説明

組換えベクター、形質転換体、および、それを用いたホルモンの製造方法

【課題】抗生物質生産の調整に関与するホルモンの製造に使用できる組換えベクターの提供。
【解決手段】下記(A)および(B)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクターとする。
(A) 特定の塩基配列からなるDNA(B) 前記(A)の塩基配列において1個もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、且つ、下記式(1)で表される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質の生産を制御するホルモンの生合成遺伝子を含む組換えベクター、それを導入した形質転換体、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
Streptomyces等の放線菌は、様々な抗生物質を生産することが知られているが、これらの抗生物質の生産は、通常、自己調節因子(autoregulator)と呼ばれる低分子ホルモン(分子量190〜260程度)によって調節されている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この低分子ホルモンの放線菌における生産量は、例えば、1トンあたり数mg程度であり、精製や合成が困難であることから、それ自体の研究が困難である。また、このように生産を制御する低分子ホルモンが入手し難いことから、どのような抗生物質がどのようなメカニズムで低分子ホルモンによりその生産が制御されているのかという、抗生物質の生合成に関する研究にも利用し難いという問題がある。さらに、低分子ホルモンの生合成系に関与する酵素をコードする遺伝子については、本発明者らにより、最終工程に関与するNADPH特異性脱水酵素遺伝子(BarS1遺伝子)が報告されているのみであって(非特許文献2参照)、遺伝子側からのアプローチも困難な状況である。
【非特許文献1】Nihira, T. 2003. In Microbial Secondary Metabolites: Biosynthesis, Genetics and Regulation. 99-119. F. Fierro and J. F. Martin, ed. Research Signpost., Leon.
【非特許文献2】Shikura, N., Yamamura, J., Yamada, Y. & Nihira, T. 2002. 「barS1, the first identified gene for the biosynthesis of a (-butyrolactone autoregulator, a microbial hormone eliciting antibiotic production in Streptomyces species.」 J. Bacteriol. 184: 5151-5157.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、抗生物質生産の調整に関与するホルモンの製造に使用できる組換えベクター、形質転換体、およびこれを用いたホルモンの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明の組換えベクターは、下記(A)および(B)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクターである。
(A) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(B) 前記(A)の塩基配列において1個もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、且つ、下記式(1)で表される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0006】
また、本発明の形質転換体は、宿主に組換えベクターが導入された形質転換体であり、前記組換えベクターが、本発明の組換えベクターであることを特徴とする。
【0007】
本発明は、形質転換体の培養工程を含むホルモンの製造方法であって、前記形質転換体が、本発明の形質転換体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、放線菌、特にStreptomycesにおける抗生物質の生産を制御するホルモンの生合成系について鋭意研究を行った。その結果、各種ホルモンの共通骨格の形成に関与すると推測される酵素のコード遺伝子(以下、「barS2遺伝子」という)を、同定するに至った。
【0009】
放線菌Streptomycesの抗生物質生産に関与するホルモン、いわゆる自己調節因子(autoregulator)としては、以下のような物質が報告されている。なお、ホルモンの化合物名は以下の通りである。
VB‐A
(2R, 3R, 1'R)-2-(1'-α-ヒドロキシ-5'メチル-ヘキシル)-3-(ヒドロキシメチル)ブタノリド
VB‐B
(2R, 3R, 1'R)-2-(1'-α-ヒドロキシ-4'メチル-ヘキシル)-3-(ヒドロキシメチル)ブタノリド
VB‐C
(2R, 3R, 1'R)-2-(1'-α-ヒドロキシヘキシル)-3-(ヒドロキシメチル)ブタノリド
VB‐D
