説明

組電池の製造方法及び組電池

【課題】組電池が有する単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響を低減すること。
【解決手段】この組電池の製造方法は、二次電池の充放電特性を示す充放電特性曲線の傾きの絶対値が、第1の値から当該第1の値よりも大きい第2の値に変化し、さらに、当該第2の値よりも小さい第3の値に変化する領域のうち、前記絶対値が前記第2の値の領域である変曲領域を有する二次電池の単電池を複数組み合わせて組電池とするものである。単電池が正常であることが確認されたら(ステップS101、Yes)、それぞれの単電池の端子間電圧を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における所定の値に調整する(ステップS103)。そして、調整後におけるそれぞれの単電池を組み合わせて組電池とする(ステップS104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単電池を組み合わせて組電池とすることに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型パーソナルコンピュータや携帯電話等の携帯電子機器に用いられる電源、あるいは電気自動車やハイブリッド自動車に用いられる電源は、繰り返し充放電して使用できる二次電池が用いられる。このような用途に対して、必要な電圧及び電流に対応するため、複数本の単電池を電気的に接続した組電池が用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−243943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
組電池は、組み合わされる単電池の充放電特性にばらつきが存在することにより、組電池から取り出すことができる電力は制限を受けるおそれがある。本発明は、組電池が有する単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
二次電池は、電極(正極又は負極)の材料に含まれた活物質材料の種類あるいはその組み合わせによって、前記二次電池の正極と負極との間の電圧である端子間電圧と電池容量との関係を示す充放電特性曲線に、変曲領域と呼ばれる領域を有するようにすることができる。このような変曲領域を有する二次電池においては、変曲領域の前後において、充放電特性曲線の傾きの絶対値は、低い値から高い値に変化し、再び低い値になる。このように、変曲領域は、これ以外の領域と比較して充放電特性曲線の傾きの絶対値が大きくなるため、端子間電圧の変化に対して充放電容量の変化は小さくなる。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、二次電池の単電池(セル)を組み合わせて組電池とする際に、各単電池の端子間電圧を変曲領域の値に調整してからそれぞれの単電池を組み合わせることで、単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響(特に、組電池の電池容量が、組電池の放電が終了したときにおける電池容量の最も小さい単電池によって制限を受けること)を低減するものである。
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を組み合わせて組電池とする際に、それぞれの前記単電池の充電状態を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整する調整手順と、前記調整後におけるそれぞれの前記単電池を組み合わせて組電池とする組み合わせ手順と、を含むことを特徴とする組電池の製造方法である。
【0007】
この組電池の製造方法は、充放電特性曲線に変曲領域を有する単電池を複数用い、それぞれの単電池、すなわち、組電池の対象となる複数の単電池すべての充電状態を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整後、組み合わせて組電池とする。例えば、それぞれの単電池の端子間電圧又は電池容量を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における所定の値に調整することにより、それぞれの単電池の充電状態を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整することができる。変曲領域は、これ以外の領域と比較して、単電池の端子間電圧の変化に対する電池容量の変化は小さい。このため、それぞれの単電池の端子間電圧又は電池容量を、変曲領域での所定の値に合わせた上で組電池とすることにより、組電池が有する複数の単電池間における電池容量のばらつきを低減できる。その結果、単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響(特に、組電池の電池容量が、組電池の放電が終了したときにおける電池容量の最も小さい単電池によって制限を受けること)を低減できる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記調整手順の前に、それぞれの前記単電池に対して充電と放電との少なくとも一方を行いながら、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線を求める予備検査手順を有することが好ましい。この手順により、単電池の充放電特性を予め把握して、変曲領域についての情報を得ることができるとともに、単電池が正常か否かも判定できる。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記調整手順においては、それぞれの前記単電池の充電状態を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域において、それぞれの前記充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの状態に調整することが好ましい。充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときは、単電池の端子間電圧の変化に対する電池容量の変化が最も小さくなる。このため、それぞれの単電池の充電状態を、充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となったときの充電状態に調整した上で組み合わせれば、組電池の放電終了時において、組電池を構成するそれぞれの単電池の電池容量のばらつきを効果的に抑制できる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記調整手順においては、それぞれの前記単電池の端子間電圧又は電池容量を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域において、それぞれの前記充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧又は電池容量となるように調整することが好ましい。充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときは、単電池の端子間電圧の変化に対する電池容量の変化が最も小さくなる。このため、それぞれの単電池の端子間電圧又は電池容量を、充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧又は電池容量に調整した上で組み合わせれば、組電池の放電終了時において、組電池を構成するそれぞれの単電池の電池容量のばらつきを効果的に抑制できる。なお、調整手順において、それぞれの単電池の端子間電圧を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における所定の値に調整すると、調整手順において、それぞれの単電池の端子間電圧のみを監視すればよいので、比較的簡単に単電池の端子間電圧を調整することができる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記調整手順においては、それぞれの前記単電池を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域において、当該充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧に対して±20%の値、又は当該充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの電池容量に対して±20%の値となるように調整することが好ましい。それぞれの単電池の端子間電圧又は電池容量を、上述した範囲内に調整した上で組み合わせれば、組電池の放電終了時において、組電池を構成するそれぞれの単電池の電池容量のばらつきを抑制できる。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線は、それぞれの前記変曲領域において所定の範囲内にあることを特徴とする組電池である。
【0013】
