説明

組織処理の簡素化

改良された組織処理システムおよび処理方法が本明細書に記載される。異なる溶液2種のみを2つの別々の反応モジュールで使用することにより、化学的過程と装置の構成を簡素化した。これらは、遺伝解析、組織学的解析、インサイチュー抗体結合およびハイブリダイゼーション、形態学的特徴および核酸のアーカイブでの保存、およびそれらの組合せ用の組織標本の処理に用いることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の異なる溶液を2つの別々の反応モジュールで使用することによって簡素化した組織処理用の化学プロセスおよび装置に関するものである。
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、2003年10月24日に出願した米国特許仮出願第60/513,560号に対して権利を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
2種を超える異なる溶液の使用を必要とする組織の処理方法、そうした方法で有用な製品、組織処理装置は、これまでにも記載されてきた(国際公開公報第99/09390号、国際公開公報第01/44783号、および国際公開公報第01/44784号を参照のこと)。これらは、迅速な組織処理の必要性にこたえようとするものであった。本発明では、2つの別々の反応モジュールに収納した(i)非水性混合物と(ii)ワックス溶液で、組織を十分迅速かつ完全に処理できることを見いだした。
【0004】
本明細書に開示する発明とは異なり、Boonら(Eur. J. Morphol. 33: 349-358, 1995)は、イソプロパロール溶液とパラフィンワックス溶液を2つの別々の反応室で使用し、そのそれぞれで、真空およびマイクロ波による加熱を行って、組織学検査用の組織標本を作製している。Boonらの装置では、組織標本を、処理の前に固定化し、マイクロ波エネルギーを分散させるためにターンテーブルの使用が必要である。また、組織標本の入ったガラス容器もマイクロ波エネルギーを吸収して、容器中の溶液に熱を伝搬する。
【0005】
Milestone(国際公開公報第98/05938号)は、少なくとも3工程、すなわち、組織標本を固定する工程、脱水剤および本質的に親油性の物質を用いて脱水と清浄を同時に行う工程、および含浸する工程を含む別の組織処理法を提供している。マイクロ波による加熱を、最初の2工程で使用し、高圧を、脱水/清浄工程で使用する。組織標本は、加熱および減圧によって乾燥され、その後、真空下あるいは周期的に中程度の圧力と中程度の真空を加えながら含浸させる。
【0006】
組織処理用の自動化装置のコストとその運転費用を削減することは、健康管理を効率的に行ううえで欠かせない。よりよい診断が行われれば、患者は、自らの治療が信頼できる情報にもとづいて行われ、医師から時宜を得た治療を受けられるという自信を持つことができる。装置のコストを削減できれば、さらに別の装置類を購入して、管轄区域(たとえば、一次医療施設)に分配することができる。組織は、そうした分散したネットワークの末端で処理した後、専門の病理施設に輸送して分析することができる。医師の診察室や小規模な診療所では、スペースは貴重であり、自動化装置を小型化できれば狭い部屋にも設置が可能となる。
【0007】
たとえば、組織処理装置中のモジュールの数を2つ(すなわち、加熱モジュール1つと真空モジュール1つ)に減らせれば、機械部分と電気部分の重複を避けることができ、装置を小型化することができる。その結果、装置の価格を下げ、検査室内への配置が簡単になる。ストックしておく化学組成物も減らすことができ、装置のユーザーの訓練も容易になる。
【0008】
本明細書に記載する組織処理の方法および装置では、本発明者らの従来の発明に比べて、組織処理方法では、使用する化学組成物の数が減り、組織処理装置では、機械および電気的構成部分が減っている。すなわち、本発明は、米国特許第6,207,408号および米国特許第6,793,890号に開示した方法および装置を改良したものである。
【0009】
本発明の他の利点は、以下に記載する通りであるか、あるいは、以下の記載から当業者に明らかなはずである。
【発明の開示】
【0010】
本発明の一つの目的は、その過程で2種の異なる化学組成物のみを使用し、装置中の反応モジュールの数を減らした組織処理方法および装置を提供することにある。
【0011】
この装置は、(a)反応内容物が少なくとも加熱される第一モジュール1つ、(b)反応内容物が少なくとも減圧下におかれ、加熱される第二モジュール1つ、そして任意で、(c)少なくとも、1回に1つまたは複数の組織標本を第一モジュールから第二モジュールに移動させる輸送機関(conveyance)を含む。装置は、任意で、装填ステーションおよび/または取外しステーションを含んでも良い。
【0012】
第一反応モジュールは、(i)加熱された反応室と、(ii)非水性混合物とを含む。非水性混合物は、少なくとも3種の異なる機能、すなわち固定、脱水、および清浄の機能を持つ異なる化学物質を含む。第一モジュールの反応室は、マイクロ波源と、マイクロ波源から放射されるマイクロ波のエネルギーを制御するプローブ/制御回路とを含んでも良い。こうしたエネルギーは、反応室の内容物をあらかじめ設定した温度に加熱するために使用することができる。モジュールは、非水性混合物を反応室に移す前に非水性混合物をあらかじめ加熱し、反応室に移した後に非水性混合物の温度を保持する加熱貯蔵所を含んでも良い。組織標本は、化学組成物、マイクロ波の照射、またはその両方によって実質的に硬化させ、液状炭化水素(たとえば、鉱油)をまず含浸させておいてから、ワックスを実質的に含浸することができる。
【0013】
第二反応モジュールは、(i)加熱され、真空ポンプと連結された反応室と、(ii)ワックス溶液とを含む。第二モジュールの反応室は、内部の温度および圧力を制御するための制御回路と、適当なプローブとを含んでも良い。モジュールは、さらに、貯蔵所を含んでも良い。第二モジュールの任意で設けた貯蔵所内で、固形ワックスをし、反応室に輸送されるまで、ワックスを溶液状態に保つこともできる。
【0014】
あるいは、装置を単一のモジュールを含むものとし、このモジュール内で、反応内容物を、順次、少なくとも加熱し、その後、少なくとも減圧し、加熱することもできる。1つまたは複数の組織標本は、処理中は、同じ反応室にとどまる。非水性溶液とワックス溶液とを、順次、2つの別々の貯蔵所から、反応室へと移す。任意で、組織標本を、任意の装填ステーションおよび/または取外しステーションへの輸送に輸送機関を使用してもよい。
【0015】
本発明のさらなる側面および利点については、当業者であれば、以下の詳細な説明および請求の範囲から、また、それらを一般化して考えることによって明らかとなるはずである。
【0016】
発明の具体的態様の説明
固形組織の処理および分析に際しては、顕微鏡観察を行うためには、組織切片の厚さを3〜6ミクロン程度にする必要があるが、新鮮な組織の切片として得られるのは、薄くてもせいぜい約1mmであり、通常の切片の厚さは約2〜3mm程度である。顕微鏡で観察できる十分薄い切片を調製するためには、組織を硬化させて、より薄い切片を(たとえば、ミクロトームで切断するなどして)得られるようにすることが必要である。
【0017】
本発明では、組織の処理を行う際に必要とされる(a)異なる化学組成物、および(b)装置の機械的電気的構成部品の数を、先行技術と比べて低減した。本発明の装置は、反応内容物が少なくとも加熱される単一の第一反応モジュール(たとえば、加熱ユニット)、反応内容物が少なくとも減圧下におかれる単一の第二反応モジュール(たとえば、真空ユニット)、および(iii)少なくとも、1回に1つまたは複数の組織標本を第一モジュールから第二モジュールに移動させる輸送機関を含む。各モジュールは、反応室と、反応室に任意で納められている化学組成物を含む。
【0018】
化学組成物は、通常、モジュールの反応室と任意で設けた貯蔵所の間を移動する(反応室と貯蔵所は、連通しており、たとえば、配管またはパイプ、弁、化学組成物の流れのタイミング、流速、方向を決定する制御回路を含むポンプが設けられている)。第一モジュールで、1つまたは複数の組織標本を実質的に硬化させ、最初の含浸を行い、その後、実質的に硬化させた組織標本にワックスを含浸させ、切断可能なブロックに包埋する。攪拌(たとえば、通気、真空と加圧のサイクル、振盪など)を利用して組織標本と化学組成物との間の交換を促進することがきる。組織の処理が成功裏に完了していることは、切片作製中、および組織学的観察中の、切断しやすさと切断の質によって示唆される。
【0019】
組織標本は、化学物質の非水性混合物で硬化される。適当な混合物は、固定、脱水、清浄化の機能を含む(たとえば、少なくとも2種または3種の異なる化学物質を含む)非水性溶液である。固定および/または脱水機能を含む物質の例としては、ケトン類、アルコール類、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。固定剤と脱水剤の非水性混合物については、2種の物質の容積比は、約1:10〜約10:1の範囲(こうした極端な比とすると処理時間が変わる場合があり、結果の信頼性が落ちる場合もある)、約1:6、約1:3、または約1:2より大きな比の範囲で、約2:1、約3:1、または約6:1より小さな比の範囲、約1:1、または以上のうちの任意の中間的な範囲(たとえば、約1:1〜約6:1)とすることができる。清浄機能は、脂肪族炭化水素、ベンゼン、リモネン、鉱油、トルエン、キシレンを用いることによって得ることができ、クリアラントとしては、非引火性で不揮発性であることから鉱油が好ましい。組織標本は、少なくとも約2分、少なくとも約5分、少なくとも約10分、少なくとも約15分、少なくとも約30分、少なくとも約45分、または少なくとも約60分インキュベートすることができる。インキュベーションの温度は、約30℃〜約80℃、約40℃、約50℃、約55℃、または約60℃より高温で、約70℃または約75℃未満、またはこれらのうちの任意の中間的な範囲(たとえば、約55℃〜75℃)とすることができる。
【0020】
硬化した組織標本は、次に、ワックス溶液を含浸させることができる。組織標本を脱水するのと同様、ワックス溶液の水分含量もなるべく低いことが好ましい。したがって、ワックス溶液は、含浸にさきだって、ワックスを加熱して溶解している全水分を蒸発させ、減圧下で脱気することによって調製することができる。組織標本の含浸は、大気圧未満の圧力および高温で実施して、組織標本から全ての溶剤を除去し、ワックス溶液を組織標本に移動させることによって実施することができる。真空により、拡散を促進し、標本中に存在する可能性のあるすべての溶剤の蒸発温度を低下させることによって、含浸時間を減らすことができる。ワックス溶液は、脱気および脱水済みのパラフィンおよび/または他のワックスを含むものとすることができる。組織標本は、少なくとも約3〜約10分、少なくとも約15分、少なくとも約30分、少なくとも約45分、または少なくとも約60分インキュベートすることができる。ワックス溶液は、室温(たとえば、約25℃または約30℃未満)では固体で、約55℃または約60℃より高温で溶融することができる。インキュベーションの温度は、約50℃〜約90℃、約55℃または約60℃より高温で、約75℃、約80℃、または約85℃未満、またはこれらのうちの任意の中間的な範囲(たとえば、約55℃〜85℃)とすることができる。インキュベーションは、減圧下(たとえば、約100トルまたは約760トル未満)で行うことが好ましい。切断に先立ち、含浸組織標本を含浸剤に包埋して、組織ブロックを形成することができる。
