説明

組換え細菌における上昇したエタノール産生

本発明は、グリセロールを含む成長培地において培養された場合に増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌に関する。組換え細菌は、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする挿入された異種遺伝子、および/またはグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする上方制御された固有の遺伝子を含む。特に、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)から得たE.C. 1.1.1.6 型の、NAD 依存性グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする挿入された異種遺伝子を有するサーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii) 種の組換え細菌 BG1G1が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、グリセロールを含む培地において培養された場合、上昇したエタノール産生能力を有する組換え細菌に関する。組換え細菌は、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする挿入された異種遺伝子、および/またはグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする上方制御された固有の遺伝子(native gene)を含む。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
世界のエタノール産生は2005年には総計460億リットルに至っており、急速に増えつつある(欧州委員会、2006)。エタノールの産生はデンプンまたは糖のいずれかからであり得、それらは元々はグルコースからなるか、または、木、わら、草、または農業および生活廃棄物などのリグノセルロース物質(lignocellulosic material)に由来する。リグノセルロース物質の主な構成要素は、ポリマーであるセルロースおよびヘミセルロースである。セルロースは比較的均質なグルコースのポリマーであるが、ヘミセルロースはより複雑な様々なペントースおよびヘキソースの構造である。ヘミセルロースの複雑な組成は、糖を遊離させるためにバイオマスの前処理の様々な手段を必要とし、また、様々な発酵生物を必要とする。発酵によりエタノールを産生するためには、糖を迅速にエタノールに変換することができ、非常に高いエタノール収率を備えた微生物が必要である。伝統的には、酵母、Saccharomyces cerevisiaeまたは細菌、Zymomonas mobilisなどの生物が用いられてきたが、これらの生物にはヘミセルロースからペントース糖類の発酵となった場合には特に限界があり、コンタミネーションの危険がある。
【0003】
リグノセルロース物質は地球上でもっとも豊富な炭水化物源であり、このバイオマスにおいて第二に重要な糖はペントース糖であるキシロースである。リグノセルロース性バイオマスからのエタノール産生が経済的に望ましいのであれば、ペントースを含むすべての糖が使われなくてはならない。
【0004】
好熱性嫌気性細菌は、リグノセルロース物質からのエタノール産生の有望な候補であることが判明している(WO 2007/134607)。主な利点はそれらの広い基質特異性および高い天然のエタノール産生である。さらに、高温(55-70℃)でのエタノール発酵は中温性(mesophilic)発酵と比較して多くの利点を有する。一つの重要な利点は連続培養におけるコンタミネーションの問題の最小化である。というのはわずかな微生物のみがかかる高温にて成育することができるからである。
【0005】
WO 2007/053600Aには、グルコースとキシロースとからのエタノールの化学量論収率に非常に近い収率が、Thermoanaerobacterium saccharolyticumにおいて乳酸デヒドロゲナーゼ、ホスホトランスアセチラーゼおよび酢酸キナーゼをコードする遺伝子を欠失させることによって得ることができることが記載されている。しかし、このアプローチは、複数のホスホトランスアセチラーゼおよび酢酸キナーゼ遺伝子を有する好熱性生物には適用することができず、グリセロールの利用を促進することにならない。
【0006】
エタノール収率はバイオエタノールの生産経済にとって非常に重要である。というのは、バイオマス価格または生産コストの上昇を伴わずにより多い収益がえられうるからである。大腸菌については、いったん酵素レベルおよび基質が制限因子にならなくなれば、補因子利用可能性および補因子の還元形態と酸化形態との比がアルコール収率の制限因子になりうることが示されている (Berrios-Rivera et al.、2002)。
【0007】
特定のClostridiaの成長培地(growth medium)へのグリセロールの添加が、アルコールの産生を上昇させうることが示されている(Vasconcelos et al.、1994)。しかし、最適アルコール産生はグリセロール/グルコース比が2の場合に達成され、それゆえグリセロールは大きな出費のもとであると考えられている。
【0008】
グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、1,2-プロパンジオールの産生の促進のために大腸菌へと(Berrios-Rivera et al.、2003)、そして1,3-プロパンジオールの産生の促進のためにClostridium acetobutylicum へと(Gonzalez-Pajuelo et al.、2006)導入された。両方の場合において、グリセロールデヒドロゲナーゼは生産されるプロパンジオールへ至る直接経路の中にあり、プロパンジオールの産生はかかる遺伝子が存在しなければ起こらない。グリセロールデヒドロゲナーゼの主な機能は、細胞の酸化還元バランスを変更するためではなく、むしろ、新規経路を提供するためのものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ本発明の一つの目的は、上記障害を克服することができる、エタノール産生能力が上昇した、組換え細菌、特に好熱性嫌気性細菌を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
したがって、本発明は、グリセロールを含む成長培地中で培養した場合に増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌に関する。該組換え細菌は、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする挿入された異種遺伝子、および/またはグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする上方制御された固有の遺伝子を含む。
【0011】
本発明はさらに、本発明による細菌を培養することによるエタノールを産生する方法に関し、該方法はグリセロールおよび多糖源を含む成長培地中で好適な条件下で本発明による細菌を培養する工程を含む。
【0012】
最後に、グリセロールを含む成長培地中にて培養した場合に増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌の生産方法が提供され、ここで該方法は、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子の挿入、および/または、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする固有の遺伝子の上方制御により親細菌を形質転換すること; および組換え細菌を得ることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】好熱性嫌気性エタノール産生細菌における嫌気的代謝のモデルおよび固有の(native) 補因子に非依存性の解糖経路の上流部分および新規に導入されたNAD+ 依存性のグリセロール分解経路を示す略図である。実線(−)元々のNAD+ 非依存性経路、破線(----)新規に追加された NAD+ 依存性経路、XIM=キシロースイソメラーゼ、XK=キシロースキナーゼ、PP 経路=ペントースリン酸経路、GLDH=グリセロールデヒドロゲナーゼ、DhaK=ジヒドロキシアセトンキナーゼ、TPI=トリオースリン酸イソメラーゼ、LDH=乳酸デヒドロゲナーゼ、PFOR=ピルビン酸-フェレドキシンオキシドレダクターゼ、PTA=ホスホトランスアセチラーゼ、AK=酢酸キナーゼ、ALDH=アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、PDC=ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ADH= アルコールデヒドロゲナーゼ。
