攪拌脱泡装置を用いて30秒間分散させた。
【0083】
そして、ステップS13のイオン交換樹脂添加工程で、イオン交換樹脂を添加し、ステップS14の粒径制御工程を実行した後、分散後の分散液の粒子の粒度分布を、粒度分布装置を用いて測定した。なお、このとき、ステップS14の粒径制御工程における攪拌脱泡装置での分散処理時間を10分とする。
【0084】
また、高分子電解質膜2として、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜(厚さ30μm)を使用し、このイオン交換膜に対して、カソード側及びアノード側両面に上記分散液を、いずれも白金含有量が0.3mg/cmとなるようにダイコータで塗工した。
【0085】
なお、触媒インクを塗工するまでに1日以上放置してから塗工してもかまわない。
【0086】
次いで、80℃にて5分〜10分程度乾燥することにより厚さ約10μmのガス拡散層32,42を高分子電解質膜2の両面に形成したMEA(膜・電極接合体、(膜触媒層接合体))5(電極面積196cm)を作製した。
【0087】
次に、作製したMEA5を用いて燃料電池単セル1を組み立て、燃料電池単セル1におけるセル温度を90℃に設定する。そしてアノードに低加湿の水素ガスを、カソードに低加湿の空気を供給した後に電流密度:0.16A/cmで負荷を実施する。そして、12時間にわたり、電流密度一定で電流−電圧測定を実施した後に、今度は燃料電池単セル1のセル温度を65℃に設定する。そしてアノードに高加湿の水素ガスを、カソードに低加湿の空気を供給した後に電流密度:0.24A/cmで負荷を実施する。そして12時間にわたり、電流密度一定で連続して電流−電圧測定を実施した。そしてこの結果、得られた電圧の値を100として表1の例1として示す。
【0088】
これに対して、比較例(例2)として以下の条件でMEAを作製し、燃料電池単セルを組み立てるものとする。
【0089】
すなわち、カソード側、アノード側ともに、塗工する分散液の調整において、つまり、ステップS14の粒径制御工程において、攪拌脱泡装置での分散処理時間を30分に設定する。この分散処理時間以外は上述した例1と同様にしてMEA5を作製し、燃料電池単セル1を組み立て、その性能及び分散液の特性について同様に評価した。このときの結果を表1に示す。
【0090】
さらに、比較例(例3)として以下の条件でMEAを作製し、燃料電池単セルを組み立てるものとする。
【0091】
すなわち、カソード側、アノード側ともに、塗工する分散液の調整において、つまり、ステップS14の粒径制御工程において、攪拌脱泡装置での分散処理時間を3分に設定する。この分散処理時間以外は上述した例1と同様にしてMEAを作製し、燃料電池単セル1を組み立て、その性能及び分散液の特性について同様に評価した。このときの結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
以上のように、攪拌脱泡装置での分散処理時間を10分として作製したMEA5を用いた燃料電池単セル1の方が、アノード及びカソードを共に低加湿で運転した場合(セル温度90℃)、アノードを高加湿とし、カソードを低加湿として運転した場合(セル温度を65℃)ともに、安定した結果が得られることが分かる。
【0094】
以上のように、本発明に係る組成物は、以下の構成を有するものとすることができる。すなわち、本発明に係る組成物は、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、燃料電池における触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する組成物である。そして、組成物中において触媒担持カーボンは、触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびにアグリゲートとアグロメレートとの中間の凝集状態であり、アグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した場合、会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する。
【0095】
ここで組成物とは、触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する塗料であって、液状、ペースト状のものを含む。
【0096】
この構成によると、組成物中には、触媒担持カーボンの一次粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態により、アグリゲート単体の状態と、複数のアグリゲートが凝集した会合アグリゲートの状態と、さらに複数のアグリゲートが凝集したアグロメレートの状態とが混在する。そして、本発明に係る組成物では、レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した結果、会合アグリゲートの粒径範囲にこの粒度分布のメインピークを有している。つまり、組成物中において会合アグリゲートの状態の触媒担持カーボンが一番多く存在している。なお、会合アグリゲートの粒径範囲とは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲である。
【0097】
このように組成物中に会合アグリゲートが一番多く存在することで、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂を均一に被覆させることができ、三相界面が大きくなることによって電池特性が向上し、燃料電池の出力を高めることができる。
【0098】
また、会合アグリゲートだけではなく、体積頻度は小さくなるがアグリゲートも存在するため、このアグリゲートが会合アグリゲート間の接合部分の間隙に入り込むことにより、H導電性および電気伝導性を向上させることができる。
【0099】
また、体積頻度は小さくなるが空隙を有するアグロメレートも存在するため、ガス拡散性ならびに排水性を確保することができる。
【0100】
よって、本発明に係る組成物は、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができるという効果を奏する。
【0101】
また、以上のように、本発明に係る膜触媒層接合体は、以下の構成を有するものとすることができる。
【0102】
すなわち、本発明に係る膜触媒層接合体は、高分子電解質膜と、該高分子電膜上に配置された触媒層とを有する膜触媒層接合体である。そして、触媒層は、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンが、該触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびにアグリゲートとアグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する組成物を、高分子電解質膜に塗工することで形成される。
【0103】
ここで、組成物とは、触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する塗料であって、液状、ペースト状のものを含む。
【0104】
この構成によると、本発明に係る膜触媒層接合体は、触媒担持カーボンの一次粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態として、アグリゲート単体の状態と、複数のアグリゲートが凝集した会合アグリゲートの状態と、さらに複数のアグリゲートが凝集したアグロメレートの状態とが混在した組成物を高分子電解質膜に塗工することで形成される。そして、この組成物では、レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した結果、会合アグリゲートの粒径に対応する範囲にこの粒度分布のメインピークを有している。つまり、組成物中において会合アグリゲートの状態の触媒担持カーボンが一番多く存在している。なお、会合アグリゲートの粒径に対応する範囲とは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲である。