【0021】
反応室は、以下のもの、すなわち、反応室に嵌り、反応室を作業者の周囲環境から隔離する閉鎖手段(たとえば、反応室に固着または脱着可能に取り付けられた蓋)、反応室に熱を保持するための断熱手段、反応室の状態を監視するための温度および/または圧力プローブ少なくとも1つ、電子部品を反応室中の化学物質から隔離するためのシール、少なくとも1つのプローブおよび/またはタイマーからのインプットを受け取る制御回路の任意の組み合わせから構成することができる。同様に、加熱貯蔵所も、断熱手段、温度および/または圧力プローブ少なくとも1つ、シール、少なくとも1つのプローブおよび/またはタイマーからのインプットを受け取る制御回路の任意の組み合わせから構成することができる。非水性混合物の煙霧を作業者から隔離するうえでは、第一モジュールの反応室(任意で設ける加熱貯蔵所についても同様)については、ゴム製ガスケットを設けることが好ましい。第二モジュールについては、反応室を減圧シールすることが好ましい。
【0022】
好ましい態様では、使用にさきだって、非水性混合物を予備混合し、ボトルに保存しておく。ボトルを開き、その内容物の少なくとも一部を第一貯蔵所に移動させ、予熱する。固形ワックスを第二貯蔵所で溶融し、その後、ワックス溶液を第二モジュールの反応室に移動させる。非水性混合物を、組織の処理中、第一モジュールの貯蔵所と反応室との間で移動させ、一方、ワックス溶液は、組織の処理中、第二モジュールの反応室に保持する。一日の終わりに、非水性混合物をボトルに戻し、ワックス溶液を第二貯蔵所に戻し、溶液は、安全に廃棄または、再使用に備えて貯蔵する。
【0023】
あるいは、加熱と減圧機能を単一のユニットで組み合わせたモジュール内で、単一の反応室を使用することもできる。この場合、非水性混合物とワックス溶液を、別々の第一貯蔵所および第二貯蔵所から、それぞれ反応室に順次移動させ、また戻す。
【0024】
こうした装置は、手動運転とすることも、自動運転とすることも(すなわち、組織標本のモジュール間の移動を機械的輸送によって行うことも)できる。自動運転装置には、さらに、装填および/また取外しステーションを設けることができる。組織標本は、装置に装填し、バッチまたは個別の標本として処理することができる。組織標本は、装填ステーションで装置に入り、取外しステーションで装置から出る(あるいは、任意で、装填ステーションで回収される)。制御回路(たとえば、ハードウェアおよびソフトウェア)を使用して、装置内での組織標本の動きをプログラムして、運転中の反応モジュールへのアクセスを防止したり、反応パラメータ(たとえば、処理の時間、温度、圧力、化学物質の量)、またはこれらの任意の組合せを変更したりすることもできる。
【0025】
本発明では、「組織標本」は、本発明に開示する方法で処理が可能な組織片のことをいう。「組織標本」は、また、任意の体液(たとえば、腹水、血液、胸膜滲出液)または固形器官の吸引または体腔の洗浄によって得られた細胞懸濁液から得た単一細胞のことを称する場合もある。単一細胞は、処理される前に、浮遊遠心または沈降によってペレットとすることもできる。固形片(たとえば、組織の切片)は、通常、組織検査および病理検査に備えて処理される。
【0026】
固定の機能は、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)、アルデヒド(たとえば、アセチルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、グリオキサール)、低分子量アルコール(たとえば、メタノール、イソプロパロール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチルブタノール、アミルアルコール)などを用いて得ることができる。固定剤の非水性混合物中の濃度は、約15%(v/v)、20%(v/v)、約25%(v/v)、約30%(v/v)、約35%(v/v)、または約40%(v/v)より高濃度で、約35%(v/v)、約40%(v/v)、約45%(v/v)、約50%(v/v)、約55%(v/v)、約60%(v/v)、または約65%(v/v)未満、またはこれらのうちの任意の中間的な範囲(たとえば、約20%〜60%)とすることができる。脱水の機能は、低分子量アルコール(たとえば、メタノール、イソプロパロール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチルブタノール、アミルアルコール)、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)などを用いて得ることができる。脱水剤の非水性混合物中の濃度は、約15%(v/v)、20%(v/v)、約25%(v/v)、約30%(v/v)、約35%(v/v)、または約40%(v/v)より高濃度で、約35%(v/v),約40%(v/v)、約45%(v/v)、約50%(v/v)、約55%(v/v)、約60%(v/v)、または約65%(v/v)未満、またはこれらのうちの任意の中間的な範囲(たとえば、約20%〜60%)とすることができる。従来のアルデヒド(たとえば、ホルマリン)を用いた固定とは異なり、ケトンおよびアルコール類を使用すると、タンパク質と化学結合することなく、タンパク質を物理的に安定化させる(たとえば、沈殿)ことによって固定剤として作用すると考えられる。脂肪族炭化水素、ベンゼン、リモネン、鉱油、トルエン、キシレンは、清浄機能があるので使用が可能であり、鉱油を使用することが好ましい。クリアラントは、非水性混合物の約10%または約15%(v/v)より多く、非水性混合物の約25%または約30%(v/v)未満を使用することができる。界面活性剤、たとえば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(たとえば、TWEEN 80)、ジメチルスルホコハク酸ナトリウム、穏やかな家庭用洗剤などを加えると、処理速度を上昇させることができる。非水性混合物では、酸および塩基を適宜緩衝剤として用いることもできる。
【0027】
マイクロ波の放射も、組織の硬化を、化学的というよりは物理的に促進する。物理的処理と化学的処理の組み合わせは、処理時間を短縮し、および/または標本の質を上昇させる可能性がある。具体的な物理的処理または化学的処理の効果によって、その処理を行わなかったときに、組織の処理にどのような影響が出るかを観察することによって判定できる。
【0028】
最後に、組織標本に、ワックス(たとえば、パラフィン)、鉱油、または非水溶性ワックス類などの物質を含浸させる。好ましい含浸剤は、市販のワックス処方剤、融点の異なるワックス類の混合物(ワックス類は、室温で固体であり、融点は鎖長によって異なり、鉱油は室温で液状である)などである。
【0029】
組織標本は、新鮮な標本でも、部分固定標本(たとえば、10%ホルマリンで2〜3時間固定)でも、固定標本(たとえば、10%ホルマリンまたは任意の他の固定剤で一晩固定)でもよい。上記の方法を用いると、固定から含浸までの組織標本の処理を、約2時間未満、約90分未満、約60分未満、約30分未満、または約15分未満で行うことができる。各工程で溶液が適当な温度に達するのに要する時間は、各工程でのインキュベーションの時間と比較すると重要性が低く、合計処理時間を計算するうえでは無視できる。小型の生検標本および厚さ約1.5mm未満の組織、そして脂肪が少ないか、脂肪を含まない組織は、迅速な処理が可能である。組織は、手術室から病理検査施設まで、国際公開公報第2004/033622号に開示されているように、非水性混合物に入れて運搬することができる(ここで使用されているUM-FIXは、約10%の低分子量ポリエチレングリコール(PEG)と約90%のメタノールからなるものであった)。この保存剤は、Vincekら(Lab. Invest. 83: 1-9,2003)にも記載されている。PEGについては、UM-FIX中で保存された組織に含まれていたものが、そのまま本発明の方法でも残っている分を除いて、本発明の方法では、組織の処理にPEGを使用しておらず、また、組織の処理に必要ではないようである。そのため、本発明では化学反応を簡素化することができ、必要とされるインキュベーションの回数も、従来の方法と比べて減らすことができた。
【0030】
含浸後、組織標本は包埋してブロックとすることができる。組織標本の包埋に使用する物質は、含浸に使用したものと同一とすることが好ましいが、異なる含浸剤を使用することも可能である。ブロックとした組織標本は、ミクロトームに載置して、厚さ約1ミクロン〜約50ミクロン、または約2ミクロン〜約10ミクロンの組織切片を生成することができる。組織切片は、組織学的染色、抗体結合、インサイチュー核酸ハイブリダイゼーションまたは増幅、またはそれらの組合せに備えてさらに処理を行うこともできる。組織標本は、その後、顕微鏡観察によって調べるのが通例であるが、細胞の性質を検出するための他の技法(たとえば、自動化サイトメトリー、オートラジオグラフィー、核酸の電気泳動)を使用して、処理済の組織標本を調べることもできる。組織ブロックは、アーカイブ作製の目的、また過去に遡っての研究の目的で保存することもできる。
【0031】
細胞の表現型(たとえば、細胞特異的抗体との反応性、薬品による染色性)は、包埋材料を除去し(たとえば、脱パラフィン化)、組織を細分化することによって(たとえば、タンパク質分解による消化および機械的解離)解析することができる。単一細胞は、スプレーで分散し、フローサイトメーターで解析することができる。あるいは、脱パラフィン組織は、顕微鏡のステージに載置し、レーザーおよび/またはマイクロマニピュレーターで細分化して実質的に均一な細胞集団とし、異なる細胞の種類を物理的、化学的、または遺伝的なテクニックで解析してもよい。
【0032】
本発明は、処理済みの組織からの核酸、DNA、またはRNAの調製に用いることもできる。したがって、臨床病理施設で日常的に集められた標本について遺伝的研究を行うことができる。こうした技術を組み合わせるとことの意義は大きい。ある切片を染色または免疫組織化学的的手法よって解析し、隣接した切片から遺伝的解析用に核酸を調製することによって、組織学的観察結果を遺伝学的知見と相関させることができる。たとえば、同じ切片の病変領域と正常領域を比較して、遺伝的な差異(たとえば、突然変異、転写レベル)を検出したり、疾患の進行状況の解析を、いくつかの時点で採取された標本間の遺伝的差異を比較することにより実施したり、原発癌から転移癌にいたる遺伝的差異の蓄積を追跡することによって腫瘍の発達状況を評価したりすることができる。フローサイトメーターによるソーティング、または顕微解剖によって、実質的に均一な細胞集団、または単にその細胞の割合を高めた細胞集団を得ることができる。