【図2】Thermoanaerobacter BG1の乳酸デヒドロゲナーゼとカナマイシン耐性カセットおよびサーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)のグリセロールデヒドロゲナーゼとの置換に用いた直鎖状DNA 断片の模式図である。上流 ldh および下流 ldhは、BG1の乳酸デヒドロゲナーゼの上流および下流の725 bpおよび630 bp 領域を表す。Pxylはgldh遺伝子を転写するプロモーターである。
【図3】2つの独立の BG1G1 クローンのPCR分析である。A)外側(external)乳酸デヒドロゲナーゼ領域プライマーを用いた、BG1、BG1L1、および2つのBG1G1 クローンからの染色体 DNAに対するPCR。 B)制限酵素EcoRI (上側部分)およびPstI (下側部分)を用いたAにおいて示す断片の制限分析。
【図4】親株 BG1、および、乳酸デヒドロゲナーゼ欠失を有する親株(BG1L1、DSM 受入番号 18283)と比較したBG1G1の生産収率である。発酵はバッチにて行った。
【図5】乳酸デヒドロゲナーゼ欠失を有する親株(BG1L1)と比較したBG1G1の5つの独立のクローンの生産収率である。発酵はバッチにて行った。
【図6】成長培地中のグリセロールの濃度の関数としてのBG1G1の2つの別々のクローンによって生産された酢酸(アセテート)と比べてのエタノールの比である。
【図7】上向流(upflow) リアクターにおけるキシロースとグリセロールとの混合物の連続発酵からの流入水(influent) (白い印)およびリアクターの内側(黒い印)における様々な化合物の濃度である。
【図8】連続発酵における糖変換およびエタノール収率 (g/g)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌に関する。より具体的には、グリセロールを含む成長培地中で培養した場合、細菌についてのエタノール産生特性が、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子の挿入および/またはグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする既存の固有の遺伝子の上方制御によって顕著に向上しうることが見いだされた。
【0015】
本明細書の文脈において「エタノール」という用語は、分子式 C2H5OHを有する直鎖アルコールであるとして理解すべきである。エタノールはまた、一般に「エチルアルコール」、「グレイン・アルコール」および「飲用アルコール」とも称される。エタノールについてのしばしば用いられる代替の表記法はCH3-CH2-OHであり、これはメチル基(CH3-)の炭素がメチレン基(-CH2-)の炭素に結合しており、それがヒドロキシル基(-OH)の酸素に結合していることを示す。エタノールについて広く用いられている頭字語はEtOHである。
【0016】
グリセロールは合理的なコストにて世界の市場で入手可能な化合物である。本明細書の文脈において「グリセロール」という用語は一般式HOCH2CH(OH)CH2OHを有する化合物を意味すると意図される。グリセロールは無色無臭の粘稠液であり、製剤処方において広く用いられている。グリセロールはまた、グリセリン(glycerinまたはglycerine)とも一般に称されており、それは糖アルコールであり、甘い味がして毒性は低い。グリセロールはバイオディーゼル生産の10%副生成物であり、グリセロールの価格はバイオディーゼル生産の上昇のために過去数年の間に劇的に低下してきている。バイオディーゼル生産が指数関数的に増加しているため、植物油のエステル交換から生じるグリセロールも生成量が増えてきている。グリセロールのもう一つの源は酵母に基づくエタノール発酵である。したがって、デンプンに基づくエタノール生産の上昇によっても、グリセロールの入手可能性が増すことになるであろう。
【0017】
本発明による細菌は、上記のように、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする挿入された異種遺伝子および/または上方制御された固有の遺伝子を含む。グリセロールデヒドロゲナーゼ活性を有する多数の有用な酵素が当該技術分野において知られている。現在好ましい態様において、グリセロールデヒドロゲナーゼは、グリセロールデヒドロゲナーゼ (E.C 1.1.1.6); グリセロールデヒドロゲナーゼ (NADP(+)) (E.C. 1.1.1.72); グリセロール 2-デヒドロゲナーゼ (NADP(+)) (E.C. 1.1.1.156); およびグリセロールデヒドロゲナーゼ (アクセプター) (E.C. 1.1.99.22)から選択される。
【0018】
上記グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする有用な遺伝子は、多数の様々な源、例えば、真菌および細菌等の微生物、および動物細胞、例えば 哺乳類細胞および昆虫細胞に由来しうる。
【0019】
現在好ましい態様において、グリセロールデヒドロゲナーゼは、上記のように、E.C. 1.1.1.6 型のもの、即ち、以下の反応: グリセロール + NAD(+) <=> グリセロン(glycerone) + NADH 、を触媒するNAD 依存性 グリセロールデヒドロゲナーゼ (別名は 「NAD-結合型グリセロールデヒドロゲナーゼ」)である。 E.C. 1.1.1.6 型、即ちNAD 依存性グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、サーモトガ(Thermotoga)群の細菌、例えば、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)の細菌から得ることができる。
【0020】
別の態様において、グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子はジオバチルス(Geobacillus)群の細菌に属する細菌、例えば Geobacillus stearothermophilusに由来する。また、有用なグリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、その他の細菌、例えば、大腸菌、Salmonella typhimurium、Clostridium botulinum、Vibrio vulnificus、Clorobium ferrooxidans、Geobacter Lovleyi、Ruminococcus gnavus、Bacillus coagulans、Klebsiella pneumoniae、Citrobacter koseri、Shigella boydii、Klebsiella pneumoniae、Clostridium butyricum、Vibrio sp.、およびSerratia proteamaculansに由来しうると考えられる。多数のE.C. 1.1.1.6 型 グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする有用な遺伝子は添付の配列表に示される(配列番号1-17)。
【0021】
したがって、E.C. 1.1.1.6 型 グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子は、有用な態様において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16および配列番号17からなる群から選択され得る。
【0022】
これら遺伝子の調製および微生物への組込みの方法は当該技術分野において周知であり、例えば、Sambrook & Russell ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” (Third Edition)、Cold Spring Harbor Laboratory Pressから得られ、これはとりわけ、好適な遺伝子操作手段および遺伝子操作手順を用いてどのようにして遺伝子が挿入、欠失または実質的に不活性化されうるか記載している。
【0023】