この組電池は、変曲領域を有する単電池を複数用い、それぞれの単電池の充電状態を、それぞれの単電池の充放電特性曲線の変曲領域における充電状態に調整後、組み合わせて組電池としたものである。このようにして製造された組電池は、それぞれの単電池の充放電特性曲線が、それぞれの変曲領域において所定の範囲内にあり、また、それぞれの充放電特性曲線が交差する場合もある。変曲領域は、これ以外の領域と比較して、単電池の端子間電圧の変化に対する電池容量の変化は小さい。このため、この組電池は、複数の単電池間において、組電池が放電を終了したときにおける電池容量のばらつきが低減される。その結果、単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響(特に、組電池の電池容量が、組電池の放電が終了したときにおける電池容量の最も小さい単電池によって制限を受けること)を低減できる。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線を1つに重ねた場合、それぞれの前記単電池の端子間電圧のばらつき又は電池容量のばらつきは、前記変曲領域よりも、充電完了時点又は放電完了時点の方が大きくなることを特徴とする組電池である。
【0015】
この組電池は、変曲領域を有する単電池を複数用い、それぞれの単電池の端子間電圧のばらつき又は電池容量のばらつきを、変曲領域よりも、充電完了時点又は放電完了時点の方が大きくしたものである。すなわち、変曲領域におけるそれぞれの単電池の端子間電圧のばらつき又は電池容量のばらつきは、充電完了時点又は放電完了時点よりも小さくなる。このため、この組電池は、複数の単電池間において、組電池が放電を終了したときにおける電池容量のばらつきが低減される。その結果、単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響(特に、組電池の電池容量が、組電池の放電が終了したときにおける電池容量の最も小さい単電池によって制限を受けること)を低減できる。
【0016】
本発明の望ましい態様として、充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、それぞれの前記単電池は、それぞれの充放電特性曲線の変曲領域における傾きの絶対値が最大となるときにおける端子間電圧又は電池容量が所定の範囲内にあることが好ましい。このようにすれば、組電池の放電が終了する場合には、組電池を構成するすべての単電池間における電池容量のばらつきを抑制できる。
【0017】
本発明の望ましい態様として、充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、それぞれの前記単電池は、それぞれの充放電特性曲線の変曲領域が開始する点又は終了する点において、端子間電圧又は電池容量が所定の範囲内にあることが好ましい。このようにしても、組電池の放電が終了する場合には、組電池を構成するすべての単電池間における電池容量のばらつきを抑制できる。
【0018】
本発明の望ましい態様として、それぞれの前記単電池は、直列接続されることが好ましい。単電池を直列接続して組電池とした場合、それぞれの単電池の電流値は一定なので、それぞれの単電池の端子間電圧は、それぞれの単電池の内部抵抗によって定まる。このため、直列接続の組電池は、それぞれの単電池の端子間電圧はばらつくことになる。この組電池は、それぞれの単電池の充放電特性曲線が、それぞれの変曲領域、すなわち、充放電特性曲線の傾きの絶対値が大きい領域で合っているので、それぞれの単電池の放電終了時における電池容量のばらつきを効果的に抑制できる。その結果、組電池が有する単電池の内部抵抗が異なることによりそれぞれの単電池の端子間電圧が異なる状態で、一つの単電池が放電終了時の電圧になった場合において、組電池を構成する複数の単電池の電池容量のばらつきを抑制できるので、それぞれの単電池が有する電力を放電する能力(放電能力)を有効に利用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、組電池が有する単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、単電池の一部断面図である。
【図2】図2は、単電池の充放電特性曲線の一例を示す概念図である。
【図3】図3は、組電池の概念図である。
【図4】図4は、複数の単電池の充放電特性曲線を記述した例を示す概念図である。
【図5】図5は、複数の単電池を組み合わせて組電池とする際に、各単電池の端子間電圧を調整する例を説明するための概念図である。
【図6】図6は、充放電特性曲線に変曲領域を有する単電池の充放電特性曲線を示す概念図である。
【図7】図7は、図6に示すような充放電特性曲線を有する単電池を複数組み合わせて組電池とする際に、各単電池の端子間電圧を調整する例を説明するための概念図である。
【図8】図8は、本実施形態に係る組電池の製造方法の手順を示すフロー図である。
【図9】図9は、変曲領域を有する充放電特性曲線を示す概念図である。
【図10】図10は、変曲領域における所定の端子間電圧に調整した単電池を組み合わせた組電池を示す模式図である。
【図11−1】図11−1は、変曲領域において端子間電圧を調整する際の説明図である。
【図11−2】図11−2は、端子間電圧が調整された単電池の変曲領域を示す図である。
【図11−3】図11−3は、端子間電圧が調整された単電池の変曲領域を示す図である。
【図11−4】図11−4は、端子間電圧が調整された単電池の変曲領域を示す図である。
【図12−1】図12−1は、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。
【図12−2】図12−2は、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧に調整して製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。
【図13−1】図13−1は、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。
【図13−2】図13−2は、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧に調整して製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
図1は、単電池の一部断面図である。単電池という場合、正極、負極、セパレータ、電解液及び容器等の電池の構成物を含む単体の電池をいう。単電池1は、二次電池であり、複数回の充放電が可能である。本実施形態において、単電池1は、非水電解質二次電池であり、より具体的にはリチウムイオン電池である。本実施形態において、単電池1はリチウムイオン電池に限定されるものではない。
【0023】
単電池1は、電極群2と、容器6と、電極押さえ7と、蓋8と、安全弁9と、正極端子10と、封止材11と、正極集電リード12と、負極集電リード13とを含む。電極群2は、正極3と、セパレータ4と、負極5とを積層した帯状物を渦巻き状に巻回した構造である。電極群2は、容器6の内部に収納される。容器6は、円筒形状の構造物であり、有底かつ底の反対側に開口部を有する。容器6は、例えば、ステンレス鋼で製造される。容器6内に配置された電極群2は、容器6の開口側が電極押さえ7によって固定される。電極押さえ7は、円筒形状の構造物であり、例えば、高分子材料で製造される。セパレータ4は、例えば不織布、ポリプロピレン微多孔フィルム、ポリエチレン微多孔フィルム、ポリエチレン−ポリプロピレン微多孔積層フィルムである。正極3の活物質及び負極5の活物質については後述する。
【0024】
容器6は、内部に電解液が収納されている。容器6は、開口部に蓋8が溶接されて密閉される。蓋8の開口部には安全弁9が溶接される。正極端子10は、封止材11を介して蓋8に固定される。正極集電リード12及び負極集電リード13は、いずれも導体(例えば、銅)で製造される。電極群2が有する複数の正極3は、正極集電リード12によって正極端子10と電気的に接続される、電極群2が有する複数の負極5は、負極集電リード13によって負極端子である容器6と電気的に接続される。
【0025】
図2は、単電池の充放電特性曲線の一例を示す概念図である。単電池1の正極3と負極5との間の電圧、すなわち端子間電圧をVtとし、単位時間あたりの充放電容量の積算値である電池容量(充放電の電池容量、放電容量)をQcとする。図2中のVtsは単電池1の充電終了時における端子間電圧(充電終了電圧)、Qcsは単電池1の充電終了時における電池容量(充電終了時容量)、Vteは単電池1の放電終了時における端子間電圧(放電終了電圧)、Qceは単電池1の放電終了時における電池容量(放電終了時容量)である。放電終了時容量Qceは、放電終了電圧Vteでの単電池1の電池容量である。
【0026】
単電池1は、放電を開始すると、電池容量Qcが増加するにしたがって端子間電圧Vtは減少する。この場合、単電池1の端子間電圧Vtを縦軸に、電池容量Qcを横軸にとると、例えば、図2に示すような曲線Cが描かれる。曲線Cを、充放電特性曲線という。充放電特性曲線は、単電池1の正極3又は負極5が含む活物質の種類、単電池1の製造ばらつき、単電池1の経時変化又は複数の単電池1の配列等によって変化する。例えば、正極3又は負極5が含む活物質の種類によって、単電池1は、単数又は複数の変曲領域を有する充放電特性曲線を有したり、図2に示すような単調に減少する充放電特性曲線を有したりするようになる。