【0033】
突然変異が生殖系列の場合には、疾患の遺伝的素因の追跡に利用することができ、体細胞性の場合には、疾患の原因の遺伝的変化を判定するために使用することができる。疾患としては、代謝性疾患または神経性疾患、悪性腫瘍、発達上の欠陥、または感染媒体によって生じた疾患を挙げることができる。本発明を用いると、簡便な方法と室温での保管によって、遺伝解析用の材料を保存することができる。得られた標本は、インサイチューハイブリダイゼーションで解析することができ、核酸を組織から抽出することもできる。
【0034】
組織学的研究では、ヘマトキシリン-エオシン染色が一般に使用され、この染色法は、病理の専門家が比較を行う場合の標準となっていると考えることができる。また、本発明は、他の染色、たとえば、トリクローム、レチクリン、ムシカルミン、弾性染色とも適合性である可能性がある。こうした染色に関しては、以下の一般的記載、たとえばThompson (Selected Histochemical and Histopathological Methods, C.C. Thomas, Springfield, Illinois, 1966)、SheehanおよびHrapchak (Theory and Practice of Histotechnology, C. V. Mosby, St. Louis, Missouri, 1973)、ならびにBancroftおよびStevens (Theory and Practice of Histological Techniques、Churchill Livingstone、New York、New York、1982)を参照されたい。こうした染色方法は、完了に5分しか要さない迅速な染色方法がFisher Scientific から入手可能であるにもかかわらず、完了に30分〜数時間を要する。
【0035】
組織は、剖検、生検(たとえば、内視鏡による生検)、または手術によって得ることができる。小型の標本、たとえばトロカールを用いてパンチ生検または針生検で得られた標本は、本発明に好適である。癌の手術では、染色組織切片の病理学的診断が得られれば、外科医は、患者が手術室から出る前に利用できる情報を入手できる。たとえば、病理の専門家から、癌が切除した組織内に限局していることが示されれば、外科医は、保守的な処置を行って、隣接する健全な組織を温存することができる。一方、病理の専門家が、癌が、切除した器官内に限局されていないことを見いだした場合には、患者が手術室にいるうちに、より積極的な外科的処置を行うことが可能となる。従来の凍結組織の組織学的処置とは異なり、本発明による新鮮な組織の処理では、形態学的特徴がよく保存された組織標本が得られるので、固定した組織を病理学者が後で確認しなおさねばならないといった事態が低減する。
【0036】
本発明にしたがって処理できる組織の例としては、虫垂、膀胱、骨、腸、脳、胸部、癌、子宮頚部(扁平上皮)、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、卵巣、耳下腺、胎盤、前立腺、皮膚、脾臓、精巣、甲状腺、扁桃腺、子宮(子宮筋層および子宮内膜)を挙げることができる。リンパ細網組織および脂肪組織も、本発明にしたがって処理できる。石灰化した組織は、本発明の方法で処理する前に、脱灰しておく必要がある。処理後に行う解析としては、DNAの突然変異およびRNAの発現の検出、ジェノミクス、組織学、免疫化学、プロテオミクスが挙げられる。
【0037】
本発明の方法で処理した組織切片は、免疫組織化学にも利用できる。本発明の方法は、抗原が回収、保存された組織標本を得ることができるので、固定剤の選択を最適化して、特定の抗原の回収および保存を行えばよい。非特異的結合部位をブロックし、抗原を特異的抗体(すなわち、一次抗体)によって結合させ、非結合抗体を除去する。プローブまたは信号生成部分で標識すると、一次抗体を直接検出できるが、プローブは、一次抗体に特異的に結合するタンパク質(たとえば、二次抗体)に結合することが好ましい。二次抗体は、一次抗体の重鎖または軽鎖定常部に対して産生させることができる。こうすると、抗原と抗体の結合によって生成する信号が増幅される。というのも、各一次抗体は多くの二次抗体に結合するからである。あるいは、増幅は、もっと別の特異的相互作用、たとえばビオチン-ストレプトアビジンによって生じさせることもできる。抗体の結合は少量で行って、高価な試薬の使用量を低減し、高い結合速度を維持するのが好ましい。この少量の反応物からの蒸発は、加湿室内でインキュベーションを行うことによって減らすことができる。信号生成部分は、好ましくは、組織にはもともと存在しない酵素とする。たとえば、アルカリフォスファターゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼを二次抗体に結合させるか、ストレプトアビジンに結合させることができる。こうした酵素に対する基質が入手可能で、こうした基質は、視覚的に検出可能な発色、蛍光、または発光生成物を生成する。
【0038】
抗原についての染色パターンを、対比染色によって明らかになる細胞の構造という文脈で、抗原の発現の局在化に使用することができる。抗原の発現を利用すると、細胞または組織の種類、発生段階、腫瘍予後マーカー、変性代謝プロセス、または病原体による感染を特定することができる。
【0039】
抗原と抗体の結合は、蛍光、放射能、またはコロイド金属プローブを用いて、エピ蛍光、オートラジオグラフィー、または電子顕微鏡の利用によって可視化することもできる。同様のプローブを使用して、組織切片中の核酸を、インサイチューハイブリダイゼーションによって検出して、遺伝的変異または転写を検出することもでき、また、組織切片から核酸(DNAまたはRNA)を抽出して、直接ブロッティングで解析するか、または増幅してからさらなる遺伝的解析を行うこともできる。
【0040】
組織の処理は、他の自動化システム、たとえばパラフィン包埋組織のブロックを作製する包埋および切断システム;組織切片を含むスライド標本を作製する切片作製、染色、カバーガラス載置システム;組織切片の組織化学的および/または免疫化学的信号を可視化する現像システム;ばらばらの細胞をその表現型によって分析および/またはソーティングして実質的に均一または単にその細胞の割合を高めた細胞集団とするフローサイトメーター;組織を実質的に均一な集団に分離する顕微解剖システム;スライドガラス上の組織切片を走査し、顕微鏡で可視化された信号をデジタル化し、その画像を操作、保存、伝送する画像化システム;ならびにこれらの組合せと統合することもできる。細胞または組織、特に、実質的に均一な集団にソーティングおよび/または分離された細胞や組織は、DNAまたはRNA配列、遺伝的突然変異、遺伝子の発現のレベルやパターンの変化、タンパク質の発現のレベルやパターンの変化、ならびにそれらの組合せによって、さらに解析することができる。システムの統合とデータ管理上、組織標本またはそのホルダーを英数字、バーコード、高周波アイデンティフィケーション(RFID)、または他のラベルによって特定できると好都合である。同一または異なるラベルを使用して、組織標本が一連の自動化システムを進行する間に、特定の組織標本を特定することができる。標本についてのラベルや他の情報(たとえば、患者のなまえ、日付、施設内の場所、疾患または他の病理的状態、組織の種類、診断、表現型、遺伝型、ジェノミックまたはプロテオミックな特性)は、データベース管理システムに入力して、データの保存、操作、引き出しを行えるようにすることができる。データベースでそうした情報をマイニングすることで、統計上の規準に照らした場合の相関の有無が立証され、さらなる研究の示唆を得ることができる。
【0041】
手術室、病理検査施設などで行われることもある処理の最初の工程は、適切な組織標本を調製して、硬化、ひいては観察に備える工程である。通常、目的組織のスライスを調製する。厚さ約0.5mm〜約1mm、厚さ約1mm〜約3mm、厚さ約1mm〜約2.5mm、または厚さ約1.5mm〜約2mmの薄いスライスまたはトロカールサンプルを、処理に備えて得ることができる。組織スライスを、組織カセットまたは他のホルダーにいれ、組織は、その後の処理の間、硬化した標本の切断の準備が整うまで、その中に入れておく。あるいは、トロカール(たとえば、生検用トロカール)でコアを抜いたり、切り取ったりすることによって組織標本を調製することもできる。多くのカセットを取り扱いやすくするうえでは、カセットを、担体またはバスケットに入れることもできる。カセットまたはホルダーは、その後、本発明の非水性混合物に浸漬する。
【0042】
組織カセットまたはホルダーは、組織硬化用の非水性混合物と接触させ、同時に、撹拌し、マイクロ波を照射する。必要なマイクロ波ユニットは1つで、これは、硬化溶液1種のみが必要だからである。硬化溶液は、数サイクルの組織処理の間を通して反応室に残るようにすることも、各サイクルの間に反応室と保存室との間を移動するようにすることもできる(たとえば、各硬化サイクルの後、すべての組織標本の処理後、またはその日の分の作業の終了時に保存室に戻すようにすることもできる)。固体の組織標本の入った組織標本の担体またはカセットは、反応室間を手動で、または、アームまたはトラック輸送(track conveyance)で移動させることができる。
【0043】
組織の処理を加速する撹拌を行うために、通気手段を設ける。チューブを、直接、非水性混合物の組織標本の下側に挿入することもできるが、もっと均一かつ完全な撹拌を行うためには、拡散板を反応室の底部と反応室の直径の実質的な部分に設けて、溶液の全量を均一に攪拌することができる。攪拌は、加圧と減圧(P/V)のサイクル(たとえば、約10〜30秒間加圧し、その後不完全真空にまで下げ、再び加圧する)、または溶液をポンプで容器に供給し、容器から回収する(たとえば、溶液を容器に循環させる)またはP/Vサイクルを使用することによっても行うことができる。
【0044】
組織のカセットまたはホルダーを、真空ユニットに入ったワックス溶液に浸漬する。従来、ワックスの脱気を、組織処理方法の一部として行っていた。脱気を行うと、ワックスから、有機溶剤と過剰の水分が除去される。このプロセスを強化し、装置でワックスを再使用するため、減圧下での連続的な脱気を行うこともできる。
【0045】
次に、組織標本を包埋する(自動包埋装置の使用が好ましい)。その後、ミクロトームで包埋組織標本を切断し、切片を水に浮かべて、ガラス製の顕微鏡用スライドガラスに載置する(自動切断装置の使用が好ましい)。切片をスライドガラスに載置したら、スライドガラスを加熱してパラフィンを溶融し、切片をガラスに接着させる。その後、スライド標本を染色し(自動染色装置の使用が好ましい)、カバーガラスを載置する(自動カバーガラス載置載置装置の使用が好ましい)。
【0046】