外来遺伝子の染色体組込み(integration)はプラスミドに基づくコンストラクションと比較して数々の利点を与えうる。したがって、異種グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子は本発明によると細菌の染色体へと組み込まれうる。特定の態様において、異種グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、該細菌の乳酸デヒドロゲナーゼをコードする領域へと挿入される。さらなる態様において、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子は、本発明による細菌のホスホトランスアセチラーゼをコードする領域へ挿入される。さらに別の態様において、異種グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、該細菌の酢酸キナーゼをコードする領域へ挿入される。
【0024】
グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子は誘導可能、調節性または構成的プロモーターに作動可能に連結していてもよい。有用な態様において、プロモーターはキシロース誘導可能プロモーターである。
【0025】
遺伝子発現(gen-expression)の上方制御はシグナル(細胞の内側または外側で生じる)によって引き起こされる細胞内で起こるプロセスであり、その結果1以上の遺伝子の発現上昇が起こり、そしてその結果、それら遺伝子によってコードされるタンパク質の発現上昇が起こる。したがって、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする親細菌における既存の固有の遺伝子を上方制御することにより、親細菌を形質転換することによって、組換え細菌が得られうることも本発明の範囲内である。遺伝子の上方制御のための多数の方法および系が当該技術分野において周知であり、とりわけ、遺伝子発現を可能とする誘導物質が存在しない限りは系がオフとなる誘導可能系が周知である。ひとつの周知の系はLac オペロンであり、これは3つの隣接する構造遺伝子、プロモーター、ターミネーター、およびオペレーターからなる。lacオペロンは、グルコースおよびラクトースの利用可能性を含むいくつかの因子によって制御されている。
【0026】
特定の態様において、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子、および/またはグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする上方制御された固有の遺伝子が、多コピープラスミド上で過剰発現された。
【0027】
改変のために選択された細菌は「野生型」であるといわれ、即ち、それらは研究室で生じた突然変異体ではない(本明細書の文脈において「親細菌」および「親非組換え細菌」とも称される)。野生型細菌は、有用なエタノール産生細菌種を含むと期待される環境サンプルから単離されうる。単離された野生型細菌はエタノールを産生する能力を有するが、改変されない場合、比較的低い収率にてエタノールを産生する。分離株は有用な態様において、ヘキソースおよび/またはペントース糖、およびそのオリゴマー上で、好熱性温度において成育するその能力について選択されうる。
【0028】
選択された野生型細菌および結果として得られる本発明の組換え細菌は、選択した細菌に応じて常套の培養条件下で培養すればよい。基質、温度、pH およびその他の培養条件の選択は公知の培養要求条件に基づいて選択することができる。
【0029】
しかし、以下の実施例から理解されるように、本発明は特に、好熱性組換え細菌におけるエタノール収率の向上に特に適している。したがって本発明による組換え細菌株は好ましくは好熱性細菌である。
【0030】
この高温にて作動できる本発明による組換え細菌は特に、リグノセルロース物質の発酵生成物への変換において非常に重要である。炭水化物の、例えばエタノールへの変換速度は高温で行った場合にかなりより速い。例えば、好熱性 Bacillusにおけるエタノール生産性は30℃にて作動する常套の酵母発酵プロセスと比較して10倍もより速い。したがって、所定の体積の生産性のためにより小さい生産プラントが必要とされ、それによってプラントの構築コストが低減される。また先に記載したように、高温においては、他の微生物からのコンタミネーションのリスクが低く、その結果、休止時間がより少なく、プラントの生産性がより高く、原料の滅菌に必要なエネルギーがより小さくなる。高い作動温度はまた結果として得られる発酵生成物の後の回収を促進しうる。
【0031】
したがって、好ましい態様において、組換え細菌は、約 40-95℃の範囲、例えば、約 50-90℃の範囲、約 60-85℃の範囲など、例えば約 65-75℃の範囲の温度において成育することができる。
【0032】
本発明による組換え細菌を作るために用いられる野生型細菌はいずれの好適なエタノール産生細菌であってもよいが、細菌がFirmicutesの分類(division)、特に Clostridia綱(class)に由来するのが好ましい。
【0033】
上記のように、本発明は特にエタノール生産性好熱性細菌におけるエタノール収率の向上のために好適であり、以下の実施例から明らかなように、それは特に即ち、その成育に酸素を必要としない細菌である、嫌気性細菌である好熱性細菌におけるものである。したがって、細菌は有用な態様において、大気レベルの酸素にさらされると死滅する細菌である偏性嫌気性菌でありうる。それらは、存在すれば酸素を使用できる通性嫌気性菌、または酸素の存在下で生存できるが、最終電子アクセプターとして酸素を使用しないために嫌気性である酸素耐性細菌であってもよい。
【0034】
特に細菌は、Clostridia綱(class)、特に、Thermoanaerobacteriales目からの好熱性嫌気性細菌、例えばThermoanaerobacteriaceae科からのもの、例えば、サーモアナエロバクター属(genus of Thermoanaerobacter)からのものであるのが好ましい。
【0035】
したがって本発明によると、サーモアナエロバクター属の細菌は、Thermoanaerobacter acetoethylicus、Thermoanaerobacter brockii、Thermoanaerobacter brockii subsp. brockii、Thermoanaerobacter brockii subsp. finnii、Thermoanaerobacter brockii subsp. lactiethylicus、Thermoanaerobacter etanolicus、Thermoanaerobacter finnii、Thermoanaerobacter italicus、Thermoanaerobacter kivui、Thermoanaerobacter lacticus、サーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii)、Thermoanaerobacter pacificus、Thermoanaerobacter siderophilus、Thermoanaerobacter subterraneus、Thermoanaerobacter sulfurophilus、Thermoanaerobacter tengcongensis、Thermoanaerobacter thermocopriae、Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricus、Thermoanaerobacter wiegelii、Thermoanaerobacter yonseiensisからなる群から選択されうる。
【0036】
特定の態様において、そして以下の実施例から明らかなように、サーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii)由来の細菌は、BG1 (DSMZ 受入番号 18280)およびその突然変異体から選択するとよい。BG1は以前にWO 2007/134607において記載されており、その良好なエタノール産生能力について知られている。WO 2007/134607において、有利な態様において、基礎となる株 BG1を、向上した特性を有するBG1の突然変異体または誘導体を得るために改変してもよいことが記載されている。したがって、一つの態様において、本発明による組換え細菌は、1以上の遺伝子が挿入、欠失または実質的に不活性化されたBG1の変異体または突然変異体である。
【0037】
以下の実施例においてみられるように、本発明者らによって、BG1のエタノール産生能力が、キシロース誘導可能 プロモーターの制御下でのサーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのグリセロールデヒドロゲナーゼの、乳酸デヒドロゲナーゼ領域への挿入、それによる乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の除去によって顕著に上昇しうることが見いだされた。結果として得られた組換え細菌をBG1BG1と命名した。
