説明

経皮吸収製剤

【課題】 従来の経皮吸収製剤に比較して皮膚刺激性が小さく、十分な量の生理活性物質を含有させることが出来る経皮吸収製剤を提供することにある。
【解決手段】 支持体上に粘着剤組成物層が形成された皮膚貼付剤において、該粘着剤組成物層が(A)末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体および(B)分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物および(C)ヒドロシリル化触媒からなる混合物を硬化してなり、粘着剤組成物層の少なくとも1層が、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない生理活性物質を含有することを特徴とする経皮吸収製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の疾患部の治療乃至循環系や皮膚に薬物を投与するための経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚疾患部のみでなく全身作用を目的とした経皮吸収製剤は、ドラッグデリバリーシステムの概念に基づいて著しい発展がみられ、特に徐放性製剤としての有用性が認められてきている。従来、この種の経皮吸収製剤としては、薬物不透過性の支持体上に薬物と通常この薬物の放出を促進する放出補助物質とを含む粘着性を有するポリマー層を設けたものなどが知られており、身体面に貼り付けることによって身体の疾患部または循環系へ薬物を投与させるものである。
【0003】
この経皮吸収製剤の粘着基剤としては、アクリル系粘着剤を用い、経皮吸収促進剤を加えたり、骨格を変成することが行われているが(特許文献1)、粘着性が低下したり皮膚刺激性が強くなったりといった安全性に問題点がある。一方、シリコーンエラストマーは特に安全性が高く、体内埋込用製剤及び経皮吸収製剤の基剤、その他の各種の製剤用の薬物保持担体として用いられているが、薬剤の溶解性が小さい傾向にあり、また、付加反応硬化型のシリコーン系樹脂においては、添加剤によって、硬化が阻害される問題が知られている(例えば特許文献2、3)。
【特許文献1】特開2004−97730
【特許文献2】特許第3085150号
【特許文献3】特許第3461404号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、これまでの経皮吸収製剤に比較して皮膚刺激性が小さく、かつ十分な量の薬物を含有させることが出来る経皮吸収製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題に鑑み鋭意検討の結果、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は 支持体上に粘着剤組成物層が形成された皮膚貼付剤において、該粘着剤組成物層がシロキサン結合を有するポリエーテル系重合体からなり、粘着剤組成物層の少なくとも1層が、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない生理活性物質を含有することを特徴とする経皮吸収製剤に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の経皮吸収製剤によれば、これまでの経皮吸収製剤に比較して皮膚刺激性が小さく、かつ十分な量の薬物を含有させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明は支持体上に少なくとも一層の粘着剤組成物層が設けられてなる。
【0008】
本発明の経皮吸収製剤に用いる支持体は、硬化前の粘着剤組成物を保持し得るものであれば特に限定はないが、粘着剤組成物中に含有される生理活性物質などが支持体中を通って背面から失われて含有量の低下を起こさないものが好ましい。具体的には、ポリエーテルウレタン等のウレタン系ポリマー、ポリエーテルアミド等のアミド系ポリマー、ポリアクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリエーテルポリエステル等のエステル系ポリマー等が例示される。このうち、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛から選ばれる少なくともひとつの元素を構成元素に含む化合物を放出しないものが、支持体上で粘着剤組成物層の形成阻害を抑制する観点から、好ましく用いられる。支持体は、単層であっても複数の層からなる積層体でもよく、積層体の場合には、各層が同一材料からなるものでも、異なる種類の材料からなるものでもよい。基材の厚みは特に限定されず、目的や用途に応じて適宜選択することができ、10〜5000μmが例示される。
【0009】
基材の上に積層される粘着剤組成物は(A)末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体および(B)分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物および(C)ヒドロシリル化触媒、および必要に応じて(D)有機液状成分からなる混合物を硬化してなる。
【0010】
重合体(A)は、末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体である。アルケニル基とは、ヒドロシリル化反応に対して活性のある炭素−炭素二重結合を含む基であれば特に制限されるものではない。アルケニル基としては、炭素数が好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜6個の脂肪族不飽和炭化水素基(例:ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等)、炭素数が好ましくは3〜20個、より好ましくは3〜6個の環式不飽和炭化水素基(例:シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等)、メタクリル基等が挙げられる。