好ましい態様では、本発明の組織標本硬化含浸装置を、2つの別々のモジュール、すなわちマイクロ波ユニットと真空ユニットに限定することができる。組織標本を、マイクロ波ユニット中で、固定または未固定組織を硬化させる非水性混合物と接触させる。硬化させた組織標本の含浸は、真空ユニットで完了させる。含浸には、1つの真空ユニットのみが必要である。撹拌は、溶液への通気を行う機械装置、溶液を振盪または振動させる機械装置、溶液に超音波エネルギーを加える装置によって行うことができる。または、ポンプを利用して、P/Vサイクルまたは溶液の循環を利用した撹拌を行うこともできる。
【0047】
本発明のマイクロ波ユニットは、(i)マイクロ波エネルギー源(たとえば、マグネトロン、クライストロン、進行波管)、(ii)マイクロ波エネルギーをエネルギー源から反応室まで伝送する導波管(寸法および形状を、この目的に適合させたもの)、(iii)伝送されたマイクロ波エネルギーを受け取って、少なくとも化学的固定、脱水、および脱脂によって組織標本を処理するのに適した反応室を含む。反応室には、複数の異なる組織標本を収めることができる。反応室の内部形状は、マイクロ波エネルギーが均一に分布することができ、内容物の加熱に適したものとすることが好ましい。均一な分布は、主に2つの要因を考慮することによって達成することができる。
【0048】
第一に、反応室の外周は、マイクロ波の半波長の整数倍とする。導波管が反応室に入りこむ箇所を適切に配置すると、外壁に沿って伝搬するモードが生じる。こうしたモードは、マイクロ波の場が、主に外壁付近であることを特徴としている。同様の現象は、音波が固体壁に沿って極めて効率的に伝搬される音響効果にもみられる。この種のモードは、ささやきの回廊のモードと称される。
【0049】
第二に考慮すべきなのは、反応室中の溶液の境界と、反応室の壁との間の半径方向の距離である。最適な間隔は、間隔を変化させながら、経験的に決定する。間隔が狭すぎると、放射されたマイクロ波は、導波管が反応室に入る地点付近で主に吸収されることになる。間隔が広すぎると、反応室が共鳴空洞となり、非水性混合物と浸漬された固体(たとえば、組織標本、カセット、およびバスケット)の量に対して感受性となってしまう。間隔が適切であると、反応室の外に配置されたレベルセンサーによって測定される内容物の高さの範囲(すなわち、内容積)が広範囲に変化しても、溶液と固体を効率的に加熱することが可能となり、全高さ(すなわち、総容積)の10%しか入っていなくても、内容物を効率的に加熱することができる。
【0050】
同様に、マイクロ波源と導波管は、放射されたマイクロ波が伝送される間のエネルギーの損失がなるべく少なくてすむような形状とする。マイクロ波ユニットは、導波管でのマイクロ波源から反応室までのエネルギーの損失が約2%以下ですむような形状とする。エネルギーの損失が大きいと、マイクロ波エネルギー源に対して高価な遮蔽材をはじめとする保護手段を講じなければならなくなる。
【0051】
加熱は、電源のオン・オフを約10〜25秒のサイクルで繰り返すことによってコントロールでき、これは、マイクロ波源の陰極の加熱特性として、最低時間が必要とされるためである。しかし、その結果、組織を焼いてしまうかもしれないので、加熱は可変電流源でコントロールして、マイクロ波源によって反応室に加えられる電力が継続的に変化しうるようにする必要がある。こうした過加熱、すなわち過度の加熱が生じると、通常、組織構造が、細胞の各種特徴の区別のなく均一に染色される。こうした場合、ピーク電力の出力を低減することが好ましい。
【0052】
マイクロ波ユニットは、さらに、反応室に嵌り、少なくとも1つの組織標本を収容する容器(たとえば、バスケット);反応室の状態を監視する温度および/または圧力プローブ少なくとも1つ;マイクロ波源によって送出され、導波管を通して伝送され、および/または反応室によって受け取られるマイクロ波エネルギーを監視する1つまたは複数のエネルギープローブ;反応室に嵌り、反応室を作業者の周囲から隔離する閉鎖手段;熱を反応室に保持する断熱材、電気部品を反応室内の化学物質から隔離する遮蔽材、および少なくとも1つのプローブまたはタイマーからのインプットを受け取ることによって、マイクロ波源から導波管を通して伝送され、および/または反応室によって受け取られるマイクロ波エネルギーの少なくとも1つを受け取る制御回路のうちの任意の組み合わせを含んでも良い。容器は、放射されたマイクロ波に対して透過性として、エネルギーが容器を加熱することによって消費されることのないようにすることが好ましい。
【0053】
真空シールに使用される材料の特性としては、反応室または貯蔵所を環境から機密に隔離する能力、任意で、放射されたマイクロ波に対する実質的な透過性、閉鎖手段に合致して密に嵌合しうる柔軟性、および処理に使用する溶液に対する化学的耐性を挙げることができる。反応室または貯蔵所を、(i)蒸発を低減する閉鎖手段およびガスケット/シール、および(ii)断熱材で改良すると、ヒーターまたは真空ユニットを運転するのに必要な電力を2倍または3倍低減することができる。
【0054】
モジュールが同じ空間を占めるようにすることも、および/または組織標本を静止したままとすることもできる。マイクロ波または熱エネルギーは、制御して、同じ空間に伝送しても、処理の異なる時点で、静止した組織標本に伝送してもよい。薬品溶液および/または蒸気は、同じ空間に出入りさせても、静止した組織標本と接触させ、離してもよい。好ましくは、2つの反応室を使用することによって装置に必要な空間を最小化することで、別の保存および/または廃液室から、配管またはパイプで、異なる化学組成物を反応室に運搬することができる。コントローラは、インプットを反応室、および/または、処理サイクルを分割するタイミングから受け取ることにより、異なる化学組成物の運搬を制御することができる。
【0055】
反応工程は、異なる溶液を同一反応室に出入りさせることによっても、異なる溶液の入った反応室の間をバスケットを輸送することによっても変更することができる。バスケットを、反応室内部の上方で約5〜10秒間保持すると、バスケットを移動する前に、余分な溶液を、バスケットの底部および/または側面の1つまたは複数の開口を通して排出することができる。このように、それぞれ特定の組成の組織処理用化学物質が入った反応室の間でバスケットを移動させる順序、そして各反応室でバスケットをインキュベートする時間によって、本発明の方法を実施するうえで必要な一連の化学反応が決まる。
【0056】
蓋を取外し、その際にはガスケットを蓋に取り付けたまま、蓋と一緒に移動させることができる。この蓋とガスケットを取り外す過程は、組織標本が最初に入っている反応室と、組織標本のその後の移動先である次の反応室の両方について行う。その後、バスケットを取り出し、溶液をバスケットおよびバスケットに入っている全カセットから排出させ、約5〜10秒間かけて反応室に戻し、次の処理用化学溶液の入った反応室にバスケットを移動させる。残存溶液量が少ないので、配管/パイプを水で洗い流したり、反応室を洗浄したりする作業は、行わなくてもよい。最後に、蓋およびガスケットを交換する。こうした移動に要する時間は、約1分である。
【0057】
本発明では、上記の態様を変更することも念頭においている。組織処理装置は、各種の形状とすることが可能であり、任意でさらに別のモジュールを連結して装置の一部とすることもできる。選択する具体的形状は、当該臨床検査施設での一日あたり平均標本処理数、および/または組織学または病理学的報告をどのくらい迅速に作成せねばならないかによって決まる。
【0058】
装置は手動で運転することも、自動化することもできる。研究開発には、処理や装置の変化を迅速に評価することができ、また、少数の標本の処理も行いやすいので、手動での運転が特に適している。自動化装置では、組織標本を、機械的輸送(たとえば、ロボットアーム、ベルトとローラーで形成されたトラック)で輸送し、および/または、化学組成物を、耐腐食性の配管で移動させることができる。このように、組織の処理は、標本を特定の順番で静止モジュール間を移動させたり、モジュールに異なる化学物質を充填・流出させて、静止した組織標本を特定の順番でインキュベートしたり、これらを適宜組合せたりすることによって自動化することができる。組織の処理のパラメータ(たとえば、機器の起動と終了、標本の数々の装填および取外し、反応時間などの条件、装置での標本の進行状況)を制御するプログラムは、スクリーンで監視することができ、組織処理のパラメータ(たとえば、標本の反応室滞在時間を約15分、30分、または45分とする等)は、あらかじめ設定しておくか、作業者がキーパッドで選択することができる。
【0059】
アーム輸送は、たとえば、ハサミ状の機構で標本を把持したり、また、鈎状デバイスで標本を捕捉したりすることができる。アームは、人に似た動作を行うよう調製することも、また、線形次元または二次元で動き、別の次元にも装置上のアームの高さを変化させることによって任意で動く固定した座標ラックに装着することもできる。トラック輸送は、弾性または粘着性の材料から形成し、標本はトラックに摩擦によって固着させても、規則的な一連の出っ張りまたは壁を設けて、その間に標本を捕捉するようにしてもよい。トラックは、組織標本を輸送する連続したベルトまたは一連のベルトとして形成し、このベルトは、ローラーまたはスプロケット機構で作動させることができる。カセットまたはホルダーは、アームが把持するステム(ノブはあってもなくてもよい)またはアームが捕捉するループを設けることによって、また、トラックの溝または窪みに嵌まるようにすることによって輸送に適したものとすることができる。同様に、カセットまたはホルダーは、担体またはバスケット内に整理収納して、多数の標本を処理可能とし、この担体またはバスケットを、アームまたはトラック輸送によって輸送可能としておくことができる。
【0060】
作業者のリアルタイムの命令または保存されているプログラムを選択することによって、電気モータおよびコントローラを使用して、組織標本を運搬することができる。組織標本が各モジュールで消費する時間をコントロールする単純な機構としては、組織サンプルまたはそのホルダーを一定の速度で移動させ、各モジュールを通過する経路の長さを調整して、意図するインキュベーション時間を確保する機構をあげることができる。
【0061】
可撓性の配管または固定パイプ、ならびに配管の他の構成部品は、化学物質に対して耐性の材料(たとえば、ガラス、ステンレス鋼、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル)から製造し、腐食を防止する必要がある。コントローラおよびポンプ/弁を使用して、作業者のリアルタイムの命令または保存されているプログラムを選択することによって、化学組成物を、保存室から反応室へ、また組成物が再使用可能な場合には、反応室から保存室へ、そして組成物を装置から流す場合には、反応室から廃液室へ輸送することができ、また、保存室を充填したり、そして廃液室を流したりすることもできる。化学組成物を反応温度に保持し、また、化学組成物(たとえば、ワックス溶液)を運搬可能な流体状態で保持するうえでは、加熱された貯蔵所および加熱された配管構成部品が必要とされることがある。蒸気シールを設けたり、および/または冷却を行って、腐食性の蒸気を装置の機械的および電気的構成部品から隔離することが必要なこともある。