【0038】
したがって、現在好ましい態様において、組換え細菌は、ブダペスト条約にしたがって2007年3月23日にDSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Mascheroder Weg 1b、38124 Braunschweig、GermanyにDSMZ 受入番号 19229の下で寄託されたサーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii) 株 BG1G1である。
【0039】
添付の実施例において示すように、グリセロールデヒドロゲナーゼの挿入は、グルコース上で成育したBG1BG1からの抽出液における顕著なNAD+ 特異的グリセロールデヒドロゲナーゼ活性を導く一方、野生型細菌 BG1においては活性は検出されない。
【0040】
BG1BG1は理論収率に近いエタノールを産生するのみならず、それはまた添加したグリセロールの有意な割合を消費することが見いだされ、それによりグリセロールが糖濃度の50%未満しか存在しない基質からのエタノール産生が可能となる。グリセロールはエタノール産生施設において典型的には生産されるので、この生成物の使用は非常に好ましいものであり得る。グリセロールはバイオディーゼル産生施設から購入することも可能であり、かかる施設では粗グリセロールが大量に入手可能である。少量のみのグリセロールがエタノール産生の増強に必要であるため、グリセロール中の有意な量の不純物が耐用されうる。
【0041】
BG1BG1のエタノール収率は 、野生型 BG1と比較して少なくとも 36%、そしてグリセロールデヒドロゲナーゼが挿入されずに乳酸デヒドロゲナーゼが欠失された突然変異体と比較して15%上昇することも観察された。グリセロールデヒドロゲナーゼの発現がエタノール収率のこの上昇において役立っていることが示される。というのは、グリセロールデヒドロゲナーゼ酵素活性または上昇した収率は、株がキシロースの非存在下で培養され、プロモーターが活性ではなくそれゆえグリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子が発現していない場合は観察されないからである。
【0042】
以下の実施例はまた、特定の態様においてキシロースと比較して最小濃度の40% (w/w)のグリセロールが効果を得るために必要であること、および400% (w/w)までの上昇は収率に有意に影響を与えないことを示す。これは広範なグリセロール濃度が耐用され得ることを示し、このことは株が工業的に使用されるべき場合には作動安定性にとって重要である。
【0043】
野生型エタノール産生細菌のエタノール収率は本発明によると顕著に向上しうる。したがって、好ましい態様において、エタノール産生特性が少なくとも 5%、例えば 少なくとも 10%、例えば 少なくとも 15%、例えば 少なくとも 20%、例えば 少なくとも 25%、例えば 少なくとも 30%、例えば 少なくとも 35%、例えば 少なくとも 40%、例えば 少なくとも 45%、例えば 少なくとも 50%、例えば 少なくとも 55%、例えば 少なくとも 60%、例えば 少なくとも 65%、例えば 少なくとも 70%、例えば 少なくとも 75%、例えば 少なくとも 80%、例えば 少なくとも 85%、例えば 少なくとも 90%、例えば 少なくとも 95%、例えば 少なくとも 100%、例えば 少なくとも 150% および例えば 少なくとも 200%、対応する野生型細菌 (親非組換え細菌)と比較して向上している組換え細菌が提供される。
【0044】
本発明の組換え細菌は、上記のように、グリセロールを含む成長培地中で培養される。グリセロールの正確な量または濃度は有意に変動し得、グリセロール濃度を変動させることによってエタノール収率を最適化することは当業者の能力の範囲内である。特定の態様において、細菌は、グリセロールを少なくとも 0.1 g/L、例えば 少なくとも 0.5 g/L、例えば 少なくとも 1 g/L、例えば 少なくとも 2 g/L、例えば 少なくとも 3 g/L、例えば 少なくとも 4 g/L、例えば 少なくとも 5 g/L、例えば 少なくとも 6 g/L、例えば 少なくとも 7 g/L、例えば 少なくとも 8 g/L、例えば 少なくとも 9 g/L、例えば 少なくとも 10 g/L、例えば 少なくとも 15 g/L、および例えば 少なくとも 20 g/Lの量にて含む成長培地において培養される。
【0045】
本発明のさらなる態様において、成長培地はグリセロールを、1〜10 g/Lの範囲、例えば1-8 g/Lの範囲、例えば1-5 g/Lの範囲、例えば1-4 g/Lの範囲の量にて含む。
【0046】
いくつかの変形態様(variants)において、成長培地は、単糖類、オリゴ糖類および多糖類からなる群から選択される炭水化物を含む。
【0047】
いくつかの興味深い態様において、1以上のさらなる遺伝子が細菌において挿入および/または欠失されている。
【0048】
特定の態様にとって、本発明による組換え細菌に1以上のさらなる遺伝子を挿入することが望ましい場合がある。したがって、エタノール収率または別の特定の発酵生成物の収率を向上させるために、ポリサッカラーゼをコードする1以上の遺伝子を本発明による株に挿入することが有益であり得る。したがって、特定の態様において、以下から選択されるポリサッカラーゼをコードする1以上の遺伝子が挿入された本発明による株が提供される:セルラーゼ(EC 3.2.1.4); ベータ-グルカナーゼ、例えば、グルカン-1,3 ベータ-グルコシダーゼ (エキソ-1,3 ベータ-グルカナーゼ、EC 3.2.1.58)、1,4-ベータ-セロビオヒドロラーゼ (EC 3.2.1.91)およびエンド-1,3(4)-ベータ-グルカナーゼ (EC 3.2.1.6); キシラナーゼ、例えば、エンド-1,4-ベータ-キシラナーゼ (EC 3.2.1.8)およびキシラン 1,4-ベータ-キシロシダーゼ (EC 3.2.1.37); ペクチナーゼ(EC 3.2.1.15); アルファ-グルクロニダーゼ、アルファ-L-アラビノフラノシダーゼ (EC 3.2.1.55)、アセチルエステラーゼ (EC 3.1.1.-)、アセチルキシランエステラーゼ (EC 3.1.1.72)、アルファ アミラーゼ (EC 3.2.1.1)、ベータ-アミラーゼ (EC 3.2.1.2)、グルコアミラーゼ (EC 3.2.1.3)、プルラナーゼ (EC 3.2.1.41)、ベータ-グルカナーゼ (EC 3.2.1.73)、ヘミセルラーゼ、アラビノシダーゼ、マンナーゼ、例えば、マンナン エンド-1,4-ベータ-マンノシダーゼ (EC 3.2.1.78)およびマンナン エンド-1,6-アルファ-マンノシダーゼ (EC 3.2.1.101)、ペクチンヒドロラーゼ、ポリガラクツロナーゼ (EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ (EC 3.2.1.67)およびペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)。
【0049】
所望の発酵生成物に応じて、特定の態様において、ピルビン酸デカルボキシラーゼ (例えば EC 4.1.1.1)をコードする異種遺伝子の挿入またはアルコール デヒドロゲナーゼ (例えば EC 1.1.1.1、EC 1.1.1.2、EC 1.1.1.71、またはEC 1.1.99.8)をコードする異種遺伝子の挿入または既存の遺伝子(固有の遺伝子)、例えば、アルコール デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の上方制御または下方制御が有用であると考えられる。
【0050】
特定の態様において、ホスホトランスアセチラーゼ および/または 酢酸キナーゼをコードする1以上の遺伝子の欠失も有用であり得ると考えられる。
【0051】
本発明の細菌の一つの変異体(variant)において、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする1以上の遺伝子が挿入された。本発明の細菌のもう一つの変異体において、ホスホトランスアセチラーゼをコードする1以上の遺伝子が欠失された。本発明の細菌のさらに別の変異体において、酢酸キナーゼをコードする1以上の遺伝子が欠失された。本発明の細菌のさらに別の変異体において、1以上のさらなる遺伝子が、上方制御および/または 下方制御された。
【0052】
上記改変を組み合わせることができることを理解すべきである。
【0053】