(2R, 3R, 1'R)-2-(1'-α-ヒドロキシヘプチル)-3-(ヒドロキシメチル)ブタノリド
VB‐E
(2R, 3R, 1'R)-2-(1'-α-ヒドロキシ-4'メチル-ペンチル)-3-(ヒドロキシメチル)ブタノリド
【0010】
【化2】

【0011】
これらのホルモンの生合成経路の一例として、VB-Aの推定生合成系を以下に示す。生合成系の中でも、γ-ブチロラクトン骨格を有する中間体からブタノリド(butanolide)への脱水反応(前記式(1)で表される反応)は、列挙した各種ホルモンに共通の工程であり、且つ、ホルモンの生合成系における律速反応にあたると考えられる。このため、この脱水反応を触媒する酵素をコードする遺伝子を単離し、これを放線菌において発現させれば、前記式(1)の反応が促進される。このような考えに基づいて、本発明者らは、前記式(1)で表される反応を触媒する酵素のコード遺伝子を同定し、この遺伝子を挿入した組換えベクターの構築に至ったのである。したがって、本発明の組換えベクターや形質転換体を用いれば、例えば、前記式(1)の反応を触媒する酵素を遺伝子工学的に発現させることができるため、形質転換体におけるホルモンの生産量を増加することが可能となる。そして、このようにホルモンの生産を増加できれば、ホルモン自体の研究や、これによって制御される抗生物質生合成系の研究の試薬としても使用できるため、極めて有用である。
【0012】
【化3】

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の組換えベクターは、前述のように、下記(A)および(B)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクターである。なお、配列番号1のDNAがコードするアミノ酸配列を配列番号2に示す。
(A) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(B) 前記(A)の塩基配列において1個もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、且つ、前記式(1)で表される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0014】
前記(B)において、欠失、置換または付加が可能な塩基数は、前記式(1)で表される反応の触媒活性を喪失しない範囲であれば特に制限されない。例えば、50塩基に対して、1〜6個が好ましく、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個である。特に、欠失・付加の場合には、例えば、3の倍数個(例えば、3)であることが好ましい。また、配列番号1の3’末端にさらに終止コドン(例えば、tga)を有してもよい。なお、前記式(1)における反応生成物は、下記式の状態をとると考えられる。
【0015】
【化4】

【0016】
また、本発明の組換えベクターに挿入される遺伝子は、前記式(1)で表される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば、例えば、前記(A)のDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよいし、前記(A)との相同性が90%以上のDNAでもよい。
【0017】
ハイブリダイズのストリンジェントな条件とは、例えば、当該技術分野における標準の条件があげられるが、例えば、温度条件は、各配列番号で示された塩基配列のTm値の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃である。条件の具体例として、5×SSC溶液、10×Denhardt溶液、100μg/mlサケ精子DNAおよび1%SDS中、65℃でのハイブリダイゼーション、0.2×SSCおよび1%SDS中、65℃、10分の洗浄(2回)があげられる。また、相同性は、例えば、90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは97.5%以上である。
【0018】
なお、配列番号1で表される遺伝子は、Streptomyces virginiae MAFF 10-06014株より同定した。この遺伝子が、前述の各種ホルモンの生合成遺伝子であることは、表現系がホルモン生産型である野生株について、この遺伝子を不活性化させた破壊株を作製し、この破壊株の表現型がホルモン非生産型となったことにより証明されている。
【0019】
本発明の組換えベクターは、前記遺伝子をベクターに挿入することによって構築できる。遺伝子のベクターへの挿入は、従来公知の方法によって行うことができる。
【0020】
前記ベクターとしては、特に制限されないが、例えば、本発明の組換えベクターを導入する宿主の種類に応じて適宜決定できる。具体例としては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウィルスベクター等があげられる。宿主が放線菌の場合には、例えば、汎用ベクターであるpSET152等が使用できる。
【0021】
つぎに、本発明の形質転換体は、前述のように、宿主に組換えベクターが導入された形質転換体であり、前記組換えベクターが、本発明の組換えベクターであることを特徴とする。
【0022】