【0062】
本明細書で引用する特許、特許出願、および他の刊行物は、いずれも、本明細書に引用することをもって、本明細書にその全体を組み込むものである。
【0063】
以下の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の実践が、これらの実施例のいずれかによって制約を受けることはない。
【0064】
実施例
実施例1
各種非水性溶液を順次使用して組織を処理することは、米国特許第6,207,408号に記載されている。具体的には、国際公開公報第01/447683号および米国特許出願第2001/0051365号(公開済み)に、4種の溶液を順次使用して、組織を組織学検査用に成功裏に処理しえたことが記載されている。Moralesら(Arch. Pathol. Lab. Med. 126: 583-590, 2002; Am. J. Clin. Pathol. 121: 528-536, 2004)には、この先行発明を使用した経験が記載されている。本発明では、迅速な組織処理装置で使用するプログラムを、4種の溶液を順次別々のモジュールで使用するよう改変して、切片作製および組織学検査を成功裏に行ううえでの各溶液の貢献度を判定した。この変法を使用して、装置の4つのモジュールの各溶液を選択した。結果を表1に示す。各溶液の必要度は、厚さ約1.5mmの各種のホルマリン固定組織を用いて評価した。
【0065】
(表1)2種の溶液のみを必要とする、成功裏な組織処理

溶液I:イソプロパロール(40%)、アセトン(40%)、ポリエチレングリコール(MW300)(20%)、氷酢酸(総量の約0.5%の濃度となるよう添加)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(約62℃で、総量の約1%の濃度となるよう添加)
溶液II:イソプロパロール(55%)、アセトン(25%)、鉱油(20%)、氷酢酸(総量の約0.5%の濃度となるよう添加)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(約62℃で、総量の約1%の濃度となるよう添加)
溶液III:鉱油(30%)、溶融パラフィン(約65℃、圧力約640トル)(70%)
溶液IV:溶融パラフィン(約65℃、圧力約640トル)
【0066】
国際公開公報第01/447683号の実施例4および公開済みの米国特許出願第2001/0051365号に記載された組織処理法を改変した方法で、標本の処理を、組織処理装置で、各種制御方法にて行った。最初の処理では、4つのモジュール、すなわち、マイクロ波ユニット2つと、真空ユニット2つを、それぞれ、4種の異なる溶液とともに使用し、1モジュールあたりのインキュベーション時間を15分とした。インキュベーション時間を延長し、溶液IおよびIIIを使用するモジュールを行わないよう組織処理装置をプログラムしたところ、4種の溶液/1時間の処理の場合も、また2種の溶液/2時間の処理の場合も、優良な結果(+++)が得られた。優良と評価するためには、組織ブロックから切片を作製した際に、氷浴に「破裂する」ことなく浮かせることができ、さらにガラス製スライドガラスに「亀裂が入る」ことなく載置して染色できる容認可能なリボン状の連続切片が得られ、しかも、組織の種類を変更しても、そうした切片が確実かつ均一に得られる必要がある。ミクロトームによる切り取り後に、組織切片がこうした取り扱い上の特性を有していることが、染色切片観察時の形態学的特長にもとづいて効率的かつ信頼性をもって病理診断を行ううえでは不可欠であった。切片の一部が欠落していたり、うまく染色されていなかったりすると、その部分の組織の形態についての見解をまとめることができず、診断結果の信頼性が損なわれることになる。したがって、臨床病理検査室で使用する手順や機器類については、確実かつ効率的に実施しうるものであること、標準化されたプロトコールを用いることによって、さまざまな種類の組織を処理することができ、処理した組織に対して各種の診断基準を適用できること、そして貴重な標本を信頼性をもって処理しうることを確認しておく必要がある。いずれの処理によっても、優良な結果が得られるが、本発明は、2種の異なる化学組成物のみが必要で、非水性溶液を使用した組織の処理において装置の部分を半分の数に減らせるという利点がある。処理時間が延びてしまうことは、妥協点として容認しうるものであり、この点については、より薄い組織標本を使用すること、および/または標本を前処理しておくことによって対応が可能である。
【0067】
切片を作製する際に、処理が不適切であった組織標本を用いると、リボン状の連続切片が形成されず、水浴に浮かべると切片が破裂してしまい、切片に亀裂(すなわち欠落部分)が生じる。組織の処理結果が「良好」および「優良」であると、その後の分析(たとえば、組織学的染色、抗体による抗原との結合、インサイチュー・ハイブリダイゼーション)の間にも形態学的性質(たとえば、細胞構造、組織の編成)が保持される切片が作製されるので、こうした問題は生じない。しかし、良好(++)な結果の場合には、ばらつきがあり、すなわち、(a)同じ種類の組織の切片であっても不均一であったり、または、(b)ある種類の組織で均一な結果が得られても、別の種類の組織では不十分であったりする。検査施設で処理された標本は、そのすべてについて同一のプロトコールを使用することが好ましいので、こうしたばらつきのある結果は、診断目的での使用では容認されない。
【0068】
溶液IIを省いた場合には、溶液Iでのインキュベーション時間を45分に延長しても、優良な結果は得られなかった。切片作製法によって、水浴に浮かべたパラフィン切片が水の表面で許可できないほど広がり、スライドガラス上に載置する前に「破裂」してしまうことが示された。しかし、組織学的性質に関しては、脱パラフィン切片のヘマトキシリン-エオシン染色後の「亀裂」は、溶液Iでのインキュベーションを30分から45分に延長すると数が低減した。
【0069】
そこで、以降の実験は、溶液IIを用い、溶液Iを用いずに実施した。溶液IIのインキュベーションは、45分または60分とした。溶液IIIおよびIVでそれぞれ15分処理した場合、取り扱い特性が容認しうるレベルの切片は得られなかった。連続切片は、組織学的性質は適当であったものの、容認できるリボンを形成しなかった。溶液IIIのみを使用した場合の結果は、ブロックから切片を切り出すことができず、極めて不良であった(溶液IIIのみを45分実施したケースと、溶液IVのみを45分実施したケースを比較のこと)。溶液IIおよびIVのみを組み合わせた場合には、切片作製と組織学的性質の両方について、少なくとも良好な結果が得られた。しかし、インキュベーション時間は、45分ではなく60分が好ましく、これは、後者では新鮮な標本とホルマリン固定標本の両方の処理が可能となるのに対し、前者では新鮮な組織を許容可能なレベルでは処理できなかったためである。また、インキュベーション時間が短いと、リンパ細網組織(たとえば、脾臓)では、「亀裂」が生じて結果が不均一となり、脂肪組織(たとえば、胸部)では、形態学的性質が容認不能なレベルとなった。インキュベーション時間を長くした場合には、多岐にわたる各種の組織を、成功裏に処理することができた(下記を参照のこと)。
【0070】
実施例2
厚さ約1.0mm〜約2.0mm(好ましくは約1.5mm)でなるべく薄い新鮮な組織標本、ホルマリンで固定した組織標本、UM-FIXで処理した組織標本を処理した。膀胱、胸部、ならびに、肺、子宮頚部(扁平上皮)、腎臓、肝臓、卵巣、脾臓、扁桃腺、および子宮(子宮内膜および子宮筋層)の癌について、切片作製と組織学的性質の両方に関して一様に優良な結果が得られた(脱パラフィン切片のヘマトキシリン-エオシン染色)。
【0071】
非水性混合物は、下記の成分を含む。
アセトン 約25%
イソプロパロール 約55%
鉱油 約20%
氷酢酸 総量の約0.5%の濃度となるよう添加
DMSO 総量の約1%の濃度となるよう添加
【0072】
3種の主成分(容積3.8L)を混合し、その後、酢酸およびDMSOを加えた。標本を、この非水性混合物中で、約62℃にて約60分間インキュベートし、非水性混合物を(たとえば、通気によって)撹拌することによって、化学的交換を促進した。インキュベーションの間は、標本と非水性混合物の両方を、マイクロ波エネルギーによって加熱した。
【0073】
非水性混合物中の化学物質および/またはマイクロ波の照射による組織標本の硬化後、組織標本に溶融パラフィンを60分間含浸させ、約65℃および約640mmHgの減圧下で脱気、脱水した。含浸は、ワックス溶液をP/Vサイクルで撹拌することによって促進した。約2時間の合計処理時間の後、組織標本は、切片作製およびその後の解析、または保存に適した状態となった。
【0074】
組織標本の厚さがもっと厚い場合(たとえば、厚さ約2.5mmの切片)については、非水性混合物およびワックス溶液でのインキュベーションの時間を、各溶液について約90分または120分に延長する必要がある場合がある。
【0075】
実施例3
厚さ約1.0mm〜約2.0mm(好ましくは約1.5mm)でなるべく薄い新鮮な組織標本、ホルマリンで固定した組織標本、UM-FIXで処理した組織標本を処理した。下記の条件(すなわち、それぞれ約30分間ずつの2つの反応)で、ヒトの組織(たとえば、アデノイド、胸部、腎臓、脂肪腫、肝臓、胎盤、皮膚、脾臓、子宮)について、一様に優良な結果が得られた(脱パラフィン切片のヘマトキシリン-エオシン染色)。
【0076】
非水性混合物は、下記の成分を含む。
アセトン 約50%
イソプロパロール 約30%
鉱油 約20%
氷酢酸 総量の約0.5%の濃度となるよう添加
DMSO 総量の約1%の濃度となるよう添加
【0077】
3種の主成分(容積3.8L)を混合し、その後、酢酸およびDMSOを加えた。標本を、この非水性混合物中で、約62℃にて約30分間インキュベートし、非水性混合物を(たとえば、通気によって)撹拌することによって、化学的交換を促進した。インキュベーションの間は、標本と非水性混合物の両方を、マイクロ波エネルギーによって加熱した。)
【0078】
非水性混合物中の化学物質および/またはマイクロ波の照射による組織標本の硬化後、組織標本に溶融パラフィンを30分間含浸させ、約65℃および約640mmHgの減圧下で脱気、脱水した。含浸は、ワックス溶液をP/Vサイクルで撹拌することによって促進した。約2時間の合計処理時間の後、組織標本は、切片作製およびその後の解析、または保存に適した状態となった。
【0079】
トロカール(たとえば、直径約2mm〜約3mmの円筒)を用いて得られたもっと小型の生検標本に関しては、非水性混合物およびワックス溶液でのインキュベーションの時間は、各溶液について約15分まで短縮する必要がある可能性がる。
【0080】