本発明はまた、エタノールを生産する有効な方法を提供し、該方法は本発明による細菌をグリセロールおよび炭水化物源を含む成長培地中にて好適な条件下で培養することを含む。
【0054】
炭水化物源は、本発明による組換え細菌のための基質として働く。本明細書の文脈において、「炭水化物源」という用語は、一般化学式 Cn(H2O)nを有する化合物を含む意図である。したがって、「炭水化物」という用語は、単糖類、オリゴ糖類および多糖類ならびに、カルボニル基の還元によって (アルジトール、例えば、糖アルコール、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールおよびラクチトール、およびそれらの混合物)、カルボン酸への1以上の末端基の酸化によって、または1以上の水酸基の、水素原子、アミノ基、チオール基または類似のヘテロ原子基による置換によって、単糖類から由来する物質を含む。それはまた、かかる化合物の誘導体を含む。
【0055】
(オリゴ糖または多糖に対して)「単糖」という総称は、その他のかかる単位とのグリコシド結合を有さない単一の単位をいう。それは、アルドース、ジアルドース、アルドケトース、ケトースおよびジケトース、ならびにデオキシ糖およびアミノ糖、およびそれらの誘導体を含むが、ただし、その親化合物は(潜在的な)カルボニル基を有する。「糖」という用語は、しばしば単糖類および低分子(lower)オリゴ糖類に適用される。典型的な例は、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ガラクトースおよびマンノースである。
【0056】
「オリゴ糖類」は、単糖単位がグリコシド結合によって連結した化合物である。単位の数に応じて、それらは、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類等と称される。多糖類との境界は厳密には決められない; しかしながら、「オリゴ糖」という用語は、特定されない長さまたは同種の(homologous)混合物のポリマーに対して、規定された構造を称するのに一般に用いられる。例としてはスクロースおよびラクトースが挙げられる。
【0057】
「多糖類」は互いにグリコシド結合によって連結した多数の単糖残基からなる巨大分子に対する名称である。
【0058】
現在好ましい態様において、本発明による組換え細菌は、デンプン、グルコース、リグノセルロース、セルロース、ヘミセルロース、グリコーゲン、キシラン、グルクロノキシラン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、グルコマンナン、キシログルカン、およびガラクトマンナンから選択される多糖源の存在下で培養される。
【0059】
リグノセルロース性バイオマス (即ち、植物材料)からのエタノール産生は、輸送燃料のためのエネルギーの制限のない低コストの再生可能源として広く注目を集めてきた。原料コストが生産コストの30%以上を占めるので、経済的には、リグノセルロース性バイオマスに存在するすべての主要な糖が発酵されてエタノールになることが重要である。様々なリグノセルロース物質の加水分解に由来する主な発酵可能な糖はグルコースおよびキシロースである。デンプン材料からの工業的エタノール産生のために現在用いられている微生物である、Saccharomyces cerevisiaeおよびZymomonas mobilisは、キシロースおよびその他のペントース糖を自然に代謝することができない。リグノセルロース糖類からの燃料エタノール産生のための組換えヘキソース/ペントース-発酵微生物の開発において過去20年間にかなりの努力がなされてきたが、遺伝子操作されたエタノール生産菌(ethanologens)に伴う一般的な問題はグルコースとその他の糖との、「グルコース抑制」として知られる共発酵、即ち、逐次的糖利用であり、キシロース変換はグルコース枯渇の後にのみ開始し、その結果「キシロース倹約(sparing)」、即ち不完全なキシロース発酵が起こる。グルコースとキシロースとの共発酵はそれゆえ、リグノセルロース性原料からのエタノール生産コストの削減において重要な工程である。好熱性嫌気性細菌は、リグノセルロース性加水分解物に存在するすべての様々なモノマー性糖を発酵することができる特有の形質を有する。さらに、燃料エタノール産生のための好熱性微生物の工業的利用は、高い生物変換速度、低いコンタミネーションリスク、混合、冷却を介するコスト削減、および生成物の回収の向上といった多くの潜在的な利点を提供する。しかしこれらの微生物は、高エタノール濃度に感受性であり、高基質濃度において低いエタノール収率をもたらす。
【0060】
以下の実施例から明らかなように、本発明の組換え好熱性細菌 BG1BG1は、非常に高い乾物濃度のリグノセルロース性加水分解物においてエタノールを生産することができる。本明細書の文脈において、「リグノセルロース性加水分解物」という用語は、リグノセルロース物質が少なくとも部分的に分離されてセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンとなり、それによって物質の表面積が増える前処理工程に供されたリグノセルロース性バイオマスをいう意図である。有用なリグノセルロース物質は、本発明によると、植物材料、例えば、わら、干し草、庭のごみ、家庭のごみ、木、果物の殻、種子の殻、トウモロコシの殻、オートムギの殻、大豆の殻、トウモロコシ繊維、まぐさ、トウワタの鞘、葉、種子、果実、草、木、紙、藻類、ワタ、ヘンプ、亜麻、ジュート、ラミー、パンヤ、バガス、飼料、醸造用穀類、油ヤシ、トウモロコシ、シュガーケーンおよびシュガービートに由来しうる。
【0061】
ある態様において、リグノセルロース性バイオマス材料は液体成長培地中に、少なくとも 10% wt/wt、例えば 少なくとも 15% wt/wt、例えば、少なくとも 20% wt/wt、例えば 少なくとも 25% wt/wt、例えば、少なくとも 35% wt/wtの乾物含量にて存在する。
【0062】
本発明の方法のさらなる態様において、リグノセルロース性バイオマス材料は、酸加水分解、蒸気爆発、湿式酸化、湿式爆発および酵素加水分解から選択される前処理工程に供されたものである。
【0063】
もっともしばしば用いられる前処理方法は酸加水分解であり、ここでリグノセルロース物質が、酸、例えば、硫酸に供され、それにより糖ポリマーであるセルロースおよびヘミセルロースが部分的にまたは完全にそれらを構成する糖モノマーへと加水分解される。別のタイプのリグノセルロース加水分解は蒸気爆発、即ち、リグノセルロース物質を水蒸気圧入により190-230℃の温度へと加熱することを含む方法である。第三の方法は湿式酸化であり、ここで、材料は150-185℃で酸素により処理される。前処理の後に酵素加水分解を行って糖モノマーの遊離を完全にすることもできる。この前処理工程の結果、セルロースがグルコースへと加水分解され、ヘミセルロースがペントースであるキシロースおよびアラビノースおよびヘキソースであるグルコース、ガラクトースおよびマンノースへと変換される。前処理工程には特定の態様において、セルロースとヘミセルロースとのさらなる加水分解をもたらす処理を追加してもよい。かかる追加の加水分解処理の目的は、セルロースおよび/またはヘミセルロース源の酸加水分解、湿式酸化、または蒸気爆発により生じたオリゴ糖および可能であれば多糖種を加水分解して発酵可能な糖(例えば、グルコース、キシロースおよび可能であればその他の単糖類)を形成させることである。かかるさらなる処理は化学処理であっても酵素処理であってもよい。化学的加水分解は典型的には酸による処理、例えば、硫酸水溶液による、温度範囲約 100-150℃での処理により達成される。酵素的加水分解は典型的には1以上の適当なカルボヒドラーゼ酵素、例えば、セルラーゼ、グルコシダーゼおよびヘミセルラーゼ、例えば、キシラナーゼによる処理によって行われる。
【0064】
本発明による組換え細菌株 BG1BG1が、乾物含量が少なくとも 10% wt/wt、例えば 少なくとも 15% wt/wt、例えば、少なくとも 20% wt/wt、また、より高くは少なくとも 25% wt/wtである加水分解されたリグノセルロース性バイオマス材料を含む培地において成育することができることが驚くべきことに見いだされた。これは発酵プロセスの前に加水分解物を希釈する必要がないであろうという大きな利点を有し、それによってより高濃度のエタノールを得ることが可能となり、そしてエタノールを次いで回収するコストが削減されうる (エタノールの蒸留コストはアルコール濃度が低下すると上昇する)。
【0065】