【0027】
二次電池である単電池1は、充電終了電圧Vtsが大きくなると、放電終了時容量Qceは大きくなる。すなわち、充電終了電圧Vtsが大きい程、単電池1に蓄えられる電気の量は多くなるので、放電終了時容量Qceは大きくなる。充電終了電圧Vtsは、単電池1の安全性を考慮して上限が決められている。また、放電終了電圧Vteは、単電池1の劣化を抑制する観点から、下限が決められている。単電池1がリチウムイオン電池である場合、充電終了電圧Vtsの上限(上限端子間電圧)であるVt_maxは4.2V程度、放電終了電圧Vteの下限端子間電圧であるVt_minは3.0V程度が一般的な値である。
【0028】
図3は、組電池の概念図である。組電池100は、複数の単電池1を組み合わせて電気的に接続することによって、複合の電池としたものである。図3に示す例では、複数の単電池1を直列に接続しているが、複数の単電池1は、並列に接続されていてもよい。複数の単電池1を直列に接続した場合、組電池100の端子間電圧(総電圧)、すなわち正極101と負極102との間の電圧は、組電池100が有するすべての組電池100の端子間電圧Vtを総和した値になる。
【0029】
図4は、複数の単電池の充放電特性曲線を記述した例を示す概念図である。単電池SCaの充放電特性曲線をCa、単電池SCbの充放電特性曲線をCbとする。この例において、単電池SCbの充電終了電圧Vtsb及び放電終了時容量Qcebは、いずれも単電池SCaの充電終了電圧Vtsa及び放電終了時容量Qceaよりも大きい。このような単電池SCaと単電池SCbとを組み合わせて組電池100とした場合、組電池100が有する単電池SCa、単電池SCbの放電終了電圧Vteは、上述した理由からいずれも同じ下限値に制限される。したがって、組電池100は、単電池SCaと単電池SCbとのいずれか一方の端子間電圧Vtが放電終了電圧Vteに達したときに、放電を終了する必要がある。
【0030】
図4に示す例では、単電池SCaの放電終了時容量Qceaは、単電池SCbの放電終了時容量Qcebよりも小さい。そして、単電池SCaが放電終了電圧Vteに到達したとき、単電池SCbは放電終了電圧Vteに到達していない。図4に示す例において、組電池100は、単電池SCaの端子間電圧Vtが放電終了電圧Vteに到達した場合、放電を終了する。この場合、単電池SCaから取り出すことのできる総電力は、図4の縦軸と横軸と充放電特性曲線Caとで囲まれる領域に相当する値であり、単電池SCbから取り出すことのできる総電力は、図4の縦軸と横軸と充放電特性曲線Cbと直線Qc=Qceaとで囲まれる領域に相当する値である。これは、単電池SCbはまだ放電できるにも関わらず、前記組電池100は放電を停止しなければならないことを意味している。すなわち、組電池100が放電を停止した状態において、単電池SCbは、図4の横軸と充放電特性曲線Cbと直線Qc=Qceaとで囲まれる領域に相当する値の電力を放電できる余裕を残している。すなわち、組電池100が放電を停止した状態において、単電池SCaの充電状態と単電池SCbの充電状態とは異なっている。
【0031】
複数の単電池1を組み合わせて組電池100とする場合、同様の充放電特性を有する単電池1を異なる充電終了電圧Vts(すなわち異なる充電状態)として組み合わせると、放電終了時容量Qceが最も小さい単電池1が放電終了電圧Vteに到達したときに組電池100の放電は停止することになる。このため、放電終了時容量Qceに余裕のある単電池1、すなわち、組電池100が放電を停止したときにまだ放電可能な電力を残している単電池1が存在することになる。したがって、異なる充電終了電圧Vtsの単電池1を組み合わせた組電池100は、放電可能な電力を残している単電池1について、その放電能力を十分に利用していないといえる。
【0032】
また、例えば、充電終了電圧Vtsが上限端子間電圧Vt_maxの単電池1と、充電終了電圧Vtsが下限端子間電圧Vt_minの単電池1とを組み合わせて組電池100を製造した場合を考える。この場合、組電池100は、上限端子間電圧Vt_maxの単電池1が存在するため、これ以上充電することはできず、また、下限端子間電圧Vt_minの単電池1が存在するため、これ以上放電することはできない。したがって、複数の単電池1を組み合わせて組電池100を製造する場合、それぞれの単電池1を効率的に利用し、かつ確実に充放電できるようにするため、それぞれの単電池1の端子間電圧Vtを適切な値とする必要がある。
【0033】
図5は、複数の単電池を組み合わせて組電池とする際に、各単電池の端子間電圧を調整する例を説明するための概念図である。複数の単電池1を組み合わせて組電池100を製造する場合、すべての単電池の端子間電圧Vtを、充電終了電圧Vtsの上限(例えば、4.2V)に調整した上で、当該調整後の単電池を組み合わせる手法がある。この手法によれば、組電池100の充電終了時(満充電時)において、組電池100が有するそれぞれの単電池間の端子間電圧(充電終了電圧)の差が低減される。その結果、それぞれの単電池から取り出ことができる電気エネルギーを安全に平均化することができるので、組電池100から取り出すことが可能な電力を大きくできる。
【0034】
図5に示す例は、単電池SCaと単電池SCbとを組み合わせて組電池100とするものである。この例では、単電池SCaと単電池SCbとは、充電終了電圧の上限(上限端子間電圧)であるVt_maxまで充電されてから組み合わされる。このため、単電池SCaと単電池SCbとの充放電特性曲線Ca、Cbは、縦軸と交差する点、すなわち充電終了時において、充電終了電圧Vtsa、Vtsbが一致するようになる。このようにすれば、単電池SCaの放電終了時容量Qceaと単電池SCbの放電終了時容量Qcebとの差を小さくすることができる。その結果、組電池100は、それぞれの単電池SCa、SCbの放電能力を有効に利用できるので、結果として組電池100から取り出すことが可能な電力は大きくなる。
【0035】
組電池100から取り出すことのできる電力は、組電池100が有するそれぞれの単電池間における、放電終了時容量Qceのばらつきにより制限を受ける。また、放電終了時容量Qceは、単電池の内部抵抗により変化し、前記内部抵抗が高くなると小さくなる。図5に示す例において、単電池SCb’は、充放電特性曲線Cb’を有している。単電池SCb’は、単電池SCa及び単電池SCbと比較して、放電終了時容量Qceb’は小さい。通常、組電池100は、寿命を考慮して一つの単電池が放電終了電圧Vteになったときに、放電を停止する。このため、単電池SCb’と単電池SCa又は単電池SCbとを組み合わせた組電池から取り出すことが可能な電力は、単電池SCaと単電池SCbとを組み合わせた組電池100よりも小さくなる。
【0036】
単電池1が、図2に示すような単調に減少する充放電特性曲線Cを有している場合、充電終了電圧Vtsの近傍では、充放電特性曲線Cの傾きの絶対値(=|δVt/δQc|)は小さくなる。このため、充電終了電圧Vtsの近傍では、端子間電圧Vtの変化に対する電池容量Qcの変化量は大きくなる。複数の単電池1を組み合わせて組電池を製造する際に、それぞれの単電池1の端子間電圧Vtを充電終了電圧Vtsに合わせると、複数の単電池1の間において端子間電圧Vtのばらつきが小さくても、電池容量Qcは大きく変化するため、放電終了時容量Qceのばらつきは大きくなる。その結果、単調に減少する充放電特性曲線Cを有している単電池1を複数組み合わせて組電池100を製造すると、最も小さい放電終了時容量Qceの単電池1が最も早く放電終了電圧Vteになったときに組電池100は放電を停止する。このとき、組電池100は、まだ放電能力を有している組電池1が存在していたとしても、放電を停止することになる。このように、単調に減少する充放電特性曲線Cを有している単電池1を用いた組電池100は、すべての単電池1の放電能力を有効に利用できない結果、組電池100が蓄えている電力の利用効率を高くできない場合がある。
【0037】
図6は、充放電特性曲線に変曲領域を有する単電池の充放電特性曲線を示す概念図である。図7は、図6に示すような充放電特性曲線を有する単電池を複数組み合わせて組電池とする際に、各単電池の端子間電圧を調整する例を説明するための概念図である。二次電池である単電池1は、正極3と負極5との少なくとも一方に複数の異なる活物質材料を含ませることによって、図6に示すような階段状に変化する充放電特性曲線Ccを有する。この充放電特性曲線Ccは、電池容量Qcが大きくなるにしたがって、すなわち、単電池1の放電が進むにしたがって、大きく分けて、傾きの絶対値が第1の値K1、第2の値K2、第3の値K3と変化する。充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値は、K1<K2、K2>K3の関係がある。
【0038】