別の態様では、切片作製および組織学的観察用に、各反応時間を約20分まで短縮して、虫垂、腸、胸部、輸卵管、腎臓、肝臓、肺、耳下腺、胎盤、前立腺、甲状腺、腸子宮の処理を行った。さらに別の態様では、切片作製および組織学的観察用に、各反応時間を約15分まで短縮して、腺腫、虫垂、胸部、子宮頚部、胆嚢、腎臓、肝臓、肺、卵巣、皮膚、脾臓、甲状腺、扁桃腺、子宮体部(ならびに新鮮なマウスの肝臓)の処理を行った。
【0081】
実施例4
組織の処理は、本発明の一態様(図1Aに示す態様)を以下のようにして使用することによって実施することができる。非水性混合物(3.8L)のボトルを装着し、パラフィンペレット(3L)を加える。非水性混合物を予熱し、液状の時点で予め脱気、脱水しておいた固体パラフィンを溶融した後、サンプルを装填する。真空を引き、空気の圧力を上昇させて、溶液を移動させ、任意で、レトルト内で通気(ポンプBP)またはP/Vサイクル(ポンプAP)によって、溶液を撹拌する。連結手段(たとえば、可撓性の配管)と、連結手段が装置の各構成部分を連結する開口部を使用して、ポンプLPおよび電磁弁を使用して、第一貯蔵所とマイクロ波レトルトとの間で溶液を移動させる。空気ポンプを使用した減圧が必要とされるのは、真空レトルト内での含浸のみであり、これは、マイクロ波レトルト内での組織の処理(たとえば、硬化および初期含浸)は、通気ポンプを使用した機械的撹拌によって大気圧にて実施されるためである。
【0082】
溶液およびレトルトを適切な運転温度まで加熱する。たとえば、非水性混合物を、第一モジュール(第一貯蔵所1)の貯蔵所内で、電気ヒーターによって約55℃まで予熱してから、マイクロ波レトルト2に移動させる。非水性混合物は、通常、第一貯蔵所1に戻してから、マイクロ波レトルト2を開き、組織標本が、空の反応室に載置されているようにする。同様に、第二モジュール(第二貯蔵所4)の貯蔵所内で固体パラフィンを溶融し、通常、ワックス溶液は、一日の運転開始時に真空レトルト3に移動させ、一日の運転終了時に第二貯蔵所4に戻す。溶液の温度は、マイクロ波レトルト2内では、約62℃ に保持し、真空レトルト3内では、約65℃ に保持する。(i) 第一貯蔵所1とマイクロ波レトルト2との間の配管、または(ii)第二貯蔵所4および真空レトルト3の間の配管は、両方向の液体の連通を可能とする。非水性溶液およびワックス溶液用の2つの貯蔵所1および4は、別個のものとする。レトルト2または3中の溶液および/またはバスケットの有無は、レベルセンサーで判定して、溶液の容積または排出を検知することができる。
【0083】
カセットに納めた組織標本の入った穴あきバスケットを装填する。任意で、輸送機関に装填ステーションを設けて、バスケットを、この装填ステーション(存在する場合)が設けられた非水性混合物入りの反応室に載置するようにすることもできる。また、バスケットをマイクロ波レトルト2(そして、その後真空レトルト3)に移動する輸送機関に載置することも、また、マイクロ波レトルト2の反応室に直接載置することもできる。輸送機関は、バスケットに可逆的にに固定可能な鉤状部材を含むロボットアームとするのが好ましい。このロボットアームには、交換可能な吸収性ライナーを含む受け皿を取り付け、バスケットの下方を自在回転して、非水性混合物またはワックス溶液を受け止めるようにしてある。各反応室には、ちょうつがいで蓋が取り付けてあり、各蓋は、ゴム製ガスケットで、反応室に気密に取り付けられ、電気モーターMで駆動される鎖によって開閉される。最後に、組織の含浸が完了したら、装填されていたバスケットを真空レトルト3から移動させる。任意で、取外しステーションを設けることもでき、取外しステーション(存在する場合)の反応室は、過剰な溶融パラフィンがバスケットから流出できるよう、空としておく。ステーション間をバスケットが移動するのに要する時間は、約10秒未満である。組織の入ったカセットは、その後、バスケットから取り出せばよい
【0084】
実施例2または3に記載した手順を、この装置で使用することができる。非水性混合物は、マイクロ波レトルト2と加熱した貯蔵所1との間で移動させる。バスケットを、マイクロ波レトルト2の反応室に移動させ、反応室の蓋を閉じ、非水性混合物を、加熱した第一貯蔵所1からマイクロ波レトルト2に移動させて組織標本と接触させ、インキュベーションが完了したら(すなわち、組織標本が適当な段階まで硬化したら)、非水性混合物を加熱した第一貯蔵所1に戻し、その後蓋をあけ、バスケットをワックス溶液の入った真空レトルト3に移動させ、組織標本をこの装置内で含浸が完了するまでインキュベートする。
【0085】
含浸剤の入った反応室は、放射性の熱源を使用して加熱する。あるいは、ヒーターを用いて、含浸剤と接する配管を循環する水の温度を保って、含浸剤を溶融状態に保つ。たとえば、反応室内にコイル状の配管を敷設すれば、この加熱コイルは、内容物に熱を伝えることになる。反応室の外壁を、この外壁を通して反応室の内容物に熱を伝える電線で包囲することによって、加熱コイルを使用せずにすますことが好ましい。真空レトルト中での撹拌は、呼び圧力(nominal pressure)0.35Kg/cm2の圧力と500mmHgの真空を加えるP/Vサイクルによって実施することができる。
【0086】
他の条件(たとえば、各インキュベーションの時間および温度)は、実施例2〜3で記載した通りである。装置は、キャビネット内に配置して、発生する可能性のある煙霧を内部にとどめ、換気することができる(煙霧の制御)。卓上装置は、組織標本の移動に機械的輸送を使用することも、手動で輸送することもできる。また、オペレータの胴体の高さにガラス窓を設けた扉を設ければ、オペレータは、バスケットが移動していないときに装置にアクセスして、バスケットの装置への装填または装置からの取外しを行ったり、バスケットの動きを観察したりすることができる。安全面からは、レトルトのアームまたは蓋が移動している場合には、ドアがロックされているようにすることが望ましい。膝の高さの別の扉を設ければ、オペレータは、(i)ボトルに入った非水性混合物を、マイクロ波レトルト2と連通する第一貯蔵所1にいたる開口部に装着することができ、また、(ii)真空レトルト3と連通する第二貯蔵所4中のパラフィンを溶融することができる。
【0087】
別の態様(図1B)では、単一のレトルト5を使用して、マイクロ波と真空の機能を、同じ場所で組み合わせている。この態様では、第一貯蔵所6からの非水性混合物と、第二貯蔵所7からのワックス溶液を成功裏にマイクロ波/真空レトルト5に移動させて、組織標本を2つのレトルトの間で移動させる必要性を省いている。
【0088】
実施例5:組織切片中の抗原の検出
組織標本を、ホルマリンまたはUM-FIXで固定し、その後、2つの反応で30分間ずつ処理した。パラフィン切片をミクロトームで厚さ3ミクロンに切り、水浴に浮かべ、スライドガラス上に載せた。スライド標本を58℃の炉中に30分載置するか、好ましくは、37℃の炉中に約18時間または一晩載置することにより、パラフィンを溶融させ、キシレン浴に10分浸漬することによりワックスを除去した。スライド標本を、アルコール分を下げながら各溶液に1分間ずつ浸漬することにより再水和し(無水アルコール浴2回、95%アルコール浴2回、90%アルコール浴1回)、その後、水道水に2分間浸漬した。
【0089】
内在性のペルオキシダーゼを、6%過酸化水素(H2O2)とメタノールの溶液、または35mlの6%H2O2と140mlのメタノールでブロッキングし、15分間インキュベートした。スライド標本を、水道水に2分間浸漬し、燐酸緩衝液(PBS)に2分間浸漬することによって洗浄し、その後乾燥した。
【0090】
スライド標本を、加湿室に移動させ、正常ウマ血清(normal horse serum, NHS)を加えて10分間ブロッキングした。スライド標本から、過剰な正常ウマ血清をデカントして取り除き、加湿室にて、組織切片上で特異的一次抗体を30分間インキュベートした。スライド標本を、スクイーズボトルを使用して、前後に揺すりながら、PBSで洗浄し、PBS浴に2分間浸漬し、過剰のPBSを各スライド標本から乾燥させた。結合溶液(二次抗体またはビオチン標識抗ウサギまたは抗マウス抗体としても知られる)を各組織切片に加え、加湿室で室温にて25分間インキュベートした。こうしたウサギ、ラット、およびマウス二次抗体(たとえば抗-IgM、抗-IgG)は、Dako (Carpinteria、CA)から入手でき、約1:600に希釈して使用することができる。スライド標本を、スクイーズボトルを使用してPBSで洗浄し、PBS浴に2分間浸漬し、過剰のPBSを各スライド標本から乾燥させた。
【0091】
製造業者の指示(Vector Laboratories)にしたがって、信号を発現させた。アビジン-ビオチン複合体(ABC)溶液を組織切片に加え、加湿室で、25分間インキュベートした。スライド標本を、スクイーズボトルに入ったPBSで洗浄し、PBS浴のラックに2分間浸漬した。このラックを、ジアミノベンジジン(DAB)発色剤の浴に6分間浸漬し、その後流水に浸漬して、4分間穏やかに洗浄した。組織切片をヘマトキシリンで室温にて約15秒〜90秒対比染色し(染色時間は、ヘマトキシリン調製後の経過時間による)、スライド標本を、流水下で3分間洗浄して、過剰な対比染色液を洗いながし、アルコール浴(85%アルコールから無水アルコール、各浴に約10秒浸漬)中で脱水し、キシレン中で洗浄し、カバーガラスをかけた。結果を表2に示す。
【0092】
(表2)組織切片の抗体染色(m:モノクローナル抗体、p:ポリクローナル抗体)



【0093】
実施例5:処理済み組織切片からのDNAの抽出
厚さ6ミクロンの組織切片2枚を1.5mlの微量遠心管に入れ、800mlのキシレンを加え、ボルテックスで混合し、400mlの無水エタノールを加え、ボルテックスで混合し、微量遠心管を5分間微量遠心装置で遠心し、上清をデカントした。このペレットに、800mlの無水エタノールを加え、ボルテックスで混合した。
【0094】
遠心後上清をデカントし、その後、100mlの洗浄液とプロテイナーゼK溶液(1%NP40またはTriton X-100、2.4mlの2.5mg/mlのプロテイナーゼK)をペレットに加え、55℃で1時間インキュベートした。プロテイナーゼKを、95℃で10分間インキュベーションすることによって失活させた。微量遠心装置での5分間の遠心の後、DNAを含む上清を集めた。この材料は、そのまま、PCRに使用可能である。サザンブロッティングを行う場合には、さらに、沈殿および/または抽出を行う必要がある。制限分析を行う場合には、十分量のDNAを得るために、さらに多くの切片が必要となる。
【0095】
実施例6: 処理済み組織切片からのRNAの抽出
処理済みの組織塊から得た10枚の切片(それぞれ7μm)を、使い捨てのカミソリを使用して刻んだ。切片を、50mlのファルコン管に入れ、20mlのキシレンで脱パラフィンし、残りの組織を無水アルコールで30分間2回洗浄した。組織を、4Mのチオシアン酸グアニジウム、25mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)、0.5%のN-ラウリルサルコシン、0.1Mの2-メルカプトエタノールを含む溶液に、0.5gm/mlで懸濁した。溶液を、ボルテックスして混合し、18〜22ゲージのシリンジ針を通過させることによって、DNAを剪断した。