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターが宿主に導入されていればよく、前述のようなホルモンを生産するものであれば、宿主の種類は制限されない。宿主の具体例としては、例えば、Streptomyces等の放線菌等があげられ、Streptomycesとしては、例えば、S. virginiae、S. bikiniensis、S. cyaneofuscatus、S. griseus、S. coelicolor、S. lavendulae 等があげられる。また、宿主は、所望のホルモンの種類に応じて適宜決定してもよく、前述のVB型の場合には、例えば、S. virginiae、S. bikiniensis、S. cyaneofuscatus、A-factor型の場合には、例えば、S. griseus、IM−2型の場合には、例えば、S. coelicolor、S. lavendulae等があげられる。
【0023】
組換えベクターの宿主への導入方法は、特に制限されず、例えば、大腸菌を用いた接合伝達法等、従来公知の方法が採用できる。
【0024】
つぎに、本発明のホルモンの製造方法は、前述のように、形質転換体の培養工程を含み、前記形質転換体が、本発明の形質転換体であることを特徴とする。
【0025】
培養条件は、形質転換体の種類に応じて決定できるが、放線菌の場合、例えば、培養温度25〜28℃、培養時間24〜72時間である。使用する培地としては、例えば、f-broth(7.5g/L Bacto Casitone、7.5g/L Yeast Extract、15g/L グリセロール、2.5g/L NaCl、pH6.5)等があげられる。
【0026】
形質転換体により生成されたホルモンは、通常、培地に含まれるため、遠心分離等によって菌体を除去し、上清を回収すればよい。ホルモンの精製方法の一例を以下に示す。回収した前記上清を濃塩酸等によりpH5に調整し、等量以上の酢酸エチルを用いて、前記上清からホルモンの抽出を2回行う。回収した酢酸エチル層に無水硫酸ナトリウムを適量加えて数時間放置し、前記酢酸エチル層から水分を除去する。そして、ろ過により無水硫酸ナトリウムを除去して酢酸エチル層のみを回収し、これを減圧蒸留によって濃縮乾固し、エタノールに再溶解することによって、ホルモンサンプルを得ることができる。
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらに制限されるものではない。
【実施例1】
【0028】
barS2遺伝子破壊株の作製
まず、野生株S. virginiae MAFF 10-06014株(National Food Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry, and Fisheries, Tsukuba, Japan)のゲノムDNAから、barS2遺伝子の一部(468bp)を欠失させた遺伝子破壊株(disruptant)を、以下に示す方法によって作製した。
【0029】
図1(A)に、S. virginiaeのbarS2遺伝子周辺の制限酵素地図ならびに遺伝子座を示し、図1(B)および図2に、barS2遺伝子破壊株ならびに補完株(complemented strain)を作製するための相同組換えの概略を示す。同図において各略称は以下の通りである。amp,アンピシリン耐性遺伝子;apr,アプラマイシン耐性遺伝子;A,Aor51HI;B,BamHI;E,EcoRI;H,HindIII;N,NaeI;No,NotI;Nr,NruI;P1,PvuI;P2,PvuII;S,SphI;Sm,SmaI;X,XbaI;WT,野生株。
【0030】
S. virginiae MAFF 10-06014株のゲノムDNAから、barS2遺伝子が中心に位置するEcoRI-EcoRI断片(10kb)を切り出し、pUC19のEcoRI部位に挿入して、組換えプラスミドpSVB100を作製した。そして、このpSVB100のAor51HI-NotI断片(4kb)をpUC19のPstI部位に挿入し、組換えプラスミドpSVB101を作製した。さらに、pSVB101のNruI-XbaI断片を除去し、そのNruIおよびXba部位に、NaeI断片(2.25kb)を挿入して、barS2遺伝子の部分的な欠損によりbarS2遺伝子が破壊されたプラスミドpSVB102を構築した。なお、DNAシークエンシングにより、pSVB102において、部分的に欠損しているbarS遺伝子(ΔbarS2)は、468bpのin−frame欠損を起こしていることを確認した。
【0031】
pSVB102から、完全なΔbarS2遺伝子(4.75kb)をHindIII-EcoRI断片として切り出し、E. coliからStreptomycesへの伝達を行う接合伝達性プラスミドpKC1132のHindIII-EcoRI部位に連結させて、組換えプラスミドpSVB103を作製した。このpSVB103を、pUZ8002を有するE. coli ET12567株に導入し、さらに、この形質転換体とS. virginiae MAFF 10-06014株とを接合伝達させた。そして、S. virginiaeの染色体上においてpSVB103がsingle crossoverにより連結した接合伝達体を、アプラマイシンにより選択した(single crossover株)。そして、pSVB103導入株を、アプラマイシン無添加のISP2寒天培地(Difco社製)で培養した後(28℃、3ラウンド)、second crossoverにより形成された、barS2遺伝子が欠損した破壊株(SVBD1株)を、アプラマイシン感受性によって選択した。