充放電特性曲線Ccは、第1の値K1の領域A1、第3の値K3の領域A3及び領域A1と領域A3との間の領域を有する。領域A1と領域A3との間の領域は、第1の値K1から第2の値K2に変化し、さらに、第3の値K3に変化する領域を有する。図6に示す例において、領域A1と領域A3との間の領域は、(Vt1、Qc1)から(Vt2、Qc2)までの領域である。領域A1と領域A3との間の領域のうち、傾きの絶対値が第2の値K2の領域を変曲領域A2という。変曲領域A2は、単電池1の電極(正極、負極)が複数の活物質材料を含むことにより、放電の進行にともない単電池1の電極においてイオンを放出する活物質材料が入れ替わることによって、充放電容量が変化する領域である。変曲領域A2は、これ以外の領域、すなわち、領域A1、領域A3、領域A1と変曲領域A2との間の領域及び変曲領域A2と領域A3との間の領域と比較して、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が大きくなる。その結果、変曲領域A2は、これ以外の領域と比較して、端子間電圧Vtの変化に対して電池容量Qcの変化は小さくなる。
【0039】
本実施形態に係る組電池の製造方法は、組電池100を構成する複数の単電池1のそれぞれの単電池1の充電状態を変曲領域A2での状態に調整してから、複数の単電池1を組み合わせて組電池100を製造する。単電池1の充電状態を変曲領域A2の状態に調整する手法としては、例えば、単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値|δVt/δQc|が、単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における|δVt/δQc|となるように、単電池1の充電状態を調整するものがある。また、前記手法としては、それぞれの単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcを、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における所定の値に調整するものもある。このようにして、複数の単電池1の充電状態を、それぞれの充放電特性曲線Ccの変曲領域A2の状態に調整した後、調整後におけるそれぞれの単電池1を組み合わせて組電池100とする。
【0040】
図7に示す例は、充放電特性曲線がCcdの単電池SCdと、充放電特性曲線がCceの単電池SCeとを組み合わせる場合を示している。図7に示すように、単電池SCdの端子間電圧Vt及び単電池SCeの端子間電圧Vtは、いずれも充放電特性曲線Ccd、Cceの変曲領域A2における値Vtbに調整されてから組み合わされる。また、単電池SCdの電池容量Qc及び単電池SCeの電池容量Qcは、いずれも充放電特性曲線Ccd、Cceの変曲領域A2における値Qcbに調整されてから組み合わされてもよい。いずれの場合でも、単電池SCd、SCeを充電(矢印CHで示す方向)又は放電(矢印DCで示す方向)することにより、単電池SCd、SCeの端子間電圧VtをVtbに調整したり、単電池SCd、SCeの電池容量QcをQcbに調整したりする。
【0041】
変曲領域A2は、これ以外の領域と比較して、端子間電圧Vtの変化に対する電池容量Qcの変化は小さくなる。このため、複数の単電池SCd、SCeの端子間電圧Vtを変曲領域A2における値Vtbに調整した上で組み合わせれば、放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できる。その結果、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造した組電池は、放電を停止したときにおいて、組電池が有するすべての単電池SCd、SCeの放電能力を有効に利用できる。また、本実施形態に係る組電池の製造方法は、すべての単電池SCd、SCeの放電能力を有効に利用できるので、組電池から取り出すことのできる電力の最大化を図ることができる。このように、本実施形態に係る組電池の製造方法は、電力の利用効率が高い組電池を製造できる。
【0042】
単電池に変曲領域A2を持たせる場合、正極は、例えば、非晶質のV又はLiを活物質材料として用いることができる。また、負極は、例えば、Li又はLiの合金(例えば、Li−Pb−La合金等)又はLi−Cを活物質材料として用いることができる。この他にも、正極の活物質材料として、Li±α[Me]8−x(0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、Co及びCuからなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)で表され、八面体とは異なる粒子形態を有するものを用い、負極の活物質材料として、LiTQ12を用いてもよい。このように、本実施形態では、単電池の充放電特性曲線に変曲領域を持たせることができる活物質材料であれば、その種類及び混合の比率は問わない。次に、本実施形態に係る組電池の製造方法の手順をより詳細に説明する。
【0043】
図8は、本実施形態に係る組電池の製造方法の手順を示すフロー図である。図9は、変曲領域を有する充放電特性曲線を示す概念図である。図10は、変曲領域における所定の端子間電圧に調整した単電池を組み合わせた組電池を示す模式図である。図11−1は、変曲領域において端子間電圧を調整する際の説明図である。図11−2から図11−4は、端子間電圧が調整された単電池の変曲領域を示す図である。本実施形態に係る組電池の製造方法により図3に示すような組電池100を製造するにあたって、まず、ステップS101において、単電池1の充放電特性曲線は正常であるか否かが判定される。なお、図9に示すように、本実施形態に係る組電池の製造方法で用いる単電池1は、充放電特性曲線Ccが変曲領域A2を有するものである。
【0044】
単電池1の充放電特性曲線は正常であるか否かを判定するにあたり、まず、単電池1を充電又は放電させることにより充放電特性曲線を求める。この手順が、予備検査手順である。そして、求めた充放電特性曲線に基づいて単電池1の充放電特性曲線が正常であるか否かが判定される。例えば、得られた単電池1の充放電特性曲線と、正常な充放電特性曲線とを比較して、両者の一致率が所定の値よりも低い場合には、単電池1の充放電特性曲線は正常でないと判定される。単電池1の充放電特性曲線が正常でない場合(ステップS101、No)、ステップS102へ進む。ステップS102において、充放電特性曲線が正常でない単電池1は、組電池100の対象外であるとして、組電池100を構成する単電池としては用いられない。単電池1の充放電特性曲線が正常である場合(ステップS101、Yes)、その単電池1を組電池100の対象として用いる。
【0045】
次に、ステップS103に進み、組電池100の対象である複数の単電池1のそれぞれの充電状態を、それぞれの単電池1の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整する。この手順が、調整手順である。N個の単電池1を組み合わせて組電池100とする場合、調整手順においては、それぞれの単電池1の充電状態を調整する。このように、組電池100を構成するそれぞれの単電池1について、充電状態を変曲領域における状態とすれば、完成した組電池100は、単電池1の充放電特性のばらつきが組電池100に与える影響、特に、組電池100の電池容量が、放電終了時容量Qceの最も小さい単電池1によって制限を受けることを低減できる。
【0046】
単電池1の充電状態を変曲領域A2における状態とする場合、単電池1は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値K2が、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における所定の値に調整される。充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値K2は、単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値|δVt/δQc|である。また、単電池1の充電状態を変曲領域A2における状態とする場合、単電池1の端子間電圧Vtが、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における所定の値に調整されてもよい。さらに、単電池1は、端子間電圧Vtの代わりに電池容量Qcが、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における所定の値に調整されてもよい。
【0047】
変曲領域A2は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値Kが変曲領域A2以外の領域よりも大きくなる。このため、それぞれの単電池1の端子間電圧Vtを、それぞれの充放電特性曲線Ccの変曲領域A2における所定の値に調整した上で組み合わせることにより、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できる。その結果、組電池100は、自身が有する単電池1を効率的に利用できるようになるので、組電池100からは、より多くの電力を取り出すことができるようになる。
【0048】
図9を参照して、変曲領域A2の範囲を説明する。本実施形態において、単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2は、第1の値K1又は第3の値K3を基準として規定することができる。例えば、変曲領域A2は、充放電特性曲線Ccにおいて、傾きの絶対値が第1の値K1又は第3の値K3の2倍以上、より具体的にはK1とK3とを比較して、大きい方の2倍以上となる領域とする。第1の値K1又は第3の値K3を基準として変曲領域A2を規定する場合、第1の領域A1又は第3の領域A3における任意の複数点(例えば、5点)の平均値とする。