【0011】
合成反応上、容易に行える点から、好ましいアルケニル基には、以下の(1)、(2)
が挙げられる。下記式において、Rは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。
(1)HC=C(R)−
(2)HC(R)=CH−
重合体(A)は、1分子中に平均して少なくとも1個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個のアルケニル基を有する。重合体(A)1分子中のアルケニル基の数が平均して1個未満では硬化性が不十分になり、また1分子中に含まれるアルケニル基の数が多すぎると網目構造が密になるため、粘着特性が低下する傾向にある。
【0012】
重合体(A)の基本骨格たるポリエーテル系重合体の典型例としては、一般式(−R−O−)で表される繰り返し単位からなるポリオキシアルキレン系重合体が挙げられる。ここで、−R−は、2価のアルキレン基である。粘着特性、皮膚刺激性、皮膚への濡れ性から、好ましい重合体(A)の主鎖はポリオキシプロピレンである(すなわち、上記−R−が−CHCH(CH)−である)。また、入手上、作業性の点からも好ましい。上記ポリエーテル系重合体は、1種類の繰り返し単位からなるものであっても、複数の繰り返し単位からなるものであってもよい。上記ポリエーテル系重合体は、直鎖状の重合体であってもよいし、分岐を有する重合体であってもよい。
【0013】
重合体(A)のアルケニル基以外の部分はすべてポリエーテル骨格からなることが好ましいが、それ以外の構造単位を含んでいてもよい。その場合、重合体(A)に占めるポリエーテル骨格の総和は好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。
【0014】
室温での作業性がよく、良好な粘着特性が得られる点から、重合体(A)の分子量は、数平均で3000〜50000が好ましく、6000〜50000がより好ましく、10000〜30000が特に好ましい。数平均分子量が3000未満のものでは、得られる硬化物が脆くなる傾向があり、逆に数平均分子量が50000を超えると、高粘度になって作業性が低下する傾向にある。上記分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算数平均分子量である。アルケニル基のポリエーテル系重合体への結合様式は特に限定はなく、アルケニル基の直接結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、ウレア結合等が例示される。このうち、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない、アルケニル基の直接結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合が、硬化阻害抑制の観点から好ましく用いられる。
【0015】
重合体(A)の製造方法は特に限定なく、例えば、ポリエーテル系重合体を得た後にアルケニル基を導入する方法が例示される。この場合、ポリエーテル系重合体は種々の公知の製造法を適用することができ、さらに市販のポリエーテル系重合体を用いてもよい。また、ポリエーテル系重合体にアルケニル基を導入する方法もまた公知であり、例えば、アルケニル基を有するモノマー(例:アリルグリシジルエーテル)とポリエーテル系重合体を合成するためのモノマーとを共重合させる方法や、官能基(例:水酸基、アルコキシド基)を所望の部分(主鎖の末端等)に予め導入しておいたポリエーテル系重合体に、当該官能基に対して反応性を有する官能基とアルケニル基とを両方有する化合物(例:アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸クロライド等)を反応させる方法等が挙げられる。ただし、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛から選ばれる少なくともひとつの元素を構成元素に含む化合物の混入しない方法が好ましい。
【0016】
化合物(B)は、分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物である。ヒドロシリル基とはSi−H結合を有する基を意味する。本発明においては、同一ケイ素原子(Si)に水素原子(H)が2個結合している場合は、ヒドロシリル基2個と計算する。化合物(B)の、ヒドロシリル基以外の化学構造は特に限定はない。滴定によって得られるSiH基価から算出される化合物(B)の数平均分子量は、好ましくは400〜3000であり、より好ましくは500〜1000である。数平均分子量が低すぎると加熱硬化時に揮発し易く、十分な硬化物が得られ難い傾向にあり、高すぎると硬化速度が遅くなる傾向にあるためである。
【0017】