【0032】
復帰株(revertant)の作製
前述のsecond crossoverの際に、前記遺伝子破壊株と同時に生じる、遺伝子型が野生株と同等の復帰株(revertant)を取得した。
【0033】
barS2遺伝子補完株(complemented strain)の作製
また、barS2遺伝子破壊株(SVBD1株)を補完するために、完全なbarS遺伝子を含むPvuI-PvuII断片(1.45kb)を、その推定プロモーター領域(pbarS2)とともに、pSVB101から単離し、SmaI処理したpUC19に挿入して、組換えプラスミドpSVB104を作製した。そして、pSVB104のXbaI-EcoRI断片を、XbaI-EcoRI処理した接合伝達性プラスミドpSET152に連結させてpSVB105を作製した。pUZ8002を有するE. coli ET12567株からSVBD1株に、pSVB105を接合伝達させ、アプラマイシン耐性接合完了体(barS2遺伝子補完株)を得た。
【0034】
S. virginiae MAFF 10-06014株(野生株:WT)、single crossover株、barS2遺伝子破壊株(SVBD1株)、復帰株および補完株からそれぞれDNAを抽出し、これを鋳型DNAとして、以下の配列番号で表されるプライマーを用いてPCRを行った。得られたPCR産物についてのアガロースゲル電気泳動写真を図3(A)に示す。なお、同図において、レーンWは野生株、レーンSはsingle crossover株、レーンDはbarS2遺伝子破壊株(SVBD1株)、レーンRは復帰株、レーンCは補完株の結果を示す。
Forward primer(SV5-F:配列番号3)
5'- ACCCTGGTGGTCGACGGCGGGTTCACCAT -3'
Reverse primer(SV5-R:配列番号4)
5'- TGGTCACCGGATCGACCGGTTTCAT -3'
【0035】
前述のように抽出した各DNAをSphIで処理し、この切断物について、プローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。なお、野生株、single crossover株、破壊株(SVBD1株)および復帰株のプローブとしては、pSVB101のSphI-NaeI断片(1kb)を、補完株のプローブとしては、pSVB104のNaeI-BamHI断片(436bp)を使用した。
【0036】
まず、図3(A)に示すように、野生株のPCR産物が約1kbであるのに対して、pSVB103導入株およびbarS2遺伝子破壊株(SVBD1株)のPCR産物は約0.54kbであることから、barS2遺伝子の一部(約0.46kb)が欠失していることを確認できた。また、復帰株のPCR産物が野生株と同様に約1kbであることから、完全なbarS2遺伝子が復帰していることを確認できた。また、図3(B)に示すように、野生株のSphI断片は、1.5kbであるのに対して、pSVB103導入株およびbarS2遺伝子破壊株(SVBD1株)のSphI断片は1.5kbおよび0.9kbであることから、barS2遺伝子の一部が欠失していることを確認できた。また、復帰株は、野生株と同様の結果を示したことから、完全なbarS2遺伝子が復帰していることが確認できた。
【実施例2】
【0037】
barS2遺伝子の形態への影響を確認した。
【0038】
実施例1における野生株、barS2遺伝子破壊株(SVBD1株)、barS2遺伝子補完株を、それぞれISP2寒天培地にまき、28℃で14日間培養した。この結果を、図4に示す。図4は、寒天培地での生育状態を示す写真であり、Aは野生株、BはbarS2遺伝子破壊株(SVBD1株)、CはbarS2遺伝子補完株をそれぞれ示す。
【0039】
また、各種株について液体培養を行い、その経時的な生育状態をOD600として測定した。液体培地の組成は、7.5g/L Bacto Casitone(Difco Laboratories社製)、7.5g/L Yeast Extract(Difco Laboratories社製)、15g/Lグリセロール、2.5g/L NaClとした(pH6.5、以下同じ)。この液体培地70mlに胞子1×108個となるように前述の株をそれぞれ接種し、28℃で所定時間(0〜48時間)攪拌培養した(140strokes/分)。培養後の菌体を回収して同量の前記液体培地に懸濁し、使用時まで−80℃で凍結させた。そして、凍結菌体を室温に放置してから、三角フラスコ中の液体培地70mlに懸濁し、そのOD600を測定した。その結果を図5に示す。
【0040】
図4および図5に示すように、いずれの株についても生育に差は見られていない。このことから、barS2遺伝子は、形態分化や一次代謝には関与しておらず、二次代謝に関与していると推測される。
【実施例3】
【0041】
VB生成の確認
次に、実施例2と同様の野生株、破壊株および補完株を培養し、VB生成の有無を確認した。
【0042】