【0049】
上述したように、変曲領域A2を有する充放電特性曲線Ccは、第1の領域A1から変曲領域A2を経て第3の領域A3へ至る間で階段状に変化する、特徴的な形状を有する。このため、第1の領域A1及び第3の領域A3は、充放電特性曲線Ccが階段状に変化する部分において、傾きが大きい部分の両側における、相対的に傾きの小さい領域として識別される。なお、第3の領域A3は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が増加し始めるまで、すなわち、充放電特性曲線Ccの端子間電圧Vtを電池容量Qcで二階微分した値の符号が正になるまでの領域である。
【0050】
また、変曲領域A2は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値|δVt/δQc|の最大値K2max(=|δVt/δQc|_max)を用いて規定してもよい。この場合、例えば、変曲領域A2は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値、すなわち、単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値|δVt/δQc|が、K2maxの50%以上である領域とする。このように、変曲領域A2は、第1の値K1又は第3の値K3を基準とするか、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値の最大値K2maxを基準とするか、いずれかによって規定すればよい。特に、後者は、第1の値K1又は第3の値K3が変動するような場合に有利である。
【0051】
本実施形態の調整手順において、単電池1は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値、すなわち、単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値|δVt/δQc|が最大となるときの状態に調整されることが好ましい。図9に示す例では、単電池1の充電状態は、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大値K2maxとなるときの状態に調整される。例えば、上述した予備検査手順で求めた調整対象の単電池1の充放電特性曲線Ccから、調整対象の単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値の最大値|δVt/δQc|_maxを求めておく。そして、調整対象の単電池1の端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値|δVt/δQc|を求めながら、調整対象の単電池1を充電又は放電させ、|δVt/δQc|が|δVt/δQc|_maxとなったときに充電又は放電を停止する。このようにすることで、単電池1の状態を、単電池1の充放電特性曲線の変曲領域において、充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの状態に調整することができる。
【0052】
なお、同じ種類の複数の単電池1を組み合わせて組電池100を製造する場合、それぞれの単電池1の充放電特性は同一であると仮定して、一つの単電池1の|δVt/δQc|_maxを求め、これを他の単電池1に対して適用してもよい。このようにすれば、充電状態が変曲領域A2における状態に調整されるすべての単電池に対して|δVt/δQc|_maxを求める必要はないので、組電池100を製造する手間を低減できる。
【0053】
また、単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcを変曲領域A2における所定の値に調整する場合、端子間電圧Vt又は電池容量Qcは、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧又は電池容量に調整されることが好ましい。充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値は、端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値である。すなわち、単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcは、充放電特性曲線Ccの端子間電圧Vtを電池容量Qcで二階微分した値の符号が正から負又は負から正に変わるとき、すなわち、前記二階微分した値が0となるときにおける端子間電圧又は電池容量に調整される。
【0054】
図9に示す例では、単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcは、|δVt/δQc|=K2maxのときの端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbに調整される。この場合、例えば、上述した予備検査手順で求めた調整対象の単電池1の充放電特性曲線Ccから、調整対象の単電池1の|δVt/δQc|_maxに対応する端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbを求めておく。そして、調整対象の単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcを監視しながら調整対象の単電池1を充電又は放電させ、端子間電圧Vt又は電池容量QcがVtb又はQcbとなったときに充電又は放電を停止する。このようにすることで、単電池1の状態を、単電池1の充放電特性曲線の変曲領域において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大となるときの状態に調整することができる。
【0055】
なお、同じ種類の複数の単電池1を組み合わせて組電池100を製造する場合、それぞれの単電池1の充放電特性は同一であると仮定して、一つの単電池1の端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbを求め、これを他の単電池1に対して適用してもよい。このようにすれば、充電状態が変曲領域A2における状態に調整されるすべての単電池に対して端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbを求める必要はないので、組電池100を製造する手間を低減できる。
【0056】
充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大となるときは、単電池1の端子間電圧Vtの変化に対する電池容量Qcの変化が最も小さくなる。このため、ステップS103において、それぞれの単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcを、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbに調整した上で組み合わせれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制する効果は大きくなる。
【0057】
それぞれの単電池1の端子間電圧Vtは、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大(K2max)となるときの端子間電圧Vtbに対して、±5%の値に調整されていればよい。すなわち、図11−1に示すように、変曲領域A2における所定の値は、0.95×Vtb以上1.05×Vtb以下の範囲であればよい。それぞれの単電池1の端子間電圧Vtを、前記範囲内に調整した上で組み合わせれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できる。なお、それぞれの単電池1の端子間電圧Vtは、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大(K2max)となるときの端子間電圧Vtbに対して、±3%の値に調整されていることがより好ましい。このようにすれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきをさらに抑制できる。
【0058】
また、それぞれの単電池1の電池容量Qcは、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大(K2max)となるときの電池容量Qcbに対して、±8%の値に調整されていればよい。すなわち、図11−1に示すように、変曲領域A2における所定の値は、0.92×Qcb以上1.08×Qcb以下の範囲であればよい。それぞれの単電池1の電池容量Qcを、前記範囲内に調整した上で組み合わせれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できる。なお、それぞれの単電池1の電池容量Qcは、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Ccの変曲領域A2において、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が最大(K2max)となるときの電池容量Qcbに対して、±5%の値に調整されることがより好ましい。このようにすれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきをさらに抑制できる。