本発明によるエタノールの生産方法は、グリセロールの存在下で組換え細菌を培養することを含む。したがって、好ましい態様において、該方法は、グリセロールを、少なくとも 0.1 g/L、例えば 少なくとも 0.5 g/L、例えば 少なくとも 1 g/L、例えば 少なくとも 2 g/L、例えば 少なくとも 3 g/L、例えば 少なくとも 4 g/L、例えば 少なくとも 5 g/L、例えば 少なくとも 6 g/L、例えば 少なくとも 7 g/L、例えば 少なくとも 8 g/L、例えば 少なくとも 9 g/L、例えば 少なくとも 10 g/L、例えば 少なくとも 15 g/L、および例えば 少なくとも 20 g/Lの量にて含む成長培地中にて細菌を培養することを含む。本発明のさらなる態様において、成長培地は、1〜10 g/Lの範囲、例えば、1-8 g/Lの範囲、例えば、1-5 g/Lの範囲、例えば、1-4 g/Lの範囲の量にてグリセロールを含む。
【0066】
実施例において示すように、本発明による方法は、特定の態様において、厳密な嫌気性条件(strict anaerobic condition)、即ち酸素が存在しない条件下にて行われる発酵プロセスであってもよい。
【0067】
発酵プロセスは、有用な態様において、多数の異なる作動様式、例えば、バッチ発酵、流加回分発酵または連続発酵を用いて作動されるバイオリアクターにおいて行ってもよい。連続発酵プロセスは例えば、連続かくはん槽型 リアクターまたは連続上向流(upflow) リアクターを用いて行うことができる。
【0068】
エタノール産生が連続作動様式にて実行できることは工業的に非常に重要であり得る。というのは、新たな始動に起因する休止時間は非常にコストがかかりうるからである。実施例において示すように、BG1G1を連続作動様式にて作動させたところ、1g 基質(キシロースおよびグリセロール)当たり0.47 g エタノールものエタノール収率が得られ、これはClostridiaの代謝経路に基づく理論的最大収率の92%に対応する。もし代わりに該収率が糖基質であるキシロースにのみ基づき、グリセロールを追加であるとみなすならば、最大収率は1g キシロース当たり0.55 g エタノールであり、これは108%に対応する。これはエタノールの好ましい源が存在する場合、エタノール産生のために本発明の組換え細菌を用いることの大きな可能性を示す。
【0069】
以前に言及したように、本発明による組換え細菌株は、有用な態様において好熱性細菌であり得る。添付の実施例に示すように、組換え細菌 BG1BG1は好熱性かつ厳密な嫌気性細菌であり、70℃以上の高温においてさえ成育することができる。該株がかかる高温において作動可能であるという事実は、リグノセルロース性(ligocellulosic)材料の発酵生成物への変換において非常に重要である。炭水化物の、例えばエタノールへの変換速度は、高温にて実施された場合にかなりより速い。例えば、好熱性 Bacillusにおけるエタノール生産性は30℃で作動する常套の酵母発酵プロセスよりも10倍までも速い。したがって、より小さい生産プラントが所定の容量の生産性に必要とされ、それによってプラント構築コストが削減される。これもまた以前に言及したように、高温においては、その他の微生物からのコンタミネーションのリスクが低下しており、その結果、より少ない休止時間、より高いプラント生産性および原料滅菌のためのより低いエネルギー必要性が得られる。高い作動温度はまた、結果として得られる発酵生成物の続く回収を促進することも可能である。
【0070】
したがって、本発明によるエタノール産生方法は好ましくは、約 40-95℃の範囲、例えば約 50-90℃の範囲、例えば約 60-85℃の範囲、例えば約 65-75℃の範囲における温度にて実施される。
【0071】
本発明による方法はさらに、エタノール回収工程を含んでいてもよい。発酵ブロスからのエタノール回収のための多数の技術が知られており、それらには、蒸留 (例えば、真空蒸留)、溶媒抽出(ガソリンは発酵ブロスからのエタノールの直接抽出のための溶媒として用いられうる)、パーベーパレイション (膜透過とエバポレーションとの組合せ)および疎水性吸着剤の使用が含まれる。
【0072】
本発明による方法はさらに、余剰のグリセロールがバイオガスに変換される工程(例えば、メタン生成)を含んでいてもよいと考えられ、バイオガスは、エネルギー、例えば熱および電力の生成のために次いで使用されうる。
【0073】
本発明にしたがって、グリセロールを含む成長培地において培養された場合、増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌を生産する方法も提供される。組換え細菌を生産する方法は、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子の挿入によって、または、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする野生型細菌の既存の固有の遺伝子の上方制御によって、野生型 (親細菌)を形質転換する工程を含む。同じ細菌において異種遺伝子の挿入と固有の遺伝子の上方制御との両方を行うことも本発明の範囲内である。方法はさらに組換え細菌を得る工程を含む。
【実施例】
【0074】
材料および方法
以下の材料および方法を以下の実施例において適用した:
株および培養(growth)条件
株 BG1を嫌気的に70℃のアイスランドの温泉から分離した。すべての株は (Larsen et al.、1997)におけるようにして特に断りの無い限り2 g/L イーストエクストラクトを含む最小培地 (BA)中で70℃で嫌気的に培養した。固体培地については、11 g/L phytagel および追加の3.8 g/L MgCl2・6H2Oを有するBA 培地を含む回転培養管 (Hungate RE、1969; Bryant MP、1972)を用いた。クローニングの目的のために、大腸菌 Top10 (Invitrogen、USA)を用いた。Top10を必要な場合100μg/mL アンピシリンを追加したLuria-Bertani 培地 (Ausubel et al.、1997)にて37℃で常套的に培養した。
【0075】
湿式酸化した(Wet oxidized)わら材料を、Bjerre et al. (Bjerre et al.、1996)に記載の湿式酸化前処理方法を用いて20 %の乾燥固体濃度にて調製した。材料にBA 培地におけるような微量金属およびビタミンを添加し、最終濃度となるまで水中で希釈した。
【0076】
発酵
すべての発酵実験は、厳密に嫌気条件下にて10% (v/v) 接種材料を用いてバッチ発酵として実施した。5g/L グルコース/キシロースおよび2.5g/L グリセロールを追加した10 mLのBA 培地を特に断りの無い限り用いた。培養物は70℃で培養し、サンプルは48時間の培養の後に収集した。
【0077】
上向流(upflow)リアクターにおける連続発酵のために、培地を調製し、特に断りの無い限り上記と同じミネラル、微量金属、およびイーストエクストラクトを追加した。培地の最初のpHは7.4-7.7に調整し、120℃で30分間オートクレーブにかけた。嫌気性条件を確保するために、培地に45分間 N2/CO2 (4:1)混合物を流し入れ、最後にNa2Sをボトルに注入して最終濃度0.25 g/Lとした。
【0078】
リアクターはウォーター・ジャケットの備えられた(water-jacketed) ガラス柱であってその内側直径は4.2 cmであり高さは20 cmであった。リアクターの可動範囲(working volume)は200 mLであった。流入水(influent)がリアクターの底から入り、供給は蠕動ポンプ (Model 503S-10rpm、Watson Marlow、Falmouth、UK)により制御された。再循環流は同一の蠕動ポンプ(Model 503-50rpm、Watson Marlow、Falmouth、UK)を用いて達成し、再循環の程度は、リアクターにおける上向流(upflow) 速度が1 m/hとなることを確保するようにした。pHは特に断りの無い限りNaOH (1-2 M)の添加により7.0に維持した。リアクターにFaxe 廃水処理プラント (Denmark)にあるUASB リアクター起源の75 mLの滅菌した粒状スラッジを負荷し、最後に、管類および再循環リザーバを含むリアクターシステム全体を120℃で30分間オートクレーブにかけた。使用前に、リアクターシステムを15分間N2/CO2 (4:1)で通気し、嫌気性条件を確実にし、最初のキシロースおよびグリセロール濃度が17.5 g/Lおよび9.7 g/LであるBA 培地を満たした。リアクターを吸光度 (OD578)が0.9-1の10 mLの細胞懸濁液の接種によってバッチ様式にて始動させた。バッチ様式の作動は48時間維持して、キャリアマトリックスに細胞が付着し、その上に固定化されることを可能とした。バッチランの後、システムを、24時間のHRT および1 m/hの上向流(upflow) 速度を適用する連続様式に変更した。
【0079】
分析方法
株は抗生物質を含まないBA 培地中でバッチ様式で上記のように24-48 時間培養した。