【0096】
5ml入り遠心管(Sorvall)数本中の2.8mlの5.7MのCsCl上にRNA含有溶液を注意深く層状に加え、BeckmanL8-53超遠心装置を用い、SW55Tiロータで35,000rpm、18℃にて14時間遠心することによって、RNAを沈降させた。最上部の分画を注意深く取り除き、管の底部にRNAにペレットが残るようにした。ペレットを、リボヌクレアーゼを含まない水に再懸濁し、エッペンドルフ管を14,000rpmで10分遠心した。RNAを含む上清を回収し、紫外線(UV)の吸収を測定した。消衰係数1 OD280/cmが約40μg/mlのRNAに相当すると推定され、OD260/OD280比は約1.8〜約2.0であると推定された。
【0097】
マウス2匹の肝臓片をUM-FIX中に約2時間載置した後、実施例3にしたがって処理した。組織を、2つの反応のそれぞれで、15分または30分処理した。18Sおよび28SのrRNAバンドを、変性ゲル電気泳動によって分離した(図2)。新鮮なマウスの肝臓から抽出したRNAを、陽性の対照として使用した(レーンC)。RNAは、2匹のマウスの処理済みの肝臓組織から抽出した(レーン1および2は第一マウスから、レーン3および4は、第二マウスから抽出)。レーン1および3は、各反応で15分間処理し、レーン2および4は、各反応で30分間処理した。18Sおよび28SのrRNAバンドは、予測された比でに存在しており、分解は認められなかった。
【0098】
数値範囲の記載については、範囲内のすべての値を記載したものと理解せれたい(たとえば、1〜10は、1と10の間の各整数ならびに、この間のすべての範囲、たとえば2〜10、1〜5、および3〜8も含むものである)。「約」という用語は、当業者であれば、本発明の操作または本発明の特許性に影響を及ぼさないことが理解できるような数値量の測定または可変性にともなう統計学的不確定性について記載したものである。
【0099】
請求の範囲の意図する範囲内、および法的に均等な範囲内のあらゆる改良や置換は、請求の範囲内であると理解されたい。接続部として「〜を含む(comprising)」を使用した請求項は、請求の範囲内に他の要素を含みうるものであり、発明は、「〜を含む」以外にも、移行部分「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」(すなわち、請求の範囲内に他の要素を、その要素が発明の作用に実質的に影響を及ぼさない場合には含みうる場合)、および接続部「〜からなる(consisting)」(すなわち、発明に通常付随する不純物および非実質的な作用以外については、請求項に記載された要素のみが許容される場合)を使用した請求項によっても記載される。発明を請求するにあたっては、これら3種の接続部の任意のものを使用することができる。
【0100】
本明細書に記載された要素は、請求の範囲に明記されていない限りは、請求の範囲に記載された発明を限定するものではないと理解されたい。したがって、許可となった請求の範囲は、法的保護の範囲について判断する際の基礎となるものであって、明細書を請求の範囲に読み込むことによって範囲を限定するものではない。一方、従来技術は、請求の範囲に記載された発明と同一であったり、発明の新規性に支障を及ぼす具体的態様の範囲で、本発明から明示的に排除される。
【0101】
また、請求の範囲中の限定事項同士の関係については、請求の範囲内にそうした関係が明示的に記載されていない限り、特に意図していない(たとえば、製品に関する請求項の各部分の配置または方法に関する請求項の各工程の順序は、そうした配置や順序を明示的に記載されていない限りは、請求の範囲を限定するものではない)。本発明に開示する個々の要素のあらゆる可能な組み合わせおよび交換は、本発明の側面であると理解されたい。同様に、発明の記載を一般化した内容についても、本発明の範囲内である。
【0102】
以上から、当業者には、本発明は、本発明の精神や本質的な特徴から逸脱することなく、もっと別の特定の態様で実現することができることが明らかなはずである。本発明に関しての法的保護範囲は、本発明に付随する請求の範囲によって示されるものであり、本明細書によって示されるものではないので、本明細書に記載した実施態様は、本発明を例示するためのものであって、本発明を限定するものではないと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1A】本発明の一態様の模式図である。非水性混合物を、第一貯蔵所1に保存しておき、この非水性混合物をマイクロ波レトルト2に移動させて、組織標本と接触させる。次に、組織標本を、マイクロ波レトルト2から真空レトルト3に移動させる。ワックス溶液を、第二貯蔵所4に保存しておき、このワックス溶液を真空レトルト3に移動させて、組織標本と接触させる。
【図1B】本発明の別の態様の模式図である。組織標本を、マイクロ波/真空レトルト5で処理する。非水性混合物を第一貯蔵所6に保存しておき、ワックス溶液を第二貯蔵所7に保存しておいて、非水性混合物、そして次にワックス溶液をマイクロ波/真空レトルト5に移動させて、組織標本と接触させる。
【図2】変性ゲル電気泳動による分離後の18Sおよび28SのRNAバンドを示す。新鮮なマウスの肝臓から抽出したRNAを、陽性の対照として使用した(レーンC)。RNAは、2匹のマウスの処理済みの肝臓組織から抽出した(レーン1および2は第一マウスから、レーン3および4は、第二マウスから抽出)。レーン1および3は、各反応で15分間処理し、レーン2および4は、各反応で30分間処理した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の異なる化学組成物のみを使用する、1つまたは複数の組織標本の組織処理装置であって、以下を含む、装置:
(a)(i)加熱された第一反応室と、(ii)固定、脱水、および清浄機能から成る非水性混合物であって、任意で、第一反応室内に収められている非水性混合物、を含む第一モジュール;
(b)(i)加熱され、真空ポンプと連結された第二反応室と、(ii)任意で、第二反応室内に収められているワックス溶液、を含む第二モジュール;および、
(c)任意で含まれる、組織標本を少なくとも第一モジュールから第二モジュールへ移動させる輸送機関(conveyance)。
【請求項2】
第一反応室が、ささやきの回廊からなる内部形状を含み、第一モジュールが、(iii)第一反応室を隔離するようになっている閉鎖、(iv)第一反応室を取り囲む断熱材、および(v)ささやきの回廊に伝搬されるマイクロ波の源をさらに含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項3】
組織標本を、非水性混合物、マイクロ波の放射、またはそれらの両方によって実質的に硬化させる請求項2記載の組織処理装置。
【請求項4】
第一モジュールが、第一反応室内に、非水性混合物と組織標本との間の化学的交換を促進する撹拌装置を含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項5】
非水性混合物が、約55℃超および/または約75℃未満である、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項6】
非水性混合物が、固定剤と脱水剤を、容積比約1:6超および/または約6:1未満で含む請求項1記載の組織処理装置。
【請求項7】
非水性混合物が、約20%(v/v)超の固定剤および/または約60%(v/v)未満の固定剤を含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項8】
非水性混合物が、約20%(v/v)超の脱水剤および/または約60%(v/v)未満の脱水剤を含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項9】
非水性混合物が、約10%(v/v)超のクリアラントおよび/または約30%(v/v)未満のクリアラントを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項10】
非水性混合物が、界面活性剤をさらに含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項11】
非水性混合物が、少なくとも1種のケトンである固定剤および少なくとも1種のアルコールである脱水剤を含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項12】
非水性混合物が、鉱油であるクリアラントを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項13】
非水性混合物が、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項14】
非水性混合物が、約15%(v/v)から約35%(v/v)のアセトンと、約45%(v/v)から約65%(v/v)のイソプロピルアルコールと、約10%(v/v)から約25%(v/v)の鉱油とを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項15】
非水性混合物が、約40%から約60%(v/v)のアセトンと、約25%から約35%(v/v)のイソプロパロールと、約10%(v/v)から約25%(v/v)の鉱油とを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項16】
第一モジュールが、第一反応室に連結された保持室をさらに含み、非水性混合物が、組織標本の第一モジュール装填後に、第一反応室に移動し、組織標本の第二モジュール輸送前に、保持室に移され、非水性混合物を、保持室滞留中に任意で加熱する、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項17】
組織標本が、第一モジュールに約15分以下滞留した後、実質的に硬化しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項18】
組織標本が、第一モジュールに約30分以下滞留した後、実質的に硬化しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項19】
組織標本が、第一モジュールに約45分以下滞留した後、実質的に硬化しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項20】
第二モジュールが、(iii)第二反応室を隔離するようになっている閉鎖、(iv)第二反応室を取り囲む断熱材、および(v)第二反応室中で、ワックスを溶融状態に保つヒーターをさらに含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項21】