【0059】
単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcを調整する場合、端子間電圧Vt及び電池容量Qcを測定しながら、|δVt/δQc|、すなわち、端子間電圧Vtを電池容量Qcで一階微分した値の絶対値を計算し、|δVt/δQc|が最大となるまで単電池1を充放電する。この場合、端子間電圧Vtを電池容量Qcで二階微分した値の絶対値が0になるまで、単電池1を充放電してもよい。また、ステップS101で単電池1の充放電特性曲線を求め、得られた充放電特性曲線から|δVt/δQc|が最大となるときの端子間電圧Vtb又は電池容量Qcbの値を求め、単電池1の端子間電圧VtがVtb又はQcbになるまで単電池1を充放電してもよい。最後の方法は、ステップS103で単電池1の端子間電圧Vtを調整するにあたって、単電池1の端子間電圧Vt又は電池容量Qcのみを測定すればよいので、比較的簡易に端子間電圧Vtを必要な値に調整できる。
【0060】
調整手順においては、それぞれの単電池1の充電状態を、それぞれの単電池1の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整すればよい。したがって、組電池100を構成する複数の単電池1は、それぞれの充放電特性曲線Ccの変曲領域A2が開始する点SP1又は終了する点SP2(図9参照)における充電状態に調整されてもよい。このようにしても、組電池100を構成するそれぞれの単電池1は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が大きい変曲領域A2における充電状態とされた後に組み合わされるので、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを効果的に抑制できる。なお、本実施形態において、変曲領域A2が開始する点SP1と終了する点SP2とは、それぞれ、単電池1が放電する場合の変曲領域A2が開始する点と終了する点とをいう。また、組電池100を構成する複数の単電池1は、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2が開始する点SP1と終了する点SP2との間の所定の点における充電状態に調整されてもよい。この場合にも、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを効果的に抑制できる。
【0061】
単電池1の充放電状態が調整されたら、ステップS104へ進み、調整後の単電池1が直列に組み合わされて、組電池100となる。本実施形態に係る組電池の製造方法は、組電池100を構成するそれぞれの充電状態を、傾きの絶対値が大きい変曲領域における状態とした上で組み合わせ、組電池100を製造する。このような方法によって完成した組電池100は、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを低減できる。その結果、単電池1の充放電特性のばらつきが組電池100に与える影響、特に、組電池100の電池容量が、放電終了時容量Qceの最も小さい単電池1によって制限を受けることを低減できる。
【0062】
図10は、6個の単電池1を直列に接続して組電池100とした例を示している。この場合、組電池100の端子間電圧Vts_Cは、ステップS103の調整後におけるそれぞれの単電池1の端子間電圧Vtbを総和した値になる。単電池1を直列接続して組電池100とした場合、それぞれの単電池1の電流値は一定なので、それぞれの単電池1の端子間電圧Vtは、それぞれの単電池1の内部抵抗によって定まる。このため、直列接続の組電池100は、それぞれの単電池1の端子間電圧はばらつくことになる。
【0063】
本実施形態に係る組電池の製造方法により製造した組電池100は、それぞれの単電池1の充電状態を、充放電特性曲線Ccの変曲領域A2の状態としている。すなわち、組電池100を構成するそれぞれの単電池1は、充放電特性曲線Ccの傾きの絶対値が大きい変曲領域A2における充電状態とされた後に組み合わされるので、それぞれの単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを効果的に抑制できる。その結果、組電池100が有する単電池1の内部抵抗が異なることによりそれぞれの単電池1の端子間電圧Vtが異なる状態で、一つの単電池1が放電終了電圧Vteになった場合において、組電池100を構成する複数の単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できるので、それぞれの単電池1が有する放電能力を有効に利用できる。
【0064】
次に、ステップS105へ進み、組電池100の充放電は正常か否かが判定される。例えば、組電池100を充放電することにより組電池100の充放電特性曲線を得て、得られた充放電特性曲線に基づき、組電池100の充放電が正常であるか否かが判定される。組電池100の充放電が正常である場合(ステップS105、Yes)、組電池100が完成する。組電池100の充放電が正常でない場合(ステップS105、No)、単電池1同士の接続、単電池1の充放電が正常か否か及び単電池1同士を組み合わせる際における端子間電圧Vtの調整等がチェックされる(ステップS106)。
【0065】
本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池100は、組電池100に対して充放電することによって、それぞれの単電池1の充放電特性曲線を求めると、それぞれの単電池1の充放電特性曲線は、それぞれの変曲領域において所定の範囲内にある。より具体的には、図11−2に示すように、組電池100を構成する複数の単電池1のすべては、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域A2a、A2bにおける傾きの絶対値が最大K2maxa、K2maxbとなるときにおける端子間電圧Vtba、Vtbb又は電池容量Qcba、Qcbbが所定の範囲ΔVtb、ΔQcb内にある。なお、この例では、2個の単電池1について説明しているが、組電池100の対象となっているすべての単電池1について、それぞれの充放電特性曲線が、それぞれの変曲領域において所定の範囲内になる(以下の例でも同様)。
【0066】
変曲領域A2a、A2bは、これ以外の領域と比較して、単電池1の端子間電圧Vtの変化に対する電池容量Qcの変化は小さい。このため、組電池100は、複数の単電池1間における放電終了時容量Qcのばらつきが低減される。その結果、単電池1の充放電特性のばらつきが組電池100に与える影響、特に、組電池100の電池容量が、放電終了時容量Qceの最も小さい単電池1によって制限を受けることを低減できる。なお、図11−2は、組電池100を構成する複数の単電池1のうち二つを例として抽出し、それらの充放電特性曲線Cc1、Cc2を記述したものである。実際は、組電池100の対象となっているすべての単電池1について、それぞれの充放電特性曲線が、それぞれの変曲領域において所定の範囲内になる。
【0067】
所定の範囲ΔVtbは、例えば、充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域A2a、A2bにおける傾きの絶対値が最大K2maxa、K2maxbとなるときにおける端子間電圧Vtba、Vtbbの標準偏差σvが0.15以内の範囲とすることができる。また、所定の範囲ΔVtbは、例えば、組電池100を構成するそれぞれの単電池1の端子間電圧Vtba、Vtbbを平均することにより得られた平均値の±5%以内、すなわち、0.95倍以上1.05倍以下の範囲としてもよい。
【0068】
同様に、所定の範囲ΔQcbは、例えば、充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域A2a、A2bにおける傾きの絶対値が最大K2maxa、K2maxbとなるときにおける電池容量Qcba、Qcbbの標準偏差σQが0.1以内の範囲とすることができる。また、所定の範囲ΔQcbは、例えば、組電池100を構成するそれぞれの単電池1の電池容量Qcba、Qcbbを平均して得られた平均値±10%以内、すなわち、の0.9倍以上1.1倍以下の範囲としてもよい。
【0069】
上述したように、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池100は、それぞれ、すなわちすべての単電池1の充放電特性曲線Cc1、Cc2は、それぞれの変曲領域A2a、A2bにおいて所定の範囲内にある。この場合、図11−3に示すように、それぞれの単電池1の充放電特性曲線Cc1、Cc2は、それぞれの変曲領域A2a、A2bで交差する場合もある。より具体的には、充放電特性曲線Cc1、Cc2は、それぞれの変曲領域A2a、A2bにおいて、充放電特性曲線Cc1、Cc2の傾きの絶対値が最大(K2maxa、K2maxb)となる部分又はその近傍で一致又は交差するようになる。