まず、前培養として、前述の各株(胞子1×108)を70mlのf-brothで振とう培養した。培養条件は、24時間、140strokes/分とした。前培養後、回収した菌体をf-brothで2回洗浄し、等量の新たなf-brothに懸濁して、使用時まで−80℃で保存した。凍結させた前培養の菌体を室温に放置した後、final OD600が0.075になるように70mlのf-brothに前記菌体を添加した。そして、これを前述の前培養と同様の条件でインキュベートし本培養を行った。所定時間(12時間、18時間、24時間)培養した後、培養液から菌体を除去し、得られた上清を0.45μmのフィルターに通し、ろ液を以下の条件でHPLCに供してVMの生成を確認した。そして、抗生物質バージニアマイシン(VM)生産の誘導に必要なVB-Aの最小量(0.6ng/ml(2.6nM))を1ユニットとして、VB活性を求めた。VB活性の結果を下記表1に示す。また、VMの経時的な生産量の変化を図6に示す。
【0043】
(HPLC条件)
カラム :逆相カラム
(商品名Cosmosil 5C18 カラム:ナカライテスク社製)
サイズ :直径4.6mm×150mm
溶出条件 :(5分間)
20%*1アセトニトリル-0.1% TFA*2
(30分間)
20-80%アセトニトリルリニアグラジェント
(洗浄)
100%アセトニトリル
流速 :0.75ml/分
検出波長 :UV305nm
*1:%=体積%
*2:TFA=トリフルフルオロ酢酸
【0044】
(表1)
VB活性(U/ml)
培養時間 野生株 破壊株 補完株
12時間 0.2 0.2 0.2
18時間 228.5 0.2 228.5
【0045】
前記表1および図6に示すように、barS2遺伝子を部分的に欠失させることによって、破壊株ではVBを生成できなくなり、その結果、VM生産の誘導が抑制された。また、barS2遺伝子を補完することによって、復帰株では再度VBが生成され、VM生産の誘導が可能となった。以上の結果から、barS2がVBの生成に関与していることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明によれば、従来少量しか生産されなかった、抗生物質生産を制御するホルモンを効率良く生産できる。このため、例えば、試薬としての提供が容易になるため、ホルモン自体の研究はもちろんのこと、これによって制御される抗生物質の生合成経路の研究を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(A)は、本発明の一実施例における、barS2遺伝子周辺の制限酵素地図ならびに遺伝子座を示す図であり、(B)は、相同組換えの概略を示す図である。
【図2】本発明の前記実施例における相同組換えの概略を示す図である。
【図3】(A)は、本発明の一実施例におけるPCR産物のアガロースゲル電気泳動の写真であり、(B)は、サザンハイブルダイゼーションのラジオグラムである。
【図4】本発明のその他の実施例における生育状態を示す写真であり、(A)は野生株、(B)は遺伝子破壊株、(C)は補完株の結果を示す。
【図5】本発明のその他の実施例における、野生株、遺伝子破壊株および補完株の生育曲線を示すグラフである。
【図6】本発明のその他の実施例における経時的なVM生産量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)および(B)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクター。
(A) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(B) 前記(A)の塩基配列において1個もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、且つ、下記式(1)で表される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードするDNA
【化1】

【請求項2】
宿主に組換えベクターが導入された形質転換体であり、
前記組換えベクターが、請求項1の組換えベクターであることを特徴とする形質転換体。
【請求項3】
前記宿主が放線菌である、請求項2記載の形質転換体。
【請求項4】
前記放線菌が、Streptomycesである、請求項3記載の形質転換体。
【請求項5】
形質転換体の培養工程を含むホルモンの製造方法であって、
前記形質転換体が、請求項2〜4のいずれか一項に記載の形質転換体であることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記ホルモンが、放線菌の抗生物質生産を調整するホルモンである、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホルモンが、γ-ブチロラクトン骨格を有する化合物である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホルモンが、VB型、IM−2型およびA-factor型からなる群から選択された少なくとも一つのγ-ブチロラクトン骨格を有する化合物である、請求項6記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−129940(P2007−129940A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325304(P2005−325304)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】