【0080】
培養上清を、セロビオース、グルコース、キシロース、アセテート(acetate)、ラクテート(lactate)およびエタノールについて、有機酸分析カラム(Aminex HPX-87H column (Bio-Rad Laboratories、CA USA))を用いてHPLCで65℃にて4 mM H2SO4 を溶出液として用いて分析した。エタノールおよびアセテート測定は、炎イオン化検出を備えたガスクロマトグラフィーを用いて確認した。混合糖は、Phenomenex、RCM Monosaccharide (00H-0130-K0) カラムを用いて80℃にて水を溶出液として用いてHPLCにて測定した。マンノースおよびアラビノースはこの設定を用いては区別不可能であり、それゆえ別の培養において試験した。水素はGC82 ガスクロマトグラフ(MikroLab Aarhus、Denmark)を用いて測定した。
【0081】
酵素および試薬
特に断りの無い限り、酵素はMBI Fermentas (Germany)によって供給されたものであり、供給者の推奨にしたがって用いた。PCR 反応は Taq ポリメラーゼとPfu ポリメラーゼとの1 ユニット : 1 ユニット混合物を用いて行った。化学物質は分子生物学グレードであり、Sigma-Aldrich Sweden ABから購入した。
【0082】
gldh遺伝子挿入カセットの構築
サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのグリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子の、BG1の乳酸デヒドロゲナーゼ(dehydroganse)領域への挿入に用いたDNA 断片を図 2に示し、以下を含む:
1)プライマーldhup1F (配列番号18; 5’−TTCCATATCTGTAAGTCCCGCTAAAG)およびldhup2R (配列番号19; 5’−ATTAATACAATAGTTTTGACAAATCC)を用いて増幅された、BG1のl-ldh 遺伝子の上流のDNA 断片、
2)プラスミドpUC18HTK (Hoseki et al.、1999)から増幅した高度に熱安定性のカナマイシン耐性をコードする遺伝子、
3)プロモーター、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)の完全な gldh オープンリーディングフレームおよびrho 非依存性ターミネーターから構成される、発現カセット、および、
4)プライマーldhdown3F (配列番号20; 5’−ATATAAAAAGTCACAGTGTGAA)および ldhdown4R (配列番号21; 5’−CACCTATTTTGCACTTTTTTTC) を用いて増幅された、BG1のl-ldh 遺伝子の下流のDNA 断片。プラスミド p3CHは直鎖化してBG1へとエレクトロポレーションした。
【0083】
グリセロールデヒドロゲナーゼアッセイ
試験株のGldh 活性は以下に記載するようにして測定した。試験株を5 g/L グルコース/キシロースおよび2.5 g/L グリセロールを増殖基質として含む100 mLのBA 培地中で70℃にて嫌気性条件下で培養した。OD578が〜0.5のときに培養物を50 mLの培養液の40,000 rpmでの4℃、30分間の遠心分離によって収集した。ペレットを、50 mM Tris-HCL、10% グリセロールおよび1 mM MgCl2 から構成されるpH 8.0の2 mLの氷冷抽出バッファー中に再懸濁した。細胞を2分間氷浴中で超音波処理した(Digital Sonifier: Model 250; Branson Ultrasonics Corporation、Danbury、U.S.A.)。超音波処理した細胞を20,000gで4℃にて30分間遠心分離した。上清を、以前に記載されているような(Burton、R. M.; 1955)連続分光高度速度決定(continuous spectrophotometric rate determination)方法を用いる、70℃にてpH 8.0でのGldh 活性アッセイに用いた。1ユニットを、70℃およびpH 8.0にて1分当たり1μmolのNADHを生産する酵素の量として定義した。細胞抽出液中の総濃度は常套的にブラッドフォード法により (Bradford、M.M.、1976)、ウシ血清アルブミン (BSA)を標準として用いて測定した。
【0084】
計算
発酵を70℃で行う場合エタノールの有意な損失が観察されるが、ガス相の圧縮はみられない。この損失を考慮に入れるため、以下の式を用いた。
【数1】

[式中、Ciは化合物 i、即ち、消費された基質または生じた生成物の濃度 (g/L)であり、 Miは化合物 iの分子量(g/mol)である ]。乳酸産生は検出限界である0.2 g/L未満であり、それゆえ計算に含めなかった。0.045 g/gのバイオマス収率が、好熱性 Clostridia を用いた実験に基づいて推測された(Desai et al.、2004; Lynd et al.、2001)。炭素回収計算について、それはClostridiaの(Clostridial)キシロースの異化、即ち、1モルのCO2 がエタノールまたはアセテート1モル当たりに生じるということに基づいて推測された (Desai et al.、2004; Lynd et al.、2001)。他の生成物は形成されないということも推定される。この推定は合理的である。というのは、100% (SD±2%)に近い炭素回収が閉じたバッチ発酵においてみられ、そこではエタノール損失は起こらないからである。
【0085】
実施例 1
BG1G1の構築
BG1の乳酸デヒドロゲナーゼを、カナマイシン耐性遺伝子およびサーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)からのグリセロールデヒドロゲナーゼにより図 2に示す断片を用いて置き換えた。結果として得られたクローンを、相同的組換えに用いる領域の外側にアニーリングするプライマーを用いてPCRにより確認した。このようにして、組換えが起こっていないldh 座も、断片は異なる長さであろうけれども増幅されることになる(図 3A)。得られたPCR 断片を制限酵素EcoRI およびPstIで消化した(図 3B)。結果として得られた断片は予測された長さであることが判明し、純粋な正しいクローンが得られたことを示す。クローンの実体をさらに確認するために、PCR産物を配列決定した。配列は、組換えクローンの予測配列と同一であった。
【0086】
グリセロールデヒドロゲナーゼが、キシロースイソメラーゼプロモーター Pxylの制御下で実際に挿入されたことを確認するために、グルコースおよびキシロース上で成育した培養物におけるグリセロールデヒドロゲナーゼ活性の研究を行った。結果を以下の表1に示す。
【0087】
表1. T. BG1 野生型および突然変異体株であるL1およびG1 のNAD+ 依存性 Gldh 比活性
【表1】

注:1ユニットは、70℃およびpH 8.0にて1分当たりに1μmolのNADHを生成した酵素の量として定義される。示される値は嫌気性培養物からの3連の平均である。ND:検出されず (0.001U/mg未満)。
【0088】
表1が示すように、グリセロールデヒドロゲナーゼ活性は、グルコースまたはキシロース上にて培養された野生型 BG1またはBG1L1においては検出されなかった。また、BG1G1がグルコース上で培養された場合であって、Pxyl プロモーターが抑制されている場合においてもグリセロールデヒドロゲナーゼ活性は検出されなかった。BG1G1がキシロース上で培養された場合にのみ、グリセロールデヒドロゲナーゼ活性が検出され、遺伝子が正しく挿入されており、それがPxyl プロモーターの制御下にあったことが示された。
【0089】
BG1、BG1L1およびBG1G1を5 g/L キシロースおよび5 g/L グリセロールを含むBA 培地にてバッチにて培養した。キシロースが培地中に存在する場合、gldh遺伝子を転写するPxyl プロモーターは活性となり、Gldh 酵素が生産されるであろう。GLDHは培地に存在するグリセロールをグリセロン(glycerone)へと酸化するとともに、NAD+をNADH + H+へと還元する。図 4から理解できるように、BG1G1は、野生型 BG1 または乳酸デヒドロゲナーゼ欠損(deficient)突然変異体 BG1L1と比較した場合、これらの条件下でエタノールの有意に高い収率を有する。
【0090】
発現上昇は、gldh遺伝子の発現に依存する