化合物(B)一分子に含まれるヒドロシリル基の個数は、1〜10個であり、好ましくは2〜8個である。ヒドロシリル基が2個以上であれば、硬化の際に複数の重合体(A)分子を架橋することができ、経皮吸収製剤として好ましい凝集力を発現し、皮膚へ貼付して剥離した時に糊残り等が起こり難くなる。但し、ヒドロシリル基の数が多すぎると、架橋が密になりすぎて、経皮吸収製剤として皮膚粘着力、タック感等の粘着物性が低下しやすく、さらには化合物(B)の安定性が悪くなり、そのうえ硬化後も多量のヒドロシリル基が硬化物中に残存し、皮膚刺激やボイドの原因となりやすい。なお、架橋の粗密は、重合体(A)の主鎖たるポリエーテル部同士間の粗密に影響し、さらには経皮吸収製剤全体の透湿性にも影響を及ぼす。よって、粘着特性とのバランスを考慮して化合物(B)のヒドロシリル基の数を選択すべきである。また化合物(B)は単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。化合物(B)は、重合体(A)と良好に相溶するものが好ましい。原材料の入手のし易さや、重合体(A)への相溶性の面から、好適な化合物(B)として、有機基で変性されたオルガノハイドロジェンシロキサンが例示される。オルガノハイドロジェンシロキサンの典型例は、下記式(3)で表される化合物である。
【0018】
【化1】

上記式(3)のaの値が分子中のヒドロシリル基の数の数と一致する。a+bの値は特に限定はないが好ましくは2〜50である。Rは主鎖の炭素数が2〜20の炭化水素基である。上記(3)の化合物は、未変性のメチルハイドロジェンシリコーンを変性してRを導入することにより得ることができる。未変性のメチルハイドロジェンシリコーンとは、上記(3)においてRが全てHである化合物に相当し、株式会社シーエムシー発行(1990.1.31)の「シリコーンの市場展望−メーカー戦略と応用展開−」にも記載されているように、各種変性シリコーンの原料として用いられている。Rの導入のための有機化合物としては、α−オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、アリルアルキルエーテル、アリルアルキルエステル、アリルフェニルエーテル、アリルフェニルエステル等が挙げられる。変性のために加える上述の有機化合物の量によって、変性後の分子中のヒドロシリル基の数を調節することができる。
【0019】
粘着剤層を形成するための粘着剤組成物における重合体(A)と化合物(B)の量の比は、重合体(A)に由来するアルケニル基の総量に対する、化合物(B)に由来するヒドロシリル基の総量によって表現される。粘着剤組成物中のアルケニル基の総量1モルあたりのヒドロシリル基の総量の大小によって、硬化後の架橋密度の高低がきまる。適度な粘着性付与と糊残りの減少等とのバランスを考慮すると、アルケニル基の総量1モルあたりのヒドロシリル基の総量は、好ましくは0.1〜5.0モルであり、より好ましくは0.4〜4.0モルである。
【0020】
触媒(C)成分であるヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、ヒドロシリル化反応を促進するものであれば任意のものを使用できる。具体的には、塩化白金酸、白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルジシロキサン錯体や白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン錯体)、白金−オレフィン錯体(例えば、Ptx(ViMe2SiOSiMe2Vi)y、Pt[(MeViSiO)4]z(但し、x、y、zは正の整数を示す))等が例示される。これらのうちでも、触媒の活性の点からは、強酸の共役塩基を配位子として含まない白金錯体触媒が好ましく、白金−ビニルシロキサン錯体がより好ましく、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルジシロキサン錯体または白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン錯体が特に好ましい。
【0021】
触媒(C)の量は特に制限はないが、重合体(A)のアルケニル基の総量1モルに対して、好ましくは5×10−8〜5×10−3モルであり、より好ましくは5×10−6〜5×10−3モルである。上記範囲内であれば、適切な硬化速度、安定な硬化性、必要なポットライフの確保等が達成し易くなる。
【0022】
本発明においては、粘着剤組成物中に成分(D)として、有機液状成分を含有させることができる。液状成分(D)の添加は、皮膚貼付用粘着テープや経皮吸収製剤を皮膚面から剥離する際の痛みや皮膚刺激性の低減や、粘着剤が可塑化されることによる薬物の拡散性向上、皮膚面への薬物の放出性向上等に寄与する場合がある。
【0023】
本発明に用いる液状成分(D)としては、特に限定するものではないが、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛から選ばれる少なくともひとつの元素を構成元素に含む化合物を含有しないものが、粘着剤組成物の形成阻害を抑制する観点から好ましく、また、各成分と相溶性を有し、粘着剤層中に均一に溶解分散できるものが好ましい。
【0024】
このような液状成分(D)としては、
a)エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール
b)オリーブ油、つばき油、大豆油、ひまし油、ラノリンなどの油脂類
c)オレイン酸などの脂肪酸
d)ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレエート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセキスオレエート、などの液状界面活性剤
e)カプロン酸メチル、カプリル酸メチル、カプリン酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ブチル、ラウリン酸イソステアリル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソトリデシル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、セバシン酸ジエチル、カプリル酸グリセリド、ペラルゴン酸グリセリド、カプリン酸グリセリド、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのその他の脂肪酸エステル