【0105】
このように組成物中に会合アグリゲートが一番多く存在することで、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂を均一に被覆させることができ、三相界面が大きくなることによって電池特性が向上し、燃料電池の出力を高めることができる。
【0106】
また、会合アグリゲートだけではなく、体積頻度は小さくなるがアグリゲートも存在するため、このアグリゲートが会合アグリゲート間の接合部分の間隙に入り込むことにより、H導電性および電気伝導性を向上させることができる。
【0107】
また、体積頻度は小さくなるが空隙を有するアグロメレートも存在するため、ガス拡散性ならびに排水性を確保することができる。
【0108】
よって、本発明に係る膜触媒層接合体は、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができるという効果を奏する。
【0109】
また、以上のように本発明に係る膜触媒層接合体の製造方法は、以下の製造方法を含むものとすることができる。
【0110】
すなわち、本発明に係る膜触媒層接合体の製造方法は、高分子電解質膜を準備し、この高分子電解質膜上に、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンの一次粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態として、触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され、且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートとを含み、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲にメインピークを有する組成物を塗工する。
【0111】
ここで、組成物とは、触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する塗料であって、液状、ペースト状のものを含む。
【0112】
この方法によると、触媒担持カーボン粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態として、アグリゲート単体の状態と、数個のアグリゲートが凝集した会合アグリゲートの状態と、さらに複数のアグリゲートが凝集したアグロメレートの状態とが混在した組成物を、高分子電解質膜に塗工することで膜触媒層接合体を形成する。
【0113】
そして、この組成物では、レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した結果、会合アグリゲートの粒径範囲にこの粒度分布のメインピークを有している。つまり、組成物中において会合アグリゲートの状態の触媒担持カーボンが一番多く存在している。なお、会合アグリゲートの粒径範囲とは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲である。
【0114】
このように組成物中に会合アグリゲートが一番多く存在することで、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂を均一に被覆させることができ、三相界面が大きくなることによって電池特性が向上し、燃料電池の出力を高めることができる。
【0115】
また、会合アグリゲートだけではなく、体積頻度は小さくなるがアグリゲートも存在するため、このアグリゲートが会合アグリゲート間の接合部分の間隙に入り込むことにより、H導電性および電気伝導性を向上させることができる。
【0116】
また、体積頻度は小さくなるが空隙を有するアグロメレートも存在するため、ガス拡散性ならびに排水性を確保することができる。
【0117】
よって、本発明に係る膜触媒層接合体の製造方法では、電池特性を向上させ、燃料電池の出力を高めるとともに、高加湿条件下でのフラッティングを防止し、低加湿条件下で触媒活性の低下を防ぐことができるという効果を奏する。
【0118】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の高分子電解質形燃料電池は、自動車などの移動体、分散発電システムおよび家
庭用のコージェネレーションシステムなどに好適に利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0120】
1 燃料電池単セル
2 高分子電解質膜
3 燃料極
4 空気極
5 MEA
6 セパレータ
7 セパレータ
31 燃料極触媒層
32 ガス拡散層
41 空気極触媒層
42 ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、燃料電池における触媒層を形成するために高分子電解質膜に塗工する組成物であって、
当該組成物中において触媒担持カーボンは、該触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態であり、アグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、
レーザー散乱・回折法により組成物中の粒度分布を測定した場合、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する組成物。
【請求項2】
前記触媒担持カーボンが担持する触媒は、白金又は白金合金である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
高分子電解質膜と、該高分子電膜上に配置された触媒層とを有する膜触媒層接合体であって、
前記触媒層は、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンが、該触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートの状態で含まれており、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲に粒度分布のメインピークを有する組成物を、高分子電解質膜に塗工することで形成される膜触媒層接合体。
【請求項4】
前記触媒担持カーボンが担持する触媒は、白金又は白金合金である請求項3に記載の膜触媒層接合体。
【請求項5】
高分子電解質膜を準備し、
この高分子電解質膜上に、触媒担持カーボンと、イオン交換樹脂と、分散媒とを含み、触媒担持カーボンの一次粒子が結合して生成されたアグリゲートの凝集状態として、触媒担持カーボンの粒子が結合して生成された一次凝集体のアグリゲート、該アグリゲートが複数集まって形成された二次凝集体のアグロメレート、ならびに該アグリゲートと該アグロメレートとの中間の凝集状態でありアグリゲートが複数集まって形成され且つ所定の粒径範囲の粒径を有する凝集体である会合アグリゲートとを含み、レーザー散乱・回折法により測定することで得られる粒度分布において、前記会合アグリゲートの所定の粒径範囲にメインピークを有する組成物を塗工する、膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子膜上に前記組成物を、ダイコータ、リップコータ、コンマコータ、グラビアコータ、スクリーン印刷、またはスプレー方式を用いて塗工する請求項5記載の膜触媒層接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−51173(P2013−51173A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189458(P2011−189458)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】