【0070】
調整手順において、単電池1の充電状態を、それぞれの充放電特性曲線Ccの変曲領域A2が開始する点SP1又は終了する点SP2(図9参照)における充電状態に調整した場合、それぞれの単電池1は、次のようになる。すなわち、図11−4に示すように、それぞれの単電池1は、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域が開始する点SP1又は終了する点SP2において、端子間電圧Vt又は電池容量Qcが所定の範囲ΔVt、ΔQc内にある。この場合の所定の範囲ΔVt、ΔQcは、上述した所定の範囲ΔVtb、ΔQcbと同様である。
【0071】
すなわち、調整手順において、単電池1の充電状態を、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域A2が開始する点SP1から終了する点SP2までの所定の点における充電状態に調整した場合、それぞれの単電池1は、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域が開始する点SP1から終了する点SP2までの所定の点において、端子間電圧Vt又は電池容量Qcが所定の範囲ΔVt、ΔQc内にある。この場合、所定の範囲ΔVt、ΔQcは、上述した所定の範囲ΔVtb、ΔQcbと同様である。
【0072】
また、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池100は、充放電によって、それぞれの単電池1の充放電特性曲線を求めると、それぞれの単電池1の充放電特性曲線は、それぞれの変曲領域において所定の範囲内にある。そして、前記充放電特性曲線の変曲領域におけるばらつきは、変曲領域以外の領域(前述の領域A1、A3)におけるばらつきよりも大きくなる。
【0073】
上述したように、組電池100を構成する複数の単電池1のそれぞれは、調整手順において、単電池1の充電状態を、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の、変曲領域A2が開始する点SP1から終了する点SP2までの所定の点における充電状態に調整される。この場合、それぞれの単電池1は、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域が開始する点SP1から終了する点SP2までの所定の点において、端子間電圧Vt又は電池容量Qcが所定の範囲ΔVt、ΔQc内にある。同時に、それぞれの単電池1は、領域A1又は領域A3の所定の点(例えば、充電完了時点、あるいは放電完了時点)における端子間電圧Vt又は電池容量Qcのばらつきが、変曲領域A2におけるばらつきよりも大きくなる。
【0074】
また、それぞれの単電池1は、それぞれの充放電特性曲線Cc1、Cc2の変曲領域が開始する点SP1から終了する点SP2までの所定の点において、端子間電圧Vt又は電池容量Qcが所定の範囲ΔVt、ΔQc内にある。同時に、それぞれの単電池1は、放電終了時近傍における端子間電圧Vt又は電池容量Qcのばらつきが、変曲領域におけるばらつきよりも大きくなる。この場合の所定の範囲ΔVt、ΔQcも、上述した所定の範囲ΔVtb、ΔQcbと同様である。
【0075】
このように、組電池100を構成するそれぞれの単電池1は、変曲領域を中心として、放電が進む(電池容量Qcが大きくなる)又は充電が進む(端子間電圧Vtが大きくなる)にしたがって、端子間電圧Vtのばらつき又は電池容量Qcのばらつきは大きくなる。そして、変曲領域内のいずれかの点において、前記ばらつきは最も小さくなる。したがって、それぞれの単電池1の充放電特性曲線を1つに重ねた場合(この例では1つの図に重ねている)には、図7に示すように、領域A1から領域A2の方向(または領域A3から領域A1の方向)に向かって端子間電圧Vtの範囲又は電池容量Qcの範囲が狭くなる(収束する)傾向を有する。
【0076】
このような端子間電圧Vtのばらつき又は電池容量Qcのばらつきの傾向は、組電池100を構成する単電池1の充放電特性(充放電状態)にばらつきが存在するために生ずる。すなわち、このばらつきは、単電池1の製造時のばらつきに起因する電池容量のばらつきが存在すること、あるいは製造時における電池容量Qcのばらつきの有無に関わらず、組電池100を構成する組電池1のそれぞれの充放電ばらつきに起因する端子間電圧Vtのばらつき等が存在すること等が原因で生じる。組電池100を構成する単電池1の充放電特性(充放電状態)のばらつきが小さい場合、上述した傾向は少なくなり、組電池100の充電終了時点から放電完了時点までの間で、端子間電圧Vtのばらつき又は電池容量Qcのばらつきも小さくなる。しかし、この場合も、組電池100は、充電完了時点又は放電完了時点におけるそれぞれの単電池の端子間電圧Vt及び電池容量Qcのばらつきは、変曲領域におけるばらつきよりも大きくなる。
【0077】
組電池100に対して充放電することによって得られたそれぞれの単電池1のうちそれぞれ、すなわちすべての充放電特性曲線Cc1、Cc2が上述したようなものであれば、組電池100を構成する単電池1の放電終了時容量Qceのばらつきを抑制できる。その結果、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池100は、自身が有する単電池1の放電能力を有効に利用できるので、組電池100が蓄えている電力の利用効率を高くすることができる。
【0078】
本実施形態では、組電池100を製造するにあたって、組電池100の対象となっている複数の単電池1のそれぞれ、すなわちすべての充電状態を、それぞれの単電池1の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整すればよい。このようにすれば、組電池100の放電が終了する場合、すなわち、組電池100を構成する一つの単電池1が放電終了電圧Vteになった場合に、組電池100を構成するすべての単電池1間における放電終了時容量Qceのばらつきをさらに抑制できる。そして、組電池100が蓄えている電力の利用効率をさらに高くすることができる。
【0079】
図12−1、図13−1は、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。図12−2、図13−2は、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧に調整して製造した組電池が有するそれぞれの単電池の充放電特性曲線を示す図である。図12−1から図13−2の単電池は、正極及び負極の活物質材料にいずれも同じものを用いている。図12−1と図13−1とは、正極に含まれる活物質材料の混合比率を変更することにより、充放電特性曲線を変更したものである。図12−2と図13−2とについても、図12−1と図13−1との関係と同様である。
【0080】
図12−1から図13−2に示す例においては、3種類の単電池Sca、Scb、Sccを組み合わせて組電池を製造する。実線で示す充放電特性曲線Ccaは単電池Scaのものであり、一点鎖線で示す充放電特性曲線Ccbは単電池Scbのものであり、破線で示す充放電特性曲線Cccは単電池Sccのものである。単電池Sccは、単電池Scaよりも放電終了時容量Qceが大きく、単電池Scbは、単電池Scaよりも放電終了時容量Qceが小さい。このように、単電池Sca、Scb、Sccは、充放電特性にばらつきが存在し、放電終了時容量Qceが異なっている。
【0081】
図12−1、図13−1に示すように、本実施形態に係る組電池の製造方法は、それぞれの充放電特性曲線Cca、Ccb、Cccの変曲領域で単電池1の端子間電圧Vtを調整する。本実施形態に係る組電池の製造方法は、それぞれの単電池Sca、Scb、Sccの端子間電圧を上限端子間電圧Vt_maxに調整した場合と比較して、最も放電終了時容量Qceが小さい単電池Scbの放電終了時容量Qceを大きくできる。このように、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池は、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧Vt_maxに調整した場合と比較して、放電終了時容量Qceにばらつきのある単電池を用いた場合でも、最も放電終了時容量Qceが小さい単電池Scbの放電終了時容量Qceを大きくできる。
【0082】
また、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池の総電池容量は、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧Vt_maxに調整した場合と比較して、図12−1に示す例では0.6%、図13−1に示す例では2.97%向上している。なお、この結果は、図12−1、図12−2に示す例においては、組電池の端子間電圧を12.6Vから9Vの範囲で使用し、図13−1、図13−2に示す例においては、組電池の端子間電圧を12Vから9.6Vの範囲で使用した結果である。このように、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池は、すべての単電池1をより効率的に利用して、より多くの電力を取り出すことができるといえる。