f)流動パラフィン、スクワラン、スクワレンなどの炭化水素
g)エタノール、酢酸エチル、イソソルビトール、などの有機溶剤
等が挙げられる。これら有機液状成分は必要に応じて1種類以上を混合して用いることができる。
【0025】
上記有機液状成分のうち、特に好ましい液状成分として、薬物の拡散性に優れることから脂肪酸エステルが挙げられる。
【0026】
これら液状成分(D)の含有量は、重合体(A)の重量1に対して、0.001〜2.0、好ましくは0.001〜1.5である。液状成分(D)の含有量がこの重量比を外れた場合には、実用的な皮膚接着性や低皮膚刺激性を得ることができず、また、薬物の放出性の点でも十分ではない。
【0027】
粘着剤層の形成のための粘着剤組成物には、上記(A)〜(D)の以外の成分を含んでいてもよい。それらの成分としては、粘着剤、粘着付与剤、接着付与剤、化合物(B)のための貯蔵安定剤さらにその他の成分が挙げられる。
【0028】
粘着剤としては、
a)天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)等の天然ゴムまたは合成ゴム
b)シリコンゴム
c)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系共重合体
d)アクリル酸デンプン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、ザンタンガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアノガラクタン、ヒアルロン酸ナトリウムなどの親水性高分子
等が挙げられる。これら、粘着成分は必要に応じて、1種類以上を適宜組み合わせて混合することができる。
【0029】
粘着付与剤、接着付与剤としては、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、キシレンフェノール樹脂、シクロペンタジエン−フェノール樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、フェノール−変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、低分子量ポリスチレン系樹脂、テルペン樹脂などが挙げられる。粘着特性を良好にするためにこれらを用いる場合には、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これら粘着付与剤、接着付与剤を用いる場合の使用量は、重合体(A)と化合物(B)の合計量100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは15〜50重量部である。使用量が多すぎると、粘着剤層の透湿性が低下するので好ましくない。
【0030】
化合物(B)のための貯蔵安定剤として、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物、窒素含有化合物、錫系化合物、有機過酸化物などが例示される。貯蔵安定剤は、化合物(B)におけるヒドロシリル基(Si−H基)のSi−OH基への転化(長時間の放置や湿分の混入に起因する)を抑制し、塗工のポットライフ向上に寄与するものであるが、粘着剤組成物の形成阻害を抑制する観点から、上記貯蔵安定剤のうち、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛から選ばれる少なくともひとつの元素を構成元素に含む化合物を含有しないものが、好ましく用いられる。貯蔵安定剤の配合量は、化合物(B)に起因して粘着剤組成物に含まれるヒドロシリル基の総量1モルに対して、好ましくは10−6〜10−1モルである。
【0031】
粘着剤層を形成するための粘着剤組成物には、粘着剤層の耐水性、耐汗性、吸水性などの向上のための水溶性有機ポリマーや吸水性ポリマーを添加してもよいし、さらにその他可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤などを配合してもよい。このとき有機溶剤は使用しないことが好ましいが、その使用を否定するものではない。
【0032】
本発明の経皮吸収製剤における粘着剤層は、上述した粘着剤組成物を硬化してなるものである。ここで、硬化とは、加熱により重合体(A)と化合物(B)とでヒドロシリル化反応を行わせることをいう。硬化条件としては、40〜180℃で1〜60分間放置することが例示される。硬化をより完全にしたい場合には、さらに40〜80℃にて数日間放置しておいてもよい。
【0033】
硬化の際の粘度は、好ましくは10〜1000Pa・sである。この粘度は(A)〜(C)成分の量の比や上述した化合物(B)のための貯蔵安定剤の種類・量によって制御し得る。
【0034】
本発明における生理活性物質は、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まないことを特徴とする。窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない生理活性物質は、本発明における粘着剤組成物の硬化阻害を起こすことなく、粘着剤層中に安定して分散させうるとともに、該生理活性物質自体が、粘着剤組成物硬化反応中に変性する可能性も小さいことから、好ましい。
【0035】
上記のような生理活性物質としては、例えば、以下の薬物があげられる。
a) 酸性抗炎症薬;サリチル酸系、例えば、アスピリン、ジフルニサール;アリール酢酸系、例えば、アルクロフェナック、フェンクロフェナック;アリールプロピオン酸系、例えば、イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン
b) 高脂血症薬;クロロフィブラート系、例えば、クロロフィブラート、フェナフィブラート、シプロフィブラート、ゲムフィブロジル、シンフィブラート;クロロフィブラート類似体、例えば、クリノフィブラート;HMG−CoA還元酵素阻害薬、例えば、プラバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、シンバスタチン
c) プロスタグランジン関連薬、例えば、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン、ジノプロスト、ミソプロストル、リプロスチル、オルノプロスチル、エンプロスチル、アルバプロスチル、トリモプロスチル
d)ステロイドホルモン;抗炎症ステロイド、例えば、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、フルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、ベタメタゾン、ベクロメタゾン、フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド;黄体ホルモン様物質、例えば、プロゲステロン、ヒドロキシプロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、エチステロン、ノルエチステロン、ノルゲストレル、エチノジオール、アリルエストレノール、ジドロゲステロン、クロルマジノン;卵泡ホルモン様物質、例えば、エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メストラノール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセストロール
e)ビタミン剤、例えば、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK
f)抗酸化剤、例えば、ハイドロキノン、ユビキノール、ユビキノン
等が挙げられる。これらは必要に応じて二種類以上併用することができる。
【0036】
これら薬物を含有する粘着剤組成物層が少なくとも一つ存在すれば複数の粘着層を積層してもよい。
【0037】
支持体への粘着剤層の積層方法は特に限定されず、例えば、支持体の一方の面に上記粘着剤組成物を塗工した後に上述の条件で硬化させる方法や、予め離型剤を施したシート(剥離シート)に上記粘着剤組成物を塗工して硬化した後に支持体を貼りあわせる方法が挙げられる。離型剤としてはシリコーン系、オレフィン系、フッ素系等の各種離型剤が公知であり、適宜使用することができる。中でも、コストや剥離性確保の面からオレフィン系や無溶剤付加硬化型シリコーン系の離型剤が好ましい。
【0038】
粘着剤層の厚さは特に限定なく、例えば10〜5000μmでもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示すことで、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0040】
(重合体Aの合成)
苛性アルカリを用いた重合法により、数平均分子量3000のオキシプロピレン重合体グリコールを得た。特開平5−117521号公報の合成例1の方法に準じ、そのオキシプロピレン重合体グリコールを開始剤として複合金属シアン化物錯体触媒(亜鉛ヘキサシアノコバルテート)を用いてプロピレンオキシドを重合し、数平均分子量28000の重合物を得た。この重合物に対して、ナトリウムメチラートの28%メタノール溶液と塩化アリルを使用して末端をアリル基に変換した後、脱塩精製して、1分子中に概ね2個のアリル基末端を有するポリオキシアルキレン重合体(重合体A)を得た。得られた重合体のアリル末端基量は0.12mmol/gであった。
【0041】
(化合物Bの合成)
下記式(4)で表されるメチルハイドロジェンシリコーン(式中、xは平均5である)に白金触媒存在下、全ヒドロシリル基量の0.6当量のα−メチルスチレンを添加し、1分子中に平均2.5個のヒドロシリル基を有する化合物(化合物B)を得た。この化合物のヒドロシリル基含有量は3.2mmol/gであった。
【0042】
【化2】

(実施例1)
重合体(A)100重量部に対して、化合物(B)を2.3重量部、生理活性物質としてイブプロフェンを5重量部加えて、ヒドロシリル化触媒である白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(3重量%白金イソプロパノール溶液)0.1重量部、マレイン酸ジメチル0.03重量部を十分に混合して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を室温にしてシリコーン剥離処理を施した剥離紙の処理面上に、硬化後の厚みが50μmになるように塗工して、130℃で3分間硬化させて粘着剤層を形成した。次に硬化した粘着剤層の上に、支持体として透湿性ポリウレタンシート((株)シーダム製DSU−214−CDB、30μm)(坪量35g/m2)を120℃で5kg/cm2、速度2m/minの条件にてラミネートした。このようにして、経皮吸収製剤を得ることができた。
【0043】
(比較例1)
重合体(A)100重量部に対して、化合物(B)を2.3重量部、生理活性物質としてリドカインを50重量部加えて、ヒドロシリル化触媒である白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(3重量%白金イソプロパノール溶液)0.1重量部、マレイン酸ジメチル0.03重量部を十分に混合して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を室温にしてシリコーン剥離処理を施した剥離紙の処理面上に、硬化後の厚みが50μmになるように塗工して、130℃で3分間加熱したところ、粘着剤層を形成できず、経皮吸収製剤を得ることができなかった。