第二反応室内の圧力が、約100トル超および/または約760トル未満である、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項22】
第二反応室内の圧力を、真空ポンプによって周期的に変化させる、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項23】
ワックス溶液が、約55℃超および/または約85℃未満である、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項24】
ワックス溶液が、脱気および脱水されている、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項25】
ワックス溶液が、約30℃未満で固体状であるパラフィンから製造されたものである請求項1記載の組織処理装置。
【請求項26】
第二モジュールが、第二反応室に連結された加熱室をさらに含み、固形ワックスを任意で加熱室内で溶融し、組織標本を第二モジュールに輸送する前に、ワックス溶液を加熱室から第二反応室に移す、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項27】
組織標本が、第二モジュールに約15分以下滞留した後、実質的に含浸しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項28】
組織標本が、第二モジュールに約30分以下滞留した後、実質的に含浸しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項29】
組織標本が、第二モジュールに約45分以下滞留した後、実質的に含浸しているように設定された、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項30】
輸送機関が、第一モジュールと第二モジュールとを連結するトラックを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項31】
輸送機関が、第一モジュールと第二モジュールとを連結するアームを含む、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項32】
化学的交換を可能にする複数の組織担体をさらに含み、各組織標本が、複数の担体の一つに収納されており、各組織担体が輸送機関に可逆的にに固定されているので、組織標本のバッチを連続的に処理できる、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項33】
装填ステーションをさらに含み、該装填ステーションで、非含浸組織標本が組織処理装置に入り、次に第一モジュールへと輸送される、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項34】
取外しステーションをさらに含み、含浸組織標本は、第二モジュールから該取外しステーションに輸送され、次に組織処理装置から出るまで任意で集められる、請求項1記載の組織処理装置。
【請求項35】
以下を含む、互いに異なる2種の化学組成物のみを使用し、1つまたは複数の組織標本の組織を組織処理するための方法:
(a)まず、組織標本を、(i)固定、(ii)脱水、(iii)清浄の機能を含み、加熱された非水性混合物に含浸させる段階;次に、
(b)組織標本に、加熱されたワックス溶液を、大気圧未満の圧力にて実質的に含浸させる段階。
【請求項36】
組織標本の厚さが、約3mm以下である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項37】
組織標本を手作業で処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項38】
組織標本を機械的に処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項39】
組織標本を、アルデヒドを使用せずに処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項40】
組織標本を、キシレンを使用せずに処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項41】
組織標本が、処理される前に固定されていない、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項42】
組織標本が、処理される前に、ホルムアルデヒド中で固定されていない、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項43】
組織標本が、処理される前に、メタノールおよびポリエチレングリコール(PEG)中に保存されていない、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項44】
(a)のために、組織標本を、マイクロ波レトルトで処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項45】
組織標本を、非水性混合物、マイクロ波ユニットによる照射、または両方によって実質的に硬化させる、請求項44記載の組織処理方法。
【請求項46】
非水性混合物と組織標本との間の化学的交換を促進するための撹拌をさらに含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項47】
非水性混合物が、約55℃超および/または約75℃未満である請求項35記載の組織処理方法。
【請求項48】
非水性混合物が、固定剤と脱水剤を、容積比で約1:6超および/または約6:1未満で含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項49】
固定剤が、非水性混合物の約20%(v/v)超および/または約60%(v/v)未満である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項50】
脱水剤が、非水性混合物の約20%(v/v)超および/または約60%(v/v)未満である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項51】
クリアラントが、非水性混合物の約10%(v/v)超および/または約30%(v/v)未満である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項52】
非水性混合物が、界面活性剤をさらに含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項53】
非水性混合物が、少なくとも1種のケトンである固定剤および少なくとも1種のアルコールである脱水剤を含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項54】
非水性混合物が、鉱油であるクリアラントを含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項55】
非水性混合物が、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項56】
非水性混合物が、約15%(v/v)から約35%(v/v)のアセトンと、約45%(v/v)から約65%(v/v)のイソプロピルアルコールと、約10%(v/v)から約25%(v/v)の鉱油とを含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項57】
非水性混合物が、約40%から約60%(v/v)のアセトンと、約25%から約35%(v/v)のイソプロパロールと、約10%(v/v)から約25%(v/v)の鉱油とを含む、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項58】
組織標本が、非水性混合物中で約15分以下インキュベートした後、実質的に硬化している、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項59】
組織標本が、非水性混合物中で約30分以下インキュベートした後、実質的に硬化している、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項60】
組織標本が、非水性混合物中で約45分以下インキュベートした後、実質的に硬化している、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項61】
(b)のために、組織標本を、真空レトルトで処理する、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項62】
組織標本を、約100トル超および/または約760トル未満の圧力で実質的に含浸させる、請求項61記載の組織処理方法。
【請求項63】
ワックス溶液が、約55℃超および/または約85℃未満である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項64】
ワックス溶液が、脱気および脱水されている、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項65】
ワックス溶液が、約30℃未満では固体であるパラフィンから製造されたものである、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項66】
組織標本を、ワックス溶液中で約15分未満インキュベートし、冷却した後は切断することが可能である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項67】
組織標本を、ワックス溶液中で約30分未満インキュベートし、冷却した後は切断することが可能である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項68】
組織標本を、ワックス溶液中で約45分未満インキュベートし、冷却した後は切断することが可能である、請求項35記載の組織処理方法。
【請求項69】
請求項1から34(または、その任意の組合せ)の装置、および/または請求項35から68(または、その任意の組合せ)の方法で処理された組織標本または組織切片。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−509354(P2007−509354A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536872(P2006−536872)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/035245
【国際公開番号】WO2005/040763
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506140457)ザ ユニバーシティー オブ マイアミ (3)
【Fターム(参考)】