【0083】
また、標準電圧3.5V、公称の総充放電容量が10Ah±10%の3つの単電池、すなわち、総電池容量が9Ah、10Ah、11Ahの3つのセルを組み合わせて組電池を製造した場合、それぞれの単電池の端子間電圧を上限端子間電圧Vt_maxに調整して組電池を製造した場合は、総電池容量は約7.822Ahとなる。これに対して、本実施形態に係る組電池の製造方法によって組電池を製造した場合は、総電池容量は約8.054Ahとなる。このように、本実施形態に係る組電池の製造方法は、電池容量にばらつきのある単電池を用いた場合でも、より多くの電力を取り出すことが可能な組電池を製造できる。
【0084】
それぞれの単電池Sca、Scb、Sccの端子間電圧Vtを調整する際の誤差が、目標値に対して±50mV存在するとする。本実施形態に係る組電池の製造方法により単電池の端子間電圧Vtを変曲領域における所定の値Vtbに調整して組電池を製造した場合、所定の値の範囲は、Vtb(3.5V)±50mVとなる。図12−1に示す例において、単電池の電圧が所定の値Vtbで100mV(50mV×2)変化した場合、電池容量Qcは、0.025mAh/g(グラムあたりにおける電池容量)である。
【0085】
それぞれの単電池の端子間電圧Vtを上限端子間電圧Vt_maxに調整して組電池を製造した場合、上限端子間電圧の範囲は、Vt_max(4.2V)±50mVとなる。図12−2に示す例において、単電池の電圧が上限端子間電圧Vt_maxで100mV(50mV×2)変化した場合、電池容量Qcは、0.064mAh/g変化する。これらの結果から、本実施形態に係る組電池の製造方法は、端子間電圧Vtに誤差が存在した場合における電池容量の誤差を、それぞれの単電池の端子間電圧Vtを上限端子間電圧Vt_maxに調整する場合と比較して、39%(0.025/0.064×100)に低減できる。
【0086】
図13−1に示す例において、本実施形態に係る組電池の製造方法によると、単電池の電圧が所定の値Vtbで100mV(50mV×2)変化した場合、電池容量Qcは、0.034mAh/g変化する。図13−2に示す例において、それぞれの単電池の端子間電圧Vtを上限端子間電圧Vt_maxに調整すると、単電池の電圧が上限端子間電圧Vt_maxで100mV(50mV×2)変化した場合、電池容量Qcは、0.093mAh/g変化する。これらの結果から、本実施形態に係る組電池の製造方法は、端子間電圧Vtに誤差が存在する場合における電池容量の誤差を、それぞれの単電池の端子間電圧Vtを上限端子間電圧Vt_maxに調整する場合と比較して、37%(0.034/0.093×100)に低減できる。
【0087】
このように、本実施形態に係る組電池の製造方法は、端子間電圧Vtに誤差が存在する場合における電池容量の誤差を低減できるので、図12−1及び図13−1に示すように、単電池Sca、Scb、Sccの放電終了時容量QceのばらつきΔQceを低減できる。その結果、本実施形態に係る組電池の製造方法は、組電池が有する単電池の放電特性にばらつきが存在しても、放電終了時容量QceのばらつきΔQceを抑制できる。このため、本実施形態に係る組電池の製造方法は、充放電特性のばらつきが存在する単電池を組み合わせても、組電池からより多くの電力を取り出すことができる。また、本実施形態に係る組電池の製造方法は、充放電特性のばらつきの大きい単電池を組み合わせても、組電池の性能を確保しやすい。このため、充放電特性のばらつきが大きいため、これまでは組み合わせられなかった単電池の組み合わせも可能になる。また、本実施形態に係る組電池の製造方法は、単電池の充放電特性のばらつきがある程度存在しても、組電池として使用できる。その結果、本実施形態に係る組電池の製造方法は、単電池及び組電池としての歩留まりを改善でき、生産性を向上させることができる。
【0088】
本実施形態において、組電池が有する単電池は、複数の変曲領域を有していてもよい。この場合、単電池から取り出すことのできる電池容量及び安全性等を考慮して、それぞれの単電池の状態(端子間電圧又は電池容量)を、いずれかの変曲領域の状態に合わせる。また、それぞれの単電池が並列に接続されて組電池が製造されてもよい。さらに、正極に複数の活物質材料を含ませて単電池に変曲領域を持たせてもよいし、負極に複数の活物質材料を含ませて単電池に変曲領域を持たせてもよいし、正極及び負極の両方に複数の活物質材料を含ませて単電池に変曲領域を持たせてもよい。
【0089】
また、本実施の形態では、図1に示すように、円筒形状の容器6と、正極3とセパレータ4と負極5とを積層した帯状物を渦巻き状に巻回した電極群2とを有する単電池1を複数組み合わせて組電池100としていたが、単電池1の容器の形状及び電極群の構造はこれに限らない。例えば、正極とセパレータと負極とを平板状に積層させた電極群を、アルミニウムフィルム等でラミネートした構造を有する直方体形状の単電池を複数組み合わせて組電池としてもよい。
【0090】
また、本実施形態に係る組電池の製造方法によって製造された組電池を、さらに複数組み合わせて組電池としてもよい。この場合も、それぞれの組電池において、複数の単電池間における電池容量のばらつきを低減できる。このため、それぞれの組電池においても単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響(特に、組電池の電池容量が、組電池の放電が終了したときにおける電池容量の最も小さい単電池によって制限を受けること)を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明に係る組電池の製造方法及び組電池は、複数の単電池を組み合わせる際に、単電池の充放電特性のばらつきが組電池に与える影響を低減することに有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 単電池
2 電極群
3、101 正極
4 セパレータ
5、102 負極
6 容器
7 電極押さえ
8 蓋
9 安全弁
10 正極端子
11 封止材
12 正極集電リード
13 負極集電リード
100 組電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を組み合わせて組電池とする際に、
それぞれの前記単電池の充電状態を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域における状態に調整する調整手順と、
前記調整後におけるそれぞれの前記単電池を組み合わせて組電池とする組み合わせ手順と、
を含むことを特徴とする組電池の製造方法。
【請求項2】
前記調整手順においては、
それぞれの前記単電池の充電状態を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域において、それぞれの前記充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの状態に調整する
請求項1に記載の組電池の製造方法。
【請求項3】
前記調整手順においては、
それぞれの前記単電池の端子間電圧又は電池容量を、それぞれの前記単電池の充放電特性曲線の変曲領域において、それぞれの前記充放電特性曲線の傾きの絶対値が最大となるときの端子間電圧又は電池容量となるように調整する
請求項1又は2に記載の組電池の製造方法。
【請求項4】
充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、
それぞれの前記単電池の充放電特性曲線は、それぞれの前記変曲領域において所定の範囲内にあることを特徴とする組電池。
【請求項5】
充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、
それぞれの前記単電池の充放電特性曲線を1つに重ねた場合、それぞれの前記単電池の端子間電圧のばらつき又は電池容量のばらつきは、前記変曲領域よりも、充電完了時点又は放電完了時点の方が大きくなることを特徴とする組電池。
【請求項6】
充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、
それぞれの前記単電池は、それぞれの充放電特性曲線の変曲領域における傾きの絶対値が最大となるときにおける端子間電圧又は電池容量が所定の範囲内にある請求項5又は6に記載の組電池。
【請求項7】
充放電特性を示す充放電特性曲線に変曲領域を有する複数の単電池を有し、
それぞれの前記単電池は、それぞれの充放電特性曲線の変曲領域が開始する点又は終了する点において、端子間電圧又は電池容量が所定の範囲内にある請求項5又は6に記載の組電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【公開番号】特開2012−113866(P2012−113866A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260137(P2010−260137)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】