【0044】
(比較例2)
アクリル酸2エチルヘキシル65重量部、アクリル酸2−メトキシエチル30重量部、アクリル酸5重量部を共重合させて得られたアクリル共重合体物100重量部をトルエン200重量部中に溶解させて均一な粘着剤溶液を作製した。この溶液にアクリル共重合体100重量部に対してイブプロフェン5重量部になるように混合し、剥離処理を施した剥離シートに乾燥後の厚みが50μmになるように塗工して、110℃、3分の条件で乾燥させたのち、支持体である透湿性ポリウレタンシート(上記実施例のものと同じ)に転写して経皮吸収製剤を得た。
【0045】
(皮膚刺激性)
幅20mmに切断した経皮吸収製剤をボランティアの背中に貼付し、重さ1kgのローラーを1往復させて圧着させた。6時間経過後、経皮吸収製剤を引き剥がして、剥離後の経皮吸収製剤を用いて、角質剥離量の測定を行った。すなわちボランティアの背中から剥離したサンプルを、和光純薬工業(株)製の角質染色液(GentianViolet1%、BrilliantGreen0.5%、蒸留水98.5%)に約30分浸漬して皮膚角質の染色を行った。その後、サンプルを蒸留水で十分に洗浄した後、24時間乾燥させた。乾燥後のサンプルの粘着剤層面を、マイクロスコープを用いて観察し、画像解析を行って、角質剥離面積率を求めた。
【0046】
【表1】

上記結果より、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない薬剤において、これまでの粘着剤に比較して皮膚刺激性が小さく、十分な量の生理活性物質を含有させることが出来る経皮吸収製剤を提供することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に粘着剤組成物層が形成された皮膚貼付剤において、該粘着剤組成物層がシロキサン結合を有するポリエーテル系重合体からなり、粘着剤組成物層の少なくとも1層が、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない生理活性物質を含有することを特徴とする経皮吸収製剤。
【請求項2】
前記粘着剤組成物層が
(A)末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体
(B)分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
からなる混合物を硬化してなることを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
粘着剤組成物層が、さらに、
(D)有機液状成分
を含有する混合物を硬化してなることを特徴とする請求項1〜2に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
粘着剤組成物層を構成する各成分が、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まないことを特徴とする請求項1〜3に記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
重合体(A)のポリエーテル系重合体がポリオキシプロピレンであることを特徴とする請求項1〜4に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
化合物(B)のヒドロキシル基の総量が、重合体(A)のアルケニル基の総量1モルあたり0.4〜4モルであることを特徴とする請求項1〜5に記載の経皮吸収製剤。
【請求項7】
ヒドロシリル化触媒(C)が白金−ビニルシロキサン錯体であることを特徴とする、請求項1〜6に記載の経皮吸収製剤。
【請求項8】
液状成分(D)が脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜7に記載の経皮吸収製剤。
【請求項9】
重合体(A)と液状成分(D)の含有比率が1.0:0.001〜1.0:1.5であることを特徴とする請求項1〜8に記載の経皮吸収製剤。
【請求項10】
支持体上に
(A)末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体
(B)分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
および必要に応じて
(D)有機液状成分
からなる混合物を、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛を構成元素に含まない生理活性物質を含有せしめた後、硬化させることにより粘着剤組成物層を形成することを特徴とする請求項1〜11に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項11】
上記粘着剤組成物層を形成する過程において、窒素、イオウ、リン、スズ、鉛から選ばれる少なくともひとつの元素を構成元素に含む化合物の混入を防止することを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収製剤。

【公開番号】特開2008−195632(P2008−195632A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30361(P2007−30361)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】