図 5は、グルコースまたはキシロースのいずれかの上で培養されたBG1L1およびBG1G1の5つの独立のクローンのエタノール収率を示す。キシロースが存在しない場合、Pxyl プロモーターはgldh遺伝子を転写せず、それゆえかなり少ない GLDHタンパク質が存在するであろう。GLDH 酵素 アッセイはこの知見を支持した。予測されたように、エタノール収率はグルコースを炭素源として用いた場合にかなりより低く、エタノール収率の上昇の原因となっているのは実際、GLDHタンパク質であることが示される。
【0091】
実施例 4
グリセロール濃度の最適化
図 6は、BG1G1の2つの独立のクローンによる、キシロースを炭素源として用い、様々な濃度のグリセロールを用いる、バッチ実験において生産された、エタノールとアセテートの比を示す。理解されるように、最高のエタノール収率は、培地中およそ1〜9 g/Lのグリセロールのグリセロール濃度によって得られる。より高濃度では、より低いエタノール収率がみられ、おそらくは、解糖に必須なNAD+の不足によりもたらされるストレスに起因する。
【0092】
実施例 5
湿式酸化(wet-oxidized)麦わら(wheat straw)上での成育
BG1G1が、湿式酸化麦わら (WOWS)の過酷な条件下で成育することが可能であるかを試験するために、10%までの乾物 WOWSを用いるバッチ実験を行った。BG1G1はすべての濃度のWOWSにおいて成育することができ、この株はこの材料中でエタノールを高収率にて生産するBG1の能力を維持していたことが示される。最高のエタノールとアセテートとの比は9.5 g/gであった。
【0093】
実施例 6
連続培養におけるBG1G1の成育
より高いエタノール生産性が、連続固定化リアクターシステムを用いると得ることができる。さらに、多くの好熱性嫌気性細菌は高糖濃度に対して低い寛容性を有し、これは連続発酵システムの使用によって克服されうる問題である。BG1G1を連続上向流(upflow) リアクターにおいて培養し、高収率のエタノールがこのタイプのリアクターにおいて生産できることを示した。
【0094】
図 7に示すように、定常状態は、キシロースおよびグリセロール濃度がそれぞれ12.8 g/Lおよび7.2 g/Lである27日後に得られた。このステージではほとんどすべての糖が消費され、乳酸は検出されなかった。最高のエタノール収率である、最大理論収率の92%に対応する、消費された1g のキシロースおよびグリセロール当たり0.47 gのエタノールは、12.8 g/Lの キシロースおよび7.2 g/Lのグリセロール上での培養の間に32日後に観察された。エタノール収率が消費されたキシロースのみに基づくのであれば、1gの消費されたキシロース当たり0.55 g エタノールの収率、即ち、理論収率の108%である。それゆえ、グリセロールデヒドロゲナーゼの導入は、基質糖からのエタノール収率を上昇させるだけでなく、それはグリセロールの基質としての使用も可能とする。これは明らかに、グリセロールデヒドロゲナーゼを構成的に発現する株の使用が、もしグリセロールが好ましい価格にて購入できるのであれば明らかな利点であることを示す。発酵において消費されないグリセロールは好ましいことにバイオガスに変換され得、それによりプロセスの価値がさらに向上する。図 8は連続発酵における糖変換およびエタノール収率 (g/g)を示す。
【0095】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0096】
受理官庁用のみ
【表2−4】

【0097】
国際事務局用のみ
【表2−5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロールを含む成長培地において培養された場合に増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌であって、
(i)グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子、および/または、
(ii)グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする上方制御された固有の遺伝子、
を含む、細菌。
【請求項2】
挿入された異種遺伝子および/または上方制御された固有の遺伝子が、グリセロールデヒドロゲナーゼ (E.C 1.1.1.6); グリセロールデヒドロゲナーゼ (NADP(+)) (E.C. 1.1.1.72); グリセロール 2-デヒドロゲナーゼ (NADP(+)) (E.C. 1.1.1.156);およびグリセロールデヒドロゲナーゼ (アクセプター) (E.C. 1.1.99.22) からなる群から選択されるグリセロールデヒドロゲナーゼをコードするものである、請求項 1の細菌。
【請求項3】
グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子がサーモトガ(Thermotoga)に由来するかまたはジオバチルス(Geobacillus)に由来する請求項1または2の細菌。
【請求項4】
グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16および配列番号17からなる群から選択される、請求項1−3のいずれかの細菌。
【請求項5】
グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子が、細菌の染色体に組み込まれているか、または該細菌の乳酸デヒドロゲナーゼをコードする領域に挿入されているか、または該細菌のホスホトランスアセチラーゼをコードする領域に挿入されているか、または該細菌の酢酸キナーゼをコードする領域に挿入されている、請求項1−4いずれかの細菌。
【請求項6】
該グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子が、誘導可能、調節性または構成的プロモーターに作動可能に連結している、請求項1−5いずれかの細菌。
【請求項7】
該上方制御されたグリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子が多コピープラスミド上で過剰発現されている請求項1−6いずれかの細菌。
【請求項8】
細菌が好熱性細菌である請求項1−7いずれかの細菌。
【請求項9】
細菌がサーモアナエロバクター属(genus of Thermoanaerobacter)に由来する請求項1−8いずれかの細菌。
【請求項10】
BG1 (DSMZ 受入番号 18280)およびその突然変異体から選択されるサーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii) 株である、請求項 9の細菌。
【請求項11】
サーモアナエロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii) 株 BG1G1 (DSMZ 受入番号 19229)である、請求項 9の細菌。
【請求項12】
エタノールを生産する方法であって、請求項1-11のいずれかの細菌を、グリセロールおよび炭水化物源を含む成長培地中にて好適な条件下で培養する工程を含む、方法
【請求項13】
炭水化物源が、デンプン、グルコース、リグノセルロース、セルロース、ヘミセルロース、グリコーゲン、キシラン、グルクロノキシラン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、グルコマンナン、キシログルカン、およびガラクトマンナンからなる群から選択される多糖である、請求項 12の方法。
【請求項14】
厳密な嫌気性条件下で実施される発酵プロセスである請求項12-13のいずれかの方法。
【請求項15】
グリセロールを含む成長培地において培養された場合に増強されたエタノール産生特性を有する組換え細菌を生産する方法であって、
(a) (i)グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子の挿入、および/または
(ii)グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする固有の遺伝子の上方制御;によって親細菌を形質転換する工程、および、
(b)該組換え細菌を得る工程、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−528565(P2011−528565A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519160(P2011−519160)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059421
【国際公開番号】WO2010/010116
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508347786)
【氏名又は名称原語表記】BioGasol IPR ApS
【Fターム(参考)】